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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1346347
審判番号 不服2017-15199  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-12 
確定日 2018-11-15 
事件の表示 特願2012-277594「生体情報検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月19日出願公開、特開2013-252414〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月5日に出願された特願2012-128335号の一部を、同年12月20日に新たに出願したものであって、平成28年5月27日付けで拒絶理由が通知され、同年7月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月28日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月21日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月31日付けで、同年2月21日付けの手続補正について補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定されたところ、同年10月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明(下線は補正箇所を示す。)
本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1は、

「 【請求項1】
被験者の生体情報を検出可能な生体情報検出装置であって、
所定の流体を保持可能な内部空間を有し、被験者の体重を受けて内圧が変動可能な被作用体と、
前記内圧の変動を検知する圧力検知手段と、
前記被作用体内の流体を前記圧力検知手段に流通させるための流通手段と、
前記圧力検知手段によって検知された情報を情報収集装置に出力するためのケーブルが取り付けられるケーブル取付部と、を備え、
前記被作用体は、被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され、
前記圧力検知手段は、前記被作用体が折り曲げ状態においても前記内圧の変動を検知可能であり、
前記ケーブル取付部は、前記ケーブルが取り外し可能に構成される
ことを特徴とする生体情報検出装置。」
と補正された。

本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「被作用体」について、「前記被作用体は、被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され」ているとの構成を付加して、「被作用体」を限定したものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 本願の発明の詳細な説明の記載(下線は当審で付与した。)
本願明細書には、「技術分野」として、
「【0001】
本発明は、被験者の生体情報を検出する生体情報検出装置に関し、特に、被験者からの外的な作用を受けて内圧が変動する被作用体と、内圧の変動を検知する圧力検知手段とを備える生体情報検出装置に関する。

【背景技術】
【0002】
心拍、呼吸、体動などの生体情報(バイタルサイン)を収集する装置として、水などの液体や空気などの気体等からなる流体を保持可能な内部空間を有する被作用体と、被作用体内の圧力の変動を検知する圧力検知手段とを備える生体情報収集装置がある。
【0003】
この生体情報収集装置では、被験者からの外的な作用を受けて変動する被作用体内の圧力を圧力センサなどの圧力検知手段を介して検知することにより、被験者の心拍、呼吸、体動などの生体情報を収集するようになっている。
このような生体情報収集装置では、被作用体は、被験者からの作用を受けやすいように、例えば、横たわった状態にある被験者とベッドなどの寝具との間に配置される
・・・」
と記載され、

「発明が解決しようとする課題」として、
「【0005】
ところが、横たわった状態の被験者は、被作用体に対して常に同じ場所に位置するとは限らず、特に就寝時の生体情報を収集するときには、寝返り等の移動により被験者の位置は変化することから、その結果、圧力検知手段に伝達される信号も変化し、安定したデータ収集が望めなくなる。
特に、従来の生体情報収集装置では、図8に示すように、被作用体に対して被験者が片寄った場所に位置すると、以下のような問題があった。
【0006】
例えば、被作用体を、被験者の寝返り等による移動範囲をカバー可能な大きさに形成し、圧力検知手段を、移動方向に沿った被作用体の端部に配置した場合において、被験者が圧力検知手段側と反対側に位置すると、被作用体の圧力検知手段側における膨張量が増大することにより、生体情報が減衰して圧力検知手段に伝達されることがあった。すなわち、被験者からの作用を受ける部位の違いによって生じる被作用体における膨張量の片寄りが、正確な生体情報の収集を妨げる要因となっていた。
【0008】
本発明は、安定した生体情報が検出可能な生体情報検出装置の提供を目的とする。」
と記載され、

「課題を解決するための手段」として、
「【0009】
上記目的を達成するため、本発明の生体情報検出装置は、被験者の生体情報を検出可能な生体情報検出装置であって、所定の流体を保持可能な内部空間を有し、被験者の体重を受けて内圧が変動可能な被作用体と、前記内圧の変動を検知する圧力検知手段と、前記被作用体内の流体を前記圧力検知手段に流通させるための流通手段と、前記圧力検知手段によって検知された情報を情報収集装置に出力するためのケーブルが取り付けられるケーブル取付部と、備え、前記被作用体は、被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され、前記圧力検知手段は、前記被作用体が折り曲げ状態においても前記内圧の変動を検知可能であり、前記ケーブル取付部は、前記ケーブルが取り外し可能に構成される構成としてある。」
と記載されている。

上記記載のうち、段落【0008】は平成28年7月20日付けの手続補正(この手続補正により、特許請求の範囲のうちの独立請求項である請求項1及び2から、「セル」に関する記載が削除された。)により、段落【0009】は平成29年10月12に付けの手続補正により補正されたものである。(なお、段落【0009】は出願当初から一貫して、請求項1の記載と同じ記載となっている。)さらに、段落【0007】が平成27年5月21日付けの手続補正により削除されている。

また、「実施例」として、
「【0013】
本実施形態の生体情報収集装置1は、横たわった状態にある被験者とベッドなどの寝具との間に配置され、被験者からの外的な作用を受けて内圧が変動する被作用体2と、被作用体内の圧力の変動を検知する圧力検知部3と、圧力検知部3から伝送される生体情報を収集する情報収集部4と、を備え、被験者の心拍、呼吸、体動などの生体情報(バイタルサイン)を収集する装置として構成されており、被験者からの作用を受ける部位の違いによって生じる膨張量の片寄りをなくし、安定的に生体情報が収集することができるようになっている。
【0014】
本実施形態の被作用体2は、例えば、二枚の帯状のフィルム200a,200bの周縁をシール部201として熱融着、接着等により接合し、袋状に形成したものであり、内部に充填された流体、例えば、空気を漏出不能な気密性を備えている。
フィルム200a,200bは、例えば、塩化ビニル、ゴム等からなり、自らの形状を
保持可能な弾性と、被験者からの外的な作用に対する内圧変動に耐え得る強度(耐圧性)を備えている。
また、被作用体2は、正面視においては被験者からの外的作用を受けやすいよう、多くの接触面積を得るために、帯状(長さ約850mm×幅約40mm)に形成されるものの、側面視においては被験者に異物感(違和感)を与えないように扁平(最大厚約10mm)に形成されている。
また、圧力検知部3に隣接する部分(セル21a内)には、被作用体2内の空気を圧力検知部3(圧力センサ31)に流通させる中空状のチューブ202がフィルム200の幅方向中央部より少しずれた位置に設けられている。
このような基本的な構成に加え、被作用体2は、被験者からの作用を受ける部位の違いによって生じる膨張量の片寄りをなくすべく、以下のような特徴的な構成を有している。
【0015】
具体的には、被作用体2は、直線状に連設され、それぞれ空気を保持可能な内部空間を有する複数のセル21a?21eと、隣接するセル同士を連結させる連結部22a?22dと、を備えている。
・・・
【0019】
このようにセル21の連設方向に沿った断面積よりも狭い断面積を有する絞り部222a?222dを設けることで、隣り合うセル21の内部空間同士を直接連結させた場合に比べると、各セル21の膨張が抑制されることになる。
これは、被作用体2内の圧力の上昇に伴い、各セル21と絞り部222はそれぞれ膨らむものの、絞り部222は、セル21よりも狭い断面積を有することからセル21と同じ断面積まで膨らむことはないので、絞り部222(連結部22)と隣接するセル21との境界におけるフィルム200には、絞り部222がセル21の膨張を抑制しようと引っ張る引張力が作用しているからである。これにより、それぞれのセル21の膨張が抑制されるので、被作用体2全体の膨張も抑制されることになる。
・・・
【0021】
また、絞り部222a?222dを設けることで、隣り合うセル21の内部空間同士を直接連結させた場合に比べると、自由な空気の流通が抑制されることになる。
この抑制は、一端部のセル21に作用された外力を、他端部のセル21にダイレクトに伝達させずに、途中のセル21に吸収・分散させるように作用する。これにより、図8に示すように、被験者が被作用体2の片寄った部位、例えば、セル21e付近に位置した場合でも、圧力検知部3側に近づくにつれセル21の膨張量が増大するのではなく、それぞれのセル21a?21dが圧力の上昇を吸収するので、それぞれのセル21a?21dが均等に膨らむことになり、生体情報の減衰を抑えることができる。
なお、各連結部22における絞り部222a?222dの位置は、上述の位置に限定されずに、例えば、図6(a)に示すように、フィルム200の幅方向片側のみに設けることもできるし、図6(b)に示すように、フィルム200の幅方向中央部に設けることもできる。
【0022】
また、被作用体2は、その長さを調整可能とするために、連結部22a?22dを基点に折り曲げることができるように形成されている。
具体的には、連結部22a?22dは、正面視において各セル21と同じ幅を有するものの、図3(a)に示すように、側面視において各セル21よりも細く、くびれて形成されている。
このようなくびれは、フィルム200の幅方向に沿って所定の長さに亘り対向するフィルム200a,200bの内面同士を接合したシール部221a?221dにより実現される。
このように連結部22a?22dを、各セル21よりも細く、くびれて形成することで、被作用体2を、連結部22を基点に隣り合うセル21同士が接触するように折り曲げることができる。
【0023】
具体的には、図5の各図に示すように、連結部22a?22dを基点に折り曲げることで、被作用体2を様々な長さに調整することができる。
例えば、図5(a)に示すように、連結部22dを基点に隣り合うセル21eとセル21dが接触するように折り曲げる(折り畳む)ことで、被作用体2を、セル1つ分短い長さに調整することもできるし、図5(b)に示すように、各連結部22?22dを基点に隣り合うセル21a?21d同士が接触するように折り曲げ、被作用体2全体の長さを、セル1つ分の長さに折り畳むこともできる。
【0024】
このような連結部22を基点とする折り曲げにより、生体情報収集時における被作用体2の長さをベッド、布団等の寝具の幅に合わせることができる。
例えば、比較的幅の狭い寝具で使用するときには、図5(a)に示すように、連結部22dを基点にした折り曲げや、その他の連結部(例えば、連結部22b,22c)を基点にした折り曲げにより、寝具の幅に応じた最適な寸法に合わせることができ、一方これより長い幅の寝具では、図3(a)に示すように、被作用体2を折り曲げることなくそのままの状態で使用することもできる。
また、図5(a)に示すように、一部のセルを折り曲げた状態で、被験者がセル21eとセル21dの上に載っても、少なくともセル21dからの圧力の変動が圧力検知部3に伝達されることになる。また、セル21eとセル21dとの間では絞り部222dによって空気の流通が確保されるため、圧力検知部3に対して最も離れた位置にあるセル21eからの圧力の変動も圧力検知部3に伝達されることになる。さらに、このように連結部22dを基点に折り曲げても、後述のスポンジ23により絞り部222dにおける空気の流通経路が確保されるため、セル21eからの圧力変動が圧力検知部3に確実に伝達されることになる。
【0025】
このように、折り曲げた状態でも、生体情報が圧力検知部3に伝達されることになるため、被作用体2全体の長さを比較的幅の広い寝具(例えば、ダブル、クイーンサイズのベッドなど)に合わせて設定しておくことで、これより幅の狭い寝具に適用することができ、幅の異なる複数の寝具ごとに被作用体2を製造する必要がなくなるので、生産性や在庫管理性がよくなる。また、使用者は長めの被作用体2を備える生体情報収集装置1を購入すれば、これを幅の狭い寝具でも使うことができるので、幅の異なる寝具ごとに生体情報収集装置1を購入する必要がないため、経済的な負担が軽減される。
なお、セルの折り曲げ方向は、図5(a)に示すように、セル21eがセル21dの上方に位置するような折り曲げに限らず、セル21eがセル21dの下方に位置するような折り曲げでも、セル21dから又はセル21eからの圧力の変動が圧力検知部3に伝達されることになる。また、折り曲げ状態での圧力変動の伝達は、連結部22dを基点とした折り曲げ状態に限らず、他の連結部を基点とした折り曲げ状態でも同様に伝達されることになる。
【0026】
また、図5(b)に示すように、すべてのセル21a?21dを折り畳むことで、被作用体2の全長がコンパクトな大きさになり、収納スペースを小さくすることができる。また、持ち運びも容易となる。
なお、被作用体2が連結部22を基点に折り曲げ可能となるのは、連結部22を各セル21よりも細く、くびれて形成したことの作用効果によるものであるが、フィルム200の幅方向に沿って形成されたシール部221a?221dが折り筋として機能することから、各連結部22を基点とする折り曲げがさらに容易化されることになる。
・・・
【0035】
以上のように構成された生体情報収集装置1は、直線状に連設され、それぞれ空気を保持可能な内部空間(212a?212e)を有する複数のセル21a?21eと、隣接するセル同士を連結させる連結部22a?22dと、を備え、各連結部22には、セル21の前記直線方向に沿った断面積よりも狭い断面積を有し、隣り合うセル内の流体が流通可能な絞り部222a?222dが形成されていることから、各絞り部222によりセル21の膨張が抑制され、被験者からの作用を受ける部位の違いによって生じる被作用体2における膨張量の片寄りをなくすことができる。
これにより、各セル21の膨張が均一化されることから、生体情報が減衰することなく圧力センサ31に伝達されるため、情報収集部4において収集される生体情報の精度を向上させることができる。
【0036】
以上説明したように本実施形態の生体情報収集装置1は、被験者からの作用を受ける部位の違いによって生じる被作用体2における膨張量の片寄りをなくし、被作用体2を均一に膨張させることで、安定した生体情報を収集することができる。
また、連結部22a?22dを基点に折り曲げることで被作用体2の長さを調整することができるため、幅の異なる寝具ごとに生体情報収集装置を購入する必要がなくなり、汎用性を高めることができる。
また、各連結部22?22dを基点に隣り合うセル21a?21d同士が接触するように折り曲げ、被作用体2全体の長さを、セル1つ分の長さに折り畳むこともできるので、被作用体2を小さくまとめて収納することができる。
【0037】
以上、本発明の生体情報検出装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明に係る生体情報検出装置は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【0038】
例えば、本実施形態では、外気に連通する連通孔(微細孔)を備え、これにより、空気の排気・吸気を行ったが、被作用体2の内部空間に保持された流体を積極的に排出させ、未使用時のコンパクト化をさらに向上させるために、連通孔に加えて、又は連通孔に代えて、手動により開閉可能な封止栓を備えることができる。例えば、被作用体2の一部に、浮き輪等に備える流体を注入・注出可能に開閉する封止栓を設けることができる。
【0039】
また、本実施形態では、被作用体2の正面視において、セル21と連結部22の幅を同じ幅に形成したが、例えば、図7の各図に示すように、正面視において、各連結部22の幅を各セル21の幅よりも細く、くびれて形成することもできる。これにより、連結部22を基点とした折り曲げもさらに容易となり、また、絞り部222の断面積もセル21の断面積よりも狭く形成することができる。なお、特に図示しないが、被作用体2の正面視のみならず側面視においても、各連結部22の高さ方向の幅を各セル21の高さ方向の幅よりも細く、くびれて形成することもできる。
【0040】
また、図7(a)に示すように、セル21内の内部空間をドーナツ状のドーナツ空間としないこともできるし、図7(b)に示すように、空気を有しない凹部の一例であるシール部211a?211eに代わり、これらに対応する部分に空気を有しない孔213a?213eを形成して内部空間をドーナツ空間とすることもできる。
なお、孔213a?213eの位置は、ほぼ中央部に限らず、セル21内の任意の位置に形成することもできる。これにより、各セル21の内部空間は、ドーナツ空間とならないこともあるが、空気を有しない孔が形成されるため、その分、各セル21の膨張が抑制されることになる。また、各セル21における孔213の数も、一箇所には限らず、二箇所以上設けることもできる。
【0041】
また、本実施形態では、圧力検知部3をセル21aの一側面に取り付けたが、圧力検知部3をセル21a内に内蔵させることもできる。また、チューブ202は、フィルム200の幅方向中央部より少しずれた位置に限らず、幅方向中央部や、フィルム200のいずれかの縁部付近などの片寄った位置に配置することもできる。また、チューブ202を介さずに、被作用体2の内部空間と圧力センサ31を連通させることもできる(例えば、内部空間に圧力センサ31を直接配置など)。
また、チューブ202を、連設されたセル21の一方の端部となるセル21aに接続したが、他のセル21b?セル21eのいずれかに接続し、圧力検知部3内の圧力センサ31と被作用体2の内部空間とを連通させることもできる。この場合、被作用体2の長さ方向中央にあるセル21cに接続することで、被験者の位置ずれによる生体情報の減衰がさらに緩和される。また、接続されるセル21の異なるチューブ202を複数設け、それぞれのチューブ202を介して被作用体2の内部空間と圧力センサ31とを連通させることもできる。」
と記載されている。

3 判断
本願の「実施例」としては、
「被作用体2は、直線状に連設され、それぞれ空気を保持可能な内部空間を有する複数のセル21a?21eと、隣接するセル同士を連結させる連結部22a?22dと、を備え」(段落【0015】)た構成とすることにより、
「隣り合うセル21の内部空間同士を直接連結させた場合に比べると、自由な空気の流通が抑制され」(段落【0021】)、
「被験者が被作用体2の片寄った部位、例えば、セル21e付近に位置した場合でも、圧力検知部3側に近づくにつれセル21の膨張量が増大するのではなく、それぞれのセル21a?21dが圧力の上昇を吸収するので、それぞれのセル21a?21dが均等に膨らむことになり、生体情報の減衰を抑えることができる。」(段落【0021】)
という技術事項や、
「被作用体2は、その長さを調整可能とするために、連結部22a?22dを基点に折り曲げることができるように形成されて」(段落【0022】)いて、
「このような連結部22を基点とする折り曲げにより、生体情報収集時における被作用体2の長さをベッド、布団等の寝具の幅に合わせることができ」(段落【0024】)、
「一部のセルを折り曲げた状態で、被験者がセル21eとセル21dの上に載っても、少なくともセル21dからの圧力の変動が圧力検知部3に伝達されることになる。また、セル21eとセル21dとの間では絞り部222dによって空気の流通が確保されるため、圧力検知部3に対して最も離れた位置にあるセル21eからの圧力の変動も圧力検知部3に伝達されることになる。」(段落【0024】)
という技術事項が記載されている。

また、本願の明細書段落【0005】?【0009】の記載は、上記2で摘記したとおりであり、「セル」に関する記載は存在しないが、本願の出願当初の明細書の段落【0008】?【0009】は、
「【0008】
本発明は、このような従来の生体情報収集装置が有する問題を解決するために提案されたもので、被験者からの作用を受ける部位の違いによって生じる被作用体における膨張量の片寄りをなくし、安定した生体情報が収集可能であり、また、寝具の幅に合わせて被作用体の長さが調整可能であり、さらには未使用時にはコンパクトな大きさに変形可能な生体情報収集装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の生体情報収集装置は、被験者の生体情報を収集する生体情報収集装置であって、所定の流体を保持可能な内部空間を有し、被験者からの外的な作用を受けて内圧が変動する被作用体と、前記内圧の変動を検知する圧力検知手段と、を備え、前記被作用体は、直線状に連設され、それぞれ流体を保持可能な内部空間を有する複数のセルと、隣接するセル同士を連結させる連結部と、を備え、前記連結部は、セルの前記直線方向に沿った断面積よりも狭い断面積を有し、隣り合うセル内の流体が流通可能な絞り部を有する構成としてある。」
であって、目的を達成するための構成として、「前記被作用体は、直線状に連設され、それぞれ流体を保持可能な内部空間を有する複数のセルと、隣接するセル同士を連結させる連結部と、を備え」る構成が挙げられていたことを考慮すると、
本願の明細書には、生体情報収集時における被作用体2の長さをベッド、布団等の寝具の幅に合わせるためには、単に、被作用体は、被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成されるだけでなく、折り曲げて使用する際にも、圧力の変動が圧力検知部3に伝達され、正確に圧力変動が検知できるように、直線状に連接され、それぞれ空気を保持可能な内部空間を有する複数のセル21a?21eと、隣接するセル同士を連結させる連結部22a?22dと、を備えるという技術事項が開示されていると認められる。

すると、上記のような、被作用体が直線状に連接され、それぞれ空気を保持可能な内部空間を有する複数のセル21a?21eと、隣接するセル同士を連結させる連結部22a?22dと、を備える構成を有さない補正発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると認められる。

したがって、補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないので、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 請求人の主張について
請求人の審判請求書における以下の4つの主張について検討する。
4-1 請求人の主張
(1)「平成28年12月28日付け拒絶理由通知書で特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない旨の指摘を受けました請求項1、2を、本書と同時に提出した手続補正書により補正致しました。
具体的には、上記拒絶理由通知書では、請求項1、2の記載について、「本願の明細書には、・・・折り曲げ可能に形成される被作用体」以外の構造が記載も示唆もされておらず、当業者がそれ以外の構造を・・・出願当時の技術常識を参酌しても何ら想定できないから、出願時の技術常識に照らして請求項1、2に係る発明の範囲まで明細書に記載の内容を拡張ないし一般化することはできない」とのご指摘を受けました。
そこで、上述した手続補正書により請求項1、2の記載を補正し、上記指摘を受けた「被作用体」が、「被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され」ることを明確化致しました。
・・・
なお、上記補正は、補正前の請求項1、2に係る「被作用体」を具体的に下位概念に限定するものであり、特許法第17条の2第5項第2号に規定する請求項の限定的減縮を目的とするもので、同項の規定に違反するものではありません。
また、請求項3、4については削除致しました。
上記補正により、本願の特許法第36条第6項第1号の規定に係る拒絶理由(サポート要件)は解消したものと思料致します。」

(2)「技術常識の観点について
次に、一般的に内部空間内に流体を保持する物体が折り曲げられた状態で圧力がかかれば、内部の流体がその圧力から逃れるために内部空間内に分散するのは技術常識であると考えます。
また、本願発明にとっての必須要件は、被験者の生体情報を検知するために、上記折り曲げられた状態の物体の内部空間において流体が変形することにより発生する圧力を検知することにあります。
本願の明細書では、その一例として、「それぞれ流体を保持可能な内部空間を有する複数のセルと、隣接するセル同士を連結させる連結部とを有し、連結部は、セルの断面積よりも狭い断面積で形成される絞り部を有し、連結部を基点に隣り合うセル同士が接触可能に折り曲げ可能に形成される被作用体」という構成を記載しております。
しかしながら、上記のような技術常識と本願発明の必須要件を併せ考えると、本願の明細書に開示した一例である構成と同一の構成でない限り、内部空間において流体が変形することにより発生する圧力を検知できない訳ではありません。
具体的には、「複数のセル」があり、セル同士を連結させる「連結部」があり、セルの断面積よりも狭い断面積で形成される「絞り部」があるという構成でない限り、折り曲げた状態の内部空間において流体が変形することにより発生する圧力を検知できない、というものではなく、また、それ以外の構成が「何ら想定できない」とも考えられません。」

(3)「課題効果の観点について
・・・
すなわち、本願明細書では、製造者にとっての生産性や在庫管理性等の向上、使用者にとっての経済的な負担等の軽減が可能な被作用体の一例として、「それぞれ流体を保持可能な内部空間を有する複数のセルと、隣接するセル同士を連結させる連結部とを有し、連結部は、セルの断面積よりも狭い断面積で形成される絞り部を有し、連結部を基点に隣り合うセル同士が接触可能に折り曲げ可能に形成される被作用体」を開示しておりますが、この構造でないと上記課題を解決できず、また、上記効果を奏しないものではありません。
そして、「流体を保持可能な内部空間を有し、被験者の体重を受けて内圧が変動可能な被作用体」を「折り曲げ可能」に構成すれば、上記課題は解決可能であり、また、上記効果を奏することが可能となります。
この点を明確にするために、上記のとおり、「被作用体」が「被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され」ることを新たな構成として追加しております。
したがって、本願発明の課題効果の観点からも、上記補正後の請求項1に係る発明は、本願の出願当初明細書に開示されている発明であると思料致します。」

(4)「明細書・請求項の記載方法の観点について
・・・
本願の場合には、出願当初の明細書において、「流体を保持可能な内部空間を有し、被験者の体重を受けて内圧が変動可能な被作用体」が「折り曲げた状態においても検知可能」であることは明示的に記載されています。
したがいまして、このような出願当初の明細書の記載に基づいて、請求項に「被作用体が折り曲げた状態においても内圧の変動を検知可能である」ことを記載することはできるはずであり、原査定が認定するような、「それぞれ流体を保持可能な内部空間を有する複数のセルと、隣接するセル同士を連結させる連結部とを有し、連結部は、セルの断面積よりも狭い断面積で形成される絞り部を有し、連結部を基点に隣り合うセル同士が接触可能に折り曲げ可能に形成される被作用体」という構成のみに限定しなければならない理由はないと考えます。
また、上述のとおり、請求項1の記載については、「被作用体」が「被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され」ることが明確となるように補正しております。
この点からも、上記補正後の請求項1、2の記載は、本願の出願当初明細書に開示されている内容を拡張ないし一般化するものではなく、原査定で認定されたサポート要件の拒絶理由には該当しないものであると思料致します。」

4-2 上記4-1(1)?(4)の請求人の主張について
(1)請求人は「「被作用体」が、「被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され」ることを明確化」することにより、平成28年12月28日付けの拒絶理由が解消できる旨、主張するが、この拒絶理由は、
「本願の明細書には、圧力検知手段が、被作用体が折り曲げ状態においても内圧の変動を検知可能である構造として、「それぞれ流体を保持可能な内部空間を有する複数のセルと、隣接するセル同士を連結させる連結部とを有し、連結部は、セルの断面積よりも狭い断面積で形成される絞り部を有し、連結部を基点に隣り合うセル同士が接触可能に折り曲げ可能に形成される被作用体」以外の構造が記載も示唆もされておらず、当業者がそれ以外の構造を「流体を保持可能な内部空間を有し、被験者の体重を受けて内圧が変動可能な作用体を使用した生体情報検出装置」の出願当時の技術常識を参酌しても何ら想定できないから、・・・」というものであるから、「「被作用体」が、「被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され」ることを明確化」しても、折り曲げた状態で内圧変動が検知できる構造は特定されないから、上記拒絶の理由が解消するものではない。

(2)請求人は、「被作用体」が、「被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され」ることにより、内圧変動が検知できることが十分に想定できる構成である旨、主張する。
しかし、例えば、被作用体を、ベッドの幅に合わせるために,途中で折り曲げられた状態で,被験者が折り曲げ箇所の外側部分に載ることが想定されるところ、被作用体が、直線状に連設され、それぞれ空気を保持可能な内部空間を有する複数のセル21a?21eと、隣接するセル同士を連結させる連結部22a?22dと、を備える構成において、連設部で折り曲げると、絞り部で空気の流通が確保されて、折り曲げ箇所の外側部分の圧力変動も検知できる(本願の明細書段落【0024】参照)ということを考慮すると、単に、「被作用体」が、「被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され」るだけでは、上記作用が得られないことは明らかである。
また、請求人は、上記のような作用を得るための構造として,実施例以外の構成が「何ら想定できない」とは考えられないと主張する。
しかし、請求人は、本願の明細書及び図面の記載から、実施例以外の構成が想定できることの根拠や理由を全く示しておらず、該主張は到底採用できるものではない。

(3)請求人は、課題として、「製造者にとっての生産性や在庫管理性等の向上、使用者にとっての経済的な負担等の軽減」を主張している。
しかし、本願明細書段落【0005】?【0008】(平成27年5月21日付の手続補正により削除された段落【0007】、平成28年7月20日付の手続補正による補正前の段落【0008】の記載も参照)から、発明の課題は、安定した生体情報の収集を可能とすること、また、寝具の幅に応じて長さを調整できることを課題としていると認められるから、請求人の上記主張は採用しない。

(4)請求人の「出願当初の明細書において、「流体を保持可能な内部空間を有し、被験者の体重を受けて内圧が変動可能な被作用体」が「折り曲げた状態においても検知可能」であることは明示的に記載されています。」との主張の根拠は明らかでないが、本願の課題及びその解決手段は、既に説示しているとおりであって、採用し得るものではない。

5 まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成28年7月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されたものであって、その請求項1に係る発明は、次のとおりであると認める。
「 【請求項1】
被験者の生体情報を検出可能な生体情報検出装置であって、
所定の流体を保持可能な内部空間を有し、被験者の体重を受けて内圧が変動可能な被作用体と、
前記内圧の変動を検知する圧力検知手段と、
前記被作用体内の流体を前記圧力検知手段に流通させるための流通手段と、
前記圧力検知手段によって検知された情報を情報収集装置に出力するためのケーブルが取り付けられるケーブル取付部と、を備え、
前記被作用体は、被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され、
前記圧力検知手段は、前記被作用体が折り曲げ状態においても前記内圧の変動を検知可能であり、
前記ケーブル取付部は、前記ケーブルが取り外し可能に構成される
ことを特徴とする生体情報検出装置。」(以下、「本願発明」という。)

2 原査定における拒絶の理由
(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

・請求項 1、2
本願の明細書には、圧力検知手段が、被作用体が折り曲げ状態においても内圧の変動を検知可能である構造として、「それぞれ流体を保持可能な内部空間を有する複数のセルと、隣接するセル同士を連結させる連結部とを有し、連結部は、セルの断面積よりも狭い断面積で形成される絞り部を有し、連結部を基点に隣り合うセル同士が接触可能に折り曲げ可能に形成される被作用体」以外の構造が記載も示唆もされておらず、当業者がそれ以外の構造を「流体を保持可能な内部空間を有し、被験者の体重を受けて内圧が変動可能な作用体を使用した生体情報検出装置」の出願当時の技術常識を参酌しても何ら想定できないから、出願時の技術常識に照らして請求項1、2に係る発明の範囲まで明細書に記載の内容を拡張ないし一般化することができない。

3 当審の判断
補正発明は、本願発明の「被作用体」について、「前記被作用体は、被験者が使用する寝具の幅に対応させるために所定部位で折り曲げ可能に構成され」ているとの構成を付加して、「被作用体」を限定したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含む補正発明が、上記「第2[理由] 3」において検討したとおり、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない以上、本願発明も、同様の理由により、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないので、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-06 
結審通知日 2018-09-11 
審決日 2018-09-27 
出願番号 特願2012-277594(P2012-277594)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 537- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 湯本 照基  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 信田 昌男
▲高▼見 重雄
発明の名称 生体情報検出装置  
代理人 特許業務法人平和国際特許事務所  

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