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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C12N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C12N
管理番号 1346410
審判番号 不服2017-494  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-13 
確定日 2018-12-11 
事件の表示 特願2015- 25334「生物繊維膜及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月18日出願公開、特開2016-146778、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成27年2月12日の出願であって、平成28年8月29日付けで拒絶査定され、平成29年1月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成30年1月17日付けで当審より拒絶理由が通知され、それに対して平成30年6月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年7月12日付けで当審より拒絶理由が通知され、それに対して平成30年10月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1?6に係る発明は、平成30年10月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
重量部割合で5:1:1?4:1:1のマンニトール、ペプトン、酵母エキストラクトを有し、寒天を含有し、pH値が0.5?6である培養液の中で、グルコンアセトバクター属の菌を24?96時間培養することにより形成される生物繊維膜であって、
対向する第一の表層及び第二の表層と、
前記第一の表層と前記第二の表層の間に結合し、密度が前記第一の表層及び前記第二の表層の密度より小さい立体網状構造と、
を含み、
前記立体網状構造は、骨幹繊維及び層間繊維を有し、
前記骨幹繊維は、複数で存在して、互いに平行し、
前記層間繊維は、複数で存在して、隣接する任意の二つの前記骨幹繊維に織り合わされ、
前記骨幹繊維の直径は前記層間繊維の直径以上であり、
前記生物繊維膜の厚さは、24?26μmであり、
前記生物繊維膜の生物繊維の直径は、20?100nmであり、
前記生物繊維膜の単位面積ごとの含水量は、0.06?0.14g/cm^(2)であり、
前記生物繊維膜の単位面積ごとの生物繊維量は0.005?0.008g/cm^(2)である
生物繊維膜。
【請求項2】
前記立体網状構造は、複数の生物繊維からなる請求項1に記載の生物繊維膜。
【請求項3】
前記骨幹繊維は、前記生物繊維膜の長さ方向または幅方向に伸びる請求項1に記載の生物繊維膜。
【請求項4】
活性成分または薬物をさらに含む請求項1に記載の生物繊維膜。
【請求項5】
前記活性成分は、保湿剤、美白成分、しわ防止成分、角質除去成分、成長因子または酵素である請求項4に記載の生物繊維膜。
【請求項6】
重量部割合で5:1:1?4:1:1のマンニトール、ペプトン及び酵母エキストラクトを有し、寒天を含有し、pH値が0.5?6である培養液を収容する容器を提供する工程と、
前記培養液で、グルコンアセトバクター属の菌を、24?96時間培養する工程と、
を含む、
請求項1?5のいずれかに記載の生物繊維膜の製造方法。」


第2 当審の拒絶理由の概要
1 当審が、平成30年1月17日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。
[理由1]この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(1)本願明細書の発明の詳細な説明、図面及び出願時の技術常識を参酌しても、請求項1に係る発明の生物繊維膜の構造やその意図する範囲を理解、特定できないから、請求項1及び同項を引用する請求項2?11に係る発明は、明確ではない。
(2)請求項1に係る発明は、「生物繊維膜」という物の発明であるが、当該請求項には、物の製造方法が記載されている。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である。
しかし、請求項1では、既に「対向する第一の表層及び第二の表層と、前記第一の表層と前記第二の表層の間に結合し、密度が該前記第一の表層及び前記第二の表層の密度より小さい立体網状構造と、を含み、・・・単位面積ごとの生物繊維量は0.005?0.008g/cm^(2)である」という発明特定事項(以下、「構造特定事項」という。)で生物繊維膜の構造が特定されているから、生物繊維膜を、その構造又は特性により直接特定することに不可能・非実際的事情が存在したとは認められない。
したがって、請求項1に係る発明及び同項を引用する請求項2?9に係る発明は明確ではない。
(3)本願明細書の記載をみても、「マンニトール、ペプトン、酵母エキストラクト及び寒天」を培養液とした場合と、既存のバクテリアセルロースの製法で採用されている「マンニトール、ペプトン及び酵母エキストラクト」を培養液とした場合とで、生物繊維膜の構造等に如何なる差異が生じるのか理解できないから、請求項1に係る発明及び同項を引用する請求項2?9に係る発明は明確ではない。

[理由2]この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由3]この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(1)請求項1?9に係る発明(本願発明1?9)について
本願発明1?9の生物繊維膜と引例1?6に記載された既存の生物繊維膜とが、その構造や性質等において差異を有するものとは認められない。
また、本願発明1?9の生物繊維膜と引例1?6に記載された既存の生物繊維膜が、差異を有するものであったとしても、培養条件を最適化して本件発明1?9に記載される生物繊維膜に至ることは、当業者が容易になし得たものである。
(2)請求項10?11に係る発明(本願発明10?11)について
本願発明10?11は、引例1?6に記載されたバクテリアセルロースの製造方法において、引例2?5に記載された実験条件を選択することで当業者が容易に想到し得るものであり、本願明細書を参照しても、本願発明10?11に記載された条件の組合せにより、当業者の期待、予測を超える効果を奏したとは認められない。

<引用文献等一覧>
引例1 独立行政法人農畜産業振興機構,「酢酸菌によるセルロース合成
と発酵ナノセルロース(NFBC)の大量生産」, 2014年4月10日,
[検索日:2016年1月8日],
URL,http://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000907.html
引例2 特開2014-187901号公報
引例3 特許第2641428号公報
引例4 特開昭59-120159号公報
引例5 特開平11-117120号公報
引例6 特公平6-43443号公報

2 当審が平成30年7月12日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。
[理由1]この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
[理由2]この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
(1)発明の詳細な説明の記載からみて、当業者は、請求項1に記載の構造及び性質を有する生物繊維膜を形成するための培養条件として、マンニトール、ペプトン及び酵母エキストラクトの培養液中での重量部割合が5:1:1?4:1:1であること、培養液のpH値が0.5?6であること、及び培養時間が24?96時間であることを要すると理解するといえる。一方、請求項1に係る発明には、上記培養条件とは異なる培養条件により形成される生物繊維膜も包含されているところ、技術常識をも考慮すれば、このような生物繊維膜が、請求項1に記載の構造及び性質を有するものであると、発明の詳細な説明の記載から当業者が理解することはできない。したがって、請求項1に係る発明には、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない発明が包含されていることになる。よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
また、上記培養条件とは異なる培養条件により形成される生物繊維膜であって、請求項1に記載の構造及び性質を有するものを得ることができるよう、他の培養条件などを決定することは当業者の過度の負担を伴うにもかかわらず、発明の詳細な説明には、培養条件などを効率的に決定する手法等は記載も示唆もされてないから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
請求項2?11についても同様である。

[理由3]この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項3の「前記骨幹繊維及び前記層間繊維はいずれも生物繊維である請求項1に記載の生物繊維膜」との記載は、請求項1に係る発明の何を特定しようとしているのか不明なものであり、請求項3に係る発明を不明確なもとしている。
(2)請求項7は、請求項1において既に「生物繊維膜の厚さは、24?26μmであ」ると特定されているものを「少なくとも20μmである」と特定しており、意味不明である。また、請求項8についても同様である。よって、請求項7及び8に係る発明は明確でない。
(3)請求項1において「生物繊維膜の生物繊維の直径は、20?100nmであ」ると特定されており、請求項2も請求項1を引用するものであることから同様の特定がなされているといえるところ、請求項9の「前記生物繊維の直径は20?100nmである請求項2に記載の生物繊維膜」との記載は、請求項2に係る発明の何を特定しようとしているのか不明なものであり、請求項9に係る発明を不明確なもとしている。
(4)請求項10は、請求項1?9に記載の生物繊維膜の製造方法に係るものであるところ、請求項1?9において、炭素源は既に「マンニトール」と特定されている。それにもかかわらず、請求項10では、炭素源を「炭素源」とのみ特定しており意味不明である。よって、請求項10に係る発明は明確でない。請求項10を引用する請求項11についても同様である。


第3 当審の判断
1 前記1に示した当審の拒絶理由のうち、[理由1]の(1)及び(3)、[理由2]及び[理由3]の(1)及び(2)の拒絶理由、並びに前記2に示した当審の拒絶理由は、平成30年10月5日付け手続補正書による補正によって解消した。
そこで、前記1に示した当審の拒絶理由のうち、[理由1]の(2)の理由について、以下で検討する。

2 請求項1は、「生物繊維膜」という物の発明であるが、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)、とされていることから、請求項1に係る発明が上記事情に該当するものであるかについて、以下検討する。
請求人は、平成30年6月25日付け意見書において、本願発明は、グルコンアセトバクター属の菌によって形成される生物繊維膜といういわゆる天然物に関するものであり、この生物繊維膜が第一の表層と第二の表層を有すること、この両層の間に立体網状構造が結合していること、この立体網状構造が骨幹繊維及び層間繊維を有することなどが特定され、また、これらについて、例えば「生物繊維膜の厚さは、24?26μmであり」などと、解明された特徴によって特定してはいるものの、この生物繊維膜の有する第一の表層と第二の表層は、グルコンアセトバクター属の菌によって形成されるものであり、本願出願時においても、その具体的なメカニズムや形成過程は解明されていなかったため、生物繊維膜の構造は電子顕微鏡によって観察するしかなく、本願発明の生物繊維膜を、その構造又は特性によって直接特定することには「不可能・非実際的事情」が存在すると主張する。
そこで、上記主張について検討する。請求項1に係る発明の生物繊維膜は、グルコンアセトバクター属の菌を培養することにより形成されるものである。そして、このような菌を培養することにより形成される物の構造や特性は、形成に用いる菌の種類や培養条件により変化するものであることが本願出願時の当業者の技術常識である。また、本願出願時、グルコンアセトバクター属の菌が生物繊維膜を形成する過程のメカニズムが解明されていたわけでもない。
そうすると、請求項1に係る発明の生物繊維膜の構造や特性は、当該生物繊維膜の形成過程のメカニズムから特定することが可能であるとはいえず、実際に電子顕微鏡による観察や種々の測定を行うことにより特定する必要があるといえる。しかし、これらの特定を実際に行うためには膨大な時間及び労力を要すると認められる。
したがって、請求項1に係る発明の生物繊維膜を、その構造や特性のみで特定するためにそのような膨大な時間及び労力をかけることは「非実際的」であるといえ、また、そのために出願時期が遅くなることは、先願主義の見地からも「非実際的」であるといえる。
以上からみて、請求項1の記載は、本願出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することに「不可能・非実際的事情」が存在するときに該当すると認められ、したがって、請求項1は特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するというべきである。
また、同様の理由から、請求項2?5も「発明が明確であること」という要件に適合するというべきである。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号の要件に適合すると認められる。

3 小括
以上のとおり、本願は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしており、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、本願については、当審が通知した拒絶理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2015-25334(P2015-25334)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (C12N)
P 1 8・ 536- WY (C12N)
P 1 8・ 113- WY (C12N)
P 1 8・ 121- WY (C12N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 福間 信子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
小暮 道明
発明の名称 生物繊維膜及びその製造方法  
代理人 特許業務法人 津国  

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