• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F25B
管理番号 1346467
審判番号 不服2018-4790  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-09 
確定日 2018-12-11 
事件の表示 特願2016-507384号「冷凍サイクル装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月17日国際公開、WO2015/136979号、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年1月16日(優先権主張2014年3月14日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月22日に上申書及び手続補正書が提出され、平成29年6月13日付けで拒絶理由の通知がされ、平成29年8月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年1月5日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成30年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成30年8月17日に上申書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願の請求項1及び2に係る発明は、以下の引用文献1、2及び9に記載された発明並びに引用文献11ないし15に記載されるような周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.本願の請求項3に係る発明は、以下の引用文献1、2、9及び16に記載された発明並びに引用文献11ないし15に記載されるような周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.本願の請求項4及び5に係る発明は、以下の引用文献1、2、9、10及び16に記載された発明並びに引用文献11ないし15に記載されるような周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.本願の請求項6ないし8に係る発明は、以下の引用文献1ないし4、9、10及び16に記載された発明並びに引用文献11ないし15に記載されるような周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.本願の請求項9ないし11に係る発明は、以下の引用文献1ないし6、9、10及び16に記載された発明並びに引用文献7及び8、11ないし15に記載されるような周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献一覧;各引用文献は本願の優先日前に頒布された刊行物である。>
引用文献1:国際公開第2009/157320号
引用文献2:国際公開第2012/157764号
引用文献3:特開2006-144622号公報
引用文献4:特開2013-29059号公報
引用文献5:特開2002-243285号公報
引用文献6:実公平4-40130号公報
引用文献7:特開平6-323647号公報(周知技術を示す文献)
引用文献8:特開昭55-119994号公報(周知技術を示す文献)
引用文献9:特公平4-54865号公報
引用文献10:特開平10-253174号公報
引用文献11:特開2003-328939号公報(周知技術を示す文献)
引用文献12:特開昭64-66480号公報(周知技術を示す文献)
引用文献13:特公昭63-22608号公報(周知技術を示す文献)
引用文献14:特公昭50-18584号公報(周知技術を示す文献)
引用文献15:実願昭48-139605号(実開昭50-82630号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
引用文献16:特開平2-171554号公報

第3 審判請求時の補正について
平成30年4月9日提出の手続補正書による補正(以下、「審判請求時の補正」という。)は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、補正前の請求項1、2及び5は削除され、補正前の請求項3、4及び6ないし11は、補正後の請求項1ないし8に繰り上げられることから、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当し、新規事項を追加するものとはいえない。

第4 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ順に「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、審判請求時の補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
圧縮機と、第1熱交換器と、膨張機構と、第2熱交換器とが接続され、1,1,2-トリフルオロエチレンを含有し高圧になるほど不均化反応の連鎖反応が起きやすい冷媒が循環する冷媒回路と、
前記冷媒の不均化反応の連鎖反応によって爆発が発生しないように、前記冷媒回路の前記圧縮機から前記膨張機構までの流路における前記冷媒の圧力が4MPa以上5MPa以下の第1値に達すると、前記圧縮機の電動要素の回転数を下げ、前記冷媒回路の前記圧縮機から前記膨張機構までの流路における前記冷媒の圧力が5MPa以上6MPa以下で前記第1値よりも高い第3値に達すると、前記圧縮機の電動要素への給電を停止する制御機構と
を備える冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記制御機構は、前記圧縮機の容器の外に前記冷媒を排出するためのリリーフバルブを前記圧縮機に具備し、前記冷媒回路の前記圧縮機から前記膨張機構までの流路における前記冷媒の圧力が5.5MPa以上6.5MPa以下で前記第3値よりも高い第4値に達すると、前記リリーフバルブを開く請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記制御機構は、前記圧縮機の圧縮要素により圧縮される前と後の前記冷媒の圧力差が第2値に達すると、前記圧縮機の圧縮要素をバイパスするための前記冷媒の流路を開くバイパス弁を前記圧縮機に具備する請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記圧縮機の圧縮要素は、前記冷媒回路から内部のシリンダ室に前記冷媒を吸入し、前記シリンダ室で前記冷媒を圧縮するシリンダと、前記シリンダにより圧縮された前記冷媒を前記圧縮機の容器内の空間へ吐出する吐出マフラとを備え、
前記バイパス弁は、前記圧縮機の圧縮要素により圧縮される前と後の前記冷媒の圧力差が前記第2値に達すると、前記シリンダで前記シリンダ室に前記冷媒が吸入される経路と前記吐出マフラとを連通させる請求項3に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記第2値が3.5MPa以上4.5MPa以下の値である請求項3又は4に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記制御機構は、前記冷媒回路に接続され、前記圧縮機により圧縮される前と後の前記冷媒の圧力差が3.5MPa以上4.5MPa以下の第2値に達すると、前記圧縮機をバイパスするための前記冷媒の流路を開くバイパス弁を具備する請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記冷媒が1,1,2-トリフルオロエチレンである請求項1から6のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項8】
前記冷媒が1,1,2-トリフルオロエチレンを1%以上含有する混合物である請求項1から6のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

1a)「従来の冷凍サイクル装置では、化学的に安定な物質を冷媒として使用していたため、使用中に冷媒中の物質が分解(以下、冷媒が分解という)等し、冷媒として機能しなくなることを気にする必要がなかった。しかし、上述したような二重結合を有する冷媒は、化学的には不安定な冷媒であるため、通常の使用方法では、冷媒が分解、劣化してしまう可能性が高い。例えば、混合冷媒の場合でも、他の冷媒に分解、劣化させられる又はさせるなどして混合冷媒全体として機能しなくなり、その結果、冷凍サイクル装置が正常に使用できなくなる可能性がある。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、二重結合を有する冷媒のように、化学的に不安定な物質を含む冷媒を冷凍回路内を循環させる冷媒として使用する場合でも、冷媒の分解を防ぎ、正常な運転を長期間維持することができる冷凍サイクル装置等を得ることを目的とする。
課題を解決するための手段
この発明に係る冷凍サイクル装置は、二重結合を有する物質を含む冷媒を圧縮する圧縮機と、熱交換により冷媒を凝縮させる凝縮器と、凝縮された冷媒を減圧させるための膨張手段と、減圧された冷媒を熱交換により蒸発させる蒸発器とを配管接続して冷媒を循環させる冷媒回路を構成し、冷媒回路内の冷媒の圧力の値が、二重結合を有する物質の臨界圧力未満となるように、冷媒回路の動作を制御する制御手段を備える。
発明の効果
この発明の冷凍サイクル装置によれば、二重結合を有する物質を含む冷媒を循環させる冷媒回路を構成する場合に、制御手段が、冷媒回路内の冷媒の圧力の値が、二重結合を有する物質の臨界圧力未満となるように、冷媒回路の動作を制御するようにしたので、化学的に不安定な二重結合を有する物質を含む冷媒において、二重結合を有する物質が臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質自身が分解したり、また、他の物質が臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質を攻撃したりすることで冷媒として機能しなくなるのを効果的に抑制することができる。・・・」(段落[0006]ないし[0009])

1b)「実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る冷凍サイクル装置の構成を示す図である。図1において、冷凍サイクル装置は、圧縮機21、凝縮器22、凝縮器用ファン31、膨張手段23、蒸発器24、蒸発器用ファン32及び圧力検出手段41を有している。そして、圧縮機21、凝縮器22、膨張手段23及び蒸発器24を配管で接続することにより冷媒回路を構成している。ここで本実施の形態では、冷媒回路内において熱を搬送する媒体となる冷媒として、原子間の結合において二重結合を有する物質を含む冷媒を少なくとも1種類混合した混合冷媒を封入する。冷媒については後述する。」(段落[0011])

1c)「ここで、二重結合を有する物質は化学的に不安定な性質を有しており、このような物質からなる冷媒は、例えば大気中においては、光やオゾンなどの影響により、分解されやすい性質がある。そのため、地球温暖化ガスとして長期間存在することがないため、温暖化への影響も小さく、これらは地球温暖化係数が比較的小さい値となる。また、大気中だけでなく、二重結合を有する物質からなる冷媒の単一冷媒又は二重結合を有する物質からなる冷媒を含む混合冷媒(二重結合を有する冷媒)を冷媒回路内を循環させる冷媒(作動流体)として用いるために封入した場合でも、冷媒回路内で二重結合が分解され、冷媒として機能しなくなる危険性を含んでいる。
図3はCF_(3)CF=CH_(2)の分解等の例を表す図である。ここで、二重結合の分解について、CF_(3)CF=CH_(2)の分解を例に説明する。例えばCF_(3)CF=CH_(2)は図3に示すような化学変化を起こす。CF_(3)CF=CH_(2)の分子同士が重合して分子量の大きいCF_(3)CFCH_(2)(CF_(3)CFCH_(2))nHという形の高分子化合物となることがある。この高分子化合物は、冷媒回路内においてスラッジとなって冷媒と共に循環し、例えば流路が狭くなる膨張手段等において弁詰まりなどの原因となる。また、冷媒回路中に水が存在すると、CF_(3)CFCOHCH_(3)の形の酸性を示すアルコールとなり、スラッジとなる場合もある。冷媒回路中の水分については、通常、例えばドライヤ(図示せず)等で吸着させて除去する。さらに、CH_(3)CFHC=OOH の形の酸となって性質が変わってしまい、冷媒としての機能を果たさなくなることもある。
そのため、二重結合を有する冷媒を冷媒回路内を循環させる冷媒(作動流体)として用いる場合は、空気や光やその他、冷媒の分解を促進させる原因を極力排除した状態で使用しなければならないことになる。
ここで、混合冷媒について説明する。混合冷媒は、構成している冷媒毎に熱に関する性質が異なっており、それぞれ異なる冷凍サイクル(P-h線図)となり、それぞれ臨界点も異なる。冷媒回路を循環する冷媒(作動流体)として混合冷媒を使用する冷凍サイクル装置においては、それぞれの冷媒が凝縮、蒸発を繰り返して冷媒回路内を循環している。ここでは、混合冷媒を構成する各冷媒のうち、臨界点の最も低い冷媒の臨界圧力を最低臨界圧と称するものとする。
冷媒の臨界圧力は、例えば、HFC-32が5.78MPa、HFC-125が3.616MPa、HFC-134aが4.048MPa、CF_(3)CF=CH_(2)が約3.3MPaとなる。したがって、HFC-32、HFC-125及びCF_(3)CF=CH_(2)の各冷媒を混合させた場合は、CF_(3)CF=CH_(2)の臨界圧力が最も小さく、CF_(3)CF=CH_(2)自身が最初に超臨界状態となる。
ここで、混合冷媒を循環させる冷媒回路において、冷媒の圧力(特に高圧側の圧力)が最低臨界圧よりも常に低ければ、それぞれの冷媒が分解等されることなく、長期間、冷媒回路内を循環し、凝縮、蒸発等を繰り返し行うことができる。しかし、例えば、冷媒の圧力が最低臨界圧よりも高くなると、臨界圧力の低い冷媒が超臨界状態となり、超臨界状態でその他の冷媒と冷媒回路内を循環する。
冷媒が超臨界状態になると、先に述べたように、通常は安定な物質でも、他の物質を分解する性質等を有するようになる。そのため、混合冷媒において、臨界圧力を超えた超臨界状態の冷媒が存在すると、その他の冷媒を攻撃し、分解しようとする。
例えば、R-410AやR-407Cなどの化学的に安定な冷媒のみで構成された混合冷媒においては、高圧側における冷媒の圧力が最低臨界圧よりも高くなり、一部の冷媒が超臨界状態になったとしても、混合冷媒全体が分解されることはなく、安定的に使用できる。
CF_(3)CF=CH_(2)などの二重結合を有する物質からなる冷媒を混合冷媒に含む場合、例えば、二重結合を有する物質からなる冷媒以外の冷媒が超臨界状態となると、超臨界状態の冷媒が、化学的に不安定な二重結合を有する物質からなる冷媒を攻撃するため、冷媒が分解され、安定的な性能を維持できなくなる。また、すべての冷媒が分解等されてしまうと、混合冷媒は冷媒として全く機能しなくなる。
そこで、二重結合を有する物質からなる冷媒を含む混合冷媒においては、冷媒回路のすべての位置における冷媒の圧力を、常に最低臨界圧以下にし、どの冷媒も超臨界状態にならないようにして混合冷媒を循環させるように制御することが必須となる。
また、超臨界状態にある冷媒は自分自身に対しても攻撃する。そのため、以上のことは、他の冷媒の臨界圧力が、二重結合を有する物質からなる冷媒よりも高い場合、あるいは二重結合を有する物質からなる冷媒のみを冷媒として使用する場合でも同様であり、装置を動作させる際には、超臨界状態にならないようにしながら冷媒を循環させるように制御する必要がある。
前述した通り、冷媒回路における高圧側となる流路は、圧縮機21から膨張手段23に至る流路である。この流路の中でも、圧縮機21において、冷媒を圧縮、昇圧するため、一般的な冷凍サイクル装置において、圧縮機21の出口(吐出)側の圧力が冷媒回路内で最も圧力が高い。
そこで、本実施の形態では、圧縮機21の出口側に圧力検出手段41を設置し、圧力検出手段41からの信号に基づく圧力が最低臨界圧を越えないように、制御する冷凍サイクル装置を得る。
図4は本実施の形態の制御に係るシステムを含む冷凍サイクル装置の構成を表す図である。図4において、制御手段53は、冷凍サイクル装置の各手段の動作を制御するための処理を行う。特に本実施の形態では、圧力検出手段41からの信号に基づいて、冷媒回路内において最も高圧となる部分の冷媒の圧力の値(以下、高圧圧力値という)を判断して、演算等の処理を行い、各手段を制御する高圧制御手段として機能する。圧力記憶手段51は、一定間隔毎の複数の高圧圧力値のデータを、過去の所定期間分記憶する。また、臨界圧記憶手段52は、混合冷媒における前述した最低臨界圧に基づいて設定した圧力の値を記憶する手段である。ここでは、第1圧力値及び第2圧力値の2つの値を記憶しているものとする。
図5は制御手段53が行う圧力制御のフローチャートを示す図である。図4及び図5に基づいて、制御手段53が行う処理を中心に本実施の形態における冷凍サイクル装置の動作について説明する。圧縮機21の出口側に設置した圧力検出手段41から送信される信号に基づいて、制御手段53は高圧圧力値を判断し(ST1)、圧力記憶手段51に記憶させる。
また、制御手段53は、高圧圧力値と臨界圧記憶手段52に記憶してある第1圧力値とを比較する(ST2)。ここで、本実施の形態において、第1圧力値については、高圧圧力値に含まれる圧力の検出誤差、圧縮機21内部での冷媒の圧力等を考慮して、例えば二重結合を有する臨界圧力未満となるように、最低臨界圧の値からマージンとなる所定値αを引いた値を第1圧力値とする。第1圧力値は最低臨界圧よりも低い値となる。所定値αの値は任意に定めることができるが、ここでは例えば0.2(Mpa)とする。
比較の結果、高圧圧力値が第1圧力値よりも大きいと判断すると、制御手段53は、圧縮機21を制御して冷媒回路の高圧側における冷媒の圧力を急激に低下させて(ST3)、冷媒が分解されないようにする。圧縮機21の制御としては、例えば、圧縮機21がインバータ回路を有する圧縮機の場合には圧縮機周波数を急激に低下させるようにする。また、圧縮機21が圧縮機周波数が固定の圧縮機である場合には一時的に動作を停止させる。
一方、比較の結果、高圧圧力値が第1圧力値以下であると判断すると、次に、圧力記憶手段51が記憶する過去一定時間分の複数の高圧圧力値のデータに基づいて、一定時間後の圧力の予測値を算出する(ST4)。予測値の算出については、例えば3点予測法等のような方法を用いて、複数の高圧圧力値から経時変化(トレンド)を導き出し、一定時間後における圧力値を予測値として算出する。ここで、予測値について、制御手段53は、3点予測法だけでなく、他の方法に基づいて算出するようにしてもよい。
制御手段53は、算出した予測値と臨界圧記憶手段52に記憶してある第2圧力値とを比較する(ST5)。ここで、第2圧力値についても、高圧圧力値に含まれる圧力の検出誤差等を考慮して、最低臨界圧の値からマージンとなる所定値βを引いた値を第2圧力値とする。第2圧力値についても、最低臨界圧よりも低い値となる。所定値βの値は任意に定めることができるが、ここでは例えば0.5(Mpa)とする。ここでは、第1圧力値と第2圧力値とを異ならせているが、同じ値であってもよい。また、場合によっては高圧圧力値と第1圧力値との比較、予測値と第2圧力値との比較の一方だけを行うことも可能である。
比較の結果、高圧圧力値が第2圧力値よりも大きいと判断すると、制御手段53は、冷凍サイクル装置の圧縮機21、凝縮器用ファン31、蒸発器用ファン32、膨張手段23のうち、1又は複数の手段の動作を制御する(ST5)。この制御により、冷媒回路の高圧側における冷媒の圧力を低下させるようにして、圧力が最低臨界圧を越えないようにし、冷媒が分解されないようにする。ここで、制御手段53が行う冷媒の圧力を低下させる制御については、例えば、圧縮機21がインバータ回路を有する圧縮機の場合には、圧縮機周波数を一定数(例えば10Hz)低下させるようにする。また、凝縮器用ファン31については、ファンの回転数を増加させて凝縮器22における冷媒の熱量を放出させるようにする。また、膨張手段23については開度を大きくし、高圧側の圧力を下げるようにする。そして、蒸発器用ファン32については、ファンの回転数を減少させ、蒸発器24における冷媒による熱量の吸収を抑えるようにする。制御手段53は、以上の処理を繰り返し行い、冷媒回路を循環する混合冷媒を構成する冷媒が1種類でも分解等されないように、冷凍サイクル装置の各手段を制御する。」(段落[0024]ないし[0043])

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「圧縮機21と、凝縮器22と、膨張手段23と、蒸発器24とが接続され、二重結合を有する物質を含み、臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質自身が分解したり、また、他の物質が臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質を攻撃したりすることで冷媒として機能しなくなる冷媒が循環する冷媒回路と、
前記冷媒回路の前記圧縮機21から前記膨張手段23までの流路における前記冷媒の圧力が前記冷媒を構成する各冷媒のうち、臨界点の最も低い冷媒の臨界圧力である最低臨界圧の値から所定値αを引いた第1圧力値に達すると、インバータ回路を有する前記圧縮機21の圧縮機周波数を低下させる制御手段53と
を備える冷凍サイクル装置。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の段落[0009]ないし[0013]及び[0047]ないし[0050]並びに図1の記載からみて、当該引用文献2には、「圧縮機11と、凝縮器12と、膨張弁13と、蒸発器14とが接続され、作動媒体が循環する作動媒体の回路を備える冷凍サイクルシステム10において、1,1,2-トリフルオロエチレンを含む作動媒体を用いる」という技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。

3.引用文献9について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献9の第5欄第26行-第7欄第13行並びに第2及び3図の記載からみて、当該引用文献9には、「第1の圧縮機2と、室外熱交換器1の第1の熱交換器部1aと、暖房用膨張弁4及び冷房用膨張弁11と、室内熱交換器10の第1の熱交換器部10aとが接続され、冷媒が循環する冷媒循環系統18と、運転制御回路Aとを備えるセパレート型冷暖房装置において、運転制御回路Aのコントローラ30は、圧縮機2からの高圧圧力を検出する高圧圧力開閉器63H1の常閉接点63H1-_(1) が接続され、高圧圧力の過上昇時には、圧縮機モータMC1を直ちに停止して、圧縮機2の破損を防止する」という技術(以下、「引用文献9に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。

4.引用文献16について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献16の第1ページ左下欄第18行ないし同ページ右下欄第16行及び第2ページ左下欄第13行ないし第3ページ左上欄第1行並びに第1図の記載からみて、当該引用文献16には、「暖房負荷に応じて圧縮機の回転数を周波数変換制御する分離形空気調和機において、暖房過負荷制御装置は、室内配管温度が過負荷に相当する設定値を超えた場合は、圧縮機回転数を規定の回転数に下げ、圧縮機回転数を下げたのにもかかわらず吐出圧力が更に上がり続け、吐出圧力上限値に相当する室内配管温度である圧縮機停止に相当する設定値以上となった場合は圧縮機を停止する」という技術(以下、「引用文献16に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1.本願発明1(原査定時の請求項3に係る発明)について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
・後者における「圧縮機21」は、前者における「圧縮機」に相当し、以下同様に、「凝縮器22」は「第1熱交換器」に、「膨張手段23」は「膨張機構」に、「蒸発器24」は「第2熱交換器」に、「冷媒回路」は「冷媒回路」に、「制御手段53」は「制御機構」に、それぞれ相当する。

・後者の「二重結合を有する物質を含み、臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質自身が分解したり、また、他の物質が臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質を攻撃したりすることで冷媒として機能しなくなる冷媒」は、前者の「1,1,2-トリフルオロエチレンを含有し高圧になるほど不均化反応の連鎖反応が起きやすい冷媒」に、「所定の冷媒」という限りにおいて一致する。

・後者の「インバータ回路を有する前記圧縮機21の圧縮機周波数を低下させる」ことは、インバータ回路を有する圧縮機21を電動モータ、すなわち、電動要素によって駆動することが明らかであるから、前者の「前記圧縮機の電動要素の回転数を下げ」ることに、相当する。
そして、後者の「前記冷媒回路の前記圧縮機21から前記膨張手段23までの流路における前記冷媒の圧力が前記冷媒を構成する各冷媒のうち、臨界点の最も低い冷媒の臨界圧力である最低臨界圧の値から所定値αを引いた第1圧力値に達すると、インバータ回路を有する前記圧縮機21の圧縮機周波数を低下させる制御手段53」は、前者の「前記冷媒の不均化反応の連鎖反応によって爆発が発生しないように、前記冷媒回路の前記圧縮機から前記膨張機構までの流路における前記冷媒の圧力が4MPa以上5MPa以下の第1値に達すると、前記圧縮機の電動要素の回転数を下げ、前記冷媒回路の前記圧縮機から前記膨張機構までの流路における前記冷媒の圧力が5MPa以上6MPa以下で前記第1値よりも高い第3値に達すると、前記圧縮機の電動要素への給電を停止する制御機構」に、「前記冷媒回路の前記圧縮機から前記膨張機構までの流路における前記所定の冷媒の圧力が所定の値に達すると、前記圧縮機の電動要素の回転数を下げる制御機構」という限りにおいて一致する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「圧縮機と、第1熱交換器と、膨張機構と、第2熱交換器とが接続され、所定の冷媒が循環する冷媒回路と、
前記冷媒回路の前記圧縮機から前記膨張機構までの流路における前記所定の冷媒の圧力が所定の値に達すると、前記圧縮機の電動要素の回転数を下げる制御機構と
を備える冷凍サイクル装置。」

(相違点)
(相違点1)「所定の冷媒」に関し、本願発明1においては、「1,1,2-トリフルオロエチレンを含有し高圧になるほど不均化反応の連鎖反応が起きやすい冷媒」であるのに対し、引用発明においては、「二重結合を有する物質を含み、臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質自身が分解したり、また、他の物質が臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質を攻撃したりすることで冷媒として機能しなくなる冷媒」である点。
(相違点2)本願発明1は、「前記冷媒の不均化反応の連鎖反応によって爆発が発生しないように、前記冷媒回路の前記圧縮機から前記膨張機構までの流路における前記冷媒の圧力が4MPa以上5MPa以下の第1値に達すると、前記圧縮機の電動要素の回転数を下げ、前記冷媒回路の前記圧縮機から前記膨張機構までの流路における前記冷媒の圧力が5MPa以上6MPa以下で前記第1値よりも高い第3値に達すると、前記圧縮機の電動要素への給電を停止する制御機構」を備えるのに対し、引用発明は、「前記冷媒回路の前記圧縮機21から前記膨張手段23までの流路における前記冷媒の圧力が前記冷媒を構成する各冷媒のうち、臨界点の最も低い冷媒の臨界圧力である最低臨界圧の値から所定値αを引いた第1圧力値に達すると、インバータ回路を有する前記圧縮機21の圧縮機周波数を低下させる制御手段53」を備える点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
本願明細書には、冷媒回路を循環するHFO-1123を含む冷媒の不均化反応に関し、次の記載がある。
「【0008】
HFO-1123には、下記の課題がある。
(1)高温、高圧の状態において、着火エネルギーが加わると、爆発が発生する(例えば、非特許文献1参照)。
(2)大気寿命が2日未満と非常に小さい。冷凍サイクル系の化学的安定性の低下が懸念される。
【0009】
HFO-1123を冷凍サイクル装置に適用するには、上記の課題を解決する必要がある。
【0010】
(1)の課題については、不均化反応の連鎖によって爆発が発生することが明らかになった。この現象が発生する条件は、下記の2点である。
(1a)冷凍サイクル装置(特に、圧縮機)の内部に着火エネルギー(高温部)が発生し、不均化反応が起こる。
(1b)高温、高圧の状態において、不均化反応が連鎖して拡散する。
【0011】
(2)の課題については、冷凍サイクル系の化学的安定性を確保する必要がある。
【0012】
本発明は、例えば、圧縮機において、HFO-1123の不均化反応による爆発を防止することを目的とする。本発明は、特に、(1b)の条件の成立を回避することを目的とする。」
上記記載によると、本願発明1は、冷凍サイクル装置において、冷媒回路を循環するHFO-1123を含む冷媒が、「高温、高圧の状態において、不均化反応が連鎖して拡散する。」という条件に着目して、冷媒の不均化反応の連鎖反応によって爆発が発生しないように、冷媒回路の圧縮機から膨張機構までの流路における冷媒の圧力を所定の圧力値以下に制御する技術(以下、「不均化反応の連鎖を抑制する技術」という。)を上位概念として有する上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものである。
一方、引用発明は、「前記冷媒回路の前記圧縮機21から前記膨張手段23までの流路における前記冷媒の圧力が前記冷媒を構成する各冷媒のうち、臨界点の最も低い冷媒の臨界圧力である最低臨界圧の値から所定値αを引いた第1圧力値に達すると、インバータ回路を有する前記圧縮機21の圧縮機周波数を低下させる制御手段53」を備えるところ、「二重結合を有する物質を含み、臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質自身が分解したり、また、他の物質が臨界圧力を越えてしまうことで二重結合を有する物質を攻撃したりすることで冷媒として機能しなくなる冷媒」が、臨界圧力を超えてしまうことで、二重結合を有する物質の分解が連鎖して爆発が発生するとは認められないから、引用発明が本願発明1の不均化反応の連鎖を抑制する技術に相当する技術事項を備えているとは認められない。
そして、引用文献2に記載された技術、引用文献9に記載された技術及び引用文献16に記載された技術は、いずれも本願発明1の不均化反応の連鎖を抑制する技術とはいえない。
また、引用文献11(特に、段落【0001】ないし【0007】、【0016】、【0017】及び【0035】ないし【0039】並びに図11)、引用文献12(特に、第2ページ左上欄第3ないし18行、第6図を参照。)は、「圧縮機への給電を停止する接点として、圧縮機の容器内にヒューズ等の保護機構を設けること」が周知技術であることを例証するために示されたものであって、本願発明1の不均化反応の連鎖を抑制する技術は記載されていない。
また、引用文献13(特に、第3欄第16行ないし第4欄第26行及び第5ないし8図)、引用文献14(特に、第2欄第1ないし11行及び第1図)及び引用文献15(特に、明細書第2ページ第1ないし10行及び第3図)は、「給電を停止するヒューズをY結線により接続された3相の固定子巻線の中性点を遮断することで、電動要素と外部電源との間の通電を遮断するように構成すること」が周知技術であることを例証するために示されたものであって、本願発明1の不均化反応の連鎖を抑制する技術は記載されていない。
なお、引用文献3ないし8及び10のいずれにも、本願発明1の不均化反応の連鎖を抑制する技術は記載されていない。
そうすると、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2、9及び16に記載された技術並びに周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2(原査定時の請求項4に係る発明)について
引用文献10(特に、段落【0010】及び【0069】ないし【0072】並びに図1ないし3)には、圧縮機の容器の外に冷媒を排出するためのリリーフバルブを圧縮機に具備し、吐出マフラ内の圧力が過剰になるとリリーフバルブを開くことに相当する技術が記載されているが、当該技術は本願発明1の不均化反応の連鎖を抑制する技術とはいえない。
そして、本願発明2も、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項と同一の構成を備えるものであるから、上記1.の本願発明1の検討を踏まえると、当業者であっても、引用発明、引用文献2、9、10及び16に記載された技術並びに周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本願発明3ないし5(原査定時の請求項6ないし8に係る発明)について
引用文献3(特に、段落【0001】ないし【0012】及び【0035】ないし【0036】並びに図1)及び引用文献4(特に、段落【0002】及び【0031】ないし【0036】並びに図1)には、圧縮機の圧縮要素がシリンダと吐出マフラとを備え、圧縮機の圧縮要素により圧縮される前と後の冷媒の圧力差が所定の値まで上昇すると、シリンダでシリンダ室に冷媒が吸入される経路と吐出マフラとを連通させることによって圧縮要素をバイパスするための冷媒の流路を開くバイパス弁を圧縮機に具備することに相当する技術が記載されているが、当該技術は本願発明1の不均化反応の連鎖を抑制する技術とはいえない。
そして、本願発明3ないし5も、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項と同一の構成を備えるものであるから、上記1.の本願発明1の検討を踏まえると、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし4、9、10及び16に記載された技術並びに周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.本願発明6ないし8(原査定時の請求項9ないし11に係る発明)について
引用文献5(特に、段落【0046】ないし【0049】及び図1)及び引用文献6(特に、第5欄第22ないし39行及び第1図)には、圧縮機の冷媒吐出口側が所定の高圧まで上昇すると、圧縮機をバイパスするための冷媒の流路を開くバイパス弁を具備することに相当する技術が記載されているが、当該技術は本願発明1の不均化反応の連鎖を抑制する技術とはいえない。
そして、本願発明6ないし8も、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項と同一の構成を備えるものであるから、上記1.の本願発明1の検討を踏まえると、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし6、9、10及び16に記載された技術並びに周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、原査定時の請求項1、2及び5に係る発明は削除され、原査定時の請求項3、4及び6ないし11に係る発明が、それぞれ順に本願発明1ないし8とされたものであるから、上記第6の検討によれば、原査定の理由(特許法第29条第2項)を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2016-507384(P2016-507384)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F25B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西山 真二  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 宮崎 賢司
槙原 進
発明の名称 冷凍サイクル装置  
代理人 溝井国際特許業務法人  
代理人 溝井国際特許業務法人  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ