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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1346496
審判番号 不服2017-16733  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-10 
確定日 2018-11-22 
事件の表示 特願2013-102940「偏光板及びこれを用いた液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月4日出願公開,特開2014-224852〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2013-102940号(以下「本件出願」という。)は,平成25年5月15日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成29年 1月 4日付け:拒絶理由通知書
平成29年 3月10日付け:意見書
平成29年 3月10日付け:手続補正書
平成29年 8月16日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年11月10日付け:審判請求書
平成29年11月10日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を,却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の請求項1の記載は,次のとおりである。
「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,前記偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエステルフィルムと,を備え,
前記第一の接着剤層は,活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層からなり,
前記活性エネルギー線硬化組成物が,飽和環状化合物の環に直接エポキシ基を有してなる脂環式エポキシ化合物を含み,
前記延伸ポリエステルフィルムは3000nm?30000nmの面内リタデーション(Re)を有する,偏光板。」

(2) 本件補正後の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,補正箇所を示す。
「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,前記偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエステルフィルムと,を備え,
前記第一の接着剤層は,活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層からなり,
前記活性エネルギー線硬化組成物が,飽和環状化合物の環に直接エポキシ基を有してなる脂環式エポキシ化合物を含み,
前記延伸ポリエステルフィルムは8000nm?30000nmの面内リタデーション(Re)を有する,偏光板。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「延伸ポリエステルフィルム」の「面内リタデーション(Re)」の範囲を,「3000nm?30000nm」から「8000nm?30000nm」に限定するものである。また,本件出願の明細書の【0001】及び【0011】の記載からみて,本件補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は,同一である。
そうしてみると,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同法同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1) 本件補正後発明
本件補正後発明は,上記1(2)に記載された事項によって特定されるとおりのものである。

(2) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である,特開2011-90042号公報(以下「引用文献1」という。)には,以下の記載がある(要部のみ摘記する。)。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,バックライトを備える液晶表示装置および液晶表示装置用の光学部材セットに関する。
【背景技術】
…(省略)…
【0008】
しかしながら,一方で,保護フィルムに適する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは一般的に光学異方性が大きく,高いレタデーションを示す。このような光学異方性を有するフィルムを保護フィルムとして採用した偏光板を液晶表示装置に搭載した場合,トリアセチルセルロースフィルムを保護フィルムとする一般的な偏光板に比べて,斜め方向からの色ムラ(干渉ムラ,虹ムラとも言う)が目立ち,視認性に劣るという問題を有している。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで,本発明の目的は,バックライトおよびバックライト上に配置される液晶パネルからなる液晶表示装置であって,光学異方性を有するフィルムを光源側保護フィルムとする光入射側偏光板を搭載した場合でも色ムラが少なく視認性に優れ,かつ薄型化を実現し,コストパフォーマンスにも優れる液晶表示装置を提供することにある。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0026】
<液晶表示装置>
図1は,本発明に係る液晶表示装置の層構成の一例を示す断面模式図であり,直下型もしくはサイドライト型のバックライトを備える透過型液晶表示装置を示したものである。本発明に係る図1に示される液晶表示装置は,バックライト20およびバックライト20上に配置される液晶パネル80から構成される。
(当合議体注:図1は以下の図である。

)
【0027】
液晶パネル80は,液晶セル50,液晶セル50の一方の面に粘着剤層34を介して積層される光入射側偏光板30および液晶セル50の他方の面に粘着剤層44を介して積層される光出射側偏光板40からなる。
…(省略)…
【0028】
光入射側偏光板30は,偏光フィルム31の一方の面(バックライト側となる面)に光源側保護フィルム32が配置され,他方の面(液晶セル側)には”セル側保護フィルムまたは光学補償フィルム”33が配置されてなるものである。
…(省略)…
【0029】
光出射側偏光板40は,偏光フィルム41の一方の面(液晶セルと反対側の面)に保護フィルム42が配置され,他方の面(液晶セル側)には”セル側保護フィルムまたは光学補償フィルム”43が配置されてなるものである。
…(省略)…
【0030】
また,図1に示される例においてバックライト20は,面光源10,面光源10の背面側(液晶パネル80とは反対側)に配置される反射板11,および,面光源10と液晶パネル80の間に配置される光学シート部材12(たとえば拡散フィルムやマイクロレンズシートなど)を備える。
【0031】
本発明の液晶表示装置は,たとえば図1に示されるような層構成を有する液晶表示装置において,光入射側偏光板30において偏光フィルム31のバックライト20側に配置された光学異方性を有する光源側保護フィルム32の遅相軸と,バックライト20において液晶パネルに最も近い位置に配置された光学異方性を有する光学シート部材12の遅相軸とのなす角度(軸ズレ角度)が60°以下となるように,光源側保護フィルム32と光学シート部材12とが配置されるものである。該軸ズレ角度は,好ましくは45°以下である。軸ズレ角度が0°である場合に色ムラ防止の効果が最も高くなるが,実際の製造においては,色ムラ防止の効果を損なわない範囲の軸ズレ角度が許容される。
…(省略)…
【0033】
以下,本発明の液晶表示装置についてより詳細に説明する。
<光入射側偏光板>
本発明に用いる光入射側偏光板は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,該偏光フィルムの片面(バックライト側となる面)に配置された光学異方性を有する光源側保護フィルムを備えるものである。
…(省略)…
【0052】
(光学異方性を有する光源側保護フィルム)
偏光フィルムの片面に積層される光学異方性を有する光源側保護フィルムには,透明な各種樹脂フィルムを用いることができる。…(省略)…中でも,コスト面や薄膜化が容易であるといったメリットから,ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いることが好ましい。本発明の色ムラ防止の効果は,光源側保護フィルムが高い光学異方性を有する場合,特に面内の位相差値が200nm以上である場合に顕著なものとなる。例えば,高い光学異方性を有する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した場合において顕著な効果が得られる。
【0053】
延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは,一種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を溶融押出によって製膜し,横延伸してなる一層以上の一軸延伸フィルム,または,製膜後引き続いて縦延伸し,次いで横延伸してなる一層以上の二軸延伸フィルムである。ポリエチレンテレフタレートは延伸により屈折率の異方性と,それらで規定される各種光学物性値(遅相軸,面内位相差値,Nz値,等)を任意に制御することができる。
…(省略)…
【0097】
こうして得られる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは,市販品を容易に入手することが可能であり,たとえば,それぞれ商品名で,…(省略)…「コスモシャイン」,「クリスパー」(以上,東洋紡績株式会社製)…(省略)…等が挙げられる。
…(省略)…
【0101】
(光源側保護フィルムの接着)
本発明に用いる光入射側偏光板において,偏光フィルムと光学異方性を有する光源側保護フィルムとは,通常,接着剤を介して貼着される。…(省略)…エポキシ系接着剤の好適な例としては,脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物が挙げられる。
【0102】
また,無溶剤型の接着剤を用いることがより好ましい。かかる接着剤を採用することにより,過酷な環境下における偏光板の耐久性を向上させることが可能になるとともに,接着剤を乾燥させる工程が不要になるため,生産性を向上させることができるという利点がある。
…(省略)…
【0160】
<光出射側偏光板>
本発明の液晶表示装置において,液晶セルの光出射側に用いられる偏光板(光出射側偏光板40)は,従来公知の偏光板であってもよいし,光入射側偏光板と同じ構成の偏光板,すなわち偏光フィルムの液晶セルとは反対側に光学異方性を有する保護フィルムを備える偏光板であってもよい。光出射側偏光板40に光入射側と同じ偏光板が採用される場合,当該偏光板は,光学異方性を有する保護フィルム42の光出射側の面(偏光フィルム41が積層されている面とは反対の面)に,防眩層,ハードコート層,反射防止層,および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を備えることが好ましい。
…(省略)…
【0196】
<光学部材セット>
本発明は,液晶セルおよびバックライトを備えた液晶表示装置に用いられる光学部材セットにも関する。光学部材セットとは,液晶セルのバックライト側に配置するための上記光入射側偏光板と,バックライトの液晶セルに最も近い位置に配置するための上記光学異方性を有する光学シート部材とを含む,光学部材の組み合わせである。」

ウ 「【実施例】
【0199】
…(省略)…
【0203】
<実施例1>
(a) 偏光フィルムの作製
…(省略)…
【0204】
(b) 粘着剤付き偏光板の作製
厚み38μmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(面内位相差値R_(0):1000nm,Nz係数7.0)の貼合面に,コロナ処理を施した後,脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性接着剤組成物を,チャンバードクターを備える塗工装置によって厚さ2μmで塗工した。また,厚み73μmの環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルム(面内位相差値R_(0):63nm,厚み方向位相差値Rth:225nm)の貼合面に,コロナ処理を施した後,上記と同じ接着剤組成物を同様の装置にて厚さ2μmで塗工した。
【0205】
ついで,直ちに上記(a)にて得られた偏光フィルムの片面に上記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを,もう一方の面に上記光学補償フィルムを,各々の接着剤組成物の塗工面を介して貼合ロールによって貼合した。この際,偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレは0度とした。その後,この積層物の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム側から,メタルハライドランプを320?400nmの波長における積算光量が600mJ/cm^(2)となるように照射し,両面の接着剤を硬化させた。
…(省略)…
【0211】
<実施例5>
偏光フィルムの光源側保護フィルムとして,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(面内位相差値R_(0):4000nm,Nz係数1.8)を使用した以外は実施例1と同様にして,軸ズレ角度が0°となるような液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について,目視にて観察したところ,斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は弱く,視認性は良好であった。」

(3) 引用発明
引用文献1の【0026】?【0031】には,図1に示される層構成の液晶表示装置が記載されているところ,光源側保護フィルム32及びその接着については,【0052】?【0102】に詳細な説明が記載され,光出射側偏光板40については,【0160】に詳細な説明が記載されている。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)
「 バックライト20およびバックライト20上に配置される液晶パネル80から構成される液晶表示装置であって,
液晶パネル80は,液晶セル50,液晶セル50の一方の面に粘着剤層34を介して積層される光入射側偏光板30および液晶セル50の他方の面に粘着剤層44を介して積層される光出射側偏光板40からなり,
光入射側偏光板30は,偏光フィルム31のバックライト側となる面に光源側保護フィルム32が配置され,液晶セル側にはセル側保護フィルム33が配置されてなり,
光出射側偏光板40は,偏光フィルム41の液晶セルと反対側の面に保護フィルム42が配置され,液晶セル側にはセル側保護フィルム43が配置されてなり,
バックライト20は,面光源10,面光源10の背面側に配置される反射板11,および,面光源10と液晶パネル80の間に配置される光学シート部材12を備え,
光源側保護フィルム32の遅相軸と光学シート部材12の遅相軸とのなす角度が60°以下となるように配置され,
光源側保護フィルム32に,高い光学異方性を有する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し,
光入射側偏光板30において,偏光フィルム31と光源側保護フィルム32は,脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を介して貼着され,
光出射側偏光板40は,光入射側偏光板と同じ構成の偏光板,すなわち偏光フィルム41の液晶セルとは反対側に光学異方性を有する保護フィルム42を備える偏光板である,
液晶表示装置。」

(4) 対比
本件補正後発明と,引用発明の「光入射側偏光板30」及び「光出射側偏光板40」を対比すると,以下のとおりである。
ア 偏光フィルム
引用発明の「光入射側偏光板30」は,「偏光フィルム31のバックライト側となる面に光源側保護フィルム32が配置され,液晶セル側にはセル側保護フィルム33が配置されてなり」,また,引用発明の「光出射側偏光板40」は,「偏光フィルム41の液晶セルと反対側の面に保護フィルム42が配置され,液晶セル側にはセル側保護フィルム43が配置されてな」る。
ここで,引用発明のような液晶表示装置における偏光フィルムが,ポリビニルアルコール系樹脂からなることは,当業者における技術常識である(引用文献1の【0033】の記載からも理解できる事項である。)。
そうしてみると,引用発明の「偏光フィルム31」及び「偏光フィルム41」は,いずれも,本件補正後発明の,「ポリビニルアルコール系樹脂からなる」という要件を満たす,「偏光フィルム」に相当する。

イ 延伸ポリエステルフィルム及び偏光板
引用発明は,「光源側保護フィルム32に,高い光学異方性を有する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し」という構成,及び「光入射側偏光板30において,偏光フィルム31と光源側保護フィルム32は,脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を介して貼着され」という構成を具備する。
ここで,引用発明の「脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物」が接着剤層であることは,その機能からみて明らかである(引用文献1の【0101】の記載等も確認できる事項である。)。また,引用発明の「光出射側偏光板40」は,「光入射側偏光板と同じ構成の偏光板」である。
そうしてみると,引用発明の「光源側保護フィルム32」及び「保護フィルム42」は,いずれも,本件補正後発明の,「延伸ポリエステルフィルム」に相当する。また,引用発明の「脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物」は,本件補正後発明の「活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層からなり」及び「脂環式エポキシ化合物を含み」という要件を満たす「第一の接着剤層」に相当する。
そして,上記アの事項も踏まえると,引用発明の「光入射側偏光板30」及び「光出射側偏光板40」は,いずれも,本件補正後発明の「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,前記偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエステルフィルムと,を備え」という要件を満たす,「偏光板」に相当する。

(5) 一致点及び相違点
事案に鑑みて,引用発明の「光入射側偏光板30」及び「光出射側偏光板40」を,以下「引用偏光板発明」と総称する。
ア 一致点
本件補正後発明と,引用偏光板発明は,次の構成で一致する。
「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,前記偏光フィルムの片面に,第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエステルフィルムと,を備え,
前記第一の接着剤層は,活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層からなり,
前記活性エネルギー線硬化組成物が,脂環式エポキシ化合物を含む,
偏光板。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用偏光板発明は,次の点で相違する。
(相違点1)
「脂環式エポキシ化合物」が,本件補正後発明は,「飽和環状化合物の環に直接エポキシ基を有してなる」という要件を満たすものであるのに対して,引用偏光板発明は,これが明らかではない点。

(相違点2)
「延伸ポリエステルフィルム」が,本件補正後発明は,「8000nm?30000nmの面内リタデーション(Re)を有する」ものであるのに対して,引用偏光板発明は,これが明らかではない点。

(6) 判断
ア 相違点1について
引用文献1には,「脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物」が,具体的に,どのような化合物かは明記されていない(実施例においても,「脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性接着剤組成物」としか記載されていない。)。
しかしながら,周知技術を心得た当業者ならば,引用偏光板発明の「脂環式エポキシ化合物」の典型例として,「飽和環状化合物の環に直接エポキシ基を有してなる脂環式エポキシ化合物」を直ちに想起することができる。
(当合議体注:周知技術を裏付ける文献として,必要ならば,特開2011-59488号公報の【0088】及び【0102】(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート),特開2010-286539号公報の【0082】及び【0096】(上記化合物),特開2011-197617号公報の【0056】(上記化合物),特開2011-203641号公報の【0126】(上記化合物)及び【0149】(セロキサイド2021P,すなわち上記化合物の商品名)を参照。)
そうしてみると,相違点1に係る本件補正後発明の構成は,引用偏光板発明に接した当業者が容易に採用することができた構成といえる。

イ 相違点2について
引用文献1の【0097】には,引用偏光板発明の「高い光学異方性を有する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の市販品として,「コスモシャイン」が挙げられている。
また,本件出願の出願前である2013年2月には,ポリエステルを原料とした虹むらを解消する超複屈折フィルム「コスモシャイン」(面内リタデーション約10000nm)の開発が発表され,そして,これが記事としても掲載されたたところである。加えて,これに対応する特許も,平成23年に公開されていたところである(国際公開第2011/162198号,以下「周知文献1」という。)。
(当合議体注:発表については,“LED光源の特徴を生かして虹むらを解消したポリエステルフィルムを開発”,[online],平成25年2月5日,[平成30年9月5日検索],インターネット<URL:http://www.toyobo.co.jp/news/pdf/2013/02/press4962.pdf>を参照。また,記事については,例えば,大森敏行,“逆転の発想!極端な位相差により光学等方性フィルムの置き換えを狙う「コスモシャイン」を東洋紡が開発”,[online],平成25年2月5日,日経xTECH,[平成30年9月5日検索],インターネット<URL:https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/article/NEWS/20130205/264313/>を参照。)
そうしてみると,引用偏光板発明の「高い光学異方性を有する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」として,「8000nm?30000nmの面内リタデーション(Re)を有する」という要件を満たすものを採用することは,当業者が容易に発明できたことといえる。
(当合議体注:引用文献1に記載された「色ムラ」は光入射側偏光板32に関するものであるが,上記の発表内容や周知文献1の記載に接した当業者ならば,引用偏光板発明の光出射側偏光板40における保護フィルム40としても,白色発光ダイオードによるバックライトとの組み合わせで,「8000nm?30000nmの面内リタデーション(Re)を有する」ものを採用するといえる。)

ウ 本件補正後発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0013】には,「本発明の偏光板は,延伸ポリエステルフィルムと偏光フィルムとの密着性を,接着剤として活性エネルギー線硬化性組成物を用い,それを硬化させた層(接着剤層)を形成することにより顕著に向上させたものである。また,本発明の偏光板,液晶表示装置は,偏光板を構成するポリエステルフィルムが3000nm?30000nmのリタデーションを有するため,虹状の色斑が無い良好な視認性を確保することができる。さらに好ましい態様として,接着剤が無溶剤であることにより,従来必要であった接着剤の乾燥工程が不要になり,その生産性が大きく向上される。」と記載されている。
しかしながら,「延伸ポリエステルフィルムと偏光フィルムとの密着性を,接着剤として活性エネルギー線硬化性組成物を用い,それを硬化させた層(接着剤層)を形成することにより顕著に向上させたものである。」という効果は,引用発明(引用偏光板発明)が奏する効果である。
また,「偏光板を構成するポリエステルフィルムが3000nm?30000nmのリタデーションを有するため,虹状の色斑が無い良好な視認性を確保することができる。」という効果は,引用発明の「高い光学異方性を有する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」から期待される効果の範囲内の効果である。あるいは,前記相違点2に係る本件補正後発明の構成を採用する当業者が期待する効果といえる。
そして,「接着剤が無溶剤であることにより,従来必要であった接着剤の乾燥工程が不要になり,その生産性が大きく向上される。」という効果は,本件出願の特許請求の範囲の記載に基づかない効果である(請求項1に係る発明ではなく,請求項3に係る発明に対応する効果である。)。あるいは,引用文献1の【0102】の記載が示唆する範囲内の効果であるか,周知技術として挙げた「3,4-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート」(商品名としては,「セロキサイド2021P」)を採用する当業者が期待する効果である。

(7) 小括
したがって,本件補正後発明は,周知技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記「第2」[補正の却下の決定の結論]のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記「第2」1(1)に記載された事項によって特定されるとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に関する原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載及び引用発明については,前記「第2」2(2)及び(3)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」2にで検討した本件補正後発明の面内リタデーション(Re)の範囲である「8000nm?30000nm」を,「3000nm?30000nm」に拡張したものである。すなわち,本願発明は,その発明の範囲に本件補正後発明を含むものといえる。
また,本件補正後発明は,前記「第2」2(4)?(6)に記載したとおり,周知技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると,本願発明も,周知技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。あるいは,引用文献1の【0211】に記載された実施例5のレタデーション(4000nm)に倣った当業者が,容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本件出願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-18 
結審通知日 2018-09-25 
審決日 2018-10-09 
出願番号 特願2013-102940(P2013-102940)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 関根 洋之
樋口 信宏
発明の名称 偏光板及びこれを用いた液晶表示装置  

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