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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C04B
管理番号 1346532
審判番号 不服2017-14924  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-05 
確定日 2018-12-11 
事件の表示 特願2013- 57816「低温焼成セメントクリンカー用原料および低温焼成セメントクリンカーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年9月29日出願公開、特開2014-181161、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年3月21日の出願であって、平成29年1月27日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月24日付けで手続補正がされ、平成29年7月4日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対して、平成29年10月5日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
なお、平成28年3月31日付け、及び、平成29年5月16日付けで刊行物等提出書が提出されている。

2 原査定の概要
原査定(平成29年7月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
(理由1)
本願請求項1?5、7に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)
本願請求項1?7に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び以下の引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献一覧)
引用文献1 特開2007-290881号公報
引用文献2 特開2000-7396号公報
引用文献3 特開平2-267142号公報
引用文献4 特開2000-344555号公報
引用文献5 無機マテリアル学会編、セメント・セッコウ・石灰ハンドブック、1995年11月1日、第398?399頁

3 本願発明について
本願請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、平成29年3月24日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

【請求項1】
石炭灰を8?20質量%含有する低温焼成セメントクリンカー用原料であって、
前記石炭灰は、32μm以上の粒群が10質量%以下であり、かつ、平均粒子径が2?10μmであることを特徴とする低温焼成セメントクリンカー用原料。
【請求項2】
前記石炭灰の48μm以上の粒群が2質量%以下、24μm以上の粒群が17質量%以下、12μm以上の粒群が5?50質量%である、請求項1に記載の低温焼成セメントクリンカー用原料。
【請求項3】
前記石炭灰が、JIS A 6201-1999に規定されるフライアッシュI種である、請求項1または2に記載の低温焼成セメントクリンカー用原料。
【請求項4】
前記低温焼成セメントクリンカー用原料は、石灰石を60?80質量%及び珪石を0.1?8質量%含む、請求項1?3の何れか1項に記載の低温焼成セメントクリンカー用原料。
【請求項5】
前記低温焼成セメントクリンカー用原料は、スラグ、建設発生土、汚泥、燃え殻及びばいじんからなる群より選ばれる1種以上を3?15質量%含む、請求項1?4の何れか1項に記載の低温焼成セメントクリンカー用原料。
【請求項6】
前記低温焼成セメントクリンカー用原料の組成は、HMが1.9?2.3であり、SMが2.2?2.7であり、IMが1.6?2.0である、請求項1?5の何れか1項に記載の低温焼成セメントクリンカー用原料。
【請求項7】
請求項1?6の何れか1項に記載の低温焼成セメントクリンカー用原料を焼成し、低温焼成セメントクリンカーを得る、低温焼成セメントクリンカーの製造方法。

4 引用文献について
(1)引用文献1(特開2007-290881号公報)の記載事項
ア 「【0044】
(セメント組成物原料)
セメントクリンカーの原料として、天然原料である石灰石及び珪石と、産業廃棄物又は副産物として、鉄鋼スラグである高炉スラグ、石炭灰、及び非鉄スラグである鉄精鉱、銅ガラミとを使用した。・・・
・・・
【0045】
(セメントクリンカーの製造)
上記原料を表1に示す調合量で混合したセメントクリンカー原料を、(株)モトヤマ製超高速昇温電気炉を用いて焼成して、No.1?No.6のセメントクリンカーを得た。No.1のセメントクリンカー原料は1550℃で30分間、No.2?6のセメントクリンカー原料は1350℃で30分間焼成した。・・・
【0046】
【表1】


イ 「【0048】
図1は、No.3のセメントクリンカーと同様のセメントクリンカー原料を、1250℃から1450℃までのいくつかの焼成温度で30分間焼成した場合について、得られたセメントクリンカーの粉末X線回折パターンを示すグラフである。図1には、JCAS I-01:1981「遊離酸化カルシウムの定量方法」により測定される、セメントクリンカー中の遊離石灰(f.CaO)量も併記した。」
ウ 「【図1】



(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)アのNo.3のセメントクリンカー原料に注目すると、引用文献1には、
「石灰石1042kg/t-クリンカー、珪石114kg/t-クリンカー、高炉スラグ22kg/t-クリンカー、石炭灰156kg/t-クリンカー、鉄精鉱16kg/t-クリンカー、銅ガラミ71kg/t-クリンカーの調合量で混合したセメントクリンカー原料。」の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)引用文献2(特開2000-7396号公報)の記載事項
ア 「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。
・・・
【0010】図1に、原材料として用いる分級細粒フライアッシュFA-20と、分級しない原粉フライアッシュとの粒度分布を示す。図1の意味は、例えば、20μmのふるい目では、原粉フライアッシュの場合、約62%がこれを通過し、約38%が残る。また、分級細粒フライアッシュFA-20の場合、約98%が通過し、約2%が残る(大半が20μm以下の粒子で成りたっている。)。したがって、20μmで分級し、分級によって得られた細粒分(分級細粒フライアッシュ)とは、大半が20μm以下の粒子から成るフライアッシュということができる。
【0011】・・・
○2(当審注:「○2」は○囲いの2を示す。以下同様。) フライアッシュの加圧成型
含水比調整したフライアッシュを10MPaで加圧成型して、直径約2.5cm、高さ約5cmの円柱状の成型体を所要数作成する。
○3 成型体の焼成
それらの成型体を、4本を1グループとして、最高焼成温度1100?1300℃の間において25℃のピッチで様々に変えて焼成する。・・・
【0012】・・・また、図3において、例えば乾燥密度が1.9(g/m^(3))以上の焼成体を必要とする場合、FA-20では、焼成温度は1110?1240℃(温度許容幅130℃)と広いのに対して、原粉フライアッシュによる場合は、焼成温度は1235?1260℃(温度許容幅25℃)と非常に狭い範囲となる。したがって、分級細粒フライアッシュFA-20による場合には、窯の中の厳格な温度コントロールは必要でないことから、焼成は容易であるといえる。更に、分級細粒フライアッシュFA-20による場合、原粉フライアッシュの場合よりも焼成最高温度が低くてよいことから、燃料の節約にもなる。
【0013】よって、上述の実験例に従い、分級細粒フライアッシュFA-20を用いて、含水比を調整し、人工骨材、タイル・れんが等の所要形態に加圧成型し、焼結させることで、上述の優れた乾燥密度、圧縮強度、吸水率を備えた焼成材を得ることができ・・・」
イ 「【図1】



(4)引用文献3(特開平2-267142号公報)の記載事項
「本発明のセメントクリンカーは以上のような原料を適宜配合調製したセメントクリンカー製造原料を焼成して製造する。
各原料の配合調製にあたっては、・・・。例えば、ポルトランドセメントクリンカーを製造する場合には、水硬率1.7?2.4、珪酸率1.9?3.2、鉄率0.7?2.5、活動係数2.5?6.0、石灰飽和率0.66?1.02とするのが好ましい。」(第3頁左上欄第4行?右上欄第4行)

(5)引用文献4(特開2000-344555号公報)の記載事項
「【請求項1】 石炭灰を原料として使用し、水硬率(H.M.)が1.8?2.3、ケイ酸率(S.M.)が1.3?2.3、鉄率(I.M.)が1.8?2.8であることを特徴とするセメントクリンカ。」

(6)引用文献5(無機マテリアル学会編、セメント・セッコウ・石灰ハンドブック、1995年11月1日、第398?399頁)の記載事項
「(ii)原料粉末度の管理
キルン内の焼成反応はキルンに供給される原料粉末によって影響される.原料粉末は一般に88μm残分または200μm残分によって管理される.原料の反応速度は微粉量の多少によって影響を受けるが,焼成温度1400℃にもなれば,その影響は少なくなり,粗粒量がクリンカーの性状に影響してくる.CaCO_(3)の粗粒はクリンカー中のf-CaOを増加させ,SiO_(2)の粗粒はクリンカーに低CaOの鉱物を生成させ,セメントの水和活性が低下する.通常,88μm残分が4?10%程度に粉砕するが,最近では上述したように焼成用装置としてSPキルンやNSPキルンが使用されるようになり,88μm残分で20数%,200μm残分で5?10%程度に粉砕されるようになっている.早強セメントのように石灰飽和度が1に近い原料は易焼成性とするため,粉末度を細かくする必要がある.また,CaCO_(3)は脱炭酸のさい,微粉となるため,粗粒もあまり影響しないが,SiO_(2)粗粒はクリンカー焼成への影響が大きいために粘土を微粉砕するくふうが行われている.」(第398頁下から6行?第399頁第7行)

5 原査定に対する判断
(1)本願発明1について
ア 本願発明1と引用1発明を対比すると、引用1発明の「石炭灰156kg/t-クリンカー」との調合量は、セメントクリンカー原料全体(1421(=1042+114+22+156+16+71)kg/t-クリンカー)に対する石炭灰の含有量に換算すると、11.0質量%(=156/1421×100)になるから、本願発明1の「石炭灰を8?20質量%含有」することに相当する。
したがって、本願発明1は、引用1発明と、「石炭灰を11.0質量%含有するセメントクリンカー用原料」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本願発明1は、「石炭灰は32μm以上の粒群が10質量%以下であり、かつ、平均粒子径が2?10μmである」ことが特定されているのに対して、引用1発明は、その点が明らかでない点。
(相違点2)
本願発明1は、「低温焼成セメントクリンカー原料」であることが特定されているのに対して、引用1発明は、その点が明らかでない点。

イ 上記相違点1について検討する。
引用文献2には、上記4(3)ア及びイによれば、分級しない原粉フライアッシュの粒度分布が記載されており、上記4(3)イの図1によれば、32μm以上の粒群が約20質量%であることが示されている。
すなわち、石炭灰には、32μm以上の粒群が10質量%を超えるものも存在するのだから、引用1発明の石炭灰が、「石炭灰は32μm以上の粒群が10質量%以下であり、かつ、平均粒子径が2?10μmである」と直ちにいえず、上記相違点1は実質的な相違点である。
原査定では、本願明細書の段落【0035】?【0037】には、本願発明1の実施例である実施例4?6のセメントクリンカー用原料を1350℃で焼成して、得られたセメントクリンカー中のf.CaO量が0.5?1.0%であることが記載されているところ、引用文献1の上記4(1)イ及びウの記載から、引用1発明のセメントクリンカー用原料を1350℃で焼成した場合に、セメントクリンカー中の遊離石灰(f.CaO)量が0.3%になることから、引用1発明と本願発明1は同等のものである蓋然性が高いと判断している。
しかしながら、引用1発明のセメントクリンカー原料の種類及び調合量は、石炭灰11.0質量%、石灰石73.3質量%(=1042/1421×100)、珪石8.0質量%(=114/1421×100)、高炉スラグ1.5質量%(=22/1421×100)、鉄精鉱1.1質量%(=16/1421×100)、銅ガラミ5.0質量%(=71/1421×100)であるところ、本願発明1の実施例のうち、石炭灰の調合量が最も近い実施例6のセメントクリンカー原料の種類及び調合量であっても、石炭灰10.9質量%、石灰石74.8質量%、珪石6.3質量%、その他(高炉スラグと銅がらみ)8.0質量%であって、Si源となる珪石の調合量とFe源となる鉄精鉱の有無の点で明らかな差異があるから、1350℃で焼成したときのf.CaO量が同程度であることが、引用1発明の石炭灰の粒度が、本願発明1の実施例の石炭灰と同程度になっているためであるとはいえない。
したがって、上記相違点2を検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるといえない。

ウ 次に、上記相違点1に係る石炭灰の粒度調整を当業者が容易に想到し得ることかについて検討する。
引用文献2には、上記4(3)アの記載によれば、人工骨材等の原料として、原粉フライアッシュよりも細粒の分級細粒フライアッシュを使用することについて記載も示唆もされていない。
また、引用文献5には、上記4(6)の記載によれば、クリンカー原料粉末の全てを88μm残分で20数%、200μm残分で5?10%程度に粉砕することや細かくすることで易焼成性となることが記載されているが、セメントクリンカー用原料のうち石炭灰の粒度をさらに細かくすることで低温焼成することを示唆するものでない。
すなわち、引用文献1、2及び5には、セメントクリンカー用原料を低温焼成するために、セメントクリンカー用原料として使用する石炭灰の粒度を調整することは記載も示唆もされていないから、引用1発明において、「石炭灰を32μm以上の粒群が10質量%以下であり、かつ、平均粒子径が2?10μm」にすることは、当業者が容易になし得るものでない。
また、引用文献3及び4には、上記4(4)及び(5)の記載のとおり、セメントクリンカーの水効率、ケイ酸率及び鉄率が記載されているに過ぎないから、これら記載を参酌しても、引用1発明の石炭灰の粒度を調整することは、当業者が容易になし得るものでない。
したがって、上記相違点2を検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

(2)本願発明2?7について
本願発明2?7は、本願発明1を更に減縮したものであるから、上記(1)と同様の理由により、引用文献1に記載された発明であるといえず、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

6 情報提供に対する判断
平成28年3月31日付け、及び、平成29年5月16日付けの刊行物等提出書において、原査定で引用した引用文献2(特開2000-7396号公報)に加えて、佐藤嘉紹、石炭灰の改質処理技術-高耐久コンクリート構造物の実現に向けての取り組み-、2007年石炭灰有効利用シンポジウム、一般財団法人石炭エネルギーセンターホームページ公開資料、2007年、講-I-1頁?講-I-21頁、インターネット<https://www.jcoal.or.JP/coaldb/shiryo/material/7_sato.pdf>(以下、「刊行物1」という。)、金津努、フライアッシュの有効利用、環境技術、2001年、第30巻、第4号、第300?304頁(以下、「刊行物2」という。)、大賀宏行、技術フォーラム 資源の有効利用とコンクリート(第7回)フライアッシュや石炭灰を用いたコンクリート、コンクリート工学、1996年、第34巻、第6号、第69?74頁(以下、「刊行物3」という。)、特開2010-235381号公報(以下、「刊行物4」という。)が提出された。
しかしながら、刊行物1?4には、セメント混和材として使用する石炭灰の粒度を調整することが記載されているにすぎず、セメントクリンカー用原料として使用する石炭灰の粒度を調整することは記載されていないし、また、セメントクリンカー用原料の石炭灰にJISフライアッシュI種を使用することも記載されていない。
したがって、刊行物1?4の記載を考慮しても、本願発明1?7の新規性及び進歩性を否定することはできない。

7 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由によっても本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2013-57816(P2013-57816)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (C04B)
P 1 8・ 121- WY (C04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 真明小川 武  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山崎 直也
宮澤 尚之
発明の名称 低温焼成セメントクリンカー用原料および低温焼成セメントクリンカーの製造方法  
代理人 阿部 寛  
代理人 吉住 和之  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 石坂 泰紀  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  

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