• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1346535
審判番号 不服2016-12651  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-23 
確定日 2018-12-06 
事件の表示 特願2015-224624「レンズホルダ,レンズ駆動装置,カメラ装置及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開,特開2016-110107〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2015-224624号(以下「本件出願」という。)は,平成27年11月17日(優先権主張平成26年12月1日)に出願した特願2015-224478号の一部を,平成27年11月17日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成27年11月17日差出:手続補正書
平成28年 1月15日付け:拒絶理由通知書
平成28年 3月17日差出:意見書,手続補正書
平成28年 5月25日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成28年 8月23日差出:審判請求書,手続補正書

第2 平成28年8月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月23日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,次のとおり補正された(下線部は,補正箇所である。)。
「上下方向に所定の長さを有し,外周にコイルが巻回される,ボイスコイルモータ方式のレンズ駆動装置におけるレンズホルダであって,
前記レンズホルダの外周壁から径方向で外側に向かって突出し,前記レンズホルダの外周に巻回されるコイルの下部側の高さ位置を位置決めする鍔部と,
前記レンズホルダの外周壁から径方向で外側に向かって突出する突起部と,を有し,前記突起部が前記コイルの上部側の高さ位置を位置決めし,
前記鍔部は前記突起部と対応する位置に設けた切欠き部と前記切欠き部以外の鍔部本体部分とを有し,
前記突起部と前記鍔部本体部分との前記レンズホルダの周方向における位置は,光軸方向から見たときに前記突起部は前記鍔部本体部分と重なっている部分がなく,前記コイルが巻回された際に前記コイルが前記突起部及び前記鍔部本体部分の両方に挟まれている部分が存在しない位置になっている
ことを特徴とするレンズホルダ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成28年3月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりである。
「上下方向に所定の長さを有し,外周にコイルが巻回される,ボイスコイルモータ方式のレンズ駆動装置におけるレンズホルダであって,
前記レンズホルダの外周壁から径方向で外側に向かって突出し,前記レンズホルダの外周に巻回されるコイルの下部側の高さ位置を位置決めする鍔部と,
前記レンズホルダの外周壁から径方向で外側に向かって突出する突起部と,を有し,
前記突起部が前記コイルの上部側の高さ位置を位置決めし,
前記鍔部は前記突起部と対応する位置に設けた切欠き部と前記切欠き部以外の鍔部本体部分とを有し,光軸方向から見たときに前記突起部は前記鍔部本体部分と重なっていないことを特徴とするレンズホルダ。」

2 補正の適否
上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「突起部」及び「鍔部本体部分」の構成について,限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用された,本件出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2007-121695号公報(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,デジタルカメラやカメラ付き携帯電話器等のフォーカスやズーム等を行うレンズ駆動装置及びこれを有する電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやカメラ付き携帯電話器等の電子機器では,一般的にレンズ駆動装置を利用してレンズ位置を調整してフォーカスやズーム等を行っている。
この種のレンズ駆動装置は,様々なものが知られているが,その1つとして,例えば,ムービングコイルタイプのリニアアクチュータ(ボイスコイルモータ)を応用したレンズ駆動装置が知られている(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
このレンズ駆動装置40は,図8に示すように,断面コの字型で円筒状に形成されたヨーク41と,該ヨーク41の外壁41a内面に取り付けられるマグネット42と,レンズRを支持するレンズホルダ43と,マグネット42に対向するようにレンズホルダ43に装着されるコイル44と,ヨーク41を支持するベース45と,該ベース45を支持するフレーム46と,レンズホルダ43を上下から挟み込んで支持すると共にコイル44への給電経路として機能する2個のスプリング47とを備えている。
このように構成されたレンズ駆動装置40によれば,コイル44に印加する電流値と,2個のスプリング47の復元力との釣り合いによってレンズホルダ43の移動量を制御することができる。その結果,円滑且つ高精度にレンズRを移動させることができ,ブレの少ないオートフォーカスを実現している。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明のレンズ駆動装置は,レンズを周囲から囲んだ状態で保持するレンズホルダと,該レンズホルダの外周面に一定間隔毎に複数形成され,外周面から外方に向けて所定距離離間した位置にガイド面を有するスペーサ部と,前記複数のスペーサ部のガイド面に内周面が面接触した状態で,前記レンズホルダの周囲を囲むように取り付けられる環状のコイルと,前記コイルを内部に収納可能な枠状の外筒部と,該外筒部の一端側の外縁から前記レンズホルダ側に向けて90度折曲された背面部と,該背面部からさらに90度折曲され,隣接する前記スペーサ部間で前記コイルと前記レンズホルダの外周面との間に配される複数の爪部とを有し,前記レンズホルダに組み合わされるヨークと,該ヨークの外筒部内面に固定され,前記コイルに対して対向配置されるマグネットと,前記レンズホルダを移動可能な状態で前記ヨークを両側から挟み込んで固定する一対の固定部材と,該一対の固定部材と前記ヨークとの間に挟まれ,前記レンズホルダが移動したときに逆方向にばね力を付与すると共に前記コイルに電気的接続される導電性のシート部材とを備え,前記ガイド面が,前記コイルの高さと少なくとも同じ高さになるように形成されていることを特徴とするものである。」

(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下,本発明に係るレンズ駆動装置及び電子機器の一実施形態を,図1から図7を参照して説明する。
本実施形態の電子機器1は,図1に示すように,レンズ駆動装置2と,該レンズ駆動装置2を内蔵する図示しない筐体と,後述するスプリング16,17に所定の電圧を印加する電圧印加部3とを備えている。
【0025】
上記レンズ駆動装置2は,図1及び図2に示すように,レンズRを周囲から囲んだ状態で保持するレンズホルダ10と,該レンズホルダ10の外周面10aに一定間隔毎に複数形成され,外周面10aから外方に向けて所定距離H離間した位置にガイド面11aを有するスペーサ部11と,複数のスペーサ部11のガイド面11aに内周面が面接触した状態で,レンズホルダ10の周囲を囲むように取り付けられる環状のコイル12と,レンズホルダ10に組み合わされるヨーク13と,該ヨーク13の後述する外筒部13a内面に固定され,コイル12に対して対向配置されるマグネット14と,レンズホルダ10を移動可能な状態でヨーク13を両側から挟み込んで固定する一対の固定部材15と,該一対の固定部材15とヨーク13との間に挟まれ,レンズホルダ10が移動したときに逆方向にばね力を付与すると共に,コイル12に電気的接続される導電性の2枚のシート状のスプリング(シート部材)16,17とを備えている。
【0026】
レンズホルダ10は,図3から図6に示すように,合成樹脂等により角が丸みを帯びた上面視略四角状に形成されており,中心にレンズRを保持するための円形のレンズ保持孔10bが形成されている。レンズRは,このレンズ保持孔10b内にレンズホルダ10の厚み方向に光軸Lが向くように保持される。
スペーサ部11は,レンズホルダ10の外周面10aであって,該レンズホルダ10の四隅にそれぞれ位置するように,上記光軸Lを回転中心として90度間隔毎(上記一定間隔毎)に形成されている。また,各スペーサ部11は,レンズホルダ10の外周面10aから上記所定距離Hだけ離間した位置に曲面となるガイド面11aをそれぞれ有している。このガイド面11aは,図3及び図6に示すように,コイル12の高さTと同じ高さになるように形成されている。
【0027】
また,スペーサ部11は,図4及び図6に示すように,コイル12を高さ方向(光軸L方向)に位置決めさせる突起部11bを有している。この突起部11bは,コイル12を間に挟むようにガイド面11aの上下に設けられ,ガイド面11aからコイル12の厚さ分だけ外方に突出するように形成されている。これにより,コイル12を取り付けたときに光軸L方向へのコイル12の移動が規制されるようになっている。即ち,コイル12は,両突起部11bによって巻線範囲が正確に決定される。
なお,本実施形態では,レンズホルダ10とスペーサ部11とは一体的に成型されているものとする。
【0028】
また,レンズホルダ10の外周面10aには,図3及び図5に示すように,4つのスペーサ部11間においてコイル12の内周面に面接触すると共に,ヨーク13を組み合わせたときに後述するヨーク13の爪部13cに対して非接触状態に配されたフランジ部20が形成されている。
即ち,このフランジ部20は,外周面10aの一端側において,スペーサ部11のガイド面11aと同じ所定距離H離間した位置で,コイル12の内周面に面接触するように突出して形成されている。また,フランジ部20は,スペーサ部11と同様に光軸L方向に対してコイル12の移動を規制する突起部20bを有している。
【0029】
コイル12は,本実施形態においては複数のスペーサ部11のガイド面11a,及び,フランジ部20に直接巻回された直巻きコイルである。つまり,コイル12は,複数のスペーサ部11のガイド面11a及びフランジ部20に内周面をそれぞれ面接触させた状態で,レンズホルダ10の周囲に巻回されている。この際,コイル12は,スペーサ部11の2つの突起部11b及びフランジ部20の突起部20bと同じ厚みとなるように巻数が調整されている。また,コイル12は,これら両突起部11b,20bによって,光軸L方向に位置ずれすることなく確実に位置決めされた状態となる。
・・・(略)・・・
【0043】
次に,このように構成されたレンズ駆動装置2を作動させる場合について説明する。
まず,2つのスプリング16,17を介してコイル12に電圧印加部3より所定の電圧を印加する。これにより,コイル12に電流が流れてレンズホルダ10に電磁力が作用するので,該レンズホルダ10を光軸L方向に移動させることができる。一方,スプリング16,17は,レンズホルダ10の移動に伴って変形し,該レンズホルダ10に対して移動方向とは逆方向にばね力を付与する。これにより,電磁力とばね力とが釣り合った位置にレンズホルダ10を位置させることができる。
このように,コイル12に印加する電流量を制御することで,レンズRの移動量を確実に制御することができる。従って,円滑で高精度にレンズRを移動させることができ,ズームやフォーカス等をスムーズに行うことができる。
・・・(略)・・・
【0046】
また,スペーサ部11には,コイル12を高さ方向(光軸L方向)に位置決めさせる突起部11bが,コイル12を挟んで上下にそれぞれ設けられているので,より安定した状態でコイル12の取り付けを行うことができる。更に,レンズホルダ10の外周面10aにフランジ部20が形成されているので,スペーサ部11間であってもコイル12を安定して取り付けることができる。」

(エ)「【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図6】



イ 上記アによると,引用例1には,発明を実施するための最良の形態として,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「レンズ駆動装置2に備わり,レンズRを周囲から囲んだ状態で保持するレンズホルダ10であって,
レンズホルダ10は,合成樹脂等により角が丸みを帯びた上面視略四角状に形成され,
該レンズホルダ10の外周面10aに,外周面10aから外方に向けて所定距離H離間した位置にガイド面11aを有するスペーサ部11が,一定間隔毎に複数形成され,
スペーサ部11は,コイル12を高さ方向(光軸L方向)に位置決めさせる突起部11bを有していて,この突起部11bは,コイル12を間に挟むようにガイド面11aの上下に設けられ,ガイド面11aからコイル12の厚さ分だけ外方に突出するように形成され,
レンズホルダ10とスペーサ部11とは一体的に成型されていて,
レンズホルダ10の外周面10aには,スペーサ部11間において,フランジ部20が,外周面10aの一端側において突出して形成されていて,
フランジ部20は,スペーサ部11と同様に光軸L方向に対してコイル12の移動を規制する突起部20bを有していて,
複数のスペーサ部11のガイド面11a及びフランジ部20に内周面をそれぞれ面接触させた状態で,レンズホルダ10の周囲に,コイル12が巻回され,コイル12は,スペーサ部11の2つの突起部11b及びフランジ部20の突起部20bと同じ厚みとなるように巻数が調整され,コイル12は,これら両突起部11b,20bによって,光軸L方向に位置ずれすることなく確実に位置決めされた状態となり,
コイル12に電圧印加部3より所定の電圧を印加すると,コイル12に電流が流れてレンズホルダ10に電磁力が作用し,光軸L方向に移動させることができる,
レンズホルダ10。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)「レンズホルダ」について
引用発明の「フランジ部20」は,「レンズホルダ10の外周面10aに」,「外周面10aの一端側において突出して形成されてい」るものであるから,「レンズホルダ10」と一体に成型されたものと解される。また,引用発明の「スペーサ部11」は,「レンズホルダ10」と「一体的に成型されてい」る。すなわち,引用発明における「レンズホルダ10」,「フランジ部20」及び「スペーサ部11」は,一体に成型されたものである(このことは,引用例1の図1において,これらの部分が,間に境界線を引かれることなく,同じハッチで図示されていることからも確認される。)。ここで,該一体に成型された構造を「一体レンズホルダ」と称すると,引用発明における該一体レンズホルダは,本願補正発明の「レンズホルダ」に相当する。

(イ)「上下方向に所定の長さを有」することについて
本件出願の明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0029】の記載からみて,本件補正発明のレンズホルダでいう「上下方向」は,レンズ駆動装置の位置関係でいえば「光軸方向」ということになる。
したがって,引用発明における「高さ方向(光軸方向)」は,本件補正発明の「上下方向」に相当する。そして,引用発明の上記一体レンズホルダは,有限の大きさを有するものと解されるから,「上下方向に所定の長さを有」する点で,本件補正発明の「レンズホルダ」と一致する。

(ウ)「外周にコイルが巻回される,ボイスコイルモータ方式のレンズ駆動装置におけるレンズホルダ」について
引用発明の一体レンズホルダの一部である「レンズホルダ10」は,その「周囲に,コイル12が巻回され」る。したがって,該一体レンズホルダは,「外周にコイルが巻回される」ものである。
また,「コイル12に電流が流れ」ると,「レンズホルダ10」は「電磁力が作用し,光軸L方向に移動させ」られる。そうしてみると,引用発明の一体レンズホルダが備わる「レンズ駆動装置2」は,電磁力の作用により,コイルが光軸L方向に移動する機構のものであるから,ボイスコイルモータ方式のものである(以上のことは,引用例1には,背景技術(段落【0002】を参照。)として,ボイスコイルモータを応用したレンズ駆動装置が記載されていることからも確認される。)。
したがって,本件補正発明と引用発明とは,「外周にコイルが巻回される,ボイスコイルモータ方式のレンズ駆動装置におけるレンズホルダ」である点で,一致する。

(エ)鍔部及び突起部について
引用発明の「レンズホルダ10の外周面10a」は,一体レンズホルダの外周面でもあるから,本件補正発明の「レンズホルダの外周壁」に相当する。
引用発明の「フランジ部20」は,「外周面10aの一端側において突出して形成され」,「突起部20bを有してい」る。また,引用発明の「突起部11b」は,「ガイド面11aからコイル12の厚さ分だけ外方に突出するように形成され」ているが,「ガイド面11a」は,「外周面10aから外方に向けて所定距離H離間した位置に」あるから,「突起部11b」は,「外周面10a」から外方に突出している。そして,「突起部20b」及び「突起部11b」は,「コイル12」と「同じ厚み」を有するから,「コイル12」の「厚み」方向に突出しているものと解される。引用発明では,「コイル12」の「高さ方向」が,「光軸L方向」とされる。ここで,「光軸L方向」とは,「レンズRを周囲から囲んだ状態で保持するレンズホルダ10」の中心軸であり,「レンズホルダ10の周囲に」「巻回される」「コイル12」の中心軸であると解される。そして,「コイル12」の「厚み」方向とは,「高さ方向」に直交し,巻回する周方向にも直交する方向と解されるから,「コイル12」の径方向であると解される。そうしてみると,引用発明の「突起部11b」及び「突起部20b」は,「レンズホルダの外周壁から径方向で外側に向かって突出」している点で,本件補正発明の「鍔部」及び「突起部」と一致する。
また,引用発明は,「コイル12」を,「両突起部11b,20bによって,光軸L方向に位置ずれすることなく確実に位置決めされた状態と」している。ここで,「ガイド面11aの上下に設けられ」る「突起部11b」の内,「フランジ部20」側のものを,「突起部11b」Aとして,他方を「突起部11b」Bとすれば,「突起部20b」及び「突起部11b」Aは,「コイル12」の,「高さ方向(光軸L方向)」における一方の側の高さ位置を位置決めし,また,「突起部11b」Bは,他方の側の高さ位置を位置決めしている。そして,引用発明における「高さ方向(光軸L方向)」のどちら側を,「上部側」又は「下部側」と称するかは,任意であるから,「突起部20b」及び「突起部11b」Aは,「コイルの下部側の高さ位置を位置決め」し,「突起部11b」Bは,「コイルの上部側の高さ位置を位置決めし」ているということができる。
以上から,引用発明の「突起20b」及び「突起部11b」Aを併せてなる部材は,本件補正発明の「鍔部」に相当し,「前記レンズホルダの外周壁から径方向で外側に向かって突出し,前記レンズホルダの外周に巻回されるコイルの下部側の高さ位置を位置決めする」という構成を具備するものである。また,引用発明の「突起部11b」Bは,本件補正発明の「突起部」に相当し,「前記レンズホルダの外周壁から径方向で外側に向かって突出」し,「前記コイルの上部側の高さ位置を位置決め」するという構成を具備するものである。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
上記アを踏まえると,本件補正発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「上下方向に所定の長さを有し,外周にコイルが巻回される,ボイスコイルモータ方式のレンズ駆動装置におけるレンズホルダであって,
前記レンズホルダの外周壁から径方向で外側に向かって突出し,前記レンズホルダの外周に巻回されるコイルの下部側の高さ位置を位置決めする鍔部と,
前記レンズホルダの外周壁から径方向で外側に向かって突出する突起部と,を有し,前記突起部が前記コイルの上部側の高さ位置を位置決めする
レンズホルダ。」

(イ)相違点
本願発明と引用発明とは,以下の点で相違する,あるいは,一応相違する。
(相違点)
本件補正発明は,「前記鍔部は前記突起部と対応する位置に設けた切欠き部と前記切欠き部以外の鍔部本体部分とを有し,前記突起部と前記鍔部本体部分との前記レンズホルダの周方向における位置は,光軸方向から見たときに前記突起部は前記鍔部本体部分と重なっている部分がなく,前記コイルが巻回された際に前記コイルが前記突起部及び前記鍔部本体部分の両方に挟まれている部分が存在しない位置になっている」のに対して,引用発明は,「突起部20b」及び「突起部11b」Aの形状,並びに,「突起部11b」Bとの位置関係が明らかでない点。

(4)判断
ア 相違点について
(ア)引用発明の「レンズホルダ10」は,「合成樹脂等により」形成されるものであるから,引用発明の一体レンズホルダは,樹脂材料からなるものと解される。
樹脂材料を一体的に成型して構造物を製造する際に,金型を用いて作製することは技術常識である。そして,引用発明のように,所定の方向(引用発明では,「高さ方向(光軸L方向)」)における二つの異なる位置に,該方向に交差して突出する部分(引用発明における「突起部20b」及び「突起部11b」)を形成する場合に,前記所定の方向に移動する二つの金型だけで成型できるように,前記所定の方向から見て,前記二つの異なる位置に設けた突出部分が,重ならないように設計することは,本件出願の優先日において,周知の技術である(例えば,本件出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2002-233093号公報(特に,段落【0001】,【0021】?【0023】,図4?5),特開2012-29496号公報(特に,段落【0004】?【0005】,【0025】?【0026】,図1,3?4),特開昭60-52808号公報(特に,1頁左下欄17?19行,3頁左上欄9行?同頁右上欄2行,第5図,第6図),特開平1-280707号公報(特に,1頁右下欄4?9行,4頁右上欄3?11行,5頁左上欄6?13行,第4図),特開2002-6196号公報(特に,段落【0002】,【0021】?【0024】,図2,4?5)を参照。以下「周知技術」という。)。

(イ)引用発明は,引用例1の図2?図4に対応する発明であるところ,図2及び図3からは,「突起部20b」及び上記(3)ア(エ)で定義した「突起部11b」Aとの間には間隙が存在していることが見て取れる。したがって,本件補正発明の「鍔部」に相当する,引用発明の「突起部20b」及び「突起部11b」Aを併せてなる部材は,「切欠き部と前記切欠き部以外の鍔部本体部分とを有」するものと解される。
また,図2及び図3は概略図ではあるが,上記間隙が,「突起部11b」Bと,レンズホルダの周方向の位置に関して対応しているように見受けられる。

(ウ)上記(ア)に記した技術常識を踏まえると,上記(イ)で指摘した,引用例1の図2及び図3に図示された構成は,「突起部20b」及び「突起部11b」Aと,「突起部11b」Bとが,レンズの周方向における位置について,光軸方向から見た時に重ならないように設計されていることを示すものと解される。そして,このような構造であれば,これら突起部に挟まれて巻回される「コイル12」には,「突起部20b」及び「突起部11b」Aと,「突起部11b」Bの両方に挟まれている部分は存在しない。
したがって,引用発明の「突起部20b」及び「突起部11b」は,その形状並びに位置関係について,相違点に係る本件補正発明の構成を具備している。
よって,上記相違点は,相違点ではない。

(エ)上記(ウ)より,本件補正発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された引用例1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(オ)あるいは,引用発明において,上記相違点に係る本件補正発明の構成を具備させることは,当業者が容易にできたことである。
すなわち,引用発明の一体レンズホルダを製造する際に,作製に要するコストを低減しようとすることは,当業者であれば当然に考えることである。そして,当業者であれば,上記周知技術を知っているから,引用発明において上記周知技術を適用して,「突起部20b」及び「突起部11b」Aと,「突起部11b」Bの形状並びに位置関係を設計して,相違点に係る本件補正発明の構成を具備させることは,容易にできたことである。
また,本件補正発明は,上記相違点に係る構成を具備することにより,コイル線を整列巻きしやすいという効果を有する(本件明細書の段落【0052】)。しかし,当該効果は,上記のとおり容易推考してなる一体レンズホルダが奏する効果にすぎない。

(カ)上記(オ)より,本件補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(キ)請求人の主張について
審判請求書中で本件請求人は,引用例1の段落【0027】における,「突起部11bは,コイル12を間に挟むようにガイド面11aの上下に設けられ」,「コイル12を取り付けたときに光軸L方向へのコイル12の移動が規制されるようになっている。即ち,コイル12は,両突起部11bによって巻線範囲が正確に決定される。」という記載,並びに,図6の図示を指摘した上で,引用発明においては,「コイル12は,光軸方向から見たときにスペーサ部11の上側の突起部11bと下側の突起部11bとの両方に挟まれる部分が必ず存在します。」と主張する。
しかし,引用発明において,「突起部20b」,「突起部11b」A及び「突起部11b」Bは,それぞれが,上下いずれかの方向に,コイルの移動を規制するものである。引用例1の段落【0027】における上記記載は,このような突起部を,コイルに対して上下に設けること,並びに,その機能を説明するものと解される。すなわち,上記記載から,必ずしも,「コイル12は,光軸方向から見たときにスペーサ部11の上側の突起部11bと下側の突起部11bとの両方に挟まれる部分が必ず存在」するということはできない。このことは,本件補正発明において,「突起部」及び「鍔部」が,コイルの「高さ位置を位置決め」していることと同様である。
また,引用例1の図6には,コイル12の上下両側に「突起部11b」が描かれている(図1の断面図においても同様である。)。しかし,図6等は,突起部11bを上下二つ設けることによりコイルの上下の位置決めがおこなわれることを説明するための模式図にすぎないものである。上記周知技術を考慮すると,当業者が理解する実際の一体レンズホルダの形状は,上記相違点に係る構成を具備したものである。
よって,請求人の主張は採用できない。
あるいは,上記(オ)に記したように,引用発明において周知技術を採用することにより,上下の「突起部11b」を互いに重ならないように設けることは,当業者が容易にできたことであるから,請求人の主張は採用できない。

(5)本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反してなされたものであるから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年8月23日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本件出願の請求項に係る発明は,平成28年3月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,光軸方向から見た時に,突起部と鍔部本体部分とで重なっていない部分が「レンズホルダの周方向における位置」であるとの限定事項,並びに,当該「レンズホルダの周方向における位置」が,「前記コイルが巻回された際に前記コイルが前記突起部及び前記鍔部本体部分の両方に挟まれている部分が存在しない位置になっている」との限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用例1に記載された発明であり,あるいは,引用発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例1に記載された発明であり,あるいは,引用発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条1項あるいは同法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-07 
結審通知日 2017-09-12 
審決日 2017-10-04 
出願番号 特願2015-224624(P2015-224624)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小倉 宏之  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 佐藤 秀樹
中田 誠
発明の名称 レンズホルダ、レンズ駆動装置、カメラ装置及び電子機器  
代理人 鈴木 一永  
代理人 三井 直人  
代理人 山本 典弘  
代理人 涌井 謙一  
代理人 工藤 貴宏  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ