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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1346635 |
審判番号 | 不服2017-12876 |
総通号数 | 229 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-01-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-08-31 |
確定日 | 2018-11-28 |
事件の表示 | 特願2014-533652「デヒドロゲナーゼ変異体およびこれをコードするポリヌクレオチド」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月 4日国際公開、WO2013/049073、平成26年10月30日国内公表、特表2014-528726〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年9月25日(パリ条約による優先権主張 2011年9月30日 米国)を国際出願日とする出願であって、 平成28年9月21日付け拒絶理由に対して、同年12月27日に意見書と同日付の手続補正書が提出され、平成29年4月10日付けで拒絶査定され、同年8月31日に拒絶査定不服審判の請求がなさるとともに、同日付の手続補正書が提出されたものである。 第2 平成29年8月31日付け手続補正についての補正却下の決定 [結論] 平成29年8月31日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項9に、 「【請求項9】 3-HPDH活性を有するポリペプチドであって、配列番号2、4、もしくは6に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有し、かつ、NADP(H)と比較して、NAD(H)に対する増大した特異性を有する、ポリペプチド。」とあったものを、請求項3、4、6が削除されることにより繰り上がった補正後の請求項6において、 「【請求項6】 3-HPDH活性を有するポリペプチドであって、配列番号2、4、もしくは6に対して、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有し、かつ、NADP(H)と比較して、NAD(H)に対する増大した特異性を有する、ポリペプチド。」とする補正事項を含むものである。 2.目的要件について 上記補正事項によって、ポリペプチドの配列番号2、4、もしくは6に対する配列同一性の下限が、補正前の請求項9の「少なくとも85%」から、補正後の請求項6の「少なくとも90%」に特定され、すなわち、配列同一性の下限がより限定された。 したがって、上記補正事項は、補正前の発明の限定的減縮を目的とする補正に該当するから、補正後の請求項6に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができる(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する)かについて以下検討する。 3.独立特許要件について (1)本件補正発明 補正後の請求項6に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、補正後の請求項6に記載される以下のとおりのものである。 「【請求項6】 3-HPDH活性を有するポリペプチドであって、配列番号2、4、もしくは6に対して、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有し、かつ、NADP(H)と比較して、NAD(H)に対する増大した特異性を有する、ポリペプチド。」 (2)本件補正発明の解決しようとする課題 本件補正発明の解決しようとする課題は、補正後の請求項6の記載、及び本願明細書、特に段落【0003】、【0052】の記載からみて、配列番号2、4、もしくは6のアミノ酸配列を有する3-ヒドロキシプロピオン酸デヒドロゲナーゼ(3-HPDH)の変異体であって、3-HPDH活性を有し、NADP(H)と比較して、NAD(H)に対する増大した特異性を有する、ポリペプチドの提供であると認められる。 (3)本願明細書の記載 本願明細書の実施例1?4には、配列番号2のアミノ酸配列を有する、大腸菌に由来する3-HPDHを親3-HPDHとし、これの変異体として、段落【0251】の表1、段落【0255】の表2に、特定のアミノ酸変更を有する3-HPDH変異体であるMut1?Mut25が示され、これらMut1?Mut25の、NADP(H)と比較したNAD(H)に対する特異性が、段落【0260】の表3、段落【0263】の表4に示されている。ここで、Mut1?Mut25は、表1及び表2の「アミノ酸変更」の欄の記載から理解されるとおり、配列番号2の9、10、31?36位の特定のアミノ酸への置換ないし欠失といった、特定の変異を組み合わせた、相当程度似通ったものであって、本件補正発明の「配列番号2、4、もしくは6に対して、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有し」に含まれる多数の変異体のうちのごく限られた一部分であるといえる。 そして、表1、2に示される、配列番号2の9位にGly、31位にAsp、及び32位にLeuを含み、親3-HPDHのアミノ酸配列と高い配列同一性を有する、3-HPDH変異体のいくつか(Mut4、Mut6、Mut12?19、Mut22)は、表3、4に示されるように、[NADP+]または[NADPH]欄の数値と比較して、[NAD+]または[NADH]欄の数値が大きいことから、NADP(H)と比較して、NAD(H)に対する増大した特異性を有していることが認められる。 しかし、表1に示されるMut1、Mut5は、配列番号2の9位にGly、31位にAsp、及び32位にLeuという特定の3つのアミノ酸変更を含み、親3-HPDHと高い配列同一性を有する3-HPDH変異体であるが、表3、4の[NADP+]または[NADPH]欄の数値と比較して、[NAD+]または[NADH]欄の数値が小さく、NADP(H)と比較したNAD(H)に対する特異性が増大しているとは認められない。 なお、表1?4には、上記特定の3つのアミノ酸変更ではない、他のアミノ酸変更を含む3-HPDH変異体のいくつか(Mut2、Mut21など)について、NADP(H)と比較したNAD(H)に対する特異性が増大していることも示されている。 また、本願明細書の実施例5?7には、配列番号4のアミノ酸配列を有する、イサタケンキア・オリエンタス由来の3-HPDHを親3-HPDHとし、これの変異体を作成したことが記載され、図3には、イサタケンキア・オリエンタス由来の3-HPDH変異体である特定のアミノ酸変更を有するMut26、Mut27が示され、このうちMut27は、実施例6の記載からみて、配列番号2の9位に対応する位置にGly、31位に対応する位置にAsp、及び32位に対応する位置にLeuという、特定の3つのアミノ酸変更を含むものと認められ、段落【0278】の表5には、このMut27は、NADP(H)と比較したNAD(H)に対する特異性が増大したものであることが示されていると認められる。 しかし、本願明細書には、Mut26の特異性に関するデータは記載されておらず、Mut27以外のイサタケンキア・オリエンタス由来の3-HPDHの変異体であって、配列番号4と高い配列同一性を有し、上記特定の3つのアミノ酸変更を含む変異体は記載されていない。 (4)当審の判断 本件補正発明は、3-HPDH活性を有するポリペプチドであって、配列番号2、4、もしくは6に対して、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有することを特定しており、したがって、本件補正発明は、親3-HPDHとして大腸菌由来の3-HPDH(配列番号2)、イサタケンキア・オリエンタス由来の3-HPDH(配列番号4)、もしくはサッカロマイセス・セレビシエ由来の3-HPDH(配列番号6)を特定し、これらの親3-HPDHと高い配列同一性を有する、3-HPDH変異体のポリペプチドを特定していると認められるが、本件補正発明は、ポリペプチドが含む具体的な変異については何ら特定してしない。 これに対して、上記(3)のとおり、本願明細書には、大腸菌由来の3-HPDH(配列番号2)及びイサタケンキア・オリエンタス由来の3-HPDH(配列番号4)を親3-HPDHとする3-HPDH変異体であって、配列番号2の9位に対応する位置にGly、31位に対応する位置にAsp、及び32位に対応する位置にLeuという、特定の3つのアミノ酸変更を含み、親3-HPDHのアミノ酸配列と高い配列同一性(少なくとも90%)を有する3-HPDH変異体の、NADP(H)と比較したNAD(H)に対する特異性について記載されている。 そして、親3-HPDHが大腸菌由来の3-HPDH(配列番号2)の場合、上記特定の3つのアミノ酸変更を含み、親3-HPDHと高い配列同一性を有する3-HPDH変異体のいくつかが上記課題を解決できたことが記載されていると認められるが、一方で、上記特定の3つのアミノ酸変更を含み、親3-HPDHと高い配列同一性を有する3-HPDH変異体であっても、上記課題が解決できないものが存在することが認められる。 また、親3-HPDHがイサタケンキア・オリエンタス由来の3-HPDH(配列番号4)の場合、本願明細書には、Mut27以外の上記特定の3つのアミノ酸変更を含む変異体は記載されていない。 そして、3-HPDHのような酵素の特異性は、アミノ酸配列のわずかな違いによっても大な影響を受ける場合があることが技術常識である。例えば、本願明細書には、配列番号10で表されるMut4と、配列番号11で表されるMut5とが記載されており、両者は、A10*の有無のみが異なるポリペプチドであるが(表1)、NAD+/NADP+の値は、Mut4は10.70である一方、Mut5は0.66である(表3)ように、ただ1つの変異の有無でさえ、NADH/NADPHの特異性に大きな影響を与えることが記載されている。 そうすると、本願明細書の記載から、配列番号4の親3-HPDHのアミノ酸配列において、上記特定の3つのアミノ酸変更を含む変異体であって、配列番号4アミノ酸配列と高い配列同一性を有する3-HPDH変異体でありさえすれば、NADP(H)と比較したNAD(H)に対する特異性が増大することを合理的に読み取ることはできない。まして、上述のとおり、本願明細書では、配列番号2の9、10、31?36位(配列番号4については、配列番号2の9、10、31?36位に対応する位置)におけるごく限られた変異体の特異性しか検証していないから、それ以外の位置における変異が特異性にどのような影響を与え、どのような変異体が本願補正発明に含まれるかについては全く不明である。 さらに、親3-HPDHがサッカロマイセス・セレビシエ由来の3-HPDH(配列番号6)の場合については、本願明細書に具体的な3-HPDH変異体は記載されていない。図2に照らせば、大腸菌、イサタケンキア・オリエンタス及びサッカロマイセス・セレビシエの3種に由来する3-HPDHはアミノ酸配列の相同性が高いわけではなく、大腸菌由来及びイサタケンキア・オリエンタス由来のものについて特異性の変更が検証された位置に対応するアミノ酸残基が上記3種において保存されているわけでもないから、本願明細書に具体的に記載された大腸菌由来及びイサタケンキア・オリエンタス由来の変異体の結果から、サッカロマイセス・セレビシエ由来変異体について類推できるとも認められない。 したがって、本願明細書の記載からは、配列番号2、4、6(親3-HPDH)のアミノ酸配列と高い配列同一性を有し、上記特定の3つのアミノ酸変更を含む3-HPDH変異体であっても、上記課題が解決できないものが存在することが理解される。 また、上記特定の3つのアミノ酸変更を含むことなく、上記課題が解決できたと認められるのは、他の特定のアミノ酸変更を含むMut2、Mut21などのような限られた変異体のみであることを考慮すると、親3-HPDHと高い配列同一性を有する3-HPDH変異体でありさえすれば、上記課題が解決できるとはいえない。 そうすると、本件補正発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められる。 したがって、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。 (5)審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書において、概ね以下の点を主張している。 配列番号2の9位に対応する位置にGlyを含み、配列番号2の31位に対応する位置にAspを含み、かつ配列番号2の32位に対応する位置にLeuを含む、3-HPDH変異体」は、例えば、配列番号7(Mut1)、10(Mut4)、12(Mut6)、20(Mut12)、21(Mut13)、22(Mut14)、23(Mut15)、24(Mut16)、25(Mut17)、26(Mut18)、27(Mut19)、30(Mut22)、81(Mut27)で表される変異体であり(本願明細書の段落[0251]の表1、段落[0255]の表2)、いずれも、NADP(H)と比較して、補因子NAD(H)に対する増大した特異性を有することが本願明細書において実際に確認されている(段落[0263]の表4、実施例7)。 特定の置換を有し、かつ配列番号2、4又は6の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する変異体であれば、NADP(H)と比較してNAD(H)に対する増大した特異性を有する蓋然性が高い。 そこで、上記主張について検討する。 本件補正発明には、親3-HPDH(配列番号2、4又は6)のアミノ酸配列と高い配列同一性を有することは特定されているものの、「配列番号2の9位に対応する位置にGlyを含み、配列番号2の31位に対応する位置にAspを含み、かつ配列番号2の32位に対応する位置にLeuを含む」という「特定の置換」を有することは特定されていないから、審判請求人の主張は本件補正発明の特定に基づくものではない。 そして、上記第2で述べたとおり、配列番号2の9位に対応する位置にGly、31位に対応する位置にAsp、及び32位に対応する位置にLeuを含み、親3-HPDHと高い配列同一性を有する3-HPDH変異体であっても、上記課題が解決できないものが存在する。例えば、審判請求人が挙げた変異体のうち、配列番号7(Mut1)は、表3、4に示されるように、NADP(H)と比較してNAD(H)に対する増大した特異性を有するものとは認められない。 したがって、審判請求人の主張は採用できない。 4.小括 以上のとおり、上記の補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1?21に係る発明は、平成28年12月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載の事項により特定される発明であり、そのうち、請求項9に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。 「【請求項9】 3-HPDH活性を有するポリペプチドであって、配列番号2、4、もしくは6に対して、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有し、かつ、NADP(H)と比較して、NAD(H)に対する増大した特異性を有する、ポリペプチド。」 2.原査定の理由 平成29年4月10日付け拒絶査定(原査定)は、本願の請求項1?21に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない、という理由を含むものである。 3.当審の判断 本願発明の解決しようとする課題は、請求項9及び本願明細書の記載からみて、配列番号2、4、もしくは6のアミノ酸配列を有する3-ヒドロキシプロピオン酸デヒドロゲナーゼ(3-HPDH)の変異体ポリペプチドであって、3-HPDH活性を有し、NADP(H)と比較して、NAD(H)に対する増大した特異性を有する、ポリペプチドの提供であると認められる。 そして、本願発明は、上記第2の3.において検討した本件補正発明と同様に、親3-HPDHと比較的高い配列同一性(少なくとも85%)を有することは特定しているものの、ポリペプチドが含む具体的な変異については何ら特定してしない。 したがって、上記第2の3.と同様に、本願発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められる。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、この出願の請求項9に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-06-27 |
結審通知日 | 2018-07-03 |
審決日 | 2018-07-17 |
出願番号 | 特願2014-533652(P2014-533652) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川口 裕美子 |
特許庁審判長 |
長井 啓子 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 松浦 安紀子 |
発明の名称 | デヒドロゲナーゼ変異体およびこれをコードするポリヌクレオチド |
代理人 | 渡辺 陽一 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 中村 和美 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 渡辺 陽一 |
代理人 | 中村 和美 |
代理人 | 青木 篤 |