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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1346639
審判番号 不服2017-10499  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-14 
確定日 2018-12-18 
事件の表示 特願2014-231636「無機材料、デバイス及び有機電界発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月23日出願公開、特開2015- 79759、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特願2014-231636号(以下「本件出願」という。)は、特願2009-77626号(出願日:平成21年3月26日)の一部を、平成26年11月14日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成27年 9月 8日付け:拒絶理由通知書
平成27年12月14日付け:意見書、手続補正書
平成28年 5月 6日付け:拒絶理由通知書
平成28年11月17日付け:意見書、手続補正書
平成29年 3月 7日付け:補正の却下の決定(平成28年11月17日にした手続補正の却下)、拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年 7月14日付け:審判請求書、手続補正書
平成30年 6月 8日付け:拒絶理由通知書
平成30年 9月10日付け:意見書、手続補正書

第2 原査定の拒絶の理由、及び平成30年6月8日付けで通知した拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由、及び平成30年6月8日付けで通知した拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1-9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開平11-217392号公報
引用文献2:特開2005-85731号公報
(当合議体注:原査定の拒絶の理由と、平成30年6月8日付けで通知した拒絶の理由は、引用発明としたものが相違する。)

第3 本願発明
本件出願の請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、平成30年9月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定されるとおりの、以下の発明である。
「 【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物で修飾されたことを特徴とする無機材料。
一般式(1)
T-L-R
〔一般式(1)において、Tは窒素原子を2つ以上含有するトリアリールアミンを表す。L-Rは-O(CH_(2))_(n)Si(OCH_(2)CH_(3))_(3)を表す。nは1?20の整数を表す。一分子中の-Si(OCH_(2)CH_(3))_(3)の個数は1個である。〕
【請求項2】
前記無機材料が、金属酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の無機材料。
【請求項3】
前記無機材料が、電極であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機材料。
【請求項4】
前記無機材料が、透明電極であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の無機材料。
【請求項5】
前記無機材料が、インジウムスズオキサイド(ITO)であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の無機材料。
【請求項6】
前記請求項1?5に記載の無機材料を用いたことを特徴とするデバイス。
【請求項7】
前記請求項1?5に記載の無機材料を用いたことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項8】
前記請求項1?5に記載の無機材料が陽極であることを特徴とする請求項7に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記請求項1?5に記載の無機材料を用いた有機電界発光素子において、該有機電界発光素子が少なくとも1つ以上の塗布プロセスにより作成されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の有機電界発光素子。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由、及び平成30年6月8日付けで通知した拒絶の理由において引用文献1として引用され、本願の出願前(もとの特許出願前)に頒布された刊行物である特開平11-217392号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、含ケイ素化合物、該含ケイ素化合物を用いた電極の表面処理方法と該含ケイ素化合物を含む電極の表面処理剤および該含ケイ素化合物を用いて陽極を処理してなる有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
・・・(中略)・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、新規な含ケイ素化合物、透明導電性電極等の電極と有機層との機械的かつ電気的コンタクトを向上させた、該含ケイ素化合物を用いる電極の表面処理方法と該含ケイ素化合物を含む電極の表面処理剤、および該含ケイ素化合物を用いて陽極を処理してなる、電極と有機層との機械的かつ電気的コンタクトに優れた有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子と記すことがある)を提供することにある。」

(2)「【0008】本発明は、〔1〕ケイ素原子に少なくとも1個のアルコキシ基が結合し、かつ芳香族アミン骨格を有する基が少なくとも1個結合し、標準水素電極を基準とした酸化電位が0.3V以上1.5V以下である含ケイ素化合物に係るものである。
【0009】さらに、本発明は、〔2〕構造式が一般式(1)
【化4】

[式中、R^(1)は水素原子、置換されていてもよい、1?10個の炭素原子を有するアルキル基、10個以下の炭素原子を有するシクロアルキル基、6?24個の炭素原子を有するアリール基または7?26個の炭素原子を有するアラルキル基を表し、R^(2)は置換されていてもよい1?10個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R^(3)は置換されていてもよい、1?10個の炭素原子を有するアルキル基、10個以下の炭素原子を有するシクロアルキル基、6?24個の炭素原子を有するアリール基または7?26個の炭素原子を有するアラルキル基を表し、Ar^(1)は置換されていてもよい6?24個の炭素原子を有するアリーレン基を表し、 Ar^(2)は置換されていてもよい、1?10個の炭素原子を有するアルキル基、10個以下の炭素原子を有するシクロアルキル基、6?24個の炭素原子を有するアリール基もしくは7?26個の炭素原子を有するアラルキル基、または下記一般式(2)
【0010】
【化5】

(式中、Ar^(3) は置換されていてもよい、6?24個の炭素原子を有するアリーレン基を表し、R^(4)およびR^(5)はそれぞれ独立に、置換されていてもよい、1?10個の炭素原子を有するアルキル基、10個以下の炭素原子を有するシクロアルキル基、6?24個の炭素原子を有するアリール基または7?26個の炭素原子を有するアラルキル基を表す。)を表し、sおよびtはそれぞれ独立に、2≦s+t≦4を満たす1から3までの整数を表す。R^(3)とAr^(1)の間あるいはR^(3)とAr^(2)の間、Ar^(1)とAr^(2)の間、または、Ar^(2)が一般式(2)で表されるときR^(4)とAr^(3)の間、R^(4)とR^(5)の間にそれぞれ独立に環を形成していてもよい。]で示される〔1〕記載の含ケイ素化合物に係るものである。
・・・(中略)・・・
【0045】本発明において、一般式(1)および一般式(3)で示される含ケイ素化合物において、sおよびtは、それぞれ独立に、2≦s+t≦4を満たす1から3までの整数である。
・・・(中略)・・・
【0127】陽極の材料としては、例えば、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が用いられる。具体的には酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化スズ、酸化亜鉛等を用いて作成された膜、Au、Pt、Ag、Cu等が用いられる。作製方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、メッキ法等が例示される。これら陽極は、本発明における前記含ケイ素化合物を用いて、前述の処理方法により表面処理して用いる。」

(3)「【0157】実施例1
表面処理剤の合成
300mlの二つ口丸底フラスコ内に、系内をアルゴンガスで満たし不活性雰囲気化した。そのフラスコ内にN,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン20g、4-ヨードトルエン50g、銅粉末15g、水酸化カリウム68gとドデカン100 ml を仕込み、180℃で35時間攪拌を続けた。反応終了後、反応液を室温に冷却し、水100mlを加え、生成物をトルエン80mlで抽出した。抽出したトルエン溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過した後、減圧下で溶媒を留去濃縮し、固体を得た。得られた固体をトルエン/イソプロピルアルコールから再結晶することにより、N,N’-ジ(4”-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン9.7gを淡黄色結晶として得た。
【0158】500mlの二つ口丸底フラスコに、N,N’-ジ(4”-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン5g、ジメチルホルムアミド200mlを仕込み、40℃に加熱して溶解させた。N-ブロモサクシンイミド0.86gを溶かしたN,N-ジメチルホルムアミド溶液100mlを激しく撹拌しながら室温で滴下ロートでゆっくり滴下し、滴下終了後1時間反応を続けた。反応終了後反応液に水1mlを投入した後、溶媒を減圧化留去し、水100mlを加えて生成物を析出させた。濾過、減圧乾燥後、移動相としてトルエン/ヘキサンを用いてフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、N’-(4”’-ブロモフェニル)-N,N’-ジ(4”-メチルフェニル)-N-フェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン3.3gを得た。
【0159】100mlの二つ口丸底フラスコ内に上記で合成したN’-(4”’-ブロモフェニル)-N,N’-ジ(4”-メチルフェニル)-N-フェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン3.3gと乾燥テトラヒドロフラン30mlを仕込み-78℃に冷却した。1.6M(モラー) n-ブチルリチウムヘキサン溶液1.74mlを滴下し、滴下終了後さらに1時間反応を続けた。得られた反応溶液を反応溶液Aという。
【0160】別の100mlの二つ口フラスコ内にクロロトリエトキシシラン2.1gと乾燥テトラヒドロフラン10mlを仕込み、-78℃に冷却した。これに先に調整した反応溶液Aを加えた。-78℃で2時間反応を続け、室温で一晩さらに反応させた。反応終了後、溶媒を留去し、ヘキサン40mlを加えて塩を析出させた。析出した塩を濾過し、濾液を部分的に濃縮した。得られたヘキサン溶液を冷却することにより目的物を析出させ、淡黄色の粘稠な液体1.5gを得た。
【0161】核磁気共鳴吸収スペクトル(1H-NMR)ならびにマススペクトル(FD-MS)の結果から、この液体はN,N’-ジ(4”-メチルフェニル)-N-フェニル-N’-(4”’-トリエトキシシリルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4、4’-ジアミンであることを確認した。以下、これを表面処理剤1という。得られた表面処理剤1の酸化電位をサイクリックボルタモグラムにより測定したところ、0.77V(標準水素電極基準の酸化電位に換算:0.97V、イオン化ポテンシャルに換算:5.47eV)であった。
・・・(中略)・・・
【0167】実施例4
実施例1で合成した表面処理剤1を乾燥窒素雰囲気下で0.60gシャーレに入れ、これに金属ナトリム上で蒸留した乾燥トルエン12.1gを加えて溶解した。さらにトリエチルアミン0.8gを添加して処理液とした。
【0168】スパッタリング法によって、40nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板(仕事関数W=4.9eV)を、2%に希釈した中性洗剤水溶液中に浸漬し、超音波洗浄器で30分間洗浄した。洗浄後、超純水の流水で5分間洗剤を洗い流した。ついで、水洗したガラス基板をアセトン中に浸漬し、超音波洗浄器で30分間洗浄した。アセトン超音波洗浄をもう一度繰り返し、窒素ブローにより乾燥後、プラズマ処理装置(ヤマト科学社製PC-101A)にセットし真空引きした。30分間酸素でプラズマで処理した後、大気圧にしてガラス基板を取り出し、直ちに乾燥窒素で置換したグローブボックス内に入れた。
【0169】前記で前処理したITO膜付きガラス基板を、前処理後すぐに乾燥窒素で置換したグローブボックス内で前記で調整した処理液に浸漬した。35時間後に、ガラス基板を取り出し、トルエン中で超音波洗浄器で30分間洗浄した。さらにトルエンをアセトンに替えて、30分間超音波洗浄して、過剰な処理剤を取り除いた。超音波洗浄後、窒素ブローにより乾燥し、表面処理したITO膜付きガラス基板を得た。」
(当合議体注:【0167】における「金属ナトリム」は誤記であり、正しくは「金属ナトリウム」である。)

2 引用発明
上記1より、引用文献1には、実施例4として次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 N,N'-ジ(4''-メチルフェニル)-N-フェニル-N'-(4'''-トリエトキシシリルフェニル)-1,1'-ビフェニル-4、4'-ジアミンを乾燥窒素雰囲気下で0.60gシャーレに入れ、これに金属ナトリウム上で蒸留した乾燥トルエン12.1gを加えて溶解し、さらにトリエチルアミン0.8gを添加して処理液とし、
スパッタリング法によって、40nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板を、2%に希釈した中性洗剤水溶液中に浸漬し、超音波洗浄器で30分間洗浄し、洗浄後、超純水の流水で5分間洗剤を洗い流し、ついで、水洗したガラス基板をアセトン中に浸漬し、超音波洗浄器で30分間洗浄し、アセトン超音波洗浄をもう一度繰り返し、窒素ブローにより乾燥後、プラズマ処理装置にセットし真空引きし、30分間酸素でプラズマで処理した後、大気圧にしてガラス基板を取り出し、直ちに乾燥窒素で置換したグローブボックス内に入れ、
以上の前処理をしたITO膜付きガラス基板を、前処理後すぐに乾燥窒素で置換したグローブボックス内で処理液に浸漬し、35時間後に、ガラス基板を取り出し、トルエン中で超音波洗浄器で30分間洗浄し、さらにトルエンをアセトンに替えて、30分間超音波洗浄して、過剰な処理剤を取り除き、超音波洗浄後、窒素ブローにより乾燥して得た、表面処理したITO膜付きガラス基板。」

3 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由、及び平成30年6月8日付けで通知した拒絶の理由において引用文献2として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-85731号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置、及び有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法、並びに電子機器に関する。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、ホール輸送層及び発光層の各層を形成する工程が必要になり、工程増による生産効率の低下を招くという問題があった。」

(2)「【0024】
また、本発明の有機EL装置1は、図2に示したように赤(R)、緑(G)、青(B)をそれぞれ発光するドットをその実表示領域4に有し、これによりフルカラー表示をなすものとなっている。図5に拡大図を示したように、発光機能層60と陰極50との間には、陰極50からの電子を注入/輸送する電子輸送層65が形成されており、当該電子輸送層65は、青(B)、赤(R)、緑(G)の発光色種類に応じて、その材料構成が選択されている。
・・・(中略)・・・
【0026】
陽極として機能する画素電極23は、本例ではバックエミッション型であることから透明導電材料によって形成されている。透明導電材料としてはITOが好適とされるが、これ以外にも、例えば酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス透明導電膜(Indium Zinc Oxide :IZO/アイ・ゼット・オー)(登録商標))(出光興産社製)等を用いることができる。なお、本実施形態ではITOを用いるものとするが、これに代えて、Pt、Ir、Ni、Pd等を用いることも可能である。
画素電極23の膜厚については、50?200nmとするのが好ましく、150nm程度とするのが特に好ましい。
・・・(中略)・・・
【0030】
発光機能層60を形成するための材料は、発光材料と自己組織化単分子膜を形成する材料とを混合させたものが用いられる。
・・・(中略)・・・
【0034】
次に、自己組織化単分子膜SAMの分子構造について詳述する。
本発明における自己組織化単分子膜の分子構成は、X-(CH_(2))_(n)-Yで表される。ここで、Xは電極と結合する基、Yは発光材料側に配置される基、(CH_(2))_(n)は直鎖分子を、それぞれ示している。
【0035】
電極と結合する基Xとしては、例えば、シラノール基(-Si(OH)_(3))、トリクロロシリル基(-SiCl_(3))、トリエトキシシリル基(-Si(OEt)_(3))、トリメトキシシリル基(-Si(OMe)_(3))、チオール基(-SH)、ヒドロキシル基(-OH)、アミノ基(-NH_(2))、リン酸基(-PO_(3)H_(2))、カルボキシル基(-COOH)、スルホン酸基(-SO_(3)H)、リン酸クロリド基(-PO_(2)Cl_(2))、カルボン酸クロリド基(-COCl)、及びスルホン酸クロリド基(-SO_(2)Cl)、のうちいずれかからなることが好ましい。
また、このような基Xは、画素電極材料の種類に応じて適宜選択される。例えば、本実施形態に示すように画素電極材料がITOである場合には、シロキサン結合を形成する自己組織化単分子膜SAMを選択するが好適である。
なお、電極材料が金や銀等の貴金属系である場合には、電極と結合する基としてチオール基を有した自己組織化単分子膜を採用するのが好適である。
【0036】
また、発光材料EM側に配置される基Yとしては、メチル基(CH_(3))、トリフルオロメチル基(CF_(3))、芳香族官能基、ベンゼン誘導体からなる基、ビフェニル誘導体からなる基、トリアリールアミン誘導体からなる基、及びフタロシアニン誘導体からなる基、のうちいずれかからなることが好ましい。
また、このような基Yとして、芳香族官能基(ベンゼン核)を採用した場合には、ベンゼン核が電子供与性を有しているので、当該ベンゼン核の周辺の官能基が電子過剰状態になり、親液性を高めることができる。
また、基Yとしてホール注入/輸送性を有する官能基であることが好ましい。
【0037】
また、直鎖分子(CH_(2))_(n)におけるnの数は0?10であることが好ましい。このようにnの数を規定することにより、導電性を有する自己組織単分子膜SAMを形成することが可能となり、ホール輸送性を好適に得ることができる。
【0038】
次に、自己組織化単分子膜SAMとなる具体的な材料として、下記の「化1」から「化5」に示す化学式を例示する。
ここで、「化1」に示す物質は、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(N,N'-diphenyl-N,N'-bis(3-methylphenyl)-1,1'-biphenyl-4,4'-diamine)、「化2」に示す物質は、4,4‘-ビス[(p-トリメトキシシリルプロピルフェニル)フェニルアミノ]ビフェニル(4,4'-bis[(p-trimethoxysilylpropylphenyl)phenylamino]biphenyl)、「化3」に示す物質は、トリス(p-トリメトキシシリルプロピルフェニル)アミン(tris(p-trimethoxysilylpropylphenyl)amine)、「化4」に示す物質は、n-ブチルトリメトキシシラン(n-butyltrimethoxysilane)、「化5」に示す物質は、メチルトリメトキシシラン(methyltrimethoxysilane)である。
【0039】
【化1】

【0040】
【化2】

【0041】
【化3】

【0042】
【化4】

【0043】
【化5】

【0044】
上述したように、発光機能層60が自己組織化単分子膜SAMを具備し、当該自己組織化単分子膜SAMが画素電極23上に形成され、更に、その分子構成が好適に選択、規定されているので、発光機能層60は発光能とホール注入/輸送性とを兼ね備えたものとなる。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「ITO膜」は、技術的にみて、本願発明1の「無機材料」に相当する。

(2)一致点及び相違点
本願発明1と引用発明は、「無機材料。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
「無機材料」について、本願発明1は、「下記一般式(1)で表される化合物で修飾された」 ものであるのに対して、引用発明は、「下記一般式(1)」に該当しない化合物である「N,N'-ジ(4''-メチルフェニル)-N-フェニル-N'-(4'''-トリエトキシシリルフェニル)-1,1'-ビフェニル-4、4'-ジアミン」(以下「引用発明化合物」という。)で修飾されたものである点。
(当合議体注:「下記一般式(1)で表される化合物」は前記第3の【請求項1】に記載したとおりのものである。)

(3)相違点についての判断
本願発明1と引用発明は、上記(2)に記載した相違点で相違するものであるから、両者が同一の発明であるとはいえない。
ところで、引用発明化合物の「-トリエトキシシリル」(-Si(OCH_(2)CH_(3))_(3))を「「-O(CH_(2))_(n)Si(OCH_(2)CH_(3))_(3)」に替えたものは、本願発明1の「下記一般式(1)で表される化合物」の要件を満たすものになる。しかしながら、引用文献1には、このように引用発明化合物を替えることについて、記載も示唆もない。
また、引用文献2の【0034】-【0037】において、分子構成がX-(CH_(2))_(n)-Yで表され、画素電極表面に配置される自己組織化単分子膜SAMにおける、基Xは画素電極材料がITOである場合にはシロキサン結合を形成するものが好適であって、基Yはトリアリールアミン誘導体からなる基が好ましく、また基Yとしてホール注入/輸送性を有する官能基であることが好ましく、nの数は0?10であることが好ましいことが記載されている。さらに、引用文献2の【0038】-【0040】において、自己組織化単分子膜SAMの具体的な材料には、化2として、4,4‘-ビス[(p-トリメトキシシリルプロピルフェニル)フェニルアミノ]ビフェニル(以下「TPDSi_(2)」という。)が例示されている。ここで、TPDSi_(2)は、上記X-(CH_(2))_(n)-Yにおいて、基Yがトリアリールアミン誘導体(N,N,N’N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4、4’-ジアミン)で、nの数が3、基Xが-Si(OCH_(3))_(3)で表される分子構成の化合物であって、本願発明1の「L-R」である「-O(CH_(2))_(n)Si(OCH_(2)CH_(3))_(3)を有するものでない。加えて、引用文献2には、TPDSi_(2)以外で、本願発明1の「L-R」である「-O(CH_(2))_(n)Si(OCH_(2)CH_(3))_(3)を有する化合物も記載されていない。
そうしてみると、引用文献2にも、引用発明化合物を本願発明1の「下記一般式(1)で表される化合物」に該当するものに替えることは記載も示唆もされていないといえる。
したがって、引用発明に引用文献1及び2の記載事項を組み合わせたとしても、「L-R」が「-O(CH_(2))_(n)Si(OCH_(2)CH_(3))_(3)」である本願発明1の一般式(1)で表される化合物は作製し得ないものである。
よって、本願発明1は、当業者といえども、引用発明と引用文献1及び2の記載事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-本願発明9について
本願発明2-本願発明9は、本願発明1の「無機材料」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明と引用文献1及び2の記載事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
平成30年9月10日付けの手続補正により、本願発明1-本願発明9は、「一般式(1)で表される化合物」における「L-R」が「-O(CH_(2))_(n)Si(OCH_(2)CH_(3))_(3)を表す」ものとなっている。そうしてみると、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1及び2に基づいて、容易に発明できたとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由もない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-04 
出願番号 特願2014-231636(P2014-231636)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩井 好子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 川村 大輔
宮澤 浩
発明の名称 無機材料、デバイス及び有機電界発光素子  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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