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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
管理番号 1346675
審判番号 不服2016-19018  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-19 
確定日 2018-11-29 
事件の表示 特願2015- 85949「モータ駆動方法およびモータ制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月27日出願公開、特開2015-156796〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年(平成22年)2月10日(優先権主張 2009年3月27日)を国際出願日とする特願2011-505922号の一部を平成26年3月25日に新たな特許出願とした特願2014-61139号の一部を平成27年4月20日に新たな特許出願としたものであって、平成28年2月26日付けの拒絶理由の通知に対し、平成28年4月27日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成28年9月12日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成28年9月20日)、これに対して平成28年12月19日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成29年10月24日付けで平成28年12月19日にされた手続補正が却下されるとともに拒絶理由が通知され、平成29年12月28日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成30年3月20日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成30年5月28日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成30年5月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年5月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
自動車に設けられたタイヤを駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータ駆動方法であって、
前記モータ駆動装置は、
前記モータから出力されるレゾルバ信号をデジタル信号へ変換するR/Dコンバータと、
半導体集積回路装置と、を有し、
前記半導体集積回路装置は、
ソフトウェアを実行するCPUと、
判定境界値に基づいて、前記モータの回転速度を判別するモータ回転速度判定回路と、
前記モータから出力される前記レゾルバ信号を補正して前記モータの回転角を算出するレゾルバ値補正演算部と、
前記モータを駆動するモータ駆動波形であるPWM波形を生成するモータ制御部と、を備え、
前記回転速度に応じて、前記モータ駆動波形を前記CPUによるソフトウェア処理により生成するか、前記モータ制御部によるハードウェア処理により生成するかを切り替え可能に構成されており、
前記モータ駆動方法は、
前記デジタル信号に基づいて、前記回転速度を算出し、前記モータが低速回転にて動作中の期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記レゾルバ値を補正データに基づいて補正演算した前記モータの回転角、前記モータの制動情報、モータ電流指令値、および前記モータの電流値から前記モータの回転に対して順方法の回転トルクを発生させるモータ駆動波形を生成させる電流指令値を演算し、
前記モータ制御部は、前記ソフトウェア処理によって演算した前記電流指令値に基づいて、前記モータ駆動波形の周波数および駆動電流量を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、
前記モータが低速回転以外にて動作中の期間は、モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数および駆動電流量を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、
前記モータ制御部によるハードウェア処理において、前記レゾルバ値補正演算部が算出した前記モータの回転角、前記モータの制動情報、モータ電流指令値、および前記モータの電流値から前記モータの回転に対して順方法の回転トルクを発生させるモータ駆動波形を生成させる電流指令値を演算し、演算した前記電流指令値に基づいて、前記モータ駆動波形の周波数および駆動電流量を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、
前記モータの回転判定は、回転速度判定回路が判定境界値に基づいて判定し、前記モータの回転数が前記判定境界値よりも低い場合に前記低速回転と判定し、前記モータの回転数が前記判定境界値よりも高い場合に前記低速回転以外と判定し、
前記レゾルバ値補正演算部は、入力された誤差を含んだレゾルバ値に、前記第1の誤差補正データを加減算し、前記レゾルバの1周期を2以上に分割した任意の周期毎での誤差を含んでいないレゾルバ値と誤差を含んだレゾルバ値とのずれを第2の誤差補正データとして算出し、前記第2の誤差補正データと前記第1の誤差補正データとの比率を比較して、第3の誤差補正データとして、次のレゾルバ値に反映させる処理を行う、モータ駆動方法。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年12月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
自動車に設けられたタイヤを駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータ駆動方法であって、
前記モータ駆動装置は、
前記モータから出力されるレゾルバ信号をデジタル信号へ変換するR/Dコンバータと、
半導体集積回路装置と、を有し、
前記半導体集積回路装置は、
ソフトウェアを実行するCPUと、
判定境界値に基づいて、前記モータの回転速度を判別するモータ回転速度判定回路と、
レゾルバ値補正演算部と、
前記モータを駆動するモータ駆動波形であるPWM波形を生成するモータ制御部と、を備え、
前記回転速度に応じて、前記モータ駆動波形を前記CPUによるソフトウェア処理により生成するか、前記モータ制御部によるハードウェア処理により生成するかを切り替え可能に構成されており、
前記モータ駆動方法は、
前記デジタル信号に基づいて、前記回転速度を算出し、前記モータが低速回転にて動作中の期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、
前記モータが低速回転以外にて動作中の期間は、モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、
前記ハードウェア処理において、前記レゾルバ値補正演算部が前記デジタル信号をカウントアップした誤差を含むレゾルバ値を逐次補正して前記モータの駆動制御に用いられる前記モータの回転角を算出し、
前記モータの回転判定は、回転速度判定回路が判定境界値に基づいて判定し、前記モータの回転数が前記判定境界値よりも低い場合に前記低速回転と判定し、前記モータの回転数が前記判定境界値よりも高い場合に前記低速回転以外と判定し、
前記モータ回転速度判定回路は、前記モータの回転速度によって前記モータ駆動波形の形状を切り替える制御を行う、モータ駆動方法。
【請求項2】
請求項1記載のモータ駆動方法において、
前記レゾルバ値補正演算部によるハードウェア処理は、前記レゾルバから出力された前記レゾルバ信号の入力に応じて演算する、モータ駆動方法。
【請求項3】
請求項1記載のモータ駆動方法において、
前記ハードウェア処理は、前記自動車の減速動作の際に前記モータの回転角に応じて前記モータの回転方向に対して逆方向の回転トルクを与える駆動信号を出力する制御を行う、モータ駆動方法。
【請求項4】
自動車に設けられたタイヤを駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータ制御方法であって、
前記モータ駆動装置は、
前記モータから出力されるレゾルバ信号をデジタル信号へ変換するR/Dコンバータと、
半導体集積回路装置と、を有し、
前記半導体集積回路装置は、
ソフトウェアを実行するCPUと、
判定境界値に基づいて、前記モータの回転速度を判別するモータ回転速度判定回路と、
レゾルバ値補正演算部と、
前記モータを駆動するモータ駆動波形であるPWM波形を生成するモータ制御部と、を備え、
前記回転速度に応じて、前記モータ駆動波形を前記CPUによるソフトウェア処理により生成するか、前記モータ制御部によるハードウェア処理により生成するかを切り替え可能に構成されており、
前記モータ制御方法は、
前記デジタル信号に基づいて、前記回転速度を算出し、前記回転速度が前記判定境界値より低い期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、
前記回転速度が前記判定境界値より高い期間は、前記モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記回転トルクの増減を制御し、
前記ハードウェア処理において、前記レゾルバ値補正演算部が前記デジタル信号をカウントアップした誤差を含むレゾルバ値を逐次補正して前記モータの駆動制御に用いられる前記モータの回転角を算出し、
前記モータ制御部は、前記回転角によってモータ駆動波形の形状を切り替える制御を行う、モータ制御方法。
【請求項5】
請求項4記載のモータ制御方法において、
前記レゾルバ値補正演算部は、前記レゾルバから出力された前記レゾルバ信号の入力に応じて演算する、モータ制御方法。
【請求項6】
請求項4記載のモータ制御方法において、
前記ハードウェア処理は、前記自動車の減速動作の際に前記モータの回転角に応じて前記モータの回転方向に対して逆方向の回転トルクを与える駆動信号を出力する制御を行う、モータ制御方法。」

2.補正の適否
(1)目的要件
ア.本件補正後の特許請求の範囲は、請求項の数が2であり、請求項1が「自動車に設けられたタイヤを駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータ駆動方法」についての方法の発明に係る独立形式の請求項であり、請求項2が「自動車に設けられたタイヤを駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータの制御方法」についての方法の発明に係る独立形式の請求項である。一方、本件補正前の特許請求の範囲は、請求項の数が6で、請求項1が「自動車に設けられたタイヤを駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータ駆動方法」についての方法の発明に係る独立形式の請求項であり、請求項2及び3が請求項1を引用し、更に発明特定事項を付加する引用形式の請求項であり、請求項4が「自動車に設けられたタイヤを駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータの制御方法」についての方法の発明に係る独立形式の請求項であり、請求項5及び6が請求項4を引用し、更に発明特定事項を付加する引用形式の請求項である。そこで、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に対応するものであるとしてまず検討する。
本件補正前後の請求項1の記載を比較すると、本件補正は、請求項1について、本件補正前の請求項1に記載されていた「前記モータ回転速度判定回路は、前記モータの回転速度によって前記モータ駆動波形の形状を切り替える制御を行う」という事項(以下、「補正前事項」という。)を削除する補正(以下、「補正事項1」という。)を包含するものである。そして、本件補正後の請求項1の記載全体をみても、モータ回転速度判定回路がモータ駆動波形を制御する旨の記載はない。
そうすると、本件補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項を削除する補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
そして、平成30年3月20日付けの拒絶理由通知(理由Bの指摘事項3参照)において指摘したとおり、補正前事項におけるモータ駆動波形の「形状」の意味するところは必ずしも明確ではないが、前記のとおり、本件補正後の請求項1の記載全体をみても、モータ回転速度判定回路がモータ駆動波形を制御する旨の記載はないから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。
さらに、補正事項1が特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除及び同条同項第3号の誤記の訂正を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
イ.本件補正前の請求項2に記載された「前記レゾルバ値補正演算部によるハードウェア処理は、前記レゾルバから出力された前記レゾルバ信号の入力に応じて演算する」という事項は、同請求項が引用する本件補正前の請求項1に記載された「前記ハードウェア処理において、前記レゾルバ値補正演算部が前記デジタル信号をカウントアップした誤差を含むレゾルバ値を逐次補正して前記モータの駆動制御に用いられる前記モータの回転角を算出し」という事項と併せて、本件補正後の請求項1に記載された、「前記モータから出力される前記レゾルバ信号を補正して前記モータの回転角を算出するレゾルバ値補正演算部」に対応しているから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項2に対応するものであるとして次に検討する。
本件補正前の請求項2の記載と本件補正後の請求項1の記載を比較しても、本件補正は、本件補正前の請求項2が引用する請求項1に記載されていた、補正前事項を削除する補正、すなわち補正事項1を包含することに変わりはない。そして、本件補正後の請求項1の記載全体をみても、モータ回転速度判定回路がモータ駆動波形を制御する旨の記載はない。
そうすると、先に検討したとおり、補正事項1は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
ウ.さらに、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項3に記載された「前記ハードウェア処理は、前記自動車の減速動作の際に前記モータの回転角に応じて前記モータの回転方向に対して逆方向の回転トルクを与える駆動信号を出力する制御を行う」という事項を備えていないから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項3に対応するものではない。
エ.したがって、特許請求の範囲についてする本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず,同条同項の規定に違反するので、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(2)独立特許要件について
前記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に、本件補正が同条同項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。
本件補正後の請求項1には、「前記レゾルバ値補正演算部は、入力された誤差を含んだレゾルバ値に、前記第1の誤差補正データを加減算し、前記レゾルバの1周期を2以上に分割した任意の周期毎での誤差を含んでいないレゾルバ値と誤差を含んだレゾルバ値とのずれを第2の誤差補正データとして算出し、前記第2の誤差補正データと前記第1の誤差補正データとの比率を比較して、第3の誤差補正データとして、次のレゾルバ値に反映させる処理を行う」と記載されている。
前記「第1の誤差補正データ」について、本件補正後の請求項1には何ら特定されていないが、本件補正後の発明の詳細な説明には、「レゾルバ2における予め実際の1周分のレゾルバ値とモータの回転初期位置と回転経過時間から求められる理想値とから誤差を求め、誤差Aとして、(たとえばメモリ部12などに)格納しておく(処理1)。」(段落0093)と記載されており、前記「第1の誤差補正データ」は「レゾルバ2における予め実際の1周分のレゾルバ値とモータの回転初期位置と回転経過時間から求められる理想値とから」求められる誤差であると解することができる。一方、前記「誤差を含んでいないレゾルバ値」については、本件補正後の請求項1には、それがどのようにして求められたものであるのか何ら特定されておらず、本件補正後の発明の詳細な説明にも、「任意の一定周期(できるだけ短い方がよい)ごとにメモリ部12から読み出した理想値」(段落0093)及び「メモリ部12からの理想値の読出しは、任意の一定周期ごとにモータの回転位置に対応する理想値を読み出し、またはメモリ部12からモータの1周分の理想値を図示しないレゾルバ値補正演算回路5に有するRAM等のメモリに読み出しておくのであっても良い。」(段落0095)としか記載されておらず、それがどのようにして求められたものであるのか何ら特定されていない。したがって、「誤差を含んだレゾルバ値に、前記第1の誤差補正データを加減算し」て得られる値と「誤差を含んでいないレゾルバ値」との異同が不明である。
このため、「レゾルバ2における予め実際の1周分のレゾルバ値とモータの回転初期位置と回転経過時間から求められる理想値とから」求められる誤差であると解することができる「第1の誤差補正データ」と、「誤差を含んでいないレゾルバ値と誤差を含んだレゾルバ値とのずれ」である「第2の誤差補正データ」の異同が不明であり、「前記第2の誤差補正データと前記第1の誤差補正データとの比率」の技術的意味も不明である。
また、本件補正後の請求項1の記載では、前記「前記第2の誤差補正データと前記第1の誤差補正データとの比率を比較して、第3の誤差補正データとして、次のレゾルバ値に反映させる処理を行う」との記載は、「前記第2の誤差補正データと前記第1の誤差補正データとの比率」を何と比較するのか、当該比較によりどのような結果を得て、それが「第3の誤差補正データ」とどのような関係にあるのか、更には「第3の誤差補正データ」が次のレゾルバ値にどのように反映されるのかが、特定されていない。
更に、本件補正後の発明の詳細な説明、特に段落0030,0091?0096及び図12を参照しても、「前記第2の誤差補正データと前記第1の誤差補正データとの比率」を何と比較するのか、当該比較によりどのような結果を得て、それが「第3の誤差補正データ」とどのような関係にあるのかが、不明である。更には、「第3の誤差補正データ」あるいは「前記第2の誤差補正データと前記第1の誤差補正データとの比率」から次のレゾルバ値をどのように算出するのかも不明である。
したがって、本件補正後の請求項1に記載された発明は、明確でなく、また本件補正後の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正後の請求項1に記載された発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
以上のとおり、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、更に本件補正後の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件補正後の請求項1に記載されたものは、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同条同項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に本件補正が特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても、前記「2(2)独立特許要件について」で指摘したとおり、本件補正後の請求項1に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成30年5月28日付けの手続補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年12月28日付けの手続補正(以下、「本件先行補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、前記「第2[理由]1(2)」に記載されたとおりのものである。
すなわち、その請求項4に係る発明(以下、「本願発明4」という。)は、同請求項に記載された事項により特定されるとおりのものである

2.拒絶の理由
平成30年3月20日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。
A.本件先行補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

1.本件先行補正後の請求項1に記載された「前記モータ回転速度判定回路は、前記モータの回転速度によって前記モータ駆動波形の形状を切り替える制御を行う」との事項は、当初明細書等に記載も示唆もされていない。
2.本件先行補正の結果、請求項1及び4に係る発明は、自動車に設けられたタイヤを駆動するモータが低速回転にて動作中の期間は、CPUによるソフトウェア処理により、前記モータを駆動するモータ駆動波形の周波数のみを制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、前記モータが低速回転以外にて動作中の期間は、モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数のみを制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御するものをも包含するものとなったが、当該事項は、当初明細書等に記載も示唆もされていない。

以上のとおりであるから、本件先行補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。

B.本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同条同項第2号に規定する要件を満たしていない。

1.請求項1の、「前記モータが低速回転にて動作中の期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し」との記載及び「前記モータが低速回転以外にて動作中の期間は、モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し」との記載は、前記CPUによるソフトウェア処理により実行される制御及び前記モータ制御部によるハードウェア処理により実行される制御について、いずれも「前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し」と記載されるのみであって、依然として、前記CPUによるソフトウェア処理により実行される制御の内容と前記モータ制御部によるハードウェア処理により実行される制御の内容がどのように異なるのかが不明である。
また、摘記した前記記載は、いずれも、前記CPU又は前記モータ制御部が、何に基づいてどのように前記モータ駆動波形の周波数を定めるのかが不明である。
この点は、請求項1を引用する請求項2及び3についても同様である。
2.請求項1の「前記ハードウェア処理において、前記レゾルバ値補正演算部が前記デジタル信号をカウントアップした誤差を含むレゾルバ値を逐次補正して前記モータの駆動制御に用いられる前記モータの回転角を算出し」との記載は、明細書の「また、モータの回転速度が停止?低速と判断されCPUのソフトウェア処理によりモータ駆動制御を行う際にもレゾルバ値補正演算回路5でのレゾルバ値の補正演算処理を行うようにしても良い。その場合は、CPUでのレゾルバ値補正演算に代えて、レゾルバ値補正演算回路5でのレゾルバ補正値をバス13を介してCPUに出力するように制御される。」(段落0063)の記載も相まって、前記レゾルバ値補正演算部により算出された前記モータの回転角が前記モータ制御部によるハードウェア処理による前記モータの回転トルクの増減の制御のみに用いられるのか、前記CPUによるソフトウェア処理による前記モータの回転トルクの増減にも用いられるのか、あるいはそれ以外であるのかが明確でない。
さらに、その結果、平成29年10月24日付け拒絶理由通知書(特に3-1.(2)参照)においても指摘したのと同様に、請求項1に係る発明は、CPUによるソフトウェア処理により、モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御を行うにあたり、モータの回転角に応じた制御を行わないものをも包含するから、発明の詳細な説明に記載されていない発明をも包含するものである。
この点は、請求項4並びに請求項1又は4を引用する請求項2、3、5及び6についても同様である。
3.請求項1について、「前記モータ駆動波形の形状を切り換える制御」との記載における前記モータ駆動波形の「形状」が意味するところが明確ではない。
(明細書には、前記モータ駆動波形について、「形状」という記載はない。また、明細書及び図面には、前記モータ駆動波形であるPWM波形について、周波数やONデューティを変化させることが記載されているが(例えば明細書段落0048参照)、これを意味しているのか。)
この点は、請求項4並びに請求項1又は4を引用する請求項2、3、5及び6についても同様である。
4.請求項4について、「前記モータ制御部は、前記回転角によってモータ駆動波形の形状を切り替える制御を行う」との記載は、その意味するところが不明である。
(明細書及び図面、特に明細書段落0064?0067及び図5には、慣用されているいわゆるベクトル制御によるモータ制御演算回路6が記載されており、2相3相変換の演算にあたっては、当然、モータの回転角が用いられるから、結果として、モータ制御部は、モータ駆動波形であるPWM波形を生成するにあたり前記モータの回転角を用いることになるが、明細書及び図面には、当該事項以外に、前記モータ制御部が前記モータ駆動波形を生成するにあたり前記モータの回転角を用いることは記載されていない。)
この点は、請求項4を引用する請求項5及び6についても同様である。

C.本願の請求項1?6に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術並びに周知の技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1.特開平9-84208号公報
引用例2.特開昭63-287372号公報
引用例3.特開2004-45286号公報
引用例4.特開平6-225581号公報
引用例5.特開平9-160860号公報
引用例6.特開昭53-75613号公報

3.当審の判断

3-1.理由A(特許法第17条の2第3項違反)について
(1)本件先行補正により請求項1に加入された「前記モータ回転速度判定回路は、前記モータの回転速度によって前記モータ駆動波形の形状を切り替える制御を行う」との記載からみて、本件先行補正後の請求項1に係る発明は、前記モータ回転速度判定回路が、判定境界値に基づいてモータの回転速度を判別することに加え、前記モータの回転速度によってモータ駆動波形の形状を切り替える制御をも行うものとなった。
これに関し、当初明細書等には、「半導体集積回路装置は、モータの回転速度を判定し、モータの回転速度が所定の回転速度より小さいときと大きいときとでモータの駆動波形を変更するように制御を行うようにするものである。」(段落0021)及び「モータ波形出力回路7は出力するモータ駆動波形をCPUからの指示(レジスタへの設定)やモータ回転速度判定回路9により切り替え可能に構成される。」(段落0049)との記載がある。
しかしながら,当初明細書等の
「実施の形態に係る半導体集積回路装置(1)は、モータが中高速回転しているか、あるいは停止?低速回転しているかを判定し、モータが停止?低速回転している際には、CPU(10)のソフトウェア処理によりモータ駆動制御を行い、モータが中高速回転している際には、ハードウェア回路(5,6)によるモータ駆動制御を行うように切り替える制御を行うモータ回転速度判定回路(9)を備えたものである。」(段落0028)、
「モータ回転速度判定回路9は、モータMの回転速度を判定し、モータMが停止、低速、中速、高速回転であるかを判断し、その結果に基づいて、後述するモータ駆動制御の切り替えを行う。」(段落0045)、
「モータ回転速度判定回路9がモータMの回転速度を停止?低速(所定の回転速度より小さい)と判定した場合、以下のステップS104?S106の処理はCPUによるソフトウェア処理で行うようにされる」(段落0053)、及び
「モータ回転速度判定回路9がモータの回転速度を中速?高速(所定の回転速度より大きい)と判定した場合、以下のステップS104?S107の処理は、夫々の回路でのハードウェア処理とする」(段落0054)、並びに
「実施の形態に係る半導体集積回路装置(1)は、モータ駆動制御を行う別のハードウェア回路として、モータを駆動する駆動制御信号を発生するモータ駆動波形を生成するモータ制御部(6,7)を備え、該モータ制御部(6,7)は、レゾルバ値補正演算部(5,12)が補正したレゾルバ値から、モータの位置データを算出し、位置データ、モータに流れるモータ電流値、およびモータ電流指令値から電流指令値を演算し、電流指令値からモータ駆動波形を生成するものである。」(段落0032)、
「モータ制御演算回路6は、レゾルバ値補正演算回路5が算出した位置データ、およびモータ電流値、およびモータ電流指令値などから電流指令値を演算する。
モータ波形出力回路7は、モータ制御演算回路6が演算した電流指令値に基づいて、モータMの駆動用波形を出力する。」(段落0043?0044)
「以下、ステップS104?S107の処理をモータの回転速度が中速?高速(所定の回転速度より大きい)と判定した場合の各回路の動作として説明する。
・・・(中略)・・・
そして、モータ制御演算回路6は、図示しないアクセルやブレーキなどからの加速/減速のどちらの制動であるかの情報、レゾルバ値補正演算回路5が算出した位置データ、A/D変換器8がデジタル変換したモータ電流値、ならびにモータ電流指令値などから電流指令値を演算し(ステップS106)、モータ波形出力回路7に出力する。
モータ波形出力回路7は、入力された電流指令値からモータ駆動波形を生成し、モータMを駆動するパワーモジュールPMに出力を行う(ステップS107)。」(段落0058?0061)
との記載からみて、当初明細書等には.前記モータ回転速度判定回路が、前記モータが中高速回転しているか、あるいは停止?低速回転しているかを判定するとともに、前記モータが停止?低速回転していると判定した場合には前記CPUのソフトウェア処理によるモータ駆動制御に、前記モータが中高速回転していると判定した場合には前記モータ制御部のハードウェア処理によるモータ駆動制御に切り替える制御を行うことは記載されているが、前記モータ回転速度判定回路自体が前記モータ駆動波形の形状を切り替える制御を行うことは記載されていない。
更に、当初明細書等の記載、特に摘記した前記記載からみて、当初明細書等には、前記CPUによるソフトウェア処理又は前記モータ制御部によるハードウェア処理により前記モータ駆動波形を制御することしか記載されておらず、前記モータ回転速度判定回路が前記モータ駆動波形の形状を切り替える制御を行うことは示唆されているともいえない。
したがって、本件先行補正後の請求項1に記載された「前記モータ回転速度判定回路は、前記モータの回転速度によって前記モータ駆動波形の形状を切り替える制御を行う」との事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項ではないとはいえない。
(2)本件先行補正後の請求項1の「前記モータが低速回転にて動作中の期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、前記モータが低速回転以外にて動作中の期間は、モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、」との記載からみて、請求項1に係る発明は、自動車に設けられたタイヤを駆動するモータが低速回転にて動作中の期間は、CPUによるソフトウェア処理により、前記モータを駆動するモータ駆動波形の周波数のみを制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、前記モータが低速回転以外にて動作中の期間は、モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数のみを制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御するものをも包含するものである。
一方、当初明細書等には、前記モータが低速回転にて動作中の期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数及び駆動電流量を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、前記モータが低速回転以外にて動作中の期間は、前記モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数及び駆動電流量を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御することは、記載されているが、前記モータが低速回転にて動作中の期間における前記CPUによるソフトウェア処理及び前記モータが低速回転以外にて動作中の期間における前記モータ制御部によるハードウェア処理のいずれについても、前記モータ駆動波形の周波数のみを制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御することは、記載も示唆もされていない。
更に、本件先行補正後の請求項4の「前記回転速度が前記判定境界値より低い期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、
前記回転速度が前記判定境界値より高い期間は、前記モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記回転トルクの増減を制御し、」との記載についても、同様である。
したがって、本件先行補正後の請求項1の「前記モータが低速回転にて動作中の期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、前記モータが低速回転以外にて動作中の期間は、モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し」との記載、及び本件先行補正後の請求項4の「前記回転速度が前記判定境界値より低い期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、前記回転速度が前記判定境界値より高い期間は、前記モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記回転トルクの増減を制御し、」との記載は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項である事項を包含するものである。

以上のとおりであるから、本件先行補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

3-2.理由B(特許法第36条第6項第1号違反)について
請求項1には、モータの回転角に関して、「前記ハードウェア処理において、前記レゾルバ値補正演算部が前記デジタル信号をカウントアップした誤差を含むレゾルバ値を逐次補正して前記モータの駆動制御に用いられる前記モータの回転角を算出し」との記載(下線は、当審で付加した。)しかないから、請求項1に係る発明は、CPUによるソフトウェア処理により、モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御するにあたり、モータの回転角に応じた制御を行わないものをも包含する。
しかしながら、発明の詳細な説明には、「CPUによるソフトウェア処理」を行う場合に「モータの回転角に応じたモータ駆動波形を出力する制御」を行わないものは記載されていない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない発明を包含するから、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
この点は、請求項4並びに請求項1又は4を引用する請求項2、3、5及び6についても同様である。


3-3.理由C(特許法第29条第2項違反)について
3-3-1.引用例の記載及び引用発明
(1)引用例1の記載及び引用発明1
ア.引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
(ア)「【請求項1】 電気自動車に設けられたアクセルペダルの踏み込み量を検出してアクセル開度信号を出力するアクセル開度検出手段と、
前記電気自動車を駆動走行するための多相交流モータと、
少なくともこの多相交流モータのモータ回転数を検出してモータ回転数信号を出力するモータ回転情報検出手段と、
前記多相交流モータへの印加電圧を前記電気自動車に搭載した電池の直流電圧をPWM変調することにより交流電圧として出力するインバータとを少なくとも備える電気自動車用制御装置であって、
前記モータ回転数信号と前記アクセル開度信号に基づいて前記多相交流モータに発生させる定常トルク指令値を演算する定常トルク演算手段と、
前記アクセル開度信号の変化量に基づいて過渡トルク指令値を演算する過渡トルク演算手段と、
前記定常トルク指令値と前記過渡トルク指令値とに基づいて前記多相交流モータのトルク指令値を演算するトルク指令値演算手段と、
このトルク指令値に基づいて前記インバータのPWM変調信号を発生し前記インバータに出力して前記多相交流モータを制御するモータ制御手段とを有することを特徴とする電気自動車用制御装置。」
(イ)「【0013】〔第1実施例〕図1は、本発明に係わる電気自動車走行用モータ制御装置の第1実施例の概略構成を示すブロック図である。図1において、1は電気自動車に搭載される多相交流モータで、ここでは、公知の三相DCブラシレスモータである。2は電気自動車に搭載される主電池で、公知の蓄電池よりなる組電池構成である。3はインバータで、主電池2の直流を交流に変換して多相交流モータ1を駆動する。」
(ウ)「【0014】4は第1の電流検出手段で、多相交流モータ1のU相電流を検出してU相電流信号を信号ライン103に電圧で出力する。5は、第2の電流検出手段で、第1の電流検出手段4と同一構成のもので、多相交流モータ1のW相電流を検出してW相電流信号を信号ライン104に電圧で出力する。
【0015】6はモータ回転情報検出手段で、多相交流モータ1の回転数およびロータの回転位置を検出するもので、例えば、公知のレゾルバおよび公知のR/Dコンバータ回路よりなり、多相交流モータ1の単位回転角の回転毎に発生するパルス状の回転数信号および8ビット相当のロータ位置信号をシリアル形式でそれぞれ信号ライン100、101に出力する。
【0016】7はアクセル開度検出手段で、運転者によって操作される図示しないアクセルペダルに連動して作動する公知のポテンショメータで構成され、アクセルペダルの踏み込み量に対応したアクセル開度を検出してアクセル開度信号を信号ライン102に電圧で出力する。」
(エ)「【0017】8は電気自動車用制御装置で、例えば、公知のシングルチップマイクロコンピュータにより構成され、モータ回転数情報検出手段6の出力であるモータ回転数信号、ロータ位置信号とアクセル開度検出手段5の出力であるアクセル開度信号と第1および第2の電流検出手段4,5により検出されたU相およびW相電流信号に基づきインバータ3への駆動信号VU^(*) ,VV^(*) ,VW^(*) を信号ライン105,106,107へ出力する。」
(オ)「【0018】次に、電気自動車用制御装置8内の機能構成を説明する。9は定常トルク演算手段で、信号ライン100,102から入力されるモータ回転数信号およびアクセル開度信号に基づき定常トルク指令値を演算して出力する。10は、過渡トルク演算手段で、信号ライン102から入力されるアクセル開度信号に基づいて過渡トルク指令値を演算して出力する。11はトルク指令値演算手段で、定常トルク指令値および過渡トルク指令値に基づき、多相交流モータ1に発生させるトルク指令値を演算して出力する。定常トルク演算手段9と過渡トルク演算手段10およびトルク指令値演算手段11は、例えば、シングルチップマイクロコンピュータ(以下、車両制御CPUと記す)で構成される。
【0019】12はモータ制御手段で、例えばシングルチップマイクロコンピュータ(以下、モータ制御CPUと記す)で構成され、トルク指令値演算手段11が出力するトルク指令値に基づいて、公知のベクトル演算により多相交流モータ1に通電する電流指令ベクトルを演算し、この電流指令ベクトルと信号ライン103,104から入力されるU相電流信号とW相電流信号に基づき、多相交流モータ1に印加するU,V,W各相電圧をPWM変調してライン105,106,107より出力する。」
(カ)「【0020】次に、上記構成よりなる本実施例の作動について説明する。アクセル開度検出手段7により検出されたアクセル開度信号によりアクセル開度が電気自動車用制御装置8に取り込まれ、定常トルク演算手段9および過渡トルク演算手段10に入力される。一方、モータ回転情報検出手段6により検出されたモータ回転数信号によりモータ回転数が電気自動車用制御装置8に取り込まれる。電気自動車用制御装置8は、車両制御CPU内蔵のROMに記憶された制御プログラムにより、次のとおり、制御する。」
そして、レゾルバとともに用いられるR/Dコンバータがレゾルバからの信号をデジタル信号に変換するものであることは明らかであるから、記載事項(ウ)からみて、次の事項が理解できる。
(キ)R/Dコンバータ回路は、レゾルバからの信号をデジタル信号に変換して、モータ回転数信号及びロータ位置信号を出力する。
記載事項(エ)及び(オ)並びに図1の記載からみて、次の事項が理解できる。
(ク)車両制御CPUであるシングルチップマイクロコンピュータとモータ制御CPUであるシングルチップマイクロコンピュータは、単一のシングルチップマイクロコンピュータである。
ベクトル演算により演算された電流指令ベクトルと多相交流モータの各相電流に基づき、該多相交流モータの各相に印加する電圧を演算するにあたり、ロータの回転位置を用いることは慣用手段であることを併せて考慮すると、記載事項ウ?オ及び図1の記載からみて、次の事項が理解できる。
(ケ)ロータ位置信号は、車両制御CPUに入力され、前記車両制御CPUは、電流指令ベクトル、U相電流信号、W相電流信号及びロータ位置信号に基づき、多相交流モータ1に印加するU,V,W各相電圧をPWM変調して出力する。
記載事項(エ)?(カ)、事項(ク)及び(ケ)並びに図2の記載からみて、次の事項が理解できる。
(コ)シングルチップマイクロコンピュータは、制御プログラムにより、
モータ回転数信号及びアクセル開度信号に基づき、前記多相交流モータに発生させるトルク指令値を演算し、
前記トルク指令値に基づいて、ベクトル演算により多相交流モータに通電する電流指令ベクトルを演算し、
前記電流指令ベクトル、U相電流信号、W相電流信号及びロータ位置信号に基づき、インバータへの駆動信号駆動信号をPWM変調して出力する。
更に、記載事項(ア)?(カ)からみて、引用例1には、電気自動車を駆動走行するための多相交流モータを電気自動車走行用モータ制御装置を用いて制御する方法が開示されているといえる。
イ.そうすると、これらの事項からみて、請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電気自動車を駆動走行するための多相交流モータを電気自動車走行用モータ制御装置を用いて制御する方法であって、
前記電動自動車走行用モータ制御装置は、
レゾルバからの信号をデジタル信号に変換して、モータ回転数信号及びロータ位置信号を出力するR/Dコンバータ回路と、
シングルチップマイクロコンピュータと、を含み
前記方法は、
前記シングルチップマイクロコンピュータが、制御プログラムにより、
前記モータ回転数信号及び前記アクセル開度信号に基づき、前記多相交流モータに発生させるトルク指令値を演算し、
前記トルク指令値に基づいて、ベクトル演算により前記多相交流モータに通電する電流指令ベクトルを演算し、
前記電流指令ベクトル、U相電流信号、W相電流信号及び前記ロータ位置信号に基づき、前記多相交流モータを駆動するインバータへの駆動信号をPWM変調して出力する、方法。」
(2)引用例2の記載
ア.引用例2には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
(ア)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、パルス幅変調方式による司変電圧・可変周波数(VVVF)インバータに係り、特に電気車駆動用誘導電動機の制御に好適なインバータの制御装置に関する。」(第2ページ右上欄第10?14行)
(イ)「〔発明が解決しようとする問題点〕
上記従来技術は非同期制御と同期制御を単にインバータ周波数だけで切替えて制御しているが、非同期制御を用いる超低周波数域では精度の良いPWM制御が要求されておりこの点について配慮がされておらず、超低周波数域でのトルク脈動を生ずる可能性があった。
本発明の目的は、低速時でも充分に精度の良いPWM制御が行なえ、誘導電動機の駆動に使用してトルク脈動を充分に抑えることができるPWM方式インバータの制御装置を提供することにある。」(第2ページ右下欄第1?11行)
(ウ)「〔問題点を解決するための手段〕
上記目的は、PWM方式インバータの制御装置を、運転指令と力行及び制動電流指令と誘導電動機の回転周波数と電動機電流とフイルタコンデンサ電圧などのインバータ制御に必要な信号を入力し、インバータ周波数信号と変調度信号とパルスモード信号と制御切替信号と非同期制御PWM信号の演算データとを出力するCPU(コンピユータ)と、この演算データよりPWM信号を生成する非同期制御PWM回路と、CPUから出力される変調度信号に対して時間的に変化する変調波を作成してこの変調波に対応するPWM信号を作成する同期制御PWM回路と、制御切替信号で非同期制御と同期制御の出力信号を同位相で切替える切替器とで構成し、低速時に精度の良いPWM制御を行うため、ソフトウエア処理を主とする非同期制御を行い、高速時にはCPUの動作責務の制限からCPUの指令に基づき専用ハードウエアで処理する同期制御を行なうことにより達成される。」(第2ページ右下欄第12行?第3ページ左上欄10行)
(エ)「〔作 用〕
CPUにより充分な制御が得られるため、低速時で必要とする精度が容易に与えられると共に、高速時でもCPUの動作遅れの影響がなくなるため充分な制御を得ることができる。」(第3ページ左上欄第11?15行)
イ.そうすると、これらの事項からみて、引用例2には次の技術が記載されていると認められる。
「電気車駆動用誘導電動機の制御に好適なPWM方式インバータ制御装置において、低速時にはソフトウエア処理を主とする制御を行って、精度の良いPWM制御を行い、高速時には専用ハードウエアにより制御を行い、CPUの動作遅れの影響をなくする。」
(3)引用例3の記載
引用例3には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「【0027】
このレゾルバ出力補正装置3は、レゾルバ10から出力されるSIN出力信号およびCOS出力信号をA/D変換する一対のA/Dコンバータ31と、両A/Dコンバータ31からデジタル出力されるSIN出力信号およびCOS出力信号のオフセット補正およびゲイン補正を行う補正回路32と、補正回路32の補正値の変更を行う補正コントローラ33とを有しており、モータ制御装置2の電気角演算回路20には、補正回路32が出力する補正済出力信号が入力される。レゾルバ10は搬送波を除去したSIN出力信号およびCOS出力信号を出力するフィルタを装備することができる。」
(4)引用例4の記載
引用例4には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、交流モータの制御方法に関する。
・・・(中略)・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】正弦波PWM制御を行なうと、ACモータMを円滑に回転させることができ、また、高分解能の高精度の停止制御ができる利点があるが、ACモータMを高速回転(例えば、5000rpm)させようとすると、DSP回路またはCPU回路における演算処理が追随せず、上記電流値が極めて離散的となり、ACモータMへの印加電圧もしくは電流の波形が乱れ、結果において、高速運転ができなくなる。」
(5)引用例5の記載
引用例5には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「【0004】・・・(中略)・・・一般的に、ハードウェアはソフトウェアより処理速度が高いので、アプリケーションプログラムによるデータ処理を高速に実行することができる。さらに、ハードウェアによりデータ処理を実行すれば、CPUの処理負担を軽減することができ、並列処理の稼働率も向上させることができる。」
3-3-2.対比
本願発明4と引用発明を対比する。
引用発明の「電気自動車」は、本願発明4の「自動車」に相当し、電気自動車がタイヤで走行することは明らかであるから、引用発明の「電気自動車を駆動走行するための多相交流モータ」は、本願発明4の「自動車に設けられたタイヤを駆動するモータ」に相当する。そして、引用発明は、前記モータを電気自動車走行用モータ制御装置を用いて制御する方法であるから、引用発明の「電気自動車走行用モータ制御装置」は、本願発明4の「モータ駆動装置」に相当する。そうすると、引用発明の「電気自動車を駆動走行するための多相交流モータを電気自動車走行用モータ制御装置を用いて制御する方法」は、本願発明4の「自動車に設けられたタイヤを駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータ制御方法」に相当する。
引用発明の「モータ回転数信号」及び「ロータ位置信号」、並びに「R/Dコンバータ回路」は、それぞれ、本願発明4の「デジタル信号」及び「R/Dコンバータ」に相当するから、引用発明の「レゾルバからの信号をデジタル信号に変換して、モータ回転数信号及びロータ位置信号を出力するR/Dコンバータ回路」は、本願発明4の「前記モータから出力されるレゾルバ信号をデジタル信号へ変換するR/Dコンバータ」に相当する。シングルチップマイクロコンピュータが半導体集積回路により構成されることは明らかであるから、引用発明の「シングルチップマイクロコンピュータ」は、本願発明4の「半導体集積回路装置」に相当し、更に制御プログラムにより、モータ回転数信号、ロータ位置信号、アクセル開度信号、U相電流信号及びW相電流信号に基づきインバータへの駆動信号を出力するという動作を行っているから、本願発明4の「ソフトウェアを実行するCPU」にも相当する。そうすると、引用発明の「前記電動自動車走行用モータ制御装置は、レゾルバからの信号をデジタル信号に変換して、モータ回転数信号及びロータ位置信号を出力するR/Dコンバータ回路と、シングルチップマイクロコンピュータと、を含」むことは、本願発明4の「前記モータ駆動装置は、前記モータから出力されるレゾルバ信号をデジタル信号へ変換するR/Dコンバータと、半導体集積回路装置と、を有し、前記半導体集積回路装置は、ソフトウェアを実行するCPUと、判定境界値に基づいて、前記モータの回転速度を判別するモータ回転速度判定回路と、レゾルバ値補正演算部と、前記モータを駆動するモータ駆動波形であるPWM波形を生成するモータ制御部と、を備え」ることと、「前記モータ駆動装置は、前記モータから出力されるレゾルバ信号をデジタル信号へ変換するR/Dコンバータと、半導体集積回路装置と、を有し、前記半導体集積回路装置は、ソフトウェアを実行するCPUを備え」る点で一致する。
引用発明は、前記シングルチップマイクロコンピュータが、前記多相交流モータに発生させるトルク指令値を演算し、前記多相交流モータを駆動するインバータへの駆動信号をPWM変調して出力するものであるから、前記多相交流モータのトルクの増減を制御していることは明らかである。そうすると、引用発明の「前記シングルチップマイクロコンピュータが、制御プログラムにより、前記モータ回転数信号及び前記アクセル開度信号に基づき、前記多相交流モータに発生させるトルク指令値を演算し、前記トルク指令値に基づいて、ベクトル演算により前記多相交流モータに通電する電流指令ベクトルを演算し、前記電流指令ベクトル、U相電流信号、W相電流信号及び前記ロータ位置信号に基づき、前記多相交流モータを駆動するインバータへの駆動信号をPWM変調して出力する」ことは、本願発明4の「前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御」することに相当する。
以上のことから、本願発明4と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「自動車に設けられたタイヤを駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータ制御方法であって、
前記モータ駆動装置は、
前記モータから出力されるレゾルバ信号をデジタル信号へ変換するR/Dコンバータと、
半導体集積回路装置と、を有し、
前記半導体集積回路装置は、
ソフトウェアを実行するCPUを備え、
前記モータ制御方法は、
前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御する
、モータ制御方法。」
【相違点】
前者は、
半導体回路集積装置が、判定境界値に基づいて、前記モータの回転速度を判別するモータ回転速度判定回路と、レゾルバ値補正演算部と、前記モータを駆動するモータ駆動波形であるPWM波形を生成するモータ制御部と、を備え、前記回転速度に応じて、前記モータ駆動波形を前記CPUによるソフトウェア処理により生成するか、前記モータ制御部によるハードウェア処理により生成するかを切り替え可能に構成されており、
モータ制御方法が、前記デジタル信号に基づいて、前記回転速度を算出し、前記回転速度が前記判定境界値より低い期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、前記回転速度が前記判定境界値より高い期間は、前記モータ制御部によるハードウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御し、
前記ハードウェア処理において、前記レゾルバ値補正演算部が前記デジタル信号をカウントアップした誤差を含むレゾルバ値を逐次補正して前記モータの駆動制御に用いられる前記モータの回転角を算出し、
前記モータ制御部が、前記回転角によってモータ駆動波形の形状を切り替える制御を行う、のに対し、
後者は、
半導体回路集積装置が、前記モータ回転速度判定回路と、前記レゾルバ値補正演算部と、前記モータ制御部を備えておらず、
モータ制御方法が、前記回転速度が前記判定境界値より低い期間及び前記判定境界値より高い期間のいずれの期間においても、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御する点。
3-3-3.判断
相違点について検討する。
本願発明4と引用例2に記載された技術を比較すると、引用例2に記載された技術の「電気車」は、本願発明4の「自動車」と、「車両」である点において一致するから、引用例2に記載された技術の「電気車駆動用誘導電動機」は、本願発明4の「自動車に設けられたタイヤを駆動するモータ」と、「車両を駆動するモータ」である点で一致する。引用例2に記載された技術の「PWM方式インバータ制御装置」は、本願発明4の「モータ駆動装置」に相当する。引用例2に記載された技術において、前記PWM方式インバータ制御装置は、前記電気車駆動用誘導電動機を制御するものであるから、本願発明4の「モータを駆動するモータ駆動波形であるPWM波形」に相当するものを生成していることは明らかである。引用例2に記載された技術の「低速時」及び「高速時」は、それぞれ、本願発明4の「前記回転速度が前記判定境界値より低い期間」及び「前記回転速度が前記判定境界値より高い期間」に相当する。そして、引用例2に記載された技術は、低速時にはソフトウエア処理を主とする制御を行い、高速時には専用ハードウエアにより制御を行うものであるから、本願発明4と、少なくとも「車両を駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータ制御方法であって、前記モータ駆動装置を、モータの回転速度に応じて、モータを駆動するモータ駆動波形をソフトウェア処理により生成するかハードウェア処理により生成するかを切り替え可能に構成し、前記モータ制御方法は、前記回転速度が前記判定境界値より低い期間は、ソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形を生成し、前記回転速度が前記判定境界値より高い期間は、ハードウェア処理により、前記モータ駆動波形を生成する、モータ制御方法」である点において一致する。
モータ制御において、高速時にCPUによるソフトウェア処理が間に合わなくなることは知られており(例えば、引用例2、引用例4参照)、ハードウェアはソフトウェアより処理速度が高いことは、一般的に周知の技術的事項である(例えば引用例5参照)。更に、引用発明と引用例2に記載された技術は、車両を駆動するモータのモータ駆動装置を用いたモータ制御方法に係るものである点において、同一の技術分野に属するものである。そうすると、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することは、当業者にとって容易である。
そして、引用発明において、「多相交流モータを駆動するインバータへの駆動信号」は、前記シングルチップマイクロコンピュータがPWM変調して出力するものであるから、本願発明4の「モータを駆動するモータ駆動波形であるPWM波形」に相当し、引用発明の「シングルチップマイクロコンピュータ」は、本願発明4の「モータ制御部」と、「前記モータを駆動するモータ駆動波形であるPWM波形を生成する」点で一致する機能を奏する。
本願の明細書及び図面を参照すると、明細書段落0041に、モータ制御演算回路6及びモータ波形出力回路7がモータ制御部となることが記載され、明細書段落0064?0067及び図5に、モータ制御演算回路6によって、慣用されているいわゆるベクトル制御を行うことが記載されている。ベクトル制御における2相3相変換の演算にあたっては、当然、モータの回転角が用いられるから、結果として、モータ制御部は、モータ駆動波形であるPWM波形を生成するにあたり前記モータの回転角を用いることになるが、本願の明細書及び図面には、これ以外に、前記モータ制御部が前記モータ駆動波形を生成するにあたり前記モータの回転角を用いることは記載されていない。そうすると、本願発明4において、前記モータ制御部が行う「前記モータの回転角によってモータ駆動波形の形状を切り替える制御」は、前記ベクトル制御を意味すると解することができる。そして、引用発明も、前記シングルチップマイクロコンピュータが、前記多相交流モータに発生させるトルク指令値を演算し、前記トルク指令値に基づいて、ベクトル演算により前記多相交流モータに通電する電流指令ベクトルを演算し、前記電流指令ベクトル、U相電流信号、W相電流信号及びロータ位置信号に基づき、前記多相交流モータを駆動するインバータへの駆動信号をPWM変調して出力しているから、いわゆるベクトル制御を行っており、引用発明の「ロータ位置」は、本願発明4の「モータの回転角」に相当する。そうすると、本願発明4の「シングルチップマイクロコンピュータ」は、本願発明4の「モータ制御部」と、「前記モータの回転角によってモータ駆動波形の形状を切り替える制御を行う」点でも一致する機能を奏する。
また、引用発明は、前記のとおり、前記シングルチップマイクロコンピュータが、前記多相交流モータに発生させるトルク指令値を演算し、前記多相交流モータを駆動するインバータへの駆動信号をPWM変調して出力するにあたり、ロータ位置信号を用いるものである。そして、ハードウェア処理において、レゾルバ値補正演算部により、R/Dコンバータがレゾルバ信号を変換したデジタル信号をカウントアップした誤差を含むレゾルバ値を逐次補正してモータの駆動制御に用いられるモータの回転角を算出することは、周知である(例えば引用例3参照)。
更に、低速時にはソフトウェア処理により制御を行い、高速時には専用ハードウェアにより制御を行うためには,モータの回転速度が低速か高速かを判定する手段が必要となることは明らかであり、モータの回転速度が低速か高速かの判定を、前記モータの回転数が所定の判定境界値よりも低い場合に低速と判定し、該判定境界値よりも高い場合に高速と判定することは、慣用手段である。
そうすると、引用発明に引用例2に記載された技術を適用し、引用発明において、半導体回路集積装置を、モータの回転速度に応じて、モータ駆動波形をCPUによるソフトウェア処理により生成するか、ハードウェア処理により生成するかを切り替え可能に構成し、前記回転速度が前記判定境界値より高い期間は、前記CPUによるソフトウェア処理により、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御することに代えて、専用ハードウェアにより、前記モータ駆動波形の周波数を制御することで前記モータの回転トルクの増減を制御するようにするにあたり、該専用ハードウェアを、本願発明4の「モータ回転速度判定回路」、「レゾルバ値補正演算部」及び「モータ制御部」に相当するものを包含して構成することは、当業者が通常発揮する創作能力の範囲内のものである。
してみれば、引用発明において、相違点に係る本願発明4を特定する事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、本願発明4の奏する効果に、引用例1及び引用例2に記載された事項及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
したがって、本願発明4は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願は、本件先行補正が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明4は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、更に他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-25 
結審通知日 2018-10-02 
審決日 2018-10-15 
出願番号 特願2015-85949(P2015-85949)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02P)
P 1 8・ 537- WZ (H02P)
P 1 8・ 537- WZ (H02P)
P 1 8・ 575- WZ (H02P)
P 1 8・ 536- WZ (H02P)
P 1 8・ 57- WZ (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 耕作上野 力  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 中川 真一
久保 竜一
発明の名称 モータ駆動方法およびモータ制御方法  
代理人 特許業務法人筒井国際特許事務所  

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