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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1346699
審判番号 不服2017-18785  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-19 
確定日 2018-11-29 
事件の表示 特願2013-141238「反射膜、反射鏡、及び投射光学系」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月22日出願公開,特開2015- 14701〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成25年7月5日の出願であって,平成29年3月28日付けで拒絶理由が通知され,同年4月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年9月22日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,同年12月19日に請求されたものである。


2 本件出願の請求項1に係る発明
本件出願の請求項1に係る発明は,平成29年4月21日提出の手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)後の請求項1に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「反射鏡の基体表面に形成される反射膜であって,
前記反射鏡の前記基体側から順に,金属反射膜層,増反射膜層,を少なくとも有する多層膜構造であり,
前記増反射膜層Yは,10 ≦ Y ≦ 50層の範囲で積層した多層膜であることを特徴とする反射膜。」(以下,「本件発明」という。)


3 原査定の拒絶の理由の概要
本件発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略,次の理由(以下,「査定理由」という。)を含んでいる。

本件発明は,引用文献2(特開2006-133331号公報)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


4 引用例
(1)引用文献2
ア 引用文献2の記載
査定理由で引用された引用文献2(特開2006-133331号公報)は,本件出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関連する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,特に基材がプラスチック材で構成され,高い反射率を有する光反射鏡,その製造方法およびプロジェクターに関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0003】
近時,大画面,例えば対角70インチから100インチの画面を有する背面型プロジェクターが研究されている。このような大画面を有する背面型プロジェクターでは,・・・(中略)・・・投写レンズとスクリーンとの間にミラーを配置し,筺体の奥行きを小さくするようになっている。
【0004】
しかし,投写レンズとスクリーンとの間に配置されるミラーとして,ガラス製の表面反射ミラーを使用すると,大画面の背面型プロジェクターにおいて,ミラーの面積は1.5m×1.1m以上となる。しかも,ガラスは脆く,割れやすいため,厚さを5mm以上にすると,ミラーの重さが20kg以上になり,装置全体では100kg以上にもなるという問題点が生じる。
・・・(中略)・・・
【0006】
一方,背面型プロジェクターは,より一層の薄型化が要求されている。・・・(中略)・・・
【0007】
これに対して,近時提案されている薄型化された背面型プロジェクターでは,図10に示すように,光学エンジン22から投写された画像を非球面ミラー24を用いて斜め投写し,これを背面ミラー25で反射してスクリーン23に画像を表示する。このため,・・・(中略)・・・プロジェクターの厚みL2も200mm以下に薄型化することが可能になる。・・・(中略)・・・
【0008】
ところが,非球面ミラー24や背面ミラー25という複数の反射鏡で画像を順次反射させながら投写するため,各反射鏡の反射率が高くないと,スクリーン23に表示される画像は暗いものとなる。従って,軽量で反射率が96%以上の反射鏡が要望されている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は,軽量で安価なプラスチック基材を用いて簡単に製造でき,しかも反射率の高い光反射鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,プラスチック基材の表面に,銀を含む反射膜を被着させた光反射鏡において,反射膜表面の反射率を96%以上にすることに成功した。
【0013】
すなわち,本発明の光反射鏡は,以下の構成からなる。
(1)熱変形温度が130℃以上であるプラスチック基材の表面に,銀を含む反射膜を形成して構成され,前記反射膜表面のPV(peak to valley)値が0.5μm以下で,かつ鋭角な突起のない,なめらかな面であり,前記反射膜表面の反射率が96%以上であることを特徴とする光反射鏡。
・・・(中略)・・・
(7)前記反射膜の表面に反射増加膜が形成されていることを特徴とする(1)?(6)のいずれかに記載の光反射鏡。
(8)前記反射増加膜が,Y_(2)O_(3),MgF_(2),LaTiO_(3),La_(2)Ti_(3)O_(8),SiO_(2),TiO_(2)およびAl_(2)O_(3)からなる群より選ばれる化合物から形成される2層以上の透明誘電体層であることを特徴とする(7)載の光反射鏡。
(9)前記反射増加膜が,反射膜表面に,少なくとも高屈折率の透明誘電体層と低屈折率の透明誘電体層とを積層して形成されていることを特徴とする(7)または(8)記載の光反射鏡。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0015】
本発明の光反射鏡は,熱変形温度が130℃以上であるプラスチック基材の表面に,銀を含む反射膜を被着させて構成されるため,たとえ大判,例えばA5版程度の大きさであっても,軽量で安価に製造でき,しかも反射膜表面はPV値が0.5μm以下で,かつ鋭角な突起のない,なめらかな面であり,反射率が96%以上であるので,薄型の背面プロジェクター,特に薄型で大画面の背面プロジェクターに使用される非球面ミラーおよび平面ミラーとして使用するのに適している。」

(イ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光反射鏡は,熱変形温度が130℃以上であるプラスチック基材の表面に,銀を含む反射膜を被着させて形成される。
【0018】
使用されるプラスチック基材は,その熱変形温度を考慮すると熱硬化性樹脂成形品が使用可能である。このような熱硬化性樹脂成形品としては,熱変形温度が130℃以上であれば特に限定されるものではなく,例えば不飽和ポリエステル,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ポリカーボネートなどの各種の熱硬化性樹脂が使用可能である。特に不飽和ポリエステル樹脂を使用するのが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0032】
本発明におけるプラスチック基材は,前記熱硬化性樹脂組成物を金型内に注入し,135?180℃の温度で加熱硬化させて成形される。・・・(中略)・・・
【0036】
次に,得られたプラスチック基材の表面に,銀を含む反射膜を形成する。このとき,プラスチック基材の表面に,後述する方法によって銀を含む反射膜を直接形成してもよく,あるいは反射膜と基材との間に密着性向上膜を介在させてもよい。さらに,前記反射膜の表面に,2層以上の反射増加膜を形成してもよい。反射増加膜は,例えば,反射膜表面に,少なくとも高屈折率の第一透明誘電体層と低屈折率の第二透明誘電体層とをこの順に積層した膜が挙げられるが,積層順序は特に制限されない。第二透明誘電体層の表面には,さらに高屈折率または低屈折率の透明誘電体層を積層(例えば高屈折率および低屈折率の透明誘電体層を交互に積層)することができる。なお,反射増加膜は,経済性を考慮すると,5層以下であるのがよい。
【0037】
以下,プラスチック基材の表面に,密着性向上膜,反射膜および反射増加膜をこの順に形成する場合について説明するが,反射膜のみの場合,密着性向上膜と反射膜とを形成する場合,反射膜と反射増加膜とを形成する場合についても同様にして適用可能である。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では,図1に示すように,プラスチック基材50の表面に,Cr,CrO,Cr_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),LaTiO_(3),La_(2)Ti_(3)O_(8),SiO_(2),TiO_(2)およびAl_(2)O_(3)から選ばれる少なくとも1種からなる密着性向上膜51と,銀を含む反射膜52と,Y_(2)O_(3),MgF_(2),LaTiO_(3),La_(2)Ti_(3)O_(8),SiO_(2),TiO_(2)およびAl_(2)O_(3)からなる群より選ばれる化合物から形成される第一透明誘電体層53および第二透明誘電体層54を含む反射増加膜とが前記基材50側からこの順に積層される。
・・・(中略)・・・
【0041】
銀からなる反射膜52は厚さが100?200nm,好ましくは70?130nmであるのが好ましい。反射膜52の厚さが100nm未満では,光が透過し易くなり反射率が低くなる。一方,反射膜52の厚さが200nmを超えても反射率が向上せず,また銀は材料コストがかかるため,反射膜52の厚さが不必要に厚いことは好ましくない。
【0042】
第一透明誘電体層53および第二透明誘電体層54は多層干渉層による高反射膜,すなわち反射増加膜を構成している。従って,これらの厚さはその屈折率および光の波長によって適宜決定される。また,第二透明誘電体層54の屈折率が第一透明誘電体層53の屈折率よりも大きい。例えば,第一透明誘電体層53にMgF_(2),第二透明誘電体層54にLa_(2)Ti_(3)O_(8)を用いて可視光領域で最高の反射率とする場合,第一透明誘電体層53の厚さは73nm程度であり,第二透明誘電体層54の厚さは60nm程度となる。
・・・(中略)・・・
【0047】
次に,反射鏡を作製する方法について説明する。・・・(中略)・・・
【0068】
密着性向上膜51の形成後,蒸発源20のボート1に蒸発材料9として銀材料を収容保持させ,密着性向上膜51の形成と同様にして,基材50上の密着性向上膜51の表面に銀層を形成させ,反射膜52を得る。このとき,酸素ガス等の反応性ガスを供給するための反応性ガス供給源23は使用されない。・・・(中略)・・・
【0069】
銀の反射膜52を形成した後,蒸発材料9としてMgF_(2)またはSiO_(2)をボート1に収容保持させ,密着性向上膜51の形成と同様にして,反射膜52の表面にMgF_(2)またはSiO_(2)からなる第一の透明誘電体層53を形成する。
【0070】
ついで,蒸発材料9としてLaTiO_(3),La_(2)Ti_(3)O_(8),SiO_(2),TiO_(2),Al_(2)O_(3)を使用して,密着性向上膜51の形成と同様にして,第一透明誘電体層銀層53の表面にLaTiO_(3),La_(2)Ti_(3)O_(8),SiO_(2),TiO_(2)およびAl_(2)O_(3)から選ばれる少なくとも1種からなる第二透明誘電体層54を形成する。」

(ウ) 「【実施例1】
【0084】
・・・(中略)・・・
【0085】
得られた熱硬化性樹脂組成物を圧縮成形用金型に投入し,50tトランスファ成形機(王子機械(株)製)にて圧縮成形を行い,厚さ2mmのプラスチック基材を得た。・・・(中略)・・・
【0086】
ついで,脱型したプラスチック基材の表面に加工を施すことなく,下記(i)?(iv)の順に各層を直接積層し,光反射鏡を作製した。
(i) 密着性向上膜51:チタン酸ランタンLaTiO_(3)(厚さ40nm)
(ii) 反射膜52:銀Ag(厚さ100nm)
(iii) 第一透明誘電体層53:フッ化マグネシウムMgF_(2)(厚さ73nm)
(iv) 第二透明誘電体層54:チタン酸ランタンLa_(2)Ti_(3)O_(8)(厚さ60nm)・・・(中略)・・・
【0094】
4.反射率
(1)可視光領域での反射率測定
可視光領域(波長:約350?750nm)での反射率を光度計((株)日立製作所製の分光光度計U-4000)にて測定した。その結果,反射率は98%であった。」

(エ) 「【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施形態にかかる光反射鏡を示す断面図である。
・・・(中略)・・・
【図1】



イ 引用文献2に記載された発明
引用文献2の【0013】(前記ア(ア)を参照。)に記載された(1)の光反射鏡(基体と反射膜からなる光反射鏡である。)における「反射膜表面の反射率が96%以上である」という構成が,光反射鏡の表面(反射膜上に反射増加膜が形成されている場合には当該反射増加膜の表面)の反射率が96%以上であるとの意味であることは,引用文献2に記載された唯一の実施例である「実施例1」(前記ア(ウ)を参照。)が,反射膜上に第一透明誘電体層及び第二透明誘電体層が形成されたものであり,かつ,当該実施例1において測定されているのが作製された光反射鏡の表面の反射率であり,反射膜の表面の反射率は測定されていないことから,明らかである。
したがって,前記ア(ア)ないし(ウ)で摘記した記載から,引用文献2には,【0013】に記載された(9)の光反射鏡の最良の形態に関し,光反射鏡中の反射膜と反射増加膜とにより構成された層構成として,次の発明が記載されていると認められる。

「熱変形温度が130℃以上であるプラスチック基材50の表面に形成された銀からなる反射膜52と,前記反射膜52の表面に形成された反射増加膜とにより構成された光反射鏡中の層構成であって,
前記反射膜52の表面のPV値が0.5μm以下で,かつ鋭角な突起のない,なめらかな面であり,
前記反射増加膜が,MgF_(2)またはSiO_(2)からなる低屈折率の第一透明誘電体層53と,LaTiO_(3),La_(2)Ti_(3)O_(8),SiO_(2),TiO_(2)およびAl_(2)O_(3)から選ばれる少なくとも1種からなる高屈折率の第二透明誘電体層54とを,交互に2層以上積層した多層干渉層による高反射膜であり,
前記反射増加膜側の表面の反射率が96%以上である,
光反射鏡中の層構成。」(以下,「引用発明」という。)

(2)本件出願当時の技術常識
ア 特開2000-34557号公報の記載
特開2000-34557号公報は,本件出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該特開2000-34557号公報には次の記載がある。
「【0002】・・・(中略)・・・近赤外線用反射鏡は,・・・(中略)・・・基材の表面に,必要によりAu膜をコートした基板(反射鏡の部材)上に,誘電体の多層膜(高屈折率材料の膜と低屈折率材料の膜とを交互に積層した増反射コーティング膜)をコーティングすることにより反射率を高めた構造となっている。・・・(中略)・・・増反射膜はそれぞれの膜の界面での反射を利用して反射率を高めている。従って界面が多いほど(膜の層数が多いほど)高反射率となる。また,界面での反射の大小は膜材料の屈折率の差で決まり,その差が大きいほど反射率は大きくなる。従来多用されている低屈折率膜材料であるSiO_(2)の屈折率は1.5,高屈折率膜材料であるTiO_(2),Ta_(2)O_(5)およびHfO_(2)の屈折率はそれぞれ2.2,2.1および1.9であり,99.0%以上の反射率を得るためには15層以上,99.5%以上の反射率を達成するためには21層以上が必要とされている。」

イ 特開2004-272245号公報の記載
特開2004-272245号公報は,本件出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該特開2004-272245号公報には次の記載がある。
「【0003】
より高い光線反射率を有する反射体を提供する為の手段のひとつとして,反射体表面に増反射層を設ける手法が古くから知られており,特開平11-2707号公報(特許文献1),特開2000-180848号公報(特許文献2)等の報告がある。
【0004】
増反射層は,低屈折率薄膜層と高屈折率薄膜層との繰り返し構成からなる。低屈折率薄膜層/高屈折率薄膜層なる構成を1組の繰り返し層として,反射層側に各組の低屈折率薄膜層が位置するように構成する。各層の厚みはλ/4nが最適とされている。ここでλは対象とする光の波長,nは各層の波長λの光線の屈折率である。増反射層が多くの繰り返し層からなればなるほど光線反射率は高くなる。」

ウ 特開2008-15312号公報の記載
特開2008-15312号公報は,本件出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該特開2008-15312号公報には次の記載がある。
「【0025】
本発明において,増反射膜の構成は,銀を含む金属層(B)上に,低屈折率透明薄膜層(C)及び高屈折率透明薄膜層(D)が形成されたものであり,(C),(D)各層の合計が2層以上であることが好ましい。好ましくは2層以上30層以下,より好ましくは2層以上,20層以下,更に好ましくは2層以上,10層以下である。
【0026】
低屈折率透明薄膜層(C),高屈折率透明薄膜層(D)の積層数が増えると,反射率は高くなる傾向にあるが,生産性やコストが問題となる場合があり,また低屈折率透明薄膜層(C)や高屈折率透明薄膜層(D)が僅かながら光を吸収する事による反射率低下が問題となる場合もある。」

エ 前記アないしウ等から把握される技術常識
前記アないしウで摘記した記載等からみて,低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜では,積層数を多くするほど,反射率を高めることができることは,本件出願の出願前に当業者における技術常識であったと認められる。


5 判断
(1)対比
ア 引用発明の「光反射鏡」,「プラスチック基材50」,「銀からなる反射膜52」及び「反射増加膜」は,それらの機能等からみて,本件発明の「反射鏡」,「基体」,「金属反射膜層」及び「増反射膜層」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明の「層構成」は,反射膜52と反射増加膜とにより構成されているから,その形態が「膜」状であることは明らかである。また,引用発明の「層構成」は,反射増加膜側の表面が,96%以上というきわめて高い反射率を有している。以上によれば,引用発明の「層構成」は,「反射膜」といえる。
しかるに,引用発明の「層構成」は,「光反射鏡」(本件発明の「反射鏡」に相当する。以下,「(1)対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に続く()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を指す。)の「プラスチック基材50」(基体)の表面に形成されたものであるから,引用発明は,「反射鏡の基体表面に形成される反射膜」であるという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明は,「プラスチック基材50」(基体)側から順に「銀からなる反射膜52」(金属反射膜層)と「反射増加膜」(増反射膜層)が積層された構成を有しているから,「反射鏡の前記基体側から順に,金属反射膜層,増反射膜層,を少なくとも有する多層膜構造であ」るという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 引用発明の「反射増加膜」(増反射膜層)は,第一透明誘電体層53と第二透明誘電体層54とを交互に2層以上積層したものであるから,本件発明の「増反射膜層」と,「多層膜である」点で共通する。

オ 前記アないしエに照らせば,本件発明と引用発明は,
「反射鏡の基体表面に形成される反射膜であって,
前記反射鏡の前記基体側から順に,金属反射膜層,増反射膜層,を少なくとも有する多層膜構造であり,
前記増反射膜層は,多層膜である反射膜。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件発明の「増反射膜層Y」が,「10 ≦ Y ≦ 50層の範囲で積層した」ものである(本件明細書の【0035】の記載等からみて,増反射膜層の積層数Yが,10以上50以下の範囲にあるとの意味と解される。)のに対して,
引用発明の「反射増加膜」の積層数は,2層以上であるものの,10層以上50層以下に特定されてはいない点。

(2)相違点1の容易想到性について
ア 引用文献2の【0036】(前記4(1)ア(イ)を参照。)には,反射増加膜の層数について,「経済性を考慮すると,5層以下であるのがよい。」と記載されている。

イ 一方で,前記4(2)エで認定したように,低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜では,積層数を多くするほど,反射率を高めることができることが,本件出願の出願前に当業者における技術常識であったと認められるところ,引用発明の「反射増加膜」は,当該技術常識における「低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した多層膜」にほかならない。
したがって,引用発明において,「反射増加膜」の層数を多くするほど,当該「反射増加膜」における反射率を高めることができ,引用発明全体における反射率を向上させることができることは,前記技術常識から,当業者が直ちに理解できることである。

ウ 前記ア及びイで述べた事項に照らせば,引用発明において,「反射増加膜」の層数を「2層以上」という範囲の中でいかなる値に設定するのかは,経済性を重視して,さほど高性能ではないものの低コストのものにするのか,それとも,性能を重視して,高コストではあるが高反射率のものにするのかといった観点から総合的に判断して,当業者が適宜決定すれば足りる設計事項というべきである。
そして,前記4(2)ア及びウで摘記した記載(前記4(2)アには,高反射率となる多層膜の例示として15層以上のものや21層以上のものが記載され,前記4(2)ウには,好ましい積層数として30層までのもの,20層までのもの,10層までのものが記載されている。)からみて,10層以上50層以下という範囲内の層数が,前記技術常識において想定される高反射率となる多層膜における積層数とは,異なる範囲にあるというわけでもない。
そうすると,引用発明において,高反射率のものとするために,「反射増加膜」の層数として,10層以上50層以下という範囲内の値を選択すること,すなわち,引用発明を,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者における通常の創作能力の発揮によりなし得たことと認められる。

(3)効果について
本件発明の効果は,引用文献2の記載や技術常識等に基づいて,当業者が予測できた程度のものであって,本件発明の進歩性の有無の判断を左右するほどの格別のものとは認められない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


6 むすび
本件発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-25 
結審通知日 2018-10-02 
審決日 2018-10-15 
出願番号 特願2013-141238(P2013-141238)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
清水 康司
発明の名称 反射膜、反射鏡、及び投射光学系  
代理人 荒船 良男  
代理人 荒船 博司  
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