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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F |
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管理番号 | 1346715 |
審判番号 | 不服2017-14358 |
総通号数 | 229 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-01-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-09-28 |
確定日 | 2018-11-30 |
事件の表示 | 特願2012-272476「インダクタンス素子及びノイズフィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月30日出願公開、特開2014-120518〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年12月13日の出願であって、平成28年10月20日付けで拒絶理由が通知され、同年12月22日付けで手続補正がなされたが、平成29年6月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成29年9月28日付けの手続補正書についての却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成29年9月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 平成29年9月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前(平成28年12月22日付け手続補正書参照。)に、 「少なくとも1つのトロイダルコアと、 第1棒状導体と、 第2棒状導体を備え、 前記第1、及び第2棒状導体は、中央部と、外部の回路と接続する両端部を有し、一方の端部が前記中央部の一端より長手方向と交差する方向へ曲がり、 前記トロイダルコアの内側に前記第1、及び第2棒状導体が前記中央部まで挿通され、 前記両端部が互いに離れているとともに、前記第1、及び第2棒状導体は、前記中央部と前記端部の間が、曲がり角がクランク状の経路で接続されていることを特徴とするインダクタンス素子。」 とあったものが、 「少なくとも1つのトロイダルコアと、 第1棒状導体と、 第2棒状導体を備え、 前記第1、及び第2棒状導体は、中央部と、外部の回路と接続する両端部を有し、一方の端部が前記中央部の一端より長手方向と交差する方向へ曲がり、 前記トロイダルコアの内側に前記第1、及び第2棒状導体が前記中央部まで挿通され、 前記両端部が互いに離れているとともに、前記第1、及び第2棒状導体は、前記中央部と前記端部の間が、曲がり角が鈍角となるクランク状の経路で接続されていることを特徴とするインダクタンス素子。」 と補正された。 上記補正は、本件補正前の請求項1において、第1、及び第2棒状導体の、中央部と端部の間を接続するクランク状の経路の曲がり角が「鈍角」となることの限定を付加したものである。 よって、本件補正は、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項の限定を目的にするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。 2.引用例 (1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-106861号公報(平成10年4月24日公開。以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。) ア.「ノイズを抑制するために、従来から種々のノイズフィルタが開発され、実用化されている。ノイズフィルタは、公知のように、例えば、金属ケース又はプリント配線基板上に受動部品であるL(コイル、インダクタ)C(コンデンサ)回路が実装され、必要に応じて、これらLC回路が実装された端子台またはプリント配線基板が直方体状のシールドケースにより遮蔽され、1個の電気部品として市場に提供されている。」(段落【0005】) イ.「従来のチョークコイルを用いたノイズフィルタは、図9に示すように、トロイダルコア100に絶縁被覆の銅線による撚り線電線102を所定ターン数、巻回して構成するようにしている。」(段落【0006】) ウ.「従来では、300A以上の大電流に対応させるために、図10に示すように、トロイダルコア100に導体としての銅板104を挿通させたものが提案され、実用化に至っている。」(段落【0010】) エ.「この他の従来例に係るチョークコイルにおいては、単に銅板104をトロイダルコア100に挿通しているのみである」(段落【0011】) 上記アないしエ、及び図10の記載によれば、引用例1には以下の事項が記載されている。 ・上記アないしエによれば、引用例1には、ノイズフィルタに実装されるL(コイル、インダクタ)C(コンデンサ)回路に用いられるチョークコイルの従来技術について記載されており、特に大電流に対応したチョークコイルとして、トロイダルコアに導線としての銅板を挿通させたものが記載されている。 ・図10によれば、チョークコイルは、トロイダルコア100の内側に、3本の導線としての銅板が中央まで挿通されたものである。 ・図10によれば、トロイダルコア100に挿通される銅板のうち2本は、中央部と両端部との間で長手方向と交差する方向に曲げられることで、銅板の両端部が互いに離れているものである。 .図10によれば、トロイダルコア100に挿通される銅板のうち2本は、中央部と両端部との間が交互に2か所曲げられており、このような交互に2か所曲げられた形状はいわゆるクランクと呼ばれる形状である。 そうすると、「チョークコイル」に着目し、上記摘示事項、及び、図10を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「ノイズフィルタに実装されるL(コイル、インダクタ)C(コンデンサ)回路に用いられるチョークコイルであって、 トロイダルコア100の内側に、3本の導線としての銅板が中央まで挿通され 銅板のうち2本は、中央部と両端部との間で長手方向と交差する方向に曲げられることで、銅板の両端部が互いに離れており、 前記銅板のうち2本は、中央部と両端部との間が、クランク状に曲げられている、 チョークコイル。」 (2)原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-114523号公報(平成5年5月7日公開。以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。) オ.「零相変流器を貫通する各相1次導体相互間の絶縁構造の従来例を図5および図6に示す。図5において、符号2は零相変流器を示し、ここには特に図示していないが、リング状の鉄心に2次巻線が巻装された後リング状の外装ケース内に収納されてなるドーナツ状のものである。符号3, 4,5はそれぞれR相, S相およびT相の1次導体であり、各相1次導体にそれぞれ架橋熱可塑性樹脂, 例えば架橋ポリエチレンからなる絶縁チューブ6, 7, 6をかぶせ、加熱して収縮させ、零相変流器2を貫通させた後、図6に示すように、ねじ8を用いて漏電遮断器のケース (以下、遮断器ケースまたは単にケースともいう) 1内に固定する。このとき、1次導体相互間の絶縁は絶縁チューブ6, 7, 6により保たれる。絶縁チューブ6, 7, 6の代わりに絶縁テープを使用する場合もある。」(段落【0002】) 上記オ及び図5、6の記載によれば、引用例2には、「リング状の鉄心に貫通させた3本の導体のうち2本は、両端部が互いに離れるように、中央部と端部との間が曲がり角が鈍角となるクランク状の経路で接続する」という技術的事項が記載されている。 (3)新たに引用する特開平1-282468号公報(平成1年11月14日公開。以下「引用例3」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。) カ.「第1図は本は罪の題1実施例の光学式変流器を説明するための図である。 図において、1は一次導体Lを取り巻く環状の磁気コアを示し」(第3ページ左上欄第17-20行目) キ.「この実施例は、三相の一次導体L_(1),L_(2),L_(3)を一括して変流器の一次側に貫通させたいわゆる零相変流器(ZCT)に本発明を適用したものである」(第4ページ右上欄第2-4行目) 上記カ、キ及び第2図の記載によれば、引用例3には、「磁気コアに貫通させた3本の導体のうち2本は、両端部が互いに離れるように、中央部と端部との間が曲がり角が鈍角となるクランク状の経路で接続する」という技術的事項が記載されている。 (4)新たに引用する実願昭58-145905号(実開昭60-55211号)のマイクロフィルム(昭和60年4月18日公開。以下「引用例4」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。) ク.「この負荷側導体7の中間部には変流器8及び零相変流器9が取り付けられて右端には端子導体10が接続されている」(第3ページ[注:ページ下部に(2)と記載されたページ]第15-17行目) 上記ク及び第3図、第4図、第6図の記載によれば、引用例4には、「3本の負荷側導体のうち2本を、両端部が互いに離れるように、中央部と端部との間が曲がり角が鈍角となるクランク状の経路で接続する」という技術的事項が記載されている。 3.対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ・引用発明の「トロイダルコア」は、本願補正発明の「トロイダルコア」に相当する。 ・本件補正発明のインダクタンス素子は、「第1棒状導体と、第2棒状導体を備え」るものであるが、本件請求項1に従属する請求項4では「さらに第3棒状導体を備え」る旨特定されていることを勘案すると、本件補正発明においては、棒状導体が第1棒状導体と第2棒状導体の2本であることに限定するものではないと認められる。よって、引用発明の「導線としての銅板のうち2本」は、本願補正発明の「第1棒状導体」と「第2棒状導体」に相当するということができる。 ・引用発明の「チョークコイル」は、ノイズフィルタに実装されるL(コイル、インダクタ)C(コンデンサ)回路に用いられるイものであり、L(コイル、インダクタ)に相当する素子であるから、本願補正発明の「インダクタンス素子」に相当する。 ・引用発明の「導線としての銅板」と本願発明の「第1、及び第2棒状導体」とは、トロイダルコイルの内側に中央部まで挿通される点で、一致している。 ・引用発明のチョークコイルは、ノイズフィルタに実装されるものであるから、導線としての銅板の両端部はノイズフィルタの回路に接続されるものであるといえる。よって、引用発明における「導線としての銅板」の両端部は、本願補正発明における「外部の回路と接続する両端部」に相当する。 ・引用発明における「導線としての銅板のうち2本」と本願発明の「第1、及び第2棒状導体」とは、両端部が「中央部と両端部との間で長手方向と交差する方向に曲げられ」ており、「両端部が互いに離れて」いる点、及び、「中央部と両端部との間が、クランク状に曲がっている」点で一致する。 しかしながら、本願補正発明は、第1、及び第2棒状導体におけるクランク状の経路の曲がり角が「鈍角」となるのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点で相違する。 よって、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。 <一致点> 「少なくとも1つのトロイダルコアと、 第1棒状導体と、 第2棒状導体を備え、 前記第1、及び第2棒状導体は、中央部と、外部の回路と接続する両端部を有し、一方の端部が前記中央部の一端より長手方向と交差する方向へ曲がり、 前記トロイダルコアの内側に前記第1、及び第2棒状導体が前記中央部まで挿通され、 前記両端部が互いに離れているとともに、前記第1、及び第2棒状導体は、前記中央部と前記端部の間が、曲がり角がクランク状の経路で接続されていることを特徴とするインダクタンス素子。」 <相違点1> 本願補正発明は、第1、及び第2棒状導体におけるクランク状の経路の曲がり角が「鈍角」となるのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点。 4.判断 上記相違点1について検討する。 引用例2ないし引用例4に記載されているように、複数の導体をコアに挿通させるにあたり、両端部が互いに離れるように、中央部と端部との間が曲がり角が鈍角となるクランク状の経路で接続することは、周知の技術事項である。 そして、引用発明と、引用例2ないし引用例4に記載の発明は、複数の導体をコアに挿通させてなる電子部品である点で共通するところ、引用発明における「導線としての銅板」においても、中央部と端部との間が曲がり角が鈍角となるクランク状の経路で接続されるようにすること、すなわち、相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 したがって、本願補正発明は、引用発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1ないし4から当業者が予測できる範囲のものである。 5.むすび 以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 上記のとおり、平成29年9月28日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年12月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。 「少なくとも1つのトロイダルコアと、 第1棒状導体と、 第2棒状導体を備え、 前記第1、及び第2棒状導体は、中央部と、外部の回路と接続する両端部を有し、一方の端部が前記中央部の一端より長手方向と交差する方向へ曲がり、 前記トロイダルコアの内側に前記第1、及び第2棒状導体が前記中央部まで挿通され、 前記両端部が互いに離れているとともに、前記第1、及び第2棒状導体は、前記中央部と前記端部の間が、曲がり角がクランク状の経路で接続されていることを特徴とするインダクタンス素子。」 2.引用例 原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明におけるクランク状の経路の曲がり角が「鈍角」となることの限定、すなわち、<相違点1>に係る構成を削除したものである。 そうすると、本願発明と引用例1に記載された発明とは相違点を有していないから、本願発明は、引用例1に記載された発明である。 なお、請求人は、審判請求書の【請求の理由】の「(3)拒絶理由の解消について」において、 「本願発明の構成が必要とされるような100A規模の大電流通電においては、引用文献1のように複数の金属板を組み合わせてボルト締結するような巻回部は、締結部の接触抵抗による発熱や、複数導線を収める構成時に必要となる導線間絶縁距離を確保するために大型化が不可避という本質的な課題を有します。したがって、本願発明と引用文献1では構成が異なるため、本願の独立請求項である請求項1、2は新規性、進歩性を有するものと思量します。」(下線は当審において付与した。) と主張しているが、当該主張は、引用文献1の段落【0022】以降に記載された【発明の実施の形態】に基づいてなされた主張であって、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の段落【0010】及び図10に記載の【従来の技術】に基づく主張ではない。(このことは、平成29年6月20日付けの拒絶査定においても指摘されている。) よって、請求人の上記主張は当を得ないものであって、採用できない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-09-26 |
結審通知日 | 2018-10-03 |
審決日 | 2018-10-16 |
出願番号 | 特願2012-272476(P2012-272476) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01F)
P 1 8・ 113- Z (H01F) P 1 8・ 575- Z (H01F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐久 聖子、馬場 慎、堀 拓也 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
酒井 朋広 田中 慎太郎 |
発明の名称 | インダクタンス素子及びノイズフィルタ |
代理人 | 佐々木 敬 |
代理人 | 池田 憲保 |