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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09D
管理番号 1346737
審判番号 不服2018-3552  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-12 
確定日 2018-12-18 
事件の表示 特願2017-126910「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法および積層体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月19日出願公開、特開2018- 62642、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月29日(優先権主張 平成28年10月3日、日本)の出願であって、平成29年9月12日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月5日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成30年3月12日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年4月19日付けで前置報告がされ、同年5月30日付け及び同年6月7日付けで刊行物等提出書が提出され、同年8月31日に審判請求人から前置報告に対する上申がされたものである。

第2 原査定の概要
1.原査定の概要は次のとおりである。
(進歩性)本願請求項1?8に係る発明は、以下の引用文献1?6に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2016-150942号公報
2.特開2016-150945号公報
3.特開2016-150943号公報
4.特開2016-150941号公報
5.特開2016-150944号公報
6.特開2011-225863号公報

2.また、なお書きとして、次の理由が指摘されている。
(サポート要件)請求項1-2では、印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)が3?40質量%であることの特定がされておらず、請求項1-2には、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえないことから、請求項1-2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなって、請求項1-2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

第3 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成29年3月3日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、請求項1及び2には、次のように記載されている。
「【請求項1】
炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、バイオマス由来成分とを含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程(1)と、
該工程(1)で得られたバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、溶剤とを、混合、分散し、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程(2)を含み、
前記溶剤が、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記バイオマス由来成分が、バイオマス由来のポリカルボン酸を含有するポリエステルポリオールを含み、かつ、
前記バイオマス由来の前記ポリカルボン酸が、コハク酸、セバシン酸、およびダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液中のポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1?13mgKOH/gであり、かつ、前記バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液中のポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000?100,000であることを特徴とする裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法であって、
当該裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を、グラビア印刷法によりフィルム基材層上に印刷塗膜としたとき、該印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)が3?40質量%となるように構成された、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法。
【請求項2】
フィルム基材層を準備する工程と、
該フィルム基材層の一方に、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、バイオマス由来成分とを含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を含み、
前記バイオマス由来成分が、バイオマス由来のポリカルボン酸を含有するポリエステルポリオールを含み、かつ、
前記バイオマス由来の前記ポリカルボン酸が、コハク酸、セバシン酸、およびダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1?13mgKOH/gであり、かつ、前記バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000?100,000である裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物からなる印刷層を作成するグラビア印刷工程と、
該印刷層上にラミネート層を作成する工程と、を含み、
前記グラビア印刷工程により作成された印刷層のバイオマス度(顔料を含まない)が3?40質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。」

第4 引用文献の記載、引用文献に記載された発明(引用発明)
1.引用文献の記載
(1)引用文献1について
引用文献1には、「グラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂、および
有機溶剤を含有するグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物であって、
下記(1)?(3)であることを特徴とするグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物。
(1)前記高分子ポリオールは、ポリエステルポリオールを前記高分子ポリオールに対して50重量%以上含有する。
(2)前記ポリエステルポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなる。
(3)前記ポリエステルポリオールの全グリコールは、2-メチル-1,3-プロパンジオールと、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとを前記ポリエステルポリオールの全グリコールに対してそれぞれ20重量%以上含有する。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は包装材料として用いられる各種プラスチックフィルム基材に対し、有用な印刷インキに用いられるグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物に関する。より詳しくは、ノントルエン系の溶剤系においても良好な印刷適性を示し、種々の印刷物性に優れたグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記状況を鑑み鋭意検討を重ねた結果、ポリウレタンウレア樹脂に使用するポリエステルポリオールの全グリコール中、2-メチル-1,3-プロパンジオールと、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとをそれぞれ20重量%以上含有するポリウレタンウレア樹脂組成物は、低温安定性が良好であり、さらに該ポリウレタンウレア樹脂組成物を使用したグラビア印刷インキは、ノントルエン系の溶剤系における印刷適性、ラミネート強度、耐ブロッキング性、レトルト適性の印刷物性がいずれも良好であることを見出し、本発明に至った。」
「【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物について説明する。
【0011】
本発明におけるポリウレタンウレア樹脂は、高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなる。つまり、ポリウレタンウレア樹脂の合成法は、まずプレポリマー反応として高分子ポリオールとジイソシアネート化合物を、必要に応じイソシアネート基に不活性な溶媒を用い、また、更に必要であれば触媒を用いて10?100℃の温度で反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、次いで、鎖延長反応としてウレタンプレポリマーと有機ジアミンとを、10?80℃で反応させる。プレポリマー反応および鎖延長反応の終点は、粘度測定、IR測定によるNCOピ-ク、滴定によるアミン価測定等により判断される。
【0012】
本発明でいう高分子ポリオールは、グラビアインキ用として周知のポリオールであり、重合反応や、縮合反応や、天然物などで入手でき、その多くは、平均重量分子量が400?10000のものである。
本発明における使用する高分子ポリオールとしては、高分子ポリオール中、ポリエステルポリオールを50重量%以上含有する。さらに、ポリエステルポリオールを70重量%以上であると好ましい。また、高分子ポリオール中、50重量%以下であれば、ポリエステルポリオール以外の高分子ポリオール、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトン等を用いることができ、それぞれ1種または2種以上を併用してもよい。ポリエステルポリオールの他に併用する高分子ポリオールとしては、耐ブロッキング性、版かぶり性の観点からポリエーテルポリオールが好ましく、さらにポリプロピレングリコールが好ましい。
【0013】
本発明におけるポリエステルポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなる。さらに、グリコールとしては、2-メチル-1,3-プロパンジオール(以下、MPOとも記載する)および3-メチル-1,5-ペンタンジオール(以下、MPDとも記載する)を共に含有し、それぞれ全グリコール中20重量%以上含有する。MPOを20重量%以上含有すると、ラミネート強度が良好となり、MPDを20重量%以上含有すると、耐ブロッキング性が良好となる。MPOおよびMPDをそれぞれ全グリコール中30重量%以上含有すると、さらに好ましい。
【0014】
なお、MPOおよびMPDは、MPOと、MPDと二塩基酸を一緒に反応させ、ひとつのポリエステルポリオール中にMPOおよびMPDを存在させても良いし、MPDを含まずMPOを含むポリオールと二塩基酸との反応からなるポリエステルポリオール、およびMPOを含まずMPDを含むポリオールと二塩基酸との反応からなるポリエステルポリオールの混合物として利用しても良い。
【0015】
上記範囲内であれば、MPO、MPD以外に、公知のグリコールを併用することもできる。例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4-ブチンジオール、1,4-ブチレンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、ソルビトール、ペンタエスリトール等が挙げられる。
【0016】
二塩基酸としては、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0017】
課題のひとつでもある包装内容物への溶出が課題となっている環状ジエステルは、ポリエステルポリオール生成時の副生成物として混入する。一般的に生成するポリエステルポリオールの炭素主鎖が長い方が、環状ジエステルの生成が容易となるため、本発明において、二塩基酸はアジピン酸が好ましい。」
「【0020】
本発明において、ポリウレタンウレア樹脂は、アミン価を有することが好ましい。ポリウレタンウレア樹脂のアミン価は1.0?13.0mgKOH/gであることが好ましく、この範囲内であると、ラミネート強度および耐ブロッキング性のバランスが取りやすい。」
「【0022】
本発明におけるポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量は10000?100000であることが好ましい。さらに好ましくは20000?60000である。重量平均分子量が10000?100000の範囲内であると、ラミネート強度および耐ブロッキング性のバランスが取りやすい。」
「【0023】
本発明におけるポリウレタンウレア樹脂組成物に使用される有機溶剤は、エステル系溶剤とアルコール系溶剤の混合溶剤を含む。エステル系溶剤としては、酢酸エチル、ノルマルプロピルアセテート、イソプロピルアセテート、イソブチルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど、アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロピルアルコール、ノルマルブタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶剤など公知の溶剤を使用することが好ましい。」
「【0027】
本発明におけるグラビア印刷インキは、顔料をバインダー樹脂等により分散機を用いて有機溶剤中に分散し、得られた顔料分散体にバインダー樹脂、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造できる。分散機としては一般に使用される、例えばローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いることができる。顔料分散体における顔料の粒度分布は、分散機の粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間、顔料分散体の吐出速度、顔料分散体の粘度などを適宜調節することにより、調整することができる。また、本発明においては顔料を含有しないメジウム等に関しても適用できる。」
「【0032】
本発明におけるグラビア印刷インキに使用される有機溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、ノルマルプロピルアセテート、イソプロピルアセテート、イソブチルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロピルアルコール、ノルマルブタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶剤、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤など、公知の溶剤を使用できる。近年、作業環境の観点からトルエン、キシレンといった芳香族有機溶剤や、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンといったケトン系溶剤を排除する要望があり、本発明の印刷インキ組成物では、これを排除した溶剤が好適に用いられる。」
「【0044】
<アミン価の測定方法>
試料を0.5?2g精秤する。(試料量:Sg)精秤した試料に中性エタノール(BDG中性)30mLを加え溶解させる。得られた溶液を0.2mol/lエタノール性塩酸溶液(力価:f)で滴定を行なう。溶液の色が緑から黄に変化した点を終点とし、この時の滴定量(AmL)を用い次の(式1)によりアミン価を求めた。
(式1) アミン価=(A×f×0.2×56.108)/S
【0045】
<数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の測定方法>
数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の測定は、昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「ShodexGPC System-21」を用いた。GPCは溶媒に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーであり、溶媒としてはテトロヒドロフラン、分子量の決定はポリスチレン換算で行った。」
「【0048】
(ポリエステルポリオールの合成)
[合成例1-1]
攪拌機、温度計、分水器および窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、2-メチル-1,3-プロパンジオール(以下MPOとも略す)9.546部、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(以下MPDとも略す)37.556部、アジピン酸52.896部、テトラブチルチタネート0.002部を仕込み、窒素気流下に230℃で縮合により生じる水を除去しながらエステル化を8時間行った。ポリエステルの酸価が15以下になったことを確認後、真空ポンプにより徐々に真空度を上げ反応を終了した。これにより水酸基価56.1mgKOH/g (水酸基価から算出される数平均分子量2000)、酸価0.3mgKOH/gのポリエステルポリオ-ル(A1)を得た。
【0049】
[合成例1-2?1-15]
表1の仕込み比にて、合成例1-1と同様の操作で、ポリエステルポリオール(A2?A15)を得た。
なお、合成には以下の原料を用いた。
MPO:2-メチル-1,3-プロパンジオール
BEPG:2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール
MPD:3-メチル1,5-ペンタンジオール
NPG:ネオペンチルグリコール
1,4-BD:1,4-ブタンジオール
1,6-HD:1,6-ヘキサンジオール
PG:1,2-プロピレングリコール
【0050】
【表1】(当審注:省略)
【0051】
(ポリウレタンウレア樹脂組成物の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、ポリエステルポリオ-ル(A1)22.887部、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIとも略す)5.087部、酢酸エチル7.500部、2 -エチルヘキサン酸スズ0.003部を仕込み、窒素気流下に120 ℃で6時間反応させ、酢酸エチル7.500部を加え冷却し、末端イソシアネートプレポリマーの溶液を得た。次いでイソホロンジアミン(以下IPDAとも略す)2.026部、酢酸エチル34.000部およびイソプロピルアルコール(以下IPAとも略す)21.000部を混合したものへ、得られた末端イソシアネートプレポリマーの溶液を室温で徐々に添加し、次に50℃で1時間反応させ、固形分30.0%、重量平均分子量35000、アミン価4.0mgKOH/樹脂1gのポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)を得た。
【0052】
[合成例2-2?2-19]
表2および表3の仕込み比にて、合成例2-1と同様の操作で、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B2?B19)を得た。
【0053】
【表2】(当審注:省略)
【0054】
【表3】(当審注:省略)
【0055】
(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体ワニスの調製)
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(日信化学工業株式会社製ソルバインTA5R)30部を、酢酸エチル70部に混合溶解させて、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体ワニスを調整した。
【0056】
(藍色印刷インキ組成物の調製)
[実施例1]
銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー株式会社製LIONOL BLUE FG-7330)12.0部、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)10.0部、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体ワニス10.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))10.0部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)20 .0 部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))38.0部を攪拌混合し、藍色印刷インキ(C1)を得た。」
「【0065】
[レトルト適性]
上記のPETフィルムの印刷物に、ドライラミネート用接着剤(東洋モートン株式会社製TM-550/CAT-RT37)を塗工し、ライン速度40m/分でドライラミネート機を用いて、CPPフィルム(東レ株式会社製ZK93KM)と張り合わせ、ラミネート物を得た。得られたラミネート物は40℃で48時間エージングを行った。その後、CPP面を内側としてヒートシール(温度:190℃、圧:2kgf、時間:1秒)して袋体を作り、得られた袋体に、1:1:1スープ(ケチャップ:酢:水=重量比で1:1:1)を充填し、120℃30分のレトルト処理を行い、外観の変化を以下の基準で目視評価した。○が実用レベルである。
○:外観に変化は見られなかった。
×:外観にブリスター痕またはラミネート浮きが見られた。」

(2)引用文献6について
引用文献6には、「バイオポリウレタン樹脂」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しいポリウレタン樹脂に関する。さらに詳しくは、地球温暖化対策や環境負荷低減を目的としたカーボンニュートラルに大きく貢献する、植物由来の原料利用率(含有量)の高いバイオポリウレタン樹脂に関する。本発明のバイオポリウレタン樹脂は、従来のポリウレタン樹脂と同様に、各種コーティング剤、インキ、塗料などのバインダーや、フィルム、シート、フォームおよび各種成形物などへの使用が期待される。」
「【0011】
本発明は、以上のような従来型技術における種々の問題に鑑みてなされたものである。その目的は、植物由来の原材料を高い比率で使用したバイオポリウレタン樹脂において、これを適用した場合に、各種コーティング剤、各種塗料、印刷インキ、成形体、フィルム、シート類に要求されている耐久性や、その性能などが従来のものと遜色がないか、或いはむしろ向上させることができ、しかも、環境問題に対する対応策ともなるエコロジー素材であるバイオポリウレタン樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、植物由来の短鎖ジオール成分(a)と、石油由来のカーボネート成分(b)又は植物由来のカルボン酸成分(c)とを用いて合成されてなる、バイオポリカーボネートポリオール(A)又はバイオポリエステルポリオール(B)、植物由来の短鎖ジオール成分(a)を用いて合成されてなるバイオポリエーテルポリオール(C)、のいずれかのポリオールと、イソシアネート成分(d)とを反応させてなるバイオポリウレタン樹脂であって、上記バイオポリウレタン樹脂100質量%に対して植物由来成分の含有量が28?95質量%であることを特徴とするバイオポリウレタン樹脂を提供する。
【0013】
本発明の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
さらに、必要に応じて、植物由来の短鎖ジオール成分(a)或いは石油由来のジオール成分および/またはジアミン成分(e)を反応成分として含む上記バイオポリウレタン樹脂。
前記(a)、(A)、(B)、(C)および(e)の各成分の合計の全活性水素含有基と、前記(d)成分のイソシアネート基とを、0.9?1.5の当量比で反応させて得られる上記バイオポリウレタン樹脂。
前記短鎖ジオール成分(a)が、植物由来の、エチレングリコール、1,3-プロパンジオールおよび1,4-ブタンジオールから選ばれる少なくとも1種である上記バイオポリウレタン樹脂。
前記カルボン酸成分(c)が、植物由来のひまし油誘導体からなるセバシン酸および/または植物由来のコハク酸である上記バイオポリウレタン樹脂。
前記カーボネート成分(b)が、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチレンカーボネートおよびジフェニルカーボネートから選ばれる少なくとも1種である上記バイオポリウレタン樹脂。
前記イソシアネート成分(d)が、石油由来のイソシアネート(d1)または/および植物由来のイソシアネート(d2)であるバイオポリウレタン樹脂。
前記植物由来のイソシアネート(d2)が、植物由来のセバシン酸、スベリン酸、アゼライン酸、グルタル酸、コハク酸、ダイマー酸およびリシンのいずれから合成される上記バイオポリウレタン樹脂。
前記バイオポリウレタン樹脂の形態が、有機溶剤系、水系、100%ソリッド、ペレットまたはビーズのいずれかである上記バイオポリウレタン樹脂。
前記バイオポリウレタン樹脂の形態が、有機溶剤系であり、かつ、有機溶剤として、植物由来の有機溶剤を含有する上記バイオポリウレタン樹脂。
前記植物由来の有機溶剤が、エタノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチルおよび乳酸ブチルから選ばれる少なくとも1種である上記バイオポリウレタン樹脂。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、植物由来の原材料を高い比率で使用したバイオポリウレタン樹脂(以下、バイオウレタン樹脂とも呼ぶ)において、これを適用した場合に、各種コーティング剤、各種塗料、印刷インキ、成形体、フィルム、シート類に要求されている耐久性や、その性能などを向上させることができ、しかも、環境問題に対する対応策ともなるエコロジー素材であるバイオポリウレタン樹脂が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明のバイオウレタン樹脂は、植物由来の成分を高い比率で使用したことを特徴とする。より詳しくは、本発明のバイオウレタン樹脂は、植物由来の成分を用いて合成された下記に挙げるいずれかのポリオール成分と、植物由来のイソシアネートを用いることもできるイソシアネート成分とを反応させてなることを特徴とする。本発明を構成する植物由来の成分を用いて合成されてなるポリオール成分としては、下記のものが挙げられる。少なくとも植物由来の短鎖ジオール成分を用いて合成された植物由来のポリカーボネートポリオール(A)、或いは、植物由来の短鎖ジオール成分と、植物由来のカルボン酸成分とを用いて合成された植物由来のポリエステルポリオール(B)、或いは、植物由来の短鎖ジオール成分を用いて合成された植物由来のポリエーテルポリオール(C)のいずれかである。本発明で「ポリウレタン」とはポリウレタンおよびポリウレタン-ポリウレアの総称である。したがって、必要に応じてジアミン成分を用いて反応させたものであってもよい。また、本発明で言う「活性水素含有基」とは、イソシアネート基と反応性の、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基などの活性水素を有する官能基を意味する。」
「【0017】
本発明のバイオポリウレタン樹脂の形態は、有機溶剤系、水系、100%ソリッド、ペレット、ビーズなどのいずれのものでもよいが、下記に述べるように植物由来の成分を用いて合成されているため、環境に配慮した素材となる。また、有機溶剤系のバイオポリウレタン樹脂の場合に、有機溶剤として植物由来の有機溶剤を含有させるとよい。例えば、植物由来からなる短鎖ジオール成分(例えば、1,3-プロパンジオール成分や1,4-ブタンジオールやエチレングリコール)および/または植物由来の成分からなるポリオール成分を用いることが好ましく、この点からもCO2削減に寄与し得る。バイオウレタン樹脂の合成に使用する有機溶剤として、その一部に植物由来のもの(たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル)を用いれば、樹脂の構成成分だけでなく、溶剤成分についてもCO2排出量の削減に配慮した素材となる。他方、水系、100%ソリッド、ペレットおよびビーズの形態の場合は、VOC(揮発性有機化合物)対策の観点から、さらに地球環境に配慮した素材となる。」
「【0025】
バイオポリエステルポリオールであるポリオール(B)は、上記した短鎖ジオール(a)と共に、植物由来のカルボン酸成分(c)を原料として得られる。前記カルボン酸成分(c)としては、セバシン酸、コハク酸、乳酸、グルタル酸、ダイマー酸などが挙げられる。例えば、セバシン酸は、ひまし油(トウゴマの種子より抽出)から得られるリシノール酸をアルカリ熱分解することにより、ヘプチルアルコールを副生成物として生成される。」
「【0039】
また、本発明のバイオウレタン樹脂の合成は、無溶剤で合成しても、必要であれば有機溶剤を用いて合成してもよい。この場合に使用し得る好ましい有機溶剤としては、イソシアネート基に不活性であるか、または反応成分よりも低活性なものが挙げられる。例えば、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、芳香族系炭化水素溶剤(トルエン、キシレン、スワゾール(コスモ石油株式会社製の芳香族系炭化水素溶剤)、ソルベッソ(エクソン化学株式会社製の芳香族系炭化水素溶剤)など)、脂肪族系炭化水素溶剤(n-ヘキサンなど)、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル系溶剤(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなど)、グリコールエーテルエステル系溶剤(エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネートなど)、アミド系溶剤(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、ラクタム系溶剤(n-メチル-2-ピロリドンなど)が挙げられる。特に、本発明のバイオウレタン樹脂合成の際に用いる有機溶剤の一部に、植物由来のもの(エタノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなど)を用いることが好ましい。先に述べたように、このようにすれば、合成したバイオウレタン樹脂溶液全体としての植物由来比率を高めることができる。また、植物由来の有機溶剤を用いることで、使用した有機溶剤を回収して焼却処理する場合においても、CO_(2)排出量の削減に寄与し得ることになる。」
「【0043】
本発明のバイオポリウレタン樹脂は、植物由来成分の含有量が、28質量%以上95質量%以下、好ましくは39質量%以上95質量%以下となるように構成される必要がある。植物由来成分の含有量が多いほど、本発明の特徴であるカーボンニュートラルを実現することができる。本発明のバイオウレタン系樹脂の分子量は、その用途にもよるが、重量平均分子量(GPCで測定。標準ポリスチレン換算。)が2,000?500,000の範囲のものが好ましい。」
「【0088】
以上のようにして得られたバイオポリウレタン樹脂は、いずれも、ポリウレタン樹脂中に占める植物由来成分含有量(バイオ比率:BP)が高く、また、従来の石油原料由来のポリウレタン樹脂と比べて、各種の用途に十分に使用可能であった。すなわち、製品とした場合に、耐加水分解性、耐光性、耐熱性、接着強度、耐寒屈曲、耐磨耗性などにおいて従来品と遜色のないものが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のバイオウレタン樹脂の活用例としては、植物由来の原材料を高い比率で使用した環境問題に対する対応策ともなるエコロジー素材でありながら、各種コーティング剤、インキ、塗料などのバインダーとして、或いは、フィルム、シート、フォームおよび各種成形物などに適用した場合に従来品と遜色のない十分な性能を示し、従来使用されているポリウレタンの代替品として広範な製品への適用性が期待できる。」

2.引用文献に記載された発明(引用発明)の認定
(1)引用文献1に記載された発明(引用発明1)
ア 引用文献1の請求項2に係る「印刷インキ組成物」の製造方法について、【0027】には、「顔料をバインダー樹脂等により分散機を用いて有機溶剤中に分散し、得られた顔料分散体にバインダー樹脂、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造」することが記載されている。

イ 一方、【0056】には、上記請求項2に係る「印刷インキ組成物」の具体例である「藍色印刷インキ(C1)」の製造方法について、「[実施例1]」として、「銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー株式会社製LIONOL BLUE FG-7330)12.0部、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)10.0部、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体ワニス10.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))10.0部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)20 .0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))38.0部を攪拌混合し、藍色印刷インキ(C1)を得た。」という記載がある。

ウ そこで、【0027】の記載と上記「実施例1」に関する記載との対応関係を検討すると、【0027】の「顔料をバインダー樹脂等により分散機を用いて有機溶剤中に分散」する工程における「顔料」、「バインダー樹脂等」及び「有機溶剤」は、上記実施例1における、「銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー株式会社製LIONOL BLUE FG-7330)」、「塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体ワニス」及び「混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))」に対応することは明らかである。

エ また、【0027】の「得られた顔料分散体にバインダー樹脂、各種添加剤や有機溶剤等を混合」する工程における「バインダー樹脂」及び「有機溶剤等」は、上記実施例1における、「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」及び「混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))」に対応することも明らかである。

オ 上記ウ、エから、【0027】の「バインダー樹脂等」(上記ウ)と「バインダー樹脂」(上記エ)とは異なるものであってもよいことが理解できる。

カ そして、上記実施例1における「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」は、【0027】の「バインダー樹脂」に対応し(上記エ)、しかも、請求項1、2に記載された「ポリウレタンウレア樹脂」の具体例であるから、【0027】の「バインダー樹脂」は、請求項1、2に記載された「ポリウレタンウレア樹脂」に対応する。

キ 以上のことから、引用文献1には、その請求項1、2及び【0027】からみて、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂、及び有機溶剤を含有する、下記(1)?(3)であるグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物を用いた印刷インキ組成物の製造方法において、
顔料をバインダー樹脂等を用いて有機溶剤中に分散し、得られた顔料分散体に該グラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造するグラビア又はフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物を用いた印刷インキ組成物の製造方法。
(1)前記高分子ポリオールは、ポリエステルポリオールを前記高分子ポリオールに対して50重量%以上含有する。
(2)前記ポリエステルポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなる。
(3)前記ポリエステルポリオールの全グリコールは、2-メチル-1,3-プロパンジオールと、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとを前記ポリエステルポリオールの全グリコールに対してそれぞれ20重量%以上含有する。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 本願発明1の「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、バイオマス由来成分とを含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液」と、引用発明1の「高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂、及び有機溶剤を含有するグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物」とは、本願発明1における上記「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種」は有機溶剤といえることから、「有機溶剤と、ポリウレタンウレア樹脂を含有するのポリウレタンウレア樹脂溶液」である点で共通する。

イ 本願発明1の「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物」と、引用発明1の「グラビア又はフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物を用いた印刷インキ組成物」とは、「溶剤型グラビア印刷インキ組成物」である点で共通する。

ウ 引用発明1において、「ポリウレタンウレア樹脂、及び有機溶剤を含有するグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物」について、それを準備する工程を備えていることは明らかである。

エ 引用発明1の「顔料」及び「有機溶剤等」は、本願発明1の「色材」及び「溶剤」にそれぞれ相当する。
また、本願発明1の「該工程(1)で得られたバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、溶剤とを、混合、分散し、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程(2)」と、引用発明1の「得られた顔料分散体に該グラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造する」構成とは、本願発明1の「溶剤」は有機溶剤といえることから、「該工程(1)で得られたポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、有機溶剤とを、混合、分散し、溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程(2)」である点で共通する。

オ 以上のことから、本願発明1と引用発明1とは、
「有機溶剤と、ポリウレタンウレア樹脂を含有するポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程(1)と、
該工程(1)で得られたポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、溶剤とを、混合、分散し、溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程(2)を含む、
溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法。」である点で一致し、次の相違点1?5で相違が認められる。

(相違点1)
「ポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程(1)」において用いられる有機溶剤について、本願発明1では、「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種」であるのに対し、引用発明1の「グラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物」の「有機溶剤」の種類は不明な点。

(相違点2)
「ポリウレタンウレア樹脂」について、本願発明1では、「バイオマス由来成分とを含有するバイオマス由来」である点が特定され、しかも、バイオマス由来成分について、「バイオマス由来のポリカルボン酸を含有するポリエステルポリオールを含み、かつ、前記バイオマス由来の前記ポリカルボン酸が、コハク酸、セバシン酸、およびダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であ」る点が特定され、さらに、アミン価について、「1?13mgKOH/g」であり、かつ、重量平均分子量について、「10,000?100,000」である点が特定されているのに対し、引用発明1の「ポリウレタンウレア樹脂」は、バイオマス由来成分を含有するかどうかは不明であり、そのアミン価及び重量平均分子量は不明な点。

(相違点3)
「溶剤型グラビア印刷インキ組成物」の用途について、本願発明1は、「裏刷り用」であるのに対し、引用発明1の「印刷インキ組成物」について、裏刷りに用いられるかどうかは不明な点。

(相違点4)
「溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程(2)」において用いられる溶剤について、本願発明1では、「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種」である点が特定されているのに対し、引用発明1の「得られた顔料分散体に該グラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造する」際に用いられる「有機溶剤等」の種類は不明な点。

(相違点5)
「溶剤型グラビア印刷インキ組成物を、グラビア印刷法によりフィルム基材層上に印刷塗膜としたときの該印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)」について、本願発明1では、「3?40質量%となるように構成された」ものであるのに対し、引用発明1の「印刷インキ組成物」による印刷塗膜の「バイオマス度(顔料を含まない)」は不明な点。

(2)判断
事案に鑑み、まず、相違点4及び5について、相違点5、相違点4の順に検討する。
(相違点5について)
ア 引用文献1の【0012】には、「本発明でいう高分子ポリオールは、グラビアインキ用として周知のポリオールであり、重合反応や、縮合反応や、天然物などで入手でき、その多くは、平均重量分子量が400?10000のものである。」と記載されていて、この該「高分子ポリオール」は、引用発明1の「ポリウレタンウレア樹脂」に用いられた「高分子ポリオール」を指すとしても、「天然物」という記載では、具体的に何を示すのか明らかではなく、引用文献1には、引用発明1の「ポリウレタンウレア樹脂」として、「バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂」を用いるという技術思想は見い出すことはできない。
また、引用文献1の他の記載を検討しても、上記「高分子ポリオール」について、「バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂」を用いることについての示唆ないし記載は見当たらない。

したがって、引用発明1の「ポリウレタンウレア樹脂」として、「バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂」を用いることが、引用文献1に示唆されているということはできない。

イ 一方、引用文献6には、「バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂」といえる「バイオポリウレタン樹脂」について記載され、【0089】には「バイオウレタン樹脂の活用例としては、植物由来の原材料を高い比率で使用した環境問題に対する対応策ともなるエコロジー素材でありながら、各種コーティング剤、インキ、塗料などのバインダーして、或いは、フィルム、シート、フォームおよび各種成形物などに適用した場合に従来品と遜色のない十分な性能を示し、従来使用されているポリウレタンの代替品として広範な製品への適用性が期待できる。」と記載され、インキのバインダーとしての用途が一応示唆されているといえる。

ウ しかしながら、引用文献6の「バイオポリウレタン樹脂」をインキのバインダーに適用した具体例はなく、実際に、当該用途において、本来の特性を失うことなく使用可能であるかは明らかではない。ましてや、印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)をどの程度の範囲のものとするかについては、引用文献6には示されてない。

そうすると、引用文献6の記載を参酌しても、引用発明1のポリウレタンウレア樹脂バイオマス原料として所定のバイオマス度とする動機付けは見当たらず、仮に、引用発明1の「ポリウレタンウレア樹脂」として、引用文献6の「バイオポリウレタン樹脂」を採用することが可能だとしても、印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)の設定については当業者が格別な努力を要するものといえることから、上記相違点5に係る本願発明1の発明特定事項については、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

(相違点4について)
上記相違点5のウにおいて述べたように、引用文献6には、「バイオポリウレタン樹脂」をインキのバインダーに適用した具体例はなく、印刷インキ組成物として用いる際の溶剤の種類は不明というほかない。

そうすると、引用発明1の「得られた顔料分散体に該グラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造する」際に用いられる「有機溶剤等」において、引用文献6の記載を参酌しても、本願発明1のような「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種」を採用する根拠は見当たらない。

したがって、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項については、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

(まとめ)
本願発明1は、上記相違点4及び5に係る本願発明1の発明特定事項を備えることで、インキ組成物に使用する樹脂として、バイオマス由来成分を含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を用いた場合において、該樹脂の特性として、インキ組成物としての安定性を十分保持でき、印刷時の印刷適性を損なわず、裏刷り印刷に必要な印刷塗膜の耐ブロッキング性、フィルム密着性、耐溶剤性、耐版詰まり性を有し、さらにラミネート性が良好で、ラミネート層が形成された積層体となったときの耐熱水処理性を有する印刷塗膜(本願明細書【0019】)を製造することができるという、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。

したがって、上記相違点1?3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用文献6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

2.本願発明2について
(1)対比
上記2(1)の引用発明1で述べたように、引用文献1には、その請求項2に記載された「ポリウレタンウレア樹脂組成物を用いてなる印刷インキ組成物」が記載され、【0001】等の記載を参照すれば、「該印刷インキ組成物を用いてグラビア印刷によって印刷物を作成する印刷物の作製方法」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明2と引用発明2とを対比すると、本願発明1について述べたことから明らかなように、両者は、
「溶剤と、ポリウレタンウレア樹脂を含む溶剤型グラビア印刷インキ組成物からなる印刷層を作成するグラビア印刷工程を含む、
印刷物の製造方法。」である点で一致し、次の相違点2-1?2-6で相違が認められる。
(相違点2-1)
本願発明1は、「フィルム基材層を準備する工程」を備えているのに対し、引用発明2の「印刷物」は、フィルム基材層を備えたものかどうかは不明な点。

(相違点2-2)
「溶剤」について、本願発明1は、「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種」であるのに対し、引用発明2の「有機溶剤等」の種類は不明な点。

(相違点2-3)
「ポリウレタンウレア樹脂」について、本願発明2では、「バイオマス由来成分とを含有するバイオマス由来」である点が特定され、しかも、バイオマス由来成分について、「バイオマス由来のポリカルボン酸を含有するポリエステルポリオールを含み、かつ、前記バイオマス由来の前記ポリカルボン酸が、コハク酸、セバシン酸、およびダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であ」る点が特定され、さらに、アミン価について、「1?13mgKOH/g」であり、かつ、重量平均分子量について、「10,000?100,000」である点が特定されているのに対し、引用発明2の「ポリウレタンウレア樹脂」は、バイオマス由来成分を含有するかどうかは不明であり、そのアミン価及び重量平均分子量は不明な点。

(相違点2-4)
「溶剤型グラビア印刷インキ組成物」の用途について、本願発明2は、「裏刷り用」であるのに対し、引用発明2の「印刷インキ組成物」について、裏刷りに用いられるかどうかは不明な点。

(相違点2-5)
本願発明2は、「印刷層上にラミネート層を作成する工程」を備えているのに対し、引用発明2は、このような工程を備えているかどうかは不明な点。

(相違点2-6)
「溶剤型グラビア印刷インキ組成物を、グラビア印刷法によりフィルム基材層上に印刷塗膜としたときの該印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)」について、本願発明2では、「3?40質量%となるように構成された」ものであるのに対し、引用発明2の「印刷インキ組成物」による印刷層の「バイオマス度(顔料を含まない)」は不明な点。

(2)判断
上記相違点2-2及び2-6は、それぞれ、上述した相違点4及び5と実質的に同一であり(1.(1))、上述した理由と同様な理由から(1.(2))、上記相違点2-2及び2-6に係る本願発明2の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そうすると、上記相違点2-1、2-3?2-5について検討するまでもなく、本願発明2は、引用発明2及び引用文献6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

3.その他の文献について
(1)原査定で引用された引用文献2?5には、いずれも、引用発明1と同様に、「グラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物」(発明の名称)が記載されていると認められるものの、本願発明1、2において用いられたポリウレタンウレア樹脂のようなバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を、印刷インキ組成物として用いることについての具体的な記載は見出すことができない。

よって、本願発明1、2と引用文献2?5に記載された発明とを対比すると、少なくとも上述の相違点4及び5(相違点2-2及び2-6)と同様な相違点があり、上記第5 1.(2)で検討したとおり、引用文献6の記載を参酌しても、本願発明1、2が当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

(2)また、平成30年5月30日付けの刊行物等提出書において引用された特開2015-96621号公報、同年6月7日付けの刊行物等提出書において引用された特開2016-150942号公報(原査定の引用文献1)、特開2016-150945号公報(原査定の引用文献2)、特開2016-150943号公報(原査定の引用文献3)、特開2016-150941号公報(原査定の引用文献4)、特開2016-150944号公報、特開2011-225863号公報(原査定の引用文献5)、特開2015-160949号公報、特開2014-5415号公報、特開2011-225851号公報にも、本願発明1、2において用いられたポリウレタンウレア樹脂のようなバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を、印刷インキ組成物として用いることについての具体的な記載は見出すことができない。

(3)したがって、これらの文献の記載を考慮したとしても、本願発明1及び2は、引用発明1又は2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

第6 サポート要件について
補正により請求項1及び2において、印刷塗膜中又は印刷層のバイオマス度(顔料を含まない)が3?40質量%であることの特定がされたから、本願発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものでないということはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、引用発明1又は2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものでないということはできない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-03 
出願番号 特願2017-126910(P2017-126910)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C09D)
P 1 8・ 537- WY (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 貴浩  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 川端 修
木村 敏康
発明の名称 裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法および積層体の製造方法  
代理人 速水 進治  

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