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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61G
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61G
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A61G
管理番号 1346744
異議申立番号 異議2018-700330  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-16 
確定日 2018-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6216009号発明「歯科用診療装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6216009号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項9について訂正することを認める。 特許第6216009号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6216009号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6216009号の請求項1及び9に係る特許についての出願は、平成28年7月13日に特許出願され、平成29年9月29日にその特許権の設定登録がされ、平成29年10月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年4月16日に特許異議申立人松本征二(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年7月3日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年8月31日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

平成30年8月31日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、それぞれ「本件明細書」、「本件特許請求の範囲」といい、図面を含めて「本件明細書等」という。)を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

(1)訂正事項1

本件特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(2)訂正事項2

本件明細書の段落【0017】を削除する。
訂正事項2の明細書の訂正は、請求項9に関係するものであり、本件訂正請求は、請求項9を対象とするものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、請求項9を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

また、訂正事項2は、上記(1)で判断したところによれば、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

3 小括

以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項9について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求が認められ、特許異議の申立ての対象となる請求項9に係る特許は削除されたため、特許異議の申立ての対象として存在するものは、請求項1に係る特許のみとなる。

請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、本件特許請求の範囲の請求項1に記載した事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
歯科診療に供される歯科用診療装置であって、
操作手段と、
術者が前記操作手段を操作した内容を記憶手段に記録する操作検知記録手段と、
予め定められた異常を検知すると異常の内容を前記記憶手段に記録する異常検知記録手段と、
を備え、
複数若しくは単数の術者毎に又は患者毎に対応可能な動作モードを有し、
前記操作検知記録手段は、術者毎に又は患者毎に前記操作手段を操作した操作内容及び術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録し、
前記異常検知記録手段は、予め定められた異常を検知すると異常の内容及び術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録することを特徴とする歯科用診療装置。」

2 取消理由の概要

請求項1に係る特許に対しては、取消理由を通知していない。
訂正前の請求項9に係る特許に対して平成29年8月8日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1

本件特許は、その特許請求の範囲の請求項9の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないため、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。

(2)取消理由2

本件特許の請求項9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。



刊行物1:特開2013-42903号公報
刊行物2:特開2009-273718号公報

上記刊行物1及び2は、申立人が証拠として提出した甲第1及び4号証である。

3 判断

上記第2のとおり、本件訂正請求が認められ、特許異議の申立ての対象となる請求項9に係る特許は削除されたため、かかる請求項9に対する取消理由1及び2は存在しなくなった。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

上記1でも述べたとおり、特許異議の申立ての対象として存在するものは、請求項1に係る特許のみであるため、以下、請求項1に係る発明に対する特許異議申立理由について検討する。

申立人は、特許異議申立書において、以下の旨主張する。

理由1 請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決する手段が反映されていないため、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない。

理由2 請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?8号証に示される周知技術から、あるいは、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?9号証に示される周知技術から、当業者が容易に想到しうる発明であり、同法第29条第2項の要件を満たさない。

甲第1号証:特開2013-42903号公報
甲第2号証:特開平6-78919号公報
甲第3号証:特開2007-37687号公報
甲第4号証:特開2009-273718号公報
甲第5号証:特開2016-67532号公報
甲第6号証:特開平9-114903号公報
甲第7号証:特開2015-230631号公報
甲第8号証:特開2016-42231号公報
甲第9号証:特開2004-105533号公報

(1-1)理由1について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決 平成17年(行ケ)第10042号参照)。

以下、この観点に立って検討する。

申立人は、理由1の根拠として、特許異議申立書23頁4行?25頁4行の「3(4)エ(ア)」において、「本件特許発明1...の課題は、歯科用診療装置にて発生する不具合に対して修理を容易にさせることである。そうすると、異常検知記録手段が記録する異常は、歯科用診療装置が検知する様々な異常のうち、修理にかかわる異常でなければならず、少なくとも、歯科用診療装置が検知できる様々な異常のすべてではなく、そのうちの一部の異常のみに限ったものでなければならない。しかしながら、構成要件Dは、『予め定められた異常』としか記載していないため、『歯科用診療装置が検知する、ありとあらゆるすべての異常』が異常検知記録手段の記録対象となり得る」ことを挙げている。
確かに、申立人の主張するとおり、発明の詳細な説明の段落【0006】には、「歯科用診療装置にて発生する不具合に対して修理を容易にさせることのできる歯科用診療装置を提供すること」が記載されているものの、段落【0018】の「不具合発生以前に術者の操作履歴を記録しておくので不具合の再現性を高めることができる。」という【発明の効果】の記載をも考慮すれば、【発明が解決しようとする課題】は、段落【0005】に記載された「単なる異常発生情報しか取得できていないときには、歯科用診療装置に
発生した不具合をサービスマンが現場で修理する場合、不具合を再現しようとしても、どのような条件で不具合が発生したのか不明である」こと(以下「本件課題」という。)であるといえる。
そして、当業者が本件課題を解決できると認識できるためには、「発生した不具合」と「どのような条件で不具合が発生したのか」を関連づけて記憶する構成であれば足り、「発生した不具合」である「予め定められた異常」の内容を、修理にかかわる異常とすることまでは要しないといえる。
そこで、本件発明1について検討すると、特許請求の範囲の請求項1には、「予め定められた異常を検知すると異常の内容を前記記憶手段に記録する異常検知記録手段」を備え、「前記異常検知記録手段は、予め定められた異常を検知すると異常の内容及び術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録する」構成が記載されており、「発生した不具合」と「どのような条件で不具合が発生したのか」を関連づけて記憶することが特定されているといえることから、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないとはいえないものである。

(1-2)理由2について
ア 甲号証の記載事項等
(ア)甲第1号証の記載事項等
甲第1号証には、以下の事項等が記載されている。
(1a)
「【請求項1】
被検体を撮像する画像診断装置であって、
前記画像診断装置は、
前記被検者の撮像開始から撮像終了までの一連の第1シーケンスの内、1つ1つの操作をA(1)操作からA(n)操作からなるA(i)操作として記憶し、且つ前記第1シーケンスと異なる第2シーケンスに対しても同様に前記A(i)操作を記憶する操作記録部と、
前記A(i)操作をm個の操作ごとのブロックにまとめるブロック化手段と、
前記ブロック化されたm個の操作に基づいて、A(i)操作に続くA(i+1)操作の確率を計算する確率計算部と、
前記A(i)操作を表示する表示部と、
前記A(i)操作の操作がなされた後、前記確率が計算された一番高い確率のA(i+1)操作を前記表示部に表示させる表示制御部と、
を備える画像診断装置。
但し、i及びnは自然数、mは自然数でn>m>1を満たす。
・・・
【請求項7】
前記画像診断装置に警告又はトラブルが生じた際に、前記表示制御部は、前記表示部に警告又はトラブルを解消させる、確率が一番高いA(i+1)操作を表示させるとともに次に確率が高いA(i+1)操作を表示させる請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の画像診断装置」

(1b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、操作ガイド機能を備える画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像診断装置を操作する操作者は、医師などの指示に適応する撮影方法を画像診断装置の数十から数百種類ある撮影方法のデータベースの中から選択している。操作者は、指示を満足させる撮影方法を選択するだけでなく、被検者の状態により複数の操作及び撮影の条件を変更するなどして最良の画像を作成している。」

(1c)
「【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態では磁気共鳴イメージング装置用の操作ガイド機能について説明する。しかし、操作ガイド機能は、X線CT装置、核医学装置又は超音波画像診断装置等の画像診断装置においても適用できる。
【0017】
<<第1実施形態>>
<磁気共鳴イメージング装置の構成>
図1は、第1実施形態の磁気共鳴イメージング装置10の概略構成図である。図1を参照して、第1実施形態の磁気共鳴イメージング装置10の構成及びその基本動作について説明する。
【0018】
磁気共鳴イメージング装置10は、マグネットシステム100、勾配コイル駆動部130、RFコイル駆動部140、データ収集部150、パルスシーケンス制御部160、データ処理部170、表示部180及び操作部190を有する。」

(1d)
「【0029】
<操作記録部>
演算部171の操作記録部175は、操作者(習得者)が被検者SBを寝台110に載置して撮像を開始し始める時点から被検者SBを寝台110から下ろす時点までのすべての操作を記録することが可能である。また、操作記録部175は、被検者SBを寝台110に載置して撮像を開始し始める時点から被検者SBを寝台110から下ろす時点までの一部の操作を記憶することも可能である。
【0030】
操作記録部175は、最初の操作を操作A(1)とした場合、被検者SBごとに操作A(1)から操作終了の操作A(n)までを記録する。本実施形態では操作記憶部175は、データ記憶部172と区別して説明されているが、それらが一つの記憶部であってもよい。
【0031】
第1被検者SB1の一連の撮像開始から撮影終了までの操作を第1シーケンスSQ1(図3を参照)とすると、操作記録部175は、複数の操作A(i)からなる第1シーケンスSQ1を記憶する。また、第2被検者SB2の一連の撮像開始から撮影終了までの操作を第2シーケンスSQ2(図3を参照)とすると、操作記録部175は、複数の操作A(i)からなる第2シーケンスSQ2を記憶することができる。なお、iは自然数である。
【0032】
このように、操作記録部175は、被検者SBごとにシーケンスSQを増やすことができ、複数のシーケンスSQがデータベース化される。
・・・
【0040】
<確率計算部及びブロック化手段>
演算部171の確率計算部176は、操作A(i)のデータベースを解析し、操作者が次に行う操作A(i+1)の操作内容opの確率を計算する。
【0041】
確率計算部176及びブロック化手段178は、操作記録部175の学習モードの終了時または所定のタイミングで実行される。ブロック化手段178は、シーケンスSQを1以上の操作A(i)からなるブロックBに分ける。そして確率計算部176は、操作A(i+1)の操作内容opの確率を計算する。
図4は、確率計算部176のフローチャートである。」

(1e)
「【0087】
<<第3実施形態>>
第3実施形態の操作記録部175は、警告またはトラブルに対して、未習得者に対応させることも可能である。通常の操作状況において、未習得者は、突発的な警告またはトラブルに対応できないことが多い。操作記録部175は、警告またはトラブルに対して、習得者が採った複数の操作Aを記録する。そして、未習得者が同様な警告またはトラブルに遭遇した際に、表示制御部177は、警告またはトラブルに対応する、次の操作A(i+1)を表示する。
【0088】
警告には、軽微な警告から重度の警告まで様々ある。このため、未習得者は表示された警告に対して操作を続行してよいものか、パラメータの変更をすればよいのかの判断に迷う。軽度の警告の一例として、SAR(specific absorption rate:比吸収率)の警告がある。SARは、磁気共鳴イメージング装置10におけるRFパルスを被検者SBに用いた場合のジュール熱の発生状況を示している。SARは、磁気共鳴イメージング装置10ごとに設定値が設定されている。磁気共鳴イメージング装置10の操作中にSARが設定値以上になると、演算部171は警告表示を行う。
【0089】
図16は、警告またはトラブル時のフローチャートである。
ステップS31において、操作者(習得者)は、エラー記録モードのスイッチER(図8を参照)を押す。操作記録部175は、エラー記録モードのスイッチERが押されると、習得者が認識し易いようにエラー記録モードのボタンの点灯または表示部の背景色を変化させる。
【0090】
ステップS32において、操作記録部175は、発生した警告またはトラブルを記録する。また、操作記録部175はエラー記録モードのスイッチERが押された一つ前の事象(警告またはトラブル)を記録する。
ステップS33において、操作記録部175はカウンタiを1にセットする。
【0091】
ステップS34において、操作記録部175は、操作A(i)として、習得者が操作する操作内容opとカウンタとを収集する。操作A(i)に、習得者の任意のコメントが付け加えられてもよい。例えば、習得者が例えばトラブル対処方法などのコメントを入力し、操作記録部175は、そのコメントを記憶することが可能である。未習得者は、警告またはトラブルの情報を共有することが可能であり、警告またはトラブルを解決する手法の一手段をしてコメントを利用することが可能である。
【0092】
ステップS35において、演算部171は、エラー記録モードを終了するかを判断する。操作記録部175は、エラー記録モードが終了されるまでステップS36に移動し、操作A(i)を記録する。習得者が点灯しているスイッチERを再度押すと、エラー記録モードが終了し、ステップS37に移動する。」

上記(1a)?(1e)の記載を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「被検体SBを撮像する磁気共鳴イメージング装置10であって、
前記磁気共鳴イメージング装置10は、
操作部190と
前記被検者SBの撮像開始から撮像終了までの一連の第1シーケンスの内、1つ1つの操作をA(1)操作からA(n)操作からなるA(i)操作として記憶し、且つ前記第1シーケンスと異なる第2シーケンスに対しても同様に前記A(i)操作を記憶する操作記録部175と、
前記A(i)操作をm個の操作ごとのブロックにまとめるブロック化手段と、
前記ブロック化されたm個の操作に基づいて、A(i)操作に続くA(i+1)操作の確率を計算する確率計算部176と、
前記A(i)操作を表示する表示部180と、
前記A(i)操作の操作がなされた後、前記確率が計算された一番高い確率のA(i+1)操作を前記表示部に表示させる表示制御部177と、
を備え、
前記磁気共鳴イメージング装置10に警告又はトラブルが生じた際に、操作者が、エラー記録モードのスイッチERを押すと、前記操作記録部175は、発生した警告またはトラブルを記録するとともに、エラー記録モードのスイッチERが押された一つ前の事象(警告またはトラブル)を記録し、
前記表示制御部177は、前記表示部180に警告又はトラブルを解消させる、確率が一番高いA(i+1)操作を表示させるとともに次に確率が高いA(i+1)操作を表示させる磁気共鳴イメージング装置10。
但し、i及びnは自然数、mは自然数でn>m>1を満たす。」

イ 当審の判断

(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

a 甲第1号証には、「画像診断装置を操作する操作者は、医師などの指示に適応する撮影方法を画像診断装置の数十から数百種類ある撮影方法のデータベースの中から選択している。」(摘示(1b))と記載されていることから、上記「画像診断装置」である甲1発明の「磁気共鳴イメージング装置10」は、医療に供される診療装置であるといえる。 そうすると、「歯科診療」も「医療」に含まれる概念であることを踏まえると、甲1発明の「磁気共鳴イメージング装置10」と本件発明1の「歯科診療に供される歯科用診療装置」は、「医療に供される診療装置」を限度として共通する。

b 甲1発明の「操作部190」が、その機能・構成から本件発明1の「操作手段」に相当する。

c 甲1発明における「操作」は、甲第1号証には明記されていないものの、「術者」により行われていることは明らかであるから、「前記被検者SBの撮像開始から撮像終了までの一連の第1シーケンスの内、1つ1つの操作をA(1)操作からA(n)操作からなるA(i)操作として記憶し、且つ前記第1シーケンスと異なる第2シーケンスに対しても同様に前記A(i)操作を記憶する操作記録部175」が、本件発明1の「術者が前記操作手段を操作した内容」が「記録」される「記憶手段」に相当する。

d 甲1発明は、「操作記録部175」に「操作を記憶」しており、「操作」を検知しなければ「記憶」できないことは明らかであることも踏まえると、甲第1号証には明記されていないものの、甲1発明は、本件発明1の「操作検知記録手段」に相当する構成を備えているといえる。

e 上記aを踏まえると、甲1発明の「被験者SB」は、本件発明1の「患者」に相当し、加えて、上記dをも踏まえると、甲1発明の「操作検知記録手段」に相当する構成が、「操作記録部175」に、「前記被検者SBの撮像開始から撮像終了までの一連の第1シーケンスの内、1つ1つの操作をA(1)操作からA(n)操作からなるA(i)操作として記憶」する構成と、本件発明1の「操作検知記録手段」が、「術者毎に又は患者毎に前記操作手段を操作した操作内容及び術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録」する構成とを対比すると、両者は「操作検知記録手段」が、「術者毎に又は患者毎に前記操作手段を操作した操作内容を前記記憶手段に記録」する構成を限度として共通する。

上記a?eを総合すると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「医療に供される診療装置であって、
操作手段と、
術者が前記操作手段を操作した内容を記憶手段に記録する操作検知記録手段と、
を備え、
前記操作検知記録手段は、術者毎に又は患者毎に前記操作手段を操作した操作内容を前記記憶手段に記録する診療装置。」

<相違点1>
本件発明1の「医療に供される診療装置」は、「歯科診療に供される歯科用診療装置」であるのに対し、甲1発明の「磁気共鳴イメージング装置10」は、そうではない点。

<相違点2>
本件発明1は、「予め定められた異常を検知すると異常の内容を前記記憶手段に記録する異常検知記録手段」を備え、「前記異常検知記録手段は、予め定められた異常を検知すると異常の内容及び術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録する」のに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点。

<相違点3>
本件発明1は、「複数若しくは単数の術者毎に又は患者毎に対応可能な動作モードを有し」ているのに対し、甲1発明は、そのような動作モードを有していない点。

<相違点4>
本件発明1の「操作検知記録手段」は、「術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録」しているのに対し、甲1発明の「操作検知記録手段」に相当する構成は、それを記録していない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
本件発明1の「動作モード」に関し、本件明細書段落【0040】には、「本実施形態では、歯科用診療装置1は、複数の術者毎に対応可能な動作モードを有することとしており、操作表示手段210は、術者毎の動作モードで歯科用椅子104を操作することができる。」と記載され、本件明細書段落【0082】には、「前記実施形態では、歯科用診療装置1は、複数の術者毎に対応可能な動作モードを有することとしたが、単数の術者に対応可能な動作モードであっても構わない。また、患者毎に対応可能な動作モードを有することとしてもよい。この場合、操作検知記録手段260は、患者毎に、複数又は単数の術者が操作手段を操作した操作内容及び術者名若しくは患者名を操作履歴記憶手段270に記録する。」と記載されており、本件発明1の「動作モード」とは、「複数若しくは単数の術者毎に又は患者毎に対応」して、「歯科用診療装置」を操作するための構成であると認められる。
それに対し、甲1発明は、「被検者SBの撮像開始から撮像終了までの一連の第1シーケンスの内、1つ1つの操作をA(1)操作からA(n)操作からなるA(i)操作として記憶し、且つ前記第1シーケンスと異なる第2シーケンスに対しても同様に前記A(i)操作を記憶」し、「磁気共鳴イメージング装置10に警告又はトラブルが生じた際に、操作者が、エラー記録モードのスイッチERを押すと、前記操作記録部175は、発生した警告またはトラブルを記録するとともに、エラー記録モードのスイッチERが押された一つ前の事象(警告またはトラブル)を記録し、前記表示制御部177は、前記表示部180に警告又はトラブルを解消させる、確率が一番高いA(i+1)操作を表示させるとともに次に確率が高いA(i+1)操作を表示させ」ている。
すなわち、甲1発明の、「1つ1つの操作」を記憶した「第1シーケンス」及び「第2シーケンス」は、「被験者SB」に対応して「磁気共鳴イメージング装置10」を操作するための構成ではなく、「装置に警告又はトラブルが生じた際に、・・・前記表示部に警告又はトラブルを解消させる、確率が一番高いA(i+1)操作を表示させるとともに次に確率が高いA(i+1)操作を表示させる」ための構成であるから、甲1発明の「第1シーケンス」及び「第2シーケンス」は、本件発明1の「動作モード」に相当する構成とはいえない。
さらに、甲第2?第9号証にも、本件発明1の「動作モード」に相当する構成は記載も示唆もされていない。
したがって、甲第2?第9号証を参照しても、相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到できるものとはいえない。

そうすると、相違点1、2及び4について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2?第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第4 むすび

以上のとおり、請求項1に係る特許については、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

さらに、請求項9に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項9に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
歯科用診療装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用診療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用診療装置として、X線撮影装置、X線CT装置、レーザ装置、歯科用椅子装置、歯科用ユニット等の比較的大型の装置や、歯科用インスツルメントや歯科用小機器等の小型の機器や工具が歯科診療に供されている。
例えば、歯科用椅子等の、動力によって高さや姿勢を変化させる椅子では、術者がスイッチを操作することにより、例えば座部の上下や傾動等を行っている。そして、椅子の動作を制御する制御部では各個所の異常が発生したか否かを監視し、異常が発生し故障したと判断すると、音によって椅子の状態を術者に報知するのが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
歯科用椅子を備える歯科用診療装置が故障した場合、術者や歯科医院のスタッフは、例えば、サービスマンを呼んで現場で修理してもらう。なお、遠隔操作による保守システムを利用することも可能である(例えば特許文献2参照)。歯科用診療装置に異常が発生したことを知らせる情報は、保守記録データとして蓄積し、データベース化することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3679662号公報
【特許文献2】特許第4569731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単なる異常発生情報しか取得できていないときには、歯科用診療装置に発生した不具合をサービスマンが現場で修理する場合、不具合を再現しようとしても、どのような条件で不具合が発生したのか不明であるため、不具合を修正するまでに労力と時間が掛かってしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、歯科用診療装置にて発生する不具合に対して修理を容易にさせることのできる歯科用診療装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る歯科用診療装置は、歯科診療に供される歯科用診療装置であって、操作手段と、術者が前記操作手段を操作した内容を記憶手段に記録する操作検知記録手段と、予め定められた異常を検知すると異常の内容を前記記憶手段に記録する異常検知記録手段と、を備え、複数若しくは単数の術者毎に又は患者毎に対応可能な動作モードを有し、前記操作検知記録手段は、術者毎に又は患者毎に前記操作手段を操作した操作内容及び術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録し、前記異常検知記録手段は、予め定められた異常を検知すると異常の内容及び術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録することを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、歯科用診療装置は、術者が操作した内容と異常の内容とを記憶手段に記録する。これにより、歯科用診療装置で不具合が発生した際に、サービスマンは、不具合発生以前に記録された術者の操作履歴を調査することで不具合の原因を特定し易くなる。したがって、従来は現場で再現が難しかった不具合を再現することが可能となり、そのような不具合の修正時間を大幅に短縮させることができる。
【0010】
かかる構成によれば、歯科用診療装置は、動作モードに応じて例えば術者が操作した内容及び術者名と、異常の内容及び術者名と、を記憶手段に記録する。これにより、異常発生時に術者名が保存されるので、サービスマンは、どの術者に取材すればよいのかを知ることができる。したがって、不具合の修正時間を大幅に短縮させることができる。
【0011】
また、本発明に係る歯科用診療装置は、少なくとも歯科用椅子を含み、前記操作手段が前記歯科用椅子を操作する操作手段を含むこととしてもよい。この場合、歯科用椅子に発生する不具合に対して修理を容易にすることで、歯科用診療装置の中で最も長く歯科診療に供される歯科用椅子が使用できない時間を短縮することができる。
【0012】
また、本発明に係る歯科用診療装置は、歯科診療に供される歯科用診療装置であって、操作手段と、術者が前記操作手段を操作した内容を記憶手段に記録する操作検知記録手段と、予め定められた異常を検知すると異常の内容を前記記憶手段に記録する異常検知記録手段と、を備え、前記予め定められた異常を検知した場合、前記操作検知記録手段は前記記憶手段への記録動作を停止することを特徴とする。かかる構成によれば、歯科用診療装置は、不具合が発生した場合、例えば術者が操作手段を操作した内容の書き込みを停止する。これにより、歯科用診療装置で不具合が発生した際に、サービスマンは、例えば最後に記録された操作の内容を、不具合発生の原因として特定することができる。
【0013】
また、本発明に係る歯科用診療装置は、前記予め定められた異常の条件を設定する条件設定手段を備え、前記異常検知記録手段が、前記条件設定手段により設定された条件に基づいて異常を検知することとしてもよい。これにより、サービスマンは、修理が必要な異常についての条件を予め設定しておくことで、歯科用診療装置で不具合が発生した際に、不具合発生の原因を容易に特定することができる。
【0014】
また、本発明に係る歯科用診療装置は、前記記憶手段がリングバッファで構成されていることが好ましい。かかる構成によれば、記憶手段はメモリ容量が小さくてよいのでコストを低減できる。
【0015】
また、本発明に係る歯科用診療装置は、前記操作検知記録手段で記録した記録情報と前記異常検知記録手段で記録した記録情報とを表示する表示手段を設けることが好ましい。かかる構成によれば、サービスマンは表示手段を別途用意せずに記録情報を確認することができる。
【0016】
また、本発明に係る歯科用診療装置は、歯科診療に供される歯科用診療装置であって、操作手段と、術者が前記操作手段を操作した内容を記憶手段に記録する操作検知記録手段と、予め定められた異常を検知すると異常の内容を前記記憶手段に記録する異常検知記録手段と、を備え、前記操作検知記録手段、前記記憶手段及び前記異常検知記録手段を有する携帯端末と、前記携帯端末と通信可能な通信手段と、を備え、前記操作手段が、前記携帯端末のタッチパネルで構成され、歯科用椅子を駆動する駆動機構及び歯科用のインスツルメントを駆動する駆動回路に対して、前記通信手段を介して駆動指示を入力することを特徴とする。
さらに、前記操作手段が、前記駆動機構及び前記駆動回路に対して駆動指示を入力するフットコントローラをさらに含み、前記通信手段が、前記フットコントローラから入力する駆動指示を、前記操作検知記録手段に入力するように構成してもよい。
かかる構成によれば、既存の歯科用診療装置に通信手段を設けて、前記機能を有する携帯端末を追加することで、当該歯科用診療装置をバージョンアップしたり、新規の歯科用診療装置を低コストで製造したりすることができる。
【0017】(削除)
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る歯科用診療装置は、不具合発生以前に術者の操作履歴を記録しておくので不具合の再現性を高めることができる。したがって、歯科用診療装置にて発生する不具合に対して修理を容易にさせることができる。その結果、不具合の修正時間を大幅に短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る歯科用診療装置を模式的に示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る歯科用診療装置を模式的に示すブロック図である。
【図3】ユーザー選択画面の一例を示す図である。
【図4】ユニット待機画面の一例を示す図である。
【図5】タービン操作画面の一例を示す図である。
【図6】操作履歴記憶手段の一例を模式的に示す図である。
【図7】記録動作開始直後におけるサービスマン操作画面の一例を示す図である。
【図8】記録動作終了後におけるサービスマン操作画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の歯科用診療装置を実施するための形態(以下「実施形態」という)では、歯科医院等で通常の一般的な歯科診療に供される、歯科用椅子を含む歯科用ユニットを歯科用診療装置の一例として図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
[歯科用診療装置の構成]
歯科用診療装置1は、図1に示すように、ユニット本体101とハンガー102とを含む装置本体100と、ハンガー102の上のテーブル103と、歯科用椅子104と、携帯端末200と、を主に備えている。
【0022】
ユニット本体101は、歯科用椅子104を駆動するための駆動機構や、歯科用のインスツルメント110を駆動するための駆動回路等を内蔵している。このユニット本体101は歯科治療用設備に連結されている。ここで、歯科治療用設備には、例えば、オートカラン(コップ自動給水栓)、スピットン、無影灯、バキューム等が含まれるが、これらの図示及び説明は省略する。
【0023】
ハンガー102は、複数のインスツルメント110を脱着自在に収納するものである。ハンガー102は、複数のホルダを有しており、各ホルダにインスツルメント110を個別に収納することができる。
【0024】
インスツルメント110は、例えばハンドピース111と接続部112とを備えている。接続部112には、ホース113が連結され、ホース113は、装置本体100内の駆動回路に接続されている。ハンドピース111は、接続部112に対して着脱自在である。なお、インスツルメントの種類によっては、ハンドピース111がホース113に連結されていて着脱できないものもある。インスツルメント110の種類は、例えば、タービン、ハンドピース、マイクロモータ、シリンジ、スケーラー等である。インスツルメント110には、その先端に照明用のLEDが設けられているものもある。
【0025】
ハンガー102は、通常、ドクター用のハンガーと、アシスタント用のハンガーがあるが、本実施形態では、ドクター用のハンガーのみ図示した。また、ハンガー102がアーム部105に支持されたタイプを示したが、これに限定されるものではなく、スタンド等に設置されたタイプ等、用途に応じて種々の形態を実施できる。なお、図1では、アーム部105の基端側の図示を省略するが、ユニット構成に応じて、例えばユニット本体101や歯科用椅子104の基台等に連結されている。
【0026】
テーブル103の上には、この歯科用診療装置1の操作手段、表示手段、記憶手段及び制御手段としての機能を有する携帯端末200が設置されている。また、携帯端末200との間で近距離通信を行う本体側通信手段150がテーブル103に内蔵されている。なお、携帯端末200及び本体側通信手段150については後記する。
【0027】
歯科用椅子104は、動力によって高さや姿勢を変化させることのできる椅子である。
本実施形態では、歯科用椅子104は、座面シート104aと、バックレスト104bと、アームレスト104cと、ヘッドレスト104dと、レッグレスト104eと、を備えている。このうち、バックレスト104b、アームレスト104c及びレッグレスト104eは、それぞれ座面シート104aに接続されている。また、ヘッドレスト104dはバックレスト104bに接続されている。
座面シート104aの位置を上下方向に移動させる動作のことを、以下では椅子の上昇動作又は下降動作という。椅子の上昇動作では、患者が座り易いホームポジションから、術者毎に治療に適した高さへ上昇させる。椅子の下降動作では、術者毎に治療に適した高さからホームポジションへ下降させる。
【0028】
また、ホームポジションの姿勢から、バックレスト104b、座面シート104a及びレッグレスト104eを後ろ側に向けて寝かせた姿勢(図1参照)に変化させる動作のことを、以下では椅子の寝動作という。また、バックレスト104b、座面シート104a及びレッグレスト104eを前方に向けて元のホームポジションの姿勢に変化させる動作のことを、以下では椅子の起動作という。なお、椅子の寝動作に併せて、同時にバックレスト104bの座面シート104aに対する角度を変化させたり、レッグレスト104eの座面シート104aに対する角度を変化させたりしてもよい。
【0029】
以下、図2を参照して歯科用診療装置1の装置本体100及び携帯端末200の各部について説明する。装置本体100は、駆動回路120と、駆動機構130と、ハンガーセンサ140と、本体側通信手段150と、を備えている。
【0030】
駆動回路120は、インスツルメント110を駆動するための公知の手段であり、電気回路や切換バルブ等を含んでいる。駆動回路120は、外部の図示しない電源、空気源、水道源等と接続されている。駆動回路120は、電力供給回路(マイクロモータ作動電力、照明用電力、加温用電力)、エア回路(タービン駆動用の加圧空気、霧生成用のチップエア)、水供給回路等を備えている。
【0031】
例えば、水供給回路は、複数のインスツルメント110に共通の回路であり、使用中の1つのインスツルメント110にだけ接続される。ここでは、説明を簡単にするために、インスツルメント110を個別に駆動する駆動回路をまとめて駆動回路120と表記した。駆動回路120は、ハンガー102から持ち出されたインスツルメント110を駆動する駆動指示が入力されることで動作する。この駆動指示は、操作手段によって駆動回路120に入力される。
【0032】
本実施形態では、操作手段は、フットコントローラ106及び携帯端末200の操作表示手段210である。
フットコントローラ106は、フットペダル106aを踏み込む位置や加減により、術者が把持したインスツルメント110や歯科用椅子104を適切に動作させることができる。本実施形態では、フットコントローラ106は、踏み込む位置や加減の変化を検知すると、検知信号を本体側通信手段150を介して携帯端末200の操作検知記録手段260に通知する。
【0033】
また、操作表示手段210からの駆動指示は、本体側通信手段150を介して駆動回路120に入力される。一方、駆動回路120は、電力供給回路、エア回路又は水供給回路等の作動や停止を検知すると、検知信号を本体側通信手段150を介して携帯端末200の操作検知記録手段260に通知する。例えばマイクロモータの停止を検知すると、検知信号を本体側通信手段150に出力する。
【0034】
駆動機構130は、歯科用椅子104の昇降や姿勢変化に用いるモータや、外部の図示しない電源等と接続される電力供給回路等を備えている。駆動機構130は、歯科用椅子104についての椅子の上昇動作、下降動作、寝動作、起動作等の駆動指示が入力されることで動作する。この駆動指示は、操作手段(フットコントローラ106/操作表示手段210)によって駆動機構130に入力される。
【0035】
本実施形態では、操作表示手段210からの駆動指示は、本体側通信手段150を介して駆動機構130に入力される。一方、駆動機構130は、電力供給回路等の作動や停止を検知すると、検知信号を本体側通信手段150を介して携帯端末200の操作検知記録手段260に通知する。例えば椅子の上昇動作の完了を検知すると、検知信号を本体側通信手段150に出力する。なお、駆動機構130及び駆動回路120は主にユニット本体101に格納されている。
【0036】
ハンガーセンサ140は、ハンガー102のホルダ毎に、インスツルメント110の脱着を検知するものである。ハンガーセンサ140は、例えば反射型又は透過型の光センサからなる。ハンガーセンサ140は、最初に取り上げたインスツルメント110に対応する検出情報のみをラッチするラッチ回路等の電気回路と共に動作することで、最初に取り上げたインスツルメント110を優先に1つのインスツルメント110のみを駆動回路120により駆動させることができる。本実施形態では、ハンガーセンサ140は、インスツルメント110の脱着を検知すると、検知信号を本体側通信手段150を介して携帯端末200の操作検知記録手段260に通知する。例えば装着を検知すると、検知信号を本体側通信手段150に出力する。
【0037】
本体側通信手段150は、携帯端末200との間で各種情報を近距離無線通信で送受信する。具体的には、本体側通信手段150は、携帯端末200の通信手段230を介して、携帯端末200の操作表示手段210から、歯科用椅子104を駆動する駆動機構130に対する駆動指示を受信する。また、本体側通信手段150は、携帯端末200の操作表示手段210から、インスツルメント110を駆動する駆動回路120に対する駆動指示を受信する。本実施形態では、本体側通信手段150は、携帯端末200の操作表示手段210から、無影灯107を点灯又は消灯する指示を受信する。
一方、本体側通信手段150は、例えばフットコントローラ106から入力する駆動指示を、携帯端末200の通信手段230を介して操作検知記録手段260に入力する。
ここで、近距離無線通信規格には、例えばWi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)等の無線LAN(Local Area Network)を含む。
【0038】
また、本体側通信手段150は、携帯端末200の通信手段230及び通信ネットワークを介して歯科用診療装置1の外部の装置との間で情報の送受信を行うことができる。なお、本体側通信手段150は、携帯端末200を介在させずに、インターネット等の通信ネットワークを介して外部装置との間で情報の送受信を行ってもよい。
【0039】
携帯端末200は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置であって、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力インタフェース、通信インタフェース等を備えている。携帯端末200には、後記する機能を実行するアプリケーションが動作するスマートフォンやタブレット型PC等を用いることができる。
【0040】
携帯端末200は、図2に示すように、操作表示手段210と、ユニット制御手段220と、通信手段230と、エラー検知手段240と、エラーログ記憶手段250と、操作検知記録手段260と、操作履歴記憶手段270と、異常検知記録手段280と、条件設定手段290と、を備えている。
【0041】
本実施形態では、歯科用診療装置1は、複数の術者毎に対応可能な動作モードを有することとしており、操作表示手段210は、術者毎の動作モードで歯科用椅子104を操作することができる。操作表示手段210は、歯科用椅子104を駆動する駆動機構130に対して、通信手段230及び本体側通信手段150を介して駆動指示を入力する。
本実施形態では、操作表示手段210は、術者毎の動作モードでインスツルメント110も操作することとした。操作表示手段210は、インスツルメント110を駆動する駆動回路120に対して、通信手段230及び本体側通信手段150を介して駆動指示を入力する。操作表示手段210は、タッチパネルで構成されている。すなわち、操作表示手段210は、操作検知記録手段260で記録した記録情報と異常検知記録手段280で記録した記録情報とを表示する表示手段としても機能する。
【0042】
ユニット制御手段220は、操作表示手段210からの入力信号に応じた制御コマンドを、歯科用椅子104やインスツルメント110に対する駆動指示として生成するものである。ここで生成された駆動指示は、通信手段230及び本体側通信手段150を介して、駆動機構130、駆動回路120、又は無影灯107に出力される。
ユニット制御手段220は、装置本体100から通信手段230を介して受信する、術者の操作に関わる検知信号を操作検知記録手段260や異常検知記録手段280に出力する。ユニット制御手段220は、装置本体100から通信手段230を介して受信する、異常に関わる検知信号をエラー検知手段240や異常検知記録手段280に出力する。
通信手段230は、本体側通信手段150との間で駆動指示や検知信号を送受信するものであって、所定の通信インタフェースを備えている。
【0043】
エラー検知手段240は、装置本体100から異常の検知信号を受信する毎にエラーログ記憶手段250に異常発生順で異常の内容をエラー情報として蓄積する。ここで、装置本体100から送られる異常の検知信号とは、単なる異常発生情報であり、通常の歯科用診療装置において各部が正常に動作しているかセンシングするために配備されている各種センサがセンシングしたエラー情報を通知する信号を意味する。本実施形態では、エラー検知手段240は、時計機能を有しており、時刻情報を含めたエラー情報をエラーログ記憶手段250に蓄積する。
【0044】
エラーログ記憶手段250は、装置本体100から送られる異常の検知信号を蓄積するものであり、例えば一般的なメモリ等で構成される。蓄積されたエラー情報は、サービスマンが操作表示手段210から操作することでサービスマン操作画面に表示される。エラーログ記憶手段250は、時刻情報を含めたエラー情報を蓄積しているので、例えば、各種センサがセンシングするエラーの中で注目するエラーがどのくらいの頻度で発生しているのかといった情報を取得できることから、保守・メンテナンス等に利用することができる。
【0045】
操作検知記録手段260は、術者が操作手段(フットコントローラ106/操作表示手段210)を操作した内容を操作履歴記憶手段270に記録するものである。本実施形態では、操作検知記録手段260は、術者毎に操作手段を操作した操作内容及び術者名を操作履歴記憶手段270に記録する。具体的には、操作検知記録手段260は、装置本体100から、術者の操作に関わる検知信号を受信すると、その操作内容と、その時点の動作モードで選択されている術者名とを時刻情報と共に操作履歴記憶手段270に記録する。これにより、歯科用診療装置1で不具合が発生した際に、サービスマンは、不具合発生以前に記録された術者の操作履歴等の記録情報を調査することで不具合の原因を特定し易くなる。
【0046】
本実施形態では、操作検知記録手段260は、異常検知記録手段280が予め定められた異常を検知した場合、操作履歴記憶手段270への記録動作を停止することとした。このように構成することで、操作履歴記憶手段270は、エラーログ記憶手段250と対比すると、エラーがどのくらいの頻度で発生しているのかといった情報を取得するためではなく、1回の故障が発生したときに、その要因と考えられる術者の操作を記録情報の中から特定するためのものとなる。これにより、歯科用診療装置1で不具合が発生した際に、サービスマンは、操作履歴記憶手段270において最後に記録された操作の内容を、不具合発生の原因として特定することができる。
【0047】
なお、サービスマンが、操作履歴記憶手段270に蓄積された情報と、エラーログ記憶手段250に蓄積された情報とを関連させて扱うことで、故障の原因となった術者の操作等を絞り込みし易くなるので、そのように運用することが好ましい。
【0048】
操作履歴記憶手段270は、予め定められた異常の内容と、その異常が発生する以前の術者の操作内容とを記憶するものであり、例えば一般的なメモリ等で構成される。操作履歴記憶手段270は、例えば修理が必要な1回の不具合が発生したときに、その要因と考えられる術者の操作を特定するために用いることができればよいので、大容量のメモリを必要としていない。そこで、操作履歴記憶手段270をメモリ容量が小さなリングバッファで構成することとした。これにより、操作履歴記憶手段270は、上書きされるまで記録を残し続けるのでコストを低減できる。
【0049】
異常検知記録手段280は、予め定められた異常を検知すると異常の内容を操作履歴記憶手段270に記録するものである。本実施形態では、異常検知記録手段280は、予め定められた異常を検知すると異常の内容及び術者名を操作履歴記憶手段270に記録する。ここで、予め定められた異常とは、通常の歯科用診療装置が配備している各種センサでセンシングされるエラー情報で認識される異常のうち、例えば、歯科用椅子104が作動しなくなる等のサービスマンによる修理や部品交換が必要な故障を挙げることができる。異常検知記録手段280で検知する異常の条件は、製品の出荷前に固定的に設定しておいてもよいが、本実施形態では、一例として、保守点検時に、サービスマンが随時設定できるようにした。このため、異常検知記録手段280は、条件設定手段290により設定された条件に基づいて異常を検知することができる。
なお、異常検知記録手段280、操作履歴記憶手段270及び操作検知記録手段260の機能を、エラーログ記憶手段250と区別して、以下ではエラーレコーダーとも呼ぶ。
【0050】
条件設定手段290は、異常検知記録手段280で検知する異常の条件として、予め定められた条件を設定するものである。本実施形態では、条件設定手段290は、サービスマンによる動作モードにおいてサービスマンの操作により、異常検知において異常の対象としない条件を設定することとした。つまり、条件設定手段290は、各種センサでセンシングされる種々のエラー情報のうち、故障と関連する可能性が低いと思われるような異常をフィルタリングする条件を設定する。
【0051】
[歯科用診療装置の動作]
次に、歯科用診療装置1の動作として、携帯端末200の操作表示手段210に表示される画面の画面遷移について説明する。以下では、術者のことをユーザーとも呼ぶ。携帯端末200のアプリケーションを起動すると、スタートアップ画面を表示し、所定のアイコンを選択すると、ユーザー操作画面に遷移することができる。さらに、所定のメニュー画面から、サービスマン操作画面に遷移することができる。
【0052】
<ユーザー操作画面>
ユーザー操作画面は、術者にとって便利な様々なサービスに対応するように構築されるが、ここでは、ドクター等の術者が治療や診断を行うための操作に関するユーザー操作画面について図3から図5を適宜参照しながら説明する。図3は、ユーザー選択画面の一例を示す図である。図4は、ユニット待機画面の一例を示す図である。図5は、タービン操作画面の一例を示す図である。
【0053】
図3に示すように、ユーザー選択画面には、登録ユーザー選択部301が設けられている。この例では1つの歯科用診療装置1を8人の術者で共用可能である。術者は、別の設定画面において、歯科用椅子104についての術者が使い勝手の良い位置を設定したり、インスツルメント110についての術者が使い勝手の良い機能を設定したりする。ここでは、別画面で設定された6人の術者(ドクター)の番号及び術者名が表示されている。術者は、ユーザー選択画面を表示させたときに、自分の番号を選択することで、ユニット待機画面(図4)に遷移し、術者毎の動作モードで歯科用診療装置1を扱うことができる。なお、ユーザー選択画面には、ゲストユーザー選択部302も設けられており、別画面で番号を設定することなく使用することもできる。
【0054】
図4に示すように、ユニット待機画面の上部には、術者名が表示される。ここでは、図3のユーザー選択画面で、番号1(Dr.Smith)が選択されたことが分かる。
ユニット待機画面の左側には、歯科用椅子104についての操作部として、チェアマニュアル動作操作部401と、チェアオート動作操作部402と、が設けられている。
【0055】
チェアマニュアル動作操作部401は、椅子の上昇動作、下降動作、寝動作、起動作を操作することが直感的に分かるような4個のアイコンを備えている。これらのアイコンを押し続ければ椅子の各動作が継続する。
チェアオート動作操作部402は、一旦選択すると、予めユーザーがメモリー設定した椅子の位置や姿勢となるように動作させるアイコン(治療位置S1,S2、うがい位置、ホームポジション)を備えている。
また、ユニット待機画面の下部には、無影灯操作部403が設けられており、無影灯107を点灯又は消灯することができる。
【0056】
また、ユニット待機画面の右側には、歯科用診療装置1が備えるインスツルメント110の情報が表示されるように設定されている。ここでは、2本のタービンハンドピースと、マイクロモータと、スケーラーと、がハンガー102の各ホルダにセットされていることが分かる。インスツルメントがスプレー機能や照明機能等を有する場合、それらの機能や性能も表示される。術者が、表示されたいずれかのインスツルメントをハンガー102から取り出すと、取り出したインスツルメントの機能や性能に応じた、インスツルメント操作画面(図5)に遷移する。
【0057】
図5に示すように、タービン操作画面において、術者名の下側には、ハンガー102から取り出されたインスツルメントの名称が表示され、その機能及び性能に応じた操作ボタンが表示される。ここでは、図4のユニット待機画面で、左端のタービンハンドピースが選択されたことが分かる。
【0058】
タービン操作画面には、このタービンハンドピースについての操作部として、スプレー機能操作部501と、照明機能操作部502と、が設けられている。
スプレー機能操作部501は、このタービンハンドピースに供給されるエアと水とを混合したスプレーを吐出するスプレー機能をオン又はオフすることができる。
照明機能操作部502は、このタービンハンドピースに設置された照明用LEDを点灯する照明機能をオン又はオフすることができる。
【0059】
術者が、このタービンハンドピースを把持して、フットコントローラ106のフットペダル106aを踏み込むと、注水されながら圧縮空気の力によって切削工具が高速回転してタービンハンドピースが歯を研削する動作をすることができる。なお、タービン操作画面の右側には、現在のエアのパワーがパーセント表示されると共に、フットコントローラ106を最大にしたときのエアのパワーの設定値(最大パワー)がパーセント表示される。
【0060】
図4のユニット待機画面の右側に表示された他のインスツルメント(もう1つのタービンハンドピース、マイクロモータ、スケーラー)をハンガー102から取り出すと、それぞれ専用の操作画面に遷移するが、これらについては説明を省略する。
【0061】
次に、歯科用診療装置1の動作として、操作履歴記憶手段270への記録動作について図6を参照(適宜、図1及び図2参照)して説明する。図6は、操作履歴記憶手段の一例を模式的に示す図である。ここでは、操作履歴記憶手段270がリングバッファで構成され、合計24個の動作を上書き可能に構成されていることをリング形状で模式的に示しているが、例えば100?1000個の動作を記録することができる。
【0062】
例えば術者が把持して作動させていたタービンハンドピースを停止させるためにフットコントローラ106のフットペダル106aの踏み込みをやめると、フットコントローラ106は、その検知信号を本体側通信手段150を介して携帯端末200の操作検知記録手段260に通知する。これにより、操作検知記録手段260は、符号601で示すように、フットペダル106aからの入力があったことを示す操作内容を時刻情報と共に操作履歴記憶手段270に記録する。
【0063】
次に、例えば術者がタービンハンドピースをハンガー102のホルダに収納すると、そのホルダに設置されたハンガーセンサ140は、タービンハンドピースの装着を検知し、その検知信号を本体側通信手段150を介して携帯端末200の操作検知記録手段260に通知する。これにより、操作検知記録手段260は、符号602で示すように、タービンハンドピースがハンガー102のホルダに収納されたことを示す操作内容を時刻情報と共に操作履歴記憶手段270に記録する。
【0064】
次に、例えば術者が図4のチェアマニュアル動作操作部401において椅子の上昇動作を選択すると、携帯端末200の操作表示手段210からの入力信号に応じて、ユニット制御手段220は、歯科用椅子104について椅子の上昇動作を指示する駆動指示を生成して通信手段230に出力する。この駆動指示は、本体側通信手段150を介して駆動機構130に入力され、駆動機構130は、椅子の上昇動作を行う。そして、駆動機構130は、例えば椅子の上昇動作の完了を検知すると、その検知信号を本体側通信手段150を介して携帯端末200の操作検知記録手段260に通知する。これにより、操作検知記録手段260は、符号603で示すように、椅子の上昇動作を示す操作内容を時刻情報と共に操作履歴記憶手段270に記録する。なお、操作検知記録手段260は、携帯端末200の操作表示手段210からの入力信号に応じて、例えば椅子の上昇動作を示す操作内容を時刻情報と共に操作履歴記憶手段270に記録するようにしてもよい。
【0065】
次に、例えば術者が図4のチェアマニュアル動作操作部401において椅子の寝動作を選択すると、椅子の上昇動作のときと同様の処理手順の結果、操作検知記録手段260は、符号604で示すように、椅子の寝動作を示す操作内容を時刻情報と共に操作履歴記憶手段270に記録する。
【0066】
また、駆動機構130が、例えば歯科用椅子104についての異常を検知すると、その検知信号を本体側通信手段150を介して携帯端末200の異常検知記録手段280に通知する。これにより、異常検知記録手段280は、受信した異常が予め定められた条件を満たすか判定し、満たす場合、符号605で示すように、受信した異常の内容を時刻情報と共に操作履歴記憶手段270に記録する。
本実施形態では、異常検知記録手段280が予め定められた条件を満たす異常が発生したと判定した場合、操作検知記録手段260は、記録動作を停止する。
なお、上記操作検知記録手段260及び異常検知記録手段280は、記録動作を行う時点で選択されている術者名も併せて操作履歴記憶手段270に記録する。
【0067】
<サービスマン操作画面>
次に、サービスマン操作画面について説明する。サービスマン操作画面は、保守やメンテナンスに対して便利な様々な機能に対応するように構築されるが、ここでは、歯科用診療装置1が設置された現場でサービスマンが修理をするために利用する、操作履歴記憶手段270等(エラーレコーダー)に関するサービスマン操作画面について図7及び図8を参照しながら説明する。図7及び図8は、エラーレコーダーに関するサービスマン操作画面の一例を示す図である。
【0068】
エラーレコーダーに関するサービスマン操作画面には、図7に示すように、記録操作開始ボタン701と、非表示項目選択部702とが設けられており、加えて、図8に示すように、異常検知記録手段280による記録内容の表示部801と、操作検知記録手段260による記録内容の表示部802とが設けられている。なお、図7は記録動作開始直後における画面を示しており、図8は記録動作終了後における画面を示している。よって、記録動作開始直後は、いまだ情報が未収集であり、図7では、表示部801,802の上に、記録動作中であることをサービスマンに報知するための表示がオーバーラップされている。
【0069】
記録操作開始ボタン701は、エラーレコーダーの記録動作を開始するための操作ボタンである。図7において、記録操作開始ボタン701の中にSTOPと表示されているのは、記録中にこのボタンを押すと強制停止できることを表している。一方、図8において、この記録操作開始ボタンの中にSTARTと表示されているのは、記録動作終了後にこのボタンを押すことによって現在の記録内容をリセットして新たに記録動作を開始できることを表している。
【0070】
また、保守点検時等にエラーレコーダーに関するサービスマン操作画面においてサービスマンが記録動作の開始をセットした後は、術者は、このエラーレコーダーを意識することなく、ユーザー操作画面を操作することで、種々のサービスを享受することができる。なお、エラーレコーダーの記録内容は歯科用診療装置の修理や改善に利用されるものであって厳重に保護される。
【0071】
非表示項目選択部702は、チェックボックスにチェックを入れる操作をすることで、サービスマンが、表示すべきエラーとして取り扱いたくない項目を選択することができる。ここで、表示すべきエラーとして取り扱いたくない操作とは、メーカーで想定している標準的な操作ではないためにエラーとして認識され易いものの、そのような操作自体が原因で修理が必要な故障が発生するとは考えにくい操作を挙げることができる。
【0072】
具体的には、図7に示す二重押しとは、例えばチェアマニュアル動作操作部401のいずれかのアイコンを続けて2度押す操作をエラーとして認識するように予め設定されているときに、続けて2度押す操作がなされることを示している。
また、ドライブ緊急とは、例えばフットコントローラ106のフットペダル106aを続けて2度踏む操作をエラーとして認識するように予め設定されているときに、標準的ではない操作として、続けて2度踏む操作がなされることを示している。
また、タブレット通信とは、例えば歯科用診療装置1の主電源を切る操作を行うと、装置本体100の本体側通信手段150と、携帯端末200の通信手段230との通信が途切れることを示している。
これらのチェックボックスにチェックを入れると、表示すべきエラーとしては認識されなくなる。
【0073】
異常検知記録手段280による記録内容の表示部801は、携帯端末200の操作履歴記憶手段270に記録された、予め定められた条件を満たす異常の情報を表示する。具体的には、図8に示すように、この異常が発生した日時と、このときユーザー選択画面(図3)で選択されていた術者名と、その異常の内容と、が表示される。ここでは、一例として、歯科用椅子104のバックレスト104bが作動中に緊急停止するという故障が発生したことが分かる。
【0074】
操作検知記録手段260による記録内容の表示部802は、携帯端末200の操作履歴記憶手段270に蓄積された、術者の操作に関わる情報を表示する。具体的には、図8に示すように、術者による操作が検知された日時と、このときユーザー選択画面(図3)で選択されていたユーザー名(術者名)と、その操作の内容と、が時系列に表示される。なお、ここでは、一例として、図6を参照して説明したユーザー操作が行われたものとしている。
【0075】
例えば歯科用椅子104のバックレスト104bが停止する不具合を解消するため、歯科医院のスタッフがサービスマンを呼ぶと、サービスマンは現場で携帯端末200を操作して、サービスマン操作画面(図8)を確認する。この表示により、サービスマンは、最後に記録されたユーザー操作、すなわち、椅子の寝動作を行う操作が、バックレスト104bが停止する不具合の要因になったと判断することができる。また、サービスマン操作画面(図8)には、不具合発生時に歯科用診療装置1を操作したユーザー名(術者名)が表示されるので、サービスマンは、どの術者に取材すればよいのかを容易に知ることができる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態に係る歯科用診療装置1は、エラーレコーダーに関するサービスマン操作画面においてサービスマンが記録動作の開始をセットすると、操作履歴記憶手段270に術者の操作内容を記録し続け、予め定められた異常が発生すると記録動作を停止する。現場に駆け付けたサービスマンは、操作履歴記憶手段270に蓄積された術者の操作の履歴を用いることで、従来は現場で再現が難しかった不具合を再現することが可能となり、修理を容易にすることができる。これにより、歯科用診療装置1は、不具合の修正時間を大幅に短縮させることができる。
【0077】
以上、実施形態に基づいて本発明に係る歯科用診療装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
(変形例1)
条件設定手段290は、サービスマンの操作により、異常検知において異常の対象としない条件、すなわち、フィルタリングする条件を設定することとしたが、異常検知において異常のターゲットとする条件を設定することもできる。この場合、図7の非表示項目選択部702を、表示項目選択部に変更して、チェックボックスにチェックを入れる操作をすることで、サービスマンが、表示すべきエラーとして取り扱いたい項目を選択するようにすればよい。
【0078】
(変形例2)
異常検知記録手段280の処理とエラー検知手段240の処理とは独立であるものとして説明したが、異常検知記録手段280の処理とエラー検知手段240の処理とを連携させるようにしてもよい。例えば異常検知記録手段280が、エラー検知手段240からエラー検知情報を取得することでエラーを検知し、検知されたエラーが、条件設定手段290で設定された条件に合致すると判定した場合に、そのエラーを条件を満たす異常として記録することができる。この場合、異常検知記録手段280は、独自のエラー検知機能を必要としないので、構成を簡素化することができる。
【0079】
(変形例3)
異常検知記録手段280が予め定められた異常を検知した場合、操作検知記録手段260が、操作履歴記憶手段270への記録動作を停止する態様の場合、操作履歴記憶手段270は、個別に使用する複数のリングバッファを備えることもできる。例えば、100個の動作を記録するリングバッファを、10セット設けて合計1000個の動作を記録する。そして、記録動作を停止するような故障が検知された場合、操作検知記録手段260は、使用中のリングバッファへの記録動作を停止すると共に、未使用のリングバッファへの記録動作を開始すればよい。このように構成することで、歯科用椅子104の動作停止に至らずに診療が続けられてサービスマンを呼ぶまでもない程度の異常も複数回記録することができるようになる。例えば、歯科用診療装置が不具合で停止してしまった後、再始動することもあるが、このような場合、再始動以降の記録を残すことが可能になる。
【0080】
(変形例4)
操作履歴記憶手段270は、リングバッファの構成に限定されるものではなく、上書きを前提としない大容量メモリであってもよい。この場合、サービスマンが蓄積された記録を定期的に消去する。
(変形例5)
操作履歴記憶手段270が充分に大きな容量を有するメモリであれば、異常検知時に操作検知記録手段260は操作履歴記憶手段270への記録動作を停止する必要はない。この場合でも、サービスマンは、操作履歴記憶手段270に蓄積された情報と、エラーログ記憶手段250に蓄積された情報とを関連させて扱うことで、不具合の原因を絞り込むことができる。
【0081】
(変形例6)
前記実施形態では、操作表示手段210と、ユニット制御手段220と、エラー検知手段240と、エラーログ記憶手段250と、操作検知記録手段260と、操作履歴記憶手段270と、異常検知記録手段280と、条件設定手段290と、を携帯端末200が備えることとしたが、これらの手段を装置本体100に備えるようにしてもよい。この場合、携帯端末200は、通信手段230を介して装置本体100から、術者の操作履歴や異常内容を受信して操作表示手段210に表示させてもよいし、あるいは、装置本体100側に設けた表示手段に表示させてもよい。
【0082】
(変形例7)
前記実施形態では、歯科用診療装置1は、複数の術者毎に対応可能な動作モードを有することとしたが、単数の術者に対応可能な動作モードであっても構わない。
また、患者毎に対応可能な動作モードを有することとしてもよい。この場合、操作検知記録手段260は、患者毎に、複数又は単数の術者が操作手段を操作した操作内容及び術者名若しくは患者名を操作履歴記憶手段270に記録する。加えて、異常検知記録手段280、予め定められた異常を検知すると異常の内容及び術者名若しくは患者名を操作履歴記憶手段270に記録する。
【0083】
(変形例8)
歯科用診療装置が歯科用ユニットで構成されている場合、歯科用のインスツルメント110やハンガー102は必須ではなく、少なくとも歯科用椅子104を備えていればよい。また、歯科用診療装置は、歯科用ユニットに限定されるものではなく、例えば、X線撮影装置を含み、操作手段がX線撮影装置を操作する操作手段であってもよい。
また、歯科用診療装置は、X線CT装置を含み、操作手段がX線CT装置を操作する操作手段であってもよい。
また、歯科用診療装置は、レーザ装置を含み、操作手段がレーザ装置を操作する操作手段であってもよい。
さらに、歯科用診療装置は、歯科用インスツルメントや歯科用小機器であってもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 歯科用診療装置
100 装置本体
101 ユニット本体
102 ハンガー
103 テーブル
104 歯科用椅子
106 フットコントローラ
120 駆動回路
130 駆動機構
150 本体側通信手段
200 携帯端末
210 操作表示手段
260 操作検知記録手段
270 操作履歴記憶手段
280 異常検知記録手段
290 条件設定手段
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科診療に供される歯科用診療装置であって、
操作手段と、
術者が前記操作手段を操作した内容を記憶手段に記録する操作検知記録手段と、
予め定められた異常を検知すると異常の内容を前記記憶手段に記録する異常検知記録手段と、
を備え、
複数若しくは単数の術者毎に又は患者毎に対応可能な動作モードを有し、
前記操作検知記録手段は、術者毎に又は患者毎に前記操作手段を操作した操作内容及び術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録し、
前記異常検知記録手段は、予め定められた異常を検知すると異常の内容及び術者名若しくは患者名を前記記憶手段に記録することを特徴とする歯科用診療装置。
【請求項2】
歯科診療に供される歯科用診療装置であって、
操作手段と、
術者が前記操作手段を操作した内容を記憶手段に記録する操作検知記録手段と、
予め定められた異常を検知すると異常の内容を前記記憶手段に記録する異常検知記録手段と、
を備え、
前記予め定められた異常を検知した場合、前記操作検知記録手段は前記記憶手段への記録動作を停止することを特徴とする歯科用診療装置。
【請求項3】
前記予め定められた異常の条件を設定する条件設定手段を備え、
前記異常検知記録手段は、前記条件設定手段により設定された条件に基づいて異常を検知する、請求項2に記載の歯科用診療装置。
【請求項4】
歯科診療に供される歯科用診療装置であって、
操作手段と、
術者が前記操作手段を操作した内容を記憶手段に記録する操作検知記録手段と、
予め定められた異常を検知すると異常の内容を前記記憶手段に記録する異常検知記録手段と、
を備え、
前記操作検知記録手段、前記記憶手段及び前記異常検知記録手段を有する携帯端末と、
前記携帯端末と通信可能な通信手段と、を備え、
前記操作手段は、前記携帯端末のタッチパネルで構成され、歯科用椅子を駆動する駆動機構及び歯科用のインスツルメントを駆動する駆動回路に対して、前記通信手段を介して駆動指示を入力することを特徴とする歯科用診療装置。
【請求項5】
前記操作手段は、前記駆動機構及び前記駆動回路に対して駆動指示を入力するフットコントローラをさらに含み、
前記通信手段は、前記フットコントローラから入力する駆動指示を、前記操作検知記録手段に入力する、請求項4に記載の歯科用診療装置。
【請求項6】
少なくとも歯科用椅子を含み、
前記操作手段は前記歯科用椅子を操作する操作手段を含む、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の歯科用診療装置。
【請求項7】
前記記憶手段は、リングバッファで構成されている、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の歯科用診療装置。
【請求項8】
前記操作検知記録手段で記録した記録情報と前記異常検知記録手段で記録した記録情報とを表示する表示手段を設けたことを特徴とする請求項1、2、3、5、6および7のいずれか一項に記載の歯科用診療装置。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
前記予め定められた異常を検知した場合、前記操作検知記録手段は前記記憶手段への記録動作を停止することを特徴とする請求項1、4および5のいずれか一項に記載の歯科用診療装置。
【請求項11】
前記操作検知記録手段、前記記憶手段及び前記異常検知記録手段を有する携帯端末と、
前記携帯端末と通信可能な通信手段と、を備え、
前記操作手段は、前記携帯端末のタッチパネルで構成され、歯科用椅子を駆動する駆動機構及び歯科用のインスツルメントを駆動する駆動回路に対して、前記通信手段を介して駆動指示を入力することを特徴とする請求項1に記載の歯科用診療装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-28 
出願番号 特願2016-138810(P2016-138810)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (A61G)
P 1 652・ 121- YAA (A61G)
P 1 652・ 113- YAA (A61G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大谷 謙仁  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 仁木 学
一ノ瀬 覚
登録日 2017-09-29 
登録番号 特許第6216009号(P6216009)
権利者 株式会社吉田製作所
発明の名称 歯科用診療装置  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

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