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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1346760
異議申立番号 異議2018-700292  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-09 
確定日 2018-10-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6210155号発明「鉄道車両用車輪および鉄道車両用車輪の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6210155号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5、6〕について訂正することを認める。 特許第6210155号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6210155号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、2015年(平成27年) 6月 9日(優先権主張 平成26年 6月11日)を国際出願日とする出願であって、平成29年 9月22日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月11日に特許掲載公報が発行された。
その後、平成30年 4月 9日に特許異議申立人谷口充弘(以下、単に「異議申立人」という。)により、請求項1?6に係る特許に対し特許異議の申立てがされ、同年5月28日付けで取消理由が通知され、これに対し特許権者から同年 7月31日に意見書の提出及び訂正の請求があった。
なお、特許権者から訂正の請求があったことを受けて、当審より平成30年 8月16日付けで通知書を通知し、期間を指定して異議申立人に対して意見を求めたが、その指定した期間内に異議申立人からの応答がなかった。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年 7月31日付けで提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
ア 特許請求の範囲の請求項1に
「質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:0.05?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.05?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが30μm以下である鉄道車両用車輪。」
と記載されているのを、
「質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:1.15?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.26?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪。」
と訂正する。

イ 請求項1を引用する請求項2?4についても同様に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0012】に
「質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:0.05?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.05?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下である鉄道車両用車輪。」
と記載されているのを、
「質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:1.15?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.26?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
ア 特許請求の範囲の請求項5に
「前記領域における平均パーライトブロックサイズが30μm以下である鉄道車両用車輪の製造方法。」
と記載されているのを、
「前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪の製造方法。」
と訂正する。

イ 請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落【0017】に
「また、本発明の鉄道車両用車輪の製造方法は、質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:0.05?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al0.001?0.08%、およびCr:0.05?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼を、電気炉あるいは転炉で溶製し、鋳造して素材とし、該素材を熱間圧延および/または熱間鍛造を行い成形した後、該成形された車輪を加熱温度Ac_(3)点+50℃以上に加熱し、冷却開始温度:700℃以上、冷却速度:1?10℃/s、冷却停止温度:500?650℃の加速冷却を行った後、空冷する鉄道車両用車輪の製造方法である。」
と記載されているのを、
「また、本発明の鉄道車両用車輪の製造方法は、質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:0.05?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.05?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼を、電気炉あるいは転炉で溶製し、鋳造して素材とし、該素材を熱間圧延および/または熱間鍛造を行い成形した後、該成形された車輪を加熱温度Ac_(3)点+50℃以上Ac_(3)点+150℃以下に加熱し、冷却開始温度:700℃以上、冷却速度:1?10℃/s、冷却停止温度:500?650℃の加速冷却を行った後、空冷する、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪の製造方法である。」
と訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0026】の表1及び表2に関し、



とあるのを、



と訂正する。
すなわち、表1において「車輪材A」、「車輪材C」と記載されているのをそれぞれ「車輪材C」、「車輪材A」に訂正し、また、表2において「車輪材B」、「車輪材C」と記載されているのをそれぞれ「車輪材C」、「車輪材B」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1において、Mnの含有量の範囲、Crの含有量の範囲、及び「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域」における「平均パーライトブロックサイズ」の範囲を、訂正前よりもさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
明細書の段落【0072】の表3の「鋼記号G」は、「適合鋼」とされるものであって、Mnの含有量が1.15質量%であり、「鋼記号J」は、「適合鋼」とされるものであって、Crの含有量が0.26質量%であるから、訂正事項1による訂正のうち、Mnの含有量の範囲の下限値を「1.15」とし、Crの含有量の範囲の下限値を「0.26」とする訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、明細書の段落【0057】には「ブロックサイズは現実的には10μm以上である」と記載されているから、訂正事項1による訂正のうち、「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域」における「平均パーライトブロックサイズ」の範囲の下限値を「10μm以上」とする訂正も、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項1において、Mnの含有量の範囲、Crの含有量の範囲、及び「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域」における「平均パーライトブロックサイズ」の範囲を、訂正前よりもさらに限定するものであるから、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正事項1による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載と、明細書の段落【0012】の記載とを整合させるために、明細書の段落【0012】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項5において、「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域」における「平均パーライトブロックサイズ」の範囲を、訂正前よりもさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
明細書の段落【0057】には「ブロックサイズは現実的には10μm以上である」と記載されているから、「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域」における「平均パーライトブロックサイズ」の範囲の下限値を「10μm以上」とする訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項5において、「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域」における「平均パーライトブロックサイズ」の範囲を、訂正前よりもさらに限定するものであるから、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、訂正事項3による訂正後の特許請求の範囲の請求項5の記載と、明細書の段落【0017】の記載とを整合させるために、明細書の段落【0017】の記載を訂正するものであるから、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5による訂正は、明細書に記載の表1及び表2における誤記の訂正を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
(ア)まず、訂正前の表1の成分組成について着目する。
本件訂正前の請求項1に規定される成分組成に該当するのは、三段目の車輪材のみであるから、表1の三段目の車輪材が「パーライト」であり、「適合材」であるとする点について、訂正前の表1の記載は正しい。
また、二段目の車輪材は、他の車輪材に比較して炭素含有量が少ないものであるところ、明細書の段落【0023】の「試験に使用した車輪材とレール材の成分組成を表1に示す。パーライト車輪材および焼もどしマルテンサイト車輪材には共析鋼を、ベイナイト車輪材には低炭素合金鋼を用いた。」との記載に照らすと、表1の二段目の車輪材が「ベイナイト」であり、「比較材」であるとする点について、訂正前の表1の記載は正しい。
そして、表1の一段目の車輪材が「焼戻しマルテンサイト」であって、「比較材」であるとする点についても、訂正前の表1の記載は正しい。

(イ)次に、訂正前の表2に着目する。
段落【0025】の「前記摩耗試験の結果を表2に示す。車輪材とレール材、ぞれぞれの摩耗量についてみると、車輪材の摩耗量はベイナイト、焼もどしマルテンサイトおよびパーライトの順で少なくなっているのに対して、レール材の摩耗量は車輪のミクロ組織がベイナイト、焼もどしマルテンサイトおよびパーライトの順でわずかではあるが増加することが分かった。そして、車輪材とレール材の摩耗量を積算したトータルの摩耗量は車輪のミクロ組織がパーライトである場合に最も少なかった。」との記載と、訂正前の表2の摩耗量の数値(車輪材Aがトータル摩耗量の数値が最も少ない)を考慮すると、訂正前の表2の「車輪材A」がパーライトであるとの記載は正しいものである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を総合すると、訂正前の表1の三段目の車輪材が「車輪材C」であるのは誤記であって、正しくは「車輪材A」であるべきである。

(エ)そして、訂正前の表1の一段目の車輪材は車輪材A:焼戻しマルテンサイトとなっており、二段目の車輪材は車輪材B:ベイナイトとなっているが、上記(ウ)に照らすと、表1の一段目の車輪材は、「車輪材A」ではなく「車輪材C」であるべきであり、また、二段目の車輪材は、「車輪材B」のままであるべきである。

(オ)上記(ウ)、(エ)の検討より、訂正事項5による表1の訂正は、明細書の記載に整合するように誤記を正しく訂正したものであって、新規事項の追加には該当しない。

(カ)そして、訂正事項5による表2の訂正は、訂正後の表1に整合するように、表2の「試験片」の欄の誤記を正しく訂正したものであって、これも、新規事項の追加には該当しない。

(キ)したがって、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。


3 一群の請求項
本件訂正前の請求項1?4について、請求項2?4はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?4は一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項5、6について、請求項6は請求項5を引用しているものであって、請求項5の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項5、6は一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5、6〕をそれぞれ訂正単位とする訂正の請求をするものである。


4 本件訂正が特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合することについて
訂正事項2、4、5による訂正は明細書の訂正であるところ、当該訂正は、当該明細書の訂正に関連する請求項の全てについて行われなければならない。
訂正事項2による訂正は、この訂正に関連する請求項の全てである、一群の請求項である請求項1?4について訂正を行うものである。
訂正事項4による訂正は、この訂正に関連する請求項の全てである、一群の請求項である請求項5、6について訂正を行うものである。
訂正事項5による訂正は、この訂正に関連する請求項の全てである請求項1?6について訂正を行うものである。
したがって、訂正事項2、4、5による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号から第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5、6〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ本件発明1?6という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、訂正箇所に下線を付した。
「【請求項1】
質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:1.15?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.26?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用車輪であって、
さらに、質量パーセントで、Cu:0.03?0.5%、Ni:0.03?0.5%、Mo:0.02?0.2%、V:0.003?0.3%、Nb:0.003?0.1%、およびTi:0.002?0.02%から選ばれる1種または2種以上を含有する鉄道車両用車輪。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の鉄道車両用車輪であって、踏面から15mm内部での、0.2%耐力(YS)が700MPa以上、降伏比が60%以上である鉄道車両用車輪。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の鉄道車両用車輪であって、踏面から15mm内部での、0.2%耐力(YS)が700MPa以上、降伏比が60%以上、伸びが12%以上、20℃におけるシャルピー衝撃値が15J以上である鉄道車両用車輪。
【請求項5】
質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:0.05?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.05?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼を、電気炉あるいは転炉で溶製し、鋳造して素材とし、該素材を熱間圧延および/または熱間鍛造を行い成形した後、該成形された車輪を加熱温度Ac_(3)点+50℃以上Ac_(3)点+150℃以下に加熱し、冷却開始温度:700℃以上、冷却速度:1?10℃/s、冷却停止温度:500?650℃の加速冷却を行った後、空冷する、
少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道車両用車輪の製造方法であって、
前記鋼は、さらに、質量パーセントで、Cu:0.03?0.5%、Ni:0.03?0.5%、Mo:0.02?0.2%、V:0.003?0.3%、Nb:0.003?0.1%、およびTi:0.002?0.02%から選ばれる1種または2種以上を含有する鉄道車両用車輪の製造方法。」


第4 特許異議の申立てと当審の判断について
1 申立理由の概要
(1)特許法第36条第6項第2号
異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A1-1」、「A1-2」、「B1-1」及び「B1-2」の記載のとおり、本件訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。

(2)特許法第36条第6項第1号
異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A2」、「B2-1」、「B2-2」の記載のとおり、本件訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。

(3)特許法第36条第4項第1号
異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-1」、「A3-2」、「A3-3」、「B3-1」、「B3-2」の記載のとおり、本件訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。

(4)特許法第29条第2項
異議申立書の「ウ-進歩性違反の理由」の欄における「A.引用発明の説明」及び「B1」?「B4」の記載のとおり、本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第17号証?甲第31号証に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

(5)特許法第29条第2項
異議申立書の「ウ-進歩性違反の理由」の欄における「A.引用発明の説明」及び「B5」、「B6」の記載のとおり、本件訂正前の請求項5、6に係る発明は、甲第17号証、甲第19号証、甲第25号証、甲第32号証に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。


2 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
以下のとおり、前記1(1)、(4)の申立理由と、前記1(3)の申立理由の一部を採用し、取消理由として通知した。
(1)特許法第36条第6項第2号(前記1(1)の申立理由に対応)
異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A1-1」、「A1-2」、「B1-1」及び「B1-2」のうち、甲5に関する記載を除いて取消理由として採用し、本件訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同特許は取り消されるべきものであると通知した。

(2)特許法第36条第4項第1号(前記1(3)の申立理由の一部に対応)
異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-1」、「A3-2」、を取消理由として採用するとともに、職権により、同様の理由が本件訂正前の請求項5、6に係る発明にも該当すると判断し取消理由として採用し、本件訂正前の請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同特許は取り消されるべきものであると通知した。

(3)特許法第29条第2項(前記1(4)の申立理由に対応)
異議申立書の「ウ-進歩性違反の理由」の欄における「A.引用発明の説明」の記載と、「B1」?「B4」の記載を一部読み替えたものを取消理由として採用し、本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲17?甲31に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであると通知した。


3 取消理由として採用しなかった申立理由について
以下に示す、前記1(2)、(5)の申立理由と、前記1(3)の申立理由のうちの一部は、取消理由として採用しなかった。
(1)特許法第36条第6項第1号(前記1(2)の申立理由に対応)
異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A2」、「B2-1」、「B2-2」に記載された、特許法第36条第6項第1号違反に関する申立理由。

(2)特許法第36条第4項第1号(前記1(3)の申立理由の一部に対応)
異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-3」、「B3-1」、「B3-2」に記載された、特許法第36条第4項第1号違反に関する申立理由。

(3)特許法第29条第2項(前記1(5)の申立理由に対応)
異議申立書の「ウ-進歩性違反の理由」の欄における「A.引用発明の説明」及び「B5」、「B6」に記載された、本件訂正前の請求項5、6に係る発明が、甲17、甲19、甲25、甲32に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとする申立理由。


4 証拠について
異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第32号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲32」ということがある。)を証拠として提出した。

[証拠方法]
甲1: 特開2014-101583号公報
甲2: 特開2010-202913号公報
甲3: 特開平11-199977号公報
甲4: 特開2016-56438号公報
甲5: 鉄と鋼、Vol.102(2016)、No.2 p.36?44
甲6: 特開2013-14825号公報
甲7: 特開2011-47032号公報
甲8: 特開2004-292844号公報
甲9: 特開2010-242119号公報
甲10:特開2012-229470号公報
甲11:特開2013-95964号公報
甲12:特開2015-101779号公報
甲13:特開2012-41587号公報
甲14:高速車両用輪軸研究委員会、「鉄道輪軸」、
丸善プラネット株式会社
2011年12月10日、p.64?67
甲15:社団法人日本鉄鋼協会、
「第3版 鉄鋼便覧第V巻 鍛造・鋳造・粉末冶金」、
丸善株式会社
昭和57年10月1日、p.425?428
甲16:高橋稔彦外2名、
「パーライトブロックの金属組織的特徴と生成過程」
日本金属学会誌、第42巻、第7号、第716頁?723頁、
[online]1978年7月、[平成30年4月4日検索]、
インターネット
<URL:https://www.jim.or.jp/journal/j/pdf3/42/07/716.pdf>
甲17:Kenichi Shimbo,Takanori Kato,Yukiteru Takeshita,
Takashi Fujimura,
"Fundamental Investigation of High Impact Wheel",
International Wheelset Congress, Prague, Czech republic,
September 23-27, 2007
甲18:牧 正志、「鉄鋼の組織制御 その原理と方法」、内田老鶴圃、
2015年12月10日、p.133?134
甲19:特開2013-147725号公報
甲20:特開平9-202937号公報
甲21:特開2002-212677号公報
甲22:特開2003-105499号公報
甲23:特開平8-109439号公報
甲24:特開平8-333635号公報
甲25:特開2004-43963号公報
甲26:特開2004-76112号公報
甲27:特開2012-126954号公報
甲28:特開2012-126955号公報
甲29:特開2000-337333号公報
甲30:新日本製鉄株式会社編著、「鉄の未来が見える本」、
株式会社日本実業出版社、
2007年1月20日、p.58
甲31:樽井敏三著、「高炭素鋼線の最近の進歩」、
社団法人日本鉄鋼協会、西山記念技術講座、
平成18年6月 p.149
甲32:不二越熱処理研究会著、「新・知りたい熱処理」、
株式会社ジャパンマシニスト社、
2013年8月10日、p.54

以下に、各甲号証の記載事項について摘記する。
(1)甲1の記載事項
「【0073】
パーライトブロックの測定方法には後方散乱電子回折(Electron BackScattering Pattern:EBSP)法を用いた。以下に測定条件を示す。
【0074】
<レール頭部内部のパーライトブロック粒径の測定方法>
・測定条件
装置:高分解能走査型顕微鏡(SEM)
測定用試験片採取:レール頭部外郭表面から深さ20?30mmの範囲の横断面からサンプルを切り出した。
事前処理:横断面を1μmダイヤ砥粒により機械研磨し、次いで電解研摩を行った。
・粒径測定方法
[1]測定視野:1000×1000μm
[2]SEM電子ビーム径:30nm
[3]測定ステップ(間隔):1.0?2.0μm
[4]粒界認定:互いの結晶方位差が15°以上である隣り合うパーライトブロック粒の境界(大角粒界)をパーライトブロック境界として認識した。
[5]粒径測定:パーライトブロック粒の面積を測定後、パーライトブロックを円形と仮定した場合の直径を算定した。
・平均粒径の算定
平均粒径:深さ20?30mmの範囲の任意断面から10視野以上選択し、各視野における各パーライトブロック粒に対して上記の測定を行い、この測定により得られた各パーライトブロック粒の直径の平均値を当該レールのパーライトブロックの平均粒径とした。」

(2)甲2の記載事項
「【0058】
パーライト組織の平均ブロック粒径を20μm以下に制限するのは、線材の延性を確保するためである。通常、パーライトブロック粒径はγ粒径の粗大化に伴い大きくなるが、以下に説明するように、溶融ソルトに浸漬するか、急冷後保定することによって、パーライトブロック粒の核生成を促進させ、20μm以下とすることができる。
なお、パテンティング線材のパーライトブロック粒径は、線材のL断面を、樹脂に埋め込み後、切断研磨し、EBSP解析により倍率500倍で、方位差9°の界面で囲まれた領域を一つのブロック粒として解析し、その平均体積から求めた平均粒径とした。」

(3)甲3の記載事項
「【0017】
【実施例】実施例1
C:0.59%,Si:1.37%,Mn:0.66%,Cr:0.69%を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼を用いて、155mm角のビレットを850?1000℃に加熱し、熱間圧延にて8mmφに加工し、800?600℃における冷却速度を約2?3℃/secにて調整冷却し、表1に示すパーライトノジュールサイズの線材を作製した。尚、パーライトノジュールサイズは、線材の横断面を光学顕微鏡にて400倍で視野内の0.125mm角中にあるパーライトノジュールの大きさ(長軸の長さ)を5個測定し、平均した値である。上記線材をダイス角度15度で乾式伸線し、カッピー断線した際の減面率を伸線限界減面率とした。結果は表1及び図1に示す。」

(4)甲4の記載事項
「【0024】
ピクセルの3重点において、この3重点から伸びるピクセル境界での傾角差がいずれも9°以上の場合、パーライトブロック粒界は分岐する。ピクセル境界での傾角差が9°以上という条件が途中で途切れる場合、このピクセル境界はパーライトブロック粒界とは見なさず、無視する。以上の考え方に従って、9°以上のフェライト結晶方位傾角差を持つピクセル境界を全矩形領域にわたって定義し、ピクセル境界がひとつの閉じた領域を包囲する場合、この領域を一つのパーライトブロックとして定義し、ピクセル境界をパーライトブロック粒界として定義する。このようにして、フェライト結晶方位のマップ上にパーライトブロック粒界を示し、パーライトのブロック径を測定する。ただし、定義されたパーライトブロックの一つの粒が25ピクセル以下で構成される場合は、ノイズとして扱い、無視する。ここで、パーライトブロックと、パーライトノジュールとは、同義である。」

(5)甲5の記載事項(下線は異議申立人が付した。)



(第37?38頁)

(6)甲6の記載事項
「【0048】
EBSPによる組織観察では、板厚方向に50μm以上、圧延方向に100μm以上の大きさの領域において、0.1μm刻みで電子ビームを照射して相の判定を行う。得られた測定データの内、信頼性指数(Confidence Index)が0.1以上のものを有効なデータとして粒径測定に用いる。また、測定ノイズにより残留オーステナイトの粒径が過小に評価されることを防ぐため、円相当直径が0.15μm以上の残留オーステナイト粒のみを有効な粒として、平均粒径の算出を行う。」

「【0052】
この時のEBSPによる組織観察では、板厚方向に50μm、圧延方向に100μmの大きさの領域において、0.1μm刻みで電子ビームを照射して相の判定を行う。また、得られた測定データの内、信頼性指数が0.1以上のものを有効なデータとして粒径測定に用いる。さらに、測定ノイズによる粒径の過小評価を防ぐため、bcc相の評価では、先述した残留オーステナイトの場合とは異なり、粒径が0.47μm以上のbcc相のみを有効な粒として上記の粒径算出を行う。組織が微細な粒と粗大な粒が混在した混粒組織の場合、金属組織の結晶粒径評価として一般的に用いられる切断法で評価すると、粗大な粒の影響が過小に評価される場合がある。本発明では粗大な粒の影響を考慮した結晶粒径の算出法として、結晶粒個々の面積を重みとして掛けた上述の(1)式を用いる。」

(7)甲7の記載事項
「【0048】
[平均大角粒界径の測定]
鋼板のt(t:板厚)/4部位における鋼板の圧延方向に平行な断面において、FE-SEM-EBSP(電子放出型走査電子顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像法)によって大角粒界径を測定した。具体的には、Tex SEM Laboratries社のEBSP装置(商品名:「OIM」)を、FE-SEMと組み合わせて用い、傾角(結晶方位差)が15°以上の境界を結晶粒界として、大角粒界径を測定した。このときの測定条件は、測定領域:200×200(μm^(2))、測定ステップ:0.5μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィデンス・インデックス(Confidence Index)が0.1よりも小さい測定点は解析対象から除外した。このようにして求められる大角粒界径の平均値を算出して、本発明における「大角粒界径(平均円相当径)」とした。尚、大角粒界径が1.0μm以下のものについては、測定ノイズと判断し、平均値計算の対象から除外した。」

(8)甲8の記載事項
「【0025】
なお、本発明でいう「平均結晶粒径」は、鋼板の圧延方向に平行な断面において、FE-SEM-EBSP(電解放出型走査電子顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像法)によって測定される値である。具体的には、EBSP解析装置(TexSEM Laboratries社製のEBSP解析装置など)をFE-SEMと組み合わせて用い、傾角(結晶方位差)が10度以上の境界を結晶粒界として、結晶粒径を決定する。測定条件としては、測定領域は100μm、測定ステップは0.4μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィテンス・インデックス(Confidence Index)が0.1以下の測定点は解析対象から削除する。このようにして求められる結晶粒径の平均値を算出、本発明の平均結晶粒径とする。なお、結晶粒径が1.2μm以下のものについては、測定ノイズと判断し、結晶粒径の平均値計算の対象から除外することとする。」

(9)甲9の記載事項
「【0065】
[擬ポリゴナル・フェライトの平均結晶粒径および結晶粒径分布]
平均結晶粒径および結晶粒径分布は、EBSP解析装置(TexSEM Laboratries社製)およびPhilips社製FE-SEM(電解放出型走査電子顕微鏡)「XL30S-FEG」を用いて測定した。結晶方位差(斜角)が15°以上の境界(大角粒界)を結晶粒界として「結晶粒」を定義し、擬ポリゴナル・フェライトにおける結晶粒の平均結晶粒径を決定した。このときの測定領域は、250μm、測定ステップは0.4μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィテンス・インデックス(Confidence Index)が0.1以下の測定点は解析対象から削除した。また、結晶粒径が2.0μm未満のものについては、測定ノイズと判断し、結晶粒径の平均値計算の対象から除外した。そして、結晶粒径が2.0μm以上で測定された結晶粒を、結晶粒径の単位が1μm毎(例えば、最初の範囲が2.0μm以上、3.0μm未満、次が3.0μm以上、4.0μm未満、…という順序)に計数し、結晶粒径とその粒数のヒストグラムを作成し、極大値と判断される結晶粒径[極大値(1)、極大値(2)]を求めた。」

(10)甲10の記載事項
「【0124】
[板厚方向の大角結晶粒径差(Mmax-Mmin)]
上記硬さ差の測定と同様に図12に示された試験片を用い、断面における表面から1mm深さの位置、t/4部、t/2部の3部において各部につき5箇所ずつ、FE-SEM-EBSP(Electron Back Scattering Pattern)(電子放出型走査電子顕微鏡を用いた電子後方散乱回折像法)によって大角粒界径(大角結晶粒径)を測定した。具体的には、以下の通りである。
(i)前記図12に示すとおり、圧延方向と板厚方向からなる面であって、板厚方向が0?tである(即ち、鋼板の表裏面を含む)サンプルを準備する。
(ii)#150?#1000までの湿式エメリー研磨紙、またはそれと同等の機能を有する研磨方法(上記湿式エメリー研磨紙以外の研磨紙、ダイヤモンドスラリーなどの研磨剤を用いた研磨方法)によって鏡面仕上を施す。
(iii)TexSEM Laboratories社製のEBSP装置を使用し、t/4部において、結晶方位差が15°以上の境界を結晶粒界と設定して大角粒界で囲まれた領域(大角結晶粒)の結晶粒径を測定した。このときの測定条件は、測定範囲:200×200μm、測定ステップ:0.5μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィデンス・インデックス(Confidence Index)が0.1よりも小さい測定点は解析対象から除外した。
(iv)データの解析法として、上記結晶粒径が2.5μm以下のものはノイズと考え削除した。そして1観察面における大角結晶粒の平均結晶粒径を、合計3部×5箇所=15箇所のそれぞれにおいて求めた。」

(11)甲11の記載事項
「【0051】
[α相の結晶粒の測定]
試験材の縦断面について、圧延方向に1mm、板厚方向に0.45mmの領域を、電界放出型走査顕微鏡(FESEM)を用いて後方錯乱電子回折像(EBSP)による組織観察を行い、α相の結晶粒の粒径、結晶粒100個中の粗大結晶粒の存在割合、および粗大結晶粒の面積率を測定した。なお、前記領域に含まれる結晶粒の個数が200個未満の場合、200個以上になるまで測定領域を増やして測定を行った。
詳細には、方位差15°以上の境界を結晶粒界と認識し、各結晶粒の円相当直径及び平均円相当直径を算出した。その後、結晶粒100個中の粗大結晶粒の存在割合(=測定領域に存在する粗大結晶粒の個数/測定領域に存在する全ての結晶粒の個数×100)、および粗大結晶粒の面積率(=測定領域に存在する粗大結晶粒の面積/測定領域の面積×100)を算出した。その際、円相当直径が4μm未満の結晶粒はノイズの可能性があることから、4μm以上の結晶粒を対象に算出を行った。」

(12)甲12の記載事項
「【0028】
以上の考え方に従って、9°以上のフェライト方位差を持つピクセル境界を全矩形領域にわたって定義し、パーライトブロック粒界がひとつの閉じた領域を包囲する場合、この領域を一つのパーライトブロックとして定義する。ただし、定義されたパーライトブロック粒が25ピクセル以下で構成される場合は、ノイズとして扱い、無視する。」

(13)甲13の記載事項
「【0041】
表3に熱間圧延後の線材の金属組織、パーライト組織の体積を示す。伸線加工後の鋼線の組織もこれらと同じである。鋼線の、表層から1mmまでの領域におけるアスペクト比が2.0以上のパーライトブロックからなる組織の体積率、軸方向と平行な断面における、ラメラの方向と軸方向の角度が40°以下であるパーライト組織の占める領域の全パーライト組織に対する面積率を示す。また、表3には64×(C%)+52%にて計算したパーライト組織の体積率の下限も併せて示した。なお、パーライト組織の面積率は走査型電子顕微鏡を用いて、鋼線の軸方向と平行な断面にて表層から1mmまでの位置にて125μm×95μmの領域を1000倍の倍率で写真撮影して、それぞれの組織の面積率を画像解析により求めた。検鏡面の面積率は組織の体積率と等しいことから、画像解析により得られた面積率をそれぞれの組織の体積率とした。パーライト組織のブロック粒の測定にはEBSD装置を用いた。軸方向に平行な断面にて表層から1.0mmまでの範囲において275μm×165μmの領域を測定した。EBSDにて測定したフェライトの結晶方位マップから、方位差15度以上となる境界をブロック粒界とした。アスペクト比はEBSDで求めたブロック粒から、円相当径で1.0μm以上のブロックにおいて、長軸と短軸の比より求めた。アスペクト比が2.0以上のパーライトブロックからなる領域は、EBSDで求めたブロック粒から、1.0μm以上のブロックにおいてアスペクト比が2.0以上のブロックが占める領域とした。軸方向と平行な断面でのラメラの方向と軸方向の角度が40°未満の領域は、表層から1.0mmまでの範囲において撮影した5000倍のSEM写真をもとに当該領域を画像解析することで求めた。具体的には、図2の概念図に示すように、ラメラの方向と軸方向の方位差が40°未満となる領域をSEM写真で求め、当該領域の面積を画像解析することで求めた。」

(14)甲14の記載事項



(第64頁)




(第65頁)




(第66頁)

(15)甲15の記載事項(囲みは異議申立人が付した。)



(第425頁)




(第426頁)


(16)甲16の記載事項(囲み及び下線は異議申立人が付した。)



(第719頁左側)




(第719頁右側)

(17)甲17の記載事項



(第1頁)
(当審訳:
要約
北米の輸送需要に応えるために、貨物輸送比率が増大している。その結果、多数の鉄道車輪で損傷による車輪交換が発生している。鉄道車輪の損傷の多くは「high impact」と呼ばれる強い衝撃を生じさせることによるものであり、強い衝撃を発生させる車輪(High Impact Wheels:以下、HIWという。)の原因は、Out of Round(以下、OORという。)(当審注:車輪が真円でないことを意味する。)、shelling(当審注:転動疲労による剥離を意味する。)及びspalling(当審注:熱影響による剥離を意味する。)などである。そこで、本研究では、HIWの発生原因を調査することを目的とする。基礎調査として、摩耗に対する鉄道車輪の素材の影響、及びshellingに対する白色層の影響について調査した。結論として、1)球状セメンタイト材の摩耗量が高く、2)焼戻しマルテンサイト材では波状摩耗が生じた。したがって、球状化セメンタイト材及び焼戻しマルテンサイト材が、OOR及びHIWを引き起こす可能性があることが分かった。さらに、3)白色層を有さない供試材を用いた転動疲労寿命は、白色層を有する供試材よりもはるかに長かった。したがって、白色層が、HIWを促進している可能性があった。)




(第2頁)
(訳:
表1:試験片の化学組成範囲
図1:試験片の製造フロー
以下に、図1に記載される英語について、訳を示す。
non-heat-treated wheel:「熱処理されていないホイール」
machining:「機械加工」
heat treatment:「熱処理」
Test specimen:「試験片」)




(第3頁)
(訳:
表2:試験材料の特徴
図2:熱処理条件と、熱処理後のミクロ組織
以下に、表2及び図2に記載される英語について、訳を示す。
Heat treatment:「熱処理」
Microstructure:「ミクロ組織」
Vickers hardness:「ビッカース硬さ」
Pearlite:「パーライト」
Spheroidized cementite:「球状化セメンタイト」
Tempered martensite:「焼戻しマルテンサイト」
Heat-treated wheel:「熱処理されたホイール」)




(第5頁)
(訳:
図5:摩耗量とサイクル数の関係
図6:摩耗量とサイクル数の関係

各材料(「AAR Class C」と「SWR」)の摩耗量とサイクル数の関係が、図6に示される。図5は、各試験片の摩耗量が、サイクル数の増加に伴って、単調に増加することを示す。「AAR Class C(P)」の摩耗量は、「SWR(SWR)」の摩耗量よりも大きい。「AAR Class C(P)」と「SWR(SWR)」のパーライト組織のTEM観察結果が、図7に示される。図7は、「SWR(SWR)」のラメラー間隔が、「AAR Class C(P)」のラメラー間隔よりも狭いことを示す。摩耗に関する「SWR(SWR)」の良好な性能は、その狭いラメラー間隔によるものと考えられる。

図7:パーライト組織のTEM観察結果)



(18)甲18の記載事項(下線は異議申立人が付した。)



(第133頁)

(19)甲19の記載事項
「【0001】
本発明は、鉄道の軌道で使用されるレール及び車両の車輪において、レール頭頂部の硬さと車輪踏面部の硬さの比を制御することにより、レールと車輪の摩耗量を抑制し、使用寿命を向上させることを目的としたレール鋼及び車輪鋼の材質選択方法。」

「【0023】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑み案出されたものであり、その目的は、レール鋼と車輪鋼の組合せにおいて耐摩耗性の向上を図り、レール及び車輪のトータルでの使用寿命を向上させることである。」

「【0026】
(1)質量%で、C:0.70?1.20%、Si:0.05?2.00%、Mn:0.05?2.00%、P≦0.025%、S≦0.025%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるパーライト組織を有するレール鋼と、質量%で、C:0.55?0.80%、Si:0.10?0.80%、Mn:0.20?1.00%、P≦0.030%、S≦0.030%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるパーライト又は焼戻しマルテンサイト組織を有する車輪鋼を、実軌道のレール及び車両の車輪で使用する際に、レール頭頂部の硬さ:RHと車輪踏面部の硬さ:WHの比を下記式(1)に示す範囲内に制御することを特徴とするレール鋼及び車輪鋼の材質選択方法。
1.00≦RH/WH≦1.30 ・・・(1)
ここで、RH(HV):レール頭頂部の硬さ
WH(HV):車輪踏面部の硬さ」

「【0028】
(3)前記車輪鋼が、さらに、質量%で、Cr:0.10?1.20%、Mo:0.01?0.50%、V:0.005?0.50%、Nb:0.002?0.050%、Ti:0.0050?0.0500%、Co:0.01?1.00%、B:0.0001?0.0050%、Cu:0.01?1.00%、Ni:0.01?1.00%、Ca:0.0005?0.0200%、Mg:0.0005?0.0200%、Zr:0.0001?0.0100%、Al:0.0100?1.00%、N:0.0060?0.0200%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)のいずれかに記載のレール鋼及び車輪鋼の材質選択方法。」

「【0076】
Zrは、酸化物の生成により偏析帯の形成を抑制し、車輪の延・靭性を向上させる観点から、0.0001?0.0100%が望ましい。Alは、共析変態温度を高温側へ移動させ、パーライト組織の硬度を高め、脱酸を促進させる観点から、0.0100?1.00%が望ましい。Nは、パーライト変態を促進させ、パーライト組織の延・靭性を向上させる観点から、0.0060?0.0200%が望ましい。」

「【0084】
また、パーライト組織又は焼戻しマルテンサイト組織は、図1の車輪断面表面位置の踏面部(符号1)とフランジ部(符号2)の外郭表面から、少なくとも20mmの深さまで確保することが望ましい。」

(20)甲20の記載事項
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐摩耗性および耐熱亀裂性に優れた鉄道車両用車輪およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、機関車、客車、貨車等の鉄道車両の高速化にも対応できる耐摩耗性および耐熱亀裂性を備えた寿命の長い一体型の鉄道車両用車輪とその製造方法に関する。」

「【0003】通常、焼きばめ等の手法によらない一体型の鉄道車両用車輪は、次の製造方法によって製造される。まず、所定の化学組成に調製された溶鋼を、造塊法または連続鋳造法によって、径360?450mm程度の横断面の形状が円形の鋼塊に鋳造する。この鋼塊を300?500mm程度の厚さに切断し、鍛造、圧延、穿孔等の工程によって、ほぼ製品の形状の車輪に成形した後、踏面部に対して焼入、焼戻などの熱処理を施す。さらに、機械加工等の工程を経て製品に仕上げられる。」

「【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、鉄道の高速化にも耐え得る耐摩耗性および耐熱亀裂性を同時に満足するとともに、寿命の長い一体型の鉄道車両用車輪およびその製造方法を提供することを目的とする。」

「【0015】(c) (a) および(b) の条件を満たす車輪用鋼に対して、踏面部近傍にマルテンサイトを生成させることなく、パーライト組織とすることができる焼入方法を採用することによって、踏面から深い領域まで、ほぼ完全なパーライト組織と均一な硬さとすることができる。
【0016】(d) 焼入方法としては、焼入の際の踏面部の冷却曲線が、連続冷却変態曲線図におけるパーライト生成領域を通り、かつ、マルテンサイト変態曲線より長時間側を通るようにするのがよい。そのためには、パーライト変態開始温度まで降下する前の段階、またはマルテンサイト変態開始温度に降下する前の段階で、冷却を中断または弱くする処理が適している。この処理により、(c) を実現できる。
【0017】(e) 上記(a) ?(d) の組み合わせによって、耐熱亀裂性の低下を抑制して耐摩耗性を向上させることができる。さらに、車輪の高寿命化の観点から要求される踏面から深さ50mmまでの領域で、ほぼ均一な硬さとパーライト組織を付与することができる。
【0018】本発明は、上記の知見を基になされたものであって、下記(1)?(3)を要旨とする。
【0019】(1)重量%で、C :0.4?0.75%、Si:0.4?0.95%、Mn:0.6?1.2%、Cr:0?0.2%未満、P :0.03%以下、S :0.03%以下を含有し、残部がFeおよびその他不可避の不純物からなる化学組成の鋼で構成された鉄道車両用車輪であって、車輪踏面部の表面から少なくとも深さ50mmまでの領域が、パーライト組織からなる耐摩耗性および耐熱亀裂性に優れた鉄道車両用車輪。」

(21)甲21の記載事項
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、レール鋼のパーライトブロックサイズを微細化して靭性および延性の向上を図った高強度レールおよびその製造方法に関するものである。」

「【0009】本発明者らはパーライト鋼の破壊においては、亀裂の進展は結晶方位のそろったパーライトブロック単位で進み、その細粒化によって衝撃特性が改善されると考え、パーライトブロックサイズをと衝撃値の関係を把握した。その結果、パーライトブロックサイズが50μm未満になると、20J/cm^(2) 以上の良好な衝撃特性が得られることを知見した。
【0010】すなわち、寒冷地において要求される良好な衝撃試験値を得るための手段は以下の通りである。
(1)質量%で、
C :0.55?1.20%、 Si:0.10?1.20%、
Mn:0.10?1.50%、 S :0.002?0.050%、
V :0.005?1.00%、 Mg:0.0004?0.02%、
N :0.0005?0.03%、 Al:0.05%以下
を含有し、少なくともレール頭部が実質パーライト組織であり、かつ、前記パーライト組織中の任意断面において、Mg酸化物、Mg-Al酸化物、Mg硫化物のいずれかを核としてV炭窒化物を生成した、直径0.01?10μmの複合介在物が1mm^(2 )中に50?100,000個存在し、パーライトブロックサイズが50μm以下であることを特徴とする靭性および延性に優れたパーライト系レール。
(2)質量%で、
C :0.55?1.20%、 Si:0.10?1.20%、
Mn:0.10?1.50%、 S :0.002?0.050%、
V :0.005?1.00%、 Mg:0.0004?0.02%、
N :0.0005?0.03%、 Al:0.05%以下
を含有し、少なくともレール頭部が実質パーライト組織であり、かつ、前記パーライト組織中の任意断面において、Mg酸化物、Mg-Al酸化物、Mg硫化物のいずれかを核としたMnS上に、さらにV炭窒化物を生成した、直径0.01?10μmの複合介在物が1mm^(2) 中に50?100,000個存在し、パーライトブロックサイズが50μm以下であることを特徴とする靭性および延性に優れたパーライト系レール。
(3) 質量%で、さらに、
Cr:0.1?1.0%、 Mo:0.01?0.50%、
Nb:0.001?0.05%、 Ni:0.1?4.0%、
Cu:0.1?4.0%、 B :0.0001?0.005%、
Ti:0.05%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする前項(1)もしくは(2)記載の靭性および延性に優れたパーライト系レール。
(4) 前項(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の成分からなる鋼片を、熱間圧延でレールに形成した後、熱延まま、あるいは熱延後の加熱によってオーステナイト域温度とし、前記レールの少なくとも頭部を700?500℃間を1?5℃/secで加速冷却することを特徴とする靭性および延性に優れた高強度パーライト系レールの製造方法。」

(22)甲22の記載事項
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、レール鋼のパーライトブロックサイズを微細化して靭性および延性の向上を図った高強度レールおよびその製造方法に関するものである。」

「【0009】本発明者らはパーライト鋼の破壊においては、亀裂の進展は結晶方位の揃ったパーライトブロック単位で進み、その細粒化によって衝撃特性が改善されると考え、パーライトブロックサイズと衝撃値の関係を把握した。その結果、パーライトブロックサイズが50μm未満になると、20J/cm^(2 )以上の良好な衝撃特性が得られることを知見した。
【0010】具体的に、良好な衝撃試験値を得るため、本発明は以下の構成からなる。
(1) 質量%で、
C :0.55?1.20%、 Si:0.10?1.20%、
Mn:0.10?1.50%、 S :0.002?0.050%、
V :0.005?1.00%、 Mg:0.0004?0.02%、
N :0.0005?0.03%、 Al:0.05%以下、
Ti:0.05%以下
を含有し、少なくともレール頭部が実質パーライト組織であって、直径が0.01?10μm以下の下記?の介在物が、前記パーライト組織中の任意断面において、1mm^(2) 中に合計で500?2,000,000個存在し、さらに、これら介在物を核として変態したパーライトが存在し、パーライトブロックの平均粒径が50μm未満であることを特徴とする靭性および延性に優れたパーライト系レール。
:Mg酸化物またはMg-Al酸化物またはMg硫化物、
:単独に、またはを核としてMnSを析出した介在物、
:単独に、または、の上にV炭窒化物が析出した介在物、
:?にさらにTiNを含有する介在物
(2) 質量%でさらに、
Cr:0.1?1.0%、 Mo:0.01?0.50%、
Nb:0.001?0.05%、 Ni:0.1?4.0%、
Cu:0.1?4.0%、 B :0.0001?0.005%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載の靭性および延性に優れたパーライト系レール。」

(23)甲23の記載事項
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鉄道その他産業機械用として使用される強度と耐摩耗性に優れた高炭素のパーライト組織を呈した鋼に延・靱性を付与した高耐摩耗レールに関するものである。」

「【0009】そして、高炭素の鋼はそのオーステナイト状態での加工において、比較的低温で、かつ小さい圧下量でも圧延直後に再結晶することを見いだし、小圧下の連続圧延によって整粒の微細オーステナイト粒を得、その結果、延・靭性の優れた細粒のパーライト組織が得られることを知見した。
【0010】ここでパーライトブロックとは、図2に示すように、結晶方位の同じパーライトの集合で、結晶方位もラメラの方向も同じパーライトのコロニーの集合である。なおラメラとは、パーライトを構成するフェライトとセメンタイトが積層した縞模様状の組織である。そして、該パーライトブロックがパーライト粒破壊時の破壊単位となる。
【0011】本発明はこのような知見に基づいて構成したものであって、その要旨とするところは、重量%で、C :0.85超?1.20%、 Si:0.10?1.20%、Mn:0.40?1.50%を含有し、さらに必要に応じて、Cr:0.05?2.00%、 Mo:0.01?0.30%、V :0.02?0.10%、 Nb:0.002?0.01%、Co:0.1?2.0%の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼でパーライト組織を有し、レール断面内のパーライトブロック平均粒径が、レール頭頂表面より該レール頭頂表面を起点として少なくとも20mmの範囲、およびレール底面より該レール底面を起点として少なくとも15mmの範囲で20?50μm、それ以外の部位で35?100μmを呈し、前記レールのパーライトブロック平均粒径が20?50μmの部位における伸び値が10%以上、Uノッチシャルピー値が15J/cm^(2) 以上であることを特徴とするパーライト金属組織を呈した高耐摩耗レールである。」

(24)甲24の記載事項
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は耐表面損傷性の高い高延性高靭性高強度レールの製造法に関する。」

「【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明はレール頭頂から内部にかけて高延性かつ高靭性なパーライト組織を生成せしめることによって表面損傷性に優れた高強度レールを製造することを目的としている。」

「【0028】これを表面の最大冷速4℃/秒以上の冷速で冷却すると、全体がパーライト変態を起こす。パーライト変態は冷速が速いほど変態核が数多く生成し、パーライトブロックを微細にする。微細なパーライトブロックは靭性と延性を上げる。逆にここで緩冷却してしまうとγ粒よりも大きいパーライトブロックを生成してしまうので、γ粒を微細化した効果が薄れてしまう。」

(25)甲25の記載事項
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レール鋼のパーライト組織を微細化して靭性および延性の向上を図った高強度レールおよびその製造方法に関するものである。」

「【0003】
一方、寒冷地の鉄道では冬季にレールクラック発生によるレール取替が集中しており、レール材の靭性改善がレール寿命の延伸に必要な課題になっている。また頭部の内部疲労損傷性の改善には、レール材の靭性および延性を向上させることが重要である。パーライト組織では組織を細粒にすることにより、靭性、延性を改善することができる。」

「【0012】
衝撃値、延性値はパーライト組織の結晶粒単位といえるパーライトブロックが細かいほど高くなる。パーライト鋼が最終的に破壊するとき、亀裂は結晶方位の揃ったパーライトブロックの単位で屈曲して進む。パーライトブロックが細かいほど、新生界面を作るためのエネルギーが大きいことが衝撃値を改善すると考えられる。また、最終的に破断に到るまでの亀裂進行が組織が細粒になると遅くなり、変形量が増加することにより延性も改善される。」

(26)甲26の記載事項
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レール鋼のパーライト組織を微細化して靭性および延性の向上を図ったパーライト系レールの製造方法に関するものである。」

「【0003】
一方、寒冷地の鉄道では冬季にレールクラック発生によるレール取替が集中しており、レール材の靭性改善がレール寿命の延伸に必要な課題になっている。また頭部の内部疲労損傷性の改善には、レール材の靭性および延性を向上させることが重要である。パーライト組織では組織を細粒にすることにより、靭性・延性を改善することができる。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】
パーライト組織は、ラメラー構造と呼ばれるセメンタイト相とフェライト相の層状構造からなっている。フェライトの結晶方位が揃っている領域をパーライトブロックと呼び、パーライト組織における結晶粒単位といえる。パーライト鋼の衝撃値、延性値はパーライトブロックが細かいほど良い。パーライト鋼が破壊するとき、亀裂はパーライトブロック単位で屈曲して進むため、パーライトブロックが細かいほど新生界面の総面積が大きくなり、界面形成に要するエネルギーが大きいことが衝撃値を改善すると考えられる。また最終破断に到るまでの亀裂進行が細粒組織ほど遅いため、破断までの変形量が増大することに
より延性も向上する。」

(27)甲27の記載事項
「【0001】
本発明は、乾式伸線に供される、伸線性に優れた高炭素鋼線材およびその製造方法に関するものである。」

「【0059】
但し、このように、前記コロニーサイズなど、単に組織を粗大化させると、周知の通り鋼線の延性劣化を招き、この延性劣化により、伸線中に断線が発生すると伸線工程の生産性を著しく害するので、一方では延性の確保も必要である。この点、本発明においては、各種組織因子と延性との関係について調査し、パーライトの平均ラメラ間隔Lを300nm以下、パーライトの平均コロニー径Dcを20μm以下で、かつ、パーライトの平均ノジュール径Dを40μm 以下とすることで、前記延性の劣化を防止できる。」

(28)甲28の記載事項
「【0001】
本発明は、乾式伸線に供される、伸線性に優れた高炭素鋼線材およびその製造方法に関するものである。」

「【0062】
前記ラメラ間隔Lの粗大化にともない、一般的に、ノジュール径Dが粗大化する傾向にあるが、延性不足による断線という観点からは、従来から指摘されているように、ノジュール径Dを制御し、粗大化を抑制することも重要である。ノジュール径Dの延性に対する影響は、前記ラメラ間隔Lとは異なる。加工時にラメラ内で発生したボイドが連結し、クラックとして成長する際に、ノジュール界面がクラック成長の抵抗となる。このため、線材のノジュール径Dが微細なほど、前記クラックの成長が抑制され、延性に優れる。」

(29)甲29の記載事項
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車用や各種産業機械用として使用される高強度ボルトに関するものであり、特に強度(引張強度)が1200N/mm^(2)以上でありながら耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルトに関するものである。」

「【0013】また上記パーライト組織は、パーライトノジュールサイズが粒度番号でNo.7以上であることが必要である。パーライトノジュールサイズが粒度番号でNo.7未満では、破断絞り値が低くなり、その後の冷間伸線が困難となり、必要な強度が得られない。これに対してパーライトノジュールサイズを微細にすると、粒界に負荷する応力が低減されると共に、粒界強度が上昇する。これによって遅れ破壊発生時に見られる粒界破壊が抑制され、耐遅れ破壊性が改善される。またパーライトノジュールサイズを微細化することによって、延性および靭性が向上し、こうした観点からも耐遅れ破壊性が改善される。即ち、初析フェライト、初析セメンタイト、ベイナイトおよびマルテンサイト等の組織の少なくとも1種をできるだけ少なくして、その合計の面積率が20%未満となる様にしてパーライトノジュールサイズが粒度番号でNo.7以上であるパーライト組織の面積率を80%以上にすることにより、優れた耐遅れ破壊性が達成されるのである。尚パーライトノジュールサイズは、粒度番号でNo.8以上とするのが好ましく、より好ましくはNo.10以上とするのがよい。」

(30)甲30の記載事項(囲みは異議申立人が付した。)



(第58頁)

(31)甲31の記載事項(下線は異議申立人が付した。)



(第149頁)

(32)甲32の記載事項(下線は異議申立人が付した。)



(第54頁)


5 取消理由通知書に記載した取消理由では特許を取り消せない理由について
当欄では、次の内容を記載する。
(1)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A1-1」の記載を採用して通知した、請求項1?4に係る発明に対する特許法第36条第6項第2号違反の取消理由について
(2)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A1-2」の記載を採用して通知した、請求項1?4に係る発明に対する特許法第36条第6項第2号違反の取消理由について
(3)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「B1-1」の記載を採用して通知した、請求項5、6に係る発明に対する特許法第36条第6項第2号違反の取消理由について
(4)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「B1-2」の記載を採用して通知した、請求項5、6に係る発明に対する特許法第36条第6項第2号違反の取消理由について
(5)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-1」の記載を採用して通知した、請求項1?6に係る発明に関する発明の詳細な説明に対する特許法第36条第4項第1号違反の取消理由について
(6)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-2」の記載を採用して通知した、請求項1?6に係る発明に関する発明の詳細な説明に対する特許法第36条第4項第1号違反の取消理由について
取消理由について
(7)異議申立書の「ウ-進歩性違反の理由」の欄における「A.引用発明の説明」及び「B1」?「B4」の記載を一部読み替えて採用して通知した、請求項1?4に係る発明に対する特許法第29条第2項の取消理由について
以下、上記項目順に詳述する。

(1)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A1-1」の記載を採用して通知した、請求項1?4に係る発明に対する特許法第36条第6項第2号違反の取消理由について
ア (取消理由通知で指摘した事項 異議申立書第9頁第7行?第10頁下から第3行に対応)
請求項1?4の「平均パーライトブロックサイズ」に関し、「ブロックサイズ」の定義について、請求項1には規定がない。また、本件明細書の記載を参酌しても、段落【0056】において、フェライト方位差が15°以上の境界をブロック界面として定義しているものの、「ブロックサイズ」の定義については記載がない。
そして、先行の特許文献におけるパーライトブロックサイズの定義を参照してみても、甲1の段落【0073】及び【0074】によれば、ブロックの面積の円相当径としており、また、甲2の段落【0058】によれば、ブロック粒の平均体積から求めた平均粒径としており、また、甲3の段落【0017】によれば、ブロックの長軸の長さの平均としており、少なくとも3通りが存在し、一義的ではないから、請求項1?4の「平均パーライトブロックサイズ」の定義が不明確である。

イ (特許権者の主張)
本件明細書の段落【0056】の「パーライトブロックサイズは、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法により測定した。EBSPにより、0.25×0.25mmサイズの領域のフェライトの方位を測定し、ブロック界面をトレースして、画像処理により平均ブロックサイズを求めた。前記測定においては、電子線のサイズを0.3μmとし、フェライトの方位差が15°以上の境界をブロック界面と定義した。」との記載のとおり、本件明細書では「ブロック界面」の定義が明確になされており、このブロック界面をトレースすれば個々のパーライトブロックを同定できることは明らかである。
そして、「ブロック界面をトレースして、画像処理により平均ブロックサイズを求めた」との記載から、トレースされたブロックの輪郭を用いて二次元画像を解析していることは明らかであり、そして、そのような場合に、輪郭から算出される面積に基づいて円相当径を求めることが本技術分野においては通常の手法として極めて一般的に用いられており、当業者であれば前記記載および技術常識に基づいて、請求項1?4における「平均パーライトブロックサイズ」が円相当径であることを当然に理解できる。

ウ (当審の判断)
上記イの特許権者の主張に不合理な点は見いだせず、本件明細書の段落【0056】の記載と技術常識に基づき、請求項1?4における「平均パーライトブロックサイズ」は、上記イの主張のとおり、トレースされたブロックの輪郭から算出される面積に基づいて求められる円相当径を意味しているものと認められる。
よって、この取消理由には、理由がない。


(2)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A1-2」の記載を採用して通知した、請求項1?4に係る発明に対する特許法第36条第6項第2号違反の取消理由について
ア (取消理由通知で指摘した事項 異議申立書第10頁下から第2行?第14頁第7行に対応)
本件明細書の段落【0056】には、パーライトブロックサイズの測定方法に関して、EBSP法を用いることが記載されているところ、EBSP法によって結晶粒やブロックのサイズを求める場合は、測定対象とする結晶粒またはブロックの平均サイズが本来意図するものより過小に特定されてしまうことを防止するため、測定対象とする結晶粒またはブロックの最小のサイズをしきい値として設定することにより、しきい値未満のサイズの微小な領域をノイズと認定して測定対象から除外することが、甲5?甲13の記載のとおり、技術常識である。
しかしながら、本件の特許請求の範囲、明細書及び図面には、EBSP法によりパーライトブロックサイズを測定する場合において、測定対象からノイズを除去するためのしきい値に関する記載がない。
そして、甲5?甲13の記載からも明らかなとおり、EBSP法での測定におけるしきい値は様々であり、EBSP法により結晶粒又はブロックの平均サイズを測定する場合に用いる規格等で定められた特定のしきい値が存在するわけではなく、しきい値は測定対象に応じて測定者が適宜設定するものであると認められるから、技術常識から、請求項1?4におけるパーライトブロックサイズのしきい値を設定することはできないし、また、しきい値をどのような値に設定するかによって、パーライトブロックサイズの測定結果に有意な差が生じることは明らかである。
したがって、本件訂正前の請求項1?4の「平均パーライトブロックサイズが30μm以下である」との事項は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、その意味内容を当業者が理解できず、不明確である。

イ (特許権者の主張)
本件明細書には、EBSP法によってパーライトブロックサイズを求める際の「しきい値」についての記載はない。これは、単に「しきい値」を用いたノイズの除去処理を行っていないからに過ぎず、このようにノイズ除去について特に記載がない場合には、ノイズ除去処理を行っていないと解釈することが一般的であるといえる。
そして、「しきい値」を利用したノイズ処理を行っていない以上、「しきい値」が記載されていないことによって本件特許の明確性が損なわれないことは明らかである。

ウ (当審の判断)
本件明細書に「しきい値」についての記載がない以上、「しきい値」を用いたノイズの除去処理を行っていないと解釈することが一般的であるといえるとする特許権者の主張に、不合理な点は見当たらない。
したがって、本件訂正後の請求項1?4の「平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である」との事項は、「しきい値」を用いたノイズの除去処理を行わずに得られた数値を意味するものと認めることができるから、当該記載の意味内容を当業者が理解することができ、不明確であるとはいえない。
よって、この取消理由には、理由がない。


(3)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「B1-1」の記載を採用して通知した、請求項5、6に係る発明に対する特許法第36条第6項第2号違反の取消理由について
この取消理由は、異議申立書の第20頁第9行?下から第7行に対応したものであって、実質的に、上記(1)で検討した取消理由と同じ内容であるから、上記(1)で検討した取消理由と同様に、理由がない。


(4)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「B1-2」の記載を採用して通知した、請求項5、6に係る発明に対する特許法第36条第6項第2号違反の取消理由について
この取消理由は、異議申立書の第20頁下から第6行?第21頁第9行に対応したものであって、実質的に、上記(2)で検討した取消理由と同じ内容であるから、上記(2)で検討した取消理由と同様に、理由がない。


(5)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-1」の記載を採用して通知した、請求項1?6に係る発明に関する発明の詳細な説明に対する特許法第36条第4項第1号違反の取消理由について
ア (取消理由通知で指摘した事項 異議申立書第15頁第9行?第16頁第5行に対応)
この取消理由は、特許法第36条第4項第1号違反に係るものであるが、実質的に、上記(2)で検討した取消理由と同様に、「平均パーライトブロックサイズが30μm以下」との事項が不明確であることを理由としたものである。
そして、取消理由通知書では、当業者は、当該事項を備える鉄道車両用車輪を製造することができないから、発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1?6に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない、と通知した。

イ (特許権者の主張)
上記(2)イと同様の内容を主張している。

ウ (当審の判断)
上記(2)ウで述べたとおり、本件明細書に「しきい値」についての記載がない以上、「しきい値」を用いたノイズの除去処理を行っていないと解釈することが一般的であるといえるとする特許権者の主張に、不合理な点は見当たらない。
したがって、本件訂正後の請求項1?6の「平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である」との事項は、「しきい値」を用いたノイズの除去処理を行わずに得られた数値を意味するものと認めることができるから、当業者は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づき、当該事項を備える鉄道車両用車輪を製造することができるものと認められる。
したがって、この取消理由には、理由がない。


(6)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-2」の記載を採用して通知した、請求項1?6に係る発明に関する発明の詳細な説明に対する特許法第36条第4項第1号違反の取消理由について
ア (取消理由通知で指摘した事項 異議申立書の第16頁第6行?第17頁第1行に対応)
本件訂正前の請求項1?6は「平均パーライトブロックサイズが30μm以下である」ことを規定する。
ところが、本件明細書の段落【0057】には「ブロックサイズを10μm未満にすることは汎用的な製造条件では工業的に困難であり、ブロックサイズは現実的には10μm以上である。」との記載があるうえに、出願時の技術常識を考慮しても、パーライトブロックサイズを10μm未満にする方法は、当業者に周知の技術的事項でもない。
そのため、本件明細書及び出願時の技術常識に基づいても、当業者は、本件訂正前の請求項1?6に係る発明のうち、平均パーライトブロックサイズが10μm未満の場合について、どのように製造することができるのか、理解することができない。
したがって、発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1?6に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

イ (特許権者の主張)
本件訂正後の請求項1?6においては「平均パーライトブロックサイズ」が10μm以上であることが特定されたので、本件訂正後の請求項1?6に係る発明は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反しない。

ウ (当審の判断)
上記イのとおり、本件訂正後の請求項1?6においては、「平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である」との事項が特定された。この結果、本件訂正後の請求項1?6には、平均パーライトブロックサイズが10μm未満の場合が含まれないこととなった。
したがって、この取消理由には、理由がない。


(7)異議申立書の「ウ-進歩性違反の理由」の欄における「A.引用発明の説明」及び「B1」?「B4」の記載を一部読み替えて採用して通知した、請求項1?4に係る発明に対する特許法第29条第2項の取消理由について
ア 引用発明について
(ア)甲17には、abstractによれば、基礎調査として、摩耗に対する鉄道車輪の素材の影響について調査した結果が記載されている。

(イ)甲17の表1には、摩耗試験に用いられた供試材の化学組成が記載されている。当該供試材は、表1に記載された元素と、不可避的不純物とを含み、残部がFeからなるものと認められる。

(ウ)甲17の図1及び図2によれば、供試材を熱処理前の鉄道車輪のリム部の踏面近傍から採取し、表2に示す熱処理を実施して4つの試験片を得ており、そのうち、マークPの試験片とマークSWRの試験片はパーライト組織となっている。

(エ)甲17の図7によれば、当該図7はパーライト構造のTEM観察結果を示すものである。図7(a)は、表1の「Class C」の化学組成を有するものの写真であって、ラメラー間隔が100?150μmであるとされている。また、図7(b)は、表1の「SWR」の化学組成を有するものの写真であって、ラメラー間隔が50?100μmであるとされている。なお、甲18の「ラメラ(lamellar)間隔(通常は0.1?0.3μm程度)であり」との記載が示すとおり、鋼のパーライト組織のラメラー間隔が100μmオーダーにならないことは技術常識であるから、甲17の図7(a)のラメラー間隔は「100?150nm」の誤記であり、甲17の図7(b)のラメラー間隔は「50?100nm」の誤記である。

(オ)以上によれば、甲17には、表1の「Class C」の化学組成を有し、図7(a)に示すミクロ組織を有する以下の引用発明1と、表1の「SWR」の化学組成を有し、図7(b)に示すミクロ組織を有する以下の引用発明2とが記載されていると認められる。
[引用発明1]
質量パーセントで、C:0.67?0.77%、Mn:0.60?0.90%、P:Max0.030%、S:0.005?0.040%、Si:0.15?1.00%、Cr:Max0.25%含み、残部がFeおよび不可避的不純物であって、鉄道車輪の踏面部から採取された供試材のミクロ組織がパーライトであり、ラメラー間隔が100?150nmである、鉄道車両用車輪。

[引用発明2]
質量パーセントで、C:0.57?0.67%、Mn:0.60?0.90%、P:Max0.030%、S:0.005?0.040%、Si:0.15?1.00%、Cr:Max0.25%含み、残部がFeおよび不可避的不純物であって、鉄道車輪の踏面部から採取された供試材のミクロ組織がパーライトであり、ラメラー間隔が50?100nmである、鉄道車両用車輪。

イ 引用発明1を主たる引用発明とした場合の判断について
(ア)化学組成に関し、本件発明1と引用発明1とを対比すると、以下の表のとおりとなる。


(イ)上記(ア)によれば、各元素の含有量の数値範囲について、以下のことがいえる。
・C及びSiについては、引用発明1の数値範囲は、本件発明1の数値範囲内に包含されており、Cについては0.67?0.77%で一致し、Siについては0.15?1.00%で一致する。
・P、Sについては、引用発明1の数値範囲と、本件発明1の数値範囲とは、一部重複する。
・Mn、Crについては、引用発明1の数値範囲と、本件発明1の数値範囲とは、全く重複しない。
・Alについては、引用発明1の含有量が不明である。

(ウ)ミクロ組織に関し、本件発明1と引用発明1とを対比すると、両者は「パーライト組織」を有する点で共通する。
また、「パーライト組織」における「ラメラー間隔」に関し、引用発明1の数値範囲は、本件発明1の数値範囲内に包含されており、100?150nmで一致する。

(エ)したがって、本件発明1と、引用発明1とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
質量パーセントで、C:0.67?0.77%、Si:0.15?1.00%含み、ミクロ組織がパーライト組織である部分を有し、パーライトラメラー間隔が100?150nmである部分を有する、鉄道車両用車輪。

(相違点A)
質量パーセントで表される化学組成に関し、本件発明1では、
Mn含有量が1.15?1.5%であり、
Cr含有量が0.26?1.5%であり、
Al含有量が0.001?0.08%であり、
P含有量が0.025%以下であり、
S含有量が0.015%以下である
のに対し、
引用発明1では、
Mn含有量が0.60?0.90%であり、
Cr含有量がMax0.25%であり、
Al含有量が不明であり、
P含有量がMax0.030%であり、
S含有量が0.005?0.040%である


(相違点B)
本件発明1では、「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であ」るのに対し、引用発明1では、「鉄道車輪の踏面部から採取された供試材のミクロ組織がパーライトであり、ラメラー間隔が100?150nmである」ものの、「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域」において、「ミクロ組織がパーライトであり、ラメラー間隔が100?150nmである」との事項が満たされているかどうかが不明である点

(相違点C)
本件発明1では「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域」における「平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下」であるのに対し、引用発明1では、「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域」における「平均パーライトブロックサイズ」が不明である点

(オ)事案に鑑み、相違点Aのうち、Mn含有量及びCr含有量について検討する。
a 異議申立人が提出した各甲号証を参照し、技術常識を考慮したとしても、Mn含有量が「0.60?0.90%」である引用発明1において、本件発明1で特定される「1.15?1.5%」という数値範囲になるようにMnを増加させる動機付けは存在しない。

b また、異議申立人が提出した各甲号証を参照し、技術常識を考慮したとしても、Cr含有量が「Max0.25%」である引用発明1において、本件発明1で特定される「0.26?1.5%」という数値範囲になるようにCrを増加させる動機付けは存在しない。

c したがって、引用発明1を主たる引用発明とした場合に、相違点Aのうち、Mn含有量及びCr含有量に係る本件発明1の構成については、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(カ)上記(オ)によれば、相違点Aのうちの他の元素の含有量や、相違点B及び相違点Cについて具体的に検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1と、甲18?甲31に記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 引用発明2を主たる引用例とした場合の判断について
(ア)本件発明1と引用発明2とを対比すると、本件発明1と引用発明1との対比と同様にして、本件発明1と引用発明2とは、少なくとも、化学組成に関し、Mn含有量とCr含有量に関して相違する。

(イ)そして、上記イ(オ)での検討と同様にして、引用発明2を主たる引用発明とした場合においても、Mn含有量及びCr含有量に係る本件発明1の構成については、当業者が容易に想到し得たとはいえない

(ウ)したがって、引用発明1を主たる引用発明とした場合と同様にして、本件発明1は、引用発明2と、甲18?甲31に記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 以上の検討によれば、本件発明1は、甲17に記載された発明と、甲18?甲31に記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を引用する本件発明2?4についても、甲17に記載された発明と、甲18?甲31に記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ よって、この取消理由には、理由がない。


6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由では特許を取り消せない理由について
当欄では、次の内容を記載する。
(1)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A2」、「B2-1」、「B2-2」に記載された、請求項1?6に係る発明に対する特許法第36条第6項第1号違反の申立理由について
(2)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-3」、「B3-1」、「B3-2」に記載された、請求項1?6に係る発明に関する発明の詳細な説明に対する特許法第36条第4項第1号違反の申立理由について
(3)異議申立書の「ウ-進歩性違反の理由」の欄における「A.引用発明の説明」及び「B5」、「B6」に記載された、請求項5、6に係る発明に対する特許法第29条第2項の申立理由について

以下、上記項目順に詳述する。


(1)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A2」、「B2-1」、「B2-2」に記載された、請求項1?6に係る発明に対する特許法第36条第6項第1号違反の申立理由について
以下においては、(1)-1において、本件発明1?6が発明の詳細な説明に記載したものであることについての検討を行った上で、(1)-2において、異議申立人の主張する申立理由には理由がないことを述べる。

(1)-1 本件発明1?6が発明の詳細な説明に記載したものであることについての検討
ア 本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)は「車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷をより低減できる鉄道車両用車輪を提供すること」であると認められる。

イ また、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】には、
「本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、次の(1)?(4)の知見を得た。
(1)高軸重用途で近年利用されているパーライトレールを相手材とした場合、車輪踏面のミクロ組織がパーライトである場合の方が、特許文献1などで採用されているベイナイトや焼戻しマルテンサイトである場合よりも車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷を抑制できる。
(2)踏面のミクロ組織がパーライトである車輪の中でも、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるパーライトラメラー間隔を150nm以下としたものを用いることにより、さらに車輪とレールの摩耗や疲労損傷を抑制できる。
(3)上記(2)のパーライトラメラー間隔を150nm以下とした車輪において、車輪材の化学組成を最適化し、特に、Cを0.65?0.84質量%とすることにより耐摩耗性と延性および靱性とを両立できる。
(4)さらに、延性や靭性を確保するためには、必要に応じてパーライト組織のブロックサイズは30μm以下とすることが有効である。」
と記載されている。
この記載によれば、
4)「パーライト組織のブロックサイズは30μm以下とする」
との事項は、「延性や靭性を確保する」ために、「必要に応じて」なされることを把握できるので、
1)「車輪踏面のミクロ組織がパーライトである」、
2)「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるパーライトラメラー間隔を150nm以下としたものを用いる」、
3)「車輪材の化学組成を最適化し、特に、Cを0.65?0.84質量%とする」、
という各事項を備える鉄道車両用車輪によって、本件課題である「車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷をより低減できる鉄道車両用車輪を提供すること」が解決できることが把握できる。

ウ 発明の詳細な説明の実施例の欄からは、以下のことが把握できる。
(ア)試験番号1、8?13、18、20、22の車輪材は、備考欄に「発明例」と記載されている。
これら「発明例」とされた車輪材の結果によれば、上記イに示した1)?3)の各事項を備える車輪材は、本件課題を解決できる車輪材であることが、実験的に裏付けられている。

(イ)試験番号2?7、14?17、19、21の車輪材は、備考欄に「比較例」と記載されている。
試験番号2、3、21の車輪材は、ミクロ組織がパーライトではない。
試験番号4?7、19の車輪材は、ミクロ組織がパーライトであるがラメラー間隔が150nm以下ではない。
試験番号14、15の車輪材は、ミクロ組織がパーライトであり、ラメラー間隔が150nm以下であるが、Cを0.65?0.84質量%とするものではない。
これら「比較例」とされた車輪材の結果によれば、上記イに示した1)?3)の各事項のうち少なくとも1つを欠いている車輪材は、本件課題を解決できないことが、実験的に裏付けられている。

(ウ)本件課題を解決できる、試験番号1、8?13、18、20、22の車輪材のうち、パーライトブロックサイズが13?20μmの範囲にある試験番号1、8?13、18、20のものは、パーライトブロックサイズが38μmである試験番号22のものよりも、伸びや靭性が高かったことが、実験的に裏付けられている。すなわち、上記イに示した1)?3)の各事項に加えて、4)の事項を備える車輪材は、本件課題を解決できることに加えて、延性や靭性を高めるという効果が得られることが実験的に裏付けられている。

エ 上記イ及びウの検討に照らすと、上記イに示した1)?3)に相当する事項が特定されている車輪材は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
そして、本件発明1の「鉄道車両用車輪」は、化学組成に関し「質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:1.15?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.26?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり」との事項が特定され、また、ミクロ組織に関し「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり」との事項が特定されたものであり、上記イに示した1)?3)に相当する事項が特定されているといえる。
したがって、本件発明1の「鉄道車両用車輪」は、本件課題である「車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷をより低減できる鉄道車両用車輪を提供すること」を解決できるものである。

オ さらに、本件発明1の「鉄道車両用車輪」は、「前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である」との事項が特定されるものであるから、上記イ及びウの検討に照らすと、本件発明1の「鉄道車両用車輪」は、本件課題を解決できることに加えて、延性や靭性を高めるという効果が得られるものである。

カ 以上の検討より、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
本件発明1を引用する本件発明2?4についても、同じ理由で、発明の詳細な説明に記載されたものである。

キ また、本件発明5の「鉄道車両用車輪の製造方法」は、化学組成に関し「質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:0.05?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.05?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり」との事項が特定されるとともに、製造される「鉄道車両用車輪」に関し、「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり」との事項が特定されたものであり、上記イに示した1)?3)に相当する事項が特定されているといえる。
したがって、本件発明5の「鉄道車両用車輪の製造方法」についても、本件課題である「車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷をより低減できる鉄道車両用車輪を提供すること」を解決できるものである。

ク さらに、本件発明5により製造される「鉄道車両用車輪」は、「前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である」との事項が特定されるものであるから、上記オと同様に、本件発明5により製造される「鉄道車両用車輪」は、本件課題を解決できることに加えて、延性や靭性を高めるという効果が得られるものである。

ケ 以上の検討より、本件発明5は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
本件発明5を引用する本件発明6についても、同じ理由で、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(1)-2 異議申立人の主張について
ア 異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A2」(第14頁第8行?第15頁第7行)の主張について
(ア)異議申立人は、本件明細書の実施例の表4及び表5を参照すると、延性(伸び)及び靭性(シャルピー衝撃試験により得られた吸収エネルギー)が高まることを証明しているのは、本件発明1が規定する「平均パーライトブロックサイズ」の範囲のうち、13?20μmの範囲に過ぎず、「平均パーライトブロックサイズ」が、0超?13μmの範囲、及び、20超?30μmの範囲については、延性及び靭性の優位性を実験により証明できておらず、0超?13μmの範囲、及び、20超?30μmの範囲において、延性及び靭性のさらなる確保という本発明の課題を解決できると認めるに足る客観的な根拠に基づく記載がないとして、本件発明1が発明の詳細な説明に記載されたものではないことを主張している。

(イ)しかしながら、上記(1)-1アで検討したとおり、本件発明が解決しようとする課題は、「車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷をより低減できる鉄道車両用車輪を提供すること」であると認められ、異議申立人が主張する「延性及び靭性のさらなる確保」という事項であるとは認められない。そのため、この「A2」に係る主張は、発明が解決しようとする課題を正しく解釈したものでなく、前提において誤りがある。

(ウ)そして、上記(1)-1イ?カにおいて検討したとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、この「A2」に係る主張には理由がない。

イ 異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「B2-1」(第21頁第15行?最終行)の主張について
(ア)異議申立人は、「平均パーライトブロックサイズ」に関し、異議申立書の「A2」(第14頁第8行?第15頁第7行)と同じ理由で、本件発明5、6は、発明の詳細な説明に記載されたものではないことを主張している。

(イ)しかしながら、上記アで検討したとおり、異議申立書の「A2」に係る主張には理由がないので、同様にして、異議申立書の「B2-1」に係る主張についても、理由がない。

ウ 異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「B2-2」(第22頁第1行?第23頁第8行)の主張について
(ア)異議申立人は、以下の理由で、本件発明5、6が、発明の詳細な説明に記載されたものではないことを主張している。

本件発明5は、車輪の成形を、
1)熱間鍛造により車輪を成形する
2)熱間圧延により車輪を成形する
3)熱間鍛造及び熱間圧延により車輪を成形する
のいずれかで実施するものであるところ、本件明細書には、上記2)の方法によって、本件発明が解決しようとする課題である「車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷をより低減できる鉄道車両用車輪を提供すること」を解決できることが記載されているが、上記1)及び3)の方法により製造された実施例は存在せず、また、1)及び3)の方法により製造された車輪が当該課題を解決できることに関して、当業者が理解できる程度の記載はないから、当業者は、1)及び3)により製造された車輪に関して、本件発明5に規定される「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である」という構成を有するか否か、及び、優れた耐摩耗性及び優れた耐損傷性を有するか否かについて、本件明細書及び技術常識に基づいて、認識することができない。

(イ)しかしながら、上記(1)-1キで指摘したとおり、本件発明5の「鉄道車両用車輪の製造方法」についても、本件課題である「車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷をより低減できる鉄道車両用車輪を提供すること」を解決できるものである。

(ウ)したがって、この「B2-2」に係る主張には理由がない。


(2)異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-3」、「B3-1」、「B3-2」に記載された、請求項1?6に係る発明に関する発明の詳細な説明に対する特許法第36条第4項第1号違反の申立理由について
ア 異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「A3-3」(第17頁第2行?第20頁第2行)の主張について
(ア)異議申立人は、本件発明1?4に関し、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないことに関連し、以下の1)及び2)のとおり主張している。

1)「結局、当業者は、段落[0065]に記載の熱間圧延のみでどのように車輪形状に成形するのかを理解でき」ないと主張している(第19頁第23行?第24行)。

2)「要するに、パーライトブロックサイズが熱間加工方法に影響を受けることは、当業者に周知の技術常識である。したがって、熱間鍛造及び熱間圧延により成形された車輪材のミクロ組織及び機械特性が、熱間鍛造を実施することなく熱間圧延を実施して成形された車輪材のミクロ組織及び機械特性と同じになることは、当業者に自明ではなく、むしろそれらは異なるものになると当業者は認識する。」
と述べた上で、
「周知の成形方法である熱間鍛造及び熱間圧延により車輪形状に成形した場合はどのような条件で熱処理を施せば、本件特許発明1のミクロ組織ならびに、本件特許発明3及び4の機械特性を得られるのか理解できない。」と主張している(第19頁第11行?第15行、第24行?第27行)。

(イ)上記1)の主張について検討する。
a 一般的に、「熱間鍛造工程」及び「熱間圧延工程」は、鋼材を成形する技術分野における成形手段として当業者に周知であって、当業者においては、成形品の形状の複雑さや、生産性を考慮して、いずれか一方又は両方の工程を適宜選択して成形を実施するものであると認められる。

b そうすると、本件発明1の「鉄道車両用車輪」の製造に際し、成形品の形状の複雑さや、生産性に関し特段の問題が生じない範囲であれば、「熱間圧延工程」のみで所望の成形を行うことは、当業者に期待し得る程度の通常の試行錯誤の範囲内において適宜なし得ることであることを、一般論として当業者は理解し得るものと認められる。

c また、鉄道車両用車輪は、通常、熱間鍛造と熱間圧延の両工程によって製造されるものであることが技術常識であるとしても、発明の詳細な説明の段落【0065】は、「車輪を模擬した板材」である「車輪材」に成形する方法を記載しているのであって、段落【0068】の「車輪材の性能は、摩耗試験における摩耗量と表面損傷の発生に基づいて評価した。摩耗試験方法およびその条件は先に述べたとおりである。」との記載、及び段落【0022】の「車輪材を用意し、それぞれについて同一のレール材との組み合わせで摩耗試験を行った。前記摩耗試験には図1に示した二円筒式の摩耗試験機を使用し、一方の試験片として車輪踏面を模擬した車輪材試験片を、他方の試験片としてレールを模擬したレール材試験片を、それぞれ用いた。」との記載に照らすと、段落【0065】の「車輪を模擬した板材」である「車輪材」は、「図1に示した二円筒式の摩耗試験機」に適用するための「車輪材試験片」に相当するものであって、「ミクロ組織」と「パーライトラメラー間隔」が、摩耗量及び表面損傷にどのような影響を与えるかを検討するために用いられる「車輪材試験片」であると解される。

d ゆえに、段落【0065】の記載が、「熱間鍛造工程」を行うものでなかったとしても、実際の車輪に比較して単純な形状であると認められる「車輪材試験片」を製造するために最低限の成形工程を行った結果、「熱間鍛造工程」が省略されたものであると理解することができる。

e よって、上記1)の主張は、理由がない。

(ウ)上記2)の主張について検討する。
a 発明の詳細な説明の段落【0062】?【0063】には、ミクロ組織及び機械的性質を制御するために、車輪形状へ成形した後に行う「熱処理」(具体的には、加熱温度がAc_(3)点+50℃以上Ac_(3)点+150℃以下である「加熱工程」と、冷却開始温度を700℃以上とし、冷却速度を1?10℃/sとし、冷却停止温度を500?650℃とする「加速冷却」とからなる)について記載されている。そして、表3?表5の「発明例」と「比較例」との対比によれば、当業者は、所定の化学組成を有する鋼からなる鉄道車両用車輪形状に熱間加工された素材に対し前記「熱処理」を行うことで、「ミクロ組織がパーライト組織」であり、かつ「パーライトラメラー間隔が150nm以下」であるものを得られることを理解でき、また、試験番号22と試験番号8との対比によれば、当業者は、前記「熱処理」の条件の範囲内において条件を適宜調整することで、「ミクロ組織がパーライト組織」であり、かつ「パーライトラメラー間隔が150nm以下」であることに加えて、「平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下」であるものについても得られることを理解できる。

b また、鋼材を車輪形状へ熱間加工により成形する際の加工度が同じである場合においては、技術常識を考慮すると、当該熱間加工の手段の違いによって、前記「熱処理」後の車輪のミクロ組織が、本件発明1の範囲内となるか範囲外となるかを左右する程度に大きく変わるとまでは認められないし、そのようにいえる具体的な根拠は、異議申立書から見いだすことはできない。そして、段落【0062】、【0063】に記載の、「加熱温度」、「冷却開始温度」、「冷却停止温度」、及び「冷却速度」と、「パーライトブロックサイズ」や「パーライトラメラー間隔」との関係を考慮し、熱間加工や熱処理の技術常識を踏まえれば、熱間加工手段が熱間圧延のみであるか、それとも熱間圧延及び熱間鍛造であるかにかかわらず、前記「熱処理」の範囲内において適宜条件を設定することで、所定の「ミクロ組織」を得ることができると、当業者は理解することができる。

c なお、上記2)の主張に関連して甲16が提出されているが、甲16は、1223Kに加熱した1%Cr鋼においては、1373Kに加熱した1%Cr鋼に比較して、オーステナイト粒が微細になっていることを示すとともに、オーステナイトの細粒化に伴いパーライトブロックが微細になることを示しているにすぎず、かえって、加熱温度を低いものとすることでオーステナイト粒が小さくなり、結果として平均パーライトブロックサイズを小さくできることを示唆するものであるから、当業者にとって、甲16の記載は、本件発明1に規定される「平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下」との事項を実現するための指針となり得るものであるということができる。

d そうすると、熱間加工手段がどのようなものであるかにかかわらず、所定の化学組成を有する成形された鋼に対し、前記「熱処理」を適用することで、当業者に期待し得る程度の通常の試行錯誤により、本件発明1に規定される「ミクロ組織」に関する事項(「ミクロ組織がパーライト組織」、「パーライトラメラー間隔が150nm以下」、及び「平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下」)を備える「鉄道車両用車輪」や、本件発明3及び4に規定される機械特性を備える「鉄道車両用車輪」を製造することができると、当業者は理解することができると認められる。

e よって、上記2)の主張は、理由がない。

イ 異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「B3-1」(第23頁第13行?第24頁第7行)の主張について
(ア)異議申立人は、本件発明5、6に関し、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないことに関連し、以下のとおり主張している。
「素材に対して熱間圧延を実施することなく熱間圧延工程を実施して、どのような熱間圧延を行えば車輪を製造できるのか、本件特許明細書に基づいて、当業者は理解することができない。
本件特許発明5には、素材に対し熱間鍛造を施さず熱間圧延のみで車輪形状に成形する方法も含まれているから、本件明細書は、本件特許発明5の全範囲について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。」

(イ)しかしながら、上記ア(イ)a で述べたとおり、「熱間鍛造工程」及び「熱間圧延工程」は、鋼材を成形する技術分野における成形手段として当業者にとって周知であって、当業者においては、成形品の形状の複雑さや、生産性を考慮して、いずれか一方又は両方を適宜選択して成形を実施するものであると認められる。
そうすると、本件発明5の「鉄道車両用車輪の製造方法」を行うに際し、成形品の形状の複雑さや、生産性に関し特段の問題が生じない範囲であれば、「熱間圧延工程」のみで所望の成形を行うことは、当業者に期待し得る程度の通常の試行錯誤の範囲内において適宜なし得ることであることを、当業者は理解することができると認められる。
よって、この主張には理由がない。

ウ 異議申立書の「イ-記載不備の理由」の欄における「B3-2」(第24頁第8行?第25頁第5行)の主張について
(ア)異議申立人は、本件発明5、6に関し、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないことに関連し、以下のとおり主張している。
「本件特許明細書には、2)熱間圧延により車輪を成形する方法に関する実施例だけが記載されている。すなわち、段落[0065]?[0075]には、熱間圧延のみによって車輪形状に成形し、その後、表4に示す条件で熱処理を施した車輪材が、構成Nに示すミクロ組織を有することを確認したという実施例だけが記載されている。
これに対し、上述のとおり、周知の鉄道車輪の製造方法では、3)熱間鍛造及び熱間圧延により車輪を成形する。
ところで、熱間鍛造及び熱間圧延により成形された車輪材のミクロ組織が、熱間圧延により成形された車輪材のミクロ組織と同じになることは、当業者に自明ではなく、むしろそれらは異なるものになると当業者が認識することは、上記A3-3で述べたとおりである。
したがって、本件特許発明5の構成Kのうち、周知の製造方法である熱間鍛造及び熱間圧延により車輪を成形した場合について、構成L及び構成Mに記載された熱処理を施すことにより、構成Nを示す組織を有する車輪を製造できるのか、当業者は理解できない。
したがって、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明5の全ての範囲について実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本件特許発明5は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。」
(当審注:構成K?Nは本件訂正前の請求項5に係る発明の発明特定事項に関するものであって、構成Kは「該素材を熱間圧延および/または熱間鍛造を行い成形した後」、構成Lは「該成形された車輪を加熱温度Ac_(3)点+50℃以上Ac_(3)点+150℃以下に加熱し」、構成Mは「冷却開始温度:700℃以上、冷却速度:1?10℃/s、冷却停止温度:500?650℃の加速冷却を行った後、空冷する」、構成Nは「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが30μm以下である」を、それぞれ意味する。)

(イ)しかしながら、上記ア(ウ)での検討と同様にして、熱間加工方法がどのようなものであるかにかかわらず、所定の化学組成を有する成形された鋼に対し、段落【0062】?【0063】に記載された「熱処理」(具体的には、加熱温度がAc_(3)点+50℃以上Ac_(3)点+150℃以下である「加熱工程」と、冷却開始温度を700℃以上とし、冷却速度を1?10℃/sとし、冷却停止温度を500?650℃とする「加速冷却」とからなる)を適用することで、当業者に期待し得る程度の通常の試行錯誤により、本件発明5に規定される「ミクロ組織」に関する事項(「ミクロ組織がパーライト組織」、「パーライトラメラー間隔が150nm以下」、及び「平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下」)を備える「鉄道車両用車輪」を製造することができると、当業者は理解することができると認められる。
よって、この主張には、理由がない。


(3)異議申立書の「ウ-進歩性違反の理由」の欄における「A.引用発明の説明」及び「B5」、「B6」に記載された、請求項5、6に係る発明に対する特許法第29条第2項の申立理由について
ア 甲25発明について
甲25の表1の「B1」の化学組成と、段落【0027】、【0028】に記載された、加速冷却によりパーライトのラメラ間隔が減少して強度が増大するとともにパーライトブロックサイズを微細にする効果を利用できるとの記載に着目すると、甲25には、以下の甲25発明が記載されている。
(甲25発明)
「質量パーセントで、C:0.76%、Si:0.85%、Mn:0.97%、S:0.012%、Al:0.0026%、Cr:0.54%、N:0.003%、Mo:0.011%、Ti:0.0010%を有する鋼片を素材とし、圧延終了後、オーステナイト温度域まで再加熱し、700?550℃間を1?10℃/secで加速冷却することを含む、パーライト系レールの製造方法。」

イ 本件発明5と、甲25発明とを対比すると、両発明は、少なくとも、以下の点で相違する。
・本件発明5は「少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪の製造方法」であるのに対し、甲25発明は「パーライト系レールの製造方法」である点

ウ 当該相違点について検討する。
「レール」と「車輪」は、両者とも鉄道に関係するものの、形状や、使用のされ方ないし設置される場所等において異なる物品である。
そして、甲25発明である「パーライト系レールの製造方法」を、異なる物品である「鉄道車両用車輪」の製造方法に適用しようとする動機付けは、甲25の記載からは見いだすことはできないし、パーライト系のレールに関連する甲21?甲24、甲26を含め他の各甲号証を参照したとしても、甲25発明である「パーライト系レールの製造方法」を、そのまま、鉄道車両用車輪の製造方法に適用しようとする動機付けを見いだすことはできず、この動機付けを裏付ける技術常識も見いだせない。
そのため、甲25発明である「パーライト系レールの製造方法」を、「鉄道車両用車輪」の製造方法に適用することは、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。

エ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲25に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ また、本件発明6は、本件発明5と同様に「鉄道車両用車輪の製造方法」の発明であるから、本件発明5と同じ理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 異議申立人は、上記(1)イで指摘した相違点に係る構成を当業者が容易に想到し得ることを、異議申立書の第39頁18行?第20行において主張しているので、検討する。
(ア)異議申立人は、具体的には、本件発明5と甲25に記載された発明との対比に関連して、
「(相違点3)
本件特許発明5が鉄道用車輪の製造方法であるのに対し、甲第22号証(当審注:「甲第25号証」の誤記と認める)は、レールの製造方法である点」
という相違点3を認定した上で、異議申立書の第41頁第4行?第15行において、
「すなわち、本件特許発明5において、車輪形状への具体的な成形方法に関しては何らの特徴がなく、車輪形状自体については何ら特徴がないものと認められる。
これに対して、甲第25号証では、段落[0017]に記載のとおり、熱間圧延によりレール形状に成形した後、段落[0027]、[0028]及び[0030]に記載のとおり、本件特許発明5の構成L?Mと実質的に同じ熱処理を実施する。
したがって、熱間圧延によりレール形状に成形した後に、本件特許発明5の構成L?Mと実質同一の熱処理を実施することが記載されている甲第25号証のレールの製造方法を、同じく熱間圧延により車輪形状に成形する車輪の製造方法に転用することは、当業者に容易である。換言すれば、相違点3は、甲第25号証のレールを単純に車輪に置き換えたものに過ぎず、当業者に容易である。」
(当審注:構成Lは「該成形された車輪を加熱温度Ac_(3)点+50℃以上Ac_(3)点+150℃以下に加熱し」、構成Mは「冷却開始温度:700℃以上、冷却速度:1?10℃/s、冷却停止温度:500?650℃の加速冷却を行った後、空冷する」をそれぞれ意味する。)
と主張している。

(イ)しかしながら、異議申立人の当該主張は、実質的には、本件発明5における車輪形状への具体的な成形方法について特徴点がないことを述べ、また、本件発明5と甲25の熱処理が実質的に同一であることを述べるのみで、「レールの製造方法」である甲25に記載された発明を、「レール」とは全く異なる物品である「車輪」の製造に適用できる理由(動機付け)を具体的に説明したものではないから、この主張は採用できない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、並びに異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鉄道車両用車輪および鉄道車両用車輪の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用の車輪、とりわけ重貨物鉄道や鉱山鉄道などの高軸重環境で使用される耐摩耗性に優れた車輪に関するものである。なお、高軸重環境とは、貨物の軸重が概ね25トン以上である場合をさす(旅客鉄道は概ね15トン以下)。こうした鉄道に用いられるレールには、耐久性を向上させるためにブリネル硬さ370を超える高硬度のレールが用いられる場合が多いが、特に、そのような高硬度レールと組み合わせて使用した場合において車輪の摩耗や耐損傷性が良好であるばかりでなく、レール表面の摩耗と損傷も軽減可能な車輪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アジアやアフリカなど世界的な経済発展に伴い、貨物鉄道や鉱山鉄道などの鉄道輸送が飛躍的に増大している。それに伴い走行距離や積載する貨物重量が増加し、車輪の摩耗や疲労損傷が加速されるため、これまで以上に耐久性に優れた鉄道用車輪のニーズが高まっている。
【0003】
車輪の耐摩耗性、耐損傷性を向上させる技術として様々なものが提案されており、例えば、特許文献1には、車輪踏面部をビッカース硬さ360以上のベイナイトや焼もどしマルテンサイト組織、あるいはその混合組織とすることで車輪の耐シェリング性や耐フラット剥離性を向上させることが記載されている。
【0004】
特許文献2、3には、車輪の化学組成を適正化するとともに踏面のミクロ組織をパーライトとすることで耐摩耗性や耐熱亀裂性を向上させることが記載されている。特に、特許文献2においてはパーライト鋼を高炭素化することによってパーライト中のセメンタイト相の体積比率を増加させてブリネル硬さ300以上とし、車輪の耐熱亀裂性を向上させている。
【0005】
特許文献4にも、車輪の化学組成を適正化することにより耐摩耗性、耐転動疲労特性および耐スポーリング性のバランスを向上させる発明が記載されている。この発明は、車輪のリム部およびボス部の硬度と組織に着目してなされたものであり、高硬度かつ焼き入れ性が低い鋼を車輪材として使用することにより車輪の性能を向上させるという考え方に基づいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-350769号公報
【特許文献2】特開2004-315928号公報
【特許文献3】特開平09-202937号公報
【特許文献4】特開2012-107295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1?4に記載されている技術は車輪の摩耗や損傷に着目して、車輪自体の耐久性を向上させることを目的とした技術であり、その車輪を使用した際にレール側に生じる摩耗や損傷には十分な注意が払われていなかった。そのため、近年ますます過酷化する重貨物鉄道の使用環境では、車輪とレールのトータルでの摩耗や損傷が十分に抑えられているとはいえなかった。
【0008】
レールの耐摩耗性や損傷性を車輪の組織や材質の観点から検討した例は非常に少なく、レール材、車輪材ともに炭素量を増加することが有効であること、レールと車輪の硬さの比が高くなるとレール、車輪のトータルな摩耗量は減少し、1を超えると飽和することなどが過去にわずかに示されているのみである。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑み、車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷をより低減できる鉄道車両用車輪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、次の(1)?(4)の知見を得た。
(1)高軸重用途で近年利用されているパーライトレールを相手材とした場合、車輪踏面のミクロ組織がパーライトである場合の方が、特許文献1などで採用されているベイナイトや焼戻しマルテンサイトである場合よりも車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷を抑制できる。
(2)踏面のミクロ組織がパーライトである車輪の中でも、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるパーライトラメラー間隔を150nm以下としたものを用いることにより、さらに車輪とレールの摩耗や疲労損傷を抑制できる。
(3)上記(2)のパーライトラメラー間隔を150nm以下とした車輪において、車輪材の化学組成を最適化し、特に、Cを0.65?0.84質量%とすることにより耐摩耗性と延性および靱性とを両立できる。
(4)さらに、延性や靭性を確保するためには、必要に応じてパーライト組織のブロックサイズは30μm以下とすることが有効である。
【0011】
以上の知見に基づき、車輪とレールのトータルでの摩耗や疲労損傷を低減するという観点から車輪材の化学組成とミクロ組織として最適なものを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:1.15?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.26?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪。
以上の構成を採ることにより、本発明では車輪とレールのトータルでの耐摩耗性、耐表面損傷性を向上させることができる。
【0013】
さらに、本発明では前記鉄道車両用車輪が質量パーセントで、Cu:0.03?0.5%、Ni:0.03?0.5%、Mo:0.02?0.2%、V:0.003?0.3%、Nb:0.003?0.1%、およびTi:0.002?0.02%から選ばれる1種または2種以上を含有する。これにより、車輪材の強度や延性、靱性をより向上させることができる。
【0014】
さらに、本発明では前記領域におけるパーライトのブロックサイズを30μm以下とすることが好ましい。これにより、延性および靭性を確保でき、疲労損傷以外の脆性破壊の抑制につながり、耐損傷性が一層向上する。
【0015】
さらに、本発明では前記鉄道車両用車輪の踏面から15mm内部での、0.2%耐力(YS)を700MPa以上、降伏比を60%以上とすることが好ましく、これにより、相手材として使用されるレールの損傷をより軽減することができる。
【0016】
さらに、本発明では、踏面から15mm内部での、引張試験における伸びが12%以上、20℃におけるシャルピー衝撃値が15J以上であることが好ましく、これにより疲労損傷以外の脆性破壊の抑制につながり、耐損傷性が一層向上する。なお、本明細書における0.2%耐力、降伏比、伸び、およびシャルピー衝撃値は、特に断らない限り、鉄道車両用車輪の踏面から15mm内部の位置における値を意味するものとする。
【0017】
また、本発明の鉄道車両用車輪の製造方法は、質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:0.05?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.05?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼を、電気炉あるいは転炉で溶製し、鋳造して素材とし、該素材を熱間圧延および/または熱間鍛造を行い成形した後、該成形された車輪を加熱温度Ac_(3)点+50℃以上Ac_(3)点+150℃以下に加熱し、冷却開始温度:700℃以上、冷却速度:1?10℃/s、冷却停止温度:500?650℃の加速冷却を行った後、空冷する、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪の製造方法である。
【0018】
本発明の鉄道車両用車輪の製造方法では、前記鋼が、さらに、質量パーセントで、Cu:0.03?0.5%、Ni:0.03?0.5%、Mo:0.02?0.2%、V:0.003?0.3%、Nb:0.003?0.1%、およびTi:0.002?0.02%から選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0019】
さらに、本発明の鉄道車両用車輪の製造方法では、前記加熱温度がAc_(3)点+150℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、車輪材の成分組成やミクロ組織を適正に制御することで、車輪だけでなくレールも含めた総合的な摩耗や損傷を抑制することができる。これにより、車輪とレールの使用寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】摩耗試験機の概略図と試験条件である。
【図2】車輪材のミクロ組織を変化させた場合の摩耗試験後の断面状態である。
【図3】車輪材とレール材の摩耗量に対する車輪材のパーライトラメラー間隔の影響を示す図である。
【図4】車輪材のパーライトラメラー間隔を変化させた場合の摩耗試験後の断面状態である。
【図5】車輪材の20℃でのシャルピー吸収エネルギー(靭性)に及ぼすパーライトブロックサイズの影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
・ミクロ組織の種類の影響
次に、本発明を具体的に説明する。
まず、発明者らは、車輪踏面のミクロ組織の種類が車輪とレールの摩耗及び表面損傷に与える影響を明らかにするために、パーライト、ベイナイト、および焼もどしマルテンサイトの3種類のミクロ組織からなる車輪材を用意し、それぞれについて同一のレール材との組み合わせで摩耗試験を行った。前記摩耗試験には図1に示した二円筒式の摩耗試験機を使用し、一方の試験片として車輪踏面を模擬した車輪材試験片を、他方の試験片としてレールを模擬したレール材試験片を、それぞれ用いた。
【0023】
試験に使用した車輪材とレール材の成分組成を表1に示す。パーライト車輪材および焼もどしマルテンサイト車輪材には共析鋼を、ベイナイト車輪材には低炭素合金鋼を用いた。ミクロ組織以外の影響を排除するため、3種の車輪材としては可能な範囲で硬さが近いもの(ブリネル硬さが250前後)を使用した。レール材としては、重貨物鉄道用途で利用されているパーライトレール材(ブリネル硬さが400)を使用した。
【0024】
該摩耗試験は、ヘルツの接触応力680MPa、すべり率-10%(レール材の回転数が車輪材の回転数より10%少ない)、無潤滑の条件で行った。摩耗試験中、レール材と車輪材が接する面にはエアーを吹き付けた。試験時間2時間、レール材側の回転数にして8.2万回回転させた後、車輪材とレール材双方の摩耗量と表面損傷を調べた。摩耗量は、試験前後の試験片の重量差より求めた。試験は、パーライト、ベイナイト、および焼もどしマルテンサイト組織からなる車輪材A?Cそれぞれについて、各2回ずつ実施した。
【0025】
前記摩耗試験の結果を表2に示す。車輪材とレール材、ぞれぞれの摩耗量についてみると、車輪材の摩耗量はベイナイト、焼もどしマルテンサイトおよびパーライトの順で少なくなっているのに対して、レール材の摩耗量は車輪のミクロ組織がベイナイト、焼もどしマルテンサイトおよびパーライトの順でわずかではあるが増加することが分かった。そして、車輪材とレール材の摩耗量を積算したトータルの摩耗量は車輪のミクロ組織がパーライトである場合に最も少なかった。以上の結果はブリネル硬さが250前後の車輪材を用いた実験におけるものであるが、より硬度の高い車輪材を用いた場合でも同様の傾向であった。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
次に、上記摩耗試験後のレール材、車輪材それぞれの表面損傷を確認した。摩耗試験後のレール材と車輪材の断面の顕微鏡写真を図2に示す。図2上段は試験片の断面を鏡面研磨した後の状態を、図2下段は同試験片をさらにナイタール液(1%濃度の硝酸とアルコールの混合液)で腐食させた後の状態を、それぞれ示している。
【0029】
図2に示したように、パーライト、ベイナイト、および焼もどしマルテンサイト組織からなる車輪材のいずれを用いた場合でも、摩耗試験後の車輪材表面には明確な割れなどの損傷は見られなかった。一方、レール材についてみると、車輪材がパーライト組織である場合にはレール材表面に顕著な割れは観察されなかったが、車輪材が焼もどしマルテンサイトまたはベイナイト組織の場合にはレール材の表面に割れが生じていた。すなわち、焼もどしマルテンサイトまたはベイナイト組織からなる車輪を使用した場合、車輪自身には表面損傷が発生しないものの、レール材表面に損傷を与えてしまうことが分かる。
【0030】
以上の試験結果より、車輪材の硬度が同程度であっても、該車輪材のミクロ組織をパーライトとすることによって、レール材と車輪材、トータルの摩耗量を軽減させると同時に、レール表面の損傷を軽減できることが分かった。よって、本発明では車輪材のミクロ組織をパーライト組織とする。
【0031】
・パーライトラメラー間隔の影響
次に、パーライト組織の車輪を使用した場合に、該パーライト組織のラメラー間隔が車輪材とレール材、両者の摩耗と表面損傷に及ぼす影響について検討した。
【0032】
パーライトは軟質なフェライトと硬質なセメンタイトからなる層状組織(ラメラー組織)であり、このラメラー組織の平均層間距離をパーライトラメラー間隔という。該パーライトラメラー間隔が実測値で270、140、及び90nmである3種の車輪材を用意し、それぞれについて同一のレール材との組み合わせで摩耗試験を行った。レール材としては、先ほどの試験と同じパーライト組織を持つレール材Aを用いた。
【0033】
ラメラー間隔は、走査型電子顕微鏡を用いて1万倍以上の倍率でパーライト組織を観察し、ラメラー間隔が細かい部分、すなわち、適切に観察できている部分について切断法にて計測されたセメンタイトの数より算出した。前記ラメラー間隔の値としては、6視野における平均値を用いた。
【0034】
図3は前記摩耗試験におけるレール材と車輪材それぞれの摩耗量を車輪材のパーライトラメラー間隔に対してプロットしたものである。図3の上図に示すように、車輪材のパーライトラメラー間隔によらず、レール材の摩耗量はほぼ一定であった。一方、図3の下図に示すように、車輪材の摩耗量は該車輪材のパーライトラメラー間隔が小さいほど少なかった。
【0035】
前記摩耗試験後のレール材および車輪材の断面状態を図4に示す。車輪材のパーライトラメラー間隔が270nmの場合には、レール材の表面に顕著な塑性流動が観察された。一方、ラメラー間隔が140nmの車輪材を用いた場合、およびラメラー間隔が90nmの車輪材を用いた場合には、車輪材、レール材ともに表面の塑性流動はほとんど生じておらず、ラメラー間隔が270nmの場合に比べて疲労損傷が抑制されていた。
【0036】
以上の実験結果は、車輪材のミクロ組織をパーライト組織とし、そのパーライトラメラー間隔を小さくすることによって、車輪材だけでなくレール材を含めたトータルでの摩耗量と疲労損傷を抑制できることを示している。この結果をふまえ、本発明の鉄道車両用車輪では少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織をパーライト組織とし、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔を150nm以下とする。
【0037】
以下、本発明における限定理由を具体的に説明する。
まず、本発明において、車輪材の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
【0038】
C:0.65?0.84%
Cはセメンタイトを形成して硬さや強度を高め、車輪材の耐摩耗性を向上させる重要な元素である。しかし、0.65%未満ではそれらの効果が小さいことから下限を0.65%とした。しかし、C量を増加させるとセメンタイトが増加して硬度が増すが、延性や靭性が低下するため、重貨物鉄道用の車輪として十分な性能が得られない。特に、0.84%を超えると、初析セメンタイトが旧オーステナイト粒界に存在するようになり、延性や靱性の低下が顕著となる。これらを考慮して本発明ではC含有量の上限を0.84%とした。好ましくは0.70?0.84%の範囲である。
【0039】
Si:0.1?1.5%
Siはパーライト平衡変態温度(T_(E))を上昇させることによってパーライトラメラー間隔を減少させるとともに、パーライト組織中のフェライトを固溶強化して、パーライト組織の硬さや強度を上昇させる元素である。さらに、Siは脱酸材として鋼中の酸素を低減させる。前記効果を得るために0.1%以上の添加が必要である。一方、過剰の添加は脱炭を促進し、レールの表面庇の生成を促進させることから、Si含有量の上限を1.5%とした。Si含有量は0.15?1.3%とすることが好ましい。
【0040】
Mn:0.05?1.5%
Mnはパーライトの硬さを上昇させる効果を有する元素である。さらに、Mnは脱酸材として鋼中の酸素を低減させる。レール内部まで高硬度を維持するために、Mnを0.05%以上添加することとする。一方、1.5%を超えての添加は、レールの摩耗や疲労損傷に対して有害なマルテンサイト変態をおこしやすくするため、Mn含有量の上限を1.5%とした。Mn含有量は0.3?1.3%とすることが好ましい。
【0041】
P:0.025%以下
Pは結晶粒界に偏析して靭性や延性を低下させるため、その混入は低いほど望ましく、本発明では0.025%以下とする。また、下限については特に限定せずとも問題はないが、過度の低P化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、0.001%以上とすることが好ましい。
【0042】
S:0.015%以下
Sは圧延方向に伸展した粗大なMnSを形成して、延性や靭性を低下させる。特に、高軸重環境にさらされる車輪の場合には延性の低下は顕著となる。そのため、Sの含有量の上限は0.015%とした。好ましくは、0.007%以下、さらに好ましくは0.005%以下である。一方、下限については特に規定しないが、過度の低S化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0043】
Al:0.001?0.08%
Alは脱酸材として添加するが、0.08%を超えての添加は鋼中に非金属介在物(アルミナクラスター)が残存しやすくなり、疲労損傷を促進させる。そこで、Al含有量の上限は0.08%とした。好ましくは0.05%以下である。Alの脱酸材としての作用を発現させるには、0.003%以上でAlを添加することが好ましい。しかし、精錬や鋳込みの条件によって、非金属介在物(アルミナ)のスラグへの浮上が困難となり、アルミナが十分に除去できない場合には、SiやMnによる脱酸を行うことも可能である。この場合は、Alは0.003%未満であってもかまわず、Alによる脱酸を行わないこともできる。また、Alを0.001%未満とすることは、想定している汎用の精錬技術では困難である。よって、Al含有量の下限は0.001%とする。
【0044】
Cr:0.05?1.5%
Crは、T_(E)を上昇させることによってパーライトラメラー間隔の微細化に寄与し、硬さや強度を上昇させる。そのため、0.05%以上の添加を必要とする。一方、1.5%を超えて添加すると、素材の欠陥発生が増加するとともに、焼入れ性が増加するためレール損傷を促進させるマルテンサイトが生成する。そこで、Cr含有量の上限を1.5%とした。より好ましくは、0.51?1.3%の範囲である。
【0045】
以上、本発明における車輪材の基本成分について説明したが、さらに、本発明の車輪材にはCu:0.03?0.5%、Ni:0.03?0.5%、Mo:0.02?0.2%、V:0.003?0.3%、Nb:0.003?0.1%、Ti:0.002?0.02%の1種または2種以上を必要に応じて添加することができる。
【0046】
Cu:0.03?0.5%
Cuを添加することによって、固溶強化による一層の高硬度化を図ることができる。この効果を得るためには0.03%以上の添加が必要である。一方、0.5%を超えての添加は連続鋳造時や圧延時に表面割れを生じ易くすることから、Cu含有量の上限は0.5%とする。
【0047】
Ni:0.03?0.5%
Niは靭性や延性を向上させる元素である。また、Cuと複合添加することでCu割れを抑制することができるため、Cuを添加する場合には同時にNiを添加することが好ましい。0.03%未満ではこれら効果が認められないことから、Niを添加する場合におけるNi含有量の下限を0.03%以上とした。一方、0.5%を超えての添加は、焼入れ性を高め、マルテンサイトの生成を促進させるので、Ni含有量の上限を0.5%とした。
【0048】
Mo:0.02?0.2%
Moは高強度化に有効な元素である。0.02%未満ではその効果が小さいので、Moを添加する場合には、Mo含有量を0.02%以上とする。一方、0.2%を超えての添加は焼入れ牲を高め、ベイナイトやマルテンサイトの生成を促進するので、Mo含有量の上限は0.2%とした。
【0049】
V:0.003?0.3%
Vは、VCあるいはVNなどを形成してフェライト中へ微細に析出し、フェライトの析出強化を通して高強度化に寄与する元素である。また、Vは水素のトラップサイトとしても機能し、遅れ破壊を抑制する効果も期待できる。これらの効果を得るために、0.003%以上の添加を必要とする。一方、0.3%を超えての添加はそれらの効果が飽和し合金コストの上昇も甚だしいので、V含有量の上限を0.3%とした。好ましくは0.005?0.12%の範囲である。
【0050】
Nb:0.003?0.1%
Nbは、NbCないしNb(C,N)を形成し、車輪熱処理時のオーステナイト微細化を通してパーライトコロニーやブロックサイズを微細化させるため、延性や靭性の向上に有効である。また、Nbは、Vと同様に遅れ破壊を抑制する効果を有する。これらの効果を得るためには、0.003%以上の添加を必要とする。一方、0.1%を超えての添加は、凝固過程でNb炭窒化物を晶出させ、清浄性を低下させるので、Nb含有量の上限を0.1%とした。好ましくは、0.005?0.05%である。
【0051】
Ti:0.002?0.02%
Tiは、TiCないしTiNを形成し、Nbと同様に車輪熱処理時のオーステナイト微細化を通してパーライトコロニーやブロックサイズを微細化するため、延性や靭性向上に有効である。また、Tiは、遅れ破壊特性向上にも有効である。これらの効果を得るためには、0.002%以上の添加を必要とする。一方、0.02%を超えての添加は、凝固過程でTi炭窒化物を晶出させ、清浄性を低下させるので、Ti含有量の上限を0.02%とした。
【0052】
なお、上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。Oは酸化物(主にアルミナクラスター)を形成するので耐転動疲労損傷性を低下させる。そのため、トータル酸素量は極力少ないことが望ましいが、0.004%を上限として含有を許容できる。好ましくは0.002%以下である。Nは硬質のAlNなどの窒化物を形成し、耐転動疲労損傷性を低下させるので、極力少ないことが望ましいが、0.005%を上限として含有を許容できる。好ましくは0.004%以下である。
【0053】
次に、ミクロ組織の限定理由について述べる。本発明では、少なくとも車輪踏面より深さ15mm内部までの領域(以下、この領域を踏面部とも云う)におけるミクロ組織をパーライト組織とし、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔を150nm以下とする。前述したとおり、車輪材のミクロ組織をベイナイトや焼もどしマルテンサイトでなくパーライト組織とすることにより、使用時におけるレールの摩耗量を大幅に低減できるとともに、レール表面の疲労損傷を抑制できる。この効果を得るために、本発明では車輪全体のうち、少なくとも主にレールと接する部位である踏面部、具体的には踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織をパーライトとする。カーブでは車輪フランジもレールと接触するため、フランジ部もパーライト組織であることが好ましい。
【0054】
さらに、車輪踏面から少なくとも15mm内部までの領域におけるパーライトラメラー間隔を150nm以下とする。前述のように、ラメラー間隔を150nm以下とすることで、車輪の摩耗量を大幅に低減できるとともに、レール表面の疲労損傷を抑制できる。この効果を得るために、レールと接する部位である車輪踏面部のラメラー間隔を150nm以下とする必要があるが、使用時の車輪の摩耗などを考慮して、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるパーライトラメラー間隔を150nm以下とした。ラメラー間隔の下限は特に規定しないが、パーライト組織の微細化には限度があり、車輪材として製造可能な条件では概ね50nmが限界である。
【0055】
さらに加えて、車輪踏面から少なくとも15mm内部までにおけるパーライトの平均ブロックサイズを10?30μmとすることが好ましい。車輪材の使用中に、車輪材に疲労損傷やヒートクラックが生じた場合、それを起点に破壊することを抑制するためには延性や靭性も重要である。車輪踏面から少なくとも15mm内部までにおけるパーライトの平均ブロックサイズを30μm以下とすることで、延性や靭性が向上する。
【0056】
パーライトは、前述のとおり軟質なフェライトと硬質なセメンタイトからなる層状組織(ラメラー組織)であるが、フェライトの方位が同じ方位である組織単位のことをパーライトブロックと呼ぶ。発明者らは、熱処理によりパーライトのブロックサイズを変化させた鋼について、靭性を調査した。その結果を図5に示す。ここで、靭性はシャルピー衝撃試験により評価した。鋼から機械加工により切り出した2mmUノッチのシャルピー衝撃試験片を使用して、20℃(室温)でシャルピー衝撃試験を行い、得られたシャルピー吸収エネルギーuE_(20)(J/cm^(2))を靭性の評価指標(シャルピー衝撃値)とした。パーライトブロックサイズは、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法により測定した。EBSPにより、0.25×0.25mmサイズの領域のフェライトの方位を測定し、ブロック界面をトレースして、画像処理により平均ブロックサイズを求めた。前記測定においては、電子線のサイズを0.3μmとし、フェライトの方位差が15°以上の境界をブロック界面と定義した。
【0057】
図5より、平均ブロックサイズが30μm超では靭性が低いが、30μm以下とすることで靭性が極めて向上することが分かる。したがって、パーライトの平均ブロックサイズは、30μm以下であることが好ましい。より好ましくは25μm以下である。なお、好ましいブロックサイズの下限は特にないが、ブロックサイズを10μm未満にすることは汎用的な製造条件では工業的に困難であり、ブロックサイズは現実的には10μm以上である。
【0058】
次に、踏面部の0.2%耐力(YS)と降伏比の限定理由について説明する。
本発明の車輪では、踏面から15mm内部における、0.2%YSを700MPa以上、降伏比を60%以上とすることが好ましい。これにより、車輪とレールの表面損傷を抑制することができる。0.2%YSが700MPa未満、降伏比60%未満では、車輪の表面損傷が生じやすくなり、接触するレールにもその影響が及ぶためである。上限については特に規定しないが、製造工程を考慮すると0.2%YSを1100MPa以下、降伏比を85%以下とすることが好ましい。
【0059】
さらに、踏面から15mm内部における伸びを12%以上、20℃におけるシャルピー衝撃値を15J以上とすることが、車輪踏面の疲労損傷やヒートクラックからの破壊防止の観点から好ましい。踏面部の伸びが12%未満では、使用中の表面損傷などに起因した破壊に対して不十分である。踏面部の伸びは14%以上であることがさらに好ましい。また、踏面部の20℃におけるシャルピー衝撃値は15J以上が好ましい。20℃におけるシャルピー衝撃値が15J未満では、使用中に疲労損傷からの割損リスクが高まる。踏面部の20℃におけるシャルピー衝撃値は20J以上であることがさらに好ましい。
【0060】
なお、踏面部の0.2%耐力、降伏比、および伸びは、車輪材の踏面部から採取した、具体的には踏面から15mm内部の位置が試験片の軸中心となるように採取した、AREMAの丸棒引張試験片(評点間距離(GL):50mm、直径12.5mm)を用い、常温における引張試験にて評価するものとする。シャルピー衝撃値は、車輪材の踏面部より採取した2mmUノッチのシャルピー衝撃試験片を用いて20℃におけるシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー吸収エネルギーを求めて評価するものとする。
【0061】
次に、上記した本発明の鉄道車両用車輪を製造するための方法について説明する。
本発明の鉄道用車輪は、電気炉や上吹き転炉などで溶製、脱ガス処理、合金調整をした鋼をインゴットや連続鋳造によりブルームとした素材に対し、熱間圧延工程および/または熱間鍛造工程を経て車輪形状へ成形し、その後、熱処理を施すことによって製造できる。熱間圧延および/または熱間鍛造を行うにあたって素材を再加熱する。この際の加熱温度は、1200?1350℃が好ましい。加熱温度が1200℃未満では、熱間鍛造や熱間圧延で車輪形状へ成形する際の加工温度が低温となり、成形荷重が増大して成形性が低下する。一方、加熱温度が1350℃を超えると内部欠陥が増加するので、加熱温度は1350℃以下とすることが好ましい。
【0062】
熱間圧延工程および/または熱間鍛造工程で、車輪形状へ成形した後は、ミクロ組織および機械的性質を制御するために熱処理を行う。この熱処理の際の加熱温度はAc_(3)点+50℃以上とする。加熱温度がAc_(3)点+50℃未満の場合、十分な強度が得られない。一方、熱処理の際の加熱温度がAc_(3)点+150℃を超えると、パーライトブロックサイズが粗大化して、靭性や延性が低下するので、熱処理の際の加熱温度は、Ac_(3)点+150℃以下とすることが好ましい。
【0063】
熱処理の加熱工程に引き続いて加速冷却を行う。加速冷却は、冷却開始温度を700℃以上とし、冷却速度を1?10℃/sとし、冷却停止温度を500?650℃とする必要がある。冷却開始温度が700℃未満ではパーライトラメラー間隔が粗大となり、十分な強度が確保できず、耐摩耗性を低下させる。好ましくは730℃以上である。冷却手段としては、衝風冷却や、水・空気混合噴射冷却などが利用できるが、踏面に相当する表面の冷却速度は1?10℃/sの範囲とする。冷却速度が1℃/s未満では、パーライトラメラー間隔が150nmを超える。一方、冷却速度を10℃/s超として冷却するとベイナイトやマルテンサイトが生成する。より好ましい冷却速度範囲は、2?7℃/sである。冷却停止温度は500?650℃とする必要がある。冷却停止温度が650℃を超えるとパーライト変態が十分に完了しないうちに冷却を停止することとなり、パーライトラメラー間隔が広くなる。500℃未満まで加速冷却するとベイナイト組織やマルテンサイト組織が生成する。加速冷却終了後は、車輪を空冷することが望ましい。さらに、鍛造および/または熱間圧延終了後、直接冷却を開始しても構わないが、その場合も冷却開始温度は700℃以上、好ましくは730℃以上とする必要がある。
【0064】
前記熱処理を行った後、必要に応じて応力除去焼なましを行ってもよい。以上の処理の後、所定の形状となるように車輪に対して仕上げ切削加工が施される。
【実施例】
【0065】
以下、実施例に基づいて本発明の構成および作用効果をより具体的に説明する。
表3に示した種々の成分組成の鋼を素材として、表4に示す圧延前加熱温度で加熱した後、熱間圧延を施して車輪を模擬した板材(以下、車輪材とも云う)に成形した。車輪形状に成形した素材を、表4に示す条件で熱処理を施し車輪材を得た。得られた車輪材を試料として、ミクロ組織の観察、引張試験、シャルピー衝撃試験および摩耗試験を実施した。使用した車輪材およびレール材は常用の製造工程を模擬してシミュレーションで再現させ、ラボで製造した。
【0066】
車輪材の、踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織は該車輪材を鏡面研磨した後、ナイタール液で腐食させ、顕微鏡観察して判定した。前記領域におけるミクロ組織がパーライト組織であった試料については、先に述べた方法で該領域におけるラメラー間隔およびパーライトブロックサイズを測定した。
【0067】
車輪材の、踏面から15mm内部における0.2%YS、引張張力、降伏比、および伸びは、常温における引張試験によって測定した。該引張試験には、車輪材より採取した評点間距離(GL)50mm、直径12.5mmのAREMAの丸棒引張試験片を使用した。
シャルピー衝撃試験片は、2mmUノッチのシャルピー衝撃試験片を機械加工により切り出した。シャルピー衝撃試験は20℃(室温)で行い、シャルピー吸収エネルギーを求めた。
【0068】
車輪材の性能は、摩耗試験における摩耗量と表面損傷の発生に基づいて評価した。摩耗試験方法およびその条件は先に述べたとおりである。表面損傷の評価においては、摩耗試験後の試験片断面を鏡面研磨し、顕微鏡観察して割れが発見されたものを表面割れ「あり」、発見されなかったものを「なし」とした。摩耗試験における相手材であるレール材としては、0.82%C-0.55%Si-0.55%Mn-0.78%Cr-V系のレール鋼を使用した。該レール材のミクロ組織はパーライトであり、硬さはHB400であった。
【0069】
ミクロ組織の観察結果を表4に、各種試験結果を表5に示す。ミクロ組織とパーライトラメラー間隔の両者が本発明の条件を満たす車輪材では、車輪自身の摩耗量が少なく、表面割れが観察されなかっただけでなく、相手材であるレールの摩耗も少なく、レールの表面損傷も観察されなかった。
【0070】
一方、車輪材のミクロ組織やパーライトラメラー間隔が本発明の範囲から逸脱している比較例では、レールと車輪の摩耗量を合算したトータル摩耗量が多く、また、レールの表面割れが認められた。例えば、試験番号4、5、6、7の車輪材はミクロ組織はパーライトであるがラメラー間隔が150nm以上である。その結果、レール材の摩耗量はやや少ないものの、車輪材の摩耗量が多く、結果としてトータルの摩耗量が多い結果となった。
【0071】
また、C含有量が低い車輪材を用いた試験番号14では、パーライトラメラー間隔が本発明の条件を満たしているにもかかわらず車輪材の表面割れが生じ、摩耗量も高かった。反対に、C含有量が高い車輪材を用いた試験番号15では表面割れが認められた。C含有量が高いために延性(伸び)や靭性も低く、耐損傷性が低いことが分かる。なお、パーライトブロックサイズが30μm以下である試験番号1、8?13、18、20の発明例の車輪では、パーライトブロックサイズが30μmを超えている試験番号22の車輪材よりも伸びや靭性が高かった。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
このように、車輪材の成分組成を最適化し、かつ車輪踏面部のミクロ組織及びパーライトラメラー間隔を制御することにより、車輪材とレール材のトータルでの摩耗量を低減するとともに、車輪とレール双方における表面損傷の発生を抑制することができた。これにより、車輪だけでなくレールの使用寿命をも飛躍的に向上させることが可能となった。加えて、さらにパーライトブロックサイズを微細に制御することにより、延性や靭性をより向上でき、耐摩耗性と耐損傷性に優れる鉄道用車輪を得ることができる。このように優れた特性を有する本発明の鉄道車両用車輪は、重貨物鉄道などの過酷な環境下で使用される車輪として特に有用である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:1.15?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.26?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用車輪であって、
さらに、質量パーセントで、Cu:0.03?0.5%、Ni:0.03?0.5%、Mo:0.02?0.2%、V:0.003?0.3%、Nb:0.003?0.1%、およびTi:0.002?0.02%から選ばれる1種または2種以上を含有する鉄道車両用車輪。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の鉄道車両用車輪であって、踏面から15mm内部での、0.2%耐力(YS)が700MPa以上、降伏比が60%以上である鉄道車両用車輪。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の鉄道車両用車輪であって、踏面から15mm内部での、0.2%耐力(YS)が700MPa以上、降伏比が60%以上、伸びが12%以上、20℃におけるシャルピー衝撃値が15J以上である鉄道車両用車輪。
【請求項5】
質量パーセントで、C:0.65?0.84%、Si:0.1?1.5%、Mn:0.05?1.5%、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.001?0.08%、およびCr:0.05?1.5%を有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼を、電気炉あるいは転炉で溶製し、鋳造して素材とし、該素材を熱間圧延および/または熱間鍛造を行い成形した後、該成形された車輪を加熱温度Ac_(3)点+50℃以上Ac_(3)点+150℃以下に加熱し、冷却開始温度:700℃以上、冷却速度:1?10℃/s、冷却停止温度:500?650℃の加速冷却を行った後、空冷する、
少なくとも踏面より深さ15mm内部までの領域におけるミクロ組織がパーライト組織であり、少なくとも前記領域におけるパーライトラメラー間隔が150nm以下であり、前記領域における平均パーライトブロックサイズが10μm以上、30μm以下である鉄道車両用車輪の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道車両用車輪の製造方法であって、
前記鋼は、さらに、質量パーセントで、Cu:0.03?0.5%、Ni:0.03?0.5%、Mo:0.02?0.2%、V:0.003?0.3%、Nb:0.003?0.1%、およびTi:0.002?0.02%から選ばれる1種または2種以上を含有する鉄道車両用車輪の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-19 
出願番号 特願2016-527637(P2016-527637)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C22C)
P 1 651・ 536- YAA (C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 蛭田 敦本多 仁  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
長谷山 健
登録日 2017-09-22 
登録番号 特許第6210155号(P6210155)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 鉄道車両用車輪および鉄道車両用車輪の製造方法  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 市枝 信之  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 川原 敬祐  
代理人 川原 敬祐  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 憲司  
代理人 市枝 信之  
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