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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
管理番号 1346777
異議申立番号 異議2018-700025  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-12 
確定日 2018-11-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6160110号発明「画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6160110号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6160110号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6160110号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成25年2月15日の出願であって、平成29年6月23日にその特許権の設定登録がされ、同年7月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年1月12日に特許異議申立人鈴木美香により特許異議の申立てがされたものである。
以後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年 2月22日:取消理由通知(2月27日発送)
同年 4月27日:一回目の訂正請求書・意見書
同年 5月11日:通知書(5月15日発送)
同年 6月14日:意見書(特許異議申立人)
同年 7月 3日:取消理由通知(7月6日発送)
同年 9月 3日:二回目の訂正請求書・意見書
同年 9月19日:通知書(9月21日発送)
同年10月11日:意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
平成30年9月3日付けの訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)は、特許第6160110号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを求めるものである。

2 訂正の内容
(1)訂正事項1(なお、下線は、当審で付した。)
特許請求の範囲の請求項1の後段に、
「前記偏光子保護フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムである、」と記載されているのを、
「前記偏光子保護フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±10度以下となるように配置される、」に訂正する。

(2)訂正事項2(なお、下線は、当審で付した。)
特許請求の範囲の請求項1の末尾に、
「画像表示装置。」と記載されているのを、
「画像表示装置(但し、偏光子保護フィルムの配向主軸と、飛散防止フィルムの配向主軸とが、平行又は垂直である場合を除く)。」に訂正する。

(3)訂正事項3(なお、下線は、当審で付した。)
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記偏光子保護フィルムが、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度となるように配置される、請求項1に記載の画像表示装置。」と記載されているのを、
「前記偏光子保護フィルムが、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度となるように配置され、前記偏光子保護フィルムのリタデーションが8000nm以上150000nm以下である、請求項1に記載の画像表示装置。」に訂正する。

(4)訂正事項4(なお、下線は、当審で付した。)
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードである、請求項1又は2に記載の画像表示装置。」と記載されているのを、
「前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、前記偏光子保護フィルムのリタデーションが8000nm以上150000nm以下である、請求項1又は2に記載の画像表示装置(但し、偏光子保護フィルムの配向主軸と、飛散防止フィルムの配向主軸とが、略平行又は略垂直である場合を除く)。」に訂正する。

3 訂正の適否
訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1は、訂正前の「偏光子保護フィルムの配向主軸」と「偏光子の偏光軸」との角度を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ(ア)願書に添付した明細書には、以下の記載がある。
「【0015】
画像表示装置は、視認側偏光子保護フィルム(10b)として3000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムを備え、光源側飛散防止フィルム(14)及び/又は視認側飛散防止フィルム(15)として配向フィルムを備えることが好ましい。本書において、3000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムを「高リタデーション配向フィルム」と称する。…。」

「【0017】
高リタデーション配向フィルムの配向主軸と視認側偏光子の偏光軸とが形成する角度(高リタデーション配向フィルムと偏光子とが同一平面状にあると仮定する)は、特に制限されないが、虹斑を低減するという観点から、45度に近いことが好ましい。例えば、前記角度は、好ましくは45度±25度以下、好ましくは45度±20度以下である。特に、画像表示装置をサングラス等の偏光フィルムを介して斜め方向から観察する場合における虹斑の低減、低リタデーション配向フィルムの角度依存性をより小さくする観点から、前記角度は好ましくは45度±15度以下、好ましくは45度±10度以下、好ましくは45度±5度以下、好ましくは45度±3度以下、45度±2度以下、45度±1度以下、45度である。…。」

(イ)上記記載からして、
「(高リタデーション配向フィルムである)偏光子保護フィルムの配向主軸」と「視認側偏光子の偏光軸」の角度を、45度±10度以下とするのが好ましいことが理解できる。

ウ よって、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正事項2は、訂正前の「偏光子保護フィルムの配向主軸」と「飛散防止フィルムの配向主軸」との関係について、特定の配置関係となるものをを除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ(ア)願書に添付した明細書には、以下の記載がある。
「【0016】
低リタデーション配向フィルムの配向主軸と視認側偏光子の偏光軸(出射する偏光の振動方向と平行な軸)とが形成する角度(低リタデーション配向フィルムと偏光子とが同一平面状にあると仮定する)は、任意である。…。【0017】
高リタデーション配向フィルムの配向主軸と視認側偏光子の偏光軸とが形成する角度(高リタデーション配向フィルムと偏光子とが同一平面状にあると仮定する)は、特に制限されないが、虹斑を低減するという観点から、45度に近いことが好ましい。…。」

(イ)上記記載からして、
(高リタデーション配向フィルムである)偏光子保護フィルムの配向主軸と(低リタデーション配向フィルムである)飛散防止フィルムの配向主軸のなす角度は、特段制限されるものではないことが理解できる。
してみると、上記訂正事項2は、「偏光子保護フィルムの配向主軸」と「飛散防止フィルムの配向主軸」のなす角度のうち、平行又は垂直となる関係を除くものである。

ウ よって、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
ア 訂正事項3は、訂正前の「偏光子保護フィルム」について、そのリタデーションを、さらに、狭い範囲内に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ(ア)願書に添付した明細書には、以下の記載がある。
「【0022】
<配向フィルムのリタデーション>
高リタデーション配向フィルムのリタデーションは、虹斑を低減するという観点から、3000nm以上150000nm以下であることが好ましい。高リタデーション配向フィルムのリタデーションの下限値は、好ましくは4500nm以上、好ましくは6000nm以上、好ましくは8000nm以上、好ましくは10000nm以上である。…。」

(イ)上記記載からして、
(高リタデーション配向フィルムである)偏光子保護フィルムのリタデーションは、8000nm以上150000nm以下であることが好ましいことが理解できる。

ウ よって、上記訂正事項3は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4
ア 訂正事項4は、訂正前の「偏光子保護フィルム」について、そのリタデーションを、さらに狭い範囲内に限定するとともに、その配向主軸と飛散防止フィルムの配向主軸との関係について、特定の配置関係となるものを除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 訂正事項4は、上記「訂正事項2」及び「訂正事項3」で検討したように、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内でするものであり、上記訂正事4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ よって、上記訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)一群の請求項
訂正前の請求項1ないし3は、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであって、訂正前において「一群の請求項」に該当するものであるから、本件訂正は、一群の請求項ごとになされたものであって、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 訂正の適否のまとめ
本件訂正請求は適法であることから、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-3]について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである(なお、下線は、当審で付した。)。

「【請求項1】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子の視認側に積層された偏光子保護フィルム、及び
(5)前記偏光子保護フィルムよりも視認側に配置される飛散防止フィルムを有し、
前記飛散防止フィルムは、700nm以上3000nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記偏光子保護フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±10度以下となるように配置される、
画像表示装置(但し、偏光子保護フィルムの配向主軸と、飛散防止フィルムの配向主軸とが、平行又は垂直である場合を除く)。
【請求項2】
前記偏光子保護フィルムが、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度となるように配置され、前記偏光子保護フィルムのリタデーションが8000nm以上150000nm以下である、請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、前記偏光子保護フィルムのリタデーションが8000nm以上150000nm以下である、請求項1又は2に記載の画像表示装置(但し、偏光子保護フィルムの配向主軸と、飛散防止フィルムの配向主軸とが、略平行又は略垂直である場合を除く)。」

第4 取消理由通知の取消理由
1 取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1ないし3に係る発明の特許に対して通知した平成30年7月3日付け取消理由の概要は、次のとおりである。

「【理由1】(進歩性欠如)
本件の請求項1ないし請求項3に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

文献
(1)甲第1号証:国際公開第2011/162198号
(2)甲第2号証:韓国公開特許公報10-2010-0048187
(3)甲第3号証:特開2005-157082号公報
(4)甲第4号証:特開2008-192620号公報
(5)甲第5号証:オリンパス株式会社のホームページ
「[第2回]偏光解析の基礎」
(6)甲第6号証:特開2011-107198公報
(7)甲第7号証:特開2011-59488公報
なお、甲第8号証は、甲第2号証(韓国公開特許公報10-2010-0048187)の日本語訳である。

※補足
画像表示装置の視認側表面に、カバー部材等の飛散防止フィルムを配置することは、下記の文献等にも記載されているように、よく知られていることである。
特開2013-20130号公報(【0005】及び図2)
特開2012-140561号公報(【0005】)
国際公開第2012/161078号(【0113】及び図15)
国際公開第2012/035919号(【0035】)

【理由2】(明確性要件違反)
本件発明1ないし本件発明3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

本件発明1ないし本件発明3における、「リタデーション」が如何なる波長のリタデーションを意味するのか不明である。」

2 甲第1号証
(1)甲第1号証には、以下の記載がある(なお、下線は、当審で付したものである。以下同じ。)。

ア 「請求の範囲
[請求項1] バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は白色発光ダイオードであり、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記偏光子保護フィルムの少なくとも1つは3000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムである、液晶表示装置。
[請求項2] 前記液晶セルに対して出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムが、3000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムからなるフィルムである、請求項1に記載の液晶表示装置。
[請求項3] ……
……
[請求項4] 前記白色発光ダイオードが、青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される、請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。」

イ 「[0001] 本発明は、液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルムに関する。詳しくは、視認性が良好で、薄型化に適した液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルムに関する。
[0002]
……
[0005] ポリエステルフィルムは、TACフィルムに比べ耐久性に優れるが、TACフィルムと異なり複屈折性を有するため、これを偏光子保護フィルムとして用いた場合、光学的歪みにより画質が低下するという問題があった。すなわち、複屈折性を有するポリエステルフィルムは所定の光学異方性(リタデーション)を有することから、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察すると虹状の色斑が生じ、画質が低下する。そのため、特許文献1?3では、ポリエステルとして共重合ポリエステルを用いることで、リタデーションを小さくする対策がなされている。しかし、その場合であっても虹状の色斑を完全になくすことはできなかった。
[0006] 本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、液晶表示装置の薄型化に対応可能(即ち、十分な機械的強度を有する)であり、且つ虹状の色斑による視認性の悪化が発生しない、液晶表示装置および偏光子保護フィルムを提供することである。」

ウ 「[0019] これに対して、白色発光ダイオードでは、可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有する。そのため、複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目すると、ポリエステルフィルムのレタデーションを制御することで、光源の発光スペクトルと相似なスペクトルを得ることが可能となる。このように、光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似形となることで、虹状の色斑が発生せずに、視認性が顕著に改善すると考えられる。
[0020] 以上のように、本発明では幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを光源に用いるため、比較的簡便な構成のみで透過光のスペクトルの包絡線形状を光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。
[0021] 上記効果を奏するために、偏光子保護フィルムに用いられるポリエステルフィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有することが好ましい。リタデーションが3000nm未満では、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈するため、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し、良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm、次に好ましい下限値は5000nm、より好ましい下限値は6000nm、更に好ましい下限値は8000nm、より更に好ましい下限値は10000nmである。
[0022] 一方、リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有するポリエステルフィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。」

エ 「[0057](4)虹斑観察
PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に後述する方法で作成したポリエステルフィルムを偏光子の吸収軸とフィルムの配向主軸が垂直になるように貼り付け、その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けて偏光板を作成した。得られた偏光板を、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学、NSPW500CS)とする液晶表示装置の出射光側にポリエステルフィルムが視認側になるとうに設置した。この液晶表示装置は、液晶セルの入射光側に2枚のTACフィルムを偏光子保護フィルムとする偏光板を有する。液晶表示装置の偏光板の正面、及び斜め方向から目視観察し、虹斑の発生有無について、以下のように判定した。」

(2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記(1)ア及びイの記載からして、甲1号証には、
「バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は、青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される白色発光ダイオードであり、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記液晶セルに対して出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムが、3000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムである、液晶表示装置。」(請求項1-2-4)が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)ウの記載からして、
上記アの「白色発光ダイオード」は、可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有するものと認められる。

ウ また、上記(1)ウの記載からして、
上記アの「3000?30000nmのリタデーション」における、より更に好ましい下限値は10000nmであることから、「10000?30000nmのリタデーション」であってもよいものと認められる。

エ さらに、上記(1)エの記載からして、
上記アの「(射出光側の)偏光子保護フィルムの配向主軸」と「(出射光側に配される偏光板の)偏光子の吸収軸」とは、垂直になるように貼り付けられていることが理解できる。

オ 上記アないしエより、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源は、青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される白色発光ダイオードであって、可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有し、
前記偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、
前記液晶セルに対して出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムは、10000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムである、液晶表示装置。」

3 当審の判断
(1)【理由1】(進歩性欠如)について
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
a 引用発明の「バックライト光源」は、{青色LED素子と黄色蛍光体とで構成される白色発光ダイオードであって、可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトル」を有するものであるから、本件訂正発明1の「連続的な発光スペクトルを有する白色光源」に相当する。

b 引用発明の「2つの偏光板の間に配された液晶セル」は、本件訂正発明1の「画像表示セル」に相当する。

c 引用発明の「偏光板」は、「偏光子の両側に偏光子保護フィルムを積層した構成」であるから、引用発明の「液晶セルに対して出射光側に配される偏光板」が有する「偏光子」は、本件訂正発明1の「画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子」に相当する。
また、引用発明の「液晶セルに対して出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルム」は、本件訂正発明1の「(画像表示セルよりも視認側に配置される)偏光子の視認側に積層された偏光子保護フィルム」に相当する。

d 引用発明の「液晶セルに対して出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルム」は、「10000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムである」ことから、本件訂正発明1と引用発明とは、「偏光子保護フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムである」点で一致する。

e 引用発明の「液晶表示装置」は、本件訂正発明1の「画像表示装置」に相当する。

f 以上のことから、両者は、以下の点で一致する。
<一致点>
「連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
画像表示セル、
前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、及び
前記偏光子の視認側に積層された偏光子保護フィルム、
を有し、
前記偏光子保護フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムである、画像表示装置。」

g 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件訂正発明1は、
(a)「偏光子保護フィルムの配向主軸が偏光子の偏光軸に対して45度±10度以下となるように配置され」
(b)「偏光子保護フィルムよりも視認側に配置される飛散防止フィルムを有し」
(c)「飛散防止フィルムは、700nm以上3000nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり」
(d)「偏光子保護フィルムの配向主軸と、飛散防止フィルムの配向主軸とが、平行又は垂直である場合を除く」ものであるのに対して、
引用発明は、偏光子保護フィルムを備えているものの、それ以外の上記(a)ないし(d)に係る構成は備えていない点。

(イ)判断
a 上記<相違点1>について検討する。
まず、上記<相違点1>のうち、(a)について検討する。
(a)甲第1号証の記載(摘記イ及びエを参照。)によれば、
引用発明は、液晶表示装置の正面、及び斜め方向から目視観察した際の虹斑の解消を目的とするものであって、その効果は、[0057]の「虹斑の評価」に関する記載からして、「出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムの配向主軸」を「偏光板の偏光子の吸収軸」に対して「垂直」となるように配置することで得られるものと認められる。
そして、甲第1号証には、上記「垂直」以外の配置関係については特段記載されておらず、甲第1号証の記載を見た当業者は、虹斑の解消のためには、両者を「垂直」となるように配置する必要があると理解するのが自然である。

(b)一方、甲第6号証には、サングラスをかけて液晶表示装置を観察した際に、画面が暗くならないように、偏光子の吸収軸(又は透過軸)と高リタデーションフィルムの配向主軸とのなす角度を「凡そ45度」に設定することは記載されているものの、斜め方向から目視観察した際に虹斑を解消できることは、記載されていない。
また、甲第7号証には、液晶表示装置を斜め方向から目視観察した際の色ムラ(干渉ムラ)を低減するために、偏光フィルムの片側にポリエチレンテレフタレートフィルムを積層することは記載されているものの、【0076】及び【0228】等の記載からして、該偏光フィルムは、光入射側偏光板の偏光子フィルムであり、出射光側偏光板の偏光フィルムではない。

(c)さらに、甲第2ないし5号証の記載を見ても、引用発明において、「出射光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムの配向主軸」と「偏光板の偏光子の吸収軸」とのなす角度を「45度±10度以下」に設定する動機が生じるものでもない。

(d)そうすると、引用発明において、本件訂正発明1の上記(a)の構成を採用する動機がない。

b よって、上記<相違点1>の(b)ないし(d)について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者が甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件訂正発明2及び本件訂正発明3について
本件訂正発明2及び本件訂正発明3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、当業者が甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 【理由1】(進歩性欠如)についてのまとめ
本件訂正発明1ないし本件訂正発明3は、当業者が甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件訂正発明1ないし本件訂正発明3に係る特許は、【理由1】によっては取り消すことはできない。

(2)【理由2】(明確性要件違反)について
ア 特許権者が平成30年4月27日に提出した意見書、乙第1号証及び乙第2号証によれば、通常、リタデーションは、ナトリウムD線の波長で測定されるのが技術常識であると認められる。

イ よって、本件訂正発明1における「リタデーション」についても、ナトリウムD線の波長で測定されたものである認められることから、本件訂正発明1の記載は、不明確であるとはいえない。

ウ 【理由2】(明確性要件違反)についてのまとめ
本件訂正発明1ないし本件訂正発明3に係る特許は、【理由2】によっては取り消すことはできない。

(3)平成30年10月11日提出の意見書(特許異議申立人)
特許異議申立人は、意見書(第1頁下段ないし第2頁上段)において、以下のように主張することから、この点について検討する。

「(1)前回の……45度±10度以下となるように配置されることを特定した点。
しかし、上記(1)に関しては、平成30年7月3日起案の取消理由通知書の15頁の『イ 本件発明2について』に記載されているように、甲第6号証(特開2011-107198号公報)の記載に基づき、何ら困難性は認められないものである。」

ア しかしながら、甲第6号証に記載された発明は、サングラスをかけて液晶表示装置を観察した際に、画面が暗くならないようにすることを目的としたものであり、斜め方向から目視観察した際に虹斑を解消できることは、記載されていない。

イ また、上記「(1)【理由1】(進歩性欠如)について」で検討したように、他の各甲号証の記載を見ても、引用発明において、「45度±10度以下」に設定する動機が生じるものではない。

ウ よって、特許異議申立人の上記主張は、「上記(1)」の判断を左右するものではない。

4 まとめ
本件訂正発明1ないし本件訂正発明3の特許は、「【理由1】(進歩性欠如)」及び「【理由2】(明確性要件違反))」によっては、取り消すことはできない。

第5 むすび
本件訂正発明1ないし本件訂正発明3に係る特許は、取消理由通知書に記載された理由、つまり、特許異議申立書に記載された理由によっては取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子の視認側に積層された偏光子保護フィルム、及び
(5)前記偏光子保護フィルムよりも視認側に配置される飛散防止フィルム
を有し、
前記飛散防止フィルムは、700nm以上3000nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記偏光子保護フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±10度以下となるように配置される、
画像表示装置(但し、偏光子保護フィルムの配向主軸と、飛散防止フィルムの配向主軸とが、平行又は垂直である場合を除く)。
【請求項2】
前記偏光子保護フィルムが、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度となるように配置され、前記偏光子保護フィルムのリタデーションが8000nm以上150000nm以下である、請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、前記偏光子保護フィルムのリタデーションが8000nm以上150000nm以下である、請求項1又は2に記載の画像表示装置(但し、偏光子保護フィルムの配向主軸と、飛散防止フィルムの配向主軸とが、略平行又は略垂直である場合を除く)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-26 
出願番号 特願2013-27747(P2013-27747)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G02F)
P 1 651・ 121- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯野 光司  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
登録日 2017-06-23 
登録番号 特許第6160110号(P6160110)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 画像表示装置  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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