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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1346782
異議申立番号 異議2018-700758  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-19 
確定日 2018-11-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6295938号発明「繊維強化プラスチック成形体用シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6295938号の請求項1ないし11、13及び14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6295938号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし14に係る特許についての出願は、平成26年12月11日(優先権主張 平成25年12月13日)の出願であって、平成30年3月2日にその特許権の設定登録(請求項の数14)がされ、同年3月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月19日に特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし11、13及び14)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし11、13及び14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし11、13及び14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
強化繊維と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートであって、
前記繊維強化プラスチック成形体用シートを下記(a)及び(b)の条件で加熱加圧成形して得られる厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、前記強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在していることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用シート;
(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。
(b)前記繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm^(3))をPとし、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm^(3))をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂繊維であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂粉末であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
【請求項4】
前記繊維強化プラスチック成形体用シートを前記(a)及び(b)の条件で加熱加圧成形して得られる厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、第1方向の曲げ強度と、前記第1方向に直交する第2方向の曲げ強度の強度比が3以上であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
【請求項5】
前記強化繊維の繊維長が6?50mmであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
【請求項6】
前記強化繊維は、炭素繊維であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネートであることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂繊維であり、前記熱可塑性樹脂繊維は、チョップドストランドであることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか1項に記載されている繊維強化プラスチック成形体用シートを、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度で加圧加熱成形することにより形成される繊維強化プラスチック成形体であって、
前記強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在していることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体。
【請求項10】
前記繊維強化プラスチック成形体の第1方向の曲げ強度と、前記第1方向に直交する第2方向の曲げ強度の強度比が3以上であることを特徴とする請求項9に記載の繊維強化プラスチック成形体。
【請求項11】
前記繊維強化プラスチック成形体は、150?600℃の温度で加熱加圧成形すること により形成されていることを特徴とする請求項9又は10に記載の繊維強化プラスチック成形体。
【請求項13】
強化繊維と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂繊維を混合し、湿式不織布法によって繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程を含み、
前記繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程は、長網抄紙機又は傾斜型抄 紙機を用いて抄紙する工程を含み、
前記長網抄紙機又は前記傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.95以下となるように走行することを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
【請求項14】
前記繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程は、傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程を含むことを特徴とする請求項13に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。」

第3 特許異議申立書に記載した理由等の概要
平成30年9月19日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した理由等の概要は次のとおりである。

1 優先権について
本件特許は、特願2013-258485号を基礎とする優先権主張出願であるが、本件特許発明1ないし11に関しては、優先権を主張することはできないから、本件特許発明1ないし11に関して、本件特許出願は、平成26年12月11日にされたものとして、特許法第29条の規定が適用される。
したがって、本件特許発明1ないし11に関して、甲第1号証は、特許法第29条で規定する刊行物に該当する。

2 申立ての理由1(本件特許発明1ないし7及び9ないし11に対しての甲第1号証を主引用文献とする新規性)
本件特許発明1ないし7及び9ないし11は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 申立ての理由2(本件特許発明1ないし11に対しての甲第1号証を主引用文献とする進歩性並びに本件特許発明13及び14に対しての甲第2号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許発明1ないし11、13及び14は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11、13及び14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

4 申立ての理由3(本件特許発明1ないし11に対しての委任省令要件)
請求項1に記載された「前記繊維強化プラスチック成形体用シートを下記(a)及び(b)の条件で加熱加圧成形して得られる厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、前記強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在していることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用シート;
(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。
(b)前記繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm^(3))をPとし、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm^(3))をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する。」という技術的事項の技術上の意義が明らかでない。
したがって、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2ないし11に関して、発明の詳細な説明の記載は、特許法施行規則第24条の2に規定された委任省令要件を満たさない。
よって、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

5 申立ての理由4(本件特許発明1ないし11に対してのサポート要件)
請求項1に記載された「(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。」について、発明の詳細な説明の【0039】には、「条件(a)では、プレス速度を3.5cm/secとする。プレス速度は、3.5±0.5cm/secの範囲内であれば、プレス速度を3.5cm/secでプレスした場合と同様の加圧条件となる。」と記載があるものの、プレス速度については、その1点でのみしか実施しておらず、この範囲を外れた場合に起こる事象については何ら検討されていないことから、実証までに至らず、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2ないし11は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、請求項1に記載された配向角の測定条件について、成形体の厚みを1mmとして測定するものであるが、曲折した繊維の「成形体の中心面となす角度」の測定方法が発明の詳細な説明に記載されていないことから、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2ないし11は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
したがって、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

6 申立ての理由5(本件特許発明1ないし11に対しての明確性要件)
請求項1に記載された配向角の測定条件について、成形体の厚みを1mmとして測定するものであるが、曲折した繊維の「成形体の中心面となす角度」の測定方法が発明の詳細な説明に記載されていないことから、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2ないし11は明確でない。
したがって、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

7 証拠方法
甲第1号証:特開2014-125532号公報
甲第2号証:国際公開第2010/013645号
甲第3号証:特開2010-253938号公報
甲第4号証:特開2011-189747号公報
甲第5号証:特開平4-208406号公報
甲第6号証:国際公開第2007/097436号
甲第7号証:特願2013-258485号明細書
なお、文献名等の表記はおおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 特許異議申立書に記載した理由についての当審の判断
1 優先権について
本件特許についての出願は、特願2013-258485号を基礎とする優先権主張出願であるが、特願2013-258485号明細書(甲7)には、本件特許の請求項1に記載された「前記繊維強化プラスチック成形体用シートを下記(a)及び(b)の条件で加熱加圧成形して得られる厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、前記強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在していることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用シート;
(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。
(b)前記繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm^(3))をPとし、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm^(3))をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する。」という技術的事項のうち、(a)、(b)及び厚さに関する条件の記載はなく、また、これらの条件が当該明細書の記載から自明な事項であったともいえない。
したがって、本件特許発明1及び請求項1を引用する本件特許発明2ないし11に関しては、優先権の利益を享受できない。
そして、甲1の公開日は、本件特許の出願(平成26年12月11日)より前の平成26年7月7日であるから、本件特許発明1ないし11に関して、甲1は、特許法第29条で規定する刊行物に該当する。

2 申立ての理由1及び2について
申立ての理由1及び2は、甲1を主引用文献とする理由(本件特許発明1ないし7及び9ないし11に対しての甲1を主引用文献とする新規性及び本件特許発明1ないし11に対しての甲1を主引用文献とする進歩性)と甲2を主引用文献とする理由(本件特許発明13及び14に対しての甲2を主引用文献とする進歩性)に整理することができるので、以下、そのように分けて検討する。

(1)甲1ないし6に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
甲1には、「繊維強化樹脂シート、成形体、一体化成形品およびそれらの製造方法、ならびに実装部材」に関して、おおむね次の記載がある(下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。)。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維からなるマットに熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)が含浸されてなる繊維強化樹脂シートであって、前記マットは強化繊維の割合Vfmが20体積%以下の不織布であり、前記シート中において熱可塑性樹脂(A)と熱可塑樹脂(B)とが最大高さRy50μm以上、平均粗さRz30μm以上の凹凸形状を有して界面層を形成してなる、繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
前記不織布は、不連続性強化繊維が略モノフィラメント状に分散してなる、請求項1に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項3】
前記不織布は、不連続性強化繊維がモノフィラメント状かつランダムに分散してなる、請求項1に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項4】
前記シート中における強化繊維の面外角度θzが5°以上である、請求項1?3のいずれかに記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(A)の可使温度域および前記熱可塑性樹脂(B)の可使温度域が、少なくとも5℃以上の温度範囲を持って重複する、請求項1?4のいずれかに記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項6】
前記マットを構成する強化繊維が炭素繊維である、請求項1?5のいずれかに記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、PPS系樹脂およびポリエーテルケトン系樹脂からなる群より選択される、請求項1?6のいずれかに記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートを製造する方法であって、前記熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)のそれぞれが溶融ないし軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、前記マットにそれぞれの樹脂を含浸せしめる、繊維強化樹脂シートの製造方法。」

・「【0006】
そこで本発明は、上述した技術課題を解消し、互いに相溶しない熱可塑性樹脂間においても強固な接合を有し、他の熱可塑性樹脂材料と容易に一体化することのできる繊維強化樹脂シートならびに成形体を提供する。また、前記繊維強化樹脂シートまたはそのプリフォームを用いてなる成形体、一体化成形品ならびに実装部材を提供することにある。」

・「【0026】
上述した機能をより効果的に発現できる態様として、繊維強化樹脂シート中における強化繊維の面外角度θzを5°以上とすることが望ましい。ここで、強化繊維の面外角度θzとは、繊維強化樹脂シートの厚さ方向に対する強化繊維の傾き度合いであって、値が大きいほど厚み方向に立って傾いていることを示し、0?90°の範囲で与えられる。すなわち、強化繊維の面外角度θzを係る範囲内とすることで、上述した界面層における補強機能をより効果的に発生でき、界面層のより強固な接合が与えられる。強化繊維の面外角度θzの上限値は特に制限ないが、繊維強化樹脂シートとした際の繊維体積含有率を鑑みて、15°以下であることが好ましく、より好ましくは10°以下である。」

・「【0029】
本発明における強化繊維マットは、上述したとおり、マット中に多くの空隙部を有する必要があり、係る態様を満足するうえで、不織布形態をとる。ここで、不織布形態とは、強化繊維のストランドおよび/またはモノフィラメント(以下、ストランドとモノフィラメントを総称して細繊度ストランドと称す)が面状に分散した形態を指し、チョップドストランドマット、コンティニュアンスストランドマット、抄紙マット、カーディングマット、エアレイドマット、などが例示できる。ストランドとは、複数本の単繊維が並行配列して集合したもので、繊維束とも言われる。不織布形態において、細繊度ストランドは分散状態に通常規則性を有しない。係る不織布形態のマットとすることで、強化繊維同士の立体障害が大きくなり、強化繊維の割合を効率的に下げられるうえ、賦形性に優れることから、複雑形状への成形が容易である。また、マット中の空隙が樹脂含浸の進行を複雑化するため、熱可塑性樹脂(A)および(B)がより複雑な界面を形成し、優れた接着能力を発現する。」

・「【0042】
不連続性強化繊維の平均繊維長Lnとしては、1?25mmの範囲であることが好ましい。平均繊維長Lnを係る範囲とすることで、強化繊維の補強効率を高めることができ、繊維強化樹脂シートをはじめ、成形体ないし一体化成形品において優れた機械特性や接合強度が与えられる。また、強化繊維マットにおける強化繊維の面外角度の調整が容易となる。平均繊維長Lnは、繊維強化樹脂シートの熱可塑性樹脂成分を焼失させて残った強化繊維から無作為に400本を選択し、その長さを10μm単位まで測定し、それらの数平均を算出して平均繊維長Lnとして用いる。」

・「【0049】
熱可塑性樹脂(A)の可使温度域において、使用下限温度をTA1、使用上限温度をTA2とし、前記熱可塑性樹脂(B)の可使温度域において、使用下限温度をTB1、使用上限温度をTB2としたとき、これら温度は以下の規格に準拠して得られた値を採用できる。使用下限温度であるTA1、TB1は、結晶性樹脂の場合、JIS K7120(1987)を準拠して測定した融点を、非晶性樹脂の場合、JIS K7206(1999)を準拠して測定されるビカット軟化温度に100℃を加算した温度を、それぞれTA1およびTB1として取り扱うことができる。また、使用上限温度であるTA2、TB2は、JIS K7120(1987)を準拠して測定される熱減量曲線において、ベースラインの重量から1%の減量が確認された温度(減量開始点)から50℃を差し引いた温度を、実用上の使用上限温度TA1およびTB1として取り扱うことができる。」

・「【0051】
前記群に例示された熱可塑性樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。」

・「【0053】
本発明の繊維強化樹脂シートを製造する方法として、例えば、強化繊維を予め、ストランドおよび/またはモノフィラメント状に分散した強化繊維マットを製造しておき、そのマットに、熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)を含浸せしめる方法がある。強化繊維マットの製造方法としては、強化繊維を空気流にて分散シート化するエアレイド法や強化繊維を機械的にくし削りながら形成してシート化するカーディング法などの乾式プロセス、強化繊維を水中にて攪拌して抄紙するラドライト法による湿式プロセスを公知技術として挙げることができる。前記において強化繊維をよりモノフィラメント状に近づける手段としては、乾式プロセスにおいては、開繊バーを設ける方法やさらに開繊バーを振動させる方法、さらにカードの目をファインにする方法や、カードの回転速度を調整する方法などが例示できる。湿式プロセスにおいては、強化繊維の攪拌条件を調整する方法、分散液の強化繊維濃度を希薄化する方法、分散液の粘度を調整する方法、分散液を移送させる際に渦流を抑制する方法などが例示できる。特に、湿式法で製造することが好ましく、投入繊維の濃度を増やしたり、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整したり、することで強化繊維マットの強化繊維の割合Vfmを容易に調整することができる。例えば、分散液の流速に対して、メッシュコンベアの速度を遅くすることで、得られる強化繊維マット中の繊維の配向が引き取り方向に向き難くなり、嵩高い強化繊維マットを製造可能である。強化繊維マットとしては、強化繊維単体から構成されていてもよく、強化繊維が粉末形状や繊維形状のマトリックス樹脂成分と混合されていたり、強化繊維が有機化合物や無機化合物と混合されていたり、強化繊維同士が樹脂成分で目留めされていてもよい。」

・「【0055】
本発明の繊維強化樹脂シートを用いて成形することにより成形体が得られる。係る成形体は、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑樹脂(B)とが最大高さRy50μm以上、平均粗さRz30μm以上の凹凸形状を有して界面層を形成してなる。ここで成形体とは、前記繊維強化樹脂シート、あるいは、前記繊維強化樹脂シートを含んだプリフォームを、加熱および加圧を有する手段にて成形してなる成形品を指す。・・・(略)・・・
【0056】
また、上記繊維強化成形基材に用いる強化繊維としては、上述した強化繊維マットの構成要素として例示した強化繊維を用いることができる。なかでも、比強度、比剛性が高く軽量化効果の観点から、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が好ましく用いられる。これらの中でも、強度と弾性率などの力学的特性と価格とのバランスに優れるPAN系の炭素繊維を、より好ましく用いることができる。また、強化繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよく、得られる成形品の力学特性と経済性のバランスから炭素繊維とガラス繊維を、得られる成形品の力学特性と衝撃吸収性のバランスから炭素繊維とアラミド繊維を、併用することが好ましい。」

・「【0076】
(9)繊維強化樹脂シート中における強化繊維の面外角度θz
繊維強化樹脂シートから幅25mmの小片を切り出し、エポキシ樹脂に包埋した上で、シート厚み方向の垂直断面が観察面となるように研磨して試料を作製した。前記試料をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)で400倍に拡大し、繊維断面形状の観察をおこなった。観察画像を汎用画像解析ソフト上に展開し、ソフトに組み込まれたプログラムを利用して観察画像中に見える個々の繊維断面を抽出し、該繊維断面を内接する楕円を設け、形状を近似した(以降、繊維楕円と呼ぶ)。さらに、繊維楕円の長軸長さα/短軸長さβで表されるアスペクト比が20以上の繊維楕円に対し、X軸方向と繊維楕円の長軸方向の為す角を求めた。繊維強化樹脂シートの異なる部位から抽出した観察試料について上記操作を繰り返すことにより、計600本の強化繊維について面外角度を測定し、その平均値を繊維強化樹脂シートの面外角度θzとして求めた。」

・「【0080】
[強化繊維1]
ポリアクリロニトリルを主成分とする重合体から紡糸、焼成処理を行い、総フィラメント数12000本の連続炭素繊維を得た。さらに該連続炭素繊維を電解表面処理し、120℃の加熱空気中で乾燥して強化繊維1を得た。この炭素繊維1の特性は次に示す通りであった。
密度:1.80g/cm^(3)
単繊維径:7μm
引張強度:4.9GPa
引張弾性率:230GPa
・・・(略)・・・
【0082】
[樹脂シート1]
未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製、“プライムポリプロ”(登録商標)J106MG)90質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE800)10質量%とからなるマスターバッチを用いて、目付100g/m^(2)のシートを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
【0083】
[樹脂シート2]
ポリアミド6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM1021T)からなる目付124g/m^(2)の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
・・・(略)・・・
【0087】
[強化繊維マット1]
強化繊維1を長さ5mmにカットし、チョップド強化繊維を得た。チョップド強化繊維を開綿機に投入して当初の太さの強化繊維束がほとんど存在しない、綿状の強化繊維集合体を得た。この強化繊維集合体を直径600mmのシリンダーロールを有するカーディング装置に投入し、強化繊維からなるシート状のウエブを形成した。このときのシリンダーロールの回転数は320rpm、ドッファーの速度は13m/分であった。このウエブを重ねて強化繊維マット1を得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
・・・(略)・・・
【0095】
(実施例1)
強化繊維マット1の2枚を挟み込むようにして、その片側に熱可塑性樹脂(A)として樹脂シート1を1枚、もう一方の側に熱可塑性樹脂(B)として樹脂シート2を1枚配置し、積層体を作製した。前記積層体を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じ、120秒間保持したのち、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却し、金型を開いて繊維強化樹脂シート1を得た。得られた繊維強化樹脂シートの特性を表3-1に示す。」

・「【0103】
(実施例9)
強化繊維マット3の2枚を挟み込むようにして、その片側に熱可塑性樹脂(A)として樹脂シート4を1枚、もう一方の側に熱可塑性樹脂(B)として樹脂シート5を2枚配置し、積層体を作製した。前記積層体を300℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じ、120秒間保持したのち、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却し、金型を開いて繊維強化樹脂シート9を得た。得られた繊維強化樹脂シートの特性を表3-1に示す。
【0104】
(比較例1)
強化繊維マット1の代わりに強化繊維マット7を3枚用いた以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂シート10を得た。得られた繊維強化樹脂シートの特性を表3-2に示す。
【0105】
(比較例2)
付与する圧力を10MPaとした以外は、比較例1と同様にして繊維強化樹脂シート11を得た。得られた繊維強化樹脂シートの特性を表3-2に示す。」

・「【0110】
(参考例1?13)
積層体における強化繊維マットおよび樹脂シートの種類および枚数が異なる点、金型の設定温度が異なる点以外は、実施例1と同様にして成形基材1?17を作製した。前記それぞれの成形基材における成形条件および特性を表4に示す。」

・「【0112】
(実施例10)
実施例1の繊維強化樹脂シート1を1枚と、積層単位(X)として参考例6の成形基材6を4枚と、積層単位(Y)として参考例7の成形基材7を4枚と、を用いてプリフォームを作製した。前記プリフォームを230℃に保持された熱盤加熱型予熱装置に配置して、0.1MPaの圧力を付与しながら2分間予熱した。次いで、予熱装置から取り出した積層体を120℃に予熱された金型キャビティ内に配置して金型を閉じ、15MPaの圧力を付与した状態で120秒間保持したのち、金型を開いて成形体1を得た。本実施例による積層体を図8に示した。得られた成形体の特性を表5-1に示す。」

・「【0118】
(実施例16)
実施例8の繊維強化樹脂シート8を1枚と、積層単位(X)として参考例3の成形基材3を4枚と、積層単位(Y)として参考例5の成形基材5を4枚と、を用いてプリフォームを作製した。前記プリフォームを300℃に保持された熱盤加熱型予熱装置に配置して、0.1MPaの圧力を付与しながら2分間予熱した。次いで、予熱装置から取り出したプリフォームを180℃に予熱された金型キャビティ内に配置して金型を閉じ、15MPaの圧力を付与した状態で120秒間保持したのち、金型を開いて成形体7を得た。得られた成形体の特性を表5-1に示す。」

・「【0135】
(実施例22)
実施例3の繊維強化樹脂シート3を1枚と、参考例2の成形基材2を1枚と、を用いてプリフォームを作製した。前記プリフォームを230℃に保持された熱盤加熱型予熱装置に配置して、0.1MPaの圧力を付与しながら1分間予熱した以外は、実施例10と同様の方法にて成形し、□300mm、厚さ1.1mmの板状成形体を得た。得られた板状成形体から、長さ250mm、幅160mmの長方形を切り出し、これを第1の部材とした。一方、第2の部材として、参考例14の成形基材14を230℃に保持された熱盤加熱型予熱装置に配置して、0.1MPaの圧力を付与しながら1分間予熱した。次いで、第1の部材を、樹脂シート1側が上面となるように120℃に予熱されたプレス成形用金型内に配置し、その上に予熱が完了した成形基材14を重ねて配置して金型を閉じ、15MPaの圧力を付与した状態で120秒間保持して、第2の部材をプレス成形により接合された一体化成形品6を得た。本実施例による一体化成形品を図12に示した。得られた一体化成形品の特性を表7に示す。」

・「【0142】
【表3-1】



甲1に記載された事項、特に実施例1に関する記載事項を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。なお、特許異議申立人は、甲1発明を具体的には認定していないので、当審で最も本件特許発明1に近いと考える実施例1を甲1発明の認定の根拠とした。

「強化繊維を長さ5mmにカットして得たチョップド強化繊維からなるシート状のウェブを重ねて得た強化繊維マットの2枚を挟み込むようにして、その片側に熱可塑性樹脂(A)として樹脂シートを1枚、もう一方の側に熱可塑性樹脂(B)として樹脂シートを1枚配置し、積層体を作製し、前記積層体を230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じ、120秒間保持したのち、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却し、金型を開いて得た繊維強化樹脂シート。」

イ 甲2に記載された事項及び甲2発明
甲2には、「プリプレグ、プリフォーム、成形品およびプリプレグの製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。

・「請求の範囲
[請求項1] 強化繊維基材に熱可塑性樹脂が含浸されたプリプレグであって、
該強化繊維基材が、繊維長10mmを越える強化繊維が0質量%以上50質量%以下、繊維長2mm以上10mm以下の強化繊維が50質量%以上100質量%以下および繊維長2mm未満の強化繊維が0質量%以上50質量%以下から構成され、
該プリプレグが、強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)に交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10度以上80度以下であり、23℃での厚みh0(mm)が0.03mm以上1mm以下であり、引張強度σが0.01MPa以上であるプリプレグ。
・・・(略)・・・
[請求項13] 請求項1?7のいずれかに記載のプリプレグ、または請求項8?12のいずれかに記載のプリフォームを成形して得られる成形品。
・・・(略)・・・
[請求項22] 前記強化繊維基材が、以下の方法aにより得られたものである、請求項1に記載のプリプレグ。
方法a:分散媒体に強化繊維束を投入する工程(i)と、前記強化繊維束を構成する強化繊維が前記分散媒体中に分散したスラリーを調製する工程(ii)と、前記スラリーを輸送する工程(iii)と、前記スラリーより分散媒体を除去して強化繊維を含む抄紙基材を得る工程(iv)とを少なくとも有し、前記工程(ii)で調製されるスラリー中の強化繊維の質量含有率をC1とし、前記工程(iv)開始時のスラリー中の強化繊維の質量含有率をC2とした場合に、C1/C2が0.8以上1.2以下である強化繊維基材の製造方法。」

・「[0015]・・・(略)・・・
[図3]図3は、強化繊維基材(抄紙基材)の製造装置の一例を示す模式図である。」

・「[0017][ 強化繊維基材 ]
本発明における強化繊維基材とは、強化繊維をシート状、布帛状またはウェブ状などの形態に加工した前駆体を意味するものである。強化繊維基材は、強化繊維の間に樹脂の含浸する空隙を有していれば、その形態や形状には特に制限はない。例えば、強化繊維が有機繊維、有機化合物や無機化合物と混合されていたり、強化繊維同士が他の成分で目留めされていたり、強化繊維が樹脂成分と接着されていたりしてもよい。強化繊維基材の好ましい形態としては、本発明における強化繊維の二次元配向を容易に製造する観点から、乾式法や湿式法で得られる不織布形態で、強化繊維が十分に開繊され、かつ強化繊維同士が有機化合物で目留めされた基材が例示できる。」

・「[0034] 本発明での強化繊維の二次元配向角の平均値は10度以上80度以下であり、好ましくは20度以上70度以下であり、より好ましくは30度以上60度以下であり、理想的な角度である45度に近づくほど好ましい。二次元配向角の平均値が10度未満または80度より大きいと、強化繊維が束状のまま多く存在していることを意味しており、力学特性が低下する。さらに、二次元の等方性が損なわれる場合には、成形品特性の等方性を確保するために、強化繊維の配向が各方向へ向かうように、多数のプリプレグを積層する必要がある。また厚み方向の強化繊維が無視できない場合には、プリプレグが厚くなるために積層の際のプリプレグの配置、移送などの取り扱いが困難になり、積層工程での経済的負担が大きくなる場合がある。
[0035] 二次元配向角を理想的な角度に近づけるには、強化繊維基材を製造する際に、強化繊維を分散させ、かつ平面的に配置することで達成できる。強化繊維の分散を高めるために、乾式法や湿式法を用いることができる。乾式法とは強化繊維束の分散を空気中で行う方法である。湿式法とは強化繊維束の分散を水中で行う方法である。乾式法では、開繊バーを設ける方法やさらに開繊バーを振動させる方法、さらにカードの目を細かくする方法や、カードの回転速度を調整する方法などが例示できる。湿式法でも、強化繊維を分散させる際の攪拌条件を調整する方法、濃度を希薄化する方法、溶液粘度を調整する方法、分散液を移送させる際に渦流を抑制する方法などが例示できる。
[0036] また平面的に配置するために、乾式法では、強化繊維を集積する際に、静電気を用いる方法、整流化したエアを用いる方法、コンベアの引取速度を調整する方法などが例示できる。湿式法でも、超音波などで分散した強化繊維の再凝集を防止する方法、濾過速度を調整する方法、コンベアのメッシュ径を調整する方法、コンベアの引取速度を調整する方法などが例示できる。これらの方法は、特に限定されるものではなく、強化繊維基材の状態を確認しながら、その他の製造条件を制御することでも達成できる。
[0037] 特に湿式法で製造する場合には、例えば図3に例示するような抄紙基材の製造装置を用いる方法が例示できる。投入繊維の濃度を増やすことで、得られる強化繊維基材の目付を増やすことができる。さらに、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整することでも目付を調整することができる。例えば、メッシュコンベアの速度を一定にして、分散液の流速を増やすことで得られる強化繊維基材の目付を増やすことができる。逆にメッシュコンベアの速度を一定にして、分散液の流速を減らすことで、得られる強化繊維基材の目付を減らすこともできる。さらには、分散液の流速に対して、メッシュコンベアの速度を調整することで、繊維の配向をコントロールすることも可能である。例えば、分散液の流速にたいして、メッシュコンベアの速度を速くすることで、得られる強化繊維基材中の繊維の配向がメッシュコンベアの引き取り方向に向きやすくなる。このように各種パラメータを調整し、強化繊維基材の製造が可能である。」

・「[0048][ 樹脂 ]
プリプレグに使用される樹脂としては、強化繊維基材に含浸性を有し、積層工程での取扱い性を確保するための引張強度が達成できる樹脂であれば特に制限はなく、以下に示す熱可塑性樹脂、未硬化状態の熱硬化性樹脂が使用できる。このうち、本発明のプリプレグでは、熱可塑性樹脂を使用する。」

・「[0055] 本発明で使用される樹脂成分には、上記熱可塑性樹脂マトリックスに熱硬化性樹脂を混合したブレンド物を使用してもよい。さらに樹脂成分には、その用途に応じて、更に、充填材、導電性付与材、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制振剤、防臭剤、摺動性改質剤、および帯電防止剤等を添加しても良い。とりわけ、用途が電気・電子機器、自動車、航空機などの場合には、難燃性が要求される場合があり、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機系難燃剤が好ましく添加される。このように、樹脂成分の中に、熱可塑性樹脂以外の成分が含まれる場合、熱可塑性樹脂を用いた効果が損なわれないようにするため、樹脂成分中の熱可塑性樹脂の含有量は60質量%以上とする。」

・「[0057] [プリプレグの製造方法]
本発明のプリプレグのように強化繊維が均一に分散したプリプレグを製造する方法については、これまで様々な検討がなされている。
[0058] 例えば、前述の国際公開第2007/97436号パンフレットには、繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強化繊維として、単繊維状の炭素繊維であって質量平均繊維長が0.5mm以上10mm以下であり、かつ、配向パラメータが-0.25以上0.25以下である炭素繊維を用いると、力学特性に優れ、等方的な力学特性を有する成形体が得られることが記載されている。この繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、(1)成形材料に含まれる熱可塑性樹脂を加熱溶融する工程、(2)金型に成形材料を配置する工程、(3)金型で成形材料を加圧する工程、(4)金型内で成形材料を固化する工程、(5)金型を開き、繊維強化熱可塑性樹脂成形体を脱型する工程により製造される。
・・・(略)・・・
[0061] これら特許文献のプリプレグの製法においては、いずれも樹脂込みで強化繊維を抄紙しており、樹脂種を増やすには装置の洗浄、装置台数の増加などが必要である。また、炭素繊維の配向を制御する必要があり、そのために工程ごとに詳細な条件を設定する必要がある。そのため、製造に時間および手間を要し、プリプレグの効率的な製造への適用には問題がある。
・・・(略)・・・
[0063] そこで、本発明では、以下の方法によりプリプレグを製造することが好ましい。すなわち、強化繊維束を分散させて強化繊維基材を得る工程(I)と、前記工程(I)で得られる強化繊維基材にバインダーを付与する工程(II)と、前記工程(II)において得られるバインダーの付与された強化繊維基材にマトリックス樹脂を複合化する工程(III)とを有してなるプリプレグの製造方法であって、前記工程(I)?(II)がオンラインで実施されてなり、プレプリグ全体に対する前記強化繊維束の含有率が10質量%以上80質量%以下、前記バインダーの含有率が0.1質量%以上10質量%以下および前記マトリックス樹脂の含有率が10質量%以上80質量%以下であるプリプレグの製造方法である。本発明のプリプレグの製造方法によれば、強化繊維の分散状態に優れ、成形品とした場合に力学特性に優れるプリプレグを短時間で得ることができる。」

・「[0101] 工程(iii)では、工程(ii)で得られるスラリーを輸送する。
[0102] 工程(iii)は、通常、工程(ii)が行われる分散槽と工程(iv)が行われる抄紙槽とを接続する輸送部で行われる。」

・「[0106] 工程(iii)はオーバーフロー方式で行われるものであってもよい。これにより、輸送されるスラリー中の強化繊維に剪断力がかかり沈降、凝集することを防ぎ、スラリー中の分散性を保つことができる。また、ポンプなど動力を使わずに経済的に輸送が可能である。
[0107] オーバーフロー方式とは、容器(槽)から溢れる液体を、重力を利用して次の容器(槽)へ送液する方式を意味する。すなわち、送液ポンプなどの動力を実質的に用いずに送液する方式である。
[0108] オーバーフロー方式とする場合には、輸送部は傾斜していることが好ましい。すなわち、輸送部を水平方向から見る場合に、分散槽と輸送部との接続点が抄紙槽と輸送部との接続点よりも高い位置にあることが好ましい。その傾斜角は30°以上60°以下であることが好ましく、40°以上55°以下であることがより好ましい。傾斜角が30°未満であると工程(iii)における輸送に長時間を要するおそれがある。傾斜角が60°を超えると、オーバーフロー方式とした場合、スラリーの輸送時の流速が大きくなるために、工程(iv)への到達時にスラリーに過剰の剪断が加わり、工程(iv)におけるスラリーの分散状態が不十分となるおそれがある。」

・「[0113] 輸送部の形状について、図13?図20を例にとって説明する。図13?図20は、工程(i)および工程(ii)は分散槽で行われ、前記工程(iv)は抄紙槽で行い、前記工程(iii)を前記分散槽と抄紙槽とを接続する輸送部で行う場合の、分散槽、抄紙槽及び輸送部の水平方向から見た位置付けを模式的に示す図である。図13?図18および図20中の輸送部213は、直線状を呈している。
[0114] 輸送部の傾斜角は、各図において輸送部213の中心線qと、重力方向に伸びる線pとが鉛直下方側に形成する角度rを意味する。図13、図17および図18中の輸送部213は、分散槽211から抄紙槽212に向けて傾斜しており、傾斜角が30°以上60°以下である。図14中の輸送部213は、分散槽211と抄紙槽212を水平に接続しており、傾斜角は略90°である。図15中の輸送部213は、分散槽211から抄紙槽212に向けて傾斜しており、傾斜角が30°以上60°以下である。図16中の輸送部213は、分散槽211と抄紙槽212とを重力方向で接続しており、傾斜角は略0°である。図20中の輸送部213も図16と同様に傾斜角は略0°であり、輸送部213の途中にポンプ225を備える。」

・「[0223] (材料1)炭素繊維1
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
・単繊維径:7μm
・単位長さ当たりの質量:1.6g/m
・比重:1.8
・引張強度:4600MPa
・引張弾性率:220GPa。」

・「[0238] (実施例1)
材料1で得られた炭素繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1質量%の分散液を作成した。この分散液と上記チョップド炭素繊維とを用いて図3の強化繊維基材(抄紙基材)の製造装置を用いて、炭素繊維基材を製造した。製造装置は、分散槽21、抄紙槽22およびコンベア32とで構成されている。分散槽21は、直径1000mmの円筒形状の容器であり、容器下部には開口コックのついた直線状の輸送部(傾斜角30°)を備えている。輸送部は分散槽と抄紙槽とを接続している。分散槽の上面の開口部には撹拌機が付属し、開口部からチョップド炭素繊維および分散液(分散媒体)を投入可能である。抄紙槽は、底部に幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備えている。コンベア32は、メッシュコンベア31に続けて配置されており、炭素繊維基材30を運搬する。抄紙は分散液中の炭素繊維濃度を0.05質量%としておこなった。抄紙した炭素繊維基材は200℃の乾燥炉で30分間乾燥した。得られた炭素繊維基材の幅は500mm、長さは500mm、目付は50g/m^(2)であった。強化繊維基材の特性を表1に示す。
[0239] 上記炭素繊維基材を1枚と、東レ(株)製、CM1007(ナイロン6樹脂)の同じ厚みのフィルム2枚とを、フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層した。この積層体に250℃の温度で5MPaの圧力を2分間かけ、炭素繊維基材にナイロン6樹脂が含浸した幅500mm、長さ500mmプリプレグ(1)を作製した。プリプレグの特性を表2に示す。
[0240] プリプレグ(1)を8枚積層したプリフォーム(A)を作製し、遠赤外線加熱炉で、窒素雰囲気下、280℃に予熱した。キャビティ表面温度が120℃であり、厚み1.1mmの図4に示すB5サイズのL字箱型形状のキャビティを有するスタンピング成形金型にプリフォーム(A)を配置し(チャージ率110%)、金型を閉じ、成形圧力30MPaで加圧し、2分間保持した。その後、金型を開き、脱型し、L字箱型形状の成形品を得た。プリフォーム(A)は金型の形状に添って良好に賦形されており、形状品位の良い成形品が得られた。成形品の特性を表3、表10に示す。」

・「[0245] (実施例6)
抄紙時のメッシュコンベアの速度を、分散液の流速の4倍の速度に調整したこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維基材を作製した。強化繊維基材の特性を表1に示す。得られた炭素繊維基材を用いて、実施例1と同様にしてナイロン6樹脂が含浸したプリプレグ(6)を作製した。プリプレグの特性を表2に示す。 プリプレグ(6)を用いた以外は、実施例1と同様にして、L字箱型形状の成形品を作製した。プリフォームは金型の形状に添って良好に賦形されており、形状品位の良い成形品が得られた。成形品の特性を表3に示す。」

・「[図3]



甲2に記載された事項、特に実施例6に関する記載事項を整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。なお、特許異議申立人は、甲2発明を具体的には認定していないので、当審で最も本件特許発明13に近いと考える実施例6を甲2発明の認定の根拠とした。

「炭素繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットして得たチョップド炭素繊維と、水と界面活性剤からなる分散液を、分散槽21、メッシュコンベア31を備えている抄紙槽22およびコンベア32からなる傾斜型抄紙機で構成されている製造装置の分散槽21に投入、撹拌、抄紙、乾燥して、炭素繊維基材を製造し、上記炭素繊維基材を1枚と、東レ(株)製、CM1007(ナイロン6樹脂)の同じ厚みのフィルム2枚とを、フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層し、この積層体に250℃の温度で5MPaの圧力を2分間かけ、炭素繊維基材にナイロン6樹脂が含浸したプリプレグ(1)を作製する工程を含み、抄紙時のメッシュコンベア31の速度を、分散液の流速の4倍の速度に調整するプリプレグ(1)の作製方法。」

ウ 甲3に記載された事項
甲3には、「一体化成形品の製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
不連続の強化繊維と樹脂を有してなる基材を積層してプリフォームを作製する工程(I)、下記チャージ率が100%より大きなプリフォームを金型に配置してプレス成形する工程(II)、工程(II)で得られた面状成形体を射出成形の金型にインサートした後に熱可塑性樹脂を射出成形して一体化する工程(III)を有してなる一体化成形品の製造方法。
チャージ率(%)=100×基材面積(mm^(2))/金型キャビティ総面積(mm^(2))
・・・(略)・・・
【請求項6】
さらに前記プリフォームを構成する基材の樹脂中に、該樹脂100質量部に対して1?20質量部の難燃剤が含まれている、請求項1?5のいずれかに記載の一体化成形品の製造方法。」

・「【0016】
まず、本発明に用いられる不連続の強化繊維と樹脂を有してなる基材について説明する。強化繊維の形態としては、特に制限されるものではないが、基材の賦形性を考慮して不連続な強化繊維であることが重要である。例えば不連続な強化繊維が束状および/または単繊維に分散された状態で強化繊維を一方向にひきそろえた形態や、不連続な強化繊維が束状および/または単繊維に分散された状態で強化繊維がランダムに配向した形態などが挙げられる。」

・「【0019】
上記のように、不連続な強化繊維の束状および/または単繊維に分散された状態で、一方向に引き揃えた形態の基材を得る方法については、特に制限はないが、例えば、チョップドの形態を有する強化繊維を分散液中で開繊、分散し、有孔支持体上に分散液の流速に対して十分に速い速度で漉き上げたものに、樹脂を含浸複合して得る方法などが挙げられる。」

・「【0032】
上記難燃剤は、難燃効果の発現とともに、使用する樹脂の力学特性や成形時の樹脂流動性などと良好な特性バランスを保つために、樹脂100質量部に対して難燃剤1?20質量部とすることが好ましい。より好ましくは1?15質量部である。」

エ 甲4に記載された事項
甲4には、「プレス成形品の製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維基材に熱可塑性樹脂が含浸されてなるプリプレグを2層以上積層したプリフォームを加圧力を0.1?100MPaとしてプレス成形するプレス成形品の製造方法であって、前記強化繊維基材が繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%、繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%、繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成され、前記プリプレグは、そこに含まれる強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度であり、かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm、引張強度σが50?1000MPaである、プレス成形品の製造方法。」

・「【請求項3】
前記プレス成形において、加圧力が10?100MPaである、請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。」

・「【請求項6】
前記成形品の最大厚みが2mm以下である、請求項1?5のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。」

・「【0046】
本発明で使用される樹脂成分には、上記熱可塑性樹脂マトリックスに熱硬化性樹脂を混合したブレンド物、を使用してもよい。さらに樹脂成分には、その用途に応じて、更に、・・・(略)・・・・臭素化樹脂などのハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、芳香族ホスフェートおよび赤燐などのリン系難燃剤、有ホウ酸金属塩、カルボン酸金属塩および芳香族スルホンイミド金属塩などの有機酸金属塩系難燃剤、硼酸亜鉛、亜鉛、酸化亜鉛およびジルコニウム化合物などの無機系難燃剤、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェートおよび窒素化グアニジンなどの窒素系難燃剤、PTFEなどのフッ素系難燃剤、ポリオルガノシロキサンなどのシリコーン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤、・・・(略)・・・等を添加しても良い。とりわけ、用途が電気・電子機器、自動車、航空機などの場合には、難燃性が要求される場合があり、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機系難燃剤が好ましく添加される。」

オ 甲5に記載された事項
甲5には、「一方向繊維強化熱可塑性樹脂スタンパブルシートの抄造方法」に関して、おおむね次の記載がある。

「2.特許請求の範囲
1.不連続繊維と熱可塑性樹脂の混合層を抄造する方法において、不連続繊維と熱可塑性樹脂の発泡分散液を形成後、発泡分散液を移動するメッシュベルト上に供給し、発泡分散液の供給される反対側から負圧を付加し、発泡分散液の液体をメッシュベルト及び排水口を介して排水し、メッシュベルト上に不連続繊維と熱可塑性樹脂の混合層を抄造する工程にて、メッシュベルトの下に配置する排水口の形状をメッシュベルトの移動する方向に対して平行に開口し、開口の幅が不連続繊維長未満であるスリットの集合とすることを特徴とする一方向繊維強化熱可塑性樹脂スタンパブルシートの抄造方法。」(第1ページ左下欄第5ないし18行)

・「また、本発明の一方向繊維強化熱可塑性樹脂スタンパブルシートに対し、タルク等の強化材、充填剤、核剤、難燃剤、顔料、安定剤、可塑剤、滑剤等の添加剤を配合することができる。」(第3ページ右上欄第14ないし17行)

カ 甲6に記載された事項
甲6には、「繊維強化熱可塑性樹脂成形体、成形材料、およびその製造方法」に関して、おおむね次の記載がある。

・「1. 熱可塑性樹脂20?65重量%と炭素繊維35?80重量%からなる成形体であって、該炭素繊維が単繊維状であり、かつ該炭素繊維の重量平均繊維長 (Lw) が0.5?10mmの範囲であり、本明細書中で定義される該炭素繊維の配向パラメータ (fp) が-0.25?0.25の範囲である繊維強化熱可塑性樹脂成形体。」(第40ページ第2ないし第6行)

・「「添加剤、 充填剤等」
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形体には、その用途に応じて、・・・(略)・・・臭素化樹脂などのハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤、ポリリン酸アンモニゥム、芳香族 ホスフェートおよび赤燐などのリン系難燃剤、有ホウ酸金属塩、カルボン酸金属 塩および芳香族スルホンイミド金属塩などの有機酸金属塩系難燃剤、硼酸亜鉛、亜鉛、酸化亜鉛およびジルコニウム化合物などの無機系難燃剤、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェートおよび 窒素化グアニジンなどの窒素系難燃剤、PTFEなどのフッ素系難燃剤、ポリオルガノシロキサンなどのシリコーン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグ ネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤、・・・(略)・・・等を添加しても良い。」(第13ページ第8行ないし第14ページ第2行)

(2)甲1を主引用文献とする理由について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「強化繊維を長さ5mmにカットして得たチョップド強化繊維」は、本件特許発明1における「強化繊維」に相当し、以下、同様に、「熱可塑性樹脂(A)」及び「熱可塑性樹脂(B)」は「熱可塑性樹脂」に、「繊維強化樹脂シート」は「繊維強化プラスチック成形体用シート」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
「強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シート。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「熱可塑性樹脂」が「難燃剤」を含むものであるのに対し、甲1発明においては、「熱可塑性樹脂」に相当する「熱可塑性樹脂(A)」及び「熱可塑性樹脂(B)」は「難燃剤」を含むものであるか不明な点。

<相違点2>
本件特許発明1においては、「前記繊維強化プラスチック成形体用シート」を「(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。」及び「(b)前記繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm^(3))をPとし、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm^(3))をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する。」の条件で「加熱加圧成形して得られる厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、前記強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在している熱可塑性樹脂が難燃剤を含むものである」のに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
そこで、検討する。
a 相違点1について
まず、相違点1について検討する。
甲1の【0082】によると、上記実施例1の樹脂シートは、「未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製、“プライムポリプロ”(登録商標)J106MG)90質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE800)10質量%とからなるマスターバッチを用いて」作製したもの及び「ポリアミド6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM1021T)から」作製したものであって、難燃剤は使用していない。
したがって、甲1発明における「熱可塑性樹脂(A)」及び「熱可塑性樹脂(B)」は「難燃剤」を含むものではなく、相違点1は、実質的な相違点である。

b 相違点2について
次に、相違点2について検討する。
甲1の【0142】の【表3-1】には、甲1発明の認定の根拠である実施例1の繊維強化樹脂シート中における強化繊維の面外角度θz(本件特許発明1における「強化繊維」の「繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度」に相当する。)が4.0°であることが記載されている。
しかし、面外角度θzが4.0°であれば、プレス速度、加熱条件及び繊維強化プラスチック成形体の厚みを本件特許発明1と同じとした場合に、「強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在している」ことを満たすことを示す記載は甲1にはないし、実証もされていない。
また、甲1の【0095】によると、上記実施例1は、「強化繊維マット1の2枚を挟み込むようにして、その片側に熱可塑性樹脂(A)として樹脂シート1を1枚、もう一方の側に熱可塑性樹脂(B)として樹脂シート2を1枚配置」して作製した「積層体」を「230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じ、120秒間保持したのち、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却」したものであって、プレス圧は10MPaではなく、プレス速度、加熱条件及び繊維強化プラスチック成形体の厚みも不明である。
したがって、プレス速度、加熱条件及び繊維強化プラスチック成形体の厚みを本件特許発明1と同じとした場合に、「強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在している」という条件を満たす蓋然性が高いとは、甲1に記載された事項からはいえないし、甲3ないし5に記載された事項からもいえない。また、他に上記条件を満たす蓋然性が高いと認めるに足る証拠も示されていない。
なお、特許異議申立人は、甲1の実施例1以外の実施例及び比較例に関する記載、甲3及び4号証の記載並びに本件特許明細書の記載から、相違点2で示された条件が特別なものではなく、甲1に記載された実施例及び比較例が、「強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内」という範囲を外れるとは考え難い旨主張するが、たとえ、特別な条件でないとしても、甲1発明において、それらの条件を採用する動機付けはないし、それらの条件を採用した場合に、「強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在している」という条件を満たす蓋然性が高いと認めるに足る証拠は示されていないので、当該主張は採用できない。
よって、相違点2は、実質的な相違点である。
また、甲1及び3ないし5には、相違点2に係る発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、甲1発明において、相違点2に係る発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

c 効果について
そして、相違点1及び2に係る発明特定事項を有することにより、本件特許発明1は、「燃焼時には滴下物の発生が抑制され、難燃性が十分に高められた繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる」(本件特許明細書の【0012】参照。)という甲1発明及び甲3ないし5に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

d まとめ
よって、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲3ないし5に記載された事項、すなわち甲第3ないし5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明2ないし11について
本件特許発明2ないし7及び9ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第3ないし5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件特許発明8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第3ないし5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)甲2を主引用文献とする理由について
ア 本件特許発明13について
(ア)対比
本件特許発明13と甲2発明を対比する。
甲2発明における「炭素繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットして得たチョップド炭素繊維と、水と界面活性剤からなる分散液を、分散槽21、メッシュコンベア31を備えている抄紙槽22およびコンベア32からなる傾斜型抄紙機で構成されている製造装置の分散槽21に投入、撹拌、抄紙、乾燥して、炭素繊維基材を製造し、上記炭素繊維基材を1枚と、東レ(株)製、CM1007(ナイロン6樹脂)の同じ厚みのフィルム2枚とを、フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層し、この積層体に250℃の温度で5MPaの圧力を2分間かけ、炭素繊維基材にナイロン6樹脂が含浸したプリプレグ(1)を作製する工程」は、本件特許発明13における「強化繊維と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂繊維を混合し、湿式不織布法によって繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程」と、「湿式不織布法によって繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程」を含むものであるという限りにおいて一致する。
また、甲2発明における「炭素繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットして得たチョップド炭素繊維と、水と界面活性剤からなる分散液を、分散槽21、メッシュコンベア31を備えている抄紙槽22およびコンベア32からなる傾斜型抄紙機で構成されている製造装置の分散槽21に投入、撹拌、抄紙、乾燥して、炭素繊維基材を製造し、上記炭素繊維基材を1枚と、東レ(株)製、CM1007(ナイロン6樹脂)の同じ厚みのフィルム2枚とを、フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層し、この積層体に250℃の温度で5MPaの圧力を2分間かけ、炭素繊維基材にナイロン6樹脂が含浸したプリプレグ(1)を作製する工程」は、本件特許発明13における「前記繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程は、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程」を含むものである。
さらに、甲2発明における「抄紙時のメッシュコンベア31の速度を、分散液の流速の4倍の速度に調整する」は、ジェットワイヤー比に見立てれば0.25であるから、本件特許発明13における「前記長網抄紙機又は前記傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.95以下となるように走行する」に相当する。
さらにまた、甲2発明における「プリプレグ(1)の作製方法」は、本件特許発明13における「繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
「湿式不織布法によって繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程を含み、
前記繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程は、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程を含み、
前記長網抄紙機又は前記傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.95以下となるように走行する繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3>
「湿式不織布法によって繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程」に関して、本件特許発明13においては、「強化繊維と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂繊維を混合」しているのに対し、甲2発明においては、「材料1で得られた炭素繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットして得たチョップド炭素繊維と、水と界面活性剤からなる分散液を、分散槽21、メッシュコンベア31を備えている抄紙槽22およびコンベア32からなる傾斜型抄紙機で構成されている製造装置の分散槽21に投入、撹拌、抄紙、乾燥して、炭素繊維基材を製造し、上記炭素繊維基材を1枚と、東レ(株)製、CM1007(ナイロン6樹脂)の同じ厚みのフィルム2枚とを、フィルム/炭素繊維基材/フィルムとなるように積層し、この積層体に250℃の温度で5MPaの圧力を2分間かけ、炭素繊維基材にナイロン6樹脂が含浸」している点。

(イ)判断
そこで、検討する。
a 相違点3について
そこで、相違点3について検討する。
甲2の[0238]ないし[0240]及び[0245]によると、甲2発明の認定の根拠である実施例6のプリプレグは、「難燃剤を含む熱可塑性樹脂繊維」を有していない。
そして、甲2の[0061]ないし[0063]によると、上記実施例6は、「樹脂込みで強化繊維を抄紙しており、樹脂種を増やすには装置の洗浄、装置台数の増加などが必要」、「炭素繊維の配向を制御する必要」及び「工程ごとに詳細な条件を設定する必要」があるため「問題がある」とされた国際公開第2007/97436号(甲6)に記載された「樹脂込みで強化繊維を抄紙」するプリプレグの製法の問題を解決するものであり、甲2発明は、「樹脂込みで強化繊維を抄紙」しないものである。
したがって、「樹脂込みで強化繊維を抄紙」しない甲2発明において、甲6に記載された「樹脂込みで強化繊維を抄紙」することを適用すること、すなわち「強化繊維」と「熱可塑性樹脂繊維」を「混合」することには、阻害要因があるといえる。
なお、特許異議申立人は、甲6に記載された抄紙法を甲2発明に適用することは技術的に可能であり、製造効率上の問題が有ることのみをもって、甲2発明に甲6記載の抄紙法を組み合わせることが阻害されるものではない旨主張するが、技術的に可能であることだけでは動機付けの理由にはならないし、上記のとおり、甲2発明は、甲6に記載された抄紙法の問題を解決するためのものであるから、甲2発明に甲6に記載された抄紙法を組み合わせることには、阻害要因があるというべきであるので、当該主張は採用できない。
したがって、甲2発明において、甲6に記載された事項を適用して、「強化繊維」と「熱可塑性樹脂繊維」を「混合」することは容易に想到し得たことであるとはいえず、また、さらに「難燃剤を含む」ことが限定された相違点3に係る発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 効果について
そして、相違点3に係る発明特定事項を有することにより、本件特許発明13は、「燃焼時には滴下物の発生が抑制され、難燃性が十分に高められた繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる」という甲2発明及び甲6に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

c まとめ
よって、本件特許発明13は、甲2発明、すなわち甲第2号証に記載された発明及び甲6に記載された事項、すなわち甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明14について
本件特許発明14は、請求項13を引用するものであり、本件特許発明13の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明13と同様に、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立ての理由1及び2についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおり、甲1を主引用文献とする理由及び甲2を主引用文献とする理由、すなわち申立ての理由1及び2によっては、本件特許の請求項1ないし11、13及び14に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立ての理由3について
(1)判断基準
特許法第36条第4項第1号で委任する経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)では、発明がどのような技術的貢献をもたらすものであるかが理解でき、また審査及び調査に役立つように、発明の課題、その解決手段などの、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を発明の詳細な説明に記載することが規定されている。
そうすると、委任省令要件で記載することが求められる事項とは、以下のa及びbと解される。
a 発明の属する技術分野
b 発明が解決しようとする課題及びその解決手段

(2)検討
そこで、検討する。
発明の属する技術分野に関して、発明の詳細な説明の【0001】に「本発明は、繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。具体的には、本発明は、強化繊維が中心面に対してほぼ平行に配向している繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。」と記載されている。
また、発明が解決しようとする課題として、【0008】に「上述したように繊維強化プラスチック成形体に難燃剤を含有させることにより、難燃性をある程度高めることはできる。しかしながら、特許文献1に開示されたような繊維強化プラスチック成形体においては、燃焼時には、熱可塑性樹脂等が溶融し滴下し、このような滴下物が他の材料の点火剤となる場合があり問題となっていた。また、特許文献2に開示されている繊維強化プラスチック成形体においても、熱可塑性樹脂等の滴下を十分に抑制しきれないことが本発明者らの検討により明らかとなった。」及び【0009】に「そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、十分な難燃性を有し、かつ燃焼時には滴下物の発生が抑制された繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供することを目的として検討を進めた。」と記載されている。
さらに、その解決手段として、【0010】に「上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、強化繊維と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートを、加熱加圧し成形した繊維強化プラスチック成形体において、強化繊維のうち大半の強化繊維を成形体の中心面とほぼ平行に配向させることにより、燃焼時には滴下物の発生を抑制し、難燃性を十分に高め得ることを見出した。具体的に、本発明は、以下の構成を有する。」及び【0011】に「「1]強化繊維と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートであって、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを下記(a)及び(b)の条件で加熱加圧成形して得られる厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、前記強化繊維のうち大半の強化繊維が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面とほぼ平行に存在していることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用シート;
(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。
(b)前記繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm^(3))をPとし、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm^(3))をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する。
[2]前記繊維強化プラスチック成形体用シートを前記(a)及び(b)の条件で加熱加圧成形して得た厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体において、前記強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在していることを特徴とする[1]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。」と記載されている。
したがって、発明の詳細な説明には、発明の属する技術分野並びに発明が解決しようとする課題及びその解決手段の記載があるといえる。
そして、これらの記載から、請求項1に記載された「前記繊維強化プラスチック成形体用シートを下記(a)及び(b)の条件で加熱加圧成形して得られる厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、前記強化繊維の全本数のうち80%以上が、前記繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在していることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体用シート;
(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。
(b)前記繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm^(3))をPとし、前記繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm^(3))をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する。」という発明特定事項の技術上の意義を、当業者は理解することができる。
よって、発明の詳細な説明には、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が記載されているといえ、本件特許発明1に関して、発明の詳細な説明の記載は、特許法施行規則第24条の2の規定に適合する。
また、本件特許発明2ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、請求項1に記載された上記発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし11に関して、発明の詳細な説明の記載は、特許法施行規則第24条の2の規定に適合する。

(3)申立ての理由3についてのまとめ
上記(2)のとおり、申立ての理由3によっては、本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立ての理由4及び5について
(1)判断基準
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)検討
そこで、検討する。
ア 請求項1に記載された「(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。」のサポート要件について
特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第2の【請求項1】のとおりである。
他方、発明の詳細な説明の【0009】の「そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、十分な難燃性を有し、かつ燃焼時には滴下物の発生が抑制された繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供することを目的として検討を進めた。」という記載によると、本件特許発明1の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「十分な難燃性を有し、かつ燃焼時には滴下物の発生が抑制された繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供すること」である。
そして、【0038】に「条件(a)は、加圧条件を規定したものであり、プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secとする加圧条件である。プレス時間は、特に制限はないが、繊維強化プラスチック成形体用シートを(a)及び(b)の条件で加熱加圧して、プレス機が止まるまでプレスする。そして、設定温度に上昇した後、5分間保持し、所定の温度まで冷却する。」、【0039】に「条件(a)では、プレス速度を3.5cm/secとする。プレス速度は、3.5±0.5cm/secの範囲内であれば、プレス速度を3.5cm/secでプレスした場合と同様の加圧条件となる。本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートはもともと厚み方向の強化繊維の配向が少ないため、比較的高速なプレス速度で加圧しても、成形体における厚み方向の強化繊維の配向が少なくなる。プレス速度を3.5cm/secとすることで、繊維強化プラスチック成形体における強化繊維の繊維配向を適切に評価することが可能となる。」、同【0040】に「条件(b)は、加熱条件を規定したものであり、繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm^(3))をPとし、繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm^(3))をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する条件である。」と記載されている。また、【0086】ないし【0106】に、プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧した具体的な実施例において、UL94燃焼性試験による滴下物状況として、滴下物が生じないことを確認したことが記載されている。
これらの記載によると、プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secとする加圧条件により規定された本件特許発明1が、「十分な難燃性を有し、かつ燃焼時には滴下物の発生が抑制された繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供すること」という発明の課題を解決できることを当業者は認識できる。
なお、特許異議申立人は、「【0039】には、「条件(a)では、プレス速度を3.5cm/secとする。プレス速度は、3.5±0.5cm/secの範囲内であれば、プレス速度を3.5cm/secでプレスした場合と同様の加圧条件となる。」と記載があるものの、プレス速度については、その1点でのみしか実施しておらず、この範囲を外れた場合に起こる事象については何ら検討されていないことから、実証までに至らず、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし11に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。」旨主張するが、本件特許発明1で特定される3.5cm/secのプレス速度で実施しており、効果があることを実証している以上、請求項1に係る発明、すなわち本件特許発明1を実施し、効果があることを実証しているといえるので、当該主張は採用できない。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
また、本件特許発明2ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、請求項1に記載された「(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。」という発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし11に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

イ 請求項1に記載された配向角の測定条件のサポート要件及び明確性について
(ア)サポート要件について
特許請求の範囲の請求項1の記載及び本件特許発明1の発明の課題は、上記アのとおりである。
そして、発明の詳細な説明の【0098】に「<強化繊維と、繊維強化プラスチック成形体との角度の測定>
強化繊維と繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度は、以下の通り測定した。まず、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体について、MD方向の断面(図3(a)のB-B’線)を切り出した。MD方向の断面のイメージ図は図3(b)に示した。この断面の強化繊維を、三次元計測X線CT装置(ヤマト科学製:商品名「TDM1000-IS/SP」)で撮影し、三次元ボリュームレンダリングソフト(NVS製:「VG-Studio MAX」)にて断面の画像を得た。そして、得られた断面画像について、Z軸方向に任意に10本の10μmのライン∨を引き、そのラインに接して見える繊維全てについて、図4の白線で示したとおり、強化繊維と繊維強化プラスチック成形体の中心面とのなす角度を測定した。具体的には、繊維強化プラスチック成形体の中心面と平行な線はラインH(点線)で表しており、このラインHと強化繊維がなす角度を測定した。測定した繊維の本数は100?130本程度とした。そして、測定した強化繊維の全本数に対する、繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内である繊維の占める繊維本数の割合を表1?3に示した。」と記載されており、具体的な角度の測定方法が記載されている。そして、この測定方法は、繊維が曲折している場合でも適用できることは明らかである。
また、【0086】ないし【0106】には、請求項1に記載された配向角の測定条件を満足する具体的な実施例において、UL94燃焼性試験による滴下物状況として、滴下物が生じないことを確認したことが記載されている。
これらの記載によると、請求項1に記載された配向角の測定条件により規定された本件特許発明1が、「十分な難燃性を有し、かつ燃焼時には滴下物の発生が抑制された繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供すること」という発明の課題を解決できることを当業者は認識できる。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
また、本件特許発明2ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、請求項1に記載された配向角の測定条件に関する発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし11に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

(イ)明確性要件について
上記(ア)のとおり、請求項1に記載された配向角の測定条件について、発明の詳細な説明に具体的に記載されている。
したがって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許発明2ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、請求項1に記載された配向角の測定条件に関する発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし11に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(3)申立ての理由4及び5についてのまとめ
よって、申立ての理由4及び5によっては、本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

第5 結語
上記第4のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし11、13及び14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし11、13及び14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-20 
出願番号 特願2014-250989(P2014-250989)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08J)
P 1 652・ 113- Y (C08J)
P 1 652・ 536- Y (C08J)
P 1 652・ 537- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
渕野 留香
登録日 2018-03-02 
登録番号 特許第6295938号(P6295938)
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 繊維強化プラスチック成形体用シート  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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