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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特39条先願  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 特29条の2  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1346789
異議申立番号 異議2018-700737  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-11 
確定日 2018-11-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6293682号発明「高強度Ni基超合金」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6293682号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6293682号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年 1月22日に出願され、平成30年 2月23日にその特許権の設定登録がされ、同年 3月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1?7に係る特許に対し、平成30年 9月11日に特許異議申立人中西康裕(以下、「異議申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。


第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
質量%で、C:0.005?0.05%、Fe:0.1?2.0%、Cr:10?20%、Co:10?20%、Mo:1.0?8.0%、W:1.0?8.0%、Ti:0.1?2.0%、Al:2.0?4.5%、Nb:0.1?2.0%を含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする高強度Ni基超合金。
【請求項2】
前記組成に、質量ppmで、さらにP:30?100ppm、B:50?250ppmの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1記載の高強度Ni基超合金。
【請求項3】
前記組成に、質量%で、さらにMg:0.01%以下、Zr:0.01?0.50%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度Ni基超合金。
【請求項4】
700℃におけるγ´相量が体積分率で40?43%であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の高強度Ni基超合金である。
【請求項5】
γ´相の固溶温度が1100℃以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の高強度Ni基超合金。
【請求項6】
引張試験で評価した絞りが50%以上となる温度範囲が120℃以上であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の高強度Ni基超合金。
【請求項7】
600℃以上の温度で使用されることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の高強度Ni基超合金。」


第3 申立理由の概要
1 異議申立人は、後記2に示す各甲号証と、参考文献1を提出した。
その上で、以下の4つの理由で本件特許が取り消されるべきものであることを主張している(以下、それぞれ便宜的に「申立理由1」?「申立理由4」という。)。

申立理由1:甲第1号証を根拠として、本件発明1?7は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

申立理由2:甲第2号証を根拠として、本件発明1?3は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない。

申立理由3:甲第3号証を根拠として、本件発明1?7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないか、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

申立理由4:本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7の記載は、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化を許容される範囲を超えて特許発明とできない範囲までも請求するものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2015-129341号公報(特願2014-14595号の公開公報)

甲第2号証:特願2014-14595号の審査過程における、平成29年12月19日付けの手続補正書

甲2-1号証:特願2014-14595号の審査過程における、平成30年 7月20日付けの特許査定

甲第3号証:欧州特許出願公開第2826877号明細書

参考文献1:特公平2-8017号公報

3 甲第2号証についての疑義と、甲第2号証の読み替えについて
(1)異議申立人は、異議申立書において、甲第2号証が、本件特許の出願日以前の平成26年 1月29日に出願され、平成30年 9月 7日に登録された特願2014-14595号の特許査定された特許請求の範囲を示す補正書の写しであると主張する(異議申立書第8頁下から2行?第9頁第1行)が、この主張について疑義があるので、以下検討する。

(2)特願2014-14595号の審査過程における経緯は以下のとおりである。
平成26年 1月29日 出願
平成27年 7月16日 出願公開(特開2015-129341号公 報すなわち甲第1号証)
平成29年10月27日付け 拒絶理由通知
平成29年12月19日付け 意見書及び手続補正書(すなわち甲第2号証 )の提出
平成30年 5月10日付け 拒絶理由通知
平成30年 7月 6日付け 意見書及び手続補正書(特許請求の範囲の全 文の補正を含む)の提出
平成30年 7月20日付け 特許査定
平成30年 9月 7日 特許権の設定登録
平成30年 9月26日 特許掲載公報の発行(特許第6393993 号公報)

(3)上記(2)によれば、特願2014-14595号は、本件特許の出願日以前の特許出願であって、平成30年 9月 7日に登録されたものである点において上記主張に誤りはないが、特許査定された特許請求の範囲は、甲第2号証(すなわち平成29年12月19日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲)ではなく、平成30年 7月6日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲なので、その点において、上記主張は誤りを含むものである。

(4)その一方、異議申立書の申立理由2に関する記載(例えば第24頁の(B-2)欄)からみて、異議申立人は、甲第2号証(すなわち特願2014-14595号の平成29年12月19日付けの手続補正書)に基づいた主張を行っておらず、実際には、特願2014-14595号の特許査定された特許請求の範囲の記載に基づく主張を行っていることを理解できる。
そこで、以下では、甲第2号証を、特願2014-14595号の特許掲載公報である特許第6393993号公報と読み替えた上で、特許法第39条第1項に係る申立理由2の判断を行うこととする。


第4 当審の判断
1 当審の判断の概要
事案に鑑み、まず、後記2において、甲第3号証を根拠とする申立理由3は、理由がないことを述べる。
次に、後記3において、甲第1号証を根拠とする申立理由1も、理由がないことを述べる。
次に、後記4において、甲第2号証を根拠とする申立理由2も、理由がないことを述べる。
最後に、後記5において、申立理由4も、理由がないことを述べる。

以下、順に詳述する。

2 甲第3号証を根拠とする申立理由3について
(1)甲第3号証には、以下の記載がある。





(当審訳:
請求の範囲
1.高温強度に優れた熱間鍛造可能なNi基超合金であって、質量%で、
C :0.001%超?0.100%未満
Cr:11.0%?19.0%未満
Co:0.5%?22.0%未満
Fe:0.5%?10.0%未満
Si:0.1%未満
Mo:2.0%超?5.0%未満
W :1.0%超?5.0%未満
Mo+1/2W:2.5%?5.5%未満
S :0.010%以下
Nb:0.3%?2.0%未満
Al:3.00%超?6.50%未満
Ti:0.20%?2.49%未満
残部がNi及び不可避不純物
を含み、
原子比で、Ti/Al×10が0.2?4.0未満であり、
原子%で、Al+Ti+Nbが8.5%?13.0%未満である。)





(当審訳:
Si:0.1%未満
[0026] Siは、添加することによって、Si酸化物のスケール層により耐酸化性の改善を促す。しかしながら、低融点部分の局部的な生成が、Siの偏析などに起因して生じ、その結果、熱間加工性が低下する。このため、本発明においては、含有量が0.1%未満に制限される。好ましい範囲は0.09%以下である。)





(当審訳:
実施例
[0051] 本発明の実施例を以下に詳細に説明する。
[0052] 表1に示す化学成分を有するNi基超合金50kgを高周波誘導炉で溶解した。溶融されたインゴットは、1,100?1,220℃で16時間の均質化熱処理を施し、その後直径30mmの棒材にインゴットを熱間鍛造することにより加工性の評価を行った。)





(当審訳:表1-I 化学組成(質量% ただしAl+Ti+NbとTi/Al×10は除く。)

(2)甲第3号証の請求の範囲の第1項に基づき、甲第3号証には、以下の引用発明1が記載されているといえる。
また、甲第3号証の実施例26、31、32、33の記載に基づき、甲第3号証には、以下の引用発明2?5が記載されているといえる。
[引用発明1](請求の範囲の第1項に基づく)
高温強度に優れた熱間鍛造可能なNi基超合金であって、質量%で、
C :0.001%超?0.100%未満
Cr:11.0%?19.0%未満
Co:0.5%?22.0%未満
Fe:0.5%?10.0%未満
Si:0.1%未満
Mo:2.0%超?5.0%未満
W :1.0%超?5.0%未満
Mo+1/2W:2.5%?5.5%未満
S :0.010%以下
Nb:0.3%?2.0%未満
Al:3.00%超?6.50%未満
Ti:0.20%?2.49%未満
残部がNi及び不可避不純物
を含み、ここで、
原子比で、Ti/A1×10が0.2?4.0未満であり、
原子%で、Al+Ti+Nbが8.5%?13.0%未満である、
Ni基超合金。

[引用発明2](Example 26に基づく)
質量%でCを0.04%、Feを0.7%、Crを15.2%、Coを8.8%、Moを3.1%、Wを2.2%、Tiを1.2%、Alを3.8%、Nbを0.9%、Siを0.04%、Pを0.003%未満、Nを0.002%未満、Sを0.001%未満含む、Ni基超合金。

[引用発明3](Example 31に基づく)
質量%でCを0.03%、Feを3.8%、Crを17.2%、Coを14.5%、Moを2.5%、Wを1.6%、Tiを2.0%、Alを4.5%、Nbを0.9%、Siを0.05%、Pを0.003%未満、Nを0.002%未満、Sを0.001%未満含む、Ni基超合金。

[引用発明4](Example 32に基づく)
質量%でCを0.04%、Feを3.7%、Crを16.0%、Coを16.7%、Moを3.1%、Wを2.3%、Tiを1.3%、Alを3.8%、Nbを1.0%、Siを0.03%、Pを0.003%未満、Nを0.002%未満、Sを0.001%未満含む、Ni基超合金。

[引用発明5](Example 33に基づく)
質量%でCを0.07%、Feを1.2%、Crを14.3%、Coを13.8%、Moを3.1%、Wを2.5%、Tiを0.7%、Alを3.8%、Nbを0.8%、Siを0.05%、Pを0.003%未満、Nを0.002%未満、Sを0.001%未満含む、Ni基超合金。

(3)引用発明1に基づく本件発明1の新規性進歩性の判断について
この「2 甲第3号証を根拠とする申立理由3について」の項において、以下、単に「%」と記載した場合は、質量%を意味することとし、英字及び数字を記載する場合は、全角での記載に統一する。
ア 本件発明1と引用発明1とを対比すると、両発明は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点1
本件発明1は、Siに関し何ら特定がされていないのに対し、引用発明1は、Siを0.1%未満で含む点

イ 上記相違点1が実質的なものであるかどうかについて検討する。
(ア)本件発明1の合金の組成は、C、Fe、Cr、Co、Mo、W、Ti、Al及びNbを含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなるから、本件発明1がSiを含有するとすれば、不可避不純物として含有する場合のみが考えられる。

(イ)そうすると、引用発明1が含有する0.1%未満のSiが、不可避不純物であれば、相違点1は実質的なものでないことになり、不可避不純物でなければ、相違点1は実質的なものであることになる。

(ウ)ところで、本件明細書には、「不可避不純物」の定義について記載はないところ、一般的には次のように解釈される。

不可避不純物とは、金属材料分野において慣用的な用語であり、その意味するところは、おおむね、金属製品において、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、微量であり、金属製品の特性に悪影響を及ぼさないため、許容されている不純物ということができる(大阪地方裁判所判決 平成20年 3月 3日言渡(平成18年(ワ)第6162号)、知的財産高等裁判所判決 平成18年 6月20日言渡(平成17年(行ケ)第10608号))。

「不可避不純物」に関しては、このような解釈を考慮に入れた上で、以下、引用発明1が含有する0.1%未満のSiが不可避不純物に該当するか否かについて検討する。

(エ)甲第3号証の段落[0026]には、Siは、添加することによって、Si酸化物のスケール層により耐酸化性の改善を促すが、低融点部分の局部的な生成が、Siの偏析などに起因して生じ、その結果、熱間加工性を低下させることから、含有量が0.1%未満に制限されるものであることが記載されている。
この記載によれば、引用発明1が含有する0.1%未満のSiは、耐酸化性の改善を促すとともに、低融点部を生成し熱間加工性を低下させることがないように、含有量を管理しながら添加されたものであると認められる。
そうすると、引用発明1が含有する0.1%未満の当該Siは、製造工程において不可避的に混入するものであるとはいえず、また、本来は不要なものであるともいえない。その上、耐酸化性の改善という点で製品の特性に影響を及ぼす程度の量で存在するものである。
したがって、引用発明1が含有する当該Siは、上記(ウ)の不可避不純物の一般的な解釈に照らして、不可避不純物には該当しない。

(オ)上記(ア)?(エ)の検討によれば、引用発明1が含有する0.1%未満のSiは、不可避不純物に該当しないから、相違点1は実質的なものである。

ウ 引用発明1に基づき、上記相違点1に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たかどうかについて検討する。
(ア)上記イでは、引用発明1が含有する0.1%未満のSiが、不可避不純物に該当しないから、相違点1は実質的なものであるとした。
そして、引用発明1において、Siが不可避不純物に該当するといえる程度の微少量となるようにSiの含有量を減少させる組成の変更を行うことが、当業者が容易になし得たのであれば、相違点1に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たということになる。

(イ)しかしながら、上記イ(エ)で示したとおり、引用発明1が含有する0.1%未満のSiは、耐酸化性の改善を促すとともに、低融点部を生成し熱間加工性を低下させることがないように、含有量を管理しながら添加されたものであると認められるところ、甲第3号証の記載全体を総合したとしても、引用発明1が含有する当該Siを、不可避不純物に該当するといえる程度の微少量となるようにその含有量を減少させることは、何ら記載も示唆もない。

(ウ)また、異議申立人が提出した参考文献1は「重量%で、・・・不純物として、・・・0.1%以下のケイ素と、・・・」との記載と、「ケイ素も不純物であり、多量に存在すると熱的安定性を害する。この理由故に許容し得る上限は0.1%に制限される。」との記載を開示する(参考文献1の第1欄第5行?第9行、第5欄第40行?第42行)。

(エ)上記(ウ)によれば、参考文献1は、熱的安定性の観点からSiの含有量の上限を「0.1重量%」に制限することを開示している。
これに対し、引用発明1は、「0.1%未満」のSiを含有するものであるから、参考文献1を参照した当業者は、引用発明1が、参考文献1に開示されたSiの含有量の上限の制限をすでに満足するものとなっていることを認識し得る。
したがって、参考文献1の開示は、当業者に対し、引用発明1のSiの含有量を減少させる組成の変更を動機付けるものではない。
(なお、「重量%」と「質量%」とが結果的に同じ数値に対応することは当業者にとっての技術常識である。)

(オ)したがって、甲第3号証の記載全体を総合し、さらに、参考文献1の記載を考慮したとしても、引用発明1において、Siが不可避不純物に該当するといえる程度の微少量となるようにSiの含有量を減少させる組成の変更を行うことは、当業者が容易になし得たとはいえない。

(カ)よって、上記相違点1に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

エ 以上より、本件発明1と引用発明1との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1ではないし、また、引用発明1に基づき、甲第3号証の記載及び参考文献1の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)引用発明2に基づく本件発明1の新規性進歩性の判断について
ア 本件発明1と引用発明2とを対比すると、両発明は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点2
本件発明1は、Siに関し何ら特定がされていないのに対し、引用発明2は、Siを0.04%で含む点

イ 上記相違点2が実質的なものであるかどうかについて検討する。
前記(3)イでの検討と同様にして、引用発明2が含有する0.04%のSiは、前記(3)イ(ウ)の不可避不純物の一般的な解釈に照らして、不可避不純物に該当しないから、相違点2は実質的なものである。

ウ 引用発明2に基づき、上記相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たかどうかについて検討する。
前記(3)ウの検討と同様にして、甲第3号証の記載全体を総合し、さらに、参考文献1の記載を考慮したとしても、引用発明2において、Siが不可避不純物に該当するといえる程度の微少量となるようにSiの含有量を減少させる組成の変更を行うことは、当業者が容易になし得たとはいえないから、上記相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

エ 以上より、本件発明1と引用発明2との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2ではないし、また、引用発明2に基づき、甲第3号証の記載及び参考文献1の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)引用発明3?5に基づく本件発明1の新規性進歩性の判断について
引用発明3は、Siを0.05%含み、引用発明4はSiを0.03%含み、引用発明5はSiを0.05%含むものであるから、前記(4)での検討と同様にして、本件発明1は、引用発明3、4又は5ではないし、また、引用発明3、4又は5に基づき、甲第3号証の記載及び参考文献1の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)引用発明1?5に基づく本件発明2?7の新規性進歩性の判断について
本件発明2?7は、いずれも、本件発明1を引用するものであり、本件発明1と同様に、Siに関し何ら特定がされていないものである。
したがって、本件発明2?7についても、前記(3)?(5)での検討と同様にして、引用発明1?5のいずれでもなく、また、引用発明1?5のいずれかに基づき、甲第3号証の記載及び参考文献1の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)甲第3号証を根拠とする申立理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?7は、甲第3号証に記載された発明ではないし、甲第3号証に記載された発明に基づき、甲第3号証の記載及び参考文献1の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立理由3には、理由がない。


3 甲第1号証を根拠とする申立理由1について
甲第1号証の全体と、甲第3号証の全体とを比較すると、甲第1号証は、甲第3号証と実質的に同じ内容が日本語で記載された書証であることを把握できる。
そうすると、前記2で検討したとおり、本件発明1?7が、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲第3号証に記載された発明に基づき、甲第3号証の記載及び参考文献1の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断される以上、本件発明1?7は、甲第1号証に記載された発明と同一ではないことが明らかである。
したがって、本件発明1?7は、甲第1号証に係る特許出願である特願2014-14595号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、申立理由1には、理由がない。


4 甲第2号証を根拠とする申立理由2について
(1)前記第3の3(4)で述べたとおり、甲第2号証を、特願2014-14595号の特許掲載公報である特許第6393993号公報と読み替えて、以下、甲第2号証を根拠とする申立理由2の判断を行う。
甲第2号証の特許請求の範囲には、以下の記載がある。
「【請求項1】
質量%で
C:0.001%超?0.100%未満
Cr:11.0%?19.0%未満
Co:8.0%?22.0%未満
Fe:0.5%?6.0%以下
Si:0.1%未満
Mo:2.0%超?5.0%未満
W:1.0%超?5.0%未満
Mo+1/2W:2.5%?5.5%未満
S:0.010%以下
Nb:0.3%?2.0%未満
Al:3.00%超?6.50%未満
Ti:0.20%?2.49%未満
を満たし、更に原子%で
Ti/A1×10:0.2?4.0未満
Al+Ti+Nb:8.5%?13.0%未満
残部がNi及び不可避的不純物の組成を有する高温強度に優れた熱間鍛造可能なNi基超合金。
【請求項2】
請求項1において、
Fe:1.0%?6.0%以下
であることを特徴とする高温強度に優れた熱間鍛造可能なNi基超合金。
【請求項3】
請求項2において、前記組成が、質量%で
Co:9.1%?22.0%未満であり、さらに
B:0.0001%?0.03%未満
Zr:0.0001%?0.1%未満
の1種若しくは2種を含有することを特徴とする高温強度に優れた熱間鍛造可能なNi基超合金。
【請求項4】
請求項2,3の何れかにおいて、前記組成が、質量%で
Co:9.1%?22.0%未満であり、さらに
P:0.020%未満、及び
N:0.020%未満
に規制されることを特徴とする高温強度に優れた熱間鍛造可能なNi基超合金。
【請求項5】
請求項2?4の何れかにおいて、前記組成が、質量%で
Co:9.1%?22.0%未満であり、さらに
Mg:0.0001%?0.030%未満
Ca:0.0001%?0.030%未満
REM:0.0001%?0.200%以下
の1種若しくは2種以上を含有することを特徴とする高温強度に優れた熱間鍛造可能なNi基超合金。」
以下、甲第2号証の請求項1?5に係る発明を、それぞれ、「先願発明6-1」?「先願発明6-5」という。

(2)本件発明1と先願発明6-1が同一であるかどうかについて
この「4 甲第2号証を根拠とする申立理由2について」の項において、以下、単に「%」と記載した場合は、質量%を意味することとし、英字及び数字を記載する場合は、全角での記載に統一する。
ア 本件発明1と先願発明6-1とを対比すると、両発明は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点3
本件発明1は、Siに関し何ら特定がされていないのに対し、先願発明6-1は、Siを0.1%未満で含む点

イ 上記相違点3が実質的なものであるかどうかについて検討する。
甲第2号証は、甲第1号証に係る特許出願の特許掲載公報であって、甲第3号証の請求の範囲の第1項と、甲第2号証の請求項1との違いは、前者においてはCoの含有量の下限が0.5%であったのに対し後者においては8.0%に減縮されている点と、前者においてはFeの含有量の上限が10.0%であったのに対し後者においては6.0%に減縮されている点のみであり、Siの含有量に関しては違いはない。
また、甲第3号証の段落[0026]に相当する記載として、甲第2号証の段落【0018】に
「 Si:0.1%未満
Siは添加することによって、Si酸化物のスケール層により耐酸化性の改善を促す。しかしながら、Siは偏析などにより局部的な低融点部を生成し熱間加工性を低下させるため、本発明では0.1%未満とする。より好ましくは0.09%以下である。」
との記載がある。
これらのことを踏まえると、前記2(3)イにおいて、「不可避不純物」の一般的な解釈と、甲第3号証の記載とに基づき、本件発明1と引用発明1との相違点1が実質的なものであるとした判断と同様にして、本件発明1と先願発明6-1との相違点3についても、実質的なものである。

ウ したがって、本件発明1と先願発明6-1との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、先願発明6-1と同一ではない。

(3)本件発明1と先願発明6-2?6-5が同一であるかどうかについて
ア 先願発明6-2?6-5は、先願発明6-1を引用するものであって、先願発明6-1と同様に、Siを0.1%未満で含むものであるから、本件発明2と先願発明6-2?6-5とは、少なくとも、上記相違点3と同じ点で相違する。

イ したがって、前記(2)での検討と同様にして、本件発明1と先願発明6-2?6-5との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、先願発明6-2?6-5のいずれとも同一ではない。

(4)本件発明2、3と先願発明6-1?6-5が同一であるかどうかについて
本件発明2、3は、いずれも、本件発明1を引用するものであり、本件発明1と同様に、Siに関し何ら特定がされていないものである。
したがって、前記(2)、(3)での検討と同様にして、本件発明2、3は、先願発明6-1?6-5のいずれとも同一ではない。

(5)甲第2号証を根拠とする申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、本件特許の出願日前の特許出願である特願2014-14595号に係る発明と同一ではないので、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、申立理由2には、理由がない。


5 申立理由4について
(1)異議申立書の第9頁下から第2行?第13頁第3行の主張について
ア 異議申立人は、異議申立書の上記箇所において、本件発明1が、C、Fe、Cr、Co、Mo、W、Ti、Al、Nbの9つの添加元素の組成範囲によって特定される高強度Ni基超合金であるのに対し、発明の詳細な説明の記載からこれらの9つの添加元素だけを取り出して成分組成を拡張ないし一般化することができない旨を主張しているものと解されるので、この主張について検討する。

イ 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するかどうかは、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを検討することによって判断されるところ、本件明細書の段落【0007】によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「強度と熱間加工性とに優れたNi基超合金を提供すること」であると認められる。

ウ また、本件明細書の段落【0029】によれば、700℃におけるγ´相量が体積分率で40?43%であると、所望の強度を得ることができると記載されるとともに、40%を下回ると、強度が過小となり、部材の要求特性を満足できないおそれがある一方、43%を上回ると、強度が過剰となり、部材の靱性低下を招くおそれがあることも記載されている。
また、本件明細書の段落【0030】によれば、γ´相の固溶温度を1100℃以下とすることにより、良好な熱間加工性を示す温度範囲を低温まで拡張することができ、より低温まで効果的な分塊鍛造が可能となると記載されている。

エ そして、本件明細書の段落【0038】?【0042】に記載された本発明の実施例とされる発明合金のうち、発明合金7は、本件発明1に規定される9つの添加元素(C、Fe、Cr、Co、Mo、W、Ti、Al、Nb)のみを添加元素として含むNi基超合金であって、700℃におけるγ’相量が42.1vol.%であり、γ’相の固溶温度が1092℃である。

オ 上記イ?エを総合すると、本件発明1に規定される9つの添加元素(C、Fe、Cr、Co、Mo、W、Ti、Al、Nb)のみを添加元素として含むNi基超合金である発明合金7は、γ´相量が体積分率で40?43%の数値範囲内にあり、かつ、γ´相の固溶温度を1100℃以下となっているものであることにより、所望の強度を得ることができるとともに、良好な熱間加工性を示す温度範囲を低温まで拡張することができ、上記イに示した課題を解決し得るものであることを、本件明細書の記載から、当業者は認識することができる。

カ そうすると、本件発明1が、C、Fe、Cr、Co、Mo、W、Ti、Al、Nbの9つの添加元素だけを取り出して成分組成を拡張ないし一般化するものであったとしても、ただちに、発明の詳細な説明において本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるとまではいえない。

キ 以上のとおり、異議申立人の上記主張は採用できず、本件発明1及び組成が本件発明1と同じ場合を含む本件発明4?7について、上記主張は理由がない。

ク また、上記主張は、発明の詳細な説明の記載からC、Fe、Cr、Co、Mo、W、Ti、Al、Nbの9つの添加元素だけを取り出して成分組成を拡張ないし一般化することができない旨を主張しているのであって、本件発明1の組成に対してのみ該当する主張である。
したがって、組成が本件発明1とは異なる本件発明2、3には、上記主張は該当しないから、本件発明2、3について、上記主張は理由がない。

(2)異議申立書のその他の主張について
ア 異議申立人は、上記(1)の主張以外に、異議申立書第15頁第5行?第9行において
「また、本件特許の請求項1の記載は、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化を許容される範囲を超えて、甲第1号証に記載され特許発明とできない範囲までも請求しようとするものであるから、特許法第36条第6項第1号に違背し特許を受けることができないものである。」
とも主張している。上記の「甲第1号証」の箇所を「甲第2号証」又は「甲第3号証」に代えた主張もなされている(第16頁最下行?第17頁第4行、第19頁第15行?第19行)。
さらに、本件発明2?7についても、同様の主張がなされている。

イ しかしながら、この主張は、本件特許の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するかどうかについて具体的な主張を何ら伴っていない。すなわち、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するかどうかは、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを検討することによって判断されるのであるにもかかわらず、上記主張は、この観点からの具体的な検討を伴うものではない。

ウ したがって、本件発明1に対する上記主張、及び、上記主張と同様の本件発明2?7に対する主張は、いずれも理由がない。

(3)申立理由4についてのまとめ
以上のとおり、申立理由4は、理由がない。



第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-19 
出願番号 特願2015-10303(P2015-10303)
審決分類 P 1 651・ 16- Y (C22C)
P 1 651・ 4- Y (C22C)
P 1 651・ 537- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
中澤 登
登録日 2018-02-23 
登録番号 特許第6293682号(P6293682)
権利者 株式会社日本製鋼所
発明の名称 高強度Ni基超合金  
代理人 横井 幸喜  
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