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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
管理番号 1346798
異議申立番号 異議2018-700664  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-09 
確定日 2018-11-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6286273号発明「シールドフィルム、シールドプリント配線板及びシールドプリント配線板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6286273号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6286273号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成26年4月25日に特許出願され、平成30年2月9日にその特許権の設定登録がされ、同年2月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年8月9日に特許異議申立人 加藤 加津子により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6286273号の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
一方面全体に凹凸部が形成されたセパレートフィルムの当該凹凸部が形成された面側に、離型剤を介して樹脂をコーティングすることにより保護層を形成し、さらに電磁波シールド層を形成したシールドフィルムであって、
前記セパレートフィルムを前記保護層から剥離したときの前記保護層の表面粗さ(Ra)が、0.2μm?1.0μmであり、
前記シールドフィルムをプリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する熱圧着条件を、圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分とし、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?20N/50mmであり、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?10N/50mmであり、
前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度よりも大きい、
ことを特徴とするシールドフィルム。
【請求項2】
前記電磁波シールド層は、導電性接着剤層を含むことを特徴とする請求項1に記載のシールドフィルム。
【請求項3】
前記電磁波シールド層は、金属層を更に含み、
前記導電性接着剤層は、異方導電性接着剤層により構成されていることを特徴とする請求項2に記載のシールドフィルム。
【請求項4】
前記導電性接着剤層は、等方導電性接着剤層により構成されていることを特徴とする請求項2に記載のシールドフィルム。
【請求項5】
前記保護層における前記セパレートフィルム側の表面には前記凹凸部の転写によって凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のシールドフィルム。
【請求項6】
前記セパレートフィルムの凹凸部は、マット処理が施されることで形成されていることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のシールドフィルム。
【請求項7】
一層以上のプリント回路を含む基体の少なくとも片面上に、
一方面全体に凹凸部が形成されたセパレートフィルムの当該凹凸部が形成された面側に、離型剤を介して樹脂をコーティングすることにより保護層を形成し、さらに電磁波シールド層を形成したシールドフィルムを設けたシールドプリント配線板であって、
前記セパレートフィルムを前記保護層から剥離したときの前記保護層の表面粗さ(Ra)が、0.2μm?1.0μmであり、
前記シールドフィルムをプリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する熱圧着条件を、圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分とし、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?20N/50mmであり、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?10N/50mmであり、
前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度よりも大きい、
ことを特徴とするシールドプリント配線板。
【請求項8】
前記プリント回路を含む基体がフレキシブルプリント配線板からなることを特徴とする請求項7に記載のシールドプリント配線板。
【請求項9】
前記プリント回路を含む基体がテープキャリアパッケージ用TABテープであることを特徴とする請求項7に記載のシールドプリント配線板。
【請求項10】
一方面全体に凹凸部が形成されたセパレートフィルムの当該凹凸部が形成された面側に、離型剤を介して樹脂をコーティングすることにより保護層を形成し、さらに電磁波シールド層を形成したシールドフィルムを、一層以上のプリント回路を含む基体の少なくとも片面上に積層する積層工程、
前記積層工程後に、圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分である熱圧着条件下で、前記シールドフィルム及び前記基体を積層方向に加熱しながら加圧する加熱・加圧工程、及び前記加熱・加圧工程後に、前記セパレートフィルムを前記保護層から剥離する剥離工程を含み、
前記加熱・加圧工程前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?20N/50mmであり、
前記熱圧着条件下における前記加熱・加圧工程後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?10N/50mmであり、
前記剥離工程後の前記保護層の表面粗さ(Ra)が0.2μm?1.0μmであり、
前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度よりも大きい、
ことを特徴とするシールドプリント配線板の製造方法。」

第3 申立理由の概要
1.申立理由1(新規性)
特許異議申立人は、証拠として、下記の甲第1号証を提出し、請求項1,2,4ないし8に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、請求項1,2,4ないし8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

記(証拠一覧)
甲第1号証:特開2009-277980号公報

2.申立理由2(進歩性)
特許異議申立人は、証拠として、下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、請求項1,2,4ないし8,10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1,2,4ないし8,10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
また、証拠として、下記の甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、請求項3,9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項3,9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

記(証拠一覧)
甲第1号証:特開2009-277980号公報
甲第2号証:国際公開第2006/120983号
甲第3号証:特開平8-001859号公報
甲第4号証:特開2007-294996号公報

3.申立理由3(実施可能要件)
特許異議申立人は、請求項1ないし10に係る特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき旨主張している。

4.申立理由4(サポート要件)
特許異議申立人は、請求項1ないし10に係る発明は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき旨主張している。

第4 甲各号証の記載
1.甲第1号証(特開2009-277980号公報)
甲第1号証には、「電磁波シールド性接着フィルムおよびその製造方法」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【0001】
本発明は,繰り返し屈曲を受けるフレキシブルプリント配線板などに貼着して、電気回路から発生する電磁ノイズを遮蔽する用途に好適に用いられる電磁波シールド性接着性フィルム及びその製造方法に関する。」

(2)「【0014】
まず、本発明の電磁波シールド性接着性フィルムについて説明する。
本発明の電磁波シールド性接着フィルムは、剥離性フィルム1、フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)、及び剥離性フィルム2が順次積層されてなるものである。
【0015】
剥離フィルム1は、片面あるいは両面に離型処理をしたフィルムや、片面あるいは両面に粘着剤を塗布したフィルムなどを使用することができる。」

(3)「【0017】
離型処理方法としては、離型剤をフィルムの片面あるいは両面に塗布したり、物理的にマット化処理する方法がある。
離型剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の炭化水素系樹脂、高級脂肪酸及びその金属塩、高級脂肪酸石鹸、ワックス、動植物油脂、マイカ、タルク、シリコーン系界面活性剤、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、フッ素系界面活性剤、フッ素樹脂、フッ素含有シリコーン樹脂などが用いられる。
離型剤の塗布方法としては、従来公知の方式、例えば、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、スプレーコート方式、バーコート方式、スピンコート方式、ディップコート方式等により行うことができる。
【0018】
剥離フィルム1の表面粗さRaは、0.05?0.8、好ましくは0.07?0.5の範囲のものが使用できる。表面粗さRaが0.05未満の場合、電磁波シールド性フィルムの絶縁性層の表面平滑性が高くなり、目立ちやすく、製品の外観や見た目が悪くなる。さらには、表面の平滑性が高い為に、滑り性が悪い為に電磁波シールド性フィルム同士がくっつき易くなり、電子機器のヒンジ部分に使用される場合にはスムーズに動かないといった不具合が生じる。
また、表面粗さRaが0.8より大きい場合、絶縁性層の表面平滑性が低くなりすぎて、絶縁性層同士の擦れや、電子機器の筐体と擦れなどに対して弱く、絶縁性層が削れるという不具合が生じる。
【0019】
表面粗さRaが0.05?0.8の範囲の剥離フィルムは、前記フィルムの基材上に、フィラーが入ったマット化剤をコーティングした後、前記剥離剤を塗布したり、物理的にマット化されているフィルム上に剥離剤を塗布したり、前記剥離剤中にマット化剤を入れて前記フィルム上に塗布したり、さらには、基材フィルムにフィラー入りの粘着剤を塗布するなどの方法により作製することができる。
【0020】
本発明で規定する表面粗さRaは、JIS-B0601で定義されたものである。粗さ曲線からその中心線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線と粗さ曲線との偏差の絶対値を算術平均したものである。表面粗さRaは一般に市販されている表面粗さ計を用いて求めることができる。具体的な表面粗さ計としては、東京精密製の表面粗さ計サーフコムなどがある。」

(4)「【0050】
硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)における導電性フィラーの含有量は、必要とする電磁波シールド効果の度合いによって異なるが、ポリウレタンポリウレア樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)との合計100重量部に対して、導電性フィラー10?700重量部の割合にすることが好ましい。導電性フィラーの含有量が10重量部を下回ると、導電性フィラー同士が十分に接触せず、高い導電性が得られず、電磁波シールド効果が不十分となりやすい。また、導電性フィラーの含有量が700重量部を超えても、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層の表面抵抗値は下がらなくなり、電導率が飽和状態に達する上に、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層中の導電性フィラーの量が過多となり、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)の基材フィルムへの密着性や接着力が低下する。
【0051】
次に本発明の硬化性電磁波シールド性接着性フィルムの製造方法の具体的態様について説明する。
例えば、上記したように特定の表面粗さを呈する一の剥離性フィルム(以下、剥離性フィルム1という)の一方の面に、ポリウレタンポリウレア樹脂(C)とエポキシ樹脂(D)とを含有する硬化性樹脂組成物を塗工・乾燥し、フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)を形成し、
別途、他の剥離性フィルム(以下、剥離性フィルム2という)の一方の面に、ポリウレタンポリウレア樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)と導電性フィラーとを含有する硬化性導電性樹脂組成物を塗工・乾燥し、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)を形成し、
次いで、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)とフィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)とを重ね合わせる。
【0052】
あるいは、特定の表面粗さを呈する剥離性フィルム1の一方の面に、前記硬化性樹脂組成物を塗工・乾燥し、フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)を形成し、該フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)上に、前記硬化性導電性樹脂組成物を塗工・乾燥し、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)を形成し、該硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)上に剥離性フィルム2を重ね合わせる。」

(5)「【0054】
例示したような製造方法により、剥離性フィルム2/硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)/フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)/特定の表面粗さを呈する剥離性フィルム1/という積層状態の硬化性電磁波シールド性接着性フィルムを得ることができる。特定の表面粗さを呈する剥離性フィルム1を用いることによって、その表面粗さに対応する表面粗さを有する、絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物の硬化フィルムを得ることができる。
【0055】
最後に本発明の硬化性電磁波シールド性接着性フィルムの使い方の具体的態様を説明する。
前記硬化性電磁波シールド性接着性フィルムから、剥離性フィルム2を剥がし、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)を露出させる。その硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)を被着体に重ね合わせ、加熱することにより、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)及びフィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)中の、ポリウレタンポリウレア樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)、ポリウレタンポリウレア樹脂(C)とエポキシ樹脂(D)を反応させ、両層(I)(II)を硬化させる。接触界面近傍において、ポリウレタンポリウレア樹脂(A)とエポキシ樹脂(D)、ポリウレタンポリウレア樹脂(C)とエポキシ樹脂(B)の反応も生じる場合もある。そして、両層(I)(II)の硬化後に、剥離性フィルム1を剥がすことによって、被着体を電磁波から遮蔽することが可能となる。
【0056】
本発明の硬化性電磁波シールド性接着性フィルムを貼着することのできる被着体としては、例えば、繰り返し屈曲を受けるフレキシブルプリント配線板を代表例として挙げることができる。もちろん、リジッドプリント配線板にも適用できる。」

そして、
・上記(2)によれば、電磁波シールド性接着フィルムは、剥離性フィルム1、フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)、及び剥離性フィルム2が順次積層されてなるものである。一方、上記(5)によれば、上記電磁波シールド性接着フィルムを被着体に使う場合は、電磁波シールド性接着フィルムから剥離性フィルム2を剥がすことから、電磁波シールド性接着フィルムは、剥離性フィルム1、フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)として発明を把握できる。
・上記(5)によれば、電磁波シールド性接着性フィルムはプリント配線板に貼着できる。

したがって、上記(1)ないし(5)の記載事項及び図面の記載を総合勘案すると、甲第1号証は、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「物理的にマット化されているフィルム上に剥離剤を塗布した剥離性フィルム1に、硬化性樹脂組成物を塗工・乾燥し、フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)を形成し、該フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)上に、硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)を形成した電磁波シールド性接着性フィルムであって、
剥離性フィルム1の表面粗さRaが0.05?0.8であり、
ここで、表面粗さRaは、JIS-B0601で定義されたものであり、
剥離性フィルム1は、両層(I)(II)の硬化後に、剥離性フィルム1を剥がすものであり、
硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)は電磁波シールド効果があり、
フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)の表面粗さは、剥離性フィルム1の表面粗さに対応している
電磁波シールド性接着性フィルム。」

2.甲第2号証(国際公開第2006/120983号)
甲第2号証には、「4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む積層体およびこれからなる離型フィルム」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「[0001]
本発明は、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む積層体およびこれからなる離型フィルムに関する。より詳しくは、フィルムまたはシート状の積層物を加熱および加圧成形する際に使用される離型フィルム用積層体に関するものであり、特に、フレキシブルプリント基板を製造する際に、電気回路(銅箔)面を保護する保護層であるカバーレイフィルムを接着剤によって加熱および加圧して接着する際に使用される離型フィルムとして使用される、適度のクッション性とすぐれた離型性を兼備した積層体およびこの積層体からなるフレキシブルプリント基板製造用離型フィルムに関する。」

(2)「[0016]
すなわち、本発明に係る積層体は、基本的には表面側から4-メチル-1-ペンテン系重合体からなる表面層(A)、接着層(B)、クッション層(C)の順に積層され一体化された少なくとも3層の構造を有している。たとえば、表面側から4-メチル-1-ペンテン系重合体からなる表面層(A)、接着層(B)、クッション層(C)、接着層(B)、4-メチル-1-ペンテン系重合体からなる表面層(A)の順に積層され一体化された5層の構造を有する積層体は、離型フィルム、特にFPC製造用離型フィルムとして好ましく用いられる。」

(3)「[0031]
さらに本発明の積層体は、これをFPC製造時の離型フィルムとして使用する際の加熱および加圧処理条件に近い、例えば、温度180℃、圧力5MPaで30分間の加熱および加圧処理を行った後、冷却して得られる加熱および加圧処理後の積層体の、表面層(A)とクッション層(C)との間のJIS K6854に準拠して測定して得られる接着強度が、1?10N/15mm、好ましくは1?5N/15mm、さらに2?4N/15mmであることが好ましい。」

(4)「[0051]
また本発明の積層体の少なくとも一方の最外層である表面層(A)の、JIS B0601に準じて測定する面粗度Ryは、0.01?20μm、好ましくは0.1?10μm、さらに好ましくは0.1?5μmである。表面層(A)の面粗度が上記の範囲内であると、FPC製造時の加熱および加圧後に離型フィルムを剥離する際の離型性が良好となる。このような面粗度の積層体を製造する方法には特別な制限はなく公知の方法によって製造できるが、Tダイ装置を使った押出成形法では、チルロール、すなわち冷却ロールの表面をマット処理により粗くしたものを使用することにより、チルロールの表面を溶融した樹脂に転写した後、冷却することで、上記の範囲の面粗度を容易に得ることができる。または、表面が平滑な積層体を製造した後、再度、該積層体を加熱して軟化するとともに、エンボスロールで加熱および加圧処理して、積層体表面を均一に粗くすることで、目的とする面粗度を得ることもできる。」

(5)「[0059]
これらのうちでも、熱硬化型の接着剤を用いて、電気回路を形成した基板とカバーレイ層とを金属板に挟んで加熱および加圧して接着するに際に、カバーレイ層と金属板とが加熱および加圧するときに接着してしまう事態を避けるために、その中間に、剪んで使用するFPC製造用の離型フィルムとして好適に使用することができる。」

(6)「[0063]
(4)加熱および加圧処理前の接着強度
3種5層Tダイ装置を用いて、押出機の設定温度およびTダイの設定温度を290℃にして、共押出によって表面層(A)/接着層(B)/クッション層(C)/接着層(B)/表面層(A)の5層からなる、幅400mmの積層体を製造した。
[0064]
次いで、JIS K6854に準拠して、該積層体から長さ150mm、幅15mmのサンプルを切り出し、サンプルの長手方向の一方の端面から、片側の表面層(A)を少し剥離して、該剥離した表面層(A)および、剥離した表面層(A)以外の、積層体の残りの部分をそれぞれクランプで挟み、温度23℃、剥離角度180度、剥離速度300mm/分、剥離幅15mmの条件でT字型剥離試験を行い、表面層(A)とクッション層(C)との間の、接着強度を測定した。
[0065]
尚、比較例6および比較例7においては、表面層(A)/クッション層(C)/表面層(A)の3層からなる積層体を製造して5層の積層体の場合と同様にして評価した。
(5)加熱および加圧処理後の接着強度
[加熱および加圧処理]
3種5層Tダイ装置を用いて、押出機の設定温度およびTダイの設定温度を290℃にして、共押出によって表面層(A)/接着層(B)/クッション層(C)/接着層(B)/表面層(A)の5層からなる、幅400mmの積層体を製造し、該積層体から任意の方向で20cm×30cmのサンプル[D1]を切り出した。
[0066]
次いで、[A]ステンレス板(32cm×32cm×厚さ5mm)、[B]緩衝材として新聞紙10枚(30cm×30cm)、[C]アルミ板(30cm×30cm×厚さ0.1mm)、[D1]上記のサンプルを、下から[A]/[B]/[C]/[D1]/[C]/[B]/[A]の順に重ねて、温度180℃の雰囲気中で、圧力5MPaで加圧して30分間、加熱および加圧処理した。次いで、圧力5MPaで保圧して、3分間で室温まで冷却した後、サンプルを取り出した。
[0067]
[接着強度の測定]
加熱および加圧処理して得られたサンプルの端1cmを除いて任意の方向で長さ150mm、幅15mmのサンプルを切り出し、上記の(4)加熱および加圧処理前の接着強度の測定と同様にしてT字型剥離試験を行い、表面層(A)とクッション層(C)との間の、接着強度を測定した。」

(7)段落[0187]-[0188]の[表1-1]、[表1-2]には、表面層(A)とクッション層(C)との間の接着強度であって、加熱及び加圧処理前の接着強度が4.1?6.8N/15mmであり、加熱及び加圧処理後の接着強度が2.1?3.5N/15mmであることが記載されている。

したがって、上記(1)ないし(7)の記載事項及び図面、表の事項を総合勘案すると、甲第2号証には、次の事項が記載されている。

・フレキシブルプリント基板を製造する際に、電気回路面を保護する保護層であるカバーレイフィルムを接着剤によって加熱および加圧して接着する際に使用される離型フィルム1において、当該離型フィルム1の表面層(A)とクッション層(C)との間の接着強度が、加熱及び加圧処理前は4.1?6.8N/15mmであり、加熱及び加圧処理後は2.1?3.5N/15mmであること。

3.甲第3号証(特開平8-001859号公報)
甲第3号証には、「金属箔離型シートおよび金属箔離型シートを使用した積層板の製造方法」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、金属箔離型シート並びに該金属箔離型シートを使用して積層板を製造する方法に関する。」

(2)「【0008】以下に、本発明に関するより詳細な説明を加える。図1に示されるように、本発明に係る金属箔離型シート10は、支持体11上に、熱剥離粘着剤12を介して金属箔13を積層して形成される。支持体11は、例えばアルミ箔やポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、メチルペンテンコポリマー(PTX)フィルム、フッ素樹脂フィルムなどを挙げることができる。尚、フッ素樹脂フィルムは、フッ化エチレン(1F)、3フッ化エチレン(3F)および4フッ化エチレン(4F)からなるフィルムを使用できる。尚、PETフィルムおよびOPPフィルムは、後述される積層板の製造方法において加圧加熱後の治具の取外しを容易にするために、金属箔13が設けられる側とは反対側の面11aが離型処理されていることが好ましい。」

(3)「【0010】熱剥離粘着剤12は、加熱によりその接着力が低下する特性を有し、母材となるベースポリマー中に発泡剤を配合して構成され、加熱により発泡剤が発泡することにより、接着力が低減または消失する特性を有する。前記ベースポリマーは高弾性ポリマーからなり、特に動的弾性率が常温から150℃において50万?1000万dyne/cm^(2) 、好ましくは50万?800万dyne/cm^(2) の範囲内にあるものが好ましい。前記の動的弾性率が50万dyne/cm^(2) 未満では常温での接着力が大きくて貼り直し性に劣り、加熱処理による接着力の低下性に乏しく、接着力が上昇する場合もある。一方、動的弾性率が1000万dyne/cm^(2) を超えると常温での接着力に乏しく、加熱処理時に発泡剤の膨脹ないし発泡が抑制されて接着力が満足に低下しない。」

(4)「【0018】次に、前記金属箔離型シート10を使用した積層板の製造方法に関して、多層配線基板の製造方法を例にして、図2を参照して説明する。先ず、予め銅等からなる第1回路パターン1が形成された絶縁性基板2の一面または両面(図の例では、両面)に、プリプレグ3を介して金属箔離型シート10を載置する。この時、金属箔離型シート10の金属箔13(例えば、銅箔)がプリプレグ3と対向するように載置される。ここで、金属箔13は支持体11により平面性が維持されているために、プリプレグ3上への移動や位置決めに際して、従来のように表面に皺が生じることがない。
【0019】次いで、金属箔離型シート10の支持体11上にステンレス板6を載置し、治具(熱板)7を装着して、図中矢印P方向に加圧した状態で加熱する。この時の加熱温度は、熱剥離粘着剤12の接着力が支持体11を剥離可能な程度にまで低下する温度、あるいは消失する温度に設定される。加圧加熱後、治具7およびステンレス板6を取り外すと、支持体13を最外層とする積層板が得られる。この積層板は、金属箔離型シート10の熱剥離粘着剤12の接着力が加圧加熱時に低下あるいは消失しているために、最外層の支持体13を容易に剥離することができる。そして、金属箔13を所望の回路パターンに加工することにより、絶縁性基板1上にプリプレグ3を絶縁層とし、第1回路パターン1および金属箔13からなる第2の回路パターンを備える多層配線基板が得られる。」

したがって、上記(1)ないし(4)の記載事項及び図面の事項を総合勘案すると、甲第3号証には、次の事項が記載されている。

・支持体11上に、熱剥離粘着剤12を介して金属箔13を積層して形成された金属箔離型シート10を使用した多層配線基板の製造方法において、絶縁性基板2の一面に、プリプレグ3を介して金属箔離型シート10を載置して、金属箔離型シート10の加圧加熱後に、熱剥離粘着剤12の接着力の低下により、第2の回路パターンの金属箔13から支持体11を容易に剥離させること。

4.甲第4号証(特開2007-294996号公報)
甲第4号証には、「シールドフィルム、シールドプリント配線板、シールドフレキシブルプリント配線板、シールドフィルムの製造方法及びシールドプリント配線板の製造方法」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【0001】
本発明は、コンピュータ、通信機器、プリンター、携帯電話機、ビデオカメラなどの装置内等において用いられるプリント配線板等をシールドするシールドフィルム及びその製造方法と、それを用いて製造されたシールドプリント配線板、シールドフレキシブルプリント配線板及びシールドプリント配線板の製造方法に関する。」

(2)「【0031】
以下、図面に基づいて、本発明のシールドFPCの実施の形態の一例について説明する。図1は、本実施の形態のシールドFPCの製造方法の説明図であり、図2は、このシールドFPCを製造する際に用いるシールドフィルムの横断面図である。図1(a)は、ベースフィルム2上に形成され、信号回路3aとグランド回路3bからなるプリント回路3のうちグランド回路3bの少なくとも一部(非絶縁部)3cを除いて絶縁フィルム4により被覆してなる基体フィルム5上に、シールドフィルム1を載置し、プレス機P(PA,PB)で加熱hしつつ、加圧pしている状態を示す。
【0032】
ここで、ベースフィルム2とプリント回路3との接合は、接着剤によって接着しても良いし、接着剤を用いない、所謂、無接着剤型銅張積層板と同様に接合しても良い。また、絶縁フィルム4は、可撓性絶縁フィルムを接着剤を用いて張り合わせても良いし、感光性絶縁樹脂の塗工、乾燥、露光、現像、熱処理などの一連の手法によって形成しても良い。また、更には、基体フィルム5は、ベースフィルムの一方の面にのみプリント回路を有する片面型FPC、ベースフィルムの両面にプリント回路を有する両面型FPC、この様なFPCが複数層積層された多層型FPC、多層部品搭載部とケーブル部を有するフレクスボード(登録商標)や、多層部を構成する部材を硬質なものとしたフレックスリジッド基板、或いは、テープキャリアパッケージの為のTABテープ等を適宜採用して実施することができる。
【0033】
シールドフィルム1は、ここでは図2(a)に示すものを用いている。図2(a)に示すように、シールドフィルム1は、セパレートフィルム6aと、セパレートフィルム6aの片面に形成された離型層6bと、シールドフィルム本体9とを備える。シールドフィルム本体9は、離型層6b上に耐摩耗性・耐ブロッキング性に優れた樹脂からなるハード層7aとクッション性に優れた樹脂からなるソフト層7bとを順次コーティングすることによって形成されたカバーフィルム7と、カバーフィルム7の離型層6bに接する面と反対の面に金属層8bを介して設けられた接着剤層8aとを有する。ここでは、導電性接着剤からなる接着剤層8aと金属層8bとでシールド層8が形成される。このシールド層8において、加熱hにより軟かくなった接着剤8a’は加圧pにより、絶縁除去部4aに矢印のように流れ込む(図1(a)参照)。また、セパレートフィルム6aに形成された離型層6bは、カバーフィルム7に対して剥離性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、シリコンがコーティングされたPETフィルム等を使用することができる。なお、セパレートフィルム6aの片面にハード層7aおよびソフト層7bを成層する方法としては、コーティングが好ましいが、コーティング以外の層形成方法としてラミネート、押し出し、ディピングなどを用いてもよい。」

(3)「【0039】
接着剤層8aは、接着性樹脂として、ポリスチレン系、酢酸ビニル系、ポリエステル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリアミド系、ゴム系、アクリル系などの熱可塑性樹脂や、フェノール系、エポキシ系、ウレタン系、メラミン系、アルキッド系などの熱硬化性樹脂で構成されている。また、これら接着性樹脂に金属、カーボン等の導電性フィラーを混合し、導電性を持たせた導電性接着剤を使用することもできる。また、導電性フィラーの量を少なくする等して異方性導電層を形成することもできる。耐熱性が特に要求されない場合は、保管条件等に制約を受けないポリエステル系の熱可塑性樹脂が望ましく、耐熱性もしくはより優れた可撓性が要求される場合においては、シールド層8を形成した後の信頼性の高いエポキシ系の熱硬化性樹脂が望ましい。また、そのいずれにおいても加熱・加圧時のにじみ出し(レジンフロー)の小さいものが望ましいことはいうまでもない。」

したがって、上記(1)ないし(3)の記載事項及び図面の事項を総合勘案すると、甲第4号証には、次の事項が記載されている。

・基体フィルム5上に載置して、加熱・加圧するシールドフィルムであって、基体フィルム5が、テープキャリアパッケージの為のTABテープで構成され、シールドフィルムのシールド層8が、異方導電性接着剤からなる接着剤層8aと金属層8bとからなること。

第5 当審の判断

1.申立理由1(新規性)
(1)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「剥離性フィルム1」は、本件発明1の「セパレートフィルム」に相当する。また、「剥離性フィルム1」は、剥離剤を塗布する面が「物理的にマット化されている」ことからみて、「一方の面全体に凹凸が形成され」たものといえる。
(イ)引用発明の「剥離剤」は、本件発明1の「離型剤」に相当する。また、「剥離剤」は、剥離性フィルム1の「フィルム上」に「塗布」されていることからみて、セパレートフィルムの「凹凸部が形成された面側に、離型剤」が配置されているといえる。
(ウ)引用発明の「フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)」は、本件発明1の「保護層」に相当する。また、「フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)」は、剥離剤を塗布した剥離性フィルム1に「硬化性樹脂組成物を塗工・乾燥」して「形成」されていることから、「離型剤を介して樹脂をコーティング」して「形成」されているといえる。
(エ)引用発明の「硬化性導電性ポリウレタンポリウレア接着剤層(I)」は、電磁波シールド効果があるから、本件発明1の「電磁波シールド層」に相当する。
(オ)引用発明の「電磁波シールド性接着性フィルム」は、本件発明1の「シールドフィルム」に相当する。
(カ)引用発明の「剥離性フィルム1」は、表面粗さRaが0.05?0.8であるところ、当該「Ra」はJIS規格の「算術平均粗さ」を表すものであるから、引用発明の表面粗さの単位は「μm」であり、表面粗さRaが0.05?0.8μmである。
また、引用発明の「フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)の表面粗さ」は、「剥離性フィルム1の表面粗さ」に対応するものであるから、剥離性フィルム1を剥離したときのフィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)の表面粗さRaは、剥離性フィルム1の表面粗さに対応した、0.05μm?0.8μmである。そして、その表面粗さRaは、本件発明1の「0.2μm?1.0μm」の範囲に含まれる。
(キ)引用発明の「プリント配線板」は、本件発明1の「プリント配線板」に相当する。
(ク)本件発明1は、セパレートフィルムの保護層に対する剥離強度を特定しているのに対し、引用発明は、剥離性フィルム1のフィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)に対する剥離強度が特定されていない点で相違する。
具体的には、本件発明1は、「前記シールドフィルムをプリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する熱圧着条件を、圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分とし、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?20N/50mmであり、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?10N/50mmであり、
前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度よりも大きい」のに対し、引用発明は、その旨特定されていない点で相違する。

以上のことから、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「一方面全体に凹凸部が形成されたセパレートフィルムの当該凹凸部が形成された面側に、離型剤を介して樹脂をコーティングすることにより保護層を形成し、さらに電磁波シールド層を形成したシールドフィルムであって、
前記セパレートフィルムを前記保護層から剥離したときの前記保護層の表面粗さ(Ra)が、0.2μm?1.0μmである、
ことを特徴とするシールドフィルム。」

<相違点>
本件発明1は、セパレートフィルムの保護層に対する剥離強度を特定しているのに対し、引用発明は、剥離性フィルム1のフィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)に対する剥離強度が特定されていない点。
具体的には、本件発明1は、「前記シールドフィルムをプリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する熱圧着条件を、圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分とし、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?20N/50mmであり、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?10N/50mmであり、
前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度よりも大きい」のに対し、引用発明は、その旨特定されていない点。

したがって、上記のように相違点が存在するから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

なお、特許異議申立人は、「本件出願人は本件特許成立の過程において、保護層とセパレートフィルムとの間に離型剤を介在させる構成において、セパレートフィルムを保護層から剥離したときの保護層の表面粗さを0.2μm?1.0μmにすることにより、シールドフィルムの加熱・加圧の前と後の双方において、本件特許発明1の剥離強度にすることができると述べたのであ」り、「そうであれば、甲1」発明は、「本件特許発明1の構成要件A及びBを備えており、本件特許発明1の剥離強度を達成するための十分条件を満たしているのであ」るから、甲1発明が、相違点である「本件特許発明1の構成要件C?Fを満たしている蓋然性が極めて高い」と主張している。
具体的には、特許権者は、本件特許成立の過程(平成27年3月9日提出の意見書、平成27年12月24日提出の審判請求書)において、本願発明は、「保護層とセパレートフィルムとの間に離型剤を介在させ」、「セパレートフィルムを保護層から剥離したときの保護層の表面粗さを0.2μm?1.0μmとしたことを特徴」とし、この「構成」により、「シールドフィルムの加熱・加圧」前には、「シールドフィルムを配線板に取り付ける際」に、「セパレートフィルムが保護層から剥がれ」ない程度の剥離強度とし、「シールドフィルムの加熱・加圧」後には、「保護層を破ることなくセパレートフィルムをスムーズに剥がすことができる」程度の「剥離強度」とすることができると述べている。
ここで、構成要件A?Fは、
A:「一方面全体に凹凸部が形成されたセパレートフィルムの当該凹凸部が形成された面側に、離型剤を介して樹脂をコーティングすることにより保護層を形成し、さらに電磁波シールド層を形成したシールドフィルムであって、」、
B:「前記セパレートフィルムを前記保護層から剥離したときの前記保護層の表面粗さ(Ra)が、0.2μm?1.0μmであり、」、
C:「前記シールドフィルムをプリント配線板上載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する熱圧着条件を、圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分とし、」、
D:「前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?20N/50mmであり、」、
E:「前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?10N/50mmであり、
F:「 前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度よりも大きい、ことを特徴とする」、
G:「シールドフィルム。」
としている。
しかしながら、保護層とセパレートフィルムとの間の剥離強度が離型剤の種類等にもよることは技術常識であることから、構成要件A及びBを備えているからといって、構成要件C?Fを満たしている蓋然性が高いとまではいえない。また、構成要件A及びBを備えていれば、必ず構成要件C?Fを満たしていることを証明する技術的かつ客観的な証拠も示されていない。
したがって、意見書及び審判請求書の記載のみに基づく、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ.本件発明7について
上記ア.で述べたとおり、引用発明には、本件発明7の発明特定事項である
「前記シールドフィルムをプリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する熱圧着条件を、圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分とし、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?20N/50mmであり、
前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?10N/50mmであり、
前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度よりも大きい」
ことについては記載されていないから、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

また、特許異議申立書の主張についても、上記ア.のとおり採用することはできない。

ウ.本件発明2,4ないし6,8について
本件発明2,4ないし6は本件発明1の発明特定事項を全て含み、また、本件発明8は本件発明7の発明特定事項を全て含むものであるから、上記ア.及びイ.で述べたのと同様の理由で、本件発明2,4ないし6,8は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1,2,4ないし8に係る特許は、特許法第29条第1項3号の規定に違反してされたものであるということはできない。

2.申立理由2(進歩性)
(1)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明との相違点は、上記「1.」「(1)」の「ア.」で説示したとおりである。

そこで、上記相違点を検討する。
甲第2号証には、フレキシブルプリント基板を製造する際に、電気回路面を保護する保護層であるカバーレイフィルムを接着剤によって加熱および加圧して接着する際に使用される離型フィルム1において、当該離型フィルム1の表面層(A)とクッション層(C)との間の接着強度が、加熱及び加圧処理前は4.1?6.8N/15mmであり、加熱及び加圧処理後は2.1?3.5N/15mmであることが記載されている。ここで、甲第2号証の接着強度とは、剥離強度のことでもある。
しかしながら、甲第2号証の「離型フィルム1」は、引用発明の「剥離性フィルム1」に相当し、甲第2号証の「保護層であるカバーレイフィルム」は、引用発明の「フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)」に相当するものであるが、甲第2号証には、「離型フィルム1」の「保護層であるカバーレイフィルム」に対する「剥離強度」(つまり、上記相違点)については何ら記載されていない。
さらに、甲第2号証の離型フィルム1の「表面層(A)」と「クッション層(C)」は、引用発明の「剥離性フィルム1」と「フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)」とは異なるものであるから、引用発明の「剥離性フィルム1」の「フィルム状硬化性絶縁性ポリウレタンポリウレア樹脂組成物(II)」に対する剥離強度として、甲第2号証の上記両層の「接着強度」を適用することはできない。

一方、甲第3号証には、支持体11、剥離粘着剤12、金属箔13からなる金属箔離型シート10を使用した多層配線基板の製造方法において、絶縁性基板2の一面に、プリプレグ3を介して金属箔離型シート10を載置して、金属箔離型シート10の加圧加熱後に、熱剥離粘着剤12の接着力の低下により、第2の回路の金属箔13から支持体11を容易に剥離させることが記載されている。
しかしながら、甲第3号証については、回路パターンになる金属箔13から支持体11を剥離することが記載されているのみで、シールドプリント配線板の保護層からセパレートフィルムを剥離することについては何ら記載されていない。
してみれば、引用発明と甲第3号証の技術事項とは技術分野及び用途が全く異なるものであるから、引用発明に甲第3号証の技術事項を適用する動機付けが存在しない。

したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ.本件発明7について
本件発明7と引用発明との相違点は、上記「1.」「(1)」の「イ.」で説示したとおりである。
また、上記相違点については、上記ア.で述べたとおり、甲第2号証に記載されておらず、また、引用発明に甲第2号証の技術事項を適用することもできない。さらに、引用発明に甲第3号証の技術事項を適用する動機付けも存在しない。
してみれば、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ.本件発明10について
引用発明には、本件発明10の発明特定事項である
「前記積層工程後に、圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分である熱圧着条件下で、前記シールドフィルム及び前記基体を積層方向に加熱しながら加圧する加熱・加圧工程」、
「前記加熱・加圧工程前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?20N/50mmであり、
前記熱圧着条件下における前記加熱・加圧工程後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?10N/50mmであり、」
「前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度よりも大きい」ことについては記載されていない。
そして、上記相違点については、上記ア.で述べたとおり、甲第2号証に記載されておらず、また、引用発明に甲第2号証の技術事項を適用することもできない。さらに、引用発明に甲第3号証の技術事項を適用する動機付けも存在しない。
してみれば、本件発明10は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ.本件発明2,4ないし6,8について
本件発明2,4ないし6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記ア.で述べたのと同様の理由で、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本件発明8は、本件発明7の発明特定事項を全て含むものであるから、上記イ.で述べたのと同様の理由で、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

オ.本件発明3,9について、
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記「1.」「(1)」の「ア.」で説示した相違点を有する。
ここで、甲第4号証には、基体フィルム5上に載置して、加熱・加圧するシールドフィルムであって、基体フィルム5が、テープキャリアパッケージの為のTABテープで構成され、シールドフィルムのシールド層8が、異方導電性接着剤からなる接着剤層8aと金属層8bとからなることが記載されているが、甲第4号証には、上記「1.」「(1)」の「ア.」で説示した相違点について記載されていない。
してみれば、本件発明3は、上記ア.で述べたのと同様の理由で、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本件発明9は、本件発明7の発明特定事項を全て含むものであるから、上記「1.」「(1)」の「イ.」で説示した相違点を有する。
ここで、甲第4号証の技術事項は、上記のとおりであるから、甲第4号証には、上記「1.」「(1)」の「イ.」で検討した相違点について記載されていない。
してみれば、本件発明9は、上記イ.で述べたのと同様の理由で、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

3.申立理由3(実施可能要件)
(1)本件発明1ないし10について
ア.特許異議申立人は、「本件明細書には、『離型層6bは、保護層7に対して剥離性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、シリコンや非シリコン系のメラミン離型剤やアクリル離型剤がコーティングされたPETフィルム等を使用することができる。』(段落0036)と記載され、実施例においてすら、単に『メラミン離型剤』を用いたことが記載されるのみであって(段落0054)、その商品名等は不明であり、いかなる構造のメラミン離型剤であるのかについて記載も示唆」もないから、「本件特許発明のシールドフィルムを製造し、シールドプリント配線板を製造するためには、当業者において、如何なる離型剤を選択し、さらにはいかなるメラミン離型剤を選択するのかに関し、通常期待しうる程度を越える過度の試行錯誤が強いられることは明らかであ」り、したがって、本件発明の詳細な説明には、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張している。
しかしながら、離型剤の種類については、段落【0036】に「離型層6bは、保護層7に対して剥離性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、シリコンや非シリコン系のメラミン離型剤やアクリル離型剤がコーティングされたPETフィルム等を使用することができる」と記載されていることから、所定の剥離強度を得るために、当業者が具体的にどのような離型剤を選択するかについて過度の試行錯誤が強いられるとまではいえない。

イ.特許異議申立人は、「離型剤の付着量についても、その量の多少により剥離強度が異なることは当業者の技術常識であり」、「本件特許明細書において、離型剤の量は何ら特定されておらず、実施例では、離型剤の付着量は1.2g/m^(2)のもののみである(段落0054)」から、「実施例に記載された付着量以外の量の離型剤を使用する場合」に、「特定の剥離強度を達成するために、当業者には過度の試行錯誤が必要となると言わざるを得」ず、したがって、本件発明の詳細な説明には、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張している。
しかしながら、具体的な離型剤の種類とその付着量について、段落【0054】に「離型層6bの種類は、比較例1、実施例1?8、及び、実施例13?15においては、メラミン離型剤(Aタイプ)を使用し、比較例2、実施例9?12、及び、実施例16?18においては、アクリル離型剤(Bタイプ)を使用し、付着量としてそれぞれ1.2g/m^(2)に統一している。」と記載されていることから、所定の剥離強度とするために、離型剤としてどのような種類を選択して、付着量をどの程度の量にするかについて当業者が過度の試行錯誤が強いられるとまではいえない。

ウ.特許異議申立人は、「本件特許発明において、保護層を構成する樹脂について『熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、電子線硬化樹脂等』(段落0031)と記載されるのみで実質的に何も特定されておらず」、「いかなる保護層を選択すれば本件特許発明の剥離強度を達成できるのか、過度の試行錯誤が必要とな」り、したがって、本件発明の詳細な説明には、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨を主張している。
しかしながら、保護層7を構成する樹脂は、明細書の段落【0031】に「熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、電子線硬化樹脂等を使用することができる。」と記載されていることから、所定の剥離強度とするために、当業者が具体的にどのような樹脂を選択するかについて過度の試行錯誤が強いられるとまではいえない。

エ.特許異議申立人は、「表面粗さの測定方法に関し、本件明細書には、『比較例1、2及び、実施例1?18における表面粗さ(Ra(μm))の測定方法としては、接針式表面粗さ測定計で測定する。これは、探針で、物体の表面をなぞり、物体の表面の凹凸にあわせて、針が上下動する。そして、その針の動きを測定することで、物体の表面の粗さを測る方法である。』(段落0054)と記載されているが、その具体的な測定条件、測定機器名等が記載されて」おらず、また、「測定結果の解析に必要な基準長さとカットオフ値等も記載されて」いない。したがって、本件発明の詳細な説明には、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張している。
しかしながら、表面粗さの測定については、明細書の段落【0054】に「探針で、物体の表面をなぞり、物体の表面の凹凸にあわせて、針が上下動」し「その針の動きを測定することで、物体の表面の粗さを測る」と記載されていることから、その具体的な測定については、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。また、その測定における測定条件、測定機器名等による測定精度については、それらの条件・精度が測定によって異なるものであったとしても、当業者が、段落【0054】の測定方法によって、表面粗さを測定することができないとまではいえない。
また、表面粗さRaを測定するための基準長さ、カットオフ値などの解析パラメータについても、それらの解析パラメータが不明であったとしても、当業者が、段落【0054】の測定方法によって、表面粗さを測定することができないとまではいえない。

オ.上記ア.ないしエ.のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていないものであるということはできない。

4.申立理由4(サポート要件)
(1)本件発明1ないし10について
特許異議申立人は、「離型剤の介在と保護層の表面粗さの構成が、本件特許発明1の剥離強度を達成するための必要条件であるが、十分条件ではないとするならば、本件特許発明1は本件明細書にサポートされていない発明である」と主張している。

発明の詳細な説明には、「セパレートフィルムの保護層に対する接着力を適度にコントロール」(段落【0006】)するという課題があり、また、発明の詳細な説明から、加圧する前に、剥離強度の値が「小さい値であると、薬液に浸漬した場合にセパレートフィルムが保護層から剥がれてしまい」、「大きい値であると、セパレートフィルムの保護層に対する接着力が強すぎて、セパレートフィルムを剥がす際に保護層まで剥がしてしまい保護層が破れてしま」い、また、加圧する後に剥離強度の値が「小さい値である」と、「セパレートフィルムが保護層から自然に剥がれてしま」い、「大きい値であると、人又は製造装置が保護層からセパレートフィルムを剥がす際の作業性が悪くなってしまう」(段落【0057】)という課題が把握できる。そして、それらの課題を解決するために、発明の詳細な説明には、「前記セパレートフィルムを前記保護層から剥離したときの前記保護層の表面粗さ(Ra)」を、「0.2μm?1.0μm」にすることや、剥離強度について、「圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分」の熱圧着条件で、「プレス前の剥離強度の値を1?20N/50mmにし」、「プレス後の剥離強度の値を1?10N/50mmとした」ことが記載されている。
他方、請求項1には、「前記セパレートフィルムを前記保護層から剥離したときの前記保護層の表面粗さ(Ra)が、0.2μm?1.0μmであり、」「前記シールドフィルムをプリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する熱圧着条件を、圧力が2?5MPa、温度が140?180℃、時間は3?60分とし、前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?20N/50mmであり、前記シールドフィルムを前記プリント配線板上に載置して、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、1N/50mm?10N/50mmであり、 前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧する前の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度は、前記熱圧着条件下で、前記シールドフィルムを加熱しながら前記プリント配線板側に加圧した後の前記セパレートフィルムの前記保護層に対する剥離強度よりも大きい」と記載されており、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されている。
また、本件発明7,10についても、本件発明1と同様に「セパレートフィルムの保護層に対する接着力を適度にコントロール」(段落【0006】)するという課題、及び、加圧する前に、剥離強度の値が「小さい値であると、薬液に浸漬した場合にセパレートフィルムが保護層から剥がれてしまい」、「大きい値であると、セパレートフィルムの保護層に対する接着力が強すぎて、セパレートフィルムを剥がす際に保護層まで剥がしてしまい保護層が破れてしま」い、また、加圧する後に剥離強度の値が「小さい値である」と、「セパレートフィルムが保護層から自然に剥がれてしま」い、「大きい値であると、人又は製造装置が保護層からセパレートフィルムを剥がす際の作業性が悪くなってしまう」(段落【0057】)という課題を解決するための手段が反映されている。
してみれば、本件発明1ないし10は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるということができない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていないものであるということはできない。

第5 むすび
したがって、請求項1ないし10に係る特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によって、取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-09 
出願番号 特願2014-91008(P2014-91008)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H05K)
P 1 651・ 537- Y (H05K)
P 1 651・ 113- Y (H05K)
P 1 651・ 121- Y (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 鈴木 圭一郎
山澤 宏
登録日 2018-02-09 
登録番号 特許第6286273号(P6286273)
権利者 タツタ電線株式会社
発明の名称 シールドフィルム、シールドプリント配線板及びシールドプリント配線板の製造方法  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  

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