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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1346799
異議申立番号 異議2018-700759  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-19 
確定日 2018-12-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6298147号発明「成膜装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6298147号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯

特許第6298147号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)2月19日を国際出願日とする出願であって、平成30年3月2日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月20日に特許掲載公報が発行された。その後、平成30年9月19日に特許異議申立人中川賢治(以下、「申立人」という。)により、請求項1?3に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。

2 本件発明

特許第6298147号の請求項1?3の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
基板を成膜処理する処理室の内部に、前記基板の処理領域を囲うように配してあり、前記処理室の内壁への成膜物質の付着を防止する防着板を備え、該防着板は、複数の分板を夫々の端部を隙間を隔てて重ねて並べ、成膜処理に伴って生じる熱膨張を重合部の幅方向への相対移動により吸収するように構成してある成膜装置において、
前記分板の重合部には、前記処理領域との連通側の隙間を他側よりも大きくする凹部が設けられており、
前記重合部は、各分板に設けた薄肉部同士を重ね、各分板の非重合部と面一に並ぶ両面を有して構成されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記凹部は、前記重合部の長さ方向に連続する凹溝である請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記凹部は、前記内壁の側に重なる前記薄肉部に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成膜装置。」

3 申立理由の概要

申立人は、証拠として、下記甲第1号証?甲第3号証を提出し、以下の申立理由ア及び申立理由イにより請求項1?3に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証:国際公開第2010/013476号
甲第2号証:特開2002-69610号公報
甲第3号証:特開2013-19026号公報

申立理由ア
本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由イ
本件発明1?3は、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4 甲各号証の記載事項

(1)甲第1号証について
甲第1号証には以下のとおり記載されている。(なお、下線は当審が付与したものである。以下同様。)

ア「[0012] 図1に示すスパッタリング装置は、放電用ガスやプロセスガス等のガス導入系に接続された供給孔101と、荒引きポンプ及び主ポンプなどの排気系に接続された排気孔102とが形成された真空室(チャンバ)103を備えている。真空室103には、真空室103の内部に処理すべき基板を搬入し、処理された基板を真空室103から搬出するための開口である搬送口114が設けられている。本実施形態では、クラスタ型の装置において、基板搬送用のロボットが設けられた基板搬送室に接続し、搬送口114を介して基板搬送室のロボットとの間で基板の受け渡しを行うプラズマ処理装置の例を示している。なお、真空室103は略円筒形状に形成されている。
[0013] また、真空室103内には、成膜処理が施される基板を載置することが可能なステージ104と、基板に対向して配置されたターゲット電極105と、が備えられている。ターゲット電極105には、直流電圧を印加する直流電源113と、高周波電力(交流電力)を印加する交流電源112とが接続されている。これらから供給される電力によって、真空室103内に導入された放電用ガスからプラズマが生成される。また、真空室103内には、ターゲット電極105とステージ104との間に形成されるプラズマ空間を取り囲むようにして、シールド部材が設けられている。シールド部材は、防着シールド200(内側部に相当)、及び、その防着シールド200の外側を取り囲むようにして外側部材300(外側部に相当)を備える。
[0014] 本実施形態における防着シールド200は、全体として断面形状が略円筒状であり、高さ方向に3つに分割されている。上部防着シールド部201と、中間部防着シールド部202と、下部防着シールド部203とによって防着シールド200は構成されている。上部防着シールド部201と、中間部防着シールド部202と、下部防着シールド部203とは(以下、単に「防着シールド部201?203」ともいう。)は、一体となって真空室103内のプラズマ空間を取り囲むように構成されている。防着シールド部201?203は、例えば、ステンレス鋼やアルミニウムなどの導電性部材で構成されている。真空室103内のプラズマ空間側に露出する防着シールド部201?203のそれぞれのシールド面には、その面に一度付着したスパッタリング薄膜の剥離を防止すべく、Al溶射やブラスト法によって微細な凹凸が形成されている。」

イ「[図1]



ウ「[0015] 図2は、図1に示した防着シールド部201?203及び外側部材300を拡大して示す図である。
[0016] 防着シールド部201?203のそれぞれのシールド面のうち、微細な凹凸が形成されている範囲は、図2中の太線で示されている範囲である。また、後述する開閉動作により各防着シールド部201?203が互いに衝突しないよう、各防着シールド部201?203は互いに非接触となるように若干の隙間S1,S2を空けて配置されている。この隙間S1,S2は、1.5?3mm程度とすることが好ましく、これにより、隙間S1,S2を介した電流の伝達の影響を低減できると共に、スパッタ粒子の外側部材300への被着を有効に防止できる。
[0017] なお、本実施形態では、スパッタされた粒子が隙間S1,S2を通って容易に外側に出ないように、これらの隙間S1,S2はラビリンス状に形成されている。これにより、隙間S1,S2の一方の端部から他方の端部までの経路をより長くすることができるため、粒子がそれらの隙間S1,S2を通って外側に到達する可能性を低減することができる。」

エ「[図2]



オ「[0021] また、垂直接続部302aの上部には、垂直接続部302aの上端面よりも鉛直方向下方に位置する段部302bが形成されている。中間部防着シールド部202は、この段部302bに当接するようにして、ボルト(不図示)によって中間部外側部材302に着脱自在に取り付けられている。この中間部防着シールド部202は、駆動軸401による中間部外側部材302の移動に伴って移動する。中間部防着シールド部202が鉛直方向上方に移動させられた状態(閉状態)では、中間部防着シールド部202は他の防着シールド部である上部防着シールド部201と、下部防着シールド部203との間に上述した非接触の隙間S1,S2を形成する。なお、垂直接続部302aの内周面と中間部外側部材302の外周面とは必ずしも接触している必要はなく、むしろ処理工程時に加えられる熱による熱膨張等を考慮して、両者の間には僅かな隙間が形成されていることが好ましい。」

そして、上記エ及びオの記載から、隙間S1及びS2を形成する重合部に着目すると、中間部防着シールド部202及び下部防着シールド部203のそれぞれの端部には、両防着シールド部の間にラビリンス状の非接触の隙間S1が形成されるように、隙間を隔てて互いに重なり合うことができる形状の薄肉部が設けられており、同様に、上部防着シールド部201及び中間部防着シールド部202のそれぞれの端部にも、両防着シールド部の間にラビリンス状の非接触の隙間S2が形成されるように、隙間を隔てて互いに重なり合うことができる形状の薄肉部が設けられていると認められる。また、各防着シールド部に設けられた薄肉部同士が重なり合う重合部は、該重合部に隣接する非重合部と面一に並ぶ両面を有していると認められる。

そうすると、上記ア?オの記載から、甲第1号証にはスパッタリング装置として次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「基板に成膜処理を施す真空室内に、ターゲット電極とステージとの間に形成されるプラズマ空間を取り囲むように設けられた、外側部材へのスパッタ粒子の被着を防止する防着シールドを備えるスパッタリング装置であって、
該防着シールドは、上部防着シールド部と、中間部防着シールド部と、下部防着シールド部とから構成され、各防着シールド部の端部には、隙間を隔てて互いに重なり合うことができる形状の薄肉部が設けられ、該薄肉部同士が重なり合う重合部は、該重合部に隣接する非重合部と面一に並ぶ両面を有している、スパッタリング装置。」

(2)甲第2号証について
甲第2号証には以下のとおり記載されている。

ア「【0021】まず、本発明の第1のスパッタリングターゲットの実施形態について、図1および図2を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施形態によるスパッタリングターゲットの概略構造を示す断面図、図2はその要部を拡大して示す断面図である。これらの図において、11は各種の金属材料や化合物材料などの成膜材料からなる、例えば円板状のターゲット本体である。このターゲット本体11は、バッキングプレート12により支持されている。」

イ「【0024】ターゲット本体11の外周部の上面側には、段状部13が設けられている。この段状部13は、ターゲット本体11の上面(スパッタ面)11aより一段下がった位置に設けられている段面13aと、この段面13aとスパッタ面11aとを繋いで段差を形成している段差面13bとにより構成されている。そして、この段状部13の段面13aがターゲット押え治具14で保持されている。」

ウ「【0028】この実施形態のスパッタリングターゲット16においては、ターゲット本体11がターゲット押え治具14と接触する部分である段状部13の段面13aに、凹状のダスト抑制部17が設けられている。具体的には、段状部13の段面13aの内周側に、円周方向に連続した凹状の溝がダスト抑制部17として形成されている。なお、ダスト抑制部17としての凹部は、必ずしも円周方向に連続した溝でなければならないものではなく、円周方向に断続的に形成された凹部であってもよい。」

エ「【0030】上述したように、ターゲット本体11のターゲット押え治具14との接触部分である段状部13の段面13aに、凹部(ダスト抑制部)17を設けることによって、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との接触面積が低減される。これによって、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との熱膨張差に起因する擦れの程度が緩和されるため、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との間隙15に付着、堆積した再付着物が、上記した擦れにより生じる振動や衝撃に起因して剥離、脱落することを抑制することができる。
【0031】また、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との間隙15に堆積した再付着物に剥離が生じたとしても、段面13aの凹部(ダスト抑制部)17、すなわちターゲット押え治具14で上面の大半が塞がれた凹部17が、ダストの原因となる剥離した粒子の収容部としても機能し、粒子の脱落が抑制される。これらによって、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との間隙15に堆積した再付着物の剥離、脱落に起因するダストの発生を大幅に抑制することが可能となる。」

オ「



カ「



キ「【0033】次に、本発明の第2のスパッタリングターゲットの実施形態について、図3を参照して説明する。図3は本発明の第2の実施形態によるスパッタリングターゲットの要部構造を示す断面図である。なお、この実施形態のスパッタリングターゲットの全体構造は図1とおおよそ同様である。
【0034】図3に示すスパッタリングターゲット18において、ターゲット本体11の外周部には、第1の実施形態と同様に、スパッタ面11aより一段下がった位置に形成された段面13aと、この段面13aとスパッタ面11aとを繋いで段差を形成している段差面13bとにより構成された段状部13が設けられている。
【0035】第2の実施形態のスパッタリングターゲット18においては、段状部13の段差面13bに凹状のダスト抑制部19が設けられている。具体的には、ターゲット本体11の外周面(側面)と平行な段差面13bに、ターゲット本体11の直径方向に見て凹状としたダスト抑制部19が設けられている。このダスト抑制部19としての凹部は、段差面13bの段面13a側の位置に、円周方向に連続した溝として形成されている。
【0036】言い換えると、スパッタ面11a側の一部を残して、段差面13bを円周方向にわたってターゲット本体11の直径方向に削ることによって、ダスト抑制部19としての凹部が形成されている。なお、ダスト抑制部19としての凹部は、必ずしも円周方向に連続した溝でなければならないものではなく、円周方向に断続的に形成された凹部であってもよい。」

ク「【0038】上述したように、ターゲット本体11とターゲット押え治具14とのクリアランスとなる間隙15を形成する段状部13の段差面13bに、凹部(ダスト抑制部)19を設けることによって、スパッタ後期(ターゲットライフ近く)におけるターゲット本体11とターゲット押え治具14との擦れを抑制することができる。また、凹部(ダスト抑制部)19は再付着物の収容部としても機能することから、再付着物の剥離、脱落することを抑制することができる。これらによって、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との間隙15に堆積した再付着物の剥離、脱落に起因するダストの発生を大幅に抑制することが可能となる。」

ケ「



コ「【0040】次に、本発明の第3のスパッタリングターゲットの実施形態について、図4を参照して説明する。図4は本発明の第3の実施形態によるスパッタリングターゲットの要部構造を示す断面図である。なお、この実施形態のスパッタリングターゲットの全体構造は図1とおおよそ同様である。
【0041】図4に示すスパッタリングターゲット20において、ターゲット本体11の外周部には、第1および第2の実施形態と同様に、スパッタ面11aより一段下がった位置に形成された段面13aと、この段面13aとスパッタ面11aとを繋いで段差を形成している段差面13bとにより構成された段状部13が設けられている。
【0042】第3の実施形態のスパッタリングターゲット20においては、段状部13の段面13aに凹状の第1のダスト抑制部17が設けられていると共に、段状部13の段差面13bに凹状の第2のダスト抑制部19が設けられている。これら第1および第2のダスト抑制部(凹部)17、19の具体的な形状などは、前述した第1および第2の実施形態とそれぞれ同様とされている。
【0043】このように、ターゲット本体11のターゲット押え治具14との接触部分である段状部13の段面13aに、第1の凹部(ダスト抑制部)17を設けると共に、ターゲット本体11とターゲット押え治具14とのクリアランスとなる間隙15を形成する段状部13の段差面13bに、第2の凹部(ダスト抑制部)19を設けることによって、段面13aおよび段差面13bに起因する再付着物の剥離、脱落を抑制することができる。従って、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との間隙15に堆積した再付着物の剥離、脱落に起因するダストの発生をさらに有効に抑制することが可能となる。」

サ「



(3)甲第3号証について
甲第3号証には以下のとおり記載されている。

ア「【0007】
選択成膜用マスク102は、膜103のパターンに対応した開口パターンと、成膜の際に選択成膜用マスク102にかかる応力を緩和するためのスリット状等の貫通孔からなる応力緩和用開口部130とを備えている。」

イ「【0021】
図1A及び図2A?図2Cに示すように、本実施形態の選択成膜用マスク2は、成膜基板1上に取り付けられ、成膜基板1上に所定のパターンで膜3を成膜するためのものである。
選択成膜用マスク2は、膜3のパターンに対応した開口パターンと、少なくとも一方の面において開口し、成膜の際に選択成膜用マスク2にかかる応力を緩和するための応力緩和用開口部30とを備えている。
【0022】
本実施形態において、成膜基板1はウエハ、若しくは、ウエハ上に電極あるいは配線等の導電膜、半導体膜、あるいは絶縁膜等の単層又は複層の膜が形成されたものである。
膜3は、金属電極等の導電膜でもよいし、半導体膜、あるいは絶縁膜でもよく、材質は任意である。」

ウ「【0024】
本実施形態において、応力緩和用開口部30は、成膜基板1上に選択成膜用マスク2を取り付けたときに、応力緩和用開口部30を通して成膜基板1の表面が直接視認されない断面構造を有している。
【0025】
図1Bに拡大して示すように、本実施形態において、応力緩和用開口部30は、マスク2の一方の面(図示上面)2Aと他方の面(図示下面)2Bの双方において開口し、一方の面2Aにおける開口箇所30Aと他方の面2Bにおける開口箇所30Bとは平面位置が重なっていない。
本実施形態において、応力緩和用開口部30は、階段状の断面構造を有している。
本実施形態において、応力緩和用開口部30は、一方の面2Aの開口箇所30Aから厚み方向に延びた第1の孔部31と、他方の面2Bの開口箇所30Bから厚み方向に延びた第2の孔部32と、第1の孔部31と第2の孔部32とを連結する連結孔33とから構成されている。
【0026】
上記階段状の断面構造を有する選択成膜用マスク2の製造方法としては、例えば、第1の孔部31を形成した第1のマスクと、第2の孔部32を形成した第2のマスクとを積層し、拡散接合する方法などが挙げられる。」

エ「



オ「【0027】
次に、図2A?図2Cを参照して、本実施形態の選択成膜用マスク2を用いた成膜方法について説明する。
はじめに、図2Aに示すように、成膜基板1上にマスク2を取り付ける。図2Bに示すように成膜を行い、マスク2を取り除くことで、図2Cに示す所定パターンの膜3が得られる。」

カ「【0029】
本実施形態では、成膜基板1上に選択成膜用マスク2を取り付けたときに、応力緩和用開口部30を通して成膜基板1の表面が直接視認されない断面構造を有しているので、成膜基板1上の応力緩和用開口部30の開口領域30Aに不要な膜3が形成されない。
図2B内の拡大図に示すように、応力緩和用開口部30は上記階段状の断面構造を有しているので、応力緩和用開口部30の開口領域30Aに達した成膜材料は、応力緩和用開口部30内の第1の孔部31の底部に堆積するだけで、成膜基板1には到達しない。
したがって、本実施形態の選択成膜用マスク2では、成膜したい膜3のパターンに対応した開口パターンの非開口領域であれば、応力緩和用開口部30を設ける位置に制限がない。」

キ「



そして、上記ウ、エ及びキの記載から、甲第3号証の選択成膜用マスクにおける応力緩和用開口部は、一方の面2Aの開口箇所30Aから厚み方向に延びた第1の孔部31と、他方の面2Bの開口箇所30Bから厚み方向に延びた第2の孔部32と、第1の孔部31と第2の孔部32とを連結する連結孔33とから構成される階段状の断面構造を有しているところ、当該階段状の断面構造は、重合部において隙間を隔てて重ね合わされた薄肉部からなるものとみなすことができ、また、当該重合部は、非重合部と面一に並ぶ両面を有しているといえる。

そうすると、上記ア?キの記載から、甲第3号証には、選択成膜用マスクとして次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「成膜基板上に取り付けられる選択成膜用マスクであって、開口パターンと、少なくとも一方の面において開口し、成膜の際に選択成膜用マスクにかかる応力を緩和するための応力緩和用開口部を有し、該応力緩和用開口部は、重合部において隙間を隔てて重ね合わされた薄肉部からなる階段状の断面構造を有し、該重合部は、非重合部と面一に並ぶ両面を有している、選択成膜用マスク。」

5 当審の判断

(1)申立理由アについて
ア 請求項1について
本件発明1と甲1発明を対比する。甲1発明の「真空室」、「プラズマ空間」、「外側部材」、「スパッタ粒子」及び「防着シールド」は、それぞれ、本件発明1の「処理室」、「処理領域」、「処理室の内壁」、「成膜物質」及び「防着板」に相当する。また、甲1発明の「上部防着シールド」、「中間部防着シールド」及び「下部防着シールド」は、防着シールドが分割され、互いに非接触となるように隙間を隔てて配置されたものであるから、本件発明1の「分板」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。

(一致点)
「基板を成膜処理する処理室の内部に、前記基板の処理領域を囲うように配してあり、前記処理室の内壁への成膜物質の付着を防止する防着板を備え、該防着板は、複数の分板を夫々の端部を隙間を隔てて重ねて並べたものである成膜装置において、前記重合部は、各分板に設けた薄肉部同士を重ね、各分板の非重合部と面一に並ぶ両面を有して構成されている成膜装置。」である点。

(相違点1)
本件発明1における防着板は、成膜処理に伴って生じる分板の熱膨張を、重合部の幅方向への相対移動により吸収するように構成してあるのに対し、甲1発明の防着板(防着シールド)は、熱膨張を重合部の幅方向への相対移動により吸収することができるものであるか否か不明である点。

(相違点2)
本件発明1における分板の重合部には、処理領域との連通側の隙間を他側よりも大きくする凹部が設けられているが、甲1発明における分板(上部防着シールド、中間部防着シールド及び下部防着シールド)には、そのような凹部が設けられていない点。

事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
上記4(2)オ、カ、ケ及びサに記載されているように、甲第2号証には、ターゲット本体11に凹部17又は19を設けた例が具体的に図示されている。しかし、これらの凹部は処理領域からみて奥まった位置に設けられていることから、本件発明1の防着板に設けられているような、「処理領域との連通側の隙間を他側よりも大きくする凹部」であるとはいえない。
また、上記4(2)エ、ク及びコの記載によれば、甲第2号証においてターゲットに設けられた凹部17又は19は、ダストの原因となる剥離した粒子の収容部として機能し、これにより粒子の脱落を抑制できるものである。しかし、上記4(2)エには凹部17の上面の大半がターゲット押え治具14で塞がれている旨の記載があり、また、上記4(2)キにはスパッタ面11a側の一部を残して段差面13bを削ることにより凹部19を形成する旨の記載があり、これらの記載を考慮すると、甲第2号証に記載されたスパッタリングターゲットにおいて、前記凹部を粒子の収容部として機能させるためには、処理領域との連通側において、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との間隙15をむしろ小さくする必要があるといえる。この点からも、甲第2号証の記載は、「処理領域との連通側の隙間を他側よりも大きくする凹部」を設けることを示唆するものではない。
一方、申立人は異議申立書において、甲第2号証には、「処理領域と連通するスパッタリング装置のターゲット本体11とターゲット押え治具14との隙間15を大きくするために凹部をターゲット本体11に設けること」なる技術的事項が記載されており、当該技術的事項は、「一般的に、基板の処理領域と連通する間隙を大きくして、間隙に堆積する再付着物の剥離、脱落に起因するダストの発生を抑制することを示唆している」ものであり、「基板の処理領域において、再付着物の剥離、脱落に起因するダストの発生を抑制することは、スパッタリング装置等の成膜装置における一般的な技術課題である」から、甲1発明の基板の処理領域において、ダストの発生を抑止するために、甲第2号証に記載された上記技術的事項を、各防着シールド部を隔てる隙間に対して適用することは容易である旨主張している。
しかし、上記4(2)エに記載されているように、甲第2号証のスパッタリング装置においてターゲット本体11に設けられている凹部17又は19は、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との接触面積を低減することにより、ターゲット本体11とターゲット押え治具14との熱膨張差に起因する擦れの程度を緩和し、間隙15に付着した再付着物が擦れによる振動や衝撃に起因して剥離、脱落することを抑制するために設けられたものである。すなわち、甲第2号証に記載された上記技術的事項は、ターゲットとターゲット押え治具が接触しており、かつ、ターゲットとターゲット押え治具の熱膨張率が異なることにより擦れが発生することを前提としたものであって、申立人が主張するように、「基板の処理領域と連通する間隙を大きくして、間隙に堆積する再付着物の剥離、脱落に起因するダストの発生を抑制することを示唆している」と一般化できるものとはいえない。
そして、甲1発明においては、上部防着シールド部、中間部防着シールド部及び下部防着シールド部は互いに非接触となるように設けられているから、甲第2号証のスパッタリング装置とは異なり、熱膨張差による擦れに起因するダストの発生という課題は生じない。したがって、甲1発明において、甲第2号証に記載された技術的事項を適用して、防着シールドの重合部に凹部を設けることの動機付けもない。
よって、上記相違点1について判断するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

イ 請求項2、3について
本件発明2及び3は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有する発明であるから、本件発明1と同様に、当業者が甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

ウ 小括
したがって、申立理由アによっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由イについて
ア 請求項1について
本件発明1と甲3発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点において相違する。

(相違点)
本件発明1における防着板は、基板を成膜処理する処理室の内部に、前記基板の処理領域を囲うように配してあり、前記処理室の内壁への成膜物質の付着を防止するものであるのに対し、甲3発明の選択成膜用マスクは、基板の処理領域を囲うように配されたものではなく、処理室の内壁への成膜物質の付着を防止するものでもない点。

上記相違点について検討する。
申立人は異議申立書において、甲3発明は本件発明1と「基板を成膜処理する処理室の内部に、前記基板の処理領域を囲うように配してあり、前記処理室の内壁への成膜物質の付着を防止する防着板を備え」ている点で一致する旨主張している。
一方、上記4(3)イ、エ及びカの記載によれば、甲3発明の「選択成膜用マスク」は、成膜基板であるウエハ上に取り付けられて用いられるものであり、基板の処理領域を囲うように配されるものではない。また、当該「選択成膜用マスク」は、成膜基板上の開口パターン以外の領域への成膜物質の付着を防止する機能を有しているといえるものの、処理室の内壁への成膜物質の付着を防止するものではない。そのため、甲3発明の「選択成膜用マスク」が、本件発明1における「前記基板の処理領域を囲うように配してあり、前記処理室の内壁への成膜物質の付着を防止する防着板」に相当するということはできない。
また、甲第3号証及び甲第2号証のいずれにも、甲3発明の選択成膜用マスクを、基板の処理領域を囲うように配置することや、選択成膜用マスクにより処理室の内壁への成膜物質の付着を防止することを示唆する記載はないから、甲3発明の選択成膜用マスクを、基板の処理領域を囲うように配置することができる形状とし、処理室の内壁への成膜物質の付着を防止し得るものとすることの動機付けは存在しない。

よって、その他の点について判断するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲3発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

イ 請求項2、3について
本件発明2及び3は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有する発明であるから、本件発明1と同様に、当業者が甲3発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

ウ 小括
したがって、申立理由イによっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

6 むすび

以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-28 
出願番号 特願2016-503827(P2016-503827)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安齋 美佐子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 宮澤 尚之
橋本 憲一郎
登録日 2018-03-02 
登録番号 特許第6298147号(P6298147)
権利者 堺ディスプレイプロダクト株式会社
発明の名称 成膜装置  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 英仁  

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