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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02D
審判 全部無効 1項2号公然実施  E02D
審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1346935
審判番号 無効2015-800183  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-24 
確定日 2018-11-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4653127号発明「オーガ併用鋼矢板圧入工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4653127号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第4653127号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4653127号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。

平成19年 2月 8日 本件出願(特願2007-29593号)
平成22年12月24日 設定登録(特許第4653127号)
平成27年 9月24日 本件無効審判請求
平成27年12月 8日 被請求人より答弁書提出
平成28年 1月29日 審理事項通知書(起案日)
平成28年 2月29日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年 3月31日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年 4月21日 口頭審理
平成28年 7月 5日 審決の予告
平成28年 9月 5日 被請求人より訂正請求書、上申書提出
平成28年10月14日 請求人より弁駁書提出
平成28年10月19日 補正許否の決定(起案日)
平成28年11月21日 被請求人より第2答弁書提出
平成29年 1月10日 審理終結

第2 本件発明
1 本件特許発明(訂正前の本件発明)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件特許発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(分説及び「(1-A)」などは、請求人の主張に沿って審決で付した。)。

「【請求項1】
(1-A)下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、
(1-B)該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、
(1-C)該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、
(1-D)昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置
(1-E)を具備した杭圧入引抜機を使用して、
(1-F)オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、
(1-G)杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて先行掘削し、
(1-H)その後、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として、杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が前記先行掘削した地盤と連続するとともに、前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことを特徴とする
(1-I)オーガ併用鋼矢板圧入工法。
【請求項2】
(2-A)下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、
(2-B)該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、
(2-C)該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、
(2-D)昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置
(2-E)を具備した杭圧入引抜機を使用して、
(2-F)オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して、既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、
(2-G)杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤を、圧入する鋼矢板の継手部と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の地盤であって、既設の鋼矢板の圧入時に掘削された掘削済みの地盤から一定の間隔を空けてオーガによって先行掘削し、
(2-H)その後、圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させてオーガケーシングと一体として杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が、圧入する鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続するとともに、前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行い、
(2-I)以後順次この作業を繰り返すことを特徴とする
(2-J)オーガ併用鋼矢板圧入工法。
【請求項3】
(3-A)鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行う
(3-B)請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。
【請求項4】
(4-A)鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行うとともに、
(4-B)オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する
(4-C)請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。」

2 本件特許の明細書の記載事項
本件特許の明細書には、以下のとおり記載されている(抜粋)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、オーガによる掘削を併用して鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削することにより、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入するためのオーガ併用鋼矢板圧入工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種土木基礎工事における鋼矢板の圧入・引抜工事においては、振動、騒音の発生が少ない静荷重型杭圧入引抜機が採用されている。
【0003】
この静荷重型杭圧入引抜機は、既設の鋼矢板上に定置された台座の下方に複数の反力掴み装置(クランプ)を設けて、この反力掴み装置により既設杭をクランプすることによって反力を得て、杭掴み装置によりチャックした鋼矢板を地盤に圧入している。そのため、硬質地盤等において、杭掴み装置による圧入力が、既設杭から得られる反力を上回ったときには、鋼矢板を圧入できない場合がある。このような場合、鋼矢板の圧入と同時にオーガによる圧入地盤の掘削を併用することによって鋼矢板の圧入を可能としている。
【0004】
オーガによる掘削を併用する杭圧入引抜作業として、特許文献1によれば、鋼矢板の圧入部周辺を掘削することで、土圧の軽減を図る手段が示されている。また、特許文献2によれば、圧入すべき鋼矢板の中心に対してケーシング付きオーガの中心を鋼矢板の圧入施工の進行方向に沿って、先に圧入された鋼矢板の反対方向へずらし、オーガの径をオーガケーシングの径より大きく拡径可能なものとする手段が示されている。更に、特許文献3によれば、鋼矢板の位置決め精度を確保するためのオーガ装置用ガイド部材を使用して、ケーシング付きオーガで圧入する地盤を先行して掘削する手段が示されている。
【特許文献1】特公昭63-30451
【特許文献2】特開2002-167758
【特許文献3】特開2002-129558
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にかかる杭圧入引抜機は、図12に示すように、既設杭31の継手部31aに、凹部にオーガーケーシング33を抱持した鋼矢板32の一方の継手部32aを噛合させた状態で、杭圧入引抜機による圧入とオーガケーシングに挿通したオーガ(図示略)による掘削を同時に行う。そのため、オーガによる最大掘削範囲径34は、圧入する鋼矢板32の継手部32aと噛合する既設杭31の継手部31aと干渉することがない範囲に限られてしまうため、図12の鋼矢板32にハッチングを施した範囲の地盤が未掘削となり、鋼矢板32の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができず、硬質地盤において、圧入施工ができないことがある。
【0006】
特許文献2にかかる杭圧入引抜機も、図13に示すように、既設杭31の継手部31aに、凹部にオーガーケーシング36を抱持した鋼矢板35の一方の継手部35aを噛合させた状態で、杭圧入引抜機による圧入とオーガケーシングに挿通したオーガ(図示略)による掘削を同時に行う。特許文献2によれば、圧入する鋼矢板35の中心とオーガケーシング36を進行方向の前後にずらすことにより、特許文献1に示す手段に比べて、オーガの掘削範囲を拡大することができる。
【0007】
しかしながら、オーガによる最大掘削範囲径37は、圧入する鋼矢板35の継手部35aと噛合する既設杭31の継手部31aと干渉することがない範囲に限られてしまうことには変わりないため、図13の鋼矢板35にハッチングを施した範囲の地盤が未掘削となり、鋼矢板35の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができず、硬質地盤において、圧入施工ができないことがある。そのため、オーガケーシング36を鋼矢板35の圧入施工の進行方向に沿って、既設杭31の反対方向へずらして掘削するという煩瑣な作業が必要となり、作業効率が悪い。
【0008】
特許文献3によれば、先行して掘削する範囲と既設の鋼矢板の掘削範囲とが干渉するため、先行掘削時のオーガの掘削位置精度を保つために、オーガ装置用ガイド部材が必要となり、その脱着操作のための時間を要し、煩瑣な作業となって作業効率が悪い。
【0009】
更に、いずれの手段においても鋼矢板の有効幅の寸法により、オーガの掘削直径を決定するため、広幅鋼矢板やハット形鋼矢板のように有効幅寸法が大きくなれば、それに伴ってオーガの掘削直径を拡大する必要があるため、オーガ掘削トルクの増大による装置の大型化や、作業能率の低下、或いは地盤を必要以上に掘削することにより、環境負荷が大きくなる等の問題があった。
【0010】
そこで本発明はこのような従来の鋼矢板の圧入工法が有している課題を解決するため、オーガによる掘削を併用して鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削することにより、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入することのできるオーガ併用鋼矢板圧入工法を提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0014】
本発明にかかるオーガ併用鋼矢板圧入工法によれば、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、圧入する鋼矢板の両端部及び近傍の地盤の先行掘削と、鋼矢板を圧入しつつ先行掘削した地盤と連続するように地盤掘削することにより、鋼矢板の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができる。また、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板を連続して圧入する際にも、既設の鋼矢板との継手部及び近傍の地盤は、既設の鋼矢板の圧入時にオーガによって先行掘削しているため、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤の先行掘削と、鋼矢板の圧入時の掘削によって、圧入する鋼矢板の地盤の全域をオーガによって掘削することができる。そのため、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入することができる。
【0015】
また、鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行うため、先行掘削時のオーガとの寸法の違いによる取り替え作業等を必要としない。そのため、オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削することができ、オーガの位置を変更する等の煩瑣な操作が必要ない。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面に基づいて本発明にかかるオーガ併用鋼矢板圧入工法の最良の実施形態を説明する。図1は本発明で使用する杭圧入引抜機の作業状態を説明するための側面図である。図において、1は公知の静荷重型の杭圧入引抜機であって、2は台座、3は台座2の下部に配設されて既設の鋼矢板18をクランプする反力掴み装置である。Fは杭圧入引抜機本体の進行方向を示す。台座2には杭圧入引抜機1の進行方向Fに沿って、圧入する鋼矢板15の幅寸法以上の距離を摺動自在にスライドベース4が配備されている。このスライドベース4上には支持アーム5が縦軸を中心として回動自在に軸支され、この支持アーム5の前部に設けた軸受部6を中心として回動可能なガイドフレーム7が立設されている。このガイドフレーム7は、一端が支持アーム5に軸支された傾動シリンダ(図示略)の伸縮によって軸受部6を中心として傾動可能となっている。
【0017】
ガイドフレーム7には昇降体8が昇降自在に装着されている。該昇降体8の両側には左右一対の杭圧入引抜シリンダ9が取り付けられていて、この杭圧入引抜シリンダ9の一端が前記軸受部6に軸支されており、昇降体8を上下駆動するように構成されている。10は杭掴み装置であり、この杭掴み装置10は昇降体8の下方にあって該昇降体8に対して旋回自在に配備されている。
【0018】
11は中空のオーガケーシングであり、該オーガケーシング11の相対向する外周部に、所定の厚みを保持して径方向に伸びるとともに上下方向に延長する長大な固定板11a,11aが固着されている。オーガケーシング11の上端部にはオーガ掘削機12(アースオーガ)が装着されるとともに、オーガ掘削機12に連結されたスクリューロッド13が挿通されている。14はスクリューロッド13の先端部に挿通されて、脱着自在に装着されるオーガ(オーガヘッド)であって、スクリューロッド13の先端部に穿設されたジョイント用ピン孔にジョイントピンで連結される。スクリューロッド13の上昇及び下降手段はオーガ掘削機12に内蔵されているシリンダーの上下動若しくはオーガケーシング11を掴んだ杭圧入引抜機1の昇降体8の上下動で行う。17は、オーガ掘削機12を簡略して図示した駆動用の油圧ホースであり、16は油圧ホース17を繰り出し・巻き取るための油圧ホース巻取装置である。
【0019】
15は地盤内に圧入されるU形の鋼矢板であり、この鋼矢板15の凹型に形成された中央部15aがオーガケーシング11の外周部に近接配置され、鋼矢板15の両端部に位置する継手部15b,15cがオーガケーシング11の固定板11a,11aの側に配置されている。この圧入される鋼矢板15の継手部15b,15cと、オーガケーシング11の固定板11a,11aが一体として昇降体8の内方に挿通されて、杭掴み装置10によってチャックされて、強固に支持固定されている。
【0020】
かかる構成によれば、圧入される鋼矢板15を地盤に圧入する際の基本操作として、先ず反力掴み装置3に内蔵されたクランプシリンダを用いて既設杭18をクランプしてから杭掴み装置10により鋼矢板15とオーガケーシング11を強固にチャックすることでオーガ掘削時の回転反力を得ることができる。そしてオーガ掘削機12を起動するとともに杭圧入引抜シリンダ9を駆動して、オーガ14による掘削と杭圧入引抜シリンダ9の併用により新たな鋼矢板15の地盤への圧入を行う。
【0021】
この新たな鋼矢板15を充分な支持力が得られるまで圧入した後、杭掴み装置10を自走可能位置まで上昇させて、再び杭掴み装置10で鋼矢板15を掴んだ後、既設杭18をクランプしている反力掴み装置3に内蔵したクランプシリンダを開放し、杭圧入引抜シリンダ9により杭圧入引抜機1を上昇させる。そして、スライドベース4に摺動自在に配備されている台座2を進行方向Fに沿って、圧入する鋼矢板15の幅寸法分だけスライドさせる。その後、反力掴み装置3をそれぞれ1本分前進した既設杭18にセットできる位置に合わせた後、杭圧入引抜機1を降下させ反力掴み装置3のクランプシリンダを用いて既設の鋼矢板18をクランプして、杭圧入引抜シリンダ9により鋼矢板15を計画高さまで圧入する。次に前記と同様の操作を繰り返して継続的に杭圧入作業を実施する。これらの杭圧入動作及び既設杭18上を自走しての連続圧入動作は公知の静荷重型の杭圧入引抜機と同様である。
【0022】
この杭圧入引抜機1を使用した本発明に係るオーガ併用鋼矢板圧入工法の実施形態を説明する。図2?図4は最初の1本又は独立した杭となる鋼矢板15の圧入工法を示す平面図である。鋼矢板15として、断面形状がU形で、かつ、両側の継手が対称断面であり、隣接する鋼矢板の打設向きが反対方向となるU形鋼矢板を使用した。先ず、圧入する鋼矢板15の両端部に位置する継手部15b,15cの内、杭圧入引抜機1に近い方の継手部15bの圧入位置及び近傍の地盤をオーガ14にて先行掘削Aとして掘削する。このとき、鋼矢板15は杭掴み装置10に装備されておらず、オーガケーシング11のみ装備されている。なお、先行掘削Aを行うときは、杭圧入引抜機1は公知の反力架台又は圧入済みの既設杭を反力掴み装置3にてクランプして作業を行う。
【0023】
次に、杭圧入引抜機1のスライトベース4を鋼矢板15の継手ピッチPだけ前進させ、先行掘削Aから一定の間隔Dを空けて、鋼矢板15の他方の継手部15cの圧入位置及び近傍の地盤をオーガ14にて先行掘削Bとして掘削する。間隔Dを空けることにより、先行掘削Bは、先行掘削Aの影響を受けることなく、正確な位置と高い精度で掘削することができる。この先行掘削Bも先行掘削Aと同様に杭掴み装置10に鋼矢板15を装備することなく、オーガケーシング11のみを挿通して掘削する。この先行掘削AとBの間隔Dは特に限定はなく、圧入する鋼矢板15の継手部15b,15cの圧入位置及び近傍の地盤を掘削して、一定の間隔が空いておればよい。また、先行掘削Aと先行掘削Bの掘削の順序を逆としてもよい。
【0024】
図5は先行掘削A,Bを掘削する際の杭掴み装置10の平面図であり、円筒状に形成された杭掴み装置10に穿設された挿通孔10aにオーガケーシング11が挿通され、スクリューロッド13の先端に装着されたオーガ14の掘削刃14aを拡径させて、オーガケーシング11より径大の先行掘削A,Bを掘削している。
【0025】
次に、図3に示すように、圧入する鋼矢板15の凹型に形成された中央部15aにオーガケーシング11の外周部を抱き合わせて、杭掴み装置10に挿通して、杭圧入引抜シリンダ9による圧入をしつつ、オーガ14による掘削を同時に行う。このとき、オーガによる掘削が先行掘削AとBによって掘削した地盤が連続するように掘削することにより、鋼矢板15の圧入される地盤の全域をオーガ14によって連結掘削Cとして掘削する。
【0026】
図6は連結掘削Cを掘削する際の杭掴み装置10の平面図であり、鋼矢板15の凹型に形成された中央部15aにオーガケーシング11の外周部を抱き合わせ、鋼矢板15とオーガケーシング11とを一体として円筒状に形成された杭掴み装置10に穿設された挿通孔10a内に挿通し、スクリューロッド13の先端に装着されたオーガ14の掘削刃14aを拡径させて、オーガケーシング11より径大の連結掘削Cを掘削している。この連結掘削Cにより、図3に示すように鋼矢板15の圧入される地盤の全域がオーガ14によって掘削されることとなる。
【0027】
オーガ14による掘削を同時に行いながら、鋼矢板15を圧入した後に、図4に示すように掘削刃14aを縮径させて、掘削刃14aが圧入済みの鋼矢板15に接触することがないようにして、オーガケーシング11及びオーガ14を地上に引き上げて、圧入作業が完了する。
【0028】
次に、隣接する鋼矢板15の継手部15bと15cを相互に噛合させて順次圧入する場合を図7?図10に基づいて説明する。前記した1本の鋼矢板15の圧入工法と同一の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。図7において、18は圧入済みの既設杭であり、15はこれから圧入する鋼矢板である。既設杭18の開放側の継手部18cの地盤及び近傍の地盤は、既設杭18を圧入する際に先行掘削Bとして掘削済みである。この既設杭18の先行掘削Bは圧入する鋼矢板15の先行掘削Aとなる。そこで、既設杭18の圧入が完了し、オーガケーシング11及びオーガ14を地上に引き上げた後、スライドベース4を鋼矢板15の継手ピッチPだけ前進させて、先行掘削A(既設杭18の先行掘削B)から一定の間隔Dを空けて、鋼矢板15の他方の継手部15cの圧入位置及び近傍の地盤をオーガ14にて先行掘削Bとして掘削する。この先行掘削Bは前記した最初の鋼矢板15を圧入する場合の先行掘削Bと同様である。
【0029】
次に、図8に示すように、圧入する鋼矢板15の凹型に形成された中央部15aにオーガケーシング11の外周部を抱き合わせて、杭掴み装置10に挿通し、鋼矢板15の継手部15bを既設杭18の開放側の継手部18cに噛合させて、杭圧入引抜シリンダ9による圧入をしつつ、オーガ14による掘削を同時に行う。このとき、先行掘削AとBによって掘削した地盤が連続するように鋼矢板15の圧入される地盤の全域をオーガ14によって連結掘削Cとして掘削する。この連結掘削Cも鋼矢板15の継手部15bが既設杭の開放側の継手部18cに噛合して圧入されること以外は、最初の鋼矢板15を圧入する場合の連結掘削Cと同様である。以後順次この作業を繰り返すことにより、鋼矢板を相互に噛合わせて連続して圧入する。
【0030】
図9に示すように、連結掘削Cを掘削する場合には、圧入する鋼矢板15の幅方向Wに直交する方向の中心線Y上にオーガケーシング11の中心S(オーガ14の中心)を位置させている。即ち、オーガケーシング11の中心Sと鋼矢板15の幅方向Wの中心Xとが直線状に位置するように配置する。これにより、鋼矢板15の圧入施工の進行方向に沿って掘削作業時にオーガケーシングの位置を既設杭18の反対方向へずらしたりするという煩瑣な作業が不要となり、そのための装置を必要とせず、オーガケーシング11の位置を常に適正な位置に保って圧入作業を行うことができる。
【0031】
図10は、断面形状がハット(帽子)形で、かつ、両側の継手が非対称断面であり、隣接する鋼矢板の打設向きが同一方向となるハット形鋼矢板を相互に継手部で噛合させて連続して圧入する場合の実施形態を示している。図において、19はハット形鋼矢板の既設杭、20は圧入するハット形鋼矢板を示している。ハット形鋼矢板20の圧入に際しても、前記した鋼矢板15の1本の圧入及び連続した圧入と同様であり、一定の間隔を空けて掘削した先行掘削Aと先行掘削Bとの間を連結掘削Cで連結することにより、圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を、少ない面積で掘削することができる。
【0032】
ハット形鋼矢板の場合、幅方向Wの寸法が大きいため、図11に示すように、一度の掘削Eであっても、既設杭19と圧入するハット形鋼矢板20の掘削した範囲を合わせることにより、ハット形鋼矢板20の地盤の全域を掘削すること自体は可能である。しかしながら、そのためには掘削Eに示すように掘削径を大きくして広い面積を掘削することが必要であり、掘削抵抗が大きくなって、地盤によっては掘削ができなかったり、オーガ掘削機12として高い能力のものを使用する必要が生じる。これに対して、本発明によれば、圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を、少ない面積で、掘削抵抗が少なく掘削することができる。」

3 本件特許の図面
【図1】

【図3】


第3 訂正請求について
被請求人は、審決の予告があった後、本件特許について、平成28年9月5日に訂正請求書(当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)を提出している。
本件訂正後の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件訂正発明1」などという。)は、上記訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(分説及び「(1-A)」などは審決で付した。下線は訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
(1-A)下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、
(1-B)該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、
(1-C)該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、
(1-D)昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置
(1-E)を具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して、
(1-F)オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、
(1-G)杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し、
(1-H)その後、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として、杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに、前記2つの先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削することを特徴とする
(1-I)オーガ併用鋼矢板圧入工法。
【請求項2】
(2-A)下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、
(2-B)該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、
(2-C)該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、
(2-D)昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置
(2-E)を具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して、
(2-F)オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して、既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、
(2-G)杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤を、圧入する鋼矢板の継手部と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の地盤であって、既設の鋼矢板の圧入時に先行掘削された掘削済みの地盤から一定の間隔を空けてオーガによって先行掘削し、
(2-H)その後、圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させてオーガケーシングと一体として杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が、圧入する鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続するとともに、前記掘削済みの地盤と先行掘削した地盤と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削し、
(2-I)以後順次この作業を繰り返すことを特徴とする
(2-J)オーガ併用鋼矢板圧入工法。
【請求項3】
(3-A)鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行う
(3-B)請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。
【請求項4】
(4-A)鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行うとともに、
(4-B)オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する
(4-C)請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。」

そこで、本件訂正の適否について検討する。

1 訂正内容
本件訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「具備した杭圧入引抜機」とあるのを、「具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「相互に一定の間隔を空けて先行掘削し、」とあるのを、「相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し、」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に2箇所「前記先行掘削」とあるのを、ともに「前記2つの先行掘削」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「同時に行うこと」とあるのを、「同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削すること」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「具備した杭圧入引抜機」とあるのを、「具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に「既設の鋼矢板の圧入時に掘削された」とあるのを、「既設の鋼矢板の圧入時に先行掘削された」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2に「前記先行掘削」とあるのを、「前記掘削済みの地盤と先行掘削した地盤」と訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2に「同時に行い、」とあるのを、「同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削し、」と訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の段落【0011】に「具備した杭圧入引抜機」とあるのを、「具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」と訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0011】に「相互に一定の間隔を空けて先行掘削し、」とあるのを、「相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し、」と訂正する。
(11)訂正事項11
明細書の段落【0011】に2ヶ所「前記先行掘削」とあるのを、ともに「前記2つの先行掘削」と訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0011】に「同時に行う」とあるのを、「同時に行うことによって圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削する」と訂正する。
(13)訂正事項13
明細書の段落【0012】に「具備した杭圧入引抜機」とあるのを、「具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」と訂正する。
(14)訂正事項14
明細書の段落【0012】に「既設の鋼矢板の圧入時に掘削された」とあるのを、「既設の鋼矢板の圧入時に先行掘削された」と訂正する。 (15)訂正事項15
明細書の段落【0012】に「前記先行掘削」とあるのを、「前記掘削済みの地盤と先行掘削した地盤」と訂正する。
(16)訂正事項16
明細書の段落【0012】に「同時に行い、」とあるのを、「同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削し、」と訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、「杭圧入引抜機」について、「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」であることを特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項1は、訂正前に特定されていた「杭圧入引抜機」についてより具体的に特定するものであって、発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
ウ 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
「杭圧入引抜機」が「静荷重型杭圧入引抜機」であることは、上記第2の2で摘記した本件特許の明細書(願書に添付した明細書)の段落【0010】及び【0014】に記載されており、また、「杭圧入引抜機」が「既設杭上を自走する」ことは、同段落【0021】に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(2)訂正事項2及び3
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2及び3は、「相互に一定の間隔を空けて先行掘削」することについて、「先行掘削」が「2つ」であることを特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項2及び3は、訂正前に特定されていた「先行掘削」についてより具体的に特定するものであって、発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
ウ 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記第2の2で摘記した本件特許の明細書(願書に添付した明細書)の段落【0022】、【0023】に記載されているから、訂正事項2及び3は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(3)訂正事項4
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項4は、「(同時に行うことによって、)圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削すること」を付加するものであって、掘削することについて更に特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項4は、掘削することについて更に特定するものであって、発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
ウ 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
本件特許の明細書(願書に添付した明細書)の段落【0009】には「更に、いずれの手段においても鋼矢板の有効幅の寸法により、オーガの掘削直径を決定するため、広幅鋼矢板やハット形鋼矢板のように有効幅寸法が大きくなれば、それに伴ってオーガの掘削直径を拡大する必要があるため、オーガ掘削トルクの増大による装置の大型化や、作業能率の低下、或いは地盤を必要以上に掘削することにより、環境負荷が大きくなる等の問題があった。」と、同段落【0031】には「ハット形鋼矢板20の圧入に際しても、前記した鋼矢板15の1本の圧入及び連続した圧入と同様であり、一定の間隔を空けて掘削した先行掘削Aと先行掘削Bとの間を連結掘削Cで連結することにより、圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を、少ない面積で掘削することができる。」と、同段落【0032】には「本発明によれば、圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を、少ない面積で、掘削抵抗が少なく掘削することができる。」と記載されているから、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(4)訂正事項5
訂正事項5は、訂正事項1と同様の訂正であるから、上記(1)の訂正事項1で検討したように、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(5)訂正事項6
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項6は、「既設の鋼矢板の圧入時に掘削された」ことについて、「先行掘削」であることを特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項6は、訂正前に特定されていた「既設の鋼矢板の圧入時に掘削された」ことについてより具体的に特定するものであって、発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
ウ 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
本件特許の明細書(願書に添付した明細書)の段落【0028】には、「既設杭18の開放側の継手部18cの地盤及び近傍の地盤は、既設杭18を圧入する際に先行掘削Bとして掘削済みである。この既設杭18の先行掘削Bは圧入する鋼矢板15の先行掘削Aとなる。」と記載されているとおり、訂正事項6は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(6)訂正事項7
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項7は、「前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域」について、「前記掘削済みの地盤と先行掘削した地盤」とを併せたものであることを特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項7は、訂正前に特定されていた「前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域」についてより具体的に特定するものであって、発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
ウ 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
本件特許の明細書(願書に添付した明細書)の段落【0028】には「図7において、18は圧入済みの既設杭であり、15はこれから圧入する鋼矢板である。既設杭18の開放側の継手部18cの地盤及び近傍の地盤は、既設杭18を圧入する際に先行掘削Bとして掘削済みである。この既設杭18の先行掘削Bは圧入する鋼矢板15の先行掘削Aとなる。そこで、既設杭18の圧入が完了し、オーガケーシング11及びオーガ14を地上に引き上げた後、スライドベース4を鋼矢板15の継手ピッチPだけ前進させて、先行掘削A(既設杭18の先行掘削B)から一定の間隔Dを空けて、鋼矢板15の他方の継手部15cの圧入位置及び近傍の地盤をオーガ14にて先行掘削Bとして掘削する。」と、同段落【0029】には「次に、図8に示すように、圧入する鋼矢板15の凹型に形成された中央部15aにオーガケーシング11の外周部を抱き合わせて、杭掴み装置10に挿通し、鋼矢板15の継手部15bを既設杭18の開放側の継手部18cに噛合させて、杭圧入引抜シリンダ9による圧入をしつつ、オーガ14による掘削を同時に行う。このとき、先行掘削AとBによって掘削した地盤が連続するように鋼矢板15の圧入される地盤の全域をオーガ14によって連結掘削Cとして掘削する。」と記載されているとおり、訂正事項7は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(7)訂正事項8
訂正事項8は、訂正事項4と同様の訂正であるから、上記(3)の訂正事項4で検討したように、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(8)訂正事項9ないし12
訂正事項9ないし12は、訂正事項1ないし4に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としているといえる。
また、訂正事項9ないし12は、訂正事項1ないし4と同様の訂正であるから、上記(1)ないし(3)で検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(9)訂正事項13ないし16
訂正事項13ないし16は、訂正事項5ないし8に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としているといえる。
また、訂正事項13ないし16は、訂正事項5ないし8と同様の訂正であるから、上記(4)ないし(7)で検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

3 請求人の主張について
請求人は、訂正事項4で加わった「少ない面積で掘削」という記載は、どのような基準に対して「少ない」のか、どの程度「少ない」のかが不明確である、すなわち、本件明細書の記載を参酌すると、実施形態の説明として、2つの先行掘削と同時圧入の掘削範囲を併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削する態様が図示されており(図8)、かかる態様が「少ない面積で掘削」の一例であるとしても、本件訂正発明1においては使用するオーガの種類を特定しておらず、2つの先行掘削と同時圧入の掘削範囲をそれぞれどの程度変えて良いか不明確であることから、2つの先行掘削と同時圧入の掘削範囲を併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域を「少ない面積で掘削」するとの範囲もまた不明確であり、発明の範囲を不明確とする訂正請求は、訂正要件を充足しない旨主張する(弁駁書3頁22行?4頁2行)。

しかしながら、上記2で検討したように、本件訂正は、訂正要件を満たしており、本件訂正は無効審判請求がされている請求項に係る訂正であるから、本件訂正の適否の判断において、独立特許要件の適用はない。
したがって、請求人の主張は失当である。
なお、明確性要件については、無効理由3として主張されており、後記「第8」で検討する。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論のとおり、本件訂正を認める。

そして、本件訂正は認められたので、本件発明は訂正された本件訂正発明1ないし4である。

第4 請求人の主張
1 請求人が主張する無効理由の概要
請求人は、本件特許発明1ないし4の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成28年2月29日付け口頭審理陳述要領書を参照。)、証拠方法として甲第1号証の1ないし甲第16号証の5を提出している。
また、請求人が主張する無効理由1及び2は、本件訂正発明1ないし4に対しても主張される一方、本件訂正発明1ないし4に対して新たに無効理由3が主張された(弁駁書2頁19ないし24行、11頁22行ないし16頁3行)。無効理由3の追加は、平成28年10月19日(起案日)付けの補正許否の決定により許可された。

(1)無効理由1(進歩性欠如)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証の1に記載された発明及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきものである(第1回口頭審理調書を参照。)。
(2)無効理由2(公然実施に基づく新規性欠如)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に公然と実施された発明(甲第11号証の1ないし4、甲第12号証の1ないし5)であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきものである(第1回口頭審理調書を参照。)。
(3)無効理由3(明確性要件違反)
訂正請求で加わった発明特定事項である「少ない面積で掘削」は、発明特定事項の範囲を当業者が理解できる程度に記載されていないことから、明確性要件(特許法36条6項2号)を欠き、本件訂正発明1ないし4は無効である。

(証拠方法)
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証の1:「硬質地盤対応鋼矢板圧入機 TILT PILER CRUSHチルトパイラークラッシュWP100AC」との名称が付され、WP100ACを使用したオーガ併用鋼矢板圧入工法に関する動画が収録されているCD-ROM(写しを作製したCD-ROMは西部工建から借り受けたもの。動画の最終更新日は「2006年10月21日 16:34:13」)
甲第1号証の2:報告書(株式会社技研製作所 田内 宏明/上記CD-ROMに収録されていた動画について)
甲第1号証の3:「新製品のご案内」と記載された案内文
甲第1号証の4:WP100ACのカタログ
甲第1号証の5:WP100HATのカタログ
甲第2号証:特開2005-171733号公報
甲第3号証:特開昭49-89307号公報
甲第4号証:特開昭49-89308号公報
甲第5号証:特開昭50-30314号公報
甲第6号証:実願昭62-121324号(実開昭64-28430号)のマイクロフィルム
甲第7号証:平成11年度関西支部年次学術講演会 講演概要 VI-3-1頁?VI-3-2頁「硬質地盤での鋼矢板圧入について」 社団法人土木学会関西支部 平成11年5月22日発行
甲第8号証:特開2002-322648号公報
甲第9号証の1:新日鐵住金株式会社のパンフレット「鋼矢板」
甲第9号証の2:新日鉄技報 第368号(1998)19?26頁「広幅型鋼矢板の開発」
甲第10号証の1:陳述書(株式会社西部工建 太田謙吾)
甲第10号証の2:陳述書(調和工業九州株式会社 安田治樹)
甲第10号証の3:陳述書(北城重機興業有限会社 北城健)
甲第10号証の4:陳述書(株式会社伊藤工業 伊藤智)
甲第10号証の5:陳述書(株式会社石走商会 石走和好)
甲第10号証の6:陳述書(勿来建機株式会社 助川貴則)
甲第11号証の1:現場報告書(高松市エコサイクル工事)
甲第11号証の2:作業日報(高松市エコサイクル工事)
甲第11号証の3:陳述書(株式会社技研施工 小松健/高松市エコサイクル工事について)
甲第11号証の4:ZC70取扱説明書(表紙、目次、7?24頁、34?36頁、42頁を抜粋)
甲第12号証の1:「(仮称)高松丸亀町商店街A街区市街地再開発ビル新築工事 場所打ちコンクリート杭施工計画書 アースドリル工法」(西松建設・合田工務店JV/1頁、6頁、7頁、9頁を抜粋)
甲第12号証の2:平成17年6月1日?同月4日までの「工事日報」(西松建設・合田工務店JV)
甲第12号証の3:杭伏図(株式会社まちづくりカンパニー・シープネットワーク)
甲第12号証の4:「(仮称)高松丸亀町商店街A街区市街地再開発ビル新築工事 施工報告書(拡底杭・直杭工事)」(創基工業株式会社/表紙、附近見取図、1?6頁、8頁、13?16頁を抜粋)
甲第12号証の5:創基工業株式会社「会社概要」(SY工法協会のウエブサイト http://www.sy-method.jp/society/pdf/prof_souki09.pdf)
甲第13号証:陳述書(株式会社技研施工 小松健/現場報告書及び作業日報の作成経緯、保管状況について)
甲第14号証の1:平成17年5月分の「工事報告書」(西松・合田共同企業体)
甲第14号証の2:平成17年6月分の「工事報告書」(西松・合田共同企業体)
甲第15号証の1:平成17年5月分の「工事監理報告書」(株式会社三木建築設計事務所/表紙、工事概要書、監理報告(平成17年5月分)、現場定例会議事録(第7回、第8回、第9回)、施主定例会議事録(第3回)、主な工事記録、現場写真を抜粋)
甲第15号証の2:平成17年6月分の「工事監理報告書」(株式会社三木建築設計事務所/表紙、工事概要書、監理報告(平成17年6月分)、現場定例会議事録(第10回、第11回、第12回、第13回)、施主定例会議事録(第4回)、合同協議会議事録(第4回)
甲第16号証の1:特開昭51-81406号公報
甲第16号証の2:特開昭63-63821号公報
甲第16号証の3:特開平10-331160号公報
甲第16号証の4:特開2001-55882号公報
甲第16号証の5:特開2004-11102号公報

2 無効理由の具体的な主張
(1)無効理由1(進歩性欠如)
ア 甲第1号証の1は公知であること(審判請求書18頁4行?19頁18行を参照。)
(ア)甲第1号証の1は、被請求人が2006年10月頃に頒布した「硬質地盤対応鋼矢板圧入機 TILT PILER CRUSHチルトパイラークラッシュWP100AC」との名称が付されたCD-ROMである。CD-ROMには、WP100ACを使用したオーガ併用鋼矢板圧入工法に関する動画が収録されている。
2006年(平成18年)10月吉日付の「新製品のご案内」と題された案内文(同号証の3)には「カタログ及び、WP100ACの試験施工による説明ビデオを同封させていただきますので、ご質問やご不明な点がございましたら、下記までご連絡下さい。」と記載されているとおり、CD-ROM(同号証の1)は、案内文(同号証の3)、WP100ACのカタログ(同号証の4)及びWP100HATのカタログ(同号証の5)と共に、被請求人により多数の土木事業者に頒布されており、被請求人の新製品であるWP100ACの使用方法を広く知らしめる目的であったことは明らかである。案内文の日付が「平成18年10月吉日」であり、かつ、CD-ROMに収録された動画の最終更新日が「2006年10月21日 16:34:13」であるから(同号証の2 図1b)、CD-ROMの頒布時期は2006年10月頃である。
(イ)請求人が調査したところ、圧入工事に関係する土木事業者である、株式会社西部工建、北城重機興業有限会社、株式会社伊藤工業、及び、株式会社石走商会が、CD-ROM(甲第1号証の1)を保管していた(甲第10号証の1、3ないし5)。また、勿来建機株式会社の助川貴則氏は、平成18年の秋から冬にかけて、CD-ROM(甲第1号証の1)、案内文(甲第1号証の3)及び2種類のカタログ(甲第1号証の4、5)を見た明確な記憶があった(甲第10号証の6)。
(ウ)特許法29条1項3号でいう「刊行物」とは「公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書、図面その他これに類する情報伝達媒体」(工業所有権法逐条解説[第19版]特許法82頁)と解されており、被請求人により2006年10月頃に頒布されたCD-ROMは情報伝達媒体として「刊行物」に当たる。
イ 甲第1号証の1で開示されている発明(審判請求書31頁下から3行?37頁12行を参照。)
(ア)杭圧入引抜機について
甲第1号証の1のWP100ACは、本件特許発明1の構成要件(1-A)?(1-E)の構成を全て備えた杭圧入引抜機である。
構成要件(1-A)?(1-E)を充足する杭圧入引抜機は、甲第8号証の請求項1において開示されており、かかる意味でも公知の構成である。
(イ)オーガ併用鋼矢板圧入工法
甲第1号証の1の動画には、普通鋼矢板施工(動画1:54?5:43)及び広幅型鋼矢板施工(動画5:44?8:12)が収録されているが、それに先立つ先行削孔(動画1:21?1:53)の章では、鋼矢板の種類を問わずに、先行掘削は共通の手順として説明されている。
特に、広幅型鋼矢板施工(動画5:44?8:12)の章では、「一般的に広幅型鋼矢板では、先行削孔後、矢板を同時圧入。」(動画5:48)と表示され、広幅型鋼矢板では地盤を問わず、オーガケーシングのみで先行掘削してから、同時圧入をしている。
具体的には、「広幅型鋼矢板施工 Driving 600mm U piles」(動画5:44)及び「IIIw型 10m」(動画6:10)との記載から、動画において圧入された広幅型鋼矢板は10m長のIIIw型であって、一般的な規格品の1種である(甲第9号証の1)。
先行掘削位置は、(動画5:58)の画面に表示されたとおり、鋼矢板を圧入する継手付近である。「先行削孔オーガ位置」の説明文があり、オーガケーシングの外形はオレンジ色で示されていることから、赤色の点線部分が先行掘削範囲を示しており、オーガヘッドの直径に相当する。
したがって、動画の工法は、本件特許発明1の構成要件(1-F)及び(1-I)の「オーガ併用鋼矢板圧入工法」であり、同構成要件(1-G)「杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて先行掘削」している。
同時圧入において使用されているオーガは、先行掘削のオーガと同形式のオーガが記載されているのであるから、同時圧入の掘削範囲は明示されていないが、少なくとも先行掘削した地盤と連続していると認められる(注:同時圧入のオーガケーシングを取り囲む大きな円は、オーガケーシングと鋼矢板を収容している杭掴み装置を示していると解される。)。
また、鋼矢板の抵抗を減じるために、鋼矢板を装備することなくオーガケーシングを挿通してチャックし、鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を先行掘削することは、周知技術であった(甲第6、7号証)。
ウ 本件特許発明1と甲第1号証の1との相違点(審判請求書37頁13行?38頁5行を参照。)
両者の相違点は、以下のとおりである。
【相違点】
本件特許発明1では、同時圧入での掘削範囲は先行掘削した地盤と併せて「鋼矢板を圧入する地盤の全域」となるのに対し、
甲第1号証の1では、同時圧入に用いられたオーガの直径(掘削範囲)が明記されておらず「鋼矢板を圧入する地盤の全域」が掘削されているか否か明らかでない点。
エ 本件特許発明1の進歩性欠如について(審判請求書38頁6行?41頁下から4行を参照。)
(ア)相違点は容易想到であること
甲第1号証の1の先行掘削では、オーガケーシング径より大径のオーガが用いられているのは明らかである。
(動画5:58)の図等では先行掘削に用いられたオーガの種類は明示されていないが、当業者であれば、オーガケーシング径より大径なオーガヘッドとして、拡径可能なオーガを用いることは容易に想到できる(甲第2ないし5号証)。
甲第1号証の1の(動画5:58)の図には、先行掘削と同形式のオーガケーシングが、同時圧入において使用されていると記載されているのであるから、その掘削範囲も、先行掘削と同じ範囲であると解するのが自然であるところ、そう解すれば、先行掘削した地盤と併せて「鋼矢板の圧入する地盤の全域」が掘削される。そして、同時圧入時のオーガとして上記拡径可能なオーガを使用することにより、「鋼矢板の圧入する地盤の全域」を掘削することができることは、甲第2ないし5号証から容易に知られるのである。
(イ)甲第2ないし5号証を組み合わせる動機付けがあること
甲第1号証の1のWP100ACは「硬質地盤対応鋼矢板圧入機」であるところ、硬質地盤においては、鋼矢板の圧入を容易にする目的で「鋼矢板を圧入する地盤の全域」を掘削することは、周知の事項である(甲第2ないし6号証)。
すなわち、WP100ACが想定している硬質地盤では、鋼矢板の圧入を容易にするには全域掘削が必要である(少なくとも望ましい)ことが、当業者には容易に理解される。
したがって、当業者であれば、甲第1号証の1の(動画5:58)の図等において、先行掘削の掘削範囲と併せて同時圧入時に「鋼矢板を圧入する地盤の全域」を掘削する必要があるので、甲第1号証の1と同一技術分野であり、かつ、甲第1号証の1と同じ形状の鋼矢板(U型鋼矢板)を拡径可能なオーガを使用して同時圧入している甲第2ないし5号証を組み合わせて、甲第1号証の1の同時圧入のオーガを拡径可能なものとする積極的な動機付けがある。
甲第1号証の1の(動画5:58)の図のオーガとして、甲第2ないし5号証に開示された拡径可能なオーガを採用すれば、同時圧入において「鋼矢板を圧入する地盤の全域」の掘削がなされることは自明である。
オ 本件特許発明2ないし4の容易想到性について(審判請求書41頁下から3行?42頁下から5行を参照。)
(ア)本件特許発明2
本件特許発明2は独立請求項であるが、実質的に本件特許発明1の態様を、既設杭に続けて新たな鋼矢板を連続的に圧入する場合に限定したものであるので、本件特許発明1と同じ議論が当てはまる。
また、本件特許発明2は鋼矢板の継手部を相互に噛合させているが、これは、連続的に鋼矢板を圧入する場合の当然の事項である。甲第1号証の1の(動画5:58)の図に鋼矢板の継手部を相互の噛合させることは開示されている。
よって、本件特許発明2は進歩性を有さない。
(イ)本件特許発明3
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2のオーガ併用鋼矢板圧入方法において、同時圧入を拡径可能なオーガを使用して行う態様に限定するものである。
甲第2ないし5号証には、同時圧入に拡径可能なオーガを使用して行う態様が開示されているから(甲第2号証の【0006】【図10】、甲第3号証の第2図、甲第4号証の第2図、甲第5号証の第2図)、本件特許発明3は進歩性を有さない。
(ウ)本件特許発明4
本件特許発明4は、本件特許発明1又は2オーガ併用鋼矢板圧入方法において、同時圧入を拡径可能なオーガを使用して行う際に、オーガの中心位置を鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する態様に限定するものである。
甲第1号証の1の(動画5:58)「先行削孔位置」の図は、同時圧入の際に、オーガの中心位置を鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置している。
甲第2ないし4号証には、同時圧入に拡径可能なオーガを使用して行う際に、オーガの中心位置を鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置しており(甲第2号証の【0006】【図10】、甲第3号証の第2図、甲第4号証の第2図)、本件特許発明4は進歩性を有さない。
カ 本件訂正発明1ないし4について
本件訂正発明1の訂正内容は実質的に意味のあるものではなく、甲1発明から容易に想到しえることから、進歩性を欠如し無効である。本件訂正発明2ないし4も同様に無効である(弁駁書2頁14?18行を参照。)。
甲1発明において「鋼矢板を圧入する地盤の全域」を掘削する場合には、自動的に、本件訂正発明1が特許請求の範囲内として想定する掘削態様となることは明らかなので(本件図8「本発明の圧入工法の説明図。」に酷似し、本件訂正発明1の特許請求の範囲内)、「鋼矢板を圧入する地盤の全域」を「少ない面積で掘削する」は、進歩性の議論において意味のある訂正ではない(弁駁書5頁9?13行を参照。)。
甲1映像の5:58先行削孔位置図において、先行削孔と同じオーガを同時圧入に用いた場合に、当然の帰結として、本件訂正発明1でいうところの「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削」する態様と同じになる(弁駁書9頁16?19行を参照。)。

(2)無効理由2(公然実施に基づく新規性欠如)
ア 本件発明は、出願日前である平成17年5月9日?同年6月15日の間に、高松市における機械式地下駐輪場(エコサイクル)のための鋼矢板圧入工事(以下「高松市エコサイクル工事」という)において、請求人の100%子会社である株式会社技研施工によって公然実施されていた。
(審判請求書42頁下から3行?43頁1行を参照。)
イ 現場報告書(甲第11号証の1)、作業日報(甲第11号証の2)及び陳述書(甲第11号証の3)に基づいて工事内容を説明する。
なお現場報告書(甲第11号証の1)は、工事が行われた直後に、その経験を整理して将来の参考にするために作成されたものであり、本件無効審判とは無関係に作成され保存されていた。
また作業日報(甲第11号証の2)は、工事の進捗状況を記録するために、高松市エコサイクル工事に関する陳述書(甲第11号証の3)の陳述者により毎日作成されたものである。
元請業者の要望を受けて、エコサイクル1(審決注:「1」は原文では丸数字。以下同様。)及びエコサイクル3(審決注:「3」は原文では丸数字。以下同様。)は圧入方法を、現場報告書(甲第11号証の1)27頁下段に「φ310ヘッド先行削孔+φ480拡縮ヘッド同時圧入」に図示されている方法に変更した。
この結果、先行掘削の掘削範囲と、同時圧入の掘削範囲を合せて「鋼矢板を圧入する地盤の全域」を掘削した。
すなわち、構成要件(1-F)?(1-H)に該当する、本件発明と同じオーガ併用鋼矢板圧入工法が実施されたものである。
かかる圧入方法が実際に適用されたことについては、例えばエコサイクル1(2基目)に関する平成17年6月1日作業日報(甲11号証の2)の11頁において、杭No.2及び杭No.3について以下のように記載されている。
「杭No.2 11:08?11:25先行掘削 拡縮ヘッドの拡縮爪無し。φ310mm
L=15.0m エアー無し
エコサイクル2と比べ、粘土質地盤が下がっている(約1.0m)
13:35?14:20 圧入 拡縮ヘッド φ480mm
エアー無し
14:25?14:35 ケーシング引抜。
杭No.3 14:35?14:45 拡縮爪取り外し。
L=15.0m 14:45? 先行掘削 拡縮ヘッドの拡縮爪無し。φ310mm
エアー無し
15:25?16:10 圧入 拡縮ヘッド φ480mm
エアー無し
16:16? ケーシング引抜。 」
(審判請求書45頁下から3行?48頁9行を参照。)
ウ 「高松市エコサイクル工事」は、外部から視認可能であったこと(甲第11号証の1及び3)、及び、秘密保持義務を負わない第三者が工事現場に多数いたこと(甲第12号証の1ないし5)から、公然に実施されたものである。
(審判請求書51頁3行?57頁8行を参照。)
エ 現場報告書(甲第11号証の1)及び作業日報(甲第11号証の2)は、社内では北村代表取締役社長に加えて、正木部長(既に退職。平成17年当時は技研施工の管理部部長および業務部西日本事業所所長を兼任)などに報告した。
社外に対しては現場報告書(甲第11号証の1)及び作業日報(甲第11号証の2)の書面による報告はしていない。元請業者である西松・合田共同企業体には、現場における打合せや一日の終了報告で、進捗状況を口頭で報告していた。打ち合わせ内容の要旨は、作業日報(甲第11号証の2)に記載されているとおりである。
(陳述要領書32頁下から3行?33頁5行を参照。)
オ 第三者が作成した書面として、元請業者の西松・合田共同事業体が作成した平成17年5月分の「工事報告書」を甲第14号証の1、同年6月分の「工事報告書」を甲第14号証の2、建築意匠監理担当の株式会社三木建築設計事務所が作成した平成17年5月分の「工事監理報告書」を甲第15号証の1、同年6月分の「工事監理報告書」を甲第15号証の2として、それぞれ提出する。
現場報告書(甲第11号証の1)及び作業日報(甲第11号証の2)は、工事開始日、工事完了日、工事の遅れと杭圧入引抜機(ZC70)2台目投入の経緯、工事現場の写真、本件工事の関係者が、第三者が作成した書面と記載が整合しており、十分な信用性を有する。
(陳述要領書36頁13行?39頁下から5行を参照。)

(3)無効理由3(明確性要件違反)
本件訂正発明1の発明特定事項である、2つの先行掘削と同時圧入による掘削範囲が「少ない面積で掘削」について、その範囲が曖昧であり不明確である。
本件特許明細書の段落【0031】、【0032】で具体的に例示された態様であれば「少ない面積で掘削」に該当するとしても、例示された態様以外については、何を基準として「少ない面積で掘削」にあたると判断するのか、不明確である。
その他、2つの先行掘削と同時圧入により「少ない面積で掘削」する場合の具体的な範囲について、本件出願当時の技術常識は存在しない。
以上のとおり、本件特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、「少ない面積で掘削」との発明特定事項の範囲について、当業者が理解できるものではないから、本件訂正発明1は明確性要件違反として無効である。本件訂正発明2?4も同様に、明確性要件違反で無効である。
(弁駁書13頁12行?16頁3行)

第5 被請求人の主張
1 主張の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成27年12月8日付け答弁書、平成28年3月31日付け口頭審理陳述要領書を参照。)。

(1)無効理由1について
ア 甲1の1映像は本件特許発明1の課題とは無関係であって、又本件特許発明1の構成「1-G」「1-H」を開示も示唆もしていないため、本件特許発明1の出発点となるものではないし、甲1の1映像から本件発明を想到できるものでもない。
イ 甲2?甲7には、いずれも本件特許発明1の特徴的構成を開示も示唆もしておらず、又甲1の1映像とは「課題の共通性」「作用・機能の共通性」が全くない。
ウ そのため、甲2発明?甲7発明を甲1の1映像に適用したとしても本件特許発明1が得られるわけでもなく、又甲2発明?甲7発明を甲1の1映像に適用することを許容する記載や示唆はいずれにも存在せず、甲2発明?甲7発明を甲1の1映像に適用することについての動機付けは全く存在しない。
エ よって、本件特許発明1に対する無効理由1は理由がない。同様の理由により、本件特許発明2?4に対する無効理由1は理由がない。
(答弁書49頁下から3行?50頁11行)
(2)無効理由2について
ア 甲11の1?4は、本件発明の実施を裏付けるものではなく、当然ながら、甲12の1?5にも本件発明と関係するような事実は何ら記載されておらず、本件特許発明1?4はいずれも甲11の1工事において公然実施されたものではない。
イ よって、本件特許発明1?4に対する無効理由2は理由がない。
(答弁書50頁12?17行)

また、被請求人は、本件訂正発明1ないし4に対する無効理由1ないし3は理由がないと主張している(平成28年9月6日付け上申書、第2答弁書)。

(証拠方法)
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:陳述書(株式会社コーワン 伊垣 実浩)
乙第2号証:第2回審決(無効2013-800015)に対する審決取消訴訟(平成25年(行ケ)第10301号)における原告(請求人)の証拠説明書(2)の写し
乙第3号証:第2回審決に対する審決取消訴訟(平成25年(行ケ)第10301号)の判決の写し
乙第4号証:特開2002-167758号公報
乙第5号証:特開2002-129558号公報

2 無効理由に対する具体的な反論
(1)無効理由1(進歩性欠如)に対する反論
ア 甲1の1について(答弁書13頁1?下から3行を参照。)
(ア)甲1の1映像は、被請求人の敷地内における試運転場において行った被請求人の製造・販売にかかる硬質地盤対応鋼矢板圧入機(WP100AC)(以下、甲1の1圧入機という)のオーガ掘削と、普通鋼矢板(継手ピッチ400mmのU型鋼矢板)及び広幅型鋼矢板(継手ピッチ600mmのU型鋼矢板)を圧入時にオーガ掘削を併用して圧入する社内試験を撮影した映像である。
(イ)社内記録を確認したところ、営業活動として特定の顧客に対する「カタログ(WP100AC)2006.10.27」の発送記録があった。この発送記録にはCD-ROMそのものの発送は記録されていなかったが、カタログとともに甲1の1映像を収録したCD-ROMを送付したと思われる。前記した発送記録には、カタログの発送先として「株式会社西部工建」(甲10の1)「北城重機興業有限会社」(甲10の3)「株式会社伊藤工業」(甲10の4)「株式会社石走商会」(甲10の5)「勿来建機株式会社」(甲10の6)は掲載されていた。
(ウ)甲1の1圧入機は、被請求人が初めて製造したオーガによる掘削を併用した鋼矢板圧入機であり、社内試験の目的は専ら甲1の1圧入機によるオーガの掘削状況を確認することにあり、CD-ROMの配布目的は、実際にオーガによる掘削を併用した甲1の1圧入機が完成しており、オーガ掘削が可能であることを特定の顧客に視て貰うことであった。
イ 甲1の1の映像に開示された内容について(答弁書17頁1行?26頁16行を参照。)
(ア)オーガヘッドについて
甲1の1映像では、その全編を通じて同一の甲1の1圧入機を使用するとともに、同一のオーガケーシング、オーガヘッドを使用している。即ち、使用したオーガヘッドは1種類のみである。そして、使用したオーガヘッドは、オーガケーシングの外径内に収まる固定径のオーガヘッドであり、拡径するオーガヘッドではない。
(イ)先行掘削の範囲について
請求人は、甲1の1の(動画5:58)の図において、「先行削孔オーガ位置」と矢印で示した3つの「2点鎖線の円」はオーガヘッドの直径を示しており、2点鎖線の円が「先行削孔の掘削範囲」であると主張している。
しかしながら、甲1の1映像におけるオーガヘッドが、オーガケーシングの外径内に収まる固定径のオーガヘッドであることは既に詳述した通りである。そのため、オーガケーシングの直径を超えて図示された「2点鎖線の円」が「先行削孔の掘削範囲」を説明するために記載されたものでないことは明らかである。「2点鎖線の円」は、(動画5:58)の図に「先行削孔位置」と記載されており、又2点鎖線は製図上工具等の位置を示す仮想線であって、単に先行削孔する際のオーガの位置を示しているものであり、請求人が主張するような先行削孔の範囲や先行削孔相互の削孔範囲の関係を示すものではなく、もとより圧入時の同時掘削の範囲との関係について考慮したものでもない。その証左として甲1の1映像の何処にもこれらの関係について開示や示唆をした映像は存在しない。請求人の主張は甲1の1映像に基づくものではない。
また、甲1の1映像には拡径のための拡縮可能な掘削刃を有するオーガヘッドは存在せず、明らかに固定径のオーガを使用しているため、2点鎖線で図示された範囲を先行掘削することができない。このことからしても、甲1の1の(動画5:58)の図に示す赤の2点鎖線の円が「先行掘削の範囲」を示すものではなく、又そのような技術情報を得ることができないことが判る。
さらに、甲1の1映像では、同一のオーガケーシング,オーガヘッドを使用して継手ピッチが400mmの普通鋼矢板と、継手ピッチが600mmの広幅型鋼矢板を施工している。甲1の1の(動画5:58)の図は広幅型鋼矢板の施工例を示しているものであるため、同一の縮尺で普通鋼矢板を施工した場合に当て嵌めてみると、「2点鎖線の円」は図面として重複してしまう。このことからも、「2点鎖線の円」が「先行削孔の掘削範囲」を説明するために記載されたものではなく、又先行掘削相互の間隔を空けることを説明しているものでないことは明らかである。甲1の1映像のどこにも先行掘削相互の関係について開示した映像や説明は存在しない。
(ウ)小括
以上詳細に検討した通り、甲1の1映像は本件発明の課題とは無関係であって、又本件発明の構成「1-G」「1-H」「2-G」「2-H」「3-A」「4-A」「4-B」を開示も示唆もしていないため、本件発明の出発点となるものではないし、甲1の1映像から本件発明を想到できるものでもない。
ウ 本件特許発明1の容易想到性について(答弁書37頁下から4?末行)
甲2発明?甲7発明は、甲1の1映像とは解決課題を全く異にするため、甲2発明?甲7発明を甲1の1映像に適用する動機付けがなく、甲1の1映像に甲2発明?甲7発明を適用することによって、本件特許発明1を容易に想到することはできない。
エ 本件訂正発明1ないし4について
(ア)甲2発明?甲7発明は、甲1の1映像とは解決課題を全く異にするものであり、又審決予告の引用する甲6の「全域掘削」は本件発明の対象とする「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」を使用して行う特定の「全域掘削」ではなく、更に甲7には審決予告が認定する「全域掘削」は開示されていないため、甲2発明?甲7発明を甲1の1映像に適用する動機付けがなく、甲1発明に甲2発明?甲7発明を適用したとしても、本件訂正発明1を容易に想到することはできない。
よって、本件訂正発明1に対する無効理由1は理由がない。
また、同様に本件訂正発明2ないし4に対する無効理由1も理由がない。
(平成28年9月6日付け上申書21頁下から3行?22頁7行)
(イ)甲1発明は「圧入する鋼矢板の地盤の全域を掘削する」ことを解決課題としていない。副引例である甲2発明?甲7発明も、「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」という特定の杭圧入引抜機を使用し、かつ、2つの先行掘削と鋼矢板の圧入時の同時掘削によって「圧入する鋼矢板の地盤の全域を掘削する」ための構成を開示も示唆もしていない。そのため、甲2発明?甲7発明を甲1発明に適用したとしても本件訂正発明1が得られるわけではなく、又甲2発明?甲7発明を甲1発明に適用することを許容する記載や示唆はいずれにも存在せず、甲2発明?甲7発明を甲1発明に適用することについての動機付けは全く存在しない。
(第2答弁書14頁21?31行)

(2)無効理由2(公然実施に基づく新規性欠如)に対する反論
ア 甲11の1工事において、本件発明にかかる方法を使用したことは甲11の1?4に示されていない(答弁書49頁5?6行)。
イ 甲12の1?5には、甲11の1工事の公然性はもとより、本件発明との関係を示すような事実は何ら記載されていない(答弁書49頁9?10行)。
ウ 甲11の1(現場報告書)、甲11の2(作業日報)は、請求人と一体視される技研施工の社内資料であり、その記載内容を第三者が客観的に検証する術がなく、証明力に欠ける(答弁書49頁12?14行)。

(3)無効理由3(明確性要件違反)に対する反論
本件発明では、「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」という特定の杭圧入引抜機を使用し、かつ、一定の間隔を空けた2つ先行掘削と鋼矢板の圧入時の同時掘削によって前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに、前記2つの先行掘削と併せて圧入する鋼矢板の地盤の全域を掘削する工法であることを発明特定事項としている。
よって、これらの発明特定事項によって特定される掘削範囲が、「同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削すること」であり、発明特定要件として明確である。
(第2答弁書16頁15?22行)

第6 無効理由1(進歩性欠如)についての検討
1 証拠について
(1)甲第1号証の1について
ア 甲第1号証の1が公知の刊行物であるか否か
(ア)甲第1号証の1は、「硬質地盤対応広幅型鋼矢板圧入機 TILT PILER CRUSHチルトパイラークラッシュWP100AC」及び「KOWAN」と付されたCD-ROMであって(甲第1号証の2の3頁の図1aを参照。)、WP100ACを使用したオーガ併用鋼矢板圧入工法に関する動画(その内容については甲第1号証の2も参照。)が収録されている(以下、甲第1号証の1のCD-ROMを「甲1媒体」といい、それに収録された動画(映像)を「甲1映像」という。)。また、甲1媒体の最終更新日は、2006年(平成18年)10月21日である(甲第1号証の2の3頁の図1bも参照。)。
(イ)甲第1号証の3は、「新製品のご案内」と題された案内文であり、「平成18年10月吉日」、「株式会社コーワン」、及び「カタログ及び、WP100ACの試験施工による説明ビデオを同封させていただきますので、ご質問やご不明な点がございましたら、下記までご連絡下さい。」と記載されている。
(ウ)甲第10号証の1、甲第10号証の3、甲第10号証の4、及び、甲第10号証の5の陳述書からは、株式会社西部工建、北城重機興業有限会社、株式会社伊藤工業、及び、株式会社石走商会が、甲1媒体を所持していたことが認められる。また、甲第10号証の6の陳述書からは、勿来建機株式会社が、甲1媒体及び甲第1号証の3を受領したことが推認できる。
(エ)被請求人は、答弁書(上記第4の2(1)アを参照。)において、営業活動として特定の顧客に対して、「カタログ(WP100AC)2006.10.27」とともに甲1媒体を送付したこと、及び、送付先として株式会社西部工建、北城重機興業有限会社、株式会社伊藤工業、株式会社石走商会、及び、勿来建機株式会社が含まれていることを概ね認めている。
(オ)上記(ア)ないし(エ)から、甲1媒体は、被請求人が、平成18年10月頃に多数の土木事業者に配布されたものと認められる。
(カ)また、特許法第29条第1項第3号でいう「刊行物」とは「公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書、図面その他これに類する情報伝達媒体」(工業所有権法逐条解説[第19版]82頁)とされているから、甲1媒体は「刊行物」に該当する。
(キ)よって、甲1媒体は、本件出願前に頒布された刊行物である。

イ 甲1映像について
甲1媒体には、甲1映像が収録されており、具体的には以下の事項が記載(開示)されている(映像の秒数を(0:01)などと示す。また、甲第1号証の2も参照のこと。)。
(ア)(0:01?0:14)
「WP100AC 硬質地盤対応鋼矢板圧入機 Press-in Machine for the hard ground」とのタイトルが記載されている。
(イ)(0:15?1:20)
(0:15)に「オーガ組立 Assembling of Auger」と記載されており、続いてそれに係る映像が記載されている。
(ウ)(1:21?1:53)
(1:21)に「先行削孔 Pre drilling」と記載されており、続いてそれに係る映像が記載されている。
(1:25)に「オーガケーシングだけの先行削孔。」との説明が記載されている。
(エ)(1:54?5:43)
(1:54)に「普通鋼矢板施工 Driving 400mm U piles」と記載されており、続いてそれに係る映像が記載されている。
(2:00)に「地盤によっては先行削孔後、矢板を同時圧入。」、
(2:04)に「オーガケーシングに矢板をセット。」、
(2:30)に「矢板を同時圧入。」との説明が記載されている。
(3:10)に「支持力が十分になったら本体を自走。」との説明があり、(3:10?3:40)にWP100ACのスライドベースが前後にスライドし、圧入機が自走している様子が記載されている。
(4:00)に「オーガシリンダーにより先行削孔後、メインシリンダーによる圧入施工。」との説明が記載されている。
(オ)(5:44?8:12)
(5:44)に「広幅型鋼矢板施工 Driving 600mm U piles」と記載されており、続いてそれに係る映像が記載されている。
(5:48)に「一般的に広幅型鋼矢板では、先行削孔後、矢板を同時圧入。」との説明があり、(5:58)には下記のとおりの「先行削孔位置」の図(以下「先行削孔位置図」という。)が図示されており、「先行削孔オーガ位置」が示されている。


(6:10)に「IIIw型 10m」との説明があり、(6:08?6:20)にWP100ACの杭掴み装置が旋回している様子が記載されており、また、(6:20?8:10)に、昇降体が昇降している様子が記載されている。
(カ)(8:13?9:06)
(8:13)に「硬質地盤対応 鋼矢板圧入機仕様」と記載されており、続いてそれに係る映像が記載されている。
(8:22)に「本体仕様」が記載されており、「最大圧入力 800kN」「最大引抜力 900kN」「圧入速度 3.0?36.0m/min」「引抜速度 2.4?28.0m/min」「適応鋼矢板 IIw?IVw・V_(L)・VI_(L)(普通鋼矢板も適応可)」「移動方法 自走式」などと記載されている。
(8:37)には「オーガ仕様」としてWP100ACにオーガケーシングを取付けた下記のとおりの全体図(以下「オーガ仕様図」という。)が図示されている。


(キ)(9:07?9:21)
WP100ACに関する問い合わせ先として、株式会社コーワンの連絡先等が記載されている。

ウ 甲1発明の認定
(ア)甲1媒体には、甲1映像として上記イの事項が記載されており、甲第1号証の4の「WP100ACのカタログ」を踏まえると、本件訂正発明1の(1-A)ないし(1-F)(1-I)に相当する構成が記載されていると認められる。この点は、被請求人も上記第5の2(1)イ(ウ)の主張、及び、平成28年9月6日付け上申書19頁23?24行に「甲1発明は、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して、オーガによる掘削を併用して鋼矢板を圧入する点においては、本件発明1と一致する」と記載しているように、争っていない。
(イ)また、甲1媒体には、上記イ(ウ)のとおり「先行削孔」を行うことが記載されており、また、上記イ(エ)(オ)のとおり「先行削孔後、矢板を同時圧入」することが記載されている。
(ウ)さらに、上記イ(オ)で摘記した先行削孔位置図には、「先行削孔オーガ位置」が2点鎖線の円で示されているから、2点鎖線の円で囲まれた部分は、オーガによって先行削孔される範囲を示すものと解することができる。加えて、上記イ(エ)(オ)を踏まえて当該図を見ると、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、相互に一定の間隔を空けて2つ先行削孔されること、及び、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として同時圧入するときのオーガによる掘削が、2つの先行掘削した地盤と連続することが読み取れる。なお、「先行削孔」は「先行掘削」と同義である。
(エ)以上のとおりであるから、甲1媒体には、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「(1-a)下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、
(1-b)該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、
(1-c)該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、
(1-d)昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置
(1-e)を具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して、
(1-f)オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、
(1-g)杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し、
(1-h’)その後、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として、杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに、オーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行う
(1-i)オーガ併用鋼矢板圧入工法。 」

エ 被請求人の主張について
(ア)被請求人は、甲1映像におけるオーガヘッドが、オーガケーシングの外径内に収まる固定径のオーガヘッドであるため、オーガケーシングの直径を超えて図示された「2点鎖線の円」が「先行削孔の掘削範囲」を説明するために記載されたものでないことは明らかであり、また、「2点鎖線の円」は、先行削孔位置図(5:58の図)に「先行削孔位置」と記載されており、又2点鎖線は製図上工具等の位置を示す仮想線であって、単に先行削孔する際のオーガの位置を示しているものであり、請求人が主張するような先行削孔の範囲や先行削孔相互の削孔範囲の関係を示すものではなく、もとより圧入時の同時掘削の範囲との関係について考慮したものでもない旨主張する。

(イ)しかしながら、被請求人の主張は、以下のとおり採用できない。
a 甲1映像におけるオーガヘッドが、被請求人が主張するとおりオーガケーシングの外径内に収まる固定径のオーガヘッドであるとしても、「硬質地盤対応鋼矢板圧入機 WP100AC」に使用するオーガヘッドは、使用態様に応じて様々な種類のものが使用可能であって(被請求人は、WP100ACが拡径可能な掘削刃と固定径の掘削刃とのいずれについても使用可能であることを、争っていない。)、甲1映像、甲第1号証の2(案内文)、及び、甲第1号証の4(カタログ)において、オーガヘッドの種類は限定されていないから、甲1発明は、甲1映像の作成時に使用されたオーガヘッドの種類に限定されるべき理由はなく、オーガケーシングの外径内に収まらない周知の拡径オーガヘッドなどを採用することも排除してないと解釈できる。そして、先行削孔位置図(5:58の図)において、「先行削孔オーガ位置」を示す2点鎖線の円が、オーガケーシング(右端の2点鎖線の内側の実線で示されたもの。)の外径より大きいことは、周知の拡径オーガヘッドを採用することを示すものと解釈するのが合理的である。
b また、「2点鎖線」を製図上工具等の位置を示す仮想線と解釈しなければならない根拠もない。仮に工具等を示すとしても、オーガは、回転軸、オーガケーシング、及びオーガヘッドより構成されるところ、先行削孔位置図にはオーガケーシングの位置が実線により明記されているから、2点鎖線の円はオーガヘッドの位置を示すものといえる。すなわち、掘削刃は回転する部材であるから、先行削孔の際に回転する掘削刃の通過する位置または範囲を示すものといえる。

(2)甲第2号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件出願前に頒布された甲第2号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本願発明は、土留壁や遮水壁などを形成するための鋼材を地盤中に建て込むための鋼材の建込み方法および該方法に使用される装置に関するものであり、例えば形鋼と組み合わされた鋼矢板等、建込みのための掘削断面が大きくなる鋼材の施工に適している。」
「【背景技術】
【0004】
一方、U型鋼矢板などの比較的単純な形態の鋼材を地盤中に低振動・低騒音で建て込む工法としては、例えば、特許文献1?3に記載されるように、地盤からの抵抗により翼状に拡開するようにした掘削刃からなる拡径可能な掘削翼をオーガ(アースオーガ)の先端に設け、この掘削翼を利用して地盤を掘削しながら、オーガ軸に沿わせた鋼矢板を該掘削翼による掘削部分に圧入して行く方法が実用化されている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1?3に記載された方法は、鋼矢板を所定の深さまで建て込んだ後、オーガを引き抜く際に、オーガが鋼矢板に干渉することのないよう、オーガヘッドに掘削刃としての掘削翼が拡縮(拡開、閉刃)する機構を設け、掘削翼を利用して鋼矢板を建て込む部分を掘削しながら、これと並行して鋼矢板を圧入する方法であるが、その際、鋼矢板の圧入を円滑に行なうためには、図10に示すように掘削翼による掘削範囲が鋼矢板1a断面をほぼ包含するようにする必要がある(図中、d_(0)が攪拌翼の縮径時の外径、d_(1)が拡径時の外径である)。」
「【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に係る発明は、オーガにより地盤を掘削しながら、掘削と同時に鋼材を建て込む工程を、順次繰り返すことにより、地盤中に複数の鋼材を壁状に建て込んで行く鋼材の建込み方法において、後から建て込まれる鋼材を、先に建て込まれた鋼材の建込みの際に掘削された先行掘削範囲と、該後から建て込まれる鋼材の建込みの際に掘削される後行掘削範囲とに跨がるように建て込むことを特徴とするものである。
【0013】
背景技術の項で述べた特許文献1?4に係る発明においては、地盤中に建て込まれる鋼材は、特許文献4の2軸オーガの場合も含め、その鋼材の建込みの際に掘削された範囲に掘削と同時に建て込んでいるのに対し、本願発明では鋼材をその前に建て込まれた鋼材の建込みの際に掘削された先行掘削範囲とその鋼材の建込みの際に掘削される後行掘削範囲に跨がるように建て込むこととした。」
「【0022】
掘削径が大きい場合、特許文献1?3にも記載されているように、従来から拡径可能な掘削翼が用いられる場合が多いが、掘削翼を複数段に設け、先端側より後端側の掘削翼の掘削径が大きくなるようにすることで、各掘削翼の負担を軽減し、全体としての掘削能力を高めることができる。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
図2は、本願発明に係る先端アタッチメント21の一実施形態を示したもので、外周にスクリュー翼24を有する掘削軸14の先端部に、先端掘削ビット25と2段の拡縮可能な掘削翼26,27が設けられている。」
「【0053】
これらの下段および上段の掘削翼26,27はそれぞれ先端に掘削ビット26b,27bを有し、オーガ11(図3参照)が掘削方向に回転するときは機構的なストッパーにより伸びた状態、すなわち最大径の状態が維持され、オーガ11を逆回転したときは、土砂の抵抗によりそれぞれピン26a,27a位置で折れ曲がって縮径(最小径D_(0))し、その状態でケーシング14内を通じて引き上げられる。」

(3)甲第3号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件出願前に頒布された甲第3号証には、次の事項が記載されている。
ア 特許請求の範囲
「オーガー先端部に該オーガーの圧下時において自動的に拡開し、また該オーガー引上時において自動的に閉刃なる如く開閉自在の掘削刃を配備してなるアースオーガーを用いてシートパイル下面の土砂を掘削行なわしめ、且つ此れと並行にシートパイルを圧入して所定の深度到達後、アースオーガーを抜杆せしめ乍ら、該オーガー抜杆の孔跡内に貧配合充填材を充填するようにしたことを特徴とするシートパイルの施工工法。」(1頁左下欄5?14行)
イ 発明の詳細な説明
「先づ本発明施工に用いるオーガー装置を第1図乃至第2図に示す実施例について説明すると、オーガー軸(1)の下端部にオーガーヘッド(2)部分ならびに掘拡刃座部(3)を設け、該座部(3)に圧下時において周辺抵抗に抗して水平方向に自動的に拡開し、また此れが引き上げ時に自動的に閉刃なる如く掘削刃(4)(4)を相対的に開閉自在に枢支設けてなる構造よりなる。(2頁左下欄1?8行)。
「次に前記構造によるオーガー装置を用いてシートパイルAを施工するにおいて、先づ所定地上において第3図示の如くシートパイルAとオーガーBをセットし、オーガー減速機Dを駆動せしめ吐出口(6)より射出せるジェット水流とオーガーによる掘削作用によって地中にシートパイルAとオーガーBを徐々に沈下行なわしめるのであるが、該オーガーBの圧下作動によって掘削刃(4)(4)が自動的に拡開し、且つ此れが廻転し乍ら孔周の土圧抵抗を切開しシートパイルAを地層内に序々に沈下行なわしめるのである。」(2頁右下欄2?12行)。
「以上の如く本発明に係わるシートパイル施工工法は、オーガー先端部に該オーガーの下降と共に自動的に拡開し、また引き上げ時に自動的に閉刃する掘削刃を設けてなる特殊構造のアースオーガーを用い、シートパイル下面の土砂を掘削し、その摩擦を切開し乍ら、該オーガーの沈下と同時にシートパイルを圧入するようにしたものであって、如何なる地盤にもシートパイルを完全無音無振動にて確実容易に施工することができ得、」(3頁左下欄2?11行)。

(4)甲第4号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件出願前に頒布された甲第4号証には、次の事項が記載されている。
ア 特許請求の範囲
「オーガー先端部に該オーガー回転時において自動的に拡開し、また自動的に閉刃なる如く開閉自在の掘削刃を設けてなるアースオーガーを用いてシートパイル下面の土砂を掘削行なわしめると共に、並行にシートパイルを圧入し此れが所定の深度到達後、アースオーガーを抜杆せしめ乍ら、該オーガー抜杆による孔跡内に貧配合充填材を充填したことを特徴とするシートパイルの施工工法。」(1頁左下欄4?12行)
イ 発明の詳細な説明
「以下本発明施工に用いるオーガー装置を第1図乃至第2図に示す実施例について説明する。
オーガー軸(1)の下端部にオーガーヘッド(2)部分ならびに掘拡刃座部(3)を設け、該座部(3)に止転回転時、該回転方向に周辺抵抗に抗して自動的に拡開し、此れが逆転時自動的に閉刃なる如く数筒の掘削刃(4)(4)を開閉自在に枢支設けられている。」(2頁左上欄下から2行?右上欄6行)
「次に前記構造によるオーガー装置を用いてシートパイルAを施工する工法を順次的に説明すると、先づ所定地上において第3図示の如くシートパイルAとオーガーBをセットし、オーガー減速機Dを駆動せしめ吐出口(6)より射出せるジェット水流とオーガーによる掘削作用によつて地中にシートパイルAとオーガーBを序々に沈下行なわしめるのであるが、斯かる状体において掘削刃(4)(4)が自動的に拡開し、孔周の土圧抵抗を切開し乍ら沈下するのでシートパイルAの進入をきわめて容易円滑に行なわしめるのである。」(2頁右上欄16行?左下欄7行)。

(5)甲第5号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件出願前に頒布された甲第5号証には、次の事項が記載されている。
ア 特許請求の範囲
「オーガー軸下端部に掘削時において自動的に拡開し、且つ引き上げ時に自動的に閉刃する如く開閉自在に形成せしめて成る掘削刃装備をシートパイル凹溝内の軸芯位置より次打側パイル方向に若干偏心なる如く位置せしめ、前記掘削刃にてシートパイル下面および周辺土壌を掘削し乍ら此れと併行にシートパイルを地中に圧入し、所定の深度到達後、前記掘削刃を地上に抜杆し、該抜杆孔跡内に貧配合充填材を充填埋孔するようにしたことを特徴とするシートパイル施工工法。」(1頁左下欄5?末行)

(6)甲第6号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件出願前に頒布された甲第6号証には、次の事項が記載されている。
ア 考案の詳細な説明
「産業上の利用分野
本考案は、スクリュー式のアースオーガ装置により硬質地層、例えば硬質砂層、砂礫層、土丹層等に削孔しながらシートパイルを圧入する際、シートパイルを圧入するための先行削孔を掘進するための先行削孔掘進用治具に関する。」(明細書1頁15?末行)
「次に上記第2実施例および第3実施例に示す先行削孔掘進用治具を実施した圧入機によりシートパイルを圧入する動作について第8図A?Iおよび第9図A?Iを中心に説明する。
まず、第3図に示すようにオーガスクリュー13の軸の下端に筒状ケーシング12より掘削径の大きいオーガヘッド14aを連結し、第1図に示す電動機9の駆動により減速機10を介してオーガスクリュー13およびオーガヘッド14aを回転させ、アースオーガ装置6の自重およびワイヤの巻取りによる引き込みにより筒状ケーシング12と共に掘進し、第8図Aおよび第9図Aに示すように大径の孔H1を先行して掘削する。掘削後、オーガスクリュー13およびオーガヘッド14aを逆回転させながらワイヤの巻取りにより筒状ケーシング12と共に引き抜く。次に第8図Bおよび第9図Bに示すようにこの大径の先行削孔H1と少し離れた位置にオーガヘッド14aが対峙するように圧入機1を移動させ、上記と同様に大径の孔H2を先行して掘削し、オーガスクリュー13、筒状ケーシング12等を引き抜く。次に第8図Cおよび第9図Cに示すように上記先行削孔H1、H2と一部が重複し、これらに跨る位置にオーガヘッド14aが対峙するように圧入機1を移動させ、上記と同様に大径の孔H3を先行して掘削し、オーガスクリュー13、筒状ケーシング12等を引き抜く。このとき、先行削孔H1、H2側は掘削抵抗が少ないが、両側の抵抗がほぼ均等に少なくなるので、オーガヘッド14aはいずれの方向へも倒れることなく、したがって、鉛直方向に先行削孔H3を掘進することができる。次に第8図Dおよび第9図Dに示すように大きいオーガヘッド14aを小さいオーガヘッド14bに交換し(第2図参照)、このオーガヘッド14bが上記大径の先行削孔H3対峙するように圧入機1を移動させる。次にシートパイルP1をクレーンにより吊下げ、その下端部の係合部材Pbを筒状ケーシング12の下端部の係合部材16にその下方より係合し(第6図B参照)、シートパイルP1の上端を保持装置11に固定状態に保持させる(第1図参照)。次に上記と同様に電動機9の駆動によりオーガスクリュー13およびオーガヘッド14bを回転させ、アースオーガ装置6の自重およびワイヤの巻取りによる引き込みにより筒状ケーシング12と共に掘進し、小径の孔h1を掘削しながらこの小径の削孔h1に沿ってシートパイルP1を圧入する。このときシートパイルP1はそのほぼ全体が大径の先行削孔H3(H1、H2の一部を含む)内に位置し、地盤が攪拌されているので、容易に圧入することができる。」(明細書9頁11行?12頁3行)

(7)甲第7号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件出願前に頒布された甲第7号証には、次の事項が記載されている。
「1.はじめに
本報告はJR営業線近接工事における、河川内橋脚築造工事のうち、締切鋼矢板打設において、換算N値110以上の粘土混り砂轢層へ鋼矢板を圧入した施工実績についての報告である。」(VI-3-1頁1?5行)
「ii)施工
硬質地盤対応圧入機はケーシングチューブ内のオーガースクリューで鋼矢板腹部を先行削孔し、先端抵抗を減じ、ケーシング引抜抵抗力と既打設鋼矢板の反力で鋼矢板を圧入する工法である。
当工事では施工地盤が非常に固い事もあり、ケーシングオーガー単独で鋼矢板セクション部を先行削孔し、次に鋼矢板を圧入機にセットして削孔・圧入を行う。」(VI-3-1頁下から2行?2頁3行)

2 本件訂正発明1について
(1)本件訂正発明1と甲1発明との対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、次の一致点で一致し、相違点1で相違する。

(一致点)
「下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、
該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、
該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、
昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置
を具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して、
オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、
杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し、
その後、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として、杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに、オーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことを特徴とする
オーガ併用鋼矢板圧入工法。 」

(相違点1)
「オーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行う」(同時圧入)に関して、
本件訂正発明1では、「オーガによる掘削」が「2つの先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域」となるようにすることで「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削する」のに対し、
甲1発明では、オーガの直径(掘削範囲)が特定されておらず「鋼矢板を圧入する地盤の全域」が掘削されているか否か明らかでなく、「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削」されたか否かも明らかでない点。

(2)相違点1に係る判断
ア 鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削することについて
(ア)甲1映像において、先行削孔(先行掘削)は、上記1(1)イ(ウ)ないし(オ)のとおり、鋼矢板の地盤への圧入を容易にするためである。
(イ)また、甲第6号証には、上記1(6)で摘記した事項から、硬質地盤では鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削すると圧入が容易となることが記載されていると認められ、甲第7号証には、上記1(7)で摘記した事項から、硬質地盤において鋼矢板の圧入を容易にするために、圧入時の掘削の前に鋼矢板の継手部を先行掘削することが記載されていると認められ、甲第2号証(上記1(2)参照。)及び甲第3号証(上記1(3)参照。)には、鋼矢板を圧入する地盤のほぼ全域を掘削することが記載されていることから、硬質地盤では鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削すると圧入が容易となることは、本件出願前から周知の事項であるとともに、当業者にとって自明であるといえる。
(ウ)そうすると、甲1発明において、2つの先行掘削及び鋼矢板を圧入するときの掘削範囲を、鋼矢板を圧入する地盤の全域とすることは、当業者であれば容易に着想し得たことといえる。
(エ)さらに、甲1映像の先行削孔位置図において、鋼矢板を圧入する同時圧入時の掘削範囲は示されていないが、同時圧入時にも先行削孔(先行掘削)と同じオーガを用いて同様の掘削範囲を掘削するのが施工する上で合理的であるから、先行掘削及び同時圧入時の掘削範囲は、鋼矢板を圧入する地盤の全域、またはそれに近い範囲であると推測される。
(オ)加えて、甲第2ないし5号証には、上記1(2)ないし(5)で摘記したように、オーガケーシング径より大径なオーガヘッドとして、拡径可能なオーガを用いることが記載されており、本件出願前から周知の事項であるといえるので、甲1発明において、拡径可能なオーガを用いて、先行削孔位置図の先行削孔オーガ位置として示されている削孔範囲を掘削することは、当業者が容易になし得たことである。
イ 少ない面積で掘削することについて
(ア)本件特許明細書(上記第2の2を参照。)には「更に、いずれの手段においても鋼矢板の有効幅の寸法により、オーガの掘削直径を決定するため、広幅鋼矢板やハット形鋼矢板のように有効幅寸法が大きくなれば、それに伴ってオーガの掘削直径を拡大する必要があるため、オーガ掘削トルクの増大による装置の大型化や、作業能率の低下、或いは地盤を必要以上に掘削することにより、環境負荷が大きくなる等の問題があった。」(段落【0009】)、「ハット形鋼矢板20の圧入に際しても、前記した鋼矢板15の1本の圧入及び連続した圧入と同様であり、一定の間隔を空けて掘削した先行掘削Aと先行掘削Bとの間を連結掘削Cで連結することにより、圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を、少ない面積で掘削することができる。」(段落【0031】)、及び「ハット形鋼矢板の場合、幅方向Wの寸法が大きいため、図11に示すように、一度の掘削Eであっても、既設杭19と圧入するハット形鋼矢板20の掘削した範囲を合わせることにより、ハット形鋼矢板20の地盤の全域を掘削すること自体は可能である。しかしながら、そのためには掘削Eに示すように掘削径を大きくして広い面積を掘削することが必要であり、掘削抵抗が大きくなって、地盤によっては掘削ができなかったり、オーガ掘削機12として高い能力のものを使用する必要が生じる。これに対して、本発明によれば、圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を、少ない面積で、掘削抵抗が少なく掘削することができる。」(段落【0032】)と記載されている。
(イ)上記(ア)の本件特許明細書に記載の事項を参酌すると、本件訂正発明1の「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削する」ことは、2つの先行掘削と同時圧入掘削により鋼矢板の地盤の全域を掘削することが、一度の掘削によって鋼矢板の地盤のほぼ全域を掘削することに比べて少ない面積で掘削できることを意味するものと解することができる。
(ウ)そうすると、甲1発明において、拡径可能なオーガを用いて、先行削孔位置図の先行削孔オーガ位置として示されている削孔範囲を掘削し、同時圧入時にも先行削孔(先行掘削)と同じオーガを用いて同様の掘削範囲を掘削して、鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削した場合は、少ない面積で掘削したことになるといえる。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、甲1発明において、本件訂正発明1の相違点1のごとく構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)被請求人の主張について
ア 被請求人は、甲1発明は「圧入する鋼矢板の地盤の全域を掘削する」ことを解決課題としておらず、副引例である甲2発明?甲7発明も「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」という特定の杭圧入引抜機を使用し、かつ、2つの先行掘削と鋼矢板の圧入時の同時掘削によって「圧入する鋼矢板の地盤の全域を掘削する」ための構成を開示も示唆もしていないため、甲2発明?甲7発明を甲1発明に適用したとしても本件訂正発明1が得られるわけではなく、又甲2発明?甲7発明を甲1発明に適用することを許容する記載や示唆はいずれにも存在せず、甲2発明?甲7発明を甲1発明に適用することについての動機付けは全く存在しないので、甲1発明に甲2発明?甲7発明を適用することによって、本件訂正発明1を容易に想到することはできない旨主張する。

イ しかしながら、被請求人の主張は以下のとおり採用できない。
(ア)甲1発明と甲第2号証ないし甲第7号証に記載の発明(技術事項)は、ともに鋼矢板を地盤に圧入する技術分野に属するものである。
(イ)上記(2)ア(ア)及び(イ)でも述べたように、甲1発明は、鋼矢板の地盤への圧入を容易にすることを課題としているところ、甲第6及び7号証にも鋼矢板の地盤への圧入を容易にすることが記載されている。
(ウ)甲第2ないし5号証には、甲1発明と同様にオーガによる掘削について記載されており、特に、甲第2号証(段落【0006】)及び甲第3号証には、拡径可能なオーガにより鋼矢板を建てこむ範囲を掘削することにより、鋼矢板の圧入を容易にすることが開示されており、また、甲1映像の先行削孔位置図からも、オーガケーシング径より大径のオーガを用いていることが見てとれるので、甲1発明のオーガとして甲第2ないし5号証に記載のごとく周知である拡径可能なオーガを用いることは、当業者であれば容易に着想し得たことである。

(4)むすび
以上のとおり、本件訂正発明1は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明(甲1発明)及び甲第2ないし7号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前に、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正発明1の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

3 本件訂正発明2について
本件訂正発明2は独立請求項であるが、実質的に本件訂正発明1の態様を、「既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入する」場合に限定したものであって、本件訂正発明2では、「圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させて」いる。
しかしながら、鋼矢板の継手部を相互に噛合させることは、連続的に鋼矢板を圧入する場合の当然の事項であって、甲1映像の先行削孔位置図に鋼矢板の継手部を相互の噛合させることが開示されている。
よって、本件訂正発明2は、上記2(2)でした本件訂正発明1の進歩性判断と同様の理由で、進歩性を有しないものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正発明2の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

4 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2のオーガ併用鋼矢板圧入工法において、「鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削」(同時圧入時の掘削)を「拡径可能なオーガを使用して行う」態様に限定するものである。
しかしながら、上記2(2)で述べたように、同時圧入時に拡径可能なオーガを使用して掘削することは、甲第2ないし5号証に記載のごとく本件特許の出願前に周知であり、甲1発明のオーガとして上記周知の拡径可能なオーガを適用することも当業者にとって容易に想到し得たことである。
よって、本件訂正発明3は、上記2(2)でした本件訂正発明1の進歩性判断と同様の理由で、進歩性を有しないものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正発明3の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

5 本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1又は2のオーガ併用鋼矢板圧入工法において、「鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削」(同時圧入時の掘削)を「拡径可能な径大のオーガを使用して行う」際に、「オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する」態様に限定するものである。
しかしながら、甲1映像の先行削孔位置図からは、同時圧入の際に、オーガの中心位置を鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置していることが見て取れる。
また、上記2(2)で述べたように、同時圧入時に拡径可能なオーガを使用して掘削することは、甲第2ないし5号証に記載のごとく本件特許の出願前に周知であり、甲1発明のオーガとして上記周知の拡径可能なオーガを適用することも当業者にとって容易に想到し得たことである。
よって、本件訂正発明4は、上記2(2)でした本件訂正発明1の進歩性判断と同様の理由で、進歩性を有しないものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正発明4の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

第7 無効理由2(公然実施に基づく新規性欠如)についての検討
請求人は、本件発明は、出願日前である平成17年5月9日?同年6月15日の間に、高松市における機械式地下駐輪場(エコサイクル)のための鋼矢板圧入工事(以下「高松市エコサイクル工事」という。)において、請求人の100%子会社である株式会社技研施工によって公然実施されていたと主張する。
しかしながら、本件発明は、以下のとおり、本件出願日前に公然に実施されたとは認められない。

1 工事の実施について
高松市エコサイクル工事が、平成17年5月9日?同年6月15日の間に実施されていたことは、甲第12号証の1ないし4、甲第14号証の1ないし2、及び甲第15号証の1ないし2から認められる。

2 高松市エコサイクル工事が本件発明の工法によるのか否か
請求人は、上記第3の2(2)のとおり、甲第11号証の1(現場報告書)及び甲第11号証の2(作業日報)に基づいて本件発明の工法で実施された旨を主張する。
しかしながら、それらの証拠は、請求人の100%子会社である株式会社技研施工、すなわち請求人と実質的に一体といえる会社の従業員によって作成されたものであり、また、社外に対して書面による報告はなされていないから、第三者が客観的に検証することができないものであるので、そのことのみに基づいて本件発明の工法で実施されたとは推認できない。
また、平成28年1月29日付け審理事項通知書の1(1)イ(イ)で「甲第11号証の1(現場報告書),2(作業日報)に係る工事(以下「本件工事」という。)が、甲第11号証の1(現場報告書),2(作業日報)に記載されているとおりに実施されたことを第三者による証明等に基づき客観的に検証可能となるよう示してください。」と求めたのに対して、請求人は、甲第14号証の1ないし2、及び、甲第15号証の1ないし2を追加し、上記第3の2(2)オのとおり、現場報告書(甲第11号証の1)及び作業日報(甲第11号証の2)は、工事開始日、工事完了日、工事の遅れと杭圧入引抜機(ZC70)2台目投入の経緯、工事現場の写真、本件工事の関係者が、第三者が作成した書面と記載が整合しており、十分な信用性を有すると主張するが、甲第12号証の1ないし4、甲第14号証の1ないし2、及び、甲第15号証の1ないし2は、高松市エコサイクル工事(本件工事)が実施されたことを証明できるとしても、工事の具体的な内容が明らかではないから、本件発明の工法が実施されたことを証明できるものではない。
よって、高松市エコサイクル工事が、本件発明の工法により実施されたとは認められない。

第8 無効理由3(明確性要件違反)についての検討
請求人は、本件訂正発明1の発明特定事項である、2つの先行掘削と同時圧入による掘削範囲が「少ない面積で掘削」について、その範囲が曖昧であり不明確であって、本件特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、「少ない面積で掘削」との発明特定事項の範囲について、当業者が理解できるものではないから、本件訂正発明1は明確性要件違反として無効である、同様に本件訂正発明2ないし4も明確性要件違反として無効である旨主張する。

しかしながら、本件訂正発明1ないし4は、以下のとおり、明確である。
本件訂正発明1では、「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」を使用し、「オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに、前記2つの先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うこと」を発明特定事項としているから、掘削範囲は上記発明特定事項によって特定される範囲、すなわち2つの先行掘削と同時圧入時の掘削による範囲であることが理解できる。
そして、「少ない面積で掘削」とは、そのような掘削により得られるものであると解される。
また、本件特許明細書(第2の2を参照。)の段落【0031】、【0032】を参酌すると、本件訂正発明1の「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削する」ことは、2つの先行掘削と同時圧入掘削により鋼矢板の地盤の全域を掘削することが、一度の掘削によって鋼矢板の地盤のほぼ全域を掘削することに比べて少ない面積で掘削できることを意味するものと解することができる。
以上のことから、圧入する鋼矢板の地盤の全域を「少ない面積で掘削」することは、明確であるといえる。
よって、本件訂正発明1は明確である。同様に、本件訂正発明2ないし4も明確である。

第9 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1ないし4は、無効理由1により、すなわち、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
オーガ併用鋼矢板圧入工法
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーガによる掘削を併用して鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削することにより、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入するためのオーガ併用鋼矢板圧入工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種土木基礎工事における鋼矢板の圧入・引抜工事においては、振動、騒音の発生が少ない静荷重型杭圧入引抜機が採用されている。
【0003】
この静荷重型杭圧入引抜機は、既設の鋼矢板上に定置された台座の下方に複数の反力掴み装置(クランプ)を設けて、この反力掴み装置により既設杭をクランプすることによって反力を得て、杭掴み装置によりチャックした鋼矢板を地盤に圧入している。そのため、硬質地盤等において、杭掴み装置による圧入力が、既設杭から得られる反力を上回ったときには、鋼矢板を圧入できない場合がある。このような場合、鋼矢板の圧入と同時にオーガによる圧入地盤の掘削を併用することによって鋼矢板の圧入を可能としている。
【0004】
オーガによる掘削を併用する杭圧入引抜作業として、特許文献1によれば、鋼矢板の圧入部周辺を掘削することで、土圧の軽減を図る手段が示されている。また、特許文献2によれば、圧入すべき鋼矢板の中心に対してケーシング付きオーガの中心を鋼矢板の圧入施工の進行方向に沿って、先に圧入された鋼矢板の反対方向へずらし、オーガの径をオーガケーシングの径より大きく拡径可能なものとする手段が示されている。更に、特許文献3によれば、鋼矢板の位置決め精度を確保するためのオーガ装置用ガイド部材を使用して、ケーシング付きオーガで圧入する地盤を先行して掘削する手段が示されている。
【特許文献1】特公昭63-30451
【特許文献2】特開2002-167758
【特許文献3】特開2002-129558
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にかかる杭圧入引抜機は、図12に示すように、既設杭31の継手部31aに、凹部にオーガーケーシング33を抱持した鋼矢板32の一方の継手部32aを噛合させた状態で、杭圧入引抜機による圧入とオーガケーシングに挿通したオーガ(図示略)による掘削を同時に行う。そのため、オーガによる最大掘削範囲径34は、圧入する鋼矢板32の継手部32aと噛合する既設杭31の継手部31aと干渉することがない範囲に限られてしまうため、図12の鋼矢板32にハッチングを施した範囲の地盤が未掘削となり、鋼矢板32の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができず、硬質地盤において、圧入施工ができないことがある。
【0006】
特許文献2にかかる杭圧入引抜機も、図13に示すように、既設杭31の継手部31aに、凹部にオーガーケーシング36を抱持した鋼矢板35の一方の継手部35aを噛合させた状態で、杭圧入引抜機による圧入とオーガケーシングに挿通したオーガ(図示略)による掘削を同時に行う。特許文献2によれば、圧入する鋼矢板35の中心とオーガケーシング36を進行方向の前後にずらすことにより、特許文献1に示す手段に比べて、オーガの掘削範囲を拡大することができる。
【0007】
しかしながら、オーガによる最大掘削範囲径37は、圧入する鋼矢板35の継手部35aと噛合する既設杭31の継手部31aと干渉することがない範囲に限られてしまうことには変わりないため、図13の鋼矢板35にハッチングを施した範囲の地盤が未掘削となり、鋼矢板35の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができず、硬質地盤において、圧入施工ができないことがある。そのため、オーガケーシング36を鋼矢板35の圧入施工の進行方向に沿って、既設杭31の反対方向へずらして掘削するという煩瑣な作業が必要となり、作業効率が悪い。
【0008】
特許文献3によれば、先行して掘削する範囲と既設の鋼矢板の掘削範囲とが干渉するため、先行掘削時のオーガの掘削位置精度を保つために、オーガ装置用ガイド部材が必要となり、その脱着操作のための時間を要し、煩瑣な作業となって作業効率が悪い。
【0009】
更に、いずれの手段においても鋼矢板の有効幅の寸法により、オーガの掘削直径を決定するため、広幅鋼矢板やハット形鋼矢板のように有効幅寸法が大きくなれば、それに伴ってオーガの掘削直径を拡大する必要があるため、オーガ掘削トルクの増大による装置の大型化や、作業能率の低下、或いは地盤を必要以上に掘削することにより、環境負荷が大きくなる等の問題があった。
【0010】
そこで本発明はこのような従来の鋼矢板の圧入工法が有している課題を解決するため、オーガによる掘削を併用して鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削することにより、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入することのできるオーガ併用鋼矢板圧入工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を達成するために下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し、その後、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として、杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに、前記2つの先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削するオーガ併用鋼矢板圧入工法を提供する。
【0012】
また、下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して、既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤を、圧入する鋼矢板の継手部と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の地盤であって、既設の鋼矢板の圧入時に先行掘削された掘削済みの地盤から一定の間隔を空けてオーガによって先行掘削し、その後、圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させてオーガケーシングと一体として杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が、圧入する鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続するとともに、前記掘削済みの地盤と先行掘削した地盤と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削し、以後順次この作業を繰り返すオーガ併用鋼矢板圧入工法を提供する。
【0013】
そして、鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行い、オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかるオーガ併用鋼矢板圧入工法によれば、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、圧入する鋼矢板の両端部及び近傍の地盤の先行掘削と、鋼矢板を圧入しつつ先行掘削した地盤と連続するように地盤掘削することにより、鋼矢板の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができる。また、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板を連続して圧入する際にも、既設の鋼矢板との継手部及び近傍の地盤は、既設の鋼矢板の圧入時にオーガによって先行掘削しているため、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤の先行掘削と、鋼矢板の圧入時の掘削によって、圧入する鋼矢板の地盤の全域をオーガによって掘削することができる。そのため、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入することができる。
【0015】
また、鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行うため、先行掘削時のオーガとの寸法の違いによる取り替え作業等を必要としない。そのため、オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削することができ、オーガの位置を変更する等の煩瑣な操作が必要ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面に基づいて本発明にかかるオーガ併用鋼矢板圧入工法の最良の実施形態を説明する。図1は本発明で使用する杭圧入引抜機の作業状態を説明するための側面図である。図において、1は公知の静荷重型の杭圧入引抜機であって、2は台座、3は台座2の下部に配設されて既設の鋼矢板18をクランプする反力掴み装置である。Fは杭圧入引抜機本体の進行方向を示す。台座2には杭圧入引抜機1の進行方向Fに沿って、圧入する鋼矢板15の幅寸法以上の距離を摺動自在にスライドベース4が配備されている。このスライドベース4上には支持アーム5が縦軸を中心として回動自在に軸支され、この支持アーム5の前部に設けた軸受部6を中心として回動可能なガイドフレーム7が立設されている。このガイドフレーム7は、一端が支持アーム5に軸支された傾動シリンダ(図示略)の伸縮によって軸受部6を中心として傾動可能となっている。
【0017】
ガイドフレーム7には昇降体8が昇降自在に装着されている。該昇降体8の両側には左右一対の杭圧入引抜シリンダ9が取り付けられていて、この杭圧入引抜シリンダ9の一端が前記軸受部6に軸支されており、昇降体8を上下駆動するように構成されている。10は杭掴み装置であり、この杭掴み装置10は昇降体8の下方にあって該昇降体8に対して旋回自在に配備されている。
【0018】
11は中空のオーガケーシングであり、該オーガケーシング11の相対向する外周部に、所定の厚みを保持して径方向に伸びるとともに上下方向に延長する長大な固定板11a,11aが固着されている。オーガケーシング11の上端部にはオーガ掘削機12(アースオーガ)が装着されるとともに、オーガ掘削機12に連結されたスクリューロッド13が挿通されている。14はスクリューロッド13の先端部に挿通されて、脱着自在に装着されるオーガ(オーガヘッド)であって、スクリューロッド13の先端部に穿設されたジョイント用ピン孔にジョイントピンで連結される。スクリューロッド13の上昇及び下降手段はオーガ掘削機12に内蔵されているシリンダーの上下動若しくはオーガケーシング11を掴んだ杭圧入引抜機1の昇降体8の上下動で行う。17は、オーガ掘削機12を簡略して図示した駆動用の油圧ホースであり、16は油圧ホース17を繰り出し・巻き取るための油圧ホース巻取装置である。
【0019】
15は地盤内に圧入されるU形の鋼矢板であり、この鋼矢板15の凹型に形成された中央部15aがオーガケーシング11の外周部に近接配置され、鋼矢板15の両端部に位置する継手部15b,15cがオーガケーシング11の固定板11a,11aの側に配置されている。この圧入される鋼矢板15の継手部15b,15cと、オーガケーシング11の固定板11a,11aが一体として昇降体8の内方に挿通されて、杭掴み装置10によってチャックされて、強固に支持固定されている。
【0020】
かかる構成によれば、圧入される鋼矢板15を地盤に圧入する際の基本操作として、先ず反力掴み装置3に内蔵されたクランプシリンダを用いて既設杭18をクランプしてから杭掴み装置10により鋼矢板15とオーガケーシング11を強固にチャックすることでオーガ掘削時の回転反力を得ることができる。そしてオーガ掘削機12を起動するとともに杭圧入引抜シリンダ9を駆動して、オーガ14による掘削と杭圧入引抜シリンダ9の併用により新たな鋼矢板15の地盤への圧入を行う。
【0021】
この新たな鋼矢板15を充分な支持力が得られるまで圧入した後、杭掴み装置10を自走可能位置まで上昇させて、再び杭掴み装置10で鋼矢板15を掴んだ後、既設杭18をクランプしている反力掴み装置3に内蔵したクランプシリンダを開放し、杭圧入引抜シリンダ9により杭圧入引抜機1を上昇させる。そして、スライドベース4に摺動自在に配備されている台座2を進行方向Fに沿って、圧入する鋼矢板15の幅寸法分だけスライドさせる。その後、反力掴み装置3をそれぞれ1本分前進した既設杭18にセットできる位置に合わせた後、杭圧入引抜機1を降下させ反力掴み装置3のクランプシリンダを用いて既設の鋼矢板18をクランプして、杭圧入引抜シリンダ9により鋼矢板15を計画高さまで圧入する。次に前記と同様の操作を繰り返して継続的に杭圧入作業を実施する。これらの杭圧入動作及び既設杭18上を自走しての連続圧入動作は公知の静荷重型の杭圧入引抜機と同様である。
【0022】
この杭圧入引抜機1を使用した本発明に係るオーガ併用鋼矢板圧入工法の実施形態を説明する。図2?図4は最初の1本又は独立した杭となる鋼矢板15の圧入工法を示す平面図である。鋼矢板15として、断面形状がU形で、かつ、両側の継手が対称断面であり、隣接する鋼矢板の打設向きが反対方向となるU形鋼矢板を使用した。先ず、圧入する鋼矢板15の両端部に位置する継手部15b,15cの内、杭圧入引抜機1に近い方の継手部15bの圧入位置及び近傍の地盤をオーガ14にて先行掘削Aとして掘削する。このとき、鋼矢板15は杭掴み装置10に装備されておらず、オーガケーシング11のみ装備されている。なお、先行掘削Aを行うときは、杭圧入引抜機1は公知の反力架台又は圧入済みの既設杭を反力掴み装置3にてクランプして作業を行う。
【0023】
次に、杭圧入引抜機1のスライトベース4を鋼矢板15の継手ピッチPだけ前進させ、先行掘削Aから一定の間隔Dを空けて、鋼矢板15の他方の継手部15cの圧入位置及び近傍の地盤をオーガ14にて先行掘削Bとして掘削する。間隔Dを空けることにより、先行掘削Bは、先行掘削Aの影響を受けることなく、正確な位置と高い精度で掘削することができる。この先行掘削Bも先行掘削Aと同様に杭掴み装置10に鋼矢板15を装備することなく、オーガケーシング11のみを挿通して掘削する。この先行掘削AとBの間隔Dは特に限定はなく、圧入する鋼矢板15の継手部15b,15cの圧入位置及び近傍の地盤を掘削して、一定の間隔が空いておればよい。また、先行掘削Aと先行掘削Bの掘削の順序を逆としてもよい。
【0024】
図5は先行掘削A,Bを掘削する際の杭掴み装置10の平面図であり、円筒状に形成された杭掴み装置10に穿設された挿通孔10aにオーガケーシング11が挿通され、スクリューロッド13の先端に装着されたオーガ14の掘削刃14aを拡径させて、オーガケーシング11より径大の先行掘削A,Bを掘削している。
【0025】
次に、図3に示すように、圧入する鋼矢板15の凹型に形成された中央部15aにオーガケーシング11の外周部を抱き合わせて、杭掴み装置10に挿通して、杭圧入引抜シリンダ9による圧入をしつつ、オーガ14による掘削を同時に行う。このとき、オーガによる掘削が先行掘削AとBによって掘削した地盤が連続するように掘削することにより、鋼矢板15の圧入される地盤の全域をオーガ14によって連結掘削Cとして掘削する。
【0026】
図6は連結掘削Cを掘削する際の杭掴み装置10の平面図であり、鋼矢板15の凹型に形成された中央部15aにオーガケーシング11の外周部を抱き合わせ、鋼矢板15とオーガケーシング11とを一体として円筒状に形成された杭掴み装置10に穿設された挿通孔10a内に挿通し、スクリューロッド13の先端に装着されたオーガ14の掘削刃14aを拡径させて、オーガケーシング11より径大の連結掘削Cを掘削している。この連結掘削Cにより、図3に示すように鋼矢板15の圧入される地盤の全域がオーガ14によって掘削されることとなる。
【0027】
オーガ14による掘削を同時に行いながら、鋼矢板15を圧入した後に、図4に示すように掘削刃14aを縮径させて、掘削刃14aが圧入済みの鋼矢板15に接触することがないようにして、オーガケーシング11及びオーガ14を地上に引き上げて、圧入作業が完了する。
【0028】
次に、隣接する鋼矢板15の継手部15bと15cを相互に噛合させて順次圧入する場合を図7?図10に基づいて説明する。前記した1本の鋼矢板15の圧入工法と同一の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。図7において、18は圧入済みの既設杭であり、15はこれから圧入する鋼矢板である。既設杭18の開放側の継手部18cの地盤及び近傍の地盤は、既設杭18を圧入する際に先行掘削Bとして掘削済みである。この既設杭18の先行掘削Bは圧入する鋼矢板15の先行掘削Aとなる。そこで、既設杭18の圧入が完了し、オーガケーシング11及びオーガ14を地上に引き上げた後、スライドベース4を鋼矢板15の継手ピッチPだけ前進させて、先行掘削A(既設杭18の先行掘削B)から一定の間隔Dを空けて、鋼矢板15の他方の継手部15cの圧入位置及び近傍の地盤をオーガ14にて先行掘削Bとして掘削する。この先行掘削Bは前記した最初の鋼矢板15を圧入する場合の先行掘削Bと同様である。
【0029】
次に、図8に示すように、圧入する鋼矢板15の凹型に形成された中央部15aにオーガケーシング11の外周部を抱き合わせて、杭掴み装置10に挿通し、鋼矢板15の継手部15bを既設杭18の開放側の継手部18cに噛合させて、杭圧入引抜シリンダ9による圧入をしつつ、オーガ14による掘削を同時に行う。このとき、先行掘削AとBによって掘削した地盤が連続するように鋼矢板15の圧入される地盤の全域をオーガ14によって連結掘削Cとして掘削する。この連結掘削Cも鋼矢板15の継手部15bが既設杭の開放側の継手部18cに噛合して圧入されること以外は、最初の鋼矢板15を圧入する場合の連結掘削Cと同様である。以後順次この作業を繰り返すことにより、鋼矢板を相互に噛合わせて連続して圧入する。
【0030】
図9に示すように、連結掘削Cを掘削する場合には、圧入する鋼矢板15の幅方向Wに直交する方向の中心線Y上にオーガケーシング11の中心S(オーガ14の中心)を位置させている。即ち、オーガケーシング11の中心Sと鋼矢板15の幅方向Wの中心Xとが直線状に位置するように配置する。これにより、鋼矢板15の圧入施工の進行方向に沿って掘削作業時にオーガケーシングの位置を既設杭18の反対方向へずらしたりするという煩瑣な作業が不要となり、そのための装置を必要とせず、オーガケーシング11の位置を常に適正な位置に保って圧入作業を行うことができる。
【0031】
図10は、断面形状がハット(帽子)形で、かつ、両側の継手が非対称断面であり、隣接する鋼矢板の打設向きが同一方向となるハット形鋼矢板を相互に継手部で噛合させて連続して圧入する場合の実施形態を示している。図において、19はハット形鋼矢板の既設杭、20は圧入するハット形鋼矢板を示している。ハット形鋼矢板20の圧入に際しても、前記した鋼矢板15の1本の圧入及び連続した圧入と同様であり、一定の間隔を空けて掘削した先行掘削Aと先行掘削Bとの間を連結掘削Cで連結することにより、圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を、少ない面積で掘削することができる。
【0032】
ハット形鋼矢板の場合、幅方向Wの寸法が大きいため、図11に示すように、一度の掘削Eであっても、既設杭19と圧入するハット形鋼矢板20の掘削した範囲を合わせることにより、ハット形鋼矢板20の地盤の全域を掘削すること自体は可能である。しかしながら、そのためには掘削Eに示すように掘削径を大きくして広い面積を掘削することが必要であり、掘削抵抗が大きくなって、地盤によっては掘削ができなかったり、オーガ掘削機12として高い能力のものを使用する必要が生じる。これに対して、本発明によれば、圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を、少ない面積で、掘削抵抗が少なく掘削することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明にかかるオーガ併用鋼矢板圧入工法によれば、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、圧入する鋼矢板の両端部及び近傍の地盤の先行掘削と、鋼矢板を圧入しつつ先行掘削した地盤と連続するように掘削することにより、鋼矢板の圧入される地盤の全域を治具を必要とすることなくオーガによって掘削することができる。また、相互に一定の間隔を空けた2つの先行掘削と、2つの先行掘削の間を連結する連結掘削によって掘削するため、より小さい径のオーガによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を掘削することができる。そのため、必要以上に地盤を緩めることもない。更に、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板を連続して圧入する際にも、既設の鋼矢板との継手部及び近傍の地盤は、既設の鋼矢板の圧入時にオーガによって先行掘削しているため、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤の先行掘削と、鋼矢板の圧入時の掘削により、圧入する鋼矢板の地盤の全域をオーガによって掘削することができる。そのため、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入することができる。
【0034】
また、鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行うため、先行掘削時のオーガとの寸法の違いによる取り替え作業等を必要としない。そのため、オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削することができ、オーガの位置を変更する等の煩瑣な操作が必要ない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明で使用する杭圧入引抜機の作業状態を説明するための側面図。
【図2】本発明の圧入工法の説明図。
【図3】本発明の圧入工法の説明図。
【図4】本発明の圧入工法の説明図。
【図5】本発明の圧入工法の説明図。
【図6】本発明の圧入工法の説明図。
【図7】本発明の圧入工法の説明図。
【図8】本発明の圧入工法の説明図。
【図9】本発明の圧入工法の説明図。
【図10】本発明の圧入工法の説明図。
【図11】従来の圧入工法の説明図。
【図12】従来の圧入工法の説明図。
【図13】従来の圧入工法の説明図。
【符号の説明】
【0036】
A,B…先行掘削
C…連結掘削
11…オーガケーシング
12…オーガ掘削機
13…スクリューロッド
14…オーガ
15…鋼矢板
18,19…既設杭
20…ハット形鋼矢板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、
杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し、その後、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として、杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに、前記2つの先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削することを特徴とするオーガ併用鋼矢板圧入工法。
【請求項2】
下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備し、既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して、既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、
杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤を、圧入する鋼矢板の継手部と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の地盤であって、既設の鋼矢板の圧入時に先行掘削された掘削済みの地盤から一定の間隔を空けてオーガによって先行掘削し、その後、圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させてオーガケーシングと一体として杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が、圧入する鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続するとともに、前記掘削済みの地盤と先行掘削した地盤と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことによって、圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削し、以後順次この作業を繰り返すことを特徴とするオーガ併用鋼矢板圧入工法。
【請求項3】
鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行う請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。
【請求項4】
鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行うとともに、オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-01-10 
結審通知日 2017-01-13 
審決日 2017-01-24 
出願番号 特願2007-29593(P2007-29593)
審決分類 P 1 113・ 537- ZAA (E02D)
P 1 113・ 112- ZAA (E02D)
P 1 113・ 121- ZAA (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石村 恵美子  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 小野 忠悦
赤木 啓二
登録日 2010-12-24 
登録番号 特許第4653127号(P4653127)
発明の名称 オーガ併用鋼矢板圧入工法  
代理人 齋藤 誠二郎  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 田中 幹人  
代理人 増井 和夫  
代理人 田中 幹人  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 小松 陽一郎  

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