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審決分類 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16C
管理番号 1346943
審判番号 訂正2018-390154  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-10-02 
確定日 2018-11-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5899759号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5899759号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5899759号は、平成23年9月29日に特許出願され、平成28年3月18日に特許権の設定登録がされ、平成30年10月2日に本件訂正審判の請求がされたものである。

第2 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、審判請求書の請求の趣旨に記載されているとおり、特許第5899759号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであって、その内容は次の訂正事項1のとおりである。(審決注:下線部分は訂正箇所である。)

[訂正事項1]
明細書の段落【0021】、【0044】の「第1実施形態」との記載を「第1参考形態」に訂正し、同段落【0019】【図1】の「第1実施形態」との記載を「第1参考形態」に訂正し、同段落【0020】の「本発明に係る円すいころ軸受の各実施形態」との記載を「本発明に係る円すいころ軸受の実施形態及び参考形態」に訂正し、同段落【0022】、【0027】、【0028】、【0034】、【0035】、【0036】、【0037】、【0038】、【0043】の「本実施形態」との記載を「本参考形態」に訂正し、同段落【0043】の「上記実施形態」との記載を「上記参考形態」に訂正し、同段落【0019】【図1】及び同段落【0021】の「本発明に係る」との記載を削除する。

第3 当審の判断
1 訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0021】?【0043】に記載されている第1実施形態は、小鍔部の大外径(D1)が保持器の内径(D4)より小さく、小鍔部の大外径より小径の部分で、円すいころの内径側転動面よりも保持器が内径側に突出していない点で、特許請求の範囲の【請求項1】に記載された発明特定事項を充足していない。そうであれば、「第1実施形態」との明細書の記載は、特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭である。
上記訂正事項1は、明細書の記載と特許請求の範囲の記載との整合を図るため、特許請求の範囲に含まれない「第1実施形態」を「第1参考形態」に訂正し、「第1実施形態」に対応する「実施形態」との記載を「参考形態」に訂正し、「本発明に係る」との記載を削除するものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する不明瞭な記載の釈明を目的とする訂正である。

2 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
上記訂正事項1は、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものに過ぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

3 訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正事項1は、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものに過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。

第4 むすび
以上のとおり、本件訂正審判に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する事項を目的とし、かつ、同法第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
円すいころ軸受
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
円すいころ軸受は、コンパクトで、大きなラジアル荷重及びアキシャル荷重を支持することができ、その上、高速回転から低速回転までのさまざまな条件下で使用することができるため、鉄道車両、鉄鋼機械、工作機械、建設機械、印刷機等の一般産業機械や、自動車のトランスミッション等の回転支持部として、幅広く使用される。
【0003】
円すいころ軸受は、内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数の円すいころと、円すいころを円周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備える。
【0004】
そして、従来、円すいころ軸受の保持器は、鋼製のものが用いられてきた。この鋼製保持器は、その軸方向端部を加締めて、内輪の小径側端部の小鍔部と鋼製保持器とにより円すいころを保持するように組み立てる。この鋼製保持器の組立方法は、まず、保持器のポケットのそれぞれに円すいころを仮入れし、この状態で内輪を組み付ける。そして、内輪、保持器、及び円すいころを一体(以下、「内輪ユニット」ともいう)として取り扱い、この内輪ユニットに対し保持器加締め治具を押し込む。この内輪ユニットにおいて、保持器加締め治具を、内輪、保持器及び円すいころが分離しないように任意のポケット隙間になるまで加締める。所謂、鋼製保持器では、加締め方式が採用され、保持器加締め治具の押し込む量で鋼製保持器の加締め量を調整している。
【0005】
しかしながら、鋼製保持器は、金属の平板を幾度も塑性変形させて製作され、また加締め時にも塑性変形されるので、寸法精度が落ちる可能性がある。また、組立工程では、内輪、保持器、及び円すいころの内輪ユニットが分離しないように取り扱う必要がある。このため、加工工程が多くなってしまい、更には保持器の重量があるため、作業性が悪かった。また、材料が金属であるため、材料費がかかり経済性が悪かった。
【0006】
そこで、樹脂製保持器を備える円すいころ軸受が多く採用されるようになってきた。この樹脂製保持器を備える円すいころ軸受は、自動車のトランスミッション装置やディファレンシャル装置、産業機械や鉄道車両に用いられ、金属製よりも軽量であり、また経済性にも優れている。特に、樹脂製保持器は、自動車向けの転がり軸受の保持器として多く採用されている。
【0007】
次に、図12を参照しながら、樹脂製保持器を備える円すいころ軸受の内輪ユニットの組立方法について説明する。
この樹脂製保持器を用いる内輪ユニットの組立方法では、予め、樹脂製保持器は、組立時の弾性変形を考慮して任意のポケット隙間が残るように射出成型される。このため、一般的な鋼製保持器のように内輪ユニットが分離し易い状態での加締め方式とは異なり、樹脂製保持器を用いる円すいころ軸受の組立工程では、図12に示すように、樹脂製保持器64の不図示のポケットに円すいころ63をそれぞれ仮入れした後、この状態で内輪62を内輪62の小鍔部62c側から軸方向に沿って圧入していき、円すいころ63がポケットを一時的に押し広げ、これにより円すいころ63がポケットに収納される。即ち、円すいころ63は、樹脂製保持器64の弾性変形によりポケットに収納される。所謂、樹脂製保持器64では、圧入方式が採用される。
【0008】
ここで、この圧入方式の課題としては、円すいころ軸受の内輪ユニットの組立後の搬送時や外輪との組み合わせ時、輸送時や軸に組み込む場合等において、外輪がまだ組み付けられてない、樹脂製保持器64及び円すいころ63が一体的に組み付けられた状態の内輪62である内輪ユニット60Aが分離しないように取り扱う必要がある。内輪ユニット60Aの小鍔部62c側を下方にして取り付ける際、円すいころ63及び樹脂製保持器64が内輪62から分離しないようにするため、内輪62の小鍔部62cの大外径D1を円すいころ63の内接円径D2よりも大きく設定し、適切な締め代とする必要がある。なお、「締め代」とは、内輪62の小鍔部62cの大外径D1と円すいころ63の内接円径D2との差のことである。
【0009】
適切な締め代とするためには、樹脂製保持器64の樹脂材の温度や湿度による寸法変化を充分に考慮する必要がある。その理由は、例えば、材料PA66,PA46,PPS等の樹脂材は鉄鋼より線膨張係数が大きいため、使用時の温度が高いと、内輪62の小鍔部62cの大外径D1の膨張量より円すいころ63の内接円径D2の膨張量が大きくなってしまい、室温で設定した締め代は減少するからである。また、使用時の湿度が高い場合には、樹脂製保持器64が水分を吸収してしまい、樹脂製保持器64のみが膨張してしまい、締め代が減少してしまうこともある。
【0010】
そして、内輪62、円すいころ63、及び樹脂製保持器64を組み立てる際の締め代を、所定の大きさ以上にしないと、内輪ユニット60Aを軸に取り付ける場合等、内輪62から円すいころ63及び樹脂製保持器64が分離する可能性がある。一方、その締め代を過大にすると、円すいころ63が仮入れされた樹脂製保持器64に内輪62を圧入する際、内輪62の小鍔部62cが円すいころ63の転動面63aに接触して、転動面63aに傷がつき、軸受寿命が低下する可能性がある。
【0011】
また、本願発明者らの鋭意検討の結果、軸受の構成部品の各寸法は公差を持ち、且つ樹脂製保持器64の温度や湿度に対する膨張率が鉄鋼より大きいことから、内輪ユニット60Aを軸に組み付ける場合に内輪ユニット60Aが分離しないように締め代を設定すると、内輪ユニット60Aの組立時に円すいころ63の転動面63aに必ず傷がつくことがわかった。特に、円すいころ63の外径(最大外径と最小外径との平均径)が樹脂製保持器64の外径(最大外径と最小外径の平均径)に対して小さい場合に、傷の程度が大きくなることがわかった。
【0012】
また、内輪62、円すいころ63、及び樹脂製保持器64を組み立てるときの組立性を改善する技術として、小鍔部62cの外径面62dの角度αを内輪軌道面62aの角度より大きく設定する円すいころ軸受が知られる(例えば、特許文献1参照)。そして、角度αの設定により、組立時に円すいころ63が小鍔部62cを乗り越えて内輪軌道面62aに嵌る際に、円すいころ63の姿勢が変わり、樹脂製保持器64に作用する応力が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007-57038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記特許文献1に記載の円すいころ軸受では、小鍔部62cの外径面62dの角度αが内輪軌道面62aの角度より大きく、即ち、小鍔部62cの外径面62dの角度αがポケットに保持された状態の円すいころ63の内径側の角度βより大きく設定されているため、図12に示すように、小鍔部62cが円すいころ63の転動面63aに接触して、転動面63aに傷がついてしまっていた。
【0015】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内輪を円すいころが仮入れされた状態の樹脂製保持器に組み付ける際に、内輪の小鍔部が円すいころの転動面に接触するのを回避して、円すいころの転動面に傷がつくのを防止することができる円すいころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数の円すいころと、複数の円すいころを円周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備え、保持器は、大径側円環部と、大径側円環部と同軸に配置される小径側円環部と、大径側円環部と小径側円環部とを軸方向に連結し、円周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部と、円周方向に互いに隣り合う柱部間に形成され、円すいころを転動可能に保持するポケットと、を有し、内輪は、内輪の大径側端部に設けられる大鍔部と、内輪の小径側端部に設けられる小鍔部と、を有し、小鍔部の外径面はテーパー形状を有し、保持器のポケットに円すいころが仮入れされた状態で、内輪が保持器に対して内輪の小鍔部側から組み付けられる円すいころ軸受であって、小鍔部の外径面のテーパー形状の角度が、ポケットに保持された状態の円すいころの内径側の角度より小さく設定され、小鍔部の小外径が、円すいころの内接円径より小さく設定され、小鍔部の大外径が、保持器の内径より大きく設定され、保持器のポケットに円すいころが仮入れされた状態で内輪を組み付けるとき、保持器が小鍔部を乗り越えようとする途中過程において、小鍔部の大外径より小径の部分で、円すいころの内径側転動面よりも保持器が内径側に突出していることを特徴とする円すいころ軸受。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、小鍔部の外径面のテーパー形状の角度が、ポケットに保持された状態の円すいころの内径側の角度より小さく設定され、小鍔部の小外径が、円すいころの内接円径より小さく設定され、小鍔部の大外径が、保持器の内径より大きく設定され、保持器のポケットに円すいころが仮入れされた状態で内輪を組み付けるとき、保持器が小鍔部を乗り越えようとする途中過程において、小鍔部の大外径より小径の部分で、円すいころの内径側転動面よりも保持器が内径側に突出しているため、内輪ユニットの組立時に円すいころが内輪の小鍔部を乗り越える際、保持器の内径が小鍔部により押し広げられ、円すいころの小径側端部の面取部が小鍔部の外径面に接触して、円すいころの転動面に小鍔部は接触しない。これにより、円すいころの転動面に傷がつくのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】円すいころ軸受の第1参考形態を説明する断面図である。
【図2】図1に示す内輪ユニットを説明する断面図である。
【図3】図2の円すいころの面取部の周辺の拡大断面図である。
【図4】内輪が保持器に対して傾いて取り付けられる場合を説明する断面図である。
【図5】保持器の片側が完全に組み込まれた状態で内輪が保持器に対して取り付けられる場合を説明する断面図である。
【図6】保持器の外径に対して円すいころの外径が小さい円すいころ軸受の模式図である。
【図7】図6の円すいころの周辺の拡大図である。
【図8】保持器の外径に対して円すいころの外径が大きい円すいころ軸受の模式図である。
【図9】図8の円すいころの周辺の拡大図である。
【図10】本発明に係る円すいころ軸受の小鍔部の変形例を説明する要部拡大断面図である。
【図11】本発明に係る円すいころ軸受の第2実施形態の内輪ユニットを説明する断面図である。
【図12】従来の内輪ユニットを説明する断面図である。
【図13】従来の他の内輪ユニットを説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る円すいころ軸受の実施形態及び参考形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
(第1参考形態)
まず、図1?図10を参照して、円すいころ軸受の第1参考形態について説明する。
【0022】
本参考形態の円すいころ軸受10は、図1に示すように、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動可能に設けられる複数の円すいころ13と、複数の円すいころ13を円周方向に略等間隔に保持する合成樹脂製の保持器14と、を備える。
【0023】
内輪12は、内輪12の大径側端部に設けられる大鍔部12bと、内輪12の小径側端部に設けられる小鍔部12cと、を有する。また、小鍔部12cの外径面12dは、軸方向外方に行くに従い(内輪軌道面12aから軸方向で離れるに従い)縮径するテーパー形状に形成される。
【0024】
円すいころ13は、転動面13aと、転動面13aの軸方向両縁部に設けられる面取部13bと、を有する。
【0025】
保持器14は、合成樹脂の射出成形で形成されており、大径側円環部14aと、大径側円環部14aと同軸配置される小径側円環部14bと、大径側円環部14aと小径側円環部14bとを軸方向で連結し、円周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部14cと、円周方向に互いに隣り合う柱部14c間に形成され、円すいころ13を転動可能に保持するポケット14dと、を備える。
【0026】
また、円すいころ13は、図2及び図3に示すように、内輪12の小鍔部12cの大外径D1が円すいころ13の内接円径D2より大きくなるように、ポケット14dに保持されている。なお、小鍔部12cの大外径D1とは、小鍔部12cの外径面12dの大径側縁部の直径寸法を指し、円すいころ13の内接円径D2とは、組み付け状態の各円すいころ13のうち径方向で最も内側に位置するエッジポイントの群で描かれる円の直径寸法を指す。
【0027】
また、本参考形態では、小鍔部12cの外径面12dの角度αは、保持器14のポケット14dに保持された状態の円すいころ13の内径側の角度βより小さく設定される。また、小鍔部12cの小外径D3は、円すいころ13の内接円径D2より小さく設定されている。なお、小鍔部12cの小外径D3とは、小鍔部12cの外径面12dの小径側縁部の直径寸法を指す。
【0028】
また、本参考形態では、円すいころ13の平均外径をA、保持器14の平均外径をBとして、B/Aが5以上に設定されている。なお、円すいころ13の平均外径Aとは、円すいころ13の最大外径と最小外径の平均径を指し、保持器14の平均外径とは、保持器14の最大外径と最小外径の平均径を指す。
【0029】
次に、図2を参照して、内輪ユニット10Aの組立工程について説明する。なお、内輪ユニット10Aとは、外輪11がまだ組み付けられておらず、内輪12に複数の円すいころ13及び保持器14が組み付けられた状態のことである。
【0030】
内輪ユニット10Aの組立工程では、円すいころ13がポケット14dに仮入れされた状態の保持器14に、内輪12を、内輪12の小鍔部12c側から軸方向に沿って圧入していき、円すいころ13の面取部13bが内輪12の小鍔部12cを乗り越えるまで圧入し続ける。このとき、円すいころ13がポケット14dを一時的に押し広げて、円すいころ13がポケット14dに収納され、内輪ユニット10Aが組み立てられる。
【0031】
ここで、内輪12を圧入していく過程において、円すいころ13の面取部13bは、図3に示すように、内輪12の小鍔部12cのテーパー形状の外径面12dに接触しながら小鍔部12cを乗り越える。このため、円すいころ13が内輪12の小鍔部12cを乗り越えようとするとき、円すいころ13の転動面13aは小鍔部12cに接触することはない。
【0032】
なお、通常の組み立てでは、内輪12の中心軸を保持器14の中心軸に合わせた状態で、内輪12を保持器14の大径側円環部14a側から圧入するが、例えば、図4に示すように、内輪12が保持器14に対して傾き角度Xで取り付けられる場合は、[小鍔部12cの外径面12dの角度α<(円すいころ13の内径側の角度β-傾き角度X)]とすれば、円すいころ13の転動面13aを傷つけることなく、内輪ユニット10Aを組み立てることができる。
【0033】
また、図5に示すように、保持器14の片側が完全に組み込まれた状態で組み立てる場合(内輪12が保持器14に対して傾き角度Yで取り付けられる場合)は、[小鍔部12cの外径面12dの角度α<(円すいころ13の内径側の角度β+傾き角度Y)]とすれば、円すいころ13の転動面13aを傷つけることなく、内輪ユニット10Aを組み立てることができる。
【0034】
以上説明したように、本参考形態の円すいころ軸受10によれば、内輪12の小鍔部12cの外径面12dの角度αが、保持器14のポケット14dに保持された状態の円すいころ13の内径側の角度βより小さく設定され、小鍔部12cの小外径D3が、円すいころ13の内接円径D2より小さく設定されるため、内輪ユニット10Aの組立時に円すいころ13が内輪12の小鍔部12cを乗り越える際、円すいころ13の小径側端部の面取部13bが小鍔部12cの外径面12dに接触して、円すいころ13の転動面13aに小鍔部12cは接触しない。これにより、円すいころ13の転動面13aに傷がつくのを防止することができる。
【0035】
ここで、本参考形態の有用性について、図12及び図13を参照して説明する。なお、上記内輪ユニット60Aと同一又は同等部分については、図面に同一或いは同等符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0036】
図12に示す内輪ユニット60Aでは、内輪62の小鍔部62cの外径面62dの角度αが、保持器64のポケットに保持された状態の円すいころ63の内径側の角度βより大きく設定される点で、本参考形態と異なる。このため、図12の内輪62の小鍔部62cと円すいころ63の転動面63aとの接触部分を見てわかるように、円すいころ63が小鍔部62cを乗り越える際、円すいころ63の転動面63aに小鍔部62cが接触することがわかる。
【0037】
また、図13に示す内輪ユニット70Aでは、内輪62の小鍔部62cの小外径D3が、円すいころ63の内接円径D2より大きく設定される点で、本参考形態と異なる。このため、図13の内輪62の小鍔部62cと円すいころ63の転動面63aとの接触部分を見てわかるように、円すいころ63が小鍔部62cを乗り越える際、円すいころ63の転動面63aに小鍔部62cが接触することがわかる。
【0038】
次に、本参考形態でB(保持器の平均外径)/A(円すいころの平均外径)を5以上に設定することの技術的意義について説明する。
【0039】
図6及び図8に示すように、外輪軌道面11aの内径がそれぞれ等しい、2つの円すいころ軸受10において、樹脂製の保持器14は、線形膨張率が鉄鋼よりも大きいため、使用上限温度(一般的には120℃とされる)では、保持器14は室温時に比べ外輪軌道面11a側に寄る傾向がある。ここで、保持器14が外輪軌道面11a側に寄ると軸受性能の低下を招く可能性があるため、図7及び図9に示すように、保持器14の外径D7は外輪軌道面11aの内径D6より所定値Sを引いた値に設定される。つまり、保持器14の外径D7は、円すいころ13の外径D8に関わらず(外輪11の内径D6-S)以下にする必要があるが、一般的には、保持器14の外径D7は、円すいころ13の個数をできるだけ増やしたいので、最大径である(外輪11の内径D6-S)に設定されることが多い。なぜなら、円すいころ13の個数を増やすと、円すいころ13間が接近して、柱部14cが細くなり、保持器14の剛性が低下するので、保持器14の外径D7を極力大きくして柱部14cを肉厚にしておきたいためである。
【0040】
そして、保持器14の外径D7に対して円すいころ13の外径D8が小さい場合(図7参照)は、円すいころ13の外径D8が大きい場合(図9参照)に比べて、保持器14のポケット14dの開口角度Zは小さくなるが、ポケット14dの周方向の移動量は一定に設定されるので、円すいころ13の径方向の移動量は大きくなる。即ち、円すいころ13の内接円径D2の公差が大きくなる。従って、円すいころ13が分離しないようにするためには、円すいころ13の内接円径D2が最大になる場合にも、小鍔部12cとの締め代を確保する必要がある。このため、保持器14の外径D7に対して円すいころ13の外径D8が小さい場合は、円すいころ13の外径D8が大きい場合に比べて、最大の締め代が大きくなる。即ち、内輪ユニット10Aを組み立てる際に、円すいころ13の転動面13aが傷つきやすくなる。
【0041】
さらに、円すいころ13の外径D8が小さい場合は、円すいころ13の外径D8が大きい場合に比べて、保持器14の肉厚が薄くなり剛性が低いので、内輪ユニット10Aが軸に組み付けられる際に、保持器14は楕円状になり易い。そのため、この状態で組み付けを行うと、一部の円すいころ13が内輪12の小鍔部12cを乗り越えてしまい、これが引き金となって、最終的に全ての円すいころ13が小鍔部12cを乗り越えてしまう雪崩現象が起こり、円すいころ13が脱落してしまう。これを防止するためには、締め代を更に大きくする必要があるが、内輪ユニット10Aを組み立てる際には、円すいころ13の転動面13aに傷がつくという問題が顕著になる。
【0042】
以上のように、円すいころ13の転動面13aに傷がつくメカニズムについて本願発明者が鋭意検討を行った結果、B/Aが5以上となる場合、内輪ユニット10Aが分解しないように締め代を設定すると、円すいころ13の転動面13aに傷がついてしまうことがわかった。
【0043】
なお、本参考形態の変形例として、図10に示すように、小鍔部12cの外径面12dの大径側端部にストレート部12eが形成されていてもよい。この場合も、上記参考形態と同様な効果が得られる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、図11を参照して、本発明に係る円すいころ軸受の第2実施形態について説明する。なお、上記第1参考形態と同一又は同等部分については、図面に同一或いは同等符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0045】
本実施形態では、図11に示すように、保持器14の柱部14cの内周面に、径方向内側に延びる延出部15が形成されており、その延出部15の内径D4より小鍔部12cの大外径D1が大きく設定されている。なお、この場合、内輪ユニット10Aの組立後、円すいころ13は保持器14により保持されるので、小鍔部12cの大外径D1は、円すいころ13の内接円径D2より小さく設定されていてもよい。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、内輪12の小鍔部12cの外径面12dの角度αが、保持器14のポケット14dに保持された状態の円すいころ13の内径側の角度βより小さく設定され、小鍔部12cの小外径D3が、円すいころ13の内接円径D2より小さく設定され、小鍔部の大外径D1が、保持器14の延出部15の内径D4より大きく設定されるため、内輪ユニット10Aの組立時に円すいころ13が内輪12の小鍔部12cを乗り越える際、保持器14の内径D4が小鍔部12cにより押し広げられ、円すいころ13の小径側端部の面取部13bが小鍔部12cの外径面12dに接触して、円すいころ13の転動面13aに小鍔部12cは接触しない。これにより、円すいころ13の転動面13aに傷がつくのを防止することができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【実施例】
【0047】
次に、表1及び表2を参照して、本発明に係る円すいころ軸受の実施例について説明する。
【0048】
本実施例では、内輪(12,62)の小鍔部(12c,62c)の諸元をそれぞれ変化させた、本発明例、比較例1、比較例2の3種類の軸受を製作した。そして、各軸受の内輪ユニット(10A,60A,70A)の組立時に、円すいころ(13,63)の転動面(13a,63a)に傷がつくか否かを確認した。なお、試験は、温度20℃、湿度60%の実験室で行った。また、表1に各軸受の共通の諸元を、表2に各軸受の個別の諸元を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
そして、比較例1の内輪ユニット(60A)を組み立てた場合、小鍔部(62c)の外径面(62d)の大径側縁部が円すいころ(63)の転動面(63a)に接触して強く擦れてしまい、転動面(63a)に傷がついた。また、比較例2の内輪ユニット(70A)を組み立てた場合、小鍔部(62c)の外径面(62d)の小径側縁部が円すいころ(63)の転動面(63a)に接触して強く擦れてしまい、転動面(63a)に傷がついた。
【0052】
一方、本発明の内輪ユニット(10A)を組み立てた場合、円すいころ(13)の転動面(13a)に傷はつかなかった。なお、垂直に立てた軸に対して、内輪ユニット(10A)を小鍔部(12c)側が下になるように組み込んだところ、内輪ユニット(10A)の分解は発生しなかった。
【0053】
次に、小鍔部(12c)の大外径D1を311.4mmに減じ、即ち、円すいころ(13)の内接円径D2(=311.2mm)に対する締め代を0.2mmにして、内輪ユニット(10A)の組立試験を行った。この場合も、円すいころ(13)の転動面(13a)に傷はつかなかった。しかし、垂直に立てた軸に対して、内輪ユニット(10A)を小鍔部(12c)側が下になるように組み込んだところ、内輪ユニット(10A)の分解が発生した。
【0054】
従って、円すいころ軸受(10)に関して、小鍔部(12c)の外径面(12d)の角度αを、保持器(14)のポケット(14d)に保持された状態の円すいころ(13)の内径側の角度βより小さく設定すると共に、小鍔部(12c)の小外径D3を、円すいころ(13)の内接円径D2より小さく設定することによって、小鍔部(12c)を円すいころ(13)の転動面(13a)に接触させずに、内輪ユニット(10A)を組み立てることができ、円すいころ(13)の転動面(13a)の傷つきを防止することができることがわかった。
【符号の説明】
【0055】
10 円すいころ軸受
10A 内輪ユニット
11 外輪
11a 外輪軌道面
12 内輪
12a 内輪軌道面
12b 大鍔部
12c 小鍔部
12d 外径面
13 円すいころ
13a 転動面
14 保持器
14a 大径側円環部
14b 小径側円環部
14c 柱部
14d ポケット
D1 小鍔部の大外径
D2 円すいころの内接円径
D3 小鍔部の小外径
D4 保持器の内径
α 小鍔部の外径面の角度
β 円すいころの内径側の角度
A 円すいころの平均外径
B 保持器の平均外径
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-11-05 
結審通知日 2018-11-07 
審決日 2018-11-20 
出願番号 特願2011-215219(P2011-215219)
審決分類 P 1 41・ 854- Y (F16C)
P 1 41・ 855- Y (F16C)
P 1 41・ 853- Y (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 久島 弘太郎  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
藤田 和英
登録日 2016-03-18 
登録番号 特許第5899759号(P5899759)
発明の名称 円すいころ軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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