• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E02D
管理番号 1346950
審判番号 不服2018-3298  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-07 
確定日 2019-01-07 
事件の表示 特願2013-210737「地盤固化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月20日出願公開、特開2015- 74896、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月8日の出願であり、原審では、平成29年7月21日付けで拒絶理由が通知がされ、平成29年9月14日付けで手続補正がされ、平成29年12月22日付けで拒絶査定(原査定)がされた。
本件はこれに対し、原査定の謄本送達から3月以内の平成30年3月7日に、拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成29年12月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1ないし6に係る発明は、下記引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項7に係る発明は、下記引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献:
1.特開2007-330114号公報
2.特開2000-239056号公報
3.特開2013-205273号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」等という。)は、平成29年9月14日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明であって、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
セメント及び/又は高炉スラグ粉末100質量部と、CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10?50質量部とを配合し、前記セメント及び/又は高炉スラグ粉末と前記非晶質カルシウムアルミネート粉末との合計100質量部に対して、凝結調整剤0?1質量部を配合した固化材を、圧縮空気で空気圧送し、固化材供給管の先端で、固化材100質量部に対して、70?300質量部の水を供給して、連続スラリー化し、20℃における固化時間が5?40秒である固化材スラリーを調製し、調製した固化材スラリーを吐出管ホースより農地表面に吹付け、地盤を固化させることを特徴とする地盤固化方法。

【請求項2】
前記凝結調整剤が、アルカリ金属炭酸塩、オキシカルボン酸又はその塩、リン酸塩、及びデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の凝結調整剤であることを特徴とする請求項1に記載の地盤固化方法。

【請求項3】
前記吐出管ホースより吹付ける前記固化材スラリーの吐出量が0.1?4m^(3)/hrであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の地盤固化方法。

【請求項4】
前記吐出管ホースの長さが1?2mであること特徴とする請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の地盤固化方法。

【請求項5】
前記固化材を大気圧換算で2?7m^(3)/minの圧縮空気で空気圧送し、固化材供給管の先端で、水又は水と空気を加えて、連続スラリー化し、固化材スラリーを調製することを特徴とする請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の地盤固化方法。

【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の地盤固化方法を用いて、地盤の表面を固化させて雑草の繁殖を抑制することを特徴とする抑草工法。

【請求項7】
請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の地盤固化方法を用いて、放射性物質で汚染された地盤の表面に、前記固化材スラリーを吹付けて、地盤を固化させることを特徴とする除染工法。」


第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、本審決で付した。以下同様。)。


「【特許請求の範囲】
・・・・
【請求項4】
抑草成分として酸化マグネシウム系固化材を5重量部?50重量部含み、増量剤として土又は砂、砂利、人工骨材、木材チップ、着色剤を95重量部?50重量部とセメント混和材の糊料又は減水材、収縮低減材を含み、補強材として高分子系繊維もしくは、無機繊維を含む混合物のスラリーを土壌表面に吹き付けもしくは、水を加えて展圧して固化させることを特長とする抑草施工方法。」


「【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム系固化材を用いた抑草材に関する。」


「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、除草剤が環境に与える悪影響を本質的に改善し、環境を維持するには、日本国内の土壌成分で不足しがちなマグネシウムを主体とする肥料成分を主成分とし、又、新たにアルミニウム化合物に雑草発芽に選択的に有効な塩基性アルミニウムゲル及びマグネシウム系固化材もしくはマグネシウム化合物を使用し、雑草の環境抵抗性を逆用して、休眠ホルモンのアブシジン酸含有量の高い雑草の性質を利用し、農作物のアブシジン酸含有量の低い点の性質の差を活用し、雑草のアブシジン酸を安定化させる方法で発芽を抑える方法を発見した。新しい概念から生まれた抑草方法である。
【0009】
従って、一般的な農作物はアブシジン酸含有量が低く、発芽が早く開始されるのに対し、雑草は環境に対する抵抗性を高める為に、アブシジン酸含有量が高く発芽が遅くなるように植物生理的性質の差があるのを利用したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明は、抑草成分として酸化マグネシウム系固化材を5重量部?50重量部含み、増量剤として土又は砂、砂利、人工骨材、着色剤を95重量部?50重量部とセメント混和材の糊料又は減水材、収縮低減材を含み、補強材として高分子系繊維もしくは、無機繊維を含む混合物を土壌表面に散布又は土壌に混合して、水分を添加して固化させることを特長とする抑草材である。」


「【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
一般的に、従来の抑草原理は、酸素、水分、光、温度、重力の要素からなり、乾燥状態では発芽せず、暗い状態でも地下茎がなければ発芽せず、低温でも発芽しない、又、圧力が罹った状態では発芽しないのが原則であり、何れかの要素を満たせば抑草出来る可能性が高くなる、上記要素は外因的要素であり、発生の内因的な要素は、成長ホルモン、休眠ホルモンと化学的な要因として、湿度、pH及びイオンや酵素阻害、ストレスなどを環境に配慮した形で抑草することが今日まで成果が得られなかった一因である。
【0014】
酸化マグネシウム及びその水和物の水酸化マグネシウムは、pH10.5の水酸化カルシウムと殆ど肥料的には同等の扱いを受けている物性を持ち、マグネシア肥料としても、硫酸マグネシウムと同様に広く用いられている物質である。しかし、自硬性がある点や石灰に比較して溶解度が極めて低く、発芽に関する生理作用は知られていないのが現状である。
【0015】
土壌中及び寒天培地に、各種の種子を撒いて、これに直接酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムとこれに反応する物質、例えば、各種の無機炭酸塩、有機炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、硫酸塩、セメント、高炉スラグ、アルミ化合物、ポリカルボン酸塩、PVA,PEO,水溶性澱粉、水溶性セルローズなどを二種以上混合すると、水に難溶又は不溶物を与える化合物を生成するものに、発芽を抑制する生理作用があることを見いだして、これらを、直接、土壌面に散布又は増量材となる土や砂、人工骨材に混合するか、基材となる不織布クロス、樹脂等に塗布又は混合して使用する方法及びこれらを用いた抑草施工方法を提案するものある。
【0016】
具体的には、粉体で水を用いて固化させて使用する方法と水溶液を散布後に固化させて、水に不溶又は難溶な物質を得る方法に分けられる。酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムは、水に難溶な物質で8.4×10^(-4)/18℃であり、種子による差はあるが土壌中に固化材を含むと0.3%重量部添加で殆どの種子は発芽が抑制される。」


「【0020】
本発明では、生成した抑草成分が中性又は弱アルカリで、発芽まもない農作物に直接散布しても害がないようにすることが可能で、生成したゲルにより、水に不溶で耐水性を有するため、降雨による流失が防止できる特徴がある。
【実施例】
【0021】
本発明は、以下の実施例に含まれる代表例のみならず、詳細な説明に上げられた説明に含まれる全ての事項に限定される物ではない。
実施例1
軽焼マグネシア20?70重量部、高炉水砕スラグ80?30重量部、石膏3?15重量部、クエン酸0.001?1.5重量部からなる混合物に山砂100?600重量部を水で混合してフロー値10のモルタルにして、土壌面上に30mm厚さに敷き詰め、軽く展圧して固化させる。固化物は、圧縮強さが材令28日で1.2N?5.3N/mm^(2)で透水係数34?23%である。5月?10月の5ヶ月間の観察では全く雑草が生えず、更に3年間の間全く雑草が生えない状態が維持された。
・・・・・・・」

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「休眠ホルモンのアブシジン酸含有量が高い雑草と、アブシジン酸含有量の低い農作物との性質の差を活用し、雑草のアブシジン酸を安定化させることで、雑草の発芽を抑える方法として、
土壌中及び寒天培地に、各種の種子を撒いて、これに直接酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムとこれに反応する物質、例えば、各種の無機炭酸塩、有機炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、硫酸塩、セメント、高炉スラグ、アルミ化合物、ポリカルボン酸塩、PVA,PEO,水溶性澱粉、水溶性セルローズなどを二種以上混合すると、水に難溶又は不溶物を与える化合物を生成するものに、発芽を抑制する生理作用があることを見いだしたことに基づく、酸化マグネシウム系固化材を用いた抑草施工方法であり、
抑草成分として酸化マグネシウム系固化材を5重量部?50重量部含み、増量剤として土又は砂、砂利、人工骨材、木材チップ、着色剤を95重量部?50重量部とセメント混和材の糊料又は減水材、収縮低減材を含み、補強材として高分子系繊維もしくは、無機繊維を含む混合物のスラリーを土壌表面に吹き付け、固化させる、
生成した抑草成分が中性又は弱アルカリで、発芽まもない農作物に直接散布しても害がない、抑草施工方法。」

2 引用文献2
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。


「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルにおいて露出した地山面へ吹付ける吹付材料及びそれを用いた吹付工法に関する。なお、ここでセメントコンクリートとは、ペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものをいう。
【0002】
【従来の技術】従来、トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために急結材をセメントコンクリートに混合した急結性セメントコンクリートの吹付工法が行われている。この工法は、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材、及び水の計量混合プラントで吹付セメントコンクリートを調製し、それをアジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管により急結材と混合し、急結性吹付セメントコンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この工法では、地山に付着せずに落下した急結性吹付セメントコンクリートの重量と、地山に吹付けた急結性セメントコンクリートの重量との割合であるコンクリートリバウンド(跳ね返り)率は5?24%と多く、粉塵量も多く、作業環境が悪いために塵肺等の影響が心配されており、粉塵マスクを着用しなければならないという課題があった。
【0004】又、近年急結性吹付セメントコンクリートのひび割れ防止や曲げ強度の増加を目的として、繊維を混入した急結性吹付セメントコンクリートが使用されている。しかしながら、繊維は吹付作業により急結性吹付セメントコンクリートと分離し易く、その結果、地山面へ付着せずに落下した繊維の重量と、地山面へ吹付けた急結性吹付セメントコンクリート中の繊維の重量との割合である、繊維リバウンド(跳ね返り)率が40?50%と多くなるという課題があった。
【0005】そのために、コンクリートリバウンド率、繊維リバウンド率、及び粉塵量のより少ない工法が求められていたが、現状では未だ充分満足できる吹付材料や吹付工法がなく、その改良が強く望まれていた。
【0006】本発明者らは、繊維を混入した急結性吹付セメントコンクリートのリバウンド率を低減する際の課題を種々検討した結果、特定の吹付材料を使用して吹付を行うことにより前記課題が解決できる知見を得て本発明を完成するに至った。」


「【0007】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、繊維、急結材、及び超微粉を含有してなる急結性吹付セメントコンクリートと、凝結遅延剤とを混合してなる吹付材料であり、凝結遅延剤が炭酸塩、有機酸類、及び硫酸塩からなる群のうちの1種又は2種以上である該吹付材料であり、さらに、減水剤を含有してなる該吹付材料である。そして、繊維と超微粉を含有してなる吹付セメントコンクリートに急結材を混合した後、吹付直前に凝結遅延剤を混合してなることを特徴とする急結性吹付セメントコンクリートの吹付工法であり、吹付セメントコンクリートに急結材を混合してから凝結遅延剤を混合するまでの距離が100?600mmであることを特徴とする該急結性吹付セメントコンクリートの吹付工法であり、凝結遅延剤を急結性吹付セメントコンクリートに混合してから急結性吹付セメントコンクリート吐出口までの距離が500?1500mmであることを特徴とする該急結性吹付セメントコンクリートの吹付工法である。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】本発明は、吹付直前に吹付経路において、急結材と吹付セメントコンクリートを混合した急結性吹付セメントコンクリートに凝結遅延剤を添加し、地山面へ付着した急結性吹付セメントコンクリートの表面を瞬結させずに一瞬柔らかくすることにより、急結性吹付セメントコンクリート中に混入した繊維の付着力を向上させるものである。
【0010】本発明で使用するセメントとしては、通常市販されている普通、早強、中庸熱、及び超早強等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグ等を混合した各種混合セメント、並びに市販の微粒子セメント等が挙げられる。又、各種ポルトランドセメントや各種混合セメントを微粉末化して使用してもよい。これらの中では、スランプの調整の点で、普通ポルトランドセメントが好ましい。」


「【0016】凝結遅延剤の使用量は、セメント100重量部に対して、0.01?10重量部が好ましく、1?5重量部がより好ましい。0.01重量部未満だと効果がないおそれがあり、10重量部を越えると凝結遅延しすぎて、強度発現性が小さくなり、リバウンド率が大きくなるおそれがある。
【0017】本発明で使用する急結材は、セメントの凝結を瞬間的に起こすものである。急結材としては、アルミン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、及びケイ酸ナトリウム等の無機塩系や、カルシウムアルミネート等のセメント鉱物系等が挙げられる。これらの中では、強度発現性が良好な点で、セメント鉱物系が好ましく、カルシウムアルミネートがより好ましい。
【0018】カルシウムアルミネートの中では、反応活性の点で、非晶質のカルシウムアルミネートが好ましく、12CaO・7Al_(2)O_(3)組成に対応する熱処理物を急冷した非晶質のカルシウムアルミネートがより好ましい。
【0019】カルシウムアルミネートの粒度は、ブレーン値で3000cm^(2)/g以上が好ましく、5000cm^(2)/g以上がより好ましい。3000cm^(2) /g未満だと初期強度発現性が低下するおそれがある。
【0020】カルシウムアルミネートを含有する急結材は、カルシウムアルミネート単独でも使用できるが、石膏、消石灰、アルミン酸ナトリウム、及び炭酸ナトリウム等を併用してもよい。これらの中では、石膏を併用することが好ましい。」


「【0024】急結材の使用量は、セメント100重量部に対して、0.5?20重量部が好ましく、5?15重量部がより好ましい。0.5重量部未満だと初期凝結せず、初期強度発現性が小さいおそれがあり、20重量部を越えると長期強度発現性が小さいおそれがある。
【0025】本発明で使用する繊維は、無機質や有機質いずれも使用でき、急結性吹付セメントコンクリートの耐衝撃性、弾性、及び曲げ強度を向上するという効果を有する。繊維の長さは、圧送性や混合性の点で、100mm以下が好ましく、0.5?60mmがより好ましい。100mmを越えると圧送中に急結性吹付セメントコンクリートが閉塞するおそれがある。
【0026】無機質の繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール、石綿、セラミック繊維、及び金属繊維等が挙げられ、有機質の繊維としては、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリル繊維、セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、パルプ、麻、木毛、及び木片等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用できる。これらの中では経済性の点で、金属繊維やビニロン繊維が好ましい。
【0027】繊維の使用量は、吹付セメントコンクリート100容量部中、0.1?1.5容量部が好ましく、0.3?1.2容量部がより好ましい。0.1容量部未満だと繊維を使用した効果がないおそれがあり、1.5容量部を越えると圧送性や経済性が悪くなるおそれがある。」


「【0038】又、繊維の混合方法は、急結性吹付セメントコンクリートに繊維を混合していれば特に限定されるものではなく、例えば、吹付セメントコンクリート側や急結材側へ予め繊維を添加する方法や、繊維のみを吹付セメントコンクリートや急結材と別個に添加する方法が挙げられ、これらを併用してもよい。
【0039】本発明の吹付工法では、例えば、強度等の要求される物性、経済性、及び施工性等から、乾式吹付法や湿式吹付法いずれも使用できる。乾式吹付工法としては、セメント、骨材、及び急結材を混合し、空気圧送し、途中で、例えばY字管の一方から水を添加し、その後新たに取り付けたY字管の一方から凝結遅延剤を添加して湿潤状態で吹付ける方法や、セメントと、必要に応じて骨材とを混合して空気圧送し、途中で、急結材、及び水の順に吹付材料を添加し、その後新たに取り付けたY字管の一方から凝結遅延剤を添加して湿潤状態で吹付ける方法等が挙げられる。湿式吹付工法としては、セメント、骨材、及び水を添加して混練し、空気圧送し、途中で、例えばY字管の一方から急結材を添加し、その後新たに取り付けたY字管の一方から凝結遅延剤を添加して吹付ける方法等が挙げられる。」

(2)引用文献2に記載された発明
上記(1)より、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために急結材をセメントコンクリートに混合した急結性セメントコンクリートの吹付工法であり、
セメントコンクリートのひび割れ防止や曲げ強度の増加を目的として、繊維を混入した急結性吹付セメントコンクリートのリバウンド率を低減するため、繊維と超微粉を含有してなる吹付セメントコンクリートに急結材を混合した後、吹付直前に凝結遅延剤を混合して、地山面へ付着した急結性吹付セメントコンクリートの表面を瞬結させずに一瞬柔らかくすることにより、急結性吹付セメントコンクリート中に混入した繊維の付着力を向上させるものであり、
セメントとしては、ポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグ等を混合した各種混合セメントを微粉末化して使用してよく、
凝結遅延剤の使用量は、セメント100重量部に対して、0.01?10重量部が好ましく、
急結材としては、反応活性の点で、12CaO・7Al_(2)O_(3)組成に対応する非晶質のカルシウムアルミネートが好ましく、急結材の使用量は、セメント100重量部に対して、0.5?20重量部が好ましく、5?15重量部がより好ましく、
繊維の使用量は、吹付セメントコンクリート100容量部中、0.1?1.5容量部が好ましく、繊維の混合方法は特に限定されるものでなく、
乾式吹付工法として、セメント、骨材、及び急結材を混合し、空気圧送し、途中で、例えばY字管の一方から水を添加し、その後新たに取り付けたY字管の一方から凝結遅延剤を添加して湿潤状態で吹付ける方法を採用してよい、
吹付工法。」

3 引用文献3
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。


「【0002】
原子力発電所の事故により放射性物質(主に放射性セシウム)が拡散すると、放射性物質により汚染された土壌等の放射能汚染物が生じる。また、放射性物質により汚染された土壌等の放射能汚染物の一部が雨水等により下水道に流入すると、放射性物質により汚染された下水汚泥、あるいはその下水汚泥を焼却減容化することで放射性物質が濃縮された焼却灰が生じる。さらに、放射性物質で汚染された草木類や塵芥などの可燃性廃棄物がゴミ焼却場などで焼却減容化されると、放射性物質が濃縮されたゴミ焼却灰が生じる。
放射能汚染物は人体に有害な放射線(ガンマ線など)を放出するため、適切に除去・保管等の処置を行い、放射線被爆による健康被害を防ぐ必要がある。しかしながら、特に汚染規模が大きく、広い地域に大量の放射能汚染物が発生した場合には、放射能汚染物による被爆防止処置(放射能汚染物の除去処理、放射線の遮蔽・低減処理など)に膨大な手間と時間と費用が必要になるほか、放射能汚染物の保管場所の確保が大きな課題となる。そのため、効率的かつ迅速に放射能汚染物の処理を進めるためには、放射線の濃度レベルや土地利用等に応じて適切な処理方法を選択する必要がある。特に、広範囲に大量に発生した放射線濃度が比較的低い土壌や焼却灰などの放射能汚染物については、埋立処分あるいは原位置処理による迅速な被爆防止処置を可能とする効率的かつ経済的な処理技術が求められていた。」


「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題解決のため検討を重ねた結果、カルシウムアルミネート、アルカリ土類金属硫酸塩及びセメントを含有する処理剤を水と混合することで空間線量の低減効果がある組成物が形成されることを見出し、該処理剤と水との混合物(スラリー)で放射能汚染物を被覆するという簡便な方法で、放射能汚染物による空間線量が効果的に低減できることを見出した。さらに、CaOとAl_(2)O_(3)が特定のモル比で構成された非晶質カルシウムアルミネートと結晶質カルシウムアルミネートを特定割合で含むカルシウムアルミネートとを用い、アルカリ土類金属の硫酸塩として硫酸カルシウム及び/又は硫酸バリウムを用い、セメントとして白色ポルトランドセメントを用いることで空間線量の低減効果が向上し、環境安全性が高まるという知見を得、本発明を完成させた。」


「【0013】
本発明で用いるカルシウムアルミネートは、前記のCaOとAl_(2)O_(3)が等モル比の結晶質カルシウムアルミネートと、前記のCaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比がCaO/Al_(2)O_(3)=1.6?2.6の非晶質カルシウムアルミネートとを、100:10?100:200の質量比で含むものが好ましく、100:15?100:120の質量比で含むものがより好ましい。この質量比のカルシウムアルミネート混合物を用いることで、空間線量の低減効果を特に良好に発揮することができる。非晶質カルシウムアルミネートが少なすぎるか又は多すぎる場合は、カルシウムアルミネートの水和反応性が十分ではなく、水和生成物であるエトリンガイトの生成遅延あるいは生成量の減少が生じて空間線量の低減効果が低下する。
【0014】
本発明で用いるアルカリ土類金属硫酸塩としては硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム及び硫酸バリウムから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。本発明ではこれらのうち、硫酸カルシウムを用いるのが好ましく、硫酸カルシウムとしては無水石膏のみならず反応活性がより高いことから半水石膏を使用しても良い。アルカリ土類金属硫酸塩は、カルシウムアルミネートの水和反応を促進する作用をもたらし、空間線量の低減効果の向上が期待できる。
【0015】
本発明で用いるアルカリ土類金属硫酸塩としては、硫酸カルシウムと硫酸バリウムを併用するのがより好ましく、これらを併用することにより空間線量の低減効果をより向上させることができる。硫酸バリウムのように密度の高い物質には、放射線(ガンマ線)の遮蔽効果があることが知られているが、カルシウムアルミネートの水和生成物であるエトリンガイトと硫酸バリウムが共存する組成物を形成させることで、より良好な放射線遮蔽効果が得られる。硫酸バリウムとしては、化学反応で製造した工業薬品である沈降性硫酸バリウムのほか、硫酸バリウムを主成分とする天然鉱物(バライト)の粉砕品(バライト粉)が使用できる。また、硫酸カルシウム及び硫酸バリウムとしては、粉末度がブレーン比表面積で1000?10000cm^(2)/g程度のものを用いるのが好ましい。
【0016】
アルカリ土類金属硫酸塩として硫酸カルシウムを用いる場合の配合割合は、空間線量の低減効果の点から、カルシウムアルミネート100質量部に対して10?200質量部が好ましく、10?100質量部がより好ましい。また、硫酸バリウムを用いる場合の配合割合は、カルシウムアルミネート100質量部に対して30?800質量部が好ましく、50?500質量部がより好ましい。硫酸バリウムの配合割合が少なすぎると、空間線量の低減効果がほとんど向上しないため適当ではなく、多すぎると相対的にカルシウムアルミネート量が少なくなり、空間線量の低減効果が低下する恐れがある。」


「【0019】
また、該処理剤とともに用いる水の量は、該処理剤100質量部に対して30?200質量部、さらに40?100質量部とするのが好ましい。水量が少なすぎると、該処理剤の水和反応が不十分となり、空間線量の低減効果が損なわれる恐れがある。一方、多すぎると、該処理剤と水からなるスラリーにおいて処理剤が分離する恐れがあるため好ましくない。水量を200質量部以上にする場合には、増粘剤等を処理剤に配合するなどして分離を防ぐことが好ましい。」


「【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はここに示す実施例に限定されるものではない。
【0024】
CaO源に石灰石(CaO含有量;56質量%)、Al_(2)O_(3)源にバン土頁岩(Al_(2)O_(3)含有量;88質量%)のそれぞれ粗砕粒(粒径約1mm以下)を用い、以下のA1?A6で表すカルシウムアルミネートの粉末を作製した。その作製方法は、CaO源とAl_(2)O_(3)源を所定のモル比に配合したものを、電気炉で1800℃(±50℃)に加熱し、60分間保持した後、加熱を停止して炉内で自然放冷して得た(A1?A3)。同様に1800℃(±50℃)に加熱し、60分間保持した後、温度1800℃の電気炉から加熱物を常温下に取り出し、取り出し後は直ちに加熱物表面に流量約100cc/秒で窒素ガスを吹き付けて急冷して得た(A4?A6)。得られた冷却物はボールミルで粉砕し、ブレーン比表面積が5000±500cm^(2)/gとなるよう粉砕時間を変えて粉末度を調整した。
A1;CaO/Al_(2)O_(3)=モル比1.0の結晶質カルシウムアルミネート
A2;CaO/Al_(2)O_(3)=モル比1.7の結晶質カルシウムアルミネート
A3;CaO/Al_(2)O_(3)=モル比0.5の結晶質カルシウムアルミネート
A4;CaO/Al_(2)O_(3)=モル比1.7の非晶質カルシウムアルミネート
A5;CaO/Al_(2)O_(3)=モル比2.3の非晶質カルシウムアルミネート
A6;CaO/Al_(2)O_(3)=モル比2.9のガラス化率10%のカルシウムアルミネート
【0025】
A1?A6のカルシウムアルミネートと次に示すB?Dから選定される材料を用い、表1に示す配合割合でヘンシェル型ミキサーを用いて3分間乾式混合し、放射能汚染物の処理に用いる処理剤を作製した。
B;無水石膏(ブレーン比表面積4200cm^(2)/g、市販試薬)
C;硫酸バリウム(ブレーン比表面積6000cm^(2)/g、市販試薬)
D;白色ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
【0026】
【表1】
(・・・後記カを参照・・・)
【0027】
(処理剤スラリーを用いた放射能汚染物の被覆処理)
放射能汚染物として放射線濃度(セシウム134と137のガンマ線濃度の合計値)が12204Bq/kgである下水汚泥焼却灰を用い、この放射能汚染物4kg(かさ容積約7リットル)を容積15リットル(内径282mm×内部高さ365mm)の放射線遮蔽容器(藤崎工業社製)に入れ、汚染物の上面を平らに均した後に10g/cm^(2)の重さで上面から押し固めた。次に、放射能汚染物処理剤と水をハンドミキサー(回転数200r.p.m)で3分間混合してスラリー状に調整し、該スラリーを放射線遮蔽容器内の放射能汚染物の上面に流し込んで汚染物を被覆した。スラリー中の放射能汚染物処理剤と水の配合割合及び放射能汚染物上面へのスラリーの流し込み量(被覆量)を表2に示す。」


段落【0026】の【表1】には、「処理材No.11」の「配合割合(質量部)」として、「A4」が「100」、「B」が「50」、「C」が「200」、「D」が「100」であることが記載され、同「処理剤No.11」の備考欄には「実施例」と記載されている。
また、段落【0029】の【表2】には、「処理剤」「No.11」の「スラリーの配合割合」は、処理剤「100」質量部に対し、水「70」質量部であることが記載されている。

(2)引用文献3に記載された発明
上記(1)より、引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「広範囲に大量に発生した放射線濃度が比較的低い土壌や焼却灰などの放射能汚染物の、効率的かつ経済的な処理技術として、
カルシウムアルミネート、アルカリ土類金属硫酸塩及びセメントを含有する処理剤を水と混合することで空間線量の低減効果がある組成物が形成されることを見出し、該処理剤と水との混合物(スラリー)で放射能汚染物を被覆する方法であり、
カルシウムアルミネートは、水和生成物であるエトリンガイトにより空間線量の低減効果を有し、
アルカリ土類金属硫酸塩は、カルシウムアルミネートの水和反応を促進する作用をもたらすとともに、硫酸バリウムのように密度の高い物質には、放射線(ガンマ線)の遮蔽効果があるため、より良好な効果が得られるものであり、硫酸バリウムを用いる場合の配合割合は、カルシウムアルミネート100質量部に対して30?800質量部が好ましく、
実施例の処理剤No.11では、モル比1.7の非晶質カルシウムアルミネートA4の粉末を100質量部、無水石膏Bを50質量部、硫酸バリウムCを200質量部、白色ポルトランドセメントDを100質量部の比で配合し、該処理剤100質量部に対して水を70質量部の配合比として、ミキサーで混合してスラリー状に調整し、該スラリーを放射能汚染物の上面に流し込む、
方法。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について-その1
(1)引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「スラリー」は、「固化材」を含み、「土壌表面に吹き付け、固化させる」ものであるから、スラリー内に配合される具体的材料はひとまず措くとして、本願発明1における「固化材スラリー」に相当する。
また、引用発明1の「抑草施工方法」は、「固化材」を含むスラリーを「土壌表面に吹き付け、固化させる」ものであるから、土壌表面の地盤は必然的に固化されると解される。この点で、引用発明1の「抑草施工方法」は、本願発明1における「地盤を固化させる」「地盤固化方法」に相当する。
さらに、引用発明1において「雑草」と「農作物」との「性質の差」を活用し、「抑草成分」を「発芽まもない農作物に直接散布しても害がない」ようにして、「抑草成分」を加えた「スラリー」を「土壌表面に吹き付け」ることからすれば、「土壌」としては特に「農作物」が存在する「土壌」が想定されていると解される。この点で、引用発明1の「土壌」は本願発明1の「農地」に相当し、引用発明1における「土壌表面に吹き付け」は、本願発明1における「農地表面に吹付け」に相当する。

以上より、本願発明1と引用発明1とは、次の点で一致する。
「固化材スラリーを農地表面に吹付け、地盤を固化させる、地盤固化方法。」

一方、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1では、「固化材スラリー」を構成する配合物及び配合比が、 「セメント及び/又は高炉スラグ粉末100質量部と、CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10?50質量部とを配合し、前記セメント及び/又は高炉スラグ粉末と前記非晶質カルシウムアルミネート粉末との合計100質量部に対して、凝結調整剤0?1質量部を配合」した「固化材」の「100質量部」に対して、「70?300質量部の水」を供給したものであるのに対し、
引用発明1では、「酸化マグネシウム系固化材」を用いており、スラリー中の他の成分及び各成分の配合比も、本願発明1とは異なっている点。

(相違点2)
本願発明1では、
まず「セメント及び/又は高炉スラグ粉末100質量部と、CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10?50質量部とを配合」し、
次に「前記セメント及び/又は高炉スラグ粉末と前記非晶質カルシウムアルミネート粉末との合計100質量部に対して、凝結調整剤0?1質量部を配合」して「固化材」とし、
その「配合した固化材を、圧縮空気で空気圧送し、固化材供給管の先端で、固化材100質量部に対して、70?300質量部の水を供給して、連続スラリー化」する、
という工程により、「20℃における固化時間が5?40秒である固化材スラリーを調整」し、「調製した固化材スラリーを吐出管ホースより」吹付けるのに対し、
引用発明1では本願発明1のような配合の順序をとっておらず、配合の途中で「圧縮空気」による「空気圧送」を行っておらず、「固化材供給管の先端」で水を供給して「連続スラリー化」を行っておらず、「20℃における固化時間が5?40秒」のスラリーを調整したうえで「調整した固化材スラリーを吐出管ホースより」吹付けていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用発明1では、農作物と雑草との性質の差を活用するうえで、酸化マグネシウム系の固化材を用いることを特に選択していると解され、酸化マグネシウム系の固化材を他の成分に変更することは示唆されていない。
ここで、引用発明2は、吹付工法において12CaO・7Al_(2)O_(3)組成に対応する非晶質のカルシウムアルミネートを急結材として用いる構成を備えている。しかしながら、引用発明2は、トンネル掘削等で露出した地山を固める際に、コンクリートのひび割れ防止や曲げ強度の増加のために配合した繊維のリバウンド率を低減することを目的としたものであり、引用発明1とは吹き付け施工を想定する施工現場、及び目的が、いずれも異なる。また、引用発明1において、酸化マグネシウム系の固化材を含むスラリーに代えて引用発明2のカルシウムアルミネート等を含む急結性セメントコンクリートを採用することは、農作物と雑草との性質の差を活用するうえで酸化マグネシウム系の固化材を選択した、引用発明1のそもそもの着目点から離れることとなるから、引用発明1に引用発明2を適用することには、阻害要因がある。
また一方、引用発明3は、放射能汚染物が存在する土壌を被覆するスラリーに、カルシウムアルミネート及びセメントを含有する構成を備えている。しかしながら、引用発明3も、引用発明1とは施工を行うことを想定する場面及び目的がいずれも異なる。また、引用発明1において、酸化マグネシウム系の固化材を含むスラリーに代えて引用発明3のカルシウムアルミネート等を含むスラリーを採用することは、上述したとおり引用発明1のそもそもの着目点から離れることとなるから、引用発明1に引用発明3を適用することにも、阻害要因がある。
すなわち、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明1を出発点として、引用発明2-3を考慮しても、本願出願前に当業者が容易に想到することができたとはいえない。

したがって、本願発明1は、相違点2について検討するまでもなく、当業者であっても引用発明1及び引用発明2-3に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。


2 本願発明1について-その2
(1)引用発明2との対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2における「ポルトランドセメント」に「高炉スラグ」を混合した「混合セメント」を「微粉末化」したものは、本願発明1における「セメント及び/又は高炉スラグ粉末」に相当する。
引用発明2における「12CaO・7Al_(2)O_(3)組成に対応する非晶質のカルシウムアルミネート」は、12/7は約1.7であるから、本願発明1における「CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート」に相当する。
引用発明2における「凝結遅延剤」は、本願発明1における「凝結調整剤」に相当する。
引用発明2において、吹き付けられる「急結性吹付けセメントコンクリート」は、固体と水分とが混濁して流動性を持った状態、すなわち「スラリー」と言い得る状態であり、最終的には固化するものであるから、配合物と配合比等の詳細はひとまず措くとして、本願発明1における「固化材スラリー」に相当する。また、引用発明2において、吹き付けられる「急結性吹付けセメントコンクリート」が、「ポルトランドセメント」に「高炉スラグ」を混合した「混合セメント」を「微粉末化」したもの、「12CaO・7Al_(2)O_(3)組成に対応する非晶質のカルシウムアルミネート」、「凝結遅延剤」、「繊維」、「水」を含むことと、本願発明1において、吹き付けられる「固化材スラリー」が「セメント及び/又は高炉スラグ粉末100質量部と、CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10?50質量部とを配合し、前記セメント及び/又は高炉スラグ粉末と前記非晶質カルシウムアルミネート粉末との合計100質量部に対して、凝結調整剤0?1質量部を配合した固化材」と「水」とで調整されることとは、「固化材スラリー」が「セメント及び/又は高炉スラグ粉末、CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート、凝結調整剤、水を含む」という点で、共通する。
引用発明2において、「繊維の混合方法」が特に限定されず、また「セメント、骨材、及び急結材を混合し、空気圧送し、途中で、例えばY字管の一方から水を添加し、その後新たに取り付けたY字管の一方から凝結遅延剤を添加」することと、本願発明1において、「配合した固化材を、圧縮空気で空気圧送し、固化材供給管の先端で、固化材100質量部に対して、70?300質量部の水を供給」することとは、「材料を空気圧送しつつ、水を供給」する点で、共通している。また引用発明2において、「空気圧送」された材料に「水を添加」し「湿潤状態で吹付け」可能とする過程は、固体と水分とが混濁して流動性を持った状態、すなわち「スラリー」と言い得る状態へと、材料を連続的に調整しているから、本願発明1における「連続スラリー化」及び「スラリー」の「調整」に相当する。
引用発明2において、「その後新たに取り付けたY字管」の「凝結遅延剤を添加」する部分は、吹き付ける「急結性セメントコンクリート」の調整が完了する部分であるから、当該Y字管のそこより先で、最終的な吹き付け出口までの部分と、本願発明1における「吐出管ホース」とは、「吐出管」という点で共通する。
引用発明2において、吹き付けを行う「地山面」は、トンネル掘削等を行った後少なくとも露出した表面であるから、本願発明1における「農地表面」とは、「地表面」という限度で共通する。引用発明2の「吹付工法」において、吹き付けが行われた地山面は、当該箇所の地盤が急結性セメントコンクリートによって最終的には固められるから、その意味において当該「吹付工法」は、本願発明1における「地盤を固化させる」「地盤固化方法」に相当する。

以上より、本願発明1と引用発明2とは、次の点で一致する。
「セメント及び/又は高炉スラグ粉末、CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート、凝結調整剤、水を含む、固化材スラリーを、
材料を空気圧送しつつ、水を供給して、連続スラリー化することで調整し、
調整した固化材スラリーを吐出管より地表面に吹付け、地盤を固化させる、地盤固化方法。」

一方、本願発明1と引用発明2とは、以下の点で相違する。

(相違点3)
本願発明1では、
ア 「固化材スラリー」内の配合物が、「セメント及び/又は高炉スラグ粉末」、「CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末」、「凝結調整剤」、「水」であり、
イ その配合比が、
(ア)「セメント及び/又は高炉スラグ粉末」の「100質量部」に対して、「CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末」が「10?50質量部」、
(イ)「前記セメント及び/又は高炉スラグ粉末と前記非晶質カルシウムアルミネート粉末との合計」の「100質量部」に対して、「凝結調整剤」が「0?1質量部」、
(ウ)上記(ア)(イ)の配合がされた「固化材」の「100質量部」に対して、「水」が「70?300質量部」であり、
ウ 配合の順序が、上記(ア)、上記(イ)、上記(イ)の配合がされた固化材供給管の先端で上記(ウ)、というものであり、
エ もって「20℃における固化時間が5?40秒」である「固化材スラリー」を調整する、

のに対し、引用発明2では、
ア’ 「急結性吹付セメントコンクリート」の配合物に、「繊維」及び「骨材」をさらに含むとともに、「12CaO・7Al_(2)O_(3)組成に対応する非晶質のカルシウムアルミネート」を「粉末」で用いているか明確でなく、
イ’ 配合物の配合比が上記イと異なり、
ウ’ 配合の順序として、「水」を加えた後に、最後に「凝結遅延剤」を添加しており、
エ’ 調整された吹き付け前の「急結性吹付セメントコンクリート」の特性が「20℃における固化時間が5?40秒」とはなっていない、点。

(相違点4)
本願発明1では、固化材スラリーを「吐出管ホース」より吹付けるのに対し、引用発明2では、「ホース」を用いるか不明な点。

(相違点5)
本願発明1では、吹付けを行う対象地盤が「農地表面」であるのに対し、引用発明2では「トンネル掘削等」で露出した「地山面」である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3及び5について先に検討する。
引用発明2は、トンネル掘削等で露出した地山面の崩落防止のための施工であり、セメントコンクリートのひび割れ防止や曲げ強度増加のため、繊維を含むことを前提としている。そのため、引用発明2において、配合材料の中に含まれる繊維をなくす改変、繊維のない状態で各材料の配合比を調整する改変、及び吹付け施工の対象を「農地」とする改変を行う動機付けはなく、そのようなことは引用文献2中にも示唆されていない。また、引用発明2では「凝結遅延剤」の添加を「水」の添加より後に、配合の最後に行っており、先に「凝結遅延剤」まで配合した後に最後に「水」を加える改変は、引用文献2中にも示唆されていない。
ここで、引用発明1は、「農作物」が存在し得る「土壌表面」に、「雑草」の「抑制」のために、「酸化マグネシウム系固化材」を含む「スラリー」を吹き付ける構成を備えており、引用発明1においては「繊維」を含めることは必須ではなく、また施工対象を「農地表面」とすることもあり得ると解される。しかしながら、引用発明1は、引用発明2とは施工の対象、施工目的、及び使用する固化剤の成分がいずれも異なっており、引用発明2に引用発明1を適用する動機付けはない。そして、引用発明2において引用発明1を部分的に適用し、配合物の中から「繊維」を除くとともに施工対象を「農地」とする一方、引用発明1の「酸化マグネシウム系固化材」を採用することなく引用発明2の「12CaO・7Al_(2)O_(3)組成に対応する非晶質のカルシウムアルミネート」等「繊維」以外の配合物を残し、配合物の配合比率及び配合順序等を、相違点3に係る構成となるよう改変することは、引用文献1及び引用文献2のいずれにも示唆されていない。
また、引用発明3は、放射能汚染物が存在する土壌を被覆するスラリーに、カルシウムアルミネート及びセメントを含有する構成を備えている。引用発明3においても、「繊維」の存在は必須ではなく、また放射能汚染物が存在し得る土壌が対象であるから、施工対象が「農地」となる場合もあり得るとは解される。しかしながら、引用発明3と引用発明2とは、施工の対象及び目的がいずれも異なっており、引用発明2において引用発明3を適用する動機付けはない。そして、引用発明2において引用発明3を部分的に適用し、施工対象に「農地」を含めるとともに配合物から「繊維」を除き、「繊維」以外の配合物を残して、配合物の配合比率及び配合順序等を、相違点3に係る構成となるよう改変することは、引用文献3及び引用文献2のいずれにも示唆されていない。
そのため、引用発明2において、地山面に吹き付ける急結性セメントコンクリートが、固化する前に流れ落ちないよう、固化時間としては「20℃における固化時間が5?40秒」に近い特性、すなわち相違点3のエに係る特性を有している可能性はあり得るとしても、その余の相違点3のア?ウに係る本願発明1の構成、及び相違点5に係る本願発明1の構成に至ることは、引用発明1及び引用発明3を考慮しても、本願出願前に当業者が容易に想到することができたとはいえない。

したがって、本願発明1は、相違点4について検討するまでもなく、当業者であっても引用発明2、及び引用発明1又は3に基いて、容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明1について-その3
(1)引用発明3との対比
本願発明1と引用発明3とを対比する。
引用発明3における「モル比1.7の非晶質カルシウムアルミネートA4の粉末」、「白色ポルトランドセメントD」、「水」は、本願発明1における「CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末」、「セメント及び/又は高炉スラグ」のうち「セメント」、「水」に相当する。
引用発明3の「スラリー」は、「白色ポルトランドセメントD」を含み、最終的には固化するものと解されるから、その点で本願発明1における「固化材スラリー」と共通する。
引用発明3の「スラリー」が「モル比1.7の非晶質カルシウムアルミネートA4の粉末を100質量部、無水石膏Bを50質量部、硫酸バリウムCを200質量部、白色ポルトランドセメントDを100質量部の比で配合し、該処理剤100質量部に対して水を70質量部の配合比として」なる点と、本願発明1の「固化材スラリー」が「セメント及び/又は高炉スラグ粉末100質量部と、CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末10?50質量部とを配合し、前記セメント及び/又は高炉スラグ粉末と前記非晶質カルシウムアルミネート粉末との合計100質量部に対して、凝結調整剤0?1質量部を配合した固化材」と「水」とで調整されることとは、「固化材スラリー」が「セメント、CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート、水を含む」という点で、共通する。
引用発明3における「スラリー状に調整」は、本願発明1における「固化材スラリーを調整」に相当する。
引用発明3の「放射能汚染物」は「土壌」に広がっている場合も想定されており、その場合にスラリーを「放射能汚染物の上面に流し込む」ことと、本願発明1において固化材スラリーを「農地表面に吹付け」ることとは、「固化材スラリーを地表面に付加する」という点で共通する。
引用発明3の方法によって、放射能汚染物が広がった土壌表面は、流し込まれた「白色ポルトランドセメントD」を含む「スラリー」によって、該土壌の地盤表面が固化されると解されるから、この点は本願発明1における「地盤を固化させる」「地盤固化方法」に相当する。

以上より、本願発明1と引用発明3とは、次の点で一致する。
「セメント、CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート、水を含む固化材スラリーを調整し、
調整した固化材スラリーを地表面に付加して、
地盤を固化させる、地盤固化方法。」

一方、本願発明1と引用発明3とは、以下の点で相違する。

(相違点6)
本願発明1では、
ア 「固化材スラリー」内の配合物が、「セメント及び/又は高炉スラグ粉末」、「CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末」、「凝結調整剤」、「水」であり、
イ その配合比が、
(ア)「セメント及び/又は高炉スラグ粉末」の「100質量部」に対して、「CaO/Al_(2)O_(3)モル比1.7?3.0の非晶質カルシウムアルミネート粉末」が「10?50質量部」、
(イ)「前記セメント及び/又は高炉スラグ粉末と前記非晶質カルシウムアルミネート粉末との合計」の「100質量部」に対して、「凝結調整剤」が「0?1質量部」、
(ウ)上記(ア)(イ)の配合がされた「固化材」の「100質量部」に対して、「水」が「70?300質量部」であり、
ウ 配合の順序と方法が、上記(ア)、上記(イ)の配合を行い、上記(イ)の配合がされた固化材を圧縮空気で空気圧送し、固化材供給管の先端で上記(ウ)の水を供給して、連続スラリー化する、というものであり、
エ もって「20℃における固化時間が5?40秒」である「固化材スラリー」を調整する、

のに対し、引用発明3では、
ア’ 「スラリー」の配合物に、「硫酸バリウムC」及び「無水石膏B」をさらに含む一方、「凝結調整剤」を含まず、また「白色ポルトランドセメントD」を「粉末」で用いているか明確でなく、
イ’ 配合物の配合比が上記イと異なり、
ウ’ 配合を上記ウの順序と方法で行わず、ミキサーで混合しており、
エ’ 調整された後のスラリーが「20℃における固化時間が5?40秒」とはなっていない、点。

(相違点7)
本願発明1では、調整した固化材スラリーを「吐出管ホース」より「吹付け」るのに対し、引用発明3では、スラリーを処理対象の「上面に流し込」む点。

(相違点8)
本願発明1では、処理対象が「農地表面」であるのに対し、引用発明3では「放射能汚染物」が存在する「土壌」である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点6について検討する。
引用発明3は、放射能汚染物を処理するために、「カルシウムアルミネート」から「空間線量の低減効果」を有する「エトリンガイト」の「水和生成」を促進する目的、及び、「密度の高い物質」で「放射線(ガンマ線)の遮蔽効果」を得るという目的を持って、「硫酸バリウムC」を「非晶質カルシウムアルミネートA4」及び「白色ポルトランドセメントD」の合計と同じ量、配合している。このことからすると、引用発明3において、「硫酸バリウムC」を配合の中から除く改変には、阻害要因があると解される。
ここで、引用発明1は、「農作物」が存在し得る「土壌表面」に、「雑草」の「抑制」のために、「酸化マグネシウム系固化材」を含む「スラリー」を吹き付ける構成を備えており、引用発明1は「スラリー」中に「硫酸バリウム」を含むものではない。しかしながら、引用発明1は、引用発明3とは施工の対象、施工目的、及び使用する固化剤の成分がいずれも異なっており、引用発明3に引用発明1を適用する動機付けはない。
一方、引用発明2は、非晶質のカルシウムアルミネートを急結材として含む急結性吹付セメントコンクリートを用いる構成を備えており、同急結性吹付コンクリート中に「硫酸バリウム」を含むものではない。しかしながら、引用発明2は、トンネル掘削等で露出した地山を固める際に、コンクリートのひび割れ防止や曲げ強度の増加のために配合した繊維のリバウンド率を低減することを目的としたものであって、引用発明3とは施工の現場、目的、及びセメントを含む組成物に求める特性がいずれも異なる。そのため、引用発明3に引用発明2を適用する動機付けはない。
すなわち、引用発明3において、配合物中から「硫酸バリウム」を除き、残る配合物の配合比や配合順序・配合方法をさらに改変して、上記相違点6に係る本願発明1の構成とすることは、引用発明1及び引用発明2を考慮しても、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

したがって、本願発明1は、相違点7ないし8について検討するまでもなく、当業者であっても引用発明3、及び引用発明1ないし2に基いて、容易に発明できたものであるとはいえない。

4 本願発明2ないし7について
本願発明2ないし7は、本願発明1に従属し、本願発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
そのため、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1ないし3に基いて、本願発明2ないし7が容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
本願発明1ないし7は、前記「第5」で検討したとおり、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1-3に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-14 
出願番号 特願2013-210737(P2013-210737)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 袴田 知弘  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 有家 秀郎
須永 聡
発明の名称 地盤固化方法  
代理人 相田 悟  
代理人 相田 悟  
代理人 松本 悟  
代理人 松本 悟  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ