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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1346997
審判番号 不服2017-18013  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-05 
確定日 2018-12-13 
事件の表示 特願2015- 69055「電子写真感光体、画像形成装置および画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月 4日出願公開、特開2016-188950〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-69055号(以下「本件出願」という。)は、平成27年3月30日に出願されたものであって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 3月27日付け:拒絶理由通知書
平成29年 6月 2日付け:意見書、手続補正書
平成29年 8月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年12月 5日付け:審判請求書

第2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明は、平成29年6月2日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 電子写真感光体と、当該電子写真感光体の表面を帯電させる帯電手段と、前記帯電手段により帯電された電子写真感光体を露光する露光手段と、前記露光手段により露光された電子写真感光体にトナーを供給してトナー像を形成する現像手段と、前記電子写真感光体上に形成されたトナー像を転写する転写手段と、前記電子写真感光体の表面に滑剤を供給する滑剤供給手段と、前記電子写真感光体の表面に残存したトナーを除去するクリーニング手段とを備える画像形成装置に備えられる当該電子写真感光体であって、
導電性支持体上に感光層および保護層がこの順に積層されてなり、
前記保護層が、樹脂中にP型半導体微粒子が含有されてなり、
表面粗さRzが0.030μm以上0.075μm以下であり、
当該電子写真感光体の表面上に滑剤の皮膜を形成することが可能なものであることを特徴とする電子写真感光体。」

第3 原査定の拒絶の理由
本願発明に関する原査定の拒絶の理由のうち、理由3は、概略、本願発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である下記の引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2014-21133号公報
引用文献2:特開2011-75621号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献の記載
引用文献2には、以下の記載がある。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体及びその製造方法、並びに電子写真感光体を用いた画像形成方法に関する。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここでは、電子写真感光体表面に供給された一定量の滑剤が均一に保持されるために、感光体表面が粗面化されていることが好ましいが、感光体表面を粗面化するために無機微粒子を含有させた表面層を有する感光体では、無機微粒子の粒径が大きいと、クリーニングブレードが欠けてしまい(このブレード欠けをブレードチッピングともいう)、クリーニングブレードの欠けた部分からトナーがすり抜けてクリーニング不良が発生し、その結果、画像汚れが発生してしまうという問題があった。
【0009】
また、滑剤の効果を長期に亘って安定して発揮させるためには、滑剤を感光層表面に安定して供給し一定量保持させることが好ましいが、表面層に無機微粒子を含有させても、その微粒子が感光体表面層の中に埋没して十分な大きさの凸部が得られなかったり、表面に存在する無機微粒子の数が少なくて所望の粗面を形成することが出来ず、感光層表面に滑剤が十分に安定して保持されず、クリーニング不良が発生し、画像汚れが発生してしまうという問題があった。
【0010】
一方、無機微粒子を含有させた表面層を得るために従来から知られているディップ塗布方式(浸漬塗布方式)で表面層を形成させると、表面層の表面に微粒子が均一に分散せず所望の粗面を形成することが出来ず、滑剤が感光層表面に安定して保持されないという問題があった。またスプレー塗布方式で表面層を形成させると、微粒子が表面層に埋没してしまうものが多く、微粒子による凸部が少なくなってしまうため十分な粗面が得られず同様に滑剤が感光層表面に安定して保持されないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記問題を解決し、高精細、高画質の電子写真画像を長期に亘って繰り返し安定して得ることのできる耐久性の高い感光体を提供することを目的とする。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0019】
本発明の感光体は、以上の構成とすることで、クリーニング特性に優れ、画像汚れのない、高画質の画像を長期に亘って安定して得ることができる。
【0020】
【図1】本発明に係わる感光体の層構成の一例を示す模式図である。
【図2】感光体上に形成された静電潜像を現像手段によりトナー画像を形成し、該トナー画像を記録媒体に転写する画像形成装置の一例を示す模式断面図である。
【図3】本発明による連続塗布装置の全体構成を示す斜視図である。
【図4】位置決め手段と円形塗布手段とを示す断面図である。
【図5】上記円形塗布手段の斜視図である。
【図6】円形塗布手段の上部から見た断面図である。
【図7】上記円形塗布手段と溶剤蒸気量調整穴のある乾燥フードとを示す断面図である。
【図8】上記円形塗布手段と溶剤蒸気量調整穴の無い乾燥フードとを示す断面図である。
【図9】位置決め手段30tの一部破断斜視図である。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
〔電子写真感光体〕
本発明に係わる電子写真感光体(以下簡単に「感光体」ともいう)は、導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層を有するものであり、表面層に無機微粒子を含有させるとともに、表面層の最大高さ粗さRzとピークカウント値Pcが特定範囲内の値を有するものである。
【0023】
ここで、最大高さ粗さRzは、JIS B0601(2001年)で定義され、基準長さ(λc)における粗さ曲線の山高さの最大値と谷深さの最大値との和を意味する。即ち、基準長さにおける輪郭曲線の山高さZpの最大値Rpと谷深さZvの最大値Rvとの和(Rz=Rp+Rv)である。本発明においては、基準長さλc=0.08mm、評価長さL=8mm、測定速度=0.15mm/secの条件で測定されたものであり、100点の最大高さ粗さの平均値を用いている。測定は東京精密社製表面粗さ測定機「サーフコム1400D」を用いて行った。
・・・(中略)・・・
【0057】
〔表面層〕
表面層は本発明に係わる無機微粒子とバインダー樹脂を含有する。その他の物質として必要に応じて、電荷輸送物質、酸化防止剤、分散剤等を含有しても良い。
【0058】
表面層のバインダー樹脂としては、耐磨耗性を有する樹脂が好ましく、具体的には、無機微粒子の分散性、分散後の安定性においても優れているケイ素原子を含有する樹脂、フッ素原子を含有する樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びシロキサン樹脂を挙げることができる。
【0059】
〔無機微粒子〕
無機微粒子としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、二酸化チタン粒子から選択されてなるものを挙げることができる。これらの中ではシリカ粒子、アルミナ粒子が好ましい。
【0060】
無機微粒子の数平均一次粒径は、0.01μm以上1.00μm以下が好ましい。特に好ましくは、0.03μm以上0.3μm以下である。
【0061】
ここで、無機微粒子の数平均一次粒径は、無機微粒子を透過型電子顕微鏡により、観察、撮影された写真画像より算出するもので、顕微鏡の倍率を10000倍に設定して写真撮影を行い、写真画像上よりランダムに100個の無機微粒子を抽出して算出する。具体的には、画像解析処理により100個の無機微粒子のフェレ方向平均径を測定して、これを数平均一次粒径とするものである。なお、前記画像解析処理は、たとえば、透過型電子顕微鏡測定装置に内蔵されているプログラムを駆動させることにより自動的に行うことができる。本発明では、無機微粒子の粒径測定には、透過型電子顕微鏡JEM-2000FX(日本電子(株)製)を用いた。
【0062】
無機微粒子としては特に限定されるものではなく、シリカ、二酸化チタン、アルミナなどの無機酸化物粒子の使用が好ましく、更に、これら無機微粒子は分散性向上と電子写真特性の安定性からシランカップリング剤やチタンカップリング剤などによって疎水化処理されていることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0066】
〔表面の形状〕
本発明において表面層の形状は、無機微粒子の粒径と添加量で管理されるが、これらを管理するだけでは最適な効果を発揮することができず、表面に頭を出している無機微粒子の大きさ、高さ、密集度を最適に制御することによって始めて達成される。ここで、感光層表面に頭を出している無機微粒子の大きさは添加する無機微粒子の一次粒径で管理され、高さ、密集度は添加部数で管理される他、Rz、Pcで管理される。これらRz、Pcの最適範囲値は表面層の塗布膜の塗布条件及び乾燥条件を適切に管理することで始めて達成される。即ち、RzとPcが適切な範囲にあると感光層表面に滑剤の均一な薄膜を形成することができ、良好なクリーニング性能を発揮することができる。
【0067】
本発明の最大高さ粗さRzは、0.05μm以上0.2μm以下であり、特に好ましくは、0.08μm以上0.15μm以下である。
【0068】
また、本発明のピークカウント値Pcは、150以上であり、特に好ましくは、200以上600以下である。
【0069】
本発明ではRzが0.05μmに満たないと良好な効果を発揮できず、Rzが0.2μmを超えるとクリーニングブレードの欠けが発生しやすくなり、このクリーニングブレードの欠けた部分からトナーのすり抜けが発生し、画像汚れが発生してしまう。
・・・(中略)・・・
【0094】
〔画像形成装置〕
本願発明の画像形成装置について例を挙げて説明する。
【0095】
図2に示す画像形成装置1は、デジタル方式による画像形成装置であって、画像読取り部(画像読取り手段)A、画像処理部(画像処理手段)B、画像形成部(画像形成手段)C、転写紙搬送手段としての転写紙搬送部(転写紙搬送手段)Dから構成されている。
・・・(中略)・・・
【0099】
画像形成部(画像形成手段)Cでは、画像形成ユニットとして、像担持体であるドラム状の感光体21と、その外周に、該感光体21を帯電させる帯電手段(帯電工程)22、帯電した感光体の表面電位を検出する電位検出手段220、現像手段(現像工程)23、転写手段(転写工程)である転写搬送ベルト手段45、前記感光体21のクリーニング手段(クリーニング工程)26及び光除電手段(光除電工程)としてのPCL(プレチャージランプ)27が各々動作順に配置されている。また、現像手段23の下流側には感光体21上に現像されたパッチ像の反射濃度を測定する反射濃度検出手段222が設けられている。感光体21には、本発明に係わる有機感光体を使用し、図示の時計方向に駆動回転される。
【0100】
回転する感光体21へは帯電手段22による一様帯電がなされた後、像露光手段(像露光工程)30としての露光光学系により画像処理部Bのメモリから呼び出された画像信号に基づいた像露光が行われる。書き込み手段である像露光手段30としての露光光学系は図示しないレーザダイオードを発光光源とし、回転するポリゴンミラー31、fθレンズ34、シリンドリカルレンズ35を経て反射ミラー32により光路が曲げられ主走査がなされるもので、感光体21に対してAoの位置において像露光が行われ、感光体21の回転(副走査)によって静電潜像が形成される。本実施の形態の一例では文字部に対して露光を行い静電潜像を形成する。
・・・(中略)・・・
【0112】
〔滑剤〕
本発明において、クリーニング性の向上には、感光体の表面形状を制御するだけでなく、滑剤の均一な薄層を感光体表面に形成することが必要であるが、ここでは滑剤として脂肪酸金属塩が用いられる。ここで用いられる脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウムが挙げられるが、本発明で使用される脂肪酸金属塩は、これらに限定されるものではない。
【0113】
〔滑剤の供給方法〕
感光層表面への滑剤の供給方法としては、一般的にはトナー中に外添剤としてステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の滑剤を添加し現像時に感光体表面に供給する方法が知られている。
【0114】
その他、ブラシ等を用いて回転する感光層の表面に滑剤を均一塗布・供給する方法が知られている。
【0115】
本発明では、どちらの方法でも滑剤は感光層表面に供給することができ、滑剤として有効に機能させることが可能である。」

(3)「【実施例】
【0116】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0117】
〔実施例1〕
《感光体の作成》
〈感光体1の作成〉
(導電性支持体)
導電性支持体としては、切削加工した後、表面を洗浄した円筒状のアルミニウム基体を用いた。
【0118】
(中間層の形成)
洗浄済み円筒状アルミニウム支持体(直径100mm、長さ360mm)上に、下記中間層塗布液を浸漬塗布法で塗布し、120℃、30分で乾燥し、乾燥膜厚5μmの中間層を形成した。
【0119】
下記中間層分散液を同じ混合溶剤にて二倍に希釈し、一夜静置後に濾過(フィルター;日本ポール社製リジメッシュフィルター公称濾過精度:5ミクロン、圧力;50kPa)し、中間層塗布液を作製した。
【0120】
(中間層分散液の作製)
バインダー樹脂:(下記構造式) 1質量部
ルチル形酸化チタン(一次粒径35nm;末端に水酸基を有するジメチルポリシロキサンで表面処理を行ない、疎水化度を33に調製した酸化チタン顔料)
5.6質量部
エタノール/n-プロピルアルコール/THF(=45/20/30質量比)
10質量部
上記成分を混合し、サンドミル分散機を用い、10時間、バッチ式にて分散して、中間層分散液を作製した。
【0121】
【化1】

【0122】
(電荷発生層の形成)
下記成分を混合した液をサンドミル分散機を用いて分散し、電荷発生層塗布液を作成した。
【0123】
電荷発生層塗布液
Y型オキシチタニルフタロシアニン(Cu-Kα特性X線によるX線回折のスペクトルで、ブラッグ角(2θ±0.2°)27.3°に最大回折ピークを有するチタニルフタロシアニン顔料) 20質量部
シリコーン変性ポリビニルブチラール 10質量部
4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン 700質量部
t-ブチルアセテート 300質量部
この塗布液を浸漬塗布により中間層上に塗布し、乾燥膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0124】
(電荷輸送層の形成)
下記成分を溶解、混合した液を、濾過(フィルター:日本ポール社製リジメッシュフィルター公称濾過精度:5μm、圧力:50kPa)して電荷輸送層塗布液を作成した。
【0125】
電荷輸送層塗布液
4-メトキシ-4’-(4-フェニル-α-フェニルスチリル)トリフェニルアミン
70質量部
ビスフェノールZ型ポリカーボネート「ユーピロン Z300」(三菱ガス化学社製)
100質量部
酸化防止剤「Irganox1010」(チバ・ジャパン社製)8質量部
溶剤(テトラヒドロフラン/トルエン(質量比8/2)) 750質量部
この塗布液を浸漬塗布により電荷発生層上に塗布した後、110℃で60分乾燥して乾燥膜厚20μmの電荷輸送層を形成した。
【0126】
(表面層の形成)
下記成分を混合した液を、バッチ式のサンドミル分散機を用いて、10時間分散した後、濾過(フィルター:日本ポール社製リジメッシュフィルター公称濾過精度:5μm、圧力:50kPa)して表面層塗布液を作成した。
【0127】
表面層塗布液
4-メトキシ-4’-(4-メチル-α-フェニルスチリル)トリフェニルアミン
70質量部
ビスフェノールZ型ポリカーボネート「ユーピロン Z300」(三菱ガス化学社製)
100質量部
3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン 8質量部
テトラヒドロフラン 1000質量部
無機微粒子「シリカ」(数平均一次粒径0.033μm) 20質量部
電荷輸送層の上に上記表面層塗布液を円形スライドホッパー塗布装置を用いて塗布した後、110℃で60分乾燥して乾燥膜厚6μmの表面層を形成し「感光体1」を作成した。ここでは、乾燥フード(長さ200mm、溶剤蒸気量調整穴なし)を用いた。
【0128】
この感光体の最大高さ粗さRzは0.1μmであり、ピークカウント値Pcは312であった。
【0129】
〈感光体2?9の作成〉
上記「感光体1」の表面層の作成で用いた無機微粒子の種類と添加量及び乾燥フード条件を表1のように変更した他は感光体1と同様にして、感光体2?9を作成した。
・・・(中略)・・・
【0139】
【表1】



(4)「



2 引用発明
上記1から、引用文献2には、実施例4として以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、無機微粒子「シリカ」の含有量と最大高さ粗さRz(μm)の数値は、【0139】の【表1】に記載されたものである。
「 円筒状アルミニウム支持体上に、中間層塗布液を浸漬塗布法で塗布し、120℃、30分で乾燥し、乾燥膜厚5μmの中間層を形成し、
電荷発生層塗布液を浸漬塗布により中間層上に塗布し、乾燥膜厚0.3μmの電荷発生層を形成し、
電荷輸送層塗布液を浸漬塗布により電荷発生層上に塗布した後、110℃で60分乾燥して乾燥膜厚20μmの電荷輸送層を形成し、
下記成分を混合した液を、バッチ式のサンドミル分散機を用いて、10時間分散した後、濾過して表面層塗布液を作成し、
電荷輸送層の上に上記表面層塗布液を円形スライドホッパー塗布装置を用いて塗布した後、110℃で60分乾燥して乾燥膜厚6μmの表面層を形成して得た、
最大高さ粗さRz(μm)が0.05である、
感光体。
表面層塗布液の成分:
4-メトキシ-4’-(4-メチル-α-フェニルスチリル)トリフェニルアミン 70質量部
ビスフェノールZ型ポリカーボネート「ユーピロン Z300」(三菱ガス化学社製) 100質量部
3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン 8質量部
テトラヒドロフラン 1000質量部
無機微粒子「シリカ」(数平均一次粒径0.033μm) 5質量部」

第5 及び判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

(1)導電性支持体、感光層、保護層
引用発明は、「円筒状アルミニウム支持体」上に、「中間層」を介し、「電荷発生層」、「電荷輸送層」及び「表面層」を順次形成したものである。
そうしてみると、引用発明の「円筒状アルミニウム支持体」、「電荷発生層」と「電荷輸送層」を併せたもの及び「表面層」は、その形成部位や機能等からみて、それぞれ、本願発明の「導電性支持体」、「感光層」及び「保護層」に相当する。

(2)保護層
引用発明の「表面層」は、「ビスフェノールZ型ポリカーボネート「ユーピロン Z300」(三菱ガス化学社製)」及び「無機微粒子「シリカ」」を含有するものである。ここで、「ビスフェノールZ型ポリカーボネート「ユーピロン Z300」(三菱ガス化学社製)」は、樹脂に該当する。
そうしてみると、本願発明と引用発明は、「保護層が、樹脂中に微粒子が含有されて」いる点で共通する。

(3)表面粗さRz
引用発明の「表面層」は、「最大高さ粗さRz(μm)」が「0.05」である。
ここで、引用発明の「最大高さ粗さRz(μm)」と本願発明の「表面粗さRz」は、同一の物性を意味するものである(本件の明細書の【0024】と引用文献2の【0023】参照)。
そうしてみると、引用発明の「感光体」は、本願発明の「電子写真感光体」における「表面粗さRzが0.030μm以上0.075μm以下」であるという要件を満たすものである。

(4)電子写真感光体
引用発明の「感光体」は、技術的にみて、本願発明の「電子写真感光体」に相当する。

2 一致点及び相違点
以上のことから、本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
(一致点)
「 電子写真感光体であって、
導電性支持体上に感光層および保護層がこの順に積層されてなり、
前記保護層が、樹脂中に無機微粒子が含有されてなり、
表面粗さRzが0.030μm以上0.075μm以下である、
電子写真感光体。」

そして、本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明の「電子写真感光体」は、「当該電子写真感光体の表面を帯電させる帯電手段と、前記帯電手段により帯電された電子写真感光体を露光する露光手段と、前記露光手段により露光された電子写真感光体にトナーを供給してトナー像を形成する現像手段と、前記電子写真感光体上に形成されたトナー像を転写する転写手段と、前記電子写真感光体の表面に滑剤を供給する滑剤供給手段と、前記電子写真感光体の表面に残存したトナーを除去するクリーニング手段とを備える画像形成装置に備えられる」ものであるの対して、引用発明は、このように特定されたものではない点。
(相違点2)
本願発明の「保護層」は、微粒子として、「P型半導体粒子」を含有するのに対して、引用発明は、「無機微粒子「シリカ」(数平均一次粒径0.033μm)」を含有する点。
(相違点3)
本願発明は「電子写真感光体の表面上に滑剤の皮膜を形成することが可能なものである」のに対して、引用発明は、このように特定されたものではない点。

3 判断
以下、相違点1-3の判断については、以下のとおりである。

(1)相違点1について
引用文献2の【0099】には、「画像形成部(画像形成手段)Cでは、画像形成ユニットとして、像担持体であるドラム状の感光体21と、その外周に、該感光体21を帯電させる帯電手段(帯電工程)22、帯電した感光体の表面電位を検出する電位検出手段220、現像手段(現像工程)23、転写手段(転写工程)である転写搬送ベルト手段45、前記感光体21のクリーニング手段(クリーニング工程)26及び光除電手段(光除電工程)としてのPCL(プレチャージランプ)27が各々動作順に配置されている。」ことが記載されている。
また、引用文献2の【0100】には、「回転する感光体21へは帯電手段22による一様帯電がなされた後、像露光手段(像露光工程)30としての露光光学系により画像処理部Bのメモリから呼び出された画像信号に基づいた像露光が行われる。」ことが記載されている。
さらに、引用文献2の【0112】には、「滑剤の均一な薄層を感光体表面に形成することが必要である」ことが記載されている。
そうしてみると、引用発明の「感光体」は、相違点1に係る本願発明の「当該電子写真感光体の表面を帯電させる帯電手段と、前記帯電手段により帯電された電子写真感光体を露光する露光手段と、前記露光手段により露光された電子写真感光体にトナーを供給してトナー像を形成する現像手段と、前記電子写真感光体上に形成されたトナー像を転写する転写手段と、前記電子写真感光体の表面に滑剤を供給する滑剤供給手段と、前記電子写真感光体の表面に残存したトナーを除去するクリーニング手段とを備える画像形成装置に備えられる」ことが予定されたものであるといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
仮に、相違点1が実質的な相違点であるとしても、引用発明において、引用文献2の上記記載に基づいて、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が通常の創作能力を発揮することによってなし得る程度の事項である。

(2)相違点2について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の【0026】には、「耐摩耗性と画像特性を両立できる感光体とするためにp型半導体粒子を感光体の保護層に添加するとp型半導体粒子の硬度が高いことの効果で、耐摩耗性を向上させることができる。またp型半導体粒子が正孔輸送能を有するため、保護層においても十分な正孔輸送能が確保でき、電荷がトラップされることが無いため、画像メモリーが改善できる。」ことが記載されている。
そうしてみると、引用発明において、上記記載の技術的事項を心得た当業者であれば、感光体の耐摩耗性と画像特性の両立や画像メモリーの改善を図るために、「表面層」に含有される「無機微粒子「シリカ」(数平均一次粒径0.033μm)」に替えて、あるいは、これとともに、p型半導体粒子を用いた構成とすることは、容易になし得る事項であるといえる。また、引用発明の「感光体」の「最大高さRz(μm)」は、意図して「0.05」となるようにされたものである。したがって、引用発明において「p型半導体粒子」を採用する際に、「感光体」の「最大高さRz(μm)」が「0.05」となるようにすること(例:引用発明の「シリカ」と同程度の粒径を有するp型半導体粒子を使用すること)は、当然のことである。


(3)相違点3について
引用発明において、上記(2)に記載したとおり、「表面層」に含有される「無機微粒子「シリカ」(数平均一次粒径0.033μm)」に替える等して、p型半導体粒子を用いた構成と、本件補正発明を対比すると、感光体としての物の構成に実質的な相違点は見出せない。
そうしてみると、当該構成は、相違点3に係る本願発明の「電子写真感光体の表面上に滑剤の皮膜を形成することが可能なものである」という要件を満たすといえる。

なお、フッ素原子を有する樹脂を含有する構成について、審判請求人は、平成29年6月2日に提出された意見書において、「(1-3)また、引用文献1には、保護層を形成する樹脂にフッ素原子を含有する樹脂を用いることによって、感光体表面に潤滑性を付与することが記載されており、従って、引用文献1に記載された発明は、滑剤を用いて感光体表面に滑剤の皮膜を形成し、これにより潤滑性を付与する思想を有さないものと解されます。具体的には、前述の引用文献1の段落0026の記載に加え、段落0031には「フッ素原子を有する樹脂が、・・・感光体表面の潤滑性の向上に・・」と記載されており、段落0051には「・・が潤滑性が高いので・・」と記載されており、段落0061には「フッ素原子を有する樹脂材料自体の潤滑性に加えて・・」と記載されております。」(〔5〕特許法第29条に係る理由2,3について)と主張している。
しかしながら、引用発明の「表面層」は、フッ素原子を有する樹脂を含有するものではない。そうしてみると、上記(2)に記載したとおり、引用発明と引用文献1に記載された事項を組み合わせる際において、当業者が引用発明の「表面層」にフッ素原子を有する樹脂を含有させるとはいえない。
仮に、引用発明において、フッ素原子を有する樹脂を含有させるとしても、表面層にフッ素樹脂を含有する感光体に対して、ステアリン酸亜鉛等の潤滑剤を供給することは周知技術であって(例えば、特開2005-189509号公報の【0058】-【0060】、【0130】、【0136】、【図2】及び【図3】等参照。)、審判請求人の主張を認めることはできない。
なお、本件の明細書の【0055】及び【0056】には、保護層にはフッ素原子含有樹脂粒子が滑剤粒子として含有されていてもよいことが記載されており、保護層にフッ素原子を含有する樹脂を含む構成が本願発明から除かれるとはいえず、本件の明細書の【0055】及び【0056】の記載と審判請求人の主張には齟齬があるといえる。

4 審判請求人の主張する効果について
審判請求人は、平成29年12月5日付け審判請求書において、概略、本件補正発明においては評価が100万枚両面連続プリント実施後に行われるのに対し、引用文献1においては30万枚、引用文献2においては3万枚と、本願発明と比較して大幅に少ない連続プリント後に評価が行われるので、引用文献1および引用文献1における画像形成条件は、本願発明の画像形成条件よりもはるかに緩やかであり、従って、引用文献1および引用文献2に記載の発明からは、本願発明の画像形成条件が示唆されない旨主張している。
しかしながら、引用文献1の【0026】には、「耐摩耗性と画像特性を両立できる感光体とするためにp型半導体粒子を感光体の保護層に添加するとp型半導体粒子の硬度が高いことの効果で、耐摩耗性を向上させることができる。またp型半導体粒子が正孔輸送能を有するため、保護層においても十分な正孔輸送能が確保でき、電荷がトラップされることが無いため、画像メモリーが改善できる。」ことが記載されており、審判請求人の主張する効果は、上記3(2)に記載したとおり、引用発明と引用文献1に記載された事項を組み合わせた当業者が期待する範囲内のものにすぎない。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-11 
結審通知日 2018-10-16 
審決日 2018-10-31 
出願番号 特願2015-69055(P2015-69055)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉持 俊輔  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
川村 大輔
発明の名称 電子写真感光体、画像形成装置および画像形成方法  
代理人 大井 正彦  

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