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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1347001
審判番号 不服2018-601  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-17 
確定日 2018-12-13 
事件の表示 特願2014-118572「基板収納容器の評価方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月24日出願公開、特開2015-233040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年6月9日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 3月27日 拒絶理由通知
平成29年 5月25日 意見書・手続補正
平成29年10月24日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成30年 1月17日 手続補正・審判請求

第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
審判請求と同時にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正により,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は,本件補正後の請求項1へ補正された。
(1)本件補正前
本件補正前の,特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
シリコンエピタキシャルウェーハを収納するための基板収納容器の評価方法であって,
気相成長装置から取り出したばかりの前記シリコンエピタキシャルウェーハの表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第1特性値の,ウェーハ面内分布を求める第1分布測定工程と,
前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に収納する収納工程と,
前記基板収納容器から前記シリコンエピタキシャルウェーハを取り出し,該取り出したシリコンエピタキシャルウェーハの前記表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第2特性値の,ウェーハ面内分布を求める第2分布測定工程と,
前記シリコンエピタキシャルウェーハの同一箇所における前記第1特性値と前記第2特性値の特性値差の,ウェーハ面内分布を求める特性値差分布算出工程とを有し,
前記特性値差のウェーハ面内分布を用いて,前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に収納したときに前記シリコンエピタキシャルウェーハに付着した有機物のウェーハ面内分布を評価することを特徴とする基板収納容器の評価方法。」
(2)本件補正後
本件補正後の,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。(当審注。補正個所に下線を付した。)
「【請求項1】
シリコンエピタキシャルウェーハを収納するための基板収納容器の評価方法であって,
気相成長装置から取り出したばかりの前記シリコンエピタキシャルウェーハの表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第1特性値の,ウェーハ面内分布を求める第1分布測定工程と,
前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に5時間以下収納する収納工程と,
前記基板収納容器から前記シリコンエピタキシャルウェーハを取り出し,該取り出したシリコンエピタキシャルウェーハの前記表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第2特性値の,ウェーハ面内分布を求める第2分布測定工程と,
前記シリコンエピタキシャルウェーハの同一箇所における前記第1特性値と前記第2特性値の特性値差の,ウェーハ面内分布を求める特性値差分布算出工程とを有し,
前記特性値差のウェーハ面内分布を用いて,前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に収納したときに前記シリコンエピタキシャルウェーハに付着した有機物のウェーハ面内分布を評価することを特徴とする基板収納容器の評価方法。」
(3)本件補正
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された「前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に収納する収納工程」を「前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に5時間以下収納する収納工程」に限定するものである。
2 補正の適否
本件補正は,新規事項を追加するものではないから特許法17条の2第3項の規定に適合し,特許請求の範囲の減縮を目的とするから,同条4項の規定に適合し,同条5項2号に掲げるものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項)につき,さらに検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,本件補正後の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「シリコンエピタキシャルウェーハを収納するための基板収納容器の評価方法であって,
気相成長装置から取り出したばかりの前記シリコンエピタキシャルウェーハの表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第1特性値の,ウェーハ面内分布を求める第1分布測定工程と,
前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に5時間以下収納する収納工程と,
前記基板収納容器から前記シリコンエピタキシャルウェーハを取り出し,該取り出したシリコンエピタキシャルウェーハの前記表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第2特性値の,ウェーハ面内分布を求める第2分布測定工程と,
前記シリコンエピタキシャルウェーハの同一箇所における前記第1特性値と前記第2特性値の特性値差の,ウェーハ面内分布を求める特性値差分布算出工程とを有し,
前記特性値差のウェーハ面内分布を用いて,前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に収納したときに前記シリコンエピタキシャルウェーハに付着した有機物のウェーハ面内分布を評価することを特徴とする基板収納容器の評価方法。」
(2)引用文献及び引用発明
ア 引用文献1について
(ア)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-368050号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は,当審で付加した。以下同じ。)
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,半導体基板表面に付着した有機物の量,特に半導体基板表面の特定領域に付着した有機物の量を測定する測定方法およびその測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体基板表面の汚染は,複数の製造工程を経て形成されたデバイスにおいて,酸化膜耐圧の劣化をひきおこすなど,デバイスの信頼性を低下させる原因として知られている。」
b 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】従来の半導体基板34表面に付着した有機物の測定方法および測定装置は,半導体基板34表面の全体面からの有機物を脱離して測定するため,半導体基板34表面におけるどの部分の汚染がひどいかを判定できない欠点を有している。
【0008】例えば,処理室のある領域に汚染源が存在した場合,その汚染源に近い領域にある半導体基板34の表面ほど汚染すると考えられる。従って,半導体基板34表面において汚染状態のひどい部分を特定できないことは,汚染源を解明するのに時間がかかるという欠点につながっている。
【0009】また,従来の方法は1つの半導体基板34あたり約2時間もかかるため,スループットが悪いという欠点も有していた。
【0010】そこで,本発明は,半導体基板34表面の有機物の量を,局所的に測定することを目的とする。」
c 「(第1の実施例)図1は,本発明の第1の実施例にかかる半導体基板表面の有機物の測定フローチャート図である。
【0016】最初に半導体基板の表面チャージQssを測定する。
【0017】ここでいう表面チャージQssは,半導体基板表面に光を照射しキャリアを発生させることにより生じる表面光電圧qVsを測定し,電位Vsと表面チャージQssとの関係から求められるものである。電位Vsと表面チャージQssとの関係は,半導体基板の抵抗等によりかわるものである。」
d 「(実施例2)最初に半導体基板の表面チャージQssを,15mm間隔ごとに測定する。
【0024】次に,不活性ガス雰囲気下,例えばN2, He, Ne, Ar, Kr,Xeなどの不活性ガス雰囲気下で半導体基板表面に紫外線を照射し,半導体基板表面に付着した有機物を除去する。
【0025】続いて,先に測定した位置と実質同じ位置において,半導体基板の表面チャージQss'を,15mm間隔ごとに測定する。この測定間隔は任意に設定でき,装置によるが最小2mm角で測定することができるため,最小2mm角での局所分析が可能である。
【0026】そして,半導体基板表面の各位置について表面チャージ変化量ΔQssを計算し,半導体基板表面に付着した有機物量を求める。
【0027】図3は,本発明の第2の実施例により測定したSi基板表面に付着した有機物量の面内分布である。ある値を基準に相対値で表した。
【0028】図3より,Si基板の隅の8ヶ所(黒い領域)は,中心と比較すると有機物が多くなっている。右上から中央にかけても有機物が多い傾向にある。従って汚染はSi基板右上が大きい可能性が高い。また例えば,反応ガスがSi基板右上から流れてくるようになっているのならば,反応ガスが汚染源の可能性が高いと推定することができる。」
e 「(実施例3)最初に半導体基板の表面チャージQssを測定する。
【0029】次に,半導体基板をプラスチック製ウエハーケース内に所定時間保管する。
【0030】続いて,先に測定した位置と実質同じ位置において,半導体基板の表面チャージQss'を測定する。
【0031】そして,表面チャージ変化量ΔQssを計算し,半導体基板表面に付着した有機物量を求める。
【0032】図4は,本発明の第3の実施例により測定したSi基板の表面チャージQssおよびQss'と,ウエハーケース内の保管時間を示した図である。
【0033】ここではn型Si基板,3枚について同様に測定した。また,比較のためSi基板をHe雰囲気下で30分加熱した後に測定した,表面チャージQss''もプロットした。表面チャージQss''は,もとの表面チャージQssとほぼ重なっているため,Si基板表面がもとの状態に回復していることがわかる。
【0034】図4をみると,ウエハーケースの保管時間がゼロの時は,表面チャージ変化量ΔQssはゼロであるのに対し,例えば150時間放置すると表面チャージ変化量ΔQssは約2×10^(10)[ q・cm^(2) ] と増加している。つまり,有機物がSi基板表面に付着したことがわかる。
【0035】これは周知のとおり,プラスチック部材はデガスがあるため,このデガスがSi基板に付着したためと考えられる。
【0036】このように,半導体基板表面の状態を変化させた前後における表面チャージ変化量ΔQssを求め,どのような変化があったかを推測することもできる。
【0037】原則的に,半導体基板が同じ条件にあれば,本発明の測定方法は有効である。」
f 「【0052】
【発明の効果】本発明は,上述のように構成されているので,半導体基板表面に付着した有機物量を,局所的に測定することができる。また従来と比較し,この測定にかかる時間を短縮化できる。」
g 図4には,「生材ケース放置時間(h)」と「Qss(×E+10qcm2)」との関係が記載されており,生材ケース放置時間が0でQss'-Qssは0,生材ケース放置時間約10でQss'-Qssは約0.6,生材ケース放置時間が約50でQss'-Qssは約1.8,生材ケース放置時間が約150でQss'-Qssは約2.4,生材ケース放置時間が約287でQss'-Qssは約2.2であることが示されていると認められる。
(イ)引用発明
前記(ア)より,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記の工程からなる方法。最初に半導体基板の表面チャージQssを測定する。次に,半導体基板をプラスチック製ウエハーケース内に所定時間保管する。続いて,先に測定した位置と実質同じ位置において,半導体基板の表面チャージQss'を測定する。そして,表面チャージ変化量ΔQssを計算し,半導体基板表面に付着した有機物量を求める。」
イ 引用周知技術について
(ア)引用文献2
原査定に引用された,特開平10-270517号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
a 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はp型シリコンエピタキシャル層のキャリア濃度測定方法に関するもので,詳しくは表面光電圧法によりp型エピタキシャル層表層の真のキャリア濃度を測定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】シリコンエピタキシャルウェーハは,その優れた特性から広く個別半導体やバイポーラIC等を製造するウエーハとして,古くから用いられてきた。また,MOS LSIについても,ソフトエラーやラッチアップ特性が優れている事から,マイクロプロセッサユニットやフラッシュメモリデバイスに広く用いられている。さらに,シリコン単結晶製造時に導入される,いわゆるGrown-in欠陥によるDRAMの信頼性不良を低減させるため,エピタキシャルウェーハの需要はますます拡大している。」
b 「【0030】したがって,本発明の方法では,エピタキシャル層成長後,いつ測定しても時間さえ確認しておけば正確なキャリア濃度を評価することができるようになった。特に,エピタキシャル層成長後,すぐに測定することが可能であるので,従来に比較し極めて時間の短縮化がはかれる。しかも,本法の表面光電圧法は非接触で測定でき,破壊検査ではないので,歩留の向上をも図ることができる。」
c 「【0040】
【発明の実施の形態】次に,本発明の具体的実施形態を示すが,本発明はこれらに限定されるわけではない。
(予め行なうキャリア濃度の経時変化の測定)単一のエピタキシャルウエーハ製造装置で,0.007Ωcmのp型シリコンウエーハ上に,抵抗率の水準20,10,5Ωcm狙いのp型エピタキシャル層を膜厚6μm で形成した,いわゆるP/P^(++)エピタキシャルウェーハを作製し,ウエーハを製造装置から取り出したまま特別な処理を加えることなく,SCPによりエピタキシャル層のキャリア濃度を,時経列的に測定した。」
(イ)引用文献3
原査定に引用された,特開2003-45926号公報(以下,「引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はシリコンエピタキシャル層のキャリア濃度測定方法に関するもので,詳しくは表面光電圧法によりエピタキシャル層のキャリア濃度を高い信頼性をもって測定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】シリコンエピタキシャルウエーハは,その優れた特性から広く個別半導体やバイポーラIC等を製造するウエーハとして,古くから用いられてきた。また,MOS LSIについても,ソフトエラーやラッチアップ特性が優れている事から,マイクロプロセッサユニットやフラッシュメモリデバイスに広く用いられている。さらに,シリコン単結晶製造時に導入される,いわゆるGrown-in欠陥によるDRAMの信頼性不良を低減させるため,エピタキシャルウェーハの需要はますます拡大している。」
b 「【0034】
【実施例】以下,本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)枚葉式常圧CVD装置にて,0.008Ωcmのp型シリコンウェーハ上に,狙いの抵抗率の水準がそれぞれ20,10,5Ωcmで,膜厚が5μmのp型エピタキシャル層を有する,いわゆるP/P^(++)エピタキシャルウェーハを作製した。ウェーハをCVD装置から取り出した後,コロナ放電処理においてコロナ放電を発生させ,正電荷をウェーハ表面に付着させた。この時,コロナ放電処理には,KG101 CORONA CHARGE GENERATOR(SEMILAB社製)を用い,最大空乏幅を得るために1μCの正電荷を付着させる設定とした。コロナ放電処理直後,SCPによりエピタキシャル層のキャリア濃度を測定した。その後,同一ウェーハを用いて,上記と同様のコロナ放電処理とキャリア濃度測定を10日間繰り返し行い,測定値の日間変動を調べた。」
(ウ)引用周知技術
前記(ア)及び(イ)より,次の技術(以下,「引用周知技術」という。)は周知技術と認められる。
「シリコンエピタキシャルウエーハは,その優れた特性から広く個別半導体やバイポーラIC等を製造するウエーハとして,古くから用いられており,ウエーハをCVD装置で作製し取り出すこと。」
(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「半導体基板」と本願補正発明の「シリコンエピタキシャルウェーハ」とは「半導体基板」という点で共通し,引用発明において「表面チャージQss」は「表面光電圧qVs」を測定し求められるものである(前記(2)ア(ア)c【0017】)から,引用発明の「最初に半導体基板の表面チャージQssを測定する。」と本願補正発明の「気相成長装置から取り出したばかりの前記シリコンエピタキシャルウェーハの表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第1特性値の,ウェーハ面内分布を求める第1分布測定工程」とは,「半導体基板の表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第1特性値を求める第1測定工程」という点で共通する。
イ 前記アを考慮すると,引用発明の「次に,半導体基板をプラスチック製ウエハーケース内に所定時間保管する。」と本願補正発明の「前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に5時間以下収納する収納工程」とは,「前記半導体基板を基板収納容器に所定時間収納する収納工程」という点で共通する。
ウ 引用発明において「続いて,先に測定した位置と実質同じ位置において,半導体基板の表面チャージQss'を測定する。」はその直前の「所定時間保管する。」に「続いて」行われるから所定時間の保管が終了したことを前提とするものでありこれは必然的に「前記基板収容容器から前記半導体基板を取り出す」ことを伴うものである。すると,前記アも考慮して,引用発明の「続いて,先に測定した位置と実質同じ位置において,半導体基板の表面チャージQss'を測定する。」と本願補正発明の「前記基板収納容器から前記シリコンエピタキシャルウェーハを取り出し,該取り出したシリコンエピタキシャルウェーハの前記表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第2特性値の,ウェーハ面内分布を求める第2分布測定工程」とは,「前記基板収納容器から前記半導体基板を取り出し,該取り出した半導体基板の前記表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第2特定値を求める第2測定工程」という点で共通する。
エ 引用発明の「そして,表面チャージ変化量ΔQssを計算し,半導体基板表面に付着した有機物量を求める。」と本願補正発明の「前記シリコンエピタキシャルウェーハの同一箇所における前記第1特性値と前記第2特性値の特性値差の,ウェーハ面内分布を求める特性値差分布算出工程とを有し,前記特性値差のウェーハ面内分布を用いて,前記シリコンエピタキシャルウェーハを前記基板収納容器に収納したときに前記シリコンエピタキシャルウェーハに付着した有機物のウェーハ面内分布を評価すること」とは,「前記半導体基板の同一箇所における前記第1特性値と前記第2特性値の特性値差を求める特性値差算出工程とを有し,前記特定値差を用いて,前記半導体基板を前記基板収納容器に収納したときに前記半導体基板に付着した有機物を評価すること」という点で共通する。
オ すると,本願補正発明と引用発明とは,下記カの点で一致し,下記キの点で相違する。
カ 一致点
「方法であって,
半導体基板の表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第1特性値を求める第1測定工程と,
前記半導体基板を基板収納容器に所定時間収納する収納工程と,
前記基板収納容器から前記半導体基板を取り出し,該取り出した半導体基板の前記表面光起電力信号を測定し,該測定した表面光起電力信号から換算される第2特性値を求める第2測定工程と,
前記半導体基板の同一箇所における前記第1特性値と前記第2特性値の特性値差を求める特性値差算出工程とを有し,
前記特性値差を用いて,前記半導体基板を前記基板収納容器に収納したときに前記半導体基板に付着した有機物を評価することを特徴とする方法。」
キ 相違点
(ア)相違点1
本願補正発明の「方法」は「シリコンエピタキシャルウェーハを収納するための基板収納容器の評価方法」であるのに対し,引用発明の「方法」はこの旨の特定がない点。
(イ)相違点2
本願補正発明の「半導体基板」は「気相成長装置から取り出したばかりの前記シリコンエピタキシャルウェーハ」であるのに対し,引用発明の「半導体基板」はこの旨の特定がない点。
(ウ)相違点3
本願補正発明では「第1特性値」,「第2特性値」及び「特性値差」それぞれの「ウェーハ面内分布」を求めるのに対し,引用発明ではこの旨の特定がない点。
(エ)相違点4
本願補正発明の「所定時間」は「5時間以下」であるのに対し,引用発明ではこの旨の特定がない点。
(4)相違点についての検討
ア 相違点1,3及び4について
事案に鑑みて,相違点1,3及び4についてまとめて検討する。
引用発明の方法により「どのような変化があったかを推測することもできる」ことが引用文献1に開示され(前記(2)ア(ア)e【0035】及び【0036】)ており,これは「プラスチック部材はデガスがあるため,このデガスがSi基板に付着したため」であり,すなわちこのような汚染源による変化があったことを推測することができることが開示されているから,引用文献1に「発明が解決しようとする課題」として「短時間での汚染源の解明」があげられている(同b【0008】)ことと相まって,引用発明の方法を「短時間での汚染源の解明」のために用いることは引用文献1自体に示唆されているといえる。
そして,引用文献1には「第2の実施例」として「半導体基板の表面チャージ」QssとQss'を15mm間隔ごとに測定し,半導体基板の各位置について表面チャージ変化量ΔQssを計算し,Si基板表面に付着した有機物の面内分布を測定することにより汚染源の推定をすることが開示されている(同d)から,「短時間での汚染源の解明」のために,「第2の実施例」を採用して,相違点3に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得ることである。
そうすると,「短時間での汚染源の解明」のための方法が得られ,これは汚染源としての「プラスチック製ウエハーケース」を評価するための方法にほかならないから,相違点1に係る構成も当業者が容易に得られるものである。
その際に「短時間での汚染源の解明」を実現するために,基板収納容器に収納する「所定時間」を比較的短い「5時間以下」とすることも,当業者が適宜設定できることである。
なお,請求人は審判請求書において「引用文献1の図4を参照すると,ウエハーケースの保管時間は少なくとも50時間以上でないと,ウェーハ表面の付着を評価することはできない」と主張するが,図4には前記(2)ア(ア)gで示したとおりの記載があることから,請求人の前記主張には根拠がない。
イ 相違点2について
引用周知技術に示されるように「シリコンエピタキシャルウエーハ」は,半導体デバイスの半導体基板として「古くから用いられており」,「シリコンエピタキシャルウエーハ」についてもその汚染がデバイスの信頼性を低下されることは明らかであるから「短時間での汚染源の解明」のために用いる必要があり,そうすることは当業者が容易に思いつくことである。
してみると,「シリコンエピタキシャルウエーハ」について「短時間での汚染源の解明」のために,その製造後すぐに,すなわち「気相成長装置から取り出したばかりのシリコンエピタキシャルウェーハ」を測定することは,当業者が適宜なし得ることである。
ウ 効果について
本願補正発明の「基板収納容器の評価のために基板収納容器にシリコン単結晶ウェーハを収納する時間を短くでき,また,基板収納容器にシリコン単結晶ウェーハを収納したときに,基板収納容器を構成する合成樹脂から放出されシリコン単結晶ウェーハに付着した有機成分の分布を非破壊で評価することができる。」(本願明細書段落【0017】)という効果は,引用文献1の記載から当業者が予測できる程度のものである。
(5)まとめ
以上のとおり,本願補正発明は,引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の特許性の有無について
1 本願発明について
審判請求と同時にされた手続補正は,前記第2のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成29年5月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された前記第2の1(1)のとおりのものと認める。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,その出願前に日本国内において頒布された引用文献1-3に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
3 引用文献
引用文献1-3の記載及び引用発明は,前記第2の2(2)のとおりである。
4 判断
本願発明は,本願補正発明の「5時間以下」という限定を取り除いたものであり,本願発明の発明特定事項を全て含みさらに別の発明特定事項を付加したものである本願補正発明が,前記第2の2(5)のとおり,引用文献1-3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様に,引用文献1-3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 まとめ
よって,本願発明は,引用文献1-3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 結言
したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-09 
結審通知日 2018-10-16 
審決日 2018-10-29 
出願番号 特願2014-118572(P2014-118572)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 大志梶尾 誠哉  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 深沢 正志
小田 浩
発明の名称 基板収納容器の評価方法  
代理人 小林 俊弘  
代理人 好宮 幹夫  

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