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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C
管理番号 1347087
審判番号 不服2017-6211  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-28 
確定日 2018-12-25 
事件の表示 特願2015-542064「合わせガラス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月14日国際公開、WO2016/006610〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)7月7日(優先権主張 平成26年7月9日、平成27年2月26日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年10月20日付け 拒絶理由通知
平成28年 1月26日 意見書の提出
平成28年 3月18日付け 拒絶理由通知
平成28年 7月11日 意見書、手続補正書の提出
平成28年 7月29日付け 拒絶理由通知
平成28年12月14日 意見書の提出
平成29年 1月23日付け 拒絶査定
平成29年 4月28日 審判請求書の提出
平成29年 8月 1日 上申書の提出
平成29年12月 1日 請求人代理人と面接
平成29年12月11日付け 拒絶理由通知
平成30年 2月13日 意見書、手続補正書の提出

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成30年2月13日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

【請求項1】
第1のガラス板、第1の中間膜、熱線反射膜を積層した透明フィルム、第2の中間膜、及び第2のガラス板の順に積層してなる合わせガラスであって、
前記第1の中間膜及び第2の中間膜は、いずれも変性ブロック共重合体水素化物[E]から形成されたものであり(ただし、可塑剤を含むものを除く)、
前記変性ブロック共重合体水素化物[E]は、ブロック共重合体[C]の、全不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物[D]に、アルコキシシリル基が導入されたものであり、
前記ブロック共重合体[C]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、
全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとしたときに、
wAとwBとの比(wA:wB)が30:70?60:40であり、
a.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムが、第1及び第2のガラス板の面積より小さい面積を有し、
b.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムが、第1及び第2の中間膜の面積より小さい面積を有し、
c.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムの端が、第1及び第2のガラス板の端に対して全周囲に亘って2mm以上離れて配置され、
d.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムの端が、第1及び第2の中間膜の端に対して全周囲に亘って2mm以上10mm以下、離れて配置されており、
e.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムが、第1及び第2の中間膜に包埋された状態である、
合わせガラス。

3 当審における拒絶の理由
平成29年12月11日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの一つは、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、2に記載された発明及び引用文献3、4に記載された技術的事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2009/087869号
引用文献2:国際公開第2013/176258号
引用文献3:特開平6-144891号公報
引用文献4:特開2000-86308号公報

4 引用文献(下線は、当審による。)
(1)引用文献1の記載
ア 「[0001] 本発明は、ガラス板、中間膜、透明なプラスチックフィルム、中間膜、ガラス板をこの順に積層して作製される合せガラスに関し、特に自動車の窓に用いられる合わせガラスに関する。
背景技術
[0002] プラスチックフィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルムを挟持した2枚の中間膜を用いて、2枚のガラス板を積層したものが、熱線反射機能を持たせた合せガラスとして、知られている。」

イ 「[0019] 中間膜11、12には、ポリビニルブチラール(PVB)やエチレンビニルアセテート(EVA)などのホットメルトタイプの接着剤が、好適に用いられる。」

ウ 「[0025] このため、図3のプラスチックフィルム挿入ガラスのエッジ2からプラスチックフィルムのエッジ4までの距離d1を5mm以上とする、ガラス板の面積よりも小さい面積のプラスチックフィルムを挿入することが望ましい。」

エ 「[0027] すなわち、図3に示すように、プラスチックフィルム挿入ガラスのエッジ2からプラスチックフィルムのエッジ4までの距離d1は、プラスチックフィルム挿入ガラスのエッジ2から着色膜のエッジ3までの距離d2よりも小さくすることが好ましい。」

オ 「[0028] また、プラスチックフィルムのエッジが中間膜11と中間膜12とで覆われているため、プラスチックフィルムのエッジが、プラスチックフィルム挿入合わせガラスのエッジと同じで水分に晒されるような形状に比べ、水分による劣化を防止できる効果もある。」

カ 「[0037] 実施例1
自動車用の前面窓に用いられるプラスチック挿入合わせガラスを、次のように作製した。
[0038] 車外側ガラス板10と車内側ガラス板13とを作製するため、窓のサイズよりも大きい面積のガラス板から、2枚のガラス板を、窓のサイズに合せて所定の形・サイズにガラスカッターで切り出し、端面を研磨処理した。この2枚のガラス板を洗浄、乾燥した後、車外側に位置するガラス板の合わせ面側(中間膜で接着される面側)に、黒色のセラミックペーストをスクリーン印刷し、乾燥した。
[0039] セラミックペーストをスクリーン印刷したガラス板ともう1枚のガラス板とを重ね、2枚同時に曲げ加工炉中で加熱し、曲面形状のガラスに成型して、車外側ガラス板10、車内側ガラス板13に用いた。また、曲げ加工炉中での加熱で、スクリーン印刷されたセラミックペーストも焼成されて、着色膜15を、車外側ガラス板10に形成した。
[0040] 着色膜15の幅d2は、最小となる所では30mm、最大となる所では100mmとした。
[0041] 窓のサイズよりも大きい面積の、両面にアモルファスポリエステルによる易接着層とシランカップリング層が施してある、厚さが100μmのPETフィルムから、曲げ加工前の車外側ガラス板10の平板形状(車外側ガラス板10を作製するために切り出したガラス板)とほとんど相似形なPETフィルムを、中央側に1cm縮小させたサイズに、NCカッターで切り出し、プラスチックフィルム14とした。
[0042] プラスチックフィルム14を切り出す時には、プラスチックフィルム面に対して、切断面が垂直方向ではなく、垂直方向から30°の傾斜角となるようにして切り出した。
[0043] 厚さ0.36mmのPVBフィルムを2枚用い、前記切り出したプラスチックフィルム14を、この2枚のPVBフィルムで挟みこんだ。
[0044] 車外側ガラス板10と車内側ガラス板13との間に、前記PETフィルムを挟持した2枚のPVBフィルムを挿入した。
[0045] このPVBフィルムの挿入は、プラスチックフィルムのエッジ4が車外側ガラス板10のエッジから10mmとなるようにした。
[0046] 重ねあわされた、車外側ガラス板10と車内側ガラス板とのエッジからはみ出したPVBフィルムをカッターで切り取った後、車外側ガラス板10と車内側ガラス板13との間を脱気し、さらに、オートクレーブによる加圧・加熱処理を行い、プラスチック挿入合わせガラス1を作製した。
[0047] 作製したプラスチック挿入合わせガラスは、挟みこんだPETフィルムのシワもなく、またPETフィルムのエッジ4は黒色の着色膜に隠れて車外から見えず、自動車用の前面ガラスとして良好に使用できるものであった。」

キ 「[0048] 実施例2
厚さが50μmのPETフィルムの片面に、酸化亜鉛と銀を積層してなる赤外線反射膜が形成してなるPETフィルムから、車外側ガラス板10に形成された着色膜のエッジ3よりも11mm大きくなるような形で、すなわち、d2-d1=11mmとなるように、車外側ガラス板10の透視部(プラスチックフィルム挿入合わせガラスの透視部5)の形とほぼ相似形で、プラスチックフィルム14を切り出した他は、実施例1と同様にして、プラスチックフィルム挿入合わせガラス1を作製した。
[0049] 作製したプラスチック挿入合わせガラスは、近赤外線を反射する遮熱性機能を持ち、挟みこんだPETフィルムのシワもなく、またPETフィルムのエッジ4は黒枠部に隠れて車外から見えず、自動車用の前面ガラスとして良好に使用できるものであった。」

ク [図1]

ケ [図2]

コ [図3]


(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「ガラス板、中間膜、透明なプラスチックフィルム、中間膜、ガラス板をこの順に積層して作製される合せガラス」(上記(1)ア)が記載され、その実施例2(上記(1)キ)において、酸化亜鉛と銀を積層してなる赤外線反射膜が形成してなるPETフィルムから、車外側ガラス板10に形成された着色膜のエッジ3よりも11mm大きくなるような形で、すなわち、d2-d1=11mmとなるように、車外側ガラス板10の透視部(プラスチックフィルム挿入合わせガラスの透視部5)の形とほぼ相似形で、プラスチックフィルム14を切り出した他は、実施例1と同様にして、プラスチックフィルム挿入合わせガラス1を作製したことが記載されている。
そして、実施例1(上記(1)カ)において、着色膜15を、車外側ガラス板10に形成すること([0039])、着色膜15の幅d2は、最小となる所では30mm、最大となる所では100mmとすること([0040])、及び、プラスチックフィルム14を、2枚のPVBフィルムで挟むこと([0043])が記載されている。
ここで、「2枚のPVBフィルム」は、上記(1)ア、イ、ケ、コの記載から、車外側ガラス板(10)と接する中間膜(11)と、車内側ガラス板(13)と接する中間膜(12)とを構成する。
また、d1は、プラスチック挿入合わせガラスのエッジ(2)からプラスチックフィルムのエッジ(4)までの距離(上記(1)ウ、エ)であり、着色膜15の幅d2は、プラスチックフィルム挿入ガラスのエッジ2から着色膜のエッジ3までの距離(上記(1)エ)であるから、実施例2に記載されたプラスチック挿入合わせガラスの距離d1=d2-11mm=19?89mmであって、上記(1)ウに記載されるように、ガラス板の面積よりも小さい面積のプラスチックフィルムが挿入されているものといえる。

してみると、引用文献1には、実施例2のプラスチック挿入合わせガラスとして、
「着色膜(15)を合わせ面側に形成した車外側ガラス板(10)、PVBフィルム中間膜(11)、PETフィルムの片面に酸化亜鉛と銀とを積層してなる赤外線反射膜が形成してなる透明なプラスチックフィルム(14)、PVBフィルム中間膜(12)、車内側ガラス板(13)の順に積層してなるプラスチック挿入合わせガラスであって、
プラスチック挿入合わせガラスのエッジ(2)からプラスチックフィルムのエッジ(4)までの距離をd1としたとき、
d1=19?89mmであり、
車外側ガラス板(10)、および、車内側ガラス板(13)よりも小さい面積の、プラスチックフィルム(14)が挿入されている
プラスチック挿入合わせガラス。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

(3)引用文献2の記載
ア 「[0002] 従来、複数のガラスの間に樹脂などの中間膜を挟み、接着して得られる合わせガラスが知られている。このような合わせガラスは耐貫通性や耐熱衝撃性に優れるため、自動車ガラスや防犯ガラスなどとして広く用いられている。
これまで、このような合わせガラスの中間層の形成材料としては、ポリビニルブチラール系樹脂が最も一般的に用いられてきた。しかし、ポリビニルブチラール系樹脂は、(i)軟化点が比較的低いために、貼合わせた後に熱によりガラス板がずれたり、気泡が発生したりする場合がある、(ii)吸湿性が高いために、高湿度雰囲気下に長期間放置しておくと、周辺部から次第に白色化すると共にガラスとの接着力が低下する、という問題があった。また、(iii)ガラスとの接着力を制御するために、ガラス板を貼り合わせる前において、厳密な含水率管理が必要であるという問題もあった(非特許文献1)。」

イ 「[0011] かくして本発明によれば、下記(1)?(3)の合わせガラス、及び、(4)の合わせガラスの接着剤として使用する方法、が提供される。
(1)芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比(wA:wB)が30:70?60:40であるブロック共重合体[1]の、全不飽和結合の90%以上が水素化されたブロック共重合体水素化物[2]に、アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物[3]を含有する接着剤をガラス板間に介在させ、当該ガラス板を接着させて一体化してなることを特徴とする合わせガラス。」

ウ 「[0013](4)芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比(wA:wB)が30:70?60:40であるブロック共重合体[1]の、全不飽和結合の90%以上が水素化されたブロック共重合体水素化物[2]に、アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物[3]を、合わせガラスの接着剤として使用する方法。
発明の効果
[0014] 本発明に用いるブロック共重合体水素化物[3]は、ガラス転移温度が高く耐熱性に優れた重合体ブロック[A]と、ガラス転移温度が低く柔軟性に優れた重合体ブロック[B]を有しているため、このものを含有する接着剤は、耐熱性、低温柔軟性、低吸湿性、透明性、低複屈折性、耐候性、および、ガラスや金属等との接着性に優れる。…」

エ 「[0076](5)接着剤
接着剤は、通常、ガラス板表面塗布用に溶液としたり、シート状に成形する等して、ガラス板とガラス板を貼り合わせる工程に供される。」

オ 「[0078]接着剤をシート状に成形する方法としては、特に制限は無いが、公知の溶融押出し成形法(キャスト成形法、押出しシート成形法、インフレーション成形法等)、圧縮成形法、カレンダー成形法等が適用できる。」

カ 「[0080]接着剤からなるシートの厚みは、特に制限されないが、0.1?10mmの範囲にあることが好ましい。シートの厚みが0.1mmよりも小さい場合、ガラス板の貼り合わせむらが生じ易くなる。シートの厚みが10mmよりも大きい場合、シートの光線透過率が低下したり、ブロック共重合体水素化物[3]の使用量が多くなり経済性が低下するおそれがある。」

(4)引用文献3の記載
ア 「【0004】上記熱線反射合わせガラスの中間膜には、従来より、アセタール化度の低いポリビニルブチラール樹脂膜が使用されている。アセタール化度の低いポリビニルブチラール樹脂の分子内には水酸基が多数含まれているため、吸湿性が高くなり、これが原因で熱線反射膜が腐食して合わせガラスの可視光線透過性能が低下するという問題が生じていた。」

(5)引用文献4の記載
ア 「【0024】● いわゆるD/M/D層システム(誘電層/金属層/誘電層)がガラス基板、特に自動車の窓ガラス上に直接、またはフィルム上に、大抵の場合ポリエステルフィルム上に布設され、このフィルムが次に合わせガラス内に組み込まれる。その際、この被覆された合成樹脂フィルムは典型的にはポリビニルブチラールPVBフィルムを介して合わせガラスに組み込まれる。典型的な誘電層材料としてはZn、Ti、Inなどの酸化物が用いられ、金属層としては特に銀が利用される。
【0025】可視スペクトル領域の光と、赤外線スペクトル領域の光とを効率的に分離するには、銀が最も適していることが知られている。その光学定数、すなわち屈折値nおよび吸光定数kに基づき、銀は可視スペクトル領域における高い透過、および近赤外線スペクトル領域における高い反射を可能にするが、これについては(1)H.A. Macleod著「薄膜光学フィルタ」第二版Adam Hilger Ltd.出版の292頁からを参照されたい。
【0026】しかしながら同時に銀は、層システムがガラス上に布設されているか、合成樹脂フィルム上に布設されているかに関わりなく、湿度、硫化銀の形成など、環境の影響を極めて受けやすいことが知られている。…」

5 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「着色膜(15)を合わせ面側に形成した車外側ガラス板(10)」、「PVBフィルム中間膜(11)」、「PETフィルムの片面に酸化亜鉛と銀とを積層してなる赤外線反射膜が形成してなる透明なプラスチックフィルム(14)」、「PVBフィルム中間膜(12)」、「車内側ガラス板(13)」は、それぞれ、本願発明1の「第1のガラス板」、「第1の中間膜」、「熱線反射膜を積層した透明フィルム」、「第2の中間膜」、「第2のガラス板」に相当する。

すると、両者は、
「第1のガラス板、第1の中間膜、熱線反射膜を積層した透明フィルム、第2の中間膜、及び第2のガラス板の順に積層してなる合わせガラスであって、
a.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムが、第1及び第2のガラス板の面積より小さい面積を有し、
c.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムの端が、第1及び第2のガラス板の端に対して全周囲に亘って2mm以上離れて配置されている
合わせガラス。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:第1の中間膜及び第2の中間膜が、本願発明1では、「いずれも変性ブロック共重合体水素化物[E]から形成されたものであり(ただし、可塑剤を含むものを除く)、
前記変性ブロック共重合体水素化物[E]は、ブロック共重合体[C]の、全不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物[D]に、アルコキシシリル基が導入されたものであり、
前記ブロック共重合体[C]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、
全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとしたときに、
wAとwBとの比(wA:wB)が30:70?60:40であ」るのに対し、引用発明1では、「PVBフィルム」である点。

相違点2:本願発明1は、「b.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムが、第1及び第2の中間膜の面積より小さい面積を有し」、「d.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムの端が、第1及び第2の中間膜の端に対して全周囲に亘って2mm以上10mm以下、離れて配置されており」、「e.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムが、第1及び第2の中間膜に包埋された状態である」の対し、
引用発明1は、PVBフィルム中間膜(11)(12)と、赤外線反射膜が形成してなる透明なプラスチックフィルム(14)との関係が特定されていない点。

6 判断
(1)相違点1について
引用文献2には、上記4(3)アから、従来ガラス中間膜に使用されていたポリビニルブチラール系樹脂が吸湿性が高いという欠点を有し、これに対し、上記4(3)イ?カに、低吸湿性に優れた、『芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比(wA:wB)が30:70?60:40であるブロック共重合体[1]の、全不飽和結合の90%以上が水素化されたブロック共重合体水素化物[2]に、アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物[3]』を、シート状に成形して合わせガラスの接着剤として中間膜に使用することが記載されていると認める。
ここで、「芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとしたときに、wAとwBとの比(wA:wB)が30:70?60:40であるブロック共重合体[1]」が、本願発明1の「ブロック共重合体[C]」に相当し、
また、当該「ブロック共重合体[1]」の、「全不飽和結合の90%以上が水素化されたブロック共重合体水素化物[2]」が、本願発明1の「ブロック共重合体[C]の、全不飽和結合の90%以上を水素化したブロック共重合体水素化物[D]」に相当し、
さらに、引用文献2には、上記中間膜が、可塑剤を含むことは記載されておらず、また、技術常識を踏まえても、可塑剤を含むものといえないから、上記中間膜を構成する、当該「ブロック共重合体水素化物[2]」に、「アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物[3]」は、本願発明1の「変性ブロック共重合体水素化物[E]」に相当するといえる。

してみると、引用発明1の目的の一つは、上記4(1)オに記載されるように、プラスチックフィルムのエッジが、プラスチックフィルム挿入合わせガラスのエッジと同じで水分に晒されるような形状に比べ、水分による劣化を防止することであるところ、当該水分とは、直接晒される水分のみならず、PVBフィルム中間膜の吸湿による水分も同じであることが、引用文献3の上記4(4)アに記載されるように、当業者に明らかなことであるから、引用発明1で使用するPVBフィルム中間膜を、より低吸湿性に優れている、引用文献2記載の中間膜へ置き換えて、水分による劣化防止を確実なものとすることは、当業者が容易に想到し得る。

(2)相違点2について
引用発明1のプラスチックフィルム挿入ガラスは、「重ねあわされた、車外側ガラス板10と車内側ガラス板とのエッジからはみ出したPVBフィルムをカッターで切り取った」(上記4(1)カ、[0046])ものであるから、上記4(1)ケ、コに図示されるように、PVBフィルム中間膜(11)(12)のエッジは、車外側ガラス板(10)のエッジ、車内側ガラス板(13)のエッジ、及び、プラスチック挿入合わせガラスのエッジ(2)と、一致するものである。
すると、本願発明1の「b.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムが、第1及び第2の中間膜の面積より小さい面積を有し」の点は、「a.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムが、第1及び第2のガラス板の面積より小さい面積を有し」の点と同様に、引用発明1との実質的な相違点ではない。
また、引用発明1の「プラスチックフィルムのエッジ(4)」が、上記4(1)オに記載され、上記4(1)ケ、コに図示されるように、「PVBフィルム中間膜(11)」と「PVBフィルム中間膜(12)」とで覆われていることからみて、引用発明1の「赤外線反射膜が形成してなる透明なプラスチックフィルム(14)」は、「PVBフィルム中間膜(11)」と「PVBフィルム中間膜(12)」とに「包埋」された状態であるといえるから、本願発明1の「e.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムが、第1及び第2の中間膜に包埋された状態である」の点も、引用発明1との実質的な相違点ではない。
これに対し、本願発明1の「d.前記熱線反射膜を積層した透明フィルムの端が、第1及び第2の中間膜の端に対して全周囲に亘って2mm以上10mm以下、離れて配置されており」の点は、引用発明1が、プラスチックフィルムのエッジ(4)を、プラスチック挿入合わせガラスのエッジ(2)に対してと同様に、PVBフィルム中間膜(11)(12)のエッジに対してd1=19?89mm離している点で相違するが、引用文献1には、このd1について5mm以上とすれば良いことが、上記4(1)ウに記載されている。
してみると、引用発明1において、赤外線反射膜が形成してなる透明なプラスチックフィルム(14)のエッジを、PVBフィルム中間膜(11)(12)のエッジに対してd1=5mm?10mmとなるように離れて配置することは、当業者にとって適宜なし得る設計的事項の範囲内の変更といえる。
なお、そのような変更をした場合でも、引用発明1のPETフィルムの片面に酸化亜鉛と銀とを積層してなる赤外線反射膜が形成してなる透明なプラスチックフィルム(14)の端は、着色膜のエッジ(3)よりも外側に存在することに変わりなく、上記4(1)キ[0049]に記載された引用発明1の効果が損なわれるわけではない。

(3)効果について
本願発明1は、本願明細書の【0012】に記載された「本発明によれば、優れた熱線反射機能を有し、かつ、耐湿性及び耐久性に優れた合わせガラスが提供される。」との効果を有するものと認められる。
これに対し、引用文献1の上記4(1)オの記載からみて、引用発明1も、プラスチックフィルムのエッジが、水分に晒されるような形状に比べ、水分による劣化を防止できる効果を有するものである。
そして、銀がPETフィルムの片面で酸化亜鉛と積層されている引用発明1の場合、当該「水分による劣化」は、引用文献4の上記4(5)アに記載されるように、熱線反射機能をもつ銀の劣化を含む意味であることは当業者に自明である。
してみると、引用文献2に記載された中間膜は、ポリビニルブチラール系樹脂よりも低吸湿性に優れたものであるといえるから、これを引用発明1に採用することにより、より一層耐湿性及び耐久性に優れ、銀の劣化がなく、熱線反射機能を維持し得る合わせガラスが提供されることは、引用文献3の上記4(4)アに記載されるように、当業者が期待し得るものである。
してみると、本願発明1の奏する上記効果は、引用文献1?4の上記記載から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は平成30年2月13日提出の意見書において、「そして、本件拒絶理由では、「PVBフィルム中間膜(11)(12)」は、可塑剤を含まないPVBフィルムとして、認定されています。」、「本件拒絶理由では、「PVBフィルム中間膜(11)(12)」は、可塑剤を含まないPVBフィルムであることを前提として、本願発明1と引用発明1との対比、相違点の検討を行っています。」と主張している。
しかしながら、引用発明1の認定において、引用文献1に明記されていない「可塑剤」を認定しなかったからといって、「可塑剤を含まない」PVBフィルムを認定したことにはならないから、上記主張は前提において誤りがある。

イ また、請求人は、「しかしながら、上述のとおり、引用例1において、「PVBフィルム」は、PVB単独ではなく、可塑剤によって可撓性の付与された「PVBフィルム」の意味で使われており、対比、相違点の検討は、その前提となる引用発明1の認定において誤ったものであり、容易想到性に関する判断が失当であることは明らかです。」と主張している。
しかしながら、引用発明1の「PVBフィルム」は、上記4(2)に示したとおり、引用文献1に記載されているとおりの意味であり、技術常識を考慮して、可塑剤によって可撓性の付与された「PVBフィルム」の意味に解することができるものであるから、上記主張は失当である。

ウ また、請求人は、「しかしながら、引用発明1において、可塑剤が添加されることを必須とするポリビニルブチラール樹脂組成物を、必須成分である可塑剤を除去し、可塑剤が添加されていない他の樹脂組成物に置き換えることが当業者にとって容易に着想し得ると言える特段の事情の存在は、本件拒絶理由、そして、審査段階での拒絶理由、拒絶査定にも一切説示されていないことを申し述べます。」と主張する。
しかしながら、上記6(1)に示したとおり、本件拒絶理由は、PVB(ポリビニルブチラール樹脂組成物)から、可塑剤を除去するなどという判断をするものではなく、可塑剤を含むか否かにかかわらず、PVBフィルム中間膜を一体的に、他の樹脂組成物の中間膜に置換することを判断したものである。
したがって、上記主張は失当である。

エ さらに、請求人は、「この意見書と同日付けで提出された手続補正書により、本願発明は、「透明フィルムの端が、第1及び第2の中間膜の端に対して全周囲に亘って2mm以上10mm以下、離れて配置されており」と、透明フィルムの位置に関して、上限を規定するものとなりました。
この点からも、本願発明は、この点について言及されていない引用例1?4によって、進歩性を否定されることはありません。」と主張する。
しかし、透明フィルムの端と中間膜の端との位置に係る判断は、上記6(2)のとおりであるから、上記主張は採用できない。

7 むすび
上記のとおりであるから、本願発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-12 
結審通知日 2018-03-13 
審決日 2018-03-27 
出願番号 特願2015-542064(P2015-542064)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 宮澤 尚之
瀧口 博史
発明の名称 合わせガラス  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 杉村 憲司  

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