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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01C
管理番号 1347105
審判番号 不服2018-3683  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-14 
確定日 2019-01-15 
事件の表示 特願2014-550758「ひずみ非結合センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月11日国際公開、WO2013/102763、平成27年 3月12日国内公表、特表2015-507746、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月4日(パリ条約による優先権主張 2012年1月5日 英国)を国際出願日とする出願であって、平成28年4月22日付けで拒絶理由が通知され、平成28年9月26日に手続補正がされ、平成29年2月2日付けで拒絶理由が通知され、平成29年7月7日に意見書が提出され、平成29年11月6日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年3月14日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年11月6日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-13に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2000-249562号公報
2.特表2011-528103号公報
3.特表2008-516196号公報
4.特表2006-518673号公報

第3 本願発明
本願請求項1-13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明13」という。)は、平成30年3月14日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
基板と、前記基板に固定されたセンサ素子と、を備えるセンサであって、前記基板および前記センサ素子は異種の材料からなり、かつ異なる熱膨張率を有し、前記センサ素子および前記基板はそれぞれ、実質的に互いに平行に配置された概ね平坦な面を有し、前記センサは、単一のスペーサをさらに備え、それにより前記センサ素子が前記基板上に固定され、前記スペーサは、前記基板の少なくとも一部から前記センサ素子の少なくとも一部を離間させるように配置され、前記スペーサは、前記センサ素子と前記基板との接触面積が前記スペーサの面積に限定されるように、前記基板の面および前記センサ素子の面のうちの小さい方の面積よりも小さい面積であり、
前記センサは、振動型リングジャイロスコープから成り、
前記センサ素子が前記センサの磁石アッセンブリの一部であることを特徴とするセンサ。」

なお、本願発明2-13は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、角速度センサに関し、詳しくは、支持基板によってセンサ素子が支持固定されてなる静電容量型の角速度センサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の静電容量型の角速度センサを、図6,図7を用いて説明する。図6および図7に示す角速度センサ100は、センサ素子10を含む。センサ素子10は、単結晶シリコン材料からなる固定基板11を備える。この固定基板11の表面には、略矩形状の平面振動子12が形成され、平面振動子12の四隅には4本の支持梁14が配置され、支持梁14は、折り曲げ加工されて固定基板11に固定されている。
【0003】平面振動子12の二辺には櫛歯状の駆動用可動電極15が形成されている。そして、平面振動子12の前記二辺に対向する位置には、固定板16が配置され、固定板16からは、櫛歯状の駆動用可動電極15と噛み合うように櫛歯状の駆動用固定電極17が形成されている。この駆動用可動電極15と駆動用固定電極17とをあわせて、駆動電極18とする。
【0004】また、平面振動子12の他の二辺には、検出用可動電極19が形成されている。そして、平面振動子12の前記他の二辺に対向する位置には固定板20が配置され、固定板20には、検出用可動電極19と噛み合うように検出用固定電極21が形成されている。この検出用可動電極19と検出用固定電極21とをあわせて、検出電極22とする。
【0005】そして、固定基板11の表面および裏面側には、平面振動子12などを保護し封止するため、ガラス板からなる包囲部材23が配置されて、平板状のセンサ素子10が構成される。
【0006】このセンサ素子10は、例えばアルミナ基板やガラスエポキシ基板などの平坦な支持基板24に、センサ素子10の底面全面が水平を保つように接触し、接着剤25で底面全面が固着されて、角速度センサ100が構成される。
【0007】この角速度センサ100において、平面振動子12は、駆動電極18に交流電圧が印加されると、駆動電極18における駆動用可動電極15と駆動用固定電極17の間に発生する静電力によって、平面振動子12と同一平面内でy軸方向に励振する。このとき、z軸を中心とした回転角速度が加わると、y軸とz軸に直交する方向、すなわちx軸方向にコリオリ力が発生し、平面振動子12がx軸方向に振動する。この振動による振幅の大きさの変化を検出電極22における静電容量変化に対応させて検出し、z軸回りの回転角速度の大きさを検出するものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の角速度センサでは、使用環境の温度変化などの影響により、センサ素子の包囲部材と支持基板との熱膨張係数の差によって、センサ素子に応力が作用する。そして、センサ素子の底面全体が支持基板に強固に固着されている上記従来例では、その応力はすべてセンサ素子に作用することになる。
【0009】その結果、センサ素子全体に歪みが生じ、検出電極において歪みによる静電容量の変化が検出される。これにより、コリオリ力とは無関係の検出信号を得ることになり、センサの検出精度の低下の要因となっていた。」


「【0013】したがって、本発明の目的は、上述の問題点を解消するためになされたもので、検出精度が高く、安価な、静電容量型の角速度センサを提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の角速度センサにおいては、平板状のセンサ素子と、センサ素子を支持する支持基板とを備え、センサ素子に加わった角速度に応じて、センサ素子内における静電容量の変化を検知することによって角速度を検出する角速度センサであって、センサ素子はその略中央部において支持基板に固着されてなることを特徴としている。」

「【0025】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。なお、センサ素子については、従来例と同一のものを例示して説明するため、同一番号を付し、センサ素子の内部の構造および角速度検出の原理についての説明は省略する。
【0026】図1に示す本発明の第1の実施の形態に係る角速度センサ1は、センサ素子10と支持基板2を備える。この支持基板2は、例えばガラスエポキシ基板などの、安価で加工が容易な材質からなる。この支持基板2には、センサ素子10を固定するための固定部3が、センサ素子10の略中央部に対応する位置に形成されている。この固定部3は、支持基板2を切削して空間部4を形成することにより、支持基板2の内部より突出するような構造となっている。
【0027】そして、この固定部3には、センサ素子10と接着するための接着剤5が塗布され、センサ素子10の底面の略中央部と固定部3が位置決めされて固着されて、角速度センサ1が構成される。
【0028】このとき、センサ素子10の周囲部は接着剤を介在せずに、支持基板2上に載置されるように支持される構造となる。」


「【0047】次に、本発明の第5の実施の形態を図5を用いて説明する。なお、第1の実施の形態?第4の実施の形態と同一の構成については同一番号を付し、その説明を省略する。図5に示す角速度センサ1において、支持基板2におけるセンサ素子10の略中央部に対応する位置の近傍には、均等な配置となるように接着剤5が、スクリーン印刷などの手法により複数ヶ所(図5においては4ヶ所)それぞれの厚みが一定となるように塗布される。
【0048】そして、センサ素子10の底面の略中央部と接着剤5が固着されて、複数ヶ所の固着部(図5においては4ヶ所)を備える角速度センサ1が構成される。このとき、センサ素子10の周囲部は中空に浮いた状態となる。
【0049】これにより、センサ素子10は、複数ヶ所の固着部を備えるだけであるため、支持基板2とセンサ素子10との間に発生する応力が小さくなり、センサ素子の応力の影響が小さくなると共に、製造が極めて容易となる。
【0050】この第5の実施の形態において、接着剤5は複数ヶ所に分散されて塗布されているが、支持基板2の略中央部に一ヶ所のみ、小さな面積で形成されるものでもよい。ただし、その場合は、一ヶ所の接着剤5における厚みのバラツキの影響でセンサ素子10が傾いて実装されるおそれがある。一方、第5の実施の形態のように、固着部となる接着剤5を、分散させるつまり複数箇所に設けることにより、一ヶ所の接着剤5における厚みのバラツキは、複数箇所に点在する他の接着剤5によって相殺され、したがって、水平にセンサ素子10を配置することが可能となる。これは、第4の実施の形態においても同様である。
【0051】
【発明の効果】以上のように、本発明による角速度センサでは、センサ素子と支持基板との固着面積が小さくなり、センサ素子と支持基板の熱膨張係数の差により発生する応力が小さくなるため、センサ素子が変形することがなく、コリオリ力とは無関係の誤った信号を発生することがなくなり、角速度センサとして精度が向上する。」


ア 引用文献1における段落【0001】には、「支持基板によってセンサ素子が支持固定されてなる静電容量型の角速度センサ」と記載されている。

イ 引用文献1における段落【0025】に「センサ素子については、従来例と同一のものを例示して説明するため、同一番号を付し、センサ素子の内部の構造および角速度検出の原理についての説明は省略する。」と記載されていることから、引用文献1の「第5の実施の形態」における「センサ素子10」は、従来例のものと同様に、「単結晶シリコン材料からなる固定基板11を備え」、「この固定基板11の表面には、略矩形状の平面振動子12が形成され」(段落【0002】より。)、「固定基板11の表面および裏面側には、平面振動子12などを保護し封止するため、ガラス板からなる包囲部材23が配置されて」「構成される」(段落【0005】より。)ものと認められる。

ウ 引用文献1の段落【0006】に「このセンサ素子10は、・・・平坦な支持基板24に、センサ素子10の底面全面が水平を保つように接触し」と記載されていることを踏まえれば、引用文献1の段落【0028】(第1の実施の形態)において「センサ素子10の周囲部は・・・支持基板2上に載置される」以上、その「支持基板2」は「平坦」でなければならないことは明らかである。
そして、引用文献1における段落【0047】には、「第5の実施の形態」について、「第1の実施の形態?第4の実施の形態と同一の構成については同一番号を付し、その説明を省略する。」と記載されているから、引用文献1の「第5の実施の形態」における「センサ素子10」の「支持基板2」も、同様に「平坦」であるといえる。

エ 上記「イ」で摘記した引用文献1における段落【0025】の記載を踏まえれば、引用文献1の「第5の実施の形態」における「センサ素子10」は角速度の検出原理も、従来例のものと同様に、「回転角速度が加わると」、「コリオリ力が発生し、平面振動子12」「の振動」「の変化を」「静電容量変化に対応させて検出」(段落【0007】より。)するものであると認められる。

オ 上記「ウ」で摘記した引用文献1における段落【0047】の記載を踏まえれば、引用文献1の「第5の実施の形態」は、「第1の実施の形態」と同じく、「支持基板2は」、「ガラスエポキシ基板などの」「材質からなる」(段落【0026】より。)ものと認められる。

カ 引用文献1における段落【0050】には、「この第5の実施の形態において、接着剤5は複数ヶ所に分散されて塗布されているが、支持基板2の略中央部に一ヶ所のみ、小さな面積で形成されるものでもよい。」と記載されているから、引用文献1における段落【0047】-【0050】の記載において、「複数ヶ所」とあるところを「一ヶ所のみ」と読み替えると、引用文献1における「第5の実施の形態」について、「接着剤5」が、「支持基板2の略中央部に一ヶ所のみ、小さな面積で形成され」(段落【0050】より。)、「センサ素子10の底面の略中央部と接着剤5が固着されて、一ヶ所のみの固着部を備える角速度センサ1が構成され」、「このとき、センサ素子10の周囲部は中空に浮いた状態となる」(段落【0048】より。)、との技術事項を読み取ることができる。

したがって、上記引用文献1には、「第5の実施の形態」に関して、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「支持基板2によってセンサ素子10が支持固定されてなる静電容量型の角速度センサ1であって(「ア」より。なお、符号は、図5に従って当審で付与した。)、
センサ素子10は、単結晶シリコン材料からなる固定基板11を備え、この固定基板11の表面には、略矩形状の平面振動子12が形成され、固定基板11の表面および裏面側には、平面振動子12などを保護し封止するため、ガラス板からなる包囲部材23が配置されて構成され(「イ」より。)、回転角速度が加わると、コリオリ力が発生し、平面振動子12の振動の変化を静電容量変化に対応させて検出し(「エ」より。)、
支持基板2は、ガラスエポキシ基板などの材質からなり(「オ」より。)、支持基板2は平坦であって(「ウ」より。)、
接着剤5が、支持基板2の略中央部に一ヶ所のみ、小さな面積で形成され、センサ素子10の底面の略中央部と接着剤5が固着されて、一ヶ所のみの固着部を備える角速度センサ1が構成され、このとき、センサ素子10の周囲部は中空に浮いた状態となる(「カ」より。)、
角速度センサ1(「ア」より。)。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0005】
図1を参照すると、英国特許第2322196号に説明されたのと同様の既知のMEMSジャイロスコープ10は、8つの従属脚(compliant leg)14aないし14hによって外部から支持された平面状のシリコンリング構造体12を有する検出要素を有する。そして、これら脚14aないし14hは、堅い外側フレーム16に取り付けられている。このジャイロスコープ10は、図2a並びに図2bを参照して示されるように、cos2θの振動モード対を使用して動作するように配置されている。振動モード対の1つは、1次キャリアモードPとして引き起こされ、図2aでは、点線が、この1次キャリアモードPでのリング構造体12の運動の両極端(extremes)を示している。リング構造体12が、このリング構造体12の平面に垂直な軸線18を中心として回転されたとき、コリオリ力が発生され、これは、エネルギを2次応答モードSへと結び付け、図2bでは、点線が、2次応答モードSでのリング構造体12の運動の両極端を示している。引き起こされた運動の振幅は、リング構造体12の平面に垂直な軸線を中心とした、与えられた回転速度に正比例する。
【0006】
1次キャリアモードPは、少なくとも1つの駆動トランスデューサを使用して発生され、また、2次応答モードSは、少なくとも1つのピックオフトランスデューサを使用して検出される。駆動及びピックオフトランスデューサは、リング構造体12を中心として配置されている。」


「【0009】
磁場Bは、リング構造体20の周縁の近くに印加され、リング構造体20の平面に垂直に配置されている。磁場は、リング構造体20の周囲の内側に位置された永久磁石38によって印加され、また、上側磁極片40及び下側磁極片42は、リング構造体20の周縁の近傍に、これら磁極片40、42間のギャップ中に磁場を集中させるように配置されている。
【0010】
リング構造体20、従属脚28、32及び外側フレーム22は、支持ガラス基板44上に結合されている。そして、このアセンブリは、永久磁石38及び磁極片40、42と一緒にガラス支持構造体46上に結合され、これらは、上側磁極片40と下側磁極片42との間のギャップに位置されたリング構造体20と一緒に組み立てられる。」


したがって、上記引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる(なお、便宜のため、【0005】及び【0010】に用いられた符号をそのまま記載した。)。
「MEMSジャイロスコープ10は、8つの従属脚14aないし14hによって外部から支持された平面状のシリコンリング構造体12を有する検出要素を有し、そして、これら脚14aないし14hは、堅い外側フレーム16に取り付けられ、このジャイロスコープ10は、振動モード対を使用して動作するように配置され、(段落【0005】より。以下、同様。)
リング構造体20、従属脚28、32及び外側フレーム22は、支持ガラス基板44上に結合され、そして、このアセンブリは、永久磁石38及び磁極片40、42と一緒にガラス支持構造体46上に結合され、これらは、上側磁極片40と下側磁極片42との間のギャップに位置されたリング構造体20と一緒に組み立てられる(【0010】)。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0014】
図1に示される角速度センサ10は、ベース21から延びている壁13と、パッケージ12を密閉するために壁13に固定された蓋14と、密閉された内部18内に固定された従来の角速度ダイ12(本明細書で「ダイ16」、また「マイクロチップ」と呼ばれる)を有する従来のプリモールドタイプパッケージ12とを含む。ダイ16は、公知の機械的構造および所定の軸についての角運動を測定する電子回路(下に述べられる)を含む。パッケージ12から延びる複数のピン20は、ダイ16と電気的に結合して、角速度センサ電子回路と外部デバイス(たとえば、コンピュータ)との間の電気通信を可能にする。
【0015】
本発明の例示的実施形態によれば、ダイ16は、パッケージ内部18のベース21から内部に延びるストレス低減アイソレータ22(図2?図4に示される)に接着される。アイソレータ22は、例として、ダイ底面26の表面領域より小さい表面領域を有する上面25を有する。従って、全ダイス底面26より小さい表面領域がパッケージ12に結合しているために、パッケージ12からのストレスは最小限にされる。」


また、図2に示された「アイソレータ22」について、「ダイ16の底面より小さい領域である上面25を有」(【0023】)し、「アイソレータ22の上面25は、実質的にフラットで、長方形」(【0030】)であり、「ベース21のその他のすべての部分よりも上に延びる」(【0024】)ものとすることが記載されている。

よって、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「角速度センサ10は、ベース21から延びている壁13と、パッケージ12を密閉するために壁13に固定された蓋14と、密閉された内部18内に固定された従来の角速度ダイ12(「ダイ16」と呼ばれる)を有するプリモールドタイプパッケージ12とを含み、ダイ16は、公知の機械的構造および所定の軸についての角運動を測定する電子回路を含み(段落【0014】より。以下、同様。)、ダイ16は、パッケージ内部18のベース21から内部に延びるストレス低減アイソレータ22に接着され、アイソレータ22は、ダイ底面26の表面領域より小さい表面領域を有する上面25を有し、従って、パッケージ12からのストレスは最小限にされ(【0015】)、
アイソレータ22は、ダイ16の底面より小さい領域である上面25を有し、アイソレータ22の上面25は、実質的にフラットで、長方形であり、ベース21のその他のすべての部分よりも上に延びる(【0023】-【0024】、【0030】、図2)。」

4.引用文献4について
ア 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0013】
図1に示したジャイロスコープ10は、通常のパッケージ12と、パッケージを密閉する蓋14と、密閉された内室32内に固定された通常のジャイロスコープダイ16とを含む。ジャイロスコープダイ16は、与えられた軸に対する角速度を計測する公知の機械的構造体と電子素子(以下に図2に関連して説明する)とを含む。パッケージ12から延出する複数のピン22がジャイロスコープダイ16と電気的に接続されているので、ジャイロスコープ電子素子と外部デバイス(例えばコンピュータ)との間の電気的交信が可能である。
【0014】
ジャイロスコープダイ16は、パッケージ12の内部面に直接接着するのではなく、このパッケージ12と一体的なアイソレータ24に接着されている。換言すれば、例示的なアイソレータ24は、パッケージ12を形成するのに用いたのと同一の材料片から(例えば打ち出し加工により)作成されている。」

「【0022】
パッケージに組み込まれたダイ16の種々の要素の例示的な寸法は以下の通りである。図2において、X方向は長さを示し、Y方向は高さ(厚さ)を示し、Z方向(図示しないが、これ即ちX方向とY方向とに直交する方向である)は幅を示す。
【0023】
パッケージ12:高さ:0.12インチ(約0.3cm)。
【0024】
ダイ16:長さ:0.170インチ(約0.43cm)、幅:0.140インチ(約0.35cm)、高さ:0.027インチ(約0.07cm)。
【0025】
アイソレータ24:長さ:0.040インチ(約0.1cm)、幅:0.040インチ(約0.1cm)、高さ:0.026インチ(約0.07cm)。」

イ ここで、段落【0024】-【0025】より、アイソレータ24の面積は、ダイ16の面積より小さいことがわかる。

ウ よって、引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「ジャイロスコープ10は、通常のパッケージ12と、パッケージを密閉する蓋14と、密閉された内室32内に固定された通常のジャイロスコープダイ16とを含み、ジャイロスコープダイ16は、与えられた軸に対する角速度を計測する公知の機械的構造体と電子素子とを含み(段落【0013】より。以下、同様。)、ジャイロスコープダイ16は、パッケージ12と一体的なアイソレータ24に接着され(【0014】)、アイソレータ24の面積は、ダイ16の面積より小さい(【0024】-【0025】、「イ」)。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明における「支持基板2」と、本願発明1における「基板」とは、「基板」の点で共通する。

イ 引用発明における「支持基板2によって」「支持固定されてなる」「センサ素子10」と、本願発明1における「前記基板に固定されたセンサ素子」とは、「前記基板に固定されたセンサ部品」の点で共通する(後述のとおり、「センサ素子」との用語は同じであっても、本願発明1と引用発明とでは、「センサ素子」の意味する構成が異なるから、混乱を避けるため、引用発明における「センサ素子10」と本願発明1における「センサ素子」とを包括する用語として、「センサ部品」という用語を用いる。)。

ウ 引用発明における「支持基板2によってセンサ素子10が支持固定されてなる静電容量型の角度センサ1」と、本願発明1における「基板と、前記基板に固定されたセンサ素子と、を備えるセンサ」とは、「基板と、前記基板に固定されたセンサ部品と、を備えるセンサ組立体」の点で共通する(「イ」と同様に、引用発明における「センサ1」と、本願発明1における「センサ」とは、用語は同じあっても、意味する構成が異なるから、混乱を避けるため、両者を包括する用語として、「センサ組立体」という用語を用いる。)。

エ 引用発明における「センサ素子10」は、「単結晶シリコン材料からなる固定基板11を備え」「固定基板11の表面および裏面側」は、「平面振動子12などを保護し封止するため」の「ガラス板からなる包囲部材23が配置され」て構成されている。また、引用発明における、「センサ素子10」の「支持基板2」は、「ガラスエポキシ基板などの材質」からなっている。
よって、引用発明における「支持基板2」および「センサ素子10」は、異種の材料からなり、かつ異なる熱膨張率を有していることは明らかであって、このことと、本願発明1における「前記基板および前記センサ素子は異種の材料からなり、かつ異なる熱膨張率を有」することとは、「前記基板および前記センサ部品は異種の材料からなり、かつ異なる熱膨張率を有」する点で共通するといえる。

オ 引用発明における「センサ素子10」の「固定基板11」の「裏面側」には「ガラス板からなる包囲部材23が配置され」ているが、上記「第4」「1.」「ウ」で述べたとおり、引用文献1における「センサ素子10」はその「底面全面が水平を保つように」支持される必要があるから、「センサ素子10」の「底面」を構成する「ガラス板」は「平坦」であるといえる。また、引用発明における「センサ素子10」の「支持基板2」は「平坦」であるから、その「平坦」な面が、「センサ素子10」の「底面」と平行に配置されていることも(例えば、引用文献1の段落【0050】の「一ヶ所の接着剤5における厚みのバラツキの影響でセンサ素子10が傾いて実装されるおそれがある」との記載の反対解釈より)明らかである。
よって、引用発明における「センサ素子10」および「センサ素子10」の「支持基板2」が、それぞれ平行に配置された「底面」および「平坦」な面を有することと、本願発明1における「前記センサ素子および前記基板はそれぞれ、実質的に互いに平行に配置された概ね平坦な面を有」することとは、「前記センサ部品および前記基板はそれぞれ、実質的に互いに平行に配置された概ね平坦な面を有」する点で共通するといえる。

カ 引用発明において、「センサ素子10の底面の略中央部」が、「接着剤5」により「支持基板2の略中央部」と「固着」され、「センサ素子10の周囲部は中空に浮いた状態とな」ることと、本願発明1における「前記センサ素子が前記基板上に固定され、前記スペーサは、前記基板の少なくとも一部から前記センサ素子の少なくとも一部を離間させるように配置され」ることとは、「前記センサ部品が前記基板上に固定され、前記スペーサは、前記基板の少なくとも一部から前記センサ部品の少なくとも一部を離間させるように配置され」る点で共通する。

キ 引用発明における「接着剤5」は、「支持基板2の略中央部に一ヶ所のみ、小さな面積で形成され」、「センサ素子10の周囲部」が、「中空に浮いた状態とな」るようにしているから、本願発明1における「単一のスペーサ」に相当する。

ク 引用発明における「接着剤5」は、「支持基板2の略中央部に一ヶ所のみ、小さな面積で形成され」、「センサ素子10の底面の略中央部と接着剤が固着され」る。よって、引用発明における「接着剤5」の上記「小さな面積」が、「支持基板2」や「センサ素子10の底面」の面積よりも小さいことは明らかであって、このことと、本願発明1における「前記スペーサは、前記センサ素子と前記基板との接触面積が前記スペーサの面積に限定されるように、前記基板の面および前記センサ素子の面のうちの小さい方の面積よりも小さい面積であ」ることとは、「前記スペーサは、前記センサ部品と前記基板との接触面積が前記スペーサの面積に限定されるように、前記基板の面および前記センサ部品の面のうちの小さい方の面積よりも小さい面積であ」る点で共通する。

ケ 引用発明における「センサ素子10」が「回転角速度が加わると、コリオリ力が発生し、平面振動子12の振動の変化を静電容量変化に対応させて検出」する「静電容量型」のものであることから、引用発明の「角度センサ1」は、振動型ジャイロスコープから成るものといえ、このことと、本願発明1における「前記センサは、振動型リングジャイロスコープから成」ることとは、「前記センサ組立体は、振動型ジャイロスコープから成」る点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「基板と、前記基板に固定されたセンサ部品と、を備えるセンサ組立体であって、前記基板および前記センサ部品は異種の材料からなり、かつ異なる熱膨張率を有し、前記センサ部品および前記基板はそれぞれ、実質的に互いに平行に配置された概ね平坦な面を有し、前記センサ組立体は、単一のスペーサをさらに備え、それにより前記センサ部品が前記基板上に固定され、前記スペーサは、前記基板の少なくとも一部から前記センサ部品の少なくとも一部を離間させるように配置され、前記スペーサは、前記センサ部品と前記基板との接触面積が前記スペーサの面積に限定されるように、前記基板の面および前記センサ部品の面のうちの小さい方の面積よりも小さい面積であり、
前記センサ組立体は、振動型ジャイロスコープから成る、
センサ組立体。」

(相違点)
ア 両者の相違点は、次のとおりである。
本願発明1では、「センサ」が「振動型リングジャイロスコープ」であって、「基板と、前記基板に固定されたセンサ素子と、を備え」、「前記センサ素子が前記センサの磁石アッセンブリの一部であ」り、「スペーサは、前記基板の少なくとも一部から前記センサ素子の少なくとも一部を離間させるように配置され」ているのに対し、
引用発明では、「角速度センサ1」が「略矩形状の平面振動子12」を用いた「静電容量型」であって、「センサ素子10」は、「固定基板11の表面および裏面側」に「平面振動子12などを保護し封止するため、ガラス板からなる包囲部材23が配置され」、「接着剤5」は、「ガラス板からなる包囲部材23」で「保護」、「封止」された「センサ素子10」が、「支持基板2」に対し、「中空に浮いた状態とな」るように「固着」している点。

イ ここで、本願発明1における「センサ素子」は「前記センサの磁石アッセンブリの一部であ」るのに対し、引用発明における「センサ素子10」は、「平面振動子12など」のアッセンブリの一部ではなく、「ガラス板からなる包囲部材23」で「保護」、「封止」されたものであるから、本願発明1における「センサ素子」は、角速度を計測するための機械的構造の一部の部品を意味しているのに対し、引用発明では、角速度の計測結果を出力する1つのセンサユニットを意味している。

ウ 上記「イ」を踏まえると、要するに、本願発明1では、「スペーサ」が、「振動型リングジャイロスコープ」の部品同士(基板、磁石アッセンブリの一部)を「離間」させているのに対し、引用発明では、「接着剤」が、(「包囲部材23」で「保護」、「封止」されたセンサユニットである)「センサ素子10」を、その「支持基板2」から「離間させている点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討すると、
ア 上記相違点に係る本願発明1の構成は、要するに、上記「(1)」「(相違点)」「ウ」で述べたとおりであるところ、
(ア)引用文献2には、「シリコンリング構造体12を有する検出要素を有」する「MEMSジャイロスコープ10」(本願発明1における「振動型リングジャイロスコープ」に相当する。)が記載されているものの、「永久磁石38及び磁極片40、42」を「ガラス支持構造体46上に結合」する際、スペーサによって、磁石アッセンブリの一部である「磁極片42」とそれを固定する基板である「ガラス支持構造体46」とを離間させるように配置することについては、記載も示唆もされていない。

(イ)引用文献3-4には、与えられた軸に対する角速度を計測する、公知の機械的構造体と電子素子とを含む角速度ダイ(ジャイロスコープダイ)(つまり、1つのセンサユニット)を、パッケージから延び、ダイ底面の表面領域より小さい表面領域(面積)を有するアイソレータの上面に接着することが記載されているに過ぎない。

イ よって、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用文献2-4に記載されておらず、当業者といえども、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項から、上記相違点に係る本願発明1の構成を容易に想到することはできない。

ウ したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2-13について
本願発明2-13も、本願発明1の、「『センサ』が『振動型リングジャイロスコープ』であって、『基板と、前記基板に固定されたセンサ素子と、を備え』、『前記センサ素子が前記センサの磁石アッセンブリの一部であ』り、『スペーサは、前記基板の少なくとも一部から前記センサ素子の少なくとも一部を離間させるように配置され』」るという構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-13は、当業者が引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-26 
出願番号 特願2014-550758(P2014-550758)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梶田 真也  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 櫻井 健太
清水 稔
発明の名称 ひずみ非結合センサ  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  

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