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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09D
管理番号 1347174
審判番号 不服2018-3618  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-13 
確定日 2019-01-08 
事件の表示 特願2014-185098「活性エネルギー線硬化型アンダーコート剤および表面被覆成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月21日出願公開、特開2016- 56313、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月11日の出願であって、平成29年10月25日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月13日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成30年1月5日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年3月13日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1、2に記載された発明ないし記載事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2011-184678号公報
2.国際公開第2013/141105号

第3 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、平成29年12月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
下記一般式(2)で示される活性エネルギー線硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体ブロック(a)と、活性エネルギー線硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)からなる(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)、反応性希釈剤、および光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型アンダーコート剤。
【化2】

(式中、R^(1)は水素原子または炭素数1?20の炭化水素基を表し、R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1?6の炭化水素基を表し、XはO、S、またはN(R^(6))(R^(6)は水素原子または炭素数1?6の炭化水素基を表す)を表し、nは1?20の整数を表す)
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)と前記反応性希釈剤との合計量100質量部に対して、前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)を20?80質量部含有する請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型アンダーコート剤。
【請求項3】
前記反応性希釈剤が、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化型アンダーコート剤。
【請求項4】
メタクリル系樹脂成形体の表面に、請求項1?3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型アンダーコート剤を硬化してなるアンダーコート層を備え、かかるアンダーコート層上に無機物からなる無機層を備える表面被覆成形体。」

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、「活性エネルギー線硬化性組成物」(発明の名称)に関する、次の事項が記載されている。
(1) 「【請求項1】
メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)からなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロックに活性エネルギー線硬化性官能基(c)を有するアクリル系ブロック共重合体(A)を含むことを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物。
・・・
【請求項3】
光開始剤(B)をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項4】
活性エネルギー線硬化性官能基(c)がアリル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性組成物。」
(2) 【0045】-【0059】には、「メタアクリル系重合体ブロック(a)」について詳述され、【0060】-【0069】には、「アクリル系重合体ブロック(b)」について詳述されている(摘記省略)。
(3) 【0073】-【0109】には、「活性エネルギー線硬化性官能基(c)」について詳述され、特に、「活性エネルギー線硬化性官能基(c)」として「(メタ)アクリロイル基」を用いる場合の導入方法などについて、次の記載がある。
「【0081】
活性エネルギー線硬化性官能基(c)のアクリル系ブロック共重合体(A)への導入方法は特に限定されないが、活性エネルギー線硬化性官能基(c)を有する単量体を共重合する方法、活性エネルギー線硬化性官能基(c)の前駆体を有する単量体を共重合した後に任意の方法で前駆体から活性エネルギー線硬化性官能基(c)を生成する方法、アクリル系ブロック共重合体との反応性を有する官能基を分子内に含む活性エネルギー線硬化性官能基(c)含有化合物を反応させて導入する方法などが挙げられる。このなかでも、導入の容易性の観点から活性エネルギー線硬化性官能基(c)を有する単量体を共重合する方法と、アクリル系ブロック共重合体との反応性を有する官能基を分子内に含む活性エネルギー線硬化性官能基(c)含有化合物を反応させて導入する方法が好ましい。
【0082】
共重合による導入において、活性エネルギー線硬化性官能基(c)を有する単量体としては特に限定されないが、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタニル基、チオール基、マレイミド基、加水分解性シリル基を含有するビニル系単量体が挙げられる。これらの単量体は上記官能基を1分子当たり1種類有していてもよく、複数種類有していても良い。
【0083】
(メタ)アクリロイル基含有ビニル系単量体としては、アリル基含有(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられ、アリル基含有(メタ)アクリレートとしてはアリル(メタ)アクリレート、ブテニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0084】
多官能(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化2-メチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、・・・などが挙げられる。」
・・・
【0093】
アクリル系ブロック共重合体との反応性を有する官能基を分子内に含む活性エネルギー線硬化性官能基(c)含有化合物を反応させて導入する方法としては、特に限定されないが、水酸基、イソシアネート基、エポキシ基などの反応性官能基を有する単量体を共重合することで反応性官能基をアクリル系ブロック共重合体に導入しておき、前記反応性官能基と反応する官能基と活性エネルギー線硬化性官能基(c)を併せ持つ化合物を反応させて導入する方法などがある。
【0094】
具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレートを共重合することで水酸基をアクリル系ブロック共重合体に導入しておき、塩化(メタ)アクリロイルなどの(メタ)アクリル酸の酸ハロゲン化物、(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリロイル基含有カルボン酸化合物、(メタ)アクリル酸カリウムなどの(メタ)アクリル酸の金属塩、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートなどのイソシアネート基含有(メタ)アクリレートなどから選ばれる1種と反応させ(メタ)アクリロイル基を導入する方法、・・・などが挙げられる。これらの方法においては必要に応じて触媒などを使用して反応性を上げることが可能である。」
(4) 「【0126】
<その他成分>
本発明のアクリル系ブロック共重合体組成物は、諸物性の調整を目的として、必要に応じて、上記以外の各種添加剤を添加してもよい。このような添加剤として充填剤、滑剤、安定剤、可塑剤、柔軟性付与剤、難燃剤、顔料、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤、粘着付与剤、流動性改良剤、ブロッキング防止剤、架橋剤、架橋助剤、染料、導電性フィラーなどを添加してもよい。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用可能である。 また、発泡剤、つまり、各種の化学発泡剤、物理発泡剤を添加することができる。」
(5) 「【0135】
本発明のアクリル系ブロック共重合体組成物は、活性エネルギー線による硬化性に優れ、粘着力、保持力、成形性、賦形後の硬化性に優れる。
【0136】
したがって、本発明のアクリル系ブロック共重合体組成物は、粘着剤、接着剤、塗膜、封止剤、フィルム、シートおよび各種成形体、樹脂改質剤などとして、自動車、家電・弱電、工業部品、土木・建築、スポーツ用品・日用雑貨、包装材料、医療・ヘルスケア用品として適用可能であり、例えば、粘着剤、接着剤、塗料、コーティング材、封止剤、光造形用材料、レジスト材料、インキ、粘度調整剤、制振材、防音材、発泡体、分散材、バインダー、皮革材料、ゲル、絶縁材料、化粧品、樹脂改質材などの用途に利用可能である。この中でも粘着力、保持力に優れるため、特に粘着剤として好適に使用できる。
以下に用途例について具体的に示す。
【0137】
(1)粘着剤
・・・
【0139】
(2)接着剤
接着剤としては、反応型接着剤、ホットメルト系接着剤、水系接着剤、溶剤系接着剤、感圧接着剤、粉体接着剤用のベース樹脂または添加剤として適用可能である。また基材シートおよびフィルムとして使用可能である。
【0140】
用途としてはエレクトロニクス、家電・弱電、工業部品、自動車、航空、医療・ヘルスケア、土木・建築、スポーツ・日用雑貨、包装分野で用いられる種々の接着剤が挙げられ、より具体的には、例えば・・・プライマー、シーラント等の用途が挙げられる。
【0141】
(3)塗膜
塗膜としては塗料、コーティング剤、レジスト材料、インキなどがある。より具体的には、自動車、鋼管、木工製品、床材、電子部品・機器、光ファイバー、プラスチックフィルム、金属缶、カラーフィルター、光ディスク、建築材、航空機、鉄道車両の塗料・コーティング材、プリント配線板用レジスト、半導体用レジスト、スクリーン印刷レジストなどのフォトレジスト、ソルダーレジストなどのレジスト材料、UV硬化インキなどがある。また、上記材料の改質材としても利用可能である。」
(6) 「【実施例】
【0143】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0144】
なお、実施例におけるBA、MMA、GMA、HEMA、AMA、は、それぞれ、n-ブチルアクリレート、メチルメタアクリレート、グリシジルメタアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート、アリルメタアクリレート、を表す。
・・・
【0164】
(製造例3)水酸基含有アクリル系ブロック共重合体(P(MMA/HEMA)-b-PBA-b-P(MMA/HEMA))の重合とアクリロイル基の導入
窒素置換した5L耐圧反応器に、臭化銅11.26g、BA804.6g、アセトニトリル141.2g、2,5-ジブロモアジピン酸ジエチル5.65gを加えて攪拌し、75℃に昇温させた。その後、ペンタメチルジエチレントリアミン(以下トリアミン)1.36gを添加して重合を開始させた。重合溶液を適宜サンプリングし、ガスクロマトグラフィー分析により転化率を測定した。BAの転化率が95%の時点で、トルエン950g、塩化銅7.77g、MMA328g、HEMA22.44gを追加した。トリアミンを適宜追加し、反応速度を調整した。MMAの転化率が82%、HEMAの転化率が100%の時点で、トルエン1190gを追加するとともに冷却して反応を停止させた。
【0165】
重合後のアクリル系ブロック共重合体溶液に、p-トルエンスルホン酸一水和物17.9gを加えて室温で3時間撹拌した。析出した不溶部を桐山漏斗で濾過して除いた後、ポリマー溶液に吸着剤キョーワード500SH(協和化学製)を46g加えて室温で更に3時間撹拌した。桐山漏斗で吸着剤を濾過し、無色透明のポリマー溶液を得た。この溶液を乾燥させて溶剤および残存モノマーを除き、目的のブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体のGPC分析を行なったところ、数平均分子量Mn109439、分子量分布Mw/Mn1.37であった。1H-NMRで測定した組成比は、BA/MMA/HEMA=73.1/24.3/2.6(重量%)であった。
【0166】
ブロック共重合体をトルエンに溶解させ30%溶液とした。1Lセパラブルフラスコに、ブロック共重合体溶液100g、トリエチルアミン1.41gを加え、氷水バスで冷却した。ここに塩化アクリロイル1.25gを滴下し、2時間攪拌した。サンプリングし、1H-NMR測定を行うと、反応率は70%であった。
【0167】
反応後の溶液から析出したアミン塩を除去するため、吸引ろ過を2回行った。次に、ろ液からトルエンを除去するため、室温で脱揮した。残存するアミン塩を除去するため、クロロホルムと炭酸水素ナトリウム水溶液で分液を行い、水層は廃棄、クロロホルム層は吸引ろ過といった精製を2回繰り返した。次いで、クロロホルムと食塩水で分液を3回行い、精製した。分液による精製後、有機層に硫酸マグネシウムを加え、水分を除去した。最後に、クロロホルムと残存するトリエチルアミン、アクリル酸を除去するために、70 ℃に加熱を行いながら脱揮を行ってアクリロイル基を有する目的のブロック共重合体3を得た。得られたアクリロイル基含有アクリル系ブロック共重合体3のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnは11,0665、分子量分布Mw/Mnは1.37であった。また、重合仕込み量と転化率測定の結果から求めた官能基導入数は1分子あたり7.7個であった。
・・・
【0178】
(実施例1)
製造例1で得られたエポキシ基含有アクリル系ブロック共重合体1をトルエンに溶解し、30%溶液とした。得られた溶液にカチオン系光開始剤であるアデカオプトマーSP-172(ADEKA製)を溶液状態で1重量部配合し、硬化性液状配合物を得た。配合物約1mLをポリエチレン製板上に滴下した後、脱揮することで塗膜状組成物を得た。塗膜状組成物に未照射または3600mJ/cm^(2)となるように紫外線を照射し、得られた硬化物の硬化性を評価した。
【0179】
さらに、硬化性液状配合物を用いて粘着テープを作製し、アクリル系ブロック共重合体1が塗布されているテープ面を照射面として、未照射または3600mJ/cm^(2)の紫外線を照射した後、ステンレス板に貼り付けて粘着力試験と保持力試験を実施した。
また、アクリル系ブロック共重合体1に170℃10分間の溶融混練によりアデカオプトマーSP-172を1重量部配合し、170℃でプレス成形した。得られた2mm厚の成形体の成形性を評価した。成形体に未照射または20000mJ/cm^(2)となるように紫外線を照射し、得られた硬化物の硬化性(賦形後の硬化性)を評価した。結果を表1に示す。
・・・
【0182】
(実施例4)
実施例1のアクリル系ブロック共重合体1をアクリル系ブロック共重合体3に変更し、開始剤をDAROCUR1173 1重量部に変更し紫外線照射量を未照射または3000mJ/cm^(2)に変更した以外は実施例1と同様の操作で粘着力、保持力、硬化性評価を行った。また、1.5g分のアクリル系ブロック共重合体3を含む硬化性液状配合物を滴下して得られた塗膜状組成物を110℃にてプレス成形して2mm厚の成形体を得た。得られた成形体を用いて成形性評価を行った。成形体に未照射または3000mJ/cm^(2)の紫外線を照射し、得られた硬化物の硬化性(賦形後の硬化性)を評価した。結果を表1に示す。
【0183】
(実施例5)
実施例4の紫外線照射量を未照射または440mJ/cm^(2)に変更した以外は実施例1と同様の操作で硬化性評価を行った。また、紫外線照射量を未照射または440mJ/cm^(2)とした以外は実施例4と同様の操作により成形性と賦形後の硬化性を評価した。結果を表1に示す。
・・・
【0189】
【表1】

【0190】
表1(実施例1?8、比較例1?2)からわかるように、実施例1?8の組成物は粘着性、硬化性、成形性、賦形後の硬化性に優れていることが分かる。特に実施例1?4の組成物は粘着性、硬化性、成形性、賦形後の硬化性と共に硬化後の粘着力、保持力に優れている。一方、比較例1?2の組成物は硬化性、成形性、保持力のいずれかが著しく低く殆ど無い事が分かる。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、「(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の製造方法」(発明の名称)に関する、次の事項が記載されている。
(1) 「[請求項1]
下記一般式(1)
[化1]


(式中、R^(1)は水素原子またはメチル基を表し、R^(2)は炭素数1?5の直鎖アルキレン基を表し、R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立して炭素数1?6の炭化水素基を表す。)
で示されるジ(メタ)アクリレート(1)と、下記一般式(2)
[化2]

(式中、R^(5)は水素原子またはメチル基を表し、R^(6)は炭素数1?6のアルキル基を表す)
で示されるアルキル(メタ)アクリレート(2)とからなる混合物を、有機リチウム化合物(L)、下記一般式(3)
[化3]

(式中、Arは芳香族環を表す)
で示される化学構造を分子中に含む三級有機アルミニウム化合物(A)並びにエーテルおよび三級ポリアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基(B)の存在下で、アニオン重合することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(X)の製造方法。」
(2) 「技術分野
[0001]
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の製造方法に関する。本発明の製造方法によって得られる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は、例えば光硬化性樹脂組成物の構成成分として有用である。」
(3) 「発明を実施するための形態
[0015]
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明の製造方法では、ジ(メタ)アクリレート(1)と、アルキル(メタ)アクリレート(2)とからなる混合物を、有機リチウム化合物(L)、アルミニウム化合物(A)、ルイス塩基(B)の存在下でアニオン重合する。ジ(メタ)アクリレート(1)においては、R^(2)が結合している(メタ)アクリロイル基が選択的に重合され、R^(3)およびR^(4)が結合している炭素原子に結合する(メタ)アクリロイル基の重合は抑制されて、得られる共重合体(X)の側鎖に残留するので、かかる共重合体(X)は紫外線や電子線等を照射することで硬化させることができる。
[0016]
R^(2)が表す炭素数1?5の直鎖アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基が挙げられ、メチレン基またはエチレン基が好ましい。
[0017]
R^(3)およびR^(4)がそれぞれ独立して表す炭素数1?6の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2-エチルブチル基、3-エチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基等が挙げられる。中でも、得られる共重合体(X)の光硬化速度を高める観点から、メチル基またはエチル基が好ましい。
[0018]
R^(5)は水素原子またはメチル基を表し、R^(1)と同じ原子又は官能基であることが望ましい。
[0019]
R^(6)が表す炭素数1?6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2-エチルブチル基、3-エチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。中でも、メチル基またはエチル基が好ましい。
[0020]
R^(3)およびR^(4)が表す炭素数1?6のアルキル基並びにR^(6)が表す炭素数1?6のアルキル基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、本発明の製造方法を阻害しないものであれば特に限定はなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基等のアルコキシ基;塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子等が挙げられる。」
(4) 「[0054]
本発明の製造方法によって得られる共重合体(X)は、例えば、接着剤、粘着剤、塗料、コーティング材等に用いられる光硬化性樹脂組成物の構成成分として有用である。例えば、該光硬化性樹脂組成物を塗布した後、紫外線、電子線等を照射することで硬化物が得られる。」
(5) 「実施例
[0055]
以下、本発明を実施例等によって具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。
以下の実施例等において、原料は常法により乾燥精製し、窒素にて脱気したものを使用し、移送および供給は窒素雰囲気下にて行った。
・・・
[0058]
[実施例1]
内部を乾燥し、窒素置換した300mlのフラスコに、トルエン100ml、ルイス塩基(B)として1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン0.20ml(0.715mmol)、アルミニウム化合物(A)としてイソブチルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)アルミニウムの0.450mol/Lトルエン溶液を4.33ml加えて0℃に冷却した。これに有機リチウム化合物(L)としてsec-ブチルリチウムの1.30mol/Lシクロヘキサン溶液0.50ml(0.65mmol)を加えた。フラスコ内の混合液を激しく攪拌しながら、0℃で1,1-ジメチルプロパン-1,3-ジオールジメタクリレート3.09ml(13.0mmol)とメチルメタクリレート1.38ml(13.0mmol)との混合物4.47mlを加え、アニオン重合を開始した。0℃で攪拌を続けると、反応液は当初黄色の溶液となり、さらに窒素雰囲気下で攪拌を続けると30分後にほぼ無色となった。混合物の添加終了から120分後に、反応液をサンプリングして1,1-ジメチルプロパン-1,3-ジオールジメタクリレートおよびメチルメタクリレートの消費率Cおよび1,1-ジメチルプロパン-1,3-ジオールジメタクリレートの側鎖官能基反応率を測定すると共に、反応液中にメタノールを10.0ml加えることにより、アニオン重合を停止させた。得られた溶液を1リットルのヘキサン中に注ぎ、生成した共重合体(X)を沈殿させ、回収した。
[0059]
アニオン重合終了時の1,1-ジメチルプロパン-1,3-ジオールジメタクリレートおよびメチルメタクリレートの消費率Cは100%、1,1-ジメチルプロパン-1,3-ジオールジメタクリレートの側鎖官能基反応率は9.5%であった。また、得られた共重合体(X)中のMnは7,000、Mw/Mnは1.19であった。
・・・
[0078]
実施例、比較例の重合条件および重合結果を下記の表1に示す。実施例1?8および比較例1、2より、ジ(メタ)アクリレート(1)とアルキル(メタ)アクリレート(2)との共重合を実施することで、温度が0℃または25℃と高い場合でも、アニオン重合が良好に進行し、分子量分布の狭い共重合体が得られることがわかる。
[0079]
さらに、実施例1、6、7、8の比較により、アルミニウム化合物(A)の使用量を、有機リチウム化合物(L)1モルに対して、2.2モル以上とすることでモノマーの消費率Cは100%となり、3.0モル以下とすることでジ(メタ)アクリレート(1)の側鎖官能基反応率が低くなることがわかる。
[0080]
[表1]



第5 引用発明
上記第4の1(1)に摘記した請求項1、3、4の記載をまとめると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)からなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロックに活性エネルギー線硬化性官能基(c)を有するアクリル系ブロック共重合体(A)を含むことを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物であって、
光開始剤(B)をさらに含み、
活性エネルギー線硬化性官能基(c)がアリル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種であるもの。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
ア 引用発明の「活性エネルギー線硬化性組成物」と、本願発明1の「活性エネルギー線硬化型アンダーコート剤」とは、活性エネルギー線硬化型の組成物である点で共通するものである。
イ 引用発明の「活性エネルギー線硬化性官能基(c)」と、本願発明1の「一般式(2)で示される活性エネルギー線硬化性基」とは、活性エネルギー線硬化性基である点で共通するものである。
ウ 引用発明の「メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)からなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロックに活性エネルギー線硬化性官能基(c)を有するアクリル系ブロック共重合体(A)」は、「メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)」の一方にのみ、「活性エネルギー線硬化性官能基(c)」を有する場合を許容するものであるから、本願発明1の「活性エネルギー線硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体ブロック(a)と、活性エネルギー線硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)からなる(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)」に該当するものを含むものといえる。
エ 引用発明の「光開始剤(B)」は、本願発明1の「光重合開始剤」に相当するものといえる。
オ そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりのものと認められる。
・一致点
活性エネルギー線硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体ブロック(a)と、活性エネルギー線硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)からなる(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)、および光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型の組成物。
・相違点1
活性エネルギー線硬化型の組成物の用途について、本願発明1は、アンダーコート剤と特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定を有していない点。
・相違点2
本願発明1は、反応性希釈剤を有するのに対して、引用発明はこれを有していない点。
・相違点3
活性エネルギー線硬化性基について、本願発明1は、一般式(2)で示されるものと特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定を有していない点。
(2) 相違点についての判断
ア 相違点1について
引用文献1には、引用発明に係る「活性エネルギー線硬化性組成物」の用途について、上記第4の1(5)に摘示したとおりの記載があるから、当該用途として、接着剤の分野ではプライマーなどが、塗膜の分野ではコーティング剤などがあることが分かる。
しかしながら、当該引用文献1の用途に関する記載の中に、「アンダーコート剤」という用途はなく、また、当該記載から、これに接した当業者が、「アンダーコート剤」という用途を想起することができるとも認められない。さらに、引用文献2の記載(特に、上記第4の2(4)に摘記した用途に関する記載を参照した。)を仔細にみても、「アンダーコート剤」に関する記載はないから、引用文献2の記載も、引用発明に係る「活性エネルギー線硬化性組成物」を「アンダーコート剤」として用いることを動機付けるものではない。
このように、引用文献1、2には、引用発明に係る「活性エネルギー線硬化性組成物」を「アンダーコート剤」として用いることを教示する記載はなく、上記相違点1に係る本願発明1の構成が容易想到の事項であると認めるに足りる事実を、これらの記載中に見いだすことはできない。また、ほかに当該事実を示す証拠も見当たらない。
そして、本願発明1に係る組成物は、アンダーコート剤という用途に用いることにより、活性エネルギー線の照射によって速やかに硬化し、アンダーコート層を形成することができ、メタクリル系樹脂成形体とアンダーコート層、さらにはその上の無機層とが密着性に優れた表面被覆成形体の実現をもたらすものである(本願明細書の【0009】などを参照した。)。
したがって、上記相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
イ 相違点2について
念のため、相違点2についても検討すると、上記第4の1(4)の摘示のとおり、引用文献1には、諸物性の調整を目的として、必要に応じて、各種添加剤を添加してもよいことが記載され、具体的には、充填剤、滑剤、安定剤、可塑剤、柔軟性付与剤、難燃剤、顔料、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤、粘着付与剤、流動性改良剤、ブロッキング防止剤、架橋剤、架橋助剤、染料、導電性フィラー、発泡剤などが列記されている。
しかしながら、上記第4の1(6)に摘示した実施例をはじめ、引用文献1全体を仔細にみても、当該添加剤について詳述された箇所はなく、それらのいずれかが、本願発明1の反応性希釈剤に相当するものであると認めるに足りる事実は見当たらない。引用文献2の記載を仔細にみても同様である。
そして、本願発明1は、当該反応性希釈剤を含むことにより、活性エネルギー線硬化型アンダーコート剤の流動性を高めるとともに、当該アンダーコート剤により形成されるアンダーコート層は、表面被覆成形体における無機層とメタクリル系樹脂成形体との密着性を高めることに寄与するものと解される(本願明細書の【0081】などを参照した。)。
したがって、引用発明に、反応性希釈剤を付加して、上記相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、引用文献1及び2の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
ウ 相違点3について
さらに、相違点3についても触れておくと、本願発明1における「一般式(2)で示される活性エネルギー線硬化性基を有する(メタ)アクリル系重合体ブロック(a)と、活性エネルギー線硬化性基を有さない(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)からなる(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)」については、引用文献1の上記第4の1(3)、(6)の摘記事項(特に、【0084】記載の多官能(メタ)アクリレートを共重合する場合や、実施例4、5を参照した。)からみて、既に引用発明が予定したものというべきであるから、当該相違点3は、実質的な相違点であるとはいえない(なお、上記第4の2(5)に摘記した引用文献2の実施例1などにも同様の(メタ)アクリル系ブロック共重合体が記載されている。)。
2 本願発明2-4について
本願発明2、3は、本願発明1の発明特定事項をすべて備えるものであり、また、本願発明4は、本願発明1のアンダーコート剤を硬化してなるアンダーコート層を備えるところ、当該アンダーコート層は、上記引用発明に係る活性エネルギー線硬化性組成物から得られる塗膜やコーティングなどとは、その用途(上記相違点1に関連)や成分(上記相違点2に関連)において異なるものであるから、本願発明2-4についても、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1、2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-4は、当業者が引用発明並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-17 
出願番号 特願2014-185098(P2014-185098)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
木村 敏康
発明の名称 活性エネルギー線硬化型アンダーコート剤および表面被覆成形体  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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