• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1347197
審判番号 不服2017-10537  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-14 
確定日 2018-12-19 
事件の表示 特願2015-118383「可変結合係数を有するアンテナ電力結合器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日出願公開、特開2015-213333〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、2012年(平成24年)9月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年9月20日、米国)を国際出願日とする出願である特願2014-531982号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成27年6月11日に新たな特許出願としたものであって、平成27年7月10日付けで審査請求がなされ、平成28年7月22日付けで審査官により拒絶理由が通知され、これに対して平成28年10月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成29年3月7日付けで審査官により拒絶査定がなされ、これに対して平成29年7月14日付けで拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。


第2.平成29年7月14日付けにされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成29年7月14日付けにされた手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容

平成29年7月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)により、平成28年10月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、

「【請求項1】
装置であって、
複数の送信技術に関連付けられた送信信号電力に基づいて電力検出信号を生成するように構成された結合器と、
固定された閾値以下の値に維持される調整済み電力検出信号を生成するために、選択された減衰係数を前記電力検出信号に適用するように構成された可変減衰器と、前記選択された減衰係数は、選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で前記可変減衰器によって適用され、
前記選択された送信技術を決定し、前記選択された送信技術に基づき前記選択された減衰係数を前記可変減衰器に設定するよう、構成された検出受信機と
を備えた装置。
【請求項2】
前記可変減衰器の前記選択された減衰係数を設定するために、前記選択された送信技術に基づいて減衰器制御信号を生成するように構成された検出受信機をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記結合器、可変減衰器、および検出受信機は、トランシーバにおいて提供される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記結合器は、広帯域結合器を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記結合器は、前記可変減衰器を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
約0dBmの前記固定された閾値以下に維持される電力レベルを有するように、前記調整済み電力検出信号が生成される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記複数の送信技術は、広域符号分割多元接続(WCDMA)、ロングタームエボリューション(LTE)、モバイル通信のためのグローバルシステム(GSM)、ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)、およびブルートゥース送信技術を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記結合器は、アンテナスイッチの入力側の送信信号パスに結合するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記結合器は、アンテナスイッチの出力側の送信信号パスに結合されるように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記可変減衰器は、アンテナスイッチに含まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
装置であって、
複数の送信技術に関連付けられた送信信号電力に基づいて電力検出信号を生成するための手段と、
固定された閾値以下の値に維持される調整済み電力検出信号を生成するために、選択された減衰係数を前記電力検出信号に適用するための手段と、前記選択された減衰係数は、選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用され、
前記選択された送信技術を決定するための手段と、
前記選択された送信技術に基づき前記選択された減衰係数を可変減衰器に設定するための手段と、
を備えた、装置。
【請求項12】
前記選択された減衰係数を設定するために、前記選択された送信技術に基づいて減衰器制御信号を生成するための手段をさらに備える、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記生成するための手段は、広い周波数帯域にわたって動作するように構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記適用するための手段は、約0dBmの電力レベルを有するように前記調整済み電力検出信号を生成するように構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
前記生成するための手段は、広域符号分割多元接続(WCDMA)、ロングタームエボリューション(LTE)、モバイル通信のためのグローバルシステム(GSM)、ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)、およびブルートゥース送信技術に関連付けられた前記送信信号電力に基づいて、前記電力検出信号を生成するように構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項16】
前記生成するための手段は、アンテナ切替のための手段の入力に結合される、請求項11に記載の装置。
【請求項17】
前記生成するための手段は、アンテナ切替のための手段の出力に結合される、請求項11に記載の装置。
【請求項18】
前記適用するための手段は、アンテナ切替のための手段と一体化される、請求項11に記載の装置。
【請求項19】
方法であって、
複数の送信技術に関連付けられた送信信号電力に基づいて電力検出信号を生成することと、
前記選択された送信技術を決定することと、
前記選択された送信技術に基づき前記選択された減衰係数を可変減衰器に設定することと、
固定された閾値以下の値に維持される調整済み電力検出信号を生成するために、前記選択された減衰係数を前記電力検出信号に適用することと、前記選択された減衰係数は、前記選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用される方法。
【請求項20】
前記生成することは、広域符号分割多元接続(WCDMA)、ロングタームエボリューション(LTE)、モバイル通信のためのグローバルシステム(GSM)、ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)、およびブルートゥース送信技術に関連付けられた前記送信信号電力に基づいて、前記電力検出信号を生成するように構成される、請求項19に記載の方法。」(以下、上記引用の請求項各項を、「補正前の請求項」という)は、

「【請求項1】
装置であって、
複数の送信技術に関連付けられた送信信号電力に基づいて電力検出信号を生成するように構成された結合器と、
固定された閾値以下の電力レベルに維持される調整済み電力検出信号を生成するために、選択された減衰係数を前記電力検出信号に適用するように構成された可変減衰器と、前記選択された減衰係数は、選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で前記可変減衰器によって適用され、
前記調整済み電力検出信号を受信し、前記選択された送信技術を決定し、前記選択された送信技術に基づき前記選択された減衰係数を前記可変減衰器に設定するよう、構成された検出受信機と
を備え、
前記検出受信機は、前記選択される送信技術にかかわらず、前記可変減衰器によって前記電力レベルを有する前記調整済み電力検出信号が生成されるように、前記可変減衰器を制御する、
装置。
【請求項2】
前記可変減衰器の前記選択された減衰係数を設定するために、前記選択された送信技術に基づいて減衰器制御信号を生成するように構成された検出受信機をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記結合器、可変減衰器、および検出受信機は、トランシーバにおいて提供される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記結合器は、広帯域結合器を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記結合器は、前記可変減衰器を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
約0dBmの前記固定された閾値以下に維持される電力レベルを有するように、前記調整済み電力検出信号が生成される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記複数の送信技術は、広域符号分割多元接続(WCDMA)、ロングタームエボリューション(LTE)、モバイル通信のためのグローバルシステム(GSM)、ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)、およびブルートゥース送信技術を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記結合器は、アンテナスイッチの入力側の送信信号パスに結合するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記結合器は、アンテナスイッチの出力側の送信信号パスに結合されるように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記可変減衰器は、アンテナスイッチに含まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
装置であって、
複数の送信技術に関連付けられた送信信号電力に基づいて電力検出信号を生成するための手段と、
固定された閾値以下の電力レベルに維持される調整済み電力検出信号を生成するために、選択された減衰係数を前記電力検出信号に適用するための手段と、前記選択された減衰係数は、選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用され、
前記調整済み電力検出信号を受信し、前記選択された送信技術を決定するための手段と、
前記選択された送信技術に基づき前記選択された減衰係数を可変減衰器に設定するための手段と、
を備え、
前記可変減衰器は、前記選択される送信技術にかかわらず、前記電力レベルを有する前記調整済み電力検出信号を生成するように、制御される、
装置。
【請求項12】
前記選択された減衰係数を設定するために、前記選択された送信技術に基づいて減衰器制御信号を生成するための手段をさらに備える、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記生成するための手段は、広い周波数帯域にわたって動作するように構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記適用するための手段は、約0dBmの電力レベルを有するように前記調整済み電力検出信号を生成するように構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
前記生成するための手段は、広域符号分割多元接続(WCDMA)、ロングタームエボリューション(LTE)、モバイル通信のためのグローバルシステム(GSM)、ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)、およびブルートゥース送信技術に関連付けられた前記送信信号電力に基づいて、前記電力検出信号を生成するように構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項16】
前記生成するための手段は、アンテナ切替のための手段の入力に結合される、請求項11に記載の装置。
【請求項17】
前記生成するための手段は、アンテナ切替のための手段の出力に結合される、請求項11に記載の装置。
【請求項18】
前記適用するための手段は、アンテナ切替のための手段と一体化される、請求項11に記載の装置。
【請求項19】
方法であって、
複数の送信技術に関連付けられた送信信号電力に基づいて電力検出信号を生成することと、
調整済み電力検出信号を受信し、前記選択された送信技術を決定することと、
前記選択された送信技術に基づき前記選択された減衰係数を可変減衰器に設定することと、
固定された閾値以下の電力レベルに維持される前記調整済み電力検出信号を生成するために、前記選択された減衰係数を前記電力検出信号に適用することと、前記選択された減衰係数は、前記選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用される、
を備え、
前記可変減衰器は、前記選択される送信技術にかかわらず、前記電力レベルを有する前記調整済み電力検出信号を生成するように、制御される、
方法。
【請求項20】
前記生成することは、広域符号分割多元接続(WCDMA)、ロングタームエボリューション(LTE)、モバイル通信のためのグローバルシステム(GSM)、ワイヤレスローカルエリアネットワーク(WLAN)、およびブルートゥース送信技術に関連付けられた前記送信信号電力に基づいて、前記電力検出信号を生成するように構成される、請求項19に記載の方法。」(以下、上記引用の請求項各項を、「補正後の請求項」という)に補正された。


2.補正の適否

(1)新規事項の追加

本件補正が、特許法第17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か、即ち、本件補正が、願書に最初に添付された、明細書、特許請求の範囲、及び、図面(以下、これを「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて、以下に検討する。

ア.本件補正は、補正前の請求項19に記載の「前記選択された送信技術を決定すること」に対して、「調整済み電力検出信号を受信し、」という限定事項を付加することを含むものである。
そうすると、補正後の請求項19に係る発明は、「調整済み電力検出信号を受信し」た後に、「前記選択された送信技術を決定すること」を含む方法と解される。

イ.上記ア.において指摘の限定事項について検討すると、当初明細書等には、「調整済み電力検出信号を受信し、前記選択された送信技術を決定する」という記載は存在しない。

そこで、当初明細書等から、当該限定事項に相当する構成が読み取れるかについて、以下に検討する。

ウ.当初明細書等には、図面とともに次の記載が存在する。

a.「【0026】
ブロック702において、データを送信するための選択された送信技術が決定される。例えば、プロセッサ502は、デバイスI/Oインターフェースを使用してワイヤレスデバイスから、決定された送信技術についての情報を受信する。
【0027】
ブロック704において、選択された送信技術に関連付けられたパラメータが取得される。例えば、プロセッサ502は、パラメータを取得するためにメモリ504にアクセスする。例示的な実施形態において、パラメータは、1つ以上の送信技術に関連付けられた減衰セッティングを含む。
【0028】
ブロック706において、選択された可変減衰器は、選択されたレベルの減衰を提供するように設定される。例えば、プロセッサ502は、その減衰係数を設定するために、選択された減衰器にコマンドを送るように減衰コントローラ506を制御する。結果として、選択された減衰器は、選択された広域電力結合器(電力検出信号)の出力を、それの入力として受信し、選択された減衰量を提供し、調整済み電力検出信号を出力するだろう。
【0029】
ブロック710において、所望の最大電力レベルを有する調整済み電力検出信号が受信される。例えば、調整済み電力検出信号324は、可変減衰器320から出力され、検出受信機326で受信される。調整済み電力検出信号324は、可変減衰器320のセッティングによって決定される最大電力レベルを有するように調整され、それによって、このレベルは安全となり、トランシーバ302の動作にダメージを与えるまたは劣化させないであろう。
【0030】
ブロック712において、受信された調整済み電力検出信号は、自己較正を容易にするためにワイヤレスデバイスに送られる。例えば、プロセッサ502は、デバイスI/Oを使用して、受信された調整済み電力検出信号についての情報をワイヤレスデバイスに送る。」

エ.上記a.の【0026】には、プロセッサ502は、デバイスI/Oインターフェースを使用してワイヤレスデバイスから、決定された送信技術についての情報を受信していると記載されているから、ワイヤレスデバイスが送信技術を決定していると解されるが、該ワイヤレスデバイスが送信技術を決定するにあたって、受信する情報は特定されておらず、「調整済み電力検出信号」を受信するとは記載されていない。
上記a.の【0029】の記載から検出受信機326が調整済み電力検出信号を受信していて、上記a.の【0030】の記載から、上記検出受信機326のプロセッサ502は、“調整済み電力検出信号についての情報”を送っているから、該プロセッサ502は、受信した調整済み電力検出信号を処理して、“調整済み電力検出信号についての情報”を生成していると解される。そうすると、「調整済み電力検出信号」を受信するものは、上記検出受信機326だけである。
これらのことから、上記ワイヤレスデバイスが「前記選択された送信技術を決定」した後、上記検出受信機326が「調整済み電力検出信号を受信し」ていると解される。
さらに、図7とともに、上記a.の【0027】?【0029】には、送信技術を決定することで減衰係数を決め、可変減衰器320に該減衰係数を設定することで、調整済み電力検出信号を得ることができることが記載されているから、「前記選択された送信技術を決定する」前に、調整済み電力検出信号を受信することは不可能なことである。
したがって、「調整済み電力検出信号を受信し」た後に、「前記選択された送信技術を決定すること」は、上記a.には、記載されていないといえる。

上記a.の【0030】には、「ブロック712において、受信された調整済み電力検出信号は、自己較正を容易にするためにワイヤレスデバイスに送られる。」とも記載されているから、ワイヤレスデバイスが「調整済み電力検出信号」を受信するものであったとしても検討する。
上記a.の【0030】には、「前記選択された送信技術を決定」した後、減衰係数を設定し、該減衰係数を用いて生成した「調整済み電力検出信号」を受信することが記載されていて、「調整済み電力検出信号を受信し」た後に、「前記選択された送信技術を決定」してはいない。このことは、上述したとおり「前記選択された送信技術を決定すること」の前に「調整済み電力検出信号」を受信することは不可能なことからも明らかである。

当初明細書等の全体の記載を見たが、「調整済み電力検出信号を受信し、前記選択された送信技術を決定する」を読み取ることができる記載は見当たらなかった。

通常、ワイヤレスデバイスは、送信先に応じて送信技術を決定するものであって、「調整済み電力検出信号」を受信した後に「選択された送信技術を決定」しない。
ワイヤレスデバイスが「調整済み電力検出信号」を受信し、その後に、「選択された送信技術を決定すること」は、当初明細書等に記載されておらず、自明なことでもない。

以上のことから、「調整済み電力検出信号を受信し、前記選択された送信技術を決定する」することが、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとする根拠は見出せない。

よって、本件補正は、当初明細書等の記載の範囲内でなされたものでない。

3.補正の却下むすび

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3.本願発明
(1)本願発明について

平成29年7月14日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項19に係る発明(以下、これを「本願発明」という)は、平成28年10月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項19に記載された、上記「第2.平成29年7月14日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において、補正前の請求項19として引用した、次のとおりのものである。

「方法であって、
複数の送信技術に関連付けられた送信信号電力に基づいて電力検出信号を生成することと、
前記選択された送信技術を決定することと、
前記選択された送信技術に基づき前記選択された減衰係数を可変減衰器に設定することと、
固定された閾値以下の値に維持される調整済み電力検出信号を生成するために、前記選択された減衰係数を前記電力検出信号に適用することと、前記選択された減衰係数は、前記選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用される方法。」

(2)原査定における拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本願の請求項19に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献:米国特許出願公開第2010/0195547号明細書


(3)引用刊行物に記載の事項

ア.原審拒絶理由に引用された、本願の原出願の第1国出願前に既に公知である、米国特許出願公開第2010/0195547号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。

A.「The FEM 200 includes power amplifiers 210 and 220, switch 230 and a power detecting circuit that includes coupler 240, power detector 250 and leveling circuit 260. The power amplifiers 210 and 220 amplify different signals (e.g., radio frequency (RF) signals), respectively having different signal parameters, including different frequency bands and different power levels, for communications based on different standards. For example, power amplifier 210 may correspond to an access point for wireless internet configured in accordance with the IEEE 802.11 (WiFi) communication standard for wireless access, and power amplifier 220 may correspond to another for wireless internet access point configured in accordance with the IEEE 802.16 (WiMax) communication standard for wireless access, the contents of which are hereby incorporated by reference. As stated above, each of these communication standards requires corresponding signal parameters, including frequency bands and power levels (e.g., as shown in Table 1, below), which are different from each other.」([0021])

(当審訳:フロントエンドモジュール200は、電力増幅器210および220、スイッチ230、カプラ240と電力検出器250とレベリング回路260を含む電力検出回路を含む。電力増幅器210及び220は、異なる規格に基づいた通信のために、異なる周波数帯域および異なる電力レベルを含む異なる信号パラメータを有する異なる信号(例えば、無線周波数(RF)信号)を増幅する。例えば、電力増幅器210は、無線アクセスのためのIEEE802.11(WiFi)の通信規格にしたがって構成された無線インターネットアクセスポイントに対応してもよく、電力増幅器220は、無線アクセスのためのIEEE802.16(WiMax)通信規格にしたがって構成された無線インターネットアクセスポイントに対応してもよく、その内容が参照により本明細書に組み込まれる。上述したように、これらの各通信規格は、互いに異なる周波数帯域及び電力レベル(例えば、表1で以下に示されるように)を含む信号パラメータを必要とする。)

B.「The FEM 200 outputs an amplified RF signal from one of the power amplifiers 210, 220 through output node Nout. The power amplifier 210 or 220 is selected through switch 230, which connects the selected one of the power amplifiers 210, 220 to switch node N201 in signal path 215. The coupler 240, located between the switch node N201 and the output node Nout, couples the RF signal to the power detector 250 through the leveling circuit 260. In various embodiments, the coupler 240 may be implemented as a directional coupler and the power detector 250 may be implemented as a diode (as shown), although it is understood that any alternative implementations of the coupler 240 and/or the power detector 250 may be included, without departing from the spirit and scope of the disclosure.」([0023])

(当審訳:フロントエンドモジュール200は、電力増幅器210、220の一方からの増幅されたRF信号を出力ノードNoutを介して出力する。なお、電力増幅器210または220は、信号経路215によって電力増幅器210、220の1つをスイッチノードN201に接続するスイッチ230によって選択される。カプラ240は、スイッチノードN201と出力ノードNoutとの間に位置しており、レベリング回路260を介してRF信号を電力検出器250に結合する。様々な実施形態において、カプラ240は、方向性結合器として実装されてもよく、電力検出器250は、ダイオード(図示のとおり)として実装されてもよく、本発明の精神及び開示の範囲から逸脱することなく、カプラ240および/または検出器250のいずれかの代替的な実装が含まれてもよいことが理解される。)

C.「In order for the configuration of FEM 200 to function correctly, the correct response must be provided by the power detector 250 corresponding to each of the different types of signal parameters, such as frequency bands and power levels. For example, when WiFi and WiMax are being accommodated in the FEM 200, a high-band WiFi power amplifier (e.g., power amplifier 210) may operate in a first frequency range of 5.15-5.9 GHz and produce power levels in a first power range of 0-20 dBm, and a low-band WiMax power amplifier (e.g., power amplifier 220) may operate in a second frequency range from 2.3-2.7 GHz and produce power levels in a second power range of 6-26 dBm. The power amplifier 210 or 220 corresponding to the desired network access point (e.g., WiFi or WiMax, respectively) is selectively connected to output node Nout of the FEM 200 by the switch 230 to output a respective amplified RF signal. The output node Nout is connected to a broad band antenna system (not shown), although it is understood that any other means of transmitting output signals or otherwise communicating with the respective network access points may be provided.」([0024])

(当審訳:正しく機能するためのフロントエンドモジュール200の構成のために、修正された応答が、周波数帯域及び電力レベルのような異なる種類の信号パラメータの各々に対応する電力検出器250によって与えられなければならない。例えば、WiFi及びWiMaxがフロントエンドモジュール200に適応される場合、高帯域WiFi電力増幅器(例えば、電力増幅器210)は、5.15-5.9GHzの第1の周波数範囲と0-20dBmの第1の電力範囲における電力レベル、低帯域WiMax電力増幅器(例えば、電力増幅器220)は、2.3-2.7GHzの第2の周波数範囲と6-26dBmの第2の電力範囲における電力レベルで動作することができる。希望のネットワークアクセスポイント(例えば、WiFi又はWiMaxのそれぞれ)に対応する電力増幅器210または220がスイッチ230によりフロントエンドモジュール200の出力ノードNoutに選択的に接続され、それぞれの増幅されたRF信号を出力する。出力ノードNoutは、広帯域アンテナシステム(図示せず)に接続されており、出力信号を送信するか、またはそれぞれのネットワークアクセスポイントと通信している他の任意の手段を設けてもよいことが理解される。)

D.「However, to prevent such variations in DC voltages output from the single power detector 250, e.g., in response to varying frequency, power ranges and/or other signal parameters, the leveling circuit 260 provides leveling operations corresponding to the respective power amplifiers 210, 220 and associated communication standards. For example, the leveling circuit 260 may provide an adjustable gain in order to increase or decrease power levels of coupled signals received from the coupler 240. More detail regarding leveling operations performed by the leveling circuit 260 is provided, for example, with reference to FIGS. 3 and 4, below.」([0026])

(当審訳:しかしながら、例えば、様々な周波数、電力範囲及び/又は他の信号パラメータに応答して、単一の電力検出器250から出力されるDC電圧のそのような変動を防止するために、レベリング回路260は、それぞれの電力増幅器210、220、および関連する通信規格に対応するレベリング動作を提供する。例えば、レベリング回路260は、カプラ240から受信した結合信号の電力レベルを増大または減少させるために調整可能な利得を提供することができる。レベリング回路260によって実行されるレベリング動作に関する更なる詳細は、例えば、図3及び図4を参照して以下に提供する。)

E.「The leveling circuit 460 is connected between power detector 450 and coupler 440, which is connected between switch node N401 and output node Nout in the signal path 415 of FEM 400. The leveling circuit 460 is thus able to equalize power sensitivity between the multiple applications (e.g., WiFi and WiMax applications). More particularly, the switch node N401 selectively receives an amplified RF signal from one of multiple power amplifiers through a switch (which are not shown in FIG.4), as discussed above with respect to power amplifiers 210, 220 and switch 230 in FEM 200 of FIG.2. It is understood that the coupler 440, the power detector 450, the switch node 401 and the output node Nout may correspond to the coupler 240, the power detector 250, the switch node N201 and the output node Nout indicated in FIG.2, respectively, and that the leveling circuit 460 is an example of the leveling circuit 260 depicted in FIG.2.」([0033])

(当審訳:レベリング回路460は、電力検出器450と、フロントエンドモジュール400の信号経路415の出力ノードNoutとスイッチノードN401の間を接続するカプラ440との間に接続されている。レベリング回路460は、複数のアプリケーション(例えば、WiFiおよびWiMaxアプリケーション)間で電力の感度を均一化することができる。より具体的には、図2のフロントエンドモジュール200内の電力増幅器210、220とスイッチ230に関して上述したように、スイッチノードN401は、スイッチ(図4には示されていない)を介して、選択的に複数の電力増幅器のうちの1つからの増幅されたRF信号を受信する。カプラ440と、電力検出部450と、スイッチノード401と、出力ノードNoutは、図2に示される、カプラ240、電力検出器250、スイッチノードN201および出力ノードNoutに対応することができること、及びレベリング回路460は、図2に示されるレベリング回路260の例であることが理解されよう。)

F.「Transistors 463 and 464 function as switches and are driven in complementary fashion by transistor 465 in response to a control signal Vc applied to control node Ncontrol. Transistor 463 has a source connected to ground, a drain connected to amplifier input bypass capacitor C422, and a gate connected to the control node Ncontrol (through resistor R403) and to a gate of transistor 465. Transistor 464 has a source connected to ground, a drain connected to node N412 (through capacitor C424) and a gate connected to a drain of transistor 465. Transistor 465 has a source connected to ground, a drain connected to the voltage source node Nvdd through resistor R402 and to the gate of transistor 464, and a gate connected to the control node Ncontrol (through resistor R403) and to the gate of transistor 463.」([0038])

(当審訳:トランジスタ463及び464はスイッチとして機能し、制御ノードNcontrolに印加される制御信号Vcに応答してトランジスタ465により相補的に駆動される。トランジスタ463は、ソースがグランドに接続され、ドレインが増幅器入力バイパスコンデンサC422に接続され、ゲートが(抵抗R403を介して)制御ノードNcontrolと、トランジスタ465のゲートに接続されている。トランジスタ464のソースはグランドに接続され、ドレインが(コンデンサC424を介して)ノードN412に接続され、ゲートトランジスタ465のドレインに接続されている。トランジスタ465は、ソースがグランドに接続され、ドレインは抵抗R402を介して電圧源ノードNvddとトランジスタ464のゲートに接続され、ゲートが(抵抗R403を介して)制御ノードNcontrolと、トランジスタ463のゲートに接続されている。)

G.「In this configuration, transistor 463 selectively couples capacitor C422 to node N411, which is the input to the amplifier (transistor 461), and transistor 464 selectively couples capacitor C424 to node N412, which is the gate of transistor 461. In particular, when control signal Vc is high, both transistors 463 and 465 are turned on. The drain of transistor 465 is pulled low, turning off transistor 464. The result is that capacitor C422 is switched in by transistor 463 (in the on-state) and capacitor C424 is switched out by transistor 464 (in the off-state). Accordingly, capacitor C422 helps to reduce gain by bypassing a portion of the coupled RF signal input through the coupler 440 to ground. Also, with capacitor C424 switched out, the gain of the amplifier (transistor 461) can be further reduced, e.g., by choosing a small value of capacitor C423, caused by insufficient gate bypassing on transistor 461. Reduced gain is the desired effect for WiMax applications, for example.」([0039])

(当審訳:この構成では、トランジスタ463はコンデンサC422を、増幅器(トランジスタ461)への入力であるノードN411に選択的に結合し、トランジスタ464は、コンデンサC424をトランジスタ461のゲートであるノードN412に選択的に接続する。具体的には、制御信号Vcがハイのとき、トランジスタ463および465がともにオンとなる。トランジスタ465のドレインはローへ引っ張られ、トランジスタ464をオフとする。その結果、コンデンサC422は、トランジスタ463(オン状態)により接続され、コンデンサC424はトランジスタ464(オフ状態)により非接続される。従って、コンデンサC422は、カプラ440を介して入力結合されたRF信号の一部をグランドへバイパスすることによって利得を減少させるのに役立つ。また、コンデンサC424の非接続により、増幅器(トランジスタ461)の利得は、例えば、小さい値のコンデンサC423を選択することによる、トランジスタ461の不十分なゲートバイパスによって、さらに低減することができる。低減された利得は、例えばWiMaxアプリケーションにとって望ましい効果である。)

H.「When control signal Vc is low, both transistors 463 and 465 are turned off. The drain of transistor 465 is therefore pulled high, turning on transistor 464. The result is that C422 is switched out by transistor 463 (in the off-state) and capacitor C424 is switched in by transistor 464 (in the on-state). This configuration causes the gain of the amplifier (transistor 461) to be higher, which is the desired effect for WiFi applications, for example, which operate at lower power levels than WiMax applications.」([0040])

(当審訳:制御信号Vcがローのとき、トランジスタ463とトランジスタ465の両方はオフとなる。トランジスタ465のドレインは、ハイに引っ張られ、トランジスタ464をオンとする。その結果、C422は、トランジスタ463(オフ状態)によって非接続され、コンデンサC424はトランジスタ464(オン状態)によって接続される。この構成は、増幅器(トランジスタ461)の利得を高くし、これは例えばWiMaxアプリケーションよりも低い電力レベルの動作である、WiFiアプリケーションのための望ましい効果である。)

I.「Using the above illustrative values for the FEM 400 of FIG. 4, Table 1 provides a representative application scenario involving WiMax and WiFi standards for wireless access. The output levels of the power detector 450 at detector output node Ndet would be approximately 0.3V-0.9V over the power ranges set forth in Table 1.」([0043])

(当審訳:図4のフロントエンドモジュール400について上記例示値を使用すると、表1は、無線アクセスのためのWiMax、WiFi規格に関係する代表的なアプリケーションシナリオを提供する。検出器出力ノードNdetにおける電力検出器450の出力レベルは、表1に示す電力範囲にわたって約0.3V-0.9Vである。)

(4)引用文献1に記載の発明

ア.引用文献1の[0043]に記載の表1には、WiMAXとWiFiごとに異なる周波数帯域と異なる電力レベルが例示されている。該表1と上記A.と上記C.の記載から、引用文献1に記載の電力増幅器210,220は、“各々の通信規格に関連付けられたRF信号”を生成しているといえる。
さらに、上記E.に記載の「More particularly, the switch node N401 selectively receives an amplified RF signal from one of multiple power amplifiers through a switch (which are not shown in FIG. 4), as discussed above with respect to power amplifiers 210, 220 and switch 230 in FEM 200 of FIG. 2. It is understood that the coupler 440, the power detector 450, the switch node 401 and the output node Nout may correspond to the coupler 240, the power detector 250,the switch node N201 and the output node Nout indicated in FIG. 2, respectively, and that the leveling circuit 460 is an example of the leveling circuit 260 depicted in FIG.2.」(当審訳:レベリング回路460は、電力検出器450と、フロントエンドモジュール400の信号経路415の出力ノードNoutとスイッチノード401の間を接続するカプラ440との間に接続されている。レベリング回路460は、複数のアプリケーション(例えば、WiFiおよびWiMaxアプリケーション)間で電力の感度を均一化することができる。より具体的には、図2のフロントエンドモジュール200内の電力増幅器210、220とスイッチ230に関して上述したように、スイッチノードN401は、スイッチ(図4には示されていない)を介して、選択的に複数の電力増幅器のうちの1つからの増幅されたRF信号を受信する。カプラ440と、電力検出部450と、スイッチノード401と、出力ノードNoutは、図2に示される、カプラ240、電力検出器250、スイッチノードN201および出力ノードNoutに対応することができること、及びレベリング回路460は、図2に示されるレベリング回路260の例であることが理解されよう。)と、上記D.に記載の「For example, the leveling circuit 260 may provide an adjustable gain in order to increase or decrease power levels of coupled signals eceived from the coupler 240. 」(当審訳:例えば、レベリング回路260は、カプラ240から受信した結合信号の電力レベルを増大または減少させるために調整可能な利得を提供することができる。)から、カプラ440は、”結合信号を生成している”といえる。

したがって、引用文献1には、“各々の通信規格に関連付けられたRF信号に基づいて結合信号を生成すること”が記載されているといえる。

イ.上記C.に記載の「The power amplifier 210 or 220 corresponding to the desired network access point (e.g., WiFi or WiMax,respectively) is selectively connected to output node Nout of the FEM 200 by the switch 230 to output a respective amplified RF signal. 」(当審訳:希望のネットワークアクセスポイント(例えば、WiFi又はWiMaxのそれぞれ)に対応する電力増幅器210または220がスイッチ230によりFEM200の出力ノードNoutに選択的に接続され、それぞれの増幅されたRF信号を出力する。)から、引用文献1に記載のスイッチ230により、希望のネットワークアクセスポイント(WiFi又はWiMax)に対応する電力増幅器210または220を選択している。
そして、「希望のネットワークアクセスポイント」に対応する電力増幅器210,220を選択するためには、「希望のネットワークアクセスポイント」が決定されていなければならないことは明らかである。

したがって、引用文献1には、“希望のネットワークアクセスポイントを決定すること”が記載されているといえる。

ウ.上記F.及びG.には、WiMAXアプリケーションにとって望ましい効果を得るために制御信号Vcをハイとしていて、上記F.及びH.には、WiFiアプリケーションにとって望ましい効果を得るために制御信号Vcをローとすることが記載されているから、引用文献1記載の構成において、WiMAXアプリケーションには制御信号Vcをハイとし、WiFiアプリケーションには制御信号Vcをローとすることで、レベリング回路を制御しているといえる。
そして、引用発明のレベリング回路の制御は、上記D.の記載から、電力レベルの増大または減少を行うものであって、具体的には、上記G.には、利得を減少させることが記載され、上記H.には、利得を増大させると記載されている。そうすると、レベリング回路は利得の増大または減少を行うものである。
上記WiMAXアプリケーション及び上記WiFiアプリケーションは、各々の通信規格を使用したアプリケーションを示している。上記C.に記載の「The power amplifier 210 or 220 corresponding to the desired network access point (e.g., WiFi or WiMax,respectively) is selectively connected to output node Nout of the FEM 200 by the switch 230 to output a respective amplified RF signal. 」(当審訳:希望のネットワークアクセスポイント(例えば、WiFi又はWiMaxのそれぞれ)に対応する電力増幅器210または220がスイッチ230によりFEM200の出力ノードNoutに選択的に接続され、それぞれの増幅されたRF信号を出力する。)から、希望のネットワークアクセスポイントとしてWiFi又はWiMaxが想定されている。

したがって、引用文献1には、“前記希望のネットワークアクセスポイントに基づき選択された制御信号Vcに応じてレベリング回路が利得の増大または減少を行うこと”が記載されているといえる。

エ.上記D.の「For example, the leveling circuit 260 may provide an adjustable gain in order to increase or decrease power levels of coupled signals received from the coupler 240.」(当審訳:例えば、レベリング回路260は、カプラ240から受信した結合信号の電力レベルを増大または減少させるために調整可能な利得を提供することができる。)から、レベリング回路460はカプラ440からの結合信号が入力しているといえる。そして、レベリング回路460は、電力検出器450へ出力するものであるから、該出力する信号は、調整済み結合信号といえる。
上記E.に記載の「The leveling circuit 460 is thus able to equalize power sensitivity between the multiple applications (e.g., WiFi and WiMax applications).」(当審訳:レベリング回路460は、複数のアプリケーション(例えば、WiFiおよびWiMaxアプリケーション)間で電力の感度を均一化することができる。)から、該レベリング回路460は、上記調整済み結合信号を生成するために、トランジスタを制御して上記結合信号を処理しているといえる。
上記調整済み結合信号について、上記I.に記載の、「The output levels of the power detector 450 at detector output node Ndet would be approximately 0.3V-0.9V over the power ranges set forth in Table 1.」(当審訳:検出器出力ノードNdetにおける電力検出器450の出力レベルは、表1に示す電力範囲にわたって約0.3V-0.9Vである。)から、電力検出器450の出力レベルは約0.3V?0.9Vである。
レベリング回路は、複数のアプリケーション間で電力感度を均一化するものであるから、上記調整済み結合信号は、「電力検出器の出力レベルが0.3V?0.9Vの値となるように維持され」ているといえる。

上記ウ.で検討したとおり、WiMAXアプリケーションには制御信号Vcをハイとし、WiFiアプリケーションには制御信号Vcをローとすることで、これらアプリケーションによらず電力感度を均一化しているから、上記レベリング回路での上記結合信号から上記調整済み結合信号を生成する処理は、各々の通信規格に関連付けられた全てのRF信号間で適用されているといえる。

したがって、引用文献1には、“電力検出器の出力レベルが0.3V?0.9Vの値となるように維持される調整済み結合信号を生成するために、前記結合信号を処理していることと、前記処理は、前記各々の通信規格に関連付けられた全てのRF信号間で適用される”ことが記載されているといえる。

オ.上記ア.?エ.は一連の制御であるから、引用文献1には、上記ア.?エ.で構成される方法が記載されているといえる。

カ.上記ア.?オ.において検討した事項から、引用文献1には、次の発明(以下、これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。

「方法であって、
各々の通信規格に関連付けられたRF信号に基づいて結合信号を生成することと、
希望のネットワークアクセスポイントを決定することと、
前記希望のネットワークアクセスポイントに基づき選択された制御信号Vcに応じてレベリング回路が利得の増大または減少を行うことと、
電力検出器の出力レベルが0.3V?0.9Vの値となるように維持される調整済み結合信号を生成するために、前記結合信号を処理していることと、前記処理は、前記各々の通信規格に関連付けられた全てのRF信号間で適用される方法。」

(5)本願発明と引用発明との対比

ア.引用発明の「各々の通信規格」、「結合信号」、「調整済み結合信号」は、本願発明の「複数の送信技術」、「電力検出信号」、「調整済み電力検出信号」に、それぞれ相当する。

イ.引用発明の「RF信号」は、上記A.に記載されているように、異なる規格に基づいた通信のために、異なる電力レベルを含む異なる信号パラメータを有する信号であるから、本願発明の「送信信号電力」に相当する。

ウ.引用発明の「希望のネットワークアクセスポイント」は、WiFi又はWiMAXとすることが例示されているから、本願発明の「選択された送信技術」に相当する。

エ.引用発明の「レベリング回路」と本願発明の「可変減衰器」は、ともに、外部から送られる、送信技術に基づく信号により、電力検出信号を可変する制御を行っているから、可変制御器である点で共通し、選択された送信技術に基づき制御される点で一致している。

オ.引用発明の「調整済み結合信号」は「電力検出器の出力レベルが0.3V?0.9Vの値となるように維持」しており、該0.9Vは固定の上限値を示すから、レベリング回路から出力される調整済み電力検出信号は、前記0.9Vに対応する「固定された閾値以下の値に維持されている」といえる。

カ.上記ア.?イ.の検討をふまえると、引用発明のレベリング回路での処理と、本願発明の減衰係数を電力検出信号に適用することとは、”電力検出信号を処理することと、該処理は、選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用される”点で共通する。


キ.以上、上記ア.?カ.において検討したとおりであるから、本願発明と、引用発明との一致点、及び、相違点は、次のとおりである。

[一致点]

「方法であって、
複数の送信技術に関連付けられた送信信号電力に基づいて電力検出信号を生成することと、
前記選択された送信技術を決定することと、
前記選択された送信技術に基づき可変制御器が制御されることと、
固定された閾値以下の値に維持される調整済み電力検出信号を生成するために、電力検出信号を処理することと、該処理は選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用される方法。」


[相違点1]

“可変制御器”に関して、本願発明は「可変減衰器」であるのに対し、引用発明は「レベリング回路」である点。

[相違点2]

“可変制御器が制御されること”に関して、本願発明は「減衰係数を可変減衰器に設定する」のに対して、引用発明は「レベリング回路が利得の増大または減少を行う」点。

[相違点3]

“電力検出信号を処理することと、該処理は選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用される”に関して、本願発明は「前記選択された減衰係数を前記電力検出信号に適用することと、前記選択された減衰係数は、前記選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用される」のに対し、引用発明は「電力検出信号を処理することと、該処理は選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用される」点。


(6)相違点についての当審の判断

ア.[相違点1]、[相違点2]について
レベリング回路へ入力される電力検出信号の入力レベルは、カプラの特性に応じて決められることが技術常識である。引用発明のレベリング回路からの出力である、調整済み電力検出信号の出力レベルは、電力検出器の出力レベルが0.3V?0.9Vとなるように決められている。
そうすると、レベリング回路の入力レベルと出力レベルの大きさに応じて、該レベリング回路では利得を設定することになる。ここで、カプラと電力検出器のそれぞれの特性は適宜設定し得るから、上記レベリング回路を、送信技術がWiFi及びWiMAXの場合に、電力検出信号を減衰させて出力する信号を得る可変減衰器とすることは、当業者が容易になし得ることと認められる。

引用発明のレベリング回路は、異なる電力レベルの電力検出信号を入力とし、制御信号Vcにより、トランジスタやコンデンサに対するオン、オフ制御を行うことで、調整済み電力検出信号の電力感度を均一化している。そうすると、該制御信号Vcにより、レベリング回路の電気的な特性は変化しているといえ、上記オン、オフ制御により電気的な係数が設定されるといえる。ここで、レベリング回路を、上記したとおり可変減衰器とすれば、上記電気的な係数は減衰係数といえる。

よって、[相違点1]、[相違点2]は、格別のものではない。

イ.[相違点3]について

上記ア.で検討したとおり、レベリング回路を可変減衰器として、減衰係数を設定するから、該レベリング回路は選択された減衰係数を電力検出信号に適用しているといえる。
引用発明の制御信号Vcは、送信技術に応じて設定されるから、選択された減衰係数は、選択された送信技術に関連付けられた全ての送信信号電力間で適用されているといえる。
よって、[相違点3]は、格別のものではない。

ウ.以上、上記ア.?イ.において検討したとおり、[相違点1]?[相違点3]に係る本願発明の構成によってもたらされる効果も、当業者であれば容易に予測できる程度のものであって、格別なものとは認められない。

エ.審判請求書に記載の主張についての検討
審判請求書の【請求の理由】(1)において、審判請求人は、「引用文献において、power detector 250は、leveling circuit 260を制御していません。上記した補正は、引用文献のこのような特徴と本願の別紙手続補正書に示す補正後の請求項とをさらに区別することを助けることができます。
本願の補正後の請求項の特徴の1つの利点は、調整済み電力検出信号を受信する構成要素が、可変減衰器を設定し得るということです。
したがって、ダウンストリームコンポーネントの想定されたレンジに基づく引用文献に記載されている固定された(static)セッティングとは対照的に、検出受信機は、その動作要求(operating requirements)および/または検出受信機が実装されるトランシーバの動作要求に基づいて、必要に応じて調整し得ます。 」と主張しているから、該主張について検討する。
まず、補正後の請求項1の記載から、検出受信機は、「前記調整済み電力検出信号を受信し、前記選択された送信技術を決定し、前記選択された送信技術に基づき前記選択された減衰係数を前記可変減衰器に設定する」ものと解される。しかしながら、補正後の請求項1の記載において、前記「受信」することと、前記「設定」することとの関係は規定されていないから、「その動作要求(operating requirements)および/または検出受信機が実装されるトランシーバの動作要求に基づいて、必要に応じて調整し得」る根拠はない。
次に、当初明細書等の記載について検討する。
当初明細書等の【0020】には、「減衰コントローラ506は、検出受信機500が、図3に示された可変減衰器320のような可変減衰器に制御コマンドを通信できるように動作するハードウェアおよび/またはハードウェア実行ソフトウェアを備える。1つの例示的な実現において、減衰コントローラ506は、可変減衰器にハードワイヤード(hardwired)されており、可変減衰器の減衰係数(an attenuation factor)を設定するためのコマンドを通信する。減衰コントローラ506は、バス510を使用してプロセッサ502から命令を受信し、可変減衰器に出力されるべきコマンドを決定するためにこれらの命令を使用する。」と記載され、当初明細書等の【0026】?【0028】、図7には、「ブロック702において、データを送信するための選択された送信技術が決定される。例えば、プロセッサ502は、デバイスI/Oインターフェースを使用してワイヤレスデバイスから、決定された送信技術についての情報を受信する。」、「ブロック704において、選択された送信技術に関連付けられたパラメータが取得される。例えば、プロセッサ502は、パラメータを取得するためにメモリ504にアクセスする。例示的な実施形態において、パラメータは、1つ以上の送信技術に関連付けられた減衰セッティングを含む。」「ブロック706において、選択された可変減衰器は、選択されたレベルの減衰を提供するように設定される。例えば、プロセッサ502は、その減衰係数を設定するために、選択された減衰器にコマンドを送るように減衰コントローラ506を制御する。結果として、選択された減衰器は、選択された広域電力結合器(電力検出信号)の出力を、それの入力として受信し、選択された減衰量を提供し、調整済み電力検出信号を出力するだろう。」と記載されているから、検出受信機は、決定された送信技術についての情報を受信すると、減衰器コントローラ506を制御することで、減衰係数を設定しているものの、減衰係数の設定にあたっては、調整済み電力検出信号を用いていない。
さらに、当初明細書等の【0021】には、「減衰器受信機508は、バス510を使用してプロセッサ502から命令を受信し、受信された調整済み検出信号をどのように処理するかを決定するためにこれらの命令を使用する。例示的な実施形態において、調整済み検出信号は、バス510を使用してプロセッサ502に渡される。」と記載されており、当初明細書等の【0030】には、図7とともに、「ブロック712において、受信された調整済み電力検出信号は、自己較正を容易にするためにワイヤレスデバイスに送られる。例えば、プロセッサ502は、デバイスI/Oを使用して、受信された調整済み電力検出信号についての情報をワイヤレスデバイスに送る。」と記載されているから、検出受信機は、受信した調整済み電力検出信号をプロセッサ502により、ワイヤレスデバイスに送られるだけで、減衰器コントローラ506を制御していない。
そうすると、検出受信機500は、「前記調整済み電力検出信号を受信」することと、「前記選択された減衰係数を前記可変減衰器に設定する」こととの両方を行うものの、減衰係数の設定と、調整済み電力検出信号を受信しワイヤレスデバイスに送る制御とは、独立して行われていて、該調整済み電力検出信号を用いて減衰係数を設定していない。
また、電気回路は、受信した信号の利用の仕方により異なる機能となることは周知技術であるから、検出受信機に可変減衰器を設定する減衰器コントローラ506と、調整済み電力検出信号を受信する減衰器受信機508とがあるだけで、受信した調整済み電力検出信号を用いて減衰係数を設定するような関係は認定できない。さらに、審判請求人の主張する「構成要素」がワイヤレスデバイスであるとしても、該「受信」することと、「前記選択された送信技術に基づき前記選択された減衰係数を前記可変減衰器に設定する」こととの関係が記載されていないから、該「設定」に際して受信した該「調整済み電力検出信号」が関係していることは認定できない。
当初明細書等の全体の記載を見たが、上記主張の根拠となる記載は見当たらなかった。
したがって、上記主張は新規に追加した事項に基づく主張であるから、採用できない。

審判請求書の【請求の理由】(2)において主張する点は、上記(5)オ.で検討したとおりである。
審判請求書の【請求の理由】(3)において主張する点は、上記(5)オ.及び上記ア.[相違点1]、[相違点2]についてで検討したとおりである。


第5.むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-12 
結審通知日 2018-07-17 
審決日 2018-08-06 
出願番号 特願2015-118383(P2015-118383)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 561- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野元 久道  
特許庁審判長 吉田 隆之
特許庁審判官 宮下 誠
佐藤 実
発明の名称 可変結合係数を有するアンテナ電力結合器  
代理人 井関 守三  
代理人 福原 淑弘  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ