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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B60K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1347209
審判番号 不服2018-1705  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-07 
確定日 2019-01-15 
事件の表示 特願2014-107948「制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月14日出願公開、特開2015-223859、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月26日の出願であって、平成29年4月19日付け(発送日:同年4月25日)で拒絶理由通知がされ、同年6月12日に手続補正がされ、同年11月29日付け(発送日:同年12月5日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対して平成30年2月7日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされ、同年3月29日に前置報告がされ、同年6月6日に上申書が提出され、同年9月14日付け(発送日:同年9月18日)で当審より拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年11月1日に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年11月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について

請求項1ないし4に対して:引用文献1

●理由2(進歩性)について

請求項5に対して:引用文献1
請求項6に対して:引用文献1及び3

引用文献等一覧
1.特開2008-285125号公報(本審決の引用例1)
3.特開2004-147460号公報(本審決の引用例2)

第3 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成30年11月1日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
エンジンおよび少なくとも1つのモータジェネレータの駆動力にて走行するハイブリッド車両に適用され、
動力源であるエンジン(10)と、
前記エンジンに駆動されて発電可能なモータジェネレータ(11)と、
前記モータジェネレータと電力を授受し、充放電可能に構成される蓄電部(15)と、
前記エンジンによる熱生成が必要な暖房を含む空調部(20)と、
を備える車両制御システム(1)を制御する制御装置であって、
車両(90)が目的地に近づいたか否かを判定する近接判定手段(S102)と、
次回走行時に前記暖房を使用する暖房要求の有無を推定する空調要求推定手段(S103、S104)と、
前記車両が前記目的地に近づいたと判定され、かつ、前記暖房要求があると推定された場合、前記蓄電部の充電状態に係る充電目標値を、通常の前記充電目標値である通常目標値よりも小さい値である暖房要求時目標値に変更する充電目標変更手段(S105)と、
を備え、
次回走行の開始初期に前記暖房を使用する場合、前記エンジンの再始動後、走行負荷以上に前記エンジンの出力を高め、余剰の出力で前記モータジェネレータを駆動し、発電した電力を前記蓄電部に充電することを特徴とする制御装置。」

第4 引用例、引用発明等
1.引用例1について
原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-285125号公報(以下「引用例1」という。)には、「駆動源制御装置」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)
(1)「【0017】
図1は、本発明に係る駆動源制御装置の構成例を示すブロック図であり、駆動源制御装置1は、現走行終了時の目標バッテリ残量に応じてハイブリッド車両の駆動源(例えば、モータ6及びエンジン7である。)を制御する装置であって、CAN(Controller Area Bus)やLIN(Local Interconnect Network)等の車載LANを介して温度センサ2、測位装置3、記憶装置4、バッテリ5、モータ6及びエンジン7に接続される。」
(2)「【0026】
バッテリ5は、ハイブリッド車両が利用する電気エネルギーを蓄えるための装置であり、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池であって、ハイブリッド車両を駆動するモータ6やエアコン用のコンプレッサを駆動するモータ等に対して電気エネルギーを供給したり、エンジン7の回転力や回生ブレーキによりモータ6が発生させた電気エネルギーを充電したりする。また、バッテリ5は、高速充電や大容量放電が可能な電気二重層キャパシタであってもよい。」
(3)「【0036】
発電量予測手段13は、ハイブリッド車両の走行を開始させたときのエンジン停止不可期間における発電量を予測するための手段であり、例えば、空調制御量に基づいてエンジン停止不可期間における発電量を予測する。
【0037】
「エンジン停止不可期間」とは、諸事情によりエンジン7の駆動を停止させることができない期間であり、例えば、暖機運転期間、又は、所定のエンジン温度が車室内の暖房(エンジン7の表面で熱せられた空気を車室内に導入することで車室温を制御する暖房方法である。)のために必要とされる場合にエンジン温度をその所定のエンジン温度(以下、「最低エンジン温度」とする。)に上昇させるまでエンジン7を駆動させておく期間(以下、「暖房準備期間」とする。)がある。なお、暖房準備期間は、エンジン7を始動させた時のエンジン温度、暖房設定温度、エンジン回転数等に応じて変化する。」
(4)「【0039】
「空調制御量」とは、車室温を設定温度にするために要する空調の仕事量であり、例えば、次回走行の出発予定時刻に対応する推定エンジン温度と最低エンジン温度との間の差で表される。
【0040】
この場合、発電量予測手段13は、温度センサ2が測定し記憶装置4に記憶された過去の温度情報に基づいて、次回走行の出発予定時刻における各種温度を推定するようにしてもよく(例えば、季節的な温度変化に基づいて各種温度を推定したり、過去数日間の同じ時間帯の平均温度に基づいて各種温度を推定したりする。)、さらに、推定した各種温度を駐車位置に応じて調整するようにしてもよい(例えば、駐車位置の高度(標高)の違いによって各種温度が影響を受けるからである。)。
【0041】
また、発電量予測手段13は、空調制御量に基づいてエンジン停止不可期間の継続時間を算出し、算出した継続時間に基づいてエンジン停止不可期間における発電量を予測するようにしてもよい。空調制御量が大きい(推定エンジン温度と最低エンジン温度との間の温度差が大きい)とエンジン停止不可期間の継続時間が延び、エンジン停止不可期間の継続時間が延びると発電量も増大するからである。」
(5)「【0044】
目標バッテリ残量設定手段14は、現走行終了時の目標バッテリ残量を設定するための手段であり、例えば、バッテリ容量(満充電時のバッテリ残量である。)から発電量予測手段13が予測したエンジン停止不可期間における発電量を差し引いた値を目標バッテリ残量として算出し設定する。」
(6)「【0061】
以上の構成により、駆動源制御装置1は、次回走行時に暖房準備期間が設定される場合に現走行終了時のバッテリ残量のレベルを目標バッテリ残量のレベルまで予め低減させておき暖房準備期間において発電される電気エネルギーをバッテリ5に確実に充電できるようにすることで、暖房準備期間において発電される電気エネルギーを無駄に廃棄してしまうのを防止することができる。」
(7)上記(3)(特に、段落【0037】の記載事項)から、暖房はエンジンによる熱生成が必要であることが分かる。
(8)エンジン7、モータ6、バッテリ5及び空調装置は「車両制御システム」を構成するといえる。

上記記載事項及び認定事項並びに図1及び2の図示内容からみて、引用例1には次の発明が記載されていると認められる。
「エンジン7およびモータ6の駆動力にて走行するハイブリッド車両に適用され、
動力源であるエンジン7と、
前記エンジン7に駆動されて発電可能なモータ6と、
前記モータ6と電力を授受し、充放電可能に構成されるバッテリ5と、
前記エンジン7による熱生成が必要な暖房を含む空調装置と、
を備える車両制御システムを制御する駆動源制御装置1であって、
次回走行を開始させたときの暖房準備期間における発電量を予測し、当該予測結果に基づいて現走行終了時の目標バッテリ残量を設定する目標バッテリ残量設定手段14を備え、
次回走行時の暖房準備期間において発電される電気エネルギーをバッテリ5に充電する駆動源制御装置1。」(以下「引用発明」という。)

2.引用例2について
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-147460号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
車両に備えられたバッテリのバッテリ充電量を検出するバッテリ充電量検出手段と、
前記バッテリ充電量検出手段での検出結果に基づき、前記バッテリ充電量を充電量目標値に近づけるように、前記車両に備えられた発電機の発電量を制御する発電量制御手段と、
を備えて、前記バッテリの充電状態を制御する車両用電源制御装置であって、
前記発電量制御手段は、前記バッテリ充電量を前記バッテリの満充電容量よりも小さい走行時充電量目標値に近づけるように、発電量を制御しており、
出発地から目的地に至る走行経路の途中に設定された補正地点を前記車両が通過したか否かを判断する補正地点通過判断手段と、
前記補正地点通過判断手段により前記車両が前記補正地点を通過したと判断されると、前記バッテリ充電量を前記走行時充電量目標値よりも大きい駐車時充電量に補正する充電量補正手段と、
を備えることを特徴とする車両用電源制御装置。」
(2)「【請求項13】
前記補正地点は、前記目的地の周辺地点であること、
を特徴とする請求項1から請求項12のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項14】
前記車両の過去の運行履歴情報を取得し、取得した前記運行履歴情報に基づき前記目的地を予測する目的地予測手段を備えること、
を特徴とする請求項1から請求項13のいずれかに記載の車両用電源制御装置。」
(3)「【0035】
図1に、本実施例の車両用制御装置15が備えられる車両1の概略構成図を示しており、車両1は、エンジン21およびモータ11(発電電動機11)で駆動力を発生するいわゆるハイブリッド車である。
この車両1は、発電電動機11、交-直電力変換部12(以下、インバータ12ともいう)、バッテリ13、ITS機器14、車両各部の制御を行う車両用制御装置15(以下、コントローラ15ともいう)、電気負荷16?18、を備えて構成される。図1では、各部を接続する配線のうち、電力供給を行うための電力線を太線で示し、制御信号などを伝送するための信号線を細線で示す。」
(4)「【0038】
バッテリ13は、発電電動機11で発電された電力を蓄積すると共に、電気負荷16?18など車両1の各部に対して電力供給を行う。
なお、車両1は、前述のようにハイブリッド車であり、燃費改善を目的として、車両の減速時に減速エネルギを発電機で電気に変換して回収する方式が採用されており、その回生エネルギをバッテリ13に充電するよう構成されている。このため、車両走行時のバッテリ13は、回生エネルギを充電するための空き容量を確保するために、充電量が満充電容量よりも少ない中間状態(走行時充電量)になるように制御されている。なお、コントローラ15において実行される後述する発電量制御処理が、走行時のバッテリ13の充電量を制御している。」
(5)「【0044】
なお、本実施例では、検出電圧から充電量を求める方法を採用しているが、電圧と電流から充電量を求める公知技術を利用することも可能である。
また、コントローラ15では、バッテリ充電量検出処理での検出結果に基づき、バッテリ13のバッテリ充電量を充電量目標値(SOC(State Of Charge )目標値)の範囲(例えば、50?70%)に入るように、発電電動機11の発電量を制御する発電量制御処理を実行している。
【0045】
次に、バッテリ13のバッテリ充電量を補正制御するためにコントローラ15の内部処理として実行される電源補正制御処理について説明する。なお、電源御処理は、一定周期毎(例えば、5[min]周期毎)に繰り返し実行されており、図2に電源補正制御処理の処理内容を表すフローチャートを示す。」
(6)「【0050】
S230で肯定判定されてS240に移行すると、S240では、常用駐車場を後述するS120での処理に用いる目的地に設定する処理を行う。
S230で否定判定されてS250に移行すると、S250では、コントローラ15に備えられる記憶部(メモリやハードディスクなど)から車両の過去の運行履歴情報を取得し、取得した運行履歴情報に基づき予測した目的地を、現在の目的地として設定する処理を行う。つまり、過去の運行履歴情報の中から、現在の運行状況(走行経路や曜日、時刻などの状況)とマッチングする(略同等となる)運行履歴情報を抽出して、そのときの目的地が現在の目的地であると予測すると共に、予測した目的地を後述するS120での処理に用いる目的地に設定する処理を行う。」
(7)「【0053】
次に、電源補正制御処理のS112では、前述の目的地検出処理において目的地が設定されたか否かを判断しており、肯定判定される場合(目的地が設定されている場合)にはS120に移行し、否定判定される場合(目的地が設定されていない場合)にはS114に移行する。」
(8)「【0055】
S112で肯定判定されてS120に移行すると、S120では、車両の現在位置が目的地周辺であるか否かを判断しており、肯定判定された場合にはS130に移行し、否定判定された場合にはS122に移行する。このとき、車両の現在位置は、ITS機器14から取得し、目的地は前述の目的地検出処理で設定された目的地を用いる。
【0056】
なお、目的地周辺とは、目的地からの距離が数km程度までの範囲内に含まれる地域、あるいは目的地までの移動所要時間が所定時間(例えば、10分程度)以内の地域を意味している。そして、目的地周辺の地域(領域)を表す境界線(境界地点)は、特許請求の範囲に記載の補正地点に相当するものであり、出発地から目的地に至る走行経路の途中に設定されている。なお、補正地点は、目的地までの移動所要時間が、バッテリ13のバッテリ充電量を走行時充電量目標値から後述する駐車時充電量に増加させるのに必要な時間と等しくなるような目的地の周辺地点である。」
(9)「【0058】
S120で肯定判定されてS130に移行すると、S130では、サブルーチンとしての負荷制御処理を起動することで、電気負荷での電力消費量を低減する処理を行う。負荷制御処理の処理内容を表すフローチャートを、図4(a)に示す。」
(10)「【0069】
負荷制御処理が終了すると、再び処理が電源補正制御処理に移行し、S140が実行される。
S140では、サブルーチンとしての駐車期間予測処理を起動することで、目的地における駐車期間を予測する処理を行う。駐車期間予測処理の処理内容を表すフローチャートを、図5に示す。」
(11)「【0077】
なお、駐車予測期間Tpは、特許請求の範囲に記載の車両利用休止期間に相当する。
S470での処理が終了すると、駐車時間予測処理が終了し、再び処理が電源補正制御処理に移行する。
【0078】
次のS150では、ITS機器14に記録されている現在の日付と、車両1の外部に備えられる温度センサで検出される外気温を読み込む処理を行う。
続くS160では、上述した発電量制御処理で用いられる充電量目標値(SOC(State Of Charge )目標値)を、走行時充電量目標値よりも大きい駐車時充電量に補正する処理を行う。このように充電量目標値を増加補正することで、発電量制御処理により制御される発電電動機11の発電量が増大し、バッテリ13のバッテリ充電量が増加補正される。
【0079】
なお、S160では、S140の駐車期間予測処理により設定された駐車予測期間Tp、S150で読み込まれた現在の日付および外気温、および駐車期間中における単位時間当たりのバッテリ平均放電電力に応じて、駐車時充電量を設定している。具体的には、まず、駐車予測期間Tpに対してバッテリ平均放電電力を乗算して基準電力量を算出し、算出した基準電力量を現在の日付および外気温に応じて補正することで、駐車時充電量を設定している。このとき、現在の日付から判断される季節が冬の場合には駐車時充電量を増加補正し、季節が夏の場合には駐車時充電量を減少補正し、また、外気温が低くなるほど駐車時充電量を増加補正し、外気温が高くなるほど駐車時充電量を減少補正して、最終的な駐車時充電量を設定する。」

上記記載事項並びに図1ないし5の図示内容からみて、引用例2には次の技術が記載されていると認められる。
「エンジン21および発電電動機11で駆動力を発生するハイブリッド車両において、バッテリ充電量を前記バッテリ13の満充電容量よりも小さい走行時充電量目標値に近づけるように、発電量を制御しており、前記車両が目的地周辺に到ったか否かを判断し、前記車両が目的地周辺に到ったと判断されると、前記バッテリ充電量を前記走行時充電量目標値よりも大きい駐車時充電量に補正する技術。」(以下「引用例2技術A」という。)
「車両の過去の運行履歴情報を取得し、取得した運行履歴情報に基づき車両の目的地を予測する技術。」(以下「引用例2技術B」という。)

3.その他の文献について
前置報告書において新たに引用された特開2010-195362号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)「【0062】
ステップS11では、ステップS10での暖房要求によるエンジン運転始動との判断に続き、エンジン出力に上乗せする発電量を演算し、ステップS12へ進む。この発電量は、暖房要求を満足するに必要と思われるエンジン運転予測時間と、充電可能なSOC量(充電量上限値と負荷運転開始時バッテリSOC量との差値)に基づき、車両トータルとしての燃費効率が最高になる量である。なお、発電量を上乗せしすぎることによるエンジンこもり音領域になる程度までは上乗せせず、他性能へは影響を与えないようにする。
【0063】
ステップS12では、ステップS11で演算した発電量と暖房性能とを実現する出力トルクでエンジン運転を行い、発電と暖房とを両立するいわゆる負荷運転を開始する。」

上記記載事項並びに図7A及び7Bの図示内容からみて、引用例3には次の技術が記載されていると認められる。
「暖房要求によるエンジン運転始動との判断がなされると、エンジン出力に上乗せする発電量を演算し、該発電量は、暖房要求を満足するに必要と思われるエンジン運転予測時間と、充電可能なSOC量(充電量上限値と負荷運転開始時バッテリSOC量との差値)に基づき、車両トータルとしての燃費効率が最高になる量であり、該発電量と暖房性能とを実現する出力トルクでエンジン運転を行い、発電と暖房とを両立する負荷運転を開始する技術。」(以下「引用例3技術」という。)

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジン7」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明の「エンジン(10)」に相当し、以下同様に、「モータ6」は「モータジェネレータ(11)」に、「バッテリ5」は「蓄電部(15)」に、「空調装置」は「空調部(20)」に、「駆動源制御装置1」は「制御装置」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「次回走行を開始させたときの暖房準備期間における発電量を予測し、当該予測結果に基づいて現走行終了時の目標バッテリ残量を設定する目標バッテリ残量設定手段14を備え」と、本願発明における「車両(90)が目的地に近づいたか否かを判定する近接判定手段(S102)と、次回走行時に前記暖房を使用する暖房要求の有無を推定する空調要求推定手段(S103、S104)と、前記車両が前記目的地に近づいたと判定され、かつ、前記暖房要求があると推定された場合、前記蓄電部の充電状態に係る充電目標値を、通常の前記充電目標値である通常目標値よりも小さい値である暖房要求時目標値に変更する充電目標変更手段(S105)と、を備え」とは、「蓄電部の充電状態に係る充電目標値を変更する充電目標変更手段を備え」という限りにおいて一致している。
また、引用発明における「次回走行時の暖房準備期間において発電される電気エネルギーをバッテリ5に充電する」と、本願発明における「次回走行の開始初期に前記暖房を使用する場合、前記エンジンの再始動後、走行負荷以上に前記エンジンの出力を高め、余剰の出力で前記モータジェネレータを駆動し、発電した電力を前記蓄電部に充電する」とは、「次回走行において前記暖房を使用する場合、発電した電力を前記蓄電部に充電する」という限りにおいて一致している。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
エンジンおよび少なくとも1つのモータジェネレータの駆動力にて走行するハイブリッド車両に適用され、
動力源であるエンジンと、
前記エンジンに駆動されて発電可能なモータジェネレータと、
前記モータジェネレータと電力を授受し、充放電可能に構成される蓄電部と、
前記エンジンによる熱生成が必要な暖房を含む空調部と、
を備える車両制御システムを制御する制御装置であって、
前記蓄電部の充電状態に係る充電目標値を変更する充電目標変更手段を備え、
次回走行時において前記暖房を使用する場合、発電した電力を前記蓄電部に充電する制御装置。」

[相違点1]
「前記蓄電部の充電状態に係る充電目標値を変更する充電目標変更手段を備え」に関して、本願発明においては、「車両(90)が目的地に近づいたか否かを判定する近接判定手段(S102)と、次回走行時に前記暖房を使用する暖房要求の有無を推定する空調要求推定手段(S103、S104)と、前記車両が前記目的地に近づいたと判定され、かつ、前記暖房要求があると推定された場合、前記蓄電部の充電状態に係る充電目標値を、通常の前記充電目標値である通常目標値よりも小さい値である暖房要求時目標値に変更する充電目標変更手段(S105)と、を備え」たものであるのに対して、引用発明においては、「次回走行を開始させたときの暖房準備期間における発電量を予測し、当該予測結果に基づいて現走行終了時の目標バッテリ残量を設定する目標バッテリ残量設定手段14を備え」たものである点。
[相違点2]
「次回走行時において前記暖房を使用する場合、発電した電力を前記蓄電部に充電する」に関して、本願発明においては、「次回走行の開始初期に前記暖房を使用する場合、前記エンジンの再始動後、走行負荷以上に前記エンジンの出力を高め、余剰の出力で前記モータジェネレータを駆動し」、発電した電力を前記蓄電部に充電するものであるのに対して、引用発明においては、「次回走行時の暖房準備期間において発電される電気エネルギーをバッテリ5に充電する」ものである点。

上記相違点1について検討する。
引用例1の段落【0060】には「駆動源制御装置1は、例えば、目標バッテリ残量と現在のバッテリ残量とから余剰のバッテリ残量を使い切るために必要なモータ6による走行距離(以下、「バッテリ残量調整距離」とする。)、又は、余剰のバッテリ残量を使い切るために必要なモータ6の駆動時間(以下、「バッテリ残量調整時間」とする。)を導き出し、駆動源制御手段12により、現走行の目的地への到着予定時刻からバッテリ残量調整時間だけ前にモータ走行を開始させるようにし、或いは、現走行の目的地と現在位置との間の距離がバッテリ残量距離未満となった場合にモータ走行を開始させるようにしてもよい。」との記載がある。
該記載によれば、「現走行の目的地への到着予定時刻からバッテリ残量調整時間だけ前にモータ走行を開始させる」、或いは、「現走行の目的地と現在位置との間の距離がバッテリ残量距離未満となった場合にモータ走行を開始させる」ためには、それよりも前の時点で目標バッテリ残量を設定(変更)しておかなければならないから、該記載は、本願発明における「車両が前記目的地に近づいたと判定され」た場合に、「蓄電部の充電状態に係る充電目標値を」「変更する」という事項を開示ないし示唆するものではない。
したがって、引用発明に、引用例1の段落【0060】の記載を参酌しても、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることはできない。
また、引用例2技術A、引用例2技術B及び引用例3技術は、上記のとおりであるから、本願発明の「車両が目的地に近づいたか否かを判定する近接判定手段」及び「次回走行時に暖房を使用する暖房要求の有無を推定する空調要求推定手段」並びに「車両が目的地に近づいたと判定され、かつ、暖房要求があると推定された場合、蓄電部の充電状態に係る充電目標値を、通常の前記充電目標値である通常目標値よりも小さい値である暖房要求時目標値に変更する充電目標変更手段」を開示ないし示唆するものではない。
そうすると、引用発明に、引用例2技術A、引用例2技術B及び引用例3技術を適用しても、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることはできない。

上記相違点2について検討する。
引用例2技術A、引用例2技術B及び引用例3技術は、上記のとおりであるから、本願発明の「次回走行の開始初期に暖房を使用する場合、エンジンの再始動後、走行負荷以上にエンジンの出力を高め、余剰の出力で前記モータジェネレータを駆動」するという技術を開示ないし示唆するものではない。
そうすると、引用発明に、引用例2技術A、引用例2技術B及び引用例3技術を適用しても、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることはできない。

したがって、本願発明は、引用発明、引用例2技術A、引用例2技術B及び引用例3技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、平成29年4月19日付けの拒絶理由通知において引用された特開2011-182587号公報も、上記相違点1及び2に係る本願発明の構成について開示ないし示唆するものではないから、当該文献を参酌しても、本願発明は、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

第6 原査定について
本願発明は、「車両(90)が目的地に近づいたか否かを判定する近接判定手段(S102)と、次回走行時に前記暖房を使用する暖房要求の有無を推定する空調要求推定手段(S103、S104)と、前記車両が前記目的地に近づいたと判定され、かつ、前記暖房要求があると推定された場合、前記蓄電部の充電状態に係る充電目標値を、通常の前記充電目標値である通常目標値よりも小さい値である暖房要求時目標値に変更する充電目標変更手段(S105)と、を備え、次回走行の開始初期に前記暖房を使用する場合、前記エンジンの再始動後、走行負荷以上に前記エンジンの出力を高め、余剰の出力で前記モータジェネレータを駆動し、発電した電力を前記蓄電部に充電する」という発明特定事項を有するものであるから、上記「第5」で検討したとおり、当業者であっても原査定で引用された引用例1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 当審拒絶理由について
当審では、特許法第36条第6項第1号違反の拒絶理由として、概略次の二点を指摘した。
(1)請求項1ないし6においては、暖房の熱源が特定されておらず、発明の課題を解決できないものを含んでいる。
(2)本願の発明の詳細な説明に記載されたものは、エンジンおよびモータジェネレータの駆動力にて走行するハイブリッド車両が前提であると認められるところ、請求項1ないし6においては、モータジェネレータの駆動力にて走行する旨が特定されていない。
しかしながら、これらの点は、平成30年11月1日の手続補正により、補正前の請求項1に対して「エンジンおよび少なくとも1つのモータジェネレータの駆動力にて走行するハイブリッド車両に適用され、」という事項が追加され、「暖房」について、「前記エンジンによる熱生成が必要な」という限定が付加される補正がされた結果、上記拒絶理由は解消した。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-25 
出願番号 特願2014-107948(P2014-107948)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B60K)
P 1 8・ 113- WY (B60K)
P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神山 貴行  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
粟倉 裕二
発明の名称 制御装置  
代理人 服部 雅紀  

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