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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07C
管理番号 1347308
審判番号 不服2018-4954  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-11 
確定日 2019-01-08 
事件の表示 特願2016-504752「1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物を調製するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 2日国際公開、WO2014/155118、平成28年 5月23日国内公表、特表2016-514730、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年3月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年3月27日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成29年 8月25日付け 拒絶理由通知
同年11月27日 意見書・手続補正書の提出
同年12月 5日付け 拒絶査定
平成30年 4月11日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書の提 出
同年11月 5日 上申書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成29年12月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

そして、平成29年11月27日付けの手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1?5について下記引用文献1?5を、同請求項6?10について下記引用文献1?6を引用している。
(なお、上記請求項2?10は、平成30年4月11日付けの手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1?9に実質的に対応する。)

引用文献1 特開2010-116349号公報
引用文献2 特公平06-011648号公報
引用文献3 特開2004-315375号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4 特開2011-246429号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5 特開2011-051976号公報
引用文献6 特表2012-520263号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成30年4月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのもの(以下、「本願発明1」等という。)であると認める。

「 【請求項1】
(a)1-アダマンチルジメチルアミンをジメチルカーボネートと反応させて1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートを製造することであって、ジメチルカーボネート:1-アダマンチルジメチルアミンのモル比が3から5の範囲である、製造すること、及び
(b)1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートを水の存在下で水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムと反応させて、1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物を製造することであって、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウム:1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートのモル比が1.05から1.75の範囲である、製造すること、
を含む1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物を調製するための方法。
【請求項2】
水の存在下での1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートと水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムとの反応が還流で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1-アダマンチルジメチルアミンとジメチルカーボネートとの反応が120-160℃の範囲の温度で実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートが水酸化カルシウムと反応する、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
1-アダマンチルジメチルアミンが1-アダマンチルアミン塩酸塩、ホルムアルデヒド、ギ酸、及び1-アダマンチルジメチルアミンを製造するための無機塩基を反応させることにより製造される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法であって、ホルムアルデヒド:1-アダマンチルアミン塩酸塩のモル比が2.1から2.4の範囲であり、ギ酸:1-アダマンチルアミン塩酸塩のモル比が2.3から2.7の範囲である、方法。
【請求項6】
前記無機塩基が第I族金属の水酸化物、炭酸塩又は重炭酸塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記無機塩基が水酸化ナトリウムである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
1-アダマンチルアミン塩酸塩、ホルムアルデヒド、ギ酸、及び無機塩基の反応が1-アダマンチルアミン塩酸塩とギ酸を混合し、続いて無機塩基の添加、次いで、ホルムアルデヒドを加えることにより実施される、請求項5から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートが水酸化カルシウムと反応する、請求項5から8の何れか一項に記載の方法。」

第4 引用例の記載及び引用発明
1 引用例の記載事項
引用文献1?6には、以下の事項が記載されている。

引用文献1:
1a)「【請求項1】
下記式(1)
【化1】

で表されるN,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネート。」

1b)「【0001】
本発明はN,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートに関する。N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートは、ゼオライトを製造する際の鋳型化合物として有用な新規な化合物である。」

1c)「【0003】
ゼオライトを製造するための鋳型化合物として、アダマンタン化合物を使用することは公知である。
・・・
【0007】
しかしながら、これら従来の製法では、原料の1-アミノアダマンタン及び反応試薬として用いられるメチルヨウ化物が高価なため、得られるN,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヨウ化物や、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウム水酸化物をゼオライト製造用の工業的な原料として用いることは、経済的に不利である。
【0008】
したがって、工業的にゼオライトを製造する際の鋳型化合物として、簡便な製法を用いて高収率で容易に得られるN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム塩が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、工業的にゼオライトを製造する際の鋳型化合物として、簡便な製法を用いて容易に得られるN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム塩を提供することである。
・・・
【0011】
本発明者らは前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、N,N,-ジメチル-1-アミノアダマンタンと炭酸ジメチルから、新規なN,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートを合成することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記式(1)で表されるN,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウム塩は、簡便な製法を用いて容易に得ることができるため、本発明は工業的に極めて有用である。」

1d)「【0028】
実施例1.
攪拌子を入れたステンレス製の30ml簡易耐圧容器に、N,N,-ジメチル-1-アミノアダマンタン3.59g(20mmol)、炭酸ジメチル5.40g(60mmol)、メタノール2.92gを入れ、反応器内を窒素で置換した。反応器を密閉後、オイルバスに漬けて加熱攪拌し145℃まで昇温し、続けて同条件で10時間反応を行った。反応終了後に反応器を室温まで冷却し、得られた液をエバポレーターで減圧し、未反応の炭酸ジメチル、溶媒のメタノールを留去した。この時に得られた結晶は、白色の粉体結晶であり、収量は5.30gであった。生成物について、核磁気共鳴スペクトル(NMR)分析、質量スペクトル、元素分析、及び赤外吸収スペクトル(IR)分析を行った。その結果を以下に示す。
【0029】
NMR分析:^(1)H-NMR(CDCl_(3)) δ(ppm):3.52(s,3H)、3.27(s,9H)、3.36(s,3H)、2.05-2.07(d,6H)、1.71(m,6H)。
^(13)C-NMR(CDCl_(3)) δ(ppm):158.2,71.6,52.3,47.4,47.3,35.1,34.8,30.0。
【0030】
液体クロマトグラフィーによる質量分析 ESI法 (m/e):N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウム骨格の分子量 194.191(M+)。
【0031】
元素分析(測定値):C67.6,H10.3,N5.2
(理論値 :C66.9,H10.1,N5.2)。
【0032】
生成物のNMR分析を行った結果、N,N,-ジメチル-1-アミノアダマンタンを含有しておらず、転化率は100%であった。生成物の^(1)H-NMRの測定結果を図1に示し、^(13)C-NMRの測定結果を図2にを示す。また、生成物の液体クロマトグラフィーによる質量スペクトルを測定したところ、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウム骨格の分子量(M+=194.191)が確認された。これらと元素分析の結果も本化合物の構造を支持しており、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートが98.4%の収率で得られたことを確認した。」

引用文献2:
2a)「【請求項7】合成のままかつ無水状態で、酸化物モル比で表わして;
(0.1?3.0)Q_(2)O:
(0.1?2.0)M_(2)O:W_(2)O_(3):(50より大)YO_(2)
ここで、Mはアルカリ金属陽イオン、Wはアルミニウム、ガリウム、鉄、ホウ素およびその混合物から選んだもの、Yはシリコン、ゲルマニウムおよびその混合物から選んだもの、Qはアダマンテーン第4級アンモニウムイオンである;
の組成を持ち、第1表のX線回折線を有するゼオライト。
・・・
【請求項13】アダマンテーン第4級アンモニウムイオンは、式

(式中、Y_(1)、Y_(2)およびY_(3)はそれぞれ独立して低級アルキル、Aはゼオライトの形成に有害でない陰イオン、R_(1)、R_(2)およびR_(3)はそれぞれ独立して水素又は低級アルキルである);および
・・・
のアダマンテーン化合物から誘導される、特許請求の範囲第(7)項に記載のゼオライト。」(特許請求の範囲)

2b)「結晶質アルミノ硅酸塩は通常アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物、シリカおよびアルミナを含有する水性反応混合物から作る。「窒素ゼオライト」は有機鋳型剤、通常窒素含有有機陽イオンを含む反応混合物から作つてきた。・・・N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタミンをゼオライトSSZ-13の分子ふるいの作製に使用することは米国特許第4,544,538号明細書に発表されている。」(3頁左欄38行?右欄15行)

2c)「A○-(審決注:原文はAの右肩に○の中の-)はゼオライトの形成に有害でない陰イオンである。陰イオンの典型としてハロゲン、たとえばフツ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物、水酸化物、酢酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩などがある。水酸化物は最も好ましい陰イオンである。たとえば、ハロゲン化物を水酸化物イオンでイオン交換し、それによつてアルカリ金属水酸化物の必要量を減らし、あるいはなしとすることが有利であることがある。」(5頁左欄30?37行)

引用文献3:
3a)「【0002】
【従来の技術】
従来、水酸化テトラアルキルアンモニウムは、テトラアルキルアンモニウムハライドやテトラアルキルアンモニウム炭酸塩などの複分解、即ちテトラアルキルアンモニウム塩の水溶液に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の無機塩基を作用させ、水酸化テトラアルキルアンモニウムとハロゲン化ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの無機塩とし、これらから無機塩を除去することにより製造するか、又はテトラアルキルアンモニウム塩の電解により製造されている。」

引用文献4:
4a)「【請求項1】
下記の工程A及びBを順次含むことを特徴とするアダマンチル基を有する第4級アンモニウム塩の製造方法。
工程A:比誘電率が10.0?20.0である溶媒aに溶解した塩酸アマンタジン〔下記式(1-1)〕と水酸化アルカリ金属との反応物を、ギ酸、並びに、ホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドと反応させる工程、
溶媒aに溶解した1-アミノアダマンタン〔下記式(1-2)〕を、ギ酸、並びに、ホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドと反応させる工程、
1-ハロゲノアダマンタン〔下記式(1-3)〕とジメチルアミンを反応させる工程
から選ばれる1-アダマンタンジメチルアミン〔下記式(2)〕の製造工程、
工程B:溶媒bに溶解した工程Aで得られた1-アダマンタンジメチルアミン〔下記式(2)〕とハロゲン化メチルを反応させる1-アダマンタントリメチルアンモニウムハロゲン塩〔下記式(3)〕の製造工程。
【化1】



4b)「【0030】
[工程C]
工程Cは、下記反応式で表される工程であり、溶媒cに溶解した、工程Bで得られた1-アダマンタントリメチルアンモニウムハロゲン塩〔下記式(3)〕を、イオン交換する1-アダマンタントリメチルアンモニウムOH塩(1-アダマンタントリメチルアンモニウムヒドロキシド)〔下記式(4)〕の製造工程である。
【0031】
【化5】

【0032】
イオン交換の方法としては、1-アダマンタントリメチルアンモニウムハロゲン塩の溶液中に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ塩を添加し、析出するアルカリ金属のハロゲン化物を除去する方法、あるいはOH形陰イオン交換樹脂と接触させる方法等がある。
【0033】
水酸化アルカリ塩を使用する場合、1-アダマンタントリメチルアンモニウムハロゲン塩を溶媒cに溶解させた中に、例えば、水酸化カリウムをそのまま、或いは水酸化カリウムの溶媒cの溶液を、1-アダマンタントリメチルアンモニウムハロゲン塩の0.8?5モル倍量添加し、析出する中性無機塩をろ過により除去した後得られた溶液より1-アダマンタントリメチルアンモニウムOH塩を得ることができる。
溶媒cとしては、1-アダマンタントリメチルアンモニウムハロゲン塩や1-アダマンタントリメチルアンモニウムOH塩の溶解度は高いが、中性無機塩の溶解度が低いものが好ましく、例えば、水及び/又はアルコールが用いられる。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n-プロパノール,2-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール及びそれらの混合物等が挙げられる。」

引用文献5:
5a)「【0017】
式(1)中、R^(1)は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、又はハロゲン原子であり、nは0?4の整数であり、・・・
【0044】
・・・
(工程C)
工程Cは、下記反応式で表される工程であり、溶媒cに溶解した第4級アンモニウムハロゲン塩〔下記式(5)〕をイオン交換して第4級アンモニウムOH塩〔下記式(6)〕とする工程である。
【0045】
【化3】

【0046】
イオン交換の方法としては、第4級アンモニウムハロゲン塩(5)の溶液中に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属を添加し、析出するアルカリ金属のハロゲン化物を除去する方法、あるいはOH形塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる方法等がある。
【0047】
水酸化アルカリ金属を使用する場合、第4級アンモニウムハロゲン塩(5)を溶媒cに溶解させた中に、例えば、水酸化カリウムをそのまま、あるいは、水酸化カリウムを溶媒cに溶解させた溶液を、第4級アンモニウムハロゲン塩の0.8?5モル倍量添加し、析出する中性無機塩をろ過により除去した後、得られた溶液より第4級アンモニウムOH塩(6)を得ることができる。
溶媒cとしては、第4級アンモニウムハロゲン塩(5)や第4級アンモニウムOH塩(6)の溶解度は高いが、中性無機塩の溶解度が低いものが好ましく、例えば、水及び/又はアルコール系溶媒が用いられる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール及びそれらの混合物等が挙げられる。」

5b)「【0060】
[実施例5]:工程A,B及びD
300mLの三口フラスコに、実施例1で得られた1-アミノアダマンタン15g(99.2mmol)、1-ブタノール50mLを加えた。50℃に昇温した後、97質量%ギ酸水溶液23g(483mmol)をゆっくり滴下した。攪拌しながら、37質量%ホルムアルデヒド水溶液48g(591mmol)を30分かけて滴下した。滴下終了後80℃まで昇温し、3時間反応を行なった。反応液を冷却し、50質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10に調整した。酢酸エチル20gを加え、有機相を分取した。
300mLの三口フラスコに、分取した1-アダマンチルジメチルアミン含有の有機層を加え、0℃まで冷却した。氷冷下、攪拌しながら臭化メチル9.42g(99.2mmol)を4時間かけて添加した。添加終了後、5時間反応させた。反応液を冷却した後、固形分をろ別し、さらにアセトンで洗浄後、乾燥して目的物であるアダマンチルトリメチルアンモニウムブロマイドを25.3g(収率93mol%、白色粉体)得た。
また、得られたアダマンチルトリメチルアンモニウムブロマイドは、高速液体クロマトクラフィー(HPLC-RI法)分析によって、純度99%であった。」

引用文献6:
6a)「【請求項3】
1-アダマンチルジメチルアミンの準備のために、1-アダマンチルアンモニウム塩酸塩から出発する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
1-アダマンチルアンモニウム塩酸塩をまず、水性の塩基との反応によって1-アダマンチルアミンに変換する、請求項3記載の方法。」

2 引用発明
引用文献1には、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートの発明が記載されているところ(摘示1a)、当該化合物の具体的な製造方法が実施例1として記載されている(摘示1d)。
したがって、当該実施例1の記載からみて、引用文献1には、

「N,N,-ジメチル-1-アミノアダマンタン3.59g(20mmol)と炭酸ジメチル5.40g(60mmol)を反応させて、収量5.30gでN,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートを製造する方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明1の「N,N,-ジメチル-1-アミノアダマンタン」、「炭酸ジメチル」、「N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネート」は、それぞれ、本願発明1の「1-アダマンチルジメチルアミン」、「ジメチルカーボネート」、「1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネート」に相当する。
また、引用発明1において、N,N,-ジメチル-1-アミノアダマンタン、炭酸ジメチルを、それぞれ、20mmol、60mmol用いており、それらのモル比は3であり、このモル比は、本願発明1の「3から5の範囲」に該当する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、
「(a)1-アダマンチルジメチルアミンをジメチルカーボネートと反応させて1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートを製造することであって、ジメチルカーボネート:1-アダマンチルジメチルアミンのモル比が3から5の範囲である、製造すること」である点で一致し、以下の点で相違する。

本願発明1が、上記(a)「及び(b)1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートを水の存在下で水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムと反応させて、1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物を製造することであって、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウム:1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートのモル比が1.05から1.75の範囲である、製造すること、
を含む1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物を調製するための方法。」と特定するのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。

上記相違点について検討する。
引用文献1には、ゼオライトを製造するための鋳型化合物として用いるアダマンタン化合物について、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヨウ化物や、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウム水酸化物を用いることは経済的に不利であること、工業的にゼオライトを製造する際の鋳型化合物として、簡便な製法を用いて高収率で容易に得られるN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム塩が望まれており、そのような背景技術に鑑みて、工業的にゼオライトを製造する際の鋳型化合物として、簡便な製法を用いて容易に得られるN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム塩を提供することを課題として、特定の原料を用いることでN,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートを合成することができることを見出した旨が記載されており(摘示1c)、これらの記載からみて、引用発明におけるN,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートは、工業的にゼオライトを製造する際の鋳型化合物として用いるものとして記載されているものであって、それを原料としてさらに他のN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム塩とすることが、引用文献1に記載ないし示唆されているとはいえない。
特に、簡便な製法を用いて容易に得られるN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム塩を提供することを課題とすることからみて、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム塩の具体例である引用発明におけるN,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートを原料としてさらに他のN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム塩とすることは引用文献1において示唆されているとはいえない。
また、引用文献3?5については、1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートを水の存在下で水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムと反応させて、1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物とすることを具体的に記載ないし示唆するものではない。
したがって、たとえ引用文献2に、ゼオライトの製造において用いるアダマンテーン第4級アンモニウムイオンの好ましい陰イオンが水酸化物であることが記載され、引用文献3?5に、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムメチルカーボネートとは異なる化合物である第4級アンモニウム塩を水の存在下で水酸化カルシウム等に作用させて水酸化物とすることが記載されていても、引用発明の方法に加えてさらに、上記相違点に係る「(b)1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートを水の存在下で水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムと反応させて、1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物を製造することであって、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウム:1-アダマンチルトリメチルアンモニウムメチルカーボネートのモル比が1.05から1.75の範囲である、製造すること、を含む1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物を調製するための方法」とすることが当業者が容易になし得る事項であるとはいえない。
したがって、本願発明1は引用文献1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2?4について
本願発明2?4はいずれも本願発明1を引用し、本願発明1を技術的に特定するものである。したがって、本願発明1が引用文献1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本願発明2?4は引用文献1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明5について
本願発明5は、本願発明1?4について、工程(a)の原料である、1-アダマンチルジメチルアミンの製造についての特定がされたものであるところ、引用文献6に記載されている事項は、当該1-アダマンチルジメチルアミンの製造に関するものであり、上記1で示した相違点に関するものではないから(なお、引用文献6には、1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物の製造方法に関する記載もあるが、本願発明5の方法を記載、示唆するものとはいえない。)、引用発明との対比において当該相違点を有する本願発明5についても、本願発明1と同様の理由により、引用文献1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本願発明6?9について
本願発明6?9はいずれも本願発明5を引用し、本願発明5を技術的に特定するものである。したがって、本願発明5が引用文献1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本願発明6?9は引用文献1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1?9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできず、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-18 
出願番号 特願2016-504752(P2016-504752)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C07C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 瀬下 浩一
冨永 保
発明の名称 1-アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物を調製するための方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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