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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1347370
審判番号 不服2017-5154  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-11 
確定日 2018-12-25 
事件の表示 特願2015-563155「ロケーションベースのサービスのための真のロケーションを曖昧化すること」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日国際公開、WO2015/002987、平成28年11月10日国内公表、特表2016-535327〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)7月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年(平成25年)7月2日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年6月1日付け 拒絶理由通知書
平成28年11月7日 意見書、手続補正書の提出
平成28年12月6日付け 拒絶査定
平成29年4月11日 拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提出

第2 平成29年4月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年4月11日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「 クライアントデバイスの真のロケーションを曖昧化するための方法であって、
クライアントデバイスの処理モジュールを使用して、第1のランダム2次元オフセットを生成するステップと、
前記クライアントデバイスの前記処理モジュールを使用して、第2のランダム2次元オフセットを生成するステップと、
前記クライアントデバイスの前記処理モジュールで、前記クライアントデバイスのロケーションを受信するステップと、
前記クライアントデバイスの前記処理モジュールを使用して、前記受信されたロケーションと、前記第1のランダム2次元オフセットと、前記第2のランダム2次元オフセットとに基づいて、前記クライアントデバイスのポイントを定義する擬似ロケーションを決定するステップと、
ロケーションベースのサービスの前記決定された擬似ロケーションを送信するステップ
とを備える、方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成28年11月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 クライアントデバイスの真のロケーションを曖昧化するための方法であって、
クライアントデバイスの処理モジュールを使用して、第1のランダム2次元オフセットを生成するステップと、
前記クライアントデバイスの前記処理モジュールを使用して、第2のランダム2次元オフセットを生成するステップと、
前記クライアントデバイスの前記処理モジュールで、前記クライアントデバイスのロケーションを受信するステップと、
前記クライアントデバイスの前記処理モジュールを使用して、前記受信されたロケーションと、前記第1のランダム2次元オフセットと、前記第2のランダム2次元オフセットとに基づいて、前記クライアントデバイスの擬似ロケーションを決定するステップと、
ロケーションベースのサービスの前記決定された擬似ロケーションを送信するステップ
とを備える、方法。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「擬似ロケーション」について、「ポイントを定義する」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、同法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1 本件補正について」の「(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載」に記載したとおりのものである。

(2)引用例に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された特開2009-296452号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、個人情報を保護しながら、無線通信端末装置の位置情報を管理する位置情報管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
すべての携帯電話などの無線通信端末装置に位置情報の取得機能が搭載されるようになり、位置情報サービスが受けやすくなっているが、高精度化により、1mの精度まで位置が確認できることがある(例えば、特許文献1又は2参照。)。提供される位置サービスの質は向上し、無線通信端末装置の位置に応じた歩行者ナビゲーションのような位置情報サービスも提供されている。
【0003】
無線LANを利用すると、無線通信端末装置の位置情報を精確に把握することができる。また、携帯電話でも、衛星測位システムや基地局測位システムを利用すると、数mの精度で携帯電話の位置を把握することができる。
【0004】
従来方式の位置情報管理システムでは、GPS機能付き携帯電話であれば、GPS機能が出力する携帯電話の位置情報は、位置情報送信機能によって、位置情報を要求する位置管理サーバなどに送信されていた。このとき、GPS機能が実現する精度がそのまま維持され位置情報が出力される。GPSの位置情報の精度は、場所と時間により変化するが、1?10mの範囲内である。さらに、無線LANにあっては、フロア内での座席の位置まで精確に把握することができることさえある。
(中略)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
位置情報は、極めて有効に活用することができる反面、個人情報に属するものであるために、安全性を確保しつつ管理しなければならない。
【0006】
例えば、1mの精度で位置が確認できることから、地図情報と位置情報をリンクすると、個人がいつどのトイレに何回行ったかまで確認できるようになる。個人の位置はもっとも公開されたくないプライバシーに属するものであり、位置管理サーバには高いセキュリティーが要求される。このとき、位置管理サーバのセキュリティーが十分なことをいくらアナウンスしても、無線通信端末装置の保持者には心理的に自分の個人情報が知られているという嫌悪感が残る。
【0007】
そこで、本発明は、位置情報サービスを利用する者に対して、位置情報を選択して過度に個人情報を露出することを避けることのできる位置情報管理システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、発明者は、位置情報サービスを利用する者に対して、位置精度を選択して過度に個人情報を露出することを避けることのできる位置情報管理システムを発明した。本発明によれば、位置管理サーバには、無線通信端末装置保持者の希望に合わせた精度でぼかされた無線通信端末装置の位置情報が蓄積管理される。位置情報をぼかすことによって、講義室内のどの椅子に座っていたかという原情報に対して、講義室内に居ることが分かったり、構内に居ることが分かったりする程度で十分な場合はその用途に応じてぼかしの程度を可変する。また、災害時のような非常時では、位置ぼかしの機能を解除すれば、精確な位置を把握することができる。
【0009】
具体的には、本発明に係る位置情報管理システムは、無線通信端末装置と、前記無線通信端末装置の地理的な位置情報を蓄積管理する位置管理サーバと、前記位置管理サーバと通信ネットワークで接続され、前記無線通信端末装置と無線通信を行う基地局と、を備え、前記基地局、前記無線通信端末装置又は前記位置管理サーバは、前記無線通信端末装置の地理的な位置を測位する測位部を備え、前記位置管理サーバは、前記測位部の測位する位置をぼかした位置を位置情報として蓄積管理し、配信することを特徴とする。ここで、測位部とは、無線通信端末装置の位置に関する情報を取得し、無線通信端末装置の位置を算出することをいう。
位置管理サーバが無線通信端末装置の位置をぼかした位置情報を配信するので、位置情報サービスの提供者に無線通信端末装置保持者の精確な位置を知られることがない。そのため、無線通信端末装置保持者の位置という個人情報の露出を避けることができる。
【0010】
本発明に係る位置情報管理システムは、前記無線通信端末装置は、前記測位部と、前記測位部の測位する位置をぼかす位置ぼかし部と、前記位置ぼかし部によってぼかされた位置を前記位置管理サーバに通知する通知部と、を備え、前記位置管理サーバは、前記通知部の通知する位置を受信する受信部と、前記受信部の受信する位置を位置情報として蓄積管理する管理部と、前記管理部の蓄積管理する位置情報を配信する配信部と、を備えることを特徴とする。
ぼかした位置を無線通信端末装置が位置管理サーバに通知するので、無線通信端末装置の精確な位置を無線通信端末装置以外の装置が取得することがない。そのため、無線通信端末装置保持者の位置という個人情報の露出の危険性をさらに減少させることができる。また、無線通信端末装置自身が位置のぼかしの程度を可変することができるので、無線通信端末装置保持者は安心を得られる。
(中略)
【0015】
本発明に係る位置情報管理システムでは、前記位置ぼかし部は、ランダムな誤差を、位置に付加することが好ましい。
誤差が一定であると、結果的に精確な位置が算出可能になるおそれがある。位置に付加する誤差がランダムであることで、精確な位置の算出の可能性を減らすことができる。
【0016】
本発明に係る位置情報管理システムでは、前記位置ぼかし部は、四捨五入、切捨て又は切り上げを行うことで、丸め誤差を位置に付加することが好ましい。
有効数字を少なくすることで、位置をぼかす際の処理負荷を減らすことができる。
【0017】
本発明に係る位置情報管理システムでは、前記位置ぼかし部は、位置の誤差量の増減、桁数の上げ下げ、又は、前記配信部の配信先に応じて、位置のぼかしの程度を可変することが好ましい。
測位部の測位する位置の誤差は測位の度に異なる。また、位置情報を配信する位置情報サービスによって、必要な位置情報の精度は異なる。そのため、位置のぼかしの程度を可変することで、適切に位置をぼかすことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、位置情報サービスを利用する者に対して、位置情報を選択して過度に個人情報を露出することを避けることのできる位置情報管理システムを提供することができる。」

イ 「【0020】
図1は、本実施形態に係る位置情報管理システムの構成概略図である。本実施形態に係る位置情報管理システムは、通信ネットワーク100で互いに接続された無線通信端末装置10、基地局40、位置管理サーバ20及び位置サービスサーバ50を備える。無線通信端末装置10、基地局40又は位置管理サーバ20は、無線通信端末装置10の地理的な位置を測位する測位部を備える。位置管理サーバ20は、測位部の測位する位置をぼかした位置を位置情報として蓄積管理し、配信する。無線通信端末装置10は、携帯電話やPDAなどの携帯可能な無線通信端末装置である。基地局40は、位置管理サーバ20と通信ネットワーク100で接続され、無線通信端末装置10と無線通信を行う。位置サービスサーバ50は、位置管理サーバ20の配信する位置情報を用いて、無線通信端末装置10に対して位置情報サービスを提供する。
【0021】
測位部での測位は、無線通信端末装置10の位置に関する情報を取得し、無線通信端末装置10の位置を算出する。例えば、GPSなどの衛星測位システム用いての測位、無線LANでは無線アクセスポイントの設置位置からの測位、携帯電話の基地局を利用した測位である。
(中略)
【0023】
無線通信端末装置10が測位部及び位置ぼかし部を備える場合、位置ぼかし部は、測位部から直接無線通信端末装置10の位置を取得する。
(中略)
【0024】
また、位置ぼかし部は、必要以上に位置がぼかされることを防ぐために、位置の誤差量の増減、桁数の上げ下げに応じて、位置のぼかしの程度を可変することが好ましい。また、十分な位置情報サービスが受けられるよう、配信部の配信先に応じて、位置のぼかしの程度を可変することが好ましい。配信部の配信先は、サービスによって定められるアプリケーションを基に識別することができる。例えば、位置ぼかし部は、内蔵されたソフトウェアによって、位置情報サービスの内容に応じて位置情報の精度を自動で指示することが好ましい。位置情報の精度は、位置情報サービスの提供者が予め設定してもよいし、位置情報サービスの提供者が予め設定するなかから無線通信端末装置保持者が選択してもよい。」

ウ 「【0032】
図3は、無線通信端末装置が測位部及び位置ぼかし部を備える場合の構成概略図である。無線通信端末装置10は、測位部12と、位置ぼかし部22と、通知部13と、指示取得部11と、を備える。位置管理サーバ20は、受信部21と、管理部23と、配信部24と、を備える。測位部12は、無線通信端末装置10の地理的な位置を測位する。位置ぼかし部22は、測位部12の測位する位置をぼかす。通知部13は、位置ぼかし部22によってぼかされた位置を位置管理サーバ20に通知する。受信部21は、通知部13の通知する位置を受信する。管理部23は、受信部21の受信する位置を位置情報として蓄積管理する。配信部24は、管理部23の蓄積管理する位置情報を配信する。
【0033】
無線通信端末装置10が指示取得部11を備える場合、位置ぼかし部22は、解除指示に従い、測位部12の測位する位置をぼかさずに、位置を通知部13に出力する。この場合、通知部13は、ぼかされていない位置を位置管理サーバ20に通知する。管理部23は、ぼかされていない位置を位置情報として蓄積管理する。
【0034】
無線通信端末装置10に搭載されているソフトウェアが、位置情報サービスを分類し、その期待される情報内容から位置管理サーバ20に転送する位置情報を自動で劣化させることができる。また、無線通信端末装置10から得られる位置情報を、位置管理サーバ20に送信する際に、無線通信端末装置10の無線通信端末装置保持者が位置情報の精度を変更することができる。これにより、無線通信端末装置保持者は、自分が使用する位置情報サービスの質と、自分が許可できる位置に関する個人情報とを考慮して、心理的な嫌悪感のない適当な位置情報サービスを利用することができる。」

エ 「【0039】
以下、位置ぼかし部の具体例について説明する。
図5は、位置情報の加工例を示す説明図である。位置ぼかし部は、取得した精確な位置P1を予め定められた算定方法で変更し、擬似的な位置P2を生成することで、オフセットを付加する。算定は、例えば、緯度及び経度で表される位置P1を一定方向かつ一定距離に移動させる。そして、位置P2に誤差ΔPを付加する。例えば、位置P2の有効桁数を一定以下にする。
【0040】
ここで、位置P1のオフセットの算定方法は、周期的に変化させることが好ましい。また、オフセット及び誤差をランダムに発生させ、精確な位置情報に付加することが好ましい。位置P1が緯度と経度で表現される場合には、オフセットと誤差は、緯度と経度それぞれに付加されることとなる。
(中略)
【0042】
レストラン情報を提供するようなアプリケーションであれば、位置情報の精度は100mでもよい。また、レストランの位置自体を無線通信端末装置保持者に知らせるようなアプリケーションでは、1m以上10m以下程度の精度がないと、無線通信端末装置保持者はレストランの前を通り過ぎてしまうかもしれない。このように、アプリケーションが違えば、要求される位置情報の精度は変わる。(後略)」

上記ア?エの各摘記事項及び当該技術分野の技術常識を考慮すると、
(ア)上記イの段落0020及び0024の記載によれば、引用例の無線通信端末装置10は、通信ネットワーク100を介して位置サービスサーバ50から位置情報サービスの提供を受ける。
また、上記イの段落0023の記載によれば、位置ぼかし部は、測位部から無線通信端末装置10の位置を取得し、上記エの段落0039?0040の記載によれば、位置ぼかし部は、緯度と経度で表現される精確な位置P1を取得し、上記ウの段落0032の記載によれば、無線通信端末装置10の位置ぼかし部22は、無線通信端末装置10の測位部12が測位する位置をぼかす。
よって、引用例には、「測位部から取得する無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1をぼかすための方法であって、前記無線通信端末装置は通信ネットワークを介して位置サービスサーバから位置情報サービスの提供を受けるものであ」ること、及び、「無線通信端末装置の位置ぼかし部は、測位部から無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1を取得」することが記載されている。

(イ)上記イの段落0023、上記ウの段落0032及び上記エの段落0039?0040の記載によれば、引用例の無線通信端末装置10の位置ぼかし部22は、測位部から無線通信端末装置10の位置を取得し、緯度と経度それぞれに付加されるオフセット及び誤差をランダムに発生させ、緯度と経度で表現される精確な位置P1に付加する。そして、上記ウの段落0032の記載によれば、無線通信端末装置10の通知部13は、無線通信端末装置10の位置ぼかし部22によってぼかされた位置を位置管理サーバ20に通知するところ、位置ぼかし部22は、緯度と経度で表現される精確な位置P1にオフセット及び誤差を付加して、無線通信端末装置10のぼかされた位置を算出しているといえる。
そして、上記イの段落0024、上記ウの段落0032及び0034及び上記エの段落0042の記載によれば、無線通信端末装置10は、位置情報サービスを受けるために、ぼかされた位置を位置管理サーバ20に送信する。
よって、引用例には、「無線通信端末装置の位置ぼかし部は、緯度と経度それぞれに付加されるオフセット及び誤差をランダムに発生させ」ること、及び、「無線通信端末装置の位置ぼかし部は、測位部から取得した無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1に、オフセット及び誤差を付加して、無線通信端末装置のぼかされた位置を算出し、位置情報サービスを受けるために、ぼかされた位置を送信する」ことが記載されている。

以上を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「測位部から取得する無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1をぼかすための方法であって、
前記無線通信端末装置は通信ネットワークを介して位置サービスサーバから位置情報サービスの提供を受けるものであり、
前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、前記測位部から前記無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1を取得し、
前記無線通信端末装置の前記位置ぼかし部は、緯度と経度それぞれに付加されるオフセット及び誤差をランダムに発生させ、
前記無線通信端末装置の前記位置ぼかし部は、前記測位部から取得した前記無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1に、前記オフセット及び前記誤差を付加して、前記無線通信端末装置のぼかされた位置を算出し、
位置情報サービスを受けるために、前記ぼかされた位置を送信する、方法。」

(3)対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「無線通信端末装置」は、通信ネットワークを介して位置サービスサーバから位置情報サービスの提供を受けるものであるから、本件補正発明の「クライアントデバイス」に相当する。
また、引用発明の「測位部から取得する無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1」は、本件補正発明の「クライアントデバイスの真のロケーション」に相当する。
また、「ぼかす」とは、「表現をあいまいにして、内容をぼんやりとさせる。」を意味する日本語であるから(広辞苑)、引用発明の「位置をぼかす」は、「位置を曖昧化する」といえる。
したがって、引用発明の「測位部から取得する無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1をぼかすための方法であって、前記無線通信端末装置は通信ネットワークを介して位置サービスサーバから位置情報サービスの提供を受けるもの」は、「クライアントデバイスの真のロケーションを曖昧化するための方法」といえる点で本件補正発明と一致する。

(イ)「モジュール」とは、「システムを構成する部分で、機能的にまとまった部分」を意味する日本語であるから(広辞苑)、本件補正発明の「処理モジュール」は、「処理を行うための、システムを構成する部分で、機能的にまとまった部分」を意味すると解される。そして、引用発明の「位置ぼかし部」は、位置をぼかす処理を行い、位置をぼかす機能を有する部分であるから、本件補正発明の「処理モジュール」に含まれる。
そして、引用発明の「位置ぼかし部」は、測位部から「無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1」を「取得」するが、測位部から「無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1」を「受信」して「取得」することは明らかである。
よって、引用発明の「前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、前記測位部から前記無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1を取得」することは、本件補正発明の「前記クライアントデバイスの処理モジュールで、前記クライアントデバイスのロケーションを受信するステップ」と一致する。

(ウ)引用発明の「前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、緯度と経度それぞれに付加されるオフセット及び誤差をランダムに発生させ」ることは、「前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、緯度と経度それぞれに付加されるオフセットをランダムに発生させ」ること、及び、「前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、緯度と経度それぞれに付加される誤差をランダムに発生させ」ることと言い換えることができる。
そして、引用発明の「ランダムに発生させ」る「緯度と経度それぞれに付加されるオフセット」は、「ランダム2次元オフセット」といえる。
また、引用発明のオフセットが付加された位置は、緯度と経度それぞれにランダムに発生させた誤差が付加されることでさらに2次元的にずれるといえるから、引用発明の「ランダムに発生させ」た「緯度と経度それぞれに付加される誤差」は、「ランダム2次元オフセット」に含まれる。
ここで、上記2つの「ランダム2次元オフセット」を、「第1のランダム2次元オフセット」、「第2のランダム2次元オフセット」と称することは任意である。
そして、引用発明の「発生させ」ることと、本件補正発明の「生成する」ことに、実質的な差異はないから、引用発明の「位置ぼかし部」がオフセット及び誤差を「発生させ」ることは、「位置ぼかし部を使用して」オフセット及び誤差を「生成する」ことといえる。
また、上記(イ)に記載したとおり、引用発明の「位置ぼかし部」は、本件補正発明の「処理モジュール」に含まれる。
したがって、「前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、緯度と経度それぞれに付加されるオフセットをランダムに発生させ」ること、及び、「前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、緯度と経度それぞれに付加される誤差をランダムに発生させ」ることと言い換えることができる、引用発明の「前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、緯度と経度それぞれに付加されるオフセット及び誤差をランダムに発生させ」ることは、「クライアントデバイスの処理モジュールを使用して、第1のランダム2次元オフセットを生成するステップ」と、「前記クライアントデバイスの前記処理モジュールを使用して、第2のランダム2次元オフセットを生成するステップ」といえる点で本件補正発明と一致する。

(エ)上記(イ)及び(ウ)に関して、本件補正発明の「クライアントデバイスの処理モジュールを使用して、第1のランダム2次元オフセットを生成するステップ」と、「前記クライアントデバイスの前記処理モジュールを使用して、第2のランダム2次元オフセットを生成するステップ」と、「前記クライアントデバイスの前記処理モジュールで、前記クライアントデバイスのロケーションを受信するステップ」の3つのステップは、ステップ間の順番について特定されていないから、引用発明の「前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、前記測位部から前記無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1を取得し、前記無線通信端末装置の位置ぼかし部は、緯度と経度それぞれに付加されるオフセット及び誤差をランダムに発生させ」と、本件補正発明の上記3つのステップとをまとめて対比しても、両者に差異はない。

(オ)引用発明の「位置ぼかし部」は、「測位部から取得した前記無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1に、前記オフセット及び前記誤差を付加して、前記無線通信端末装置のぼかされた位置を算出」することで、位置ぼかし部の出力として「ぼかされた位置を決定」しているといえる。よって、引用発明の「位置ぼかし部」が「ぼかされた位置を算出」することは、「位置ぼかし部を使用して」「ぼかされた位置を決定」することといえる。
また、引用発明の「測位部から取得した前記無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1」は、緯度と経度で表現されるポイントを定義する位置であるといえ、当該ポイントを定義する位置の緯度と経度それぞれに、オフセット及び誤差としてランダムな値を発生して付加したものもまた、緯度と経度で表現されるポイントを定義する位置であるといえる。そして、引用発明の「ぼかされた位置」は、測位部が測位した精確な位置ではなく、擬似の位置であるから、「擬似ロケーション」といえる。よって、引用発明の「前記無線通信端末装置のぼかされた位置」は、本件補正発明の「前記クライアントデバイスのポイントを定義する擬似ロケーション」に相当する。
そして、上記(イ)に記載したとおり、引用発明の「位置ぼかし部」は、本件補正発明の「処理モジュール」に含まれるところ、引用発明の「前記測位部から取得した前記無線通信端末装置の緯度と経度で表現される精確な位置P1に、前記オフセット及び前記誤差を付加して、前記無線通信端末装置のぼかされた位置を算出」することは、本件補正発明の「前記受信されたロケーションと、前記第1のランダム2次元オフセットと、前記第2のランダム2次元オフセットとに基づいて、前記クライアントデバイスのポイントを定義する擬似ロケーションを決定するステップ」と一致する。

(カ)引用発明の「ぼかされた位置」は位置情報サービスを受けるために送信されるので、「位置情報サービスの(ための)ぼかされた位置」といえる。そして、引用発明の「位置情報サービス」は、本件補正発明の「ロケーションベースのサービス」に相当するから、引用発明の「位置情報サービスを受けるために、前記ぼかされた位置を送信する」ことは、本件補正発明の「ロケーションベースのサービスの前記決定された擬似ロケーションを送信するステップ」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明とに相違はなく、本件補正発明は、引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ウ 上記イのとおりであるが、更に進めて、本件補正発明が「クライアントデバイスの処理モジュールを使用して、第1のランダム2次元オフセットを生成するステップ」と、「前記クライアントデバイスの前記処理モジュールを使用して、第2のランダム2次元オフセットを生成するステップ」と、「前記クライアントデバイスの前記処理モジュールで、前記クライアントデバイスのロケーションを受信するステップ」の順で各ステップを実行するものと解して、以下検討する。
引用発明の位置ぼかし部は、測位部から取得した無線通信端末装置の位置に、オフセットと誤差を付加することで、ぼかされた位置を算出するものであり、引用発明の位置ぼかし部において、測位部から無線通信端末装置の位置を取得する前に、取得する位置とは関係なくランダムに発生させるオフセット及び誤差を予め算出し発生させておくこと、その際に、オフセット及び誤差の順に付加するのであるから、オフセット及び誤差の順で発生させておくことは、当業者が適宜成し得ることある。
したがって、本件補正発明が、上記3つのステップの順で実行するものと解したとしても、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?20に係る発明は、平成28年11月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2 平成29年4月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]「1 本件補正について」の「(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、
(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。

引用文献1:特開2009-296452号公報

3 引用発明
引用発明は、上記「第2 平成29年4月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]「2 補正の適否」の「(2)引用例に記載された事項及び引用発明」で認定したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記「第2 平成29年4月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]「2 補正の適否」の「(1)本件補正発明」で検討した上記本件補正発明から、「ポイントを定義する」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 平成29年4月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]「2 補正の適否」の「(3)対比・判断」に記載したとおり、引用発明と同一であり、また、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と同一であり、また、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-13 
結審通知日 2018-07-23 
審決日 2018-08-09 
出願番号 特願2015-563155(P2015-563155)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 113- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 真之  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 松永 稔
羽岡 さやか
発明の名称 ロケーションベースのサービスのための真のロケーションを曖昧化すること  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  

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