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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05C
管理番号 1347411
審判番号 不服2016-16153  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-28 
確定日 2019-01-09 
事件の表示 特願2013-545358「多成分物質の計量及び混合装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月28日国際公開、WO2012/085075、平成26年 3月27日国内公表、特表2014-507259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2011年12月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月24日、(EP)ヨーロッパ特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年9月26日に手続補正書及び上申書が提出され、平成27年7月13日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月21日に意見書が提出されるとともに、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成28年6月23日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年10月28日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、平成29年4月13日に上申書が提出されたものである。

第2 平成28年10月28日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年10月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成28年10月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成28年1月21日付けで提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし18を下記の(b)に示す請求項1ないし17と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし18

「【請求項1】
比較的大量に計量される材料成分と比較的少量で計量される材料成分とを含む多成分物質のための計量及び混合装置(1)であって、
(a)それぞれの物質成分を有する交換式カートリッジ(2.1、3.1)を収容するための、少なくとも2つの連結されているカートリッジ収容装置(2、3)、
(b)前記カートリッジ収容装置(2、3)又は前記カートリッジ中に押し入る吐出ピストンによって前記カートリッジ(2.1、3.1)から成分出口を通して前記物質成分を同時に吐出するための、吐出装置(4、5、8、9、11、16)、及び
(c)前記成分出口に接続され、吐出される前記物質成分を混合し、かつそれらを混合状態で放出する、混合装置(7)、
を具備しており、かつ
(d)少なくとも1つの前記吐出ピストン(11)が、ねじ(11.1)を有し、それによって前記吐出ピストン(11)が、前記カートリッジ収容装置(2、3)に対して回転するときに、前記吐出ピストン(11)を前記ねじによって前方へ駆動できるようにされており、かつ前記比較的少量で計量される材料成分を吐出するために用いられる、多成分物質のための計量及び混合装置(1)。
【請求項2】
少なくとも1つのカートリッジ(3.1)が、少なくとも1種類の物質成分を保持している中空筒状体である、請求項1に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項3】
ねじ付きの少なくとも1つの前記吐出ピストン(11)の前記ねじ(11.1)が、中空筒形の少なくとも1つの前記カートリッジ(3.1)の壁と接している、請求項2に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項4】
少なくとも1つの前記カートリッジが、少なくとも1種類の物質成分を保持しているチューブ状バッグ(2.1)である、請求項1?2のいずれか一項に記載の計量及び混合装置。
【請求項5】
チューブ状バッグをカートリッジとして挿入することができるカートリッジ収容装置(3)のための少なくとも1つの前記吐出ピストン(11)の前記ねじ(11.1)が、前記カートリッジ収容装置の壁と接している、請求項4に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項6】
少なくとも1つのカートリッジ収容装置(2、3)が、中空筒状体を具備している、請求項1?5のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項7】
少なくとも1つの吐出ピストン(11、16)が、雄ねじ(11.1)を有する、請求項1?6のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項8】
雄ねじ(11.1)付きの少なくとも1つの前記吐出ピストン(11)を保持している前記少なくとも1つのカートリッジ収容装置(3)又はカートリッジ(3.1)中に、前記吐出ピストン(11)の前記雄ねじに対応する切込ねじが存在する、請求項7に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの吐出ピストン(11)の前記ねじ(11.1)が、自己切削又は自己穴あけによって、前記カートリッジ収納装置又は前記カートリッジの内壁に、対応する切り込みネジを作り出すように構成されている、請求項1?8のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項10】
少なくとも1つの吐出ピストン(16)が、前記比較的大量に計量される材料成分を吐出するための直線前方駆動吐出棒(4)を具備している、請求項1?9のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項11】
前記直線前方駆動吐出棒(4)が、前記前方駆動のために歯車又はスピンドルねじ部が係合できる通常の歯部を具備している、請求項10に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項12】
前記直線前方駆動吐出棒(4)が、歯部が係合できるスピンドルねじ部を具備している、請求項10に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項13】
前記吐出ピストン(11、16)の少なくとも1つが、通気装置を具備している、請求項1?12のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項14】
前記カートリッジ収容装置(2、3)又はカートリッジ(2.1、3.1)の少なくとも1つが、通気装置(14)を具備している、請求項1?12のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項15】
通気装置として前記少なくとも1つのカートリッジ収容装置(2、3)又はカートリッジ(2.1、3.1)の内側の後方部分に、少なくとも1つの通気溝(14)が、座ぐりされている、請求項14に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項16】
前記混合装置(7)が、ダイナミックミキサーである、請求項10に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項17】
前記直線前方駆動吐出棒(4)を具備している前記少なくとも1つの吐出ピストン(16)に、直線前方駆動を与え;前記ねじ(11.1)を有する前記少なくとも1つの吐出ピストン(11)に回転駆動を与え;かつ前記ダイナミックミキサーに回転駆動を与えるための、単一の共通の歯車駆動部を有する、請求項16に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項18】
比較的大量に計量される材料成分と比較的少量で計量される材料成分との量比が50以上:1である、請求項1に記載の計量及び混合装置(1)。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし17

「【請求項1】
比較的大量に計量される材料成分と比較的少量で計量される材料成分とを含む多成分物質のための計量及び混合装置(1)であって、
(a)それぞれの物質成分を有する交換式カートリッジ(2.1、3.1)を収容するための、少なくとも2つの連結されているカートリッジ収容装置(2、3)、
(b)前記カートリッジ収容装置(2、3)又は前記カートリッジ中に押し入る吐出ピストンによって前記カートリッジ(2.1、3.1)から成分出口を通して前記物質成分を同時に吐出するための、吐出装置(4、5、8、9、11、16)、及び
(c)前記成分出口に接続され、吐出される前記物質成分を混合し、かつそれらを混合状態で放出する、混合装置(7)、
を具備しており、
前記比較的大量に計量される材料成分と前記比較的少量で計量される材料成分との量比が50以上:1であり、かつ
(d)少なくとも1つの前記吐出ピストン(11)が、ねじ(11.1)を有し、それによって前記吐出ピストン(11)が、前記カートリッジ収容装置(2、3)に対して回転するときに、前記吐出ピストン(11)を前記ねじによって前方へ駆動できるようにされており、かつ前記比較的少量で計量される材料成分を吐出するために用いられる、多成分物質のための計量及び混合装置(1)。
【請求項2】
少なくとも1つのカートリッジ(3.1)が、少なくとも1種類の物質成分を保持している中空筒状体である、請求項1に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項3】
ねじ付きの少なくとも1つの前記吐出ピストン(11)の前記ねじ(11.1)が、中空筒形の少なくとも1つの前記カートリッジ(3.1)の壁と接している、請求項2に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項4】
少なくとも1つの前記カートリッジが、少なくとも1種類の物質成分を保持しているチューブ状バッグ(2.1)である、請求項1?2のいずれか一項に記載の計量及び混合装置。
【請求項5】
チューブ状バッグをカートリッジとして挿入することができるカートリッジ収容装置(3)のための少なくとも1つの前記吐出ピストン(11)の前記ねじ(11.1)が、前記カートリッジ収容装置の壁と接している、請求項4に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項6】
少なくとも1つのカートリッジ収容装置(2、3)が、中空筒状体を具備している、請求項1?5のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項7】
少なくとも1つの吐出ピストン(11、16)が、雄ねじ(11.1)を有する、請求項1?6のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項8】
雄ねじ(11.1)付きの少なくとも1つの前記吐出ピストン(11)を保持している前記少なくとも1つのカートリッジ収容装置(3)又はカートリッジ(3.1)中に、前記吐出ピストン(11)の前記雄ねじに対応する切込ねじが存在する、請求項7に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの吐出ピストン(11)の前記ねじ(11.1)が、自己切削又は自己穴あけによって、前記カートリッジ収納装置又は前記カートリッジの内壁に、対応する切り込みネジを作り出すように構成されている、請求項1?8のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項10】
少なくとも1つの吐出ピストン(16)が、前記比較的大量に計量される材料成分を吐出するための直線前方駆動吐出棒(4)を具備している、請求項1?9のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項11】
前記直線前方駆動吐出棒(4)が、前記前方駆動のために歯車又はスピンドルねじ部が係合できる通常の歯部を具備している、請求項10に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項12】
前記直線前方駆動吐出棒(4)が、歯部が係合できるスピンドルねじ部を具備している、請求項10に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項13】
前記吐出ピストン(11、16)の少なくとも1つが、通気装置を具備している、請求項1?12のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項14】
前記カートリッジ収容装置(2、3)又はカートリッジ(2.1、3.1)の少なくとも1つが、通気装置(14)を具備している、請求項1?12のいずれか一項に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項15】
通気装置として前記少なくとも1つのカートリッジ収容装置(2、3)又はカートリッジ(2.1、3.1)の内側の後方部分に、少なくとも1つの通気溝(14)が、座ぐりされている、請求項14に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項16】
前記混合装置(7)が、ダイナミックミキサーである、請求項10に記載の計量及び混合装置(1)。
【請求項17】
前記直線前方駆動吐出棒(4)を具備している前記少なくとも1つの吐出ピストン(16)に、直線前方駆動を与え;前記ねじ(11.1)を有する前記少なくとも1つの吐出ピストン(11)に回転駆動を与え;かつ前記ダイナミックミキサーに回転駆動を与えるための、単一の共通の歯車駆動部を有する、請求項16に記載の計量及び混合装置(1)。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「比較的大量に計量される材料成分と比較的少量で計量される材料成分」について、「前記比較的大量に計量される材料成分と前記比較的少量で計量される材料成分との量比が50以上:1であ」ることを限定するものであり、かつ、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
そして、本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものを含んでいるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1

ア 刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-57384号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、二液性の、接着剤、塗料等の異なる二液を、手動操作によって目的部に混合注出するための、二液混合注出装置に係るものであって、作業性に優れた装置を提供しようとするものである。」(段落【0001】)

b)「【0014】
【実施例】以下本発明の一実施例を図面に於て説明すれば、(1)は一対の収納シリンダーで、二液性の、接着剤、塗料等の二液混合物を別個に収納可能とする。例えば、二液性接着剤を使用する場合は、図1に示す一方の収納シリンダー(1)に硬化剤を収納し、他方の収納シリンダー(1)に主剤を収納する事が可能である。
【0015】この収納シリンダー(1)は、円筒状に形成し、一方の端部を開放してシリンダー開口(2)を形成する。また、収納シリンダー(1)は、シリンダー開口(2)を密閉した状態で内部に挿入し得る挿入栓(3)を図1に示す如く形成する。また、収納シリンダー(1)は、先端部に各々連通口(4)を形成し、この連通口(4)を本体ケーシング(5)の注出ノズル(6)に連結可能とする。
【0016】この本体ケーシング(5)は、図1、図2に示す如く、一対の収納シリンダー(1)を平行に位置して格納可能な挿入スペース(7)を形成する。また、挿入スペース(7)は、収納シリンダー(1)の下面に接触可能な載置台(8)を設けている。また、本体ケーシング(5)は、挿入スペース(7)の前側に前部壁(10)を位置する。この前部壁(10)は、収納シリンダー(1)の連通口(4)を接続可能な流通口(11)を各々貫通形成する。また、この各々の流通口(11)は、本体ケーシング(5)の先端に位置する注出ノズル(6)に連通し、この注出ノズル(6)で混合した二液混合物の導出を可能とする。
【0017】また、本体ケーシング(5)は、前部壁(10)の下端に、図1に示す如く、作業者が把持し得る握り部(13)を固定突出する。この握り部(13)の形成によって、作業者は、注出ノズル(6)の先端を注出目的部に正確に誘導する事が可能となる。
【0018】また、本体ケーシング(5)は、下面に回動ピン(14)を軸支し、この回動ピン(14)を介して作動ケーシング(15)を回動可能に接続する。そして、この作動ケーシング(15)と本体ケーシング(5)とを接続する事により、内部にギア収納部(16)を形成している。
【0019】また、このギア収納部(16)の内部には、図1、図3に示す如く、収納シリンダー(1)内の二液混合物を加圧可能な一対の平行なピストン杆(17)と、このピストン杆(17)に接続し各々の作動比率が異なるギア機構(18)と、各々のギア機構(18)の共動を可能とする手動操作部(20)とを形成する。以下、ギア収納部(16)の内部の構成を詳述する。」(段落【0014】ないし【0019】)

c)「【0025】また、主剤用のピストン杆(17)に接続する他方のギア機構(18b)は、ラックギア部(26)、ピニオンギア部(31)、変速ギア(36)および中間ギア(32)を設けている。このギア機構(18b)は、ラックギア部(26)に係合可能なピニオンギア部(31)を形成する。このピニオンギア部(31)は、硬化剤用のピニオンギア部(31)よりも少ない歯数で形成し、軸芯に従動軸(33)を挿通する。」(段落【0025】)

d)「【0031】上述の如く構成したものに於て、二液性の、接着剤、塗料等を目的部に混合注出するには、注出を目的とする二液を、一対の収納シリンダー(1)内に別個に収納する。この場合、二液性接着剤を用いる場合には、一方の収納シリンダー(1a)に硬化剤を収納し、他方の収納シリンダー(1b)に主剤を収納する。」(段落【0031】)

e)「【0035】例えば、硬化剤の加圧動作を行う一方のギア機構(18a)は、中間ギア(32a)によってピニオンギア部(31a)を回動する。また、このピニオンギア部(31a)にラックギア部(26a)を係合したピストン杆(17a)は、先端の加圧部(25a)を突出させる。
【0036】また、上記一方のギア機構(18a)の作動と同時に、主剤の加圧動作を行う他方のギア機構(18b)は、中間ギア(32b)によって変速ギア(36)を回動する。そして、この変速ギア(36)に接続した従動軸(33)は、ピニオンギア部(31b)を共回りさせる。また、ピニオンギア部(31b)にラックギア部(26b)を係合するピストン杆(17b)は、先端の加圧部(25b)を突出させる。
【0037】そして、ギア機構(18)を共動させる事によって、一対のピストン杆(17)は、加圧部(25)を挿入栓(3)の外面に突当てる。また、ギア機構(18)は、上述の如く、作動比率を各々異なるように形成している。そのため、加圧部(25)は、ギア機構(18)の作動比率に比例した速度で、挿入栓(3)を収納シリンダー(1)の内部に押圧し、この挿入栓(3)を介して、収納シリンダー(1)内の二液を各々異なる距離だけ押圧移動する。
【0038】また、加圧された二液性混合物は、押圧距離に比例した体積で収納シリンダー(1)の各々の挿通口(4)から押し出され、流通口(11)に移動する。そして、注出ノズル(6)の内部で混合され、目的部に注出する事が可能となる。例えば、一方のギア機構(18a)と、他方のギア機構(18b)との作動距離比率を、2:1で形成した場合、双方の収納シリンダー(1)から混合注出される二液性混合物の混合比率は、断面積が同一であれば、同様に2:1となり、二液を異なる割合で混合注出する事が可能となる。」(段落【0035】ないし【0038】)

イ 上記ア及び図面の記載より分かること

a)上記アd)及びe)の記載によれば、硬化剤及び主剤を同時に注出するものであることが分かる。

ウ 刊行物1に記載された発明

上記ア及びイを総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「硬化剤と主剤とを含む二液混合物のための二液混合注出装置であって、
(a)硬化剤および主剤を有する収納シリンダー1を収容するための、1つの本体ケーシング5、
(b)前記収納シリンダー1中に挿入される挿入栓3によって収納シリンダー1から連通口4を通して前記硬化剤および主剤を同時に注出するための、手動操作部20、ギア機構18、ピストン杆17、及び
(c)前記連通口4に接続され、注出される前記硬化剤および主剤を混合し、かつそれらを混合状態で注出する、注出ノズル6、
を具備しており、
前記硬化剤と前記主剤との量比が2:1であり、かつ
(d)前記ピストン杆17が、前記ギア機構18に接続され、前記ピストン杆17を前記ギア機構18によって押圧移動できるようにされている、二液混合物のための二液混合注出装置。」

(2)刊行物2

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2008-534175号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0018】
II.代表的な注射器送出システム
図1A及び1Bは、それぞれ、注射器送出システム100の分解組立図及び組み立てられたシステムの断面図を示している。注射器送出システム100は、送出開口104を有する注射器バレル102、ねじ切りされたシャフト108を含んでいるプランジャ106を含んでいる。ねじ切りされたシャフトは、それ自身ねじ係合し、注射器バレル102の一部を形成し得るねじ切りされたナット103に、使用者が送出開口104を通して粘性材料を選択的に分配することを可能とするように、ねじ係合している。
【0019】
注射器送出システム100は、プランジャ把持部材110をさらに含んでいる。プランジャ把持部材110は、プランジャ106のレベル指示器用タブ120及び掴み用タブ121及びプランジャ把持部材110の内面に形成されている収容溝を介してプランジャ106と把持伝達状態にある。レベル指示器用タブ120と結合する溝123は、図1Bに見られる。プランジャ把持部材110の内面に形成されるもう一対の溝(不図示)が、掴み用タブ121と結合している。プランジャ把持部材110は、プランジャ106及びねじ切りされたシャフト108を鞘112の下に遮蔽するように、プランジャ106のねじ切りされたシャフト108を覆う鞘112を含んでいる。鞘112は、異物による入場または汚染を防止するようなシールされた環境を、ねじ切りされたシャフト108に対して提供する。」(段落【0018】及び【0019】)

b)「【0026】
1つの実施多様によれば、注射器送出システム100は、プランジャ把持部材110と注射器バレル102との間に運動用シール126を含み得る。そのような運動用シール126は、適切な柔軟材料(例えば、熱可塑性エラストマー)から形成され得る。運動用シール126は、歯科用材料またはその他の高粘性材料の送出中、注射器バレル102がプランジャ把持部材110に対して回転されるとき、異物による入場または汚染を防止するように、プランジャ把持部材110と注射器バレル102との間で緊密なシールを形成する」(段落【0026】)

(3)刊行物3

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第4863072号明細書(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、[]内は、当審において作成した当審仮訳である。)

a)「Referring to FIG. 1, a composite delivering syringe 10 constructed as in accordance with the present invention is illustrated. As shown in FIG. 2, syringe 10 comprises a tube or cylinder 12, a plunger 14, and slider 16.
As illustrated in FIGS. 2 and 3, plunger 14 includes a disc-shaped end portion 18 which is formed integrally with a shank 20 having threads 22 formed therein. Composite extrusion element 29 and O-ring 23 insure that all of the composite material advances forward as the device is operated. Disk 18 has a diameter on the order of about 4 centimeters.
As illustrated in FIGS. 2 and 4, cylinder 12 has a faceted external cross section forming, inthe illustrated embodiment, six facets 26, 28, 30, 32, 34, and 36. The inner surface of the cylinder is circular with threads 38 defined thereby. Threads 38 in cylinder 12 mate with threads 22 on plunger 14. Cylinder 12 is terminated at one end by an open port 40 having an annular bead 42 and is terminated at the other end by a feeder nozzle 44 having a surface 46 which conforms to surface 24 on composite extrusion element 29. It is noted that composite extrusionelement 29 has a cylindrical surface 48 which exactly fits in the forward portion of nozzle 44.
As shown in FIG. 5, slider 16 has a hole 52 which mates with the outside surface of cylinder 12 defined in FIG. 4 by facets 26, 28, 30, 32, 34, and 36. Thus slider 16 is free to move along the body of cylinder 12 in the direction indicated in FIG. 2 by arrow 54 but is constrained from angular rotation with respect to cylinder 12.
During use, plunger 14 is positioned within cylinder 12 in the position illustrated in solid and phantom lines in FIG. 1. The space between surface 24 and mating surface 46 is filled with light-curable composite dental filling material 50.
FIG. 6 is an exploded view of the male front piece-O-ring-composite extrusion element system. O-ring 23 fits around male front piece 21 and sits up against edge of plunger shaft 27. Thus, O-ring 23 can only be urged forward by the edge of plunger shaft 27 and will not be retracted should the plunger be reverse screwed. Male front piece 21 mates with female fitting 25 of composite extrusion element 29. Male front piece 21 and thus the plunger 14 are free to rotate and slide relative to composite extrusion element 29. Thus, the composite extrusion element 29 will only be advanced by the forward action of the plunger 14 and will not be retracted with the plunger 14 should the shaft be reverse screwed.
When it is desired to use the inventive package, the syringe 10 is firmly grasped in the hand of the dentist. The pad of the thumb and the side of the index finger are used to rotate slider16, while the remaining fingers securely grasp disk 18, thus resulting in relative angular movement between the plunger 14 and the cylinder 12. The necessary leverage is provided by making slider 16 with a length of approximately 4 centimeters.」(第3欄第21行ないし第4欄第8行)

[当審仮訳:図1を参照すると、本発明に従って構成された複合送出シリンジ10が示されている。図2に示すように、シリンジ10は、チューブまたはシリンダ12と、プランジャ14と、スライダ16とを備える。
図2および図3に示すように、プランジャ14は、その中に形成されたネジ山22を有するねじ20と一体に形成された円盤状の端部分18を含む。複合押出要素29およびOリング23は、装置が操作されるときに複合材の全てが前進することを確実にする。ディスク18は、約4センチメートルのオーダーの直径を有する。
図2および図4を参照すると、シリンダ12は、図示の実施形態では、6つの面26,28,30,32,34、および36を形成する外断面を有する。シリンダの内面は円形であり、それによってねじ38が画定される。シリンダ12のねじ38は、プランジャ14のねじ22とかみ合う。シリンダ12は、環状ビード42を有する開放ポート40によって一端が終端され、複合押出要素29の表面24に適合する表面46を有するフィーダノズル44によって他端が終端される。複合押出要素29は、ノズル44の前方部分に正確に嵌合する円筒面48を有することに留意する。
図5に示すように、スライダ16は、図4に示される面26,28,30,32,34および36によって画成されたシリンダ12の外面と嵌合する穴52を有する。したがって、スライダ16は、シリンダ12に対する角度回転から拘束されながら、シリンダ12の本体に沿って図1に矢印54で示されている方向に自由に移動することができる。使用中、プランジャ14は、シリンダ12内に、図1の実線および破線で示す位置に配置される。表面24と嵌合面46との間の空間は、光硬化性複合歯科充填材料50で充填される。
図6は、雄型フロントピースOリング複合押出要素システムの分解図である。Oリング23は、雄の前部片21の周りに嵌り、プランジャ軸27の縁部に当接している。したがって、Oリング23は、プランジャ軸27の端部によって前方に付勢されるだけであり、プランジャが逆ねじ止めされる場合には、後退しない。雄の前部片21は、複合押出要素29の雌型の継手25とかみ合う。雄の前部片21、従ってプランジャ14は複合押出要素29に対して自由に回転し摺動する。したがって、複合押出要素29は、プランジャ14の前進作用によってのみ前進され、シャフトが逆ねじ止めされると、プランジャ14と共に後退されない。
本発明のパッケージを使用することが望ましい場合、シリンジ10は歯科医の手にしっかりと把持される。親指のパッドおよび人差し指の側部は、スライダ16を回転させるために使用され、残りの指はディスク18をしっかりと把持し、その結果、プランジャ14とシリンダ12との間の相対的な角運動が生じる。スライダ16を約4センチメートルの長さにすることによって、必要な作用が得られる。]

2.対比・判断

刊行物1に記載された発明における「硬化剤」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「比較的大量に計量される材料成分」に相当し、以下同様に、「主剤」は「比較的少量で計量される材料成分」に、「二液混合物」は「多成分物質」に、「二液混合注出装置」は「計量及び混合装置」に、「硬化剤および主剤」は「それぞれの物質成分」あるいは「物質成分」に、「収納シリンダー1」は「交換式カートリッジ」あるいは「カートリッジ」に、「前記収納シリンダー1中に挿入される挿入栓3」は「前記カートリッジ収容装置又は前記カートリッジ中に押し入る吐出ピストン」に、「連通口4」は「成分出口」に、「注出」は「吐出」あるいは「放出」に、「手動操作部20、ギア機構18、ピストン杆17」は「吐出装置」に、「注出ノズル6」は「混合装置」に、それぞれ相当する。

また、刊行物1に記載された発明における「1つの本体ケーシング5」と本願補正発明における「少なくとも2つの連結されているカートリッジ収容装置」とは「カートリッジ収容装置」という限りにおいて共通する。
さらに、刊行物1に記載された発明における「前記ピストン杆17が、前記ギア機構18に接続され、前記ピストン杆17を前記ギア機構18によって押圧移動できるようにされている」ことと、本件補正発明における「少なくとも1つの前記吐出ピストンが、ねじを有し、それによって前記吐出ピストンが、前記カートリッジ収容装置に対して回転するときに、前記吐出ピストンを前記ねじによって前方へ駆動できるようにされて」いることとは、「少なくとも1つの吐出ピストンが、駆動機構に接続され、吐出ピストンを駆動機構によって前方へ駆動できるようにされている」限りにおいて共通する。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「比較的大量に計量される材料成分と比較的少量で計量される材料成分とを含む多成分物質のための計量及び混合装置であって、
(a)それぞれの物質成分を有する交換式カートリッジを収容するための、カートリッジ収容装置、
(b)前記カートリッジ収容装置又は前記カートリッジ中に押し入る吐出ピストンによって前記カートリッジから成分出口を通して前記物質成分を同時に吐出するための、吐出装置、及び
(c)前記成分出口に接続され、吐出される前記物質成分を混合し、かつそれらを混合状態で放出する、混合装置、
を具備しており、
(d)少なくとも1つの前記吐出ピストンが、駆動機構に接続され、前記吐出ピストンを駆動機構によって前方へ駆動できるようにされている、多成分物質のための計量及び混合装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

本願補正発明の「カートリッジ収容装置」は、「少なくとも2つの連結されている」ものであるのに対し、
刊行物1に記載された発明の「本体ケーシング5」は、1つであって、少なくとも2つの連結されているものではない点。

<相違点2>

本願補正発明は、「前記比較的大量に計量される材料成分と前記比較的少量で計量される材料成分との量比が50以上:1」であり、また、上記「少なくとも1つの吐出ピストンが、駆動機構に接続され、吐出ピストンを駆動機構によって前方へ駆動できるようにされている」点に関して、本願補正発明は、「少なくとも1つの前記吐出ピストンが、ねじを有し、それによって前記吐出ピストンが、前記カートリッジ収容装置に対して回転するときに、前記吐出ピストンを前記ねじによって前方へ駆動できるようにされており、かつ前記比較的少量で計量される材料成分を吐出するために用いられる」ものであるのに対し、
刊行物1に記載された発明は、硬化剤と主剤との量比が2:1であり、また、上記「少なくとも1つの吐出ピストンが、駆動機構に接続され、吐出ピストンを駆動機構によって前方へ駆動できるようにされている」点に関して、刊行物1に記載された発明は、ピストン杆17が、ギア機構18に接続され、ピストン杆17をギア機構18によって押圧移動できるようにされている点。

上記各相違点について検討する。

<相違点1>について

複数のカートリッジを収容装置に収容する際に、複数のカートリッジを各々個別の収容装置に収容し、それらの収容装置を連結するか、あるいは、複数のカートリッジを1つの収容装置に収容するかは、当業者が適宜選択し得る事項であり、刊行物1に記載された発明において、硬化剤の収納シリンダー1と主剤の収納シリンダー1とを各々個別のケーシングに収容して、両ケーシングを連結させることも、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

<相違点2>について

駆動機構において、歯車機構や流体圧駆動機構などよりねじ機構の方が操作量に対して駆動される量が小さく、細かな調整が可能であることは、機械分野一般の技術常識であるところ、定量で材料成分を抽出する装置において、ねじによる駆動機構を採用したものは、例えば、刊行物2や刊行物3に記載されるように周知(以下、「周知技術」という。)である。
そして、刊行物1に記載された発明において、複数の材料成分を計量して注出するにあたり、それらの材料成分をどのような量比で抽出するかは、生成する混合物の種類により設定されるものであるところ、その量比が50以上:1という比の混合物である場合に、少量で計量される材料成分を精密に計量すべきことは、当業者であれば普通に想到する事項であり、その際、周知技術を採用して、ギア機構の代わりにねじ機構を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

以上からすると、刊行物1に記載された発明において、周知技術を適用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易になし得たことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成28年10月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし18に係る発明は、平成28年1月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1(特開平8-57384号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「前記比較的大量に計量される材料成分と前記比較的少量で計量される材料成分との量比が50以上:1であ」るという発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.まとめ
以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-01 
結審通知日 2017-09-05 
審決日 2017-09-20 
出願番号 特願2013-545358(P2013-545358)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B05C)
P 1 8・ 121- Z (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八板 直人  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 佐々木 芳枝
槙原 進
発明の名称 多成分物質の計量及び混合装置  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 関根 宣夫  
代理人 塩川 和哉  
代理人 出野 知  

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