• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1347471
審判番号 不服2017-16128  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-31 
確定日 2019-01-22 
事件の表示 特願2013-129476「静電潜像現像用キャリア,それを用いた二成分現像剤および補給用現像剤,二成分現像剤を備えるプロセスカートリッジ並びに画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年1月8日出願公開,特開2015-4787,請求項の数(10)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2013-129476号は平成25年6月20日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯は,以下のとおりである。
平成29年 1月26日付け:拒絶理由通知書
平成29年 3月22日差出:意見書
平成29年 3月22日差出:手続補正書
平成29年 8月 1日付け:拒絶査定
平成29年10月31日付け:審判請求書
平成29年10月31日差出:手続補正書
平成30年 8月15日付け:拒絶理由通知書
平成30年10月18日差出:意見書
平成30年10月18日差出:手続補正書

2 原査定の内容
平成29年8月1日付け拒絶査定(以下「原査定」という。)の拒絶の理由は,概略,[A]本件出願の請求項1?請求項10に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[B]本件出願の請求項1?10に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用例1:特開2013-64856号公報
引用例2:特開2014-174188号公報
引用例3:特開2011-145388号公報
なお,主引用例は引用例1であり,引用例2及び引用例3は,引用例1に記載された製品の構造を明らかにするために用いられた参考文献である。

3 当合議体の拒絶の理由
平成30年8月15日付けで通知した拒絶の理由(以下「当合議体の拒絶の理由」という。)は,概略,[A]本件出願の請求項1,3,4及び6に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[B]本件出願の請求項1?10に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開2013-57817号公報

4 本願発明
本件出願の請求項1?請求項10に係る発明は,平成30年10月18日に補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項10に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のものである。
「 芯材粒子上に少なくとも結着樹脂と,アミノシランカップリング剤と,酸化アルミニウムを導電層で覆った微粒子とを含む被覆層を有する静電荷像現像剤用キャリアであって,
前記微粒子は,前記アミノシランカップリング剤で表面処理されており,
前記導電層は,スズと,リンまたはタングステンとを含み,
前記微粒子の体積平均粒子径dが500nm以上900nm以下であり,かつ,前記キャリアのX線光電子分光分析法(XPS)により得られるN含有量を基に下記式(1)により算出されるN含有比が,前記微粒子の含有比率をa重量%とした時に,100/a以上であることを特徴とする静電潜像現像用キャリア。
N含有比= [深さ方向d/10でのN含有量]/[キャリア最表面のN含有量]・・・(1)
[N含有量:キャリアを4mmΦの穴に充填しArイオンでスパッタしXPSで測定]


なお,請求項2?請求項6に係る発明は,いずれも,本願発明1を減縮した,静電潜像現像用キャリアに係る発明である。また,請求項7?請求項10に係る発明は,それぞれ,上記静電潜像現像用キャリアを発明特定事項とする,二成分現像剤,補給用現像剤,プロセスカートリッジ,及び画像形成装置に係る発明である。

第2 当合議体の拒絶の理由について
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である前記引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や,判断に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,静電潜像現像用キャリア,プロセスカートリッジ,及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,電子写真方式を用いた複写機やプリンタの技術は,モノクロからフルカラーへの展開が急速になりつつあり,フルカラーの市場が拡大する傾向にある。
…(省略)…
【0007】
二成分現像方式における履歴現象を解消する方法として,例えば,内部にマグネットを有した汲上ロールを現像スリーブ上の剥離領域付近に配置し,その磁力をもって現像後の現像剤の剥離を行う方法が提案されている(例えば,特許文献8参照)。
…(省略)…
【0008】
しかしながら,上記提案によっても,長期間連続使用すると,履歴現象による影響を受けるため,安定したトナー量を静電潜像現像担持体に供給することできないという問題がある。また,上記提案によっては,二成分現像方式に特有の課題であるトナースペントの堆積によるキャリア抵抗の増加を低減することができないという問題がある。
…(省略)…
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は,かかる現状に鑑みてなされたものであり,従来における前記諸問題を解決し,以下の目的を達成することを課題とする。本発明は,長期間連続で使用しても,履歴現象による影響を受けることなく,安定したトナー量を静電潜像現像用担持体に供給することができ,かつ,トナースペントの堆積によるキャリア抵抗の増加を低減することができる静電潜像現像用キャリア,該静電潜像現像用キャリアを用いたプロセスカートリッジ及び画像形成装置を提供することを目的とする。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0015】
(静電潜像現像用キャリア)
本発明の静電潜像現像用キャリアは,芯粒子と,該芯粒子を被覆する被覆層とを含み,更に必要に応じてその他の成分を含む。
【0016】
<芯粒子>
前記芯粒子としては,磁性を有する芯粒子であれば,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができ,例えば,鉄,コバルト等の強磁性金属;マグネタイト,ヘマタイト,フェライト等の酸化鉄;各種合金,化合物等の磁性体を樹脂中に分散させた樹脂粒子などが挙げられる。
…(省略)…
【0029】
<被覆層>
前記被覆層は,樹脂,及びフィラーを含有する被覆層形成溶液により形成される。
…(省略)…
【0030】
前記被覆層の厚みとしては,薄すぎると,現像機内での攪拌で容易に前記芯粒子の表面が露出してしまい,抵抗値の変化が大きくなることがあり,厚すぎると,前記芯粒子の凸部が露出せず,局所的な低抵抗状態を形成することが難しくなってしまう。
…(省略)…
【0032】
前記樹脂としては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができるが,シランカップリング剤及びシリコーン樹脂を含有する混合物の硬化物を含む樹脂が好ましい。
…(省略)…
【0034】
--シランカップリング剤--
前記シランカップリング剤は,前記フィラーを安定して分散させることができる。
前記シランカップリング剤としては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができ,例えば,r-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン…(省略)…などが挙げられる(当合議体注:「r-」は「γ-」の誤記である。)。
…(省略)…
【0036】
前記シランカップリング剤の添加量としては,特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが,前記樹脂に対して,0.1質量%?10質量%が好ましい。前記添加量が,0.1質量%未満であると,前記芯粒子,前記フィラー,及び前記樹脂の接着性が低下し,長期間の使用中に被覆層が脱落することがあり,10質量%を超えると,長期間使用中に,トナーのフィルミングが発生することがある。
【0037】
-フィラー-
前記フィラーとしては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができ,例えば,導電性フィラー,非導電性フィラーなどが挙げられる。
…(省略)…
【0039】
--導電性フィラー--
前記導電性フィラーとしては,…(省略)…酸化アルミニウム,酸化チタン,硫酸バリウムを含有する導電性フィラーが好ましい。
…(省略)…
【0041】
--フィラーの個数平均粒径--
前記フィラーの個数平均粒径としては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができるが,前記被覆層に含有される樹脂の表面からフィラーが出やすくなり,部分的な低抵抗を作りやすく,キャリア表面のスペント物を掻き取り易く,耐摩耗性に優れる点で,50nm?800nmが好ましく,200nm?700nmがより好ましい。
…(省略)…
【0085】
(芯粒子製造例1:芯粒子1の製造)
MnCO_(3),Mg(OH)_(2),及びFe_(2)O_(3)粉を秤量し,混合して混合粉を得た。この混合粉を加熱炉にて900℃,3時間,大気雰囲気下で仮焼成し,得られた仮焼成物を冷却後,粉砕して平均粒径7μmの粉体とした。この粉体に,分散剤(1質量%)及び水を加えてスラリーとし,このスラリーをスプレードライヤに供給して造粒し,平均粒径約40μmの造粒物を得た。この造粒物を焼成炉に装填し,窒素雰囲気下で,1,250℃,5時間焼成した。得られた焼成物を解砕機で解砕した後,篩い分けにより粒度調整を行い,重量平均粒径約35μmの[芯粒子1](球形フェライト粒子)を得た。この[芯粒子1]の成分分析を行ったところ,MnO(46.2mol%),MgO(0.7mol%),Fe_(2)O_(3)(53mol%)であった。また,[芯粒子1]のSF-1は140,SF-2は145,Raは0.7μmであった。
…(省略)…
【0093】
(フィラー製造例1:導電性フィラー1の製造)
酸化アルミニウム(AKP-30,住友化学社製)100gを水1Lに分散させ懸濁液とし,70℃に加温した。次いで,この懸濁液のpHが7?8となるよう,塩化第二錫100g及び五酸化リン3gを2N塩酸1Lに溶かした溶液,並びに12質量%アンモニア水を2時間かけて滴下した。滴下後,懸濁液を濾過,洗浄して得られたケーキを110℃で乾燥した。そして,この乾燥粉末を窒素気流中で500℃,1時間にて処理し,[導電性フィラー1]を得た。得られた[導電性フィラー1]は,個数平均粒径400nm,粉体比抵抗値50Ω・cmであった。
…(省略)…
【0100】
(実施例1:静電潜像現像用キャリアAの製造)
静電潜像現像用キャリアAの被覆層の形成のため,下記組成の[被覆層形成溶液A](固形分10質量%)を調製した。この[被覆層形成溶液A]を[芯粒子1]1,000質量部に塗布して乾燥させた。ここで,塗布乃至乾燥は,流動槽内の温度を各70℃に制御した流動床型コーティング装置を使用して行った。得られたキャリアを電気炉中にて,180℃で2時間焼成し,[キャリアA]を得た。[キャリアA]の特性を,表1に示す。
[被覆層形成溶液Aの組成]
・被覆層用樹脂(シリコーン樹脂) ・・・ 80質量部
(2官能又は3官能のモノマーから作製されたメチルシリコーンレジ
ン)
(重量平均分子量15,000,固形分25質量%)
・導電性フィラー1(フィラー製造例1) ・・・ 56質量部
・触媒 ・・・ 4質量部
(チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート))
(オルガチックスTC-750,マツモトファインケミカル社製)
・シランカップリング剤 ・・・ 0.6質量部
(SH6020,東レ・ダウコーニング社製)
・トルエン ・・・ 残部
…(省略)…
【0130】
【表2】



(2) 引用発明
引用文献1の【0100】には,実施例1が記載されている。ここで,【0085】の記載からみて,実施例1の「芯粒子1」は,「重量平均粒径約35μmの球形フェライト粒子」である。また,【0093】に記載された製造方法を考慮すると,実施例1の「導電性フィラー1」は,「酸化アルミニウムを,錫化合物及びリン化合物が沈着した層で覆ってなる個数平均粒径400nm,粉体比抵抗値50Ω・cmの導電性フィラー」といえる。加えて,「SH6020,東レ・ダウコーニング社製」が,化合物名でいえば「γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン」であることは,技術常識である。
そうしてみると,引用文献1には,実施例1として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。なお,用語を統一して記載した。)。
「 静電潜像現像用キャリアAの被覆層の形成のため,被覆層形成溶液Aを調製し,
この被覆層形成溶液Aを芯粒子1に塗布して乾燥させ,得られたキャリアを電気炉中にて焼成して得た静電潜像現像用キャリアAであって,ここで,
芯粒子1は,重量平均粒径約35μmの球形フェライト粒子であり,
導電性フィラー1は,酸化アルミニウムを,錫化合物及びリン化合物が沈着した層で覆ってなる個数平均粒径400nm,粉体比抵抗値50Ω・cmの導電性フィラーであり,
被覆層形成溶液Aの組成は,次のとおりである,
静電潜像現像用キャリアA。
[被覆層形成溶液Aの組成]
・被覆層用樹脂(シリコーン樹脂) ・・・ 80質量部
(2官能又は3官能のモノマーから作製されたメチルシリコーンレジ
ン)
(重量平均分子量15,000,固形分25質量%)
・導電性フィラー1 ・・・ 56質量部
・触媒 ・・・ 4質量部
(チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート))
(オルガチックスTC-750,マツモトファインケミカル社製)
・シランカップリング剤 ・・・ 0.6質量部
(γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン,東
レ・ダウコーニング社製)
・トルエン ・・・ 残部」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明1と引用発明を対比する。
ア 芯材粒子,静電荷像現像剤用キャリア
電子写真方式を用いた複写機やプリンタに関する技術常識を考慮すると,引用発明の「芯粒子1」及び「静電潜像現像用キャリアA」は,本願発明1の「芯材粒子」及び「静電荷像現像剤用キャリア」に相当する。

イ 被覆層
引用発明の「静電潜像現像用キャリアA」は,「静電潜像現像用キャリアAの被覆層の形成のため,被覆層形成溶液Aを調製し」,「この被覆層形成溶液Aを芯粒子1に塗布して乾燥させ,得られたキャリアを電気炉中にて焼成して得た」ものである。そうしてみると,引用発明の「被覆層」は,本願発明1の「被覆層」に相当する。
ここで,技術常識を勘案すると,引用発明の「被覆層形成溶液A」に含まれる「被覆層用樹脂(シリコーン樹脂)」は,結着樹脂として機能する。また,引用発明の「被覆層形成溶液A」に含まれる,「シランカップリング剤」は「γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン」であるから,アミノシランカップリング剤といえる。加えて,引用発明の「被覆層形成溶液A」に含まれる「導電性フィラー1」は,「酸化アルミニウムを,錫化合物及びリン化合物が沈着した層で覆ってなる」。さらに加えて,引用発明の「導電性フィラー1」は,「粉体比抵抗値50Ω・cm」であるところ,これが「錫化合物及びリン化合物が沈着した層」の導電層としての機能によることは,技術的にみて明らかである。
そうしてみると,引用発明の「被覆層用樹脂(シリコーン樹脂)」,「シランカップリング剤」,「導電性フィラー1」及び「錫化合物及びリン化合物が沈着した層」は,それぞれ本願発明1の「結着樹脂」,「アミノシランカップリング剤」,「微粒子」及び「導電層」に相当する。また,引用発明の「被覆層」は,本願発明1の「被覆層」における,「結着樹脂と,アミノシランカップリング剤と,酸化アルミニウムを導電層で覆った微粒子を含む」という要件を満たす。加えて,引用発明の「静電潜像現像用キャリアA」は,本願発明1の「静電荷像現像剤用キャリア」における「芯材粒子上に少なくとも結着樹脂と,アミノシランカップリング剤と,酸化アルミニウムを導電層で覆った微粒子を含む被覆層を有する」という要件を満たす。

ウ 導電層の組成
引用発明の「錫化合物及びリン化合物が沈着した層」は,その組成からみて,スズとリンを含む層といえる。
そうしてみると,引用発明の「錫化合物及びリン化合物が沈着した層」は,本願発明1の「導電層」における,「スズと,リンまたはタングステンとを含み」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。
「 芯材粒子上に少なくとも結着樹脂と,アミノシランカップリング剤と,酸化アルミニウムを導電層で覆った微粒子を含む被覆層を有する静電荷像現像剤用キャリアであって,
前記導電層は,スズと,リンまたはタングステンとを含む,
静電潜像現像用キャリア。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「微粒子」について,本願発明1は,「前記アミノシランカップリング剤で表面処理されており」という構成を具備するのに対して,引用発明は,この構成を具備しない点。

(相違点2)
「微粒子」について,本願発明1は,「体積平均粒子径dが500nm以上900nm以下」であるのに対して,引用発明は,「個数平均粒径400nm」であるとしても,「体積平均粒子径d」は明らかではない点。

(相違点3)
本願発明1は,「キャリアのX線光電子分光分析法(XPS)により得られるN含有量を基に下記式(1)により算出されるN含有比が,前記微粒子の含有比率をa重量%とした時に,100/a以上である」という構成を具備するのに対して,引用発明は,これが明らかではない点。
(当合議体注:「下記式(1)」は,以下のとおりである。
N含有比= [深さ方向d/10でのN含有量]/[キャリア最表面のN含有量]・・・(1)
[N含有量:キャリアを4mmΦの穴に充填しArイオンでスパッタしXPSで測定])

(3) 29条1項3号についての判断
本願発明1と引用発明は,少なくとも前記相違点1において相違するから,本願発明1は,引用文献1に記載された発明であるということができない。

(4) 29条2項についての判断
事案に鑑みて,相違点1について判断する。
引用発明の「シランカップリング剤」は,「導電性フィラー1」を安定して分散させるためのものである(引用文献1の【0034】)。ここで,シランカップリング剤を分散剤として使用する方法として,引用発明のような,材料を混合する際にシランカップリング剤を添加する方法に加えて,シランカップリング剤で表面処理する方法も,例示するまでもなく周知である。また,この方法は,工業的な作業性に劣るとしても,より高い効果が得られる方法と考えられる。
しかしながら,引用文献1において,シランカップリング剤は,もっぱら樹脂に含有させるものとして記載されている(【0032】及び【0036】)。また,引用文献1には,引用発明の「静電潜像現像用キャリアA」において,「導電性フィラー1」の分散性に問題があったことをうかがわせるような記載は存在しない。例えば,引用発明の「静電潜像現像用キャリアA」の評価結果は,全て「◎」である(【0130】)。
そうしてみると,このような引用文献1の記載を踏まえた当業者が,引用発明において,シランカップリング剤で表面処理する方法を採用するとはいいがたい。

ところで,本願発明1は,製造方法の発明ではなく,物の発明である。また,引用発明においても,被覆層形成溶液Aが調製された段階で,シランカップリング剤が導電性フィラー1の表面に結合することとなる。すなわち,導電性フィラー1の表面にシランカップリング剤が結合しているという観点でいえば,本願発明1と,物として共通する側面があるといえる。
しかしながら,このような観点で共通するとしても,引用発明の,被覆層に含まれるシランカップリング剤の総量に対する,導電性フィラー1の表面に結合したシランカップリング剤の分量は,本願発明1のものと異なるといえる。
したがって,仮に,引用発明の「被覆層形成溶液A」の分量等を変更する当業者を想定したとしても,前記相違点1に係る構成を具備した本願発明1の構成に到るとはいえない。

以上のとおりであるから,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5) 請求項2?請求項10に係る発明について
本件出願の請求項2?請求項10に係る発明は,いずれも,相違点1に係る本願発明1の構成を具備する。
したがって,前記(4)で述べたとの同じ理由により,本件出願の請求項2?請求項10に係る発明も,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6) 小括
以上のとおりであるから,当合議体の拒絶の理由によっては,もはや本件出願を拒絶することはできない。

第3 原査定について
1 引用例1発明
原査定の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である前記引用例1(【0098】,【0099】及び【0127】)には,実施例12のキャリア12として,次の発明が記載されている(以下「引用例1発明」という。)。
「 キャリア被覆層形成溶液1にTC-750(マツモトファインケミカル株式会社製)を加えた溶液を芯粒子表面に塗布し乾燥し,
得られた乾燥物を焼成し,冷却後,得られた焼成物を解砕して得たキャリア12であって,
キャリア被覆層形成溶液1の組成は,次のとおりである,
キャリア12。
[キャリア被覆層形成溶液1の組成]
・[メタクリル系共重合体1](固形分100質量%) 18.0質量部
・シリコーン樹脂溶液(固形分20質量%,
SR2410,東レ・ダウコーニング株式会社製) 360.0質量部
・アミノシラン(固形分100質量%,
SH6020,東レ・ダウコーニング株式会社製) 4.0質量部
・EC-700(チタン工業株式会社製,
粒径:0.80μm) 180質量部
・トルエン 900質量部」

2 判断
本願発明1と引用例1発明を対比すると,両者は,前記相違点1と同じ点で相違するといえる。したがって,本願発明1は,引用例1に記載された発明であるということができない。
また,引用例1において,シランカップリング剤は,被覆層に含有させるものとして記載され(【0063】及び【0065】),表面処理のためのものとしては記載されていない。
したがって,前記「第2」2(4)で述べたのと同様に,本願発明1は,当業者が引用例1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また,請求項2?請求項10についても,同様である。

第4 まとめ
以上のとおり,当合議体の拒絶の理由,及び原査定の拒絶の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2013-129476(P2013-129476)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 本田 博幸  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
関根 洋之
発明の名称 静電潜像現像用キャリア、それを用いた二成分現像剤および補給用現像剤、二成分現像剤を備えるプロセスカートリッジ並びに画像形成装置  
代理人 舘野 千惠子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ