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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1347606
審判番号 不服2017-18796  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-19 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2015-145780「油圧ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 2日出願公開、特開2017- 26052〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年7月23日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 2月20日付け:拒絶理由通知書
平成29年 4月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 9月 7日付け:拒絶査定
平成29年12月19日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成29年12月19日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年12月19日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、本件補正による補正箇所を示す。)
「主軸を回転中心軸として回転する回転伝達軸と、
前記回転伝達軸に挿嵌され、少なくとも密封流体側と大気圧とが異なる圧力であるときに前記回転伝達軸の密封流体側からの油漏れを封止する耐圧型オイルシールと、を含む油圧ポンプにおいて、
前記耐圧型オイルシールは、シールリップ部と金属環とを有し、前記シールリップ部に設けられ前記大気圧側と前記密閉流体側との間であって大気圧側に位置するリブが設けられ、前記リブは前記金属環から前記シールリップ部に向かって形成されていることを特徴とする油圧ポンプ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年4月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「主軸を回転中心軸として回転する回転伝達軸と、
前記回転伝達軸に挿嵌され、少なくとも密封流体側と大気圧とが異なる圧力であるときに前記回転伝達軸の密封流体側からの油漏れを封止する耐圧型オイルシールと、を含む油圧ポンプにおいて、
前記耐圧型オイルシールは、シールリップ部と金属環とを有し、前記シールリップ部にリブが設けられ、前記リブは前記金属環から前記シールリップ部に向かって形成されていることを特徴とする油圧ポンプ。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「シールリップ部」の「リブ」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)は、次のとおりであると認める。
「主軸を回転中心軸として回転する回転伝達軸と、
前記回転伝達軸に挿嵌され、少なくとも密封流体側と大気圧とが異なる圧力であるときに前記回転伝達軸の密封流体側からの油漏れを封止する耐圧型オイルシールと、を含む油圧ポンプにおいて、
前記耐圧型オイルシールは、シールリップ部と金属環とを有し、前記シールリップ部に設けられ前記大気圧側と前記密封流体側との間であって大気圧側に位置するリブが設けられ、前記リブは前記金属環から前記シールリップ部に向かって形成されていることを特徴とする油圧ポンプ。」

なお、本件補正後の請求項1における「前記密閉流体側」との記載は、「前記密封流体側」の誤記と認め、本件補正発明を上記のように認定した(下線は、当審で付した。以下、同じ。)。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-360506号公報(平成16年12月24日出願公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は油圧ショベル等の油圧式作業機械に油圧源として用いられる油圧ポンプ内からの油漏れを防止するシール構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
たとえば油圧ショベルの油圧ポンプにおいては、図6,7に示すようにポンプ駆動軸1の入力側の外周にシール部材(オイルシール)2が設けられ、このシール部材2によってポンプ内と大気を遮断し、ポンプ内からの油漏れを防止する構成がとられている。
【0003】
ところが、このシール構造では、低温下で使用する場合に、シール部材2が硬化して追従性を失い、起動時にリップが開いて図7中に矢印で示すように油がポンプ外に漏れ出る場合がある。」
「【0037】
第3実施形態(図4,5参照)
第3実施形態においては、ポンプ駆動軸11の外周に、ポンプ内からの油漏れを防止するシール部材として、第1、第2両実施形態で用いられた、基本的にシール機能のみを果たす通常のシール部材12に代えて、ヘリコンシール等と呼ばれる溝付きシール部材20が設けられている。
【0038】
この溝付きシール部材20は、シールリップの大気側の面に全周に亘ってねじ溝を有し、漏れ出た油をねじポンプ作用によってポンプ内部に吸引する機能を果たす。」

(イ)上記の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポンプ駆動軸11と、
ポンプ駆動軸11の外周に設けられ、ポンプ内からの油漏れを防止する溝付きシール部材20と、を含む、油圧ショベル等の油圧式作業機械に油圧源として用いられる油圧ポンプにおいて、
溝付きシール部材20は、シールリップを有し、シールリップの大気側の面に全周に亘ってねじ溝が設けられた、油圧ポンプ。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2005-315398号公報(平成17年11月10日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0022】
図1に示すように、当該実施例に係るオイルシール1は、金属環3に加硫接着されたゴム状弾性材製のシールリップ2を有しており、このシールリップ2における、軸4の周面に摺動自在に密接する摺動部2aであってその大気側斜面2bに、全体を符号5で示す両方向ネジリブが設けられている。」

また、引用文献2の図1-4からは、両方向ネジリブ5が、金属環3の内周側に位置するシールリップ2の大気側斜面2bに、外周側から内周側に向かって形成されていることが看取できる。

(イ)上記の記載及び認定事項から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。
「オイルシールがシールリップ2と金属環3とを有し、シールリップ2の大気側斜面2bに両方向ネジリブ5を設け、両方向ネジリブ5を、金属環3の内周側に位置するシールリップ2の、外周側から内周側に向かって形成する技術。」

ウ 引用文献3
(ア)同じく原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2001-208210号公報(平成13年8月3日出願公開。以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0018】図1は本発明の一実施形態に係るオイルシールの軸方向の部分断面図、図2は同オイルシールの接触パターンを拡大して模式的に示す説明図である。
【0019】この実施形態は両方向ヘリックスシールを例示したもので、断面L字形の環状芯金5にはゴム等の弾性体6が該芯金5を抱き込むように焼き付けられており、弾性体6の内周側には環状のシールリップ1が形成されている。
【0020】このシールリップ1は、互いに逆向きに傾斜する大気側斜面1bとオイル側斜面1cとを備えた断面ほぼ楔形の環状のシールリップに形成され、内周側の先鋭端縁1aがシールリップ外周のガータスプリング7で内側へ付勢されて軸2に接触している。そして、このシールリップ1の大気側斜面1bには、本発明の特徴とする第一リブ群8と第二リブ群9が交互に複数群設けられている。」

また、引用文献3の図1からは、第一リブ群8と第二リブ群9が、環状芯金5の内周側に位置するシールリップ1の大気側斜面1bに、外周側から内周側に向かって形成されていることが看取できる。

(イ)上記の記載及び認定事項から、引用文献3には、次の技術が記載されていると認められる。
「オイルシールがシールリップ1と環状芯金5とを有し、シールリップ1の大気側斜面1bに第1リブ群8と第二リブ群9を設け、第1リブ群8と第二リブ群9を、環状芯金5の内周側に位置するシールリップ1の、外周側から内周側に向かって形成する技術。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「ポンプ駆動軸11」、「外周に設けられ」、「ポンプ内」及び「シールリップ」は、その意味、機能または構造からみて、本件補正発明の「主軸を回転中心軸として回転する回転伝達軸」、「挿嵌され」、「密封流体側」及び「シールリップ部」にそれぞれ相当する。
(イ)引用発明の「油圧ポンプ」は、油圧ショベル等の油圧式作業機械に油圧源として用いられるものであるから(引用文献1の段落【0001】参照。)、ポンプ駆動時にポンプ内の圧力が大気圧と比較して高圧になることは技術常識である。
そうすると、引用発明の「ポンプ内からの油漏れを防止する溝付きシール部材20」は、ポンプ駆動時に高圧となるポンプ内(密封流体側)と大気を遮断して油漏れを防止するものであるから、本件補正発明の「少なくとも密封流体側と大気圧とが異なる圧力であるときに前記回転伝達軸の密封流体側からの油漏れを封止する耐圧型オイルシール」と、「少なくとも密封流体側と大気圧とが異なる圧力であるときに前記回転伝達軸の密封流体側からの油漏れを封止するオイルシール」である限りにおいて一致する。
(ウ)引用発明の「シールリップの大気側の面」は、シールリップの大気側(大気圧側)とポンプ内(密封流体側)との間であって大気側に位置する面であるといえる。また、本件補正後の特許請求の範囲の請求項3、4の記載、及び本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)の段落【0034】の記載に鑑みれば、本件補正発明の「リブ」には、凸形状のものも凹形状のものも含まれることから、引用発明の「シールリップの大気側の面に全周に亘って」設けられた「ねじ溝」は、本件補正発明の「シールリップ部に設けられ大気圧側と密封流体側との間であって大気圧側に位置するリブ」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「主軸を回転中心軸として回転する回転伝達軸と、
回転伝達軸に挿嵌され、少なくとも密封流体側と大気圧とが異なる圧力であるときに回転伝達軸の密封流体側からの油漏れを封止するオイルシールと、を含む油圧ポンプにおいて、
オイルシールは、シールリップ部を有し、シールリップ部に設けられ大気圧側と密封流体側との間であって大気圧側に位置するリブが設けられた油圧ポンプ。」

<相違点>
本件補正発明は「オイルシール」が「金属環」を有する「耐圧型オイルシール」であり、「シールリップ部」の大気圧側に位置する「リブ」が、「金属環からシールリップ部に向かって形成されている」のに対し、引用発明の溝付きシール部材20は金属環を有する耐圧型オイルシールである点が明示されておらず、シールリップの大気側に設けられたねじ溝が金属環からシールリップに向かって形成されたものではない点。

(4)判断
ア 以下、相違点について検討する。

(ア)まず、本件補正発明の「リブ」が「金属環からシールリップ部に向かって形成されている」の意味について検討する。
本願の願書に最初に添付した図面の図2(b)、(c)からは、「リブ36」が「金属環30」の内周側に一定の間隔を空けて位置していることが看取できるから、本件補正発明の「前記金属環から前記シールリップ部に向かって形成され」た「リブ」には、金属環の内周側に一定の間隔を空けて位置するリブ、より具体的には、金属環の内周側に位置するシールリップ部の、外周側から内周側に向かって形成されたリブも含まれるものと認められる。

(イ)そして、オイルシールがシールリップ部と金属環とを有し、シールリップ部の大気圧側に位置するリブを、金属環の内周側に位置するシールリップ部の、外周側から内周側に向かって形成することは、引用文献2、3に記載されているように(上記(2)イ、ウ参照。)、本願の出願日前に周知技術であった。
引用発明と上記の周知技術は、いずれもオイルシールから漏れようとする油を、シールリップ部の大気圧側に設けたリブのポンピング作用によって密封流体側に戻す技術である点で作用が共通している。また、オイルシールの技術分野において、金属環は、オイルシールに剛性を付与し、ハウジング等への固定に必要な嵌め合い力を確保する目的で一般的に用いられるものであり、金属環を用いることでシール性能が高まることは自明の事項である。
そして、引用発明の油圧ポンプは、油圧ショベル等の油圧式作業機械に油圧源として用いられるものであり、本件補正発明の油圧ポンプと同一又は関連する技術分野(本願明細書の段落【0002】には、建設機械の油圧ポンプとして用いる点が記載されている。)で用いられるものであるから、本件補正発明と同程度の高圧下での使用を想定しているものと認められる。そうすると、引用発明においても、高圧下でのシール性能を確保すること、すなわち耐圧性を高めるという課題が内在していたといえる。
してみると、引用発明に引用文献2、3に記載の周知技術を適用し、a)溝付きシール部材20を金属環を有する構成とすることにより、高圧下でのシール性能を高めて耐圧型オイルシールとすること、b)シールリップの大気側の面に全周に亘って設けたねじ溝(リブ)が、金属環の内周側に位置するシールリップの、外周側から内周側に向かって形成されるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本件補正発明の「前記金属環から前記シールリップ部に向かって形成され」た「リブ」には、金属環の内周側に位置するシールリップ部の、外周側から内周側に向かって形成されたリブも含まれることから(上記(ア)参照。)、引用発明に上記周知技術を適用したものにおいて、溝付きシール部材20のねじ溝(リブ)は、金属環からシールリップに向かって形成されたものといえる。
したがって、引用発明を相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たことである。

イ そして、上記相違点を勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ 審判請求人の主張について
(ア)「耐圧型オイルシール」について
審判請求人は、審判請求書において次のとおり主張する。
「本願発明1は『耐圧型』との構成を有していますが、本発明の技術分野において、いわゆる『許容圧力』『限界圧力』が0.03MPa以下のものを通常のオイルシールと言い、0.3MPa以上2MPa以下のものを『耐圧型』又は『耐圧性』オイルシールと言います。本願発明1の『耐圧型』との構成も、『許容圧力』『限界圧力』が0.3MPa以上2MPa以下のものを意味しています。」(同請求書の3.(1)参照。)
「また、引用発明1は、『耐圧型』のものではありません。
そもそも文献1には『耐圧型』との構成は開示されていません。
さらに、引用文献1段落[0003]?[0006]の記載を参照すると、低温下で使用する場合に、シール部材2が硬化して追従性を失い、起動時にリップが開いて図7中に矢印で示すように油がポンプ外に漏れ出る場合を想定しており、高圧下で使用するいわゆる耐圧型を想定したものではなく、耐圧型との構成が記載されているに等しいとも言えないと考えられます。
そして、引用発明1が『耐圧型』のものであると考えることは、引用文献1の記載に矛盾するものと思われます。すなわち、耐圧型シールは、当該技術分野において、オイルシールに高い圧力が発生した際に生じるリップの変形、このリップの変形によるリップや軸の摩耗を防止、軽減したものとして認識されています。他方、引用文献1の段落[0019]における『また、リップ摩耗および軸摩耗に対する耐久性向上として、平行ネジと船底ネジとの組み合わせとする。』との記載に照らせば、『リップ摩耗および軸摩耗に対する耐久性向上』とあることから、リップや軸が摩耗することを前提に、その条件下であっても寿命(耐久性)を長く維持することを目的にしていると解釈できます。したがって、そもそも『耐圧型』とは摩耗そのものを防止、軽減することが目的であることからすると、上記引用文献1の記載内容に接した当業者が、引用発明1を『耐圧型』と想到することは有り得ません。」(同3.(2)(2-2)参照。)

しかしながら、本件補正後の請求項1や、本願明細書には、「耐圧型オイルシール」の詳細についての具体的な説明はなく、本願明細書の段落【0006】において非特許文献として記載された「新型耐圧シール 一般社団法人日本フルードパワーシステム学会誌 第39巻 第E1号 2008年8月 E39-E43」の記載を参酌しても、本件補正発明の「耐圧型オイルシール」が、「『許容圧力』『限界圧力』が0.3MPa以上2MPa以下のもの」を意味していると解釈することはできない。
また、引用発明は、低温下で使用する場合の起動時の油漏れを防止することを課題としているものの(引用文献1の段落【0002】、【0003】参照。)、引用発明においても高圧下でのシール性能を確保する(耐圧性を高める)という課題を内在していたことは上記ア(イ)で述べたとおりであり、引用発明の溝付きシール部材20に金属環を設けて耐圧型オイルシールとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、審判請求人が主張する「また、リップ摩耗および軸摩耗に対する耐久性向上として、平行ネジと船底ネジとの組み合わせとする。」との記載は、引用文献2に記載された事項であって、引用文献1に記載された事項ではない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

(イ)引用発明について
審判請求人は、審判請求書において次のとおり主張する。
「引用発明1は、『油溜まりを設けただけの公知技術によると、油圧ポンプにおいては、ポンプ駆動軸3を伝って外部に出る油は止めることができず、この点でシール性が不十分となっていた』との課題(明細書の段落[0008])を解決するために、『ポンプケースの内周下部に上記シール部材から漏れ出た油を溜める凹部としての油溜まりが設けられるとともに上記ポンプ駆動軸の外周に上記油溜まり側に向けて鍔状に突出する油切りが設けられ』(明細書の段落[0011]、請求項1)、これによって、『油溜めと油切りという二つの作用により、ポンプ外への油漏れを確実に防止することができる』(明細書の段落[0018])との作用効果を奏し、かかる作用効果を以て課題を解決するものです。
すなわち、引用発明1では、油溜まりと、油切りとを設けることが、必須の構成とされているのです。」(同3.(2)(2-2)参照。)
「引用発明1では、シール部材は、油を回収するべく、油面に接して設けられています。『油面に接する』との点は、油溜まりと、油切りとを設け、油回収を行うという引用発明1における必須の構成となっています。
かりに、引用発明1に対して引用文献2-3に記載のねじ付きシール部材を組み合わせると、引用文献2-3に記載のねじ付きシール部材は、引用発明1のポンプにおいて油面に接して設けられることになります。
しかし、本願発明は、『前記シールリップ部に設けられ前記大気圧側と前記密閉流体側との間であって大気圧側に位置するリブ』との構成を有しますから、上記の組み合わせでは本願発明に想到しないことになります。」(同3.(3)(3-2-1)参照。)
「油溜まりと、油切りとを設ける構成で、油漏れを防止することができるとの引用発明1において、必須の構成である油溜まりと油切りとを設ける構成を除外し、その上で、敢えてネジ付シール部材を設ける動機付けはありません。まして、その上で、さらにねじの位置を『前記シールリップ部に設けられ前記大気圧側と前記密閉流体側との間であって大気圧側に位置する』と変更する動機付けはありません。」(同3.(3)(3-2-2)参照。)

しかしながら、引用発明は、引用文献1の段落【0037】-【0044】、図4-5に記載された第3実施形態に基づくものであって、「油切り」が設けられることは必須の構成ではない。
また、本件補正発明の「シールリップ部に設けられ大気圧側と密封流体側との間であって大気圧側に位置するリブ」との構成は、引用発明に引用文献2-3に記載の技術を組み合わせることで導き出される構成ではなく、上記(3)で述べたとおり、引用発明が単独で有する構成である。
さらに、本件補正発明には、シールリップ部が油面に接するか否か(油溜まりを設けるか否か)については何ら特定されていないことから、引用発明のシールリップが「油溜まり」の存在を前提としていたとしても、その点をもって本件補正発明と引用発明との間に差異があるとは認められない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

仮に、本件補正発明が油溜まりを設けないことを特定していた場合についても検討しておく。引用文献1の段落【0040】、【0041】の記載に鑑みれば、油溜まり21は溝付きシール部材20から漏れ出てきた油を一時的に溜めるためのものであるから、シール部材のシール性能が高まった結果、ねじ溝のポンプ作用で全ての油をポンプ内部に吸引することが可能になれば、必ずしも油溜まりを設ける必要はないものと認められる(例えば引用文献2、3に記載の技術では、油溜まりを設けずにリブのポンプ作用のみによって油を吸引している。)。そして、引用発明に引用文献2ないし3の周知技術を適用した場合に、シール性能が高まることは上記ア(イ)において述べたとおりであるから、製造コストにも鑑みて、油溜まりを設けない構成とすることも、当業者であれば適宜なし得たことといえる。

エ 以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2ないし3に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年12月19日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年4月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし7に係る発明は、本願の出願日前に頒布された下記の引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし3に記載された技術、及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2004-360506号公報
引用文献2:特開2005-315398号公報
引用文献3:特開2001-208210号公報
引用文献4:特開平9-112702号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:実願平4-55662号(実開平6-16771号)のCD-ROM(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「シールリップ部」の「リブ」についての限定事項(「シールリップ部に設けられ前記大気圧側と前記密閉流体側との間であって大気圧側に位置するリブ」の下線部)を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2ないし3に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2ないし3に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-31 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-20 
出願番号 特願2015-145780(P2015-145780)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16J)
P 1 8・ 575- Z (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 聡保田 亨介葛原 怜士郎関口 眞夢  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
藤田 和英
発明の名称 油圧ポンプ  
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ  

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