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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1347608
審判番号 不服2018-641  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-17 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2016-146526「植物栽培用素材及びそれを利用した植物栽培方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月20日出願公開、特開2016-182147〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月5日(優先権主張 平成24年4月9日)を国際出願日とする特願2014-510153号の一部を、平成28年7月26日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 9月 8日:上申書
平成29年 8月 3日:拒絶理由通知(起案日)
平成29年 9月 5日:意見書
平成29年10月13日:拒絶査定(起案日)
平成30年 1月17日:審判請求書、手続補正書
平成30年 2月22日:手続補正書(方式、審判請求書)


第2 平成30年1月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年1月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成30年1月17日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項2に記載された発明は、次のとおり補正された(下線は補正箇所を示す。)。

(本件補正前)
「【請求項2】
植物が生育に必要とする要素を供給し、該植物の生育を促進させる栽培環境を提供する植物栽培用素材であって、前記植物の根が潤沢な空気を吸収できるように根が成長することを可能とする層状構造を有し、前記層状構造が、前記植物栽培用素材を構成する物質が二次元的に連続もしくは不連続に絡み合ってできた平面構造が該平面構造の層厚方向に積層された層状構造を有することを特徴とする植物栽培用素材。」

(本件補正後)
「【請求項2】
植物が生育に必要とする要素を供給し、該植物の生育を促進させる栽培環境を提供する植物栽培用素材であって、前記植物の根が潤沢な空気を吸収できるように根が成長することを可能とする層状構造を有し、前記層状構造が、前記植物栽培用素材を構成する物質が二次元的に連続もしくは不連続に絡み合ってできた平面構造が該平面構造の層厚方向に積層された三次元構造を有する層状構造である
ことを特徴とする植物栽培用素材。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「平面構造が該平面構造の層厚方向に積層された層状構造」について、上記のとおり「平面構造が該平面構造の層厚方向に積層された三次元構造を有する層状構造」と限定するものであって、本件補正前の請求項2に記載された発明と本件補正後の請求項2に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項2に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1) 本願補正発明
本件補正後の請求項2に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)は、上記1の「本件補正後」に記載したとおりのものである。

(2) 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用例2として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-275503号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】混合繊維ウェブを機械的に絡合した不織布であって、混合繊維ウェッブが植物質繊維と低融点ポリ乳酸系生分解性繊維とから成ることを特徴とする人工培地用不織布。
【請求項2】植物質繊維と低融点ポリ乳酸系生分解性繊維との混合比(重量%)が、50:50?70:30である請求項1に記載の人工培地用不織布。
【請求項3】肥料成分、成長促進剤等の栽培養分を含有した請求項1に記載の人工培地用不織布。
【請求項4】藻、水草、竹、木等の植物炭化粉末を含有した請求項1又は3に記載の人工培地用不織布。」

イ 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、主として植物工場や野菜工場における養液栽培に用いる人工培地用不織布及び人工培地の改良に関する。
・・・
【0009】【課題を解決するための手段】本発明に係る人工培地用不織布は、混合繊維ウェブを機械的に絡合した不織布であって、混合繊維ウェッブが植物質繊維と低融点ポリ乳酸系生分解性繊維とから成る。
【0010】この手段によれば、植物質繊維と低融点ポリ乳酸系生分解性繊維とが機械的に絡合されているから、優れた吸水性と保水性と熱成型性と生分解性とを有し、任意の立体形状の人工培地が炭酸ガス発生要因となる多量の熱量を消費することなく安価に成型される。
【0011】本発明において、植物質繊維と低融点ポリ乳酸系生分解性繊維との混合比(重量%)としては、50:50?70:30の範囲が好適である。というのは、植物質繊維の配合割合が50重量%未満になると、低融点成分が熱成型により樹脂化して、繊維充填密度が低下して、吸水性があっても保水性が低下する傾向になるからである。また、低融点ポリ乳酸系生分解性繊維の配合割合が30%未満になると、熱成型時の融着ポイントが少なくなるため、熱成型性が低下して高密度な培地の成型がし難くなり、また吸水時の形態安定性も低下する傾向になるからである。
【0012】本発明の人工培地用不織布は、育苗及び栽培期間をより一層短縮化することを考慮すると、肥料成分や成長促進剤等の栽培養分を含有することが好ましく、さらには藻、水草、竹、木等の植物炭化粉末を含有すると、粉末中のミネラル成分が成育をより一層増進して好適である。
・・・
【0014】この場合、人工培地用不織布が栽培養分及び植物炭化粉末を含有していると、栽培養分及び植物炭化粉末は、その養分及びミネラル成分が溶出可能な状態で、構成繊維に低融点ポリ乳酸系生分解性繊維の溶融固化によって固着され、人工培地の取扱い時に脱落することがないから好ましい。
【0015】この人工培地によると、吸水による形態変化の問題が解消され、また良好な吸水性能と保水性能を有するから、適度な湿り具合を保つことができる。・・・」

ウ 「【0016】【発明の実施の形態】発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】本発明に係る人工培地用不織布は、予め不純物を除去し、平滑性を付与するために油剤処理を施した植物質繊維(ジュート、パーム等)50?70重量%と、重合度を変えることにより融点を下げた低融点ポリ乳酸系生分解性繊維50?30重量%とを混合した繊維ウェッブを、機械的絡合手段によって交絡したものである。
・・・
【0020】また、人工培地用不織布には、植物や野菜の種類に応じて、リン酸カリウム、硫酸アンモニウム等の肥料成分や成長促進剤等の栽培養分と、ミネラル成分を含有する植物炭化粉末とを適宜調整して含浸することもある。
・・・
【0022】次に、本発明に係る人工培地Sは、上記人工培地用不織布1を、図1に示すように、帯状に裁断して渦巻き状に緊密に巻回して略円柱状に熱成型するか、図2に示すように、例えば3枚重ねて略四角形に打ち抜くか又は略四角形の打ち抜き品を積層して略立方体状に熱成型して成る。
【0023】この場合、人工培地Sは、・・・積層枚数と一辺の長さを適宜調整することにより任意の高さと大きさを有する立体形状に熱成型することができる。・・・
【0024】次に、図3は本発明の人工培地Sの使用方法の一例を示す。この例によるときは、人工培地Sは、養液栽培槽Aの適所に配置したマット台C上に、一部を養液Bに浸漬した吸水不織布Eを介して載置したものである。なお、図中Dは、養液栽培槽Aの上部をカバーするように設けた反射シートである。」

エ 「【0025】【実施例】(実施例1)
1.ウェッブ形成工程
ジュート繊維60%とポリ乳酸系生分解性繊維4dtex×51mm40%との混合繊維をウェッブ形成装置(カード)にかけて、重量300g/m^(2)の繊維ウェッブを作製した。
【0026】2.不織布加工工程
上記繊維ウェブをニードルパンチ装置にかけて、両面に各々パンチ数50p/m^(2),打ち込み深さ15mmの加工を施して、厚み3mmに調整したニードルパンチ加工不織布を作製した。
【0027】3.油剤洗浄及び養液含浸加工工程
上記ニードルパンチ加工不織布を下記配合条件の液に含浸加工し、養分付着量を2g/m^(2)になるようにマングルで調整した後、ポリ乳酸系生分解性繊維の融点以下の温度(例:100℃)にて乾燥して、人工培地用不織布を作製した。
配合条件 重量部
養分(リン酸カリウム) 100部
植物炭化粉末 2部
PH調整剤(水酸化ナトリウム) PH5.5に調整
濃度 2%
【0028】4.成型加工工程
所定巾に裁断した人工培地用不織布を、所定の大きさになるように渦巻状に巻回した後、ポリ乳酸系生分解性繊維の融点以上の温度(例:150℃)にて熱成型加工を施して、直径3.0cm×厚み2.0cmの円柱状の人工培地を作製した。
【0029】(実施例2)
1.ウェッブ形成加工工程
ジュート繊維50%とポリ乳酸系生分解性繊維4dtex×51mm50%との混合繊維をウェッブ形成装置(ランド)にかけて、重量300g/m^(2)の繊維ウェッブを作製した。
【0030】2.不織布加工工程
上記繊維ウェブをスパンレース装置にかけて、片面からウォータジェットパンチ加工を施して、厚み3mmに調整したニードルパンチ加工不織布を作製した。
【0031】3.油剤洗浄及び養液含浸加工工程
上記ニードルパンチ加工不織布を下記配合条件の液に含浸加工し、養分付着量を2g/m^(2)になるようにマングルで調整した後、ポリ乳酸系生分解性繊維の融点以下の温度(例:100℃)にて乾燥して、人工培地用不織布を作製した。
配合条件 重量部
養分(リン酸カリウム) 100部
濃度 2%
【0032】4.成型加工工程
人工培地用不織布の複数枚(例:3枚)を積層して円形、四角形、多角形等所定形状に打ち抜いて、ポリ乳酸系生分解性繊維の融点以上の温度(例:150℃)にて熱成型加工を施して、厚み2.7cm×縦3.0cm×横3.0cmの立方体状の人工培地を作製した。」

オ 「【0041】【発明の効果】本発明の人工培地用不織布によるときは、優れた吸水性と保水性と熱成型性と生分解性とを有するから、炭酸ガス発生要因となる多量の熱量を消費することなく、任意の立体形状の人工培地を安価に、簡単に成型することができる。
【0042】・・・また、立体形状の成型品であるから、育苗ポットにも簡単に装填でき、作業性を向上することができると共に、育苗・定植後の栽培においても吸水による形態変化が生じず、発根・成育条件が安定して植物の成長を早めることができる。さらに、栽培養分や植物炭化粉末を含有したときには、植物の成長をより一層促進することができ、植物の成長が早く生産性の高い植物工場や野菜工場に使用することができる。」

カ 図1は次のものである。


キ 図2は次のものである。


ク 上記ウに摘記した段落【0022】、【0023】の図2についての記載を参酌しつつ図2をみると、人工培地Sは、略四角形に打ち抜かれた人工培地用不織布1が上下方向に積層されて略立方体状に熱成型された層構造であり、積層される人工培地用不織布1は、層厚方向に薄い略直方体状であることが看て取れる。

ケ 図3は次のものである。


コ 上記ウに摘記した段落【0024】の図3についての記載を参酌しつつ図3をみると、人工培地Sは、養液栽培槽Aの適所に配置したマット台C上に、一部を養液Bに浸漬した吸水不織布Eを介して載置され、養液Bの液面より上の、空気中に露出した位置に置かれて使用されるものであることが看て取れる。

サ 上記アないしオ、及びキないしコからみて、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「優れた吸水性と保水性を有し、吸水による形態変化が生じず発根・成育条件が安定して植物の成長を早めることができ、さらに肥料成分や成長促進剤等の栽培養分や植物炭化粉末のミネラル成分を含有して植物の成長をより一層促進することができる、植物の養液栽培に用いる人工培地であって、
前記人工培地は、人工培地用不織布を積層し熱成型した構造であり、
前記人工培地用不織布は、植物質繊維と低融点ポリ乳酸系生分解性繊維とを混合した繊維ウェッブを、機械的絡合手段によって交絡したもので、
前記人工培地は、略四角形に打ち抜かれた前記人工培地用不織布が上下方向に積層されて略立方体状に熱成型された層構造であり、
積層される前記人工培地用不織布は、層厚方向に薄い略直方体状であり、
前記人工培地は、養液栽培槽の適所に配置したマット台上に、一部を養液に浸漬した吸水不織布を介して載置されて、養液の液面より上の、空気中に露出した位置に置かれて使用されるものである、
植物の養液栽培に用いる人工培地。」

(3) 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「人工培地」は、「優れた吸水性と保水性を有し、吸水による形態変化が生じず発根・成育条件が安定して植物の成長を早めることができ、さらに肥料成分や成長促進剤等の栽培養分や植物炭化粉末のミネラル成分を含有して植物の成長をより一層促進することができ」るものであり、「植物の養液栽培に用いる」もので「養液栽培槽の適所に配置したマット台上に、一部を養液に浸漬した吸水不織布を介して載置され」るものであるから、植物に水、肥料成分や栽培養分やミネラル成分、養液を供給するものと解される。
「人工培地」によって供給される水、肥料成分や栽培養分やミネラル成分、養液は、植物の生育に必要な要素であり、それらを供給する「人工培地」が、植物の生育を促進させる栽培環境を提供するものであることは明らかである。
よって、引用発明の、「優れた吸水性と保水性を有し、吸水による形態変化が生じず発根・成育条件が安定して植物の成長を早めることができ、さらに肥料成分や成長促進剤等の栽培養分や植物炭化粉末のミネラル成分を含有して植物の成長をより一層促進することができる、植物の養液栽培に用いる」ものであって、「養液栽培槽の適所に配置したマット台上に、一部を養液に浸漬した吸水不織布を介して載置されて」「使用されるものである、植物の養液栽培に用いる人工培地」は、
本願補正発明の「植物が生育に必要とする要素を供給し、該植物の生育を促進させる栽培環境を提供する植物栽培用素材」に相当する。

イ 引用発明の「人工培地」は「優れた吸水性と保水性を有し、吸水による形態変化が生じず発根・成育条件が安定して植物の成長を早めることができ、さらに肥料成分や成長促進剤等の栽培養分や植物炭化粉末のミネラル成分を含有して植物の成長をより一層促進することができる」ものであるから、その「層構造」が根が成長することを可能とする構造であることは自明である。
また、「層構造」と「層状構造」は同じ意味であるから、引用発明の「人工培地」の「略四角形に打ち抜かれた前記人工培地用不織布が上下方向に積層されて略立方体状に熱成型された層構造」と、
本願補正発明の「植物栽培用素材」の「植物の根が潤沢な空気を吸収できるように根が成長することを可能とする層状構造」とは、
「植物の根が成長することを可能とする層状構造」である点で共通する。

ウ (ア) a 本願補正発明の「植物栽培用素材を構成する物質が二次元的に連続もしくは不連続に絡み合ってできた平面構造」について、「植物栽培用素材」は立体的な形状を有し、完全な「二次元」で表されるものではない。したがって、「植物栽培用素材を構成する物質が二次元的に連続もしくは不連続に絡み合ってできた平面構造」の「二次元」とは、「二次元」という用語の一般的な定義(「長さと幅だけの広がり。平面の広がり。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])を厳密に意味しているのではないと解される。よって、「植物栽培用素材を構成する物質が二次元的に連続もしくは不連続に絡み合ってできた平面構造」とは、「植物栽培用素材を構成する物質」が厚みを有する平面状に広がって「連続もしくは不連続に絡み合ってできた」(厚みを有する)「平面構造」であることは明らかである。

b 引用発明の「人工培地用不織布」は、「層厚方向に薄い略直方体状」であるとともに、「植物質繊維と低融点ポリ乳酸系生分解性繊維とを混合した繊維ウェッブを、機械的絡合手段によって交絡したもの」であるから、「人工培地用不織布」を構成する繊維ウェッブの繊維同士を絡み合わせてできた「層厚方向に薄い略直方体状」であるといえる。

c a及びbより、引用発明の「人工培地用不織布」の、「植物質繊維と低融点ポリ乳酸系生分解性繊維とを混合した繊維ウェッブを、機械的絡合手段によって交絡したもの」であり「層厚方向に薄い略直方体状」という構造と、
本願補正発明の「植物栽培用素材を構成する物質が二次元的に連続もしくは不連続に絡み合ってできた平面構造」とは、
「植物栽培用素材を構成する物質が二次元的に絡み合ってできた平面構造」である点で共通する。

(イ) さらに、引用発明の「層構造」の「人工培地用不織布が上下方向に積層されて略立方体状に熱成型された」構造は、本願補正発明の「層状構造」の「平面構造が該平面構造の層厚方向に積層された三次元構造」に相当する。

以上アないしウより、本願補正発明と引用発明は、下記の点で一致している。

[一致点]
「植物が生育に必要とする要素を供給し、該植物の生育を促進させる栽培環境を提供する植物栽培用素材であって、
前記植物の根が成長することを可能とする層状構造を有し、
前記層状構造が、前記植物栽培用素材を構成する物質が二次元的に絡み合ってできた平面構造が該平面構造の層厚方向に積層された三次元構造を有する層状構造である
植物栽培用素材。」

他方、本願補正発明と引用発明は、下記の点で相違する。

[相違点1]
「植物栽培用素材を構成する物質」が絡み合うことについて、
本願補正発明では、「連続もしくは不連続」に絡み合ってできた構造と特定されているのに対し、
引用発明はそのような特定を有していない点。

[相違点2]
「根が成長することを可能とする」ことについて、
本願補正発明では「植物の根が潤沢な空気を吸収できるように」とされているのに対し、
引用発明はそのような特定を有していない点。

(4) 判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
相違点1に係る本願補正発明の構成の「連続もしくは不連続」に絡み合ってできた構造とは、連続であっても不連続であっても絡み合っていることには変わりなく、「絡み合ってできた」こと以上の意味を含むものではないと解することが自然である。
そして、引用発明においても、上記したように繊維が絡み合ってできているものであるから、相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
根が、植物の成長のために、水や養分のみならず空気を吸収するものであることは、文献を示すまでもなく技術常識である。そして引用発明は植物の成長を早めるあるいは一層促進するものであり、引用発明の「人工培地」は「空気中に露出した位置に置かれて使用されるものである」ことから、根が空気を吸収できるような層状構造であることは明らかである。
さらに、本願補正発明が「潤沢な」空気を吸収できるようにと特定している点について検討すると、「潤沢」という用語の一般的な意味(「物資や利益などが豊富にあること。十分ゆとりのあること。「?な資源」「資金を?に使う」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])から、当該特定は空気を「十分」に吸収できるという程度の意味と解される(なお本願明細書を参照しても、「潤沢」について上記一般的な意味を超えるような特段の説明はない。)。そして上述のように、引用発明は植物の成長を早めるあるいは一層促進するものであるから、上記技術常識からすれば、根が空気を「十分」吸収できるような構造であることは明らかである。

以上のとおりであるから、相違点2は実質的な相違点ではない、あるいは、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成30年2月22日付けの手続補正書により補正された審判請求書において(「(3)本願各発明と各引用文献との対比」の「(3-6)本願請求項2と引用文献2との対比」。)、下記の主張をしている。

「本願請求項2に記載の発明は、層状構造が、前記植物栽培用素材を構成する物質が二次元的に連続もしくは不連続に絡み合ってできた平面構造が該平面構造の層厚方向に積層された三次元構造を有する層状構造であることによって、植物が生育に必要とする要素を供給し、植物の生育を促進させる栽培環境を提供するとともに、植物の根が潤沢な空気を吸収できるように根が成長することを可能とするという効果を奏するものです。
引用文献2に開示される混合繊維ウェブを機械的に絡合して不織布は、上記の本願請求項2に記載の層状構造を有するものではありません。
更に、・・・引用文献2の図1及び図2に示された構造では、各不織布層の間では低融点ポリ乳酸系生分解性繊維の溶融による融着が生じでおり、本願請求項2に記載される植物栽培用素材を構成する物質が絡み合った平面構造の積層による三次元構造を形成しておりません。
言い換えれば、引用文献2の図1及び図2に示された構造では、不織布の積層構造は全体として一体化されて均質な構造を有し、本願請求項2に記載される層状構造とは大きく異なるものとなっております。
更に、引用文献2には、・・・根の伸長効果の更なる向上についての記載や示唆は全くありません。特に、引用文献2の図1及び図2に示された構造では不織布層間が融着しており、その結果この層間での根の伸長効果の更なる向上は期待できません。これに対して、本願請求項2にかかる層状構造では、平面構造間においても根の更なる伸長効果の更なる向上が期待できます。すなわち、本願請求項2に記載される上記の特定の層状構造によって、植物が生育に必要とする要素の供給と、植物の根が潤沢な空気を吸収できるように根が成長することを可能として植物の生育を促進させる栽培環境の提供と、の両方の機能を植物栽培用素材が満たす、という本願請求項2に記載の発明の効果に関する記載や示唆も引用文献2には全くありません。」

以下、上記主張について検討する。
「植物の根が成長することを可能とする層状構造」において引用発明は本願補正発明と一致することは上記(3)で検討したとおりであり、さらに本願補正発明で「層状構造」が「植物の根が潤沢な空気を吸収できるように」とされている点(上記相違点2)においても、引用発明は本願補正発明と実質的に相違しない、あるいは引用発明において本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得るということは上記イで検討したとおりである。
付言すると、上記(2)エに摘記した引用文献2の段落【0029】?【0032】によれば、「ジュート繊維50%とポリ乳酸系生分解性繊維4dtex×51mm50%との混合繊維」から「繊維ウェッブを作製」し、その繊維ウェブから「ニードルパンチ加工不織布を作製」し、その後、「(人工培地用)不織布の複数枚(例:3枚)を積層して円形、四角形、多角形等所定形状に打ち抜いて、ポリ乳酸系生分解性繊維の融点以上の温度(例:150℃)にて熱成型加工を施して、厚み2.7cm×縦3.0cm×横3.0cmの立方体状の人工培地を作製」している。これらの記載から見て、積層された不織布間には、ニードルパンチ加工は行われていないわけであるから、熱成型加工を施したとしても、不織布そのものと不織布間には、上記ニードルパンチ加工の有無による繊維の交絡状態の差があることになり、複数枚の不織布を熱成型加工したものは一種の層状をなしていると認識できるものである。
また本願請求項2及び明細書の記載をみても、層状構造における層間の加工について具体的な構成は何ら限定されていないし、熱成型することを排除する記載もないため、引用発明と比較して「本願請求項2にかかる層状構造では、平面構造間においても根の更なる伸長効果の更なる向上が期待でき」るとの主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものとは言えない。
以上より、請求人の主張は採用できない。

エ したがって、本願補正発明は引用例に記載された発明である。
あるいは、本願補正発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(5) 本件補正の適否についてのむすび
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、出願時の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1の「本件補正前」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
この出願の請求項1ないし7に係る発明は、
本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1または2に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、
あるいは、引用例1または2に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない、
というものである。

引用例1:特開2008-199899号公報
引用例2:特開2001-275503号公報(上記第2の2(2)の引用例。)

3 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記第2の2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
上記第2の1に記載したように、本願発明は、上記第2の2で検討した本願補正発明から、「層状構造」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2の2(4)で説示したとおり、引用発明と同一、あるいは、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明と同一、あるいは、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先日前に頒布された引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、
あるいは、引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-31 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-20 
出願番号 特願2016-146526(P2016-146526)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A01G)
P 1 8・ 121- Z (A01G)
P 1 8・ 575- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 勝久  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 前川 慎喜
住田 秀弘
発明の名称 植物栽培用素材及びそれを利用した植物栽培方法  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 宮崎 昭夫  

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