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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16J
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16J
管理番号 1347628
異議申立番号 異議2018-700219  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-12 
確定日 2018-11-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6214468号発明「静圧型ノンコンタクトガスシール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6214468号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6214468号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。 特許第6214468号の請求項1についての特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6214468号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成26年5月26日に特許出願され、平成29年9月29日にその特許権の設定登録がされ、平成29年10月18日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について平成30年3月12日に特許異議申立人光田敦(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年6月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年7月19日に意見書の提出及び訂正の請求があり、平成30年8月7日付け(発送日8月14日)で、異議申立人に訂正の請求があった旨の通知をするとともに、当該通知の発送の日から30日以内に意見書の提出を求めたが、異議申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否の判断
1 訂正の内容
平成30年7月19日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、「特許請求の範囲の請求項1を削除する。」(以下、「訂正事項1」という。)というものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また、訂正前の請求項1を削除することは、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正前の請求項1に対して異議申立人から特許異議の申し立てがされているので、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正事項1について特許独立要件は課されない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1について、訂正することを認める。

第3 特許異議の申立について
1 本件発明
本件特許の請求項2ないし4に係る発明(以下、「本件発明2」ないし「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項2ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項2】
回転軸の軸方向に沿って並設される1次シールと2次シールとを備え、
前記1次シール及び前記2次シールが、それぞれ前記回転軸に一体回転可能に取り付けられる環状の回転密封環と、ケーシングに固定され前記回転密封環と軸方向に対向する環状の静止密封環と、当該静止密封環のシール面と前記回転密封環のシール面との間にシールガスを供給するガス供給路と、前記静止密封環及び回転密封環のうちの一方を他方に向けて付勢する弾性部材と、を備え、
前記1次シールによって、前記各密封環のシール面を挟んで軸方向一方側の被密封ガスが充填される1次側第1空間と軸方向他方側の1次側第2空間とが仕切られており、
前記2次シールによって、前記各密封環のシール面を挟んで軸方向一方側の2次側第1空間と軸方向他方側の2次側第2空間とが仕切られているとともに、前記2次側第1空間が前記1次側第2空間と連通しており、
前記1次側第2空間及び2次側第1空間に、当該1次側第2空間及び2次側第1空間に流出したガスを排出するガス排出路が接続されているとともに、
前記1次シールに、前記1次側第1空間とガス供給路とを接続して1次側第1空間内の被密封ガスを当該1次シールのシールガスとして各密封環のシール面の相互間に供給するガス供給装置が設けられていることを特徴とする静圧型ノンコンタクトガスシール。
【請求項3】
前記ガス排出路を通して排出されるガスから有害物質を除去するガス浄化装置をさらに備える請求項2に記載の静圧型ノンコンタクトガスシール。
【請求項4】
前記ガス供給装置が、前記1次側第1空間内から導入した被密封ガスの圧力を高めてシールガスとする増圧器を備えている請求項2又は3に記載の静圧型ノンコンタクトガスシール。」

2 異議申立理由の概要(進歩性)
異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に示されている慣用手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、当該請求項1に係る特許を取り消すべき旨主張(以下、「異議理由1」という。)し、また、本件特許の請求項2ないし4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明(以下、「甲3発明」という。)並びに甲第1号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、当該請求項2ないし4に係る特許を取り消すべき旨主張(以下、「異議理由2」という。)している。

甲第1号証:特開2004-308754号公報
甲第2号証:鷲田彰、新・メカニカルシール 初版 第1刷、日刊工業新聞社、1982.12.25、p.12-21、p.150-153
甲第3号証:特開2000-18392号公報
甲第4号証:特開2004-108170号公報
甲第5号証:渡辺康博、現場の即戦力 よくわかるシール技術の基礎 初版 第1刷、技術評論社、2009.05.01、p.212-215
甲第6号証:特開2011-231880号公報
甲第7号証:特開平9-60734号公報

3 取消理由の概要
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4 異議理由1について
上記第2で述べたとおり、本件訂正請求は認められることとなり、訂正事項1による訂正により本件特許の請求項1は削除された。
したがって、当該請求項1に係る発明についての特許異議申立ては、対象となる請求項が存在しないので、却下する。

5 異議理由2について
(1)甲号証の記載
ア 甲第3号証の記載及び甲3発明
甲第3号証には、「タンデムシール型ドライガスシール装置」に関し、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。以下同様。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コンプレッサ、タービン等の回転機械における回転軸の軸端側に設けられ、同回転機械の内外部間で軸封を行うシール部を直列に複数配列したタンデムシール構造を採用したドライガスシール装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】コンプレッサ、タービン等の回転機械内を軸封するために従来より種々の形式のシール装置が採用されている。
【0003】その中の1種であるドライガスシール装置は、油圧供給装置が不要であること、非接触タイプのものであるため動力損失が少ないこと、また、シールガスの漏れがほとんど無いこと等々の利点を有することから、実機に対する適用件数が近年急速に増加している。」

(イ)「【0006】従来のタンデムシール構造のドライガスシール装置は、回転軸側に保持された回転部に対しケーシング側に保持された静止部との間でシール面を形成するが、同静止部を複数組(通常は2組であるが3組の場合もある)設けることによりシール面を複数形成し、これを軸方向に直列に配列している。
【0007】すなわち、図2に示す様に、回転軸1に対して軸方向に間隔をおいてOリング3、4で保持されたドライガスシールスリーブ2は、半径方向にフランジ状に張り出す張出部28aを有するカラー28と、これに続いて軸端側(機外側)に配置された他のカラー29をそれぞれその外周側に配置している。」

(ウ)「【0021】
【発明の実施の形態】本発明の実施の一形態について図1に基づいて説明する。なお、前記した従来のものと同一部分については、図中に同一符号を付して示し、重複する説明は極力省略して本実施の形態に特有の点を中心に説明する。
【0022】すなわち、本実施の形態においては、ドライガスシールスリーブ2の長手方向中央部に、半径方向に張り出すフランジ状の張出部2aを形成し、この張出部2aの機内側の面と機外側の面に対称配列となるようにメイティングリング8、12をそれぞれ配置し、それをOリング5、6又は9、10、回り止めピン7又は11で張出部2aに保持し、かつカラー28又は29で支えて回転部の主要部分を構成している。
【0023】そして前記ドライガスシールスリーブ2の張出部2aを中心位置として、機内側と機外側で対称配列となるようにシールリング16又は21、これらをバネ部材14または19で加圧支持するリテーナ13又は18等々で構成される静止部を配列し、機内側のシールリング16とメイティングリング8との間、及び機外側のシールリング21とメイティングリング12との間にそれぞれシール面を形成している。」

(エ)「【0026】図1に示す状態に設定された本実施形態のシール装置によるシーリング作用について述べれば、流路aのシールガス供給通路から供給されるシールガスは、リテーナ13の内周側からシールリング16とメイティングリング8で形成するシール面に至り、このシール面を半径方向外方へ流れて通過したものは、流路bの機内側シールガスリーク通路を経て外部へ出る。
【0027】また、これと並行して流路cのアイソレイションガス供給通路を経て供給されたアイソレイションガスは、シールリング21とメイティングリング12で形成するシール面に至り、このシール面を半径方向内方へ流れて通過したものは、リテーナ18の内周側を経て流路dのアイソレイションガスリーク通路から外部へ出ていく。
【0028】なお、前記シールガスは機内ガスと実質的に同一でフィルター等にて清浄化されたものが図示省略の機内ガス源流側から供給され、また、アイソレイションガスとしてはイナートガス系の例えばN_(2 )ガスが図示省略の供給源から供給される様になっている。
【0029】そしてアイソレイションガスは、機内側シールリークガスが大気側へ漏れることをシールする関係にあり、機内側シールガスリーク通路より若干高い圧力に設定されている。」

(オ)記載事項(イ)の「回転軸側に保持された回転部」(段落【0006】)との記載及び記載事項(ウ)の「この張出部2aの機内側の面と機外側の面に対称配列となるようにメイティングリング8、12をそれぞれ配置し、それをOリング5、6又は9、10、回り止めピン7又は11で張出部2aに保持し、かつカラー28又は29で支えて回転部の主要部分を構成し」(段落【0022】)との記載から、メイティングリング8、12は回転軸側に保持されるから、メイティングリング8、12は回転軸1に対して一体回転可能に取り付けられていると認められる。

(カ)記載事項(イ)の「ケーシング側に保持された静止部」(段落【0006】)との記載及び記載事項(ウ)の「機内側と機外側で対称配列となるようにシールリング16又は21、これらをバネ部材14または19で加圧支持するリテーナ13又は18等々で構成される静止部を配列し」(段落【0023】)との記載から、シールリング16、21はケーシング側に保持されていることが理解できるから、シールリング16、21はケーシングに固定されていると認められる。

(キ)【図1】からは、機内側シールと機外側シールが回転軸1の軸方向に沿って並設された構造、
シールリング16のシール面とメイティングリング8のシール面との間にシールガスを供給する機内側のガス供給路がシールリング16に設けられた構造、
シールリング21のシール面とメイティングリング12のシール面との間にアイソレイションガスを供給する機外側のガス供給路がシールリング21に設けられた構造、
機内側シールによって、メイティングリング8及びシールリング16のシール面を挟んで軸方向一方側の機内ガスが充填される機内側の空間と軸方向他方側の機内側シールハウジング17の内周面とメイティングリング8及びシールリング16の外周面との間の空間とが仕切られている構造、
機外側シールによって、メイティングリング12及びシールリング21のシール面を挟んで軸方向一方側の機外側シールハウジング22の内周面とメイティングリング12及びシールリング21の外周面との間の空間と軸方向他方側の機外側の空間とが仕切られている構造、及び、
機内側シールハウジング17の内周面とメイティングリング8及びシールリング16の外周面との間の空間と、機外側シールハウジング22の内周面とメイティングリング12及びシールリング21の外周面との間の空間との間を仕切るラビリンスシールがドライガスシールスリーブ2のフランジ状の張出部2aに設けられた構造が見て取れる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容を、本件発明2の記載ぶりに則って整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲3発明]
「回転軸1の軸方向に沿って並設される機内側シールと機外側シールとを備え、
前記機内側シール及び前記機外側シールが、それぞれ前記回転軸1に一体回転可能に取り付けられるメイティングリング8、12と、ケーシングに固定され前記メイティングリング8、12と軸方向に対向するシールリング16、21と、シールリング16のシール面とメイティングリング8のシール面との間にシールガスを供給する機内側のガス供給路と、シールリング21のシール面とメイティングリング12のシール面との間にアイソレイションガスを供給する機外側のガス供給路と、前記シールリング16、21をメイティングリング8、12に向けて加圧するバネ部材14、19と、を備え、
前記機内側シールによって、メイティングリング8及びシールリング16のシール面を挟んで軸方向一方側の機内ガスが充填される機内側の空間と軸方向他方側の機内側シールハウジング17の内周面とメイティングリング8及びシールリング16の外周面との間の空間とが仕切られており、
前記機外側シールによって、メイティングリング12及びシールリング21のシール面を挟んで軸方向一方側の機外側シールハウジング22の内周面とメイティングリング12及びシールリング21の外周面との間の空間と軸方向他方側の機外側の空間とが仕切られているとともに、機内側シールハウジング17の内周面とメイティングリング8及びシールリング16の外周面との間の空間と、機外側シールハウジング22の内周面とメイティングリング12及びシールリング21の外周面との間の空間との間に、ラビリンスシールが設けられており、
機内側シールハウジング17の内周面とメイティングリング8及びシールリング16の外周面との間の空間に、機内側シールガスリーク通路である流路bが接続され、機外側シールハウジング22の内周面とメイティングリング12及びシールリング21の外周面との間の空間に、アイソレイションガス供給通路である流路cが接続されるとともに、
前記機内側シールに、シールガス供給通路である流路aから機内側ガスと実質的に同一なシールガスを前記機内側の空間に供給し、機内側の空間内の機内ガスを当該機内側シールのシールガスとしてメイティングリング8及びシールリング16のシール面の相互間に供給する、ドライガスシール装置。」

イ 甲第1号証の記載
甲第1号証には、「軸封装置」に関し、以下の事項が記載されている。
「【0018】
このメカニカルシール20は、機内側のシールガス空間B1と機外側のシールガスリーク空間B2との間に配置されて、シールガス空間B1がシールガスリーク空間B2よりも高圧となることにより、両シール面21a,22a間に微小な間隙を生じさせ、回転シール部材21と静止シール部材22との間を非接触でシールすることができる。
シールガス空間B1には、シールケース40に形成されたシールガス供給ポート41からシールガスgが供給される。このシールガスgによって、シールガス空間B1はシールガスリーク空間B2よりも高圧となり、回転側シール面21aおよび静止側シール面22a間からリークしたシールガスgは、シールケース40に設けられたシールガス放出ポート42を通じてシールガスリーク空間B2から排出される。
【0019】
シールガス供給ポート41には、流体圧縮機Mで圧縮された高圧の機内ガスGを供給する機内ガス供給路50が接続されている。この機内ガス供給路50の中途には、ここを通過するガスを濾過するフィルタFが設けられており、シールガス空間B1には、機内ガス供給路50を通じてフィルタFで濾過された清浄な(異物や油分を含有しない)機内ガスGがシールガスgとして供給される。
つまり、シールガスgは、流体圧縮機Mにて圧縮された高圧ガスをフィルタFで濾過して得られた、油分や異物を含まない清浄なガスである。そして、シールガスリーク空間B2から排出されたシールガスgは、フレアにて燃焼処理するか、あるいは被圧縮ガスとして流体圧縮機Mに再供給することもできる。」

ウ 甲第4号証の記載
甲第4号証には、「遠心圧縮機」に関し、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0025】
このガスシール31は、バッファガス領域Bに高圧のバッファガスGを供給されて高圧となることにより、両シール面31a,31b間に微小な間隙を生じさせ、回転シール部材31Aと静止シール部材31Bとの間を非接触でシールすることができる。」

(イ)「【0031】
次に、本実施形態の遠心圧縮機10全体の機能について説明する。
遠心圧縮機10が運転中であるとき、吸入口20aから機内に吸入されたガスgは、各段のインペラ12およびディフューザ21を通過して圧縮され、吐出口20bから機外へと吐出される。ディフューザ21から抜き出されたガスgは機内領域Aで圧縮されて高圧となっており、バッファガス供給路22を経由してフィルタFで濾過された後、バッファガスGとしてバッファガス領域Bに供給されている。」

エ 甲第6号証の記載
甲第6号証には、「ドライガスシール構造」に関し、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0024】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の第1実施形態に係るドライガスシール構造の構成について説明する。図1は、本実施形態のドライガスシール構造10を示した概略縦断面図である。ドライガスシール構造10は、複数の流路11が形成されたハウジング12と、ハウジング12を貫通して設けられ回転駆動される回転軸13と、回転軸13を回転自在に支持する軸受け14と、軸受け14に潤滑油を供給する潤滑用油ポンプ15と、回転軸13に沿って設けられた第1シール構造16及び第2シール構造17と、ハウジング12の第1シール構造16より機内側に設けられた2個の機内側ラビリンス18と、ハウジング12の第2シール構造17より機外側に設けられた2個の機外側ラビリンス19と、循環配管路20を介して第1シール構造16より機内側に接続されたCO2循環システム21と、排出配管路22を介して第1シール構造16より機外側に接続されたリーク排出システム23と、を備えている。」

(イ)「【0027】
このように構成される第1シール構造16によれば、回転軸13の回転が停止している時は、コイルバネ27の付勢力により、静止環28のシール面28aが回転環25のシール面25aに密着する。これにより、機内のCO_(2)が機外へ漏れ出さないよう、回転軸13とハウジング12の間が第1シール構造16によって密封される。一方、回転軸13が回転し始めると、機内のCO_(2)が、回転環25のシール面25aに形成された螺旋状の溝(不図示)の内部に導入され、その動圧効果によって回転環25と静止環28との間に微小なシール隙間30が生じる。そして、機内のCO_(2)のうち微量だけが、このシール隙間30を通過し、リテーナ26とシャフトスリーブ24の間に形成された流通路31を経て、第3流路11Cからリーク排出システム23へ排出される。このように、機内のCO_(2)が微量だけ外部へ漏れ出すことにより、その余の大部分のCO_(2)が機外へ漏れ出さないよう、回転軸13とハウジング12の間が第1シール構造16によって密封される。
【0028】
前記第2シール構造17は、前述のように第1シール構造16のシール隙間30を通過した微量なCO_(2)が、リーク排出システム23以外の機外へ漏れ出すのを防止するためのものである。この第2シール構造17の構成は、第1シール構造16と同じであるため、第1シール構造16と同じ符号を用い、その説明を省略する。このように構成される第2シール構造17によれば、第1シール構造16のシール隙間30を通過した微量なCO_(2)のうち、更にその一部のCO_(2)が第2シール構造17のシール隙間30を通過することにより、その余の大部分のCO_(2)が機外へ漏れ出すことが防止される。そして、第1シール構造16を通過した微量のCO_(2)は、その大部分が第3流路11Cを通って機外に排出される。また、第1シール構造16が損傷等によりシール機能を喪失した際、第2シール構造17がバックアップとして第1シール構造16のシール機能を代替する。尚、本実施形態では、第1シール構造16に加えて第2シール構造17も設けることでいわゆるタンデム構造としたが、この第2シール構造17は本発明に必須の構成ではなく、第1シール構造16だけを備えた構成としてもよい。」

オ 甲第7号証の記載
甲第7号証には、「ドライガスシールにおける漏洩ガスの回収装置」に関し、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】従来のターボ機械用ドライガスシールの1例が図2に示されている。ドライガスシール10の一次シールに供せられるプロセスガスはフィルター21及び圧力制御弁22を通って内側シール室23に送られる。内側シール室23のシール圧力はハウジング内24より僅かに高い圧力となるよう圧力制御弁22によって調圧されている。
【0003】内側シール室23に入ったプロセスガスの一部はラビリンス25を通ってハウジング内24に入り、残部は一次シール26を通って外側シール室27に出る。外側シール室27に入ったプロセスガスの大部分はオリフィス28で減圧されてフレアに送られるか或いは大気中に放出されるが、一部は二次シール31を通って室30に出る。
【0004】室30内に入ったプロセスガスが更に機外に漏洩するのを防止するため、窒素等の不活性ガスがパージライン29から室30内に供給されこの不活性ガスは室30内に漏洩したプロセスガスとともに大気中に放出される。」

(2)当審の判断
ア 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「回転軸1」は本件発明2の「回転軸」に相当し、以下同様に、「機内側シール」は「1次シール」に、「機外側シール」は「2次シール」に、「メイティングリング8、12」は「環状の回転密封環」に、「シールリング16、21」は「環状の静止密封環」に、「加圧する」ことは「付勢する」ことに、「バネ部材14、19」は「弾性部材」に、機内側シールの「メイティングリング8及びシールリング16のシール面」は1次シールの「前記各密封環のシール面」に、「機内ガス」は「被密封ガス」に、「機内側の空間」は「1次側第1空間」に、「機内側シールハウジング17の内周面とメイティングリング8及びシールリング16の外周面との間の空間」は「1次側第2空間」に、機外側シールの「メイティングリング12及びシールリング21のシール面」は2次シールの「前記各密封環のシール面」に、「機外側シールハウジング22の内周面とメイティングリング12及びシールリング21の外周面との間の空間」は「2次側第1空間」に、「機外側の空間」は「2次側第2空間」に、「ドライガスシール装置」は「静圧型ノンコンタクトガスシール」に、それぞれ相当する。
また、甲3発明の「シールガス」及び「アイソレイションガス」は、本件発明2の「シールガス」に相当するから、甲3発明の「シールリング16のシール面とメイティングリング8のシール面との間にシールガスを供給する機内側のガス供給路」及び「シールリング21のシール面とメイティングリング12のシール面との間にアイソレイションガスを供給する機外側のガス供給路」は、本件発明2の「当該静止密封環のシール面と前記回転密封環のシール面との間にシールガスを供給するガス供給路」に相当する。

したがって、本件発明2と甲3発明とは
「回転軸の軸方向に沿って並設される1次シールと2次シールとを備え、
前記1次シール及び前記2次シールが、それぞれ前記回転軸に一体回転可能に取り付けられる環状の回転密封環と、ケーシングに固定され前記回転密封環と軸方向に対向する環状の静止密封環と、当該静止密封環のシール面と前記回転密封環のシール面との間にシールガスを供給するガス供給路と、前記静止密封環及び回転密封環のうちの一方を他方に向けて付勢する弾性部材と、を備え、
前記1次シールによって、前記各密封環のシール面を挟んで軸方向一方側の被密封ガスが充填される1次側第1空間と軸方向他方側の1次側第2空間とが仕切られており、
前記2次シールによって、前記各密封環のシール面を挟んで軸方向一方側の2次側第1空間と軸方向他方側の2次側第2空間とが仕切られている静圧型ノンコンタクトガスシール。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。

[相違点]
本件発明2は「前記2次側第1空間が前記1次側第2空間と連通しており、
前記1次側第2空間及び2次側第1空間に、当該1次側第2空間及び2次側第1空間に流出したガスを排出するガス排出路が接続されているとともに、
前記1次シールに、前記1次側第1空間とガス供給路とを接続して1次側第1空間内の被密封ガスを当該1次シールのシールガスとして各密封環のシール面の相互間に供給するガス供給装置が設けられている」のに対し、甲3発明は「機内側シールハウジング17の内周面とメイティングリング8及びシールリング16の外周面との間の空間と、機外側シールハウジング22の内周面とメイティングリング12及びシールリング21の外周面との間の空間との間に、ラビリンスシールが設けられており、
機内側シールハウジング17の内周面とメイティングリング8及びシールリング16の外周面との間の空間に、機内側シールガスリーク通路である流路bが接続され、機外側シールハウジング22の内周面とメイティングリング12及びシールリング21の外周面との間の空間にアイソレイションガス供給通路である流路cが接続されるとともに、
前記機内側シールに、シールガス供給通路である流路aから機内側ガスと実質的に同一なシールガスを前記機内側の空間に供給し、機内側の空間内の機内ガスを当該機内側シールのシールガスとしてメイティングリング8及びシールリング16のシール面の相互間に供給する」点。

(イ)相違点の検討
以下、相違点について検討する。

甲第3号証の「前記シールガスは機内ガスと実質的に同一でフィルター等にて清浄化されたものが図示省略の機内ガス源流側から供給され、また、アイソレイションガスとしてはイナートガス系の例えばN_(2 )ガスが図示省略の供給源から供給される様になっている。」(段落【0028】)との記載からみて、甲3発明においては、流路aと流路bの間のシールガスが流れる空間と、流路cと流路dの間のアイソレイションガスが流れる空間とは、実質的に分断されていると認められる。
そうすると、甲3発明において、当該空間同士を分断するラビリンスシールを省略する動機付けはないといえる。

また、甲第1号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証のいずれにも、2次シールのシール面にシールガスを供給するガス供給路を設け、2次側第1空間に流出したガスを排出するガス排出路が1次側第2空間及び2次側第1空間に接続された本件発明2の構成は、記載も示唆もされていない(なお、甲第2号証及び甲第5号証にも記載も示唆もされていない)から、仮に甲3発明のラビリンスシールを省略して、機内側シールハウジング17の内周面とメイティングリング8及びシールリング16の外周面との間の空間と、機外側シールハウジング22の内周面とメイティングリング12及びシールリング21の外周面との間の空間とを接続したとしても、甲第1号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された事項から、上記相違点に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲3発明並びに甲第1号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明2をさらに減縮したものであるから、本件発明2についての判断と同様の理由により、本件発明3及び4は、甲3発明並びに甲第1号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第4 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項2ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1は平成30年7月19日の訂正請求により削除されたので、請求項1に係る特許についての特許異議申立は対象となる請求項が存在しないので却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
回転軸の軸方向に沿って並設される1次シールと2次シールとを備え、
前記1次シール及び前記2次シールが、それぞれ前記回転軸に一体回転可能に取り付けられる環状の回転密封環と、ケーシングに固定され前記回転密封環と軸方向に対向する環状の静止密封環と、当該静止密封環のシール面と前記回転密封環のシール面との間にシールガスを供給するガス供給路と、前記静止密封環及び回転密封環のうちの一方を他方に向けて付勢する弾性部材と、を備え、
前記1次シールによって、前記各密封環のシール面を挟んで軸方向一方側の被密封ガスが充填される1次側第1空間と軸方向他方側の1次側第2空間とが仕切られており、
前記2次シールによって、前記各密封環のシール面を挟んで軸方向一方側の2次側第1空間と軸方向他方側の2次側第2空間とが仕切られているとともに、前記2次側第1空間が前記1次側第2空間と連通しており、
前記1次側第2空間及び2次側第1空間に、当該1次側第2空間及び2次側第1空間に流出したガスを排出するガス排出路が接続されているとともに、
前記1次シールに、前記1次側第1空間とガス供給路とを接続して1次側第1空間内の被密封ガスを当該1次シールのシールガスとして各密封環のシール面の相互間に供給するガス供給装置が設けられていることを特徴とする静圧型ノンコンタクトガスシール。
【請求項3】
前記ガス排出路を通して排出されるガスから有害物質を除去するガス浄化装置をさらに備える請求項2に記載の静圧型ノンコンタクトガスシール。
【請求項4】
前記ガス供給装置が、前記1次側第1空間内から導入した被密封ガスの圧力を高めてシールガスとする増圧器を備えている請求項2又は3に記載の静圧型ノンコンタクトガスシール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-29 
出願番号 特願2014-107953(P2014-107953)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (F16J)
P 1 651・ 121- YAA (F16J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 谷口 耕之助  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
内田 博之
登録日 2017-09-29 
登録番号 特許第6214468号(P6214468)
権利者 日本ピラー工業株式会社
発明の名称 静圧型ノンコンタクトガスシール  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

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