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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項1号公知  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A61K
管理番号 1347700
異議申立番号 異議2018-700638  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-01 
確定日 2018-12-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6301611号発明「化粧料のための組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6301611号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6301611号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成25年8月23日に出願され、平成30年3月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、同年8月1日に特許異議申立人 上田剛士(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6301611号の請求項1?3の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が75%以上である脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する抱水性を付与するための組成物。
【請求項2】
請求項1の組成物を0.1?5重量%含有する化粧料又は外用剤。(但し、他の脂肪酸ステロールエステル及び/又はステロールを含む場合を除く。)
【請求項3】
化粧料又は外用剤が乳化物である請求項2の化粧料又は外用剤。」


第3 申立ての理由の概要及び提出した証拠
1 異議申立理由の概要
異議申立書の「3 申立ての理由」における、「(1)申立ての理由の要約」の表中の「理由の要点」及び「(3)申立ての根拠」において、申立人は、以下の(1)?(3)の理由により本件特許は取り消されるべきものであると主張している。

(1) 本件発明1?3は、甲第1号証?甲第3号証に示されるように本件特許の出願前に市販されていたオレイン酸コレステリルと同一であるから、特許法第29条第1項に該当し、特許を受けることができない。
したがって、請求項1?3に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)。

(2) 本件発明1?3は、甲第6号証に記載されたものであるから特許法第29条第1項に該当し、特許を受けることができない。
したがって、請求項1?3に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(以下、「申立理由2」という。)。

(3) 本件発明1?3に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証?甲第9号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1?3に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(以下、「申立理由3」という。)。


2 証拠方法
申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。

(1) 甲第1号証: 申立人による実験成績証明書、2018年6月28日作成
(2) 甲第2号証: 日本精化株式会社による試験成績書、2008年6月20日作成
(3) 甲第3号証: 有限会社フレグランスジャーナル社編、香粧品原料便覧 第5版、有限会社フレグランスジャーナル社、2005年、第93頁
(4) 甲第4号証: 特開平4-13608号公報
(5) 甲第5号証: 西田穣ほか、フレグランスジャーナル臨時増刊、1988年、No.9、第99?103頁
(6) 甲第6号証: 中嶋洵、フレグランスジャーナル、1993年、Vol.21、No.1、第84?95頁
(7) 甲第7号証: 特開2000-355531号公報
(8) 甲第8号証: 廣田博著、化粧品用油脂の科学、フレグランスジャーナル社、1997年、第82?84頁及び第108?111頁
(9) 甲第9号証: 木嶋敬二編、最新香粧品分析法、フレグランスジャーナル社、1995年、第654?662頁

以下、「甲第1号証」?「甲第9号証」を、それぞれ「甲1」?「甲9」ともいう。


第4 甲号証の記載
1 甲1に記載された事項
・記載事項1-1
「実験成績証明書
・・・
4.実験目的
市販のオレイン酸コレステリルについて、以下の項目の分析を行う。
(1)水酸基価
(2)コレステロール含有量
(3)脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合

5.被検物質
市販のオレイン酸コレステリルとして下記の製品を使用した。
商品名: YOFCO LC-CO-D(日本精化株式会社製)
製造ロット: 80414
製造日: 2008年4月14日

6.実験結果まとめ
今回使用した被験物質の分析結果は以下のとおりであった。・・・
(1)水酸基価 :9.8
(コレステロール含有量に換算すると6.8%(w/w))
(2)コレステロール含有量 :6.7%(w/w)
(3)脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合:92.8%(面積百分率)」


2 甲2に記載された事項
・記載事項2-1
「試験成績書 2008年6月20日作成
・・・
品名 YOFCO LC-CO-D
LOT 80414」


3 甲3に記載された事項
・記載事項3-1
「香粧品原料便覧」(文献の名称)

・記載事項3-2
「オレイン酸コレステリル
[表示名]オレイン酸コレステリル
・・・
[基原]主としてオレイン酸とコレステロールのエステル(C_(45)H_(78)O_(2):651.01)
・・・
[特性]保湿剤
・・・
[商品名・取扱会社]YOFCO LC-CO-D(日本精化)」(第93頁右欄第6?16行)


4 甲4に記載された事項
・記載事項4-1
「2.特許請求の範囲
ステロールとマカデミアナッツ油脂肪酸とのエステル化物を有効成分とする医薬、化粧品用の油性原料」

・記載事項4-2
「[従来の技術と問題点]
従来、皮膚または頭髪用化粧料として各種のエステル類が使用されている。それらのエステルの中でもコレステロール、ジヒドロコレステロール、フィトステロールなどのステロールと高級脂肪酸とのエステルは皮膚の保湿成分または細胞間脂質としてその重要性が認識され、これらに関する多くの特許が出願されている。
例えば特開昭59-1407によればコレステロールの分岐脂肪酸エステルは皮膚組織に対する刺激が極めて低いとされている。
特開昭57-45199では12-ヒドロキシ脂肪酸またはリシノール酸の分子間オリゴエステルとステロールのエステルが乳化性、抱水性および保湿性に優れた化粧料を与えるとされている。しかしながらこのエステルは皮膚に塗布した場合にべた付き、重い感じを与えるという欠点がある。
特開昭60-199809ではラノリン脂肪酸のステロールエステルが乳化性、抱水性および保湿性に優れた皮膚にべた付のない優れた化粧料基剤であるとされている。しかしながらこのエステルは融点が高く、脂肪酸の分子量分布が広いため、融点の巾が広く、体温付近でシャープに融けないという欠点がある。
また特開昭58-140007ではイソステアリン酸とジヒドロコレステロールエステルについて前記の特性に加え、酸化安定性がよいと述べられている。
しかしいずれのエステルも使用感においてべた付き及び重い感じがあったり、融点、安定性に問題があるなどの欠点があった。
また抱水性が高いために従来から用いられているラノリンは、比較的稀ではあるがアレルギー発現性を示す人のいることが知られている。
[問題点を解決するための手段]
本発明者らは上記現状に鑑み、相溶性、安定性に優れ、皮膚との馴染みがよく、ソフトで滑らかな使用感を有する新規な医薬、化粧品用の油性原料に関する研究を行った結果ステロールとマカデミアナッツ油脂肪酸とのエステル化物が上記欠点を克服できることを見いだし、本発明を完成した。」(第1頁左欄下から第2行?第2頁右上欄第2行)

・記載事項4-3
「マカデミアナッツ油(MAO)は・・・液状のトリグリセリド油であり、その構成脂肪酸はミリスチン酸0.2?1%、パルミチン酸7?10%、パルミトオレイン酸20?27%、ステアリン酸2.5?3.8%、オレイン酸54?58%、リノール酸1.5?2.8%、アラキジン酸2?3%、エイコセン酸2?3%とからなり、植物油としてはパルミトオレイン酸を特異的に多く含んでいる酸化安定性に優れた低粘度油である。」(第2頁右上欄第6?18行)

・記載事項4-4
「また通常、反応後期の合成率は徐々に変化するので、経時分析により容易に任意のエステル化度のエステル化物を得ることができる。
本発明者らは本発明のエステル化物がそのエステル化度によって異なる抱水性を示すという興味深い事実を見いだした。すなわち、エステル化物中の未反応の遊離ステロールと含水価(W/U)の間には強い相関関係があり、ステロール含有量が2.5?10%の間で最大のW/Uを示した。
マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル(MAC)、マカデミアナッツ油脂肪酸ジヒドロコレステリル(MAD)、マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル(MAS)について遊離のステロールとW/Uの関係を下記表に示す。


従って、クリーム、乳液などの乳化系の医薬、化粧料に用いる場合はエステル化度を調製し、ステロール含有量が2.5?10%のものを用いることが好ましい。」(第3頁左下欄第1行?右下欄第4行)」

・記載事項4-5
「[発明の効果]
本発明によれば本発明のエステル自体が高い抱水性と皮膚温近くでのシャープな融点、皮膚との高い親和性、他の油性原料との相溶性を持つため、化粧料とした場合、安定性が高く、保存性に優れ、皮膚との馴染みがよく、保湿性に優れた安全で使用感がさっぱりとした優れた化粧料が得られる。さらに本発明のエステルは抱水性に優れているため、クリーム、乳液とした場合には皮膚にしっとりとしたうるおいを与えることが見いだされた。
また本発明のエステル化物中のステロール含量とW/Uの関係について検討した結果、ステロール含量が2.5?10%のときもっとも高いW/Uが得られ、このものは従来高いW/Uを持つ化粧品用基剤として多用されているラノリンよりはるかに優れたW/Uを示すことを見いだした。」(第4頁右上欄最終行?左下欄第16行)

・記載事項4-6
「調整例1.マカデミアナッツ油脂肪酸ジヒドロコレステリル(以下、MADと表示)
ケニア産のマカデミアナッツを圧搾抽出して得た粗油を24時間静置し、水分とオリをデカンテーションにより除去した後、真空下105℃に加熱、活性白土2%を添加し5分間脱色処理し、活性白土をロカにより除去した。この油を190℃にて2時間、水蒸気蒸留を行い、無色、無臭のマカデミアナッツ油を得た。原油および精製油(MAO)の一般分析値を下表に示す。


このMAO 1kgと15%カセイソーダー水溶液 2.8kgを5Lオートクレーブにいれ140℃で5時間反応させた。反応液を取りだし食塩水を加えて塩析し、上層を回収。ヘプタンを加えてナトリウム石鹸を硫酸で酸分解、水洗後脱溶剤して脂肪酸を得た。
この脂肪酸の組成はGLC分析(FID検出器、面積%)によれば、ミリスチン酸0.4%、パルミチン酸8.0%、パルミトオレイン酸22.0%、ステアリン酸3.0%、オレイン酸57.3%、リノール酸2.0%、アラキジン酸2.5%、エイコセン酸2.5%であった。」(第4頁右下欄第13行?第5頁右上欄第6行)

・記載事項4-7
「調整例2.マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル(以下、MACと表示)
調製例1と同様にして得たMAOを1.25kgと、イソオクタン2Lを攪拌機付きのガラス製4つ口反応器にいれ、油脂分解酵素リパーゼOF(名糖産業社製)2gを蒸留水100mlにとかし添加して37℃で4時間反応させ、加水分解した。
4時間後蒸留水を加え静置して、分解により生成したグリセリンを除去した後上層のイソオクタンにコレステロール1.12kg、蒸留水1LにとかしたOF5gを加え、37℃で48時間エステル合成反応を行った。
48時間後、未反応の脂肪酸、酵素を脱酸水洗除去し、MACを得た。このMACの組成および一般分析値は次のとおりであった。
エステル (%) 94.7
未反応ステロール (%) 5.3
酸価 0.1
ケン化価 84.3
ヨウソ価 47.4
mp(粧原基第2法)(℃) 42.0
色調(ガードナーホルツ) 1以下
含水価 (%) 360
注)測定法は注記以外は化粧品原料基準法による。
含水価はワセリン/MAC=5g/5gを試料として常法により測定し、試料10gに対する%で表示した。」(第5頁左下欄第4行?右下欄第13行)

・記載事項4-8
「実施例2.乳液
[油相成分] %
流動パラフィン(#70) 8.0
MAC 5.0
ステアリン酸 2.0
グリセリンモノミリスチン酸エステル 2.0
ポリオキシエチレンラノリンアルコール 1.0
(E.O.20)
[水相]
精製水 52.0
グリセリン 5.0
カルボキシビニルポリマー(1%水溶液) 20.0
エタノール 5.0
上記油性成分、水相を各々70℃にて溶解した後、乳化機にて混合し、乳液を得た。

比較例2.乳液
実施例2のMACをワセリンに替えて、実施例2と同様に乳液を調製した。
実施例2の乳液は比較例2にくらべ、皮膚への親和性は極めて良好で、塗布時滑らかに延びてべた付がなく、かつ長期感保存した場合もエマルジョンおよび使用感の経時変化もなかった。」(第6頁左下欄第1行?右下欄第4行)


5 甲5に記載された事項
・記載事項5-1
「2.抱水性とエモリエント性
Emollientとは親水性の高い吸湿性物質(Humectant)に対比するものとして,一般には疎水性の高い脂質成分からなる保湿剤として定義^(9))されており,この両者の機能を有するものがMoisturizerと呼ばれている。
P.Fleschは,エモリエント性とは角質層への水分の賦与のことであると述べている^(10))。具体的には以下に挙げた4つの機能のことを指している(図1)^(11))が,従来のエモリエント剤は(3)を中心とした,いわゆるシーリング効果に頼っていた。
(1) 生体内部からの水の拡散
(2) 角質内部での水分保持
(3) 皮膚表面での蒸発防止
(4) 外部からの水分の賦与
しかしながら,足立^(12))はエモリエント剤を評価するうえで(2)の角質層への水和作用をも併せもつ必要性を説いている。すなわち,皮膚表面を覆うだけでは角質層が膨潤し,不全角化を起こしやすくなることを指摘している。ここにエステルの抱水性とエモリエント効果の間に関連が生じてくると考える。
抱水性とは読んで字のごとく水を抱き込む性質,すなわち油性成分と水が共存され得る状態をつくることをい・・・い,抱水力は,ワセリンとの間でW/O型エマルションを作り得る最大加水量として表す場合もある。今回ここで用いた抱水力は,単に油剤の中に水がどれだけ蓄えられるかという値で比較した。これは角質層内部の水分量,すなわち水和の程度は到底このような値で論じるべきものではないと考えるからである。・・・本来ならば皮膚内部への油剤の浸透性についても考慮する必要があるが,今回は抱水力が強いということが角質内部での水分保持に通ずるという観点から議論を展開する。」(第99頁左欄下から第6行?第100頁右欄第10行)

・記載事項5-2
「5.コレステロールエステル
抱水性を有するエステルの例としてコレステロールの脂肪酸エステルがある。このコレステロールエステルは皮脂の構成成分でもあり,皮膚内部への浸透性については申し分のないものと考えられる。・・・ここではその抱水力を比較した結果(図4)のみを添付する。
・・・

」(第101頁右欄第8行?第103頁左欄)


6 甲6に記載された事項
・記載事項6-1
「表4

」(第89頁)

・記載事項6-2
「4. コレステロールの化粧品原料開発の現状と将来性
4-1. コレステロールの品質
国内で取り扱われているコレステロールは,粧原基,局方のいずれの製品も品質的にはほとんど変わらない。ラノリンを原料とした標準的な品質のコレステロールと少し特殊になるが少量販売されている高純度コレステロールの分析例を表4に示し,それらのGCチャートを図3,図4に示した。」(第90頁左欄第16?25行)

・記載事項6-3
「5. コレステロールおよびその誘導体の性質と化粧品への利用
・・・
5-1-2. W/O型乳化剤への応用
コレステロールはW/O型乳化剤に最も適した乳化剤である。コレステロールは他の長鎖アルコール,脂肪,ロウ等と一般的に配合される化粧品の条件で一緒に用いると,さらに乳化性,安定性がよくなる。これらを示す例として,表6に流動パラフィンへコレステロールを添加した抱水性の変化を調べた例^(3))がある。これでみると,約5%添加前後に抱水性のピークがあり,さらに添加を続けると,25?30%前後に第2のピークがある。この傾向はベースオイルの種類によってピークの位置,形の違いはあっても,ほぼ同じような傾向があり,特に最初のピークは4?10%添加付近にあるのが特徴である。」(第90頁右欄下から第2行?第92頁右欄第23行)

・記載事項6-4
「5-3. 脂肪酸ステロールエステル
5-3-1. 脂肪酸ステロールエステルと性状値
・・・
表8 ステロールとその脂肪酸エステル誘導体の分析値例と物性

*すでに何らかの形で化粧品原料として使用許可のあることがはっきりしているもの」(第93頁右欄第25行?第94頁)


7 甲7に記載された事項
・記載事項7-1
「【0002】
【従来の技術】表皮角質層は、生体からの水分の蒸散を調整し、外界からの様々な刺激を防御する重要な器官である。皮膚が適切に機能するためには表皮角質層の水分が重要であり、皮膚の潤いや柔軟性に大きく寄与していることが知られている。この角質層の水分を保持する成分としては、NMF(天然保湿因子)などの水溶性の保湿成分のほか、油溶性の成分が重要な働きをしていることが知られている。すなわち、油溶性成分は、水分蒸散を抑制するための油膜を形成することのほか、それ自体がある程度の水分を保持することにより(保湿性能)、角質の水分を保持する働きを有する。また、毛髪に関しても、皮膚と同様に健康で艶やかさを保持するというコンディショニング効果を得るためには適正な水分量が必要であり、油溶性成分が重要な働きをしていることが知られている。」

・記載事項7-2
「【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の2種類のN-長鎖アシル中性アミノ酸エステルからなる油性原料組成物が、それ自体優れた保湿性と透湿性を兼ね備え、使用感(べたつき感のなさ、のびのよさ、なじみのよさ、及び重たい感触のなさ)に優れ、これを化粧料組成物及び皮膚外用剤組成物に用いた場合、保湿性と透湿性を付与し、その使用感を優れたものとすることができること、さらにまた、上記の油性原料組成物はこれにコレステロールなどの両親媒性物質を配合すると化粧料組成物及び皮膚外用剤組成物の保湿性能と抱水性が飛躍的に高くなることを見いだし、このような知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0014】因みに抱水性とは、ラノリンに見られるごとき、油溶性物質が水を抱え込む性能を言い、保湿性能及び乳化物の安定性の指標とすることができる。・・・」

・記載事項7-3
「【0067】<参考例1>
N-ミリストイル-N-メチル-β-アラニン-2-ヘキシルデシルの合成:N-ミリストイル-N-メチル-β-アラニン55gと2-ヘキシルデカノール45gを500mLフラスコに入れ、更に触媒としてp-トルエンスルホン酸2gを加え、130℃で3時間反応させた。反応終了後、反応混合物を水酸化ナトリウム水溶液(50%)1.6gで中和し、水層を除去してから脱イオン水100gで水洗浄し、60mmHgかつ95?105℃の条件下で水分除去後、不溶物を濾紙でろ過してオイル状の生成物70gを濾液として得た。
【0068】分析の結果、この生成物は、酸価0.02、そしてケン化価103であった。
IR(neat):2940cm^(-1)(C-H),1740cm^(-1)(エステル),1660cm^(-1)(アミド).
【0069】<参考例2>
N-ラウロイルアラニン-2-オクチルドデシルの合成:N-ラウロイルアラニン10gと2-オクチルドデカノール9.5gを200mLフラスコに入れ、更に触媒としてp-トルエンスルホン酸0.5gを加え、130℃で3時間反応させた。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液約200mLを加え、水層を除去して得られた油相をさらに水洗浄した。抽出した油相を無水硫酸マグネシウム5gを加えてよく乾燥した後該硫酸マグネシウムを濾別することによって液体状の生成物16g(収率82%)を得た。
IR(neat):2940cm^(-1)(C-H),1730cm^(-1)(エステル),1650cm^(-1)(アミド).
【0070】<参考例3>
N-ミリストイル-N-メチル-β-アラニンコレステリルの合成:N-ミリストイル-N-メチル-β-アラニン(川研ファインケミカル株式会社製)94gとコレステロール104gを1000mLフラスコに入れ、更にトルエン303g及び触媒としてp-トルエンスルホン酸を4g加え、130?140℃で6時間脱水縮合反応を行った。反応終了後、反応混合物を水酸化ナトリウム水溶液(2%)206gで中和反応を行った後、有機層を脱イオン水で水洗浄した。トルエンを減圧下で留去して得られた固体状の生成物をアセトンおよびメタノールにて順次再結晶させることによりコレステロール等の未反応物もしくは不純物を除去し、ろ別、乾燥後目的物88gを得た。
【0071】分析の結果、この生成物のコレステロール含量は0.07%(HPLC)であった。
IR(KR):2925cm^(-1)(C-H),1715cm^(-1)(エステル),1650cm^(-1)(アミド).
・・・
【0100】<試験例6(比較例16?19および実施例26?27)>下記第6表に示す組成物10gにイオン交換水を添加し、十分に攪拌しながらW/O型乳化物とした。そのとき、W/O型乳化物として乳化できる最大加水量を持って抱水力とした。放水力は試料組成物10gに対する最大加水量の百分率として表した。
【0101】結果も同表に示す。第6表より、実施例に比べ、高い抱水力を有することが分かった。
【0102】
【表6】




8 甲8に記載された事項
・記載事項8-1
「コレステロールの化粧品への応用面を大別すると,次のとおりである。
(1) 人間の表皮内脂質中に,コレステロールが遊離状態およびエステルとして含有されているという点から,各種のクリーム,乳液類のほか,ヘアトニックなどに保健衛生の面で用いられる。
(2) コレステロールは親油性の乳化剤である点から,遊離状またはエステル状のものを親水性の乳化剤と併用し,乳化の安定性を高める目的でエマルションに用いる。
・・・
コレステロールをO/W型エマルションの乳化助剤として用いることは,すでににだいぶ以前から行われており,種々のクリーム,乳液などに用いられている。」(第83頁第11行?最終行)

・記載事項8-2
「環状アルコールの脂肪酸エステルとしては,コレステロールエステルが最も一般的なもので(表2-48),その中でもステアリン酸コレステリルは従来からら化粧品の乳化助剤としてよく知られている。」(第108頁下から第2行?第109頁第1行)


9 甲9に記載された事項
・記載事項9-1
「21-3. 化学分析法
基準油脂分析試験法^(1))の脂肪酸を対象とした試験項目には試料採取方法,中和価,けん化価,ヨウ素価,不けん化物,水分,灰分,色,融点,タイターが制定されている。化学分析による香粧品原料の品質管理として表3に示すような試験項目があり,以下にこれらの試験法を説明する。表4に代表的な脂肪酸,脂肪酸エステルの分析値を示す。

表3 脂肪酸及び脂肪酸エステルの分析項目
━━━━━━━━━┯━━━━━━━┯━━━━━━━━
分析項目 │ 脂肪酸 │脂肪酸エステル
─────────┼───────┼────────
・・・ │ ・・・ │ ・・・
水酸基価 │ │ ◎
・・・ │ ・・・ │ ・・・
━━━━━━━━━┷━━━━━━━┷━━━━━━━━
(第655頁第1行?第5行及び表3)

・記載事項9-2
「21-3-5. 水酸基価(hydroxyl value)
試料中に存在する遊離水酸基の数に比例する値で,試料1g中に含まれる遊離水酸基を酢酸でアセチル化し,水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数をいう。遊離水酸基がない場合には水酸基価は0であるが,ポリオールエステルなどでは加水分解したり,未反応物が残っていると水酸基価が大きくなる。」(第658頁第15?19行)


第5 当審の判断
1 申立理由1について
(1) 本件特許出願前に市販されていた「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」について
ア 上記記載事項1-1によれば、「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」のうち、2008年4月14日に製造され、製造ロットが「80414」であるものは、コレステロール含有量が6.7%(W/W)、脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が92.8%(面積百分率)であると認められる。
また、上記記載事項2-1より、「YOFCO LC-CO-D」の「LOT 80414」について、日本精化株式会社による「試験成績書」が2008年6月20日に作成されたものと認められる。
しかし、甲1及び甲2には、製造ロット「80414」の製品が市販されていた事実やその時期について記載されておらず、上記製造日又は試験成績書の作成日と同時期に当該製品が市販されていたと理解し得る他の記載もない。
したがって、甲1及び甲2の記載からは、上記製造ロット「80414」の製品が本件特許の出願前に市販されていたとは認められない。

イ また、本件特許の出願前に公知である甲3の記載によれば、「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」は、主としてオレイン酸とコレステロールのエステルを基原とし、保湿剤の特性を有し、香粧品原料として使用されるものであり、日本精化の商品として取り扱われていたものと認められる(記載事項3-1及び3-2参照。)。
したがって、甲3に記載の「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」は、本件特許の出願前に市販されており、本件特許の出願前に以下の発明(以下、「公然実施発明1」という。)が公然実施されていたと認められる。
「商品名がYOFCO LC-CO-D(日本精化)であり、主としてオレイン酸とコレステロールのエステルを基原とし、保湿剤の特性を有し、香粧品原料として使用される組成物」

(2) 本件発明1と公然実施発明1との対比・判断
公然実施発明1との対比
公然実施発明1における「オレイン酸とコレステロールのエステル」は、本件発明1における「脂肪酸コレステリル」のうち、脂肪酸がオレイン酸のものである。
そうすると、本件発明1と公然実施発明1とは、
「脂肪酸コレステリルを含有する組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
脂肪酸コレステリルについて、本件発明1は、「脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が75%以上である脂肪酸コレステリル」と特定されているのに対し、公然実施発明1は、「主としてオレイン酸とコレステロールのエステル」と特定されている点。

相違点2
本件発明1は、「脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する」と特定しているのに対し、公然実施発明1はコレステロールを含有することについて特定していない点。

相違点3
本件発明1は、「抱水性を付与するため」と特定されているのに対し、公然実施発明1はそのように特定されていない点。

イ 相違点についての検討
相違点2について、甲3には、「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」のコレステロール含有量について記載されていない。一方、上記アで述べたとおり、甲1及び甲2の記載から、「YOFCO LC-CO-D」のうち、製造ロット「80414」のものについては、コレステロール含有量が6.7%(W/W)であると認められるところ、公然実施発明1が甲1及び甲2に示される製造ロット「80414」と同じコレステロール含有量であるかどうかを以下に検討する。
甲4に記載されるように、脂肪酸コレステリルの製造において、「通常、反応後期の合成率は徐々に変化するので、経時分析により容易に任意のエステル化度のエステル化物を得ることができる」から(記載事項4-4参照。)、脂肪酸コレステリル製品中のコレステロール含有量は、エステル化反応を終了するタイミングにより調整され得る数値であると認められるところ、「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」の製造においてはその製造年月日やロットに関わらず常に一定のエステル化度になるよう調整されていたという事情が存在したとも認められない。
そうすると、製造ロット「80414」のコレステロール含有量が6.7%(w/w)であることをもって、製造ロットが特定されていない公然実施発明1である「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」も同程度のコレステロール含有量であるとはいえない。
したがって、甲1?3の記載からは、公然実施発明1である「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」のコレステロール含有量が本件発明1の数値範囲を満たすとは認められない。

相違点3について、甲5には、エモリエントとは一般に疎水性の高い脂質成分からなる保湿剤として定義され、保湿剤のエモリエント性とは角質層への水分の賦与のことであり、具体的には(1)生体内部からの水の拡散、(2)角質内部での水分保持、(3)皮膚表面での蒸発防止及び(4)外部からの水分の賦与の機能を指し、従来のエモリエント剤は(3)を中心としたシーリングに頼っていたところ、エモリエント剤を評価するうえでは、(2)の角質層への水和作用をも併せもつ必要性が説かれ、ここにエステルの抱水性とエモリエント効果の間に関連が生じると考えられる旨記載されている(記載事項5-1参照。)。
そうすると、甲5の記載から、エモリエント性の4つの機能のうち、(2)の角質層への水和作用を有する保湿剤については「抱水性」との関連が示唆されるものの、「保湿剤」であれば必ず(2)の作用を有するとはいえないから、公然実施発明1が「保湿剤」であることをもって、「抱水性を付与する」ものであるとは認められない。
それゆえ、公然実施発明1のオレイン酸コレステリルを含有する保湿剤が「抱水性を付与するため」のものとして本件特許の出願前に公然実施されていたとは認められない。

ウ したがって、本件発明1と公然実施発明1とは相違点2及び3で相違するから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は本件特許の出願前に公然実施された発明ではない。

エ また、「商品名がYOFCO LC-CO-D(日本精化)であり、主としてオレイン酸とコレステロールのエステルを基原とし、保湿剤の特性を有し、香粧品原料として使用される組成物」が本件特許の出願前に公然知られた発明又は甲3に記載された発明であるとしても、本件発明1と上記相違点2及び3で相違するから、本件発明1は、本件特許の出願前に公然知られた発明でもなく、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明でもない。

オ よって、本件発明1は特許法第29条第1項各号に該当するとはいえない。

(3)本件発明2について
公然実施された発明について
公然実施発明1における「香粧品原料」とは、本件特許の出願前の技術常識からみて、化粧料や外用剤に含有させるものであると認められるから、香粧品原料である「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」を含有する組成物を含有する化粧料又は外用剤についても、公然実施された発明であると認められる。
そうすると、甲3の記載及び本件特許の出願前の技術常識から、以下の発明(以下、「公然実施発明2」という。)が同出願前に公然実施されていたと認められる。
「商品名YOFCO LC-CO-D(日本精化)であるオレイン酸コレステリルを含有し、保湿剤の特性を有する香粧品原料を含有する化粧料又は外用剤」

イ 本件発明2と公然実施発明2との対比
本件発明2は請求項1を引用する形式で記載されているところ、請求項1を引用しない記載に改めると、
「脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が75%である脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する抱水性を付与するための組成物を0.1?5重量%含有する化粧料又は外用剤。」
である。
そうすると、本件発明2と公然実施発明2とは、
「脂肪酸コレステリルを含有する組成物を含有する化粧料又は外用剤」
という点において一致し、以下の点で相違する。

相違点1’
脂肪酸コレステリルについて、本件発明2は、「脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が75%以上である脂肪酸コレステリル」と特定されているのに対し、公然実施発明2は、「主としてオレイン酸とコレステロールのエステル」と特定されている点。

相違点2’
本件発明2は、「脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する」と特定しているのに対し、公然実施発明2はコレステロールを含有することについて特定していない点。

相違点3’
脂肪酸コレステリルを含有する組成物について、本件発明2は、「抱水性を付与するため」と特定されているのに対し、公然実施発明2はそのように特定されていない点。

相違点4
化粧料又は外用剤における組成物の含有量について、本件発明2では「0.1?5重量%」と特定されているのに対し、公然実施発明2では特定されていない点。

相違点5
本件発明2においては、「(但し、他の脂肪酸ステロールエステル及び/又はステロールを含む場合を除く。)」と特定されているのに対し、公然実施発明2ではそのような特定がされていない点。

ウ 上記相違点について検討する。
相違点2’は、上記(2)イで相違点2について述べたところと同様に、相違点である。

相違点4について、公然実施発明2は、オレイン酸コレステリルを含有する香粧品原料を、化粧料又は外用剤に対し特定の量で含有させるものではないから、この点は相違点である。

相違点5について、公然実施発明2は「主として」オレイン酸とコレステロールのエステルを基原とするため、当該エステル以外の化合物も含み得ると解されるが、公然実施発明2が「他の脂肪酸ステロールエステル及び/又はステロール」を含むという事実は認められないから、本件発明2において除外される「他の脂肪酸ステロールエステル及び/又はステロールを含む場合」に該当するとはいえず、この点は実質的な相違点とはならない。

エ したがって、本件発明2と公然実施発明2とは、相違点2’及び4で相違するから、相違点1’及び3’について検討するまでもなく、本件発明2は本件特許の出願前に公然実施された発明ではない。

オ また、「商品名YOFCO LC-CO-D(日本精化)であるオレイン酸コレステリルを含有し、保湿剤の特性を有する香粧品原料を含有する化粧料又は外用剤」が本件特許の出願前に公然知られた発明又は甲3に記載された発明であるとしても、本件発明2と上記相違点2’及び4で相違するから、本件発明2は、本件特許の出願前に公然知られた発明でもなく、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明でもない。

カ よって、本件発明2は特許法第29条第1項各号に該当するとはいえない。

(4) 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2の化粧料又は外用剤において、「化粧料又は外用剤が乳化物である」ことをさらに限定して特定するものであって、「脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する」こと、及び「組成物を0.1?5重量%含有する」ことを必須の構成とするものであるから、上記(3)で述べた理由と同じ理由により、特許法第29条第1項各号に規定する発明に該当するとはいえない。

(5) 申立人の主張について
異議申立書において申立人は、甲1の試験結果より、「本件特許出願前に市販されていたオレイン酸コレステリルは、製品中のコレステロール含有量が6.8%(w/w)・・・であった」から、本件発明1の組成物は市販のものと差異がなく、新規性がないと主張する(第5頁第21?23行)。
しかし、「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」のうち、甲1の試験結果からコレステロール含有量が6.7%(w/w)であると認められるロット「80414」については、本件特許の出願前に公然実施された(例えば、市販されていた)ことを確認できず、また、甲3の記載から、「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」は本件特許の出願前に使用されていたと認められるものの、ロットが特定されないものについては、製品中のコレステロール含有量が6.7%(w/w)と同程度であるとは認められないことは、上記(1)で述べたとおりである。
したがって、「本件特許出願前に市販されていたオレイン酸コレステリルは、製品中のコレステロール含有量が6.8%(w/w)・・・であった」とは認められず、申立人の上記主張は採用できない。

(6) 小括
以上検討したとおり、本件発明1?3は特許法第29条第1項各号に規定された発明ではないから、申立理由1には理由がない。


2 申立理由2について
(1) 甲6に記載された発明について
甲6に記載された「オレイン酸コレステリル」は、オレイン酸コレステリル分子自体が水酸基を有しないにも関わらず、水酸基価の分析値が3.5であることから、水酸基を有する他の化合物が共存しているものと認められる(記載事項6-4参照。)。すなわち、甲6に記載された「水酸基価3.5」の「オレイン酸コレステリル」は、オレイン酸コレステリル及びそれ以外の化合物を含有する「組成物」であると認められる。
そうすると、甲6には以下の発明(以下、「甲6-1発明」という。)が記載されていると認められる。
「オレイン酸コレステリルを含有する水酸基価3.5の組成物」

(2) 本件発明1と甲6-1発明との対比・判断
ア 甲6-1発明との対比
甲6-1発明における「オレイン酸コレステリル」は、本件発明1における「脂肪酸エステル」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲6-1発明とは、
「脂肪酸コレステリルを含有する組成物」
という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点6
脂肪酸コレステリルについて、本件発明1は、「脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が75%以上である脂肪酸コレステリル」と特定されているのに対し、甲6-1発明は、「オレイン酸コレステリル」と特定されている点。

相違点7
本件発明1は、「脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する」ことが特定されているのに対し、甲6-1発明はコレステロールを含有することについて特定されていない点。

相違点8
本件発明1は、「抱水性を付与するため」と特定されているのに対し、甲6-1発明はそのように特定されていない点。

イ 相違点についての検討
相違点7について、甲4に記載されるように、脂肪酸コレステリルの製造において、未反応の遊離ステロールが含まれ得ることは、本件特許の出願前に公知であったと認められる(記載事項4-4参照。)。ここで、脂肪酸コレステリルの製造における「未反応の遊離ステロール」は、コレステロールである。
コレステロールは分子内に水酸基を有するため、未反応のまま残ると脂肪酸コレステリルの水酸基価に影響を及ぼすものであるところ、仮に、当該脂肪酸コレステリル中の水酸基を有する化合物がコレステロールのみであるならば、水酸基価はすべてコレステロールに由来することになり、例えば、甲6-1の「水酸基価3.5」という数値に基き、コレステロール含有量を計算によって導出し得ると考えられる。
しかし、脂肪酸エステルの原料である脂肪酸やコレステロールは天然物由来のものであるため、様々な不純物が含まれる可能性のあるところ、コレステロールについては、甲6の記載から、純度94.7%程度のものが標準的な品質のコレステロールとして本件特許の出願前に販売されていたと認められるものの(記載事項6-1及び6-2参照。)、脂肪酸については、水酸基価に影響する不純物を含まないように製造されたものが一般的であるという事情が存在したとは認められない。
一方、特許権者の平成29年9月13日付け意見書における試験報告書の2.には、特許権者の製品であるオレイン酸コレステリルについてガスクロマトグラフィーを行った結果、コレステロールが0.121面積%、オレイン酸コレステリルが84.69面積%であった旨が示されており、当該製品にはコレステロール以外の不純物が15面積%以上存在すると解されるから、脂肪酸コレステリルの製造においては、コレステロール以外の不純物が相当程度含まれ得るものと認められる。
そうすると、甲6における「水酸基価3.5」という分析値がすべてコレステロール由来であるとはいえないから、コレステロール含有量を計算により導出することはできず、甲6-1発明におけるコレステロール含有量は明らかでない。
したがって、甲6-1発明のオレイン酸コレステリルが「脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する」とは認められず、この点は相違点である。

相違点8について、甲6には、コレステロールを流動パラフィン、脂肪又はロウと一緒に用いると乳化性、安定性がよくなり、抱水性が向上することが記載されている(記載事項6-3参照。)のであって、本件発明1のようにコレステロール及び脂肪酸コレステリルを含有する組成物を抱水性の付与のために使用することについては記載されていないから、この点は相違点である。

ウ したがって、本件発明1と甲6-1発明とは相違点7及び8で相違するから、相違点6について検討するまでもなく、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明ではない。

エ また、「オレイン酸コレステリルを含有する水酸基価3.5の組成物」が本件特許の出願前に公然知られた発明又は公然実施された発明であるとしても、本件発明1と上記相違点7及び8で相違するから、本件発明1は、本件特許の出願前に公然知られた発明でもなく、本件特許の出願前に公然実施された発明でもない。

オ よって、本件発明1は特許法第29条第1項各号に該当するとはいえない。

(3) 本件発明2について
ア 甲6に記載された発明
甲6には、オレイン酸コレステリルが化粧品原料として使用許可されたものである旨記載されているところ(記載事項6-4参照。)、「化粧品原料」は、本件特許の出願前の技術常識からみて、化粧料や外用剤に含有させるものであるから、オレイン酸コレステリルを含有する組成物を含有する化粧料又は外用剤についても、甲6に記載されているに等しい事項であると認められる。
そうすると、甲6には、以下の発明(以下、「甲6-2発明」という。)が記載されていると認められる。
「オレイン酸コレステリルを含有する水酸基価3.5の組成物を含有する、化粧料又は外用剤」

イ 本件発明2と甲6-2発明とを対比すると、両者は、
「脂肪酸コレステリルを含有する組成物を含有する化粧料又は外用剤。」
という点において一致し、以下の点で相違する。

相違点6’
脂肪酸コレステリルについて、本件発明2は、「脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が75%以上である脂肪酸コレステリル」と特定されているのに対し、甲6-2発明は、「オレイン酸コレステリル」と特定されている点。

相違点7’
本件発明2は、「脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する」ことが特定されているのに対し、甲6-2発明はコレステロールを含有することについて特定されていない点。

相違点8’
組成物について、本件発明2は、「抱水性を付与するため」と特定されているのに対し、甲6-2発明はそのように特定されていない点。

相違点9
化粧料又は外用剤における組成物の含有量について、本件発明2では「0.1?5重量%」と特定されているのに対し、甲6-2発明では特定されていない点。

相違点10
本件発明2においては、「(但し、他の脂肪酸ステロールエステル及び/又はステロールを含む場合を除く。)」と特定されているのに対し、甲6-2発明ではそのような特定がされていない点。

ウ 上記相違点について検討する。
相違点7’は、上記(2)イで相違点7について述べたのと同様の理由により、相違点である。

相違点9について、甲6には、化粧料又は外用剤における組成物の含有量について記載も示唆もされていないから、この点は相違点である。

相違点10について、甲6には、「オレイン酸コレステリル」がオレイン酸コレステリル以外の脂肪酸ステロールエステル及び/又はステロールを含むことについて記載されていないから、本件発明2において除外される「他の脂肪酸ステロールエステル及び/又はステロールを含む場合」に該当するとはいえない。それゆえ、この点は実質的な相違点とはならない。

エ したがって、本件発明2と甲6-2発明とは相違点7’及び9で相違するから、相違点6’及び8’について検討するまでもなく、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明ではない。

オ また、「オレイン酸コレステリルを含有する水酸基価3.5の組成物を含有する、化粧料又は外用剤」が本件特許の出願前に公然知られた発明又は公然実施された発明であるとしても、本件発明2と上記相違点7’及び9で相違するから、本件発明2は、本件特許の出願前に公然知られた発明でもなく、本件特許の出願前に公然実施された発明でもない。

カ よって、本件発明2は特許法第29条第1項各号に該当するとはいえない。

(4) 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2の化粧料又は外用剤において、「化粧料又は外用剤が乳化物である」ことをさらに限定して特定するものであって、「脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する」こと、及び「組成物を0.1?5重量%含有する」ことを必須の構成とするものであるから、上記(3)で述べた理由と同じ理由により、特許法第29条第1項各号に規定する発明に該当するとはいえない。

(5) 申立人の主張について
異議申立書において申立人は、「一般的に市販されている脂肪酸は高度に精製されており脂肪酸以外の成分、特に水酸基価を示すような成分は含まれない」から、脂肪酸とコレステロールのエステル化物の水酸基価は未反応のコレステロールに由来すると考えるのが妥当であること、及び「脂肪酸エステルにおいて水酸基価を未反応物の含有量の特定に利用することは当業者であれば周知である(例えば甲第9号証の記載参照)」ことを理由として、甲6のオレイン酸コレステリルの分析値である水酸基価3.5からコレステロール含有量を算出すると2.4%であり、本件特許の請求項1に記載の組成物と差異がなく新規性はないと主張する(第4頁第14?38行、第5頁第30?36行及び第8頁第9行?下から第5行)。
しかし、水酸基価がすべてコレステロールに由来するとはいえず、水酸基価からコレステロール含有量を算出できないことは、上記(2)イで述べたとおりであるところ、「一般的に市販されている脂肪酸は高度に精製されており脂肪酸以外の成分、特に水酸基価を示すような成分は含まれない」といえる具体的証拠が示されていない。なお、甲9には、脂肪酸エステルの分析に水酸基価が用いられること、及び遊離水酸基がない場合には水酸基価は0であるが、ポリオールエステルなどでは加水分解したり、未反応物が残っていると水酸基価が大きくなることが記載されているものの(記載事項9-1及び9-2参照。)、脂肪酸コレステリルにおける未反応物がすべて未反応コレステロールであると理解できるような記載はないから、脂肪酸コレステリルの水酸基価から未反応コレステロールの含有量を特定できることを示すものではない。
したがって、申立人の上記主張には根拠がなく、採用できない。

(6) 小括
以上検討したとおり、本件発明1?3は特許法第29条第1項各号に規定された発明ではないから、申立理由2には理由がない。

3 申立理由3について
(1) 甲4に記載された発明について
甲4には、ステロールとマカデミアナッツ油脂肪酸とのエステル化物を有効成分とする化粧品用の油性原料が記載され(記載事項4-1参照。)、当該マカデミアナッツ油における構成脂肪酸中のオレイン酸は54?58%であることが記載されている(記載事項4-3参照。)。ここで、甲4には、当該マカデミアナッツ油脂肪酸のエステル化物の脂肪酸組成について明記されていないが、原料油脂であるマカデミアナッツ油の脂肪酸組成を概ね保持していると解するのが相当であるから、甲4におけるエステル化物においても、脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合は約54?58%であると認められる。
また、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル等のエステル化物は、そのエステル化度によって異なる抱水性を示し、未反応の遊離ステロール含有量が2.5?10%の時に最大の含水価を有すること(記載事項4-4参照。)、及び上記発明のエステルが抱水性に優れているため、クリーム、乳液とした場合に皮膚にしっとりとしたうるおいを与えること(記載事項4-5参照。)が記載されていることからみて、甲4におけるエステル化物はクリーム等に抱水性を付与することで皮膚のうるおい等を実現するためのものであると認められる。
さらに、エステル化物の中には、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル及び未反応の遊離コレステロール以外の第三の化合物が含まれ得るが、甲4においては、マカデミアナッツを圧搾抽出及び精製して得た精製油(MAO)とコレステロールを用いてエステル合成反応を行い、その後未反応物等を除去することで、エステル94.7%及び未反応ステロール5.3%(すなわち、合計100%)のマカデミアナッツ油脂肪酸コレステリルを製造していることから(記載事項4-6及び4-7参照。)、未反応の遊離ステロール含有量が「2.5?10%」であるエステル化物のうち、その残部の「97.5?90%」がすべて脂肪酸コレステリルであるものも甲4に記載されているに等しい事項であると認められる。
そうすると、甲4には以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が約54?58%である脂肪酸コレステリルとコレステロールを97.5:2.5?90:10の割合で含有する抱水性を付与するための組成物」

(2) 本件発明1と甲4発明との対比・判断
ア 甲4発明との対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、両者は、
「脂肪酸中にオレイン酸を含む脂肪酸コレステリルとコレステロールを所定の割合で含有する、抱水性を付与するための組成物」
という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点11
脂肪酸コレステリルの脂肪酸中に占めるオレイン酸が、本件発明1では「75%以上」であるのに対し、甲4発明では「約54?58%」である点。

相違点12
脂肪酸コレステリルとコレステロールの割合について、本件発明1では「重量比98:2?80:20」と特定されているのに対し、甲4発明では「97.5:2.5?90:10」と特定されるものの、この割合が「重量比」であるかが明らかでない点。

イ 相違点についての検討
相違点12について、甲4における遊離ステロール含有量「2.5?10%」といった場合の「%」は、「質量%」、「重量%(w/w)」又は「重量体積%(w/v)」と多義的に解釈され得るが、脂肪酸コレステリル及びコレステロールの比重はともに1に近い数値であるから、いずれと解釈した場合であっても、甲4発明における「97.5:2.5?90:10」は、本件発明1における「重量比98:2?80:20の割合」に包含されるか、又は重複する蓋然性が高い。
したがって、この点は実質的な相違点とはならない。

相違点11について、甲4には、従来技術である他の脂肪酸とステロールのエステルにおいて皮膚組織への刺激、べた付き、融けにくさ等の欠点が存在していたところ、脂肪酸としてマカデミアナッツ油脂肪酸を採用することで、上記欠点を解消したことが記載されている(記載事項4-2参照。)。
そうすると、甲4発明において、特に優れた脂肪酸であることを見出し、採用したマカデミアナッツ油脂肪酸を、あえて他の脂肪酸に変更する動機付けは甲4には存在せず、したがって、脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が75%以上である脂肪酸コレステリルとすることを当業者が容易に想到し得るとはいえない。
また、オレイン酸の割合が75%以上の脂肪酸コレステリルを用いることによる効果について、本件特許明細書の実施例1(特に【0031】の【表3】)、及び特許権者の平成29年9月13日付け意見書の試験報告書の1.には、コレステロール添加量5%における抱水率が672%であることが示されているのに対し、測定法が明らかでないため必ずしも単純な比較はできないものの、甲4のマカデミアナッツ油脂肪酸を用いた場合には、コレステロール添加量5%における含水価が396%であること、及び最も含水価が高いコレステロール添加量5%のものでも500%であることが示され、本件発明1の組成物がより抱水性に優れていると認められる。
そして、甲5に記載されるように、脂肪酸コレステリルの抱水性は構成脂肪酸の種類によって異なることが本件特許の出願時の技術常識であるところ(記載事項5-2参照。)、本件発明1は、特に「脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が75%以上」の脂肪酸コレステリルを採用することで、甲4のマカデミアナッツ油脂肪酸より高い抱水性を実現したものであり、そのような効果は当業者に予測できない顕著なものと認められる。

ウ したがって、本件発明1は、本件特許の出願前に頒布された甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ よって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定を満たさないとはいえない。

(3) 本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1の組成物を「0.1?5重量%含有する化粧料又は外用剤」であり、本件発明3は、本件発明2の化粧料又は外用剤において、「化粧料又は外用剤が乳化物である」ことをさらに限定して特定するものであって、「脂肪酸中に占めるオレイン酸の割合が75%以上である脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する」ことを必須の構成とするものであるから、上記(2)で述べた理由と同じ理由により、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易になし得るものではない。
よって、本件発明2及び3は特許法第29条第2項の規定を満たさないとはいえない。

(4) 申立人の主張について
異議申立書において申立人は、本件発明1が奏する効果について、コレステロール添加量5%における含水価が、本件特許では672%、甲4では396%であって、オレイン酸割合が54?58%から75%以上になることによる効果は1.7倍程度であるところ、ステロールエステルの脂肪酸の違いにより抱水性に差異があることは甲5の図4に示されているし、コレステロールを油剤に添加して抱水性を向上させる場合に該油剤の種類によってもその増加量が異なることも甲6の図6及び甲7の表6からすでに知られているので、上記1.7倍程度の差異は当業者により十分想定される範囲内であって顕著に優れたものとはいえず、また、コレステロールがエマルションの乳化安定性を高めるために使用され、脂肪酸コレステリルが乳化助剤として使用されることは、甲6?8に記載されるように周知であるから、本件特許の乳化安定性の効果もすでに知られたものであると主張する(異議申立書第6頁第21行?第7頁下から第10行参照。)。
しかし、甲5の図4においては、オレイン酸コレステリルは他の脂肪酸コレステリルと同程度か、むしろ低い抱水性しか有しておらず(記載事項5-2参照。)、本件発明のようにコレステロールと併用した際の抱水性について予測できるような記載もない。また、甲6及び甲7はいずれも脂肪酸コレステリルとは構造式の異なる油剤に対してコレステロールを添加した際の抱水性について記載したものであって(記載事項6-3及び記載事項7-1?記載事項7-3参照。)、脂肪酸コレステリルの脂肪酸の種類の違いによる抱水性への影響について予測できるものではない。
そして、脂肪酸には鎖長や分岐の有無、二重結合の数等によって多くのバリエーションが存在するところ、それらの中で特にオレイン酸を75%以上含む脂肪酸コレステリルを採用することにより、公知のコレステロールエステルの1.7倍もの抱水性を得られることは、甲4?9の記載及び本件特許の出願前の技術常識を考慮しても、当業者に予測し得る範囲内の事項であるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(5) 小括
以上検討したとおり、本件発明1?3は特許法第29条第2項の規定を満たすものであるから、申立理由3には理由がない。


4 異議申立書のその他の主張
異議申立書において、「3 申立て理由」の「(1)申立ての理由の要約」、「(3)申立ての根拠」及び「(5)むすび」には記載されていないが、「(4)具体的理由」の「ウ.本件特許発明と証拠に記載された内容との対比」の「 (d)請求項2、3の新規性進歩性」において、申立人は、
「・・・オレイン酸コレステリルを0.1?5重量%配合した乳化物は、既に本件特許出願前に販売又は開示されている組成物であると認められる(一例として特開昭63-280006の実施例1(表1-3),実施例10、特開平08-099854の表2、特開平09-124433の実施例8の処方参照)。そして、市販されているオレイン酸コレステリルが未反応のコレステロールを請求項1の比率で含有するものである蓋然性が高いこと(甲第1号証や甲第6号証の水酸基価の記載参照)を鑑みると、請求項2、請求項3の組成物も既に販売又は開示されている公知の組成物と差異はなく、新規性はないものと認められる。
また、既に述べたように請求項1の組成物は新規性進歩性のないものであるところ、オレイン酸コレステリルやコレステロールが化粧料の原料として、乳化剤又は乳化助剤として乳化状の化粧料又は外用剤に使用されることは周知である。そして明細書の内容を鑑みても、化粧料又は外用剤への配合量や乳化物であることが特段意味を有するとも認められないのであるから、本件特許の請求項2及び請求項3も進歩性は認められない。」
と主張しているので、当該主張についても検討する。

まず新規性について、上記主張に挙げられている特開昭63-280006の実施例1(表1-3)及び実施例11(「実施例10」は誤記と認める。)、特開平08-099854の表2、並びに特開平09-124433の実施例8には、オレイン酸コレステリルを0.1?5重量%の数値範囲内で含む化粧料又は皮膚外用剤が記載されるものの、これらの特許文献のいずれにも、「脂肪酸コレステリルとコレステロールを重量比98:2?80:20の割合で含有する」旨の記載はない。
この点について申立人は、「市販されているオレイン酸コレステリルが未反応のコレステロールを請求項1の比率で含有するものである蓋然性が高い・・・(甲第1号証や甲第6号証の水酸基価の記載参照)」と主張する。しかし、甲1においてコレステロール含有量6.7%(w/w)とされる「YOFCO LC-CO-D(日本精化)」の製造ロット「80414」が本件特許の出願前に公然実施されたものであるとは認められないことは、上記1(1)アで述べたとおりであり、甲6のオレイン酸コレステリルにおける「水酸基価3.5」という分析値からコレステロールの含有量を算出できないことは、上記2(2)イで述べたとおりである。なお、仮に甲6のオレイン酸コレステリルのコレステロール含有量が請求項1の数値範囲を満たしていたとしても、その一例のみをもって、「市販されているオレイン酸コレステリルが未反応のコレステロールを請求項1の比率で含有するものである蓋然性が高い」とまでは認められない。
したがって、甲1及び甲6の記載を根拠に「市販されているオレイン酸コレステリルが未反応のコレステロールを請求項1の比率で含有するものである蓋然性が高い」ことを前提として、「請求項2、請求項3の組成物も既に販売又は開示されている公知の組成物と差異はなく、新規性はない」とする上記主張は採用できない。

また進歩性について、上述の3件の特許文献には、オレイン酸コレステリルに対し、特定の割合となるようコレステロールを含有させることについての動機付けがなく、一方、本件発明2及び3はそれにより化粧品又は外用剤に高い抱水率を付与するという顕著な効果を発揮するものである。
したがって、本件発明2及び3は、甲1、甲6及び上述の3件の特許文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-12-12 
出願番号 特願2013-173058(P2013-173058)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 111- Y (A61K)
P 1 651・ 112- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 阪野 誠司
特許庁審判官 長谷川 茜
冨永 みどり
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6301611号(P6301611)
権利者 日本水産株式会社
発明の名称 化粧料のための組成物  
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