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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D04B
管理番号 1347701
異議申立番号 異議2018-700779  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-27 
確定日 2019-01-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6302608号発明「ビジネスシャツ用編地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6302608号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6302608号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成29年9月20日(優先権主張 平成28年9月20日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成30年3月9日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:同年3月28日)がされ、平成30年9月27日に、櫻井芳晴(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6302608号の請求項1?5の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
目付が80?180g/m^(2)である柄を有するダブル編地からなり、編地の裏組織において全構造に対するニット-ウエルト構造の比率が0.25?1.0であり、編地基本組織を構成する全ニットループ数に対する全ウエルト数の比率が0.15?0.8であり、コース密度が30?100個/2.54cm、ウェール密度が30?70個/2.54cmであり、且つタテ方向の伸長率(EMT)が5?25%、タテ方向とヨコ方向の伸長率(EMT)の平均が9?30%であることを特徴とするビジネスシャツ用編地。
【請求項2】
単糸繊度が3?12dtex、総繊度が30?120dtexであるポリエステル長繊維を3?20重量%含むことを特徴とする請求項1に記載のビジネスシャツ用編地。
【請求項3】
地部が白色金属酸化物を0.6?5.0重量%含むポリエステル繊維からなり、柄部が白色金属酸化物を0?0.5重量%含むポリエステル繊維からなることを特徴とする請求項1または2に記載のビジネスシャツ用編地。
【請求項4】
地部が白色金属酸化物を0.6?5.0重量%含むポリエステル繊維からなり、柄部がカチオン染料可染性ポリエステル繊維からなることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のビジネスシャツ用編地。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載のビジネスシャツ用編地を身頃に使用していることを特徴とするビジネスシャツ。」

第3 特許異議の申立理由の概要
申立人の主張する申立理由は、次のとおりである。
なお、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲第1号証等をそれぞれ「甲1」等という。
また、甲1等に記載された発明及び事項を「甲1発明」等及び「甲1事項」等という。

1 申立理由1(特許法29条2項)
本件発明1、5は甲1発明及び甲2事項に基いて、本件発明2は甲1発明、甲2事項及び従来周知事項に基いて、本件発明3、4は甲1発明、甲2事項及び甲6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、本件発明1?5に係る特許は特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(特許法第36条第6項第2号)
本件発明1?5は、特許請求の範囲の記載が不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(特許法第36条第6項第1号)
本件発明2は、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

< 刊 行 物 一 覧 >
甲1:特開2012-207311号公報
甲2:特開2001-303403号公報
甲3:特開2013-104158号公報
甲4:特開2015-193940号公報
甲5:特許第5994036号公報
甲6:特開2006-328590号公報

なお、甲5は、発行日が平成28年9月21日であり、本件特許の優先日である平成28年9月20日以降に発行されたものであるから、証拠として採用できない。
さらに、念のために甲5の公開公報である特開2017-206790号公報の公開日をみると、平成29年11月24日であり本件特許の優先日以降の公開であるから、当該公開公報も証拠として採用できない。

第4 刊行物の記載
1 甲1
(1)甲1【図2】のモノクロディ編組織図によると、NO.1(段落【0030】等では「No.1」と記載されているが、ここでは【図2】の表記である「NO.1」に統一する。以下「No.2」等も同様。)及びNO.4に給糸されるPET糸1はそれぞれ表ニットループ数4、裏ニットループ数4であり、NO.2及びNO.5に給糸されるAN糸2及びCU糸は裏組織においてそれぞれニットループ数4、ウエルト数4のニット-ウエルト構造であり、NO.3及びNO.6に給糸されるPET糸1は裏組織を構成しないものである。
よって、編地裏組織中の全構造に対するニット-ウエルト構造の比率は、(NO.2ニット-ウエルト構造数8+NO.5ニット-ウエルト構造数8)/(NO.1裏ニットループ数4+NO.4裏ニットループ数4+NO.2ニット-ウエルト構造数8+NO.5ニット-ウエルト構造数8)=(8+8)/(4+4+8+8)=約0.67となる。
さらに、全ニットループ数と全ウエルト数についてみると、NO.1及びNO.4に給糸されるPET糸1はそれぞれニットループ数8、NO.2及びNO.5に給糸されるAN糸2及びCU糸はそれぞれニットループ数4、ウエルト数4、NO.3及びNO.6に給糸されるPET糸1はそれぞれニットループ数4、ウエルト数4である。
よって、編地基本組織を構成する全ニットループ数に対する全ウエルト数の比率は、全ニットループ数に対する全ウエルト数の比率は、(NO.2ウエルト数4+NO.5ウエルト数4+NO.3ウエルト数4+NO.6ウエルト数4)/(NO.1ニットループ数8+NO.4ニットループ数8+NO.2ニットループ数4+NO.5ニットループ数4+NO.3ニットループ数4+NO.6ニットループ数4)=(4+4+4+4)/(8+8+4+4+4+4)=16/32=0.5となる。

なお、申立人は、本件特許異議申立書12ページ14行?13ページ14行において同様の算出を行っているが、甲1【図2】は、実施例3に対応するものであるから、当該算出における「AN糸1」なる記載は、「AN糸2」の明らかな誤記である。

(2)甲1の【請求項1】、段落【0001】、【0016】、【0019】、【0023】、【0030】、【0032】に記載された事項、【図2】に図示された事項、及び上記「第4 1(1)」を総合すると、甲1には、以下の染色交偏編地に係る発明である甲1発明が記載されている。

「目付が150g/m^(2)であるダブル編地からなり、編地の裏組織において全構造に対するニット-ウエルト構造の比率が約0.67であり、編地基本組織を構成する全ニットループ数に対する全ウエルト数の比率が0.5であり、コース密度が34コース/インチ、ウェール密度が40ウエール/インチである、染色交編編地。」

2 甲2
(1)甲2【表1】によると、伸長率(EMT)[%]として実施例1にはタテ方向12.8、ヨコ方向30.7の記載があるから、実施例1のタテ方向とヨコ方向の伸長率の平均は(12.8+30.7)÷2=21.75となる。
以下同様に、実施例2は22.2、実施例3は17.75、実施例4は17.05となる。

(2)甲2の【請求項1】、【表1】に記載された事項、及び上記「第4 2(1)」を総合すると、甲2には、以下のビジネスシャツ用編地に関する甲2事項が記載されている。

「タテ方向の伸長率(EMT)が12.5%?15.6%で、タテ方向とヨコ方向の伸長率(EMT)の平均が17.05?22.2%であるビジネスシャツ用編地」

第5 判断
1 申立理由1(特許法29条2項)についての判断
(1)対比
本件発明1と甲1発明を対比すると少なくとも以下の点で相違している。

<相違点1>
本件発明1は「タテ方向の伸長率(EMT)が5?25%、タテ方向とヨコ方向の伸長率(EMT)の平均が9?30%」としているのに対して、甲1発明は伸長率が明記されていない点。

<相違点2>
本件発明1は「ビジネスシャツ用編地」であるのに対して、甲1発明は「染色交編編地」である点。

(2)判断
<相違点1>と<相違点2>をあわせて検討する。

ア ビジネスシャツ用の布帛が従来は織物であったところ、通気性、柔軟性、伸縮性に劣ることから、編地で作ることを試みたもの(本件特許明細書段落【0002】?【0003】)であるが、編地をビジネスシャツ用とするには、毛羽の全くないフィラメントと、表面毛羽が多い紡績糸を交編する必要や、短繊維とフィラメントからなる長短複合紡績糸を用いる必要があったり、表糸と裏糸からなる組織の場合、編地が分厚くなってしまう問題や、天竺編目が多いため、編地の伸度が大きくなって保形性が低下しやすい問題(本件特許明細書段落【0003】?【0005】)などがあった。
そのため、本件発明1は、編物でありながらタテ方向の伸度が制限されており、ビジネスシャツとして適度な伸度と柔らかさ、通気性、保形性を兼ね備えた編地を提供するとともに、薄地編物でありながら透け感が少ないビジネスシャツ用編地を提供すること(本件特許明細書段落【0007】)を課題としている。
すなわち、<相違点2>に係る構成である「ビジネスシャツ用編地」に特有の上記課題を解決するために、<相違点1>に係る構成である「タテ方向の伸長率(EMT)が5?25%、タテ方向とヨコ方向の伸長率(EMT)の平均が9?30%」という伸長率の特定を解決手段とするものである。

イ 一方、甲1は、異種繊維糸の組み合わせからなる交織或いは交編の布帛を同色に染色するには、それぞれの繊維に対して染色可能な染料を用いて、同浴で多段で染色する或いは別浴でそれぞれの繊維を染色する方法や、異種繊維でありながら同種染料で染色可能な繊維の組み合わせを同浴で一段で染色する、例えばポリアミド繊維糸と木綿等のセルロース繊維糸との組み合わせを反応染料で染色する或いはカチオン染料可染型に改質のポリエステル繊維糸とアクリル繊維糸の組み合わせをカチオン染料で染色する方法が従来採られていた(甲1段落【0002】?【0003】)ところ、多段或いは別浴による方法では、同色にするための色目合わせに困難を来たし、また同浴一段による方法でも満足しうる同色が得られていないという問題(甲1段落【0004】)があったとしている。
そのため、甲1は、ポリエステル繊維糸とアクリル繊維糸の組み合わせの交編編地でありながら、同浴染めによる同色性に優れた染色交編編地を提供すること(甲1段落【0006】)を課題としている。
すなわち、甲1は、染色交編編地に特有の課題を解決するために、「エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、ジカルボン酸成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸2?2.5モル%およびアジピン酸3?7モル%を含む共重合ポリエステルからなるポリエステルマルチフィラメント糸と、アクリロニトリルを90質量%以上含むアクリロニトリル系重合体からなるアクリル短繊維紡績糸とを用いて構成した交編編地を、カチオン基が封鎖されていないカチオン染料にて90?110℃の同浴で染色」(甲1【請求項1】)するという構成を解決手段とするものである。
したがって、甲1発明は、ポリエステル繊維糸とアクリル繊維糸の組み合わせの交編編地において、カチオン基が封鎖されていないカチオン染料にて90?110℃の同浴で染色するという構成要件を前提として、目付やニット-ウエルト構造の比率といった各種の数値を備えるものである。

ウ ここで、甲1段落【0032】には、「本発明によれば高級衣料として有用な素材を提供しえるものである。」と記載されている。
そして、一般的にビジネスシャツと高級衣料は、重複する部分を含んでいる。
しかしながら、甲1発明が高級衣料として有用であるのは、甲1段落【0032】に記載されている「同色性に優れた染色交編編地」、「鮮明な発色性」、「表面側の裏面側とでの面の同色性に優れ、また表面側がソフトな風合いで滑り性に優れ、膨らみ感があり、裏面側が膨らみ感、軽量感を有する」といった特徴から高級衣料として有用であるとしているのであって、本件発明1のように、適度な伸度と柔らかさ、通気性、保形性、薄地編物でありながら透け感が少ないといった特徴からビジネスシャツとして有用であるとしているものではない。
したがって、甲1段落【0032】の「高級衣料として有用な素材」なる記載によって、甲1発明をビジネスシャツに用いることが明示ないし示唆されているとまではいえない。

エ さらに、甲1段落【0019】には、「本発明においては、染色交編編地に良好な伸縮性を付与するうえで、交編編地の構成の際に、単独のアクリル短繊維紡績糸に代えて、アクリル短繊維紡績糸と2?3倍に引き伸ばされたポリウレタン弾性糸との引揃え糸を用いることが好ましい。」とも記載されている。
しかしながら、この伸縮性の付与は、引き続いて甲1段落【0019】に「アクリル短繊維紡績糸とともに配されたポリウレタン弾性糸は、伸長性が極めて高く、小さな力で伸長するため、本発明の染色交編編地をスポーツ衣料等にしたときに身体の動きに違和感なく追従し、優れたボディフィット性を与える。」と記載されているように、スポーツ衣料等に適した極めて高い伸長性の付与を意図したものであって、本件発明1のようにビジネスシャツとして適度な伸度を付与するためのものではなく、またタテ方向の伸度を制限するという、特定方向の伸縮性付与を意図したものでもない。
したがって、甲1段落【0019】の「染色交編編地に良好な伸縮性を付与する」なる記載によって、甲1発明に、ビジネスシャツとして適度な伸度やタテ方向の伸度を制限することが明示ないし示唆されているとまではいえない。

オ してみると、甲1発明は、ビジネスシャツに用いることが意図されていない上に、ビジネスシャツとして適度な伸度やタテ方向の伸度を制限することの動機付けがない。
そして、ビジネスシャツという用途と、適度な伸度やタテ方向の伸度を制限するという課題が、甲1発明に内在していることが自明であるともいえない。

カ よって、甲1発明に甲2事項を適用することが、当業者にとって容易になし得るものであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

キ 本件発明2?5は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1の構成を全て含み、さらに本件発明1の構成を限定するものであるので、本件発明1と同様に、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

(3)小括
よって、本件発明1?5は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、本件発明1?5に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すことはできない。

2 申立理由2(特許法第36条第6項第2号)についての判断
(1)「ビジネスシャツ」について
ア 請求項1?5に記載された用語「ビジネスシャツ」について、服飾に関する一般常識も勘案すれば、ビジネスの場で着用されるシャツであり、礼を失することのない程度にフォーマルなシャツであることは、当業者ならずとも容易に理解できるものであるから、明確である。

イ さらに、本件特許明細書を参酌すると、「ビジネスシャツ」について段落【0002】には、「従来のワイシャツ、ドレスシャツ、カジュアルシャツ、ブラウス等のように、主にビジネスシーンで着用されるシャツ」と記載されており、ビジネスシーンで着用されるシャツであることが明らかであるとともに、ワイシャツ、ドレスシャツ、カジュアルシャツ、ブラウス等が例示されている。

ウ 段落【0012】には、「ここでいうビジネスシャツとは、一般のビジネスシーンでも違和感のないシャツであり、例えば会社間の面談においても失礼のないレベルに許容される装いのシャツをいう。シャツの形態としては、例えば衿や前立てがある仕様のものが含まれる。」と記載されており、「ビジネスシャツ」に求められる外観の要件と例が記載されている。

エ 段落【0036】には、「本発明の編地に使用されるビジネスシャツは、ビジネスシーンで使用できる衿付のシャツである。例えば、カッターシャツ、ドレスシャツ、ドレスブラウス、ボタンダウンシャツ、ダンガリーシャツ等が挙げられる。前立ては必ずしもある必要はないが、前立てがある仕様である方がよりフォーマルとなりビジネスシーンに使用しやすい。また、ビジネスシーン用途のみに限定するものではない。」と記載されており、「ビジネスシャツ」に求められる形状の要件と例が記載されている。

オ してみると、本件特許明細書には、「ビジネスシャツ」についての定義、外観・形状の要件が記載されているし、例示もされているから、「ビジネスシャツ」がどのようなものであるのかは、当業者が十分に理解できる程度に説明されているといえる。

カ 申立人は、広辞苑(第六版)による「ビジネススーツ」、「ビジネス」に関する解説を根拠として、「ビジネス」は実質的に意味のない用語であるから「ビジネスシャツ」という用語が不明確であると主張している。(本件特許異議申立書23ページ24行?24ページ11行)
しかしながら、上記したように服飾に関する一般常識も勘案すれば、請求項1?5の用語「ビジネスシャツ」がどのようなものか明確であるといえるし、本件特許明細書も参酌すれば、「ビジネスシャツ」についての定義、外観・形状の要件や例が記載されており、どのような職種において着用されるかは問題でないことがわかるのだから、「ビジネスシャツ」、「ビジネス」なる用語が意味するところは、当業者が十分に理解できるものである。
よって、申立人の主張は採用できない。

キ したがって、請求項1?5に記載された用語「ビジネスシャツ」が不明確であるとはいえない。

(2)「地部」、「柄部」について
ア 本件特許の請求項3の記載によると、「白色金属酸化物を0.6?5.0重量%含むポリエステル繊維」からなる部分が「地部」であり、「白色金属酸化物を0?0.5重量%含むポリエステル繊維」からなる部分が「柄部」とされ、それぞれの組成により区別されているから、いずれが「地部」でいずれが「柄部」であるのか明確でないとまではいえない。

イ 本件特許の請求項4の記載も同様に、「白色金属酸化物を0.6?5.0重量%含むポリエステル繊維」からなる部分が「地部」であり、「カチオン染料可染性ポリエステル繊維」からなる部分が「柄部」とされ、それぞれ組成と性質により区別されているから、いずれが「地部」でいずれが「柄部」であるのか明確でないとまではいえない。

ウ してみると、本件特許の請求項3、4には、「柄部」と「地部」がどのようなものであるのかについて、当業者が十分に理解できる程度に記載されているといえる。

エ 申立人は、広辞苑(第六版)による「チェック」、「ドット」、「ストライプ」、「ディンプル」に関する解説を根拠としつつ、様々な模様において、いずれが「地部」であり、いずれが「柄部」であるのか不明確であると主張している。(本件特許異議申立書24ページ12行?25ページ27行)
しかしながら、上記したように本件特許の請求項3、4の記載自体から「地部」、「柄部」は明確である。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3)小括
よって、本件発明は、特許請求の範囲の記載が不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえないから、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当せず、取り消すことはできない。

3 申立理由3(特許法第36条第6項第1号)についての判断
(1)請求項2の記載と明細書の記載とが整合していないと主張する点について
ア 本件発明の課題、及び解決手段については、上記「第5 1(2)ア」に示したとおりである。

イ 本件特許明細書の段落【0009】には「単糸繊度が3?12dtex、総繊度が30?120dtexであるポリエステル長繊維を3?20重量%含むこと」が記載されている。

ウ 一方で、本件特許明細書の段落【0028】には「太い繊維は3?25重量%の割合で編地に混用することが好ましい。この太い繊維は非常に曲げ硬いので25重量%を超えると、風合いが硬くなりすぎてゴアゴア感が出て不快になりやすくなる。3重量%未満では、ハリコシを高める効果が少なくなる。」と記載されており、上限値について請求項2の「?20重量%」よりも大きな「?25重量%」が記載されている。
ここで、「太い繊維は非常に曲げ硬いので25重量%を超えると、風合いが硬くなりすぎてゴアゴア感が出」ることを防止するための上限値「?25重量%」よりも小さな上限値「?20重量%」であれば、風合いが硬くなりすぎてゴアゴア感が出ることがより一層防止できることは自明である。

エ ここで、太い繊維であるポリエステル長繊維の割合について、実施例4、5で検討する。
実施例4、5は、実施例3の変形例であり実施例3と同様のダイヤ柄の生機であるから、実施例3の記載及び【図4】も参照すると、実施例3では、給糸口F1?F24の給糸口について、84T48fの糸が6、56T24fの糸が12、84T36fの糸が6、それぞれ給糸されるところ、実施例4、5では、56T24fのうち6を56T6fに代えるものである。
そうすると、実施例4、5における編地全体の重量は、84T48f×6+56T24f×6+56T6f×6+84T36f×6=84×6+56×6+56×6+84×6=504+336+336+504=1680となる。
そして、実施例4、5においては、56T6fの糸が単糸繊度9.3dtexで総繊度が56dtexのポリエステル長繊維であるから、その割合は、(56T6f×6)/編地全体の重量=(56×6)/1680=0.2となるから20重量%である。
よって、実施例4、5には、単糸繊度9.3dtexで総繊度が56dtexのポリエステル長繊維を20重量%としたものが記載されており、【表1】の「動き易さ」(動きに対する生地の抵抗:段落【0047】)の評価結果が「○」であることから、「ゴアゴア感」が防止されていることがわかる。

オ 上記ウ、エによれば、請求項2の「?20重量%」という上限値によって「ゴアゴア感」を防止していること、すなわちビジネスシャツとしての適度な伸度と柔らかさという本件発明の課題を解決することが理解できる。

カ よって、請求項2は、本件特許明細書の記載から本件発明の課題を解決することが理解できるものであるから、サポート要件を満たすものである。

(2)請求項2の記載は実施例に開示された発明を拡張し一般化したものであると主張する点について
ア 明細書の段落【0009】には「単糸繊度が3?12dtex、総繊度が30?120dtexであるポリエステル長繊維を3?20重量%含むこと」が記載されている。

イ その上で段落【0028】には「本発明では、保形性やハリ、コシをより高めるために、前述の方策に加えて、単糸繊度が3?12dtexの太い繊維を混用することが有効である。より好ましくは5?10dtexである。」、「太い繊維は3?25重量%の割合で編地に混用することが好ましい。」、「この長繊維の総繊度は30?120dtexであることが好ましい。より好ましくは30?115dtexである。」と単糸繊度、総繊度、長繊維含有割合が記載されるとともに、「この太い繊維は非常に曲げ硬いので25重量%を超えると、風合いが硬くなりすぎてゴアゴア感が出て不快になりやすくなる。3重量%未満では、ハリコシを高める効果が少なくなる。」、「上記範囲未満では、ハリ、コシを高める効果が少なく、上記範囲を超えると、風合いが硬くなりすぎるおそれがある。」とその数値の効果が記載されているから、本件発明のビジネスシャツとして適度な伸度と柔らかさという課題を解決することが理解できる。
ここで、ポリエステル長繊維の含有割合「?25重量%」については、上記「第5 3(1)」で述べたとおり「?20重量%」という上限値によっても本件発明の課題を解決することが理解できるものである。
よって、明細書は、「単糸繊度が3?12dtex、総繊度が30?120dtexであるポリエステル長繊維を3?20重量%含むこと」により、ビジネスシャツとしての適度な伸度と柔らかさという本件発明の課題を解決することが理解できる程度に記載されているといえる。

ウ したがって、請求項2は、本件特許明細書の記載から本件発明の課題を解決することが理解できるものであるから、サポート要件を満たすものである。

エ 申立人は、単糸繊度が9.3dtex、総繊度が56dtexであるポリエステル長繊維が20重量%含まれている一つの例しか実施例として記載されていないから、一つの例に基いて単糸繊度を3?12dtexに、総繊度を30?120dtexに、重量割合を3?20重量%に拡張することは、詳細な説明に開示された発明の範囲を逸脱していると主張している。(本件特許異議申立書26ページ28行?27ページ18行)
しかしながら、実施例はあくまで例であって、数値範囲全ての組合せを網羅的に実施例として例示する必要はなく、明細書全体の記載から請求項に係る発明が課題を解決できることが理解できればサポート要件はみたされるものである。
そして、明細書は、上記したように請求項2の「単糸繊度が3?12dtex、総繊度が30?120dtexであるポリエステル長繊維を3?20重量%含むこと」という構成によって、本件発明の課題を解決することが理解できるように記載されている。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3)小括
よって、本件発明は、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえないから、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当せず、取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-12-27 
出願番号 特願2017-566881(P2017-566881)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D04B)
P 1 651・ 537- Y (D04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 大輔  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 西藤 直人
横溝 顕範
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6302608号(P6302608)
権利者 東洋紡STC株式会社
発明の名称 ビジネスシャツ用編地  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 風早 信昭  
代理人 浅野 典子  
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