ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D02G |
---|---|
管理番号 | 1347702 |
異議申立番号 | 異議2018-700455 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-06-06 |
確定日 | 2019-01-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6242528号発明「混繊交絡糸、その製造方法、及び混繊交絡糸を用いた織編物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6242528号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6242528号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成25年11月19日に出願した特願2013-238923号の一部を平成29年6月1日に新たな特許出願としたものであって、平成29年11月17日にその特許権の設定登録がされ(平成29年12月6日特許掲載公報発行)、その後、平成30年6月6日に特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「異議申立人」という。)により請求項1?7に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、平成30年8月7日付けで取消理由が通知され、平成30年10月4日に特許権者より意見書の提出が提出されたものである。 2.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1?7」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 単糸繊度が0.2?0.9dtexのポリエステル繊維Aと、単糸繊度が1.0?5.0dtexのポリエステル繊維Bとから構成される混繊交絡糸であって、 前記混繊交絡糸は、全体として仮撚捲縮を有し、かつ、前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bとの質量比率(A/B)が20/80?80/20の範囲にあり、 前記混繊交絡糸の表面部分において、ポリエステル繊維Aによる突出部が形成されており、 捲縮率が10?45%の範囲にある、混繊交絡糸。 【請求項2】 交絡数が90?150個/mの範囲にある、請求項1に記載の混繊交絡糸。 【請求項3】 ポリエステル繊維Aの糸長がポリエステル繊維Bの糸長よりも5%以下長いものである、請求項1または2に記載の混繊交絡糸。 【請求項4】 前記ポリエステル繊維Bが、太陽光遮蔽物質を含む、請求項1?3のいずれかに記載の混繊交絡糸。 【請求項5】 前記ポリエステル繊維Bが、赤外線吸収物質を含む、請求項1?3のいずれかに記載の混繊交絡糸。 【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載の混繊交絡糸が織編された織編物であって、 KES-Fシステムによる織編物表面粗さの平均偏差(SMD)が3.0?8.0μmの範囲にあり、かつ、撥水加工されてなる、織編物。 【請求項7】 カバーファクター(CF)が1500?3000の範囲にあり、かつ、水滴転がり角度が15度以下である、請求項6に記載の織編物。」 (2)取消理由の概要 当審において、本件発明の特許に対して、平成30年8月7日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 なお、異議申立人が申立てた理由のうち、本件発明1?5に対するものが通知され、本件発明6及び7に対するものは通知されなかった。 理由 本件発明1?5は、その原出願の出願日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その原出願の出願日にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1?5に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 記 <刊行物一覧> 引用文献1.特開2012-122144号公報 (異議申立書の甲第1号証) 引用文献2.国際公開第2012/077488号 (異議申立書の甲第2号証) 引用文献3.特開2009-299244号公報 (異議申立書の甲第3号証) 引用文献4.特開2012-211405号公報(周知技術を示す文献) 引用文献5.特開2011-214203号公報(周知技術を示す文献) 本件発明1?3は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。または、本件発明1?3は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2,3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明4,5は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項、及び引用文献4,5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。または、本件発明4,5は、引用文献1に記載された発明、引用文献2,3に記載された事項、及び引用文献4,5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)取消理由についての判断 ア.刊行物に記載された発明及び刊行物に記載された事項 (ア)引用文献1について 引用文献1には、以下の記載がある。 a.「【請求項1】 織物に、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が0?5ng/gのフッ素系撥水剤が付着してなる撥水性織物であって、前記織物に、単糸繊度が1.0dtex以上のポリエステルフィラメントAと単糸繊度が0.4dtex以下のポリエステルフィラメントBとを用いて得られた複合糸が含まれ、かつ下記で定義する糸足差が5%以上であることを特徴とする撥水性織物。 織物から複合糸を抜き取り、0.1cN(0.1g)×複合糸の総繊度(dtex)の荷重をとりつけ、5cmの長さにカットし、カットした複合糸から、ポリエステルフィラメントA(単糸)とポリエステルフィラメントB(単糸)とを取り出し、それぞれ、0.1cN(0.1g)×の単糸繊度(dtex)の荷重をかけて長さを測定し、下記式により糸足差(%)を算出する。 糸足差(%)=(LB-LA)/LA×100 ただし、LAはポリエステルフィラメントAの糸長(cm)であり、LBはポリエステルフィラメントBの糸長(cm)である。」 b.「【0001】 本発明は、環境に配慮した撥水性織物であって、優れた撥水性を有する撥水性織物、および該撥水性織物を用いてなる衣料に関する。」 c.「【0013】 また、本発明の撥水性織物には、単糸繊度が1.0dtex以上のポリエステルフィラメントAと単糸繊度が0.4dtex以下のポリエステルフィラメントBとを用いて得られた複合糸が含まれる。 ここで、前記ポリエステルフィラメントAにおいて、単糸繊度が1.0dtex以上(好ましくは0.8?3.0dtex、より好ましくは0.8?1.5dtex)であることが肝要である。該単糸繊度が1.0dtex未満の場合、得られる撥水性織物の引裂き強力が低下し好ましくない。 また、前記ポリエステルフィラメントAのフィラメント数としては5?25本の範囲内であることが好ましい。」 d.「【0016】 前記ポリエステルフィラメントAにおいて、単繊維の横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付扁平などいずれでもよい。また、繊維形態も特に限定されず、紡績糸、長繊維(マルチフィラメント)いずれでもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工が施されていてもさしつかえない。 【0017】 一方、前記ポリエステルフィラメントBにおいて、単糸繊度が0.4dtex以下(好ましくは0.00001?0.4dtex、より好ましくは0.00001?0.4dtex)であることが肝要である。該単糸繊度が0.4dtexよりも大きいと、得られる軽量織物の撥水性が低下し好ましくない。」 e.「【0020】 前記ポリエステルフィラメントBにおいて、単繊維の横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付扁平などいずれでもよい。また、繊維形態も特に限定されず、紡績糸、長繊維(マルチフィラメント)いずれでもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工が施されていてもさしつかえない。」 f.「【0024】 このように、ポリエステルフィラメントAの熱水収縮率がポリエステルフィラメントBの熱水収縮率よりも大きいと、織物に染色加工などの熱処理を行うと、ポリエステルフィラメントAとポリエステルフィラメントBとの糸足差が発現し、織物表面にポリエステルフィラメントBからなる微小な凸部が現れることにより優れた撥水性が得られる。」 g.「【0027】 前記複合糸の複合方法は特に限定されず、公知のインターレースノズルを用いた空気混繊、複合仮撚、合撚糸、カバリングなどが好適に例示される。なかでも、公知のインターレースノズルを用いた空気混繊が好ましい。」 h.「【0037】 かくして得られた織物の表面において、あたかも蓮の葉のように、ポリエステルフィラメントBがふくらみ(凸部)を持ち、そこに空気層ができるため、水滴がのったときに空気の存在により優れた撥水性を呈する。その際、撥水性としては、織物の撥水ころがり角度が25度以下であることが好ましい。」 i.「【0051】 [実施例1] モル比が93/7のテレフタル酸/イソフタル酸とエチレングリコールとからなる共重合ポリエステルを常法により紡糸、延伸して、共重合ポリエステルマルチフィラメント16dtex/12fil(ポリエステルフィラメントA、単糸繊度1.33dtex、熱水収縮率20%)を得た。 一方、ポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸、延伸して、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント22dtex/72fil(ポリエステルフィラメントB、単糸繊度0.31dtex、熱水収縮率7%)を得た。 次いで、前記ポリエステルフィラメントAとポリエステルフィラメントBとを引き揃えて公知のインターレースノズルを用いて、糸速度600m/minで空気混繊することにより、インターレース混繊糸38dtex/84filを得た。 次いで、通常のウオータージェットルームを使用し、該インターレース混繊糸38dtex/84filを経糸および緯糸に配して平組織にて生機を得た。 次いで、U型ソフサーを用いて95℃で拡布精練し、液流染色機にて120℃リラックス処理した。次いで、テンターを用いて190℃で中間セットし、液流染色機にて130℃の分散染料による染色加工を行い、撥水加工を施した後、テンターを用い170℃でファイナルセットした。その際、撥水加工は下記の加工剤を使用し、ピックアップ率80%で搾液し、130℃で3分間乾燥後170℃で45秒間熱処理を行った。 <加工剤組成> ・ふっ素系撥水剤 8.0wt% (旭硝子(株)製、アサヒガードEシリーズAG-E061 PFOA:1ng/g未満、PFOS:1ng/g未満) ・メラミン樹脂 0.3wt% (住友化学(株)製、スミテックスレジンM-3) ・触媒 0.3wt% (住友化学(株)製、スミテックスアクセレレータACX) ・水 91.4wt% 次いで、ロール温度150℃で通常のカレンダー加工を行い、撥水性織物を得た。 得られた撥水性織物において、カバーファクター(CF)が2090、ポリエステルフィラメントAとポリエステルフィラメントBとの糸足差は経13.2%緯12.9%、引裂強力が経9.6N/緯8.3N、撥水ころがり角が経9度/緯11度と大変撥水性に優れたものであり、目付け69g/m^(2)と大変軽量なものであった。また、耐水圧は470mmH_(2)Oであり、通気度は0.5cc/cm^(2)・secであった。 次いで、該撥水性織物を用いて衣料を得て着用したところ、撥水性、引裂強力、軽量性、低通気性に優れるものであった。」 上記記載e.より、ポリエステルフィラメントBは仮撚捲縮加工が施されうるものであり、上記記載d.より、ポリエステルフィラメントAも仮撚捲縮加工が施されうるものであるが、両者に仮撚捲縮加工が施された場合、インターレース混繊糸全体として仮撚捲縮を有すると解される。 また、上記記載i.より、ポリエステルフィラメントBとポリエステルフィラメントAとの質量比率は、22dtex/16dtexであるから、略58/42であるといえる。 そして、上記記載f.及びi.より、インターレース混繊糸を織物とし、 その織物に染色加工などの熱処理を行うと、ポリエステルフィラメントAとポリエステルフィラメントBとの糸足差が発現し、織物表面にポリエステルフィラメントBからなる微小な凸部が現れることにより優れた撥水性が得られるということが理解できる。 したがって、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「単糸繊度が0.4dtex以下のポリエステルフィラメントBと、単糸繊度が1.0dtex以上のポリエステルフィラメントAとから構成されるインターレース混繊糸であって、 前記インターレース混繊糸は、全体として仮撚捲縮を有し、かつ、ポリエステルフィラメントBとポリエステルフィラメントAとの質量比率が略58/42であり、 織物を製造した後に染色加工などの熱処理を行うと、前記インターレース混繊糸の表面部分において、ポリエステルフィラメントBからなる微少な凸部が現れる、インターレース混繊糸。」 (イ)引用文献2について 引用文献2には、以下の記載がある。 a.「【請求項1】 パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の合計濃度が0?5ng/gのフッ素系撥水剤が織物に付着してなる撥水性織物であって、 S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とを含む複合糸を含むことを特徴とする撥水性織物。」 b.「【0001】 本発明は、環境に配慮した撥水性織物であって優れた撥水性を有する撥水性織物、および該撥水性織物を用いてなる衣料に関する。」 c.「【0017】 また、前記複合糸において、捲縮率が13%以上(より好ましくは13?25%)であると、蓮の葉状の微細な凹凸が織物表面に形成されやすいため優れた撥水性が得られ、好ましい。該捲縮率が13%未満では十分な撥水性が得られないおそれがある。」 d.「【0025】 本発明の撥水性織物は、例えば以下の方法により製造することができる。まず、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とを用いて複合糸を得る。その際、複合方法としては、インターレース加工やタスラン(登録商標)加工などの空気混繊、複合仮撚、合撚、カバリングなどいずれでもよい。なかでも、蓮の葉状の微細な凹凸が織物表面に形成し撥水性を得る上で、前述のようにインターレース加工(交絡処理)が好ましい。」 したがって、引用文献2には、「二種類の仮撚捲縮加工糸をインターレース加工することで撥水性が得られること」、及び、「捲縮率が13%以上であると十分な撥水性が得られること」が記載されているといえる。 (ウ)引用文献3について 引用文献3には、以下の記載がある。 a.「【0045】 本発明の製造方法では、基本的に、図2に示すように混繊交絡糸を得た後は、直ちに延伸同時仮撚加工するという連続的な工程を採用するのが好ましいが、得られた混繊交絡糸をいったんパッケージに巻き取り、しかる後に混繊交絡糸を延伸同時仮撚加工するという不連続的な工程を採用してもよい。」 b.「【0046】 また、本発明の仮撚加工糸は、仮撚加工の後、さらに糸条長手方向に集束交絡部を部分的に設けると、前述したように本発明の効果をより高めることができる。 【0047】 集束交絡部を部分的に設けるには、インターレースノズルを用いて混繊交絡処理すればよい。条件としては、エアー圧力を好ましくは120?300KPaに、オーバーフィード率を好ましくは0.5?3.0%に設定する。なお、この混繊交絡処理も目的に応じて、連続又は不連続的な工程のいずれかを選択すればよい。」 引用文献3には、上記a.の記載より、「混繊交絡糸に延伸同時仮撚加工を行うこと」が、上記b.の記載より、引用文献3には「その後にインターレースノズルを用いて混繊交絡処理を行うことが」が記載されているといえる。 (エ)引用文献4について 引用文献4には、以下の記載がある。 a.「【0010】 本発明の涼感性編地は、1.0?5.0質量%の酸化チタンを含有する異形度2.0?10.0の異形断面ポリエステル繊維およびセルロース系フィラメント繊維を含む混繊糸条を30質量%以上含有する涼感性編地であって、前記混繊糸条におけるセルロース系フィラメント繊維の混用率が30?80%であり、かつ1インチ間のコース数Cと1インチ間のウェール数Wの積で表される編地密度が1000以上であるため、優れた涼感性、透け防止性、日焼け防止性、吸水拡散性が相乗的に向上されるという顕著な効果を奏する。」 b.「【0064】 [実施例1] 図6に示すような凸部を有しないI字型の扁平形状(異形度:3.5、扁平度:3.5)の異形断面ポリエステル繊維(酸化チタンの含有率:2質量%)(56dtex/48f)、セルロース系フィラメント繊維として、市販のレーヨンフィラメント56T18(石川製作所製、「STPワインダー」)(公定水分率:6%以上)を用い、糸速200m/min、エアー圧1.5kgf/cm^(2)でインタレース加工を施して混繊糸条を得た。次いで、得られた混繊糸条を、製丸編機(福原精機社製、「LPJ33”28G」)を用い、フライス組織の編地を得た。 【0065】 次いで、得られた編地に対して、80℃で30分間精練処理を行った後に、2%o.w.fの反応染料(Recmazol brillBuleRN-100)、30g/lの無水硫酸ナトリウム、10g/lのソーダ灰を用い、レーヨンフィラメントを染色した。最後に仕上げセットを行い、実施例1の編地を得た。編地密度は、1596(42C/38W)であった。評価結果を表1に示す。」 したがって、引用文献4には「繊維に太陽光遮蔽物質(酸化チタン)を含ませること」が記載されているといえる。 (オ)引用文献5について 引用文献5には、以下の記載がある。 a.「【0064】 (実施例1) 極限粘度0.68のポリエチレンテレフタレートに蛍光増白剤として4,4′-ビス(2-ベンゾキサゾリル)スチルベンを0.1質量%溶融混練し、常法によりチップ化し、乾燥することでポリマーAを得た。一方、極限粘度0.73のポリエチレンテレフタレートに赤外線吸収剤としてアンチモンドーピング酸化錫を10質量%溶融混練し、常法によりチップ化し、乾燥することでポリマーBを得た。そして、図3(a)?(d)に示すオリフィスを44孔有する紡糸口金を備えた芯鞘複合紡糸装置にポリマーA、Bを導入し、紡糸速度3000m/分、紡糸温度290℃、吐出量33g/分なる条件で溶融紡糸し、両ポリマーの質量比率(A/B)が80/20の複合繊維からなる、110dtex44fの半未延伸糸を得た。 【0065】 続いて、半未延伸糸を延伸倍率1.37、熱処理温度160℃、撚数3670T/Mの条件で仮撚し、さらに混繊することで、目的の混繊糸を得た。 【0066】 電子顕微鏡を用いて、延伸糸を構成する複合繊維の横断面を観察したところ、両ポリマーの接合形状が繊維外周の輪郭に沿った形状をなしていることが確認できた。」 したがって、引用文献5には「繊維に赤外線吸収物質を含ませること」が記載されているといえる。 イ.本件発明1について (ア)本件発明1は、上記3.(1)において示したとおりのものである。 (イ)本件発明1と引用発明1とを対比すると、以下のとおりとなる。 引用発明1の「ポリエステルフィラメントB」は、単糸繊度が0.4dtex以下であるが、0.2?0.9dtexという範囲と一部が共通するので、本件発明1の「ポリエステル繊維A」に相当する。 引用発明1の「ポリエステルフィラメントA」は、単糸繊度が1.0dtex以上であるが、1.0?5.0dtexという範囲と一部が共通するので、本件発明1の「ポリエステル繊維B」に相当する。 引用発明1の「インターレース混繊糸」は、本件発明1の「混繊交絡糸」の一種である。 引用発明1の「ポリエステルフィラメントBとポリエステルフィラメントAとの質量比率」は、略58/42であるが、これは本件発明1の「20/80?80/20の範囲」という範囲内の数値である。 よって、本件発明1と引用発明1は、以下の構成において一致する。 「単糸繊度が0.2?0.9dtexのポリエステル繊維Aと、単糸繊度が1.0?5.0dtexのポリエステル繊維Bとから構成される混繊交絡糸であって、 前記混繊交絡糸は、全体として仮撚捲縮を有し、かつ、前記ポリエステル繊維Aと前記ポリエステル繊維Bとの質量比率(A/B)が20/80?80/20の範囲にある、混繊交絡糸。」 そして、本件発明1と引用発明1は、以下の点で相違する。 ・相違点1 本件発明1は「前記混繊交絡糸の表面部分において、ポリエステル繊維Aによる突出部が形成されて」いるのに対して、引用発明1は、織物を製造した後に染色加工などの熱処理を行うと、インターレース混繊糸の表面部分において、ポリエステルフィラメントBからなる微少な凸部が現れる点。 ・相違点2 本件発明1は「捲縮率が10?45%の範囲にある」のに対して、引用発明1は、インターレース混繊糸の捲縮率が不明である点。 (ウ)相違点1について検討する。 混繊交絡糸として製造された後に行われる染色加工などの熱処理を経ること無く、混繊交絡糸の表面部分においてポリエステル繊維Aによる突出部が形成されているということについて、引用文献1及び3?5には記載も示唆も無い。 この点、引用文献2には、「二種類の仮撚捲縮加工糸をインターレース加工することで撥水性が得られること」が記載されている。 しかし、上記ア.(ア)f.で摘記したように、引用発明1は、染色加工などの熱処理を行うと、ポリエステルフィラメントAとポリエステルフィラメントBとの糸足差が発現し、織物表面にポリエステルフィラメントBからなる微小な凸部が現れ、撥水性が備わるというものである。 そのため、熱処理によってポリエステルフィラメントAとポリエステルフィラメントBとの糸足差が発現する前の段階で、撥水性を得る必要性は無いから、引用発明1に引用文献2に記載された事項を適用することの動機付けがあるということはできない。 よって、「前記混繊交絡糸の表面部分において、ポリエステル繊維Aによる突出部が形成されて」いるという事項は、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (エ)相違点2について検討する。 この点、引用文献2には、「捲縮率が13%以上であると十分な撥水性が得られること」が記載されている。 しかし、上記(ウ)で述べたとおり、引用発明1に引用文献2に記載された事項を適用することの動機付けは見当たらない。 よって、「捲縮率が10?45%の範囲にある」という事項は、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (オ)一方で、本件発明1は「前記混繊交絡糸の表面部分において、ポリエステル繊維Aによる突出部が形成されて」おり、「捲縮率が10?45%の範囲にある」ということによって、織編物の構造を特段工夫せずとも、従来公知の安価なフッ素系撥水剤などを使用することにより、織編物に高い撥水性能を付与できる混繊交絡糸を、混繊交絡糸として製造された後に行われる染色加工などの熱処理を経ること無く、提供することができるという効果を発揮するものである。 以上より、本件発明1と甲1発明は、相違点1及び2において実質的に相違し、本件発明1は、引用発明1、引用文献2,3記載事項、及び引用文献4,5記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ.本件発明2?5について 本件発明2?5は本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるので、本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ.小括 以上のとおり、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものであるとはいえない。 (4)取消理由に採用しなかった異議申立理由についての判断 本件発明6,7は本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるので、上記(3)イ.で述べた本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-12-17 |
出願番号 | 特願2017-109449(P2017-109449) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(D02G)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 加賀 直人 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
竹下 晋司 蓮井 雅之 |
登録日 | 2017-11-17 |
登録番号 | 特許第6242528号(P6242528) |
権利者 | ユニチカトレーディング株式会社 |
発明の名称 | 混繊交絡糸、その製造方法、及び混繊交絡糸を用いた織編物 |
代理人 | 田中 順也 |
代理人 | 水谷 馨也 |