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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て不成立) E02B
管理番号 1347710
判定請求番号 判定2018-600022  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 判定 
判定請求日 2018-07-10 
確定日 2019-01-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第6114103号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「透明板付き防潮壁」は、特許第6114103号の請求項1、2に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
本件判定請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す「透明板付き防潮壁」(以下「イ号物件」という。)は、特許第6114103号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る発明(以下「本件特許発明1」などという。)の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。

本件特許に係る手続の経緯は、平成25年5月2日に出願され、平成29年3月24日に特許権の設定登録がなされ、平成30年7月10日に本件判定請求がなされ、その後、判定請求書副本が送付され(発送日:同年9月5日)、同年10月4日に答弁書が提出されたものである。

第2 本件特許発明について
1 本件特許発明
本件特許発明1、2は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、それぞれ特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(当審において、構成要件ごとに分説し、記号A?Mを付した。以下「構成要件A」などという。)。

「【請求項1】
A 防潮壁を厚さ方向に貫通する開口が壁の中ほどに、全周をその壁に囲まれて設けられていて、その開口に透明板が取り付けられた透明板付き防潮壁であって、
B 上記厚さ方向におけるいずれかの位置で、上記開口の外周部である上記の壁に、水の側を向いた縦向き面があり、
C 当該縦向き面から水の側へ間隔をおいた位置で、上記開口の周りの部分に、上記縦向き面と平行な部分を含む留め板が留めネジによって上記の壁に取り付けられ、
D 上記縦向き面と上記留め板の上記平行な部分との間に、上記透明板の外縁部が挟み付けられ、かつ、上記留めネジが、上記縦向き面から上記留め板の上記平行な部分の位置までの間に取り付けられたシール材により覆われていることを特徴とする
E 透明板付き防潮壁。
【請求項2】
F 防潮壁を厚さ方向に貫通する開口が壁の中に設けられていて、その開口に透明板が取り付けられた透明板付き防潮壁であって、
G 上記厚さ方向におけるいずれかの位置で、上記開口の外周部である上記の壁に、水の側を向いた縦向き面があり、
H 当該縦向き面が金属枠体の平板部分により覆われているとともに、
I 当該縦向き面から水の側へ間隔をおいた位置で、上記開口の周りの部分に、上記縦向き面と平行な部分を含む留め板が設けられていて、
J 上記縦向き面と上記留め板の上記平行な部分との間に、上記透明板の外縁部が挟み付けられていること、
K 上記の留め板が、上記縦向き面と上記留め板の上記平行な部分との間にのみ用いられた留めネジによって上記の壁に取り付けられていること、
L および、上記の留め板が、上記平行な部分とともに上記縦向き面寄りに屈曲した部分を有していて、当該屈曲した部分において、上記縦向き面と上記留め板の上記平行な部分との間にのみ用いられた上記の留めネジにより上記の壁に取り付けられていることを特徴とする
M 透明板付き防潮壁。」

2 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、留め板、留めネジ、シール材などに関して、以下のように記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。
(1)「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0007】
本願請求項に係る発明は、透明板が表面の傷等によって透明度を低下させたとき、その透明板を容易に取り替えできるようにした透明板付き防潮壁を提供するものである。とくに、構造が簡単で、外観にすぐれ、部品にサビ等が発生しにくいものを提供する。
・・・
【課題を解決するための手段】【0010】
上記の留め板は、
i) 留めネジ(ボルト・ナット類)を用いることなく上記の壁または支柱もしくは枠と一体に設けられ、または、
ii) 上記縦向き面と上記留め板の上記平行な部分(縦向き部分)との間にのみ用いられる留めネジによって上記の壁または支柱もしくは枠に取り付けられている
のが好ましい。
図4(e)は上記i)の例であり、図2、図3、図4(b)・(d)は上記ii)の例である。
【0011】
上記の留め板は、留めネジを用いて防潮壁の壁や支柱・枠に取り付けるのが一般的であり簡便である。しかし、留めネジを使用すると、雨水等に長期間接することにより錆びたり粉体が侵入したりしてネジ部が固着し、留め板を移動したり取り除いたりすることができなくなり、透明板の交換も困難になる恐れがある。
その点、上記i)のように留めネジが使用されずに留め板が設けられている場合は、構造が簡単であるうえ、留めネジの固着が発生せず、したがって透明板の交換が不可能になる恐れもない。
また、上記ii)のように縦向き面と留め板の上記平行な部分との間にのみ留めネジが用いられている場合には、当該縦向き面と留め板との間にシール材を詰めること等により、その留めネジが雨水等に接することを防止することができる。つまり、留めネジを覆うことによってその固着を防止できるため、透明板の交換もつねに円滑に行うことができる。
そのほか、上記i)・ii)のいずれの場合にも、留めネジが外部に露出しないことから、防潮壁の外観がとくにすぐれたものとなる。
【0012】
また、上記の留め板が、上記平行な部分とともに上記縦向き面寄りに屈曲した部分を有していて、当該屈曲した部分において、上記縦向き面と上記留め板の上記平行な部分との間にのみ用いられた上記の留めネジにより、上記の壁または支柱もしくは枠に取り付けられていると、とくに好ましい。
図2、図3、図4(b)・(d)は、そのように構成された例である。
上記のとおり留め板に屈曲部分が設けられ、その屈曲部分において留めネジが使用されると、上記縦向き面と留め板との間にシール材を詰めること等により、その留めネジが雨水等に接するのを防止することが容易に行える。」

(2)「【0017】
上記縦向き面と上記留め板との間に挟み付けられる上記透明板の外縁部の両面(水の側と陸側の各面)に、ライナー板(帯状の板またはシート)が重ねられていると好ましい。
図示の例では、いずれも、透明板の外縁部の両面にライナー板16・17が重ねられている。
上記のようにすると、透明板の外縁部が上記縦向き面や留め板(の上記平行部分)、または上記の拘束具に直接に接触することがなくなる。そのため、透明板の外縁部に局部的に高い圧力(拘束力)が作用することが防止され、透明板が欠損等する不都合が生じにくい。なお、ライナー板としては、樹脂やゴム等でできたものを使用することができる。」

(3)「【0024】
3) 開口3の内側であって上記縦向き面8から海側へ10cm程度の間隔をおいた位置に、留め板11を取り付けている。留め板11は、縦向き面8と平行な縦向き部分11aを有するとともに、縦向き面8寄りに屈曲した屈曲部分11bをも有するL字状断面の金属部材である。屈曲部分11bに設けられた穴に留めネジ(ボルト)12を通し、それを上記金属枠体21の雌ネジ部材21cにはめ付けることによって、留め板11を壁2に固定することができる。留めネジ12は、上記縦向き面8と留め板11の縦向き部分11aとの間に装着することから、外部には露出しない。なお、透明板10と留め板11との寸法関係によっては、留め板11を固定する前に、透明板10を縦向き面8の近傍まで搬入しておくのがよい。
【0025】
4) 透明板10は、上記2)のように金属枠体21で覆った縦向き面8と、上記3)のように固定した留め板11の縦向き部分11aとの間に、外縁部10aを挟み付けることによって取り付けている。そのためには、上記縦向き面8と留め板11(の縦向き部分11a)との間に、図示のとおり、透明板10の外縁部10aとともに、その外縁部10aの表裏各面に接するライナー板16・17、および端面間の寸法を変化させ得る手動スクリュージャッキ型の拘束具15とを挿し入れる。拘束具15は、透明板10の外縁部10aに沿った複数箇所に一定間隔で配置する。そしてライナー板16・17は、複数の拘束具15にまたがる長尺のものを使用する。拘束具15の一部を回転させてその端面間の寸法を伸ばすことにより、縦向き面8と留め板11との間に透明板10の縁部10aを挟んで拘束することができる。
【0026】
5) 上記4)によって透明板10を拘束して取り付けたのちに、シール材19を取り付ける。シール材19は、縦向き面8と留め板11との間において透明板10の陸側および海側に取り付ける。縦向き面8と留め板11とに囲まれた内側部分(留めネジ12等)にまで雨水や海水等が到達しないよう、縦向き面8と留め板11の縦向き部分11aとの間の空間をシール材19で覆うわけである。なお、シール材19は、定形の物を充填等するようにしてもよいが、不定形の物を塗布または噴射等して必要箇所を覆うようにしてもよい。」

第3 イ号物件
1 請求人によるイ号物件の特定
請求人は、イ号物件について、以下のように特定している。

「a)防潮壁pを厚さ方向に貫通する開口qが壁pの中ほどに、全周をその壁pに囲まれて設けられていて、その開口qに透明板1(原文は丸の中に数字。以下、部材番号については同様。)が取り付けられた透明板1付き防潮壁pである。
b)上記厚さ方向におけるいずれかの位置で、上記開口qの外周部である上記の壁pに、水の側を向いた縦向き面rがある。なお、h)当該縦向き面rは金属枠体3の平板部分xにより覆われている。
c)当該縦向き面rから水の側へ間隔をおいた位置で、上記開口qの周りの部分に、上記縦向き面rと平行な部分tを含む留め板4が留めネジu・vによって上記の壁pに取り付けられている。なお、k)上記の留めネジu・vは、上記縦向き面rと上記留め板4の上記平行な部分tとの間にのみ用いられたものである。また、l)上記の留め板4は、上記平行な部分tとともに上記縦向き面r寄りに屈曲した部分sを有していて、当該屈曲した部分sにおいて、上記の留めネジu・vにより上記の壁pに取り付けられている。
d)上記縦向き面rと上記留め板4の上記平行な部分tとの間に、上記透明板1の外縁部が挟み付けられ、かつ、上記留めネジu・vが、上記縦向き面rから上記留め板4の上記平行な部分tの位置までの間に取り付けられたシール材2・w・6により覆われている。
e)以上を特徴とする透明板1付き防潮壁p。」(判定請求書7頁9行?26行)

2 当審によるイ号物件の特定
(1)判定請求書におけるイ号物件の記載について
判定請求書には、イ号物件について、次のように記載されている。

ア 「イ号図面中に手書きした符号pの部分は、イ号写真をも参照することによりコンクリート製の防潮壁であると分かる。同様に、符号qは、防潮壁を厚さ方向に貫通する開口であり、符号rは、水の側を向いた縦向き面であると理解される。また、イ号図面において材料表を参照することにより、図中の符号1(原文は丸の中に数字。以下、符号については同様。)は透明樹脂板(アクリル製の窓板)であり、符号2は水の浸入を防ぐシール材(CRゴム製)、符合6も同様のシール材(コーキング)であると分かる。符号4は、材料表に「山形鋼枠(アングル)」と記載されていて、上記縦向き面rと平行な部分tを含む留め板に該当する。符号uおよびvは、上記の留め板4を壁pに取り付けるための留めネジであると解される。また、図面では明確でないが、縦向き面rとシール材(CRゴム製)2との間に生じる可能性のある隙間部分にコーキング材wが使用されている。このようにシール材2・w・6が使用されているのは、留めネジu・vや留め板4は仮にそれらがステンレス鋼製であっても、海水等に含まれる塩素イオンの作用により何年か後には腐食し得ること、また砂塵粒子等が進入してネジ部が固着しても透明板の交換が妨げられることを考慮したものと考えられる。
またイ号図面には、本件特許発明(請求項2)の「金属枠体」に相当する「窓取付枠」(3)が示されてもいる。イ号図面中の材料表に、符合3が「窓取付枠」であると示され、図中に、その平板部分xが壁pの縦向き面rを覆って取り付けられた状態が示されている。
そしてイ号パンフレットには、イ号物件が、本件特許発明の請求項1および2に係る各発明と同様の作用効果を有する旨が記載されている。」(判定請求書7頁28行?8頁14行)

イ 上記アの記載とイ号図面の正面図、断面図から、「防潮壁を厚さ方向に貫通する開口q」が全周を壁に囲まれて設けられていて、その開口qに透明のアクリル樹脂板1が取り付けられている透明のアクリル樹脂板付き防潮壁であることは明らかである。なお、各部材には、イ号図面における符号を引用している。以下同じ。

ウ 上記アの記載を踏まえると、イ号図面の正面図、A-A断面図から、防潮壁の厚さ方向における防潮壁表面から後退した位置の開口qの外周部に、水圧が生じる側を向いた縦向き面rがあることが看て取れる。

エ 上記アの記載を踏まえると、イ号図面の詳細図(水平部)から、立上げ片yを有する部材(判定注;被請求人が、判定請求答弁書において「変形T型鋼T」と称する部材。以下、「T型部材」という。)の底片(判定注;被請求人が、判定請求答弁書において「変形T型鋼Tの短い側のフランジ」と称する部材。)がケミカルアンカー5によって防潮壁の縦向き面rに固定されていることが看て取れる。

オ 上記ア、ウ、エの記載を踏まえると、イ号図面の詳細図(水平部)から、縦向き面rから水圧が生じる側に、断面L字型の山形鋼枠(アングル)4が配され、山形鋼枠(アングル)4の一方の片tは縦向き面rと平行な片であり、山形鋼枠(アングル)4の他方の片sはネジuによって、防潮壁の縦向き面rに固定されたT型部材の立上げ片yに取り付けられていることが看て取れる。

カ 上記アの記載を踏まえると、イ号図面のA-A断面図、詳細図(水平部)、詳細図(垂直部)から、縦向き面rと山形鋼枠(アングル)4の縦向き面rと平行な片tの間にアクリル樹脂板1が配され、当該アクリル樹脂板1の端部両面にゴム2が配されており、アクリル樹脂板1の端部とゴム2の外周側にネジuによる取付部が配されていること、及び山形鋼枠(アングル)4と防潮壁表面側の間にコーキング6が配されていることが看て取れる。

キ 上記アの記載を踏まえると、イ号図面のA-A断面図、詳細図(水平部)、詳細図(垂直部)から、縦向き面rは窓取付枠3の平板部分xにより覆われていることが看て取れる。

ク 上記アの記載を踏まえると、イ号図面の詳細図(水平部)、詳細図(垂直部)から、山形鋼枠(アングル)4は、山形鋼枠(アングル)4の縦向き面rと平行な片tと当該平行な片tとともに縦向き面r寄りに屈曲した片sを有していることが看て取れる。

(2)イ号物件の特定
上記1及び(1)を総合して、イ号物件を上記本件特許発明の構成要件A?Mに対応させて整理すると、イ号物件は以下のとおり分説した構成を具備するものと認められる(構成ごとに記号a?e、h、lを付した。以下、分説した構成を「構成a」などという。)。

「 a 防潮壁を厚さ方向に貫通する開口qが全周を壁に囲まれて設けられていて、その開口qに透明のアクリル樹脂板1が取り付けられている透明のアクリル樹脂板付き防潮壁であって、
b 防潮壁の厚さ方向における防潮壁表面から後退した位置の開口qの外周部に、水圧が生じる側を向いた縦向き面rがあり、
c T型部材の底片がケミカルアンカー5によって防潮壁の縦向き面rに固定され、
縦向き面rから水圧が生じる側に、断面L字型の山形鋼枠(アングル)4が配され、山形鋼枠(アングル)4の一方の片tは縦向き面rと平行な片であり、山形鋼枠(アングル)4の他方の片sはネジuによって、上記T型部材の立上げ片yに取り付けられており、
d 縦向き面rと山形鋼枠(アングル)4の縦向き面rと平行な片tの間にアクリル樹脂板1が配され、当該アクリル樹脂板1の端部両面にゴム2が配されており、アクリル樹脂板1の端部とゴム2の外周側にネジuによる取付部が配されており、山形鋼枠(アングル)4と防潮壁表面側の間にコーキング6が配されており、
h 縦向き面rは金属からなる窓取付枠3の平板部分xにより覆われており、
i 山形鋼枠(アングル)4は、山形鋼枠(アングル)4の縦向き面rと平行な片tと当該平行な片tとともに縦向き面r寄りに屈曲した片sを有している
e 透明のアクリル樹脂板付き防潮壁」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
判定請求書において、請求人は、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属するとして、以下のように主張している。
「以上のように示すことができる理由は以下のとおりである。・・・符号2は水の浸入を防ぐシール材(CRゴム製)、符合6も同様のシール材(コーキング)であると分かる。符号4は、材料表に「山形鋼枠(アングル)」と記載されていて、上記縦向き面rと平行な部分tを含む留め板に該当する。符号uおよびvは、上記の留め板4を壁pに取り付けるための留めネジであると解される。また、図面では明確でないが、縦向き面rとシール材(CRゴム製)2との間に生じる可能性のある隙間部分にコーキング材wが使用されている。このようにシール材2・w・6が使用されているのは、留めネジu・vや留め板4は仮にそれらがステンレス鋼製であっても、海水等に含まれる塩素イオンの作用により何年か後には腐食し得ること、また砂塵粒子等が進入してネジ部が固着しても透明板の交換が妨げられることを考慮したものと考えられる。・・・そしてイ号パンフレットには、イ号物件が、本件特許発明の請求項1および2に係る各発明と同様の作用効果を有する旨が記載されている。」(判定請求書7頁27行?8頁14行)

2 被請求人の主張
被請求人は、判定請求答弁書(以下「答弁書」という。)において、イ号物件は構成要件C、D、K、Lを充足しないとして、以下のように主張している。
「イ.構成c)において、「留め板4が留めネジu・vによって上記の壁pに取り付けられている。」とされているが、留めネジuが留め板4を壁pに取り付けているものでないことは、イ号図面から明らかである。留めネジuは山形鋼からなる留め板4と変形T型鋼のウェブを固定しているのであり、壁pとは完全に離間している。・・・ウ.また、構成d)において、「かつ、上記留めネジu・vが、上記縦向き面rから上記留め板4の上記平行な部分tの位置までの間に取り付けられたシール材2・w・6により覆われている。」とされている。・・・また、シール材2とされているものは、透明板1を挟み込むゴムであり、本件特許の特許公報(甲1)の【図2】、【図3】において符号16、17で指示されているライナー板に対応するものである。また、請求人が付加した符号wで指示される部分は、変形T型鋼Tのフランジ部の長い方の端部位置であり、かつ留めネジu、ナットv及びケミカルアンカー5のいずれかを覆っているものでもない。」(答弁書3頁16行?5頁10行)

第5 属否の判断
イ号物件が、本件特許発明1、2の構成要件を充足するか否かについて検討する。
1 本件特許発明1について
(1)構成要件A、Eについて
ア イ号物件の構成aの「防潮壁」、「開口q」、「透明のアクリル樹脂板1」は、それぞれ本件特許発明1の「防潮壁」、「開口」、「透明板」に相当するから、イ号物件の構成aと本件特許発明1の構成要件Aは一致している。
同様に、イ号物件の構成eと本件特許発明1の構成要件Eは一致している。

イ したがって、イ号物件の構成a、eは、それぞれ本件特許発明1の構成要件A、Eを充足する。

(2)構成要件Bについて
ア イ号物件の構成bの「防潮壁の厚さ方向における防潮壁表面から後退した位置の開口qの外周部に」「縦向き面rがあ」ることは、本件特許発明1の(縦向き面が防潮壁の)「厚さ方向におけるいずれかの位置」に設けられていることに相当する。

イ イ号物件の構成bの「縦向き面r」、「水圧が生じる側」は、それぞれ本件特許発明1の「縦向き面」、「水の側」に相当する。

ウ したがって、イ号物件の構成bは、本件特許発明1の構成要件Bを充足する。

(3)構成要件Cについて
ア イ号物件の構成cの「山形鋼枠(アングル)4」、「平行な片」、「ネジu」は、それぞれ本件特許発明1の「留め板」、「平行な部分」、「留めネジ」に相当する。

イ しかしながら、イ号物件において、「山形鋼枠(アングル)4」は、「山形鋼枠(アングル)4の他方の片sはネジuによって」(底片がケミカルアンカーによって防潮壁の縦向き面に固定される)「T型部材の立上げ片yに取り付けられて」いるから、ネジによって防潮壁に取り付けられているとはいえず、本件特許発明1のように(留め板が)「留めネジによって上記の壁に取り付けられ」ているものではない。

ウ したがって、イ号物件の構成cは本件特許発明1の構成要件Cを充足しない。

(4)構成要件Dについて
ア イ号物件の構成dの「縦向き面rと山形鋼枠(アングル)4の縦向き面rと平行な片tの間にアクリル樹脂板1が配され」ていることは、技術常識から見ても、「アクリル樹脂板1」の外縁部が挟み付けられていると解されるから、構成dの当該構成は、本件特許発明1の「上記縦向き面と上記留め板の上記平行な部分との間に、上記透明板の外縁部が挟み付けられ」ていることに相当する。

イ しかしながら、イ号物件の構成dの「ゴム2」、「コーキング6」は、何らかのシール機能を有していると解されるものの、「アクリル樹脂板1」の「縦向き面r」側の「ゴム2」と「縦向き面r」との間(請求人が符号wで示す箇所)には、イ号図面の詳細図(水平部)、(垂直部)を見ても、ネジ部材や略逆Z字型の型材らしき部材は見られるもののコーキング材、シール材に相当するものは看て取れないことから、「留めネジが・・・縦向き面から上記留め板の上記平行な部分の位置までの間に取り付けられたシール材により覆われている」とまではいえない。

ウ したがって、イ号物件の構成dは本件特許発明1の構成要件Dを充足しない。

(5)小活
よって、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件C、Dを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明1の技術的範囲に属しない。

2 本件特許発明2について
(1)構成要件F、G、Mについて
構成要件F、G、Mは、実質的に構成要件A、B、Eと同じであるので、イ号物件の構成a、b、eは、それぞれ本件特許発明2の構成要件F、G、Mを充足する。

(2)構成要件Hについて
ア イ号物件の構成hの「窓取付枠3」、「平板部分x」が、それぞれ本件特許発明2の「金属枠体」、「平板部分」に相当する。

イ したがって、イ号物件の構成hは、本件特許発明2の構成要件Hを充足する。

(3)構成要件Iについて
ア イ号物件の構成iの「山形鋼枠(アングル)4」、「平行な片t」は、それぞれ本件特許発明2の「留め板」、「平行な部分」に相当する。

イ したがって、イ号物件の構成iは、本件特許発明2の構成要件Iを充足する。

(4)構成要件Jについて
ア イ号物件の構成dの「縦向き面rと山形鋼枠(アングル)4の縦向き面rと平行な片tの間にアクリル樹脂板1が配され」ていることは、技術常識から見ても、「アクリル樹脂板」の外縁部が挟み付けられていると解されるから、構成dの当該構成は、本件特許発明2の「上記縦向き面と上記留め板の上記平行な部分との間に、上記透明板の外縁部が挟み付けられていること」に相当する。

イ したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明2の構成要件Jを充足する。

(5)構成要件K、Lについて
ア イ号物件の構成cにおいて、「山形鋼枠(アングル)4」は、「山形鋼枠(アングル)4の他方の片sはネジuによって」(底片がケミカルアンカーによって防潮壁の縦向き面に固定される)「T型部材の立上げ片yに取り付けられて」いるから、ネジによって防潮壁に取り付けられているとはいえず、本件特許発明2のように(留め板が)「留めネジによって上記の壁に取り付けられている」、あるいは「縦向き面と上記留め板の上記平行な部分との間にのみ用いられた上記の留めネジにより上記の壁に取り付けられている」ものではない。

イ したがって、イ号物件の構成cは本件特許発明2の構成要件K、Lを充足しない。

(6)小活
よって、イ号物件は、本件特許発明2の構成要件K、Lを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明2の技術的範囲に属しない。

第6 請求人の主張について
1 請求人は、「符号uおよびvは、上記の留め板4を壁pに取り付けるための留めネジであると解される。」(第4の1参照)と主張する。
当該主張について検討すると、本件特許発明1、2における「留め板が留めネジによって上記の壁に取り付けられ」、「留めネジによって上記の壁に取り付けられている」、「上記の留めネジにより上記の壁に取り付けられている」の記載は、文字通り、留め板が留めネジによって、壁に取り付けられると解することが相当である。このような解釈は、「【0007】・・・透明板を容易に取り替えできるようにした透明板付き防潮壁を提供するものである。とくに、構造が簡単で、外観にすぐれ、部品にサビ等が発生しにくいものを提供する」という本件特許発明の課題と合致すると共に、本件明細書において、留め板を、留めネジだけでなく他の連結部材などを介して壁に取り付けている実施例が記載されてないことからも明らかである。
そして、上記第5の1(3)イ、第5の2(5)アで説示したように、イ号物件の「山形鋼枠(アングル)4」は「山形鋼枠(アングル)4の他方の片sはネジuによって」(底片がケミカルアンカーによって防潮壁の縦向き面に固定される)「T型部材の立上げ片yに取り付けられて」いるから、ネジによって、防潮壁に取り付けられているとはいえず、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件C、及び本件特許発明2の構成要件K、Lを充足しないこととなる。よって、請求人の主張は採用できない。

2 請求人は、「図面では明確でないが、縦向き面rとシール材(CRゴム製)2との間に生じる可能性のある隙間部分にコーキング材wが使用されている。」(第4の1参照)と主張する。
当該主張について検討すると、上記第5の1(4)イで説示したように、イ号図面においては、符号wのある箇所には、コーキング材に相当するものは看て取れない。したがって、上記隙間部分にコーキング材wが使用されているとは認められない。よって、請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件C、D、及び本件特許発明2の構成要件K、Lを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明1及び2の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2018-12-19 
出願番号 特願2013-96927(P2013-96927)
審決分類 P 1 2・ - ZB (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹村 真一郎  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 井上 博之
須永 聡
登録日 2017-03-24 
登録番号 特許第6114103号(P6114103)
発明の名称 透明板付き防潮壁  
代理人 久門 享  
代理人 久門 保子  
代理人 細見 吉生  

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