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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C09K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部無効 発明同一  C09K
管理番号 1347943
審判番号 無効2015-800228  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-12-17 
確定日 2018-12-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5622058号発明「ネマチック液晶組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5622058号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件無効審判に係る特許

本件無効審判に係る特許第5622058号(以下、「本件特許」という。)は、被請求人であるDIC株式会社が特許権者であって、平成17年10月31日に特願2005-316168号として出願されたものの一部を平成24年9月27日に特願2012-214114号として新たに出願したものであって、平成26年10月3日、発明の名称を「ネマチック液晶組成物」、請求項の数を3として特許権の設定登録を受けたものである。

2 本件無効審判における手続の経緯

本件無効審判は、請求人であるJNC株式会社より請求されたものであって、手続の経緯(両当事者からの提出書類)は以下のとおりである。

平成27年12月17日 審判請求書(請求人)
平成28年 3月15日 審判事件答弁書及び訂正請求書(被請求人)
同年 5月 6日 弁駁書(請求人)
同年 6月29日付け 審理事項通知書
同年 9月14日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 9月28日 口頭審理
同年10月19日 上申書(被請求人)
同年11月 2日 上申書(請求人)
同年12月20日付け 審決の予告
平成29年 2月24日 上申書及び訂正請求書(被請求人)
同年 4月 7日 弁駁書2(請求人)

第2 両当事者の主張の概要と証拠方法

1 両当事者の主張

(1) 請求の趣旨

特許第5622058号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

(2) 答弁の趣旨

本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。

2 証拠方法

両当事者から提出された証拠方法は以下のとおりである(以下、各証拠につき、甲第1号証を「甲1」などと略して記載する。)。

(1) 請求人から提出された証拠
甲1:国際公開第2005/017067号
甲2:特開2004-238489号公報
甲3:特開2005-220355号公報
甲4:特開2001-181635号公報
甲5:特開2001-33748号公報
甲6:国際出願番号PCT/EP2006/004708号
(国際公開第2006/133783号参照)
甲7:国際出願番号PCT/EP2005/006428号
(国際公開第2005/123879号参照)
甲8:特願2006-144861号
(特開2006-328399号公報参照)
甲9:国際公開第2006/038443号
甲10:特開2005-89759号公報
甲11:特開2007-119672号公報
(以上、審判請求書に添付して提出)
甲12:特開2004-352992号公報
甲13:特表2008-502619号公報
甲14:特開平11-152297号公報
甲15:特開2004-2771号公報
甲16:特開2005-35985号公報
甲17:特開2004-2894号公報
(以上、弁駁書に添付して提出)
甲18:特開平10-77476号公報
甲19:特開2001-42793号公報
甲20:特開2001-72977号公報
(以上、弁駁書2に添付して提出)

(2) 被請求人から提出された証拠
乙1:特開2000-63305号公報
乙2:液晶便覧編集委員会編,“液晶便覧”,丸善株式会社,
2000年10月30日,312-316頁
乙3:“JEITA ED-2521B”,社団法人電子情報技術
産業協会,2009年,26-29、66-67頁
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出)
乙4:“無効審判口頭審理 技術説明資料”
(以上、平成28年10月19日付け上申書に添付して提出)
乙5:岡村維彦他,“液晶科学実験講座 第4回:液晶材料特性の測定技術(2)”,液晶,日本液晶学会,2002年10月25日,6巻,4号,390(44)-399(53)頁
乙6:石原將市,“電圧保持率に及ぼす諸要因”,シャープ技報,2005年8月,92号,11-16頁
(以上、平成29年2月24日付け上申書に添付して提出)

第3 平成29年2月24日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の可否について

本件訂正は、特許法第134条の2第3項及び同法同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項(請求項1?3)ごとに請求されたものであるところ、当審は、本件訂正の請求を認容すべきものと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 訂正事項

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基であり、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH_(2)基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして -O- により置き換えられても良く、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(a)、基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は-OCF_(2)-または単結合であり、
X^(1)?X^(3)はそれぞれ独立してH又はFである。」とあるのを「式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基であり、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)は単結合を表し、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は単結合であり、
X^(1)、X^(3)はそれぞれ独立してH又はFであり、X^(2)はFである。」と訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「2種以上の化合物を含有し、」とあるのを、「2種以上の化合物を10?30質量%含有し、」と訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「25℃における」とあるのを「前記構造式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物を55?95%含有し、25℃における」と訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に、「特徴とする」とあるのを「特徴とするアクティブマトリックス型液晶表示素子用」と訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に、「ネマチック液晶組成物。」とあるのを「ネマチック液晶組成物(ただし、下記式の化合物
【化4】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-CH=CH-、-O-、-CO-O-または-O-COで置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化5】

の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-CH=CH-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)を1種以上含むことを特徴とする、化合物の混合物に基づく正の誘電異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。
【化6】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているかまたは置換されていない1?15個の炭素原子を有するアルキルまたはアルコキシ基を表し、但し、加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-CF_(2)-O-、-OCF_(2)-、-CH=CH-、

-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
Xは、それぞれ互いに独立に、F、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCS、6個以下の炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基を表し、
L^(1)?L^(3)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表す。)」と訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に、「であることを特徴とする」とあるのを「であり、加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDに注入し、5V印可、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値)が96%以上に保たれることを特徴とする」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否に関する判断

ア 訂正事項1
訂正事項1は、一般式(2)中の、R^(1)が「炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基であり、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH_(2)基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして -O- により置き換えられても良」かったものを「炭素数1?15のアルキル基であ」るとし、B^(1)、B^(2)、B^(3)が「(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基」である場合に、「CH_(3)又はハロゲンで置換されていても良」いとしていた条件を削除し、L^(1)、L^(2)、L^(3)が「それぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-又は-CF_(2)O-を表し」としていたものをL^(1)は「単結合を表し」、L^(2)、L^(3)は「それぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し」として含まれる態様を限定し、X^(1)?X^(3)が「それぞれ独立してH又はFである」としていたものをX^(1)、X^(3)は「それぞれ独立してH又はFであり」、X^(2)は「Fである」として含まれる態様を限定し、そして、Q^(1)が「-OCF_(2)-、または単結合であ」ったものを「単結合であり」とすることで、特許請求の範囲を減縮しているものと認められるから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記いずれの訂正事項も、許容されていた選択肢の一部を削除する目的の訂正であって、それにより新たな技術事項が導入されるものとは認められないから、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項1は、許容されていた選択肢の一部を削除することにより特許請求の範囲を減縮するものであって、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないから、訂正事項1は、特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、請求項1に記載の液晶組成物における一般式(2)で表される化合物の含有量が、10?30質量%であることを限定することにより特許請求の範囲を減縮しているものと認められるから、訂正事項2に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許明細書【0016】の「第二成分として一般式(2)で表される化合物群から選ばれる1種または2種以上の化合物の含有率は、5?30質量%の範囲であることが好まく、10?20質量%の範囲であることがより好ましい。」等の記載によれば、一般式(2)で表される化合物群から選ばれる1種または2種以上の化合物の含有率の下限及び上限がそれぞれ10質量%、30質量%であってよいことは当業者にとり明らかであるから、液晶組成物における一般式(2)で表される化合物の含有量が、10?30質量%であることは、特許明細書等に記載されていたものであり、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項2は、請求項1に記載の液晶組成物における一般式(2)で表される化合物の含有量を限定することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないから、訂正事項2は、特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、請求項1に記載の液晶組成物における構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の含有量が、合計で55?95%であることを限定することにより特許請求の範囲を減縮しているものと認められるから、訂正事項3に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項1には、液晶組成物が、構造式(1)で表される化合物を35?65%含有することが特定されており、また、本件特許明細書【0016】によれば、「一般式(2)で表される化合物の含有率は、「5?30質量%の範囲であることが好まし」いとされているから、構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の含有量の合計の上限として、65%+30%で95%が本件特許明細書等に記載されていたと認められる。一方、同【0037】【表1】によれば、実施例における構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の含有量の合計は、それぞれNo.1が55%、No.2が66%、No.3が77%であるから、訂正事項3の下限値の「55%」についても、本件特許明細書に記載される値であり、しかも、訂正事項3により、本件特許明細書等に記載された事項との関係において、本件特許明細書等の記載に基づかない効果の発現等の新たな技術的事項が導入されるものでないから、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項3は、請求項1に記載の液晶組成物における構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の含有量の合計量を限定することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないから、訂正事項3は、特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4
訂正事項4は、請求項1に記載の液晶組成物を、「アクティブマトリックス型液晶表示素子用」に用途限定することにより特許請求の範囲を減縮しているものと認められるから、訂正事項4に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許明細書【0013】の「本発明の液晶化合物の組み合わせによって、非常に粘性が低く、低温で安定したネマチック相を持ち、液晶相温度範囲が広く、広い範囲で屈折率異方性(Δn=0.05?0.15)を調整でき、かつ信頼性に優れたアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた」等の記載によれば、請求項1に記載の液晶組成物が「アクティブマトリックス型液晶表示素子用」であることは、本件特許明細書等に記載されていたものであるから、訂正事項4は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項4は、請求項1に記載の液晶組成物を、「アクティブマトリックス型液晶表示素子用」に用途限定することにより特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもなく、訂正事項4は、特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

オ 訂正事項5
訂正事項5は、請求項1に記載の液晶組成物から、甲6及び甲7の特許請求の範囲の請求項1で必須成分とされた化合物群を含む液晶組成物を除くことにより特許請求の範囲を減縮しているものと認められるから、訂正事項5に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5は、特定の化学構造を有する液晶化合物を含む液晶組成物の場合を除外する、いわゆる「除くクレーム」とするものであるが、これは、訂正前の請求項1に記載した事項で特定される発明における一部の態様を単に除外するものであって、当該除外によって、本件特許明細書等の記載に基づかない効果の発現等の新たな技術的事項が導入されるものでもないから、訂正事項5は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項5は、特定の化学構造を有する液晶化合物を含む液晶組成物の場合を除外する、いわゆる「除くクレーム」とすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないから、訂正事項5は、特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

カ 訂正事項6
訂正事項6は、請求項3に記載の液晶組成物を、「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)が96%以上に保たれる」ものに限定することにより特許請求の範囲を減縮しているものと認められるから、訂正事項6に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6の「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)が96%以上に保たれる」との技術事項の追加について、本件特許明細書の段落【0034】及び【0037】【表1】によれば、本件特許明細書には、「加熱温度150℃1時間後の60℃での保持率(%)が96%に保たれる」ことが記載されていたと認められる。さらに、同【0002】に、「アクティブマトリックス表示方式・・には高電圧保持率であることが重要視されている」と記載されているように、アクティブマトリックス表示素子用の液晶組成物が高電圧保持率を持つことが求められているのは技術常識であることを考慮すると、特段の事情がない限り、実施例における値(すなわち、良好な物性)である96%よりも高い電圧保持率は一律に良好な範囲であると理解するのが自然であるし、また、訂正事項6により、新たな事項が導入されるとも解されないから、本件特許明細書には「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)」として、96%のみならず、「96%以上」であることも記載されていたに等しい事項と認められる。そうすると、訂正事項6は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項6は、請求項3に記載の液晶組成物を、「加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)が96%以上に保たれる」ものに限定することにより特許請求の範囲を減縮しているものであるから、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないから、訂正事項6は、特許法134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 訂正に係るまとめ

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の各規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第4 本件特許請求の範囲の記載

上記「第3」のとおり、本件訂正の請求は適法なものであるから、本件無効審判の請求の対象となっている請求項1?3の記載は、以下のとおりとなった。
「【請求項1】
第一成分として構造式(1)、
【化1】

で表される化合物を35?65%含有し、第二成分として一般式(2)
【化2】

(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基であり、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)は単結合を表し、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は単結合であり、
X^(1)、X^(3)はそれぞれ独立してH又はFであり、X^(2)はFである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を10?30質量%含有し、
前記構造式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物を55?95%含有し、
25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0であることを特徴とするアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物(ただし、下記式の化合物
【化4】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化5】

の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)を1種以上含むことを特徴とする、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。
【化6】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているかまたは置換されていない1?15個の炭素原子を有するアルキルまたはアルコキシ基を表し、但し、加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-CF_(2)-O-、-OCF_(2)-、-CH=CH-、

-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
Xは、それぞれ互いに独立に、F、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCS、6個以下の炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基を表し、
L^(1)?L^(3)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表す。)

【請求項2】
第三成分として一般式(3)
【化3】

(式中、R^(2)はR^(1)と同じ意味を表し、
B^(4)はB^(1)と同じ意味を表し、
L^(4)、L^(1)と同じ意味を表し、
B^(4)及びL^(4)が複数存在する場合はそれらは同一でも良く異なっていても良く、
mは0、1又は2であり、
nは0又は1であり、
Q^(2)は-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-OCHF-、-CF_(2)-、または単結合であり、
X^(4)?X^(8)はそれぞれ独立してH、F又はClである。)で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有する請求項1記載のネマチック液晶組成物。

【請求項3】
ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDに注入し、5V印可、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値)が96%以上に保たれることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶組成物。」
(以下、本件訂正後の上記請求項1ないし3に係る発明を、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、これらを併せて「本件発明」ということもある。)

第5 請求人が主張する無効理由

請求人が主張する無効理由は、以下のとおりである。

無効理由A、1-1、1-2、1-3、2-1、2-2、2-3、3

なお、第1回口頭審理調書の「審判長」の「3」のとおり、平成28年3月15日に請求された訂正請求(以下、「訂正請求1」という。)後の特許請求の範囲を対象とする限りにおいて、無効理由A、2-1は審理の対象としないことが確認されている。これに関し、被請求人は、平成29年2月24日付け訂正請求書により再度の訂正(本件訂正)を行っているが、本件訂正は、実質的に訂正請求1後の特許請求の範囲の請求項1?3をさらに減縮するものであり、また、特許請求の範囲の請求項1?3を拡張又は変更するものではないと認められる。すなわち、本件訂正後の特許請求の範囲は、訂正請求1後の特許請求の範囲内であり、これを対象とする場合に上記無効理由A、2-1が改めて問われるものではないと認められる。(なお、請求人も、弁駁書2で、これらを改めて検討し直すべきものとして挙げていない。)
しかしながら、念のため無効理由A、2-1を含め全ての無効理由について判断するものとする。そして、無効理由A、1-1、1-2、1-3、2-1、2-2、2-3、3は、それぞれ以下のとおりであると認められる。

無効理由A :本件発明1ないし3は、甲11に記載された発明であるか、又は甲11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由1-1:本件発明1ないし3は、甲1に記載された発明であるか、又は甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由1-2:本件発明1ないし3は、甲2に記載された発明であるか、又は甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由1-3:本件発明1ないし3は、甲3に記載された発明であるか、又は甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由2-1:本件発明1ないし3は、甲6に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由2-2:本件発明1ないし3は、甲7に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由2-3:本件発明1、3は、甲8に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができるものではなく、本件訂正後の請求項1、3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由3 :本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号、第2号に記載する要件を満たしておらず、また、本件の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないので、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許を受けることができるものではなく、同法同条第4項第1号又は第6項に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

第6 当審の判断

当審は、

請求人が主張する無効理由A、1-1、1-2、1-3、2-1、2-2、2-3、3につき、いずれも理由がない、
と判断する。
以下、その理由につき詳述する。

1.無効理由Aについて

(1)本件特許出願の分割要件の適否について

審判請求書80?82頁の「A)-1」及び「A)-2」によれば、『本件発明1の第一成分と第二成分とを十分特定することなく、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0である」ことだけを特定した技術的事項は、原出願の明細書等には記載されておらず、当業者に自明な事項でもないので、「本件特許出願は、特願2005-316168号を原出願として平成24年9月27日にした分割出願に係るものであるが、原出願に開示されていない発明を分割出願したものであるから、適法な分割出願でない。」「よって、本件特許は特許法第44条第1項の要件を満たさず、その出願日は現実の出願日である平成24年9月27日と認められる。」
「そうすると、本件発明は、原出願の特許公開公報である甲11に記載された発明であるか、甲11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたのである」』との理由により、無効理由Aに基づく審判請求がされている。そこで、まず、本件特許出願の分割要件の適否について検討する。

答弁書2?3頁によれば、被請求人は、『原出願(特願2005-316168号)の出願当初の明細書に、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0であることが好ましく、3.0?5.0であることがより好ましい。」と記載されており(【0030】)、そして、この記載は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))、屈折率異方性(Δn)の記載とは別個に(独立して)されているものであるから、原出願の発明の詳細な説明に接した当業者は、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0である」発明を認識するから、「本件発明1の「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0である」とする技術事項は、原出願の「明細書に記載されて」いた事項である』旨主張している。
そこで、原出願(特願2005-316168号)の出願当初の明細書の記載をみていくと、
「【請求項1】
第一成分として構造式(1)(式省略)で表される化合物を35?65%含有し、第二成分としてとして一般式(2)(式省略)で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有することを特徴とするネマチック液晶組成物。」
「【請求項4】
ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、誘電率異方性Δεが2.5?10.0であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の液晶組成物。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、液晶相温度範囲が広く、粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること、また、この液晶組成物を使用した動
作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第一成分として構造式(1)、
【0011】
【化1】
(式省略)
で表される化合物を35?65%含有し、第二成分としてとして一般式(2)
【0012】
【化2】
(式省略)
で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有することを特徴とするアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物及び当該液晶組成物を構成部材とする液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶化合物の組み合わせによって、非常に粘性が低く、低温で安定したネマチック相を持ち、液晶相温度範囲が広く、広い範囲で屈折率異方性(Δn=0.05?0.15)を調整でき、かつ信頼性に優れたアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた。この組成物を用いることにより、動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子が提供され、反射または半透過モード等の液晶ディスプレイとして非常に実用的である。」
「【0030】
本発明において、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))は70℃以上であることがより好ましい。固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))は-20℃以下であることが好ましい。25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0であることが好ましく、3.0?5.0であることがより好ましい。25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08?0.13であることが好ましい。」
「【0036】
(1?3) Synthesis of 液晶組成物の調整
以下に示すネマチック液晶組成物(No.1)、(No.2)及び(No.3)を調整しその物性値を測定し、その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
1?3のネマチック液晶組成物(No.1)?(No.3)特性は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)全ての特性において所望の値を示した。また粘性も低く、パネルの応答速度も良好であり、さらに加熱150℃1時間後の保持率も初期の値を保っており信頼性が良好であった。」
との記載がある。

以下、これらの記載事項について検討するに、原出願の発明は、【0009】に記載される「液晶相温度範囲が広く、粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること、また、この液晶組成物を使用した動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子を提供する」という発明の課題を【請求項1】、【0010】?【0012】に記載されるように、液晶組成物を「第一成分として構造式(1)(式省略)で表される化合物を35?65%含有し、第二成分としてとして一般式(2)(式省略)で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有する液晶組成物(以下、「原出願の液晶組成物」という)とすることにより解決したものであることが理解できる。
そして、【0013】の記載から、原出願の液晶組成物であれば、非常に粘性が低く、低温で安定したネマチック相を持ち、液晶相温度範囲が広く、広い範囲で屈折率異方性(Δn=0.05?0.15)を調整でき、かつ信頼性に優れた液晶組成物とすることができることが理解できる。ここで、【0013】には、誘電率異方性に関する記載はないが、【0030】の記載によれば、原出願の液晶組成物であれば、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))、25℃における誘電率異方性(Δε)、25℃における屈折率異方性(Δn)において良好な特性が得られることが理解できる。
そうすると、原出願の液晶組成物を前提とすれば、この液晶組成物は、そもそもネマチック-アイソトロピック転移温度、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度、屈折率異方性Δn及び誘電率異方性Δεについて良好な特性を有していると解されるところ、このうち、誘電率異方性Δεの良好な範囲として、【0030】に記載される「2.5?7.0の範囲」(のみ)を特定した液晶組成物を、原出願の明細書の記載から把握することができるといえる。
これを踏まえると、請求項4に、「ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、誘電率異方性Δεが2.5?10.0である」と特定されていたり、また、【0037】の【表1】、【0038】のネマチック液晶組成物(No.1)?(No.3)で、ネマチック-アイソトロピック転移温度、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度、屈折率異方性Δn、誘電率異方性Δεの全ての特性において所望の値を示したことが記載されているとしても、これは、原出願の液晶組成物のうち所望の物性において特に優れたものを特定又は開示していると理解でき、前述したとおり、原出願の明細書の記載を総合すると、この特に優れたもの以外に、原出願の組成物を前提とすれば、各物性における所望の特性を有するもの、すなわち、誘電率異方性Δεが、【0030】に記載される2.5?7.0の範囲にある液晶組成物が記載されていることを理解できるといえる。
そして、本件発明1の液晶組成物の組成は、原出願の液晶組成物の組成をさらに限定したもの、すなわち、原出願の液晶組成物の範囲内のものであるから、誘電率異方性2.5?7.0の範囲を特定する本件発明1も、原出願に記載されたものであるといえる。

(2)本件特許の出願日と下記刊行物の公開日との関係について
甲11:特開2007-119672号公報

上記のとおりであるから、本件特許は、原出願の出願日である平成17年10月31日にしたものとみなされるところ、甲11は、平成19年5月17日を公開日とする公開特許公報であるから、本件特許の出願日前に頒布されたものでない。
したがって、甲11に記載された発明に基いて本件特許の特許法第29条違反につき検討することはできない。

(3)無効理由Aのまとめ

以上のとおり、甲11に記載された発明に基いて、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反して特許されたものということはできないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

2.無効理由1-1について

(1)刊行物
甲1:国際公開第2005/017067号
甲10:特開2005-89759号公報

(2)刊行物に記載の発明

1.甲1に記載の事項(甲1の日本語訳を記載する。訳文は、対応日本国公報である特表2007-501301号公報によるものであり、甲1の記載箇所も併せて記載した。)
(1a)請求の範囲
「【請求項1】
正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式I
【化1】

で表される1種または2種以上の化合物および式IA
【化2】

で表される1種または2種以上の化合物を含み、ここで、該媒体中の式Iで表される化合物の比率は、少なくとも18重量%であり、ここで、個々の基は、以下の意味:
R^(1)は、2?8個の炭素原子を有するアルケニル基であり、
R^(2)は、H、1?15個の炭素原子を有し、ハロゲン化されているか、CNもしくはCF_(3)により置換されているか、または非置換であるアルキル基であり、ここでさらに、これらの基中の1つまたは2つ以上のCH_(2)基は、各々、互いに独立して、O原子が互いに直接結合しないように、
【化3】

により置換されていてもよく、
X^(1)は、各々6個までの炭素原子を有するアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基またはアルケニルオキシ基であり、a=1である場合には、またF、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCSまたはOCNであり、
X^(2)は、F、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCS、OCN、各々6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり、
Z^(1)およびZ^(2)は、各々、互いに独立して、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-または単結合であり、ここでZ^(1)≠Z^(2)であり、
aは、0または1であり、
【化4】

は、各々、互いに独立して、
【化5】

であり、
L^(1?4)は、各々、互いに独立して、HまたはFである、
を有することを特徴とする、前記液晶媒体。」
「【請求項3】
式I-1?I-5
【化12】

式中、alkenylは、2?8個の炭素原子を有するアルケニル基であり、alkylは、1?15個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の液晶媒体。」
「【請求項9】
式IAで表される化合物の、全体としての混合物中の比率が、5?40重量%であることを特徴とする、請求項1?8のいずれかに記載の液晶媒体。」

(1b)2頁10?19行
「【0005】
例えば、個別の画素を切り換えるための集積非線型素子を有するマトリックス液晶ディスプレイ(MLCディスプレイ)について、大きい正の誘電異方性、広いネマティック相、比較的低い複屈折、極めて高い比抵抗、良好なUVおよび温度安定性並びに比較的低い蒸気圧を有する媒体が望ましい。
このタイプのマトリックス液晶ディスプレイは、知られている。個別の画素を個別に切り換えるために用いることができる非線型素子は、例えば能動的素子(即ちトランジスタ)である。次に、用語「アクティブマトリックス」を用い、ここで、2つのタイプの間で区別をすることができる:
1.基板としてのシリコンウエファー上のMOS(金属酸化物半導体)または他のダイオード。
2.基板としてのガラス板上の薄膜トランジスタ(TFT)。」

(1c)11頁14?34行
「【0035】
本発明の液晶混合物は、利用できるパラメーター自由度の顕著な拡大を可能にする。透明点、低温における粘度、熱的およびUV安定性並びに誘電異方性の達成可能な組み合わせは、従来技術からの従前の材料に比較してはるかに優れている。
【0036】
EP 1 046 694 A1に開示されている混合物と比較して、本発明の混合物は、高い透明点、低いγ_(1)値、流動粘度についての低い値および100℃におけるVHRについての極めて高い値を有する。本発明の混合物は、好ましくは、3.3および2.5Vドライバーを有するノート型PC用途のためのTN-TFT混合物として適する。
【0037】
本発明の液晶混合物は、-30℃まで、特に好ましくは-40℃までのネマティック相を維持しながら、70℃を超える、好ましくは75℃を超える、特に好ましくは≧80℃の透明点、同時に≧6、好ましくは≧8の誘電異方性値Δε並びに優れたSTNおよびMLCディスプレイを得ることを可能にする比抵抗値についての高い値を達成することを可能にする。特に、この混合物は、低い動作電圧により特徴づけられる。TNしきい値は、1.5Vより低く、好ましくは1.4Vより低く、特に好ましくは<1.3Vである。」
「【0040】
20℃における流動粘度ν_(20)は、好ましくは<20mm^(2)・s^(-1)、特に好ましくは<19mm^(2)・s^(-1)である。本発明の混合物の20℃における回転粘度γ_(1)は、好ましくは<140mPa・s、特に好ましくは<120mPa・sである。ネマティック相範囲は、好ましくは少なくとも100°、特に少なくとも110°である。この範囲は、好ましくは少なくとも-40°?+80°まで拡大される。」

(1d)13頁20行?16頁2行
「【0044】
式Iは、好ましくは、式I-1?I-5
【化8】
(構造式省略)
で表される化合物を包含する。
【0045】

式Iで表される特に好ましい化合物は、式
【化9】

【0046】
【化10】
(構造式省略)
式中、
nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12、好ましくは1、2、3または5である、
で表される化合物である。
【0047】
alkylは、1?15個の炭素原子を有する直鎖状アルキル、好ましくはCH_(3)、C_(2)H_(5)、n-C_(3)H_(7)、n-C_(4)H_(9)、n-C_(5)H_(11)またはn-C_(6)H_(13)である。
alkenylは、好ましくは、CH_(2)=CH、CH_(3)CH=CH、CH_(2)=CH_(2)CH_(2)またはCH_(3)-CH=CHCH_(2)CH_(2)である。
【0048】
・・(省略)・・
好ましいのは、式I-1および/またはI-2で表される少なくとも1種の化合物を含む、本発明の媒体である。」

(1e)30頁21?29行
「【0069】
・・(省略)・・
-式IAおよびI?VIで表される化合物の合計の、全体としての混合物中の比率は、少なくとも50重量%である;
-式Iで表される化合物の、全体としての混合物中の比率は、≧18重量%、好ましくは≧20重量%、特に≧22重量%、極めて特に好ましくは≧24重量%である;
-式IAで表される化合物の、全体としての混合物中の比率は、5?40重量%、特に好ましくは10?30重量%である;
-式II?VIで表される化合物の、全体としての混合物中の比率は、30?80重量%である;」

(1f)66頁27行以降
「【0131】
以下の例は、本発明を限定せずに、本発明を説明することを意図する。本明細書中、パーセンテージは重量パーセントである。すべての温度を、摂氏度で示す。m.p.は融点を示し、cl.p.は透明点を示す。さらに、C=結晶状態、N=ネマティック相、S=スメクティック相およびI=アイソトロピック相である。これらの記号間のデータは、転移温度を示す。Δnは、光学異方性(589nm、20℃)を示し、Δεは、誘電異方性(1kHz、20℃)を示す。流動粘度ν_(20)(mm^(2)/秒)は、20℃において決定する。回転粘度γ_(1)(mPa・s)は、同様に20℃において決定する。
【0132】
例M1
【表2】

【0133】
例M2
【表3】

【0134】
例M3
【表4】


「【0136】
例M4
【表6】

【0137】
例M5
【表7】

【0138】
例M6
【表8】

【0139】
例M7
【表9】

【0140】
例M8
【表10】



2.甲10に記載の事項
(10a)
「【0017】
本発明による混合物は好ましくは、式Iで表わされる化合物に加え、1種または2種以上の式IIで表わされるアルケニル化合物を含有する:
【化5】

【0018】
式中、
A^(4)は、1,4-フェニレンまたはトランス-1,4-シクロヘキシレンであり、
R^(3)は、炭素原子2?7個を有するアルケニル基であり、
R^(4)は、炭素原子1?12個を有するアルキル基、アルコキシ基またはアルケニル基であり、これらの基中に存在する1個のCH_(2 )基または隣接していない2個のCH_(2 )基はさらに、酸素原子が相互に直接に結合しないものとして、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-または-COO-により置き換えられていてもよく、
aは、0または1である。
aが1である式IIで表わされる化合物は、特に好適な化合物として挙げられる。
【0019】
特に好適な式IIで表わされる化合物は、式IIa?IIiから選択される:
【化6】

【0020】
上記各式中、R^(3a)およびR^(4a)は、それぞれ相互に独立し、H、CH_(3)、C_(2)H_(5)またはn-C_(3)H_(7)であり、およびalkylは、炭素原子1?8個を有するアルキル基である。
式IIaで表わされる化合物、特にその分子中に存在するR^(3a)およびR^(4a)がCH_(3)である化合物、および式IIe、式IIf、式IIg、式IIhおよび式IIiで表わされる化合物、特にその分子中に存在するR^(3a)がHまたはCH_(3)である化合物は、特に好適な化合物として挙げられる。
【0021】
式IIで表わされる化合物を使用すると、本発明による液晶混合物に特に低い回転粘度値が得られ、また大きい急峻度および迅速な応答時間を、特に低温で有するTNおよびSTNディスプレイが得られる。
(省略)・・」

(10b)
「【0040】
好適液晶混合物は、1種または2種以上の成分Bの化合物を、好ましくは20?85%、特に好ましくは30?75%の割合で含有する。グループBの化合物、特にアルケニル基を含有する化合物は、特に回転粘度γ_(1)にかかわり低い数値を有する点で際立っている。
1種または2種以上の式IIで表わされる化合物以外に、成分Bは好ましくは、1種または2種以上の下記式で表わされる二環状化合物からなる群から選択される化合物:
【0041】
【化19】

【0042】
および/または1種または2種以上の下記式で表わされる三環状化合物からなる群から選択される化合物:
【化20】(構造式省略)
【0043】
【化21】(構造式省略)
および/または1種または2種以上の下記式で表わされる四環状化合物からなる群から選択される化合物:
【0044】
【化22】(構造式省略)
【0045】
を包含する(上記各式中、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ相互に独立し、炭素原子1?12個を有するアルキル基、アルコキシ基またはアルケニル基であり、これらの基中に存在する1個のCH_(2)基または隣接していない2個以上のCH_(2)基はまた、酸素原子が相互に直接に結合しないものとして、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-または-COO-により置き換えられていてもよく、および
Lは、HまたはFである)。」(当審注:【0040】における「成分B」、「グループB」は同一の意味であり、これらは請求項9における「b)-1.5?+1.5の誘電異方性を有する化合物からなる液晶成分B」を意味するものと推察される。)

(3)甲1に記載された発明

ア 上記摘示事項(1a)によれば、甲1には、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項9として、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式Iで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)および式IAで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み、ここで、該媒体中の式Iで表される化合物の比率は、少なくとも18重量%であり、
(式Iで表される化合物として、)式I-1?I-5で表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み、
式IAで表される化合物の、全体としての混合物中の比率が、5?40重量%である、液晶媒体」が記載されていると認められる。

イ 上記摘示事項(1e)によれば、甲1に記載の液晶媒体において、式Iで表される化合物の全体としての混合物中の比率は、極めて特に好ましくは「≧24重量%」であり、式IAで表される化合物の全体としての混合物中の比率は、特に好ましくは「10?30重量%」であるといえる。

ウ 上記摘示事項(1c)の【0037】によれば、甲1に記載の液晶媒体は、6以上の誘電率異方性を示すものであるといえるところ、上記摘示事項(1f)の【0131】を参照すれば、甲1発明における誘電率異方性は、20℃における物性値であることが理解される。

エ 上記摘示事項(1c)の【0037】によれば、甲1に記載の液晶媒体は、ネマチック液晶媒体であることが理解される。

オ 上記摘示事項(1c)の【0036】によれば、甲1に記載の液晶媒体は、「ノート型PC用途のためのTN-TFT混合物として適する」ものであるといえる。

上記アないしオの検討事項より、甲1には、
「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体であって、式Iで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)および式IAで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み、ここで、該媒体中の式Iで表される化合物の比率は、少なくとも18重量%、好ましくは24重量%以上であり、
(式Iで表される化合物として、)式I-1?I-5で表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み、
式IAで表される化合物の、全体としての混合物中の比率が、5?40重量%、好ましくは10?30重量%であって、
20℃における誘電率異方性が6以上である、ノート型PC用途のためのTN-TFT混合物として適するネマチック液晶媒体。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・検討

(4-1)本件発明1について

本件発明1と甲1発明とを対比する。
○甲1発明の「ネマチック液晶媒体」は、本件発明1の「ネマチック液晶組成物」に相当する。

○甲1発明の「式Iで表される1種または2種以上の化合物(式省略)」「を含み、ここで、該媒体中の式Iで表される化合物の比率は、少なくとも18重量%、好ましくは24重量%以上であり、」と本件発明1の「第一成分として構造式(1)で表される化合物(式省略)を35%?65%含有し、」は、「第一成分としてアルケニル基を有する化合物を特定量含有し、」である点で一致する。

○甲1発明の「式IAで表される1種または2種以上の化合物(式は省略)を含み、」「式IAで表される化合物の、全体としての混合物中の比率が、5?40重量%、好ましくは10?30重量%である、」と本件発明1の「第二成分として一般式(2)で表される化合物(式省略)群から選ばれる2種以上の化合物を10?30質量%含有し、」は、「第二成分として2種以上の四環化合物を10?30質量%含有し、」である点で一致する。

○上記摘示事項(1b)にも記載されているように、TFT(薄膜トランジスタ)がアクティブマトリックス型の一タイプであり、ノート型PC用途が「液晶表示素子用」に相当することは明らかであるから、甲1発明の「ノート型PC用途のためのTN-TFT混合物として適する」は、本件発明1の「アクティブマトリックス型液晶表示素子用」に相当する。

上記より、本件発明1と甲1発明とは、「第一成分としてアルケニル基を有する化合物を特定量含有し、第二成分として2種以上の四環化合物を10?30質量%含有するアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1>
アルケニル基を有する化合物の構造及び含有量が、本件発明1では、「構造式(1)、
【化1】

で表される化合物」及び「35?65%」であるのに対し、甲1発明では、「式Iで表される1種または2種以上の化合物

ここで、個々の基は、以下の意味:
R^(1)は、2?8個の炭素原子を有するアルケニル基であり、
X^(1)は、各々6個までの炭素原子を有するアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基またはアルケニルオキシ基であり、a=1である場合には、またF、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCSまたはOCNであり、
aは、0または1であり、
L^(1?2)は、各々、互いに独立して、HまたはFである」及び「少なくとも18重量%、好ましくは24重量%以上」である点。

<相違点1-2>
四環化合物が、本件発明1では、「一般式(2)で表される化合物
【化2】
(構造式省略)
(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基であり、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)は単結合を表し、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は単結合であり、
X^(1)、X^(3)はそれぞれ独立してH又はFであり、X^(2)はFである。)」であるのに対し、甲1発明では、「式IAで表される」「化合物
(構造式省略)
ここで、個々の基は、以下の意味:
R^(2)は、H、1?15個の炭素原子を有し、ハロゲン化されているか、CNもしくはCF_(3)により置換されているか、または非置換であるアルキル基であり、ここでさらに、これらの基中の1つまたは2つ以上のCH_(2)基は、各々、互いに独立して、O原子が互いに直接結合しないように、
【化3】
(構造式省略)
により置換されていてもよく、
X^(2)は、F、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCS、OCN、各々6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり、
Z^(1)およびZ^(2)は、各々、互いに独立して、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-または単結合であり、ここでZ^(1)≠Z^(2)であり、
【化4】
(構造式省略)
は、各々、互いに独立して、
【化5】
(構造式省略)
であり、
L^(3?4)は、各々、互いに独立して、HまたはFである」である点。

<相違点1-3>
本件発明1では、「構造式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物を55?95%含有」することが特定されているのに対し、甲1発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点1-4>
本件発明1では、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0」であることが特定されているのに対し、甲1発明では、20℃における誘電率異方性が6以上である点。

<相違点1-5>
本件発明1では、「(ただし、下記式の化合物 (式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式(式省略)で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。」ことが特定されているのに対し、甲1発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点1-1>について
上記<相違点1-1>に関して、まず、甲1発明において、アルケニル基を有する化合物の構造について検討する。甲1発明は、式Iで表される化合物として、式I-1?I-5で表される1種または2種以上の化合物を含むものであり、上記摘示事項(1d)の【0048】によると、特に、式I-1および/またはI-2で表される化合物が好ましいとされている。そして、上記摘示事項(1f)によれば、実際に、全ての実施例において、必ず、式I-1で表される化合物であるCC-5-V、CC-3-V1、CC-3-Vのいずれかが用いられているから、甲1発明を実施するに際し、式Iで表される化合物の少なくとも一部として、本件発明1の構造式(1)に相当するCC-3-Vを用いる点については、甲1に記載ないし示唆されているといえる。
次に、甲1発明において、CC-3-Vを含有する場合の含有量について検討すると、甲1発明では、式Iで表される化合物が24重量%以上であることが好ましいとされ、特にその上限は決められていない。しかしながら、上記摘示事項(1f)を参照すると、実施例における式Iで表される化合物全体の含有量は、最大でも30%である。そして、その中で、CC-3-Vを含有するものについてみてみると、その含有量は、15?18%の範囲であり、式I-1で表される化合物全体としてみても19?30%に留まっている。してみると、甲1には、式Iで表される化合物の含有量を24重量%を超えて、35重量%以上とすることが具体的に開示されているとはいえず、まして、式Iで表される化合物の一形態にすぎないCC-3-Vの含有量を35重量%以上とすることまで記載ないし示唆されているとは認められない。
一方、上記摘示事項(1c)によれば、甲1発明は、低いγ_(1)(回転粘度)値を特徴の一つとするものであるところ、上記摘示事項(10a)の【0021】、(10b)の【0040】を参照すると、アルケニル基を有する化合物を使用することで低い回転粘度γ_(1)値が得られることが、本件特許の出願時に周知ないし少なくとも公知の技術事項であったことが理解される。とするならば、回転粘度γ_(1)値を低くすることが意図されている甲1発明においてアルケニル基を有する化合物である式Iで表される化合物の含有量を、他の物性を損なわない範囲内で増量する程度のことまでは、当業者に容易といえなくもない。しかしながら、式Iで表される化合物の中で、その一形態である式I-1で表される化合物の、さらに、限定された一態様にすぎない、CC-3-Vに着目する動機は何ら見当たらず、当該技術事項に接した当業者が、その含有量を単独で35重量%以上とすることが容易になし得たとはいえない。

請求人は、平成28年9月14日付け口頭審理陳述要領書の22?23頁「エ.相違点I-Aの検討」の中で、甲1発明では、式IAで表される化合物が5?40重量%、式II?VIで表される化合物を30?80重量%含むので(上記摘示事項(1e)参照)、式II?VIで表される化合物を30重量%含有すれば、式IA,II?VIで表される化合物を35?70重量%含有することとなり、その残りの式Iで表される化合物は30?65重量%となると主張している。しかしながら、上述したように、甲1に開示の実施例では式Iで表される化合物が最大でも30重量%までしか含有されていないことからして、甲1には、式Iで表される化合物を30?65重量%とすることが具体的に記載されているとは認められず、単に、30?65重量%とすることが積極的には否定されていないというに留まる。

したがって、甲1発明において、相違点1-1は、実質的な相違点となるものであるし、相違点1-1に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。

<本件発明1の効果>について
本件発明1は、本件特許明細書の【0009】、【0013】の記載からして、液晶相温度範囲が広く、同時に、粘性が低いことを作用効果とするものと認められる(同【0030】によれば、好適には、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))が70℃以上であり、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))が-20℃以下であると記載されているから、上記「液晶温度範囲が広」いとは、T_(N-I)が70℃以上、T_(→N)が-20℃以下であれば足りると解される。)。そして、同【0037】【表1】によれば、いずれの実施例(No.1?No.3)においても、T_(N-I)が70℃以上、T_(→N)が-20℃以下であるから、液晶温度範囲が十分に広いことが理解され、また、回転粘度γ_(1)は35以下であるところ、例えば、同【0040】【表2】によれば、比較例もT_(N-I)が70℃以上、T_(→N)が-20℃以下であるものの、回転粘度γ_(1)は37以上であるから、本件発明1の効果は、比較例と同程度に広い液晶相温度範囲を維持しつつ、同時に回転粘度γ_(1)が35以下という低粘度を達成した点にあると解される。
これに対し、上記摘示事項(1c)の【0037】によれば、甲1発明も、本件発明1と同程度に広い液晶温度範囲を示すものと認められ、また、同時に低粘度であるとされており、目指す効果(液晶組成物の物性)の方向性は類似するといえる。しかしながら、上記摘示事項(1c)の【0040】によれば、甲1発明における20℃における回転粘度γ_(1)は、特に好ましくても120mPa・s未満であれば足りるとされており、上記摘示事項(1f)によれば、実施例における回転粘度γ_(1)は、86[mPa・s,20℃]以上であり、本件発明1のものとは大きく異なっている。ここで、本件特許明細書を参酌すると、本件特許明細書における回転粘度の測定条件が開示されておらず、特に測定温度が不明であるため、どのような測定条件の下で測定された値であるのか不明であり、本件発明1の「35以下」と甲1発明の「86以上」との数値を単純に比較することはできないが、本件特許明細書の比較例1?3では、構造式(1)で表される化合物に相当する0d1-Cy-Cy-3を、甲1の実施例におけるCC-3-V(0d1-Cy-Cy-3と同一の化合物)の配合量の上限値である18%を大幅に超える30%配合されているが、それでも回転粘度γ1は37以上とされていることからして、本件発明1における低粘度とは、甲1発明における低粘度と程度が相当異なると推認される。したがって、本件発明1は甲1発明と比して、低粘度の点で有意な差異を有するものと認められる。

よって、本件発明1は、相違点1-2ないし1-5について検討するまでもなく、甲1に記載された発明ではないし、当業者といえども甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものでない。

(4-2)本件発明2、3について

本件発明2、3は、本件発明1を限定するものであるところ、本件発明1が、甲1に記載された発明ではないこと、及び甲1発明に基いて容易に想到し得るものでないことは、上記(4-1)で検討済みである。
そして、それと同様の理由により、本件発明2、3も、甲1に記載された発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(5)無効理由1-1のまとめ

以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

3.無効理由1-2について

(1)刊行物
甲2:特開2004-238489号公報

(2)甲2に記載の事項
(2a)
「【請求項1】
正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体であって、
1種または2種以上の式Iで表わされるエステル化合物:
【化1】

および1種または2種以上の式IAで表わされる化合物:
【化2】

(各式中、各基は、下記の意味を有する:
R^(1)および R^(2)は、それぞれ相互に独立し、水素であり、もしくは炭素原子1?15を有し、ハロゲン化されている未置換のアルキル基であり、これらの基中に存在する1個または2個以上のCH_(2) 基は、それぞれ相互に独立し、酸素原子が相互に直接に結合しないものとして、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-CO-により置き換えられていてもよく、
X^(1)およびX^(2)は、それぞれ相互に独立し、F、Cl、CN、SF_(5)、SCNまたはNCSであり、もしくはそれぞれ6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり、
Z^(1)およびZ^(2)は、それぞれ相互に独立し、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-または単結合であり、ただしZ^(1)≠Z^(2)であり、
【化3】

であり、
L^(1-6)は、それぞれ相互に独立し、HまたはFである)
を含有することを特徴とする、前記液晶媒体。」
「【請求項8】
1種または2種以上の下記式で表わされる化合物を含有することを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の液晶媒体:
【化12】

上記各式中、
R^(0)は、それぞれ9個までの炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
Y^(1)は、HまたはFであり、
alkylおよびalkyl^(*)は、それぞれ相互に独立し、9個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状アルキル基であり、
alkenylおよびalkenyl^(*)は、それぞれ相互に独立し、炭素原子1?9個を有する直鎖状または分枝鎖状アルケニル基である。」
「【請求項9】
混合物中の式IAで表わされる化合物の割合が全体として、5?40重量%である、請求項1?8のいずれかに記載の液晶媒体。」

(2b)
「【0005】
一例として、各画素の切換えに集積非線型素子を備えたマトリックス液晶ディスプレイ(MLCディスプレイ)の場合、大きい正の誘電異方性、広いネマティック相、比較的小さい複屈折率、非常に大きい比抵抗、良好な紫外線および温度安定性、ならびに低い蒸気圧を有する媒体が望まれる。
この型式のマトリックス液晶ディスプレイは公知である。各画素それぞれの切換えに使用することができる非線型素子の例には、能動的素子(すなわち、トランジスター)がある。この素子はまた、「アクティブマトリックス」の用語で表わされ、二つのタイプに分けることができる:
1.基板としてのシリコンウエファー上のMOS(金属酸化物半導体)または別のダイオード。
2.基板としてのガラス板上の薄膜トランジスター(TFT類)。」

(2c)
「【0032】
本発明による液晶混合物は、利用できるパラメーター範囲の格別の拡大を可能にする。
透明点、低温における粘度、熱および紫外線安定性、ならびに誘電異方性の達成される組合せは、従来技術からの従来の混合物に比較して、はるかに優れている。
公知刊行物に開示されている混合物と比較して(例えば、特許文献3参照)、本発明による混合物は、より高い透明点、小さいγ_(1)値および100℃における非常に大きいVHR値を有する。本発明による混合物は、3.3および2.5V駆動装置を備えたノートブック型PC装置用のTN-TFT混合物として有利に適している。
【0033】
高い透明点、低温におけるネマティック相および同時に、大きい△εにかかわる要件は、従来では、不適当な程度に達成されていたのみであった。例えばZLI-3119などの混合物は匹敵する透明点および匹敵する好ましい粘度を有するが、これらの△εは+3であるのみである。
別種の混合物系は、匹敵する粘度および△ε値を有するが、60℃の領域の透明点を有するのみである。
【0034】
本発明による液晶混合物は、-20℃、好ましくは-30℃、特に好ましくは-40℃にまで低下したネマティック相を保有しながら、60℃以上、好ましくは65℃以上、特に好ましくは70℃以上の透明点を得ることができると同時に、≧6、好ましくは≧8の誘電異方性値△?および大きい比抵抗値の獲得を可能にし、これにより優れたSTNおよびMLCディスプレイを得ることを可能にする。特に、本混合物は低い動作電圧を有するという特徴を有する。TNしきい値電圧は、2.0V以下、好ましくは1.5V以下、特に好ましくは<1.3Vである。」

(2d)
「【0056】
・・(省略)・・
-混合物中の式IAおよび式I?VIで表わされる化合物の総割合は全体として、少なくとも50重量%である;
-混合物中の式Iで表わされる化合物の割合は全体として、5?40重量%、特に好ましくは10?30重量%である;
-混合物中の式IAで表わされる化合物の割合は全体として、5?40重量%、特に好ましくは10?30重量%である;
-混合物中の式II?VIで表わされる化合物の割合は全体として、30?80重量%である;」

(2e)
「【0070】
・・・
-媒体は、好ましくは下記式RI?RVIIIからなる群から選択される化合物をさらに含有する:
【0071】
【化39】
(構造式省略)
【0072】
上記各式中、
R^(0)は、それぞれ9個までの炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
Y^(1)は、HまたはFであり、
alkylおよびalkyl^(*)は、それぞれ相互に独立し、炭素原子1?9個を有する直鎖状または分枝鎖状アルキル基であり、
alkenylおよびalkenyl^(*)は、それぞれ相互に独立し、9個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状アルケニル基である。
-媒体は好ましくは、1種または2種以上の下記式で表わされる化合物を含有する:
【0073】
【化40】

【0074】
上記各式中、nおよびmはそれぞれ、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12であり、好ましくはnおよびmは、1、2、3、4、5または6である。」

(2f)
「【0106】
【実施の態様】
下記例は、本発明を説明しようとするものであり、制限を示すものではない。本明細書全体をとおして、パーセンテージは重量パーセントである。全部の温度は摂氏度で示されている。m.p.は融点を表わし、cl.p.は透明点を表わす。さらにまた、C=結晶状態、N=ネマティック相、S=スメクティック相、およびI=アイソトロピック相である。これらの記号間のデータは転移温度である。△nは光学異方性を表わし(589nm、20℃)、△εは誘電異方性を表わし(1kHz、20℃)、および流動粘度V20(mm^(2)/秒)は20℃で測定した。回転粘度γ_(1)(mPa・秒)はまた、20℃で測定した。」
「【0108】
例M2
【表3】

【0109】
例M3
【表4】


「【0111】
例M4
【表6】


「【0114】
例M7
【表9】

【0115】
例M8
【表10】

【0116】
例M9
【表11】

【0117】
例M10
【表12】



(3)甲2に記載された発明

ア 上記摘示事項(2a)によれば、甲2には、請求項1を引用する請求項8を引用する請求項9として、「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体であって、1種または2種以上の式Iで表わされるエステル化合物(式省略)および1種または2種以上の式IAで表わされる化合物(式省略)を含有し、さらに1種または2種以上の式RI?RIXで表わされる化合物(式省略)を含有し、式IAで表わされる化合物の、全体としての混合物中の割合が、5?40重量%である、液晶媒体」が記載されていると認められる。

イ 上記摘示事項(2d)によれば、甲2に記載の液晶媒体において、式IAで表される化合物の全体としての混合物中の比率は、特に好ましくは「10?30重量%」であるといえる。

ウ 上記摘示事項(2c)の【0034】によれば、甲2に記載の液晶媒体の誘電率異方性は6以上であるといえるところ、上記摘示事項(2f)の【0106】によれば、甲1発明における誘電率異方性の測定条件は20℃であることが理解される。

エ 上記摘示事項(2c)の【0034】によれば、甲2に記載の液晶媒体は、ネマチック液晶媒体であることが理解される。

オ 上記摘示事項(2c)の【0032】によれば、甲2に記載の液晶媒体は、「ノート型PC用途のためのTN-TFT混合物として有利に適している」ものであるといえる。

上記アないしオの検討事項より、甲2には、
「正の誘電異方性を有する極性化合物の混合物を基材とする液晶媒体であって、1種または2種以上の式Iで表わされるエステル化合物(式省略)および1種または2種以上の式IAで表わされる化合物(式省略)を含有し、さらに1種または2種以上の式RI?RIXで表わされる化合物(式省略)を含有し、
式IAで表わされる化合物の、全体としての混合物中の割合が、5?40重量%、好ましくは10?30重量%であって、20℃における誘電率異方性が6以上である、ノート型PC用途のためのTN-TFT混合物として有利に適しているネマチック液晶媒体。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・検討

(4-1)本件発明1について

本件発明1と甲2発明とを対比する。
○甲2発明の「ネマチック液晶媒体」は、本件発明1の「ネマチック液晶組成物」に相当する。

○甲2発明の「1種または2種以上の式IAで表わされる化合物(式省略)を含有し、」「式IAで表わされる化合物の、全体としての混合物中の割合が、5?40重量%、好ましくは10?30重量%であって、」と本件発明1の「一般式(2)で表される化合物(式省略)群から選ばれる2種以上の化合物を10?30質量%含有し、」は、「第2成分として2種以上の四環化合物を10?30質量%含有し、」である点で一致する。

○上記摘示事項(2b)にも記載されているように、TFT(薄膜トランジスタ)がアクティブマトリックス型の一タイプであり、また、ノート型PC用途が「液晶表示素子用」に相当することは明らかであるから、甲2発明の「ノート型PC用途のためのTN-TFT混合物として有利に適している」は、本件発明1の「アクティブマトリックス型液晶表示素子用」に相当する。

上記より、本件発明1と甲2発明とは、「第二成分として2種以上の四環化合物を10?30質量%含有するアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2-1>
本件発明1が、「第一成分として構造式(1)、
(構造式省略)、
で表される化合物を35?65%含有」することが特定されているのに対し、甲2発明では、「式RI?RIXで表わされる化合物
(構造式省略)
上記各式中、
R^(0)は、それぞれ9個までの炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
Y^(1)は、HまたはFであり、
alkylおよびalkyl^(*)は、それぞれ相互に独立し、9個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状アルキル基であり、
alkenylおよびalkenyl^(*)は、それぞれ相互に独立し、炭素原子1?9個を有する直鎖状または分枝鎖状アルケニル基である。」を単に含有することが特定されている点。

<相違点2-2>
四環化合物として、本件発明1では、「一般式(2)
(構造式省略)
(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基であり、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)は単結合を表し、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は単結合であり、
X^(1)、X^(3)はそれぞれ独立してH又はFであり、X^(2)はFである。)で表される化合物群から選ばれる」「化合物」を含有することが特定されているのに対し、甲2発明では、「式IAで表わされる化合物:
(構造式省略)
(各式中、各基は、下記の意味を有する:
R^(1)および R^(2)は、それぞれ相互に独立し、水素であり、もしくは炭素原子1?15を有し、ハロゲン化されている未置換のアルキル基であり、これらの基中に存在する1個または2個以上のCH_(2) 基は、それぞれ相互に独立し、酸素原子が相互に直接に結合しないものとして、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-CO-により置き換えられていてもよく、
X^(1)およびX^(2)は、それぞれ相互に独立し、F、Cl、CN、SF_(5)、SCNまたはNCSであり、もしくはそれぞれ6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基であり、
Z^(1)およびZ^(2)は、それぞれ相互に独立し、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-または単結合であり、ただしZ^(1)≠Z^(2)であり、
(構造式省略)
であり、
L^(1-6)は、それぞれ相互に独立し、HまたはFである)」である点。

<相違点2-3>
本件発明1では、「構造式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物を55?95%含有」することが特定されているのに対し、甲2発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点2-4>
本件発明1では、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0」であることが特定されているのに対し、甲2発明では、20℃における誘電率異方性Δεが6以上である点。

<相違点2-5>
本件発明1では、「(ただし、下記式の化合物 (式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式(式省略)で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。 」ことが特定されているのに対し、甲2発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点2-1>について
上記<相違点2-1>に関して、まず、甲2発明において、本件発明1の構造式(1)で表される化合物を選択することの容易性について検討する。甲2発明は、「1種または2種以上の式RI?RIXで表わされる化合物(式省略)を含有」するものであるところ、そのうち、式RIIで表される化合物は、「

上記各式中、
R^(0)は、9個までの炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキル、アルケニルオキシまたはアルケニルであり、
alkenylは、炭素原子1?9個を有する直鎖状または分枝鎖状アルケニル基である。」であり、さらに、上記摘示事項(2e)の【0073】、【0074】によれば、より具体的には、「

上記各式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12であり、好ましくはnは、1、2、3、4、5または6である。」であり、n=3場合、本件発明1の構造式(1)で表される化合物に相当する。そして、上記摘示事項(2f)を参照すると、実際、複数の実施例で、本件発明1の構造式(1)で表される化合物に相当するCC-3-Vが用いられていることからして、甲1発明を実施するに際し、「式RI?RIXで表わされる化合物(式省略)」の少なくとも一部として、本件発明1の構造式(1)に相当するCC-3-Vを用いる点については、甲2に記載ないし示唆されているといえる。
次に、甲2発明において、CC-3-Vを含有する場合の含有量について検討すると、甲2発明では、「式RI?RIXで表わされる化合物(式省略)」の含有量が特定されておらず、所望の物性に併せて任意に定められる事項と解されるものの、どのような物性を調整するためにどの程度配合すべきかについては明記されていない。そして、上記摘示事項(2f)によれば、実施例におけるCC-3-Vの最大値は19%、CC-3-Vを含む式RIIで表される化合物全体でも最大で30%に留まり、式RIで表される化合物(例えば、CCH-35)等他の式RI?RIXで表わされる化合物まで足し合わせないと、35%を超えていない。してみると、甲2には、本件発明1の構造式(1)で表される化合物に相当するCC-3-Vに着目し、その含有量を単独で35重量%以上とすることまで記載ないし示唆されているとは認められず、相違点2-1は、実質的な相違点となるものであるし、また甲2発明に基いて上記相違点に係る構成を想到することは、当業者といえども容易でない。

請求人は、審判請求書の99?100頁「キ.」で、甲2の請求項5の記載によれば、甲2発明では、式IA及び式I?VIで表される化合物の割合が、少なくとも50重量%であるから、それ以外の化合物の割合は、多くても50重量%であり、そして、「それ以外の化合物」の中には、式RIIで表される化合物が含まれ、その一形態にCC-3-Vが含まれることをつなぎ合わせると、甲2には、本件発明1の構造式(1)で表される化合物に相当するCC-3-Vを「50重量%まで含有」する液晶媒体が記載されていると認められると主張している。しかしながら、甲2には、CC-3-Vを含む「それ以外の化合物」を全体として50重量%以下とすることが記載されているに留まり、その範囲内であっても、さらに、CC-3-Vを50重量%まで配合すること、又は、配合し得ることまで、甲2に記載されていたに等しい事項と認めることはできない。

したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。
よって、本件発明1は、相違点2-2ないし2-5について検討するまでもなく、甲2に記載された発明ではないし、当業者といえども甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものでない。

(4-2)本件発明2、3について

本件発明2、3は、本件発明1を限定するものであるところ、本件発明1が、甲2に記載された発明ではないこと、及び甲2発明に基いて容易に想到し得るものでないことは、上記(4-1)で検討済みである。
そして、それと同様の理由により、本件発明2、3も、甲2に記載された発明ではないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(5)無効理由1-2のまとめ

以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

4.無効理由1-3について

(1)刊行物
甲3:特開2005-220355号公報

(2)甲3に記載の事項
(3a)
「【請求項1】
次の成分(A)?(D)を含む液晶媒体。
成分(A):式Iの誘電的に正の化合物の1種または2種以上と、式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物の1種または2種以上とを含有する誘電的に正の成分、成分(A)
【化1】

(式中、
R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、互いに独立して、炭素数1?7のアルキル、アルコキシ、フッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ、炭素数2?7のアルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルキルまたはフッ素化アルケニルであり、
【化2】

は、互いに独立して、且つ
【化3】

が、2つ存在するときはこれらも互いに独立して、それぞれ
【化4】

であり、
Z^(21)、Z^(22)、およびZ^(3)は、互いに独立して、且つZ^(21)および/またはZ^(3)が2つ存在するときはこれらも互いに独立して-CH_(2)CH_(2)-、-COO-、trans--CH=CH-、trans--CF=CF-、-CH_(2)O-、-CF_(2)O-または単結合であり、
nおよびmは、互いに独立して、0、1または2であり、
X^(1)、X^(2)およびX^(3)は互いに独立して、ハロゲン、炭素数1?3のハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ、または炭素数2または3のハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり、
Y^(21)およびY^(22)は、互いに独立してHまたはFであり、そして
Y^(31)およびY^(32)は、互いに独立してHまたはFであり、但し、
【化5】

であるときは、Y^(31)およびY^(32)は両方ともHまたはFのどちらかである。)
成分(B):任意成分として誘電的に中性の成分、成分(B)
成分(C):任意成分としてさらに誘電的に正の成分、成分(C)
成分(D):任意成分として誘電的に負の成分、成分(D)」
「【請求項6】
下記式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物を含む誘電的に中性の成分、成分(B)を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の液晶媒体。
【化11】

(式中、R^(41)およびR^(42)は、請求項2で定義された意味を有する。)」(当審注:請求項2において、「R^(41)およびR^(42)」は、請求項1の式IのR^(1)に定義されるものと同じ意味である。)
「【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載の液晶媒体を含むことを特徴とする液晶ディスプレイ。
【請求項9】
アクティブマトリックス駆動される請求項8記載の液晶ディスプレイ。」

(3b)
「【0127】
成分(B)は、好ましくは全混合物の0%?45%の濃度で使用され、より好ましくは10%?40%、さらに好ましくは15%?35%、最も好ましくは20%?30%の範囲で使用される。」
「【0132】
本発明の好ましい実施形態において、
-本発明の媒体の中で、式Iの化合物の濃度は、好ましくは1%?40%、より好ましくは2%?30%、さらに好ましくは3%?20%、最も好ましくは5%?15%であり;
-本発明の媒体の中で、式IIの化合物の濃度は、好ましくは20%?90%、より好ましくは30%?80%、さらに好ましくは40%?70%、最も好ましくは50%?65%であり;
-本発明の媒体の中で、式IIIの化合物の濃度は、好ましくは0%?50%、より好ましくは0%?40%、さらに好ましくは0%?30%、最も好ましくは10%?25%であり;
-本発明の媒体の中で、式IVの化合物の濃度は、好ましくは0%?50%、より好ましくは10%?40%、さらに好ましくは20%?30%、最も好ましくは25%?35%である。」

(3c)
「【0138】
本発明の液晶媒体の1kHz、20℃におけるΔεは、好ましくは4.0以上、より好ましくは6.0以上、最も好ましくは10.0以上であり、特に6.0?20.0である。」

(3d)
「【0142】
本発明の媒体のネマチック相は、少なくとも0℃から70℃、好ましくは少なくとも-20℃から75℃まで、最も好ましくは少なくとも-30℃から80℃まで、とくに少なくと-40℃から85℃まで(あるいは90℃までさえも)広がることが好ましい。ここで、「ネマチック相が、少なくとも低温限界から高温限界まで広がる」とは、ネマチック相が、低温限界の温度までさらにはそれを超えて広がること、そして高温限界までまたはそれを超えて広がることを意味する。」

(3e)
「【0178】
例5
次表に与えられた組成と特性を有する液晶媒体を調製した。
【0179】
【表6】

【0180】
この混合物は、適度に高いΔn値、中庸のΔε値および極めて低い回転粘度を有する。従って、TNモードで動作するアクティブマトリックス駆動ディスプレイに非常によく適している。」

(3f)
「【0184】
例7
次表に与えられた組成と特性を有する液晶媒体を調製した。
【0185】
【表8】

【0186】
この混合物は、有利に低いΔn値、かなり高いΔε値および非常に低い回転粘度を有する。従って、TNモードで動作するアクティブマトリックス駆動ディスプレイに非常によく適している。」

(3)甲3に記載された発明

ア 上記摘示事項(3a)によれば、甲3には、請求項1を引用する請求項6として、「次の成分(A)?(D)を含む液晶媒体
成分(A):式Iの誘電的に正の化合物(式省略)の1種または2種以上と、式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物(式省略)の1種または2種以上とを含有する誘電的に正の成分、成分(A)
成分(B):任意成分として式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物(式省略)を含む誘電的に中性の成分、成分(B)
成分(C):任意成分としてさらに誘電的に正の成分、成分(C)
成分(D):任意成分として誘電的に負の成分、成分(D)」が記載されていると認められる。

イ 上記摘示事項(3c)によれば、甲3の液晶媒体のΔεは、好ましくは20℃において4.0以上である。

ウ 上記摘示事項(3d)によれば、甲3の液晶媒体は、ネマチック液晶媒体であるといえる。

エ 上記摘示事項(3a)の請求項8、9を参照すると、甲3の液晶媒体は、アクティブマトリクス駆動される液晶ディスプレイに含まれるものであることが理解される。

上記アないしエの検討事項より、甲3には、
「次の成分(A)?(D)を含み、20℃におけるΔεが4.0以上である、アクティブマトリックス駆動される液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体。
成分(A):式Iの誘電的に正の化合物(式省略)の1種または2種以上と、式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物(式省略)の1種または2種以上とを含有する誘電的に正の成分、成分(A)
成分(B):任意成分として式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物(式省略)を含む誘電的に中性の成分、成分(B)
成分(C):任意成分としてさらに誘電的に正の成分、成分(C)
成分(D):任意成分として誘電的に負の成分、成分(D)」(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・検討

(4-1)本件発明1について

本件発明1と甲3発明とを比較する。
○甲3発明の「アクティブマトリックス駆動される液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体」は、本件発明1の「アクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物」に相当する。

上記より、本件発明1と甲3発明とは、
「アクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3-1>
本件発明1では、「構造式(1)、
(構造式省略)
で表される化合物を35?65%含有」することが特定されているのに対し、甲3発明では、「式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物を含む
(構造式省略)
(式中、R^(41)およびR^(42)は、互いに独立して、炭素数1?7のアルキル、アルコキシ、フッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ、炭素数2?7のアルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルキルまたはフッ素化アルケニルである。)」との特定に留まる点。

<相違点3-2>
本件発明1では、「一般式(2)
(構造式省略)
(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基であり、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)は単結合を表し、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は単結合であり、
X^(1)、X^(3)はそれぞれ独立してH又はFであり、X^(2)はFである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を10?30質量%含有」することが特定されているのに対し、甲3発明では、「式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物の1種または2種以上とを含有
(構造式省略)
(式中、
R^(2)およびR^(3)は、互いに独立して、炭素数1?7のアルキル、アルコキシ、フッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ、炭素数2?7のアルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルキルまたはフッ素化アルケニルであり、
(構造式省略)
は、互いに独立して、且つ
(構造式省略)
が、2つ存在するときはこれらも互いに独立して、それぞれ
(構造式省略)
であり、
Z^(21)、Z^(22)、およびZ^(3)は、互いに独立して、且つZ^(21)および/またはZ^(3)が2つ存在するときはこれらも互いに独立して-CH_(2)CH_(2)-、-COO-、trans--CH=CH-、trans--CF=CF-、-CH_(2)O-、-CF_(2)O-または単結合であり、
nおよびmは、互いに独立して、0、1または2であり、
X^(2)およびX^(3)は互いに独立して、ハロゲン、炭素数1?3のハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ、または炭素数2または3のハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり、
Y^(21)およびY^(22)は、互いに独立してHまたはFであり、そして
Y^(31)およびY^(32)は、互いに独立してHまたはFであり、但し、
(構造式省略)
であるときは、Y^(31)およびY^(32)は両方ともHまたはFのどちらかである。)」するとの特定に留まる点。

<相違点3-3>
本件発明1では、「構造式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物を55?95%含有」することが特定されているのに対し、甲3発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点3-4>
本件発明1では、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0」であることが特定されているのに対し、甲3発明では、「20℃におけるΔεが4.0以上」である点。

<相違点3-5>
本件発明1では、「(ただし、下記式の化合物 (式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式(式省略)で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。 」ことが特定されているのに対し、甲3発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点3-1>について
上記<相違点3-1>に関して、まず、甲3発明において、本件発明1の構造式(1)で表される化合物を選択することの容易性について検討する。甲3発明は、「式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる」化合物を含有するものであるところ、そのうち、式IV-1で表される化合物は、「

(式中、R^(41)およびR^(42)は、互いに独立して、炭素数1?7のアルキル、アルコキシ、フッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ、炭素数2?7のアルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルキルまたはフッ素化アルケニルである。)」であるから、R^(41)が炭素数3のアルキル、R^(42)が炭素数2のアルケニルである場合、本件発明1の構造式(1)で表される化合物に相当する。そして、上記摘示事項(3e)、(3f)からも分かるように、実際、複数の実施例で、本件発明1の構造式(1)で表される化合物に相当するCC-3-Vが用いられていることからして、甲3発明を実施するに際し、「式IV-1、IV-4、IV-6およびIV-7の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の化合物(式省略)」の少なくとも一部として、本件発明1の構造式(1)に相当するCC-3-Vを用いる点については、甲3に記載ないし示唆されているといえる。
次に、甲3発明において、CC-3-Vを含有する場合の含有量について検討すると、上記摘示事項(3b)によれば、甲3発明では、式IVで表される化合物の濃度は、「好ましくは0%?50%、より好ましくは10%?40%、さらに好ましくは20%?30%、最も好ましくは25%?35%」であるとされているが、そのうち、式IV-1で表される化合物の濃度については特定されておらず、まして、その一形態であるCC-3-Vの濃度については何ら特定されていない。ここで、実施例を参照すると、上記摘示事項(3e)にあるように、CC-3-Vは最大で32%までしか配合されていない。そして、甲3では、実施例の例1?例7のうち、CC-3-Vが含まれるのは、上記摘示事項(3e)の例5及び上記摘示事項(3f)の例7のみであるところ、CC-3-Vを含む式IV-1で表される化合物でみた場合に、例7の液晶媒体では、34%(CC-3-V+CC-4-V+CC-3-V1)であり本件発明1の「35%」を超えることなく、唯一、例5の液晶媒体みが、42%(CC-3-V+CC-3-V1)であり本件発明1の「35%」を超えるものである。しかしながら、この例5で、CC-3-V1をCC-3-Vに置換する技術的な要請が存在するとも認められないから、この唯一の例5をもって、特にCC-3-Vに着目し、その配合量を単独で35%(以上)とする動機を見出すことはできない。

したがって、甲3発明において、相違点3-1は、実質的な相違点となるものであるし、相違点3-1に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。

<相違点3-2>及び<相違点3-3>について
甲3発明において、「式IIおよび式IIIの群から選ばれる誘電的に正の化合物」が、n=2又はm=2である場合、これらの化合物は四環化合物となる。そして、上記摘示事項(3f)によれば、実際、実施例では、式IIで表される化合物の一形態(n=2であって、A^(21)及びA^(22)の一つが

A22の残りが

であり、Z^(21)、Z^(22)が全て単結合、R^(2)が炭素数3のアルキル、Y^(21)、Y^(22)がF、X^(2)がハロゲン(ふっ素)である場合)であるCCGU-3-Fが用いられているが、これは、本件発明1の一般式(2)で表される化合物(R^(1)が炭素数3のアルキル基、B^(1)、B^(2)がトランス-1,4-シクロヘキシレン基、B^(3)がハロゲンで置換されている1,4-フェニレン基、L^(1)、L^(2)、L^(3)が全て単結合、Q^(1)が単結合、X^(1)?X^(3)がFである場合)に相当する。したがって、甲3発明において、本件発明1の一般式(2)で表される化合物を選択すること自体は容易であり、また、その種類を2種以上とすることにも困難性は認められない。
次に、その配合量について検討すると、上記摘示事項(3b)によれば、甲3発明において、式IIで表される化合物の濃度は、「好ましくは20%?90%、より好ましくは30%?80%、さらに好ましくは40%?70%、最も好ましくは50%?65%」であり、式IIIで表される化合物の濃度は、「好ましくは0%?50%、より好ましくは0%?40%、さらに好ましくは0%?30%、最も好ましくは10%?25%」であることが記載されているが、そのうち、n=2又はm=2、すなわち、四環化合物の好ましい配合量については、記載も示唆もされていない。そして、上記摘示事項(3f)によれば、四環化合物であるCCGU-3-Fの配合量は、8.0%にすぎない。そして、その配合量を上記<相違点3-2>の要件に係る10%(以上)とする動機は何ら見当たらない。
ましてや、甲3発明において、本件発明1の構造式(1)で表される化合物に相当するCC-3-Vを35%程度配合することができたことを仮定したとしても、上記<相違点3-3>の要件を満たすためには、甲3発明において、四環化合物の配合量を20%以上とすることが求められるところ、四環化合物であるCCGU-3-Fの配合量さらに増加させる実施形態を選択する具体的な動機を見出すことができない。

請求人は、口頭審理陳述要領書の33頁「カ.相違点3-Bの検討」において、(四環化合物を含む)成分(A)の濃度が30%?90%であり、(CC-3-Vを含む)成分(B)の濃度が0?50%であることから、「双方合計すると、80?100%含有していてもよく、本件・・発明1での55?95%含有と重複しているから、実質的にこの点は相違点でない」旨主張している。しかしながら、上記検討のとおり、甲3発明において、成分(A)の全てが四環化合物ではなく、また、成分(B)の全てがCC-3-Vではないことから、成分(A)と成分(B)の合計が、液晶媒体全体の55%?95%であり得るとして、そのことが、CC-3-Vと四環化合物の合計量が55%?95%であることまで記載ないし示唆されていることにはならない。

したがって、甲3発明において、相違点3-2及び相違点3-3は、実質的な相違点となるものであるし、相違点3-2及び相違点3-3に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とはいえない。

よって、本件発明1は、相違点3-4、3-5について検討するまでもなく、甲3に記載された発明ではないし、当業者といえども甲3発明に基いて容易に発明をすることができたものでない。

(4-2)本件発明2、3について

本件発明2、3は、本件発明1を限定するものであるところ、本件発明1が、甲3に記載された発明ではないこと、及び甲3発明に基いて容易に想到し得るものでないことは、上記(4-1)で検討済みである。
そして、それと同様の理由により、本件発明2、3も、甲3に記載された発明ではないし、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(5)無効理由1-3のまとめ

以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

5.無効理由2-1について

(1)先願
甲6:国際出願番号PCT/EP2006/004708号(国際公開第2006/133783号)
(当審注:特許法第29条の2の規定の適用にあたって、当該国際出願は指定国に日本を含み、特願2008-516156号として外国語特許出願され、国内書面提出期間に翻訳文が提出されたものであるので、特願2008-516156号を以下「先願」という。(同法第184条の13))

(2)先願明細書に記載の事項(摘示は、特表2008-545804号公報による。併せて、甲6の国際公開公報の該当箇所を示す。)
(6a)「【請求項1】
化合物の混合物に基づく正の誘電異方性を有する液晶媒体であって、式Iの化合物を1種類以上含むことを特徴とする液晶媒体。
【化1】

(式中、
R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH2基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-CH=CH-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化2】

の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-CH=CH-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)」
「【請求項4】
一般式Z-1?Z-9から選ばれた1種類以上の化合物を付加的に含むことを特徴とす
る請求項1ないし3の少なくとも一項記載の液晶媒体。
【化5.1】

【化5.2】

(式中、
R^(1a)およびR^(2a)は、それぞれ互いに独立に、H、CH_(3)、C_(2)H_(5)またはn-C_(3)H_(7)を表し、
R^(0)は、それぞれ9個までの炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキルまたはアルケニルを表し、
alkyl、alkyl*は、無置換で1?7個の炭素原子を有するn-アルキル基を表し、
alkenylは、無置換で2?7個の炭素原子を有するアルケニルを表す。)」(請求の範囲)

(6b)「【0006】
この型のマトリックス型液晶ディスプレイは公知である。個々のピクセルのそれぞれのスイッチングに使用することができる非線形素子の例は、アクティブ素子(つまりトランジスター)である。そして使用される用語「アクティブマトリックス」は、2つの区別される型に分けられる。
【0007】
1.基板としてのシリコンウエハー上のMOS(Metal Oxide Semiconductor、金属酸化物半導体)または他のダイオード。
【0008】
2.基板としてのガラス板上の薄膜トランジスター(Thin-Film Transistor、TFT)。」
「【0011】
TFTマトリックスは、ディスプレイの1つのガラス板の内面に形成され、もう一方のガラス板は、内面に透明な対向電極を有する。ピクセル電極の大きさと比較して、TFTは非常に小さく、事実上、画像に対する悪影響はない。この技術は、フルカラー対応のディスプレイにも適用できる。このディスプレイでは、フィルター素子がスイッチング可能なピクセルの各々に対向するように、赤、緑および青フィルターのモザイクが配置される。
【0012】
TFTディスプレイは、通常、透過光に対して直交した偏光板を備えたTNセルを作動させ、バックライトで照らされる。
【0013】
ここで用語「MLCディスプレイ」は、集積非線形素子を備えた全てのマトリックスディスプレイも含む。即ち、アクティブマトリックスに加えて、バリスターまたはダイオード(MIM、即ち、metal-insulator-metal)のような受動型素子を備えたディスプレイも含む。」
「【0020】
本発明は、特にこの型のMLC、TNまたはSTNディスプレイ用で、上で示される望ましい特性を有し、上記の不具合を示さないか、示しても低減されており、好ましくは同時に、非常に高い比抵抗値および低い閾電圧を有している媒体を提供する目的に基づいている。」(2頁16?25行、3頁1?16行、5頁30?34行)

(6c)「【0060】
本発明の液晶混合物は、好ましくは-20℃まで、特に好ましくは-30℃まで、非常に特に好ましくは-40℃までネマチック相を維持しながら、60℃を超える、好ましくは65℃を超える、特に好ましくは70℃を超える透明点が可能であり、同時に、誘電異方性値Δεが3以上、好ましくは5以上、特にまた7以上で、高い値の比抵抗が達成され、優れたSTNおよびMLCディスプレイをえることが可能となる。特に、混合物は非常に低い回転粘度で特徴付けられる。回転粘度γ_(1)は、90mPa・sより低く、好ましくは80mPa・sより低く、特に好ましくは70mPa・sより低い。同時に、動作電圧は、媒体の選択された誘電誘電異方性に依存して、低い値である。」(15頁17?29行)

(6d)「【0080】
【化14】
(省略)
-媒体は、一般式VII?XIIIからなる群より選ばれる1種類以上の化合物を付加的に含む。
【0081】
【化15.1】

【0082】
【化15.2】

式中、
R^(0)は、それぞれ9個までの炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキルまたはアルケニルを表し、
X^(0)は、F、Cl、6個までの炭素原子を有するハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルケニル、ハロゲン化アルケニルオキシまたはハロゲン化アルコキシを表し、
Y^(1)?Y^(4)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表す。
【0083】
X^(0)は、ここで好ましくは、F、Cl、CF_(3)、OCF_(3)またはOCHF_(2)である。R^(0)は、ここで好ましくは、それぞれ6個までの炭素原子を有するアルキル、アルコキシ、オキサアルキル、フルオロアルキルまたはアルケニルを表す。」(24頁6行?25頁32行)

(6e)「【0128】
-媒体は、付加的に1種類または2種類以上の式Z-1?Z-9(一般的にZ)の2環化合物を含む。
【0129】
【化29.1】
(構造式省略)
【0130】
【化29.2】
(構造式省略)
式中、
R^(1a)およびR^(2a)は、それぞれ互いに独立に、H、CH_(3)、C_(2)H_(5)またはn-C_(3)H_(7)を表し、および
R^(0)は、それぞれ9個までの炭素原子を有するn-アルキル、オキサアルキル、フルオロアルキルまたはアルケニルを表す。
【0131】
alkyl、alkyl*およびalkenylは、下で示される意味を有する。
【0132】
前記2環化合物の中でも、化合物Z-2、Z-5、Z-4およびZ-6が特に好ましく、非常に特にはalkylがプロピルでR^(1a)がHまたはメチル、特にはR^(1a)がHである式Z-5の化合物である。
【0133】
-式Z-1?Z-9の化合物の割合は全体で5?70重量%、好ましくは15?50重量%である。式Z-5の化合物の単独での割合は好ましくは10?60重量%、好ましくは15?50重量%である。」(37頁12行?38頁32行)

(6f)「【実施例】
【0179】
以下の例は、制限することなく、本発明を説明するものである。当業者は、非常に詳細には記載されていない特定の適切な実施形態を例より行うことができ、異なる境界条件に当てはめることができる。
【0180】
上および下において、パーセンテージのデータは重量パーセントである。温度はすべて摂氏で示される。Cは結晶状態、Nはネマチック相、Sはスメクティック相、およびIは等方相を表す。これらの記号間のデータは、純物質に対する相転移温度を表す。
【0181】
混合物の物理的測定方法は、「メルク液晶、液晶の物理的特性」1997年11月、ドイツ国メルク社に記載されている。
【0182】
それぞれの物質の誘電異方性Δεは、20℃および1kHzで決定される。このために、検討される物質を10重量%で誘電的に正の混合物ZLI-4792(メルク社)に溶解し測定し、測定値を濃度100%に外挿する。光学異方性Δnは、20℃および波長589.3nmで決定される。同様に、10重量%での値を外挿して決定する。」
「【0203】
【表18】

【0204】
【表19】

」(60頁30行?61頁16行、71頁)

(3)先願明細書に記載された発明

ア 上記摘示事項(6f)によれば、甲6には、混合物例13として、「CC-3-Vを37%、CCGU-3-Fを8%、PPGU-4-Fを3%、

を6%含有し、そして、CC-3-V、CCGU-3-F、PPGU-4-Fを合計48%含有し、Δε[1kHz,20℃]が7.3である液晶媒体」が記載されているといえる。

イ 上記摘示事項(6f)によれば、甲6には、混合物例14として、「CC-3-Vを36%、CCGU-3-Fを7%、PPGU-4-Fを3%、

を6%含有し、そして、CC-3-V、CCGU-3-F、PPGU-4-Fを合計46%含有し、Δε[1kHz,20℃]が5.6である液晶媒体」が記載されているといえる。

ウ 上記摘示事項(6c)の記載からして、甲6の液晶媒体が、ネマチック液晶媒体であることは明らかである。

エ 上記摘示事項(6b)の【0020】によれば、甲6の液晶媒体は、「MLC、TNディスプレイ」に用いられるものであるといえる。

上記アないしエの検討事項より、甲6には、混合物例13として、
「CC-3-Vを37%、CCGU-3-Fを8%、PPGU-4-Fを3%、

を6%含有し、そして、CC-3-V、CCGU-3-F、PPGU-4-Fを合計48%含有し、Δε[1kHz,20℃]が7.3である、MLC、TNディスプレイに用いられるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲6発明1」という。)、及び、混合物例14として、
「CC-3-Vを36%、CCGU-3-Fを7%、PPGU-4-Fを3%、

を6%含有し、そして、CC-3-V、CCGU-3-F、PPGU-4-Fを合計46%含有し、Δε[1kHz,20℃]が5.6である、MLC、TNディスプレイに用いられるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲6発明2」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・検討

(4-1)本件発明1について

本件発明1と甲6発明1、2とを対比する。
○甲6発明1、2の「ネマチック液晶媒体」は、本件発明1の「ネマチック液晶組成物」に相当する。

○甲6発明1、2の「CC-3-V」は、本件発明1の「構造式(1)で表される化合物(式省略)」に相当する。そして、甲7発明1、2では、CC-3-Vの含有量は「37%」、「36%」であるから、本件発明1の構造式(1)で表される化合物の含有量である「35?65%」とは、「37%又は36%」で重複する。

○甲6発明1、2の「CCGU-3-F」は、本件発明1の「一般式(2)で表される化合物(式省略)」で、R^(1)が炭素数3のアルキル基であり、B^(1)、B^(2)がトランス-1,4-シクロへキシレン基、B^(3)がハロゲンで置換された1,4-フェニレン基、L^(1)、L^(2)、L^(3)が単結合、Q^(1)が単結合、X^(1)、X^(2)、X^(3)がFである場合にあたり、「PPGU-4-F」は、「一般式(2)で表される化合物(式省略)」で、R^(1)が炭素数4のアルキル基であり、B^(1)、B^(2)が1,4-フェニレン基、B^(3)がハロゲンで置換された1,4-フェニレン基、L^(1)、L^(2)、L^(3)が単結合、Q^(1)が単結合、X^(1)、X^(2)、X^(3)がFである場合にあたるから、甲6発明1、2の「CCGU-3-F」及び「PPGU-4-F」は、本件発明1の「一般式(2)で表される化合物(式省略)」で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物に相当する。そして、甲6発明1、2のCCGU-3-FとPPGU-4-Fの含有量は、合計で11%又は10%であるから、本件発明1の「一般式(2)で表される化合物(式省略)」の含有量である「10?30質量%」とは、「11質量%又は10質量%」で重複する。

○上記摘示事項(6b)にも記載されているように、TFT(薄膜トランジスタ)がアクティブマトリックス型の一タイプであり、TFTディスプレイは、TNセルを作動するものであるから(【0012】)、甲6発明1、2の「TNディスプレイ用」とは、本件発明1の「アクティブマトリックス型液晶表示素子用」に相当すると認められる。
また、上記摘示事項(6b)の【0020】の記載によれば、甲6発明1、2の「MLCディスプレイ用」とは、本件発明1の「アクティブマトリックス型液晶表示素子用」を含むものであるといえる。

上記より、本件発明1と甲6発明1、2とは、「第一成分として構造式(1)で表される化合物(式省略)を37%又は36%含有し、第二成分として一般式(2)で表される化合物(式省略)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を11質量%又は10質量%含有するアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4-1>
構造式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の含有量が、本件発明1では、55?95%であるのに対し、甲6発明1、2では、48%又は46%である点。

<相違点4-2>
本件発明1では、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0」であることが特定されているのに対し、甲6発明1、2では、Δε[1kHz,20℃]が7.3又は5.6である点。

<相違点4-3>
本件発明1では、「(ただし、下記式の化合物 (式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式(式省略)で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。 」ことが特定されているのに対し、甲6発明1、2では、

(以下、「式I具体的化合物」という。)
が含有されている点。

<相違点4-3>について
甲6発明1、2は、いずれも
「式I具体的化合物」
を含有するものであるところ、当該化合物は、本件発明1において、除かれている「下記式の化合物を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体
【化4】
(構造式省略)
(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-COで置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化5】
(構造式省略)
の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)」の「R^(1)が3個の炭素原子を有しているアルキル基を表し、Z^(2)が基-CF=CF-を表し、Xが、ハロゲン化されている1個の炭素原子を有しているアルコキシ基を表し、L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)がHを表し、mが0を表す。」場合に相当する。また、上記摘示事項(6a)を参照すれば、甲6の液晶媒体において、上記「式I具体的化合物」自体は甲6の液晶媒体の必須成分でないことが理解されるから、これを他の成分に置換したもの、すなわち、当該成分を含まない液晶媒体も甲6に記載されていた範囲内といえるものの、その場合であっても、甲6発明1、2は、上記「式I具体的化合物」以外の上記の甲6の液晶媒体における必須成分である「下記式で表される1種以上の化合物(式省略)」を含むことになるから、これを含まないことが特定されている本件発明1と、当該化合物を必ず含む甲6発明1、2又はそれと実質同等の液晶媒体とは、明らかな相違点を有するといえ、実質的に同一でない。

よって、本件発明1は、相違点4-1?4-2について検討するまでもなく、甲6発明1、2と実質同一でない。

(4-2)本件発明2、3について

本件発明2、3は、本件発明1を限定するものであるところ、本件発明1が甲6発明1、2と実質同一でないことは、上記(4-1)で検討済みである。
そして、それと同様の理由により、本件発明2、3も、甲6発明1、2と実質同一でない。

(5)無効理由2-1のまとめ

以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲6発明1、2と実質同一でないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

5.無効理由2-2について

(1)先願
甲7:国際出願番号PCT/EP2005/006428号(国際公開第2005/123879号)
(当審注:特許法第29条の2の規定の適用にあたって、当該国際出願は指定国に日本を含み、特願2007-515868号として外国語特許出願され、国内書面提出期間に翻訳文が提出されたものであるので、特願2007-515868号を以下「先願」という。(同法第184条の13))

(2)先願明細書に記載の事項(摘示は、特表2008-502754号公報による。併せて、甲6の国際公開公報の該当箇所を示す。)

(7a)「【請求項1】
式Iで表される1種類以上の化合物と、式IA、IBおよびICで表される化合物群からの1種類以上の化合物とを含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体。
【化1】

【化2】

(式中、R^(1)、R^(1A)、R^(1B)およびR^(1C)は、それぞれ互いに独立に、ハロゲン化されているかまたは置換されていない1?15個の炭素原子を有するアルキルまたはアルコキシ基を表し、但し、加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-CF_(2)-O-、-OCF_(2)-、-CH=CH-、
【化3】

-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
X、X^(A)およびX^(B)は、それぞれ互いに独立に、F、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCS、6個以下の炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基を表し、
【化4】

a)それぞれ互いに独立に、1,4-シクロヘキセニレンまたは1,4-シクロヘキシレン基を表し、1または2個の隣接していないCH_(2)基が-O-または-S-で置き換えられていてもよく、
c)1,4-フェニレン基で、1または2個のCH基がNで置き換えられていてもよく、
b)ピペリジン-1,4-ジイル、1,4-ビシクロ[2.2.2]オクチレン、ナフタレン-2,6-ジイル、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル、フェナントレン-2,7-ジイル、フルオレン-2,7-ジイルの群からの基で、
但し、a)、b)およびc)の基は、ハロゲン原子によって、1または多置換されていてもよく、
L^(1)?L^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
bは、0、1または2を表す。)」(請求の範囲)

(7b)「【0011】
OCBモードおよびLCoS(商標)ディスプレイはマトリックスディスプレイとして動作される。マトリックス型液晶ディスプレイ(Matrix Liquid-Crystalディスプレイ、MLCディスプレイ)は公知である。個々のピクセルのそれぞれのスイッチングに使用することができる非線形素子は、例えばアクティブ素子(つまりトランジスター)である。この用語「アクティブマトリックス」は、2つの区別される型に分けられる。
【0012】
1.基板としてのシリコンウエハー上のMOS(Metal Oxide Semiconductor、金属酸化物半導体)または他のダイオード。
【0013】
2.基板としてのガラス板上の薄膜トランジスター(Thin-Film Transistor、TFT)。」
「【0017】
TFTマトリックスは、ディスプレイの1つのガラス板の内面に形成され、もう一方のガラス板は、内面に透明な対向電極を有する。ピクセル電極の大きさと比較して、TFTは非常に小さく、事実上、画像に対する悪影響はない。この技術は、フルカラー対応のディスプレイにも適用できる。このディスプレイでは、フィルター素子がスイッチング可能なピクセルの各々に対向するように、赤、緑および青フィルターのモザイクが配置される。」(4頁5?15行、同頁30行?5頁2行)

(7c)「【0056】
本発明の混合物は、特に、高速スイッチングモニター、TVセット、TV/モニター組合せ装置およびΔnの高いTFT分野に特に好適で、例えば、射影テレビセット、LCoSおよびOCBなどである。
【0057】
本発明の液晶混合物は、-20℃まで、好ましくは-30℃まで、特に好ましくは-40℃までネマチック相を保持しながら、60℃を超える、好ましくは70℃を超える、特に好ましくは75℃を越える透明点を可能にし、同時に4以上、好ましくは5以上の誘電異方性Δεおよび高い比抵抗が達成可能とされ、優れたSTNおよびMLCディスプレイが実現可能とされる。特に、この混合物は、低い電圧駆動によって特徴づけられる。」(19頁16?28行)

(7d)「【0066】
式Iの特に好ましい化合物は、式I-1?I-10の化合物である。
【0067】
【化11.1】
(構造式省略)
【0068】
【化11.2】
(構造式省略)
式中、R^(1)は、式Iで示された意味を有する。R^(1)は、好ましくは、アルキル、さらには、アルケニルを表す。
【0069】
これらの好ましい化合物のうち、式I-1、I-4、I-7およびI-10の化合物が特に好ましく、特に、I-1およびI-10である。
【0070】
下位の式I-1?I-10中のR^(1)は、好ましくは、C_(2)H_(5)、n-C_(3)H_(7)、n-C_(5)H_(11)、さらに、CH_(3)、n-C_(4)H_(9)、n-C_(6)H_(13)、n-C_(7)H_(15)、CH_(2)=CH、CH_(3)CH=CH、CH_(2)=CHCH_(2)CH_(2)またはCH_(3)CH=CHCH_(2)CH_(2)を表す。R^(1)は、非常に好ましくは、n-C_(3)H_(7)を表す。
【0071】
・媒体は、好ましくは、少なくとも1種類の以下の化合物を含む。
【0072】
【化12.1】
(構造式省略)
【0073】
【化12.2】
(構造式省略)
・媒体は、好ましくは、以下の化合物を含む。
【0074】
【化13】
(構造式省略)
式中、nは3または5である。
【0075】
nが3の化合物とnが5の化合物とを含む媒体のようなものが好ましい。」 (21頁16行?25頁11行)

(7e)「【0139】
・媒体は、式AN1?AN11の1種類または2種類以上の融合した環構造を有する化合物を更に含む。
【0140】
【化28.1】
(構造式省略)
【0141】
【化28.2】
(構造式省略)
式中、R^(0)は、上で示される意味を有する。本発明の混合物中における式AN1?AN11の化合物の割合は、好ましくは、1?20重量%である。」(43頁30行?45頁26行)

(7f)「【実施例】
【0184】
以下の例は、制限することなく、本発明を説明するものである。以上および以下において、パーセンテージは質量パーセントである。温度はすべて摂氏で示される。m.p.は融点を表わし、cl.p.は透明点を表わす。さらに、Cは結晶状態、Nはネマチック相、Sはスメクティック相、およびIはアイソトロピック相を表す。これらの記号間のデータは相転移温度を表す。Δnは光学異方性を表わし、n_(0)は屈折率を表す(589nm、20℃)。流動粘度ν_(20)(mm^(2)/sec)および回転粘度γ_(1)(mPa・s)は、それぞれ20℃で決定した。
【0185】
特に他に明記しない限り、用途中の全ての濃度は重量%で示されており、対応する混合物または混合物の成分に関する。全ての物理的特性は、「メルク液晶、液晶の物理的物性」(1997年刊11月、独国Merck KGaA社)に従って決定され、特に他に明記しない限り、20℃で行なう。Δnは589nmで、Δεは1kHzで決定される。
<I.混合物例>
<例M1>
【0186】
【表6】


「<例M17>
【0203】
【表23】

<例M18>
【0204】
【表24】



(3)先願明細書に記載された発明

ア 上記摘示事項(7f)によれば、甲7には、例M17として、「CC-3-Vを46%、CCGU-3-Fを10%、PPGU-V2-Fを4%含有し、そして、CC-3-V、CCGU-3-F、PPGU-V2-Fを合計60%含有する液晶媒体」が記載されているといえる。

イ 上記摘示事項(7f)によれば、甲7には、例M18として、「CC-3-Vを45%、CCGU-3-Fを10%、PPGU-V2-Fを3%含有し、そして、CC-3-V、CCGU-3-F、PPGU-V2-Fを合計58%含有し、Δε[1kHz,20℃]が7.1である液晶媒体」が記載されているといえる。

ウ 上記摘示事項(7c)の【0057】の記載からして、甲7の液晶媒体が、ネマチック液晶媒体であることは明らかである。

エ 上記摘示事項(7c)の【0056】によれば、甲7の液晶媒体は、「TFT分野に特に好適」に用いられるものであるといえる。

上記アないしエの検討事項より、甲7には、例M17として、
「CC-3-Vを46%、CCGU-3-Fを10%、PPGU-V2-Fを4%含有し、そして、CC-3-V、CCGU-3-F、PPGU-V2-Fを合計60%含有する、TFT分野に特に好適に用いられるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲7発明1」という。)、及び、例M18として、
「CC-3-Vを45%、CCGU-3-Fを10%、PPGU-V2-Fを3%含有し、そして、CC-3-V、CCGU-3-F、PPGU-V2-Fを合計58%含有し、Δε[1kHz,20℃]が7.1である、TFT分野に特に好適に用いられるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲7発明2」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・検討

(4-1)本件発明1について

本件発明1と甲7発明1、2とを対比する。
○甲7発明1、2の「ネマチック液晶媒体」は、本件発明1の「ネマチック液晶組成物」に相当する。

○甲7発明1、2の「CC-3-V」は、本件発明1の「構造式(1)で表される化合物(式省略)」に相当する。そして、甲7発明1、2では、CC-3-Vの含有量は「46%」、「47%」であるから、本件発明1の構造式(1)で表される化合物の含有量である「35?65%」とは、「46%又は47%」で重複する。

○甲7発明1、2の「CCGU-3-F」及び「PPGU-V2-F」と本件発明1の「一般式(2)で表される化合物(式省略)」とは、四環化合物である点で一致する。そして、甲7発明1、2のCCGU-3-FとPPGU-V2-Fの含有量は、合計で12%又は13%であるから、本件発明1の「一般式(2)で表される化合物(式省略)」の含有量である「10?30質量%」とは、「12質量%又は13質量%」で重複する。

○甲7発明1、2の「CC-3-V、CCGU-3-F、PPGU-V2-Fを合計58%」又は「60%含有」と本件発明1の「前記構造式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物を55?95%含有」とは、「前記構造式(1)で表される化合物及び四環化合物を58%又は60%含有」で重複する。

○上記摘示事項(7b)にも記載されているように、TFT(薄膜トランジスタ)がアクティブマトリックス型の一タイプであり、ディスプレイ(表示素子)用途で用いられるものであることは明らかであるから、甲7発明1、2の「TFT分野に特に好適に用いられる」は、本件発明1の「アクティブマトリックス型液晶表示素子用」に相当すると認められる。

上記より、本件発明1と甲7発明1、2とは、「第一成分として構造式(1)で表される化合物(式省略)を46%又は47%含有し、第二成分として四環化合物を12質量%又は13質量%含有し、
前記構造式(1)で表される化合物及び前記四環化合物を58%又は60%含有するアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

<相違点5-1>
四環化合物の構造及びその種類数が、本件発明1では、「一般式(2)
【化2】
(構造式省略)
(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基であり、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)は単結合を表し、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は単結合であり、
X^(1)、X^(3)はそれぞれ独立してH又はFであり、X^(2)はFである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物」であることが特定されているのに対し、甲7発明1、2では、「CCGU-3-F、PPGU-V2-F」である点。

<相違点5-2>
本件発明1では、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0」であることが特定されているのに対し、甲7発明1では斯かる事項が特定されておらず、また、甲7発明2では、Δε[1kHz,20℃]が7.1である点。

<相違点5-3>
本件発明1では、「(ただし、下記式の化合物 (式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式(式省略)で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。 」ことが特定されているのに対し、甲7発明1、2では、PPGU-V2-Fが含有されている点。

<相違点5-3>について
甲7発明1、2は、いずれもPPGU-V2-Fを含有するものであるところ、当該化合物は、本件発明1において、除かれている「下記式で表される1種以上の化合物を含む極性化合物混合物系液晶媒体
【化8】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているかまたは置換されていない1?15個の炭素原子を有するアルキルまたはアルコキシ基を表し、但し、加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-CF_(2)-O-、-OCF_(2)-、-CH=CH-、

-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
Xは、それぞれ互いに独立に、F、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCS、6個以下の炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基を表し、
L^(1)?L^(3)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表す。)」の「R^(1)が1個のCH_(2)基が-CH=CH-で置換されている炭素数3のアルキル基(炭素数4のアルケニル基)で、X、L^(1)がFで、L^(2)、L^(3)がHを表す。」場合に相当する。また、上記摘示事項(7a)を参照すれば、甲7の液晶媒体において、PPGU-V2-Fは必須成分でないことが理解されるから、これを他の成分に置換したもの、すなわち、当該成分を含まない液晶媒体も甲7に記載されていた範囲内といえるものの、その場合であっても、甲7発明1、2は、PPGU-V2-F以外の上記の甲7の液晶媒体における必須成分である「下記式で表される1種以上の化合物(式省略)」を含むことになるから、これを含まないことが特定されている本件発明1と、当該化合物を必ず含む甲7発明1、2又はそれと実質同等の液晶媒体とは、明らかな相違点を有するといえ、実質的に同一でない。

よって、本件発明1は、相違点5-1?5-2について検討するまでもなく、甲7発明1、2と実質同一でない。

(4-2)本件発明2、3について

本件発明2、3は、本件発明1を限定するものであるところ、本件発明1が甲7発明1、2と実質同一でないことは、上記(4-1)で検討済みである。
そして、それと同様の理由により、本件発明2、3も、甲7発明1、2と実質同一でない。

(5)無効理由2-2のまとめ

以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲7発明1、2と実質同一でないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

6.無効理由2-3について

(1)先願
甲8:特願2006-144861号(特開2006-328399号公報参照。)
(当審注:優先権主張の基礎となる欧州特許出願番号05011326号、欧州特許出願番号05022352号には、当該先願の【0122】以降の例27?例38が開示されていない。)

(2)先願明細書に記載の事項
(8a)「【請求項1】
液晶媒体であって、
-式I:
【化1】

で表される誘電的に中性の化合物を含む、誘電的に中性の成分である成分A、
および
-3より大の誘電異方性を有する1種または2種以上の誘電的に正の化合物を含む、誘電的に正の成分である成分B、
を含むこと、および、前記媒体中の成分Aの濃度が、20%?80%の範囲であることを特徴とする、前記液晶媒体。
【請求項2】
媒体中の成分Aの濃度が、25%?60%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶媒体。
【請求項3】
誘電的に正の成分である成分Bが、式IIおよびIII:
【化2】

式中、
R^(2)およびR^(3)は、互いに独立して、1?7個のC原子を有するアルキル、アルコキシ、フッ化アルキルまたはフッ化アルコキシ、2?7個のC原子を有するアルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルキルまたはフッ化アルケニルであり、
【化3】

は、互いに独立して、
【化4】

であり、
L^(21)、L^(22)、L^(31)およびL^(32)は、互いに独立して、HまたはFであり、
X^(2)およびX^(3)は、互いに独立して、ハロゲン、1?3個のC原子を有するハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ、または2もしくは3個のC原子を有するハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり、
Z^(3)は、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-COO-、トランス-CH=CH-、トランス-CF=CF-、-CH_(2)O-または単結合であり、そして
l、m、nおよびoは、互いに独立して、0または1である、
で表される化合物の群から選択される、1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の液晶媒体。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の液晶媒体を含むことを特徴とする、液晶ディスプレイ。
【請求項9】
アクティブマトリクスによってアドレスされることを特徴とする、請求項8に記載の液晶ディスプレイ。」

(8b)「【0057】
本発明による液晶媒体は、70℃以上、好ましくは75℃以上、そして特に80℃以上の透明点によって特徴付けられる。
本発明による液晶媒体の、589nm(NaD)および20℃におけるΔnは、好ましくは0.060以上?0.135以下の範囲、より好ましくは0.070以上?0.125以下の範囲、そして最も好ましくは0.080以上?0.120以下の範囲である。
【0058】
本発明による液晶媒体の、1kHzおよび20℃におけるΔεは、4.0以上である。
好ましくは本発明の媒体のネマチック相は、少なくとも0℃以下から70℃以上まで、より好ましくは少なくとも-20℃以下から70℃以上、最も好ましくは少なくとも-30℃以下から75℃以上、そして特に、少なくとも-40℃以下から75℃以上まで広がっている。
【0059】
本発明の第1の好ましい態様において、液晶媒体のΔnは、0.090以上?0.125以下の範囲、より好ましくは0.095以上?0.120以下の範囲、そして最も好ましくは0.100以上?0.115以下の範囲であり、一方Δεは、好ましくは4.0以上?7.0以下の範囲である。
本発明の第2の好ましい態様において、液晶媒体のΔnは、0.085以上?0.130以下の範囲、より好ましくは0.090以上?0.125以下の範囲、そして最も好ましくは0.095以上?0.120以下の範囲であり、一方Δεは、好ましくは6.0以上、より好ましくは7.0以上、さらにより好ましくは8.0以上、そして最も好ましくは8.0以上?10.0以下の範囲である。
【0060】
この態様において、好ましくは本発明の媒体のネマチック相は、少なくとも-20℃以下から70℃以上まで、より好ましくは少なくとも-20℃以下から70℃以上、最も好ましくは少なくとも-30℃以下から70℃以上、そして特に、少なくとも-40℃以下から70℃以上まで広がっている。
【0061】
本発明の第3の好ましい態様において、液晶媒体のΔnは、0.070以上?0.120以下の範囲、より好ましくは0.075以上?0.115以下の範囲、そして最も好ましくは0.080以上?0.110以下の範囲であり、一方Δεは、好ましくは4.0以上、より好ましくは4.0以上?14.0以下の範囲、そして最も好ましくは4.0以上?6.0以下の範囲であるか、または特に好ましくは6.0以上?11.0以下の範囲である。
【0062】
この態様において、好ましくは本発明の媒体のネマチック相は、少なくとも-20℃以下から75℃以上まで、より好ましくは少なくとも-30℃以下から70℃以上、最も好ましくは少なくとも-30℃以下から75℃以上、そして特に、少なくとも-30℃以下から80℃以上まで広がっている。」

(8c)「【0062】
・・・
成分Aは好ましくは、混合物全体に対して29%?65%の濃度で、より好ましくは33%?59%の濃度で、より好ましくは36%?47%の濃度で、そして最も好ましくは39%?44%の濃度で用いられる。
【0063】
成分Bは好ましくは、混合物全体に対して10%?60%の濃度で、より好ましくは15%?55%の濃度で、より好ましくは20%?50%の濃度で、そして最も好ましくは25%?45%の濃度で用いられる。」

(8d)「【0104】
例9
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表14】

この混合物は、有利なΔn値、高いΔε値、および非常に低い回転粘度を有する。従ってこれは、例えばTNモードで作動するモニター用途のディスプレイに非常によく適している。
【0105】
例10
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表15】

この混合物は、有利なΔn値、高いΔε値、および低い回転粘度を有する。従ってこれは、例えばTNモードで作動するモニター用途のディスプレイに非常によく適している。
【0106】
例11
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表16】

この混合物は、有利なΔn値、高いΔε値、および低い回転粘度を有する。従ってこれは、例えばTNモードで作動するモニター用途のディスプレイに非常によく適している。
【0107】
例12
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表17】

この混合物は、有利なΔn値、高いΔε値、および低い回転粘度を有する。従ってこれは、例えばTNモードで作動するモニター用途のディスプレイに非常によく適している。」
「【0109】
例14
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表19】

この混合物は、有利なΔn値、高いΔε値、および低い回転粘度を有する。従ってこれは、TNモードで作動するディスプレイに非常によく適している
【0110】
例15
次の表に与えられた組成と特性を有する液晶混合物を作製する。
【表20】

この混合物は、有利なΔn値、高いΔε値、および低い回転粘度を有する。従ってこれは、TNモードで作動するディスプレイに非常によく適している。」

(3)先願明細書に記載された発明

ア 上記摘示事項(8a)の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3によれば、甲8には、「液晶媒体であって、
-式I:(式省略)で表される誘電的に中性の化合物を含む、誘電的に中性の成分である成分A、
および
-式IIおよびIII:(式省略)で表される化合物の群から選択される、3より大の誘電異方性を有する1種または2種以上の誘電的に正の化合物を含む、誘電的に正の成分である成分B、
を含むこと、および、前記媒体中の成分Aの濃度が、25%?60%の範囲である液晶媒体」が記載されているといえる。

イ 上記摘示事項(8b)の【0058】によれば、甲8の液晶媒体は、「1kHzおよび20℃におけるΔεは、4.0以上」であるといえる。

ウ 上記摘示事項(8c)の【0063】によれば、液晶媒体中の成分Bの濃度は、10%?60%の範囲であるといえる。

エ 上記摘示事項(8d)の例9によれば、甲8には、「CC-3-Vを50%、APUQU-2-Fを10%、APUQU-3-Fを10%含有する、Δε(20℃、1kHz)が5.0である液晶媒体」が記載されているといえる。

オ 上記摘示事項(8d)の例10によれば、甲8には、「CC-3-Vを45%、APUQU-2-Fを10%、APUQU-3-Fを10%含有する、Δε(20℃、1kHz)が5.0である液晶媒体」が記載されているといえる。

カ 上記摘示事項(8d)の例11によれば、甲8には、「CC-3-Vを52%、APUQU-2-Fを10%、APUQU-3-Fを10%含有する、Δε(20℃、1kHz)が5.1である液晶媒体」が記載されているといえる。

キ 上記摘示事項(8d)の例12によれば、甲8には、「CC-3-Vを56%、APUQU-2-Fを12%、APUQU-3-Fを12%含有する、Δε(20℃、1kHz)が6.3である液晶媒体」が記載されているといえる。

ク 上記摘示事項(8b)の【0062】等によれば、甲8の液晶媒体は、ネマチック液晶媒体であるといえる。

ケ 上記摘示事項(8a)の請求項8、9を参照すると、甲8の液晶媒体は、アクティブマトリクスによってアドレスされる液晶ディスプレイに含まれるものであることが理解される。

上記ア、イ、ク、ケの検討事項より、甲8には、
「液晶媒体であって、
-式I:(式省略)で表される誘電的に中性の化合物を含む、誘電的に中性の成分である成分A、
および
-式IIおよびIII:(式省略)で表される化合物の群から選択される、3より大の誘電異方性を有する1種または2種以上の誘電的に正の化合物を含む、誘電的に正の成分である成分B、
を含むこと、前記媒体中の成分Aの濃度が、25%?60%の範囲であり、および、前記媒体中の成分Bの濃度が、10%?60%の範囲であり、1kHzおよび20℃におけるΔεは、4.0以上である、アクティブマトリクスによってアドレスされる液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲8発明1」という。)が記載されていると認められる。

上記イ、エないしクの検討事項より、甲8には、例9として、
「CC-3-Vを50%、APUQU-2-Fを10%、APUQU-3-Fを10%含有する、Δε(20℃、1kHz)が5.0であるアクティブマトリクスによってアドレスされる液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲8発明2-1」という。)、例10として、
「CC-3-Vを45%、APUQU-2-Fを10%、APUQU-3-Fを10%含有する、Δε(20℃、1kHz)が5.0であるアクティブマトリクスによってアドレスされる液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲8発明2-2」という。)、例11として、
「CC-3-Vを52%、APUQU-2-Fを10%、APUQU-3-Fを10%含有する、Δε(20℃、1kHz)が5.1であるアクティブマトリクスによってアドレスされる液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲8発明2-3」という。)、例12として、
「CC-3-Vを56%、APUQU-2-Fを12%、APUQU-3-Fを12%含有する、Δε(20℃、1kHz)が6.3であるアクティブマトリクスによってアドレスされる液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体。」(以下、「甲8発明2-4」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・判断

(4-1)甲8発明1を主発明とした場合

(4-1-1)本件発明1について

本件発明1と甲8発明1とを対比する。
○甲8発明1の「アドレスされる液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体」は、本件発明1の「アクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物」に相当する。

○甲8発明1の「式I:(式省略)で表される誘電的に中性の化合物」は、本件発明1の「構造式(1)で表される化合物(式省略)」に相当する。

○甲8発明1の「式IIおよびIII:(式省略)で表される化合物」は、l=m=0、n=o=0であるときは2環化合物であり、l=m=1、n=o=1であるときは四環化合物であり、いずれにしろ、多環化合物であるから、本件発明1の「一般式(2)で表される化合物(式省略)」とは、「多環化合物」である点で一致する。

上記より、本件発明1と甲8発明1とは、「第一成分として構造式(1)で表される化合物(式省略)を含有し、第二成分として、多環化合物を含有するアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

<相違点6-1>
多環化合物が、本件発明1では、「一般式(2)
【化2】
(構造式省略)
(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基であり、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)は単結合を表し、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は単結合であり、
X^(1)、X^(3)はそれぞれ独立してH又はFであり、X^(2)はFである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を10?30質量%含有」することが特定されているのに対し、甲8発明1では、「式IIおよびIII:
【化2】

式中、
R^(2)およびR^(3)は、互いに独立して、1?7個のC原子を有するアルキル、アルコキシ、フッ化アルキルまたはフッ化アルコキシ、2?7個のC原子を有するアルケニル、アルケニルオキシ、アルコキシアルキルまたはフッ化アルケニルであり、
【化3】

は、互いに独立して、
【化4】

であり、
L^(21)、L^(22)、L^(31)およびL^(32)は、互いに独立して、HまたはFであり、
X^(2)およびX^(3)は、互いに独立して、ハロゲン、1?3個のC原子を有するハロゲン化アルキルもしくはアルコキシ、または2もしくは3個のC原子を有するハロゲン化アルケニルもしくはアルケニルオキシであり、
Z^(3)は、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-COO-、トランス-CH=CH-、トランス-CF=CF-、-CH_(2)O-または単結合であり、そして
l、m、nおよびoは、互いに独立して、0または1である、
で表される化合物の群から選択される、1種または2種以上の化合物」を「10%?60%」含有するとの特定に留まる点。

<相違点6-2>
本件発明1では、構造式(1)で表される化合物を「35?65%含有」し、かつ、構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を「55?95%含有」することが特定されているのに対し、甲8発明1では、構造式(1)で表される化合物を「25%?60%」含有することは特定されているものの、構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を「55?95%含有」することは、特定されていない点。

<相違点6-3>
本件発明1では、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0」であることが特定されているのに対し、甲8発明1では、「1kHzおよび20℃におけるΔεは、4.0以上」である点。

<相違点6-4>
本件発明1では、「(ただし、下記式の化合物 (式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式(式省略)で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。 」ことが特定されているのに対し、甲8発明1では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点6-1>について
甲8発明1の式IIおよびIIIにおいて、l=m=1、n=o=1である場合、これらの化合物は、四環化合物である。ここで、例えば、上記摘示事項(8d)の例9?12、14によれば、甲8発明1の具体的態様で、APUQU-2-F、APUQU-3-Fの2成分、又はこれらとCCGU-3-Fの3成分が含有されているが、APUQU-n-Fは、式IIにおいてl=m=1である四環化合物に相当し、CCGU-3-Fは、式IIIにおいてn=o=1、Z^(3)=単結合である四環化合物に相当することからして、甲8発明1の式IIおよびIIIに表される化合物は、四環化合物である場合、及び四環化合物である場合の式IIおよびIIIに表される化合物を2種以上含有する場合を、文言上のみならず実体上も包含していることが分かる。そして、

が、

であり、さらに、R^(2)およびR^(3)が、1?7個のC原子を有するアルキルであり、X^(2)およびX^(3)がハロゲン(F)であるとき、甲8発明1の式IIおよびIIIで表される化合物は、本件発明1の一般式(2)で表される化合物と一致することになる。
しかしながら、甲8発明1の具体的態様で、本件発明1の一般式(2)で表される化合物に実際含まれるのは、CCGU-3-Fのみであり、甲8発明1は、本件発明1の一般式(2)で表される化合物を2種以上配合することを実体上包含しているとまではいえない。
さらに、その含有量については、甲8発明1の式IIおよびIIIに表される化合物は文言上10%?60%含まれることが特定されているが、この式IIおよびIIIに表される化合物は、2環から4環の化合物を含み、その環構造も本件発明1の一般式(2)で表される化合物の環構造以外の環に酸素原子を含む構造が含まれるなど、広範な化合物を含むものであるところ、10%?60%の含有量とは、これら甲8発明1の式IIおよびIIIに表される化合物に包含されるこれら広範な化合物の合計量となるものである。そして、甲8には、甲8発明1の式IIおよびIIIに表される化合物の内、本件発明1の一般式(2)で表される化合物に対応する、4環であり、さらに環構造も限定される一形態につき、その含有量は、何ら特定されていない。ここで、実施例を参照しても、CCGU-3-Fの含有量は、最大でも9.0%(摘示事項(8d)の例15)であり、10%以上とはならないから、甲8発明1は、本件発明1の一般式(2)で表される化合物を10?30質量%含有することを実体上包含しているとはいえない。
したがって、相違点6-1は、実質的な相違点となるものである。

<相違点6-2>について
甲8発明1では、本件発明1の構造式(1)で表される化合物を「25%?60%」含有することが特定され、実際、実施例でもCC-3-Vを56.0%(摘示事項(8d)の例12)含有することが記載されている。
しかしながら、相違点6-1での検討において述べたように、甲8には、本件発明1の一般式(2)で表される化合物に対応する含有量は、何ら特定されていないから、甲8では、構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の合計量に関する含有量の範囲等は、何ら特定されていないこととなる。ここで、甲8の実施例を参照しても、本件発明1の構造式(1)で表されるCC-3-Vと一般式(2)で表される化合物に含まれるCCGU-3-Fの合計量は、最大でも51.0%(摘示事項(8d)の例15)であり、55%以上となっている実施例はないから、甲8発明1は、本件発明1の構造式(1)で表される化合物を「35?65%含有」し、かつ、構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を「55?95%含有」することを実体上包含しているとはいえない。
したがって、相違点6-1に加えて相違点6-2も、実質的な相違点となるものである。

よって、本件発明1は、相違点6-3?6-4について検討するまでもなく、甲8発明1と実質同一でない。

(4-1-2)本件発明3について

本件発明3は、本件発明1を限定するものであるところ、本件発明1が甲8発明1と実質同一でないことは、上記(4-1-1)で検討済みである。
そして、それと同様の理由により、本件発明3も、甲8発明1と実質同一でない。

(4-2)甲8発明2-1?4を主発明とした場合

(4-2-1)本件発明1について

本件発明1と甲8発明2-1?4とを対比する。
○甲8発明2-1?4の「アクティブマトリクスによってアドレスされる液晶ディスプレイに含まれるネマチック液晶媒体」は、本件発明1の「アクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物」に相当する。

○甲8発明2-1?4の「CC-3-Vを50%、45%、52%又は56%」と、本件発明1の「構造式(1)で表される化合物(式省略)を35?65%」とは、「構造式(1)で表される化合物(式省略)を50%、45%、52%又は56%」である点で重複する。

○甲8発明2-1?4におけるAPUQU-2-F、APUQU-3-Fはいずれも四環化合物であるから、甲8発明2-1?4のそれぞれ「APUQU-2-Fを10%、APUQU-3-Fを10%」、「APUQU-2-Fを10%、APUQU-3-Fを10%」、「APUQU-2-Fを10%、APUQU-3-Fを10%」、「APUQU-2-Fを12%、APUQU-3-Fを12%」と、本件発明1の「一般式(2)で表される化合物(式省略)群から選択される2種以上の化合物を10?30質量%」とは、「2種の四環化合物を20質量%又は24質量%」である点で一致する。

○甲8発明2-1?4では、CC-3-Vと四環化合物(APUQU-2-F、APUQU-3-F)が合計で70%、65%、72%又は80%含有されているから、本件発明1の「構造式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物を55?95%含有」とは、「構造式(1)で表される化合物及び四環化合物を70%、65%、72%又は80%含有」する点で重複する。

○上記摘示事項(8d)の例9?12によれば、甲8発明2-1?4も、「(ただし、下記式の化合物 (式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式(式省略)で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。 」ものである点で、本件発明1と一致する。

上記より、本件発明1と甲8発明2-1?4とは、
「第一成分として構造式(1)で表される化合物(式省略)を50%、45%、52%又は56%含有し、第二成分として、2種の四環化合物を20質量%又は24質量%含有し、
構造式(1)で表される化合物及び四環化合物を70%、65%、72%又は80%含有する、アクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物(ただし、下記式の化合物(式省略)を1種以上含む、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式(式省略)で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

<相違点6-5>
四環化合物の構造及びその種類数が、本件発明1では、「一般式(2)
【化2】
(構造式省略)
(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基であり、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)は単結合を表し、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は単結合であり、
X^(1)、X^(3)はそれぞれ独立してH又はFであり、X^(2)はFである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物」であることが特定されているのに対し、甲8発明2-1?4では、「APUQU-2-F」及び「APUQU-3-F」である点。

<相違点6-6>
本件発明1では、「25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0」であるのに対し、甲8発明2-1?4では、「Δε(20℃、1kHz)が5.0、5.1又は6.3」である点。

<相違点6-5>について
甲8発明2-1?4において、APUQU-n(2又は3)-Fは、本件発明1の一般式(2)と比較して、R^(1)が炭素数n(2又は3)のアルキル基、B^(2)が1,4-フェニレン基、B^(3)がハロゲンで置換された1,4-フェニレン基、L^(1)、L^(2)、Q^(1)がいずれも単結合、L^(3)が-CF_(2)O-、X^(1)、X^(2)、X^(3)がいずれもFである点で一致するものの、B^(1)に対応する“A”が「(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く」との要件を満たさない点で、本件発明1の一般式(2)で表される化合物と相違するものである。
ここで、甲8発明2は、摘示事項(8d)で示した具体的な組成の液晶媒体例に基づくものであり、甲8発明2-1?4のAPUQU-n-Fは、上記摘示事項(8a)における式IIで表される化合物の一形態であるところ、甲8における具体的な組成の液晶媒体は、甲8での所望の目的のために摘示事項(8a)における式IIで表される化合物の中から意図的に選択された成分と見ることができ、この意図的に選択された成分(APUQU-n-F)を見て、当業者であっても、この成分を同じく摘示事項(8a)における式IIで表される化合物により置換したものが記載されているに等しいと認識することができるとはいえない。
しかも、本件発明1の一般式(2)で表される化合物を認識した上でAPUQU-n-Fを見れば、式II中の上記“A”が位置する環A^(23)を

ではなく、

を選択した化合物であれば、本件発明1の一般式(2)で表されるものとなることがわかる。しかしながら、摘示事項(8a)における式IIで表される化合物は、2環から4環まで、及びその環構造においても広範な化合物を含むものであり、APUQU-n-Fと同じく式IIで表される化合物に含まれているからといって、本願発明1の一般式(2)で表される化合物の認識がない前提のもとでAPUQU-n-Fを見て、甲8に、APUQU-n-Fを上記の選択した化合物により置換したものが記載されているに等しいと、当業者が認識することができるとはいえない。

したがって、相違点6-5は、実質的な相違点となるものである。

よって、本件発明1は、相違点6-6について検討するまでもなく、甲8発明2と実質同一でない。

(4-2-2)本件発明3について

本件発明3は、本件発明1を限定するものであるところ、本件発明1が甲8発明2と実質同一でないことは、上記(4-1-1)で検討済みである。
そして、それと同様の理由により、本件発明3も、甲8発明1と実質同一でない。

(5)無効理由2-3のまとめ

以上のとおり、本件発明1、3は、甲8発明1、2と実質同一でないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものではなく、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明発明についての特許は、同法同条に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものでない。

6.無効理由3について

(1)特許法第36条第6項第1号又は同条第4項第1号の規定について

(1-1)本件発明が解決しようとする課題について

本件特許明細書の【0009】等を参照すると、本件発明が解決しようとする課題は、「液晶相温度範囲が広く、粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供」することにあるものと認められる。

(1-2)第二成分、第三成分について

本件特許明細書の【0010】?【0012】に、「上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第一成分として構造式(1)で表される化合物(式省略)を35?65%含有し、第二成分として一般式(2)で表される化合物(式省略)群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有する・・アクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物・・を提供」することが記載されており、本件発明は、構造式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との組合せによって、上記課題を解決することが理解される。
また、【0020】?【0021】には、「一般式(2)の具体的な構造として以下の化合物が好ましい。
【化4】

(式中R^(1)はそれぞれ独立して、炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基を表す。)」ことが記載され、また、【0022】には、「組成物の物性値を調整し、さらに低粘性化、低電圧化を達成させるために第三成分として、一般式(3)で表される化合物(式省略)群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物含有することが好ましい」ことが記載されている。
そして、実施例として、【0037】【表1】には、本件特許の要件を満足する3つのネマチック液晶組成物(No.1)?(No.3)が開示されているが、上記「1.無効理由1-1について」の(4-1)の「<本件発明1の効果>について」で検討したように、これらでは、上記課題が解決されていると認められる。そして、これらのネマチック液晶組成物(No.1)?(No.3)は、一般式(2)で表される化合物として、一般式(2-1)で表される化合物のみが用いられ、かつ、一般式(3)で表される化合物が併用されている点で共通する。すなわち、構造式(1)で表される化合物と共に、一般式(2-1)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物を併用した場合に、上記課題が解決し得ることが具体的に確認されているものの、それ以外の場合にまで上記課題が解決し得るかについての十分な証拠が、本件特許明細書に開示がされているとまではただちにいうことができない。
そこで、まず、一般式(2-1)以外の一般式(2)で表される化合物であっても上記課題が解決するかについて検討すると、被請求人は、口頭審理陳述要領書5頁において、『四環液晶化合物のT_(N-I)が高いことは液晶分野の当業者に知られていたことであるから(乙第2号証)、2-Cy-Cy-Ph-Ph1-F、3-Cy-Cy-Ph-Ph1-F、4-Cy-Cy-Ph-Ph1-Fを含有する実施例1?3の液晶組成物の「特性は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))、・・・所望の値を示した。」(【0038】)という記載に接した当業者は、2-Cy-Cy-Ph-Ph1-F、3-Cy-Cy-Ph-Ph1-F、4-Cy-Cy-Ph-Ph1-F以外の一般式(2)で表される化合物を用いた場合でも、0d1-Cy-Cy-3と組み合わせて技術常識に従い適宜組成を調整して所望のT_(N-I)とすることができる』旨主張している。そして、乙第2号証には、312頁右欄に「ベンゼン環は1,4-位で連結され,環の数が増えると棒状分子の長さが長くなり,液晶相の熱安定性が高くなる.ビフェニル系液晶のN-I転移温度は35℃であり,同じ末端基をもち,ベンゼン環が一つ多いテルフェニル系液晶のN-I転移温度は240℃である.ベンゼン環が一つ増え,二環から三環になると,N-I転移温度が205℃高くなる」ことが、313頁右欄に「液晶骨格中のシクロヘキサン環の数が増えても,ベンゼン環同様に液晶相の熱安定性は顕著に高くなる.ビフェニル系液晶からシクロヘキサン環が一つ増えた三環のビフェニルシクロヘキサン系液晶のN-I転移温度は,」当該ビフェニル系液晶「のN-I転移温度より,187℃高い」ことが記載されており、シクロヘキシレン基やフェニレン基を多数有する四環液晶化合物であれば、「T_(N-I)が高いことは液晶分野の当業者に知られていたこと」といえることが理解される。
そうすると、実施例で用いられ、課題を解決することが確認されている液晶組成物では、常に一般式(2-1)で表される化合物のみが用いられているとしても、当業者であれば、その他の四環化合物であっても、すなわち、一般式(2)の要件を満たす化合物であれば、上記課題を解決し得ると推察する技術的根拠があるといえる。

なお、被請求人は、平成28年10月19日付け上申書で添付した乙第4号証の10頁で、追加実験例1?3を示し、一般式(2-2)、(2-6)で表される化合物を用いても良好な結果が得られることを示している。
これに対して、請求人は、平成28年11月2日付け上申書の6頁で、判決を引用し、「後出しの実験データが認められない」旨主張する。しかしながら、請求人が引用した平成17年(行ケ)第10042号審決取消請求事件の判決で、「発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに」と記載されているように、「発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示」しない場合であって、かつ、当該「具体例を開示」していない事項が「本件出願時の当業者の技術常識」でもない場合に、(当初明細書の不足部分を)追加実験例によって補足することは許されないとしても、本件における当該論点には、上述した技術常識が存在し、上記実験例1?3は、それを裏付けるために示されたものであるから、請求人の主張する上記の判決が述べている場合に該当するとはいえない。

次に、一般式(3)で表される化合物が任意成分であるかについて検討すると、本件特許明細書の【0022】には、一般式(3)で表される化合物が、「組成物の物性値を調整し、さらに低粘性化、低電圧化を達成させるために」含有させることが好ましい任意成分であることが記載されていたところ、被請求人は、口頭審理陳述要領書の4?5頁で、『1-フルオロ-2-(3,4,5-トリフルオロフェニル)-6-プロピルナフタレンをはじめとする一般式(I)で表されるフッ素置換-2-フェニルナフタレン誘導体が「低粘度で応答性に優れ、屈折率が大きく、かつ広いネマチック相温度範囲と,低い閾値電圧とを兼ね備えた液晶組成物を得る上において、従来の化合物より優れた効果を有していること」は本件特許の出願時の当業者に知られていたことです(特開2000-63305号公報(乙第1号証)・・・』旨主張している。
そして、この主張によれば、第二成分として一般式(2)で表される化合物が広く適用でき、また、第三成分がさらなる低粘性化、低電圧化を達成するための任意成分であることは明らかであるし、請求人の他のいずれの主張を参照しても、それを覆すに足る事由を見出せない。
なお、被請求人は、平成28年10月19日付け上申書に添付した乙第4号証の10頁で、追加実験例3を示し、一般式(3)で表される化合物を用いなくても良好な結果が得られることを示しているところ、この場合も、請求人の主張する上記の判決が述べている場合に該当するものとはいえない。

(1-3)第一成分の下限値、第二成分の種類数について

本件特許明細書の【0037】【表1】と【0040】【表2】を比較すると、本件発明の構造式(1)で表される化合物(0d1-Cy-Cy-3)の含有量と回転粘度γ_(1)との間にある程度の相間関係があることが見て取れる(なお、例えば、No.1とNo.3で、0d1-Cy-Cy-3の含有量はNo.3の方が多いが、回転粘度は低くなっていないように、液晶組成物の低粘性は、構造式(1)で表される化合物の含有量のみによって決まるものではないことも分かる。)。そして、審判請求書の91頁表1によると、0d1-Cy-Cy-3の含有量を25%から54%に増加させていくと、回転粘度γ_(1)は連続的に減少し、35%付近に変曲点がなかったことが示されている。
しかしながら、本件特許明細書の【0004】に、「低粘性液晶組成物は、Δn値の小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる。しかし、これらの化合物はスメクチック性が高く、ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合、ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり、広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった。」と記載され、また、【0006】に、「一方、四環化合物を使用して液晶温度範囲を調整した液晶組成物も既に知られてられており、好ましい化合物の具体例が開示されている(特許文献5)。しかしながら、この組成物も高速応答に対応できるほど粘性が十分に低いものではなかった。」ことが記載され、そして、【0009】に、「本発明が解決しようとする課題は、液晶相温度範囲が広く、粘性が低いアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること」と記載されているように、本件発明は、含有量を増やせば低粘性が得られるが、ネマチック相温度範囲を広くすることが困難であることが知られるビシクロヘキサン誘導体と、液晶温度範囲を調整するために用いられるが、粘性が十分に低いものとすることができていなかった四環化合物とを併用することで、液晶相温度範囲が広く、粘性が低い液晶組成物を得ようとするものと理解され、少なくとも、低粘性の変曲点を見出すことを課題とする発明でない。そして、構造式(1)で表される化合物の含有量を40%以上とすれば、(その他の成分や比率にもよるとして、)必要な粘度が得られ、30%では得られないことが具体的に確認されているのであるから、構造式(1)で表される化合物の下限値を35%とすることは、上記課題との関係で意味を有するものと認められる。
また、審判請求書の92頁表2で、含有させる第二成分の種類数を1種、2種、3種と変えても、作用効果(課題解決)に影響がないことが示されているが、そもそも、本件特許の当初明細書では、第二成分は、「1種または2種以上」であれば良いとされていたところ、「2種以上」と発明特定事項をさらに限定するものであるから、上記課題を解決する範囲に発明が限定されていることは明らかであり、上記課題との関係で直接的な意味が認められないとして、そのことをもって、特許法第36条第6項第1号又は同条第4項第1号の規定に反することとはならない(単に、この点で、有利な効果が認められないというだけである。)。

(1-4)実施例の有無について

本件発明1は、「下記式の化合物
【化6】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-COで置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化7】

の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-C=C-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)を1種以上含むことを特徴とする、化合物の混合物に基づく正の誘電率異方性を有する液晶媒体」であるものを含まないことが特定されている。
そして、上記化合物が、「Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-」と「mは、0」との要件を同時に満たす場合にどのような化合物が許容されるかについて検討すると、m=0の場合、Z^(1)は存在しないことから、Z^(2)が「基-CF=CF-」でなくては、化合物中に「基-CF=CF-」が存在しないこととなるので、「Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-」を必須要件とする化合物において、m=0の場合は、Z^(2)が「基-CF=CF-」となると理解するのが自然である。また、当該訂正事項は、訂正請求書の10、11頁を参照すると、「国際公開された(国際公開第2006/133783号。甲第6号証)・・・に記載された液晶組成物を除くものである」ことが理解されるところ、甲6を参照しても、m=0の場合は、Z^(2)が「基-CF=CF-」となると解するのが妥当である。
請求人は、弁駁書2の6頁1行?4行で、『式【化4】の化合物における式の定義規定によれば、「Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-」のうち、「基-CF=CF-」を必須要件とする旨の記載はされていないから、「基-CF=CF-」を必須要件であるとすることはできない』旨主張するが、「Z^(1)及びZ^(2)からの少なくとも一方の基は基-CF=CF-」との規定がある以上、「基-CF=CF-」が必須成分であると解するのが自然である。
また、請求人は、弁駁書2の6頁下から8行?7頁5行で、『本件訂正後の特許請求の範囲の記載の解釈を、訂正の原因に求め、これを参酌して、「Z^(1)及びZ^(2)からの少なくとも一方の基は、「基-CF=CF-」を「必須要件とする化合物」であると認定していることになる。・・・
しかし、訂正後の本件発明が特許法第36条第6項、ないし第4項の要件を充足するか否かは、訂正の原因を参酌することはできず、本件訂正後の特許請求の範囲の記載及び本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて判断されるべきである』旨主張している。
しかしながら、上述したように本件訂正後の特許請求の範囲の記載だけからでも、本件発明の除外されている【化4】の化合物で、m=0の場合は、Z^(2)が「基-CF=CF-」となる(基「-CF=CF-」が必須要件である)と認定できるのであり、本件特許明細書の実施例で用いられている液晶組成物No.1?No.3に配合されている「3-Ph-T-Ph-1」、「0d3-Ph-T-Ph-3d0」は、上記除外された化合物に包含されるものでないから、本件発明1の液晶組成物から、上記化合物を含む液晶組成物が除かれたとしても、それによって、実施例がなくなることはない。
したがって、実施例の不存在を根拠とする請求人の主張は、採用できない。

(2)特許法第36条第6項第2号の規定について

本件の請求項1では、誘電率異方性Δεの値が発明特定事項とされているが、本件特許明細書及び本件特許請求の範囲には、誘電率異方性Δεの測定条件が開示されていない。
ここで、答弁書27頁の「Δεの値は、常法(通常日本電子機械工業会規格EIAJ・ED-2521A)にしたがって測定するというのが本件特許出願時の当業者の技術常識である。」との記載、及び、被請求人の口頭審理陳述要領書5?6頁の『乙第3号証(当審注:JEITA・ED-2521B。日本電子機械工業会規格EIAJ・ED-2521Aが2009年3月に改正されたもの。)には、液晶材料の比誘電率測定方法として、「(1)平行板パネルを用いる場合」、「(2)静磁場及び平行板パネルを用いる場合」及び「(3)交流インピーダンス測定器を用いる場合」が記載されているが・・・。
そうすると、本件特許の出願時、液晶材料の比誘電率測定方法として、「(1)平行板パネルを用いる場合」、「(2)静磁場及び平行板パネルを用いる場合」及び「(3)交流インピーダンス測定器を用いる場合」が当業者に技術常識であったといえる。
そして、この三つの場合は、液晶の配向のさせ方が異なる(「(1)平行板パネルを用いる場合」及び「(3)交流インピーダンス測定器を用いる場合」は「配向パネル」、「(2)静磁場及び平行板パネルを用いる場合」は「静磁場」、が用いられる)ものの、いずれも、「液晶の交流電気信号に対する・・・液晶材料の比誘電率(ε)はC/Cairの値となる。」という理論に基づき、配向した液晶の「静電容量を測定」する方法であるので、技術常識を有する当業者が普通に測定すれば、その比誘電率(ε)の値は、上記方法のいかんを問わず当然一致する。
さらに、「(1)平行板パネルを用いる場合」、「(2)静磁場及び平行板パネルを用いる場合」及び「(3)交流インピーダンス測定器を用いる場合」のいずれかの測定方法で測定してもε_(||)及びε_(⊥)の値は一致するので、測定方法がいずれであっても、Δεの値も当然に一致する。』との記載によれば、誘電率異方性Δεの測定条件は、本件特許の出願時に規格化がされていたこと、及び、当該規格には3つの異なる測定条件が含まれているが、いずれの測定条件で測定してもΔεの値は一致することが当業者の技術常識であったものと理解される。
とするならば、本件の請求項1において、誘電率異方性Δεの測定条件が不明であったとしても、上記当業者の技術常識に照らして「誘電率異方性Δεが2.5?7.0である」との発明特定事項は当業者にとって明確であるといえる。

(3)無効理由3のまとめ

以上のとおり、請求人が主張するいずれの理由によっても、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に記載する要件を満たしており、また、本件の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているので、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、同法同条第4項第1号又は第6項に違反して特許されたものでないから、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきものでない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1?3に係る発明についての特許に対する本件無効審判請求は、成り立たない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分として構造式(1)、
【化1】

で表される化合物を35?65%含有し、第二成分として一般式(2)
【化2】

(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基であり、
B^(1)、B^(2)、B^(3)はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロヘキシレン基
(b) 1,4-フェニレン基からなる群より選ばれる基であり、上記の基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)は単結合を表し、L^(2)、L^(3)はそれぞれ独立的に単結合、-CH_(2)CH_(2)-又は-CF_(2)O-を表し、
Q^(1)は単結合であり、
X^(1)、X^(3)はそれぞれ独立してH又はFであり、X^(2)はFである。)で表される化合物群から選ばれる2種以上の化合物を10?30質量%含有し、
前記構造式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物を55?95%含有し、
25℃における誘電率異方性(Δε)が2.5?7.0であることを特徴とするアクティブマトリックス型液晶表示素子用ネマチック液晶組成物(ただし、下記式の化合物
【化4】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-CH=CH-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
環Aは、以下の式:
【化5】

の左または右を向いている環構造を表し、
Z^(1)、Z^(2)は、単結合、-C≡C-、-CF=CF-、-CH=CH-、-CF_(2)O-または-CH_(2)CH_(2)-を表し、ただし、Z^(1)およびZ^(2)からの少なくとも一方の基は、基-CF=CF-を表し、
Xは、F、Cl、CN、SF_(5)またはハロゲン化されているか無置換で1?15個の炭素原子を有しているアルキルまたはアルコキシ基を表し、ただし加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないように、-C≡C-、-CH=CH-、-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
L^(1)、L^(2)、L^(3)、L^(4)、L^(5)およびL^(6)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表し、および
mは、0または1を表す。)を1種類以上含むことを特徴とする、化合物の混合物に基づく正の誘電異方性を有する液晶媒体、並びに、
下記式で表される1種以上の化合物を含むことを特徴とする極性化合物混合物系液晶媒体、を除く)。
【化6】

(式中、R^(1)は、ハロゲン化されているかまたは置換されていない1?15個の炭素原子を有するアルキルまたはアルコキシ基を表し、但し、加えて、これらの基の1個以上のCH_(2)基は、それぞれ互いに独立に、酸素原子が互いに直接結合しないようにして、-C≡C-、-CF_(2)-O-、-OCF_(2)-、-CH=CH-、

-O-、-CO-O-または-O-CO-で置き換えられていてもよく、
Xは、それぞれ互いに独立に、F、Cl、CN、SF_(5)、SCN、NCS、6個以下の炭素原子を有するハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルケニル基、ハロゲン化アルコキシ基またはハロゲン化アルケニルオキシ基を表し、
L^(1)?L^(3)は、それぞれ互いに独立に、HまたはFを表す。)
【請求項2】
第三成分として一般式(3)
【化3】

(式中、R^(2)はR^(1)と同じ意味を表し、
B^(4)はB^(1)と同じ意味を表し、
L^(4)、L^(1)と同じ意味を表し、
B^(4)及びL^(4)が複数存在する場合はそれらは同一でも良く異なっていても良く、
mは0、1又は2であり、
nは0又は1であり、
Q^(2)は-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-OCHF-、-CF_(2)-、または単結合であり、
X^(4)?X^(8)はそれぞれ独立してH、F又はClである。)で表される化合物群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有する請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項3】
ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、加熱150℃1時間後の60℃での保持率(%)(セル厚6μmのTN-LCDに注入し、5V印加、フレームタイム200ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値)が96%以上に保たれることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-06-21 
結審通知日 2017-06-26 
審決日 2017-07-10 
出願番号 特願2012-214114(P2012-214114)
審決分類 P 1 113・ 536- YAA (C09K)
P 1 113・ 121- YAA (C09K)
P 1 113・ 537- YAA (C09K)
P 1 113・ 161- YAA (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 橋本 栄和
原 賢一
登録日 2014-10-03 
登録番号 特許第5622058号(P5622058)
発明の名称 ネマチック液晶組成物  
代理人 石井 良夫  
代理人 清水 義憲  
代理人 中塚 岳  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 河野 通洋  
代理人 吉住 和之  
代理人 吉住 和之  
代理人 城所 宏  
代理人 中塚 岳  
代理人 河野 通洋  
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