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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16C
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16C
管理番号 1347945
審判番号 訂正2018-390143  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-09-19 
確定日 2018-12-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5245863号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5245863号の明細書、特許請求の範囲及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5245863号(以下「本件特許」という。)は、平成21年1月26日に出願され、平成25年4月19日に特許権の設定登録がされ、平成30年9月19日に本件訂正審判請求がされた。

第2 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、審判請求書の請求の趣旨に記載されるとおり、特許第5245863号の明細書、特許請求の範囲及び図面を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであって、その内容は次のとおりである。(審決注:下線部分が訂正箇所である。)

1 訂正事項1
特許請求の範囲の【請求項1】を削除する。

2 訂正事項2
特許請求の範囲の【請求項3】の「請求項1又は2に記載の」との記載を、「請求項2に記載の」に訂正する。

3 訂正事項3
明細書の段落【0011】の「(1)円筒状の外輪と、前記外輪の内径側に配置された円筒状の保持器と、前記保持器により転動自在に保持された複数個の転動体とを備え、 前記外輪は軸方向両端部にそれぞれ内向の鍔部を設けたものであり、 前記保持器は、それぞれが円環状であって互いに同心に配置された一対のリム部同士の間に複数本の柱部を円周方向に等間隔に互いに平行に配置し、前記両リム部と円周方向に隣り合う前記柱部とにより形成された部分をそれぞれポケットとしたものであって、上記両リム部の外側面同士の間隔が前記両鍔部の内側面同士の間隔よりも小さく、 前記各ポケットには複数の前記転動体が配設され前記保持器が前記外輪の前記両鍔部間で軸方向移動可能、且つ、回転が可能なスライド式ラジアル転がり軸受において、 前記保持器が軸方向移動時に油圧抵抗を小さくするための油路を前記柱部に設けたことを特徴とするスライド式ラジアル転がり軸受。」との記載を削除する。

4 訂正事項4
明細書の段落【0011】の「(1)又は(2)に記載の」との記載を、「(2)に記載の」に訂正する。

5 訂正事項5
明細書の段落【0012】の記載を削除する。

6 訂正事項6
明細書の段落【0014】【図1】及び同段落【0039】の「本発明の第1実施形態」との記載を、「第1参考形態」に訂正し、
同段落【0016】及び【0037】の「第1実施形態」との記載を、「第1参考形態」に訂正し、
同段落【0016】、【0025】、【0026】、【0027】、【0040】の「本実施形態」との記載を、「本参考形態」に訂正し、
同段落【0015】の「本発明の各実施形態」との記載を、「本発明の各実施形態及び参考形態」に訂正する。

7 訂正事項7
明細書の段落【0014】【図8】、同段落【0039】の第2段落の2箇所、及び【0040】の「実施例」との記載を、「参考例」に訂正し、
同段落【0039】の「本発明に係るスライド式ラジアル転がり軸受の実施例」との記載を、「スライド式ラジアル転がり軸受の参考例」に訂正し、
図面の【図8】の「実施例」との記載を、「参考例」に訂正する。

8 訂正事項8
明細書の段落【0014】【図7】の「本発明の第3実施形態」との記載を、「第3参考形態」に訂正し、
同段落【0038】の2箇所の「本実施形態」との記載を、「本参考形態」に訂正し、
同段落【0038】の「<第3実施形態>」との記載を、「<第3参考形態>」に訂正する。

第3 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件について
訂正事項1は、請求項を削除する訂正であるから、それによって独立特許要件が満たされなくなることはなく、特許法第126条第7項の規定に適合する。

2 訂正事項2について
(1)訂正の目的について
訂正前の請求項3は、訂正前の請求項1又は2を引用していたところ、訂正事項1により請求項1を削除したため、請求項1を引用する訂正前の請求項3の記載は不明瞭となる。
訂正事項2は、訂正事項1により生じる不明瞭な記載を是正するために、訂正後の請求項3が、請求項2のみを引用するようにしたものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項2は、訂正事項1により削除した請求項1を引用しないことを明記する訂正であり、何ら新規事項を追加するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項2は、訂正事項1により削除した請求項1を引用しないことを明記する訂正であり、実質的な変更ではないから、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

3 訂正事項3?5について
(1)訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0011】の態様(1)の記載は、訂正前の請求項1に対応する記載であり、
同段落【0011】の態様(3)の「(1)又は(2)に記載の」との記載は、訂正前の請求項1を引用する請求項3に対応する記載であり、
同段落【0012】の記載は、訂正前の請求項1に対応する効果の記載であるところ、
訂正事項3?5は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書の記載のうち、訂正事項1により削除される請求項1に関係する記載を、削除又は修正する訂正であるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項3?5は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項3?5は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものであるから、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

4 訂正事項6について
(1)訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0014】の【図1】の欄、【0016】、【0037】及び【0039】に記載の「第1実施形態」は、訂正前の請求項1に対応するものであり、
同段落【0016】、【0025】、【0026】、【0027】、【0040】に記載の「本実施形態」は、訂正前の請求項1に対応するものであり、
同段落【0015】に記載の「本発明の各実施形態」は、訂正前の請求項1に対応するものと、請求項2に対応するものとがあるところ、
訂正事項6は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書の記載のうち、訂正事項1により削除される請求項1に関係する「実施形態」についての記載を訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項6は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項6は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものであるから、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

5 訂正事項7について
(1)訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0014】の【図8】の欄、【0039】及び【0040】に記載の「実施例」は、訂正前の請求項1に対応するものであり、
訂正前の図面の【図8】の「実施例」は、訂正前の請求項1に対応するもののグラフであるところ、
訂正事項7は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書及び図面の記載のうち、訂正事項1により削除される請求項1に関係する「実施例」についての記載を訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項7は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書及び図面の記載を訂正するものにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項7は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書及び図面の記載を訂正するものであるから、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

6 訂正事項8について
(1)訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0014】の【図7】の欄に記載の「本発明の第3実施形態」、並びに同段落【0038】の「本実施形態」及び「<第3実施形態>」は、訂正前の請求項1に対応するものであるところ、
訂正事項8は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書の記載のうち、訂正事項1により削除される請求項1に関係する「実施形態」についての記載を訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項8は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項8は、特許請求の範囲との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものであるから、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

第4 まとめ
以上のとおり、本件訂正審判に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項から第7項までの規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スライド式ラジアル転がり軸受
【0001】
この発明は、例えば自動車用変速機(主として手動変速機)に組み込まれて、所定長さの軸方向移動を可能としつつ、回転を可能にするラジアル転がり軸受に関する。例えば、転動体として玉を使用して、両方向の変位を何れも玉の転がりにより可能とする、スライドボール軸受が対象となる。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速機には、例えば特許文献1?3に記載されている様に、所定の長さの軸方向移動を可能としつつ、回転を可能にするスライド式ラジアル転がり軸受が組み込まれている。図9?11は、このような目的で従来から広く使用されているラジアル転がり軸受の一例を示している。このラジアル転がり軸受100は、上述したスライドボール軸受で、外輪1と、保持器2と、それぞれが転動体である複数個の玉3、3とからなる。このうちの外輪1は、軸受鋼、肌焼鋼等の硬質金属製で全体を円筒状に形成されており、軸方向両端部に内向の鍔部4a、4bを形成している。又、上記保持器2は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の合成樹脂を射出成形する事により一体に形成したもので、一対のリム部5、5と複数本の柱部6、6とを備える。これら両リム部5、5は、互いに同径の円環状で、互いに間隔をあけて同心に配置されている。又、上記各柱部6、6は、それぞれが直線状で、上記両リム部5、5同士の間に、それぞれの両端部をこれら両リム部5、5の互いに対向する内側縁に連続させた状態で、円周方向に間隔をあけた状態で互いに平行に配置されている。そして、円周方向に隣り合う柱部6、6と上記両リム部5、5とにより囲まれた部分を、それぞれポケット7、7としている。
【0003】
上記各玉3、3は、これら各ポケット7、7内に、これら各ポケット7、7毎に複数個ずつ、転動自在に保持している。又、上記外輪1の軸方向両端部に設けた上記両鍔部4a、4bの内側面同士の間隔Dは、上記保持器2の軸方向長さLよりも十分に大きく(D≫L)している。従って、この保持器2は上記外輪1の内径側に、上記各玉3、3の転動に基づき、回転及び軸方向の移動自在に支持されている。例えば手動変速機への組み付け状態では、上記外輪1を内嵌固定したハウジング9の内径側に、上記各玉3、3の内径側に挿通した軸8を、回転及び軸方向に関する所定量(D-L)の変位を自在に支持する。
【0004】
上述の様なスライド式ラジアル転がり軸受100を、例えば手動変速機のセレクト・シフト機構部分に組み込んだ場合、セレクト動作(一般的にはシフトレバーを左右方向に変位させて、接続すべきギヤを選択する動作)時には上記ハウジング9と上記軸8との軸方向の相対変位を許容し、シフト動作(一般的にはシフトレバーを前後方向に変位させて、上記セレクト動作により選択したギヤを接続する動作)時にはこれらハウジング9と軸8との、相対回転(揺動)を許容する。この様なスライド式ラジアル転がり軸受100の内部には、一般的な転がり軸受と同様に、上記外輪1の内周面(外輪軌道)及び上記軸の外周面(内輪軌道)と各玉3、3の転動面との接触部(転がり接触部乃至は滑り接触部)に潤滑油を供給する必要がある。上記手動変速機のセレクト動作時には、これら保持器2及び各玉3、3が、潤滑油を押し除けながら、上記外輪1内で軸方向に変位することになる。
【0005】
ところが、この様な構造の場合、例えばセレクト動作の為に、上記外輪1の内径側で上記保持器2及び上記各玉3、3を、この外輪1の軸方向に変位させる際に、潤滑油により抵抗を受ける。即ち、上記セレクト動作時には、上記外輪1の内周面と上記軸8の外周面との間に存在する円筒状空間内で、上記保持器2及び上記各玉3、3を、潤滑油を押し除けながら軸方向に変位させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第2592876号公報
【特許文献2】特許第3419947号公報
【特許文献3】特開2005-351420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図9に示す断面コ字状ハウジング9のように、一端又は両端が密封されたハウジング9の内側にスライド式ラジアル転がり軸受100を配置して使用する場合、潤滑油がハウジング9の奥に多量に存在すると軸8の移動時に軸8によってハウジング9の奥に溜まった潤滑油が圧縮されるためトルクが増大し、セレクト動作時に運転者が重たく感じる場合がある。
【0008】
また、軸8の移動時、軸受100内の各玉3、3が転がるため保持器2も同時に潤滑油を圧縮する方向に移動することから保持器2の断面積が大きい場合や軸8と保持器2の内径との隙間が狭いと潤滑油の貫通性が悪く、さらに軸8の移動時のトルクが増大する傾向にある。これらの現象は特に、低温時、潤滑油の粘性抵抗が大きい場合に顕著に見られる。
【0009】
このような保持器2は組立性の問題から玉3がばれないように保持器2が玉3を外輪1間に保持しており、一枚の鋼板を加工した円筒形の保持器2については内径側ポケット幅を玉径より小さくする必要があることから保持器内径を大きくすることが難しい。また、この制約に伴い外輪1の鍔部4a、4bの内径も保持器2の抜け止めのため保持器端面と接触することから径を大きく設定することが難しい。従って、軸6と保持器内径や外輪1の鍔部内径との隙間Tが制限されるため潤滑油の貫通性が悪く軸8の移動時のトルクが増大する要因となっていた。
【0010】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、軸受内の潤滑油の貫通性を良くし軸移動時の抵抗を小さくするスライド式ラジアル転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(2)円筒状の内輪と、前記内輪の外径側に配置された円筒状の保持器と、前記保持器により転動自在に保持された複数個の転動体とを備え、
前記内輪は軸方向両端部にそれぞれ外向の鍔部を設けたものであり、
前記保持器は、それぞれが円環状であって互いに同心に配置された一対のリム部同士の間に複数本の柱部を円周方向に等間隔に互いに平行に配置し、前記両リム部と円周方向に隣り合う前記柱部とにより形成された部分をそれぞれポケットとしたものであって、上記両リム部の外側面同士の間隔が前記両鍔部の内側面同士の間隔よりも小さく、
前記各ポケットには複数の前記転動体が配設され前記保持器が前記内輪の前記両鍔部間で軸方向移動可能、且つ、回転が可能なスライド式ラジアル転がり軸受において、
前記保持器が軸方向移動時に油圧抵抗を小さくするための油路を前記柱部に設けたことを特徴とするスライド式ラジアル転がり軸受。
(3)前記油路は、前記柱部の周方向両端部を径方向に折り曲げた折り曲げ部間に形成された貫通溝であることを特徴とする(2)に記載のスライド式ラジアル転がり軸受。
【発明の効果】
【0012】(削除)
【0013】
本発明の上記(2)に記載のスライド式ラジアル転がり軸受によれば、柱部に油路を設けたことにより、軸受内の潤滑油の貫通性が良く、軸移動時の抵抗を小さくすることができる。
また、油路は、柱部の周方向両端部を径方向に折り曲げた折り曲げ部間に形成された貫通溝であるので、折り曲げ量を調整することで玉接触位置を自由に設定できるため保持器外径を小さくすることが可能であり、ハウジングと保持器外径との隙間を大きくできるため潤滑油の貫通性を向上させることができる。これに伴い保持器端面と接触する内輪の鍔部外径も小さくできるようになり潤滑油の貫通性は飛躍的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1参考形態に係るスライド式ラジアル転がり軸受を搭載した自動車用変速機の部分断面図である。
【図2】図1のスライド式ラジアル転がり軸受の部分斜視図である。
【図3】図1のスライド式ラジアル転がり軸受の断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るスライド式ラジアル転がり軸受を搭載した自動車用変速機の部分断面図である。
【図5】図4のスライド式ラジアル転がり軸受の部分斜視図である。
【図6】図4のスライド式ラジアル転がり軸受の断面図である。
【図7】第3参考形態に係るスライド式ラジアル転がり軸受の断面図である。
【図8】参考例と比較例における抵抗値の差異を説明するグラフである。
【図9】従来のスライド式ラジアル転がり軸受を搭載した自動車用変速機の部分断面図である。
【図10】図9のスライド式ラジアル転がり軸受の部分斜視図である。
【図11】図9のスライド式ラジアル転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のスライド式ラジアル転がり軸受は、例えば自動車用変速機(主として手動変速機)に組み込まれて、所定長さの軸方向移動を可能としつつ、回転を可能にするスライド式ラジアル転がり軸受である。以下、本発明の各実施形態及び参考形態に係るスライド式ラジアル転がり軸受について図面を参照して説明する。
【0016】
<第1参考形態>
本参考形態のスライド式ラジアル転がり軸受10は、図1に示すように、外輪11と、保持器12と、それぞれが転動体である複数個の玉13、13とを備えて構成され、一端が密封された断面コ字状のハウジング19内に圧入され、玉13、13の内径側に軸18を挿通している。
【0017】
外輪11は、軸受鋼、肌焼鋼等の硬質金属製で全体を円筒状に形成されており、軸方向両端部に内向の鍔部14a、14bを形成している。
【0018】
保持器12は、図2に示すように、一対のリム部15、15と複数本の柱部16、16とを備えて構成されている。これら両リム部15、15は、互いに同径の円環状で、互いに間隔をあけて同心に配置され、リム部15、15同士が周方向に所定の間隔で複数配置された柱部16、16で連結されている。各柱部16、16は、リム部15と同一厚さを有し柱状に形成された柱部本体16a、16aと、柱部本体16a、16aの周方向両端部が径方向内側に折り曲げられた折り曲げ部16b、16bと、を備えて構成されている。そして、円周方向に隣り合う柱部16、16と上記両リム部15、15とにより囲まれた部分を、それぞれポケット17、17としている。
【0019】
このように構成された各柱部16は、図3に示すように、断面略逆U字形状を有し、柱部本体16aの内周面と柱部本体16aの両側の折り曲げ部16b、16bとにより、各玉13、13の内径側に挿通された軸18と柱部16の間に軸方向に伸びる貫通溝50が形成される。
【0020】
ここで柱部本体16aの内径が玉13のピッチ円直径と略同一に設定されている。そして、外輪11の鍔部14a、14bの内径が柱部本体16aの内径と略同一に設定されている。従って、軸16と保持器内径である柱部本体16aの内周面との間、及び軸16と外輪11の鍔部14a、14bの内径端部との間に隙間T’が確保されている。
【0021】
また、折り曲げ部16bの軸方向長さは柱部本体16aの軸方向長さより短く、柱部本体16aの軸方向両端部には折り曲げ部16bの成形を容易にする逃げ溝16cが設けられている。また、逃げ溝16cに加えて、柱部本体16aの内周面と柱部本体16aの両側の折り曲げ部16b、16bとの境界に軸方向に伸びる溝又は切り欠きを設けたり、又は、折り曲げ部16b、16bの板厚を柱部本体16aの板厚よりも薄くしてもよく、これにより折り曲げ部16bの成形をより容易にすることができる。
【0022】
これら各ポケット17、17内には各ポケット17、17毎に複数個(ここでは4個)ずつ転動自在に玉13、13が保持され、各玉13は周方向で隣り合う柱部16、16の折り曲げ部16b、16bに支持されている。柱部16の折り曲げ部16bの玉13との接触部分の形状は、なだらか曲線でも複数の曲線の集合であってもよく、直線状であってもよい。
【0023】
この保持器12は、高炭素鋼、低炭素鋼、浸炭鋼等から構成され、例えば一枚の板材を所定の形状にプレス成形したのち丸めて両端部を溶接した後、又は、円筒部材を切削加工した後、ポケット17の外径側から押圧部材でポケット17の両側に位置する柱部本体16a、16aの端部を折り曲げて折り曲げ部16b、16bを形成するか、又は、ポリアミド46やポリアミド66などのポリアミド系樹脂等の樹脂材料を射出成形することにより一体に形成される。
【0024】
上記外輪11の軸方向両端部に設けた上記両鍔部14a、14bの内側面同士の間隔Dは、上記保持器2の両リム部15、15の外側面同士の間隔である保持器2の軸方向長さLよりも十分に大きく(D≫L)している。従って、この保持器12は上記外輪11の内径側であって両鍔部14a、14b間に、上記各玉13、13の転動に基づき、回転及び軸方向の移動自在に支持されている。手動変速機への組み付け状態では、上記外輪11を内嵌固定したハウジング19内で、上記各玉13、13の内径側に挿通した軸18を、回転及び軸方向に関する所定量(D-L)の変位を自在に支持する。
【0025】
以上、説明したように本参考形態のスライド式ラジアル転がり軸受10によれば、柱部16に軸方向に伸びる貫通溝50である油路を設けたことにより、軸受10内の潤滑油の貫通性が良く、軸18の移動時の抵抗を小さくすることができる。即ち、軸18の移動時に、軸18の移動によってハウジング19の奥に溜まった潤滑油が圧縮された場合でも、油路を通って反対側に潤滑油が抜けることができる。これによりこのスライド式ラジアル転がり軸受10を手動変速機のセレクト・シフト機構部分に組み込んで使用した場合、特に低温時においても運転者は手動変速機のシフトチェンジを違和感なく実行することができる。
【0026】
また、本参考形態のスライド式ラジアル転がり軸受10によれば、油路は、柱部16の周方向両端部を径方向内側に折り曲げた折り曲げ部16b、16b間に形成された貫通溝50であるので、折り曲げ量を調整することで玉接触位置を自由に設定できるため保持器内径を大きくすることが可能であり、潤滑油の貫通性が向上する。これに伴い保持器端面と接触する外輪11の鍔部14a、14bの内径も大きくできるようになる。これにより軸18と鍔部内径との隙間T’は従来のスライド式ラジアル転がり軸受100における隙間Tと比べて大きくなり、潤滑油の貫通性は飛躍的に向上する。
【0027】
また、本参考形態のスライド式ラジアル転がり軸受10によれば、折り曲げ部16bの軸方向長さは柱部本体16aの軸方向長さよりわずかに短く、柱部本体16aの軸方向両端部には折り曲げ部16bの成形を容易にする逃げ溝16cが設けられているので、折り曲げ部16bを容易に形成することができる。
【0028】
<第2実施形態>
本実施形態のスライド式ラジアル転がり軸受20は、図4に示すように、内輪21と、保持器22と、それぞれが転動体である複数個の玉23、23とを備えて構成され、内輪21が軸に外嵌され、玉23、23の外径側に一端が密封された断面コ字状のハウジング29が設けられている。
【0029】
内輪21は、軸受鋼、肌焼鋼等の硬質金属製で全体を円筒状に形成されており、軸方向両端部に外向の鍔部24a、24bを形成している。
【0030】
保持器22は、図5に示すように、一対のリム部25、25と複数本の柱部26、26とを備えて構成されている。これら両リム部25、25は、互いに同径の円環状で、互いに間隔をあけて同心に配置され、リム部25、25同士が周方向に所定の間隔で複数配置された柱部26、26で連結されている。各柱部26、26は、リム部25と同一厚さを有し柱状に形成された柱部本体26aと、柱部本体26aの周方向両端部が径方向外側に折り曲げられた折り曲げ部26b、26bとを備えて構成されている。そして、円周方向に隣り合う柱部26、26と上記両リム部25、25とにより囲まれた部分を、それぞれポケット27、27としている。
【0031】
このように構成された各柱部26は、図6に示すように、断面略U字形状を有し、柱部本体26aの外周面と柱部本体26aの両側の折り曲げ部26b、26bとにより、各玉23、23の外径側に位置するハウジング29と柱部26の間に軸方向に伸びる貫通溝51が形成される。
【0032】
ここで柱部本体26aの外径が玉23のピッチ円直径と略同一に設定されている。そして、内輪21の鍔部24a、24bの外径が柱部本体26aの外径と略同一に設定されている。従って、ハウジング29と保持器外径である柱部本体26aの外周面との間、及びハウジング29と内輪21の鍔部24a、24bの外径端部との間に隙間T’が確保される。
【0033】
また、折り曲げ部26bの軸方向長さは柱部本体26aの軸方向長さより短く、柱部本体26aの軸方向両端部には折り曲げ部26bを成形するための折り曲げを容易にする逃げ溝26cが設けられている。また、逃げ溝26cに加えて、柱部本体26aの外周面と柱部本体26aの両側の折り曲げ部26b、26bとの境界に軸方向に伸びる溝又は切り欠きを設けたり、又は、折り曲げ部26b、26bの板厚を柱部本体26aの板厚よりも薄くしてもよく、これにより折り曲げ部26bの成形をより容易にすることができる。
【0034】
これら各ポケット27、27内には各ポケット27、27毎に複数個(ここでは4個)ずつ転動自在に玉23、23が保持され、各玉23は周方向で隣り合う柱部26、26の折り曲げ部26b、26bに支持されている。柱部26の折り曲げ部26bの玉23との接触部分の形状は、なだらか曲線でも複数の曲線の集合であってもよく、直線状であってもよい。
【0035】
この保持器22は、高炭素鋼、低炭素鋼、浸炭鋼等から構成され、例えば一枚の板材を所定の形状にプレス成形したのち丸めて両端部を溶接した後、又は、円筒部材を切削加工した後、ポケット27の内径側から押圧部材でポケット27の両側に位置する柱部本体26a、26aの端部を折り曲げて折り曲げ部26b、26bを形成するか、又は、ポリアミド46やポリアミド66などのポリアミド系樹脂等を射出成形することにより一体に形成される。
【0036】
上記内輪21の軸方向両端部に設けた上記両鍔部24a、24bの内側面同士の間隔Dは、上記保持器22の両リム部25、25の外側面同士の間隔である保持器22の軸方向長さLよりも十分に大きく(D≫L)している。従って、この保持器22は上記内輪21の外径側であって両鍔部24a、24b間に、上記各玉23、23の転動に基づき、回転及び軸方向の移動自在に支持されている。手動変速機への組み付け状態では、ハウジング29の内で、上記内輪21を外嵌した軸28を、回転及び軸方向に関する所定量(D-L)の変位を自在に支持する。
【0037】
このように軌道輪として内輪21を用いたスライド式ラジアル転がり軸受20においても第1参考形態のスライド式ラジアル転がり軸受10と同様の作用・効果を有する。
即ち、柱部26に軸方向に伸びる貫通孔51である油路を設けたことにより、軸受20内の潤滑油の貫通性が良く、軸28の移動時の抵抗を小さくすることができる。また、油路は、柱部26の周方向両端部を径方向外側に折り曲げた折り曲げ部26b、26b間に形成された貫通溝51であるので、折り曲げ量を調整することで玉接触位置を自由に設定できるため保持器外径を小さくすることが可能であり、潤滑油の貫通性が向上する。これに伴い保持器端面と接触する内輪21の鍔部24a、24bの外径も小さくできるようになり、ハウジング29と鍔部外径との隙間T’を大きくすることにより潤滑油の貫通性は飛躍的に向上する。
なお、軌道輪として内輪及び外輪の両方を用いてもよい。
【0038】
<第3参考形態>
本参考形態のスライド式ラジアル転がり軸受は、図9?11に示した従来のスライド式ラジアル転がり軸受100を改良したもので、図9?11と同一又は類似の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
本参考形態のスライド式ラジアル転がり軸受30は、図7に示すように、各柱部6、6に軸方向に貫通する貫通孔36aが設けられ、一対のリム部5、5には、柱部6に設けられた貫通孔36aと連通する連通孔35a、35aが設けられている。そして、これらの貫通孔36aと連通孔35a、35aにより油路が構成されている。これにより、軸受30内の潤滑油の貫通性が良く、軸8の移動時の抵抗を小さくすることができる。即ち、軸8の移動時に、軸8の移動によってハウジング9の奥に溜まった潤滑油が圧縮された場合でも、油路を通って反対側に潤滑油が抜けることができる。
【実施例】
【0039】
次に、スライド式ラジアル転がり軸受の参考例について説明する。
参考例として第1参考形態の図1?3に記載のスライド式ラジアル転がり軸受を用い、比較例として従来の図9?11に示すスライド式ラジアル転がり軸受を用いて、モータで軸を軸方向に揺動させたときに軸及び保持器が油(ギヤオイル)を押したときの抵抗値を測定した。なお、参考例と比較例のスライド式ラジアル転がり軸受は、保持器の形状及び外輪の鍔部の内径が異なる以外は同一仕様のものを使用した。測定結果を図8に示す。図中、縦軸が抵抗値(N)である。
【0040】
図8から明らかなように、比較例に比べて参考例のスライド式ラジアル転がり軸受は半分以下の抵抗値を示した。
これにより、本参考形態のスライド式ラジアル転がり軸受によれば、潤滑油の貫通性が向上し、軸移動時の抵抗を小さくなることが分かった。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。例えば、転動体として玉を例示したが、ころであってもよく、各ポケット内に保持される転動体の数は4個に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
10、20 スライド式ラジアル転がり軸受
11 外輪
12、22 保持器
13、23 玉(転動体)
14a、14b、24a、24b 鍔部
15、25 リム部
16、26 柱部
16a、26a 柱部本体
16b、26b 折り曲げ部
17、27 ポケット
21 内輪
50、51 貫通溝(油路)
35a 連通孔(油路)
36a 貫通孔(油路)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
円筒状の内輪と、前記内輪の外径側に配置された円筒状の保持器と、前記保持器により転動自在に保持された複数個の転動体とを備え、
前記内輪は軸方向両端部にそれぞれ外向の鍔部を設けたものであり、
前記保持器は、それぞれが円環状であって互いに同心に配置された一対のリム部同士の間に複数本の柱部を円周方向に等間隔に互いに平行に配置し、前記両リム部と円周方向に隣り合う前記柱部とにより形成された部分をそれぞれポケットとしたものであって、上記両リム部の外側面同士の間隔が前記両鍔部の内側面同士の間隔よりも小さく、
前記各ポケットには複数の前記転動体が配設され前記保持器が前記内輪の前記両鍔部間で軸方向移動可能、且つ、回転が可能なスライド式ラジアル転がり軸受において、
前記保持器が軸方向移動時に油圧抵抗を小さくするための油路を前記柱部に設けたことを特徴とするスライド式ラジアル転がり軸受。
【請求項3】
前記油路は、前記柱部の周方向両端部を径方向に折り曲げた折り曲げ部間に形成された貫通溝であることを特徴とする請求項2に記載のスライド式ラジアル転がり軸受。
【図面】











 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-11-27 
結審通知日 2018-11-29 
審決日 2018-12-11 
出願番号 特願2009-14302(P2009-14302)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (F16C)
P 1 41・ 854- Y (F16C)
P 1 41・ 851- Y (F16C)
P 1 41・ 855- Y (F16C)
P 1 41・ 856- Y (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 矢澤 周一郎  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
登録日 2013-04-19 
登録番号 特許第5245863号(P5245863)
発明の名称 スライド式ラジアル転がり軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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