• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01V
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G01V
管理番号 1348281
審判番号 不服2018-5559  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-23 
確定日 2019-02-12 
事件の表示 特願2013- 57402「ショベル」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月29日出願公開、特開2014-182038、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の概要
本願は、平成25年3月19日の出願であって、平成29年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年4月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月9日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年8月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年1月16日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。
本件は、これに対して、平成30年4月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1-5に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、原査定では、本願の請求項1に係る発明について、引用文献3に記載の発明に、引用文献2に記載の発明を採用することは、当業者にとって容易に想到し得ることであると説示されている。

引用文献等一覧
1.特開2012-58314号公報
2.特開2008-35472号公報
3.特開2013-47427号公報
4.国際公開第2011/158955号(周知技術を示す文献)


第3 平成30年4月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
本件補正により、本件補正前の(平成29年8月10日付けの手続補正により補正された)特許請求の範囲である、
「 【請求項1】
走行体と、
前記走行体に旋回可能に取り付けられる旋回体と、
前記旋回体の左前部に搭載される運転席を内部に備える運転室と、
前記旋回体の周囲の音声を前記運転室内に出力する音声出力部と、を備え、
前記音声出力部は、前記旋回体の後方から発せられた音声が、前記運転室の後方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、且つ、前記旋回体の側方から発せられた音声が、前記運転室の側方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、前記旋回体の周囲の音声を前記運転室内で出力する、
ショベル。
【請求項2】
前記旋回体の周囲の音声を取得する集音部を備え、
前記集音部は、前記旋回体の側方にいる人の音声を取得する側方集音部と、前記旋回体の後方にいる人の音声を取得する後方集音部とを含み、
前記音声出力部は、前記運転室の側方から音声を出力する側方音声出力部と、前記運転室の後方から音声を出力する後方音声出力部とを含み、
前記側方集音部で取得した音声を前記側方音声出力部から出力させ、前記後方集音部で取得した音声を前記後方音声出力部から出力させる、
請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
前記旋回体の周囲の音声を取得する集音部と、
監視空間における人の存否を判定する人存否判定手段と、を備え、
前記集音部は、人が存在すると判定された監視空間で音声を取得する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項4】
前記旋回体の周囲を撮像するカメラと、
前記運転席の前方に設置された、前記カメラが撮像した前記旋回体の後方及び側方を含む前記旋回体の周囲の画像を表示する表示部と、を備え、
前記音声出力部は、前記表示部が前記旋回体の周囲の画像を表示しているときに、前記旋回体の周囲の音声を前記運転室内に出力する、
請求項3に記載のショベル。
【請求項5】
前記音声出力部は、前記旋回体の周囲の音から人の音声を抽出して前記運転室内に出力する、
請求項1乃至4の何れか一項に記載のショベル。」
から、本件補正後の特許請求の範囲である、
「 【請求項1】
走行体と、
前記走行体に旋回可能に取り付けられる旋回体と、
前記旋回体の左前部に搭載される運転席を内部に備える運転室と、
前記旋回体の周囲であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声を前記運転室内に出力する音声出力部と、を備え、
前記音声出力部は、前記旋回体の後方であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声が、前記運転室の後方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、且つ、前記旋回体の側方であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声が、前記運転室の側方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、前記旋回体の周囲の音声を前記運転室内で出力する、
ショベル。
【請求項2】
前記旋回体の周囲の音声を取得する集音部を備え、
前記集音部は、前記旋回体の側方であって、前記運転席から死角となる領域にいる人の音声を取得する側方集音部と、前記旋回体の後方であって、前記運転席から死角となる領域にいる人の音声を取得する後方集音部とを含み、
前記音声出力部は、前記運転室の側方から音声を出力する側方音声出力部と、前記運転室の後方から音声を出力する後方音声出力部とを含み、
前記側方集音部で取得した音声を前記側方音声出力部から出力させ、前記後方集音部で取得した音声を前記後方音声出力部から出力させる、
請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
前記旋回体の周囲であって、前記運転席から死角となる領域の音声を取得する集音部と、
前記旋回体の周囲であって、前記運転席から死角となる領域に対応する監視空間における人の存否を判定する人存否判定手段と、を備え、
前記集音部は、人が存在すると判定された監視空間で音声を取得する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項4】
前記旋回体の周囲であって、前記運転席から死角となる領域を撮像するカメラと、
前記運転席の前方に設置された、前記カメラが撮像した前記旋回体の後方及び側方を含む前記旋回体の周囲であって、前記運転席から死角となる領域の画像を表示する表示部と
、を備え、
前記音声出力部は、前記表示部が前記旋回体の周囲の画像を表示しているときに、前記旋回体の周囲の音声を前記運転室内に出力する、
請求項3に記載のショベル。
【請求項5】
前記音声出力部は、前記旋回体の周囲であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音から人の音声を抽出して前記運転室内に出力する、
請求項1乃至4の何れか一項に記載のショベル。」
に補正された。(下線は、請求人が付したものである。)

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1?5の「旋回体の周囲」、「旋回体の側方」及び「旋回体の後方」に「運転席から死角となる領域」という限定を、それぞれ、付加するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、さらに、特許法第17条の2第4項に違反するところもない。
また、上記「運転席から死角となる領域」という技術事項は、本願の出願当初の明細書段落【0016】、【0021】及び【0025】に記載された事項であるから、特許法第17条の2第3項に違反するものではない。
そして、下記「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、本件補正後の請求項1?5に係る発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する(特許出願の際独立して特許を受けることができる)ものである。

3 むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。


第4 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、(上記「第3」「1」に本件補正後の特許請求の範囲として挙げた)本件補正後の請求項1?5に記載されたとおりのものである。


第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付したものである。)

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明はキャビンの運転席で運転者が操縦して作業を行なうショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ショベル等の建設機械は、運転者が乗り込むキャビンを有している。運転者は、キャビン内の運転席に着座して、周囲の操縦装置を動かしながらショベルの作業要素を操縦する。
【0003】
ショベルを運転している際に、ショベルの周囲の音を運転者が聞きながら作業を行なう必要がある場合がある。例えば、ショベルの作業場において、ショベルの周囲にいる作業員がショベルの運転者に情報を伝達しようとしてキャビンの外から運転者に向かって声をかけることがある。ところが、キャビンには空調が施されている場合が多く、キャビンの窓は閉められていることが多い。また、ショベルの運転中はエンジンが駆動されており、エンジンの駆動音が大きく響いている。このような環境では、周囲の作業員が大声を出してキャビン内の運転者に話しかけても、運転者には届かないことが多い。周囲の作業員の声を聞くためにキャビンの窓を一々開けるのは、運転者にとって煩わしいことである。」

(2)「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ショベルの周囲で発生する音をマイクロフォンで収集して運転室内のスピーカで再生することができ、運転室の窓を閉めきった状態でも運転者は周囲の音を聞くことができる。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1はリサイクルプラントで稼働しているショベルの側面図である。図1に示すショベルは、アタッチメントとしてバケットの代わりにフォークが取り付けられたものであり、フォークにより廃棄物100を掴んで破砕機110の投入口112まで搬送する作業を行なう。
【0017】
破砕機100は、ブレード114により大きな廃棄物100を破砕して細かくする。破砕されて細かくなった廃棄物100は、ベルトコンベア120により次の工程へと搬送される。
【0018】
ショベルは、走行するための駆動部として下部走行体1を有する。下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端に、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端にフォーク6が取り付けられている。ブーム4及びアーム5は、ブームシリンダ7及びアームシリンダ8によりそれぞれ油圧駆動される。
【0019】
フォーク6は上フォーク6Aと下フォーク6Bとよりなり、上フォーク6Aと下フォーク6Bとの間に廃棄物100を挟んで保持する。上フォーク6Aはリンク11Aを介して上フォークシリンダ9Aにより油圧駆動され、下フォークを6Bはリンク11Bを介して下フォークシリンダ9Bにより油圧駆動される
また、上部旋回体3には、運転席及び操縦装置が配置された運転室としてキャビン10が設けられる。上部旋回体3には、キャビン10の後ろ側にエンジン等の動力源や油圧ポンプや油圧回路などが搭載される。
【0020】
ショベルの駆動系の構成は、一般的なショベルの駆動系と同等であり、その説明は省略する。
【0021】
図2はキャビン10の内部の運転席及びその周辺を示す斜視図である。
【0022】
キャビン10内に配設される運転席10Aの右側及び左側には、コンソール10R、10Lがそれぞれ配設されている。コンソール10R、10Lには、操作レバー26A、26Bがそれぞれ配設されている。運転席10Aには、キャビン前方向に対して左側(コンソール10Lの側)に乗降用ドア(図示せず)が設けられている。
【0023】
レバー26Aは、旋回用電動機21及びアーム5を操作するための操作レバーであり、レバー26Bは、ブーム4及びバケット6を操作するための操作レバーである。一対のペダル26Cは、下部走行体1を操作するための操作ペダルであり、運転席の足下に設けられる。
【0024】
運転者がレバー26A及び26Bとペダル26Cの各々を操作すると、油圧ラインを通じてコントロールバルブが駆動される。これにより、下部走行体1の走行用油圧モータ、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及び上フォークシリンダ9A及び下フォークシリンダ9B内の油圧が制御され、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びフォーク6が駆動される。
【0025】
サイドトリム10Dの運転者に見えやすい部分に表示部10Bが設けられている。表示部10Bは例えば多色発光ダイオードのように複数の色に発光することで色彩表示を行なうものである。表示部10Bは、後述のようにマイクロフォンで収集したショベルの周囲の音に基づいて色彩表示を行なうことで、周囲の音の状況を運転者に通知する。
【0026】
また、マイクロフォンで収集したショベルの周囲の音は、運転席10Aの右側の肘置きの下に配置されたスピーカ10Cにより再生することができる。すなわち、マイクロフォンで収集した音をスピーカ10Cにより再生することで、運転者はキャビン10外部の音をスピーカ10Cを通して聴くことができる。
【0027】
なお、スピーカ10Cはラジオ放送等の公衆放送を聴くためのスピーカでもある。すなわち、キャビン10にはAM/FM放送等の公衆放送信号を受信する公衆放送受信機が設けられており、公衆放送受信機で受信した音声信号をスピーカ10Cで再生することができる。」

(4)「【0041】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0042】
図5は第2実施形態によるショベルの上部旋回体を上から見た平面図である。第2実施形態では、ショベルから離れた場所に設置できるワイヤレスマイクロフォン40の代わりに、ショベルの上部旋回体3の外周部の複数箇所(図5では3箇所)にマイクロフォン70L,70R,70Bが取り付けられている。
【0043】
マイクロフォン70Lは上部旋回体3の左側の側部に設けられており、主に上部旋回体3の左側周辺の音を収集する。マイクロフォン70Rは上部旋回体3の右側の側部に設けられており、主に上部旋回体3の右側周辺の音を収集する。マイクロフォン70Bは上部旋回体3の後側に設けられており、主に上部旋回体3の後側周辺の音を収集する。
【0044】
図6はマイクロフォン70L,70R,70Bからスピーカ10Cまでの音声信号回路を示すブロック図である。マイクロフォン70L,70R,70Bはワイヤレスマイクロフォンではなく、信号線によりフィルタ52に接続されている。フィルタ52、アンプ54、判定部56等は上述の第1実施形態におけるフィルタ52、アンプ54、判定部56等と同じ機能を有するものであり、その説明は省略する。
【0045】
本実施形態では、マイクロフォン70L,70R,70Bと、フィルタ52と、アンプ54と、スピーカ10Cと、判定部56と、表示分10Bとで異常管理システムが構築される。
【0046】
例えば、上部旋回体3の右側、左側、後側はキャビン10内の運転者が見ることのできない部分であり、この部分何かが接触しているような場合は、よほど強い接触となって大きな音が発生しないと、運転者は接触を認識することができない。しかし、本実施形態では、上部旋回体3の右側、左側に設けられたマイクロフォン70L,70R,70Bで収集した音を判定部56で判定することにより、接触音を小さな段階で認識することができる。
【0047】
上述の第1及び第2実施形態では、フィルタ52で金属接触時に発生する特定の周波数帯域の音声信号のみを通過させてスピーカ10Cに供給しているが、フィルタの通過周波数帯域は金属接触時の音の周波数帯域に限られず、例えば、人の声の周波数帯域とするなど、様々な周波数帯域に設定することができる。また、フィルタ52を必ずしも設ける必要はなく、マイクロフォンで収集した全ての音をスピーカで再生することとしてもよい。この場合、判定部56にバンドパスフィルタを組み込んで、判定部56では特定の周波数帯域の音を監視することとしてもよい。
【0048】
また、上述の第1及び第2実施形態では、スピーカ10Cとしてラジオのスピーカを共用しているが、アンプ54からの出力を携帯情報端末に接続し、携帯情報端末をスピーカ10Cの代わりに用いることもできる。」

(5)「【図2】

【図5】

【図6】



上記図5からは、「キャビン10」が、「上部旋回体3」の左前部に配置された構成が読み取れる。
すると、上記引用文献3には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「走行するための駆動部として下部走行体1を有し、下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されているショベルであって、
上部旋回体3の左前部には、運転席及び操縦装置が配置された運転室としてキャビン10が設けられ、
上部旋回体3の右側、左側、後側はキャビン10内の運転者が見ることのできない部分であり、
マイクロフォン70Lは上部旋回体3の左側の側部に設けられており、主に上部旋回体3の左側周辺の音を収集し、マイクロフォン70Rは上部旋回体3の右側の側部に設けられており、主に上部旋回体3の右側周辺の音を収集し、マイクロフォン70Bは上部旋回体3の後側に設けられており、主に上部旋回体3の後側周辺の音を収集し、
マイクロフォンで収集したショベルの周囲の音は、運転席10Aの右側の肘置きの下に配置されたスピーカ10Cにより再生する、
ショベル。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付したものである。)

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、密封性・遮音性が高い車両における車内外音響伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車社会の環境変化と共にクルマ自体の性能向上も目覚しく、特に高級車の車室内の静寂性などは走行騒音の低減と車体の遮音性向上で年々改善されている。
(遮音特性)遮音特性は、図14に示す透過損失(dB)実測例のように、低音域では共通して非常に低く、1 kHz以上の高音域では過大と言えるほどに大きい。
図14は非特許文献1から引用したもので、縦軸は車体の平均的な透過損失、つまり総合透過損失である。
【0003】
このような特性は、全体としては健康上も安全上もバランスの悪いものになっており、特に高音域では、車外からの音情報、つまり走行中の市街地の様子(音環境情報)や郊外をツーリングしている時の対向車の警笛や緊急車両のサイレン、或いはオープンカーのような開放感の阻害にも繋がっている。
【0004】
(遮音特性による障害の1)また、主に停車時・徐行時を想定した車内から車外への音響伝播についても、ガソリンスタンドでの給油時の会話(セキュリティ確保)や、車外からの誘導時の呼びかけに対する円滑な応対(安全確保)などを考慮し、窓を閉めたまま対話できない。
(遮音特性による障害の2)さらに、緊急車両の安全確保という点では、高級車の卓越した遮音性能にもかかわらず、あるいはまた、高級車に顕著な高音域に偏った過大な遮音性能の故に、その接近や到来方向などを窓閉の状態では、早期に判断できない。
このような事情から車内外音響伝送システムに関するいくつかの提案がなされている。」

(2)「【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明による請求項1記載の車内外音響伝送システムは、
遮音性能を有する車両における車内外音響伝送システムであって、
車両の表面に配置され、ダイアフラム面が前記表面と実質的に一致し、互いに離れて配置されている複数のマイクと、
前記マイクのそれぞれに対応する車内の位置に、各マイクが受けた波面に対応する波面を発生するように配置されている車内用平面形スピーカと、
前記対応するマイクとスピーカを接続する車外から車内への伝達回路と、を設け、
車外の音響条件、すなわち音場を車内に立体的、かつ忠実に再現するように構成されている。
なお、ダイアフラム面の直前に保護用のグリッド面が設けられているような場合には、前記グリッド面が車両の表面と一致させられているような場合もダイアフラム面が前記表面に実質的に一致させられている場合に含まれる。また、平面形スピーカとはこの発明において、ダイアフラムがピストン運動する形式のスピーカの意味で用いている。
なお、本発明において前記伝達回路は、マイクとスピーカを接続する伝達回路であって、増幅回路や調整用の制御部が含まれ、本請求項にいう車外から車内への伝達回路と後述する車内から車外への伝達回路がある。
【0013】
本発明による請求項2記載の車内外音響伝送システムは、
遮音性能を有する車両における車内外音響伝送システムであって、
車両の界壁表面に実質的な変形を施すことなく界壁表面に相互間の距離を保って配置されている複数のマイクと、
前記マイクのそれぞれに対応する車内の位置に、各マイクが受けた波面に対応する波面を発生するように配置されている車内用平面形スピーカと、
前記対応するマイクとスピーカを接続する車外から車内への伝達回路と、を設け、
車外の音響を車内に立体的に再現するように構成されている。」

(3)「【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下図面等を参照して、本発明による車内外音響伝送システムの実施の形態をさらに説明する。
図1Aは、本発明による車内外音響伝送システム(4チャンネル)の全系統を示すブロック図である。同図は車両の平面図を略図的に示し、配置するマイクやスピーカの位置を示し、車両に搭載される音響回路と無線装置を示してある。
図1Bは、本発明による車内外音響伝送システムで、車外マイクの各チャンネルに車外カメラの指向方向と関連する遅延回路を設けた例を示すブロック図である。
図1Cは、本発明による車内外音響伝送システムで、図1Bに示した遅延回路の遅延値とカメラの方向を略図的に示した配置図である。
図2Aは、図1Aに示す実施例を垂直断面図的に示したものである。
なお、各図において、「Mic」は「マイク」,「SP」は「スピーカ」,「SW」は「スイッチ」,「PA」は「パワーアンプ」,「BA」は「バッファアンプ」,「EQ」は「イコライザ」,「EC」は「(車内マイク用)エコーキャンセラ」である。
図1Aに示す実施例は、車両の天板に4個の車外マイク(Mic)を配置したものである。4個の同心円の中心の円が4個の車外マイク(Mic)の位置を示している。
各車外マイク(Mic)の出力はマイクアンプ(Micアンプ)、バッファアンプ(BA)、切換スイッチ1(SW1)、イコライザ(EQ)、音量調整手段、パワーアンプ(PA)を介して対応する車内スピーカ(SP)に接続されている。対応する車内スピーカの位置を4個の同心円の外側の円で示す。
【0027】
各マイクアンプ(Micアンプ)の出力はさらに無線装置(発信)の入力端子aおよび緊急車両検知部に各チャンネル毎に接続されている。
また、各図に示されているように、車内マイク(運転席)の出力は、マイクアンプ(Micアンプ)、パワーアンプ(PA)を介して車外用スピーカ(SP)(図2A参照)、車外用スピーカ1,2(SP1,SP2)(図1A参照)に接続されている。また同マイクアンプ(Micアンプ)の出力はさらに無線装置(発信)の入力端子bに接続されている。
無線装置(受信)の出力はスイッチ2(SW2)を介して各イコライザ(EQ)の前段に接続されている。車外マイク(Mic)の出力は緊急車両検知手段に接続されている。
図1Bに示すように、マイクアンプ(Micアンプ)の出力とバッファアンプ(BA)間にそれぞれ遅延回路τ_(1)?τ_(4)が設けられており、この遅延回路τ_(1)?τ_(4)の遅延値は、図1Cに示すカメラの方向と関連させられている。
なお、本発明において、伝達回路は、マイクとスピーカを接続する伝達回路の意味に用いており、増幅回路や調整用の制御部が含まれ、車外から車内への伝達回路と車内から車外への伝達回路がある。調整用の制御部は、周波数特性の調整,音圧レベルの調整,遅延時間の調整等を含んでいる。図1Aにおいて、車外マイクと車内スピーカ間の伝達回路は、マイクアンプ(Micアンプ),バッファアンプ(BA),スイッチ1(SW1),イコライザ(EQ),音量調整器,およびパワーアンプ(PA)が含まれる。図2Aにおいて、音圧形マイクと平面形スピーカ間の伝達回路は、マイクアンプ,イコライザ,パワーアンプを含んでいる。
なお、前記伝達回路は制御モードにしたがって制御される。制御モードとは外界の条件等に対してどのような制御された空間を提供すれば良いかという取り決めであって、制御モードはいくつかのパラメータに基づいて定められる。この実施例においては、車速・負荷検出部が制御信号発生手段を形成している。制御モード記憶部は、前記車速・負荷検出部内に設けられている。車速・負荷検出部は、制御モードが選択されるとそのモードに対応する制御信号を発生する。
【0028】
〔車外音波面の車内再現〕本発明による車内外音響伝送システムでは外部の音波面が車内に再現される。
図2Bは、本発明による車内外音響伝送システムにおけるアクティブ音響調整の基本動作原理を説明するためのブロック図である。外部の音波面の車内再現のレベルは、車載PCにより制御される車速・負荷検出部の出力により適宜制御される。図2Bの例では、音圧形マイク(Mic)3個が収音部を形成し、これら収音部で収集された車外の音波面が車内の対応するスピーカによって同様な音波面として再現される。なお、これらのマイクとスピーカ間の伝達回路は、車速・負荷検出部の出力により調整される。車速・負荷検出部には、騒音検出用マイク(Mic),車載PC,モード切換スイッチ(SW)により車速,負荷,モード切換等の情報が接続されている。伝達回路の制御部の周波数特性や増幅のレベルはこれらの組み合わせに基づいて調整される。なお、車載PC(または車載コンピュータ)とは、多くの車両に搭載されている燃料噴射制御などの運転制御用のCPUであって、車速や負荷のデータを常に保持している。
【0029】
次に図2Bに示したスピーカとマイクの一組に着目して説明する。
図3Aは、スピーカとマイクがそれぞれ配置された反射-吸音境界面における音圧・粒子速度制御を説明するための図である。
前述の車内外音響伝送システムを実現するには、高い遮音性能を有する車内空間の音響環境をあたかも、オープンカーのようにできる新規な技術が必要となる。
本発明によれば、音圧の制御のみで車内外空間に存在する界壁(車体)を音響的に「開放」したと同様な状況を車内に生成することができる。
【0030】
先ず前記状態を形成するための本発明による車内外音響伝送システムで使用する車外用マイクの挙動について説明する。
図3Aにおいて例えば、車内の天井に配置された車内用のスピーカ(SP)は対応する外壁の開口に配置された車外マイク(Mic)の(車体を介した)直近に設置する。
また、説明の前提として下記1),2)を仮定すると、次の式(1) ?式(4) が成立する。
1)到来音は十分離れた点から平面波として車体に入射する
2)車体(の音響入射面)は完全剛体で、入射音は車体にほぼ垂直に入射する」

(4)「【0046】
以上説明したように、本発明による車内外音響伝送システムでは、マイクやスピーカは屋根など車体外側の面に面一になるように取り付けられた音圧形マイク群と空気流整流器(ソフトスタビライザ)により、風雑音が最小化された状態で車外音が収音できる。
また、防振・防水処理により車体の振動や天候に左右されることがない。また、車外への突起物もほとんど無いので、安全上も外観上も優れている。
車外→車内の伝達については、屋根など車体外側の面に面一になるように取り付けられた音圧形マイク(Mic)群と、各マイク(Mic)に対応する直近の車内天井等に設置された同数のスピーカ(SP)群により、それらの界壁(天井)が無い場合の音圧・粒子速度を室内側に再現し、音の到来方向や定位も含めオープンカーのような開放感や、自然な臨場感が得られる。」

(5)「【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】



すると、上記引用文献2には、以下の技術事項(以下「引用文献2の技術事項」という。)が記載されている。

「密封性・遮音性が高い車両における車内外音響伝送システムに関し、特に高級車の車室内の静寂性などは走行騒音の低減と車体の遮音性向上で年々改善されているが、遮音特性は、低音域では共通して非常に低く、1kHz以上の高音域では過大と言えるほどに大きく、特に高音域では、車外からの音情報、つまり走行中の市街地の様子(音環境情報)や郊外をツーリングしている時の対向車の警笛や緊急車両のサイレン、或いはオープンカーのような開放感の阻害にも繋がっているところ、4個の車外マイクとこれらに対応する4個の車内スピーカを備えた車内外音響伝送システムにより、車外の音響条件、すなわち音場を車内に立体的、かつ忠実に再現するという技術事項」

3 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付したものである。)

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械、車両、作業機械などの比較的大型の機械を操作するオペレータもしくは運転者が機械周囲の人物の状況を把握するために適した音響処理技術に関し、特に、機械周囲の人物の安全に適した音響処理システム及びこれを用いた機械に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械、車両、作業機械などの比較的大型の機械では、機械周囲の人物の安全のために、オペレータもしくは運転者(以下、オペレータという)が常に機械周囲の人物の状況を把握して、その都度危険を回避する必要がある。オペレータが機械周囲の人物の状況を知る上で重要な情報の一つが、周囲の人物が発声する音声である。
【0003】
周囲の人物の音声を収音するために機械外部にマイクロホンを設置し、収音された音をオペレータに提示することで、オペレータに周囲の人物の状況を把握させることを想定する。マイクロホンで収音される音には、周囲の人物の音声だけでなく、機械動作にともなうエンジン音、機械駆動音、掘削音などが同時に混入するので、収音される音から周囲の人物の音声のみを抽出し、オペレータに提示する必要がある。
【0004】
複数のマイクロホン(マイクロホンアレー)を用いた音源分離技術を用いれば、特定の位置から到来する音声のみを抽出することが可能である。ただし、以下の2点の課題がある。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、前記した特許文献2において、収束度の基準で選択するメリットは、分離精度がバイナリマスキング未満まで低下しないという安定性である。周囲の人物の安全を最重要とする本発明においては、危険回避が必要な場合であるほど瞬時性が必要であるが、この課題は分離精度の安定性を重視する特許文献2の発明によっては解決できない。また、そもそも前記で述べた抽出すべき位置の指定の課題も解決できない。
【0012】
そこで、本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その代表的な目的は、機械周囲の人物の安全のために、抽出すべき位置の人物の音声を抽出し、危険回避にとって有用な音声を瞬時的に抽出するための音響処理システムを提供することにある。」

(3)【0023】
<実施の形態1>
以下、本発明の実施の形態1を、図1?図9、図12、図13を用いて説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態1における音響処理システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【0025】
本実施の形態における音響処理システム100のハードウェア構成は、マイクロホンアレー1011?101M、スピーカアレー1021?102S、可視光線カメラ1031?103A、赤外線カメラ1041?104B、マイクロホン105、ヘッドホン106、A/D-D/A変換装置107、中央演算装置108、揮発性メモリ109、記憶媒体110、画像表示装置111、オーディオケーブル1141?114M,1151?115S,116,117、モニタケーブル118、デジタルケーブル119,1201?120A,1211?121Bなどから構成される。この音響処理システム100は、作業機械112、機械操作入力部113などから構成される建設機械と一体となっている。
【0026】
マイクロホンアレー1011?101Mは、建設機械外部に装着した、各アレーがN個のマイクロホンからなるマイクロホン群である。スピーカアレー1021?102Sは、建設機械外部に装着したS個のスピーカ1021?102Sからなるスピーカ群である。
【0027】
可視光線カメラ1031?103Aは、建設機械外部に装着した可視光線カメラ群である。赤外線カメラ1041?104Bは、建設機械外部に装着した赤外線カメラ群である。
【0028】
マイクロホン105は、オペレータが装着するマイクロホンである。ヘッドホン106は、オペレータが装着するヘッドホンである。
【0029】
A/D-D/A変換装置107は、マイクロホンアレー1011?101Mから出力される信号とマイクロホン105から出力される信号をデジタルデータに変換すると同時に、スピーカアレー1021?102Sとヘッドホン106にアナログ音圧信号を出力するA/D-D/A変換装置である。
【0030】
中央演算装置108は、A/D-D/A変換装置107の出力を処理する中央演算装置である。揮発性メモリ109は、中央演算装置108における演算処理のデータなどを一時的に格納する揮発性のメモリである。記憶媒体110は、プログラムなどの情報を記憶する記憶媒体である。画像表示装置111は、中央演算装置108における演算処理の情報や画像などを表示する表示装置である。
【0031】
オーディオケーブル1141?114Mは、マイクロホンアレー1011?101MとA/D-D/A変換装置107とを接続するケーブルである。オーディオケーブル1151?115Sは、スピーカアレー1021?102SとA/D-D/A変換装置107とを接続するケーブルである。オーディオケーブル116は、マイクロホン105とA/D-D/A変換装置107とを接続するケーブルである。オーディオケーブル117は、ヘッドホン106とA/D-D/A変換装置107とを接続するケーブルである。
【0032】
モニタケーブル118は、画像表示装置111と中央演算装置108とを接続するケーブルである。
【0033】
デジタルケーブル119は、A/D-D/A変換装置107と中央演算装置108とを接続するケーブルである。デジタルケーブル1201?120Aは、可視光線カメラ1031?103Aと中央演算装置108とを接続するケーブルである。デジタルケーブル1211?121Bは、赤外線カメラ1041?104Bと中央演算装置108とを接続するケーブルである。
【0034】
作業機械112は、アームなどを持つ建設機械である。機械操作入力部113は、建設機械の各種操作を入力する部分である。
【0035】
以上のように構成される音響処理システム100のハードウェアの動作は、以下の通りである。
【0036】
マイクロホンアレー1011?101Mが出力する音圧データは、オーディオケーブル1141?114Mを介してA/D-D/A変換装置107に送られる。このマイクロホンアレー1011?101Mからの音圧データは、A/D-D/A変換装置107によってそれぞれデジタル音圧データに変換される。この変換では、信号間で変換タイミングを同期して変換する。変換後のデジタル音圧データは、デジタルケーブル119を介して中央演算装置108に送られ、中央演算装置108で音響信号処理が施される。この音響信号処理後のデジタル音圧データはデジタルケーブル119を介して、A/D-D/A変換装置107に送られる。この中央演算装置108からのデジタル音圧データは、A/D-D/A変換装置107によってアナログ音圧データに変換され、オーディオケーブル117を介してヘッドホン106より出力される。
【0037】
マイクロホンアレー1011?101Mで収音され、中央演算装置108に送られてきたデジタル音圧データXには、作業機械112外部の作業員の声と作業機械112が発するエンジン音やアーム駆動音などの雑音とが混入して含まれている。中央演算装置108では、デジタル音圧データXと、可視光線カメラ1031?103Aから得られる画像データVIと、赤外線カメラ1041?104Bから得られる画像データIIと、機械操作入力部113から得られる操作信号と、作業機械112が持つ速度情報とに基づいて、位置ごとの危険度Hを算出する。危険度Hは揮発性メモリ109に記憶される。中央演算装置108は、危険度Hに基づいて、音源位置推定方式を変え、さらに、動体検出方式を変え、さらに、危険度が比較的高い位置を音抽出位置とし、その中でも危険度が特に高い位置に対しては瞬時的に抽出可能な方式での音抽出を行い、危険度が低い位置に対しては高精度に抽出可能な方式での音抽出を行う。抽出信号Yは、デジタルケーブル119を介してA/D-D/A変換装置107に送られ、アナログ信号に変換されてオーディオケーブル117を介してヘッドホン106から出力される。
【0038】
揮発性メモリ109に蓄えられた位置ごとの危険度Hは、中央演算装置108において、画像に変換され、モニタケーブル118を介して画像表示装置111より出力される。」

(4)「【図1】

【図13】



すると、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の技術事項が記載されている。

建設機械、車両、作業機械などの比較的大型の機械では、機械周囲の人物の安全のために、オペレータもしくは運転者(以下、オペレータという)が常に機械周囲の人物の状況を把握して、その都度危険を回避する必要があり、周囲の人物の音声を収音するために機械外部にマイクロホンを設置し、収音された音をオペレータに提示することで、オペレータに周囲の人物の状況を把握させることを想定しても、マイクロホンで収音される音には、周囲の人物の音声だけでなく、機械動作にともなうエンジン音、機械駆動音、掘削音などが同時に混入するので、収音される音から周囲の人物の音声のみを抽出し、オペレータに提示する必要がある。
そこで、建設機械外部に装着した、マイクロホンアレー1011?101M、スピーカアレー1021?102S、可視光線カメラ1031?103A及び赤外線カメラ1041?104B、オペレータが装着する、マイクロホン105及びヘッドホン106、A/D-D/A変換装置107、中央演算装置108、揮発性メモリ109、記憶媒体110、画像表示装置111、オーディオケーブル1141?114M,1151?115S,116,117、モニタケーブル118並びにデジタルケーブル119,1201?120A,1211?121Bなどから構成される音響処理システム100により、位置毎の危険度Hを算出し、危険度Hに基づいて、音源位置推定方式を変え、さらに、動体検出方式を変え、さらに、危険度が比較的高い位置を音抽出位置とし、建設機械外部に装着した、マイクロホンアレー1011?101Mが収集した音圧データについて、その中でも危険度が特に高い位置に対しては瞬時的に抽出可能な方式での音抽出を行い、危険度が低い位置に対しては高精度に抽出可能な方式での音抽出を行い、ヘッドホン106から出力することにより、危険回避にとって有用な音声を抽出して、オペレータに提供する。

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の技術事項が記載されている。

油圧ショベルの旋回体の上部の左側面、右側面及び後側にカメラを配置して、油圧ショベル周囲の状況を油圧ショベルの上方から俯瞰した俯瞰画像としてユーザに提示する周囲監視装置。


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 引用発明の「下部走行体1」、「上部旋回体3」、「キャビン10」及び「ショベル」は、それぞれ、本願発明1の「走行体」、「旋回体」、「運転室」及び「ショベル」に相当する。
すると、引用発明の
「走行するための駆動部として下部走行体1を有し、下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されているショベルであって、
上部旋回体3の左前部には、運転席及び操縦装置が配置された運転室としてキャビン10が設けられ」た
「ショベル」は、本願発明1の
「走行体と、
前記走行体に旋回可能に取り付けられる旋回体と、
前記旋回体の左前部に搭載される運転席を内部に備える運転室と、」「を備え」た
「ショベル」に相当する。

イ 引用発明の「スピーカ10C」は、「運転席10Aの右側の肘置きの下に配置され」ており、音をキャビン10内でキャビン10内に出力するものであることは明らかであるから、「運転席10Aの右側の肘置きの下に配置されたスピーカ10C」は、本願発明1の「音声を前記運転室内で出力する」、「音声を前記運転室内に出力する音声出力部」に相当する。
すると、引用発明の
「上部旋回体3の右側、左側、後側はキャビン10内の運転者が見ることのできない部分であり、
マイクロフォン70Lは上部旋回体3の左側の側部に設けられており、主に上部旋回体3の左側周辺の音を収集し、マイクロフォン70Rは上部旋回体3の右側の側部に設けられており、主に上部旋回体3の右側周辺の音を収集し、マイクロフォン70Bは上部旋回体3の後側に設けられており、主に上部旋回体3の後側周辺の音を収集し、
マイクロフォンで収集したショベルの周囲の音は、運転席10Aの右側の肘置きの下に配置されたスピーカ10Cにより再生する」ことと、
本願発明1の
「前記旋回体の周囲であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声を前記運転室内に出力する音声出力部と、を備え、
前記音声出力部は、前記旋回体の後方であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声が、前記運転室の後方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、且つ、前記旋回体の側方であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声が、前記運転室の側方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、前記旋回体の周囲の音声を前記運転室内で出力する」こととは、
「前記旋回体の周囲であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声を前記運転室内に出力する音声出力部と、を備え、
前記音声出力部は、前記旋回体の後方であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声、前記旋回体の側方であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声を含む、前記旋回体の周囲の音声を前記運転室内で出力する」ことで共通する。

(一致点)
本願発明1と引用発明を対比すると、両者は、
「走行体と、
前記走行体に旋回可能に取り付けられる旋回体と、
前記旋回体の左前部に搭載される運転席を内部に備える運転室と、
前記旋回体の周囲であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声を前記運転室内に出力する音声出力部と、を備え、
前記音声出力部は、前記旋回体の後方であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声、前記旋回体の側方であって、前記運転席から死角となる領域から発せられた音声を含む、前記旋回体の周囲の音声を前記運転室内で出力する、
ショベル。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
音声を運転室内に運転室内で出力する音声出力部が、本願発明1では、「前記旋回体の後方」「から発せられた音声が、前記運転室の後方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、且つ、前記旋回体の側方」「から発せられた音声が、前記運転室の側方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、」出力するのに対して、引用発明では、「運転席10Aの右側の肘置きの下に配置されたスピーカ10Cにより再生する」点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用文献2の技術事項の、車両内で、車外の音響条件、すなわち音場を車内に立体的、かつ忠実に再現することには、車外で音が来る方向を車両内でもそのまま実現することが含まれており、これは、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項に対応するものである。
しかし、引用発明では、上部旋回体3の左側のマイクロフォン70L、上部旋回体3の右側のマイクロフォン70R、上部旋回体3の後側のマイクロフォン70Bで収集した音は、運転席10Aの右側の肘置きの下に配置されたスピーカ10Cにより再生するのみであり、他に、引用文献3の全記載を精査しても、キャビン外で音が来る方向をキャビン内でもそのまま実現することを示唆する記載はない。
引用文献1の技術事項でも、建設機械外部に装着した、マイクロホンアレー1011?101Mからの音圧データは、最終的にヘッドホン106から出力するにすぎない。
してみると、引用発明に、引用文献2の技術事項を採用する動機付けがあるとまではいえない。
なお、引用文献4は、カメラについての技術事項が開示されるのみである。

したがって、引用発明に加えて、引用文献1、2、4に記載された技術事項を参照しても、上記相違点に係る本願発明1の構成を、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

よって、本願発明1は、引用発明に加えて、引用文献1、2、4に記載された技術事項を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5も、本願発明1の「前記旋回体の後方」「から発せられた音声が、前記運転室の後方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、且つ、前記旋回体の側方」「から発せられた音声が、前記運転室の側方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、」出力する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第7 原査定について
本願発明1?5は、「前記旋回体の後方」「から発せられた音声が、前記運転室の後方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、且つ、前記旋回体の側方」「から発せられた音声が、前記運転室の側方から前記運転席に向けて発せられた音声に聞こえるように、」出力する構成を備えるものであり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-28 
出願番号 特願2013-57402(P2013-57402)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01V)
P 1 8・ 575- WY (G01V)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 秀直  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 昌哉
渡戸 正義
発明の名称 ショベル  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ