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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1348492
審判番号 不服2017-12242  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-17 
確定日 2019-01-29 
事件の表示 特願2014-552193「バンプ付き拡張器先端部」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月18日国際公開、WO2013/106134、平成27年 2月 2日国内公表、特表2015-503435〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)11月26日(優先権主張 平成24年1月13日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
2015年 7月24日付け:拒絶理由通知書
2015年11月 2日 :意見書、手続補正書の提出
2016年 4月 5日付け:拒絶理由通知書
2016年10月 5日 :意見書、手続補正書の提出
2017年 3月29日付け:補正却下の決定、拒絶査定
2017年 8月17日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 2017年8月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
2017年8月17日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本願の請求項1に係る発明は、本件補正により本願の請求項1の記載を次のとおり補正したもの(なお、下線部は補正箇所。)である。

「拡張器とシースの組み合わせであって、
細長い管状シースを含み、前記シースは、シース本体、シース近位端部及びシース遠位端部を有し、
前記シース遠位端部の肉厚は、遠位側において近位側よりも小さく、
前記シース遠位端部の外径は、前記シース近位端部から前記シース遠位端部に向かう方向において先細となる部分を有しており、
前記シース本体は、内側又はルーメン半径を有し、前記シース遠位端部は、内側又はルーメン半径を有し、
前記シース近位端部は、孔を備えたシースハウジングを有し、
当該拡張器‐シース組み合わせは、近位端部及び遠位先端部を備えた細長い拡張器シャフトを有する拡張器を更に含み、前記拡張器は、その近位端部のところに拡張器ハブを有し、
前記拡張器の前記遠位先端部は、半径方向に拡大された拡張部材(拡張器バンプ)を有し、
前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が増大する近位テーパを有し、前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が減少する遠位テーパを更に有し、当該拡張器‐シース組み合わせは、長手方向軸線を有し、半径は、前記長手方向軸線から測定可能であり、
前記拡張器バンプは、前記近位テーパと前記遠位テーパとの間の箇所で測定可能な最大直径を有し、
前記拡張器バンプを前記細長い管状シース中に通すことができ、
組み立て状態では、
前記拡張器バンプは、最大直径(86,96)を有し、
前記シース本体は、外側直径(23,53)を有し、
前記組み立て状態の拡張器‐シース組み合わせは、100%シャドー半径方向距離(200)である距離を定め、
前記拡張器バンプの最大直径を前記100%シャドー半径方向距離によって定めることができ、
前記拡張器バンプの最大直径は、前記拡張器本体の外径(20,50)よりも大きいが、前記拡張器本体の外径と前記シャドー半径方向距離の100%との合計を超えないで、
前記拡張器バンプの最大直径は、前記シース遠位端部(87,97)の先端の外径よりも大きい、拡張器‐シース組み合わせ。」

2 補正の適否
(1)補正の目的
本件補正により、補正前の請求項1に記載された「最大半径」は「最大直径」と補正されたが、これは、特許法17条の2第5項3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
その他の補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「拡張器‐シース組み合わせ」について限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野および解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項に規定される独立特許要件に適合するか否かについて検討する。


(2)独立特許要件
ア 本件補正発明
本件補正発明の「前記拡張器本体」は、請求項1において「拡張器本体」が前記されていないことから、「前記拡張器シャフト」の誤記であると認め、本件補正発明をそのように認定する。

イ 本願の優先日よりも前に頒布された刊行物である米国特許第6120480号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)1欄10行ないし14行
「A typical catheter introducer may be considered as having a relatively short tubular sheath, open at its distal end (the end within the patient), and a housing attached to the proximal end (outside of the patient) of the sheath. 」(典型的なカテーテル・イントロデューサは、比較的短い管状のシースを有している。シースは遠位端(患者側)でオープンとなっており、ハウジングがシースの近位端(患者とは反対側)に取り付けられている。)
(イ)5欄29行ないし54行
「FIG. 1 shows a catheter introducer assembly in accordance with the invention. The assembly includes the introducer 10 itself and a dilator 12 that extends through the introducer 10. The introducer 10 includes an elongate flexible polymeric sheath 14 having a housing assembly 16 attached to its proximal end. The distal end 18 of the sheath 14 is open to permit the distal end 20 of the dilator to project through and beyond the distal end 18 of the sheath 14. The proximal end of the dilator 12 includes a hub 22 that is detachably connectible to the housing assembly 16 by a threaded connection, ・・(中略)・・The dilator 12 includes an elongate tubular shaft 32 having a central lumen 34 adapted to receive a guidewire」(図1は、本発明に係るカテーテル・イントロデューサー・アセンブリを示す。当該アセンブリは、イントロデューサー10とそれを挿通して伸びる拡張器12を有する。イントロデューサー10は、細長い柔軟性のあるポリマーでできたシース14を有しており、当該シース14は近位端でハウジング・アセンブリ16に取り付けられている。シース14の遠位端部18は、当該遠位端18を越えて、拡張器の遠位端20が挿通し得るよう開放されている。拡張器12の近位端はハブ22を有し、当該ハブはハウジング・アセンブリ16にねじ接続で取り付け可能となっている。・・(中略)・・拡張器12は細長のチューブ状のシャフト32を有しており、当該シャフトはガイドワイヤを受け入れる中央孔34を有する。)
(ウ)6欄5行ないし12行
「The dilation member at the distal end of the dilator is formed to have a larger maximum diameter than the more proximal portions of the dilator shaft 32. The dilator may be arrowhead-like in shape, is formed to include an elongate, relatively gentle distal taper 48 and, at its proximal end, a sharper, short proximal taper 50. An intermediate transitional region 49 between the tapers 48, 50 may be cylindrical and may be of variable length. 」(拡張器の遠位端にある拡張メンバは、それよりも近位側にある拡張器シャフト32のどの部分よりも大きな最大径を有する。拡張器は、ヤジリ頭のような形状をしており、細長くて比較的緩やかな遠位テーパ48と、近位端側に急で短い近位テーパ50とを有するよう構成されている。当該テーパ48と50の中間区域49は、シリンダー状で、さまざまな長さを有する。)
(エ)6欄56行ないし61行
「The geometry at the distal end 18 of the sheath 14 includes an outer surface 56, an inner surface 58 that includes a dilator-engaging segment 60, and an end face 62. The sheath 14 may be formed from a suitable polymer such as Teflon (polytetrafluoroethylene) having a wall thickness of about 0.008 inch, 」(シース14の遠位端18における構造は、外側面56、拡張器とかみ合う部分60を有する内側面、及び、先端面を有する。シース14は、テフロンのようなポリマーで構成され、壁肉厚は約0.008インチである。)
(オ)7欄28行ないし36行
「For dilators within the 4 French to 9 French range, the dilator shaft may have an outer diameter of between about 0.057 to about 0.122 inch, a guidewire lumen diameter of between about 0.27 to about 0.40 inch, an arrowhead length, as measured from the outer radius 54 to the distal tip of the dilator of about 0.750 inch for all sizes and a maximum diameter for the dilator, at the transition region 49 between the proximal and distal tapers 50, 48 of between about 0.062 to about 0.129 inch.」(拡張器を4フレンチないし9フレンチの範囲とした場合、拡張器シャフトは、約0.057インチないし0.122インチの外径を有し、約0.27インチないし約0.40インチのガイドワイヤ孔径を有し、拡張器の外側径54から遠位側先端部までを計測したヤジリ頭形状部の長さはいずれのサイズであっても0.750インチであり、近位テーパと遠位テーパ50,48の間の中間区域49における拡張器の最大直径は約0.062インチないし0.129インチである。)

上記(ア)には、遠位端(側)が患者側のことを、近位端(側)が患者とは反対側のことをそれぞれ指すことが記載されていることから、シースおよび拡張器はそれぞれ、本体、近位端部、遠位端部を有することは明らかである。また、シースは管状であることが記載されており、当該シースは、近位端から遠位端に至るまで管を形成する内孔を有するとともに、外径および内径を有することも明らかである。
上記(イ)には、細長いシース14を有するイントロデューサ10と拡張器12を組み合わせた組立体が記載されている。また、シースは近位端にてハウジング・アセンブリ16を有すること、シース14内を拡張器12が挿通すること、当該拡張器12が近位端部にハブ22を有していること、当該アセンブリ16は当該拡張器12のハブ22と接続する点がそれぞれ記載されている。このことと、図1ないし3を併せみれば、ハウジング・アセンブリは拡張器を受け入れるための孔を有することは明らかである。さらに、拡張器12は拡張器シャフト32を有している点が記載されている。
上記(ウ)には、拡張器の遠位端部は、拡張器シャフト32よりも最大直径を有する拡大された拡張メンバを有し、遠位テーパ48、近位テーパ50、中間区域49を有する点が記載されている。図10を併せみると、拡張器の遠位端部は、拡張器シャフト32よりも半径方向に拡大した拡張メンバを有していることは明らかである。拡張器12は当該中間区域で最大直径を有することは明らかである。当該最大直径が測定可能であることは当然である。また、当該拡張メンバは、ヤジリ頭形状をしていることも記載されている。
上記(エ)には、シース14は外側面及び内側面58を有していること、シース14の壁肉厚は0.008インチであることが記載されている。
図1及び10から、拡張器12とシース14の組み合わせは、長手方向軸線を有し、半径は、前記長手方向軸線から測定可能であることは明らかである。
以上を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「拡張器12とシース14の組み合わせであって、
細長い管状シース14を含み、 前記シース14は、シース本体、シース近位端部及びシース遠位端部を有し、
前記シース本体は、内側面58又は内径を有し、前記シース遠位端部は、内側面又は内径を有し、
前記シース近位端部は、孔を備えたハウジング・アセンブリ16を有し、
当該拡張器12とシース14の組み合わせは、近位端部及び遠位端部を備えた細長い拡張器シャフト32を有する拡張器12を更に含み、前記拡張器12は、その近位端部のところにハブ22を有し、
前記拡張器12の前記遠位端部は、半径方向に拡大された拡張メンバを有し、
前記拡張メンバは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が増大する近位テーパ50を有し、前記拡張メンバは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が減少する遠位テーパ48を更に有し、当該拡張器12とシース14の組み合わせは、長手方向軸線を有し、半径は、前記長手方向軸線から測定可能であり、
前記拡張メンバは、前記近位テーパと前記遠位テーパとの間の中間区域49で測定可能な最大直径を有し、
前記拡張メンバを前記細長い管状シース14中に挿通することができ、
組み立て状態では、
前記拡張メンバは、最大直径を有し、
前記シース本体は、外側直径を有し、
前記拡張メンバの最大直径は、前記拡張器シャフトの外径よりも大きい、
拡張器12とシース14の組み合わせ。」

ウ 本件補正発明と引用発明1とを対比するに、引用発明1の「拡張器12」は、その機能及び作用を踏まえると、本件補正発明の「拡張器」に相当し、以下同様に、「シース14」は「シース」に、「薄く」は「小さく」に、「テーパ状」は「先細」に、「内側面58」は「内側」に、「内径」は「ルーメン半径」に、「ハウジング・アセンブリ16」は「シースハウジング」に、「拡張器12とシース14の組み合わせ」は「拡張器‐シース組み合わせ」に、「拡張器シャフト32」は「拡張器シャフト」に、「ハブ22」は「拡張機ハブ」に、「拡張メンバ」は「拡張部材(拡張バンプ)」に、「近位テーパ50」は「近位テーパ」に、「遠位テーパ48」は「遠位テーパ」に、「中間区域49」は「箇所」に、「最大直径」は「最大直径(86,96)」に、「外側直径」は「外側直径(23,53)」に、それぞれ相当する。

してみれば、本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「拡張器とシースの組み合わせであって、
細長い管状シースを含み、前記シースは、シース本体、シース近位端部及びシース遠位端部を有し、
前記シース本体は、内側又はルーメン半径を有し、前記シース遠位端部は、内側又はルーメン半径を有し、
前記シース近位端部は、孔を備えたシースハウジングを有し、
当該拡張器‐シース組み合わせは、近位端部及び遠位先端部を備えた細長い拡張器シャフトを有する拡張器を更に含み、前記拡張器は、その近位端部のところに拡張器ハブを有し、
前記拡張器の前記遠位先端部は、半径方向に拡大された拡張部材(拡張器バンプ)を有し、
前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が増大する近位テーパを有し、前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が減少する遠位テーパを更に有し、当該拡張器‐シース組み合わせは、長手方向軸線を有し、半径は、前記長手方向軸線から測定可能であり、
前記拡張器バンプは、前記近位テーパと前記遠位テーパとの間の箇所で測定可能な最大直径を有し、
前記拡張器バンプを前記細長い管状シース中に通すことができ、
組み立て状態では、
前記拡張器バンプは、最大直径(86,96)を有し、
前記シース本体は、外側直径(23,53)を有し、
前記拡張器バンプの最大直径は、前記拡張器シャフトの外径(20,50)よりも大きい、
拡張器‐シース組み合わせ。」

(相違点1)
本件補正発明では、「前記シース遠位端部の肉厚は、遠位側において近位側よりも小さく、前記シース遠位端部の外径は、前記シース近位端部から前記シース遠位端部に向かう方向において先細となる部分を有して」おり、かつ、「前記拡張器バンプの最大直径は、前記シース遠位端部(87,97)の先端の外径よりも大きい」のに対して、引用発明1においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

(相違点2)
本件補正発明では、「前記組み立て状態の拡張器‐シース組み合わせは、100%シャドー半径方向距離(200)である距離を定め、前記拡張器バンプの最大直径を前記100%シャドー半径方向距離によって定めることができ、前記拡張器バンプの最大直径は、前記拡張器シャフトの外径と前記シャドー半径方向距離の100%との合計を超えない」のに対して、引用発明1においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

エ 上記相違点1について検討する。
本願の優先日よりも前に頒布された刊行物である特開平9-322941号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)段落【0042】
「図16及び図17は、本発明のリード導入装置の変形例を示す。図16は、拡張器42の移行ゾーン60及びこれを取り囲む導入器シース40の先端バンド64の断面図であり、本発明の第2実施例による第2環状凹所70' 及びシース先端62' の形状を示す。図17は、図16の実施例の導入器シース及び拡張器の移行ゾーン60の一部の拡大詳細断面図である。」
(イ)段落【0043】
「この実施例では、丸味が付けてある凹所バンド90' は、バンド74に対して大径であるように形成される。そのため、丸味が付けてある凹所バンド90よりも滑らかである。更に、シース先端は、これと対応して大きな直径を持つように形成されており、環状チップ領域の全周に亘って延びているのではない。結果的に形成されたバンド64はテーパしており、拡張器42の隣接した外面主直径72の下の凹所70' 内に先端チップ62が受け入れられ、滑らかな移行ゾーン60を形成する。」
(ウ)段落【0044】
「本発明の好ましい実施例の上述の特徴により、導入器シース40の先端62が環状凹所70、70' 内に収容され、従来技術の環状の段54をなくす。更に、壁が比較的薄い先端62、62' を取扱いによる損傷から保護し、又は裂けないようにする。先端が損傷すると、前進が妨げられ、血管壁を傷付けてしまう。凹所70、70' 及びシース先端62、62' について、上文中に説明した滑らかな移行ゾーン60を提供し且つ拡張器42をシース40から引っ込めることを可能にする多くの種々の形体が考えられる。」

上記(ア)ないし(ウ)の記載によれば、拡張器とシースのアセンブリを含むリード導入装置において、移行ゾーン60を取り囲むシース40、つまり、シース40の先端部においてバンド64はテーパしている。そして、図17と併せみると、シース40の先端部における肉厚は、遠位側において近位側よりも小さくなっており、かつ、シース40の先端部における外径は、近位側から遠位側に向かう方向においてテーパ、つまり、先細となっていることは明らかである。(ここで、遠位側は患者側のことを、近位側は患者とは反対側のことをそれぞれ指す。以下、同じ。)
さらに、拡張器42の隣接した外面主直径72の下の凹所70' 内に先端チップ62が受け入れられ、滑らかな移行ゾーン60を形成しており、図17とを併せみると、拡張器の最大直径を有する部分である外面主直径は、シースの先端チップ62’における外径よりも大きいことは明らかである。
そして、これらの構成は、シースの先端62、62’を損傷から保護し血管壁を傷つけないようにするためのものである。

ここで、シースを経皮的に挿入するような術式においては、患者のQOL(QUALITY OF LIFE)向上のためにスムーズかつ侵襲性をできるだけ低く抑えることが技術的課題として従来より存在することを踏まえれば、引用発明1の拡張器とシースの組み合わせにおいて、引用文献2に記載の上記構成に触れた当業者が、上記相違点1に係る本件補正発明の構成を想到することは、同一技術分野における技術的事項の単なる付加に過ぎないので、何ら困難性はない。
また、上記相違点1に係る本件補正発明の効果も格別なものであるとはいえない。

オ 次に、上記相違点2について検討する。
まず、本件補正発明の「シャドー半径方向距離」の定義について検討する。本願明細書の段落【0057】の「シャドーは、拡張器バンプに等しい直径を有する想像上の光によって落とされており、この想像上の光は、拡張器先端部の遠位側の無限距離のところに位置し、この光は、拡張器シースの長手方向軸線と中心が交差している状態を示す図である。」、段落【0142】の「シャドー領域は、図8Aでは破線(84)で示され、図8Bでは破線(94)で示されている。」、段落【0143】の「 図8は、拡張器先端部の遠位テーパ(81;91)、拡張器先端部バンプ(82;92)、拡張器先端部の近位テーパ(83;93)、シャドー領域(84;94)、シース先端部(85;95)、拡張器バンプの最大直径(86;96)、シース遠位先端部の直径(87;97)、使用中、組織に対する抵抗を受けるシース先端部の遠位側に位置したシースの領域(88;98)を示している。」、段落【0145】の「図8Cは、図8Aと図8Bの両方に適用される記号を示しており、これは、シースシャドーの半径方向距離及びシースシャドーの半径方向距離の50%を示している。本発明は、組み立て状態では、シャドーの半径方向距離が100%サイズ(構造体200)(図8Cの記号参照)にあるシャドーを作る拡張器及びシースを含むが、これには限定されない。また、組み立て状態では、シャドーの半径方向距離が50%サイズ(構造体201)(図8Cの記号参照)にあるシャドーを作る拡張器及びシースも又本発明の範囲に含まれる。」という記載から総合的に判断すると、本件補正発明の「シャドー半径方向距離」とは、シースに対して長手軸線方向に平行な光を当てたときに形成されるシャドー領域の直径から「拡張器シャフトの外径」を差し引いたものを2で除したものに等しいものと定義されることは明らかである。
なお、本件補正発明の「前記拡張器バンプの最大直径は、前記拡張器シャフトの外径と前記シャドー半径方向距離の100%との合計を超えない」は、「前記拡張器バンプの最大直径は、前記拡張器シャフトの外径と前記シャドー半径方向距離の100%を2倍したものとの合計を超えない」の誤記であるといわざるを得ない。というのも、当該発明特定事項は、出願当初の明細書の段落【0027】及び段落【0039】に繰り返し出現するも、当該発明特定事項についての具体的な説明は図8Aおよび8Bで図示されたものをおいてほかになく、そして、図8Aおよび8Bでは、「拡張器バンプの最大直径」は「拡張器シャフトの外径とシャドー半径方向距離の100%との合計」よりも大きく超えるものが図示されており、これは当該発明特定事項の内容と矛盾し、その一方で、当該図面からは、「拡張器バンプの最大直径」が「拡張器シャフトの外径」と「シャドー半径方向距離を2倍したもの」との合計とほぼ等しい関係にあることについては読み取れるからである。
ここで、上記引用文献1の記載事項「第2 2(2)イ(オ)」には、拡張器を9フレンチとした場合には、ヤジリ頭形状部(拡張メンバ)の最大直径は0.129インチ、拡張器シャフトの外径は0.122インチとなることが記載されている。この場合に、上記のシャドー半径方向距離の定義を当てはめてみると、図8及び10に図示されたシース及び拡張器シャフトの位置関係からみて、シャドー半径方向距離は少なくともシースの壁肉厚よりも大きな値であることは明らかであることから、その値は少なくとも0.008インチとなる(上記「第2 2(2)イ(エ)」を参照のこと。)。
してみれば、ヤジリ頭形状部(拡張メンバ)の最大直径(0.129インチ)は、拡張シャフトの外径とシャドー半径方向距離を2倍したものとの合計(少なくとも0.138インチ=0.122インチ+少なくとも0.008インチ×2)を超えない。
よって、上記相違点2に係る本件補正発明の構成は、引用文献1に記載されているといえ、相違点2は実質的な相違点ではないということになる。

カ したがって、本件補正発明は、引用文献1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

キ なおここで、引用文献1には、以下の事項がさらに記載されており、検討を進める。
(カ)6欄12行ないし22行
「The inner lumen 58 at the distal end of the sheath 14 is configured to surround and engage the outer surface of the dilator shaft 32. The outer diameter of the distal end of the sheath 14 is selected in relation to the maximum outer diameter defined by the proximal taper 50 so that as the assembly is advanced over a guidewire percutaneously through the skin and subcutaneous tissue, there will be little or no radial extension of the dilator, that is, little or no portion at the distal end of the sheath 14 that projects radially beyond the maximum diameter of the arrowhead.」(シース14の遠位端における内側孔58は、拡張器32の外側面を囲みそしてかみ合うよう構成されている。シースの遠位端での外径は、近位テーパ50で規定された最大直径に相関して選択されており、組み合わせがガイドワイヤに沿って経皮的に皮膚及び皮下組織を通って進んでも、拡張器の半径方向の突出はほとんどないか又は全くない。つまり、シース14の遠位端において、ヤジリ頭形状部の最大直径を超えて径方向に突出する部分は、ほとんどないか又は全くない。)
(キ)6欄最終行ないし7欄11行
「The wall thickness at the distal extremity of the sheath, defined at the region of the end face 62, is somewhat thinner than at the more proximal portions of the sheath. Although it is desirable that the wall thickness at the distal end of the sheath (i.e., at end face 62) is as close to the extent of radial projection of the arrowhead from the outer diameter of the dilator shaft 32 as can be practically manufactured, some radial projection of the sheath beyond the maximum radial projection of the arrowhead may be tolerated up to a maximum of about 0.002 inch. Preferably, the wall thickness at the distal extremity of the sheath, just proximally of the end face 62 may be of the order of 0.003 inch.」(シースの遠位端の最先端部における壁肉厚は、端面62の部分で規定され、シースのより近位側の部分よりもいくばくか薄い。実際に製造され得る限り、当該シースの遠位端部における壁肉厚(端面62)は、ヤジリ頭形状部の半径方向に突出している具合と同じ程度であることが望ましいが、ヤジリ頭形状部の突出部の最大径を越えるシースの半径方向の突出は、最大約0.002インチまでは許容される。好ましくは、端面のまさに近位側におけるシースの遠位側の最先端部における壁肉厚は、0.003インチのオーダーである。)
(ク)7欄19行ないし21行
「The outer surface 56 of the sheath 14, at the distal end 18 may be tapered, as by having been molded or by a taper grind, along a length of about 0.25 inch.」(シース14の外周面56は遠位端18において、型によって又はテーパ研磨によって、約0.25インチの長さにテーパ状に形成される。)

上記(カ)には、シース14の遠位端での外径は、ヤジリ頭形状部の近位テーパ50によって規定された最大外径に相関して選択されること、シース14の遠位端にはヤジリ頭形状部の最大径よりも径方向に突出する部分はほとんどない又は全くないことが記載されている。また、上記(キ)には、シース14の壁肉厚さは、端面62の区域で定められる遠位側最先端部においてシースの近位側の部分よりも薄くなっていること、そして、好ましくは、当該遠位側最先端部の壁肉厚が0.003インチのオーダーであることが記載されている。また、上記(ク)には、シース14の外周面は遠位端部でテーパ状、すなわち先細となる部分を有することが記載されており、図10には、当該外周面は遠位端に向かう方向において先細になっている点が開示されている。さらに、上記「第2 2(2)イ(エ)」には、シースの壁肉厚は0.008インチであり、上記「第2 2(2)イ(オ)」には、拡張器を9フレンチとした場合には、シース遠位端の壁肉厚は0.003インチ、ヤジリ頭形状部(拡張メンバ)の最大直径は0.129インチ、拡張器シャフトの外径は0.122インチとなることが記載されている。
してみれば、シース14遠位端部の壁肉厚は、遠位側(0.003インチ)において近位側(0.008インチ)よりも薄く、シース遠位端部の外径は、シース近位端部からシース遠位端部に向かう方向において先細となる部分を有しており、また、「拡張メンバの最大直径」(0.129インチ)は「拡張器シャフトの外径」と「シース遠位端の壁肉厚」の合計(0.128インチ=0.122+0.003×2)、すなわち「シース遠位端の外径」よりも大きいことは、明らかである。

してみれば、引用文献1には、さらに、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているということができる。
「拡張器12とシース14の組み合わせであって、
細長い管状シース14を含み、 前記シース14は、シース本体、シース近位端部及びシース遠位端部を有し、
前記シース遠位端部の壁肉厚は、遠位側において近位側よりも薄く、
前記シース遠位端部の外径は、前記シース近位端部から前記シース遠位端部に向かう方向において先細となる部分を有しており、
前記シース本体は、内側面58又は内径を有し、前記シース遠位端部は、内側面又は内径を有し、
前記シース近位端部は、孔を備えたハウジング・アセンブリ16を有し、
当該拡張器12とシース14の組み合わせは、近位端部及び遠位端部を備えた細長い拡張器シャフト32を有する拡張器12を更に含み、前記拡張器12は、その近位端部のところにハブ22を有し、
前記拡張器12の前記遠位端部は、半径方向に拡大された拡張メンバを有し、
前記拡張メンバは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が増大する近位テーパ50を有し、前記拡張メンバは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が減少する遠位テーパ48を更に有し、当該拡張器12とシース14の組み合わせは、長手方向軸線を有し、半径は、前記長手方向軸線から測定可能であり、
前記拡張メンバは、前記近位テーパと前記遠位テーパとの間の中間区域49で測定可能な最大直径を有し、
前記拡張メンバを前記細長い管状シース14中に挿通することができ、
組み立て状態では、
前記拡張メンバは、最大直径を有し、
前記シース本体は、外側直径を有し、
前記拡張メンバの最大直径は、前記拡張器シャフトの外径よりも大きく、
前記拡張メンバの最大直径は、シース遠位端の外径よりも大きい、
拡張器12とシース14の組み合わせ。」

ク 本件補正発明と引用発明2を対比するに、上記「第2 2(2)ウ」での検討に加えて、引用発明2の「シース遠位端」は、その機能及び作用からみて、本件補正発明の「シース遠位端部(87,97)の先端」に相当する。
よって、本件補正発明と引用発明2の一致点および相違点は以下のとおりとなる。

(一致点)
「拡張器とシースの組み合わせであって、
細長い管状シースを含み、前記シースは、シース本体、シース近位端部及びシース遠位端部を有し、
前記シース遠位端部の肉厚は、遠位側において近位側よりも小さく、
前記シース遠位端部の外径は、前記シース近位端部から前記シース遠位端部に向かう方向において先細となる部分を有しており、
前記シース本体は、内側又はルーメン半径を有し、前記シース遠位端部は、内側又はルーメン半径を有し、
前記シース近位端部は、孔を備えたシースハウジングを有し、
当該拡張器‐シース組み合わせは、近位端部及び遠位先端部を備えた細長い拡張器シャフトを有する拡張器を更に含み、前記拡張器は、その近位端部のところに拡張器ハブを有し、
前記拡張器の前記遠位先端部は、半径方向に拡大された拡張部材(拡張器バンプ)を有し、
前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が増大する近位テーパを有し、前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が減少する遠位テーパを更に有し、当該拡張器‐シース組み合わせは、長手方向軸線を有し、半径は、前記長手方向軸線から測定可能であり、
前記拡張器バンプは、前記近位テーパと前記遠位テーパとの間の箇所で測定可能な最大直径を有し、
前記拡張器バンプを前記細長い管状シース中に通すことができ、
組み立て状態では、
前記拡張器バンプは、最大直径(86,96)を有し、
前記シース本体は、外側直径(23,53)を有し、
前記拡張器バンプの最大直径は、前記拡張器シャフトの外径(20,50)よりも大きく、
前記拡張器バンプの最大直径は、前記シース遠位端部(87,97)の先端の外径よりも大きい、拡張器‐シース組み合わせ。」

(相違点3)
本件補正発明では、「前記組み立て状態の拡張器とシースの組み合わせは、100%シャドー半径方向距離(200)である距離を定め、前記拡張器バンプの最大直径を前記100%シャドー半径方向距離によって定めることができ、前記拡張器バンプの最大直径は、前記拡張器シャフトの外径と前記シャドー半径方向距離の100%との合計を超えない」のに対して、引用発明2では、そのような構成を有するか明らかでない点。

ケ 上記相違点3について検討するに、これは相違点2と同じである。
してみれば、上記相違点3に係る本件補正発明の構成は、引用文献1に記載されたものであるといえ、相違点3は実質的な相違点ではないということになる。

コ したがって、本件補正発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないということもできる。

サ 請求人は、2017年8月17日提出の審判請求書において、「しかしながら、引用文献1に記載の発明に対して、「前記シース遠位端部の肉厚は、遠位側において近位側よりも小さく」するという特徴を付加し、且つ、「前記拡張器バンプの最大半径(今回の補正により「最大直径」)は、前記シース遠位端部(87,97)の先端の外径よりも大きい」という特徴を付加することによって、更に有利な効果が得られるということは、本件発明者によって初めて実証されたものであって、引用文献1から当業者が容易に想到できたものではない。審査官殿のご認定は、いわゆる後知恵と呼ばれる類の認定であり、本件出願人は承服できない。」と主張する。
しかしながら、上記「第2 2(2)エ」で上述したとおり、引用文献2には、シース40の先端部における肉厚は、遠位側において近位側よりも小さくすること、シース40の先端部における外径は、近位側から遠位側に向かう方向においてテーパ状(先細)とすること、及び、拡張器の最大直径を有する部分である外面主直径は、シースの先端チップ62’における外径よりも大きくすること、これら構成を採用することによって、シースの先端62、62’を損傷から保護し血管壁を傷つけないようにするという作用効果を実現することが開示されている。そして、上述したとおり、スムーズかつ低侵襲に経皮的な術式を実現することは技術的課題として従来より存在することから、引用文献2に記載の当該構成に触れた当業者であれば、引用発明1に採用しようとする動機付けは充分にあるといえ、これを「いわゆる後知恵」とする請求人の主張は失当である。

また、請求人は、当該請求書において、「引用文献2-3に記載された構成には「シャドー」(シャドー半径方向距離)という概念がなく、引用文献2-3に示唆されていた効果、すなわち、患者の体内の組織中への挿入時に抵抗に遭うことはない、という効果が補正後の請求項1に係る発明においても得られるということは、本件発明者によって初めて実証されたものであって、引用文献1乃至3から当業者が容易に想到できたものとは言えない。更に、患者の体内の組織からの引き出し時に抵抗に遭うことはない、という効果については、引用文献2-3に示唆されていた効果を参酌したとしても、当業者が容易に想到できたものではない。」と主張する。
しかしながら、「シャドー半径方向距離」という概念は、上記「第2 2(2)エ」で上述したとおり、シースに対して長手軸線方向に平行な光を当てたときに形成されるシャドー領域の直径から「拡張器シャフトの外径」を差し引いたものを2で除したものに等しいものとして定義されるが、これは、「拡張器バンプの最大直径」、「シース遠位端部の先端の外径」及び「拡張器シャフトの外径」の相関関係を規定するために便宜上作り出した基準であるといえ、物品等の形状を表現上特定するに当たってこのような基準を適宜定めてそれぞれの相関性を示すことは、当業者であれば必要に応じて行う程度のものに過ぎず、新たな技術的思想の創作であるとまではいえない。
そして、患者の体内の組織中への挿入時の抵抗に関する効果については上述のとおりであるが、引き出し時の抵抗についても、上記相違点1,2に係る本件補正発明の構成を採用したことで当業者であれば推論し得る範囲の作用効果であるというしかなく、格別顕著な作用効果を奏するものであるとはいえない。

よって、請求人の主張は採用できない。

したがって、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により、又は、特許法29条1項3号に該当するので、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記の補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明
1 本願発明
2017年8月17日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、2015年11月2日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)である。

「拡張器とシースの組み合わせであって、
細長い管状シースを含み、前記シースは、シース本体、シース近位端部及びシース遠位端部を有し、
前記シース遠位端部の肉厚は、遠位側において近位側よりも小さく、
前記シース遠位端部の外径は、前記シース近位端部から前記シース遠位端部に向かう方向において先細となる部分を有しており、
前記シース本体は、内側又はルーメン半径を有し、前記シース遠位端部は、内側又はルーメン半径を有し、
前記シース近位端部は、孔を備えたシースハウジングを有し、
当該拡張器‐シース組み合わせは、近位端部及び遠位先端部を備えた細長い拡張器シャフトを有する拡張器を更に含み、前記拡張器は、その近位端部のところに拡張器ハブを有し、
前記拡張器の前記遠位先端部は、半径方向に拡大された拡張部材(拡張器バンプ)を有し、
前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が増大する近位テーパを有し、前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が減少する遠位テーパを更に有し、当該拡張器‐シース組み合わせは、長手方向軸線を有し、半径は、前記長手方向軸線から測定可能であり、
前記拡張器バンプは、前記近位テーパと前記遠位テーパとの間の箇所で測定可能な最大半径を有し、
前記拡張器バンプを前記細長い管状シース中に通すことができる、拡張器‐シース組み合わせ。」


2 原査定における拒絶の理由
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の文献1及び文献2に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
1.米国特許第6120480号明細書
2.登録実用新案第3020360号公報


3 引用文献
原査定で引用され、本願の優先日よりも前に頒布された刊行物である米国特許第6120480号明細書には、上記「第2 2(2)イ」で上述したとおり、以下の発明(以下、「引用発明1b」という。)が記載されている。

「拡張器12とシース14の組み合わせであって、
細長い管状シース14を含み、 前記シース14は、シース本体、近位端部及び遠位端部を有し、
前記シース本体は、内側面58又は内径を有し、前記シース遠位端部は、内側面又は内径を有し、
前記シース近位端部は、孔を備えたハウジング・アセンブリ16を有し、
当該拡張器12とシース14の組み合わせは、近位端部及び遠位端部を備えた細長い拡張器シャフト32を有する拡張器12を更に含み、前記拡張器12は、その近位端部のところにハブ22を有し、
前記拡張器12の前記遠位端部は、直径方向に拡大された拡張メンバを有し、
前記拡張メンバは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が増大する近位テーパ50を有し、前記拡張メンバは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が減少する遠位テーパ48を更に有し、当該拡張器12とシース14の組み合わせは、長手方向軸線を有し、半径は、前記長手方向軸線から測定可能であり、
前記拡張メンバは、前記近位テーパと前記遠位テーパとの間の中間区域49で測定可能な最大直径を有し、
前記拡張メンバを前記細長い管状シース14中に挿通することができる、拡張器12とシース14の組み合わせ。」

4 対比
本願発明と引用発明1bを対比すると、上記「第2 2(2)ウ」で上述したとおりであるから、本願発明と引用発明1bとの一致点及び相違点は以下のとおりとなる。

(一致点)
「拡張器とシースの組み合わせであって、
細長い管状シースを含み、前記シースは、シース本体、シース近位端部及びシース遠位端部を有し、
前記シース本体は、内側又はルーメン半径を有し、前記シース遠位端部は、内側又はルーメン半径を有し、
前記シース近位端部は、孔を備えたシースハウジングを有し、
当該拡張器‐シース組み合わせは、近位端部及び遠位先端部を備えた細長い拡張器シャフトを有する拡張器を更に含み、前記拡張器は、その近位端部のところに拡張器ハブを有し、
前記拡張器の前記遠位先端部は、半径方向に拡大された拡張部材(拡張器バンプ)を有し、
前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が増大する近位テーパを有し、前記拡張器バンプは、近位側から遠位側の方向に進む場合に半径が減少する遠位テーパを更に有し、当該拡張器‐シース組み合わせは、長手方向軸線を有し、半径は、前記長手方向軸線から測定可能であり、
前記拡張器バンプは、前記近位テーパと前記遠位テーパとの間の箇所で測定可能な最大半径を有し、
前記拡張器バンプを前記細長い管状シース中に通すことができる、拡張器‐シース組み合わせ。」

(相違点4)
本願発明では、「前記シース遠位端部の肉厚は、遠位側において近位側よりも小さく、前記シース遠位端部の外径は、前記シース近位端部から前記シース遠位端部に向かう方向において先細となる部分を有して」いるのに対して、引用発明1bでは、そのような構成を有しているか明らかでない点。


5 判断
上記相違点4について検討する。
原査定で引用され、本願の優先日よりも前に頒布された刊行物である登録実用新案第3020360号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
段落【0019】には、「15は鞘3の穿刺部5の先端に設けられた先鋭部である。拡張部4と先鋭部15の付近の結合状態の拡大図が、図2に示されている。拡張部4と先鋭部15は共に同一の傾斜角θで傾斜していて、先鋭部15が拡張部4の傾斜面上に延長されている。また、先鋭部15の終端には円弧面が形成されて、先鋭部15の円筒面がなだらかに直管状の穿刺部7に移行している(図3も参照)。」と記載されている。
段落【0023】には、「拡張器2の先端の穿刺孔への穿刺が始まると、侵入した拡張部4の先端や周辺には常に皮膚内細胞の収縮力が加えられる。しかしながら、拡張器2の拡張部4と鞘3の先鋭部15には弱い傾斜角θのテーパが形成されているので、これらの傾斜角θに沿って拡張部4と先鋭部15が徐々に穿刺孔を押し拡げながら抵抗なく皮膚内に侵入する。」と記載されている。
そして、先鋭部15において傾斜角θのテーパが形成されていることから、図2には、当該先鋭部15は、遠位側において近位側よりも小さく、先鋭部15の外径は、先鋭部の近位側から遠位側に向かう方向において先細となる点が開示されているといえる。(ここで、遠位側は患者側のことを、近位側は患者とは反対側のことをそれぞれ指す。以下、同じ。)
また、先鋭部15は鞘3(シース)の先端部を示すことは、図1及び2から明らかである。
さらに、先鋭部15のテーパは、皮膚内に徐々に穿刺孔を押し広げながら抵抗なく進入させることを目的として設けられたものであることも明らかである。

ここで、スムーズかつ低侵襲に経皮的な術式を実現することは技術的課題として従来より存在することから、引用発明1bの拡張器とシースの組み合わせにおいて、引用文献3に記載の上記構成に触れた当業者が、上記相違点4に係る本願発明の構成を想到することは、同一技術分野における技術的事項の単なる付加に過ぎないので、何ら困難性はない。
そして、本願発明の効果も、引用文献1及び引用文献3に記載された事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-08-30 
結審通知日 2018-09-03 
審決日 2018-09-14 
出願番号 特願2014-552193(P2014-552193)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 崇文姫島 卓弥  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 瀬戸 康平
芦原 康裕
発明の名称 バンプ付き拡張器先端部  
代理人 磯貝 克臣  
代理人 弟子丸 健  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山本 泰史  
代理人 松下 満  
代理人 ▲吉▼田 和彦  

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