• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1348493
審判番号 不服2017-13321  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-08 
確定日 2019-01-29 
事件の表示 特願2015-177401「花虫類に由来する発色団/蛍光体、およびそれらの使用法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月17日出願公開、特開2015-227382〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、以下に列挙する米国特許出願および国際出願に基づくパリ条約による優先権を主張する、平成12年10月13日を国際出願日とする出願(特願2001-530368号)の一部を、特許法第44条第1項の規定に基づき分割して新たな出願とした出願(特願2012-122888号)の一部を、さらに同規定に基づき分割して新たな出願としたものである。
そして、本願は、平成28年7月26日付け拒絶理由に対して、同年12月26日に意見書と同日付の手続補正書が提出され、平成29年4月27日付けで拒絶査定され、同年9月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付の手続補正書が提出されたものである。

(パリ条約による優先権)
米国特許出願09/418,529号 (1999.10.14)
米国特許出願09/418,917号 (1999.10.15)
米国特許出願09/418,922号 (1999.10.15)
米国特許出願09/444,341号 (1999.11.19)
米国特許出願09/444,338号 (1999.11.19)
米国特許出願09/458,477号 (1999.12.9)
米国特許出願09/457,556号 (1999.12.9)
米国特許出願09/458,144号 (1999.12.9)
米国特許出願09/457,898号 (1999.12.9)
PCT/US99/29405 (1999.12.10)
米国特許出願60/211,627号 (2000.6.14)
米国特許出願60/211,687号 (2000.6.14)
米国特許出願60/211,609号 (2000.6.14)
米国特許出願60/211,626号 (2000.6.14)
米国特許出願60/211,880号 (2000.6.14)
米国特許出願60/211,607号 (2000.6.14)
米国特許出願60/211,766号 (2000.6.14)
米国特許出願60/211,888号 (2000.6.14)
米国特許出願60/212,070号 (2000.6.14)


第2 平成29年9月8日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
平成29年9月8日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項8に
「【請求項8】
タンパク質が、配列番号:02、04、06、08、10、12、14、16、および18からなる群より選択される配列と少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1から7のいずれか一項記載のタンパク質。」とあったものを、補正後の請求項8において、
「【請求項8】
タンパク質が、アネモニア(Anemonia)野生型タンパク質、ハナヅタ(Clavularia)野生型タンパク質、ゾアンサス(Zoanthus)野生型タンパク質、およびディスコソマ(Discosoma)野生型タンパク質からなる群より選択される野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1から7のいずれか一項記載のタンパク質。」
とする補正事項を含むものである。(下線は補正部分である。)

2.目的要件について
上記補正事項によって、タンパク質の配列同一性について、補正前の「配列番号:02、04、06、08、10、12、14、16、および18からなる群より選択される配列と少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有する」という、配列番号で特定される配列に対するものから、「アネモニア(Anemonia)野生型タンパク質、ハナヅタ(Clavularia)野生型タンパク質、ゾアンサス(Zoanthus)野生型タンパク質、およびディスコソマ(Discosoma)野生型タンパク質からなる群より選択される野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する」という、由来生物の属を特定した野生型蛍光タンパク質に対するものに補正された。
そして、本願明細書の記載から、補正前の請求項8に記載される配列番号:02は、アネモニア・マジャノ(Anemonia majano)に由来する野生型蛍光タンパク質amFP486のアミノ酸配列であり、配列番号:04は、ハナヅタ(Clavularia)種に由来する野生型蛍光タンパク質cFP484のアミノ酸配列であり、配列番号:06は、ゾアンサス(Zoanthus)種Iに由来する野生型蛍光タンパク質zFP506のアミノ酸配列であり、配列番号:08は、ゾアンサス(Zoanthus)種IIに由来する野生型蛍光タンパク質zFP538のアミノ酸配列であり、配列番号:10は、ディスコソマ・ストリアタ(Discosoma striata)に由来する野生型蛍光タンパク質dsFP483のアミノ酸配列であり、配列番号:12は、ディスコソマ(Discosoma)種「赤色」に由来する野生型蛍光タンパク質drFP583のアミノ酸配列であり、配列番号:14は、アネモニア・スルカタ(Anemonia sulcata)に由来する野生型蛍光タンパク質asFP600のアミノ酸配列であり、配列番号:16は、ディスコソマ(Discosoma)種「緑色」に由来する野生型蛍光タンパク質dmFP592のアミノ酸配列であり、配列番号;18は、ディスコソマ(Discosoma)種「深紅色」に由来する野生型蛍光タンパク質dmFP592のアミノ酸配列であると認められるから、補正前の請求項8に記載される配列番号による特定は、これら特定の種の花虫類生物に由来する野生型蛍光タンパク質のアミノ酸配列を特定するものであると認められる。
これに対して、補正後の請求項8に特定される「アネモニア(Anemonia)」属には、上記「アネモニア・マジャノ」、「アネモニア・スルカタ」以外の他のアネモニア属の花虫類生物種が存在することが推認され、補正後の請求項8に特定される「ゾアンサス」属には、上記「ゾアンサス種I」、「ゾアンサス種II」以外の他のゾアンサス属の花虫類生物種が存在することが推認され、「ディスコソマ」属には、上記「ディスコソマ・ストリアタ」、「ディスコソマ種(赤色)」、「ディスコソマ種(緑色)」、「ディスコソマ種(深紅色)」以外の他のディスコソマ属の花虫類生物種が存在することが推認されることから、補正後の請求項8における由来生物の属を特定した野生型蛍光タンパク質は、補正前の請求項8における配列番号で特定される特定の種に由来する野生型蛍光タンパク質よりも拡張されていると認められる。
補正後の請求項8では、同一性の上限の数値は補正前の「少なくとも75%」から「少なくとも90%」に限定されているものの、この同一性を算出するもとのタンパク質(野生型蛍光タンパク質)のアミノ酸配列が拡張されていることから、タンパク質(変異体)の配列同一性について、配列番号で特定されたものに対して特定するものから、由来生物の属により特定された野生型蛍光タンパク質に対して特定するものとする補正は、補正前の発明の限定的減縮に該当するとは認められない。
したがって、上記補正事項を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しない。また、同第4号に規定された明りょうでない記載の釈明とは、不明りょうであった記載の不明りょうさを正してその記載本来の意味内容を明らかにすることをいうところ、上記の補正事項について、補正前の記載の本来の意味内容が補正後のものであるということは、明細書及び図面の記載及び技術常識に照らしても困難であるから、上記補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正に該当するともいえず、さらに、同第3号に規定された誤記の訂正のいずれを目的とする補正にも該当しない。

なお、審判請求人は審判請求書において、請求項1、8?10における補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする旨主張しているから、念のため、本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、補正の目的要件を満足するとした場合について、以下、3.に検討する。

3.目的要件を満足するとした場合
(1)本件補正
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「【請求項1】
生物発光性の花虫類種に見られない野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質の変異体であり、かつ該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも75%の配列同一性を有する、天然の環境以外で存在する、蛍光タンパク質。」とあったものを、補正後の請求項1において、
「【請求項1】
生物発光性の花虫類種に見られない野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質の変異体であり、該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体を有し、かつ該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と比べてより明るいか、より速やかに折りたたまれるか、またはその両方である、天然の環境以外で存在する、蛍光タンパク質。」
とする補正事項(ア)を含むものである。 (下線は補正部分である。)

また、本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項9に
「【請求項9】
タンパク質が、配列番号:02、04、06、08、10、12、14、16、および18からなる群より選択される配列と少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項8記載のタンパク質。」とあったものを、補正後の請求項9において、「【請求項9】
タンパク質が、配列番号:02、04、06、08、10、12、14、16、および18からなる群より選択される配列と少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項8記載のタンパク質。」
とする補正事項(イ)を含むものである。(下線は補正部分である。)

(2)目的要件について
上記補正事項(ア)によって、変異体の配列同一性が「少なくとも90%」に減縮され、また、「蛍光タンパク質」について、「βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体を有し、かつ該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と比べてより明るいか、より速やかに折りたたまれるか、またはその両方である」ものに限定された。
また、上記補正事項(イ)によって、変異体の配列同一性が「少なくとも90%」に減縮された。
したがって、上記補正事項(ア)、(イ)は、補正前の発明の限定的減縮を目的とする補正に該当するから、補正後の請求項1、9に係る発明は、それぞれ補正前の請求項1、9に係る発明を限定的減縮した発明に該当すると認められる。
そこで、補正後の請求項1、9に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができる(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する)かについて以下検討する。

(3)独立特許要件について
ア 本件補正発明1の進歩性について
ア-1 本件補正発明1
補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)は、以下のとおりのものと認められる。

「生物発光性の花虫類種に見られない野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質の変異体であり、該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体を有し、かつ該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と比べてより明るいか、より速やかに折りたたまれるか、またはその両方である、天然の環境以外で存在する、蛍光タンパク質。」

ア-2 優先権
分割出願に係る本願の原出願の原出願である特願2012-122888号の次の5つの優先権書類には、花虫類に由来する野生型の蛍光タンパク質は記載されているが、野生型蛍光タンパク質の変異体は記載されていない。
米国特許出願09/418,529号 (1999.10.14)
米国特許出願09/418,917号 (1999.10.15)
米国特許出願09/418,922号 (1999.10.15)
米国特許出願09/444,341号 (1999.11.19)
米国特許出願09/444,338号 (1999.11.19)
したがって、本件補正発明1については、早くとも1999年12月9日が、新規性進歩性の基準日となる。

ア-3 引用例1
1999年12月9日より前の、1999年10月に頒布された刊行物である、Nat. Biotechnol.,1999年10月,Vol.17,p.969-973(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、当審による翻訳を記載する。また、下線は強調のために当審が付したものである。
(ア)「非生物発光Anthozoa種の蛍光タンパク質」(タイトル)

(イ)「我々は、Aequorea victoriaの緑色蛍光タンパク質(GFP)に相同な6つの蛍光タンパク質をクローニングした。これらのうちの2つは、黄色および赤色波長で発光するGFPとは劇的に異なるスペクトル特性を有する。すべてのタンパク質は、非生物発光サンゴから単離され、GFP様タンパク質は常に生物発光に機能的に関連しているとは限らないことを示している。新しいタンパク質は、GFPで最初に観察された同じβ-カンフォールドを共有し、これは蛍光にとって重要な構造的特徴の比較分析の基礎を提供したインビボ標識のための新規タンパク質の有用性は、それらを哺乳動物細胞培養およびアフリカツメガエル胚におけるmRNAマイクロインジェクションアッセイにおいて発現させることによって実証された。」(969頁 要約)

(ウ)「発色団(Fluorophore)とその環境. タンパク質科学にとって特に興味深いGFP様タンパク質の2つの機能的特徴がある。第1は、分子酸素以外の外部因子の助けなしに発色団を自己触媒的に形成する能力である。このメカニズムに関与する官能基は最高の保存性を示すはずであると予想された。GFPにおいて、発色団は、残基65?67(Ser-Tyr-Gly)において、Ser65のカルボニル炭素とGly67のアミノ窒素との縮合と、続くTyr66のメチレン架橋の脱水素の結果として形成される^(17,18,20)。」(979頁右欄下から11行?980頁左欄1行)

(エ)「


図1.(A)蛍光タンパク質の多重アラインメント。番号付けは、A. victoriaGFPに基づく。Zoanthus由来の2つのタンパク質およびDiscosoma由来の2つのタンパク質を、互いの間で比較する:対の第1のタンパク質中の残基と一致する残基と同一の残基を、ダッシュで表す。導入したギャップをドットで表す。A.victoria GFPの配列において、βシートを形成するストレッチに下線を付す;側鎖がβ-canの内部を形成する残基に影を付ける。」(第970頁、GFPのアミノ酸配列と、zFP506、zFP538、amFP486、dsFP483、dsFP583、cFP484のアミノ酸配列とのアライメントが記載されている。)

(オ)表2(第971頁)に、Anemonia majanoに由来するamFP486、Zoantus sp.に由来するzFP506、zFP538、Discosoma striataに由来するdsFP483、Discisoma "red"に由来するdsFP583、Clavularia sp.に由来するcFP484の特性について記載されている。

ア-4 引用発明1
上記ア-3の(ア)、(イ)、(エ)、(オ)より、引用例1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「非生物発光Anthozoa種であるAnemonia majano、Zoantus sp.、Discosoma striata,、Discisoma "red"、Clavularia sp.によって産生される、β-カンフォールドを有する蛍光タンパク質であるamFP486、zFP506、zFP538、dsFP483、dsFP583、cFP484。」

ア-5 対比
本件補正発明1と引用発明1を対比する。
本件明細書(段落【0028】)に記載されるとおり、本件補正発明1にいう「花虫類」はアネモニア・マジャノ(anemonia majano)、ハナヅタ(Clavularia)、ゾアンサス(Zoanthus)、ディスコソマ・ストリアタ(Discosoma striata)、ディスコソマ(Discosoma)種「赤色」を包含するものであるから、引用発明1の「非生物発光Anthozoa種であるAnemonia majano、Zoantus sp.、Discosoma striata,、Discisoma "red"、Clavularia sp.」は、本件補正発明1にいう「花虫類」に相当すると認められる。
そうすると、引用発明1の「蛍光タンパク質であるamFP486、zFP506、zFP538、dsFP483、dsFP583、cFP484」は、本件補正発明1の「野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質」と、「花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質」である点で共通する。
また、本件補正発明1の「天然の環境以外で存在する」とは、本願明細書の段落【0087】の記載から、単離されている状態を包含すると認められ、引用発明1の蛍光タンパク質は単離されていると認められるから、「天然の環境以外で存在する」ものであると認められる。さらに、引用発明1の蛍光タンパク質は「非生物発光Anthozoa種」によって産生されるものでるから、「生物発光性の花虫類種に見られない」ものであることは明らかである。
したがって、両者は、
「生物発光性の花虫類種に見られない花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質であって、βカンフォールド(β-can fold)を有し、天然の環境以外で存在する、蛍光タンパク質。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点1)
本件補正発明1は、蛍光タンパク質が野生型蛍光タンパク質の変異体であることが特定され、かつ、該変異体が「該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、・・・蛍光体を有し、かつ該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と比べてより明るいか、より速やかに折りたたまれるか、またはその両方である、」こと、つまり、該変異体が野生型蛍光タンパク質と「90%の配列同一性」を有し、「蛍光体」を有し、野生型タンパク質と比べて「より明るい」および/または「より速やかに折りたたまれる」ことが特定されているのに対して、引用発明1は、引用例1に野生型蛍光タンパク質として記載されたものであり、「蛍光体」を有し、野生型蛍光タンパク質と比べて「より明るい」および/または「より速やかに折りたたまれる」ものであるか明らかでない点。

ア-6 判断
(相違点1)について
蛍光タンパク質に変異を導入して、新たな色や増大した蛍光強度のような特性を付与することは、1999年12月9日以前において周知技術であったと認められる(特表平10-509881号公報、国際公開97/11094号、国際公開第97/26333号参照。)
そうすると、引用発明1において、増大した蛍光強度、すなわち、野生型よりも明るい蛍光タンパク質を作成する目的で、野生型蛍光タンパク質に変異を導入することは当業者が容易になし得ることであり、変異を導入した変異体が野生型に対して「90%の配列同一性」を有することを特定することも、当業者が適宜なし得ることである。
また、本件補正発明1には「βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体」を有することが特定されているが、この「蛍光体」の用語は、本願明細書の段落【0120】の記載、引用例1の上記(ウ)の記載、および、GFPのような蛍光タンパク質はβ-can(barrel)と発色団(chromophore)を有する構造を持つという技術常識(Science,(1996) Vol.273,p.1392-1395)からみて、「発色団」を意味するものと認められるところ、上記技術常識から、引用発明1の野生型蛍光タンパク質に変異を導入した変異体が蛍光を発する蛍光タンパク質であれば、β-can構造と発色団を有するといえる。
そして、引用発明1において、野生型蛍光タンパク質に変異を導入した変異体について、野生型よりも「明るい」ことや、「βカンフォールド」に加えて「蛍光体」を有することを特定することにも格別の困難性はない。

(本件補正発明1の効果について)
本件補正発明1には「該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と比べてより明るいか、より速やかに折りたたまれるか、またはその両方である」と特定されているが、この特定は定性的であって、どのくらい明るいか、どのくらい速いかについて具体的に特定されていないから、本件補正発明1には、野生型と比べてわずかに明るい場合やわずかに速い場合が包含されていると認められる。
そして、そのような場合については、明るさや折りたたみ性の効果が格別顕著であるとはいえない。

・蛍光タンパク質が「アネモニア・マジャノ」に由来する場合
本願明細書の試験II.には、amFP486に由来する2つの変異体Mut15およびMut32が記載され、これらは野生型のamFP486の相対輝度(0.43)(表1)よりも高い相対輝度(0.78、0.69)を有していること(表2)、Mut32は折りたたみが迅速であることが記載されているが、本願明細書の段落【0128】に「Mut15には以下の点突然変異がある:101位におけるA→G(番号はATGを開始点とする);129位におけるT→C;202位?204位におけるAAA→TTG;240位におけるC→T。Mut32には野生型に対して2か所のアミノ酸の置換(Asn-34→Ser;およびLys-68→met)がある。」と記載されるとおり、Mut15およびMut32はそれぞれ特定の変異を有する変異体である。
これに対して、本件補正発明1は、野生型のアミノ酸配列に少なくとも90%の配列同一性でアミノ酸置換などの変異を導入した変異体が広く包含されるところ、蛍光タンパク質の蛍光の明るさは蛍光タンパク質のアミノ酸配列に基づく三次構造に影響を受けると考えられるから、Mut15およびMut32とは異なるアミノ酸置換などの変異を有する変異体の発する蛍光が上記2つの変異体と同様であるとは認められない。

・蛍光タンパク質が「ハナヅタ」に由来する場合
本願明細書の試験III.には、cFP484に由来する2つの変異体、Δ19 cFP484とΔ38 cFP484が記載され、哺乳類細胞で発現させた2つの変異体の発する蛍光を細胞外から観察できたことが示されていると認められるが、これらの変異体の蛍光が野生型よりも「明るい」ことなどは示されていない。なお、cFP484の全アミノ酸残基は266であるから、Δ38 cFP484が野生型の蛍光タンパク質と「少なくとも90%の配列同一性」を有するものに該当するとは認められない。
また、上記2つ変異体はN末端の欠失変異体であるが、本件補正発明1は、欠失変異体だけでなく、野生型のアミノ酸配列に少なくとも90%の配列同一性でアミノ酸置換などの変異を導入した変異体が広く包含されるところ、蛍光タンパク質の蛍光の明るさは蛍光タンパク質のアミノ酸配列に基づく三次構造に影響を受けると考えられるから、アミノ酸置換などの変異を有する変異体の発する蛍光が上記2つの欠失変異体と同様であるとも認められない。

・蛍光タンパク質が「ゾアンサス」に由来する場合
本願明細書の試験IV.には、zFP506に由来する変異体N65Mは野生型の相対輝度(1.02)よりも高い相対輝度(1.78)を有していること(表5)が記載され、本願明細書の試験V.には、zFP538に由来する変異体M128Vは野生型の相対輝度(0.24)よりも高い相対輝度(0.50)を有していること(表6)、野生型より速く折りたたまれることが記載されている。
しかし、本件補正発明1には野生型のアミノ酸配列に少なくとも90%の配列同一性でアミノ酸置換などの変異を導入した変異体が広く包含されるから、N65M、M128Vとは異なる変異を有する変異体の発する蛍光や折りたたみ性が上記2つの変異体と同様であるとは認められない。

以上のとおり、本件補正発明1は、引用例1の記載および技術常識から予測できない効果を奏するとは認められない。
よって、本件補正発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件補正発明9の進歩性について
イ-1 本件補正発明9
補正後の請求項9に係る発明(以下、「本件補正発明9」という。)は、以下のとおり、補正後の請求項8を引用しており、補正後の請求項8は補正後の請求項1を引用している。

「【請求項1】
生物発光性の花虫類種に見られない野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質の変異体であり、該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有し、βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体を有し、かつ該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と比べてより明るいか、より速やかに折りたたまれるか、またはその両方である、天然の環境以外で存在する、蛍光タンパク質。
【請求項8】
タンパク質が、アネモニア(Anemonia)野生型タンパク質、ハナヅタ(Clavularia)野生型タンパク質、ゾアンサス(Zoanthus)野生型タンパク質、およびディスコソマ(Discosoma)野生型タンパク質からなる群より選択される野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1から7のいずれか一項記載のタンパク質。
【請求項9】
タンパク質が、配列番号:02、04、06、08、10、12、14、16、および18からなる群より選択される配列と少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項8記載のタンパク質。」

そして、本願明細書(段落【0029】、(表1)、図1)の記載からみて、補正後の請求項9に特定される「配列番号:02」のタンパク質とは、請求項8に特定されるアネモニア(Anemonia)野生型タンパク質に該当するものであると認められる。

したがって、タンパク質が「配列番号:02」のタンパク質である場合の本件補正発明9を他の請求項を引用しない形で記載すると、本件補正発明9は以下のとおりのものと認められる。

『生物発光性の花虫類種に見られない野生型のアネモニア(Anemonia)蛍光タンパク質の変異体であり、該野生型のアネモニア(Anemonia)蛍光タンパク質の配列番号:02の配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体を有し、かつ該野生型のアネモニア(Anemonia)蛍光タンパク質と比べてより明るいか、より速やかに折りたたまれるか、またはその両方である、天然の環境以外で存在する、蛍光タンパク質。』

イ-2 優先権
本件補正発明9に特定される「配列番号:02」の配列とは、「生物発光性の花虫類種に見られない野生型のアネモニア(Anemonia)蛍光タンパク質」であり、これは、アネモニア・マジャノ(Anemonia majano)に由来する野生型『amFP486』タンパク質のアミノ酸配列であると認められる。
これに対して、優先権基礎出願である米国特許出願09/458144号の明細書には、野生型amFP486の2つの変異体(Mut15およびMut32)が記載され、これら変異体の元となる野生型amFP486のアミノ酸配列として配列番号56が示されている。また、同じく野生型amFP48の2つの変異体(Mut15およびMut32)に関する、米国特許出願60/211626号の明細書には、変異体の元となる野生型amFP486のアミノ酸配列として図6が示されている。
しかし、配列番号56、図6で表されるアミノ酸配列は、いずれも本願において配列番号:02で表されるアミノ酸配列と2つのアミノ酸残基において異なっており(米国特許出願09/458144号、60/211626号では141位がリシン、196位がバリンであるのに対し、配列番号:02では141位がメチオニン、196位がアラニンである。)、上記2つの優先権基礎出願に配列番号:02の配列が記載されているとは認められない。
したがって、「配列番号:02」(配列番号:02と少なくとも90%の配列同一性を有する『amFP486』の変異体)を特定する本件補正発明9については、パリ条約に基づく優先権の利益を享受することはできず、本願の原出願の原出願の出願日である2000年10月13日が、新規性進歩性の基準日となる。

イ-3 引用例2
2000年10月13日より前の、2000年6月15日に頒布された刊行物である、国際公開第00/34526号(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、パテントファミリーである特表2002-531146号公報の記載を翻訳として記載する。また、下線は強調のために当審が付したものである。
(ア)「1. 天然の環境以外において存在する非生物発光性Anthozoa蛍光タンパク質。
2. Anemonia majano、Clavularia sp.、Zoanthus sp.、Discosoma sp.「red」、Discosoma striata、Anemonia sulcata、Discosoma sp.「magenta」、およびDiscosoma sp.「green」からなる群より選択される非生物発光性Anthozoa種によって産生される、請求項1に記載のタンパク質。
3. amFP486、cFP484、zFP506、zFP538、dsFP483、drFP583、asFP600、dgFP512、およびdmFP592からなる群より選択される、請求項2に記載のタンパク質。
4. 配列番号55;配列番号56;配列番号57;配列番号58;配列番号59;配列番号60;配列番号61;配列番号62;および配列番号63からなる群より選択される配列を有する、請求項2に記載のタンパク質。」(特許請求の範囲)

(イ)「野生型GFPおよび変異型GFP S65Tの結晶構造は、GFPの三次元構造がバレルに類似することを示す(Ormoら、Science 273(1996)1392?1395;Yangら、Nature Biotechnol.14(1996)、1246-1251)。バレルは、コンパクトな構造中のβシートからなり、ここで、その中心において、発色団を含有するαヘリックスは、バレルによって遮蔽されている。コンパクトな構造は、GFPを、多様な条件下および/または厳しい条件下(例えば、プロテアーゼ処理)で非常に安定にして、一般に、GFPを極度に有用なレポーターにする。しかし、GFPの安定性は、短期間の事象または反復する事象を決定することについて、GFPを最適より下にする。
多数の研究が行われており、種々の研究目的のために、GFPの特性を改善し、そして、有用かつ最適化されたGFP試薬を生成する。GFPの新しいバージョンが開発され(例えば、「ヒト化」されたGFP DNA)、そのタンパク質産物が哺乳動物細胞中で合成を増大される(Haasら、Current Biology 6(1996)315?324;Yangら、Nucleic Acids Research 24(1996)4592?4593)。そのような1つのヒト化タンパク質は、「増強されたグリーン蛍光タンパク質(EGFP)」である。GFPへの他の変異は、ブルー光、シアン光、およびイエロー-グリーン光放射バージョンを生じた。GFPの大きな有用性に関わらず、GFPに類似しているかまたは異なる特性を有する他の蛍光タンパク質が、当該分野において有用である。新規な蛍光タンパク質は、可能な新規な色を生じるか、またはpH依存性の蛍光を生成する。より大きな励起についての新規なスペクトルおよびより良好な適合性に基づいて、新規な蛍光タンパク質の他の有用な利点には、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の可能性を含む。」(第2頁21?第3頁17行)

(ウ)「【図2】
図2Aは、新規な蛍光タンパク質の多重アラインメントを示す。」(第5頁13?14行)

(エ)「


(図2Aには、amFP486のアミノ酸配列SEQ ID 55が示されている。)

イ-4 引用発明2
上記(イ-3)の(ア)、(イ)より、引用例2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「天然の環境以外において存在する、非生物発光性Anthozoa種であるAnemonia majanoによって産生される、配列番号55のアミノ酸配列を有する、amFP486蛍光タンパク質。」

イ-5 対比
本件補正発明9と引用発明2を対比する。
引用発明2の「配列番号55のアミノ酸配列を有する、amFP486蛍光タンパク質」は、本件補正発明9の「野生型のアネモニア(Anemonia)蛍光タンパク質」と、アネモニア(Anemonia)によって産生されるアネモニア(Anemonia)蛍光タンパク質である点で共通する。また、Anthozoa種が花虫類であり、Anemonia majanoによって産生される蛍光タンパク質が「生物発光性の花虫類種に見られない」ものであることは明らかである。

したがって、両者は、
「生物発光性の花虫類種に見られないアネモニア(Anemonia)蛍光タンパク質であって、天然の環境以外で存在する、蛍光タンパク質。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点2)
本件補正発明9は、蛍光タンパク質が野生型蛍光タンパク質の変異体であることが特定され、野生型蛍光タンパク質のアミノ酸配列が「配列番号:02」であり、該変異体が「該アネモニア(Anemonia)野生型タンパク質の配列番号:02の配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体を有し、かつ該アネモニア(Anemonia)野生型タンパク質と比べてより明るいか、より速やかに折りたたまれるか、またはその両方である」こと、つまり、該変異体が野生型蛍光タンパク質と「90%の配列同一性」を有し、「βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体」を有し、野生型蛍光タンパク質と比べて「より明るい」および/または「より速やかに折りたたまれる」ことが特定されているのに対して、引用発明2は、アミノ酸配列が「配列番号55」であって、引用例2に野生型蛍光タンパク質として記載されたものであり、「βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体」を有し、野生型蛍光タンパク質と比べて「より明るい」および/または「より速やかに折りたたまれる」ものであるか明らかでない点。

イ-6 判断
(相違点2)について
野生型蛍光タンパク質のアミノ酸配列について、本件補正発明9の「配列番号:02」と、引用発明2の「配列番号55」(上記イ-3(エ)のSEQ ID 55)とは、全229アミノ酸残基中の2アミノ酸残基が異なっているが、いずれもアネモニアによって産生されるアネモニア蛍光タンパク質のアミノ酸配列であって極めて類似するものである。
そして、引用例2の発明の背景の項に、GFPのような蛍光タンパク質に変異を導入して、異なる特性を有する有用な他の蛍光タンパク質を作成することについて記載され、異なる特性として新規な色やより大きな励起スペクトルが示されている(イ-3(イ))ように、蛍光タンパク質に変異を導入して新たな色や増大した蛍光強度のような特性を付与することは、2000年10月13日以前において周知技術であったと認められる(特表平10-509881号公報、特表11-512441号公報(国際公開97/11094号)、特表2000-503536号公報(国際公開第97/26333号)参照。)
そうすると、引用発明2において、増大した蛍光強度、すなわち、野生型よりも明るい蛍光タンパク質を作成する目的で、野生型蛍光タンパク質に変異を導入することは当業者が容易になし得ることであり、変異を導入した変異体が野生型に対して「少なくとも90%の配列同一性」などのように導入した変異が少ないことを特定することも、当業者が適宜なし得ることである。
また、本件補正発明9には、「βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体」を有することが特定されているが、この「蛍光体」の用語は、本願明細書の段落【0120】の記載、および、GFPのような蛍光タンパク質はβ-canと発色団を有する構造を持つという技術常識(Science,(1996) Vol.273,p.1392-1395)からみて、「発色団」を意味するものと認められるところ、上記技術常識から、引用発明1の野生型蛍光タンパク質に変異を導入した変異体が蛍光を発する蛍光タンパク質であれば、β-can構造と発色団を有するといえるから、引用発明1において、野生型蛍光タンパク質に変異を導入した変異体について、野生型よりも「明るい」ことや、「βカンフォールド(β-can fold)および蛍光体」を有することを特定することにも格別の困難性はない。
そして、引用発明2の「配列番号55」のアミノ酸配列に変異を導入した変異体の中には、本件補正発明9のアミノ酸配列と相違する2アミノ酸にも変異が導入された変異体も含まれる。一方、本件補正発明9の「配列番号:02」のアミノ酸配列に少なくとも90%の配列同一性(最大で22アミノ酸残基)で変異が導入された変異体には、この2アミノ酸に変異が導入された変異体も含まれる。そうすると、「配列番号:02」からの変異体と、「配列番号55」からの変異体とは、重複する変異体を含むことになるといえる。
以上のとおりであるから、相違点2は当業者が容易になし得ることである。

(本件補正発明9の効果について)
本願明細書の試験II.には、amFP486の2つの変異体、Mut15とMut32が記載されており、(表2)には、これらの変異体は野生型蛍光タンパク質 amFP486よりも有意に相対輝度の値が高いことが示されている。
しかし、本件補正発明9は、この2つの変異体だけでなく、「配列番号:02」のアミノ酸配列に少なくとも90%の配列同一性で変異を導入した変異体が広く包含されるところ、蛍光タンパク質の蛍光の輝度は蛍光タンパク質のアミノ酸配列に基づく三次構造に影響を受けると考えられるから、上記2の変異体とは異なるアミノ酸配列を有する広範な変異体が上記2つの変異体と同様にamFP486よりも有意に高い相対輝度の値を示すとは認められない。
したがって、本件補正発明9の全体において、引用例1の記載および技術常識から予測できない効果を奏するとは認められない。

よって、本件補正発明9は、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件補正発明1のサポート要件について
ウ-1 本件補正発明1の解決しようとする課題
補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)の解決しようとする課題は、補正後の請求項1の記載からみて、野生型の蛍光タンパク質の変異体であって、野生型の蛍光タンパク質と比べて「より明るい」および/または「より速やかに折りたたまれる」ものである、蛍光タンパク質の提供であると認められる。

ウ-2 本願明細書の記載
本願明細書の実施例には実験I?VIIが示されており、実験I?VIIには、以下の事項が示されていると認められる。
I.(表1)に示される9種の野生型花虫類タンパク質とその特性、
II.amFP486の変異体、Mut15およびMut32の特性(表2)、Mut15およびMut32は、野生型のamFP486より相対輝度が高く、Mut32は折りたたみが迅速であること、野生型のamFP486、Mut15、Mut32を哺乳細胞で発現させると、導入細胞の蛍光強度は野生型のamFP486、Mut15、Mut32で有意差はないこと(表3)、野生型のamFP486、Mut15、Mut32で形質転換した大腸菌DH5αにおける、発現レベルや、得られたタンパク質の濃度、蛍光強度など(表4)、
III.cFP484の変異体、Δ19cFP484 およびΔ38cFP484の哺乳細胞での発現と、蛍光顕微鏡での観察、
IV.zFP506の変異体、N65Mの特性 (表5)
V.zFP538の変異体、M128Vの特性(表6)と、M128Vが野生型より早く折りたたまれること、
VI.drFP583のヒト化変異体、E5、E8などの特性(表7)、
VII.asFP600の変異体、Mut1の特性(表9)

したがって、本願明細書の実施例には、
・アネモニア・マジャノに由来する蛍光タンパク質amFP486(配列番号:02)の特定の変異体、Mut15、Mut32、
・ゾアンサス種Iに由来する蛍光タンパク質zFP506(配列番号:06)の特定の変異体、N65M
・ゾアンサス種IIに由来する蛍光タンパク質zFP538(配列番号:08)の特定の変異体、M128V、
・ディスコソマ種「赤色」に由来する蛍光タンパク質drFP583(配列番号:12)の特定の変異体、ヒト化drFP583(表7:E5、E8、E5up、E5down、E25、AG4、AG4H)
・アネモニア・スルカタに由来する蛍光タンパク質asFP600(配列番号:14)の特定の変異体、Mut1
が記載されており、これら特定の変異体について、それぞれの対応する野生型の蛍光タンパク質より「明るい」および/または「速やかに折りたたまれる」という特性に関して記載されていると認められる。
なお、(表8)には、「drFP583/*dmFP592ハイブリッドタンパク質」の機能について記載されているが、「drFP583/*dmFP592ハイブリッドタンパク質」は本件補正発明1にいう野生型の蛍光タンパク質と「少なくとも90%の配列同一性」を有するものに該当するとは認められない。

ウ-3 判断
本件補正発明1には、変異を導入して変異体を作成する元となる野生型蛍光タンパク質について具体的に特定されていない。それに対して、発明の詳細な説明(表1、配列表)には、アネモニア由来のものが2つ、ハナヅタ由来のものが1つ、ゾアンサス由来のものが2つ、ディスコソマ由来のものが4つ、の合計9つの野生型蛍光タンパク質が記載されているが、これらのアミノ酸配列について検討すると、同じ属由来のものであっても同一性は80%程度、異なる属のものの間では同一性は60%を超えるものがないほど、多様性に富んでいる。そして、花虫類は、約6000種を含む非常に広範な生物学的分類であって、発明の詳細な説明に記載された上述の属はそのごく一部分に過ぎない(必要ならば、「岩波 生物学辞典第4版」(1996年3月21日 岩波書店発行)第1112頁、1583から1584頁)。また、本件補正発明1の先行技術に相当する上記引用例1に、新しい野生型蛍光タンパク質は、GFPが特徴的に持つβ-can構造に基づいてクローニングされた旨が記載されている。これらのことを考慮すると、新たな花虫類に由来する野生型蛍光タンパク質は、せいぜいβ-can構造しか共通しておらず、未知で多様であって、発明の詳細な説明に具体的に記載された9つのものとはアミノ酸配列が大きく異なるものが多数包含されると考えられる。
そうすると、本件補正発明1に係る変異体の元となる「生物発光性の花虫類種に見られない野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質」は、発明の詳細な説明に記載されたものを大きく超えている。
このとおり、発明の詳細な説明は、そもそも野生型のタンパク質についての開示が不足している以上、それと比べて「より明るい」および/または「より速やかに折りたたまれる」ものを提供するという課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているということはできない。
したがって、本件補正発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

エ 審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、概ね以下の事項を主張している。
(進歩性)
本願の優先日当時、非生物発光性の花虫類由来の蛍光タンパク質の発見については報告されたばかりで、変異体は作成されていませんでした。したがって、本願の優先権主張の基礎となる出願がされるまでは、当業者は、蛍光を保持した花虫類タンパク質の変異体を作製し得ることを全く予測しなかったものと思量いたします。
特に、本願出願前において花虫類蛍光タンパク質の変異体を作製し得ると考えるための具体的な根拠すらない状況では、当業者は、より明るくかつ/またはより速やかに折りたたまれる変異体を作製することを想起することは一層なかったものと請求人は確信いたします。
引用文献5および6に教示されているのは野生型の花虫類に限られ、したがって、変異体については教示されておらず、ましてより明るくまたはより速やかに折りたたまれる変異体については何ら示唆されておりません。

(サポート要件)
本願出願当時、相同性を有するタンパク質間で保存されているアミノ酸残基は、それらタンパク質の構造および機能を維持するのに重要な役割を担っている蓋然性が高いことが当分野において良く知られておりました。
そして本願明細書で例示されたタンパク質、または開示された例示タンパク質と配列類似性を有するタンパク質において、上述のような変異させるべきさらなる残基は、例えば本願明細書に記載された例示タンパク質との配列アラインメントを行うことにより、容易に同定することができます。具体的には、他の花虫類の色素タンパク質または蛍光タンパク質とのアラインメントに基づき、例示された変異体蛍光タンパク質において、タンパク質の蛍光消失の懸念なく変異させることができる野生型残基を同定することが可能です。同様に、野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質(本願明細書の実施例に具体的に記載されたもの以外)と他の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質(本願明細書の実施例に具体的に記載されたもの)とのアラインメントを行って、野生型のタンパク質において、タンパク質の蛍光消失の懸念なく変異させうる残基を同定することが可能です。当業者は、アラインメント等により蛍光に直接寄与する機能的ドメインを容易に同定することが可能ですので、タンパク質の蛍光消失の懸念なく、本願明細書の開示に基づいて、実施例に記載された変異体タンパク質に加えて、花虫類蛍光タンパク質の変異体を作製することができることを合理的に予測するものと思量いたします。そして、そのプロセスは過度の試行錯誤を要するものでないことは明らかです。
花虫類の野生型の広範な種から作製された蛍光タンパク質変異体について、本願明細書において複数の成功事例が示されていることに鑑みれば、当業者は、更なる花虫類蛍光タンパク質変異体が作製できることをただちに合理的に予測し、そしてその作製方法を直ちに理解するものと思量いたします。

そこで、以下検討する。
(進歩性)の主張に対し
上記ア、イで述べたとおり、蛍光タンパク質に変異を導入して新たな色や増大した蛍光高度のような特性を付与することは、優先日当時において周知技術であったと認められるから、当業者は、公知の野生型蛍光タンパク質について、明るさを増大させた花虫類タンパク質の変異体の作成することを容易に想到するといえる。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

(サポート要件)の主張に対し
引用例1(引用文献5)の図1A、引用例2(引用文献6)の図2A、のアライメントからみて、本願明細書の実施例に記載される由来の異なる複数の蛍光タンパク質は、β-can構造を有しているという点では共通すると認められるものの、それぞれの蛍光タンパク質のアミノ酸配列が似通っているとも、アライメントによってタンパク質の蛍光を発するという機能に重要な共通するアミノ酸配列部分が特定できるとも認められない。
審判請求人は、蛍光タンパク質のアミノ酸配列は由来が異なっても相同性が高い、あるいは、タンパク質が蛍光を発する機能を担う特定の部分のアミノ酸配列が保存されていることを前提として、他の花虫類の蛍光タンパク質はアラインメントに基づき同定できると主張していると理解されるが、審判請求人のそのような前提は誤りであると認められる。
そもそも、本件補正発明1には配列類似性を有するか否かを決めるための蛍光タンパク質やその変異体のアミノ酸配列は何ら特定されておらず、本願明細書にも、表1に示された9つの特定の野生型蛍光タンパク質以外の野生型蛍光タンパク質を得たことについては記載されていないのであるから、そのような未だ得られていない野生型蛍光タンパク質に対して90%の配列同一性のような広範な変異を導入した変異体の機能について合理的に予測することができるとはいえない。
したがって、誤った前提に基づく主張は採用することができない。

(上申書の補正案)
審判請求人は平成30年3月28日付け上申書において、補正案を示してているから、念のため補正案についても検討する。
上申書の補正案の請求項1に係る発明には、蛍光タンパク質が「アネモニア(Anemonia)野生型タンパク質、ハナヅタ(Clavularia)野生型タンパク質、ゾアンサス(Zoanthus)野生型タンパク質、およびディスコソマ(Discosoma)野生型タンパク質からなる群より選択される野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも90%の配列同一性を有」することが特定されている。
しかし、そのような発明も、上記アのとおり、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、上申書の補正案に記載された発明も特許を受けることができない。

オ まとめ
本件補正発明1、9は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができず、また、本件補正発明1は、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正発明1、9は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

4.小括
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項または第5項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1?30に係る発明は、平成28年12月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?30に記載の事項により特定される発明であり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
生物発光性の花虫類種に見られない野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質の変異体であり、かつ該野生型の花虫類色素タンパク質または蛍光タンパク質と少なくとも75%の配列同一性を有する、天然の環境以外で存在する、蛍光タンパク質。」

2.原査定の理由
平成29年4月27日付け拒絶査定(原査定)は、本願の請求項1?30に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3.当審の判断
上記第2の3.のとおり、本件補正発明1は引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件補正発明1は本件補正発明9を包含するから、本件補正発明9と同様に、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件補正発明1は本願発明に特定される全ての事項を含み、さらなる事項を特定する発明であるところ、上記のとおり、本件補正発明1は当業者に容易想到であるから、補正により特定された事項を含まない本願発明も、本件補正発明1と同様に、引用例1または引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-08-31 
結審通知日 2018-09-05 
審決日 2018-09-19 
出願番号 特願2015-177401(P2015-177401)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07K)
P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂崎 恵美子  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 中島 庸子
山中 隆幸
発明の名称 花虫類に由来する発色団/蛍光体、およびそれらの使用法  
代理人 刑部 俊  
代理人 小林 智彦  
代理人 川本 和弥  
代理人 井上 隆一  
代理人 佐藤 利光  
代理人 大関 雅人  
代理人 新見 浩一  
代理人 山口 裕孝  
代理人 清水 初志  
代理人 春名 雅夫  
代理人 五十嵐 義弘  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ