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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F28D
管理番号 1348564
審判番号 不服2018-6616  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-15 
確定日 2019-02-27 
事件の表示 特願2016-94271号「自動車の熱交換器システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-211843号、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月10日(パリ条約による優先権主張 2015年5月12日 (DE)ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成29年3月21日付けで拒絶理由が通知され、平成29年8月16日付けで意見書が提出されると共に手続補正され、平成30年1月9日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)され、これに対し、平成30年5月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献1?4に基いて、又、本願請求項6,7に係る発明は、以下の引用文献1?5に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧:
1.特許第5556897号公報
2.特開2010-249424号公報
3.特開平10-246583号公報
4.特開2012-193912号公報
5.特表2013-543575号公報

第3 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりの発明と認める。

作動媒体の為の一つの閉じられた循環系を有する自動車の熱交換器システムであって、作動媒体の蒸発の為の蒸発装置(1)と、蒸気状の作動媒体の凝縮の為の凝縮装置(2)が設けられており、および凝縮装置(2)と蒸発装置(1)の間に液体状の作動媒体の為の貯蔵容器(3)が設けられており、貯蔵容器(3)と蒸発装置(1)が、液体状の作動媒体の為のサプライ部配管(14)を介して互いに接続されている自動車の熱交換器システムにおいて、
貯蔵容器(3)と蒸発装置(1)が追加的に、一つの調整配管(21)を介して互いに接続されていること、
蒸発装置(1)が、少なくとも一つの蒸発装置カセット(4)を有し、蒸発装置カセット(4)内に毛細管構造(8)が設けられており、そして蒸発装置カセット(4)が、液体側(12)及び蒸気側(13)並びに蒸気収集部(16)を有すること、
蒸発装置カセット(4)の蒸気側(13)に、複数の蒸気溝及び/又は複数の蒸気チャネルが蒸発装置カセット(4)のハウジング(5)の底部内に設けられており、
蒸発装置(1)が、少なくとも二つの蒸発装置カセット(4)を有し、当該蒸発装置カセット(4)の間に、一つのチャネル(10)、特に排ガスチャネルが形成されており、
蒸発装置カセットは、長方形のプレート形状に構成されていることを特徴とする自動車の熱交換器システム。

なお、平成30年5月15日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1には、「・・・・構成されていることいることを特徴とする自動車の熱交換器システム。」と記載されているが、当該記載は「・・・・構成されていることを特徴とする自動車の熱交換器システム。」の明らかな誤記と認められるので、上記のとおり認定した。

ここで、本願発明は、原査定の対象である、平成29年8月16日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明を、請求項6及び明細書の段落【0022】の記載に基いて、さらに補正したものである。
また、本願請求項2?6に係る発明は、いずれも本願発明を引用し、本願発明を減縮するものである。

第4 引用文献等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(なお、下線は理解の一助のため、当審で付与した。)。
(1)「【技術分野】
本発明はループ型ヒートパイプとこれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
各種発熱体を冷却するためのデバイスとして、図1Aに示すループ型ヒートパイプが知られている(たとえば特許文献1及び2参照)。ループ型ヒートパイプは、蒸発器110と凝縮器130を、液管112及び蒸気管113によりループ状に接続して作動流体を循環させる冷却機構である。図1Bに示すように、CPU等の発熱体120に蒸発器110を接触させ、発熱体120からの熱で蒸発器110内の作動液105を気化させることによって発熱体120を冷却する。蒸発器110で発生した作動流体の蒸気103は、蒸気管113により凝縮器130へ送られ、凝縮器130で液化される。液体状態になった作動流体はリザーバタンク125に収容され、蒸発器110に供給される。
電子部品等の発熱体120は、LSIパッケージに代表されるように平面型の形状をしていることが多いことから、受熱部である蒸発器110も発熱体120と密着しやすい平面型であるほうが好ましい。また、ループ型ヒートパイプの冷却性能を高めるためには、蒸発器110の内部容積を大きくすることが有効であるが、電子機器の小型化、軽量化を考えると、蒸発器110の形状をできるだけコンパクトにする必要がある。この相反する要請に答えて、外形がコンパクトでありながら内部容積を大きくできる形状は平面型であり、この点でも平板型蒸発器が望ましい。」(段落【0001】?【0003】)

(2)「【発明が解決しようとする課題】
一般に平板型の蒸発器は、円筒型蒸発器と比較して作動液の流入口が狭く、内部に蒸気泡が溜まりやすい構造である。発明者らは、平板型蒸発器110を垂直に用いる場合や、マルチCPUの冷却にループ型ヒートパイプを用いる場合に、ヒートリークによる気泡の問題がいっそう顕著化することを見出した。
そこで、本発明は、蒸発器に流れ込む作動液からヒートリークによる蒸気泡を除去し、作動液を効率よく蒸発器内に供給して気泡詰まりを防止することのできるループ型ヒートパイプを提供することを課題とする。」(段落【0007】?【0008】)

(3)「ループ型ヒートパイプ1(図5参照)は、CPU等の発熱体20からの熱で作動流体を気化させる蒸発器10と、気化された作動流体を凝縮させる凝縮器30を含み、これらが液管12及び蒸気管13でループ状に接続されている。凝縮器30で凝縮された液相の作動流体(作動液)を蒸発器10へ供給する液管12上に、リザーバタンク25が設置されている。リザーバタンク25から接続管14を介して蒸発器10に作動液が供給される。蒸発器10は平板型蒸発器であり、垂直配置されたプリント板40に実装されたCPU20を冷却するために、蒸発器10も垂直に配置されている。
ループ型ヒートパイプ1には、重力方向Gにみて接続管14よりも上方に、蒸発器10とリザーバタンク25をつなぐバイパス管18が設けられている。バイパス管18は、ループ型ヒートパイプ1の動作時に、蒸発器10内部に滞留する蒸気泡を、リザーバタンク25に排出するための管である。接続管の上方に配置したバイパス管18により、蒸発器10の内部に発生した高温の蒸気を低温側のリザーバタンク25へ逃がす。これにより、接続管14から蒸発器10への作動液の流れを適正に維持し、2分割されたウィック15a、15bの片側(上側)のウィック15bがドライアウトするのを防止する。」(段落【0019】?【0020】)

(4)「次に、図5、図6A及び図6Bを参照して、実施例1におけるループ型ヒートパイプ1の具体的な構成例を説明する。図6Aは蒸発器10の作動流体の流れる方向に沿った縦断面図、図6Bは、図6AのD-D'断面でみたときの蒸発器10の配置構成を示す図である。蒸発器10の本体ケース11は無酸素銅で作製されている。本体ケース11の平面形状は、外寸で一辺が40mmの正方形、本体ケース11の厚さ(t)は8mmである。このような小型、薄型の形状は、サーバーやパソコン等、高密度実装されたコンピューター内の発熱体(CPU)20上への実装に適している。
本体ケース11の内側には、オーバル(楕円)形の開口孔11Aが二つ、並んで形成されている。開口孔11Aの長半径は18mm、短半径は6mmである。二つの開口孔11Aの内部に、それぞれ樹脂製のウィック(多孔質体)15a、15bが挿入されている。ウィック15a、15bの寸法は、短半径方向のサイズ、長半径方向のサイズともに、開口孔11Aの寸法よりも100?200μm大きく作製してある。ウィック15a、15bの長さ(L)は約30mmである。ウィック15a、15bをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の多孔質体で構成して弾力性をもたせることで、本体ケース11の開口孔11Aよりもウィック寸法をわずかに大きく設定して、ウィック15a、15bを本体ケース11の内壁に密着させることができる。樹脂ウィック15a、15bの平均ポーラス径は約2μm、空孔率は約40%である。樹脂ウィック15a、15bは楕円型のコップのような形状をしており、ウィック15a、15bの内側に、高さ2mm、幅14mmの断面がオーバル形の空間17a、17bが形成されている。この空間17a、17bが作動液の通路となり、液相の作動流体5が接続管14から樹脂製のマニフォールド19を介して蒸発器10内に流入する。ウィック15a、15bがそれぞれ金属の本体ケース11と接触する接触面には、複数の溝(深さ1mm×幅1mm)で構成されるグルーブ16a、16bが形成されている。各溝の表面で蒸気が発生し、発生した蒸気は溝を通過して蒸発器10から排出され、蒸気管13に至る。」(段落【0025】?【0026】)

(5)「【産業上の利用可能性】
本発明にかかるループ型ヒートパイプは、電子機器等、種々の発熱体の冷却装置に適用可能である。」(段落【0053】)

(6)「



図5及び図6Aの記載を参照すれば、引用発明の「本体ケース」は、「長方形のプレート形状に構成されている」といえる。

してみれば、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「CPU等の発熱体からの熱で作動流体を気化させる蒸発器と、気化された作動流体を凝縮させる凝縮器を含み、これらが液管及び蒸気管でループ状に接続されており、凝縮器で凝縮された液相の作動流体(作動液)を蒸発器へ供給する液管上に、リザーバタンクが設置され、リザーバタンクから接続管を介して蒸発器に作動液が供給されるループ型ヒートパイプにおいて、
蒸発器とリザーバタンクをつなぐバイパス管が設けられ、
蒸発器の長方形のプレート形状に構成されている本体ケースの内側には、樹脂製のウィック(多孔質体)が挿入されており、ウィックの内側に高さ2mm、幅14mmの断面がオーバル形の空間が形成されており、この空間が作動液の通路となり、液相の作動流体が接続管から樹脂製のマニフォールドを介して蒸発器内に流入し、ウィックがそれぞれ金属の本体ケースと接触する接触面には、複数の溝(深さ1mm×幅1mm)で構成されるグルーブが形成され、各溝の表面で蒸気が発生し、発生した蒸気は溝を通過して蒸発器から排出され、蒸気管に至るループ型ヒートパイプ。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(1)「内部に封入される流体を排気の熱で蒸発させるための受熱部と、この受熱部で蒸発された気相状の流体を受け入れて当該流体の熱と加熱対象とを熱交換させるための放熱部と、前記受熱部から気相状の流体を前記放熱部へ移送するための移送路と、前記放熱部での熱交換に伴い凝縮される液相状の流体を前記受熱部へ戻すための還流路とを含むループ式ヒートパイプ構造とされ、
前記受熱部は、排気が流入通過されかつ排気の熱を受け取る受熱体が設けられる排気通路と、上下方向に沿って流体を流すための流体通路とを、前記排気流れ方向と直交する方向に交互に隣り合わせに多数設けた構成とされ、
前記多数の流体通路の上部には、前記還流路から戻される液相状の流体を流入させるための流入部と、前記流体通路内において排気との熱交換で蒸発される気相状の流体を前記移送路へ送り出すための送出部とが設けられている、ことを特徴とする排気熱回収装置。」(【請求項1】)

(2)「図1から図5に本発明の一実施形態を示している。図中、1は排気熱回収装置の全体を示している。排気熱回収装置1は、主として受熱部2、放熱部3、移送路4、還流路5を含んだループ式ヒートパイプ構造になっている。
図示例の排気熱回収装置1は、受熱部2と放熱部3とが接近して配置されてコンパクトにユニット化されているタイプを例に挙げている。
この排気熱回収装置1の内部は、真空状態とされていて、そこに適量の流体が封入されている。流体は、例えば純水等とされる。水の沸点は、1気圧で100℃であるが、排気熱回収装置1内を減圧(例えば0.01気圧)しているため、沸点は、例えば5?10℃となる。なお、流体は、純水の他に、例えばアルコール、フロロカーボン、フロン等とす
ることが可能である。また、排気熱回収装置1の主要構成要素は、例えば高耐食性を備えるステンレス材で形成されている。
受熱部2は、内部に封入される液相状の流体を排気の熱で蒸発させるものである。この受熱部2は、単一のコア21を用いた構成になっている。このコア21には、多数の排気通路22と多数の流体通路23とが交互に隣り合わせに配置された状態で設けられている。この受熱部2の構成については後で詳しく説明する。
放熱部3は、受熱部2で蒸気とされた気相状の流体を受け入れて、この流体の潜熱で加熱対象(例えば内燃機関の冷却水)を加熱するものである。この放熱部3内の気相状の流体は、前記熱交換に伴い凝縮されて液相状となり、受熱部2に戻される。
この放熱部3は、内部が密閉されたケースからなり、その底壁には移送路4の下流端および還流路5の上流端がそれぞれ接続されている。この放熱部3の内部空間には、加熱対象(例えば下記する冷却水通路56)が挿入される。
移送路4は、受熱部2で蒸発された気相状の流体を放熱部3へ移送するための配管である。この移送路4は、受熱部2で蒸発されて気相状となった流体を放熱部3へ送り出しやすくするために適宜の上り勾配がつけられている。
還流路5は、放熱部3で凝縮した液相状の流体を受熱部2へ戻すための配管である。この還流路5は、放熱部3で凝縮されて液相状となった流体を受熱部2へ戻しやすくするために適宜の下り勾配がつけられている。なお、放熱部3内で凝縮された液相状の流体を還流路5にさらに流入させやすくするために、放熱部3のケースの底壁を傾斜させて、この傾斜した底壁の最下位置に還流路5を接続している。」(段落【0049】?【0056】)

(3)「ここで、前記した受熱部2の構成を詳しく説明する。
受熱部2のコア21は、図3に示すように、適宜数のチューブ24・・・を横方向に積層して連結した積層構造体になっている。この連結は、積層部分を溶接またはロウ付け等により接合することにより行われる。
チューブ24は、この実施形態において四角い筒のような形状とされている。このチューブ24の内孔が、排気通路22となる。
チューブ24の両側壁における左右方向の中間領域には、上下方向に沿う凹み25,26が設けられている。各チューブ24を積層して連結すると、各凹み25,26の底側が向き合わされて孔が作られる。つまり、チューブ24の片側の凹み25と、このチューブ24に隣り合うチューブ24の片側の凹み26とが合わされて孔が作られるようになり、この孔が流体通路23となる。
また、各チューブ24の排気通路22には、排気の熱を受ける受熱体としてのフィン27が設けられている。このフィン27は、例えば一般的に公知のコルゲートタイプのフィンとされている。
このように、排気通路22と、流体通路23とは、交互に隣り合わせに多数配置されている。ここでは、排気通路22は、排気流れ方向に沿う横穴として、また、流体通路23は、排気流れ方向と直交して上下方向に沿う縦穴として利用される。
このようなコア21の上部には、流体通路23内で蒸発された気相状の流体を集めて放熱部3へ送り出すための送出用バッファタンク7と、放熱部3で凝縮された液相状の流体を受け入れて流体通路23内に落とし入れるための流入用バッファタンク8とが設置されている。
送出用バッファタンク7は、すべての流体通路23において排気流れ方向の上流側領域の上部開口を覆うように、コア21の上部に設置されている。これにより、送出用バッファタンク7には、コア21のすべての流体通路23内で蒸発された気相状の流体を集めることが可能になる。この送出用バッファタンク7の上部には、移送路4が接続されている。
流入用バッファタンク8は、すべての流体通路23の排気流れ方向下流側領域の上部開口を覆うように、コア21の上部に設置されている。これにより、流入用バッファタンク8には、放熱部3から受け入れた液相状の流体が、コア21のすべての流体通路23に分散して流し入れることが可能になる。この流入用バッファタンク8の上部には、還流路5が接続されている。
このように、放熱部3で凝縮された液相状の流体を受熱部2の排気流れ方向の下流側から入れるタイプを「後入れ」と言うことにする。この場合、送出用バッファタンク7が、流入用バッファタンク8よりも高温となる。
送出用バッファタンク7と流入用バッファタンク8とは、この実施形態において、排気流れ方向に離れた状態で設置されている。このような設置状態では、コア21のすべての流体通路23において排気流れ方向の中間領域が前記離隔部分から露出することになる。そこで、前記離隔部分に蓋9を取り付けることにより、前記露出部分を閉塞するようにしている。前記両タンク7,8の離隔部分は、互いの熱の伝導を遮断するための空気層からなる断熱部14となる。
また、コア21には、底面と両側面を覆うようにケース10が取り付けられており、上面と、排気通路22の入口および出口とが露呈されている。
このケース10は、一側から見てU字形に形成されており、平坦な底板部11の両側に立ち上がり壁12,13を設けた形状になっている。このケース11の底板部11は、コア21のすべての流体通路23の下部開口を閉塞するようになっている。また、ケース10の一方の立ち上がり壁12は、コア21の一側に位置する凹み25を閉塞して、この閉塞空間を流体通路23とするようになっている。また、ケース10の他方の立ち上がり壁13は、コア21の他側に位置する凹み26を閉塞して、この閉塞空間を流体通路23とするようになっている。」(段落【0065】?【0077】)

(4)「



3.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、次の事項が記載されている。
(1)「往復動ピストン内燃機関9としての内燃機関8が、自動車、特に貨物自動車を駆動するために用いられ、クラウジウスランキンサイクルを用いて前記内燃機関8の廃熱を利用するためのシステム1を含んでいる。前記内燃機関8は排気ターボチャージャ17を有する。前記排気ターボチャージャ17は新鮮空気16を給気ライン13内へ圧入し、前記給気ライン13内に取り付けられた給気冷却器14が、この給気を前記内燃機関8への送給前に冷却する。前記内燃機関8からの排ガスの一部が排ガスライン10によって導出され、それに続いて、排ガス再循環冷却器としての蒸発器熱交換器4あるいは熱交換器12の中で冷却され、そして、排ガス再循環ライン15によって、前記内燃機関8に前記給気ライン13で送給された新鮮空気に混合される。排ガスの別の一部が、前記排気ターボチャージャ17を駆動するために前記排気ターボチャージャ17内へ導入され、それに続いて排ガス18として外界に放出される。前記システム1は作動媒体を備えたライン2を有する。前記作動媒体を備えた回路には、膨張機5、凝縮器6、捕集・調整容器7およびポンプ3が組み込まれている。前記ポンプ3によって、前記液体状の作動媒体は前記回路内において更に高い圧力レベルに上昇され、それに続いて前記液体状の作動媒体は前記蒸発器熱交換器4内で蒸発し、次に、前記気体状の作動媒体が膨張して圧力が小さくなることによって、前記作動媒体は前記膨張機5内で機械的仕事を行う。前記凝縮器6において前記気体状の作動媒体は液化され、それに続いて再び前記捕集・調整容器7に送給される。
図2には、前記蒸発器熱交換器4あるいは熱交換器12の第1の実施例が示されている。前記蒸発器熱交換器4は、前記作動媒体を導入するための入口開口32と前記作動媒体を前記蒸発器熱交換器4から導出するための出口開口33とを有する。図2には示されていない第1の流動スペース19が多数のプレート対29の間に形成される。前記プレート対29はそれぞれ上部プレート30と下部プレート31とを有する。前記プレート対29の間にはそれぞれスペーサ37が配置されている。その際、下部プレート30の内部に入り込むように蛇行状の流路20(図5)が設けられており、これにより、上部プレートと下部プレート30、31との間に前記蛇行状の流路20が形成され、この流路の中を前記作動媒体が前記入口開口32から前記出口開口33まで導通される。この場合、前記上部および下部プレート30、31は、材料結合、すなわちろう接(図示せず)によって互いに結合されている。前記上部および下部プレート30、31は、更にそれぞれ前記入口開口および出口開口32、33に通過開口36(前記入口開口32に入口通過開口36および前記出口開口33に出口通過開口36)を有し、前記通過開口36に面して前記プレート対29の間に、通過開口25を備えた前記スペーサ37(図4)が位置しており、これにより、前記作動媒体は、前記プレート対29を通過して、前記スペーサ39に面して前記プレート対の下および上に位置しているプレート対29へ流通することができる(同様に図4)。従って、前記スペーサ37もそれぞれ前記通過開口25(同様に図4)を有する。前記プレート対29の間には、断面が矩形の4本の管28が配置されている。断面が矩形の前記管28は、排ガスまたは給気を導通するための第2の流動スペース21を形成し、これにより、排ガスまたは給気から熱を前記作動媒体へと伝達することができ、これによって、前記作動媒体は前記蒸発器熱交換器4において蒸発する。
底部27は、断面が矩形のディフューザ開口38を有する。前記底部27は、前記ディフューザ開口38において材料結合によって前記管28に結合されており、すなわち、前記管にろう接されている。前記底部27には、図2に破線でのみ示されているガスディフューザ26が配置されており、このガスディフューザは、排ガスまたは給気を導入するための入口開口11を有する。図2では、前記底部27は分解図として示されており、前記管28にまだ固定されていない。図2において後方に示されている前記管28のもう一方の端部にも、同様に、前記ガスディフューザ26を備えた第2の底部27が配置されている(図示せず)。前記上部および下部プレート30、31は、材料結合、すなわちろう接(図示せず)によって互いに結合されている。
図3には、前記蒸発器熱交換器4の第2の実施例が示されている。以下においては、基本的に、図2における第1の実施例との相違点についてのみ説明する。前記プレート対29の間には、断面が矩形の4本の管28の代わりに断面が矩形の管28が1本だけ配置されており、前記管28の内部にフィン34あるいはフィン構造体34が配置されている。前記管28には、前記第1の実施例と同様の方法で、ディフューザ開口38を備えた底部27およびガスディフューザ26が固定される(図示せず)。このことは、図3における実施例に係る前記管28の両側の端部に当てはまる。なお、前記蒸発器熱交換器4は、第1の実施例においても第2の実施例においても、多数の互いに上下に重ねて配置されたプレート対29とそれらの間に配置された管28とを有する。これは、図2および図3ではただ部分的にのみ示されている。」(段落【0028】?【0031】)

(2)「



第5 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
引用発明の「ループ型ヒートパイプ」は、液管及び蒸気管によりループ状に接続され、その中に作動流体(作動媒体)を流し、発熱体を冷却するものである(上記第4の1.(3)及び(6)の図5参照。)から、「作動媒体の為の一つの閉じられた循環系を有する熱交換器システム」であり、本願発明の「自動車の熱交換器システム」と、「熱交換器システム」である点で一致する。

また、引用発明の「蒸発器」,「凝縮器」,「リザーバタンク」及び「接続管」は、それぞれ本願発明の「蒸発装置」,「凝縮装置」,「貯蔵容器」及び「サプライ部配管」に相当する。
そして、引用発明の「バイパス管」は、本願発明の「調整配管」に相当し、当該バイパス管は、接続管に対して、リバースタンクと蒸発器を追加的に互いに接続するものである。

更に、引用発明の「本体ケース」及び「ウィック」は、それぞれ本願発明の「蒸発装置カセット」及び「毛細管構造」に相当する。
そして、当該ウィックは、本体ケース内に設けられており、当該本体ケースは、ウィックの内側の空間,本体ケースとウィックの接触面に構成された複数の溝及び本体ケースの蒸気管の端部とウィックの間に設けられた空間(上記第4の1.(4)及び(6)の図6A参照。)を有しており、それらはそれぞれ本願発明の「液体側」,「蒸気側」及び「蒸気収集部」に相当するから、引用発明の「蒸発器の本体ケースの内側には、樹脂製のウィック(多孔質体)が挿入されており、ウィックの内側に高さ2mm、幅14mmの断面がオーバル形の空間が形成されており、この空間が作動液の通路となり、液相の作動流体が接続管から樹脂製のマニフォールドを介して蒸発器内に流入」する構成は、本願発明の「蒸発装置が、少なくとも一つの蒸発装置カセットを有し、蒸発装置カセット内に毛細管構造が設けられており、そして蒸発装置カセットが、液体側及び蒸気側並びに蒸気収集部を有する」構成に相当する。

また、引用発明の本体ケースとウィックの接触面に構成された複数の溝(上記第4の1.(4)参照。)は、本願発明の「蒸気装置カセットのハウジングの底部内に設けられ」た、「複数の蒸気溝及び/又は複数の蒸気チャネル」に相当するから、引用発明の「ウィックがそれぞれ金属の本体ケースと接触する接触面には、複数の溝(深さ1mm×幅1mm)で構成されるグルーブが形成され、各溝の表面で蒸気が発生し、発生した蒸気は溝を通過して蒸発器から排出され、蒸気管に至る」構成は、本願発明の「蒸発装置カセットの蒸気側に、複数の蒸気溝及び/又は複数の蒸気チャネルが蒸発装置カセットのハウジングの底部内に設けられ」る構成に相当する。

よって、本願発明と引用発明は、次の一致点及び相違点を有する。

【一致点】
作動媒体の為の一つの閉じられた循環系を有する熱交換器システムであって、作動媒体の蒸発の為の蒸発装置と、蒸気状の作動媒体の凝縮の為の凝縮装置が設けられており、および凝縮装置と蒸発装置の間に液体状の作動媒体の為の貯蔵容器が設けられており、貯蔵容器と蒸発装置が、液体状の作動媒体の為のサプライ部配管を介して互いに接続されている熱交換器システムにおいて、
貯蔵容器と蒸発装置が追加的に、一つの調整配管を介して互いに接続されていること、
蒸発装置が、少なくとも一つの蒸発装置カセットを有し、蒸発装置カセット内に毛細管構造が設けられており、そして蒸発装置カセットが、液体側及び蒸気側並びに蒸気収集部を有すること、
蒸発装置カセットの蒸気側に、複数の蒸気溝及び/又は複数の蒸気チャネルが蒸発装置カセットのハウジングの底部内に設けられており、
蒸発装置カセットは、長方形のプレート形状に構成されている熱交換器システム。

【相違点】
(1)熱交換システムが、本願発明は「自動車の熱交換システム」であるのに対し、引用発明は、自動車のものではない点。

(2)本願発明は、蒸発装置が、少なくとも二つの蒸発装置カセットを有し、当該蒸発装置カセットの間に、一つのチャネル、特に排ガスチャネルが形成されているのに対し、引用発明は、蒸発器(蒸発装置)が、一つの本体ケース(蒸発装置カセット)しか有していない点。

2.相違点についての判断
まず、上記相違点(1)について検討すると、引用発明は電子機器の冷却を課題とした発明であり(上記、第4の1.(1)及び(2)参照。)、【産業上の利用可能性】として「本発明にかかるループ型ヒートパイプは、電子機器等、種々の発熱体の冷却装置に適用可能である。」(上記、第4の1.(5)参照。)の記載があるとしても、上記引用発明の課題に照らせば、当該記載中の「電子機器等、種々の発熱体」はCPUやLSI等の小型の電子部品等を意図したものと認められ、自動車の排ガスを用いた熱交換に引用発明の技術を採用することの動機付けがあるとはいえない。
よって、引用文献2にループ式ヒートパイプ(すなわち、ループ型ヒートパイプ)を自動車の排気熱回収装置に用いる点が記載されている(第4の2.(1)?(4)参照。)としても、CPUやLSI等の小型の電子部品等の冷却を意図した引用発明を、装置のサイズや利用態様が異なる引用文献2に記載されたような自動車の排気熱回収装置に用いることに動機付けがあるとはいえない。
また、仮に上記「電子機器等、種々の発熱体」に自動車に係る発熱体が包含され、引用発明を自動車の熱交換システムに用いることが容易であるとしても、上記相違点(2)に係る、蒸発装置カセットを二つ以上設け、それらの間にチャネルを設けて、当該チャネルに対して熱交換を行う構成を採用することが容易であるとはいえない。
すなわち、引用文献1には、プリント板に実装されたCPUの片面に蒸発器の本体ケースを接触させて、CPUを冷却する構成が記載されているのみであり、当該引用文献1の記載から、引用発明を用途が全く異なる自動車の熱交換器システムに適用するのみならず、具体的に蒸発装置カセットを二つ以上設け、それらの間にチャネルを設けて、当該チャネルに対して熱交換を行うという相違点(2)に係る構成の採用を想到するには、相応の試行錯誤が必要であるものと認められ、引用文献5に蒸発器を構成するフレーム(蒸発装置カセット)の間に排ガスチャネルを設ける構成の開示がある(第4の3.(1)?(2)参照。)としても、引用発明の用途を変更した上で、さらに当該構成を採用することまでもが当業者にとって容易であるとはいえない。
なお、引用文献3及び4は、いずれも自動車の熱交換器システムに係る発明ではないから、引用文献3及び4の記載を考慮に入れても、上記判断は覆らない。
以上のとおりであるから、本願発明は、当業者であっても引用発明及び引用文献1?5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、請求項2?7に係る発明は、本願発明のすべての構成を包含するものであるから、本願発明と同じ理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献1?5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定について
審判請求と同時にした補正により、本願発明は「蒸発装置が、少なくとも二つの蒸発装置カセットを有し、当該蒸発装置カセットの間に、一つのチャネル、特に排ガスチャネルが形成されて」いるという発明特定事項を有するものとなっており、上記第5で検討したとおり、当業者であっても、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1?5に基いて、当該発明特定事項を容易に発明することができたとはいえないから、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-12 
出願番号 特願2016-94271(P2016-94271)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F28D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西山 真二  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 井上 哲男
宮崎 賢司
発明の名称 自動車の熱交換器システム  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 江崎 光史  
代理人 篠原 淳司  

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