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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1348589
審判番号 不服2018-2395  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-20 
確定日 2019-02-26 
事件の表示 特願2017- 13461「偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開,特開2017- 90928,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,2015年(平成27年)11月26日(優先権主張 平成27年8月7日)を国際出願日とする日本語特許出願(特願2016-535250号)の一部を平成29年1月27日に新たな特許出願としたものであって,同年3月31日付けで拒絶理由が通知され,同年4月24日に意見書が提出され,同年6月29日付けで拒絶理由が通知され,同年12月19日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成30年2月20日に請求されたものであって,当審において,同年11月13日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,平成31年1月8日に意見書及び手続補正書(以下,当該手続補正書による補正を「本件補正」という。)が提出されたものである。


2 本件出願の請求項1ないし6に係る発明
本件出願の請求項1ないし6に係る発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1ないし6の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる一つ又は複数の光学フィルムと,を備える偏光板であって,
前記偏光板の受光面に垂直な方向における前記偏光板の四角形状の断面が,面取りされた角部を有し,
前記偏光子の端部が,前記偏光板の外縁において露出しており,
前記偏光板は,前記光学フィルムとして,離型フィルムを備え,
前記離型フィルムは,前記偏光板の少なくとも一つの表面を構成しており,
面取りされた前記角部は,前記離型フィルムの一部である,
偏光板。
【請求項2】
前記光学フィルムとして,保護フィルムを備え,
前記保護フィルムは,前記偏光板の一つの表面を構成しており,
面取りされた前記角部は,前記保護フィルムの一部である,
請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる一つ又は複数の光学フィルムと,を備える偏光板であって,
前記偏光板の受光面に垂直な方向における前記偏光板の四角形状の断面が,面取りされた角部を有し,
前記偏光板は,前記光学フィルムとして,第一保護フィルム及び第二保護フィルムを備え,
前記第一保護フィルムが,前記偏光子の一方の表面に重なっており,
前記第二保護フィルムが,前記偏光子の他方の表面に重なっており,
前記第一保護フィルムの端部と前記第二保護フィルムの端部との間に挟まれた前記偏光子の端部が,前記偏光板の外縁において露出しており,
前記偏光板は,前記光学フィルムとして,粘着層を介して前記第二保護フィルムに重なる離型フィルムを備え,
前記離型フィルムは,前記偏光板の少なくとも一つの表面を構成しており,
面取りされた前記角部は,前記離型フィルムの一部である,
偏光板。
【請求項4】
前記光学フィルムとして,前記第一保護フィルムに重なる第三保護フィルムを備え,
前記第三保護フィルムは,前記偏光板の一つの表面を構成しており,
面取りされた前記角部は,前記第三保護フィルムの一部である,
請求項3に記載の偏光板。
【請求項5】
前記偏光板の表面に位置する前記光学フィルムのみが面取りされている,
請求項1?4のいずれか一項に記載の偏光板。
【請求項6】
前記偏光板の両表面の其々に位置する前記光学フィルムのみが面取りされている,
請求項1?5のいずれか一項に記載の偏光板。」(以下,請求項1ないし6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)


3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略,次のとおりである。
本件出願の請求項1ないし6,9(本件補正前の請求項1ないし6,9)に係る発明は,その優先権主張の日より前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1(特開2012-203209号公報)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,当該引用文献1に記載された発明に基づいて,その優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,同条2項の規定により特許を受けることができない。また,本件出願の請求項7,8(本件補正前の請求項7,8)に係る発明は,前記引用文献1に記載された発明に基づいて,その優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,同条2項の規定により特許を受けることができない。


4 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は,概略,次のとおりである。
(1)理由1(サポート要件違反,明確性要件違反)
本件出願の請求項1,2,4,7ないし9(本件補正前の請求項1,2,4,7ないし9)に係る発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく,かつ,発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから,本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
また,本件出願の請求項9(本件補正前の請求項9)に係る発明は,明確でないから,本件出願は,特許請求の範囲の記載が,同項2号に規定する要件を満たしていない。

(3)理由2(新規性欠如,進歩性欠如)
本件出願の請求項1,2,4,5,7ないし9(本件補正前の請求項1,2,4,5,7ないし9)に係る発明は,本件出願の優先権主張の日より前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献A(国際公開第2011/016572号)又は引用文献B(特開2011-53673号公報)に記載された発明であるから,同法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,少なくとも,前記引用文献A又は引用文献Bに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができるものであるから,同条2項の規定により特許を受けることができない。


5 原査定の拒絶の理由に対する判断
(1)引用例
ア 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2012-203209号公報)は,本件出願の優先権主張の日より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,端面加工偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・
【0004】
・・・(中略)・・・トリアセチルセルロースフィルムを保護フィルムとした偏光板は,しばしば耐湿熱性や耐冷熱衝撃性に劣り,特に上記のように薄膜化された保護フィルムからなるものは,高温多湿または高低温繰り返し等の過酷な環境下で偏光性能の劣化を引き起こしたり,偏光フィルムが損傷を受けたりする場合があった。
【0005】
偏光板がしばしば耐湿熱性等に劣る理由としては,その構成要素であるトリアセチルセルロースフィルムの透湿度や吸水率が高いことが挙げられる。そこで,トリアセチルセルロースフィルムに代えて,上記薄肉化にも対応した,比較的低透湿性で低吸水性でもある延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとすることも検討されている(たとえば特許文献1)。
【0006】
一方,偏光板を液晶表示装置に用いる場合,所定の形状および寸法に裁断する必要があり,また,裁断時の圧力による粘着剤のはみだしを除去するために,裁断後に端面を加工する必要がある。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで,本発明の目的は,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板において,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離が生じることなく仕上げられ,かつ切削加工後の偏光板に衝撃を加えた場合においても剥離が生じることのない端面加工偏光板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば,ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと,その表面に接着剤を介して積層されている延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムとを備え,長方形に裁断されている偏光板が,複数枚積み重ねられている偏光板積層体の端面を切削加工して,端面加工偏光板を製造する方法であって,
上記偏光板積層体の切削加工されるべき端面に平行であって,厚み方向に平行にまたはある角度をもって回転軸が延びる円柱状回転体と,該円柱状回転体の側面の回転軸方向に沿って配設された複数の切削刃とを備える切削回転体を2つ用い,
上記2つの切削回転体を上記偏光板積層体の向かい合う一対の第一の端面にそれぞれ配置し,それら2つの切削回転体を,それぞれの切削刃が上記偏光板積層体の切削加工されるべき端面を削り取るように当接させながら,それぞれの回転軸を中心に回転させ,上記偏光板積層体と上記切削回転体を相対移動速度が500mm/分以上2000mm/分以下となるように,相対的に平行移動させながら上記偏光板積層体の上記一対の第一の端面を同時に切削加工する第一の端面切削工程と,
上記第一の切削工程で切削された上記偏光板積層体の上記一対の第一の端面とは異なる向かい合う一対の第二の端面に,上記2つの切削回転体をそれぞれ配置し,それら2つの切削回転体を,それぞれの切削刃が上記偏光板積層体の切削加工されるべき端面を削り取るように当接させながら,それぞれの回転軸を中心に回転させ,上記偏光板積層体と上記切削回転体を相対移動速度が500mm/分以上2000mm/分以下となるように,相対的に平行移動させながら上記偏光板積層体の上記一対の第二の端面を同時に切削加工する第二の端面切削工程と,
上記第二の端面切削工程における切削開始時に上記切削回転体が当接される上記偏光板積層体の2つの角部を切削除去する角部切削工程と,
をこの順で備える端面加工偏光板の製造方法が提供される。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板において,端部の剥離が生じることなく仕上げられ,かつ切削加工後の偏光板に衝撃を加えた場合においても剥離が生じることのない端面加工偏光板の製造方法を提供することができる。」

(イ) 「【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の切削方法の具体的方法を示す図である。
【図2】本発明の切削方法の具体的方法を示す図(図1の上部からみた図)である。
【0017】
図2(a) 第1の切削加工工程
図2(b) 第2の切削加工工程
図2(c) 角部切削加工工程」

(ウ) 「【発明を実施するための形態】
【0018】
<フィルムの端面加工方法>
本発明の具体的な実施形態について図1,2,3により説明する。図1は,本発明における偏光板積層体の端面加工方法の一例を示す概略図である。偏光フィルムの少なくとも一方の面に接着剤を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを備えた偏光板の積層体Wは,長方形のフィルムを重ね合わせた直方体形であり,押さえ具20,21により積層体を挟持し固定される。
【0019】
また,下押さえ具21には,積層方向zを中心として旋回する回転テーブル31が,上押さえ具20には上記旋回テーブル31と同方向に回転する押し具30が備えられており,上記旋回テーブル31と上記押し具30が同期して旋回させるようになっており,偏光板積層体Wを上下ずれることなく回転させることができる。
【0020】
図2は,図1に示す偏光板積層体の端面加工方法の一例を積層方向から見た図である。図2(a)は,本発明における第1の切削加工工程の一例であり,2つの切削刃を備えた回転体10,11が偏光板積層体の向かい合う両端辺41,42にそれぞれ設けられている。回転体10,11は,積層体Wの大きさに合わせてy方向に移動させることで切削量を任意に調整することができる。切削に当たっては,上記回転体10,11を固定した状態にて回転軸を中心に回転させ,偏光板積層体Wを加工装置により向かい合う回転体10,11の間を通過するようにx方向に水平移動させることで偏光板端辺41,42を同時に切削できる。
【0021】
図2(b)は,本発明における第2の切削加工工程の一例であり,図2(a)に示す上記第1の切削加工後,図1に示す旋回テーブル31と上記押し具30により積層体Wを90度回転させて上記第1の切削加工工程同様に,x方向に水平移動させることにより上記第1の切削加工で切削された端辺41,42に直交した向かい合う端辺43,44を同時に切削できる。この際,2つの切削回転体10,11はy方向に移動させその間隔を切削量に合わせて調整すればよい。
【0022】
図2(c)は,本発明における偏光板積層体の角部切削工程の一例である。角部の切削においては,上記第2の切削加工後,角部を切削回転体に当接させるように偏光板積層体Wを回転させることで加工することが可能である。本発明の端面加工偏光板の製造方法においては,上記第2の切削加工工程で切削開始時に当接される2つの角部,すなわち図2(c)に示す,角部51,52を切削加工する。これにより切削加工後の偏光板に衝撃を加えた場合においても角部での剥離を抑制可能となる。
・・・(中略)・・・
【0026】
本発明の端面加工偏光板の製造方法においては,上記切削回転体に対する上記偏光板積層体の相対移動速度は500mm/分以上2000mm/分以下である。切削速度が500mm/分を下回る場合,偏光板積層体と切削刃との摩擦熱による端部焼付けおよび延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離が生じ,また,切削速度が2000m/分を上回る場合は端面の仕上げが不十分となり偏光板端部にクラックが生じることがある。
・・・(中略)・・・
【0030】
<偏光板>
本発明の切削方法に用いられる偏光板は,偏光フィルムの少なくとも一方の面に接着剤を介して延伸ポリエチレンテレフタレートが積層されている。
【0031】
(偏光フィルム)
本発明に用いられる偏光フィルムは,特に限定されるものではないが,通常,公知の方法によってポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより,二色性色素を吸着させる工程,二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程,およびホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造されるものである。
・・・(中略)・・・
【0045】
(延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム)
本発明に用いられる偏光板は,偏光フィルムの少なくとも一方の面に接着剤を介して延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層されている。・・・(中略)・・・
【0048】
(保護フィルム,光学補償フィルム)
本発明に用いられる偏光板はまた,偏光フィルムの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された側とは反対側に,保護フィルムまたは光学補償フィルムが積層されていてもよい。・・・(中略)・・・
【0049】
(接着剤層)
また,本発明に用いられる偏光板は,上述したように偏光フィルムの一方側に接着剤層を介して延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層され,また必要に応じて,偏光フィルムの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された側とは反対の面に保護フィルムまたは光学補償フィルムが積層される。・・・(中略)・・・
【0050】
(粘着剤層)
上記偏光板には,当該偏光板を液晶セル等の他部材に貼合するための,粘着剤層を設けることができる。・・・(中略)・・・粘着剤層は,このような粘着剤を,・・・(中略)・・・離型処理が施されたプラスチックフィルム(セパレートフィルムと呼ばれる)上に形成されたシート状粘着剤を基材フィルムに転写する方法によっても設けることができる。・・・(中略)・・・
【0051】
(表面保護フィルム)
また,上記偏光板の最外面には,保護フィルムの損傷やほこりの付着を防ぐ目的で粘着剤層を有する表面保護フィルム(プロテクトフィルムと呼ばれる)も設けることができる。」

(エ) 「【実施例】
【0053】
以下,実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお,これらの例中,含有量ないし使用量を表す%および部は,特記ないかぎり重量基準である。
【0054】
[延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを備えた端面加工用偏光板の製造例]
平均重合度約2400,ケン化度99.9モル%以上で厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを,30℃の純水に浸漬した後,ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後,ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き8℃の純水で洗浄した後,65℃で乾燥して,ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は,主に,ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行い,トータル延伸倍率は5.3倍であった。
【0055】
上述のようにして得られた偏光フィルムの一方側に,厚み38μmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを,偏光フィルムの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された側とは反対側には,厚み70μmの延伸ノルボルネン系樹脂からなる光学補償フィルムを,それぞれその貼合面にコロナ処理を施した後,光硬化型接着剤を介して接着して,偏光板を得た。
【0056】
次いで,得られた偏光板の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム外面に,粘着剤層を有するプロテクトフィルムを,また,延伸ノルボルネン系樹脂からなる光学補償フィルム外面には,厚み20μmのアクリル系粘着剤の層を設け,さらに,その粘着剤層外面に離型処理が施されたセパレートフィルムを貼り合せて,粘着剤層付き偏光板を得た。
このようにして得られた上記粘着剤層付き偏光板は,707mm×401mmのサイズに裁断して切削加工用偏光板を得た。
【0057】
<実施例1>
上記製造例にて得られた切削加工用偏光板を400枚積層し,図2(a)に示す加工方法,すなわち,切削回転体10,11は,その位置を固定した状態にて回転軸を中心にそれぞれ4800rpmの速度で回転させ,上記製造例にて得られた偏光板の積層体を移動速度1000mm/分でx方向に移動させながら第1の切削加工を行った。尚,偏光板積層体端面の切削量は1.0mmとし,切削回転体は,その回転軸と偏光板積層体の厚み方向とのなす角度を0度になるように配置した。
【0058】
次いで,偏光板積層体を回転させ,図2(b)に示すように偏光板積層体を配置した後,第2の切削加工を行った。第2の切削加工における偏光板積層体の移動速度,偏光板積層体端面の切削量,切削回転体の回転速度および切削回転体の配置は,上記第1の切削加工と同条件とした。
【0059】
次いで,上記第2の切削加工後,図2(c)に示すように偏光板積層体を回転させ,上記第2の切削加工で切削開始時に当接された2つの角部(図2(b)の角部51,52)をそれぞれ切削加工した。角部切削量Aはいずれも0.75mmとした。」

(オ) 「【図1】

【図2】



イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(ア)ないし(オ)で摘記した記載を含む引用文献1の全記載から,引用文献1に,実施例1に係る端面加工偏光板に関する発明として,次の発明が記載されていると認められる。

「707mm×401mmのサイズの切削加工用偏光板の端面を,下記[端面切削方法]によって切削加工してなる端面加工偏光板であって,
前記切削加工用偏光板は,
ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムと,
前記偏光フィルムの一方側に光硬化型接着剤を介して接着された厚み38μmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと,
前記偏光フィルムの反対側に光硬化型接着剤を介して接着された厚み70μmの延伸ノルボルネン系樹脂からなる光学補償フィルムと,
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム外面に設けられた粘着剤層を有するプロテクトフィルムと,
前記光学補償フィルム外面に設けられた厚み20μmのアクリル系粘着剤層と,
前記アクリル系粘着剤層の外面に貼り合わされた,離型処理が施されたセパレートフィルムとからなる,
端面加工用偏光板。

[端面切削方法]
切削加工用偏光板を400枚積層し,
前記切削加工用偏光板の積層体の切削加工されるべき端面に平行であって,厚み方向に平行に回転軸が延びる円柱状回転体と,前記円柱状回転体の側面の回転軸方向に沿って配設された複数の切削刃とを備える2つの切削回転体10,11を,その位置を固定した状態で回転軸を中心にそれぞれ4800rpmの速度で回転させ,前記切削加工用偏光板の積層体を移動速度1000mm/分で移動させながら,前記切削加工用偏光板の積層体の向かい合う両端辺41,42に対して,切削量が1.0mmとなる第1の切削加工を行い,
次いで,前記切削加工用偏光板の積層体を90度回転させ,前記切削加工用偏光板の積層体の移動速度,端面の切削量,前記切削回転体10,11の回転速度及び配置は,前記第1の切削加工と同条件にして,前記第1の切削加工で切削された前記端辺41,42に直交した向かい合う端辺43,44に対して,第2の切削加工を行い,
次いで,前記切削加工用偏光板の積層体を回転させ,前記第2の切削加工で切削開始時に当接された2つの角部51,52を,角部切削量0.75mmでそれぞれ切削除去する。」(以下,「引用発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
(ア) 技術的にみて,引用発明の「偏光フィルム」,「端面加工偏光板」及び「離型処理が施されたセパレートフィルム」は,本件発明1の「フィルム状の偏光子」,「偏光板」及び「離型フィルム」にそれぞれ相当し,引用発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」,「光学補償フィルム」,「プロテクトフィルム」及び「セパレートフィルム」は,いずれも,本件発明の「光学フィルム」に該当する。

(イ) 引用発明は,「偏光フィルム」(本件発明1の「フィルム上の偏光子」に対応する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明1の発明特定事項を指す。)と,「偏光フィルム」の一方側に接着された「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」(光学フィルム)と,「偏光フィルム」の反対側に接着された「光学補償フィルム」(光学フィルム)と,「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の外面に設けられた「プロテクトフィルム」(光学フィルム)と,「光学補償フィルム」の外面にアクリル系粘着剤層を介して貼り合わされた「セパレートフィルム」(光学フィルム,離型フィルム)とを備える「端面加工偏光板」(偏光板)であるから,フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる複数の光学フィルムと,を備える偏光板であって,前記偏光板は,前記光学フィルムとして,離型フィルムを備える,偏光板であるといえる。
したがって,引用発明は,本件発明1と,「フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる一つ又は複数の光学フィルムと,を備える偏光板であって,前記偏光板は,前記光学フィルムとして,離型フィルムを備える,偏光板」である点で一致する。

(ウ) 引用発明の[端面切削方法]からみて,引用発明の「偏光フィルム」(偏光子)の端部が,「端面加工偏光板」(偏光板)の外縁において露出していることは,技術的に自明である。
したがって,引用発明は,本件発明1と,「偏光子の端部が,偏光板の外縁において露出して」いる点で一致する。

(エ) 引用発明において,「端面加工偏光板」の一方の側の最外層は,「セパレートフィルム」(離型フィルム)であるから,離型フィルムが,偏光板の一つの表面を構成しているといえる。
したがって,引用発明は,本件発明1と,「離型フィルムは,偏光板の少なくとも一つの表面を構成している」点で一致する。

(オ) 引用発明の[端面切削方法]からみて,引用発明の「端面加工偏光板」(偏光板)は,その受光面と平行な方向における四角形状の断面が,面取りされた角部を有しており,当該面取りされた角部が,「セパレートフィルム」(離型フィルム)の一部であるとの構成を有するものの,前記受光面に垂直な方向における四角形状の断面が,面取りされた角部を有していないことは,技術的に自明である。

(カ) 前記(ア)ないし(オ)に照らせば,本件発明1と引用発明は,
「フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる一つ又は複数の光学フィルムと,を備える偏光板であって,
前記偏光子の端部が,前記偏光板の外縁において露出しており,
前記偏光板は,前記光学フィルムとして,離型フィルムを備え,
前記離型フィルムは,前記偏光板の少なくとも一つの表面を構成している,
偏光板。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点:
本件発明1では,偏光板の受光面に垂直な方向における偏光板の四角形状の断面が,面取りされた角部を有し,当該面取りされた角部が,離型フィルムの一部であるのに対して,
引用発明では,偏光板の受光面に平行な方向における偏光板の四角形状の断面が,面取りされた角部を有し,当該面取りされた角部が,離型フィルムの一部であるとの構成を有しているものの,前記受光面に垂直な方向における偏光板の四角形状の断面は,面取りされた角部を有していない点。

イ 判断
前記相違点は,実質的な相違点であるから,本件発明1は引用発明と同一ではない。
また,引用文献1には,端面加工偏光板の受光面に垂直な方向における端面加工偏光板の四角形状の断面が,面取りされた角部を有し,当該面取りされた角部が,セパレートフィルムの一部であるよう構成することは,記載も示唆もされていない。また,そのように構成することが,本件出願の優先権主張の日より前に,公知であったことを示す証拠も見当たらない。したがって,本件発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2について
請求項2は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件発明2は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定を付加したものに相当するところ,前記(2)イで述べたとおり,本件発明1が,引用発明と同一でなく,かつ,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件発明2も同様の理由により,引用発明と同一でなく,かつ,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明3について
本件発明3は,前記(2)ア(カ)で認定した相違点に係る本件発明1の構成と同じ構成を具備しているから,本件発明3と引用発明は,少なくとも,前記相違点と同様の点で相違する。
したがって,前記(2)イで述べたのと同様の理由によって,本件発明3は,引用発明と同一でなく,かつ,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明4ないし6について
請求項4は,請求項3の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件発明4は,本件発明3の発明特定事項を全て含み,さらに限定を付加したものに相当するところ,前記(4)で述べたとおり,本件発明3が,引用発明と同一でなく,かつ,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件発明4も同様の理由により,引用発明と同一でなく,かつ,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,請求項5,6は,請求項1又は3の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されたものであって,本件発明5,6は,本件発明1又は3の発明特定事項を全て含み,さらに限定を付加したものに相当するところ,前記(2)及び(4)で述べたとおり,本件発明1及び3が,いずれも,引用発明と同一でなく,かつ,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件発明5,6も同様の理由により,引用発明と同一でなく,かつ,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)小括
前記(2)ないし(5)のとおりであって,本件発明1ないし6は,いずれも,引用発明と同一ではなく,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,原査定の拒絶の理由によって,本件出願を拒絶することはできない。


6 当審拒絶理由に対する判断
(1)理由1(サポート要件違反,明確性要件違反)について
本件補正によって,各請求項に係る発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のもののみとなったから,理由1のうちサポート要件違反は解消した。
また,本件補正によって,明確性要件に違反していた本件補正前の請求項9が削除されたから,理由1のうち明確性要件違反も解消した。

(2)理由2(新規性欠如,進歩性欠如)について
本件補正によって,本件出願の各請求項から,理由2(新規性欠如,進歩性欠如)の対象とされていた請求項(本件補正前の請求項1,2,4,5,9,当該請求項1,2,4,5の記載を引用する本件補正前の請求項7,8)が削除され,本件発明1ないし6は,理由2(新規性欠如,進歩性欠如)の対象とされていなかった請求項(本件補正前の請求項3及び6,当該請求項3又は6の記載を直接又は間接的に引用する本件補正前の請求項7,8)に係る発明のみとなった。
したがって,理由2(新規性欠如,進歩性欠如)によって,本件出願を拒絶することはできない。


7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-14 
出願番号 特願2017-13461(P2017-13461)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 113- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
関根 洋之
発明の名称 偏光板  
代理人 清水 義憲  
代理人 三上 敬史  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  

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