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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C22C |
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管理番号 | 1348708 |
異議申立番号 | 異議2017-701181 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-12-12 |
確定日 | 2018-12-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6146401号発明「フェライト系ステンレス鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6146401号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6146401号の請求項1、3?5に係る特許を維持する。 特許第6146401号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6146401号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成26年11月28日(優先権主張 平成26年 8月14日)を出願日とする出願であって、平成29年 5月26日に特許権の設定登録がされ、同年 6月14日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の請求項1?5に係る特許について、同年12月12日(受理日12月14日)に特許異議申立人岩谷 幸祐(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年 3月23日付けで当審より取消理由が通知され、特許権者より同年 5月25日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、異議申立人より同年 7月13日付けで意見書が提出され、同年 7月31日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、特許権者より同年 9月20日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、同年 9月27日付けで当審より特許法第120条の5第5項による訂正請求があった旨の通知がされたところ、指定期間内に異議申立人より意見書は提出されなかったものである。 第2 本件訂正の請求による訂正の適否 1 訂正の内容 平成30年 9月20日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。 なお、平成30年 5月25日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「Ti:0.10?0.40%」と記載されているのを、 「Ti:0.15?0.40%」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項3?請求項5も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「さらにそのTi含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」と記載されているのを、 「さらにそのTi含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量、Nb含有量およびV含有量が下記式(2)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 0.20≦V/(Ti+Nb)≦1.00 (2) 式(2)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項3?請求項5も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に 「請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。」と記載されているのを、 「請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。」に訂正する。 (請求項3を引用する請求項4?請求項5も同様に訂正する。) (5)訂正事項5 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に 「Zr:0.01?0.30%、B:0.0003?0.0030%、Mg:0.0005?0.0030%、」と記載されているのを、 「Zr:0.01?0.30%、Mg:0.0005?0.0030%、」に訂正する。 (6)訂正事項6 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に 「請求項1?3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。」と記載されているのを、 「請求項1又は3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。」に訂正する。 (請求項4を引用する請求項5も同様に訂正する。) (7)訂正事項7 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に 「請求項1?4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。」と記載されているのを、 「請求項1、3又は4に記載のフェライト系ステンレス鋼板。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項、一群の請求項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、請求項1に記載されるフェライト系ステンレス鋼板のTi含有量の下限値を、「0.10%」から「0.15%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、願書に添付した明細書の【0039】には、 「【0039】 その効果はTi含有量が0.10%以上で得られる。・・・従って、Ti含有量は0.10?0.40%の範囲とする。より好ましくは0.15?0.35%の範囲である。さらに好ましくは0.20?0.30%の範囲である。」(当審注:下線は当審で付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)と記載されているから、Ti含有量の下限値を「0.15%」と訂正する訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、訂正事項1による訂正は、フェライト系ステンレス鋼板のTi含有量の下限値を、「0.10%」から「0.15%」に限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、請求項1に記載されるフェライト系ステンレス鋼板のTi含有量、Nb含有量およびV含有量を、上記式(2)を満たすものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、願書に添付した明細書の【0020】には、 「【0020】 [2]Ti含有量、Nb含有量およびV含有量が下記式(2)を満たすことを特徴とする[1]記載のフェライト系ステンレス鋼板。 0.20≦V/(Ti+Nb)≦1.00 (2) 式(2)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」と記載され、【0048】には、 「【0048】 より好ましくは、Tiの含有量とNbの含有量の合計に対するVの含有量の比(V/(Ti+Nb))を0.20以上1.00以下とする。これにより耐食性はさらに向上することとなる。これは比(V/(Ti+Nb))が0.20以上とすることで、(Ti、V)(C、N)や(Nb、V)(C、N)の析出温度の低下が顕著となる。また、比(V/(Ti+Nb))が1.00以下とすることでV単独の炭窒化物が析出しにくくなり、Ti-Nb-V複合炭窒化物が形成されやすくなる。」と記載されているから、フェライト系ステンレス鋼板のTi含有量、Nb含有量およびV含有量を、上記式(2)を満たすものに訂正する訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、訂正事項2による訂正は、フェライト系ステンレス鋼板のTi含有量、Nb含有量およびV含有量を、上記式(2)を満たすものに限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (4)訂正事項4、6、7について 訂正事項4、6、7による訂正は、訂正事項3により請求項2を削除する訂正がされたのに伴って、請求項3?5において請求項2を引用しないものに訂正するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (5)訂正事項5について 訂正事項5による訂正は、請求項4において、請求項1又は3に係る発明としてのフェライト系ステンレス鋼板に更に追加的に含有される元素からBを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (6)一群の請求項について 本件訂正前の請求項2?請求項5は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?5は、一群の請求項である。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?5〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 また、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 むすび したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2に記載したとおり、本件訂正は適法であるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.01?1.00%、Mn:0.05?1.00%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Al:0.001?0.100%、Cr:12.5?14.4%、Ni:0.01?0.80%、Ti:0.15?0.40%、Nb:0.010?0.100%、V:0.01?0.25%、およびN:0.020%以下を含有し、さらにそのTi含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量、Nb含有量およびV含有量が下記式(2)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 0.20≦V/(Ti+Nb)≦1.00 (2) 式(2)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 さらに、質量%でMo:0.01?0.30%、Cu:0.01?0.50%、Co:0.01?0.50%およびW:0.01?0.50%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項4】 さらに、質量%でZr:0.01?0.30%、Mg:0.0005?0.0030%、Ca:0.0003?0.0030%、Y:0.001?0.20%およびREM(希土類金属):0.001?0.10%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項5】 さらに、質量%でSn:0.001?0.50%およびSb:0.001?0.50%のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項1、3又は4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。」 第4 異議申立理由の概要 1 各甲号証 甲第1号証:特開平11-106875号公報 甲第2号証:特開2012-207298号公報 甲第3号証:特開2007-270226号公報 甲第4号証:特開2010-31315号公報 甲第5号証:特開2001-294991号公報 2 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)について (1)異議申立理由1 本件発明1?4は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 (2)異議申立理由2 本件発明4、5は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 本件発明4、5は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になしえた発明である。 第5 取消理由の概要 1 平成30年 3月23日付けの取消理由通知書の取消理由の概要 平成30年 3月23日付けの取消理由通知書における取消理由の概要は、以下のとおりである。 1-1 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性) (1)甲第1号証を主引用例とする場合について (ア)本件発明1、3、4は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (イ)本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (ウ)本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)甲第2号証を主引用例とする場合について (ア)本件発明4、5は、甲第2号証に記載された発明であるか、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項4、5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (イ)なお、上記取消理由通知書においては、本件発明1?3が、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、とされている。 2 平成30年 7月31日付けの取消理由通知書(決定の予告)の取消理由の概要 平成30年 7月31日付けの取消理由通知書(決定の予告)における取消理由の概要は、以下のとおりである。 2-1 特許法第29条第2項(進歩性) (ア)請求項3を引用するものを含む本件発明4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ)請求項3及び4を引用するものを含む本件発明5は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ウ)なお、上記取消理由通知書(決定の予告)においては、本件発明1、3が、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない、とされている。 第6 各甲号証の記載事項 1 甲第1号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1号証(特開平11-106875号公報)には以下の記載がある。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】C:0.001 ?0.015 wt%、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、 P:0.05wt%以下、 S:0.010 wt%以下、 Cr:8 ?30wt%、 Al:0.08wt%以下、 N:0.005 ?0.015 wt%、 O:0.0080wt%以下、 Ti:0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み、 NbおよびVが、(Nb+V):0.05?0.10wt%かつ、V/Nb:2?5を満足して含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする深絞り性と耐リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項2】C:0.001 ?0.015 wt%、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、 P:0.05wt%以下、 S:0.010 wt%以下、 Cr:8 ?30wt%、 Al:0.08wt%以下、 N:0.005 ?0.015 wt%、 O:0.0080wt%以下、 Ti:0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み、 NbおよびVが、(Nb+V):0.05?0.10wt%かつ、V/Nb:2?5を満足して含有し、さらにMo:2.0 wt%以下、Ni:1.0 wt%以下およびCu:1.0 wt%から選ばれる1種又は2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする深絞り性と耐リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項3】C:0.001 ?0.015 wt%、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、 P:0.05wt%以下、 S:0.010 wt%以下、 Cr:8 ?30wt%、 Al:0.08wt%以下、 N:0.005 ?0.015 wt%、 O:0.0080wt%以下、 Ti:0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み、 NbおよびVが、(Nb+V):0.05?0.10wt%かつ、V/Nb:2?5を満足して含有し、さらにB:0.0005?0.0030wt%、Ca:0.0007?0.0030wt%およびMg:0.0005?0.0030wt%から選ばれる1種又は2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする深絞り性と耐リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項4】C:0.001 ?0.015 wt%、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、 P:0.05wt%以下、 S:0.010 wt%以下、 Cr:8 ?30wt%、 Al:0.08wt%以下、 N:0.005 ?0.015 wt%、 O:0.0080wt%以下、 Ti:0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み、 NbおよびVが、(Nb+V):0.05?0.10wt%かつ、V/Nb:2?5を満足して含有し、さらにMo:2.0 wt%以下、Ni:1.0 wt%以下およびCu:1.0 wt%から選ばれる1種又は2種以上と、B:0.0005?0.0030wt%、Ca:0.0007?0.0030wt%およびMg:0.0005?0.0030wt%から選ばれる1種又は2種以上とを含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする深絞り性と耐リジング性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。」 (1b)「【0007】 【発明が解決しようとする課題】上述したように、従来技術によって製造したフェライト系ステンレス鋼では、未だ、深絞り性と耐リジング性が十分なレベルには至っておらず、特に過酷な深絞り加工が施された場合に、リジングが発生するという問題があった。本発明は、このような従来技術の実状に鑑み、深絞り性と深絞り加工時の耐リジングとを共に向上させたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造技術を提案することにある。また本発明は、r値 1.8以上およびΔr0.15以下の特性を満たす深絞り性と、優れた耐リジング性とを有するフェライト系ステンレス鋼板およびその製造技術を提案することにある。」 (1c)「【0032】 【実施例】以下に、実施例に基づき本発明について説明する。表1に示す組成を有する鋼を、VOD→連鋳工程にて厚さ200mm の連鋳スラブとし、3スタンドより成る粗圧延機と7スタンドより成る連続式の仕上圧延機より構成される熱間圧延機にて、スラブ加熱温度(SRT):1150?1180℃、粗圧延終了温度(RDT):940 ?1090℃、仕上げ圧延終了温度(FDT) :800 ?950 ℃で板厚4mmの熱延鋼帯に圧延した。得られた熱延鋼帯を、880 ?1000℃の間で連続焼鈍し、酸洗の後、冷間圧延により、板厚0.8mm の鋼帯とした。この冷延鋼帯を、脱脂後、880 ?1000℃の間で連続仕上げ焼鈍し、酸洗後、スキンパス圧延を行って2B(JIS G4307で規定された表面仕上げ記号) 仕上げのステンレス鋼板とした。以上の方法で得られた冷延焼鈍板より試料を採取し、以下に示す各種の試験を行った。」 (1d)「【0034】 【表1】 」 (ア)上記(1a)によれば、甲第1号証にはフェライト系ステンレス鋼板に係る発明が記載されており、上記(1c)、(1d)の鋼記号13の鋼によれば、上記フェライト系ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.009%、Si:0.44%、Mn:0.21%、P:0.024%、S:0.003%、Al:0.029%、Cr:13.2%、Ti:0.14%、Nb:0.018%、V:0.039%、N:0.007%、O:0.0015%、B:0.0008%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものといえる。 (イ)また、鋼記号13の鋼のNb及びTi含有量からみれば、鋼記号13の鋼においては、Nb/Ti=0.018/0.14=0.13となるものであり、更にVの含有量からみれば、V/(Ti+Nb)=0.039/(0.14+0.018)=0.25となるものである。 (ウ)そうすると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「質量%で、C:0.009%、Si:0.44%、Mn:0.21%、P:0.024%、S:0.003%、Al:0.029%、Cr:13.2%、Ti:0.14%、Nb:0.018%、V:0.039%、N:0.007%、O:0.0015%、B:0.0008%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量及びNb含有量が下記式(i)を満たし、 Ti含有量、Nb含有量およびV含有量が下記式(ii)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。 Nb/Ti=0.13 (i) 式(i)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 V/(Ti+Nb)=0.25 (ii) 式(ii)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」(以下、「甲1発明」という。) 2 甲第2号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第2号証(特開2012-207298号公報)には以下の記載がある。 (2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、 C:0.01%以下、 Si:1%以下、 Mn:1%以下、 P:0.04%以下、 S:0.005%以下、 Mo:0.1%以下、 Cr:11%?19%、 Ti:10×(C+N)以上0.3%以下、 Al:0.02?0.2%、 N:0.015%以下、 B:0.0004%?0.0015%、 をそれぞれ含有し、かつ固溶Bを0.0003%以上含有し、 残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、 JIS G0571規定のシュウ酸電解エッチングを行った際に、ボライドを起因とするエッチピットが、粒界上に2×10^(-5)個/μm以下であることを特徴とする疲労特性に優れた容器用フェライト系ステンレス鋼板。 【請求項2】 質量%で、さらに V:0.005?0.2%、 Nb:0.005?0.2%、 の1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の疲労特性に優れた容器用フェライト系ステンレス鋼板。 【請求項3】 さらに、質量%で、 Ni:0.005?0.5%、 Cu:0.005?0.5%、 Sn:0.005?0.3%、 の1種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の疲労特性に優れた容器用フェライト系ステンレス鋼板。」 (2b)「【0007】 そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、良加工性を有する高純度フェライト系ステンレス鋼板において、B添加量を調整するとともに、粒界上へのボライドの析出を抑制することにより疲労特性を向上させた容器用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。」 (2c)「【0022】 Cr:11?19% Crは耐食性を発現するための必須な元素である。その効果を発現するためには、11%以上の添加が必要である。しかし、過度の添加は加工性が低下するため、19%を上限とする。耐食性と加工性のバランスを考慮すると、好ましくは、16?18.5%である。」 (2d)「【0027】 B:0.0004%?0.0015% 固溶B:0.0003%以上 Bは本発明において、疲労特性を向上させるために非常に重要な元素である。Bを固溶Bとして粒界に偏析させることにより粒界強化を図ることができる。その結果として、疲労特性が向上する。その効果を発現させるためには、0.0004%以上の添加が必要である。しかし、0.0015%を超えて添加すると、粒界上へのボライド析出が抑制できず、疲労特性向上の効果が消滅するため、上限を0.0015%とする。 また、このようなB添加による効果発現は、固溶B量に左右される。そのため、固溶Bを0.0003%以上含有する必要がある。なお、疲労特性の向上とボライド析出の抑制とのバランスを考慮すると、B含有量を0.0008?0.0012%とすることが好ましい。」 (2e)「【0032】 また、本実施形態において、上記元素に加えて、Ni:0.005?0.5%、Cu:0.005?0.5%、Sn:0.005?0.3%の一種以上を添加してもよい。 Ni、Cu、Snはそれぞれ、耐食性を向上させる元素であり、耐食性の向上が必要な場合添加できる。その効果を発現させるためには、0.005%以上の添加が望ましい。しかし、Ni、Cu、Snは多量に添加すると、加工性を著しく低下させるため、その上限を、Ni、Cuは0.5%、Snは0.3%とすることが望ましい。」 (2f)「【0042】 本実施例では、まず、表1及び表2に示す成分組成の鋼を溶製してスラブに鋳造し、スラブを熱間圧延して4mm厚の熱延コイルとした。その後、この熱延コイルを酸洗し、0.8mm厚まで冷間圧延を行い冷延板とした。次いで、水素-窒素混合雰囲気にて焼鈍した後、酸洗を行い、製品板とした。なお、このときの冷延板の焼鈍条件は、表3に示すように、焼鈍温度920℃、そして600℃までの平均冷却速度を25℃/sを主とし、実施例34?38においては、焼鈍温度を820?970℃、平均冷却速度を5?25℃/sの範囲で変化させて行った。なお、表1及び表2に示す成分組成において、本発明範囲から外れる数値にはアンダーラインを付している。 次に、このようにして得られた製品板から、各種試験片を採取し、評価・測定した。」 (2g)「【0046】 【表1】 」 (ア)上記(2a)によれば、甲第2号証には容器用フェライト系ステンレス鋼板に係る発明が記載されており、上記(2f)、(2g)の実施例15の鋼によれば、上記容器用フェライト系ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.009%、Si:0.20%、Mn:0.20%、P:0.030%、S:0.0010%、Al:0.07%、Cr:18.0%、Ni:0.10%、Ti:0.20%、Nb:0.05%、V:0.05%、N:0.009%、B:0.0006%、Mo:0.02%、Cu:0.10%、Sn:0.1を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものといえる。 (イ)また、実施例15の鋼のNb及びTi含有量からみれば、実施例15の鋼においては、Nb/Ti=0.05/0.20=0.25となるものであり、更にVの含有量からみれば、V/(Ti+Nb)=0.05/(0.20+0.05)=0.20となるものである。 (ウ)そうすると、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「質量%で、C:0.009%、Si:0.20%、Mn:0.20%、P:0.030%、S:0.0010%、Al:0.07%、Cr:18.0%、Ni:0.10%、Ti:0.20%、Nb:0.05%、V:0.05%、N:0.009%、B:0.0006%、Mo:0.02%、Cu:0.10%、Sn:0.1を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量及びNb含有量が下記式(iii)を満たし、 Ti含有量、Nb含有量およびV含有量が下記式(iv)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。 Nb/Ti=0.25 (iii) 式(i)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 V/(Ti+Nb)=0.20 (iv) 式(iv)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」(以下、「甲2発明」という。) 3 甲第3号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第3号証(特開2007-270226号公報)には以下の記載がある。 (3a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、 C:0.010%以下、 N:0.010%以下、 Si:0.25%以下、 Mn:0.2%以下、 P:0.03%以下、 S:0.01%以下、 Cr:16.0?20.0%、 Mo:0.5?2.0%未満、 Ti:0.05?0.25%、 Nb:0.05?0.40%、を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、下記 (A)式および(B)式を満足することを特徴とする、加工性、溶接性、耐すき間腐食性に優 れた貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼。 ここに、 (Ti+Nb)/(C+N)≧20 かつ 0.2≦Ti/(Nb+Ti)≦0.8 ・・・・(A) 21.5 ≦(Cr+3.3Mo)≦ 26 ・・・・(B)」 (3b)「【0009】 そこで、本発明は、Moなどの高価な合金元素を低減した比較的安価な鋼であって、65?70℃の低温の給湯温度において適正な加工性、溶接性、耐すき間腐食性を有する貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明は、前述の課題を解決するため鋭意検討の結果、CrとMoバランスならびに安定化元素であるNbとTiバランスの最適化を図ることによりMoなどの高価な合金元素を低減した比較的安価な鋼であって、65?70℃の低温の給湯温度において適正な加工性、溶接性、耐すき間腐食性を有する貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。」 (3c)「【0016】 これより、すき間腐食が生じなかった組成範囲は、Cr+3.3Moが本試験範囲では21.5以上26以下、かつTi/(Nb+Ti)が0.2以上であることが判明した。なおTi/(Nb+Ti)が0.2を下回ると、水溶性介在物を基点としたすき間腐食が発生する。またTi/(Nb+Ti)が0.8をこえると、圧延時にTi系の介在物を起因とした表面疵を生じ、外観上問題があるだけでなく、この疵部を基点としたすき間腐食も発生する場合があった。またCr+3.3Moが26を超えると加工性が低下してしまう。」 (3d)「【0025】 選択元素について以下に説明する。 CuおよびNiはCr,Moに加えて添加することにより、耐孔食性や耐すき間腐食性 を向上させることができる。ただしCuおよびNiの添加は加工性を低下させるほか、応力腐食割れの懸念が生じるため、上限をCuは1.0%、Niは2.0%とする。より好ましい範囲は、Cuが0.05?0.40%、Niは0.1?1.0%とする。 VはCr,Moに加えて添加することによりフェライト系ステンレス鋼の弱点である耐銹性や耐すき間腐食性が改善され,適切な組合せによりSUS304と同等以上の耐食性が得られるだけでなく,Cr,Moの使用を最小限にしてVを添加すれば伸びや平均r値の低下も小さく,耐食性と合わせて優れた加工性を確保することができる。Vの過度の添加はやはり加工性を低下させる上,耐食性向上効果も飽和するため,Vの上限を0.2%とする。Vの好ましい範囲は0.05?0.15%である。」 4 甲第4号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第4号証(特開2010-31315号公報)には以下の記載がある。 (4a)「【背景技術】 【0002】 排気系部品にはフェライト系ステンレス鋼板・鋼管が多用されてきている。たとえば、SUH409Lは、Crを11%含有しC,NをTiで固定して溶接部の鋭敏化を防止すると共に優れた加工性を有する鋼種であり、700℃以下で十分な高温特性を有し、凝縮水腐食に対してもある程度の抵抗性を発揮するため、最も多く用いられている。また、C,NをTiで固定しCrを17%含有するAISI439や、さらにMoを含有させたSUS436Lなど、耐凝縮水腐食性と塩害耐食性を高めた鋼種も使用されている。 ・・・ 【0004】 本発明では、SUH409L(11Cr系)とAISI439(17Cr系)の中間に位置付けられる鋼種を研究開発の対象とした。・・・ ・・・ 【0006】 例えば、特許文献1では、C,NをTiで固定しCrを9.0?15.0%含有させ、0.10?0.80%のNi,Cuを含有させて耐食性と加工性を両立させた鋼が開示されている。・・・ 【0007】 また、特許文献2では、C,NをNb,Tiで固定しCrを11.0?15.0%含有させ、0.6%以下のNiと1.0%以下のVを含有させて造管性、耐粒界腐食性、高温強度を確保した鋼が開示されている。・・・ 【0008】 また、特許文献3では、C,NをTiで固定しCrを10?14%含有させ、適量のS(C含有量の0.5倍以上、0.010%以下)を含有させて耐食性と加工性を両立させた鋼が開示されている。・・・」 (4b)「【発明が解決しようとする課題】 【0014】 本発明は、SUH409L(11Cr系)よりも加熱後耐食性に優れ、AISI439(17Cr系)よりも加工性とコストが優れる自動車排気系部材用の省合金型フェライト系ステンレス鋼の提供を目的とするものである。」 5 甲第5号証の記載事項 本件特許に係る優先日前に公知となった甲第6号証(特開2001-294991号公報)には以下の記載がある。 (5a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 mass%で、 C :0.0005?0.03%、 Si:0.01?1%、 Mn:0.01?1%、 P :0.04%未満、 S :0.0001?0.01%、 Cr:10?25%、 Ti:0.01?0.8%、 Al:0.005?0.1%、 N :0.0005?0.03%、 Mg:0.0005?0.01% を含有し、最大径が0.05?5μmのMg系介在物をTiNで覆った形態を有する介在物が3個/mm^(2)以上の密度で鋼中存在し、さらに、{100},{110},{111}コロニーのうち最も大きいコロニーの大きさが圧延方向に2000μm以下、幅方向に500μm以下、板厚方向に300μm以下であることを特徴とする成形性とリジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。 ・・・ 【請求項6】 mass%で、 Sb:0.0002?0.005%、 Sn:0.001?0.1% の1種もしくは2種を、さらに含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか記載の成形性とリジング特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。」 (5b)「【0027】Sb,Sn:これらの元素は圧延時に変形帯を生成しやすくするため、リジング向上効果がある。Sb:0.0002%、Sn:0.001%以上で効果を発揮するためこれを下限とした。しかしSb:0.005%、Sn:0.1%超添加すると強度上昇等成形性への悪影響をもたらすため、これを上限とした」 第7 異議申立理由及び取消理由についての当審の判断 1 異議申立理由について (1)甲第1号証を主引用例とする場合について (1-1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明とは、組成が、質量%で、C:0.009%、Si:0.44%、Mn:0.21%、P:0.024%、S:0.003%、Al:0.029%、Cr:13.2%、Nb:0.018%、V:0.039%、N:0.007%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる点で重複している。 (イ)また、本件発明1と甲1発明とは、Ti含有量及びNb含有量が、本件発明1の式(1)に含まれる、Nb/Ti=0.13の点で重複しており、V含有量、Ti含有量及びNb含有量が、本件発明1の式(2)に含まれる、V/(Ti+Nb)=0.25の点で重複しているから、甲1発明のTi含有量、Nb含有量及びV含有量は、上記式(1)、(2)を満たすものである。 (ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「質量%で、C:0.009%、Si:0.44%、Mn:0.21%、P:0.024%、S:0.003%、Al:0.029%、Cr:13.2%、Nb:0.018%、V:0.039%、N:0.007%を含有し、さらにそのTi含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量、Nb含有量およびV含有量が下記式(2)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 0.20≦V/(Ti+Nb)≦1.00 (2) 式(2)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1-1:本件発明1は、フェライト系ステンレス鋼板がNiを0.01?0.80%含有するのに対して、甲1発明は、Niを含有しない点。 相違点1-2:本件発明1は、フェライト系ステンレス鋼板がTiを0.15?0.40%含有するのに対して、甲1発明は、Ti含有量が0.14%である点。 相違点1-3:本件発明1は、フェライト系ステンレス鋼板がO及びBを含有しないのに対して、甲1発明は、O:0.0015%、B:0.0008%を含有する点。 イ 判断 (ア)上記相違点1-1?1-3は、いずれも、フェライト系ステンレス鋼板の物性に影響する成分組成の相違に係るものであるから、実質的な相違点といえるので、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。 そこで、事案に鑑みて、上記相違点1-2から検討すると、上記第6の1(1a)によれば、甲1発明においては、Tiは、0.25wt%以下で、Ti/N≧12を満足して含み得るものであり、かつ、甲1発明のNの含有量は0.007%であるから、甲1発明は、Ti含有量を0.08?0.25%とし得るものである。 すると、甲1発明は、Ti含有量を、本件発明1と重複する範囲である0.15%?0.25%の範囲とし得るものである。 (イ)ここで、本件発明1の発明特定事項からみれば、甲1発明において、Ti含有量を本件発明1と重複する範囲である0.15%?0.25%とする場合、同時に、本件発明1の発明特定事項である上記式(1)、(2)を満足しなければならないので、甲1発明において、Ti含有量を、本件発明1と重複する範囲とし、それと同時に上記式(1)、(2)を満足するものとすることを、当業者が容易になし得るか否かについて検討する。 (ウ)甲1発明においてTi含有量を0.15%?0.25%の範囲とする場合、甲1発明におけるNb含有量は0.018%であるから、甲1発明におけるNb/Tiは、0.018/0.25≦Nb/Ti≦0.018/0.15、すなわち、0.07≦Nb/Ti≦0.12となるので、上記式(1)と、0.10≦Nb/Ti≦0.12の範囲で重複し得るものであり、このとき、Nb/Tiが上記式(1)と重複する範囲となるTi含有量は0.15%?0.18%である。 更に、甲1発明におけるVの含有量は0.039%であるから、甲1発明におけるV/(Ti+Nb)は、0.039/(0.25+0.018)≦V/(Ti+Nb)≦0.039/(0.15+0.018)、すなわち、0.15≦V/(Ti+Nb)≦0.23となるので、上記式(2)と、0.20≦V/(Ti+Nb)≦0.23の範囲で重複し得るものであり、このとき、V/(Ti+Nb)が上記式(2)と重複する範囲となるTi含有量は0.15%?0.18%である。 (エ)上記(ウ)によれば、甲1発明においてTi含有量を0.15%?0.18%とすると、Ti含有量が本件発明1と重複する範囲であって、かつ、上記式(1)、(2)を満足するものとなるから、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼において、Ti含有量を本件発明1と重複する範囲とし、それと同時に上記式(1)、(2)を満足する合金組成の数値範囲は存在する。 (オ)ところが、上記甲第1号証には、上記式(1)、(2)については記載も示唆もされていない。 また、上記第6の3(3a)?(3c)によれば、甲第3号証に記載される貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼は、CrとMoバランスならびに安定化元素であるNbとTiバランスの最適化を図ることにより、Moなどの高価な合金元素を低減した比較的安価な鋼であって、65?70℃の低温の給湯温度において適正な加工性、溶接性、耐すき間腐食性を有する貯湯タンク用フェライト系ステンレス鋼を提供することを課題とするものであり、上記課題を解決するために、上記(A)式及び(B)式を満足する必要があるものである。 (カ)ところが、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、Crを13.2%含有し、Moを含有しないから、これに上記式(B)を適用すると、 Cr+3.3Mo=13.2+3.3×0 =13.2 となるので、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼は、少なくとも上記式(B)を満足し得ないものである。 (キ)してみれば、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼に対して、課題を解決するために、上記(A)式及び(B)式を満足する必要がある甲第3号証に記載される技術事項を適用することはできないから、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼に、甲第3号証に記載される上記式(A)のうち0.2≦Ti/(Nb+Ti)≦0.8のみを選択して適用するべき合理的な動機付けは存在しない。 更に、甲第2号証?甲第5号証には、上記式(2)については記載も示唆もされていないから、甲1発明において、殊更Ti含有量に着目して、Ti含有量を本件発明1と重複する範囲とし、それと同時に上記式(1)、(2)を満足するものとする合理的な動機付けは存在しないというべきである。 (ク)また、本件特許明細書の【0043】?【0048】によれば、本件発明1は、Ti、NbおよびVを複合的に添加することで耐食性を向上させられるものであって、Tiに対してNbを複合添加することによりTi炭窒化物の周辺にNb炭窒化物が付着するTi-Nb複合炭窒化物の析出形態をとることにより、Ti-Nb複合炭窒化物とフェライト系ステンレス鋼母材との界面は直線的ではなくなり、界面の全長が増大してアノード反応が分散して起こるため、孔食が起こりにくくなり耐食性が向上するものであるが、更に、上記のTiとNbの複合添加による耐食性向上効果が、Vの添加によってより顕著となるものであり、これは、鋼中にVが含まれることにより、TiやNbの炭窒化物にはVが含まれることとなり、TiとVの複合炭窒化物((Ti、V)(C、N))やNbとVの複合炭窒化物((Nb、V)(C、N))が形成され、これらの炭窒化物になることで、Vを含まない場合と比較して、析出ピーク温度が低下する結果、各粒の粗大化が抑制され、Ti-Nb複合炭窒化物に対してTi-Nb-V複合炭窒化物は比較的小さなサイズとなり、かつ、より多く分散した析出形態をとり、圧延などの加工時に炭窒化物-鋼母材間に形成される隙間が小さくなり、そのため、局所的な隙間腐食が起こりにくくなり、孔食の発生が抑制されることで、耐食性が向上すると考えられるものである。 そして、この効果を発現させて優れた耐食性を実現し、かつ、加工性を良好とするために、Ti含有量に対するNb含有量の比(Nb/Ti)を0.10以上0.30以下とするものであり、より好ましくは、Ti含有量とNb含有量の合計に対するVの含有量の比(V/(Ti+Nb))を0.20以上1.00以下とするものであり、これにより耐食性はさらに向上するものである。 (ケ)一方、第6の1(1b)によれば、甲1発明は、深絞り性と深絞り加工時の耐リジングとを共に向上させたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造技術を提案することを課題とするものであって、フェライト系ステンレス鋼にTi、NbおよびVを複合的に添加することで耐食性を顕著に向上させるものではない。 また、甲第2号証?甲第5号証の記載をみても、フェライト系ステンレス鋼において、Ti含有量を本件発明1と重複する範囲とした上で、更に上記式(1)、(2)を満足するものとすることにより、TiとNbの複合添加による耐食性向上効果が、Vの添加によってより顕著となることが記載も示唆もされるものではない。 なお、上記甲第3号証の上記第6の3(3d)の記載によれば、上記甲第3号証には、フェライト系ステンレス鋼に選択元素としてVを添加することが記載されているが、上記記載は、Vは、Cr、Moに加えて添加することによりフェライト系ステンレス鋼の弱点である耐銹性や耐すき間腐食性が改善されることをいうものであり、Ti、NbおよびVを複合的に添加することで耐食性を顕著に向上させることを開示するものではない。 (コ)してみれば、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼において、Ti含有量を本件発明1と重複する範囲とし、それと同時に上記式(1)、(2)を満足するものとすることにより奏する効果を、当業者は、甲第1号証?甲第5号証の記載事項から予測することができない。 このことと、上記(キ)によれば、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼板において、Ti含有量を本件発明1と重複する範囲とし、それと同時に上記式(1)、(2)を満足するものとすることは、そのような合金組成の数値範囲が存在するとしても、合理的な動機付けが存在せず、かつ、効果を予測することができないのであるから、当業者が容易になし得るものとはいえない。 (サ)そして、甲1発明において、Ti含有量を本件発明1と重複する範囲である0.15%?0.25%とする場合、同時に、本件発明1の発明特定事項である上記式(1)、(2)を満足しなければならないことは、上記(イ)に記載のとおりであり、このことと、上記(コ)によれば、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼において、Ti含有量を0.15?0.40%とすることを、当業者が容易になし得るものではない。 したがって、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼において、Ti含有量を0.15?0.40%として、上記相違点1-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第1号証?甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。 (シ)以上のとおりであるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第1号証?甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (1-2)本件発明3?5について ア 対比・判断 (ア)本件発明3と甲1発明とを対比すると、本件発明3は請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板、すなわち本件発明1を引用する関係にあるものであるから、本件発明3と甲1発明とは、少なくとも、上記相違点1-2を有するものであるので、本件発明3も、本件発明1と同様に、甲1発明であるとはいえない。 このことは、本件発明3と同様に、本件発明1を直接的又は間接的に引用する関係にある本件発明4についても同様である。 (イ)そして、甲1発明に係るフェライト系ステンレス鋼において、Ti含有量を0.15?0.40%として、上記相違点1-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第1号証?甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないことは、上記(1-1)イ(サ)に記載のとおりである。 (ウ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明及び甲第1号証?甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 このことは、本件発明3と同様に、本件発明1を直接的又は間接的に引用する関係にある本件発明4?5についても同様である。 (1-3)小括 したがって、上記第4の2(1)に記載される異議申立理由1は理由がない。 (2)甲第2号証を主引用例とする場合について (2-1)本件発明4について ア 対比 (ア)本件発明4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する関係にあるものであるので、まず、本件発明1を引用する関係にある場合について検討する。 本件発明1を引用する関係にある本件発明4(以下、「本件発明4-1」という。)と甲2発明とを対比すると、本件発明4-1と甲2発明とは、質量%で、C:0.009%、Si:0.20%、Mn:0.20%、P:0.030%、S:0.0010%、Al:0.07%、Ni:0.10%、Ti:0.20%、Nb:0.05%、N:0.009%、V:0.05%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼板である点で重複している。 (イ)また、本件発明4-1と甲2発明とは、Ti含有量及びNb含有量が、本件発明4の式(1)に含まれる、Nb/Ti=0.25の点で重複し、V含有量、Ti含有量及びNb含有量が、本件発明4-1の式(2)に含まれる、V/(Ti+Nb)=0.20の点で重複しているから、甲2発明のTi含有量、Nb含有量及びV含有量は、上記式(1)、(2)を満たすものである。 (ウ)そうすると、本件発明4-1と甲2発明とは、 「質量%で、C:0.009%、Si:0.20%、Mn:0.20%、P:0.030%、S:0.0010%、Al:0.07%、Ni:0.10%、Ti:0.20%、Nb:0.05%、N:0.009%、V:0.05%を含有し、さらにそのTi含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量、Nb含有量およびV含有量が下記式(2)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 0.20≦V/(Ti+Nb)≦1.00 (2) 式(2)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 相違点2-1:本件発明4-1は、フェライト系ステンレス鋼板が、質量%でCrを12.5?14.4%含有するのに対して、甲2発明は、Crを18.0%含有する点。 相違点2-2:本件発明4-1は、フェライト系ステンレス鋼板がBを含有しないのに対して、甲2発明は、質量%でBを0.0006%含有する点。 相違点2-3:本件発明4-1は、フェライト系ステンレス鋼板がMo、Cu、Snを含有しないのに対して、甲2発明は、質量%でMo:0.02%、Cu:0.10%、Sn:0.1%を含有する点。 イ 判断 (ア)上記相違点2-1?2-3は、いずれも、フェライト系ステンレス鋼板の物性に影響する成分組成の相違に係るものであるから、実質的な相違点といえるので、本件発明4-1が甲2発明であるとはいえない。 そこで、事案に鑑みて、上記相違点2-2から検討すると、上記第6の2(2b)によれば、甲2発明は、良加工性を有する高純度フェライト系ステンレス鋼板において、B添加量を調整するとともに、粒界上へのボライドの析出を抑制することにより疲労特性を向上させた容器用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを課題とするものである。 そして、上記第6の2(2a)、(2d)によれば、甲2発明は、B:0.0004%?0.0015%、固溶B:0.0003%以上を含む必要があるものであって、Bを固溶Bとして粒界に偏析させることにより粒界強化を図ることができ、その結果として、疲労特性が向上するものである。 (イ)してみれば、甲2発明は、容器用フェライト系ステンレス鋼板において、質量%で、B:0.0004%?0.0015%、固溶B:0.0003%以上を必須の元素として含むものであり、そうすることにより、疲労特性を向上させた容器用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供する、という課題を解決するものというべきである。 (ウ)そして、そのような甲2発明においてBを含有しないものとすることは、容器用フェライト系ステンレス鋼板の疲労特性を向上させる、という特性を損なうものとなるから、当業者が容易になし得るものとはいえず、このことは、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に左右されるものでもない。 してみれば、甲2発明に係る容器用フェライト系ステンレス鋼板においてBを含有しないものとして、上記相違点2-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。 (エ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4-1は、甲2発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (オ)更に、本件発明3を引用する関係にある本件発明4(以下、「本件発明4-3」という。)について検討すると、本件発明4-3に係るフェライト系ステンレス鋼板もBを含有しないことは、本件発明4-1と同様であるので、本件発明4-3と甲2発明とを対比すると、本件発明4-3と甲2発明は、少なくとも上記相違点2-2の点で相違するものであるので、本件発明4-3が甲2発明であるとはいえない。 そして、甲2発明に係る容器用フェライト系ステンレス鋼板においてBを含有しないものとして、上記相違点2-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(ウ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、本件発明4-3も、甲2発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (カ)したがって、本件発明4は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2-2)本件発明5について ア 対比・判断 (ア)本件発明5は、本件発明1、3又は4を引用する関係にあるものであって、本件発明1、3又は4のいずれを引用したとしても、本件発明5に係るフェライト系ステンレス鋼板はBを含有するものではないから、本件発明5と甲2発明とを対比すると、本件発明5と甲2発明とは、少なくとも上記相違点2-2の点で相違するものであるので、本件発明5が甲2発明であるとはいえない。 (イ)そして、甲2発明に係る容器用フェライト系ステンレス鋼板においてBを含有しないものとして、上記相違点2-2に係る本件発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、本件発明4は、甲2発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(2-1)イ(ウ)?(カ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、本件発明5も、甲2発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2-3)小括 したがって、上記第4の2(2)に記載される異議申立理由2は理由がない。 (3)むすび 以上のとおりであるので、上記第4の2(1)?(2)に記載される異議申立理由1?2は、いずれも理由がない。 2 平成30年 3月23日付け取消理由通知書の取消理由及び平成30年 7月31日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由について (ア)本件発明1及び本件発明3?4が甲1発明であるとはいえないことは、上記1(1)(1-1)イ(ア)、1(1)(1-2)ア(ア)に記載のとおりであり、本件発明1及び本件発明3?5は、甲1発明及び甲第1号証?甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(1)(1-1)イ(シ)、1(1)(1-2)ア(ウ)に記載のとおりである。 (イ)本件発明4?5が甲2発明であるとはいえないことは、上記1(2)(2-1)イ(カ)、1(2)(2-2)ア(ア)に記載のとおりであり、本件発明4?5は、甲2発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(2)(2-1)イ(カ)、1(2)(2-2)ア(イ)に記載のとおりである。 (ウ)したがって、平成30年 3月23日付け取消理由通知書の取消理由及び平成30年 7月31日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由は、いずれも理由がない。 4 平成30年 7月13日付け意見書の主張について (1)平成30年 7月13日付け意見書の主張の概要 (ア)平成30年 7月13日付け意見書の主張の概要は、以下のとおりである。 (イ)本件発明1、3、4は、甲第1号証に記載の発明であるか、甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である。 (当審注:意見書3頁13行?14行の「甲第2号証に記載の発明」は「甲第1号証に記載の発明」の誤記と認める。) (ウ)本件発明5は、甲第1号証に記載の発明及び甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得た発明である。 (エ)本件発明4、5は、甲第2号証に記載の発明であるか、甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である。 (2)判断 (ア)本件発明1及び本件発明3?4が甲1発明であるとはいえないことは、上記1(1)(1-1)イ(ア)、1(1)(1-2)ア(ア)に記載のとおりであり、本件発明1及び本件発明3?5は、甲1発明及び甲第1号証?甲第5号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(1)(1-1)イ(シ)、1(1)(1-2)ア(ウ)に記載のとおりであるので、上記(1)(イ)、(ウ)の主張は採用できない。 (イ)本件発明4?5が甲2発明であるとはいえないことは、上記1(2)(2-1)イ(カ)、1(2)(2-2)ア(ア)に記載のとおりであり、本件発明4?5は、甲2発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記1(2)(2-1)イ(カ)、1(2)(2-2)ア(イ)に記載のとおりであるので、上記(1)(エ)の主張は採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件請求項1、3?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件請求項2に係る特許に対して異議申立人岩谷 幸祐がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、C:0.025%以下、Si:0.01?1.00%、Mn:0.05?1.00%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Al:0.001?0.100%、Cr:12.5?14.4%、Ni:0.01?0.80%、Ti:0.15?0.40%、Nb:0.010?0.100%、V:0.01?0.25%、およびN:0.020%以下を含有し、さらにそのTi含有量およびNb含有量が下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、 Ti含有量、Nb含有量およびV含有量が下記式(2)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。 0.10≦Nb/Ti≦0.30 (1) 式(1)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 0.20≦V/(Ti+Nb)≦1.00 (2) 式(2)における元素記号は、各元素の含有量を意味する。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 さらに、質量%でMo:0.01?0.30%、Cu:0.01?0.50%、Co:0.01?0.50%およびW:0.01?0.50%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項4】 さらに、質量%でZr:0.01?0.30%、Mg:0.0005?0.0030%、Ca:0.0003?0.0030%、Y:0.001?0.20%およびREM(希土類金属):0.001?0.10%のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 【請求項5】 さらに、質量%でSn:0.001?0.50%およびSb:0.001?0.50%のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項1、3又は4に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-12-11 |
出願番号 | 特願2014-240889(P2014-240889) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 守安 太郎 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
金 公彦 長谷山 健 |
登録日 | 2017-05-26 |
登録番号 | 特許第6146401号(P6146401) |
権利者 | JFEスチール株式会社 |
発明の名称 | フェライト系ステンレス鋼板 |
代理人 | 森 和弘 |
代理人 | 森 和弘 |