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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1348715
異議申立番号 異議2018-700372  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-01 
確定日 2019-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6222458号発明「塗料用組成物、塗料及び塗装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6222458号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6222458号の請求項1?9に係る特許を維持する。  
理由 第1 手続の経緯

特許第6222458号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成26年1月15日(優先権主張平成25年10月1日)に出願され、平成29年10月13日にその特許権の設定登録がされ、同年11月1日に特許掲載公報が発行された。その後、当該特許掲載公報の発行の日から6月以内に当たる平成30年5月1日に、その特許について、特許異議申立人である中村光代により特許異議の申立てがされ、当審は、同年7月24日付けで取消理由を通知した。これに対し、特許権者であるJSR株式会社は、その指定期間内である同年9月27日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。なお、訂正の請求があったので、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが応答はなかった。

第2 訂正の適否

1 訂正事項
前記訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲の訂正をするものであり、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?9を訂正の単位として請求されたものであるところ、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンよりなる群から選択される少なくとも1種に由来する繰り返し単位(Ma)」と記載されているのを、「フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位(Ma)」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?7、9についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に記載された「下記一般式(1)で表される化合物(B)」とあるのを、「2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートから選ばれる1種以上である化合物(B)」に訂正するとともに、同請求項に記載された一般式(1)についての記載を削除する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?7、9についても同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に「フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンよりなる群から選択される少なくとも1種に由来する繰り返し単位(Ma)」と記載されているのを、「フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位(Ma)」に訂正する。
請求項8の記載を引用する請求項9についても同様に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に記載された「下記一般式(1)で表される化合物(B)」とあるのを、「2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートから選ばれる1種以上である化合物(B)」に訂正するとともに、同請求項に記載された一般式(1)についての記載を削除する。
請求項8の記載を引用する請求項9についても同様に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1、3について
前記訂正事項1、3は、本件訂正前の請求項1及び8に記載された「繰り返し単位(Ma)」を、本件特許明細書の実施例10、11、14、18、19、21?23、27?29、31?39に記載された具体例に基づき、「フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンに由来する」ものに限定するものである(引用請求項についても同様)。
したがって、当該訂正事項1、3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるということができる。
また、当該訂正事項1、3は、上記のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2、4について
前記訂正事項2、4は、本件訂正前の請求項1及び8に記載された「化合物(B)」を、本件特許明細書の実施例10、11、14、18、19、21?23、27?29、31?39に記載された具体例に基づき、「2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートから選ばれる1種以上である化合物(B)」に限定するものである(引用請求項についても同様)。
したがって、当該訂正事項2、4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるということができる。
また、当該訂正事項2、4は、上記のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3 小括
前記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?9を訂正の単位として請求されたものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載

前記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1?9の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
重合体(A)と、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートから選ばれる1種以上である化合物(B)と、液状媒体(C)と、を含有し、
前記重合体(A)が、
フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位(Ma)と、
(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルに由来する繰り返し単位(Mb)と、
ジアセトン(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位と、を有する含フッ素系重合体粒子であり、
前記重合体(A)を構成する繰り返し単位の合計を100モル%としたときに、前記繰り返し単位(Ma)を5?80モル%含有し、前記繰り返し単位(Mb)を10?90モル%含有することを特徴とする、塗料用組成物。
【請求項2】
前記重合体(A)100質量部に対する前記化合物(B)の含有割合が0.5?30質量部である、請求項1に記載の塗料用組成物。
【請求項3】
前記繰り返し単位(Ma)のモル数と前記繰り返し単位(Mb)のモル数との比率(Ma/Mb)が0.1?10である、請求項1または請求項2に記載の塗料用組成物。
【請求項4】
前記重合体(A)についてJIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、-50?+80℃の温度範囲における吸熱ピークが少なくとも1つ観測される、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の塗料用組成物。
【請求項5】
前記重合体(A)についてJIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、80℃?150℃の温度範囲における吸熱ピークがさらに少なくとも一つ観測される、請求項4に記載の塗料用組成物。
【請求項6】
前記含フッ素系重合体粒子の数平均粒子径が50?400nmである、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の塗料用組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の塗料用組成物と、着色剤と、を含有する、塗料。
【請求項8】
重合体(A)と、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートから選ばれる1種以上である化合物(B)と、液状媒体(C)と、着色剤と、を含有し、
前記重合体(A)が、
フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位(Ma)と、
(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルに由来する繰り返し単位(Mb)と、
ジアセトン(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位と、を有する含フッ素系重合体粒子であり、
前記重合体(A)を構成する繰り返し単位の合計を100モル%としたときに、前記繰り返し単位(Ma)を5?80モル%含有し、前記繰り返し単位(Mb)を10?90モル%含有することを特徴とする、塗料。
【請求項9】
基材と、前記基材の表面に請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の塗料用組成物又は請求項7もしくは請求項8に記載の塗料が塗布及び乾燥されて形成された塗膜と、を備える塗装体。」
(以下、各請求項に記載された事項により特定される発明をそれぞれ「本件発明1」?「本件発明9」といい、それらを総称して「本件発明」という。)

第4 取消理由通知に記載した取消理由(サポート要件・進歩性)について

1 取消理由(サポート要件・進歩性)の概要
(1) 「サポート要件」に関する取消理由
当審は、本件訂正前の本件特許につき、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである、と判断した。
その理由(具体的な指摘事項1、2)は、おおむね次のとおりであった。
ア 指摘事項1(化合物(B)について)
本件訂正前の特許請求の範囲には、化合物(B)について、「一般式(1)で表される」ものと記載されているところ、当該一般式(1)によって特定される化合物(B)は、広範な化合物群を構成するため、発明の詳細な説明に記載された耐候性などの効果を発現する機構(作用機序)が、当該化合物群のすべての化合物に対して当てはまるとは考えにくい。その上、実際に発明の詳細な説明の実施例において使用され、当該効果を発現することが確認された化合物(B)は、「2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート(テキサノール(登録商標))」、「エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート」、「ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)」、「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」の4つの化合物のみであるため、当該化合物(B)に属するものであっても、これら4つの化合物とは化学構造や特性が大きく異なる化合物については、上記実施例と同等の効果を奏するものと類推することはできないし、そのように類推するに足りる技術常識などの事実も見当たらない。
したがって、当該化合物(B)の範囲は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲を超えているというべきであるから、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。
イ 指摘事項2(Maについて)
本件訂正前の特許請求の範囲には、重合体(A)を構成する繰り返し単位の一つである「繰り返し単位(Ma)」について、「フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンよりなる群から選択される少なくとも1種に由来する繰り返し単位」と記載されているところ、発明の詳細な説明に記載された実施例のMaは、いずれも「含フッ素エチレン系単量体」として、「フッ化ビニリデン(VDF)」、「四フッ化エチレン(TFE)」及び「六フッ化プロピレン(HFP)」の3種全てから構成されたものを用いて、本件発明の課題を解決しており、また、一般に、重合体の繰り返し単位の構造が異なれば、重合体の特性が異なってくることは技術常識であることから、上記重合体(A)が、全般に、当該実施例の塗膜特性と同等の特性を示し、本件発明の課題が解決できるとはただちにはいえない。
したがって、当該Maの範囲は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲を超えているというべきであるから、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。
(2) 「進歩性」に関する取消理由
当審は、本件訂正前の特許請求の範囲の記載にはサポート要件に適合しないところがあるため、本件特許明細書記載の効果をそのまま進歩性の判断に際して有利な効果として認めることはできないことを前提に、次のとおり判断した。すなわち、本件訂正前の本件発明につき、下記甲1、4?6に記載された発明及び甲1?6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(進歩性を有しない)とし、本件訂正前の本件特許につき、特許法第29条の規定に違反してされたものである、と判断した。
<証拠一覧>
取消理由において採用した証拠(特許異議申立人が提出した証拠)は、以下のとおりである(以下、甲第1号証などを単に「甲1」という。)。
甲1:特開2003-171520号公報
甲2:国際公開第2004/067658号
甲3:特開2000-288466号公報
甲4:特開平9-291186号公報
甲5:特開2003-286440号公報
甲6:特開平7-268163号公報

2 「サポート要件」に関する取消理由についての判断
当審は、本件訂正により、前記「サポート要件」に関する取消理由は解消したものと判断する。
その理由は以下のとおりである。
(1) 指摘事項1に係る化合物(B)について
本件訂正により、前記「化合物(B)」は、実際に発明の詳細な説明の実施例において使用され、その効果について検証された、「2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート」、「エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート」、「ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)」及び「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」から選ばれる1種以上である化合物に限定された。
これにより、当該化合物(B)の範囲は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲内のものとなったと認められるから、前記指摘事項1に関し、特許請求の範囲の記載に、サポート要件に適合しないというほどの記載不備はない。
(2) 指摘事項2に係るMaについて
本件訂正により、前記「繰り返し単位(Ma)」は、実際に発明の詳細な説明の実施例において使用され、その効果について検証された、「フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位」に限定された。
これにより、当該Maの範囲は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲内のものとなったと認められるから、前記指摘事項2に関し、特許請求の範囲の記載に、サポート要件に適合しないというほどの記載不備はない。

3 「進歩性」に関する取消理由についての判断
前記2のとおり、本件訂正後の特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものであり、本件特許明細書記載の効果は、本件発明全般にわたって奏されるものと認められる。
この点を前提に、再度、本件発明の進歩性について検討したところ、当審は、本件発明は甲1、4?6に記載された発明に対して進歩性を有するものと判断する。
その理由は以下のとおりである。
(1) 甲1、4?6に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
(ア) 甲1の記載事項
「【0057】
【実施例】以下、合成例、実施例および比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0058】合成例1(シード粒子の合成)
内容量1リットルの攪拌機付きオートクレーブに脱イオン水500ml、パーフルオロオクタン酸アンモニウム塩0.5gおよびモノステアリン酸ポリオキシエチレン(POE40)0.05gを仕込み、ついで窒素ガスの圧入と脱気を繰り返して残存空気を除去した後、フッ化ビニリデン(VdF)とテトラフルオロエチレン(TFE)とクロロトリフルオロエチレン(CTFE)との混合モノマー(VdF/TFE/CTFE=74/14/12モル%)をオートクレーブ内が60℃で0.98MPaGとなるまで圧入した。重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2gを添加して重合を開始し、重合の間、オートクレーブ内の内圧を0.98MPaGに維持するためにVdF/TFE/CTFE(74/14/12モル%)混合モノマーを連続的に導入した。重合反応を45時間継続した後停止し、平均粒子径が120nmのVdF系重合体粒子の水性分散体を得た(固形分濃度40重量%)。
【0059】平均粒子径は、レーザー光散乱粒径測定装置(大塚電子(株)製のELS-3000(商品名))により測定した。
【0060】合成例2?3(シード粒子の合成)
表1に示す条件で合成例1と同様にして重合を行ない、表1に示すVdF系重合体粒子の水性分散体を得た。
【0061】
【表1】

【0062】製造例1(シード重合体粒子の製造)
攪拌器、冷却管および温度計を備えた内容量500mlの4つ口フラスコに合成例3で得られたシード粒子の水性分散体100gを仕込み、アンモニア水でpH7に調整後、乳化剤(日本乳化剤(株)製のニューコール707SF(商品名))を2.6g仕込んだ。温浴下で攪拌し、内温が85℃に達したところで、別途に調製したメタクリル酸メチル24g、アクリル酸2-エチルヘキシル6g、アクリル酸イソブチル4g、アクリル酸2g、ジアセトンアクリルアミド4g、ニューコール707SF2.7g、脱イオン水15.6gおよび過硫酸アンモニウム0.12gの乳化液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間85℃にて攪拌を続けた後、フラスコを冷却してシード重合反応を停止した。
【0063】重合生成物をアンモニア水でpH7に調整後、300メッシュの金網で濾過し、固形分50.1重量%で平均粒子径が160nmの含フッ素シード重合体粒子の水性分散体を製造した。
【0064】製造例2?11(シード重合体粒子の製造)
製造例1において、シード重合用の混合モノマーとして表2に示す組成の混合モノマーを使用したほかは製造例1と同様にして含フッ素重合体粒子の水性分散体を製造した。
【0065】
【表2】

・・・
【0070】実施例1
(クリア塗料の調製)製造例1で得られた重合体粒子の水性分散体100部に対しつぎの添加剤を配合し、充分に攪拌した。
【0071】
凍結防止剤:エチレングリコール 1部
消泡剤:日本乳化剤(株)製のFSアンチフォーム013B(商品名)
0.5部
増粘剤:旭電化工業(株)製のUH420(商品名) 0.5部
成膜助剤:アジピン酸ジブチル 10部
【0072】この混合液に架橋剤としてカルボニルジヒドラジド5部を配合し、充分に攪拌して、クリア塗料組成物を調製した。
【0073】得られたクリア塗料組成物について塗膜外観をつぎの方法で調べた。結果を表4に示す。
【0074】塗膜外観
得られたクリア塗料組成物の液温を5℃に調整し、ガラス板上にアプリケータにより厚さ40μmになるように塗布する。ついで5℃の温度で4週間乾燥後、得られた塗膜の外観を目視で観察する。
【0075】評価はつぎの基準である。
○:濁りおよび白化なし。
△:僅かに濁りと白化が認められる。
×:明確に濁りと白化が認められる。
【0076】(白塗料の調製)製造例1で得られた重合体粒子の水性分散体100部に対しつぎの添加剤を配合し、充分に攪拌した。
【0077】
顔料:酸化チタン(石原産業(株)製のCR90(商品名) 50部
分散剤:サンノプコ(株)製のノブコスパースSN5027(商品名)
2部
凍結防止剤:エチレングリコール 1部
消泡剤:日本乳化剤(株)製のFSアンチフォーム013B(商品名)
0.5部
増粘剤:旭電化工業(株)製のUH420(商品名) 0.5部
成膜助剤:アジピン酸ジブチル 10部
【0078】この混合液に架橋剤としてカルボニルジヒドラジド5部を配合し、充分に攪拌して、白塗料組成物を調製した。
【0079】得られた白塗料組成物について、つぎの特性を調べた。結果を表4に示す。
【0080】初期光沢
アルミニウム板に下塗り剤としてヘキスト合成(株)製のモビニールDM772(商品名)をアプリケータにより厚さ40μmとなるように塗布し、室温で4週間乾燥させる。この下塗り塗膜の上に、液温を5℃に調整した白塗料組成物をアプリケータにより厚さ40μmになるように塗布する。ついで5℃の温度で4週間乾燥後、得られた塗膜の光沢を光沢計(スガ試験機(株)製のSM-7(商品名))により反射角60度で測定する。
【0081】初期耐水性
アルミニウム板に下塗り剤としてヘキスト合成(株)製のモビニールDM772(商品名)をアプリケータにより厚さ40μmとなるように塗布し、室温で4週間乾燥させる。この下塗り塗膜の上に、液温を5℃に調整した白塗料組成物をアプリケータにより厚さ40μmになるように塗布する。ついで5℃の温度で1日放置後、さらに5℃の水に1日浸漬した後引き上げ、30分後に目視で塗膜の外観を観察する。
【0082】評価はつぎの基準である。
○:変化なし。
△:部分的に膨れが認められる。
×:全面に膨れが認められる。
【0083】耐温水性
アルミニウム板に下塗り剤としてヘキスト合成(株)製のモビニールDM772(商品名)をアプリケータにより厚さ40μmとなるように塗布し、室温で4週間乾燥させる。この下塗り塗膜の上に、液温を5℃に調整した白塗料組成物をアプリケータにより厚さ40μmになるように塗布する。ついで5℃の温度で7日放置後、さらに50℃の水に1日浸漬した後引き上げ、30分後に目視で塗膜の外観を観察する。
【0084】評価はつぎの基準である。
○:変化なし。
△:部分的に膨れが認められる。
×:全面に膨れが認められる。
【0085】耐溶剤性
アルミニウム板に下塗り剤としてヘキスト合成(株)製のモビニールDM772(商品名)をアプリケータにより厚さ40μmとなるように塗布し、室温で4週間乾燥させる。この下塗り塗膜の上に、液温を5℃に調整した白塗料組成物をアプリケータにより厚さ40μmになるように塗布する。ついで5℃の温度で7日放置して乾燥させる。酢酸エチルを含浸した布に100g/cm^(2)の荷重をかけながら塗膜表面上を100往復させ、塗膜の表面状態を目視で観察する。
【0086】評価はつぎの基準である。
○:変化なし。
△:傷および溶解跡が認められる。
×:下塗り塗膜が露出する。
【0087】耐候性
アルミニウム板に下塗り剤としてヘキスト合成(株)製のモビニールDM772(商品名)をアプリケータにより厚さ40μmとなるように塗布し、室温で4週間乾燥させる。この下塗り塗膜の上に、液温を5℃に調整した白塗料組成物をアプリケータにより厚さ40μmになるように塗布する。ついで5℃の温度で7日放置して乾燥させる。
【0088】得られた塗板をJIS K5400に準じ、促進耐候性試験機(スガ試験機(株)製のサンシャインウェザオメータ(商品名))により、63℃にて促進耐候性試験を行ない、5000時間後の光沢保持率(%)を調べる。
光沢保持率(%)=(試験後の光沢/試験前の光沢)×100
なお、初期光沢が50以下の試料については促進耐候性試験は行なわなかった。
【0089】また、クリア塗料組成物および白塗料組成物の液温および塗膜放置温度(乾燥温度)を25℃として、同じく塗膜外観、初期光沢、初期耐水性、耐温水性、耐溶剤性および耐候性を調べた。結果を表4に示す。
【0090】実施例2?11
製造例2?11でそれぞれ得られた重合体粒子の水性分散体を用い、架橋剤(カルボニルジヒドラジド)の配合量を表4に示す量としたほかは実施例1と同様にしてクリア塗料組成物および白塗料組成物を調製し、液温5℃と25℃における塗膜外観、初期光沢、初期耐水性、耐温水性、耐溶剤性および耐候性を実施例1と同様にして調べた。結果を表4に示す。
【0091】
【表4】


(イ) 甲1に記載された発明の認定
甲1の前記【実施例】の欄をみると、【0058】?【0061】には、シード粒子の合成例が記載され、特に【0061】【表1】には、シード粒子の合成例3として、VdF/TFE/HFP(78/16/6(モル%))の混合モノマーを用いた例が記載されている。さらに、【0062】?【0065】には、当該シード粒子を用いたシード重合体粒子の製造例が記載されているところ、【0065】【表2】には、シード重合体粒子の製造例3として、上記合成例3で得られたシード粒子を100重量部としたとき、メタクリル酸メチル60重量部、アクリル酸2-エチルヘキシル15重量部、アクリル酸イソブチル10重量部、アクリル酸5重量部、ジアセトンアクリルアミド10重量部であるシード重合用混合モノマーを用いた例が記載されている(以下、当該製造例3で得られたシード重合体粒子を、「甲1重合体粒子」という。)。
なお、当該「甲1重合体粒子」を構成する繰り返し単位の合計を100モル%とした時の、VdF、TFE及びHFPに由来する繰り返し単位の含有量、並びに、メタクリル酸メチル及びアクリル酸2-エチルヘキシルに由来する繰り返し単位の含有量は、それぞれ、おおよそ60モル%及び30モル%程度と解される。
また、甲1の【0070】?【0091】には、シード重合体粒子を用いて調製したクリア塗料組成物及び白塗料組成物の実施例が記載されているところ、【0091】【表4】には、実施例3として、上記製造例3で得られたシード重合体粒子、すなわち「甲1重合体粒子」を用いたものが記載されている。ここで、当該実施例3の白塗料組成物は、【0076】?【0078】の実施例1の白塗料組成物に関する記載と、【0090】の記載とから、「甲1重合体粒子」の水性分散体に、【0077】に記載された顔料(酸化チタン)、成膜助剤(アジピン酸ジブチル)などの添加剤を配合したものであることが分かる。そして、当該実施例3の白塗料組成物は、【0080】?【0088】の特性試験とおり、アルミニウム板などの基材の上に塗布・乾燥されて塗膜を形成するものである(以下、当該実施例3の白塗料を「甲1塗料」といい、そこで使用されている「「甲1重合体粒子」の水性分散体」あるいはこれに「成膜助剤(アジピン酸ジブチル)」を加えたものを「甲1塗料用組成物」といい、当該「甲1塗料」を基材の上に塗布・乾燥して形成された塗膜を、基材と合わせて「甲1塗装体」という。)。
以上をまとめると、甲1には、次の発明が記載されているといえる。
・「甲1重合体粒子」:
VdF/TFE/HFP(78/16/6(モル%))の混合モノマーを用いてシード粒子と、当該シード粒子を100重量部としたとき、メタクリル酸メチル60重量部、アクリル酸2-エチルヘキシル15重量部、アクリル酸イソブチル10重量部、アクリル酸5重量部、ジアセトンアクリルアミド10重量部であるシード重合用混合モノマーを用いて得られた重合体粒子。
・「甲1塗料用組成物」:
上記「甲1重合体粒子」の水性分散体(すなわち、「甲1重合体粒子」と水を含有する組成物)、あるいは、これに成膜助剤(アジピン酸ジブチル)を加えたもの。
・「甲1塗料」:
上記「甲1塗料用組成物」と顔料などの添加剤を含有する塗料。
・「甲1塗装体」:
上記「甲1塗料」を塗布・乾燥して形成された塗膜と基材。
イ 甲4に記載された発明
(ア) 甲4の記載事項
「【0036】実施例5
実施例1と同様のオートクレーブに、含フッ素系重合体としてフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(共重合重量比60/25/15)(以下、「含フッ素系重合体」という。)の分散液(平均粒子径50nm、固形分30%)500部、反応性乳化剤としてα-スルホ-ω-〔1-(ノニルフェノキシ)メチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)〕アンモニウム塩(以下、「反応性乳化剤」という。)8部、ジアセトンアクリルアミド5部、2-エチルヘキシルアクリレート40部、メチルメタクリレート50部およびアクリル酸5部を仕込み、80℃に昇温した。その後、過硫酸アンモニウムの5%水溶液4部を加え、85?95℃で3時間重合したのち、冷却して反応を停止させた。次いで、アンモニアでpH8に調整し、200メッシュの金網でろ過して、重合体粒子(C)の分散液を得た。この分散液の平均粒子径は、80nmであった。次いで、該重合体粒子(C)の分散液に、グルタル酸ジヒドラジドの10%水溶液24部(カルボニル基とヒドラジノ基との当量比=1:1.0)を添加し、約1時間攪拌して、水系分散体を得た。この水系分散体を、水系分散体(2-3)とする。以上の結果を、表3に示す。
・・・
【0040】〔印刷インキの調製と評価〕実施例1?6および比較例1?5で得た各水系分散体を用い、下記配合処方による組成物を、サンドミル中で1時間混合して、印刷インキを調製した。
配合処方
(部)
水系分散体(固形分換算) 20
エタノール 15
顔料(フタロシアニンブルー) 13
イオン交換水 52
得られた各印刷インキを、コロナ放電処理したポリエチレンフィルムにブレードコーターを用い、乾燥膜厚が5μmとなるように塗布したのち、25℃、相対湿度63%の雰囲気下に24時間放置して試験片を作製し、各種評価を行った。
・・・
【0043】
【表3】


(イ) 甲4に記載された発明の認定
甲4の前記実施例5(【0036】、【0043】【表3】参照)には、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(共重合重量比60/25/15)の分散液(平均粒子径50nm、固形分30%)500部、ジアセトンアクリルアミド5部、2-エチルヘキシルアクリレート40部、メチルメタクリレート50部およびアクリル酸5部をオートクレーブに仕込み重合させ、平均粒子径80nmの重合体粒子の分散液を得たことが記載されている(以下、当該重量体粒子を「甲4重合体粒子」という。)。
なお、当該重合体粒子を構成する繰り返し単位の合計を100モル%とした時の、VdF、TFE及びHFPに由来する繰り返し単位の含有量 並びに、メタクリル酸メチル及びアクリル酸2-エチルヘキシルに由来する繰り返し単位の含有量は、それぞれ、おおよそ70モル%及び30モル%と解される。
また、当該実施例5で得た上記「甲4重合体粒子」の水系分散体は、【0040】の記載によると、顔料(フタロシアニンブルー)やエタノールなどを添加して、印刷インキ(以下、当該水系分散体あるいはこれにエタノールを添加したものを「甲4塗料用組成物」といい、当該印刷インキを「甲4塗料」という。)とされ、これを基材であるポリエチレンフィルムに塗布・乾燥して塗膜(以下、当該基材と塗膜を合わせて「甲4塗装体」という。)を形成することが記載されている。
以上をまとめると、甲4には、次の発明が記載されているといえる。
・「甲4重合体粒子」:
上記実施例5で得た重合体粒子。
・「甲4塗料用組成物」:
上記「甲1重合体粒子」の水性分散体(すなわち、「甲4重合体粒子」と水を含有する組成物)、あるいは、これにエタノールを加えたもの。
・「甲4塗料」:
上記「甲4塗料用組成物」と顔料などの添加剤を含有する塗料。
・「甲4塗装体」:
上記「甲4塗料」を塗布・乾燥して形成された塗膜と基材。
ウ 甲5に記載された発明
(ア) 甲5の記載事項
「【0113】合成例2
容量7リットルのセパラブルフラスコの内部を窒素置換したのち、含フッ素系重合体粒子として、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン(重量比65/25/10)共重合体(平均粒径0.15μm)100部、ラジカル重合性モノマーとしてメチルメタクリレート60部、2-エチルヘキシルアクリレート15部、i-ブチルアクリレート10部、ジアセトンアクリルアミド10部およびアクリル酸5部、乳化剤として2-(1-アリル)-4-ノニルフェノキシポリエチレングリコール硫酸エステルアンモニウム塩0.4部および2-(1-アリル)-4-ノニルフェノキシポリエチレングリコール1.0部、イオン交換水300部を入れて、80℃に昇温させた。その後、重合開始剤として2%過硫酸カリウム水溶液1.5部を添加し、85?95℃で3時間重合した。その後、冷却して反応を停止させ、アンモニアを用いてpH8に調整して、重合体粒子(ii) の水系分散体を得た。この水系分散体は、固形分濃度が40%、重合体粒子(ii) の平均粒径が0.15μmであった。この重合体粒子(ii) を、重合体粒子(ロ-1)とする。
・・・
【0115】実施例1?5
合成例1および合成例2で得た各水系分散体を表1に示す比率(固形分換算、合計100部)で混合し、これに架橋剤として、アジピン酸ジヒドラジドの10%水溶液を各重合体成分中のジアセトンアクリルアミドのモル数に対して1/2当量、ジ-n-ブチル錫ラウレートの水系分散体2%(固形分換算)およびオキサゾリン系エマルジョンK2020E〔商品名、日本触媒(株)製〕5%(固形分換算)を加えて混合して、コーティング材(クリヤー)を調製した。次いで、溶剤系アクリル系プライマーを乾燥重量で50g/m^(2) 塗布して乾燥したスレート基材に、各コーティング材を、乾燥重量で25g/m^(2) 塗布したのち、80℃で6分間加熱して、試験片を作製した。得られた各試験片について、各種の評価を行なった。」
(イ) 甲5に記載された発明の認定
甲5の前記合成例2(【0113】参照)には、フッ化ビニリデン系重合体粒子としてフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(重量比65/25/10)100部、ラジカル重合性モノマーとしてメチルメタクリレート60部、2-エチルヘキシルアクリレート15部、i-ブチルアクリレート10部、ジアセトンアクリルアミド10部及びアクリル酸5部、イオン交換水等をセパラブルフラスコ内に入れ、重合させ、平均粒径0.15μm(150nm)の重合体粒子の水系分散体を得たことが記載されている(以下、当該重量体粒子を「甲5重合体粒子」といい、当該水系分散体を「甲5塗料用組成物」という。)。
なお、当該重合体粒子を構成する繰り返し単位の合計を100モル%とした時の、VdF、TFE及びHFPに由来する繰り返し単位の含有量 並びに、メタクリル酸メチル及びアクリル酸2-エチルヘキシルに由来する繰り返し単位の含有量は、それぞれ、おおよそ60モル%及び30モル%と解される。
また、当該合成例2で得た上記「甲5重合体粒子」の水系分散体(すなわち「甲5塗料用組成物」)は、【0115】の記載のとおり、コーティング材(以下、「甲5塗料」という。)とされ、これを試験片の基材に塗布・乾燥して塗膜(以下、当該基材と塗膜を合わせて「甲5塗装体」という。)を形成することが記載されている。
以上をまとめると、甲5には、次の発明が記載されているといえる。
・「甲5重合体粒子」:
上記合成例2で得た重合体粒子。
・「甲5塗料用組成物」:
上記「甲5重合体粒子」の水系分散体(すなわち、「甲5重合体粒子」と水を含有する組成物)。
・「甲5塗料」:
上記「甲5塗料用組成物」をコーティング材として調製したもの。
・「甲5塗装体」:
上記「甲5塗料」を塗布・乾燥して形成された塗膜と基材。
エ 甲6に記載された発明
(ア) 甲6の記載事項
「【0066】
【実施例】以下実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。なお、実施例において割合を示す「部」および「%」はそれぞれ重量部および重量%を意味する。
【0067】(実施例1)容量7リットルのセパラブルフラスコの内部を窒素置換したのち、フッ化ビニリデン系重合体粒子として、フッ化ビニリデン系重合体A(フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体:重量比65/25/10、平均粒径0.15μm)100部、表1に示す単量体(イ)?(ニ)、乳化剤として2-(1-アリル)-4-ノニルフェノキシポリエチレングリコール硫酸エステルアンモニウム塩0.4部および2-(1-アリル)-4-ノニルフェノキシポリエチレングリコール1.0部を、前記セパラブルフラスコ内に入れて80℃に昇温させた。その後、重合開始剤として2%過硫酸カリウム水溶液1.5部を添加し、85?95℃で3時間重合した後冷却して反応を停止させ、アンモニアを用いてpH8に調整した。さらにアジピン酸ジヒドラジド1.5部を添加して約1時間攪拌し、水性フッ素樹脂組成物を得た。
【0068】・・・
【表1】

・・・
【0077】以上のようにして実施例1?11、比較例1?4でそれぞれ得た水性フッ素樹脂組成物100部(固形部換算)に、
充填剤 酸化チタン 50部
分散剤 ポリカルボン酸ナトリウム塩 2部
(商品名SN-DIS-PERSANT5044、サンノプコ製)
凍結防止剤 エチレングリコール 1部
防腐剤 (商品名SN-215、サンノプコ製) 0.05部
消泡剤 (商品名FOAMASTER-AP、サンノプコ製)0.5部
トリエチレングリコールジメチルエーテル 部
(商品名DMTG、日本乳化剤製)
をそれぞれ添加し、固形部が60重量%となるように水で調整したのち、増粘剤としてヒドロキシエチルセルロースを用いて粘度を4000cpsに調整した。これらの各成分の混合はディスパー攪拌機を使用して行い、充分混合した後、減圧脱泡機に移して脱泡し、塗料を調整した。
【0078】前記のようにして得た各塗料を、キシレンおよびアルカリ性洗浄剤で脱脂した鉄板(JIS-3141、SPCC板、0.8×70×1500mm)にエアレスプレーガンを用いて、乾燥後の塗膜厚さが200μmまたは500μm(耐温水性試験のみ)となるように塗布したのち、80℃で15分間乾燥した。」
「【0064】また、本発明の水性フッ素樹脂組成物には、必要により、酸化チタン、酸化鉄等の顔料、炭酸カルシウム、アエロジル等の充填剤などの無機化合物を添加することもできる。」
(イ) 甲6に記載された発明の認定
甲6の前記実施例1(【0066】?【0068】参照)には、フッ化ビニリデン系重合体粒子としてフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(重量比65/25/10)100部、メタクリル酸メチル60部、アクリル酸2-エチルヘキシル15部、アクリル酸イソブチル10部、ジアセトンアクリルアミド10部、アクリル酸5部をセパラブルフラスコ内に入れ、重合させ、フッ素樹脂組成物(水性溶媒に複合重合体粒子が分散したもの)を得たことが記載されている(以下、当該フッ素樹脂組成物を構成する複合重合体粒子を「甲6重合体粒子」といい、これを水性溶媒に分散した当該フッ素樹脂組成物を「甲6塗料用組成物」という。)。
なお、当該重合体粒子を構成する繰り返し単位の合計を100モル%とした時の、VdF、TFE及びHFPに由来する繰り返し単位の含有量 並びに、メタクリル酸メチル及びアクリル酸2-エチルヘキシルに由来する繰り返し単位の含有量は、それぞれ、おおよそ60モル%及び30モル%と解される。
また、当該実施例1で得た上記「甲6塗料用組成物」は、【0077】、【0078】の記載によると、顔料である酸化チタン(【0064】参照)を充填材として添加するなどして、塗料(以下、「甲6塗料」という。)とされ、これを基材である鉄板などに塗布・乾燥して塗膜(以下、当該基材と塗膜を合わせて「甲6塗装体」という。)を形成することが記載されている。
以上をまとめると、甲6には、次の発明が記載されているといえる。
・「甲6重合体粒子」:
上記実施例1で得た複合重合体粒子。
・「甲6塗料用組成物」:
上記「甲6重合体粒子」の水性分散体(すなわち、「甲4重合体粒子」と水性溶媒を含有する組成物)。
・「甲6塗料」:
上記「甲6塗料用組成物」と顔料などの添加剤を含有する塗料。
・「甲6塗装体」:
上記「甲6塗料」を塗布・乾燥して形成された塗膜と基材。
(2) 甲2及び甲3に記載された造膜助剤(成膜助剤)に関する周知技術の整理
ア 甲2の記載事項
「水性分散型塗料においても、上記の各種の添加剤を配合することができる。さらに、造膜性を向上させるために造膜助剤を配合することが好ましい。造膜助剤としては、たとえばジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジブチルなどのほか、チッソ(株)製のCS-12、デュポン社製のDBE、DBE-IBなどの市販品が使用できる。」(41頁下から3行?42頁3行)
イ 甲3の記載事項
「【0052】本発明における最外層用の塗料には、必要に応じて適宜塗料の分野で公知の添加剤を配合してもよい。他の添加剤としてはたとえば紫外線吸収剤、HALS、造膜助剤、艶消し剤などがあげられる。造膜助剤としては、たとえばチッソ(株)製のテキサノールCS-12のほか、アジピン酸ジエチル、ブチルカルビトールアセテートなどがあげられる。」
ウ 周知技術の認定
甲2、3の記載から、本件発明1の化合物(B)の一つであるテキサノール(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート)は、アジピン酸ジブチルなどとともに、造膜助剤(成膜助剤)として、よく知られたものであることが分かる。
(3) 甲1に記載された発明に基づく進歩性の判断
ア 本件発明1について
本件発明1の塗料用組成物と、「甲1塗料用組成物」とを対比すると、
前者は、「2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートから選ばれる1種以上である化合物(B)」を有しているのに対して、後者は、当該化合物(B)を有していない点(以下、「相違点1」という。)
で相違し、その余の点では一致するものと認められる。
そこで、当該相違点1について検討をする。
はじめに、甲1の記載を仔細にみると、その【0048】には、上記化合物(B)に関係する、次の記載がある(下線は当審が付した。)。
「【0048】本発明の水性組成物には、使用目的に応じて各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、成膜性や濡れ性をさらに改良する有機溶剤、樹脂状添加剤、紫外線吸収剤をあげることができる。前記有機溶剤としては、たとえばメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、n-アミルアルコール、n-ヘキシルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテル類;トリブトキシメチルフォスフェートなどをあげることができる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。有機溶剤の使用量は、全水系分散体の、通常、50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。」
すなわち、甲1の【0048】には、水性組成物に各種添加剤を配合することができることが記載され、当該添加剤の例として、成膜性や濡れ性をさらに改良する有機溶剤、具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが挙げられている。
しかしながら、例示の有機溶剤に、本件発明1の化合物(B)に相当するものは見当たらない。
次に、「甲1塗料用組成物」には、成膜助剤として、「アジピン酸ジブチル」が使用されているので、これを、当該化合物(B)に代替可能であるか否かについて検討する。
確かに、前記(2)のとおり、本件発明1の化合物(B)の一つであるテキサノール(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート)は、上記アジピン酸ジブチルと並んで、成膜助剤としてよく知られたものであるといえる。
しかしながら、甲1には、「甲1塗料用組成物」の成膜助剤であるアジピン酸ジブチルに代えてテキサノールを採用することを教示する記載はないこと、及び、本件発明1は、化合物(B)を具備することにより、塗膜の耐候性の劣化を抑制することができるという、本件特許明細書記載の効果を発現するところ(特に【0083】?【0088】の記載を参照した。)、当該効果は、成膜助剤の添加により期待される通常の効果(成膜性向上)とは異質のものであって、甲1の記載などからは予測し得ないものであることを併せ考えると、「甲1塗料用組成物」の成膜助剤であるアジピン酸ジブチルに代えてテキサノールを採用して、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易なこととは言い難い。
したがって、本件発明1は、「甲1塗料用組成物」に対して進歩性を有するものというべきである。
イ 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1の発明特定事項を実質的にすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?9についても進歩性を有するものと認められる。
(4) 甲4に記載された発明に基づく進歩性の判断
ア 本件発明1について
本件発明1の塗料用組成物と、「甲4塗料用組成物」とを対比すると、両者には、前記(3)において検討した相違点1と同じ、化合物(B)の有無に関する相違があると認められる。
そこで、当該相違点について検討すると、甲4の【0025】に、次の記載を認めることができる(下線は当審が付した。)。
「【0025】第1発明および第2発明の水系分散体には、使用目的に応じて各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、成膜性や濡れ性をさらに改良する有機溶剤、樹脂状添加剤、紫外線吸収剤を挙げることができる。前記有機溶剤としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、n-アミルアルコール、n-ヘキシルアルコール等のアルコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-i-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-i-プロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリブトキシメチルフォスフェート等を挙げることができる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。有機溶剤の使用量は、全水系分散体の、通常、50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。また、前記樹脂状添加剤としては、例えば、水性塗料に通常使用されている水溶性ポリエステル樹脂、水溶性あるいは水分散性エポキシ樹脂、水溶性あるいは水分散性アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体等のカルボキシル基含有芳香族ビニル系樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができる。樹脂状添加剤の使用量は、水系分散体の全固形分に対して、通常、50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。」
また、前記(2)のとおり、本件発明1の化合物(B)の一つであるテキサノール(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート)は、造膜助剤(成膜助剤)としてよく知られたものである。
しかしながら、上記【0025】には、確かに、水系分散体に各種添加剤を配合することができることが記載され、当該添加剤の例として、成膜性や濡れ性をさらに改良する有機溶剤、具体的には、エチルアルコール(エタノール)とともに、エタノールエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが挙げられているものの、例示された有機溶剤に、本件発明1の化合物(B)に相当するものはないし、甲4を仔細にみても、「甲4塗料用組成物」の成膜性をさらに高めるために、テキサノールなどの周知の成膜助剤を採用することを教示する記載も見当たらない。そして、本件発明1は、化合物(B)を具備することにより、塗膜の耐候性の劣化を抑制することができるという、甲4の記載などからは予測し得ない有利な効果を奏するものであるから、当該相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。
したがって、本件発明1は、「甲4塗料用組成物」に対して進歩性を有するものというべきである。
イ 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1の発明特定事項を実質的にすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、進歩性を有するものと認められる。
(5) 甲5に記載された発明に基づく進歩性の判断
ア 本件発明1について
本件発明1の塗料用組成物と、「甲5塗料用組成物」とを対比すると、両者には、前記(3)において検討した相違点1と同じ、化合物(B)の有無に関する相違があると認められる。
そこで、当該相違点について検討すると、甲5の【0102】に、次の記載を認めることができる(下線は当審が付した。)。
「【0102】-前記以外の添加剤-
さらに、本発明の水系分散体には、所望により、オルトギ酸メチル、オルト酢酸メチル、テトラエトキシシラン等の脱水剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、ポリカルボン酸塩、ポリりん酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリアミドエステル塩、ポリエチレングリコール等の分散剤;ひまし油誘導体、フェロけい酸塩等の増粘剤;エタノールミン等のpH調整剤;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等の濡れ性改善剤;エチレングリコール、プロピレングリコール等の凍結防止剤;炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ほう素ナトリウム、カルシウムアジド等の無機発泡剤;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホヒドラジン等のヒドラジン化合物、セミカルバジド化合物、トリアゾール化合物、N-ニトロソ化合物等の有機発泡剤や、シリコーン系消泡剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、界面活性剤、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、染料、顔料、防腐剤、防かび剤、耐水化剤、成膜助剤等を配合することもできる。」
また、前記(2)のとおり、本件発明1の化合物(B)の一つであるテキサノール(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート)は、造膜助剤(成膜助剤)としてよく知られたものである。
しかしながら、上記【0102】には、確かに、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどの分散剤や、成膜助剤を、所望により水系分散体に配合することができることが記載されているものの、本件発明1の化合物(B)に相当するものは列記されていないし、甲5を仔細にみても、「甲5塗料用組成物」において、当該ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどの分散剤や成膜助剤として、本件発明1の化合物(B)を採用することを教示する記載は見当たらない。そして、本件発明1は、化合物(B)を具備することにより、塗膜の耐候性の劣化を抑制することができるという、甲5の記載などからは予測し得ない有利な効果を奏するものであるから、当該相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。
したがって、本件発明1は、「甲5塗料用組成物」に対して進歩性を有するものというべきである。
イ 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1の発明特定事項を実質的にすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、進歩性を有するものと認められる。
(6) 甲6に記載された発明に基づく進歩性の判断
ア 本件発明1について
本件発明1の塗料用組成物と、「甲6塗料用組成物」とを対比すると、両者には、前記(3)において検討した相違点1と同じ、化合物(B)の有無に関する相違があると認められる(下線は当審が付した。)。
そこで、当該相違点について検討すると、甲6の【0038】、【0054】、【0062】、【0063】に、次の記載を認めることができる。
「【0038】この乳化重合の条件は特に制約されるものではなく、例えば、水性媒体中、乳化剤および重合開始剤の存在下で、30?100℃程度の温度で1?30時間程度反応を行う。また必要により連鎖移動剤、キレート化剤、pH調整剤、溶媒等を添加してもよい。」
「【0054】前記溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、アセトン、トリクロロトリフルオロエタン、メチルイソブチルケトン、ジメチルスルホキシド、トルエン、ジブチルフタレート、メチルピロリドン、酢酸エチル等を挙げることができる。溶媒の使用量は、作業性、防災安全性、環境安全性および製造安全性を損なわない範囲内の少量であることが好ましく、全単量体100重量部当り、0?20重量部程度である。」
「【0062】本発明の水性フッ素樹脂組成物には、必要に応じて、各種有機添加材を、該水性分散体の固形分換算で100重量部に対して、40重量部以下配合することができる。」
「【0063】前記添加剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、エチレングリコール、プロピレングリコール等の凍結防止剤、染料、有機顔料、分散剤、エタノールアミン等のpH調整剤、ヒドロキシエチレルセルロール、ポリエーテルウレタン、アクリル酸共重合体等の増粘剤、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ等の濡れ性改善剤、有機充填剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、水溶性溶剤、成膜助剤等を挙げることができる。」
また、前記(2)のとおり、本件発明1の化合物(B)の一つであるテキサノール(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート)は、造膜助剤(成膜助剤)としてよく知られたものである。
しかしながら、上記【0038】、【0054】、【0062】、【0063】には、確かに、乳化重合に際して、水性媒体に溶媒などを添加してもよいことが記載され、当該溶媒の例として、酢酸エチルなどが挙げられ、また、必要に応じて、成膜助剤等の添加剤を配合することができることが記載されているものの、本件発明1の化合物(B)に相当するものは列記されていないし、甲6を仔細にみても、「甲6塗料用組成物」において、当該溶媒や成膜助剤として、本件発明1の化合物(B)を採用することを教示する記載は見当たらない。そして、本件発明1は、化合物(B)を具備することにより、塗膜の耐候性の劣化を抑制することができるという、甲6の記載などからは予測し得ない有利な効果を奏するものであるから、当該相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。
したがって、本件発明1は、「甲6塗料用組成物」に対して進歩性を有するものというべきである。
イ 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1の発明特定事項を実質的にすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、進歩性を有するものと認められる。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

特許異議申立人は、上記取消理由のほかに、本件発明は、甲1、4?6に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するため、本件発明に係る特許は、同項の規定に違反してされたものであるから取り消すべきものである旨を、特許異議申立理由として主張する。
しかしながら、前記第4の3において検討したとおり、本件発明と、甲1、4?6に記載された各発明とは、実質的な相違点を有するのであるから、当該主張を採用することはできない。

第6 結び

以上のとおりであるから、特許第6222458号の請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第1項第3号又は第2項の規定に違反してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号に該当するとは認められないから、前記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、ほかに当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)と、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートから選ばれる1種以上である化合物(B)と、液状媒体(C)と、を含有し、
前記重合体(A)が、
フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位(Ma)と、
(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルに由来する繰り返し単位(Mb)と、
ジアセトン(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位と、を有する含フッ素系重合体粒子であり、
前記重合体(A)を構成する繰り返し単位の合計を100モル%としたときに、前記繰り返し単位(Ma)を5?80モル%含有し、前記繰り返し単位(Mb)を10?90モル%含有することを特徴とする、塗料用組成物。
【請求項2】
前記重合体(A)100質量部に対する前記化合物(B)の含有割合が0.5?30質量部である、請求項1に記載の塗料用組成物。
【請求項3】
前記繰り返し単位(Ma)のモル数と前記繰り返し単位(Mb)のモル数との比率(Ma/Mb)が0.1?10である、請求項1または請求項2に記載の塗料用組成物。
【請求項4】
前記重合体(A)についてJIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、-50?+80℃の温度範囲における吸熱ピークが少なくとも1つ観測される、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の塗料用組成物。
【請求項5】
前記重合体(A)についてJIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、80℃?150℃の温度範囲における吸熱ピークがさらに少なくとも一つ観測される、請求項4に記載の塗料用組成物。
【請求項6】
前記含フッ素系重合体粒子の数平均粒子径が50?400nmである、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の塗料用組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の塗料用組成物と、着色剤と、を含有する塗料。
【請求項8】
重合体(A)と、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチラート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートから選ばれる1種以上である化合物(B)と、液状媒体(C)と、着色剤と、を含有し、
前記重合体(A)が、
フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレンに由来する繰り返し単位(Ma)と、
(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルに由来する繰り返し単位(Mb)と、
ジアセトン(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位と、を有する含フッ素系重合体粒子であり、
前記重合体(A)を構成する繰り返し単位の合計を100モル%としたときに、前記繰り返し単位(Ma)を5?80モル%含有し、前記繰り返し単位(Mb)を10?90モル%含有することを特徴とする、塗料。
【請求項9】
基材と、前記基材の表面に請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の塗料用組成物又は請求項7もしくは請求項8に記載の塗料が塗布及び乾燥されて形成された塗膜と、を備える塗装体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-17 
出願番号 特願2014-5344(P2014-5344)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09D)
P 1 651・ 537- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 櫛引 智子  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 木村 敏康
日比野 隆治
登録日 2017-10-13 
登録番号 特許第6222458号(P6222458)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 塗料用組成物、塗料及び塗装体  
代理人 布施 行夫  
代理人 松本 充史  
代理人 大渕 美千栄  
代理人 布施 行夫  
代理人 松本 充史  
代理人 大渕 美千栄  

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