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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1348727
異議申立番号 異議2018-700467  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-08 
確定日 2019-01-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6245443号発明「水処理剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6245443号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許6245443号は、平成26年3月27日に出願された特願2014-67265号の特許請求の範囲に記載された請求項1?5に係る発明について、平成29年11月24日に設定登録、同年12月13日に登録公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許について、平成30年6月8日付けの特許異議の申立てが詫摩勇悦(以下、「異議申立人(詫摩)」という。)より、また、同年月13日付けの特許異議の申立てが高橋勇(以下、「異議申立人(高橋)」という。)よりされ、同年9月25日付けの取消理由を通知したところ、同年11月21日付けの意見書が特許権者より提出されたものである。

第2.本件の発明について
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定される以下のものである。
「【請求項1】
カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、
スルホン化ピレン系化合物とを含み、
pHが2以下に調整されている、
水処理剤。
【請求項2】
前記スルホン化ピレン系化合物がピレンテトラスルホン酸およびピレンテトラスルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1に記載の水処理剤。
【請求項3】
ホスホン酸およびホスホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つのホスホン酸系化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の水処理剤。
【請求項4】
アゾ-ル系化合物をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の水処理剤。
【請求項5】
前記アゾ-ル系化合物が1,2,3-ベンゾトリアゾールである、請求項4に記載の水処理剤。」

第3.当審の取消理由について
(1)当審の取消理由(特許法第36条第6項第1号)
当審の取消理由(概略)は、『実験例の1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩(スルホン化ピレン化合物)の残存率は76%程度であるのに対して、比較例の1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩(スルホン化ピレン化合物)の残存率は78.8%であることについて、実験例は、「カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含み、pHが2以下に調整され」るという発明特定事項(発明の全て)を満たすにもかかわらず、スルホン化ピレン系化合物の劣化が、比較例よりも大きいものであるので、本件課題を解決するものであるとはいえない。
したがって、本件請求項1ないし5の記載は、当業者が本件課題を解決することができない場合を含むものであるので、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものではない』というものである。

(2)当審の判断
本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)は、「本発明は、カルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含む水処理剤について、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の劣化を抑制しようとするものである。」(【発明が解決しようとする課題】【0008】)との記載からして、「カルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含む水処理剤について、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の劣化」にあるということができる。
ここで、発明の詳細な説明の【0032】ないし【0038】からして、実験例の水処理剤と、比較例の水処理剤とは、その成分内容が異なっているので、実験例におけるpHと残存率の関係と、比較例におけるpHと残存率の関係のそれぞれは、独立して検討されるべきものであり、両者の残存率(数値)を単純に比較することはできない、というべきである。
また、実験例におけるpHと残存率の関係は、【図1】からして、pHが低くなると残存率は高くなるということができ、さらに、同一の水処理剤を使用する比較例と実施例1、2におけるpHと残存率においても、比較例(pH2.6)→実施例2(pH2.0)→実施例1(pH0.7)になると比較例(残存率78.8%)→実施例2(残存率85.7%)→実施例1(残存率87.4%)となっており、pHが低くなると残存率は高くなるということができる。
つまり、発明の詳細な説明は、本件課題の「カルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含む水処理剤について、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の劣化」について、pHを低くすることで本件課題が解決し得ることを定性的に示すものであり、また、比較例(pH2.6)→実施例2(pH2.0)の残存率の向上ペースに比べて、実施例2(pH2.0)→実施例1(pH0.7)の残存率の向上ペースが小さくなっていることからみて、pH2以下レベルにおいて、残存率がほぼ上限レベルになることを示すものである、ということができる。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明において、「pHが2以下に調整され」ることで、本件課題が解決され得るものであるとして記載されているということができるので、本件請求項1ないし5の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである、ということができる。
したがって、当審の取消理由に理由はない。

第4.異議申立人(詫摩)の申立理由について
第4-1 申立理由について
(1)特許法第29条第2項(以下、「申立理由A」という。)
本件発明1ないし5は、甲第1号証記載の発明及び甲第2ないし8号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証:特開2012-41606号公報
甲第2号証:特開平6-343949号公報
甲第3号証:特開平7-109587号公報
甲第4号証:特表2003-513979号公報
甲第5号証:特表2005-515891号公報
甲第6号証:特開2013-72741号公報
甲第7号証:特開平5-163591号公報
甲第8号証:特開平6-289008号公報
なお、甲第9号証は、本件の特許公報である。

(2)特許法第36条第6項第1号(以下、「申立理由B」という。)
本件請求項1ないし5の記載は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許になったものである。

(3)特許法第36条第6項第2号(以下、「申立理由C」という。)
本件請求項1ないし5の記載は、「pHが2以下に調整」におけるpHについて、十分の一の位を規定するものではないことからして、2.4や2.7が「2以下」の範囲に含まれるのか理解できないので、発明を明確に記載するものではない。

第4-2 当審の判断
(A)申立理由Aについて
甲第1号証には、以下の記載がある。
(a)「【請求項1】
(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸と硝酸の酸混合物を加えてpHを0.0から2.5に調整し、かつ、亜鉛とアルカリ金属の合計量に対する硫酸と硝酸の合計量の当量比が0.7以上?1.0未満であることを特徴とする腐食及びスケール防止用液体組成物。」

(b)「【0035】
本発明で使用されるマレイン酸系重合体は、ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。
【0036】
本本発明で使用されるイタコン酸系重合体は、ホモイタコン酸重合体およびイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。」

上記(a)ないし(b)より、甲第1号証には、
「(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体[ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体]、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸と硝酸の酸混合物を加えてpHを0.0から2.5に調整し、かつ、亜鉛とアルカリ金属の合計量に対する硫酸と硝酸の合計量の当量比が0.7以上?1.0未満であることを特徴とする腐食及びスケール防止用液体組成物。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。

ここで、甲1発明において、「マレイン酸系重合体[ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体]」を必須として「含む水性混合物」は、本件発明1の「カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体」に一応相当し、
甲1発明の「pHを0.0から2.5に調整」は、本件発明1の「pHが2以下に調整」に一応相当し、
甲1発明の「腐食及びスケール防止用液体組成物」は、本件発明1の「水処理剤」に相当する。
上記より、本件発明1と甲1発明とは、「カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体とを含み、pHが2以下に調整されている、水処理剤。」という点で一応一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
本件発明1は、「スルホン化ピレン系化合物」を含むのに対して、甲1発明は、当該化合物を含まない点。

<相違点>について検討する。
甲第2号証には、不活性トレーサとして1,3,6,8ーピレンテトラスルホン酸(スルホン化ピレン系化合物)を使用すること、甲第3号証には、蛍光トレーサーを使用すること、甲第4号証に、不活性蛍光トレーサーとして、1,3,6,8ーピレンテトラスルホン酸テトラナトリウム塩(PTSA)(スルホン化ピレン系化合物)を使用すること、甲第5号証には、不活性蛍光トレーサーとして、1,3,6,8ーピレンテトラスルホン酸を使用すること、甲第6号証には、蛍光トレーサーとして、PTSAを使用すること、甲第7号証には、蛍光トレーサーを使用すること、甲第8号証には、ピレンテトラスルホン酸の水溶性塩等の蛍光種(トレーサ)を使用することの記載はあるものの、いずれの文献にも、トレーサを添加する処理剤のpHについて記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明において、甲第2ないし8号証記載の「トレーサ」を使用したものが、本件発明1の「本発明の水処理剤は、カルボン酸およびカルボン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つの単量体単位を有する水溶性重合体と、スルホン化ピレン系化合物とを含むものでありながら、pHが2以下に調整されているため、日光の照射環境においてもスルホン化ピレン系化合物が劣化しにくい。」(【発明の効果】【0013】)との効果を達成することは、いずれの文献からも当業者が予測し得たことではない。 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2ないし8号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
そして、本件発明2ないし5は、本件発明1と同じく、「スルホン化ピレン系化合物」を含むものであるので、甲1発明及び甲第2ないし8号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
よって、申立理由Aに理由はない。

(B)申立理由Bについて
上記「第3.」の「(2)」で示したように、『発明の詳細な説明は、本件課題の「カルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体とスルホン化ピレン系化合物とを含む水処理剤について、日光の照射環境下でのスルホン化ピレン系化合物の劣化」について、pHを低くすることで本件課題が解決し得ることを定性的に示すものであり、また、比較例(pH2.6)→実施例2(pH2.0)の残存率の向上ペースに比べて、実施例2(pH2.0)→実施例1(pH0.7)の残存率の向上ペースが小さくなっていることからみて、pH2以下レベルにおいて、残存率がほぼ上限レベルになることを示すものである、ということができる。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明において、「pHが2以下に調整され」ることで、本件課題が解決され得るものであるとして記載されているということができる』といえることからして、本件発明は、「pHが2以下に調整され」ることで本件課題を解決し得るものであり、また、これを発明特定事項にする(反映する)ものであるので、異議申立人(詫摩)の「本件請求項1ないし5の記載は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許になったものである。」との主張は、当を得ないものである。
したがって、申立理由Bに理由はない。

(C)申立理由Cについて
発明の詳細な説明の実施例2(pH2.0)に対する比較例のpHは2.6であり、あくまでも、実施例2のpHは2.0であることからして、本件発明の「pHが2以下に調整」における「pHが2」は、「pHが2.0」であると解釈するのが適当であるので、異議申立人(詫摩)の『本件請求項1ないし5の記載は、「pHが2以下に調整」におけるpHについて、十分の一の位を規定するものではないことからして、2.4や2.7が「2以下」の範囲に含まれるのか理解できないので、発明を明確に記載するものではない。』との主張は、当を得ないものである。
したがって、申立理由Cに理由はない。

(D)小括
上記「(A)」ないし「(C)」より、異議申立人(詫摩)の申立理由により、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。

第5.異議申立人(高橋)の申立理由について
第5-1 申立理由(特許法第29条第2項)(以下、「申立理由D」という。)について
本件発明1ないし5は、甲第1ないし5号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。(当審注:甲各号証の表記について、異議申立人(詫摩)の甲各号証との混同を避けるため、甲第○’号証と表記することにする。)
甲第1’号証:特開平7-308516号公報
甲第2’号証:特表2007-535402号公報
甲第3’号証:特表2013-531705号公報
甲第4’号証:特開2008-56644号公報
甲第5’号証:特開2014-36912号公報

第5-2 当審の判断
第5-2-1 甲各号証記載の発明
(1)甲第1’号証記載の発明
甲第1’号証には、以下の記載がある。
(甲1’-1)「【請求項13】 不活性トレーサーを、前記高分子電解質に対して既知の割合で前記水系に添加し、前記添加箇所から離れた箇所でかつ添加時点から後の時点で、前記水系の中の不活性トレーサーに有効な分析法で前記不活性トレーサーの前記水系の中での濃度を測定し、前記高分子電解質の濃度を不活性トレーサーの測定濃度から算出する請求項1に記載の方法。」

(甲1’-2)「【0043】本発明の方法に使用するに好ましい不活性蛍光トレーサーのもう1つの群は、ピレンの各種スルホン化誘導体、例えば1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸、そのスルホン化ピレン誘導体の各種水溶性塩である。不活性トレーサーは、例えば炭化水素を含有する配合された高分子電解質生成物の1種以上の芳香族炭化水素のような、配合された高分子電解質生成物の1つの規定の成分であることができ、又は配合された高分子電解質生成物の1つの規定成分の標識した変種であることもできるが、殆どの場合、配合された高分子電解質生成物に添加した又は本発明の方法のために主たる及び/又は唯一の目的で水系に比例的に添加した化合物である。」

(甲1’-3)「【0065】上記のように、活性な水処理剤として使用する高分子電解質にはスケール抑制剤、腐食防止剤、分散剤、界面活性剤、消泡剤、凝集剤等がある(これらの分類に限定されるものではない)。これらの高分子電解質水処理剤は、限定されるものではないが、合成の水溶性ポリマーであることができる。次に記載する高分子電解質水処理剤は代表的なものであり、限定されるものではない。
【0066】スケール防止プログラムは通常は多成分抑制剤、例えば高分子電解質を高分子の結晶改質剤/分散剤と一緒に使用するが、1成分だけの活性成分配合物や全ポリマープログラムも周知である。高分子のスケール抑制剤成分は、最も一般にはマレイン酸ポリマーとその塩、(メタ)アクリル酸ポリマーとその塩、スルホン化ポリマー、例えばスルホン化スチレン又はスルホン化N-アルキル置換(メタ)アクリルアミドモノマー単位とその塩を含むポリマー、及び複数のアニオン系モノマー単位を含むポリマーである。」

(甲1’-4)「【0099】
・・・適切なマスキング剤を2つ挙げると、水酸化ナトリウム水溶液でpH7に中和したエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)とホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)である。カルシウム及び/又はマグネシウムが存在してマスキング剤が存在しない場合、染料薬剤とアニオン系ポリマーとの蛍光色応答は障害される・・・」

(甲1’-5)「【0100】例3
・・・最初にアニオン系ポリマーを添加し、1mlの体積中の活性当量を表に示した(表2?3の欄2)。次いでキレート剤(pH7)を、表に示した1mlの体積中の活性濃度で添加した。・・・」

(甲1’-6)「【0104】例4
・・・次にキレート剤(水酸化ナトリウムでpH7に中和)を1ml体積中に10000ppmの活性当量の濃度で添加した。・・・」

(甲1’-7)「【0105】例5
・・・図3に示すように、pHが約5のとき蛍光強度の増加は約45%であり、ここで図3は、ブランク(染料のみ)、ポリマーA(ポリメタクリル酸)、ポリメタクリル酸ではないポリマーB、ポリマーCの存在中の蛍光薬剤ににいての発光強度と波長(発光スペクトル)のプロットである。・・・」

上記(甲1’-1)ないし(甲1’-7)より、甲第1’号証には、
「高分子のスケール抑制剤成分(マレイン酸ポリマーとその塩、(メタ)アクリル酸ポリマーとその塩)(水溶性ポリマー)と、不活性蛍光トレーサー(ピレンの各種スルホン化誘導体、例えば1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸、そのスルホン化ピレン誘導体の各種水溶性塩)を含む、水処理剤。」(以下、「甲1’発明」という。)が記載されているということができる。

(2)甲第2’号証記載の発明
甲第2’号証には、以下の記載がある。
(甲2’-1)「【0050】
一般的な炭酸カルシウム用のスケール制御薬品は、・・・ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸、無水マレイン酸/アクリル酸エチル/アクリル酸ビニルターポリマー、及び、アルキルエポキシカルボン酸塩(略して「AEC」)等の有機ポリマー;・・・が挙げられる。
【0051】
特許請求の範囲に記載の本発明の第一の態様の水処理薬品、又は、特許請求の範囲に記載の本発明の第二の態様の腐食防止薬品のいずれかと共に、特許請求の範囲に記載の本発明に好適に用いられる不活性蛍光トレーサーとしては、以下のものが挙げられる:1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸,四ナトリウム塩(CAS登録番号59572-10-0);・・・スルホン酸化スチルベン-トリアゾール蛍光増白剤及びその塩。」

上記(甲2’-1)より、甲第2号証には、
「ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸、無水マレイン酸/アクリル酸エチル/アクリル酸ビニルターポリマー、及び、アルキルエポキシカルボン酸塩等の有機ポリマーと、不活性蛍光トレーサー(例えば、1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸,四ナトリウム塩)を含む、水処理薬品。」(以下、「甲2’発明」という。)が記載されているということができる。

(3)甲第3’号証記載の発明
甲第3’号証には、以下の記載がある。
(甲3’-1)「【請求項1】
AA-AMPSコポリマーとPMAとを含む組成物。」

(甲3’-2)「【請求項4】
有効量の蛍光体を更に含み、任意選択的に該蛍光体が少なくともPTSAを含有する、請求項1に記載の組成物。」

(甲3’-3)「【0011】
AA:アクリル酸。
AMPS:2-アクリルアミド,2-メチルプロピルスルホン酸。
RO:逆浸透。
ROシステム:少なくとも1つの逆浸透膜を含む膜システム。
NF:ナノろ過。
NFシステム:少なくとも1つのナノろ過膜を含む膜システム。
ED:電気透析又は逆電気透析。
EDシステム:電気透析又は逆電気透析を実施することが可能な少なくとも1つの装置を含む膜システム。
MD:膜蒸留。
MDシステム:膜蒸留を実施することが可能な少なくとも1つの装置を含む膜システム。
EDI:電気再生式イオン交換。
EDIシステム:電気再生式イオン交換を実施することが可能な少なくとも1つの装置を含む膜システム。
PMA:ポリマレイン酸。
PTSA:ピレンテトラスルホン酸及び/又はその誘導体。
ATMP:アミノトリスメチレンホスホネート。
TDS:総溶解固形分。」

(甲3’-4)「【0049】
本発明の方法では、供給流/水系に適用される組成物を監視及び/又は制御するためにトレーサーを利用することができる。トレーサー及び/又は標識化学種、すなわちAA-AMPSの標識化学種に関する方法論を、この機能を実現するために利用することができる。・・・」

上記(甲3’-1)ないし(甲3’-4)より、甲第3’号証には、
「AA(アクリル酸)-AMPS(2-アクリルアミド,2-メチルプロピルスルホン酸コポリマー)とPMA(ポリマレイン酸)と、少なくともPTSA(ピレンテトラスルホン酸及び/又はその誘導体)を含有する蛍光体を含む、供給流/水系に適用される組成物。」(以下、「甲3’発明」という。)が記載されているということができる。

(4)甲第4’号証記載の発明
甲第4’号証には、以下の記載がある。
(甲4’-1)「【請求項2】
・・・pHが1.5以下に調整されていることを特徴とする水処理剤。
【化2】・・・」

(甲4’-2)「【請求項6】
さらに、カルボン酸系ポリマーを含有してなる、請求項1?5のいずれかに記載の水処理剤。」

(甲4’-3)「【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌力と安定性に優れた水処理剤に関する。」

(甲4’-4)「【0013】
また、本発明に係る水処理剤においては、水処理剤自体のCODが60(gO/L)以下であることが好ましい。また、ニトロアルコール類以外の有機溶媒の総量が1%以下であることが好ましい。pHが1.5以下に調整されていることにより、有機溶媒の総量が1%以下に低減しても、内容成分、とくに殺菌力発揮成分の安定化が可能になり、有機溶媒量が少ないことにより、たとえ殺菌力失活後にあっても、微生物を増殖させる栄養源を少なく抑えることが可能になる。有機溶媒量を少量に抑えることにより、排水規制値に抵触するおそれが少なくなり、発泡促進現象も抑えられる。」

上記(甲4’-1)ないし(甲4’-4)より、甲第4’号証には、
「カルボン酸系ポリマーを含み、有機溶媒の総量が1%以下に低減しても、内容成分、とくに殺菌力発揮成分の安定化が可能になり、有機溶媒量が少ないことにより、たとえ殺菌力失活後にあっても、微生物を増殖させる栄養源を少なく抑えることが可能になるように、pHが1.5以下に調整されている、水処理剤。」(以下、「甲4’発明」という。)が記載されているということができる。

(5)甲第5’号証記載の発明
甲第5’号証には、以下の記載がある。
(甲5’-1)「【請求項3】
分子量が200?800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200?800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルを含有する水系におけるシリカ系スケール防止剤。
【請求項4】
前記シリカ系スケール抑制剤に、さらにスルホン酸基含有ポリマーを含有する請求項3記載の水系におけるシリカ系スケール防止剤。」

(甲5’-2)「【0029】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体を重合したポリマーであるが、好ましくはモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。」

(甲5’-3)「【0031】
モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられる。」

(甲5’-4)「【0048】
本発明のスケール防止剤の第二の形態は、分子量が200?800のポリエチレングリコール及び/又は分子量が200?800のポリエチレングリコールモノメチルエーテルと水溶性亜鉛化合物に加えて、スルホン酸基含有ポリマーを含有する。その調製方法は、通常、撹拌下に、水に水溶性亜鉛化合物を溶解し、次いで、該ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルとスルホン酸基含有ポリマーを加え、更に適当な酸(例えば硫酸)で処理剤のpHを2以下とした均一溶液を得る。」

上記(甲5’-1)ないし(甲5’-4)より、甲第5’号証には、
「モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸単量体とモノエチレン性不飽和カルボン酸単量体と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体であり、モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられるスルホン酸基含有ポリマーを含み、pHを2以下とした均一溶液のスケール防止剤。」(以下、「甲5’発明」という。)が記載されているということができる。

第5-2-2 対比・判断
甲1’発明は、「スルホン化ピレン系化合物」を使用する水処理剤であるものの、上記(甲1’-4)ないし(甲1’-7)で示したように、実施例では、pHを5又7にするものであって、「pHが2以下に調整され」るものではなく、甲2’及び3’発明は、「スルホン化ピレン系化合物」を使用する水処理剤であるものの、pHが不明のものであり、甲4’発明は、pHを1.5以下にする水処理剤であるものの、「スルホン化ピレン系化合物」を使用するものではなく、甲5’発明は、pHを2にする水処理剤であるものの、「スルホン化ピレン系化合物」を使用するものではないことからして、甲1’ないし5’発明の組み合わせにより、pH2以下に調整された水処理剤において、スルホン化ピレン系化合物が劣化しにくいという本件発明1の効果を、当業者が予測し得たものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1’ないし5’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
そして、本件発明2ないし5は、本件発明1と同じく、「スルホン化ピレン系化合物」かつ「pHが2以下に調整され」るを有するものであるので、甲1’ないし5’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
よって、申立理由Dに理由はない。

上記より、異議申立人(高橋)の申立理由により、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由(申立理由)によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-01-08 
出願番号 特願2014-67265(P2014-67265)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C02F)
P 1 651・ 537- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐々木 典子  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山崎 直也
豊永 茂弘
登録日 2017-11-24 
登録番号 特許第6245443号(P6245443)
権利者 三浦工業株式会社
発明の名称 水処理剤  
代理人 市川 恒彦  

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